(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用セパレータ、蓄電デバイスおよびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/414 20210101AFI20231003BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20231003BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20231003BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20231003BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20231003BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20231003BHJP
H01M 50/429 20210101ALI20231003BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20231003BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20231003BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20231003BHJP
【FI】
H01M50/414
H01G11/52
H01G11/84
H01M50/403 D
H01M50/417
H01M50/423
H01M50/429
H01M50/44
H01M50/449
H01M50/489
(21)【出願番号】P 2020512217
(86)(22)【出願日】2019-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2019014019
(87)【国際公開番号】W WO2019194094
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2018073964
(32)【優先日】2018-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】田渕 雅人
(72)【発明者】
【氏名】浜谷 俊平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一博
(72)【発明者】
【氏名】松尾 孝
(72)【発明者】
【氏名】境 哲男
(72)【発明者】
【氏名】森下 正典
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-152857(JP,A)
【文献】国際公開第2011/021644(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/151144(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/414
H01G 11/52
H01G 11/84
H01M 50/403
H01M 50/417
H01M 50/423
H01M 50/429
H01M 50/44
H01M 50/449
H01M 50/489
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜に、ポリエーテル共重合体及び/又はその架橋物が担持された蓄電デバイス用セパレータであって、
前記多孔質膜に担持されている前記ポリエーテル共重合体及び/又はその架橋物の目付量は、1~6g/m
2
であり、
前記ポリエーテル共重合体は、下記式(1)で示される単量体から誘導される繰り返し単位2~40モル%、下記式(2)で示される単量体から誘導される繰り返し単位98~60モル%、及び下記式(3)で示される単量体から誘導される繰り返し単位0~15モル%から構成されており、
前記ポリエーテル共重合体及び/又はその架橋物の担持前後におけるガーレ値の変化率が、±10%の範囲内である、蓄電デバイス用セパレータ。
【化1】
[式(1)中、Rは炭素数1~12のアルキル基、または-CH
2O(CR
1R
2R
3)である。R
1、R
2、R
3は水素原子または-CH
2O(CH
2CH
2O)nR
4であり、nおよびR
4はR
1、R
2、R
3の間で異なっていてもよい。R
4は炭素数1~12のアルキル基または、アリール基であり、nは0~12の整数である。]
【化2】
【化3】
[式(3)中、R
5はエチレン性不飽和基を有する基である。]
【請求項2】
前記ポリエーテル共重合体の重量平均分子量が、30万~250万である、請求項1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項3】
前記多孔質膜がポリオレフィン樹脂、又はポリエステル系繊維、セルロース系繊維、及びポリアミド系繊維からなる群から選択される繊維の不織布である、請求項1または2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項4】
前記多孔質膜の膜厚が3~40μmである、請求項1~3のいずれかに記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項5】
前記多孔質膜の少なくとも片面に、前記ポリエーテル共重合体を非プロトン性有機溶媒に溶解させた溶液を塗布し、乾燥させる工程を含む、請求項1~4のいずれかに記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の蓄電デバイス用セパレータを備える、蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用セパレータ、蓄電デバイス用セパレータの製造方法および蓄電デバイスに係り、特にリチウムイオン二次電池用のセパレータ、セパレータの製造方法およびリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近のマイクロエレクトロニクス化は、各種電子機器のメモリーバックアップ用電源に代表されるように、顕著になっている。すなわち、電池の電子機器内への収納、エレクトロニクス素子との一体化等に伴って、電池の小型化、軽量化、更には高エネルギー密度を有する蓄電デバイスが要望されている。更に近年、カムコーダ、携帯用通信機器、ラップトップコンピューター等の各種小型電子機器の小型化、軽量化に伴い、それらの駆動用電源として高エネルギー密度の蓄電デバイスの要求が高まってきており、それらの研究開発が盛んに行われている。
【0003】
リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタなどの高エネルギー密度な蓄電デバイスは、一対の電極とセパレータとを備え、電解質溶液が含浸された構成のものであり、産業用または民生用の種々の電気・電子機器に使用されている。
【0004】
従来、電気化学反応を利用したリチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスはより一層の高容量化、高機能化、小型化、軽量化が不可欠であり、そのために、セパレータの改良が求められている。例えば、蓄電デバイスの高容量化に対応するために、充放電時の自己発熱もしくは異常充電時などの異常発熱に耐えうる耐熱性、機械的強度、寸法安定性を有するセパレータが求められている。また、蓄電デバイスの高機能化、特に、急速充放電特性および高出力特性を向上させるために、薄膜化され、かつ、均一性が向上したセパレータが強く要求されている。
【0005】
これらの要求を満たすことを目的として、例えば、特許文献1には、ポリオレフィンを延伸して作製される通気性が高い微多孔性フィルム(延伸膜)に針やレーザで貫通孔を形成して通気性をより一層高めたものをセパレータとして使用することが提案されている。しかしながら、このような微多孔樹脂フィルムは、単体で使用すると貫通孔があるが故に正極と負極とが短絡を起こしてしまう恐れがあった。また、シャットダウン温度以上のメルトダウン温度域において収縮しやすい性質を有しており、その結果、高温になった場合に電極同士が直接接触しやすくなる問題を有していた。また、薄膜の状態で、熱収縮防止性、機械的強度を確保する方法として、セパレータの空隙率を低下させることが考えられるが、その場合、内部抵抗の上昇を伴い、イオン伝導性が低下するため、高機能化の要求を満たすことができない。
【0006】
また、セパレータへの電解液の浸透に不均一が生じると、イオン移動が局在化し、負極集電体に汎用的に用いられる銅といった金属の溶解が発生し、電極上に析出、デンドライト成長及び短絡のおそれがあり、充放電特性の劣化が課題として挙げられている。
【0007】
そこで、本出願人は、充放電特性、負荷特性、及び低温特性が優れた蓄電デバイス用セパレータを開示している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第01/67536号公報
【文献】特開2013-152857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、デンドライトの成長及び短絡については、過放電後により顕著となり、過放電後の充放電特性の劣化することが明らかとなった。本発明は、蓄電デバイス、特にリチウム二次電池の過放電後の充放電サイクル特性の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために検討を重ねた結果、多孔質膜に、特定のポリエーテル共重合体をガーレ値の変化率が一定値内になるよう担持させたセパレータを用いた際に、電解液のセパレータ中への浸透性を改善するととともに、集電箔金属イオンを捕捉することが可能な蓄電デバイス用セパレータおよび蓄電デバイスを得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に関する。
【0012】
項1. 多孔質膜に、ポリエーテル共重合体及び/又はその架橋物が担持された蓄電デバイス用セパレータであって、
前記ポリエーテル共重合体は、下記式(1)で示される単量体から誘導される繰り返し単位2~40モル%、下記式(2)で示される単量体から誘導される繰り返し単位98~60モル%、及び下記式(3)で示される単量体から誘導される繰り返し単位0~15モル%から構成されており、
前記ポリエーテル共重合体及び/又はその架橋物の担持前後におけるガーレ値の変化率が、±10%の範囲内である、蓄電デバイス用セパレータ。
【化1】
[式(1)中、Rは炭素数1~12のアルキル基、または-CH
2O(CR
1R
2R
3)である。R
1、R
2、R
3は水素原子または-CH
2O(CH
2CH
2O)nR
4であり、nおよびR
4はR
1、R
2、R
3の間で異なっていてもよい。R
4は炭素数1~12のアルキル基または、アリール基であり、nは0~12の整数である。]
【化2】
【化3】
[式(3)中、R
5はエチレン性不飽和基を有する基である。]
項2. 前記ポリエーテル共重合体の重量平均分子量が、30万~250万である、項1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
項3. 前記多孔質膜がポリオレフィン樹脂、又はポリエステル系繊維、セルロース系繊維、及びポリアミド系繊維からなる群から選択される繊維の不織布である、項1または2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
項4. 前記多孔質膜の膜厚が3~40μmである、項1~3のいずれかに記載の蓄電デバイス用セパレータ。
項5. 前記多孔質膜の少なくとも片面に、前記ポリエーテル共重合体を非プロトン性有機溶媒に溶解させた溶液を塗布し、乾燥させる工程を含む、項1~4のいずれかに記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
項6. 項1~4のいずれかに記載の蓄電デバイス用セパレータを備える、蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、過放電後の充放電サイクル特性の向上を図ることができ、安定性に優れたセパレータおよび蓄電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、蓄電デバイスとは、二次電池(リチウムイオン二次電池及びニッケル水素二次電池等)、電気化学キャパシタを包含するものである。
【0015】
また、本発明に係る蓄電デバイスは、正極と負極とが、下記のポリエーテル共重合体が担持され、一体化されたセパレータを介して積層されることを特徴とするものである。
【0016】
<1.蓄電デバイス用セパレータ>
本発明のセパレータは、多孔質膜に、ポリエーテル共重合体及び/又はその架橋物が担持された蓄電デバイス用セパレータであって、ポリエーテル共重合体は、下記式(1)で示される単量体から誘導される繰り返し単位2~40モル%、下記式(2)で示される単量体から誘導される繰り返し単位98~60モル%、及び下記式(3)で示される単量体から誘導される繰り返し単位0~15モル%から構成されており、ポリエーテル共重合体及び/又はその架橋物の担持前後におけるガーレ値の変化率が、±10%の範囲内であることを特徴としている。
【化4】
[式(1)中、Rは炭素数1~12のアルキル基、または-CH
2O(CR
1R
2R
3)である。R
1、R
2、R
3は水素原子または-CH
2O(CH
2CH
2O)nR
4であり、nおよびR
4はR
1、R
2、R
3の間で異なっていてもよい。R
4は炭素数1~12のアルキル基または、アリール基であり、nは0~12の整数である。]
【化5】
【化6】
[式(3)中、R
5はエチレン性不飽和基を有する基である。]
【0017】
本発明のセパレータは、これらの構成を備えることにより、特に過放電時に発生する負極集電体から溶出する金属イオンの電極上での析出が低減され、過放電後の充放電サイクル特性の向上を図ることができ、安定性に優れている。以下、本発明のセパレータについて詳述する。
【0018】
ガーレ値は、JIS P8117(ISO 5636/5)に準拠して測定して得られる値である。ガーレ値の変化率は以下の式より算出される。
ガーレ値の変化率(%)={(ポリエーテル共重合体及び/又はその架橋物の担持後の多孔質膜のガーレ値-ポリエーテル共重合体及び/又はその架橋物の担持前の多孔質膜のガーレ値)/ポリエーテル共重合体及び/又はその架橋物の担持前の多孔質膜のガーレ値}×100
【0019】
本発明のセパレータの膜厚は、前記のガーレ値の変化率である限りは特に限定されないが、ポリエーテル共重合体及び/又はその架橋物の担持後の多孔質膜の膜厚とポリエーテル共重合体及び/又はその架橋物の担持前の多孔質膜の膜厚との差が、2.5μm以下であることが好ましい。
【0020】
ガーレ値の変化率は、良好な充放電サイクルを得るために、±10%の範囲内であり、過放電後の充放電サイクル特性のより一層効果的に向上させるから、好ましくは±7%の範囲内のものが適する。高分子膜の塗布前後のガーレ値の変化率が±10%より大きいセパレータでは、空隙率が大きく低下している、もしくは多孔質膜の崩壊が起こっており、過放電後の良好な充放電サイクル特性が得られない傾向がある。
【0021】
多孔質膜
本発明のセパレータに用いられる多孔質膜の材質は特に限定されるものではなく、従来公知のものを使用することができ、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンとポリプロピレンとの混合樹脂等のポリオレフィン系樹脂やポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維等のポリエステル系繊維、コットンやレーヨン等のセルロース系繊維、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のナイロン系繊維、パラ系アラミド、メタ系アラミド等のアラミド系繊維等のポリアミド系繊維よりなる不織布等が挙げられる。これらの繊維は単独でも用いることが出来るが、2種以上の複合材としても用いることが出来る。
【0022】
本発明のセパレータに用いられる多孔質膜の膜厚は3~40μmが好ましく、5~30μmがより好ましい。この範囲とすることにより、セパレータとして充分な機械的強度が得られるとともに、本発明のセパレータを備える蓄電デバイスは良好な電気的特性が得られる。
【0023】
本発明のセパレータに用いられる多孔質膜のガーレ値(すなわち、多孔質膜にポリエーテル共重合体及び/又はその架橋物を担持する前におけるガーレ値)としては、前記のガーレ値の変化率が±10%の範囲となれば、特に制限されないが、過放電後の充放電サイクル特性の向上を図る観点から、下限は10秒/100ml以上であることが好ましく、15秒/100ml以上であることがより好ましく、20秒/100ml以上であることが特に好ましく、上限は400秒/100ml以下であることが好ましく、350秒/100ml以下であることがより好ましく、300秒/100ml以下であることが特に好ましい。
【0024】
ポリエーテル共重合体及び/又はその架橋物
本発明のセパレータに用いるポリエーテル共重合体は、下記一般式(1):
【化7】
[式中、Rは炭素数1~12のアルキル基、または-CH
2O(CR
1R
2R
3)である。R
1、R
2、R
3は水素原子または-CH
2O(CH
2CH
2O)nR
4であり、nおよびR
4はR
1、R
2、R
3の間で異なっていてもよい。R
4は炭素数1~12のアルキル基または、アリール基であり、nは0~12の整数である。]で示される単量体から誘導される繰り返し単位2~40モル%、及び
下記一般式(2)
【化8】
で示される単量体から誘導される繰り返し単位98~60モル%、及び
下記一般式(3)
【化9】
[式中、R
5はエチレン性不飽和基を有する基である。]で示される単量体から誘導される繰り返し単位0~15モル%から構成される。
【0025】
式(1)の化合物は市販品からの入手、またはエピハロヒドリンとアルコールからの一般的なエーテル合成法等により容易に合成が可能である。市販品から入手可能な化合物としては、例えば、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ターシャリーブチルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、1,2-エポキシドデカン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシヘプタン、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシへキサン、グリシジルフェニルエーテル、1,2-エポキシペンタン、イソプロピルグリシジルエーテルなどが使用できる。これら市販品のなかでは、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、イソプロピルグリシジルエーテルが好ましく、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテルが特に好ましい。
合成によって得られる式(1)で表される単量体では、Rは-CH2O(CR1R2R3)が好ましく、R1、R2、R3の少なくとも一つが-CH2O(CH2CH2O)nR4であることが好ましい。R4は炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。nは0~6が好ましく、0~4がより好ましい。
【0026】
(2)の化合物は基礎化学品であり、市販品を容易に入手可能である。
【0027】
式(3)の化合物において、R5はエチレン性不飽和基を含む置換基である。エチレン性不飽和基含有のモノマー成分としては、アリルグリシジルエーテル、4-ビニルシクロヘキシルグリシジルエーテル、α-テルピニルグリシジルエーテル、シクロヘキセニルメチルグリシジルエーテル、p-ビニルベンジルグリシジルエーテル、アリルフェニルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、3,4-エポキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-1-ペンテン、4,5-エポキシ-2-ペンテン、1,2-エポキシ-5,9-シクロドデカンジエン、3,4-エポキシ-1-ビニルシクロヘキセン、1,2-エポキシ-5-シクロオクテン、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ソルビン酸グリシジル、ケイ皮酸グリシジル、クロトン酸グリシジル、グリシジル-4-ヘキセノエートが用いられる。好ましくは、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルである。
【0028】
本発明のポリエーテル共重合体は、(A):式(1)の単量体から誘導された繰り返し単位
【化10】
[式中、Rは炭素数1~12のアルキル基、または-CH
2O(CR
1R
2R
3)である。R
1、R
2、R
3は水素原子または-CH
2O(CH
2CH
2O)nR
4であり、nおよびR
4はR
1、R
2、R
3の間で異なっていてもよい。R
4は炭素数1~12のアルキル基、置換基を有してもよいアリール基であり、nは0~12の整数である。] 及び
(B):式(2)の単量体から誘導された繰り返し単位、及び
【化11】
及び(C):式(3)の単量体から誘導された繰り返し単位、
【化12】
[式中、R
5はエチレン性不飽和基を有する基を含む置換基である。]
から構成される。
【0029】
ここで繰り返し単位(A)及び(C)は、それぞれ2種以上のモノマーから誘導されるものであってもよい。
【0030】
本発明のポリエーテル共重合体においては、繰り返し単位(A)、繰り返し単位(B)及び繰り返し単位(C)のモル比が、(A)2~40モル%、(B)98~60モル%、及び(C)0~15モル%であり、好ましくは(A)5~35モル%、(B)95~60モル%、及び(C)0~10モル%、更に好ましくは(A)5~30モル%、(B)95~65モル%、及び(C)0~7モル%である。繰り返し単位(B)が98モル%を越えるとガラス転移温度の上昇とオキシエチレン鎖の結晶化を招き、結果的にイオン伝導性を著しく悪化させることになる。一般にポリエチレンオキシドの結晶性を低下させることによりイオン伝導性が向上することは知られているが、本発明のポリエーテル共重合体はこの点において格段に優れている。
【0031】
本発明のポリエーテル共重合体の分子量は、良好な加工性、機械的強度、柔軟性を得るために、重量平均分子量の下限が5万以上であることが好ましく、30万以上であることがより好ましく、50万以上であることが更に好ましく、重量平均分子量の上限は250万以下であることが好ましく、150万以下であることが好ましい。重量平均分子量がこの範囲の共重合体では、ポリエーテル共重合体を溶解させた高分子溶液の粘度も適切となり、良好な作業性を有し、重量平均分子量の下限を30万以上とすることにより、セパレータに担持するポリエーテル共重合体、又はその架橋物が電解液に溶解することがないため、多孔質膜より剥離しにくく、蓄電デバイスとしてより良好な充放電特性が得られる点で好ましい。
【0032】
本発明のポリエーテル共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体何れの共重合タイプでも良い。ランダム共重合体がよりポリエチレンオキシドの結晶性を低下させる効果が大きいので好ましい。
【0033】
本発明のポリエーテル共重合体の合成は次のようにして行える。開環重合触媒として有機アルミニウムを主体とする触媒系、有機亜鉛を主体とする触媒系、有機錫-リン酸エステル縮合物触媒系などの配位アニオン開始剤、または対イオンにK+を含むカリウムアルコキシド、ジフェニルメチルカリウム、水酸化カリウムなどのアニオン開始剤を用いて、各モノマーを溶媒の存在下又は非存在下、反応温度10~120℃、撹拌下で反応させることによってポリエーテル共重合体が得られる。重合度、あるいは得られる共重合体の性質などの点から、配位アニオン開始剤が好ましく、なかでも有機錫-リン酸エステル縮合物触媒系が取り扱い易く特に好ましい。
【0034】
本発明のセパレータにおいては、担持するポリエーテル共重合体としては、前記のポリエーテル共重合体の架橋物であってもよい。架橋物を担持することにより、セパレータの強度が向上する点で好ましい。
【0035】
本発明のセパレータにおいて、多孔質膜に担持されているポリエーテル共重合体及び/又はその架橋物の目付量としては、前記のガーレ値の変化率が±10%の範囲となれば、特に制限されないが、過放電後の充放電サイクル特性の向上を図る観点から、好ましくは1~6g/m2程度、より好ましくは2~4g/m2程度が挙げられる。
【0036】
蓄電デバイス用セパレータの製造方法
本発明のセパレータの製造方法としては、特に限定されないが、ポリエーテル共重合体を水または有機溶剤に溶解して得られる溶液にセパレータを浸漬後、乾燥させる方法、ポリエーテル共重合体を水または有機溶剤に溶解して得られる溶液をセパレータの少なくとも片面に塗布後、乾燥させる方法等を例示することができ、前記ガーレ値の変化率が得られやすい点で、ポリエーテル共重合体を水または有機溶剤に溶解して得られる溶液をセパレータに塗布後、乾燥させる方法であることが好ましい。
【0037】
本発明で用いられる有機溶剤は、特に制約はないが、ポリエーテル共重合体を溶解することのできるものであり、アセトン、2-ブタノン、トルエン、キシレン、THF、アセトニトリル、メタノール、イソプロパノール、N-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性有機溶媒から選ぶことができる。これらの溶媒は単独でも2種類以上混合して使用してもよい。
【0038】
溶液におけるポリエーテル共重合体の濃度としては、特に限定されないが、5~40質量%であることが好ましく、8~30質量%であることがより好ましい。
【0039】
本発明で用いられるポリエーテル共重合体を多孔質膜に塗布する方法としては、特に制約はないが、ポリエーテル共重合体を水または有機溶剤に溶解して得られる溶液を、溶液粘度、目的の塗工膜厚みに応じてマイクログラビア、スロットダイ、ナイフコーティング等から適した方式で多孔質膜上に塗布することができる。
【0040】
本発明で用いられるポリエーテル共重合体を、塗布又は浸漬等により、多孔質膜に担持した後に、乾燥させることにより、水または有機溶剤を除くことができる。乾燥方法としては、ヒーター式、熱風乾燥式、赤外線照射式、真空式等の乾燥設備を用いることができる。
【0041】
本発明においては、ポリエーテル共重合体を溶解し、更に光反応開始剤、又は熱重合開始剤を含有させた溶液を用いることにより、セパレータに塗布後、又はセパレータを浸漬後に紫外線などの活性エネルギー線を照射することにより、又は熱を加えることにより、前記のポリエーテル共重合体の架橋物をセパレータに担持させることができる。ポリエーテル共重合体を溶解して得られる溶液には、必要に応じて、電解質塩や架橋助剤を添加することもできる。
【0042】
本発明に用いることができる光反応開始剤として、アルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、チタノセン類、トリアジン類、ビスイミダゾール類、オキシムエステル類などが挙げられる。好ましくは、アルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系の光反応開始剤が用いられる。光反応開始剤として前述の化合物を2種類以上併用することも可能である。
【0043】
本発明に用いることができる熱重合開始剤として、有機過酸化物系、アゾ化合物系等から選ばれるラジカル開始剤が挙げられる。好ましくは、有機過酸化物系としては、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル等、アゾ化合物系としてはアゾニトリル化合物、アゾアミド化合物、アゾアミジン化合物等の熱重合開始剤が用いられる。更に好ましくは有機過酸化物系の開始剤が用いられ、これらの化合物を2種類以上併用することも可能である。
【0044】
本発明に用いられる光反応開始剤、又は熱重合開始剤の量は、上記のポリエーテル共重合体100質量部に対して0.1~10質量部の範囲内が好ましく、0.1~4.0質量部であることがより好ましい。
【0045】
本発明においては、架橋助剤を光反応開始剤と併用してもよい。架橋助剤は、通常、多官能性化合物(例えば、CH2=CH-、CH2=CH-CH2-、CF2=CF-を少なくとも2個含む化合物)である。架橋助剤の具体例は、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタールアミド、トリアリルホスフェート、ヘキサフルオロトリアリルイソシアヌレート、N-メチルテトラフルオロジアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどである。
【0046】
本発明に用いられる架橋助剤の量は、上記のポリエーテル共重合体100質量部に対して0.1~30質量部の範囲内が好ましく、0.5~20質量部であることがより好ましい。
【0047】
本発明で用いられるポリエーテル共重合体を架橋させるために用いる光の活性エネルギー線は、紫外線、可視光、電子線等を用いることができる。この中でも特に装置の価格、制御のしやすさから紫外線が好ましい。
【0048】
架橋反応は、熱による場合は、室温から200℃程度の温度設定で10分から24時間程度加熱することによって行なうことができる。紫外線による場合では、キセノンランプ、水銀ランプ、高圧水銀ランプおよびメタルハライドランプを用いることができ、例えば、電解質を波長365nm、光量1~50mW/cm2で0.1~30分間照射することによって行うことができる。
【0049】
架橋反応は、光反応開始剤、熱重合開始剤を含有させたポリエーテル共重合体を溶解して得られる溶液を用いて、セパレータに塗布後、又はセパレータを浸漬後に、セパレータを乾燥前・乾燥時・乾燥後に行ってもよい。
【0050】
<2.蓄電デバイス>
本発明の蓄電デバイスは、先述の「1.蓄電デバイス用セパレータ」を用いてなり、具体的には、正極、負極、正極と負極との間に介在する前記の蓄電デバイス用セパレータ、電解質(溶液)を有する。
【0051】
正極
正極は、集電体上に正極活物質と結着剤とを含有する正極用電極組成物を有する。
【0052】
本発明の蓄電デバイス用電極に用いる集電体の材料は、例えば、金属、炭素、導電性高分子などを用いることができ、好適には金属が用いられる。集電体用金属としては、通常、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、ステンレス鋼、銅、その他の合金等が使用される。これらの中で導電性、耐電圧性の面から銅、アルミニウムまたはアルミニウム合金を使用するのが好ましく、正極に用いる集電体としては、例えばアルミニウム箔等の金属箔が好適に用いられる。
【0053】
正極活物質としては、目的とする電池の種類に応じて、金属酸化物、金属硫化物、又は特定の高分子を使用することができる。
【0054】
例えば、リチウムの溶解・析出を利用したリチウム電池とする場合、TiS2、MoS2 、NbS2、V2O5等のリチウムを含まない金属硫化物あるいは酸化物、さらにはポリアセチレン、ポリピロール等の高分子を使用することもできる。
【0055】
リチウムイオンのドープ・脱ドープを利用したリチウムイオン電池とする場合には、LixMO2(式中Mは一種以上の遷移金属を表し、xは電池の充放電状態によって異なり、通常0.05以上、1.10以下である。)で示されるリチウム複合酸化物、またはLixMPO4(式中Mは一種以上の遷移金属を表し、xは電池の充放電状態によって異なり、通常0.05以上、1.10以下である。)で示されるリチウム複合リン酸化物等を使用することができる。このリチウム複合酸化物またはリチウムリン酸化物を構成する遷移金属Mとしては、Co、Ni、Mn、Al、Fe等が好ましい。このようなリチウム複合酸化物の具体例としてはLiCoO2 、LiNiO2、LiNiyCozMn1-y-zO2 (式中、0<y,z<1である)、LiNiyCozAl1-y-zO2 (式中、0<y,z<1である)、LiMn2O4、LiFePO4等を挙げることができる。
【0056】
リチウム複合酸化物は、高電圧を発生でき、エネルギー密度的に優れた正極活物質となる。正極活物質には、これらの正極活物質の複数種を併せて使用してもよい。また、以上のような正極活物質を使用して正極活物質を形成するときには、公知の結着剤等を添加することができる。
【0057】
正極用電極組成物に用いられる結着剤としては、例えばフッ素系結着剤やアクリルゴム、変性アクリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリル系重合体、ビニル系重合体から選ばれる1種以上の化合物を用いることができる。また、耐酸化性、少量で充分な密着性、極板に柔軟性が得られるためアクリル系重合体を用いることが好ましい。特に有機系活物質を溶解しないことから水に溶解するような水系の結着剤が好ましい。これら結着剤は正極集電体に対して、正極用電極組成物として好ましくは0.1~10質量%、更に好ましくは0.5~5質量%の割合で添加する。
【0058】
正極の正極用電極組成物には、上記の他に、導電助剤や溶媒、増粘剤を含んでもよい。導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、グラファイト等の導電性カーボンなどの炭素化合物や、導電性ポリマー、金属粉末等が挙げられるが、導電性カーボンが特に好ましい。溶媒としては、正極活物質や結着剤を溶解出来るものであればどのような溶媒でも用いることができ、好適には水、N-メチル-2-ピロリドン等が用いられる。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等もしくはこれらのアルカリ金属塩、ポリエチレンオキサイド等である。また、増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等もしくはこれらのアルカリ金属塩、ポリエチレンオキサイド等が用いられる。
【0059】
負極
負極は、集電体上に負極活物質と結着剤とを含有する負極用電極組成物を有する。
【0060】
本発明の蓄電デバイス用電極に用いる集電体の材料は、例えば、金属、炭素、導電性高分子などを用いることができ、好適には金属が用いられる。集電体用金属としては、通常、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、ステンレス鋼、銅、その他の合金等が使用される。これらの中で導電性、耐電圧性の面から銅、アルミニウムまたはアルミニウム合金を使用するのが好ましく、負極に用いる集電体としては、例えば銅箔等の金属箔の金属箔が好適に用いられる。
【0061】
負極活物質としては、例えば、リチウムの溶解・析出を利用したリチウム電池とする場合、金属リチウムや、リチウムを吸蔵・放出することが可能なリチウム合金等を用いることができる。
【0062】
リチウムイオンのドープ・脱ドープを利用したリチウムイオン電池とする場合には、難黒鉛化炭素系や黒鉛系の炭素材料を使用することができる。より具体的には、黒鉛類、メソカーボンマイクロビーズ、メソフェーズカーボンファイバー等の炭素繊維、熱分解炭素類、コークス類(ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス)、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体(フェノール樹脂、フラン樹脂等を適当な温度で焼成し炭素化したもの)、及び活性炭などの炭素材料を使用することができる。このような材料から負極を形成するときには、公知の結着剤などを添加することができる。
【0063】
負極用電極組成物に用いられる結着剤としては、例えばフッ素系結着剤やアクリルゴム、変性アクリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリル系重合体、ビニル系重合体から選ばれる1種以上の化合物を用いることができる。また、耐酸化性、少量で充分な密着性、極板に柔軟性が得られるためアクリル系重合体を用いることが好ましい。特に有機系活物質を溶解しないことから水に溶解するような水系の結着剤が好ましい。これら結着剤は負極集電体に対して、負極用電極組成物として好ましくは0.1~10質量%、更に好ましくは0.5~5質量%の割合で添加する。
【0064】
負極の負極用電極組成物には、上記の他に、導電助剤や溶媒、増粘剤等を含んでもよい。導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、グラファイト等の導電性カーボンなどの炭素化合物や、導電性ポリマー、金属粉末等が挙げられるが、導電性カーボンが特に好ましい。溶媒としては、負極活物質や結着剤を溶解出来るものであればどのような溶媒でも用いることができ、好適には水、N-メチル-2-ピロリドン等が用いられる。また、増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等もしくはこれらのアルカリ金属塩、ポリエチレンオキサイド等が用いられる。
【0065】
電極(正極・負極)の製造方法
本発明の蓄電デバイス用電極(正極・負極)は、電極(正極・負極)用組成物を集電体上に形成させることにより得られる。具体的には、シート状に成形した蓄電デバイス用電極組成物を、集電体上に積層する方法(混練シート成形法);ペースト状の蓄電デバイス用電極組成物を集電体上に塗布し、乾燥する方法(湿式成形法);蓄電デバイス用電極組成物の複合粒子を調製し、集電体上にシート成形、ロールプレスし得る方法(乾式成形法)などが挙げられる。中でも、湿式成形法、乾式成形法が好ましく、湿式成形法がより好ましい。
【0066】
電解質(溶液)
電解質溶液は、非プロトン性有機溶媒に電解質塩を溶解させたものであり、常温溶融塩(イオン性液体)を用いることもできる。
【0067】
本発明においては、以下に挙げる電解質塩化合物が好ましく用いられる。即ち、金属陽イオン、アンモニウムイオン、アミジニウムイオン、及びグアニジウムイオンから選ばれた陽イオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、AsF6
-、PF6
-、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8-テトラシアノ-p-キノジメタンイオン、X1SO3
-、[(X1SO2)(X2SO2)N]-、[(X1SO2)(X2SO2)(X3SO2)C]-、及び[(X1SO2)(X2SO2)YC]-から選ばれた陰イオンとからなる化合物が挙げられる。但し、X1、X2、X3、およびYは電子吸引基である。好ましくはX1、X2、及びX3は各々独立して炭素数が1~6のパーフルオロアルキル基又は炭素数が6~18のパーフルオロアリール基であり、Yはニトロ基、ニトロソ基、カルボニル基、カルボキシル基又はシアノ基である。X1、X2及びX3は各々同一であっても、異なっていてもよい。
【0068】
金属陽イオンとしては遷移金属の陽イオンを用いる事ができる。好ましくはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn及びAg金属から選ばれた金属の陽イオンが用いられる。又、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca及びBa金属から選ばれた金属の陽イオンを用いても好ましい結果が得られる。電解質塩化合物として前述の化合物を2種類以上併用することが可能である。
特に、リチウムイオンキャパシタにおいて電解質塩化合物としては、Li塩化合物が好適に用いられる。
【0069】
Li塩化合物としては、リチウムイオンキャパシタに一般的に利用されているような、広い電位窓を有するLi塩化合物が用いられる。たとえば、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN[CF3SC(C2F5SO2)3] 2などを挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは、単独で用いても、2種類以上を混合して用いても良い。
【0070】
また、電解質塩や電解質用の溶液として、常温溶融塩を用いることができる。
【0071】
常温溶融塩とは、常温において少なくとも一部が液状を呈する塩をいい、常温とは電源が通常作動すると想定される温度範囲をいう。電源が通常作動すると想定される温度範囲とは、上限が120℃程度、場合によっては60℃程度であり、下限は-40℃程度、場合によっては-20℃程度である。
【0072】
常温溶融塩はイオン性液体とも呼ばれており、ピリジン系、脂肪族アミン系、脂環族アミン系の4級アンモニウム有機物カチオンが知られている。4級アンモニウム有機物カチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウム、トリアルキルイミダゾリウム、などのイミダゾリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオンなどが挙げられる。特に、イミダゾリウムカチオンが好ましい。
【0073】
イミダゾリウムカチオンとしては、1,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3-トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0074】
なお、これらのカチオンを有する常温溶融塩は、単独で用いてもよく、または2種以上を混合して用いても良い。
【0075】
本発明において、電解質塩の含有量は、0.1~3.0mol/Lであること、特に、1.0~2.0mol/Lであることが好ましい。電解質塩の含有量が0.1mol/L未満であると、電解質溶液の抵抗が大きく、大電流・低温放電特性が低下し、3.0mol/Lを超えると溶解性が悪く、結晶が析出したりする。
【0076】
本発明の電解質溶液に用いられる非プロトン性の有機溶媒についても特に限定されない。具体的な非プロトン性有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、γ-ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、ジプロピルカーボネート、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、アニソール、酢酸エステル、プロピオン酸エステル等を使用することができ、単独でも使用してもよく、2種類以上混合して使用してもよい。
【0077】
<蓄電デバイスの製造方法>
本発明の蓄電デバイスは、上記のセパレータを介して、電極用組成物を集電体上に形成してなる電極である正極と負極とを積層し、電解質溶液を注入して作製することができる。
【実施例】
【0078】
本発明を実施するための具体的な形態を以下に実施例を挙げて説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
[合成例(ポリエーテル共重合用触媒の製造)]
撹拌機、温度計及び蒸留装置を備えた3つ口フラスコにトリブチル錫クロライド10g及びトリブチルホスフェート35gを入れ、窒素気流下に撹拌しながら250℃で20分間加熱して留出物を留去させ残留物として固体状の縮合物質を得た。以下の重合例で重合触媒として用いた。
【0080】
ポリエーテル共重合体のモノマー換算組成は1H NMRスペクトルにより求めた。
ポリエーテル共重合体の分子量測定にはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行い、標準ポリスチレン換算により重量平均分子量を算出した。GPC測定は(株)島津製作所製RID-6A、昭和電工(株)製ショウデックスKD-807、KD-806、KD-806MおよびKD-803カラム、および溶媒にDMFを用いて60℃で行った。
【0081】
[重合例1]
内容量3Lのガラス製4つ口フラスコの内部を窒素置換し、これに重合触媒として触媒の合成例で示した縮合物質1gと水分10ppm以下に調整したグリシジルエーテル化合物(a):
【化13】
158g、アリルグリシジルエーテル22g、及び溶媒としてn-ヘキサン1000gを仕込み、化合物(a)の重合率をガスクロマトグラフィーで追跡しながら、エチレンオキシド125gを逐次添加した。このときの重合温度は20℃とし、10時間反応を行った。重合反応はメタノールを1mL加え反応を停止した。デカンテーションによりポリマーを取り出した後、常圧下40℃で24時間、更に減圧下45℃で10時間乾燥してポリマー280gを得た。得られたポリエーテル共重合体の重量平均分子量およびモノマー換算組成分析結果を表1に示す。
【0082】
[重合例2]
重合例1の仕込みにおいて、アリルグリシジルエーテルは加えず、グリシジルエーテル化合物(a)170g、エチレンオキシド130gを仕込んで重合した以外は同様の操作を行い、ポリマー285gを得た。得られたポリエーテル共重合体の重量平均分子量およびモノマー換算組成分析結果を表1に示す。
【0083】
[重合例3]
重合例1の仕込みにおいてグリシジルエーテル化合物(a)170g、アリルグリシジルエーテル20g、エチレンオキシド110g、及びn-ブタノール0.02gを仕込んで重合した以外は同様の操作を行い、ポリマー250gを得た。得られたポリエーテル共重合体の重量平均分子量およびモノマー換算組成分析結果を表1に示す。
【0084】
[重合例4]
重合例1の仕込みにおいて、アリルグリシジルエーテルは加えず、グリシジルエーテル化合物(a)230g、エチレンオキシド70g、及びn-ブタノール0.02gを仕込んで重合した以外は同様の操作を行い、ポリマー240gを得た。得られたポリエーテル共重合体の重量平均分子量およびモノマー換算組成分析結果を表1に示す。
【0085】
【0086】
[実施例1] 負極1/セパレータ1/正極1で構成されたリチウムイオン電池1の作製
<負極1の作製>
グラファイト粉末(多孔質構造材料)90質量部およびポリフッ化ビニリデンを10質量部、N-メチル-2-ピロリドン100質量部を溶媒としてステンレスボールミルを用いて、1時間攪拌したのち、銅集電体上に50μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、80℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレスして負極シートとした。
【0087】
<正極1の作製>
正極活物質には、10μmのLiNi0.80Co0.15Al0.05O2を用いた。この正極活物質90質量部に対して、導電助剤としてアセチレンの熱分解によって製造された球状炭素微粒子を3質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを7質量部、N-メチル-2-ピロリドン50質量部を溶媒としてステンレスボールミルを用いて1時間攪拌したのち、アルミニウム集電体上に100μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、80℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレスして正極シートとした。
【0088】
<電解質溶液の作製>
エチレンカーボネート(EC)を15質量部と、プロピレンカーボネート(PC)を15質量部と、ジエチルカーボネートを50質量部と、電解質塩であるLiBF4を20質量部とを混合して、非水電解質溶液を作製した。
【0089】
<セパレータ1の作製>
膜厚が15μmのポリエチレン多孔質膜上に、重合例1で得られたポリエーテル共重合体1を20質量部と光反応開始剤ベンゾフェノン0.1質量部、架橋助剤N,N’-m-フェニレンビスマレイミド1質量部をアセトニトリル180質量部に溶解させた溶液を乾燥後の膜厚が片面、0.5μm(目付量は約1.2g/m2)となるように両面塗布し、60℃で10時間、常圧乾燥機にて乾燥させた。つぎに表面をラミネートフィルムでカバーした状態で、(株)GSユアサ製の高圧水銀灯(30mW/cm2)を30秒間照射することにより架橋し、ポリプロピレン多孔質膜上に架橋したポリエーテル共重合体が担持された膜厚16μmのセパレータ1を作製した。
【0090】
最後に、負極1シートと正極1シートとをセパレータ1を介して圧着し、積層体を形成した。そして、積層体をアルミラミネートへ収容し、非水電解質溶液を注入してリチウムイオン電池1を作製した。
【0091】
[実施例2] 負極2/セパレータ2/正極2で構成されたリチウムイオン電池2の作製
<負極2の作製>
グラファイト粉末(多孔質構造材料)90質量部およびポリフッ化ビニリデンを10質量部、N-メチル-2-ピロリドン100質量部を溶媒としてステンレスボールミルを用いて、1時間攪拌したのち、銅集電体上に50μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、80℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレスして負極シートとした。
【0092】
<正極2の作製>
正極活物質には、平均粒子径10μmのLiNi0.80Co0.15Al0.05O2を用いた。この正極活物質90質量部に対して、導電助剤としてアセチレンの熱分解によって製造された球状炭素微粒子を3質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを7質量部、N-メチル-2-ピロリドン50質量部を溶媒としてステンレスボールミルを用いて1時間攪拌したのち、アルミニウム集電体上に100μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、80℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレスして正極シートとした。
【0093】
<電解質溶液の作製>
エチレンカーボネート(EC)を15質量部と、プロピレンカーボネート(PC)を15質量部と、ジエチルカーボネートを50質量部と、電解質塩であるLiBF4を20質量部とを混合して、非水電解質溶液を作製した。
【0094】
<セパレータ2の作製>
膜厚が28μmのアラミド系繊維不織布上に、重合例2で得られたポリエーテル共重合体2の20質量部をアセトニトリル180質量部に溶解させた溶液を乾燥後の膜厚が片面1μm(目付量は約2.4g/m2)となるように両面塗布し、60℃で10時間、常圧乾燥機にて乾燥させ、セルロース系不織布上にポリエーテル共重合体が担持された膜厚30μmのセパレータ2を作製した。
【0095】
最後に、正極2シートと負極2シートとをセパレータ2を介して圧着し、積層体を形成した。そして、積層体をアルミラミネートへ収容し、非水電解質溶液を注入してリチウムイオン電池2を作製した。
【0096】
[実施例3] 負極1/セパレータ3/正極1で構成されたリチウムイオン電池3の作製
<セパレータ3の作製>
セパレータ1を作製するときに、重合例1で得られたポリエーテル共重合体1を用いずに重合例3で得られたポリエーテル共重合体3を用いてセパレータ3を作製した。
【0097】
セパレータ3を用いること以外は、実施例1と同じ方法でリチウムイオン電池3を作製した。
【0098】
[比較例1] 負極2/セパレータ4/正極2で構成されたリチウムイオン電池4の作製
<セパレータ4の作製>
セパレータ1を作製するときに、重合例1で得られたポリエーテル共重合体1を用いずに重合例4で得られたポリエーテル共重合体4を用いてセパレータ4を作製した。
【0099】
セパレータ4を用いること以外は、実施例2と同じ方法でリチウムイオン電池4を作製した。
【0100】
[比較例2] 負極2/セパレータ5/正極2で構成されたリチウムイオン電池5の作製
<セパレータ5の作製>
膜厚が8μmのポリエチレン多孔質膜上に、重合例1で得られたポリエーテル共重合体1を20質量部と光反応開始剤ベンゾフェノン0.1質量部、架橋助剤N,N’-m-フェニレンビスマレイミド1質量部をアセトニトリル180質量部に溶解させた溶液を乾燥後の膜厚が片面、3.5μm(目付量は約8.4g/m2)となるように両面塗布し、乾燥させた。つぎに表面をラミネートフィルムでカバーした状態で、(株)GSユアサ製の高圧水銀灯(30mW/cm2)を30秒間照射することにより架橋し、ポリプロピレン多孔質膜上に架橋したポリエーテル共重合体が担持された膜厚15μmのセパレータ5を作製した。
【0101】
セパレータ5を用いること以外は、実施例2と同じ方法でリチウムイオン電池5を作製した。
【0102】
[比較例3] 負極2/セパレータ6/正極2で構成されたリチウムイオン電池6の作製
<セパレータ6の作製>
膜厚が28μmのアラミド系繊維不織布上に、高分子膜を形成させず、そのまま使用した。
【0103】
セパレータ6を用いること以外は、実施例2と同じ方法でリチウムイオン電池6を作製した。
【0104】
実施例1~実施例3、及び比較例1~比較例3で作製されたセパレータについて、ポリエーテル共重合体、及び/又はその架橋物の担持前の多孔質膜のガーレ値、ポリエーテル共重合体、及び/又はその架橋物の担持後の多孔質膜のガーレ値を以下に示す方法によってガーレ値を測定した。測定結果、及びガーレ値の変化率を表2に示す。尚、表2中において、「担持前のガーレ値」はポリエーテル共重合体、及び/又はその架橋物の担持前の多孔質膜のガーレ値であり、「担持後のガーレ値」はポリエーテル共重合体、及び/又はその架橋物の担持後の多孔質膜のガーレ値であり、セパレータのガーレ値の変化率(%)は{(「担持後のガーレ値」-「担持前のガーレ値」)/「担持前のガーレ値」}×100で算出することができる。
【0105】
<ガーレ値>
JIS P8117(ISO 5636/5)に準拠してガーレ値(秒/100mL)を測定した。
【0106】
実施例1~実施例3、及び比較例1~比較例3で作製されたリチウムイオン電池について、以下に示す方法によって初期充放電時のガス発生量の比較のためアルキメデス法によって電池体積を測定した。測定結果を表2に示す。
【0107】
<初期充放電後の電池体積の変化率>
実施例1~実施例3、及び比較例1~比較例3で作製されたラミネートセルの初期充放電測時のガス発生量の比較のためアルキメデス法によって電池体積を測定した。測定結果、初期充放電後の電池体積の変化率を表2に示す。尚、表2中において、初期充放電後の電池体積の変化率(%)は{(「初期充放電後の電池体積」-「初期充放電前の電池体積」)/「初期充放電前の電池体積」}×100で算出することができる。
【0108】
実施例1~実施例3、及び比較例1~比較例3で作製されたリチウムイオン電池について、以下に示す方法によって過放電後の充放電サイクル特性を測定した。測定結果を表2に示す。
【0109】
<過放電後の充放電サイクル特性>
理論容量の10時間率放電(1/10C)において2.0-4.2Vの充放電サイクル試験を1回行った後、4.2Vに充電後、0Vまで1/10Cで放電し、開回路電圧で24時間放置した。次いで、4.2Vまで充電し、2.0-4.2Vの充放電サイクル試験を20回行った後の放電容量(mAh/g)を測定した。
【0110】
【0111】
表2より、本発明で規定するセパレータは、初期充放電後の電池体積の変化率が低いことを維持しながら(蓄電デバイスの良好な安定性を維持しながら)、過放電後20サイクル目の放電容量が高く、充放電サイクル特性が良好であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のセパレータは良好な過放電後の充放電サイクル特性を有するため、安定性に優れた蓄電デバイスを提供することができる。