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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】高圧タンクおよび高圧タンクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20231003BHJP
   F17C 1/16 20060101ALI20231003BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20231003BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20231003BHJP
   B29C 70/32 20060101ALI20231003BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20231003BHJP
   B29L 22/00 20060101ALN20231003BHJP
【FI】
F17C1/06
F17C1/16
F16J12/00 A
B29C70/16
B29C70/32
B29K105:08
B29L22:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021010390
(22)【出願日】2021-01-26
(65)【公開番号】P2022114200
(43)【公開日】2022-08-05
【審査請求日】2023-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 直樹
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0205201(US,A1)
【文献】特開2020-101195(JP,A)
【文献】特開2003-139296(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0114275(KR,A)
【文献】特開2017-094491(JP,A)
【文献】特公昭39-026775(JP,B1)
【文献】特開2009-120627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00-13/12
F16J 12/00
B29C 70/16
B29C 70/32
B29K 105/08
B29L 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂からなる第1補強層と、前記第1補強層を覆うように形成され、繊維強化樹脂からなる第2補強層とを有し、ガスを収容する収容空間が形成された高圧タンクであって、
前記第1補強層は、筒部材の両端部に一対のドーム部材が接合された層であって、前記筒部材の内周面は、前記収容空間に露出しており、
前記第2補強層は、前記第1補強層の前記一対のドーム部材をわたすように、樹脂を含浸した繊維束がヘリカル巻きで巻回された層であり、
前記第1補強層と、前記第2補強層との間において、前記筒部材を覆うように、樹脂層が形成されており、
前記樹脂層は、前記第1補強層に比べて、厚さ方向において、前記ガスの透過性が低いことを特徴とする高圧タンク。
【請求項2】
前記筒部材の外側から各ドーム部材が前記筒部材に嵌合しており、
前記筒部材と前記各ドーム部材とが嵌合した嵌合部において、前記筒部材と前記各ドーム部材との間に、前記樹脂層の一部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の高圧タンク。
【請求項3】
繊維強化樹脂からなる第1補強層と、前記第1補強層を覆うように形成され、繊維強化樹脂からなる第2補強層とを有し、ガスを収容する収容空間が形成された高圧タンクの製造方法であって、
前記製造方法は、前記第1補強層となる接合体であり、筒部材の両端部に一対のドーム部材が接合した接合体を準備する工程と、
準備した前記接合体に対して、前記一対のドーム部材をわたすように、樹脂を含浸した繊維束をヘリカル巻きで巻回することで、前記第2補強層を形成する工程と、を含み、
前記準備する工程において、前記接合体として、前記筒部材の内周面が、前記収容空間に露出した接合体であって、前記筒部材を覆うように、樹脂層が形成された接合体を準備し、前記樹脂層は、前記第1補強層に比べて、厚さ方向において、前記ガスの透過性が低いことを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項4】
前記準備する工程において、外周面に前記樹脂層が覆われた前記筒部材に対して、前記筒部材の外側から前記各ドーム部材を嵌合することにより、前記筒部材と前記ドーム部材とが嵌合した嵌合部において、前記筒部材と前記各ドーム部材との間に、前記樹脂層の一部を形成することを特徴とする請求項3に記載の高圧タンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクおよび高圧タンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、天然ガス自動車または燃料電池自動車等には、燃料ガスを貯蔵する高圧タンクが利用されている。この種の高圧タンクは、繊維強化樹脂からなる補強層と、ガスを収容する収容空間とを有している。
【0003】
たとえば、このような高圧タンクとして、特許文献1には、ライナの外表面に形成され、繊維強化樹脂からなる第1補強層と、第1補強層を覆うように形成され、繊維強化樹脂からなる第2補強層とを有する高圧タンクが提案されている。特許文献1に記載の高圧タンクでは、ガスバリア性を有するライナが、ガスを収容する収容空間を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-149739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、高圧タンクでは、出荷前に、高圧タンクの収容空間に水を充填することで耐圧検査が実施されるが、検査後、充填された水が収容空間から十分に除去されず、除去されなかった水が収容空間に残存することがある。また、高圧タンクの使用の際、温度変化に起因して収容空間に結露水が発生することがある。このような水は、使用時における高圧タンクの姿勢から、高圧タンクの筒部分(胴体部)の内面に溜りやすい。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の高圧タンクでは、胴体部にガスの透過を抑制するライナ(樹脂層)が形成されているため、胴体部のライナが水に直接接触してしまう。そのため、ライナ(樹脂層)の材質によっては、水に起因してライナが劣化するおそれがある。
【0007】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、本発明として、ガスの透過を抑制する樹脂層が、水に接触することに起因して劣化することを防止する高圧タンクおよび高圧タンクの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を鑑みて、本発明に係る高圧タンクは、繊維強化樹脂からなる第1補強層と、前記第1補強層を覆うように形成され、繊維強化樹脂からなる第2補強層とを有し、ガスを収容する収容空間が形成された高圧タンクであって、前記第1補強層は、筒部材の両端部に一対のドーム部材が接合された層であって、前記筒部材の内周面は、前記収容空間に露出しており、前記第2補強層は、前記第1補強層の前記一対のドーム部材をわたすように、樹脂を含浸した繊維束がヘリカル巻きで巻回された層であり、前記第1補強層と、前記第2補強層との間において、前記筒部材を覆うように、樹脂層が形成されており、前記樹脂層は、前記第1補強層に比べて、厚さ方向において、前記ガスの透過性が低いことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、筒部材を覆う樹脂層は、第1補強層に比べて、厚さ方向において、ガスの透過性が低い(すなわち、ガスバリア性が高い)ので、第1補強層の筒部材を透過するガスが、第2補強層を介して、外部に漏洩することを抑えることができる。さらに、樹脂層は、収容空間を形成していないので、収容空間に水があっても、その水が、樹脂層に直接接触することはない。したがって、水に接触することに起因した樹脂層の劣化を抑えることができる。
【0010】
好ましい態様としては、前記筒部材の外側から各ドーム部材が前記筒部材に嵌合しており、前記筒部材と前記各ドーム部材とが嵌合した嵌合部において、前記筒部材と前記各ドーム部材との間に、前記樹脂層の一部が形成されていてもよい。
【0011】
この態様によれば、筒部材と各ドーム部材とが嵌合した嵌合部では、収容空間からのガスが漏洩し易いところ、筒部材と各ドーム部材との間に、樹脂層の一部が形成されているので、筒部材とドーム部材との間からのガスの漏洩を抑えることができる。
【0012】
本明細書では、上述した高圧タンクの製造方法を開示する。本発明の高圧タンクの製造方法は、繊維強化樹脂からなる第1補強層と、前記第1補強層を覆うように形成され、繊維強化樹脂からなる第2補強層とを有し、ガスを収容する収容空間が形成された高圧タンクの製造方法であって、前記製造方法は、前記第1補強層となる接合体であり、筒部材の両端部に一対のドーム部材が接合した接合体を準備する工程と、準備した前記接合体に対して、前記一対のドーム部材をわたすように、樹脂を含浸した繊維束をヘリカル巻きで巻回することで、前記第2補強層を形成する工程と、を含み、前記準備する工程において、前記接合体として、前記筒部材の内周面が、前記収容空間に露出した接合体であって、前記筒部材を覆うように、樹脂層が形成された接合体を準備し、前記樹脂層は、前記第1補強層に比べて、厚さ方向において、前記ガスの透過性が低いことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、筒部材を覆う樹脂層は、第1補強層に比べて、厚さ方向において、ガスの透過性が低いので、第1補強層の筒部材を透過するガスが、第2補強層を介して、外部に透過することを抑えた高圧タンクを製造することができる。したがって、筒部材の内周面に、ガスバリア性の高いライナを形成しなくてもよい。さらに、樹脂層は、収容空間を形成していないので、収容空間に水があっても、その水が、樹脂層に直接接触することはない。したがって、樹脂層が水に接触することによる劣化を抑えることができるため、水に劣化し易い樹脂等、使用可能な樹脂層の材料の選択の幅が広がる。
【0014】
好ましい態様としては、前記準備する工程において、外周面に前記樹脂層が覆われた前記筒部材に対して、前記筒部材の外側から前記各ドーム部材を嵌合することにより、前記筒部材と前記ドーム部材とが嵌合した嵌合部において、前記筒部材と前記各ドーム部材との間に、前記樹脂層の一部を形成してもよい。
【0015】
この態様によれば、筒部材とドーム部材との間に、樹脂層の一部が形成された高圧タンクを得ることができるので、筒部材とドーム部材との間から、ガスの漏洩を抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高圧タンクおよび高圧タンクの製造方法によれば、ガスの透過を抑制する樹脂層が、水に接触することに起因して劣化することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る高圧タンクの構造を示す断面図である。
図2図1に示す高圧タンクの構造を示す部分断面図である。
図3図1に示す高圧タンクの製造方法の工程を説明するフロー図である。
図4図3に示す部材形成工程において、筒部材の形成方法を説明するための断面図である。
図5図3に示す部材形成工程において、一対のドーム部材の形成方法を説明するための部分断面図である。
図6図3に示す部材形成工程において、形成された一対のドーム部材の断面図である。
図7図3に示す部材形成工程において、図6に示す一対のドーム部材に第2樹脂層を形成した一対のドーム部材の断面図である。
図8図3に示す第1樹脂層形成工程を説明するための断面図である。
図9図3に示す第1補強層形成工程を説明するための模式的斜視図である。
図10図3に示す第1補強層形成工程において、形成された接合体の断面図である。
図11図1に示す高圧タンクの変形例の構造を示す断面図である。
図12図11に示す高圧タンクの構造を示す部分断面図である。
図13図11に示す高圧タンクの製造方法の工程を説明するフロー図である。
図14図13に示す第1補強層形成工程を説明するための模式的斜視図である。
図15図13に示す第1樹脂層形成工程において、形成された接合体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図1図15を参照しながら本発明に係る実施形態およびその変形例について説明する。
【0019】
1.高圧タンク1について
以下では、高圧タンク1を、燃料電池車両に搭載される高圧の水素ガスが充填されるタンクとして説明するが、その他の用途についても適用することができる。また、高圧タンク1に充填可能なガスとしては、高圧の水素ガスに限定されず、CNG(圧縮天然ガス)等の各圧縮ガス、LNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)等の各種液化ガス、その他のガスを挙げることができる。
【0020】
図1に示すように、高圧タンク1は、両端がドーム状に丸みを帯びた略円筒形状の高圧ガス貯蔵容器である。高圧タンク1は、ガスバリア性を有するガスバリア部2と、繊維強化樹脂からなる補強部3と、を少なくとも備えている。ガスバリア部2は、第1樹脂層21および第2樹脂層22、23を有し、補強部3は、第1補強層30および第2補強層34を有する。高圧タンク1の一方端には、開口部が形成されており、開口部周辺には口金4が取り付けられている。また、高圧タンク1には、ガスを収容する収容空間5が形成されている。高圧タンク1は、使用時には、高圧タンク1の(後述する筒部材31)の軸線が水平方向に沿うように、平置きで設置される。
【0021】
口金4は、アルミニウムまたはアルミニウム合金等の金属材料を所定形状に加工したものである。口金4には、収容空間5に対して水素ガスを充填および排出するためのバルブ6が取り付けられている。バルブ6には、後述するドーム部材32の突出部32bにおいて、ガスバリア部2に接して高圧タンク1の収容空間5を封止するシール部材6aが設けられている。
【0022】
ガスバリア部2は、収容空間5に収容されたガスが外部に漏洩すること抑制する層であり、上述したように、第1樹脂層21と、第2樹脂層22、23とを有する。なお、本実施形態の第1樹脂層21が、本発明に係る「樹脂層」に相当する。第1樹脂層21と、第2樹脂層22、23については、後述する。
【0023】
補強部3は、高圧タンク1の剛性や耐圧性等の機械的強度を向上させる機能を有し、強化繊維(連続繊維)に樹脂が含浸された繊維強化樹脂により構成されている。補強部3は、第1補強層30と、第1補強層30の外面を覆うように形成された第2補強層34と、を有している。第1補強層30は、円筒状の筒部材31と、筒部材31の両端部31a、31aに接合された一対のドーム部材32、33とを有し、これらの部材により、一体的に形成されている。
【0024】
第1補強層30は、強化繊維に樹脂(マトリクス樹脂)が含浸された繊維強化樹脂層を複数積層した部材である。筒部材31の強化繊維は、筒部材31の軸方向Xに対して略直交する角度で周状に配向されており、言い換えると、筒部材31の強化繊維は、筒部材31の周方向に配向されている。一対のドーム部材32、33の強化繊維は、筒部材31の周方向に配向されておらず、各ドーム部材32(33)の頂部近傍から各ドーム部材の周端部32a(33a)に向かって、周方向と交差する様々な方向に延在している。
【0025】
本実施形態では、筒部材31の強化繊維と、一対のドーム部材32、33の強化繊維とは連続していない(繋がっていない)。これは、後述するように、筒部材31と一対のドーム部材32、33とを別々に形成した後、筒部材31の両端に一対のドーム部材32、33を取り付けているためである。
【0026】
第1補強層30(すなわち、筒部材31および一対のドーム部材32、33)を構成する強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、および炭素繊維等を用いることができ、特に、軽量性や機械的強度等の観点から炭素繊維を用いることが好ましい。
【0027】
第1補強層30の強化繊維に含浸されるマトリクス樹脂としては、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルファイド、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、ナイロン6、またはナイロン6,6等を挙げることができる。熱硬化性樹脂としては、たとえば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、またはエポキシ樹脂等を挙げることができる。特に、機械的強度等の観点からエポキシ樹脂を用いることが好ましい。エポキシ樹脂は、未硬化状態では流動性があり、熱硬化後は強靭な架橋構造を形成することができる。
【0028】
第2補強層34は、強化繊維に樹脂(マトリクス樹脂)が含浸された繊維強化樹脂層を複数積層した層である。本実施形態では、第2補強層34は、筒部材31に形成された第1樹脂層21の表面と、ドーム部材32、33の外面とを覆うように形成されている。
【0029】
具体的には、第2補強層34は、一対のドーム部材32、33をわたすように、繊維が配向された繊維強化樹脂からなる層である。第2補強層34の強化繊維は、マトリクス樹脂を含浸した繊維束のヘリカル巻きにより、筒部材31の軸方向Xに対して傾斜するように配向されている。この強化繊維により、筒部材31にドーム部材32、33を拘束することができる。このため、高圧タンク1の使用の際に、ガス圧によってドーム部材32、33が筒部材31から軸方向Xに沿って、外方に外れるのを防止することができる。
【0030】
第2補強層34を構成する強化繊維としては、第1補強層30で例示した材料と同様のものを挙げることができ、強化繊維に含浸されるマトリクス樹脂としては、第1補強層30で例示した材料と同様のものを挙げることができる。
【0031】
本実施形態では、ガスバリア部2の第1樹脂層21は、第1補強層30と、第2補強層34との間において、筒部材31を覆うように形成されている。たとえば、第1樹脂層21の厚さは、第1補強層30の厚さよりも薄く、第1樹脂層21の厚さは、0.05mm~5mmの厚さであり、第1補強層30の厚さは、10mm以上であってもよい。ここで、第1樹脂層21は、第1補強層30に比べて、厚さ方向において、ガスの透過性が低い(すなわち、ガスバリア性が高い)。
【0032】
これにより、第1補強層30を透過するガスが、第2補強層34を介して、外部に漏洩することを抑えることができる。特に、ガスの透過量は、高圧タンク1の表面積が大きくなると増加するところ、本実施形態では、筒部材31の表面積は、一対のドーム部材32、33の表面積よりも大きいため、筒部材31の方がドーム部材32、33よりもガスの透過量が大きい。そこで、筒部材31に第1樹脂層21を形成することにより、第1補強層30を透過するガスが、第2補強層34を介して外部に漏洩することを、効果的に抑えることができる。
【0033】
ここで、「第1樹脂層21は、第1補強層30に比べて、厚さ方向において、ガスの透過性が低い」とは、筒部材31の径方向において、第1補強層30に比べて、第1樹脂層21の方が、ガスが透過し難い(ガスバリア性が高い)ことをいう。なお、これらのガス透過性の関係は、第1樹脂層21と同じ厚さのテストピースと、第1補強層30と同じ厚さのテストピースとを作製し、これらのテストピースに対する、ガス(収容するガス)の透過量を測定することにより、検証することができる。たとえば、第1樹脂層21の樹脂が、第1補強層30の強化繊維に含浸されたマトリクス樹脂よりも、ガス透過性が低い樹脂を用いてもよい。
【0034】
さらに、第1樹脂層21は、第1補強層30および第2補強層34に対して、接着性を有することが好ましい。これにより、高圧タンク1を使用する際に、第1補強層30と第2補強層34との間で剥離が発生することを防止することができ、高圧タンク1の耐疲労強度を維持することができる。
【0035】
たとえば、第1樹脂層21を構成する樹脂と、第1補強層30を構成する繊維強化樹脂の樹脂とが、架橋反応または重合反応等の化学反応により、化学的に結合されていることが好ましい。
【0036】
第1樹脂層21の材料としては、母材としてのガスバリア性を有した合成樹脂と、接着性を向上させるエラストマとを含む樹脂材料を用いてもよい。ガスバリア性を有した合成樹脂としては、マトリクス樹脂よりガスバリア性が高い樹脂であれば、特に限定されるものではなく、たとえば、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリエステル系樹脂またはポリビニルアルコール系樹脂等を挙げることができる。高ガスバリア性を考慮すると、ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンナフタラート(PEN)が好ましく、ポリビニルアルコール系樹脂としては、エチレン-ビニル-アルコール共重合体(EVOH)が好ましい。
【0037】
エラストマとしては、接着性を向上させるものであれば、特に限定されるものではなく、たとえば、ゴム、または、ゴムの表面に官能基を有するように改質された改質ゴムを用いることができる。ゴムとしては、エチレン-ブテン共重合体(EBR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)等を挙げることができる。
【0038】
改質ゴムの官能基としては、第1補強層30および第2補強層34に対して接着性を向上させる官能基であれば特に限定されるものではない。たとえば、第1補強層30および第2補強層34のマトリクス樹脂がエポキシ樹脂である場合には、改質ゴムの官能基は、エポキシ基に反応する官能基であればよく、たとえば、カルボキシル基、水酸基、またはアミノ基等を挙げることができる。
【0039】
このような樹脂材料の例としては、PENと、カルボキシル基もしくはアミノ基を有する改質ゴムとを含む樹脂材料、または、EVOHと、カルボキシル基もしくはアミノ基を有する改質ゴムとを含む樹脂材料等を挙げることができる。
【0040】
また、第1樹脂層21の材料としては、3層構造を有するシート材料またはフィルム材料を用いてもよい。具体的には、ガスバリア性を有したバリア層の両面に、接着性を有した接着層が形成されたシート材料またはフィルム材料を用いてもよい。バリア層の樹脂としては、上述したガスバリア性を有した合成樹脂と同様の樹脂を挙げることができ、たとえば、EVOHまたはPEN等を挙げることができる。接着層の樹脂として、たとえば、ポリプロピレン(PP)樹脂またはポリアミド(PA)樹脂等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0041】
このようなシート材料またはフィルム材料の例としては、EVOHからなるバリア層の両面に、PPからなる接着層が形成されたシート材料またはフィルム材料を挙げることができる。この他にも、EVOHからなるバリア層の両面にPAからなる接着層が形成されたシート材料等を挙げることができる。
【0042】
この他にも、第1樹脂層21の材料として、ウレタン樹脂に無機材料等のフィラーが添加された接着材料を用いてもよい。ウレタン樹脂を用いることにより、第1樹脂層21に、低温で高い伸び特性を発現することができ、フィラーを添加することにより、第1樹脂層21のガスバリア性を高めることができる。この他にも、高ガスバリア性を有するとともに、低温で高い伸び特性を有する点から、第1樹脂層21の材料として、変性エポキシ樹脂からなる接着材料を用いてもよい。
【0043】
本実施形態では、図1に示すように、第2樹脂層22、23は、一対のドーム部材32、33の高圧タンク1の内側に位置する内面32f、33f(図6を参照)をそれぞれ覆うように、形成されている。しかしながら、第2樹脂層22、23の形成は、図1に示す態様に限定されるものではなく、第2樹脂層22、23は、第1補強層30と、第2補強層34との間において、一対のドーム部材32、33をそれぞれ覆うように、形成されていてもよい。
【0044】
第2樹脂層22、23の材料としては、第1樹脂層21の材料として例示した樹脂材料、シート材料等、または接着材料を用いてよい。なお、第1樹脂層21および第2樹脂層22、23の材料は、同じ種類の材料を用いてもよく、異なる種類の材料を用いてもよい。
【0045】
本実施形態の高圧タンク1では、図1に示すように、筒部材31の内周面31bは、収容空間5に露出しており、収容空間5は、筒部材31の内周面31bと第2樹脂層22、23とにより形成されている。したがって、第1樹脂層21は、収容空間5を形成していないので、いわゆる平置きされた高圧タンク1の筒部材31の内周面31bに水が溜ったとしても、その水が第1樹脂層21に直接接触することはない。結果として、水に接触することによる第1樹脂層21の劣化を抑えることができる。
【0046】
たとえば、PENおよびEVOH等のような高ガスバリア性を有する樹脂は、分子内に極性基を有するところ、極性基に起因して、加水分解し易くまたは水による膨潤が発生し易い結果、ガスバリア性が低減することがある。しかしながら、本実施形態では、上述の如く、第1樹脂層21が水に直接接触しないため、第1樹脂層21の高ガスバリア性を確保することができる。
【0047】
また、本実施形態の高圧タンク1では、図2に示すように、筒部材31の外側から各ドーム部材32(33)が筒部材31に嵌合している。詳細には、筒部材31の外側から、各ドーム部材32(33)の周端部32a(33a)が、筒部材31の各端部31aに嵌合している。ここで、筒部材31の外周面31c(図4を参照)には第1樹脂層21が被覆されている。
【0048】
このような筒部材31と各ドーム部材32(33)とが嵌合した嵌合部30aでは、筒部材31と各ドーム部材32(33)との間に、第1樹脂層21の一部が形成されている。これにより、筒部材31と各ドーム部材32(33)とが嵌合した嵌合部30aでは、収容空間5からのガスが漏洩し易いところ、筒部材31と各ドーム部材32(33)との間からのガスの漏洩を抑えることができる。
【0049】
さらに、本実施形態では、各ドーム部材32(33)の内面32f(33f)には第2樹脂層22(23)が被覆されている。嵌合部30aでは、筒部材31と各ドーム部材32(33)との間に、第1樹脂層21の一部とともに、第2樹脂層22(23)の一部が形成され、第1樹脂層21の一部と第2樹脂層22(23)の一部とが重なり合っている(接合している)。これにより、筒部材31と各ドーム部材32(33)との間からのガスの漏洩を効果的に抑えることができる。
【0050】
2.高圧タンク1の製造方法について
次に、本発明の一実施形態に係る高圧タンク1の製造方法について説明する。図3は、高圧タンク1の製造方法の工程を説明するフロー図である。高圧タンク1の製造方法は、図3に示すように、部材形成工程S11と、第1樹脂層形成工程S12と、第1補強層形成工程S13と、第2補強層形成工程S14とを含んでいる。なお、部材形成工程S11と、第1樹脂層形成工程S12と、第1補強層形成工程S13とが、本発明でいう「接合体を準備する工程」に相当する。
【0051】
2-1.部材形成工程S11について
図3に示すように、高圧タンク1の製造方法では、まず、部材形成工程S11を行う。この工程では、筒部材31の形成と、第2樹脂層22、23を被覆した一対のドーム部材32、33の形成とを行う。この工程を省略し、筒部材31と、第2樹脂層22、23を被覆した一対のドーム部材32、33とを別途準備してもよい。
【0052】
(筒部材31の形成方法)
筒部材31の形成方法では、図4に示すように、たとえば、円柱状のマンドレル100の外面に、繊維シートF1を巻き付けることによって、筒部材31を形成する。マンドレル100の外径D1は、筒部材31の内径に相当する外径であり、筒部材31の外側から各ドーム部材32(33)が筒部材31に嵌合することができる大きさに設定されることが好ましい。
【0053】
筒部材31を形成する際には、回転機構(図示せず)によりマンドレル100を周方向に回転させながら、巻出された繊維シートF1を、マンドレル100に複数回巻き付ける。繊維シートF1は、一方向に引き揃えられた強化繊維にマトリクス樹脂が含浸されたシートであり、強化繊維がマンドレル100の周方向に配向されるように、繊維シートF1をマンドレル100に巻き付ける。これにより、周方向に強化繊維が配向された筒部材31が形成される。
【0054】
繊維シートF1の強化繊維は、第1補強層30で例示した材料と同様のものを用いることができ、強化繊維に含浸されるマトリクス樹脂としては、第1補強層30で例示した材料と同様のものを挙げることができる。
【0055】
筒部材31は、図4に示すように、軸方向Xの各端部31aの厚みが、端部に進むに従って徐々に薄くなるように、形成されている。このような形状とすることにより、筒部材31の両端部31a、31aと、ドーム部材32、33の周端部32a、33aとを、それぞれ重ね合わせた際、筒部材31の外面とドーム部材32、33の外面との接続部分に段差が形成され難くなる。
【0056】
筒部材31の軸方向Xの両端部31a、31aの厚みを徐々に薄く形成するために、繊維シートF1の巻き付け幅を徐々に狭くしてもよく、筒部材31の軸方向Xの両端をローラー等で押さえつけることによって厚みを徐々に薄くしてもよい。
【0057】
なお、ここでは、マンドレル100の外面に繊維シートF1を巻き付けて筒部材31を形成する例について説明した。しかしながら、マンドレル100の外面にフィラメントワインディング法(FW法)によりマトリクス樹脂が含浸された繊維束をフープ巻きすることによって、筒部材31を形成してもよい。あるいは、その他の方法としては、回転するマンドレル100の内面に繊維シートを貼り付ける、所謂CW(Centrifugal Winding)法により筒部材31を形成してもよい。
【0058】
マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂である場合には、マンドレル100に巻き付いた状態の繊維シートF1を加熱し、未硬化の熱硬化性樹脂を硬化させる。一方、マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、軟化した状態の熱可塑性樹脂を冷却し、繊維シートF1の樹脂を固化する。マトリクス樹脂の硬化または固化後、筒部材31をマンドレル100から取り外す。なお、熱硬化性樹脂を用いた場合には、後述する第1樹脂層形成工程S12まで行った後、マトリクス樹脂を硬化させるとともに、第1樹脂層21の樹脂と化学反応(架橋反応または重合反応等)させてもよい。これにより、筒部材31と第1樹脂層21との接着性を高めることができる。
【0059】
(第2樹脂層付き一対のドーム部材32、33の形成方法)
第2樹脂層22、23を被覆した一対のドーム部材32、33の形成方法では、まず、図6に示す一対のドーム部材32、33を形成する。この形成方法では、図5に示すように、たとえばフィラメントワインディング法(FW法)により、マトリクス樹脂が含浸された繊維束F2をマンドレル200の外面に巻回する。具体的には、マンドレル200は、本体部201と、本体部201の一端から外側に延在するシャフト部202と、を有する。
【0060】
本体部201は、シャフト部202の軸方向から見て円形状に形成されている。本体部201の軸方向中央の外周面には、周方向に1周にわたって延在する溝部201aが形成されている。マンドレル200は、一対のドーム部材32、33を繋ぎ合わせた形状であり、その繋ぎ目に相当する位置に溝部201aが形成されている。シャフト部202は、回転機構(図示せず)に回転可能に支持されている。
【0061】
一対のドーム部材32、33を形成する際には、まず、マンドレル200を回転させることにより、マンドレル200の外面を被覆するように繊維束F2を巻き付けて、巻回体35を形成する。このとき、シャフト部202の外面にも繊維束F2を巻き付けることによって、図6に示すように、貫通穴32cを有する円筒状の突出部32bが形成される。繊維束F2を、シャフト部202の軸方向に対してたとえば30~50度で交差する角度で巻き付ける。
【0062】
繊維束F2の強化繊維は、第1補強層30で例示した材料と同様のものを用いることができ、強化繊維に含浸されるマトリクス樹脂としては、第1補強層30で例示した材料と同様のものを挙げることができる。繊維束F2のマトリクス樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、熱可塑性樹脂を加熱して軟化させた状態で、マンドレル200に繊維束F2を巻き付ける。一方、繊維束F2のマトリクス樹脂が熱硬化性樹脂である場合には、熱硬化性樹脂が未硬化の状態で、マンドレル200に繊維束F2を巻き付ける。
【0063】
なお、各ドーム部材32(33)の周端部32a(33a)の厚みが、端部に進むに従って徐々に薄くなるように、巻回体35の繋ぎ目に相当する位置の近傍をローラー等で押さえつけてよい。
【0064】
次に、マンドレル200の外面に巻回された巻回体35を、カッター210(図5参照)を用いて2個に分割する。その後、図6に示すように、分割した巻回体35をマンドレル200から分離することによって一対のドーム部材32、33を形成する。
【0065】
具体的には、図5に示した状態から、突出部32bの外面に口金4を取り付ける。巻回体の繊維束F2に含浸された樹脂が熱硬化性樹脂である場合には、巻回体35を硬化する。一方、巻回体35の繊維束F2に含浸された樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、軟化した状態の熱可塑性樹脂を冷却し、繊維束F2の樹脂を固化する。
【0066】
このように繊維束F2に含浸された樹脂を硬化または固化した状態で、マンドレル200を回転させながら、カッター210の刃先をマンドレル200の溝部201aに挿入する。これにより、カッター210で繊維束F2が切断され、巻回体を2つに分割することができる。分割された巻回体をマンドレル200から分離することによって、一対のドーム部材32、33を形成する。
【0067】
次に、図6および図7に示すように、形成した一対のドーム部材32、33の内面32f、33fに第2樹脂層22、23をそれぞれ形成する。具体的には、第1樹脂層21の材料として例示した樹脂材料または接着材料を使用する場合には、液状または軟化したこれらの材料を、内面32f、33fに塗布し、これを硬化または固化することにより、第2樹脂層22、23をそれぞれ形成してもよい。あるいは、第1樹脂層21の材料として例示したシート材料等を使用する場合には、シート材料等を内面32f、33fに貼着することにより、第2樹脂層22、23をそれぞれ形成してもよい。
【0068】
本実施形態では、一対のドーム部材32、33の形成と第2樹脂層22、23の被覆とを個別に行ったが、これらを同時に行ってもよい。この場合には、図5に示すマンドレル200の表面に第2樹脂層22、23となる樹脂層を形成した後、この樹脂層の上に、巻回体35を形成する。次いで、この巻回体35を切断して、第2樹脂層22、23付の一対のドーム部材32、33を形成してもよい。
【0069】
ここでは、ドーム部材32、33の内面32f、33fに第2樹脂層22、23をそれぞれ形成する場合を説明したが、これに限定されず、一対のドーム部材32、33の高圧タンク1の外側に位置する外面32g、33g(図6を参照)に第2樹脂層22、23をそれぞれ形成してもよい。この場合、ドーム部材32、33の内面32f、33fを、収容空間5に露出してもよい。
【0070】
2-2.第1樹脂層形成工程S12について
次に、図3に示すように、第1樹脂層形成工程S12を行う。この工程では、図4および図8に示すように、準備した筒部材31の外周面31cを覆うように第1樹脂層21を形成する。ここで、第1樹脂層21は、第1補強層30に比べて、厚さ方向において、ガスの透過性が低い。また、第1樹脂層21は、第1補強層30および第2補強層34に対して、接着性を有することが好ましい。
【0071】
第1樹脂層21を形成する際、材料として、上述した如く、母材としてのガスバリア性を有した合成樹脂と、接着性を向上させるエラストマとを含む樹脂材料を用いる場合には、液状または軟化した樹脂材料を筒部材31の外周面31cに塗布してもよい。
【0072】
ここで、第1樹脂層21(または母材の合成樹脂)が、熱可塑性樹脂であり、第2補強層34のマトリクス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、第1樹脂層21の樹脂のガラス転移温度(Tg)は、第2補強層34のマトリクス樹脂の硬化の温度よりも低いことが好ましい。
【0073】
これにより、後述する第2補強層34のマトリクス樹脂を加熱により硬化する際に、第1樹脂層21の熱可塑性樹脂を軟化(溶融)し、第2補強層34に第1樹脂層21が密着する。さらに、第1樹脂層21と第2補強層34のマトリクス樹脂とを、架橋反応または重合反応等の化学反応により、化学的に結合してもよい。この結果、第1樹脂層21を介した第1補強層30および第2補強層34の接着性を向上することができる。なお、熱可塑性樹脂では、モノマーの平均分子量、モノマーからポリマーへの樹脂の重合度等を調整すること等により、所望のTgに設定することができる。
【0074】
また、第2補強層34のマトリクス樹脂がエポキシ樹脂である場合には、上述した樹脂材料に含まれるエラストマは、エポキシ樹脂のエポキシ基に反応する官能基を表面に有するように改質された改質ゴムであることが好ましい。官能基としては、カルボキシル基、水酸基、またはアミノ基等を挙げることができる。これにより、第2補強層34のマトリクス樹脂を加熱により硬化する際に、第2補強層34のエポキシ樹脂と改質ゴムの官能基とを化学結合する。この結果、第1補強層30および第2補強層34の接着性を向上することがきる。
【0075】
また、第1樹脂層21を形成する際、材料として、上述した如く、ガスバリア性を有したバリア層の両面に、接着性を有した接着層が形成されたシート材料またはフィルム材料を、筒部材31の外周面31cに、少なくとも1回周回するように貼着してもよい。
【0076】
なお、接着層が熱可塑性樹脂であり、第2補強層34のマトリクス樹脂が熱硬化性樹脂である場合には、第2補強層34のマトリクス樹脂を硬化する温度条件で、熱可塑性樹脂がマトリクス樹脂と化学的に結合することが好ましい。
【0077】
この他にも、第1樹脂層21となる材料として、上述した接着材料を用いる場合には、接着材料を外周面31cに塗布してもよい。第1樹脂層21の材料に含まれる樹脂材料または接着材料が、熱硬化性樹脂である場合には、樹脂を熱により硬化させる。なお、熱硬化性樹脂を用いた場合には、第2補強層形成工程S14で、第2補強層34のマトリクス樹脂とともに第1樹脂層21の熱硬化性樹脂を硬化させてもよい。これにより、第1樹脂層21および第2補強層34の接着性を高めることができる。
【0078】
なお、本実施形態では、マンドレル100に筒部材31を形成した状態で、第1樹脂層21を続けて形成したが、たとえば、マンドレル100から筒部材31と取り外した後、第1樹脂層21を形成してもよい。
【0079】
2-3.第1補強層形成工程S13について
次いで、図3に示すように、第1補強層形成工程S13を行う。この工程では、図9および図10に示すように、筒部材31の両端部31a、31aに、一対のドーム部材32、33を接合する。具体的には、筒部材31の各端部31aに、各ドーム部材32(33)の周端部32a(33a)を接合する。これにより、第1補強層30となる接合体30Aを形成することができる。
【0080】
ここで、本実施形態では、筒部材31は外周面31cに第1樹脂層21が形成された状態であり、一対のドーム部材32、33は、内面32f、33fに第2樹脂層22、23が形成された状態である。このような筒部材31と一対のドーム部材32、33を接合することにより、図10に示すように、第1補強層30とガスバリア部2とを有する接合体30Aを形成することができる。
【0081】
接合する際、外周面31cに第1樹脂層21が覆われた筒部材31に対して、筒部材31の外側から各ドーム部材32(33)を嵌合する。これにより、筒部材31と各ドーム部材32(33)とが嵌合した嵌合部30a(図2を参照)において、筒部材31と各ドーム部材32(33)との間に、第1樹脂層21の一部を形成する。この結果、筒部材31と各ドーム部材32(33)との間に、第1樹脂層21の一部が形成された高圧タンク1を得ることができるので、筒部材31と各ドーム部材32(33)との間から、ガスの漏洩を抑えることができる。
【0082】
なお、本実施形態では、嵌合部30aでは、筒部材31と各ドーム部材32(33)との間に、第1樹脂層21の一部とともに、第2樹脂層22(23)の一部が形成されている。そのため、接合の際、第1樹脂層21の一部と第2樹脂層22(23)の一部とが重なり合うように、これらを接合する。
【0083】
筒部材31と各ドーム部材32(33)との接合は、嵌合部30aに形成された第1および第2樹脂層21~23を介して接合してもよい。第1および第2樹脂層21~23を構成する樹脂が熱可塑性樹脂の場合には、嵌合部30aを加熱して、熱可塑性樹脂を溶融させて、嵌合部30aを熱融着(接合)してもよい。一方、第1および第2樹脂層21~23を構成する樹脂が熱硬化性樹脂の場合には、嵌合部30aを加熱により硬化させて嵌合部30aを接合してもよい。
【0084】
この他にも、筒部材31と各ドーム部材32(33)を構成するマトリクス樹脂が、熱可塑性樹脂の場合には、筒部材31の各端部31aと、各ドーム部材32(33)の周端部32a(33a)とを加熱し、熱可塑性樹脂が溶融した状態で、これらを嵌合させて熱融着(接合)してもよい。一方、筒部材31と各ドーム部材32(33)を構成するマトリクス樹脂が、熱硬化性樹脂の場合には、筒部材31と各ドーム部材32(33)とが嵌合した状態で、熱硬化性樹脂を加熱により硬化させてこれらを接合してもよい。
【0085】
このようにして準備した接合体30Aでは、図10に示すように、筒部材31の内周面31bが、収容空間5に露出しており、筒部材31の内周面31bと第2樹脂層22、23とにより、収容空間5が形成されている。つまり、第1樹脂層21は、収容空間5を形成していない。
【0086】
さらに、接合体30Aでは、筒部材31の外周面31cは、第1樹脂層21で覆われている。これにより、後述する第2補強層34を形成する際、第1補強層30と第2補強層34との間において、筒部材31を覆うように、第1樹脂層21を形成することができる。このような第1樹脂層21は、上述した如く、第1補強層30に比べて、厚さ方向において、ガスの透過性が低い。
【0087】
2-4.第2補強層形成工程S14について
次に、図3に示すように、第2補強層形成工程S14を行う。この工程では、図10および図1に示すように、準備した接合体30Aに対して、一対のドーム部材32、33をわたすように、樹脂(マトリクス樹脂)を含浸した繊維束をヘリカル巻きで巻回することで、第2補強層34を形成する。
【0088】
具体的には、第2補強層34となるマトリクス樹脂が含浸された繊維束を、FW法で、接合体30Aの表面に、ヘリカル巻きで層状に巻き付ける。ここで、本実施形態では、上述の如く、接合体30Aでは、筒部材31の外周面31cは、第1樹脂層21で覆われているため、繊維束を、第1樹脂層21の表面およびドーム部材32、33の外面32g、33gに巻き付ける。
【0089】
ヘリカル巻きは、ドーム部材32、33にわたって、筒部材31の軸方向Xに対して斜め(10°以上60°以下の範囲)に巻き進む巻き方である。巻き付けられた繊維束の層数は、第2補強層34の強度が確保されるのであれば、特に限定されるものではないが、たとえば2~10層程度である。
【0090】
繊維束の強化繊維は、第1補強層30で例示した材料と同様のものを挙げることができ、強化繊維に含浸されるマトリクス樹脂としては、第1補強層30で例示した材料と同様のものを挙げることができる。
【0091】
繊維束を接合体30Aの外面に巻き終えた後、繊維束に含浸されたマトリクス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、この樹脂を硬化させる。この際、第1補強層30のマトリクス樹脂と、第1および第2樹脂層21~23の樹脂とが、熱硬化性樹脂で、完全に硬化していない場合、これらの樹脂も硬化させる。一方、繊維束に含浸されたマトリクス樹脂が熱可塑性樹脂の場合、この樹脂を、放冷または強制冷却によって冷却して固化させる。この際、第1補強層30のマトリクス樹脂と、第1および第2樹脂層21~23の樹脂とが熱可塑性樹脂で、完全に固化していない場合には、これらの樹脂も冷却して固化させる。
【0092】
このようにして、第2補強層34を形成することにより、第1補強層30および第2補強層34を有する補強部3を形成することができる。補強部3では、第1補強層30と第2補強層34との間において、筒部材31を覆うように、第1樹脂層21が形成されている。これにより、第1樹脂層21を介して、第1補強層30と第2補強層34との接着性を向上することができるため、第1補強層30と第2補強層34との間に空隙が発生し難い。
【0093】
第2補強層34を形成した後、図1に示すように、口金4にバルブ6を取り付けることによって、高圧タンク1が完成する。
【0094】
本実施形態によれば、上述したように、第1補強層30と第2補強層34との間で、筒部材31を覆う第1樹脂層21は、第1補強層30に比べて、厚さ方向において、ガスの透過性が低い。このため、第1補強層30を透過するガスが、第2補強層34を介して、外部に漏洩することを抑えた高圧タンク1を製造することができる。したがって、筒部材31の内周面31bに、ガスバリア性の高いライナを形成しなくてもよい。
【0095】
さらに、上述したように、第1樹脂層21は、収容空間5を形成していないので、収容空間5に水があっても、その水に直接接触することはない。したがって、第1樹脂層21が水に接触することによる劣化を抑えることができるため、水で劣化し易い樹脂等も使用可能となる結果、使用可能な樹脂層の材料の選択の幅が広がる。たとえば、官能基として親水基を有する樹脂(たとえば、PEN、EVOH、またはウレタン)等を好適に採用することができる。
【0096】
3.本実施形態の変形例について
図11図15を参照して本実施形態の変形例について説明する。以下では、相違点について主に説明し、上述した実施形態と同じ部材および部分に関しては、同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0097】
上述の実施形態の高圧タンク1では、嵌合部30aにおいて、筒部材31と各ドーム部材32(33)との間に、第1樹脂層21の一部が形成されている例を説明したが、嵌合部30aの構造はこれに限定されるものではない。
【0098】
たとえば、図11、12に示す本変形例の高圧タンク1の如く、嵌合部30bにおいて、各ドーム部材32(33)の外面32g(33g)の少なくとも一部を覆うように、第1樹脂層21が連続して形成されていてもよい。具体的には、後述する筒部材31と各ドーム部材32(33)とを接合した接合体30B(図15参照)の外周面において、筒部材31と各ドーム部材32(33)との境界部分を覆うように、第1樹脂層21が延在している。これにより、この境界部分からのガスの漏れを、第1樹脂層21で抑制することができる。
【0099】
図13に示すように、本変形例の高圧タンク1の製造方法では、第1補強層形成工程と、第1樹脂層形成工程の順序が、上述した実施形態とは異なり、相違点のみ、以下に説明する。なお、部材形成工程S21、第1補強層形成工程S22、および第1樹脂層形成工程S23が本発明でいう「接合体を準備する工程」に相当する。
【0100】
本変形例の高圧タンク1の製造方法では、部材形成工程S21は、上述した実施形態の部材形成工程S11と同様である。第1補強層形成工程S22では、図14に示すように、第1樹脂層21を形成する前に、筒部材31の両端部31a、31aに、一対のドーム部材32、33を接合し、接合体30Bを作製する。
【0101】
次いで、図13に示すように、第1樹脂層形成工程S23を行う。この工程では、図15に示すように、上述した実施形態の第1樹脂層形成工程S12と同様にして、接合体30Bの状態で、筒部材31の外周面31cに、第1樹脂層21を形成する。具体的には筒部材31の外周面31cとともに、各ドーム部材32(33)を周端部32a(33a)の外周面を覆うように、第1樹脂層21を形成する。
【0102】
次いで、図13に示すように、第2補強層形成工程S24を行う。この工程では、図15および図11に示すように、上述した実施形態の第2補強層形成工程S14と同様にして、第2補強層34を形成する。このようして、本変形例に係る高圧タンク1を得ることができる。
【0103】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0104】
1:高圧タンク、5:収容空間、21:樹脂層、30:第1補強層、30a:嵌合部、30A、30B:接合体、31:筒部材、31a:端部、31b:内周面、31c:外周面、32、33:一対のドーム部材、34:第2補強層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15