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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20231003BHJP
   C30B 15/04 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C30B29/06 502H
C30B15/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022040339
(22)【出願日】2022-03-15
(65)【公開番号】P2023135234
(43)【公開日】2023-09-28
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】吹留 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】八木 大地
(72)【発明者】
【氏名】金原 崇浩
(72)【発明者】
【氏名】深津 宣人
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-060667(JP,A)
【文献】特開平10-167892(JP,A)
【文献】特開2005-015312(JP,A)
【文献】国際公開第2007/013189(WO,A1)
【文献】特開2008-280212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/00 -15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引き上げ炉内で主ドーパントを含むシリコン融液を生成する溶融工程と、
前記引き上げ炉内にArガスを供給しながら、前記シリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる結晶引き上げ工程とを備え、
前記結晶引き上げ工程は、副ドーパントを前記シリコン融液に投下する少なくとも1回の追加ドープ工程を含み、
前記追加ドープ工程は、前記シリコン融液から引き上げられた前記シリコン単結晶を取り囲むように前記シリコン融液の上方に設置された熱遮蔽体の下端と前記シリコン融液の液面との間のギャップを通過するArガスの流速を0.75~1.1m/sに調節し、
前記追加ドープ工程開始前及び前記追加ドープ工程終了後における前記結晶引き上げ工程中の前記Arガスの流速は、前記追加ドープ工程中の前記Arガスの流速よりも低い値に設定されることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記結晶引き上げ工程は、前記ギャップの幅を50~90mmに制御する、請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記追加ドープ工程は、前記引き上げ炉内に供給するArガスの流量及び前記引き上げ炉の炉内圧の少なくとも一方を制御することにより、前記Arガスの流速を調節する、請求項1又は2記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記追加ドープ工程は、前記引き上げ炉の炉内圧を10~30Torrに制御する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記結晶引き上げ工程は、前記追加ドープ工程終了後における前記Arガスの流速を前記追加ドープ工程開始前における前記Arガスの流速に戻す、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記追加ドープ工程開始前及び前記追加ドープ工程終了後における前記結晶引き上げ工程中の前記Arガスの流速は、0.3~0.5m/sに設定される、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の製造方法に関し、特に、結晶引き上げ工程の途中でドーパントを追加供給する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの基板材料となるシリコン単結晶の多くはCZ法により製造されている。CZ法は、石英ルツボ内に収容されたシリコン融液に種結晶を浸漬し、種結晶及び石英ルツボを回転させながら種結晶を徐々に引き上げることにより、種結晶の下方に大きな直径の単結晶を成長させる。CZ法によれば、高品質のシリコン単結晶を高い歩留まりで製造することが可能である。
【0003】
シリコン単結晶の育成では、単結晶の電気抵抗率(以下、単に抵抗率と称す)を調整するために各種のドープ剤(ドーパント)が使用される。代表的なドーパントは、ボロン(B)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)などである。通常、これらのドーパントは、多結晶シリコン原料と共に石英ルツボ内に投入され、ヒータによる加熱で多結晶シリコンと共に融解される。これにより、所定量のドーパントを含んだシリコン融液が生成される。
【0004】
しかし、シリコン単結晶中のドーパント濃度は偏析によって引き上げ軸方向に変化するため、引き上げ軸方向に均一な抵抗率を得ることが難しい。この問題を解決するには、シリコン単結晶の引き上げ途中でドーパントを供給する方法が有効である。例えば、n型シリコン単結晶の引き上げ途中でシリコン融液にp型ドーパントを加えることにより、n型ドーパントの偏析の影響によるシリコン単結晶の抵抗率の低下を抑制することができる。引き上げ途中にドーパントを投入する工程を追加ドープ工程と呼び、このような主ドーパントと逆の導電型の副ドーパントを追加供給する方法は、特にカウンタードープと呼ばれている。
【0005】
カウンタードープ技術に関し、例えば特許文献1には、初期に投入した型(例えばn型)と反対の型(例えばp型)のドーパントの投入速度が所定の関係式を満たすようにドーパントを添加することが記載されている。また特許文献2には、副ドーパントを含む棒状シリコン結晶を原料融液へ挿入することで、育成されるシリコン単結晶の軸方向の抵抗率を制御する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-247585号公報
【文献】特開2016-216306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、石英ルツボ内のシリコン融液に粒状のドーパントを投下するカウンタードープでは、固体のドーパントが融液に溶けきる前にシリコン融液と単結晶との固液界面を通じて単結晶に取り込まれ、シリコン単結晶が有転位化するという問題がある。このような問題は、主ドーパントと逆の導電型の副ドーパントを投入する場合に限らず、主ドーパントと同じ導電型の副ドーパントを追加供給する場合にも起こり得ることである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、結晶引き上げ途中で固体の副ドーパントを投下する追加ドープ工程において単結晶の有転位化を防止することが可能なシリコン単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明によるシリコン単結晶の製造方法は、引き上げ炉内で主ドーパントを含むシリコン融液を生成する溶融工程と、前記引き上げ炉内にArガスを供給しながら、前記シリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる結晶引き上げ工程とを備え、前記結晶引き上げ工程は、副ドーパントを前記シリコン融液に投下する少なくとも1回の追加ドープ工程を含み、前記追加ドープ工程は、前記シリコン融液から引き上げられた前記シリコン単結晶を取り囲むように前記シリコン融液の上方に設置された熱遮蔽体の下端と前記シリコン融液の液面との間のギャップを通過するArガスの流速を0.75~1.1m/sに調節することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、シリコン融液に投下した副ドーパントが未溶融の状態で固液界面に到達してシリコン単結晶中に取り込まれることによるシリコン単結晶の有転位化を防止することができる。
【0011】
本発明において、前記結晶引き上げ工程は、前記ギャップの幅を50~90mmに制御することが好ましい。このように、熱遮蔽体と融液面との間のギャップが比較的広い場合には、シリコン融液に投下した副ドーパントがシリコン単結晶中に取り込まれやすく、シリコン単結晶の有転位化が発生しやすい。しかし本発明においては、ギャップを通過して融液面近傍を流れるArガスの流速を0.75~1.1m/sに調節するので、シリコン単結晶の有転位化を防止することができる。
【0012】
本発明において、前記追加ドープ工程は、前記引き上げ炉内に供給するArガスの流量及び前記引き上げ炉の炉内圧の少なくとも一方を制御することにより、前記Arガスの流速を調節することが好ましい。このような制御により、シリコン融液の表面近傍を流れるArガスの流速を0.75~1.1m/sに調節することができる。
【0013】
本発明において、前記追加ドープ工程は、前記引き上げ炉の炉内圧を10~30Torrに制御することが好ましい。炉内圧が30Torrよりも高くなると、シリコン融液の表面近傍のArガスの流速が低下し、シリコン単結晶の有転位化が発生しやすい。しかし、本発明によれば、炉内圧を10~30Torrに制御するので、シリコン融液の表面近傍のArガスの流速の低下を防止することができる。したがって、シリコン融液に投下したドーパントが未溶融の状態で固液界面に取り込まれる確率を低減することができる。
【0014】
本発明において、前記結晶引き上げ工程は、前記追加ドープ工程終了後における前記Arガスの流速を前記追加ドープ工程開始前における前記Arガスの流速を戻すことが好ましい。これにより、結晶引き上げに適したArガス供給条件下で結晶引き上げを継続することができ、追加ドープ時の単結晶の有転位化を防止しながら所望の結晶品質を維持することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、結晶引き上げ途中で固体の副ドーパントを投下する追加ドープ工程において単結晶の有転位化を防止することが可能なシリコン単結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施の形態による単結晶製造装置の構成を示す略断面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態によるシリコン単結晶の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図3図3は、カウンタードープ工程(追加ドープ工程)を含む直胴部育成工程を説明するためのフローチャートである。
図4図4は、Ar流速の算出方法を説明するための図である。
図5図5は、ドーパント投下期間とAr流速との関係の一例を示す図である。
図6図6は、2回のカウンタードープを実施したときのシリコン単結晶中の抵抗率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態による単結晶製造装置の構成を示す略断面図である。
【0019】
図1に示すように、単結晶製造装置1は、シリコン単結晶2の引き上げ炉を構成するチャンバー10と、チャンバー10内に設置された石英ルツボ12と、石英ルツボ12を支持するグラファイト製のサセプタ13と、サセプタ13を昇降及び回転可能に支持するシャフト14と、サセプタ13の周囲に配置されたヒータ15と、石英ルツボ12の上方に配置された熱遮蔽体16と、石英ルツボ12の上方であってシャフト14と同軸上に配置された単結晶引き上げワイヤー17と、チャンバー10の上方に配置されたワイヤー巻き取り機構18と、石英ルツボ12内にドーパント原料5を供給するドーパント供給装置20と、各部を制御する制御部30とを備えている。
【0020】
チャンバー10は、メインチャンバー10aと、メインチャンバー10aの上部開口を覆うトップチャンバー10bと、トップチャンバー10bの上部開口に連結された細長い円筒状のプルチャンバー10cとで構成されており、石英ルツボ12、サセプタ13、ヒータ15及び熱遮蔽体16はメインチャンバー10a内に設けられている。サセプタ13はチャンバー10の底部中央を貫通して鉛直方向に設けられたシャフト14の上端部に固定されており、シャフト14はシャフト駆動機構19によって昇降及び回転駆動される。
【0021】
ヒータ15は、石英ルツボ12内に充填された多結晶シリコン原料を融解してシリコン融液3を生成するために用いられる。ヒータ15はカーボン製の抵抗加熱式ヒータであり、サセプタ13内の石英ルツボ12を取り囲むように設けられている。ヒータ15の外側には断熱材11が設けられている。断熱材11はメインチャンバー10aの内壁面に沿って配置されており、これによりメインチャンバー10a内の保温性が高められている。
【0022】
熱遮蔽体16は、ヒータ15及び石英ルツボ12からの輻射熱によってシリコン単結晶2が加熱されることを防止すると共に、シリコン融液3の温度変動を抑制するために設けられている。熱遮蔽体16は上方から下方に向かって直径が縮小した略円筒状の部材であり、シリコン融液3の上方を覆うと共に、育成中のシリコン単結晶2を取り囲むように設けられている。熱遮蔽体16の材料としてはグラファイトを用いることが好ましい。熱遮蔽体16の中央にはシリコン単結晶2の直径よりも大きな開口部が設けられており、シリコン単結晶2の引き上げ経路が確保されている。図示のように、シリコン単結晶2は開口部を通って上方に引き上げられる。熱遮蔽体16の開口の直径は石英ルツボ12の口径よりも小さく、熱遮蔽体16の下端部は石英ルツボ12の内側に位置するので、石英ルツボ12のリム上端を熱遮蔽体16の下端よりも上方まで上昇させても熱遮蔽体16が石英ルツボ12と干渉することはない。
【0023】
シリコン単結晶2の成長と共に石英ルツボ12内の融液量は減少するが、融液面から熱遮蔽体16の下端までの距離(ギャップ値、あるいはギャップの幅と称す)が一定になるように石英ルツボ12の上昇を制御することにより、シリコン融液3の温度変動を抑制すると共に、融液面近傍(パージガス誘導路)を流れるArガスの流速を一定にしてシリコン融液3からのドーパントの蒸発量を制御することができる。したがって、単結晶の引き上げ軸方向の結晶欠陥分布、酸素濃度分布、抵抗率分布等の安定性を向上させることができる。
【0024】
石英ルツボ12の上方には、シリコン単結晶2の引き上げ軸であるワイヤー17と、ワイヤー17を巻き取るワイヤー巻き取り機構18が設けられている。ワイヤー巻き取り機構18はワイヤー17と共にシリコン単結晶2を回転させる機能を有している。ワイヤー巻き取り機構18はプルチャンバー10cの上方に配置されており、ワイヤー17はワイヤー巻き取り機構18からプルチャンバー10c内を通って下方に延びており、ワイヤー17の先端部はメインチャンバー10aの内部空間まで達している。図1には、育成途中のシリコン単結晶2がワイヤー17に吊設された状態が示されている。単結晶の引き上げ時には種結晶をシリコン融液3に浸漬し、石英ルツボ12と種結晶をそれぞれ回転させながらワイヤー17を徐々に引き上げることにより単結晶を成長させる。
【0025】
プルチャンバー10cの上部にはチャンバー10内にArガス(パージガス)を導入するためのガス吸気口10dが設けられており、メインチャンバー10aの底部にはチャンバー10内のArガスを排気するためのガス排気口10eが設けられている。ここで、Arガスとは、ガスの主成分(50vol.%超)がアルゴンであるものを意味し、水素や窒素といったガスを含んでも構わない。
【0026】
Arガス供給源31はマスフローコントローラ32を介してガス吸気口10dに接続されており、Arガス供給源31からのArガスはガス吸気口10dからチャンバー10内に導入され、その導入量はマスフローコントローラ32により制御される。また密閉されたチャンバー10内のArガスはガス排気口10eからチャンバー10の外部へ排気されるので、チャンバー10内のSiOガスやCOガスを回収してチャンバー10内を清浄に保つことが可能となる。ガス吸気口10dからガス排気口10eに向かうArガスは、熱遮蔽体16の開口を通過し、融液面に沿って引き上げ炉の中心部から外側に向かい、さらに降下してガス排気口10eに到達する。
【0027】
ガス排気口10eには配管を介して真空ポンプ33が接続されており、真空ポンプ33でチャンバー10内のArガスを吸引しながらバルブ34でその流量を制御することでチャンバー10内は一定の減圧状態に保たれている。チャンバー10内の気圧は圧力計によって測定され、ガス排気口10eからのArガスの排気量はチャンバー10内の気圧が一定となるように制御される。
【0028】
ドーパント供給装置20は、チャンバー10の外側からその内部に引き込まれたドーパント供給管21と、チャンバー10の外側に設置され、ドーパント供給管21の上端に接続されたドーパントホッパー22と、ドーパント供給管21が貫通するトップチャンバー10bの開口部10fを密閉するシールキャップ23とを備えている。
【0029】
ドーパント供給管21は、ドーパントホッパー22の設置位置からトップチャンバー10bの開口部10fを通って石英ルツボ12内のシリコン融液3の直上まで到達する配管である。シリコン単結晶2の引き上げ途中において、ドーパント供給装置20から石英ルツボ12内のシリコン融液3にドーパント原料5が追加供給される。ドーパントホッパー22から排出されたドーパント原料5は、ドーパント供給管21を通ってシリコン融液3に供給される。
【0030】
ドーパント供給装置20から供給されるドーパント原料5は、副ドーパントを含む粒状シリコンである。このようなドーパント原料5は、副ドーパントを高濃度に含むシリコン結晶を例えばCZ法により育成した後、細かく破砕して作製される。ただし、カウンタードープに用いるドーパント原料5は副ドーパントを含むシリコンに限定されず、ドーパント単体であってもよく、ドーパント原子を含む化合物であってもよい。またドーパント原料5の形状は粒状に限定されず、板状や棒状であってもよい。
【0031】
図2は、本発明の実施の形態によるシリコン単結晶の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0032】
図2に示すように、シリコン単結晶2の製造では、まず石英ルツボ12内に主ドーパントと共に多結晶シリコン原料を充填する(原料充填工程S11)。n型シリコン単結晶を引き上げる場合の主ドーパントは例えばリン(P)、ヒ素(As)あるいはアンチモン(Sb)であり、p型シリコン単結晶を引き上げる場合の主ドーパントは例えばボロン(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)あるいはインジウム(In)である。次に、石英ルツボ12内の多結晶シリコンをヒータ15で加熱して溶融し、主ドーパントを含むシリコン融液3を生成する(溶融工程S12)。
【0033】
次に、ワイヤー17の先端部に取り付けた種結晶を降下させてシリコン融液3に着液させる(ステップS13)。その後、シリコン融液3との接触状態を維持しながら種結晶を徐々に引き上げて単結晶を成長させる結晶引き上げ工程(ステップS14~S17)を実施する。
【0034】
結晶引き上げ工程では、無転位化のために結晶直径が細く絞られたネック部を形成するネッキング工程S14と、結晶直径が徐々に大きくなったショルダー部を形成するショルダー部育成工程S15と、結晶直径が規定の直径(例えば約300mm)に維持された直胴部を形成する直胴部育成工程S16と、結晶直径が徐々に小さくなったテイル部を形成するテイル部育成工程S17が順に実施され、最終的には単結晶が融液面から切り離される。以上により、シリコン単結晶インゴットが完成する。
【0035】
直胴部育成工程S16は、シリコン単結晶2に含まれる主ドーパントと反対の導電型を有する副ドーパントをシリコン融液3中に投入する少なくとも1回のカウンタードープ工程(追加ドープ工程)を有することが好ましい。これにより、シリコン単結晶2の直胴部の結晶長手方向における抵抗率の変化を抑制することができる。
【0036】
300mmウェーハ用シリコン単結晶のCZ引き上げにおいて、ウェーハ面内の所望の結晶欠陥分布(無欠陥結晶)を実現するためには、熱遮蔽体16の下端とシリコン融液3の液面との間のギャップの幅(ギャップ値)を50~90mmに制御することが好ましい。このようにギャップ値を比較的大きく設定した場合、同じArガス流量でギャップ値が小さい場合と比べて、引き上げ炉の中心軸側から外側に向かう融液面に沿ったArガスの流速が遅くなりやすく、このような条件下で追加ドープを実施した場合にはシリコン単結晶の有転位化の確率が高くなる。しかし、本実施形態のようにカウンタードープ工程中の炉内条件を変更した場合には、シリコン単結晶の有転位化の確率を低くすることができる。
【0037】
図3は、カウンタードープ工程(追加ドープ工程)を含む直胴部育成工程S16を説明するためのフローチャートである。
【0038】
図3に示すように、直胴部育成工程S16の開始時には、融液面に沿って流れるArガスの流速(Ar流速)がシリコン単結晶の育成に適した値に設定される(ステップS21)。直胴部育成工程S16に必要なAr流速F(第1流速)は、例えば、0.3~0.5m/sに設定される。
【0039】
シリコン単結晶中のドーパント濃度は結晶引き上げが進むにつれて上昇するため、所望の抵抗率範囲から外れてしまう。そのため、直胴部育成工程中、カウンタードープが必要なタイミングになると、カウンタードープを開始する(ステップS22Y,S23~S25)。
【0040】
カウンタードープでは、シリコン融液3に副ドーパントを含むドーパント原料5を投下する(ステップS24)。n型シリコン単結晶を引き上げる場合の副ドーパントは例えばボロン(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)あるいはインジウム(In)であり、p型シリコン単結晶を引き上げる場合の副ドーパントは例えばリン(P)、ヒ素(As)あるいはアンチモン(Sb)である。
【0041】
ドーパント投下期間中は、Ar流速がカウンタードープに適した値にそれぞれ変更される。ドーパント投下期間(第2期間)中のAr流速F(第2流速)は、結晶引き上げ期間(第1期間)中のAr流速F(第1流速)よりも大きい値(F>F)に設定される。なお、ドーパント投下期間とは、狭義にはドーパント原料5を実際に投下している期間であるが、広義にはシリコン融液中に投下したドーパントが溶け切って有転位化の問題が生じなくなるまでに必要な期間のことを言う。
【0042】
ドーパント投下期間中のAr流速Fは、0.75~1.1m/sであることが好ましい。Ar流速が0.75m/sよりも小さいと投下したドーパントが融液対流に乗ってシリコン単結晶の方へ流れ、単結晶の有転位化の原因となるからである。一方、Ar流速が1.1m/sよりも大きいと乱気流の発生等によりドーパントの落下位置が安定せず、シリコン単結晶付近に落下して、単結晶の有転位化の原因となる。Ar流速Fが0.75m/s以上1.1m/s以下であれば、未溶融の副ドーパントが単結晶に取り込まれることによるシリコン単結晶の有転位化を防止することができる。
【0043】
Ar流速の制御は、引き上げ炉内に供給するArガスの流量及び引き上げ炉の炉内圧の少なくとも一方を調整することによって行うことができる。Arガスの流量が増加すればAr流速は増加し、Ar流量が減少すればAr流速も減少する。炉内圧が増加すればAr流速は減少し、炉内圧が減少すればAr流速は増加する。Ar流速はギャップ値を変えることによっても変化するので、ギャップ値をAr流速の操作因子とすることも可能である。ギャップ値が大きくなればAr流速は減少し、ギャップ値が小さくなればAr流速は増加する。
【0044】
図4は、Ar流速の算出方法を説明するための図である。
【0045】
融液面近傍を流れるArガスの流速は、熱遮蔽体16の下端とシリコン融液3の液面との間のギャップを通過するArガスの平均流速として計算により求めることができる。Ar流速をVAr(m/s)、引き上げ炉内のAr流量をQAr(mm/s)、熱遮蔽体と融液面との間のギャップにおける断面積をS(mm)とするとき、VArを求める計算式は以下のようになる。
Ar=QAr×10-3/S
【0046】
ここで、引き上げ炉内のAr流量QArは、引き上げ炉に流入する前のAr流量QAr'(mm/s)と炉内圧P(Torr)から以下のように求められる。
Ar=QAr'×760/P
【0047】
また、熱遮蔽体と融液面との間の断面積Sは、熱遮蔽体の開口径d(mm)と熱遮蔽体から融液表面までの距離(ギャップ値)d(mm)から以下のように求められる。
S=d×π×d
【0048】
引き上げ炉に流入する前のAr流量QAr'は、室温且つ大気圧下での換算流量であり、マスフローコントローラ32によって制御される。また。Arガスに他のガスを混合させる場合は、Arガスと他のガスの前記換算流量の合計流量をAr流量QAr'とする。他のガスの例としては窒素ガス、水素ガス等が挙げられる。以上のように、融液面近傍を流れるArガスの流速は、引き上げ炉内のAr流量、炉内圧及び炉内構造物の寸法から計算により求めることができる。
【0049】
図4において熱遮蔽体16の下端面は水平面であるため、熱遮蔽体16の下端部の内周端から外周端までの範囲内どの位置でもギャップ値は同じである。しかし、熱遮蔽体16の下端面が水平面でない場合には、熱遮蔽体16の径方向の位置によってギャップ値が変化するので、Ar流速の算出値も変わってくる。ここで、熱遮蔽体16の下端部の内径位置が最下端となり、下端面が外径方向に向かって上りの傾斜面となる場合、当該内径位置でAr流速を評価すればよく、当該Ar流速が0.75~1.1m/sを満たせば足りる。また熱遮蔽体16の下端面が外径方向に向かって下りの傾斜面となる場合には、熱遮蔽体16の下端部の内径位置からそれよりも外径側の最下端位置までの範囲内のどこか一箇所でのAr流速を評価すればよい。その際、上述のように計算によりAr流速を求めるが、上述の熱遮蔽体の開口径d(mm)を、熱遮蔽体16の中心軸からAr流速を評価する位置までの径方向距離の2倍の値に置き換えて計算すれば良い。いずれにしても、Ar流速を求める位置は、ドーパントが投下される位置よりも熱遮蔽体16の径方向の内側(結晶側)の位置であることが必要である。
【0050】
図3に示すように、カウンタードープが終了すると、カウンタードープ工程前の結晶引き上げ期間(第1期間)中のAr流速Fに戻され、直胴部の育成を継続する(ステップS25,S26)。
【0051】
カウンタードープ工程は求められる結晶長さに応じて繰り返し行われる(ステップS27Y,S22Y,S23~S25)。カウンタードープ終了後も直胴部の育成を継続し、カウンタードープが再び必要なタイミングになると、カウンタードープを開始する。カウンタードープの繰り返し回数は予め決められており、規定回数のカウンタードープが終了するまで繰り返し行われる。カウンタードープ中は毎回、Ar流速をカウンタードープに適した値(F)に変更する。こうして、規定回数のカウンタードープを行いながら所望の長さのシリコン単結晶を引き上げることにより、抵抗率の引き上げ軸方向の変化が小さなシリコン単結晶の歩留まりを高めることができる。
【0052】
図5は、ドーパント投下期間とAr流速との関係の一例を示す図である。
【0053】
図5に示すように、ドーパント投下期間中はAr流速を増加させる。例えば、ドーパントを投下していない引き上げ期間(第1期間)におけるAr流速は0.3~0.5m/sに設定され、ドーパント投下期間(第2期間)中のAr流速は0.75~1.1m/sに設定される。
【0054】
ドーパント投下期間中の炉内圧は10~30Torrであることが好ましい。ドーパント投下期間中の炉内圧が30Torrを超えると、シリコン単結晶の有転位化の確率が高くなるからである。これは、シリコン融液の表面近傍におけるAr流速には流速分布があり、シリコン融液に極めて近い領域おけるAr流速の低下が原因と考えられる。カウンタードープ工程以外の引き上げ期間(第1期間)における炉内圧はドーパント投下期間の炉内圧と同じであってもよく、ドーパント投下期間の炉内圧と異なってもよい。したがって、カウンタードープ工程以外の引き上げ期間(第1期間)における炉内圧を例えば35~45Torrに設定することも可能である。
【0055】
チャンバー10の中心側から外側に向かって流れる融液面に沿ったArガスの流速を高くすることにより、融液面近傍に漂う未溶融のドーパントがシリコン単結晶2とシリコン融液3との固液界面に近づくことを抑制することができる。したがって、ドーパントがシリコン単結晶2とシリコン融液3との固液界面に取り込まれることによる単結晶の有転位化を防止することができる。
【0056】
図6は、2回のカウンタードープを実施したときのシリコン単結晶中の抵抗率の変化を示すグラフであって、横軸は結晶長(直胴部の全長を1としたときの相対値)、縦軸は抵抗率(相対値)をそれぞれ示している。
【0057】
図6に示すように、主ドーパントとしてリンを単独でドープしたシリコン単結晶の場合、シリコン単結晶の抵抗率は引き上げ開始時が最も高く、引き上げが進むにつれて徐々に低下するだけであるため、結晶長が約0.44を超えたところで抵抗率が規格から外れることになる。
【0058】
しかし、1回目のカウンタードープを結晶長が約0.44の位置で実施し、2回目カウンタードープを結晶長が0.63の位置で実施することにより、抵抗率が規格内に収まる単結晶の長さをできるだけ長くすることができる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態によるシリコン単結晶の製造方法は、シリコン単結晶の引き上げ工程中にシリコン単結晶の主ドーパントと逆の導電型の副ドーパントをシリコン融液に投下する工程を含み、副ドーパント投下期間中のAr流速を副ドーパント非投下期間中よりも大きくしているので、単結晶の有転位化を防止することができる。
【0060】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0061】
例えば、上記実施形態においては、シリコン単結晶の引き上げ工程中にシリコン単結晶の主ドーパントと逆の導電型の副ドーパントを追加するカウンタードープについて説明したが、本発明はカウンタードープに限定されず、主ドーパントと同じ導電型の副ドーパントを追加する追加ドープ工程に適用することもできる。また上記実施形態においては、シリコン単結晶を引き上げる際にシリコン融液に磁場を印加しないCZ引き上げを例に挙げたが、本発明はシリコン融液に磁場を印加しながらシリコン単結晶を引き上げる、いわゆるMCZ法に適用することも可能である。
【0062】
また上記実施形態においては、副ドーパント投下前のAr流速Fよりも副ドーパント投下期間中のAr流速Fを高くして0.75~1.1m/sとするものである。しかし、本発明はドーパント投下前のAr流速Fを変化させてドーパント投下期間中のAr流速Fを0.75~1.1m/sの範囲内にすればよく、ドーパント投下前のAr流速Fよりもドーパント投下期間中のAr流速Fを低くしてもよい。
【実施例
【0063】
Φ300mmウェーハ用シリコン単結晶のCZ引き上げ工程において、カウンタードープ時のAr流速がシリコン単結晶の引き上げ結果に与える影響を評価した。評価試験では、リン(P)を主ドーパントとするn型シリコン単結晶の直胴部育成工程の途中で2回のカウンタードープを行った。カウンタードープ工程以外のシリコン単結晶の引き上げ工程中ではAr流速を0.3~0.5m/sに維持した。またカウンタードープ工程のカウンタードープ時には表1のようにAr流速をカウンタードープ工程前のAr流速と異なる値(又は同じ値)に変化させ、このAr流速を変更した状態を15分間維持した後、変更前のAr流速に戻した(図5参照)。Ar流速の変更(増加及び減少)には20分を要した。副ドーパントの投下は、Ar流速を変化させ一定に維持した15分間の期間中に行った。
【0064】
また評価試験では、同じAr流速に対して異なるギャップ値を適用した場合についても評価した。ギャップ値は、40mm、50mm、60mm、70mm、80mm、90mm、100mmの7通りとした。Ar流速の評価試験の結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1から明らかなように、Ar流速が0.20m/s~0.70m/sのときには、カウンタードープ時の副ドーパントの影響によりシリコン単結晶の有転位化が発生した。Ar流速が比較的高い1.15m/s~4.0m/sのときにも、カウンタードープ時の副ドーパントの影響によりシリコン単結晶の有転位化が発生した。しかし、Ar流速が0.75m/s~1.10m/sのときには、シリコン単結晶の有転位化は発生しなかった。以上は、ギャップ値を40~100mmの範囲内で変化させた場合についても同様となった。
【0067】
次に、こうして得られたシリコン単結晶についてCOP(Crystal Originated Particle)やOSF(Oxidation-induced Stacking Fault)などの赤外線散乱帯欠陥や、LD(interstitial-type Large Dislocation)などの転位クラスタといった欠陥の有無を調査した。その結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
表2から明らかなように、ギャップ値を50~90mmに制御しながら引き上げたシリコン単結晶では、無欠陥結晶であったが、ギャップ値を40mm及び100mmに制御しながら引き上げたシリコン単結晶では、欠陥が検出され無欠陥結晶ではなかった。
【符号の説明】
【0070】
1 単結晶製造装置
2 シリコン単結晶
3 シリコン融液
5 ドーパント(副ドーパント)
10 チャンバー
10a メインチャンバー
10b トップチャンバー
10c プルチャンバー
10d ガス吸気口
10e ガス排気口
10f 開口部
11 断熱材
12 石英ルツボ
13 サセプタ
14 シャフト
15 ヒータ
16 熱遮蔽体
17 ワイヤー
18 ワイヤー巻き取り機構
19 シャフト駆動機構
20 ドーパント供給装置
21 ドーパント供給管
22 ドーパントホッパー
23 シールキャップ
30 制御部
31 Arガス供給源
32 マスフローコントローラ
33 真空ポンプ
34 バルブ
S11 原料充填工程
S12 溶融工程
S13 着液工程
S14 ネッキング工程
S15 ショルダー部育成工程
S16 直胴部育成工程
S17 テイル部育成工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6