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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】捩り振動低減装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/14 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
F16F15/14 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020204714
(22)【出願日】2020-12-10
(65)【公開番号】P2022092124
(43)【公開日】2022-06-22
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】石橋 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】白石 有
(72)【発明者】
【氏名】天野 浩之
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-045912(JP,A)
【文献】特開2017-145857(JP,A)
【文献】特開2019-163851(JP,A)
【文献】特開2014-145441(JP,A)
【文献】特開2002-349682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00- 15/36
F16C 17/00- 17/26
F16C 33/00- 33/28
F16C 19/00- 19/56
F16C 33/30- 33/66
C21D 1/00
C21D 1/02- 1/84
C21D 9/00- 9/44
C21D 9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクを受けて回転する回転体と、前記回転体と同軸上で前記回転体に対して相対回転可能に配置される慣性体と、前記回転体の半径方向に向けて形成されたガイド部に挿入され、前記ガイド部によって前記半径方向に移動可能であって、かつ前記回転体と前記慣性体とを相対回転可能に連結する転動体とを備え、
前記回転体のトルクを前記転動体を介して前記慣性体に伝達し、前記回転体の捩り振動を低減するように構成された捩り振動低減装置であって、
前記ガイド部は、前記回転体の円周方向で、前記転動体を挟んで互いに対向する一対の内壁部を有し、
前記一対の内壁部のうちのいずれか一方の内壁部は、その内壁部のうち前記転動体が半径方向に移動する際に摺動する所定の範囲において、前記半径方向の外側の硬度が前記半径方向の内側の硬度より高くなっている
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項2】
請求項1に記載の捩り振動低減装置であって、
前記内壁部における硬度は、前記所定の範囲において、前記半径方向の内側から前記半径方向の外側に向けて連続的に高くなっている
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項3】
請求項1に記載の捩り振動低減装置であって、
前記内壁部における硬度は、前記所定の範囲において、前記半径方向の内側から前記半径方向の外側に向けて段階的に高くなっている
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項4】
請求項3に記載の捩り振動低減装置であって、
前記一対の内壁部の双方の内壁部は、焼き入れ処理、ショットピーニング、コーティング処理の少なくともいずれかの表面処理が施された硬化面である
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の捩り振動低減装置であって、
前記転動体は、軸部を有し、
前記軸部が前記ガイド部に挿入され、かつ前記ガイド部によって前記半径方向に移動可能に構成されている
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項6】
請求項5に記載の捩り振動低減装置であって、
前記軸部の外周側に嵌め込まれる軸受を有し、
前記転動体は、前記半径方向に移動する際に、前記軸受を介して前記ガイド部の内壁面に接触して摺動するように構成されている
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の捩り振動低減装置であって、
前記慣性体の内周面は、前記転動体が遠心力によって前記半径方向に移動して押し付けられる転動面である
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の捩り振動低減装置であって、
前記ガイド部に挿入された転動体は、前記ガイド部の前記一対の内壁部に対して、前記円周方向で所定のクリアランスが形成され、
前記転動体が前記半径方向に移動する際に前記一対の内壁部のうち一方の内壁部に接触した場合に、前記一対の内壁部のうち他方の内壁部には接触しないように構成されている
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項9】
転動体と回転体の半径方向に向けて設けられたガイド部とが互いに接触して摺動し、トルクの変動により前記転動体を介して前記回転体と慣性体とが相対回転することで前記回転体に作用するトルクの変動を低減するように構成された捩り振動低減装置の製造方法であって、
前記ガイド部の内壁面のうち前記転動体が接触して摺動する所定の範囲に、半径方向の外側の前記内壁面の表面硬度を前記半径方向の内側の前記内壁面の表面硬度より高くする表面処理を行う
ことを特徴とする捩り振動低減装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入力されたトルクの変動に起因する捩り振動を低減するための装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、プラネタリキャリヤのピニオンシャフトの支持部の耐摩耗性を向上させるように構成されたプラネタリキャリヤが記載されている。この特許文献1に記載されたプラネタリキャリヤは、プラネタリギヤセットのピニオンギヤをピニオンシャフトを介して支持するものであり、ピニオンシャフトとそのピニオンシャフトが挿入されるシャフト孔とが摺動する部分に、耐摩耗性を向上させるための硬化面を形成している。なお、その硬化面は、シャフト孔内に円弧状の焼入れコイルを設け、高周波電流を短時間流して行う高周波焼入れにより形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-349682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、プラネタリキャリヤなどの機械部品において、摺動部分の耐摩耗性を向上させるためには、その部分に焼入れなどの加工処理を施すことが有効である。そのような焼入れ処理は、この種の振り子式の捩り振動低減装置に適用することができる。捩り振動低減装置は、円盤状に形成された回転体と、環状に形成され、遠心振り子の重錘として機能する慣性体と、円形のころ状に形成され、遠心振り子の連結部分として機能する転動体とから構成されている。回転体は、所定の回転軸に連結し、回転軸からトルクが伝達されて回転する。回転体の外周部分には、回転体の回転方向における転動体の移動を規制し、かつ回転体の径方向における転動体の移動を許容して支持(あるいは保持)させるガイド部が設けられている。慣性体は、回転体と同軸上で回転体の外周側に、回転体に対して相対回転可能に配置されている。慣性体の内周部分には、転動体の外径よりも大きい曲率半径で円弧状にくぼんで内周側に開口する凹部が設けられている。その凹部の内周面には、転動体の外周面と接触して転動体を転動させる転動面が形成されている。転動体は、回転体のガイド部に接触しつつ、慣性体の凹部内で往復動(揺動)可能に保持されている。それとともに転動体は、回転体と慣性体とを相対回転可能に、かつトルク伝達可能に連結している。
【0005】
転動体は、上述のように、トルク変動によって、慣性体の凹部内を往復動(揺動)し、かつ転動体の揺動角に応じて半径方向において上下動する。また、その上下動する際に、転動体(転動体の軸部)は、ガイド部の内壁面に接触しつつ摺動する。したがって、転動体が摺動するガイド部の内壁面に特許文献1に記載された焼入れ処理を施すことが想定される。一方、回転体の回転数が大きい場合(すなわち転動体に作用する遠心力が大きい場合)には、転動体とガイド部とは、ガイド部の上側(半径方向外側)での摺動頻度が高くなる。そのような場合、回転体の回転数が大きいほど、転動体がガイド部の内壁面に押し付けられる荷重は大きくなり、特に摺動頻度が高いガイド部の上側での摩耗が促進し、ガイド部と転動体とのクリアランスが増加する。そのクリアランスが増加することにより、転動体の往復動に伴う衝撃荷重が増大し、その結果、転動体のガイド部内における上下動が妨げられることになり、ひいては捩り振動低減装置の制振性能が低下するおそれがある。したがって、転動体と回転体のガイド部とが摺動する部分の耐摩耗性を向上させるには、未だ改善の余地がある。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目して考え出されたものであり、転動体と回転体とが摺動する部分のクリアランスが増加することを抑制しつつ、その摺動部分の耐摩耗性を向上させることが可能な捩り振動低減装置およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は、トルクを受けて回転する回転体と、前記回転体と同軸上で前記回転体に対して相対回転可能に配置される慣性体と、前記回転体の半径方向に向けて形成されたガイド部に挿入され、前記ガイド部によって前記半径方向に移動可能であって、かつ前記回転体と前記慣性体とを相対回転可能に連結する転動体とを備え、前記回転体のトルクを前記転動体を介して前記慣性体に伝達し、前記回転体の捩り振動を低減するように構成された捩り振動低減装置において、前記ガイド部は、前記回転体の円周方向で、前記転動体を挟んで互いに対向する一対の内壁部を有し、前記一対の内壁部のうちのいずれか一方の内壁部は、その内壁部のうち前記転動体が半径方向に移動する際に摺動する所定の範囲において、前記半径方向の外側の硬度が前記半径方向の内側の硬度より高くなっていることを特徴とするものである。
【0008】
また、この発明では、前記内壁部における硬度は、前記所定の範囲において、前記半径方向の内側から前記半径方向の外側に向けて連続的に高くなっていてよい。
【0009】
また、この発明では、前記内壁部における硬度は、前記所定の範囲において、前記半径方向の内側から前記半径方向の外側に向けて段階的に高くなっていてよい。
【0011】
また、この発明では、前記一対の内壁部の双方の内壁部は、焼き入れ処理、ショットピーニング、コーティング処理の少なくともいずれかの表面処理が施された硬化面であってよい。
【0012】
また、この発明では、前記転動体は、軸部を有し、前記軸部が前記ガイド部に挿入され、かつ前記ガイド部によって前記半径方向に移動可能に構成されていてよい。
【0013】
また、この発明では、前記軸部の外周側に嵌め込まれる軸受を有し、前記転動体は、前記半径方向に移動する際に、前記軸受を介して前記ガイド部の内壁面に接触して摺動するように構成されていてよい。
【0014】
また、この発明では、前記慣性体の内周面は、前記転動体が遠心力によって前記半径方向に移動して押し付けられる転動面であってよい。
【0015】
また、この発明では、前記ガイド部に挿入された転動体は、前記ガイド部の前記一対の内壁部に対して、前記円周方向で所定のクリアランスが形成され、前記転動体が前記半径方向に移動する際に前記一対の内壁部のうち一方の内壁部に接触した場合に、前記一対の内壁部のうち他方の内壁部には接触しないように構成されてよい。
【0016】
そして、この発明の製造方法は、転動体と回転体の半径方向に向けて設けられたガイド部とが互いに接触して摺動し、トルクの変動により前記転動体を介して前記回転体と慣性体とが相対回転することで前記回転体に作用するトルクの変動を低減するように構成された捩り振動低減装置の製造方法において、前記ガイド部の内壁面のうち前記転動体が接触して摺動する所定の範囲に、半径方向の外側の前記内壁面の表面硬度を前記半径方向の内側の前記内壁面の表面硬度より高くする表面処理を行う製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
この発明の捩り振動低減装置によれば、転動体がガイド部の内壁部に対して摺動する際に、摺動頻度が高い箇所(半径方向外側)の硬度を相対的に摺動頻度が低い箇所(半径方向内側)の硬度に比べて高くするように構成されている。つまり、転動体が摺動するガイド部のうち摺動頻度が高い箇所の硬度を高くして、耐摩耗性、耐疲労性などを向上させるように構成されている。したがって、回転体の回転数が大きく、転動体が転動面上を往復動し、かつガイド部内を上下動する場合に、転動体がガイド部の内壁部と接触して摺動しても、ガイド部の上側と下側との摩耗量が同様あるいはほぼ同様となる。すなわち、転動体は、回転体のトルクが振動することにより、ガイド部の先端側(回転体の半径方向で外側)の部分をガイド部に沿って往復動し、このような状態は回転体の回転数が高い場合に生じる。これに対して、トルクの振動で転動体がガイド部の下側に大きく押し戻されてガイド部の下側の部分に接触する状態は、回転体の回転数が低回転数であって転動体に生じる遠心力が小さい場合であり、定常運転状態(定常的な動作状態)である高回転数時と比較して、その発生頻度が低い。このようにガイド部のうち転動体の接触頻度もしくは摺動頻度が高い上側(先端側)での内壁部の表面硬度が高いから、その摩耗が抑制される。
【0018】
これに対してガイド部の下側(基端側)での内壁部の表面硬度が上側の部分よりも低いから、転動体が摺動することによる摩耗が生じ易いが、ガイド部の下側の部分に対する転動体の摺動の頻度自体が低いので、表面硬度が低いとしても摩耗が早期に進行することが抑制される。結局、ガイド部の上側の部分と下側の部分との摩耗は共に生じにくく、またたとえ摩耗するとしても摩耗量の差は微差である。その結果、ガイド部の内壁部は、長期に亘って、回転体の半径方向と平行な面を維持し、転動体のガイド部に沿った往復動が阻害されるなどの事態を回避もしくは抑制することができる。また、ガイド部の内壁部が摩耗するとしても全体的に均一に摩耗するので、局部的に摩耗したり、そのために凹部が生じたりすることがなく、この点においても転動体のガイド部に沿った往復動が阻害されるなどの事態を回避もしくは抑制することができる。したがって、この発明の捩り振動低減装置では、所期の制振性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明で対象とする捩り振動低減装置の構成を説明するための図であって、主に慣性体、回転体、および、転動体の分解状態を示す斜視図である。
図2】この発明で対象とする捩り振動低減装置の構成を説明するための部分的な断面図である。
図3】回転体、転動体、および、慣性体を組み付けた場合のそれぞれの位置関係を説明するための図である。
図4】衝撃荷重とエンジン回転数との関係を説明するための図である。
図5】衝撃荷重とクリアランス(転動体とガイド部とのクリアランス)との関係を説明するための図である。
図6】ガイド部の摩耗量と制振性能との関係を説明するための図である。
図7】この発明の実施形態におけるガイド部のガイド片の硬度分布を説明するための図である。
図8図7の硬度分布において、(a)は焼入れ処理した場合の硬度分布を示し、(b)は、ショットピーニングを実行した場合の硬度分布を示す図である。
図9】この発明の実施形態におけるガイド部のガイド片の他の硬度分布を説明するための図である。
図10図9の硬度分布において、(a)は1層コーティングを実行した場合の硬度分布を示し、(b)は、複層コーティングを実行した場合の硬度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の実施形態を、図を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、この発明を具体化した場合の一例に過ぎず、この発明を限定するものではない。
【0021】
この発明で対象とする捩り振動低減装置は、不可避的に振動するトルクが入力される回転体に振り子として機能する慣性体を相対的に回転するように、転動体(遠心マス)によって連結し、その慣性体が回転体に対して遅れて揺動(振動)することにより、慣性体による慣性力で振動を低減するように構成されている。
【0022】
図1にこの発明で対象とする捩り振動低減装置の構成を説明するための主な構成部材を分解して示してある。この発明の実施形態における振り子式捩り振動低減装置(以下、単に捩り振動低減装置と記す)1は、主要な構成要素として、回転体2、慣性体3、転動体4、ガイド部5、および、凹部6を備えている。
【0023】
回転体2は、トルクが伝達されて回転する。具体的には、回転体2は、円形の板状部材によって形成されている。回転体2は、中央(回転中心)部分に、例えば、エンジンの出力軸や変速機の入力軸などの所定の回転軸(図示せず)が取り付けられる。したがって、回転体2は、所定の回転軸からトルクが不可避的に入力され、その回転軸と一体に回転する。なお、回転体2の外周部2aには、後述するガイド部5が形成されており、転動体4を支持あるいは保持する。
【0024】
慣性体3は、いわゆる遠心振り子の連結部分として機能する質量体であり、所定の質量を有する環状の部材によって形成されている。慣性体3は、回転体2と同軸上で、回転体2に対して相対回転可能に配置されている。慣性体3の内周部3aには、凹部6および転動面7が形成されている。慣性体3は、その凹部6に保持される転動体4を介して、回転体2の外周側に相対回転可能に支持されている。
【0025】
転動体4は、慣性体3を遠心振り子の重錘として機能させるために、回転体2と慣性体3とを実質的に連結する遠心マスであり、所定の質量を有する円形のころ状の部材によって形成されている。転動体4は、慣性体3の転動面7上を転動する。それに加えて、転動体4は、回転体2のガイド部5に自転(転動)可能に係合する。それにより、転動体4は、回転体2と慣性体3とを相対回転可能に、かつトルク伝達可能に連結する。転動体4の外周面は、慣性体3の転動面7に接触する接触面8を構成している。なお、転動体4は、回転体2および慣性体3に対する組み付け性の観点から、複数に分割した部材から構成される分割構造になっている。図2に示す例では、転動体4は、第1マス4a、および、第2マス4bから構成されている。
【0026】
第1マス4aは、プーリ状の部材によって形成されている。具体的には、第1マス4aは、ボス4c、および、軸穴4dを有している。また、第1マス4aの外周面は、転動面7に接触する接触面8を構成している。ボス4cは、第1マス4aの中央(回転中心)部分に形成されている。そのボス4cの中央部分に軸穴4dが形成されている。軸穴4dには、第2マス4bの軸部4eがはめ合わされる。なお、図2に示す例では、ボス4cの外周部分に、軸受9が取り付けられている。軸受9は、例えば、転がり軸受、あるいは、滑り軸受(ブッシュ)が用いられる。軸受9は、回転体2のガイド部5に係合される転動体4を滑らかに自転させる。それとともに、慣性体3の凹部6に保持される転動体4を、凹部6の転動面7上で滑らかに転動させる。なお、転動体4は、ボス4cの外周面自体が滑り軸受として機能するように第1マス4aを形成して、軸受9を省いた構成であってもよい。
【0027】
第2マス4bは、プーリ状の部材によって形成されている。具体的には、第2マス4bは、軸部4eを有している。また、第2マス4bの外周面は、転動面7に接触する接触面8を構成している。軸部4eは、第2マス4bの中央(回転中心)部分に形成されている。軸部4eは、第1マス4aの軸穴4dにはめ込まれる。例えば、軸穴4dと軸部4eとのはめ合いをしまりばめにして、軸穴4dと軸部4eとを接合することにより、第1マス4aと第2マス4bとが一体になり、転動体4が構成される。
【0028】
転動体4は、回転体2のガイド部5に軸受9および第1マス4aを係合させ、かつ慣性体3の凹部6に第1マス4aを配置した状態で、第1マス4aの軸穴4dに第2マス4bの軸部4eがはめ合わされる。すなわち、第1マス4aに第2マス4bが組み付けられる。第1マス4aと第2マス4bとが一体になることにより、転動体4は、回転体2のガイド部5に係合された状態になる。それとともに、転動体4は、慣性体3の凹部6を慣性体3の内周側から支持する状態になる。その結果、回転体2および慣性体3が、互いに相対回転可能に、かつ転動体4を介してトルク伝達可能に連結される。転動体4は、ガイド部5および凹部6の数に対応して、複数設けられ、例えば、三個の転動体4が設けられる。
【0029】
ガイド部5は、回転体2の外周部2aに形成され、回転体2の回転方向における転動体4の移動を規制し、かつ回転体2の半径方向における転動体4の移動を許容して、回転体2に転動体4を係合(あるいは保持)させる。具体的には、図1および図3に示すように、ガイド部5は、一対のガイド片5a,5bを有している。
【0030】
ガイド片5aは、回転体2の外周部2aから、回転体2の径方向と平行に、回転体2の外側に、角材状に延びている。ガイド片5bは、回転体2の外周部2aから、回転体2の径方向と平行に、すなわち、ガイド片5aと平行に、回転体2の外側に、角材状に延びている。ガイド片5aとガイド片5bとが互いに対向するほぼU字状の部分の空間に、転動体4が嵌め込まれる。図1および図2に示す例では、転動体4のボス4cの外周部分に軸受9を取り付けた状態で、転動体4がガイド部5のガイド片5aとガイド片5bとの間に組み付けられる。ガイド片5aとガイド片5bとの対向部分の間隔は、軸受9の外径よりもわずかに長い長さに設定されている。したがって、ガイド部5に組み付けられた転動体4は、回転体2の径方向における上下動かつ摺動が可能になっている。また、その転動体4(あるいは軸受9)が摺動する部分が、この発明の実施形態における内壁面(内壁部)とされ、ガイド片5aの内壁面を10aと記し、ガイド片5bの内壁面を10bと記している。
【0031】
それとともに、転動体4は、ガイド部5に係合されることにより、回転体2の回転方向における移動が規制される。したがって、転動体4は、回転体2が回転する際には、回転体2の径方向における移動は許容される状態で、回転体2と共に回転する。なお、ガイド部5は、転動体4の数に対応して設けられる。例えば、回転体2の円周方向に等間隔で離れた三箇所に、ガイド部5が形成される。
【0032】
凹部6は、慣性体3の内周部3aに形成されている。凹部6は、転動体4の外径に対応する曲率の円弧状にくぼんで、慣性体3の回転中心側に開口している。具体的には、凹部6の内周面6aに、転動体4の外周面4fを構成する接触面8と接触し、転動体4を転動させる転動面7が形成されている。図1に示す例では、凹部6は、慣性体3の基体部3bよりも厚肉に形成されている。すなわち、基体部3bの厚さ(慣性体3の回転軸線方向における基体部3bの幅)よりも、凹部6の厚さ(慣性体3の回転軸線方向における凹部6の幅)が厚く形成されている。転動面7は、慣性体3の回転軸線方向で二つに分かれて形成されており、それら二つの転動面7が形成される部分が、慣性体3の回転軸線方向におけるそれぞれの転動面7の幅の分だけ厚肉に形成されている。凹部6は、上記のように転動体4の接触面8を転動面7に接触させた状態で、転動体4を揺動可能に保持する。凹部6は、転動体4およびガイド部5の数に対応して、複数設けられる。
【0033】
転動面7は、転動体4の半径(すなわち、転動体4の回転中心軸線から接触面8までの距離)よりも大きい曲率半径で湾曲する曲面になっている。また、転動面7の曲率半径は、最大でも、慣性体3の内径(すなわち、慣性体3の回転中心軸線から内周部3aの内周面までの距離)、および、回転体2の外径(すなわち、回転体2の回転中心軸線から外周部2aの外周面までの距離)よりも短い長さに設定されている。転動面7は、転動体4の接触面8と接触して転動体4を転動させる。なお、転動面7の円周方向での中央部は、慣性体3(あるいは回転体2)の回転中心から最も離れた中立点になっており、この状態では、図3に示すように、転動体4は、左右のガイド片5a(5b)の内壁面10a(10b)に対して、回転体の回転方向で所定のクリアランスが形成される。この中立点から左右いずれかにずれて、転動体4が一方のガイド片の5a(5b)の内壁面10a(10)b)に接触した場合、転動体4が回転体2の中心側に押し戻される。また、転動体4が中立点からずれて、すなわちクリアランスがつまって、一方の内周面10a(10b)に接触した場合には、他方の内周面10b(10a)とのクリアランスは大きくなる。
【0034】
また、上述のように、転動体4は、第1マス4aと第2マス4bとに分かれた分割構造になっており、それに伴い、転動体4の接触面8は、第1マス4aの外周部分と、第2マス4bの外周部分との二つに分かれて形成されている。したがって、それら転動体4の二つの接触面8に対応して、転動面7は、慣性体3の回転軸線方向(図2の左右方向)で二つに分かれて形成されている。二つの転動面7の間、すなわち、慣性体3の回転軸線方向(凹部6の幅方向)における凹部6の中央部分には、調心リブ6bが形成されている。
【0035】
調心リブ6bは、凹部6の幅方向における中央部分に形成され、凹部6に転動体4を配置した状態で転動体4の第1マス4aと第2マス4bとに挟まれる部分であり、凹部6に対する転動体4の相対位置を決める調心機能を有している。具体的には、図2に示すように、調心リブ6bは、凹部6の内周面6aから慣性体3の回転中心側に、板材状あるいはリブ状に延びている。調心リブ6bは、凹部6の幅方向における両側面6c,6dが、それぞれ、慣性体3および回転体2の回転中心に向かうほど両側面6c,6dの間の距離が近づくように傾斜した傾斜面に形成されている。両側面6c,6dの間の距離は、調心リブ6bの付け根部分、すなわち、転動面7と調心リブ6bとが交わる部分で最大になる。その両側面6c,6dの間の最大距離が、転動体4の回転軸線方向(図2の左右方向)における第1マス4aと第2マス4bとの間の距離と等しいもしくはほぼ等しくなるように、調心リブ6bが形成されている。したがって、回転体2が回転して転動体4が慣性体3に近づく方向に移動すると、転動体4が慣性体3すなわち転動面7に近づくにつれて、第1マス4aと第2マス4bとの間の距離と、調心リブ6bの両側面6c,6dの間の距離との差が小さくなる。最終的に、転動体4の接触面8が転動面7に接触した状態では、両者の距離の差が0もしくはほぼ0になり、転動体4は、調心リブ6bを回転軸線方向の中心とする所定の位置に位置決めされる。すなわち、回転体2、慣性体3、および、転動体4の回転軸線方向(図2の左右方向)において、転動体4が慣性体3の凹部6に対して調心される。
【0036】
上記のように構成された捩り振動低減装置1では、回転体2にトルクが伝達され、回転体2が回転すると、ガイド部5によって転動体4が保持されているため、転動体4は、回転体2の周りを公転するように、回転体2と共に回転する。したがって、転動体4には、回転体2の回転数、および、回転体2の回転中心からの距離に応じた遠心力が作用する。回転体2の回転数が増大し、転動体4に作用する遠心力が大きくなると、転動体4は、ガイド部5のガイド片5a,5bに沿って、回転体2の径方向で外側に移動する。回転体2の回転数が、転動体4に作用する重力よりも大きな遠心力が発生する所定の回転数以上になると、転動体4は、回転体2の回転中心から最も離れた位置に移動し、慣性体3における転動面7に押し付けられる。したがって、回転体2と慣性体3とが、転動体4を介して連結される。この状態で、回転体2に伝達されるトルクに変動がない場合、あるいは、トルク変動が極わずかである場合、あるいは、回転体2が更に高速で回転する場合は、転動体4は、慣性体3の凹部6でほぼ転動することなく、回転体2のトルクを慣性体3に伝達する。その結果、回転体2、転動体4、および、慣性体3が一体となって回転する。すなわち、捩り振動低減装置1全体が一体となって回転する。
【0037】
一方、回転体2に伝達されるトルクに振動的な変動が生じると、回転体2の回転数が変動し、回転体2の角加速度が変化する。その際、慣性体3は慣性力によって従前の運動状態を維持しようとするので、回転体2に対して慣性体3が相対回転する。このような相対回転は、転動体4が転動面7上を転動することにより生じる。また、転動面7の曲率半径は慣性体3の外径の曲率半径よりも小さいため、転動面7の両端部側に転動体4が移動するほど、転動体4は、ガイド部5の内部で回転体2の回転中心側に押し戻される。このようにガイド部5に対する転動体4の位置および転動面7に対する転動体4の接触位置が変化すると、遠心力によって転動体4が転動面7に向けて押されていること、および、転動面7の曲率半径が慣性体3の外径の曲率半径よりも小さいことにより、慣性体3には円周方向に向けた力が作用する。この円周方向に向けた力は、回転体2に対して相対回転した慣性体3を元の相対位置に戻す方向に作用する。この力は、回転体2のトルク変動の方向に応じて回転体2に対する慣性体3の回転方向のいずれの方向にも生じる。そのため、上記のような慣性体3の相対回転が、回転体2のトルク変動に対応し、振動的に繰り返して発生する。すなわち、慣性体3が振り子運動する。慣性体3と回転体2とを実質的に連結している転動体4は、回転体2に対して、回転体2の径方向には移動可能であるが、回転体2の円周方向には拘束された状態で保持されている。そのため、慣性体3の振り子運動による回転体2の円周方向の反力が、回転体2に対してその捩り振動を抑制する制振力として作用する。要するに、回転体2のトルク変動は、転動体4を介して慣性体3に伝達され、慣性体3を回転体2に対して逆位相で相対回転させる。その結果、回転体2のトルク変動は、慣性体3の慣性モーメントによって相殺あるいは減殺される。したがって、この発明の実施形態における捩り振動低減装置1によれば、回転体2に伝達されるトルク変動に起因する捩り振動を効果的に抑制することができる。
【0038】
上述のように、転動体4は、転動面7の両端部側に移動するほど、ガイド部5の内部で回転体2の回転中心側に押し戻され、すなわち転動体4は、転動面7上を転動する際に、半径方向で上下動(往復動)する。また、転動体4(あるいは軸受9)は、半径方向で上下動する際に回転体2のガイド片5aあるいはガイド片5bと摺動する。特に回転体2の回転数が大きい場合には、ガイド片5a(ガイド片5b)のうち半径方向外側(すなわち上側)での接触頻度が高くなる。つまり、ガイド片5a(5b)の上側での摺動抵抗が大きくなる。そのような場合、ガイド片5a(5b)の上側での摩耗が促進されて転動体4とガイド片5a(5b)とのクリアランスが増大し、ひいては摺動時の衝撃荷重も増大する。また、そのように転動体4とガイド片5a(5b)の上側での摩耗が促進すると、ガイド片5a(5b)の上側と下側とで、転動体4(あるいは軸受9)とのクリアランスが異なることになり、ひいては転動体4の半径方向における上下動の動作が阻害され、その結果、捩り振動低減装置1の制振性能が低下することがある。一例として、図4に示すように、エンジン回転数が増大すると転動体4がガイド部5に接触する際の衝撃荷重が増大し、また図5に示すように、転動体4(あるいは軸受9)とガイド片5a(5b)の内壁面10a(10b)とのとクリアランスが増大すると衝撃荷重が増大し、さらに図6に示すように、ガイド片5a(5b)の摩耗量が増大すると制振性能低下量が増大する実験データが得られている。そこで、この発明の実施形態では、制振性能の低下を抑制するために、特にガイド片5a(5b)の上側での耐摩耗性を向上させて、ガイド片5a(5b)の上側と下側とで転動体4とのクリアランスが均一あるいはほぼ均一となるように構成されている。
【0039】
具体的には、この発明の実施形態では、図7および図8に示すように、転動体4が軸受9を介してガイド片5a(5b)に摺動する所定の範囲において、上述の摺動頻度が高い箇所、すなわち、ガイド片5a(5b)の所定の範囲における半径方向外側(上側)の部分の硬度(表面硬度)を半径方向内側(下側)の硬度に比べて相対的に高くするように構成されている。すなわち、ガイド片5a(5b)の先端側の内壁面10a(10b)に硬化面を形成する。硬度を高くする処理としては、例えば高周波焼入れが用いられる。高周波焼入れは、図8の(a)に示すように、部品表面(すなわちガイド片)の任意の部分に耐摩耗性や耐疲労性を与える目的で、その必要な箇所のみを加熱し、焼入れする熱処理の手法の一つであって、コイルに高周波誘導電流を通すとコイルに磁力が発生し、その高周波電流を短時間流して加熱する。
【0040】
また、図7および図8の(a)に示す例では、焼入れ処理する範囲の下側から上側(すなわち半径方向内側から外側)に向けて、硬度が高くなるようにグラデーションで示す連続的な硬度分布となっている。なお、この硬度分布は、このような連続的な変化に限られず、例えば段階的に変化するように構成してもよい。また、この表面処理(熱処理)は、一対のガイド片5a,5bのうち少なくとも一方のガイド片5a(5b)に施されていればよいものの、より転動体4とガイド部5とのクリアランスを均一化するためには、ガイド片5aおよびガイド片5bの双方に表面処理を施して硬化面を形成することが好ましい。
【0041】
また、硬度を高くする加工処理として、ショットピーニングを用いてもよい。ショットピーニングは、表面に小さな鋼球(ショット)をぶつけることで、表面に塑性変形による加工硬化と表面の応力の均一化および圧縮残留応力とを与えて強度の向上を図る加工処理である。ショットの大きさは、例えば粒径が0.2mmから1.2mmの範囲で選択され、またショットピーニングを行う際のショットの投射速度や投射時間などの各種条件は、要求される硬度に応じて適宜設定される。
【0042】
また、図8の(b)に示すように、摺動部分の耐摩耗性や疲労強度をより向上させるために、いわゆる二段ピーニングを行ってもよい。その場合、例えば1stショットは、ガイド片全体に上記の通常のショットピーニングを行い、2ndショットは、ガイド片5a(5b)のうちの硬度が要求される箇所(半径方向外側)のみに微粒子ピーニングを行う。なお、微粒子ピーニングとは、通常のショットピーニングよりもワーク(ガイド片5a(5b))に対して高速にショット材を投射し、かつそのショット材の粒径が0.2mm以下の小さいものをいう。またさらに、要求される硬度に応じて上述の高周波焼入れとショットピーニングとを併せて実行してもよい。
【0043】
また、上述の転動体4が軸受9を介してガイド片5a(5b)に摺動する所定の範囲において、焼入れやショットピーニングを行う処理に替えて、その摺動頻度が高い箇所に耐摩耗性に優れたコーティング処理を実行してもよい。図9および図10は、そのコーティング処理の一例を示す図であって、所定の摺動範囲において、半径方向で外側(上側)の部分のコーティングの厚さを半径方向で内側(下側)に比べて相対的に厚くするように構成されている。コーティング処理としては、例えばDLCコーティング(Diamond-like Carbon)が用いられる。DLCコーティングは、高硬度、低摩擦係数であって、かつ耐摩耗性に優れたコーティング処理であって、コーティング箇所に薄膜を形成する。
【0044】
なお、図9および図10の(a)に示す例では、コーティングする範囲の上側から下側(すなわち半径方向で外側から内側)に向けてコーティングの厚さが薄くなるグラデーションで示す連続的なコーティング処理の分布となっているが、このコーティング処理は、上述の焼入れ処理と同様に、連続的な変化に限られず、例えば段階的に変化するように構成してもよい。また、このコーティング処理は、一対のガイド片5a,5bのうち少なくとも一方のガイド片5a(5b)に施されていればよいものの、より転動体4とガイド部5とのクリアランスを均一化するためには、ガイド片5aおよびガイド片5bの双方に表面処理を施して硬化面を形成することが好ましい。
【0045】
また、図10の(b)に示すように、摺動部分の耐摩耗性や疲労強度をより向上させるために、複数のコーティング処理を実行してもよい。例えば1層目の処理として、摺動部分の全体にCrNコーティング(窒化クロムコーティング)を実行し、2層目の処理として特に摺動頻度が高いガイド片5a(5b)の上側に上述のDLCコーティングを実行してもよい。なお、CrNコーティングは、DLCコーティングと同様に、耐摩耗性に優れる他、耐凝着性を有し、摺動特性に優れた硬質な薄膜を形成するコーティング処理である。つまり、ガイド片5a(5b)の半径方向の外側と前記半径方向の内側との内壁面10a(10b)の相対的な硬度分布は、上述の少なくともいずれかの方法によって硬化処理された表面硬化処理層となる。
【0046】
つぎに、この発明の実施形態における作用について説明する。上述のように、転動体4が軸受9を介してガイド片5a(5b)に対して摺動する部分において、摺動頻度が高い箇所(半径方向外側)の硬度を相対的に摺動頻度が低い箇所(半径方向内側)の硬度に比べて高くするように構成されている。つまり、転動体4が摺動するガイド片5a(5b)のうち摺動頻度が高い箇所の硬度を高くして、耐摩耗性、耐疲労性などを向上させるように構成されている。したがって、回転体2の回転数が大きく、転動体4が転動面7上を往復動し、かつガイド部5内を上下動する場合に、転動体4が軸受9を介してガイド片5a(5b)と接触して摺動しても、ガイド片5a(5b)の上側と下側との摩耗量が同様あるいはほぼ同様となる。すなわち、転動体4は、回転体2のトルクが振動することにより、ガイド片5a(5b)の先端側(回転体の半径方向で外側)の部分をガイド片5a(5b)に沿って往復動し、このような状態は回転体2の回転数が高い場合に生じる。これに対して、トルクの振動で転動体4がガイド片5a(5b)の下側に大きく押し戻されてガイド片5a(5b)の下側の部分に接触する状態は、回転体2の回転数が低回転数であって転動体に生じる遠心力が小さい場合であり、定常運転状態(定常的な動作状態)である高回転数時と比較して、その発生頻度が低い。このようにガイド片5a(5b)のうち転動体4の接触頻度もしくは摺動頻度が高い上側(先端側)での内壁面10a(10b)の表面硬度が高いから、その摩耗が抑制される。
【0047】
これに対してガイド片5a(5b)の下側(基端側)での内壁面10a(10b)の表面硬度が上側の部分よりも低いから、転動体4が摺動することによる摩耗が生じ易いが、ガイド片5a(5b)の下側の部分に対する転動体4の摺動の頻度自体が低いので、表面硬度が低いとしても摩耗が早期に進行することが抑制される。結局、ガイド片5a(5b)の上側の部分と下側の部分との摩耗は共に生じにくく、またたとえ摩耗するとしても摩耗量の差は微差である。その結果、ガイド片5a(5b)の内壁面10a(10b)は、長期に亘って、回転体2の半径方向と平行な面を維持し、転動体4のガイド片5a(5b)に沿った往復動が阻害されるなどの事態を回避もしくは抑制することができる。また、ガイド片5a(5b)の内壁面10a(10b)が摩耗するとしても全体的に均一に摩耗するので、局部的に摩耗したり、そのために凹部が生じたりすることがなく、この点においても転動体4のガイド片5a(5b)に沿った往復動が阻害されるなどの事態を回避もしくは抑制することができる。
【0048】
また、ガイド片5a(5b)の内壁面10a(10b)が凹凸のない滑らかで、かつ回転体2の半径方向と平行な面を維持するので、転動体4(あるいは軸受9)とガイド片5a(5b)とのクリアランスがガイド片5a(5b)の上側と下側とで均一あるいはほぼ均一となる。つまり、上記のクリアランスがガイド片5a(5b)の上側のみで過度に増大することを抑制できる。また、このように転動体4(あるいは軸受9)とガイド片5a(5b)とのクリアランスの増大を抑制できることにより、図5で示した転動体4がガイド片5a(5b)に接触する際の衝撃荷重が増大することを抑制でき、その結果、図6で示した摩耗量を抑制できるとともに、制振性能が低下することを抑制できる。
【0049】
以上、この発明の複数の実施形態について説明したが、この発明は上述した例に限定されないのであって、この発明の目的を達成する範囲で適宜変更してもよい。上述したように、ガイド片5a(5b)の内壁面10a(10b)の表面処理は、例えば焼入れによって行うが、その焼入れ処理は、高周波焼入れに限られず、レーザー焼入れなどの他の焼入れ処理や表面処理であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 捩り振動低減装置
2 回転体
3 慣性体
4 転動体
4a 第1マス(転動体の)
4b 第2マス(転動体の)
4e 軸部(転動体の)
5 ガイド部
5a,5b ガイド片
7 転動面
9 軸受
10a,10b 内壁面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10