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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】全固体リチウム電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20231003BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231003BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231003BHJP
   H01M 50/54 20210101ALI20231003BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/052
H01M10/0562
H01M50/54
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021030506
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131525
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】杉本 拓哉
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-108550(JP,A)
【文献】特開2020-173953(JP,A)
【文献】特開2013-109866(JP,A)
【文献】特開2018-049696(JP,A)
【文献】特開2021-030506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/052
H01M 10/0562
H01M 50/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極合材層、固体電解質層、及び正極合材層がこの順で積層されており、
前記固体電解質層の外周端面の少なくとも一部にLi吸蔵固体が配置されており、
前記Li吸蔵固体はLi反応性を有し、
前記負極合材層、前記固体電解質層、及び前記正極合材層の外周端面が面一に揃っており、
前記Li吸蔵固体はアルミニウム又はインジウムである、
全固体リチウム電池。
【請求項2】
前記Li吸蔵固体は、前記固体電解質層の外周端面の前記負極合材層側に配置される、請求項1に記載の全固体リチウム電池。
【請求項3】
前記負極合材層の前記固体電解質層とは反対側の表面に配置された負極集電体と、前記正極合材層の前記固体電解質層とは反対側の表面に配置された正極集電体とを備え、
前記負極集電体は負極集電体タブを備えており、
前記正極集電体は正極集電体タブを備えており、
前記負極集電体タブ及び前記正極集電体タブは同一の外周端面から突出して配置されており、
前記Li吸蔵固体は、前記固体電解質層の外周端面のうち、前記負極集電体タブ及び前記正極集電体タブが配置されている外周端面に配置される、
請求項1又は2に記載の全固体リチウム電池。
【請求項4】
前記Li吸蔵固体は、前記固体電解質層の外周端面の周方向に亘って配置される、請求項1~のいずれか1項に記載の全固体リチウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は全固体リチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は高電圧及び高エネルギー容量を有していることから、幅広い分野で使用されている。リチウム二次電池としては、従来から液系電池が知られているが、近年、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する全固体電池の開発が進められている。
【0003】
一方で、全固体電池は充放電の繰り返しにより負極合材層において金属リチウムのデンドライトが成長して、正極活物質層まで到達し、内部短絡が生じる場合がある。このような問題に対し、特許文献1では次のような技術を開示している。
【0004】
特許文献1は、正極活物質層、セパレーター層、及び負極活物質層がこの順に積層された構成を有しており、負極活物質層は、金属リチウムを含有しており、セパレーター層は、シャット層及び一つ以上の固体電解質層を有しており、固体電解質層の一つは、負極活物質層に隣接しており、かつシャット層は、金属リチウムと反応して電子絶縁体を生成するリチウムイオン伝導性液体を含有している、リチウム二次電池を開示している。特許文献1のリチウム二次電池は、セパレーター層を固体電解質層とシャット層との2層構成とし、正極活物質層側にシャット層を設けることで、負極活物質層から析出した金属Liが正極活物質層に到達して短絡することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-53172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
負極合材層からの金属Liの這い上がりによる短絡は、外周端面から優先的に生じることが知られている。従って、外周端面からの金属Liの這い上がりによる短絡を抑制することが重要である。
【0007】
特許文献1の技術は外周端面からの金属Liの這い上がりによる短絡を抑制する効果を奏するものと考えられるが、電池の構成上、このような効果維持することは難しい場合がある。例えば、負極活物質に膨張収縮性を有するSiやグラファイト等を用いた場合、長期間の充放電や急速充放電によって、シャット層とそれに隣接する層との間の隙間がポンプのように働き、シャット層の内部に保持されているリチウムイオン伝導性液体が外部に漏れることが考えられる。また、抵抗低減のために高圧で電池を拘束した場合、このような液漏れはより大きくなると考えられる。そして、リチウムイオン伝導性液体が外部に漏れた場合、短絡抑制効果は低減し、当初期待した効果が発揮されないと考えられる。従って、特許文献1の技術は改善の余地があった。
【0008】
そこで本願の目的は、上記実情を鑑み、外周端面における金属Liの這い上がりによる短絡を抑制することができる全固体リチウム電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、上記課題を解決するための一つの手段として、負極合材層、固体電解質層、及び正極合材層がこの順で積層されており、固体電解質層の外周端面の少なくとも一部にLi吸蔵固体が配置されており、Li吸蔵固体はLi反応性を有する、全固体リチウム電池を提供する。
【0010】
上記全固体リチウム電池において、負極合材層、固体電解質層、及び正極合材層の外周端面は面一に揃っていてもよい。また、Li吸蔵固体は、固体電解質層の外周端面の負極合材層側に配置されていてもよい。
【0011】
さらに、上記全固体リチウム電池は、負極合材層の固体電解質層とは反対側の表面に配置された負極集電体と、正極合材層の固体電解質層とは反対側の表面に配置された正極集電体とを備え、負極集電体は負極集電体タブを備えており、正極集電体は正極集電体タブを備えており、負極集電体タブ及び正極集電体タブは同一の外周端面から突出して配置されており、Li吸蔵固体は、固体電解質層の外周端面のうち、負極集電体タブ及び正極集電体タブが配置されている外周端面に配置されていてもよい。また、Li吸蔵固体は、固体電解質層の外周端面の周方向に亘って配置されていてもよい
【発明の効果】
【0012】
本開示に全固体リチウム電池によれば、外周端面からの金属Liの這い上がりによる短絡を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】外周端面から這い上がる金属Liによる短絡について説明する図である。
図2】全固体リチウム電池10の断面図である。
図3】全固体リチウム電池10の平面図である。
図4】全固体リチウム電池10の製造方法を説明するための図である。
図5】実施例1~5及び比較例1の評価用電池におけるLi金属固体の積層方向の配置位置を説明するための断面図である。
図6】実施例1~5及び比較例1の評価用電池の形状を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の全固体リチウム電池は、負極合材層、固体電解質層、及び正極合材層がこの順で積層されており、固体電解質層の外周端面の少なくとも一部にLi吸蔵固体が配置されており、Li吸蔵固体はLi反応性を有すること1つの特徴としている。
【0015】
本開示の全固体リチウム電池は、固体電解質層の外周端面の少なくとも一部にLi吸蔵固体を備えている。Li吸蔵固体は金属Liと反応性を有するものであり、外周端面において這い上がってきた金属Liと反応し、金属Liを内部に吸蔵することができる。従って、本開示の全固体リチウム電池によれば、外周端面から這い上がる金属Liによる短絡を抑制することができる。
【0016】
また、本開示の全固体リチウム電池は、負極合材層、固体電解質層、及び正極合材層の外周端面が面一に揃っていることが好ましい。「外周端面」とは、全固体リチウム電池の積層方向の端面を上面、下面としたときの側面であり、負極合材層、固体電解質層、及び正極合材層の外縁から形成される面である。「外周端面が面一に揃っている」とは、外周端面に段差がなく、それぞれの層の外周端面が同一平面上にあること意味する。ただし、製造上の誤差は許容されるものである。例えば、各層の段差が0.5mm以内であれば、外周端面が面一に揃っているといえる。
【0017】
外周端面が面一に揃っている全固体リチウム電池の場合、外周端面から這い上がる金属Liによる短絡が最も優先的に起こる。これについて図1を用いて詳しく説明する。
【0018】
図1は、外周端面が面一に揃っている全固体リチウム電池20において、外周端面から這い上がる金属Liによる短絡が生じる様子を説明する図である。全固体リチウム電池20は、負極集電体21、負極合材層22、固体電解質層23、正極合材層24、及び正極集電体25がこの順で積層したものである。このような面一の全固体リチウム電池20において、膨張収縮性を有する負極活物質を用いた場合、充放電によって膨張収縮する負極合材層22と膨張収縮しない固体電解質層23との間に隙間Xが生じる。負極合材層22上に析出した金属Liは、当該隙間Xを通じて外周端面側に移動する。外周端面まで移動した金属Liは正極合材層24側に伸長する(図1の矢印)。そして、金属Liが正極合材層24に到達し、短絡が生じる。このように、負極合材層22上に析出した金属Liは隙間Xを通り外周端面に移動し、そこから正極合材層24側に這い上がるため、外周端面から這い上がる金属Liによる短絡が最も優先的に起こる。
【0019】
従来の全固体リチウム電池では、正極合材層より負極合材層及び固体電解質層のサイズを大きくし、外周端面において正極合材層と負極合材層及び固体電解質層との間に段差が生じるように設計することによって、段差によって外周端面からの金属Liの這い上がりを抑制していた。このように、金属Liの這い上がりによる短絡を抑制する観点から、正極合材層より負極合材層及び固体電解質層のサイズを大きくすることが好ましいが、各層のサイズが異なると、製造過程においてこれらの層のプレス方法やプレス型の形状を工夫する必要がある。そのため、各層のサイズを概ね同一サイズに形成することが望まれている。
【0020】
しかしながら、各層のサイズを統一し、外周端面を面一に揃えた場合、図1の通り、外周端面からの金属Liの這い上がりによる短絡が課題となる。特許文献1の技術はセパレーター層全体にシャット機能を持たせるものであるが、優先的に抑制すべき短絡は、外周端面からの金属Liの這い上がりによる短絡である。また、特許文献1の技術は、上述の通り、液漏れが生じる懸念がある。
【0021】
一方で、本開示の全固体リチウム電池は、固体電解質層の外周端面にLi吸蔵固体を備えているため、外周端面を這い上がってきた金属Liの正極合材層への伸長を抑制することができる。従って、本開示の全固体リチウム電池は、外周端面が面一に揃えっている場合であっても、外周端面から這い上がる金属Liによる短絡を抑制することができる。
【0022】
なお、本開示の全固体リチウム電池は、外周端面が面一に揃えっている場合に特に効果を奏するものであるが、これに限定されるものではなく、外周端面が段差を有している場合であっても効果を奏するものである。
【0023】
以下、外周端面が面一に揃っている全固体リチウム電池10を参照しつつ、本開示の全固体リチウム電池についてさらに説明する。
【0024】
[全固体リチウム電池10]
図2は全固体リチウム電池10の断面図であり、図3は全固体リチウム電池10の上面から観察した平面図である。図2、3に示した通り、全固体リチウム10電池は負極合材層12、固体電解質層13、及び正極合材層14がこの順で積層されている。また、全固体リチウム10は、負極合材層12の固体電解質層13とは反対側の表面に配置された負極集電体11と、正極合材層14の固体電解質層とは反対側の表面に配置された正極集電体15とを備えており、負極集電体11は外周端面から突出する負極集電体タブ11aを備えており、正極集電体15は外周端面から突出する正極集電体タブ15aを備えている。さらに、全固体リチウム電池10は固体電解質層13の外周端面にLi吸蔵固体16を備えている。また、全固体リチウム電池10において、負極合材層12、固体電解質層13、及び正極合材層14の外周端面は面一に揃っている。
【0025】
(負極集電体11、正極集電体15)
負極集電体11及び正極集電体15は、金属箔や金属メッシュ等により構成すればよい。金属の種類としては、例えばCu、Ni、Al、Fe、ステンレス鋼等が挙げられる。負極集電体11及び正極集電体15の厚みは、所望の電池性能に応じて適宜設定すればよい。例えば、0.1μm以上1mm以下の範囲である。
【0026】
(負極合材層12)
負極合材層12は負極活物質を含む。負極活物質は全固体リチウム電池に使用可能であり、かつ、充放電により膨張収縮性を有するものであれば特に限定されない。例えば、Si等のSi系活物質やグラファイト等の炭素材料等である。負極活物質の粒径は特に限定されないが、例えば0.1μm~100μmの範囲である。負極合材層12における負極活物質の含有量は特に限定されないが、例えば10重量%~99重量%の範囲である。
【0027】
ここで、本明細書において「粒径」とは、レーザ回折・散乱法によって測定された体積基準の粒度分布において、積算値50%での粒子径(D50)を意味する。
【0028】
負極合材層12は任意に固体電解質を備えていてもよい。固体電解質は全固体リチウム電池に適用可能な固体電解質であれば特に限定されない。例えば、酸化物固体電解質や硫化物固体電解質等である。好ましくは硫化物固体電解質である。酸化物固体電解質としては、LiLaZr12、Li7-xLaZr1-xNb12、Li7-3xLaZrAl12、Li3xLa2/3-xTiO、Li1+xAlTi2-x(PO、Li1+xAlGe2-x(PO、LiPO、Li3+xPO4-x(LiPON)等が挙げられる。硫化物固体電解質としては、例えば、LiPS、LiS-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-SiS-P、LiS-P-LiI-LiBr、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P-GeS等が挙げられる。負極合材層12における固体電解質の含有量は特に限定されないが、例えば1重量%~50重量%の範囲である。
【0029】
負極合材層12は任意に導電助剤を備えていてもよい。導電助剤は、全固体リチウム電池に適用可能な導電助剤であれば特に限定されない。例えば、アセチレンブラックやケッチェンブラック、気相法炭素繊維(VGCF)等の炭素材料やニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。負極合材層12における導電助剤の含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%~20重量%の範囲である。
【0030】
負極合材層12は任意にバインダを備えていてもよい。バインダとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)、ブチレンゴム(IIR)、アクリレートブタジエンゴム(ABR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)等が挙げられる。負極合材層12におけるバインダの含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%~20重量%の範囲である。
【0031】
負極合材層12における各成分の含有量は従来と同様とすればよい。負極合材層12の形状は特に限定されないが、容易に積層可能となる観点から、シート状であることが好ましい。負極合材層12の厚みは特に限定されないが、例えば0.1μm以上1mm以下の範囲である。
【0032】
(固体電解質層13)
固体電解質層13は固体電解質を含む。固体電解質の種類は、負極合材層12に用いることができる固体電解質と同様の種類のものを用いることができる。固体電解質層13における固体電解質の含有量は、例えば50重量%~99重量%の範囲である。
【0033】
固体電解質層13は任意にバインダを備えていてもよい。バインダの種類は、負極合材層12に用いることができるバインダと同様の種類のものを用いることができる。固体電解質層13におけるバインダの含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%~10重量%の範囲である。
【0034】
固体電解質層13における各成分の含有量は従来と同様とすればよい。固体電解質層13の形状は特に限定されないが、容易に積層可能となる観点から、シート状であることが好ましい。固体電解質層13の厚みは特に限定されないが、例えば0.1μm以上1mm以下の範囲である。
【0035】
(正極合材層14)
正極合材層14は正極活物質を含む。正極活物質は全固体リチウム電池に使用可能であれば特に限定されない。例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、マンガン酸リチウム、スピネル系リチウム化合物等のリチウム含有複合酸化物が挙げられる。正極活物質の粒径は特に限定されないが、例えば5μm~100μmの範囲である。正極合材層12における正極活物質の含有量は、例えば50重量%~99重量%の範囲である。また、正極活物質の表面はニオブ酸リチウム層やチタン酸リチウム層、リン酸リチウム等の酸化物層で被覆されていてもよい。
【0036】
正極合材層14は任意に固体電解質を備えていてもよい。固体電解質の種類は、負極合材層12に用いることができる固体電解質と同様の種類のものを用いることができる。正極合材層14における固体電解質の含有量は、例えば1重量%~50重量%の範囲である。
【0037】
正極合材層14は任意に導電助剤を備えていてもよい。導電助剤の種類は、負極合材層12に用いることができる導電助剤と同様の種類のものを用いることができる。正極合材層14における導電助剤の含有量は、例えば0.1重量%~10重量%の範囲である。
【0038】
正極合材層14は任意にバインダを備えていてもよい。バインダの種類は、負極合材層12に用いることができるバインダと同様の種類のものを用いることができる。正極合材層14におけるバインダの含有量は、例えば0.1重量%~10重量%の範囲である。
【0039】
正極合材層14における各成分の含有量は従来と同様とすればよい。正極合材層14の形状は特に限定されないが、容易に積層可能となる観点から、シート状であることが好ましい。正極合材層14の厚みは特に限定されないが、例えば0.1μm以上1mm以下の範囲である。
【0040】
(Li吸蔵固体16)
Li吸蔵固体16は、固体電解質層13の外周端面の少なくとも一部に配置されている。このようなLi吸蔵固体16を固体電解質層13の外周端面に配置することにより、外周端面において、負極合材層12から正極合材層14に這い上がる金属LiとLi吸蔵固体16とが反応し、金属LiをLi吸蔵固体16の内部に吸蔵することができる。従って、全固体リチウム電池10は外周端面から這い上がる金属Liによる短絡を抑制することができる。
【0041】
Li吸蔵固体16は固体電解質層13において安定的に存在することができ、かつ、金属Liと反応性を有するものであれば特に限定されない。例えば、アルミニウムやインジウムである。Li吸蔵固体16の厚み(外周端面における積層方向の長さ)は特に限定されないが、例えば10μm以上100μm以下である。
【0042】
Li吸蔵固体16は外周端面の少なくとも一部に配置されていれば、上記の効果を奏するものであるが、金属Liの析出しやすい部分に配置されていることが好ましい。
【0043】
具体的には、固体電解質層13の外周端面の負極合材層12側に配置されていることが好ましい。負極合材層12上に金属Liが析出しやすいためである。「負極合材層12側」とは、固体電解質層13の外周端面の積層方向において、負極合材層12から正極合材層14までの長さを100%とした場合に、負極合材層12から50%未満の範囲を意味する。好ましくは30%以下の範囲であり、より好ましくは20%以下の範囲であり、さらに好ましくは10%以下の範囲であり、特に好ましくは負極合材層12と固体電解質層13との間を含む部分である。
【0044】
また、Li吸蔵固体16は何れかの集電体タブ(負極集電体タブ11a及び/又は正極集電体タブ15a)が突出して配置されている外周端面に配置されることが好ましい。集電体タブの周辺は電流が集中するため、金属Liが析出しやすいためである。このうち、負極集電体タブ11aが突出して配置されている外周端面に配置されることがより好ましい。
【0045】
より好ましくは、負極集電体タブ11a及び正極集電体タブ15aは同一の外周端面から突出して配置されており、Li吸蔵固体16は、固体電解質層13の外周端面のうち、負極集電体タブ11a及び正極集電体タブ15aが配置されている外周端面に配置されることである。
【0046】
「外周端面に配置される」とは、Li吸蔵固体16がその外周端面の少なくとも一部に配置されていることを意味するが、好ましくはその外周端面の幅方向(外周端面における積層方向に直交する方向)に亘って配置されることである。また、Li吸蔵固体16をその外周端面の幅方向に亘って配置する場合、その外周端面に隣接する何れか又は両方の外周端面の幅方向の一部(例えば、幅方向の長さの50%以内の範囲)又は全部に亘って配置されていてもよい。
【0047】
さらに好ましくは、Li吸蔵固体16は、固体電解質層13の外周端面の周方向に亘って(外周全体に)配置されることである(図3)。ここで、さらに好ましい形態においては、集電体タブの配置位置は特に限定されない。
【0048】
なお、実際にLi吸蔵固体16を固体電解質層13に配置する場合、上記の事項の他に、Li吸蔵固体16がLiを吸蔵した際の体積膨張率も考慮して、厚みや外周端面の配置位置を決定する必要がある。
【0049】
(全固体リチウム電池10の製造方法)
次に、全固体リチウム電池10の製造方法について説明する。図4に全固体リチウム電池10の製造方法を説明するための図を示した。
【0050】
まず、事前の準備として、負極合材層12、正極合材層14、及び固体電解質層13を構成する2つの層状固体電解質13aを作製する(第1工程)。層状固体電解質13aとは、固体電解質層13と同様の構成を有するものであり、後述のようにこれらを合わせて固体電解質層13を作製することができる。
【0051】
これらの層の作製方法は公知の方法を採用することができる。例えば、正極合材層14を作製する場合、正極合材層14を構成する材料を混合し、所定の圧力でプレスすることにより正極合材層14を作製することができる。また、正極合材層14を構成する材料を所定の溶媒と混合してスラリーとし、次に基材又は正極集電体15に塗布、乾燥することにより正極合材層14を作製することができる。負極合材層12、層状固体電解質の作製方法も同様である。
【0052】
次に、図4(a)に示したように、線状のLi吸蔵固体16を2つの層状固体電解質13aの縁部の間に配置し、これらの層状固体電解質13aでLi吸蔵固体16を挟んで加圧することにより、外周端面にLi吸蔵16が配置された固体電解質層13を得ることができる(第2工程)。第2工程における加圧条件は適宜設定することができる。例えば、100kNで3分間の圧縮などである。
【0053】
第2工程後、図4(b)に示したように、固体電解質層13の一方の表面に負極合材層12を配置し、他方の表面に正極合材層14を配置して、加圧する(第3工程)。これにより、図4(c)に示したように、全固体リチウム電池10を作製することができる。
【0054】
ここで、第3工程において、加圧の際に負極合材層12には負極集電体11が配置されていてもよく、正極合材層14には正極集電体15が配置されていてもよい。各集電体が配置されていない場合は、次工程において、負極合材層12に負極集電体11を配置し、正極合材層14に正極集電体15を配置する工程(第4工程)を設けてもよい。第3工程における加圧条件は、従来と同様でよい。
【0055】
また、Li吸蔵固体16を負極合材層12と固体電解質層13との間を含む部分に配置する場合、Li吸蔵固体16を負極合材層12と固体電解質層13との間に配置して、これらの層で挟み加圧すればよい。
【実施例
【0056】
以下、実施例を用いて本開示の全固体リチウム電池についてさらに説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であってここで開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本開示は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。以下の実施形態は、ここで開示される技術を限定することを意図したものではない。また、本明細書にて示す図面では、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0057】
[評価用電池の作製]
次の説明の通り、実施例1~5、及び比較例1の評価用電池を作製した。また、図5に評価用電池におけるLi金属固体の積層方向の配置位置を説明するための断面図を、図6に評価用電池の形状を説明するための平面図を示した。
【0058】
<実施例1>
(正極合材層の作製)
正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO)と、硫化物系固体電解質としてLiS-P(質量比;LiS:P=70:30)とを、重量比率が正極活物質:硫化物系固体電解質=75:25となるように秤量した。そして、正極活物質100重量部に対してPVdF系バインダを4重量部、導電材(アセチレンブラック)を6重量部秤量した。これらを酪酸ブチルに固形分70重量%となるように調合し、攪拌機で混練することにより、正極合材層形成用の組成物(正極スラリー)を得た。上記正極スラリーをAl箔(正極集電体)の片面に塗工し、乾燥させることで、正極合材層を形成した。
【0059】
(負極合材層の作製)
負極活物質としてカーボンと、硫化物系固体電解質としてLiS-P(質量比;LiS:P=70:30)とを、重量比率が正極活物質:硫化物系固体電解質=55:45となるように秤量した。そして、正極活物質100重量部に対してPVdF系バインダを6重量部、導電材(アセチレンブラック)を6重量部秤量した。これらを酪酸ブチルに固形分70重量%となるように調合し、攪拌機で混練することにより、負極合材層形成用の組成物(負極スラリー)を得た。上記負極スラリーをCu箔(負極集電体)の片面に塗工し、乾燥させることで、負極合材層を形成した。
【0060】
(層状固体電解質の作製)
上記正極・負極スラリーに使用したものと同様の硫化物系固体電解質98重量部と、SBR(スチレンブタジエンゴム)系バインダ2重量部とを秤量した。これらを、ヘプタン溶媒中に固形分70重量%となるように調合し、超音波分散装置を用いて2分間超音波分散処理することにより、固体電解質層形成用の組成物(固体電解質スラリー)を得た。上記固体電解質スラリーをAl箔の片面に塗工し、乾燥させることで、層状固体電解質層を形成した。
【0061】
(評価用電池の作製)
厚みがそれぞれ50μmである2枚の層状固体電解質と、Li吸蔵固体(Al線、厚み25μm)とを用いて、固体電解質層を作製した。具体的には、層状固体電解質の縁部の周方向に亘って配置されるようにLi吸蔵固体を2枚の層状固体電解質の間に配置し、これらの層状固体電解質でLi吸蔵固体を挟んで加圧し、外周端面にLi吸蔵が配置された固体電解質層(厚み100μm)を作製した。加圧条件は、100kNで3分間の圧縮であった。
【0062】
次に、得られた固体電解質層の一方の表面に負極集電体(Cu箔)を積層した負極合材層を配置し、他方の表面に正極集電体(Al箔)を積層した正極合材層を配置して、拘束した。この際、負極集電体タブ及び正極集電体タブが同一の外周端面から突出して配置されるように電池を作製した。また、拘束条件は5MPaであった。以上により、実施例1の評価用電池を作製した。
【0063】
ここで、作製された実施例1の評価用電池は、図5(a)のような断面を有しており、図6(1)のような形状を有している。
【0064】
<実施例2>
実施例2の評価用電池は、厚み100μmの層状固体電解質を固体電解質層とし、固体電解質層の負極合材層側の外周端面にLi吸蔵固体を配置したこと以外は、実施例1の評価用電池と同様の方法により作製された。このように作製された実施例2の評価用電池は、図5(b)のような断面を有している。また、実施例2の評価用電池は実施例1と同様に、図6(1)のような形状を有している。
【0065】
<実施例3>
実施例3の評価用電池は、Li吸蔵固体が負極集電体タブ及び正極集電体タブが突出して配置されている外周端面に配置されたこと以外は、実施例1の評価用電池と同様の方法により作製された。具体的には、固体電解質層を作製する際に、Li吸蔵固体が負極集電体タブ及び正極集電体タブが突出して配置されている外周端面の幅方向に亘って配置され、かつ、その外周端面に隣接する2つの外周端面の幅方向の長さの約50%の範囲に亘って配置されるように、Li吸蔵固体を2枚の層状固体電解質の間に配置した。このように作製された実施例3の評価用電池は、図5(a)のような断面を有しており、また、図6(2)のような形状を有している。
【0066】
<実施例4>
実施例4の評価用電池は、負極集電体タブ及び正極集電体タブがそれぞれ反対の外周端面に突出するように配置されたこと以外は、実施例1の評価用電池と同様の方法により作製された。このように作製された実施例4の評価用電池は、図5(a)のような断面を有しており、また、図6(3)のような形状を有している。
【0067】
<実施例5>
実施例5の評価用電池は、負極集電体タブ及び正極集電体タブがそれぞれ反対の外周端面に突出するように配置されたこと以外は、実施例3の評価用電池と同様の方法により作製された。ここで、Li吸蔵固体が配置されている外周端面は、正極集電体タブが突出して配置されている外周端面である。このように作製された実施例5の評価用電池は、図5(a)のような断面を有しており、また、図6(4)のような形状を有している。
【0068】
<比較例1>
比較例1の評価用電池は、Li吸蔵固体が配置されずに固体電解質層が作製されたこと以外は、実施例1の評価用電池と同様の方法により作製された。このように作製された比較例1の評価用電池は、図6(ref)のような形状を有している。
【0069】
[評価]
作製した実施例1~5及び比較例1の評価用電池を用いて、サイクル試験後の電圧低下量を測定した。ここで、サイクル試験の試験温度は25℃であった。以下、サイクル試験について説明する。
【0070】
まず、評価用電池に対して、初期コンディショニングを行った。初期コンディショニングにおいて、充電条件は4.2V-CCCV充電、電流レート1C、0.1C電流カットとし、放電条件はCC3.0Vカット、電流レート1Cとした。次に、5Cで3.0~4.5V間の充放電を5サイクル実施した。そして、電池電圧を4.0Vに調整し、24時間後の電圧低下量を測定した。電圧低下量が2mV以下である場合を「◎」、2mV超5mV以下である場合を「○」、5mV超15mV以下である場合を「△」、それ以外を「×」とした。表1に結果を示した。
【0071】
【表1】
【0072】
表1の通り、実施例1~5は比較例1に比べて、電圧低下量が小さい。電圧低下量は金属Liによる短絡の程度を表しているので、実施例1~5は比較例1に比べて、短絡が抑制できているといえる。
【0073】
実施例1、2は、Li吸蔵固体の積層方向位置による効果の違いを検討したものである。結果を比較すると、実施例2は電圧低下量が著しく小さくなっていた。これは、実施例2のようにLi吸蔵固体を外周端面の負極合材層側に配置することにより、外周端面における金属Liの這い上がりを初期段階で抑制できたためと考えられる。
【0074】
実施例1、3~5は、Li吸蔵固体の外周端面の幅方向(周方向)の配置位置及び、集電体タブの配置位置の違いを検討したものである。結果を比較すると、Li吸蔵固体を固体電解質層の外周端面の周方向に亘って配置した実施例1、4は電圧低下量が非常に小さいものであった。また、Li吸蔵固体が負極集電体タブ及び正極集電体タブが突出して配置されている外周端面に配置された実施例3も、実施例1、4とほぼ同様の結果であった。一方で、負極集電体タブ及び正極集電体タブがそれぞれ反対の外周端面に突出するように配置され、かつ、正極集電タブが突出して配置されている外周端面にLi吸蔵固体が配置された実施例5は、実施例1、3、4に比べて電圧低下量が大きいものであった。この結果から、集電体タブが配置されている外周端面にLi吸蔵固体を配置することが好ましいことがわかる。集電体タブ周辺は電流が集中しやすく、Liの析出が促進されるためである。実施例5は負極集電体タブが配置されている外周端面にLi吸蔵固体を配置していないため、実施例1、3、4に比べて電圧低下量が大きくなったと考えられる。
【0075】
本開示は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う全固体電池もまた本開示の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0076】
10、20 全固体リチウム電池
11、21 負極集電体
12、22 負極合材層
13、23 固体電解質層
14、24 正極合材層
15、25 正極集電体
16 Li吸蔵固体
図1
図2
図3
図4
図5
図6