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特許7359165樹脂組成物、熱可塑性樹脂組成物、および熱可塑性樹脂成型体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】樹脂組成物、熱可塑性樹脂組成物、および熱可塑性樹脂成型体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20231003BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20231003BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20231003BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C08L23/08
C08L51/04
C08L53/02
C08L69/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020571234
(86)(22)【出願日】2020-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2020004355
(87)【国際公開番号】W WO2020162494
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2019020448
(32)【優先日】2019-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】美馬 和晃
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-131951(JP,A)
【文献】特開昭62-243643(JP,A)
【文献】国際公開第2020/004383(WO,A1)
【文献】特開昭62-243644(JP,A)
【文献】特開昭62-243645(JP,A)
【文献】特開昭49-032660(JP,A)
【文献】特開平01-131220(JP,A)
【文献】特開平11-012415(JP,A)
【文献】特開平03-126762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00- 23/36
C08L 51/00- 51/10
C08L 53/00- 53/02
C08L 69/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)と、グラフト共重合体(M)と、スチレン系エラストマー(N)を含有し、
前記グラフト共重合体(M)は、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、および芳香族ビニル単量体からなる群より選ばれる1つ以上の単量体を含むモノマー成分(B)と、t-ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)を反応して得られるグラフト共重合体であり、
前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)が20~75重量%であり、前記グラフト共重合体(M)が0.5~20重量%であり、前記スチレン系エラストマー(N)が20~65重量%であり、
前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)と前記モノマー成分(B)の重量比((A)/(B))が50/50~98/2であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記モノマー成分(B)が、さらに、(メタ)アクリロニトリル単量体、および(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル単量体からなる群より選ばれる1つ以上の単量体を含むことを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記スチレン系エラストマー(N)は、ポリスチレンを有する重合体ブロックと共役ジエン化合物を有する重合体ブロックを含むブロック共重合体であることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物と、熱可塑性樹脂(X)を含有し、
熱可塑性樹脂(X)は、ポリカーボネート樹脂、およびゴム質重合体とシアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体を構成単位とする樹脂からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(X)100重量部に対して、前記樹脂組成物が1~25重量部であることを特徴とする請求項4記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項4または5記載の熱可塑性樹脂組成物から得られることを特徴とする熱可塑性樹脂成型体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、熱可塑性樹脂組成物、および該組成物から得られる樹脂成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、耐衝撃性、加工性、寸法安定性、機械特性に優れていることから、電気・電子機器の筐体、自動車内装品・外装部品、建材、家具、楽器、雑貨類などの幅広い分野で使用されている。また押出成形品(成型体)はコーティング処理、積層体、表面修飾などの付加的な二次加工を施すことにより、自動車内装の各種表示装置、保護用部品として広く使用されている。
【0003】
熱可塑性樹脂のなかでもPC(ポリカーボネート)樹脂、ABS樹脂、ASA樹脂や、それらの混合樹脂(以下、PC/ABS樹脂、PC/ASA樹脂とも称す)は、難燃性にも優れており、その使用領域が増えるに伴い、各種部材の樹脂同士の接触時の軋み音を低減(抑制)できる静音化特性が要求されている。
【0004】
PC/ABS樹脂の静音化特性(軋み音の抑制効果)を改善する方法として、特許文献1では、オレフィン系グラフト共重合体を添加したPC/ABS樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-14447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、樹脂同士の接触時の軋み音の低減(抑制)だけでなく、樹脂と皮革(人工皮革(軟質塩化ビニル)や天然皮革など)が接触した際に生じる軋み音の低減(抑制)といった、静音化特性(軋み音の抑制効果)に対して更なる要求がある。しかしながら、上記の特許文献1で開示されたPC/ABS樹脂組成物から得られる樹脂成型体は、樹脂同士の接触時の軋み音を低減(抑制)できているが、樹脂と皮革が接触した際に生じる軋み音の低減(抑制)に対して改善の余地があることが分かった。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明は、熱可塑性樹脂成型体と皮革が接触した際に生じる軋み音を低減(抑制)することができる(静音化特性を有する)樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)と、グラフト共重合体(M)と、スチレン系エラストマー(N)を含有し、前記グラフト共重合体(M)は、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、および芳香族ビニル単量体からなる群より選ばれる1つ以上の単量体を含むモノマー成分(B)と、t-ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)を反応して得られるグラフト共重合体であり、前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)と前記モノマー成分(B)の重量比((A)/(B))が50/50~98/2であることを特徴とする樹脂組成物、に関する。
【0009】
また、本発明は、前記樹脂組成物と、熱可塑性樹脂(X)を含有し、前記熱可塑性樹脂(X)は、ポリカーボネート樹脂、およびゴム質重合体とシアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体を構成単位とする樹脂からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0010】
さらに、本発明は、前記熱可塑性樹脂組成物から得られることを特徴とする熱可塑性樹脂成型体、に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂組成物における効果の作用メカニズムの詳細は不明な部分があるが、以下のように推定される。ただし、本発明は、この作用メカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0012】
本発明の樹脂組成物は、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)と、グラフト共重合体(M)と、スチレン系エラストマー(N)を含有する。当該樹脂組成物は、グラフト共重合体(M)のエチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)とモノマー成分(B)の重量比((A)/(B))が50/50~98/2であることによって、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)とスチレン系エラストマー(N)と熱可塑性樹脂(X)との相容性を向上させ、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)が良好に分散する。よって、本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(X)に良好に分散できるため、当該樹脂組成物を熱可塑性樹脂(X)に添加した熱可塑性樹脂組成物の成型体(熱可塑性樹脂成型体)は、当該成型体と皮革が接触した際に生じる軋み音を低減(抑制)することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の樹脂組成物は、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)と、グラフト共重合体(M)と、スチレン系エラストマー(N)を含有する。
【0014】
<エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)>
本発明のエチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)は、エチレンと(メタ)アルキルエステル単量体から合成される共重合体である。前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0015】
前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)において、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、分子末端にアルキル基を有する(メタ)アクリレートであれば、その種類に制限はなく使用できる。
【0016】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどが挙げられる。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0017】
前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)は、必要に応じ、その他の単量体を用いることができる。前記その他の単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルなどの飽和カルボン酸ビニルエステルなどが挙げられる。前記その他の単量体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0018】
前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)中、前記アルキルエステル単量体に由来する構成単位の割合(含有率)は、グラフト共重合体(M)との相容性を向上させる観点から、2重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましく、そして、熱可塑性樹脂成型体の静音化特性(軋み音の抑制効果)を向上させる観点から、40重量%以下であることが好ましく、35重量%以下であることがより好ましい。なお、前記アルキルエステル単量体の含有率は、例えば、赤外線吸収スペクトルによる1039cm-1の吸光度から、予め核磁気共鳴スペクトルによってアルキルエステル単量体の濃度が決められた標準試料を用い、上記吸光度を測定した検量線より求められる。
【0019】
前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)中、エチレンに由来する構成単位および前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来する構成単位の合計の割合は、70重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましく、95重量%以上であることがよりさらに好ましい。
【0020】
前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)は、メルトマスフローレート(以下、MFRとも称す)が、樹脂組成物の製造プロセスにおける作業性を高める観点から、0.2~40(g/10min)であることが好ましく、0.4~30(g/10min)であることがより好ましい。なお、前記MFRは、JIS K6924-1(1997年版)に準拠して測定できる。
【0021】
前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)において、市販品としては、例えば、日本ポリエチレン(株)製の「レクスパールA6200」、「レクスパールA4250」、「レクスパールA3100」などが挙げられる。
【0022】
<グラフト共重合体(M)>
前記グラフト共重合体(M)は、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、および芳香族ビニル単量体からなる群より選ばれる1つ以上の単量体を含むモノマー成分(B)と、t-ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)を反応して得られる(構成単位とする)グラフト共重合体である。
【0023】
前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)は、エチレンと(メタ)アルキルエステル単量体から合成される共重合体である。前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)としては、上記のエチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)を用いることができる。前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0024】
前記モノマー成分(B)は、少なくとも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、および芳香族ビニル単量体からなる群より選ばれる1つ以上の単量体を含む。
【0025】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基の炭素数1~18のアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。前記炭素数は、1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましい。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリルなどが挙げられる。これらの中でも、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)の分散性を向上させる点から、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルが好ましい。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0026】
前記芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレンなどが挙げられる。これらの中でもスチレン、α-メチルスチレンが好ましい。前記芳香族ビニル単量体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0027】
前記モノマー成分(B)は、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)の分散性を向上させる観点から、さらに、(メタ)アクリロニトリル単量体、および(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル単量体からなる群より選ばれる1つ以上の単量体を含むことができる。
【0028】
前記(メタ)アクリロニトリル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。これらの中でも、アクリロニトリルが好ましい。前記(メタ)アクリロニトリル単量体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0029】
前記(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル単量体としては、例えば、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2,3-ジヒドロキシプロピル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシベンジルなどが挙げられる。これらの中でも、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)の分散性を向上させる点から、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピルが好ましい。前記(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル単量体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0030】
前記モノマー成分(B)は、上記の単量体以外のその他の単量体を使用することができる。前記その他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有単量体;(メタ)アクリル酸などのカルボキシル基含有単量体;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有単量体;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどのグリコール系単量体などが挙げられる。前記その他の単量体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0031】
前記モノマー成分(B)中、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、および前記芳香族ビニル単量体からなる群より選ばれる1つ以上の単量体の割合は、50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましい。
【0032】
また、前記モノマー成分(B)として、前記(メタ)アクリロニトリル単量体、および前記(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル単量体からなる群より選ばれる1つ以上の単量体を使用する場合、前記モノマー成分(B)中、前記(メタ)アクリロニトリル単量体、および前記(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル単量体からなる群より選ばれる1つ以上の単量体の割合は、50重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましい。
【0033】
前記モノマー成分(B)中、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、および前記芳香族ビニル単量体からなる群より選ばれる1つ以上の単量体と、前記(メタ)アクリロニトリル単量体、および前記(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル単量体からなる群より選ばれる1つ以上の単量体の合計の割合は、70重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましく、95重量%以上であることがよりさらに好ましい。
【0034】
前記モノマー成分(B)としては、前記単量体の組み合わせが、アクリル酸ブチル(b-1)とメタクリル酸メチル(b-2)、スチレン(b-3)と(メタ)アクリロニトリル(b-4)、またはアクリル酸ブチル(b-1)とスチレン(b-3)とメタクリル酸2-ヒドロキシプロピル(b-5)であることがより好ましい。この場合、アクリル酸ブチル(b-1)とメタクリル酸メチル(b-2)との重量比((b-1)/(b-2))、またはスチレン(b-3)と(メタ)アクリロニトリル(b-4)との重量比((b-3)/(b-4))は、樹脂成型体中の静音化特性(軋み音の抑制効果)を向上させる観点から、50/50~90/10であることが好ましく、60/40~80/20であることがより好ましい。また、上記のアクリル酸ブチル(b-1)とスチレン(b-3)とメタクリル酸2-ヒドロキシプロピル(b-5)の組み合わせにおいては、アクリル酸ブチル(b-1)とスチレン(b-3)とメタクリル酸2-ヒドロキシプロピル(b-5)の合計中、アクリル酸ブチル(b-1)が10~40重量%であることが好ましく、スチレン(b-3)が10~40重量%であることが好ましく、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル(b-5)が10~40重量%であることが好ましい。
【0035】
前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)と前記モノマー成分(B)の重量比((A)/(B))は、50/50~98/2である。前記重量比((A)/(B))は、樹脂成型体の耐擦傷性と静音化特性(軋み音の抑制効果)を向上させる観点から、60/40~95/5であることが好ましく、70/30~90/10であることがより好ましい。
【0036】
前記t-ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)は、下記一般式(1)で表される化合物(MEC)である。
【化1】
【0037】
前記グラフト共重合体(M)の製造方法は、前記t-ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)(ラジカル重合性有機過酸化物)を用いた重合法である。
【0038】
前記ラジカル重合性有機過酸化物を用いた重合法は、前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)を、水を主成分とする媒体に懸濁した溶液(エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)濃度:10~30重量部)に、前記モノマー成分(B)と、前記t-ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)と、重合開始剤を加え、前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)(エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)の粒子)中に、前記モノマー成分(B)と前記t-ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)と前記重合開始剤を含浸させて、前記モノマー成分(B)を重合して前駆体を得る工程と、当該前駆体を溶融して混練(溶融混練)して、グラフト共重合体(M)を製造する工程を含む方法である。なお、前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)を懸濁する際、必要に応じ、懸濁剤(例えば、ポリビニルアルコール)を前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)100重量部に対して、0.1~1重量部程度使用してもよい。また、上記の含浸の際、前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)中にモノマー成分(B)などを十分に含浸させるため、加温(例えば、60~80℃程度)しながら、攪拌してもよい。
【0039】
前記重合開始剤は、熱によりラジカルを発生するものであれば、特に限定されず、例えば、有機過酸化物、アゾ系重合開始剤などが挙げられる。重合開始剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0040】
前記重合開始剤は、重合開始剤の急激な分解を抑制し、重合開始剤や前記モノマー成分の残存を抑制する観点から、10時間半減期温度(以下、T10とも称す)が、40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、そして、130℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、80℃以下であることがさらに好ましい。なお、前記10時間半減期温度(T10)は、前記重合開始剤を、例えば、0.05から0.1モル/リットルになるようにベンゼンに溶解させた溶液を熱分解させた際に、当該重合開始剤が10時間で半減期を迎える温度のことを意味する。
【0041】
前記重合開始剤としては、例えば、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート(T10=51℃)、t-ヘキシルパーオキシピバレート(T10=53℃)、t-ブチルパーオキシピバレート(T10=55℃)、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(T10=59℃)、ジラウロイルパーオキサイド(T10=62℃)、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(T10=65℃)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン(T10=66℃)、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキシルヘキサノエート(T10=70℃)、ジ(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド(T10=71℃)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(T10=72℃)、ベンゾイルパーオキサイド(T10=74℃)、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(T10=95℃)、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート(T10=97℃)、t-ブチルパーオキシラウレート(T10=98℃)、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(T10=99℃)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(T10=99℃)、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート(T10=99℃)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン(T10=100℃)、t-ブチルパーオキシアセテート(T10=102℃)、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン(T10=103℃)、t-ブチルパーオキシベンゾエート(T10=104℃)、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート(T10=105℃)、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(T10=119℃)、ジクミルパーオキサイド(T10=116℃)、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド(T10=116℃)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(T10=118℃)、t-ブチルクミルパーオキサイド(T10=120℃)、ジ-t-ブチルパーオキサイド(T10=124℃)などの有機過酸化物;2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(T10=51℃)、2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)(T10=65℃)、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(T10=67℃)などのアゾ系重合開始剤などが挙げられる。
【0042】
前記前駆体を製造する工程において、重合温度は、原料(特に、前記重合開始剤の10時間半減期温度)などによって異なるので一概には決定できないが、通常、65℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、そして、90℃以下であることが好ましく、85℃以下であることがより好ましい。また、重合時間は、原料や反応温度などによって異なるので一概には決定できないが、通常、目的物の収率性を高める観点から、1.5時間以上であることが好ましく、2時間以上であることがより好ましく、そして、6時間以下であることが好ましく、5時間以下であることがより好ましい。
【0043】
前記前駆体を製造する工程において、前記t-ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)は、前記モノマー成分(B)100重量部に対し、0.5重量部以上であることが好ましく、1重量部以上であることがより好ましく、3重量部以上であることがさらに好ましく、そして、10重量部以下であることが好ましく、8重量部以下であることがより好ましく、6重量部以下であることがさらに好ましい。
【0044】
前記前駆体を製造する工程において、前記重合開始剤は、モノマー成分(B)100重量部に対し、0.3重量部以上であることが好ましく、0.5重量部以上であることがより好ましく、そして、3重量部以下であることが好ましく、2重量部以下であることがより好ましい。
【0045】
前記溶融混練としては、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの混練機を用いて、前記前駆体を溶融して混練りする方法が挙げられる。混練りする回数は、1回または複数回であってもよい。混練りする時間は、使用する混練機の大きさなどによって異なるが、通常、3~10分程度とすればよい。また、混練機の排出温度は、130~350℃とすることが好ましく、150~250℃とすることがより好ましい。
【0046】
<スチレン系エラストマー(N)>
本発明のスチレン系エラストマー(N)は、ポリスチレンを主体とする重合体ブロックAと共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBを含むブロック共重合体である。前記スチレン系エラストマー(N)は、例えば、A-B、A-B-A、B-A-B-A、およびA-B-A-B-Aなどの構造を有するブロック共重合体が挙げられる。前記スチレン系エラストマー(N)は、機械的強度、成形加工性の観点から、分子中の重合体ブロックAが2個以上であることが好ましい。また、前記重合体ブロックBにおいて、共役ジエン化合物と共役ジエン化合物との結合様式は、特に制限されず、任意である。分子中に、重合体ブロックBが2個以上ある場合、これらは同一構造であってもよく、異なる構造であってもよい。前記スチレン系エラストマー(N)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0047】
前記スチレン系エラストマー(N)は、ポリスチレンに由来する構造単位の割合が、熱可塑性樹脂(X)との相容性を向上させる観点から、5~65重量%であることが好ましく、10~60重量%であることがより好ましい。
【0048】
前記スチレン系エラストマー(N)は、水素添加率(ポリスチレンと水素添加前共役ジエン化合物とのブロック共重合体中の炭素と炭素の二重結合の数に対する、水素添加により炭素と炭素の単結合となった結合の数の割合)が、特に制限されないが、耐熱性の観点から、通常、50モル%以上であり、70モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることが好ましい。
【0049】
前記スチレン系エラストマー(N)としては、例えば、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン-ブテンブロック共重合体(SEB)、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン-ブテン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体ブロック(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、及びスチレン-ビニル(エチレン-プロピレン)-スチレン共重合体(V-SEPS)などが挙げられる。これらの中でも、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)と熱可塑性樹脂(X)との相容性を向上させる観点から、スチレン-エチレン-ブテン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)が好ましい。
【0050】
前記樹脂組成物中、前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)の含有割合は、グラフト共重合体(M)との相容性を向上させる観点から、20~75重量%であることが好ましく、25重量%以上であることがより好ましく、そして、70重量%以下であることがより好ましい。
【0051】
前記樹脂組成物中、前記グラフト共重合体(M)の含有割合は、樹脂成型体の静音化特性(軋み音の抑制効果)を向上させる観点から、0.5~20重量%であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、そして、15重量%以下であることがより好ましい。
【0052】
前記樹脂組成物中、前記スチレン系エラストマー(N)の含有割合は、グラフト共重合体(M)の分散性を高める観点から、20~70重量%であることが好ましく、25重量%以上であることがより好ましく、そして、65重量%以下であることがより好ましい。
【0053】
本発明の熱可塑性組成物は、前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)と、グラフト共重合体(M)と、スチレン系エラストマー(N)とを、溶融混練によって得ることができる。前記溶融混練としては、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの混練機を用いて、前記前駆体を溶融して混練りする方法が挙げられる。混練りする回数は、1回または複数回であってもよい。混練りする時間は、使用する混練機の大きさなどによって異なるが、通常、3~10分程度とすればよい。また、混練機の排出温度は、130~350℃とすることが好ましく、150~250℃とすることがより好ましい。
【0054】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記樹脂組成物と、熱可塑性樹脂(X)を含有する。
【0055】
<熱可塑性樹脂(X)>
前記熱可塑性樹脂(X)は、ポリカーボネート(PC)樹脂、およびゴム質重合体とシアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体を構成単位とする樹脂から選ばれる1種以上である。
【0056】
前記ポリカーボネート(PC)樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体の反応(ホスゲン法、あるいはエステル交換法)により製造される芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることができる。原料となる前記二価フェノールおよびカーボネート前駆体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0057】
前記二価フェノールとしては、例えば、4,4’-ジヒドロキシジフェニル;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕などのビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン;ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロアルカン;ビス(4-ヒドロキシフェニル)オキシド;ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド;ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン;ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド;ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトンなどが挙げられる。これらのなかでも、ビスフェノールAが好ましい。また、前記カーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハライド、ハロホーメート、炭酸エステルなどが挙げられ、具体的には、ホスゲン、二価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどが挙げられる。前記PC(ポリカーボネート)樹脂は、多官能性芳香族化合物を二価フェノールと併用して得られる分岐型のポリカーボネート樹脂であってもよく、また、末端OH基が封止されていてもよい。
【0058】
前記PC(ポリカーボネート)樹脂において、市販品としては、例えば、出光興産(株)製の「タフロンA2200」(標準グレード)などが挙げられる。
【0059】
前記ゴム質重合体とシアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体を構成単位とする樹脂は、例えば、前記ゴム質重合体の存在下、前記シアン化ビニル系単量体、前記芳香族ビニル系単量体、必要に応じて、任意の他の共重合し得る単量体を含む単量体成分をグラフト重合させる方法などで得られるものである。当該重合の方法としては、公知の方法、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などが挙げられる。
【0060】
前記ゴム質重合体としては、例えば、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン-プロピレン系ゴムなどが挙げられる。前記ジエン系ゴムとしては、例えば、ポリブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、ポリイソプレンゴムなどが挙げられる。また、前記アクリル系ゴムとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などのα,β-不飽和カルボン酸を構成単位に有するアクリル系ゴム;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸-t-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルなどのα,β-不飽和カルボン酸エステルを構成単位に有するアクリル系ゴムなどが挙げられる。前記エチレン-プロピレン系ゴムとしては、EPR、EPDMなどが挙げられる。前記ゴム質重合体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0061】
前記シアン化ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられ、これらの中でも、アクリロニトリルが好適である。前記シアン化ビニル単量体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0062】
前記芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレンなどが挙げられ、これらの中でもスチレン、α-メチルスチレンが好適である。前記芳香族ビニル単量体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0063】
前記他の共重合し得る単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などのα,β-不飽和カルボン酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸-t-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルなどのα,β-不飽和カルボン酸エステル類;無水マレイン酸、無水イタコン酸などのα,β-不飽和ジカルボン酸のイミド化合物類などが挙げられる。前記他の共重合し得る単量体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0064】
前記ゴム質重合体とシアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体を構成単位とする樹脂としては、例えば、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂などが挙げられる。
【0065】
前記ABS系樹脂としては、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン-α-メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン-N-フェニルマレイミド共重合体などが挙げられる。市販品としては、例えば、旭化成ケミカルズ(株)製の「スタイラック321」、東レ(株)製の「トヨラック700-314」などが挙げられる。
【0066】
前記ASA系樹脂としては、例えば、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合体などが挙げられる。市販品としては、例えば、日本エイアンドエル(株)製の「ユニブライトUA1300」などが挙げられる。
【0067】
前記熱可塑性樹脂(X)が、ゴム質重合体とシアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体を構成単位とする樹脂、およびポリカーボネート(PC)樹脂の混合樹脂の場合、機械的物性および耐衝撃性を向上させる観点から、混合樹脂中、PC樹脂の割合が、50~95重量%であることが好ましく、55~90重量%であることがより好ましい。
【0068】
前記PC樹脂とABS樹脂の混合樹脂(PC/ABS樹脂)において、市販品としては、例えば、Bayer製の「Bayblend T65XF」などが挙げられる。
【0069】
前記樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂(X)100重量部に対して、1~25重量部であることが好ましい。前記樹脂組成物は、樹脂成型体の静音化特性(軋み音の抑制効果)を向上させる観点から、前記熱可塑性樹脂(X)100重量部に対して、2重量部以上であることがより好ましく、5重量部以上であることがさらに好ましく、そして、20重量部以下であることがより好ましく、18重量部以下であることがさらに好ましい。
【0070】
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各種配合剤を用いることができる。配合剤としては、例えば、セラミックファイバー(CF)、ガラス繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウム繊維、鉱物破砕繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、石コウ繊維、水酸化マグネシウム繊維、炭化ケイ素繊維、ジルコニア繊維などの繊維強化材;球状シリカ、マイカ、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、ベントナイト、セリサイト、ガラスビーズ、ガラスフレーク、アルミナ、硅酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化鉄、グラファイト、カーボンブラック、二硫化モリブデン、超高密度ポリエチレンなどの各形状の有機または無機の充填剤;鉱油、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、アルコール、金属石けん、天然ワックス、シリコーンなどの滑剤;PTFE系、アクリル系などの加工助剤;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの無機の難燃剤;ハロゲン系、リン系などの有機の難燃剤;ポリアセタール、ポリアミド、ポリフェニレンエーテルなどのエンジニアプラスチック;酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、着色剤、帯電防止剤、架橋剤、分散剤、カップリング剤、発泡剤、着色剤などが挙げられる。
【0071】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記樹脂組成物、前記熱可塑性樹脂(X)、任意の前記各種配合剤を混合することによって得られる。混合の方法は、とくに制限はなく、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの混練機を用いて、溶融して混練りする方法などが挙げられる。また、上記の各成分を、任意の順序で添加し混練りしてもよく、同時に添加して混練りしてもよい。混練りする回数は、1回または複数回であってもよい。混練りする時間は、使用する混練機の大きさなどによって異なるが、通常、3~10分程度とすればよい。また、混練機の排出(押出)温度は、150~350℃とすることが好ましく、180~250℃とすることがより好ましい。
【0072】
本発明の熱可塑性樹脂成型体は、前記熱可塑性樹脂組成物を所定の形状に成形することにより得られる。成形方法としては、何ら限定されるものではないが、例えば、射出成形、押出成形などが挙げられ、成形の加熱温度、圧力、時間などは適宜設定できる。当該熱可塑性樹脂成型体は、樹脂部材と皮革が擦れた際の静音化特性(軋み音の抑制効果)に優れるため、シート部材やコンソールボックスといった、人工皮革(軟質塩化ビニル)または天然皮革と樹脂部材とが接するような、機械部品、自動車部品などの広い分野で利用することができる。
【実施例
【0073】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0074】
<実施例>
<グラフト重合体(M)の製造>
<製造例1-1>
内容積5Lのステンレス製オートクレーブに、純水2500gを入れ、更に懸濁剤としてポリビニルアルコール2.5gを溶解させた。この中に、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)として、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(A1)(商品名「レクスパールA3100」、日本ポリエチレン(株)製)800gを入れ、攪拌して分散させた。
【0075】
さらに、重合開始剤として、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(日油(株)製、商品名「パーロイル355」、10時間半減期温度=59℃)5.1gと、t-ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)(以下、MECとも称す)17.2gを、アクリル酸ブチル(以下、BAとも称す)240gとメタクリル酸メチル(以下、MMAとも称す)103gからなるモノマー成分(B)に溶解させた溶液を調製し、この溶液を上記のオートクレーブ中に投入し攪拌した。
【0076】
次いで、上記のオートクレーブを60~65℃に昇温し、3時間攪拌することによって、ラジカル重合開始剤、t-ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート(C)、およびモノマー成分(B)をエチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)中に含浸させた。続いて、上記のオートクレーブを80~85℃に昇温し、当該温度で7時間保持して重合させて前駆体(ポリ(BA/MMA/MEC)共重合体が含浸したエチレン-アクリル酸エチル共重合体組成物)を得た。得られた前駆体を、ラボプラストミル一軸押出機((株)東洋精機製作所製)を用いて、230℃にて溶融混練し、グラフト化反応させた。次いで、ストランド状の樹脂組成物を得た後、これをカッティングしてペレット状にすることで製造例1-1のグラフト共重合体(M)を製造した。
【0077】
<製造例1-2~1-7、比較製造例1-1~1-3>
各製造例および比較製造例において、各原料の種類とその配合量を表1に示すように変えたこと以外は、実施例1-1と同様の方法により、グラフト共重合体(M)を製造した。なお、比較製造例1-3のグラフト共重合体(M)は、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)をそのまま用いたことを示す。
【0078】
【表1】
【0079】
表1中、
A1は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(日本ポリエチレン(株)製、商品名「レクスパールA3100」、アクリル酸エチルに由来する構成単位の割合が10重量%、MFRが3(g/10min));
A2は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(日本ポリエチレン(株)製、商品名「レクスパールA4200」、アクリル酸エチルに由来する構成単位の割合が20重量%、MFRが5(g/10min));
A3は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(日本ポリエチレン(株)製、商品名「レクスパールA4250」、アクリル酸エチルに由来する構成単位の割合が25重量%、MFRが5(g/10min));
A4は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(株式会社NUC製、商品名「NUC-6940」、アクリル酸エチルに由来する構成単位の割合が35重量%、MFRが20(g/10min));
PEは、低密度ポリエチレン(住友化学株式会社製、商品名「スミカセンG401」、MFRが4(g/10min));
BAは、アクリル酸ブチル;
MMAは、メタクリル酸メチル;
Stは、スチレン;
ANは、アクリロニトリル;
HPMAは、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル;
R355は、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(日油(株)製、商品名「パーロイル355」、10時間半減期温度=59℃);
BWは、ベンゾイルパーオキサイド(日油(株)製、商品名「ナイパーBW」、10時間半減期温度=74℃);を示す。
【0080】
<樹脂組成物の製造>
<実施例1-1>
エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)として、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(L1)(商品名「レクスパールA3100」、日本ポリエチレン(株)製)60gと、実施例1-1のグラフト共重合体(M)10gと、スチレン系エラストマー(N)として、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)ブロック共重合体(商品名「Kraton G1652」、クレイトンポリマー(株)製)30gと、滑剤として、ペンタエリスリトールテトラステアレート0.5gをドライブレンドした。その後、二軸押出機(PCM-30:池貝製)を用いて、溶融混練(押出温度:140~160℃)した。次いで、ストランド状の樹脂組成物を得た後、これをカッティングしてペレット状にすることで実施例1-1の樹脂組成物を得た。
【0081】
<実施例1-2~1-8、比較例1-1~1-5>
各実施例および比較例において、各原料の種類とその配合量を表2に示すように変えたこと以外は、実施例1-1と同様の方法により、樹脂組成物を製造した。なお、比較製造例1-3のグラフト共重合体(M)は、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)をそのまま用いたことを示す。
【0082】
<熱可塑性樹脂組成物の製造>
<実施例2-1>
熱可塑性樹脂(X)として、PC/ABS樹脂(商品名「Bayblend T65XF」、Bayer製)100gと、前記樹脂組成物成分として、上記で得られた実施例1-1の樹脂組成物10gを、二軸押出機(PCM-30:池貝製)を用いて、溶融混練(押出温度:230~250℃)した。次いで、ストランド状の熱可塑性樹脂組成物を得た後、これをカッティングしてペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0083】
上記で得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、静音化特性(軋み音の抑制効果)を以下の方法にて評価した。結果を表3、4に示す。
【0084】
<静音化特性(軋み音の抑制効果)の評価>
上記で得られたペレットを射出成形(バレル温度:240~250℃、金型温度:80℃)し、評価用試験片(長さ:60mm×幅:100mm×厚み:2mm)を作製した。次いで、当該試験片(評価材)を、静音化特性の試験用のプレート(55mm×80mm×2mm)に切り出してバリ取りを行った後、温度25℃、湿度50%RHで12時間放置した。また、相手材はポリ塩化ビニル(PVC)皮革(シンコー(株)製、「PVCメリヤス生地 巾1250mm オールマイティ生地カット出し」)を使用した。
【0085】
静音化特性は、上記の静音化特性の試験用のプレートと、相手材用のポリ塩化ビニル(PVC)皮革をZiegler社のスティックスリップ測定装置SSP-04に固定し、荷重=40N、速度=1mm/sの条件でそれぞれ擦り合わせた時の軋み音リスク値を測定して、評価した。なお、軋み音リスク値は、値が小さいほど軋み音発生のリスクが低いことを示す。軋み音リスク値の判断基準は以下に示す通りである。
【0086】
軋み音リスク値1~3:軋み音発生のリスクが低い
軋み音リスク値4~5:軋み音発生のリスクがやや高い
軋み音リスク値6~10:軋み音発生のリスクが高い
【0087】
本発明の熱可塑性樹脂成型体は、上記の静音化特性の評価において、軋み音リスク値が3以下を良好とした。
【0088】
<実施例2-2~2-12、比較例2-1~2-8>
<熱可塑性樹脂組成物の製造>
各実施例および比較例において、各原料の種類とその配合量を表3、4に示すように変えたこと以外は、実施例2-1と同様の方法により熱可塑性樹脂組成物を製造した。なお比較例2-7~2-11は、熱可塑性樹脂(X)をそのまま用いたことを示す。
【0089】
上記で得られた実施例2-2~2-12、比較例2-1~2-11の熱可塑性樹脂組成物を用い、上記の評価方法により、静音化特性(軋み音の抑制効果)を評価した。結果を表3、4に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
表2中、
L1は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(日本ポリエチレン(株)製、商品名「レクスパールA3100」、アクリル酸エチルに由来する構成単位の割合が10重量%、MFRが3(g/10min));
L2は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(日本ポリエチレン(株)製、商品名「レクスパールA4200」、アクリル酸エチルに由来する構成単位の割合が20重量%、MFRが5(g/10min));
L3は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(日本ポリエチレン(株)製、商品名「レクスパールA4250」、アクリル酸エチルに由来する構成単位の割合が25重量%、MFRが5(g/10min));
L4は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(株式会社NUC製、商品名「NUC-6940」、アクリル酸エチルに由来する構成単位の割合が35重量%、MFRが20(g/10min));
N1は、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)ブロック共重合体(クレイトンポリマー(株)製、商品名「Kraton G1652」);
N2は、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEPS)ブロック共重合体(クラレ(株)製、商品名「セプトン 2006」);
N3は、);スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEEPS)ブロック共重合体(クラレ(株)製、商品名「セプトン 4045」);
N4は、スチレン-エチレン-プロピレン(SEP)ブロック共重合体(クラレ(株)製、商品名「セプトン 1001」);を示す。
【0094】
表3~表4中、
PC/ABSは、PC/ABS樹脂(Bayer製、商品名「Bayblend T65XF」);
PCは、ポリカーボネート(出光興産(株)製、商品名「タフロンA2200」);
ABSは、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(旭化成ケミカルズ(株)製、商品名「スタイラック321」);
ASAは、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合体(日本エイアンドエル(株)製、商品名「ユニブライトUA1300」);
PC/ASAは、PC/ASA樹脂(PC(ポリカーボネート):出光興産(株)製の「タフロンA2200」と、ASA(アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合体)(日本エイアンドエル(株)製、商品名「ユニブライトUA1300」)との混合品であり、混合比はPC/ASA=70/30である);
Y1は、オレフィン系グラフト共重合体(特開2017-14447号公報、表1製造例1-7に相当)を示す。
【0095】
実施例2-1~2-12の熱可塑性樹脂組成物では、静音化特性(軋み音の抑制効果)について目標値を満たす評価結果が得られた。
【0096】
グラフト共重合体(M)において、前記エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)と前記モノマー成分(B)の重量比((A)/(B))が、40/60である樹脂組成物を用いた比較例2-1は、軋み音発生リスク値が6であり、目標値を満たさなかった。
【0097】
グラフト共重合体(M)において、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)の替わりに低密度ポリエチレンを使用した樹脂組成物を用いた比較例2-2は、軋み音発生リスク値が8であり、目標値を満たさなかった。
【0098】
グラフト共重合体(M)を使用せず、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)をそのまま使用した樹脂組成物を用いた比較例2-3は、軋み音発生リスク値が9であり、目標値を満たさなかった。
【0099】
グラフト共重合体(M)とスチレン系エラストマー(N)を含有しない樹脂組成物を用いた比較例2-4は、軋み音発生リスク値が8であり、目標値を満たさなかった。
【0100】
スチレン系エラストマー(N)を含有しない樹脂組成物を用いた比較例2-5は、軋み音発生リスク値が8であり、目標値を満たさなかった。
【0101】
樹脂組成物としてオレフィン系グラフト共重合体(Y1)を用いた比較例2-6は、軋み音発生リスク値が7であり、目標値を満たさなかった。
【0102】
熱可塑性樹脂(X)をそのまま用いた比較例2-7~2-11は、軋み音の発生リスク値が高く、目標値を満たさなかった。
【0103】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物の好適な配合例(前記各種配合剤を使用した配合例)について説明する。
【0104】
【表5】
【0105】
【表6】
【0106】
【表7】
【0107】
【表8】
【0108】
【表9】
【0109】
表5~9中、
PC/ABSは、PC/ABS樹脂(Bayer製、商品名「Bayblend T65XF」);
ABSは、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(旭化成ケミカルズ(株)製、商品名「スタイラック321」);
エチレン-アクリル酸エチル共重合体(エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(A)に相当)は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(日本ポリエチレン(株)製、商品名「レクスパールA4200」、アクリル酸エチルに由来する構成単位の割合が20重量%、MFRが5(g/10min));
エチレン-アクリル酸エチル共重合体(エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体(L)に相当)は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(日本ポリエチレン(株)製、商品名「レクスパールA4200」、アクリル酸エチルに由来する構成単位の割合が20重量%、MFRが5(g/10min));
スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体は、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)ブロック共重合体(クレイトンポリマー(株)製、商品名「Kraton G1652」);
スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体は、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEEPS)ブロック共重合体(クラレ(株)製、商品名「セプトン 4033」);
スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体は、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEPS)ブロック共重合体(クラレ(株)製、商品名「セプトン 2006」);
アデカスタブLA-63Pは、ヒンダードアミン系光安定剤((株)ADEKA製、商品名「アデカスタブLA-63P」);
ペレクトロンHSは、帯電防止剤(三洋化成(株)製、商品名「ペレクトロンHS」);を示す。
【0110】
配合例1~5で得られた熱可塑性樹脂組成物は、いずれも静音化特性(軋み音の抑制効果)に優れていた。