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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】インバータの制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 9/18 20060101AFI20231003BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20231003BHJP
   B60T 7/12 20060101ALN20231003BHJP
【FI】
B60L9/18 J
H02M7/48 E
B60T7/12 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022048775
(22)【出願日】2022-03-24
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 勇太
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-130614(JP,A)
【文献】特開2010-130775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 9/18
H02M 7/48
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行用モータの駆動を制御するインバータの制御装置において、
前記走行用モータの駆動による前記車両の発進時に、前記インバータのキャリア周波数を可聴領域の範囲内の低周波数に設定する制御処理を実行し、前記発進時以外のときに、前記キャリア周波数を前記低周波数よりも高い高周波数に設定する制御処理を実行し、
前記インバータには、前記走行用モータへ送電しても前記走行用モータの回転軸が回転しない状態の継続時間が前記キャリア周波数に基づいて設定されており、前記継続時間は、前記キャリア周波数に対して負の相関関係があり、前記低周波数は、前記継続時間が、前記走行用モータへの送電を開始してから前記走行用モータの回転軸が回転するまでの期間以上の長さになる周波数であることを特徴とするインバータの制御装置。
【請求項2】
車両の走行用モータの駆動を制御するインバータの制御装置において、
前記走行用モータの駆動による前記車両の発進時に、前記インバータのキャリア周波数を可聴領域の範囲内の低周波数に設定する制御処理を実行し、前記発進時以外のときに、前記キャリア周波数を前記低周波数よりも高い高周波数に設定する制御処理を実行し、
前記発進時に、前記車両の慣性質量に基づいて、前記低周波数に設定する制御処理の実行の開始を判定するデータ処理を実行することを特徴とするインバータの制御装置。
【請求項3】
前記インバータには、前記走行用モータへ送電しても前記走行用モータの回転軸が回転しない状態の継続時間が前記キャリア周波数に基づいて設定されており、前記継続時間は、前記キャリア周波数に対して負の相関関係があり、前記低周波数は、前記継続時間が、前記走行用モータへの送電を開始してから前記走行用モータの回転軸が回転するまでの期間以上の長さになる周波数である請求項に記載のインバータの制御装置。
【請求項4】
前記低周波数に設定する制御処理の実行の開始の判定指標として、前記車両の停車時の路面勾配を用いる請求項2または3に記載のインバータの制御装置。
【請求項5】
前記低周波数に設定する制御処理の実行の開始の判定指標として、前記車両の重量を用いる請求項2~4のいずれか1項に記載のインバータの制御装置。
【請求項6】
前記低周波数に設定する制御処理として、前記判定指標に基づいて前記キャリア周波数を段階的に可変する請求項4または5に記載のインバータの制御装置。
【請求項7】
車両の走行用モータの駆動を制御するインバータの制御装置において、
前記走行用モータの駆動による前記車両の発進時に、前記インバータのキャリア周波数を可聴領域の範囲内の低周波数に設定する制御処理を実行し、前記発進時以外のときに、前記キャリア周波数を前記低周波数よりも高い高周波数に設定する制御処理を実行し、
アクセルペダルが踏み込まれてから所定の保持期間が経過するまでの間で前記車両への制動力を保持する制動力保持装置が作動している場合に、前記制動力保持装置により前記保持期間が経過するよりも前に前記制動力の保持を解除させる制御処理の合図として、前記走行用モータが前記車両の慣性質量に応じたトルクを出力したことを前記制動力保持装置に通知することを特徴とするインバータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータの制御装置に関し、より詳細には、車両の走行用モータの駆動を制御するインバータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アクセルペダルの踏み込み量に応じたモータ回転指令周波数(キャリア周波数)を道路勾配が大きくなるに従って低周波数方向へ補正する装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-177609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、インバータのキャリア周波数を可聴領域(例えば、20Hz~20kHz)の範囲内に設定することで、インバータにより駆動が制御される走行用モータから磁気騒音が発せられることが知られている。そこで、車両の快適性を向上する(NVH(騒音・振動・ハーシュネス)を低く抑える)ことを目的として、インバータのキャリア周波数は、可聴領域の上限に近い高周波数に設定されていることが多い。
【0005】
特許文献1に記載の発明は、インバータのキャリア周波数を高い周波数に設定しても、道路勾配に応じてキャリア周波数が低くなり、車両の走行中に走行用モータから磁気騒音が発せられるおそれがある。このように、車両の走行中に突如として異音が発生することは、車両での快適性が低く、車両の搭乗者に不快感を与えかねない。それ故、車両の走行中では、常時、キャリア周波数を高い高周波数に設定することが望ましい。
【0006】
しかしながら、インバータのキャリア周波数が高くなると、スイッチングロスが増加し、発熱量が増加する。それ故、その発熱量の増加による損傷を回避するために、インバータには、短時間最大トルクを出力可能な状態の走行用モータの回転軸が回転しない状態(以下、ロック状態)の継続時間が、キャリア周波数が高くなるほど短く設定されている。その結果、走行用モータの駆動による車両の発進時に、設定されているロック状態の継続時間を超過しないように走行用モータの出力トルクを抑える必要があり、車両の発進性能が低くなるという弊害が生じている。以上のように、車両での快適性の向上と車両の発進性能の向上とを両立するには、改善の余地がある。
【0007】
本開示の目的は、車両での快適性の向上と車両の発進性能の向上とを両立するインバータの制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明の一態様のインバータの制御装置は、車両の走行用モータの駆動を制御するインバータの制御装置において、前記走行用モータの駆動による前記車両の発進時に、前記インバータのキャリア周波数を可聴領域の範囲内の低周波数に設定する制御処理を実行し、前記発進時以外のときに、前記キャリア周波数を前記低周波数よりも高い高周波数に設定する制御処理を実行し、前記インバータには、前記走行用モータへ送電しても前記走行用モータの回転軸が回転しない状態の継続時間が前記キャリア周波数に基づいて設定されており、前記継続時間は、前記キャリア周波数に対して負の相関関係があり、前記低周波数は、前記継続時間が、前記走行用モータへの送電を開始してから前記走行用モータの回転軸が回転するまでの期間以上の長さになる周波数であることを特徴とする。
上記の目的を達成する本発明の一態様のインバータの制御装置は、車両の走行用モータの駆動を制御するインバータの制御装置において、前記走行用モータの駆動による前記車両の発進時に、前記インバータのキャリア周波数を可聴領域の範囲内の低周波数に設定する制御処理を実行し、前記発進時以外のときに、前記キャリア周波数を前記低周波数よりも高い高周波数に設定する制御処理を実行し、前記発進時に、前記車両の慣性質量に基づいて、前記低周波数に設定する制御処理の実行の開始を判定するデータ処理を実行することを特徴とする。
上記の目的を達成する本発明の一態様のインバータの制御装置は、車両の走行用モータの駆動を制御するインバータの制御装置において、前記走行用モータの駆動による前記車両の発進時に、前記インバータのキャリア周波数を可聴領域の範囲内の低周波数に設定する制御処理を実行し、前記発進時以外のときに、前記キャリア周波数を前記低周波数よりも高い高周波数に設定する制御処理を実行し、アクセルペダルが踏み込まれてから所定の保持期間が経過するまでの間で前記車両への制動力を保持する制動力保持装置が作動している場合に、前記制動力保持装置により前記保持期間が経過するよりも前に前記制動力の保持を解除させる制御処理の合図として、前記走行用モータが前記車両の慣性質量に応じたトルクを出力したことを前記制動力保持装置に通知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、磁気騒音が気になる車両の走行中ではキャリア周波数を高周波数に設定し、走行中に比して時間が短く磁気騒音が気にならない車両の発進時ではキャリア周波数を低周波数に設定する。それ故、車両の走行中での車両の快適性を向上し、車両の発進時では、キャリア周波数の低下によりロック状態の継続時間が延びることで、車両の発進性能を向上することが可能となる。このように、キャリア周波数の高低を車両の走行状況によって使い分けることで、車両での快適性の向上と車両の発進性能の向上とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】インバータの制御装置の実施形態を例示する説明図である。
図2図1のインバータのキャリア周波数とロック状態の継続時間との関係を示すグラフ図である。
図3図1の走行用モータの出力トルクとロック状態の継続時間との関係を示すグラフ図である。
図4】周知技術の車両の発進時の時間経過に伴う、制動力の作用と車両の速度と走行用モータの出力トルクとの変動を例示する説明図である。
図5】周知技術の車両の発進時の時間経過に伴う、制動力の作用と車両の速度と走行用モータの出力トルクとの変動を例示する説明図である。
図6図1の制御装置を搭載した車両の発進時の時間経過に伴う、制動力の作用と車両の速度と走行用モータの出力トルクとの変動を例示する説明図である。
図7】車両の発進時のインバータの制御方法を例示するフロー図である。
図8図1の制御装置を搭載した車両の発進時の時間経過に伴う、制動力の作用と車両の速度と走行用モータの出力トルクとの変動を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、インバータの制御装置を、図に示す実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1に例示する走行用モータ1は、図示しない公知の種々の車両に搭載されていて、その駆動がインバータ2により制御されている。走行用モータ1は、公知の種々の電動モータを用いることができ、車両の動力源となっている。なお、車両の動力源としては、走行用モータ1に加えてエンジンを用いることもできる。
【0013】
インバータ2は、公知のパルス幅変調(PWM)方式のインバータを用いることができる。インバータ2は、整流回路3、平滑回路4、および、逆変換回路5から成る主回路と、制御部6とで構成されている。インバータ2は、バッテリ7の電力を、整流回路3、平滑回路4、および、逆変換回路5の順に変換して得られた三相交流を走行用モータ1に送電している。
【0014】
逆変換回路5は、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)や金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)などのスイッチング素子と、スイッチング素子を駆動するゲートドライバ回路とを有する。制御部6は、搬送波(三角波)信号と変調波(正弦波)信号とを生成して、生成したそれらの信号をゲートドライバ回路に送信している。逆変換回路5は、ゲードドライバ回路が制御部6からの搬送波信号と基本波信号との比較によりスイッチング素子を入り切りすることで、矩形のパルスを生成している。生成した矩形のパルスの平均電圧が三相交流の疑似正弦波交流を成している。制御部6で生成される搬送波信号は、設定されたキャリア周波数に基づいている。また、制御部6で生成される変調波信号は、アクセルペダルの踏み込み量に基づいている。
【0015】
制御部6は、保護機能を有していて、過電流、過電圧、過負荷電流などを監視しており、逆変換回路5から出力される三相交流の電圧や周波数を抑制している。制御部6は、連続運転トルクの出力時間、短時間最大トルクThの出力時間、ロック状態の継続時間などの時間も管理している。ロック状態とは、インバータ2から走行用モータ1に通電されていて、走行用モータ1の回転軸が回転しない状態を示す。ロック状態の継続時間は、キャリア周波数や走行用モータ1の出力トルクに応じて異なっている。ロック状態の継続時間は、キャリア周波数に対して負の相関関係があり、また、走行用モータ1の出力トルクに対して負の相関関係がある。以下に、ロック状態の継続時間について説明する。
【0016】
図2は、走行用モータ1の出力トルクが短時間最大トルクThである場合のキャリア周波数とロック状態の継続時間との関係を示している。キャリア周波数は、可聴領域の範囲内の低周波数flとその低周波数flよりも高い高周波数fhとに設定される。可聴領域は、人間の耳が聞こえる音の周波数の領域である。可聴領域は、個人差があるが概ね20Hz~20kHzの間の領域(ただし、20Hz、20kHzを含まない)であることが知られている。なお、20Hz以下の音波は超低周波音であり、20kHz以上の音波は超高周波音である。また、可聴領域は、公知の文献から大半の人間には15kHzが上限であることも判明している。また、例えば、ピアノやバイオリンなどの楽器の最高音の周波数は5kHz未満となっており、ピアノの最低音の周波数は20Hzの近傍となっている。以上のことから、人間が気になる音の周波数の領域は、5kHz未満の領域であり、車両においては、この領域の音が概ね騒音として認識されている。
【0017】
低周波数flは、可聴領域の範囲内の周波数である。低周波数flは、可聴領域の範囲のうちでより低い側の周波数であることが望ましく、人間が気になる音(騒音として認識される音)の周波数の領域の範囲内の周波数が例示される。低周波数flは、走行用モータ1の出力トルクが短時間最大トルクThである場合のロック状態の継続時間が車両の発進時の目標時間Δtaよりも長い時間になる周波数であることが望ましい。車両の発進時の目標時間Δtaは、発進時の車両の慣性質量に依らずに車両を発進させる合図(例えば、アクセルペダルの踏み込み)が出てから実際に車両が発進する(駆動輪が回転する)までに要する目標の時間である。低周波数flは、一つに限定されるものではなく、ロック状態の継続時間が目標時間Δtaよりも短くなる範囲内で複数、設定されていてもよい。また、低周波数flは、インバータ2から走行用モータ1に送電される三相交流の電波波形が疑似正弦波を維持可能な周波数であればよく、三相交流の電波波形が矩形波に近似する波形になる周波数が除外されている。インバータ2の仕様によっては、正弦波モードと矩形波モードとを切り替え可能なものがあるが、その場合に、低周波数flは、正弦波モードを維持可能な周波数であればよい。
【0018】
高周波数fhは、人間が気になる音(騒音として認識される音)の周波数の領域の範囲の上限よりも高い周波数である。高周波数fhは、5kHz以上の周波数であればよく、10kHz以上の周波数であることがより望ましい。また、高周波数fhは、インバータ2の逆変換回路5のスイッチング素子の種類によっては、15kHz以上の周波数や20kHz以上の周波数を用いることもできる。高周波数fhは、走行用モータ1の出力トルクが短時間最大トルクThである場合のロック状態の継続時間が車両の発進時の目標時間Δtaよりも短い時間になる周波数である。
【0019】
ロック状態の継続時間は、キャリア周波数に対して負の相関関係がある。ロック状態の継続時間は、キャリア周波数が高いほど短くなり、キャリア周波数が低いほど長くなっている。走行用モータ1の回転軸が回転しないロック状態では、三相のうちの一相のみに電流が流れる状態になる。それ故、スイッチング素子などの回路への熱損を回避するために、その継続時間は、キャリア周波数が低周波数flに設定された場合でも、短時間最大トルクThの出力時間に比して極端に短い瞬間的な時間(例えば、3秒以下)に設定されている。Δthは、キャリア周波数が高周波数fhに設定された場合の継続時間を示し、Δtlは、キャリア周波数が高周波数flに設定された場合の継続時間を示す。
【0020】
図3は、出力トルクとロック状態の継続時間との関係を示している。一点鎖線、および、点線の各々は、キャリア周波数が高周波数fhに設定されている状態を示す。実線は、キャリア周波数が低周波数flに設定されている状態を示す。軽発進トルクTlは、車両が、空荷の状態で運転手のみが搭乗しており、平坦路(路面勾配β=0)に停車している状態から発進するために必要な最小トルクよりも大きいトルクを示す。キャリア周波数が高周波数fhに設定されていて、走行用モータ1の出力トルクが短時間最大トルクThである場合には、ロック状態の継続時間Δthが目標時間Δtaよりも短くなっている。キャリア周波数が高周波数fhに設定されていて、走行用モータ1の出力トルクが軽発進トルクTlである場合には、ロック状態の継続時間Δtlが目標時間Δtaよりも長くなっている。このように、ロック状態の継続時間は、出力トルクに対して負の相関関係がある。ロック状態の継続時間は、出力トルクが大きいほど短くなり、出力トルクが大きいほど長くなっている。キャリア周波数が低周波数flに設定されていて、走行用モータ1の出力トルクが短時間最大トルクThである場合には、ロック状態の継続時間Δtlまで延び、目標時間Δtaよりも長くなっている。
【0021】
図1に例示する制御装置10の実施形態は、公知の種々のコンピュータを用いることができる。制御装置10は、インバータ2の内部に配置されているが、インバータ2と別体で構成される場合には、インバータ2の外部に配置されていてもよい。制御装置10は、インバータ2の内部に配置される場合に、制御部6の機能を有していてもよい。また、制御装置10は、インバータ2の外部に配置される場合に、車両の制御を行う車両用制御装置であってもよい。
【0022】
制御装置10は、中央演算処理部(CPU)11、主記憶部(RAM)12、補助記憶部(ROM)13、および、入出力部を有している。制御装置10は、入出力部を介して、路面勾配取得装置14、車両重量取得装置15、アクセル開度取得装置16、および、速度取得装置17が接続されている。また、制御装置10は、入出力部を介して、制御部6に接続されている。さらに、制御装置10は、入出力部を介して、制動力保持装置18に接続されている。なお、制御装置10と、各種センサ類と制動力保持装置18とは、直に接続されていなくてもよい。例えば、制御装置10がそれらの各種センサ類や制動力保持装置18が接続された車両用制御装置に接続されていて、その車両用制御装置からそれらの各種センサ類の取得値を取得したり、制動力保持装置18に信号を送信したりしてもよい。
【0023】
路面勾配取得装置14は、車両が走行している、あるいは、車両が停車している路面の勾配(路面勾配)βを取得している。路面勾配取得装置14は、公知の種々の路面勾配取得装置を用いることができ、例えば、路面勾配βを百分率(%)で出力するGセンサなどが例示される。車両重量取得装置15は、車両の重量mを取得している。車両重量取得装置15は、公知の種々の車両重量取得装置を用いることができ、例えば、車両の前後方向の運動方程式に基づいて重量mを推定する装置などが例示される。アクセル開度取得装置16は、アクセルペダルの踏み込み量を取得している。アクセル開度取得装置16は、公知の種々のアクセルセンサを用いることができる。速度取得装置17は、車両の速度を取得している。速度取得装置17は、公知の種々の車速センサを用いることができる。制動力保持装置18は、車両が停車している状態で、ブレーキペダルの踏み込みが解除されて、アクセルペダルが踏み込まれてから所定の保持時間Δtbが経過するまでの間で車両への制動力を保持している。制動力保持装置18は、公知の種々のヒールスタートアシストシステムを用いることができる。制動力保持装置18は、ヒールスタートアシストが組み込まれた横滑り防止装置(ElectronicStabillty Control)で構成されてもよい。
【0024】
制御装置10は、起動すると補助記憶部13に記憶された所定のプログラムが起動する。起動したプログラムの指示により、制御装置10は車両の発進時に、インバータ2のキャリア周波数を可聴領域の範囲内の低周波数flに設定する制御処理を実行し、発進時以外のときに、低周波数flよりも高い高周波数fhに設定する制御処理を実行する。また、設定される低周波数flは、その低周波数flに基づいたロック状態の継続時間が、走行用モータ1への送電を開始してから走行用モータ1の回転軸が回転するまでの期間以上の長さになる周波数である。
【0025】
車両の発進時は、停車した状態の車両が発進の合図(例えば、アクセルペダルの踏み込み)を受けてから駆動輪が回転し始めるまでの間の期間を示す。つまり、車両の発進時は、発進の合図を受けたインバータ2により走行用モータ1への通電が開始されてから走行用モータ1の回転軸が回転するまでの間の期間を示す。車両の発進時は、車両が走行している期間に比して十分に短く瞬間的な期間である。このような瞬間的な期間の間であれば、キャリア周波数を低周波数flに設定することで走行用モータ1の磁気騒音が発せられても、車両の搭乗者が発せられたその磁気騒音を気にする可能性は低くなる。
【0026】
図4図6に車両の発進時の時間経過に伴う制動力保持装置18による制動力の作用、速度取得装置17が取得する車両の速度、走行用モータ1の出力トルクの変動の一例を示す。車両の発進時の慣性質量が大きいほど、車両の動き出しが悪くなる。そこで、車両の発進時の慣性質量に応じて走行用モータ1の出力トルクを大きくすることで、車両の動き出しの悪化を回避可能になる。そこで、発進時の車両の慣性質量に応じたトルクは、車両を発進させるために必要な最小トルクよりも大きいトルクとする。また、車両の発進時の目標時間Δtaは、特に限定されるものではないが、より短い時間であることが望ましく、車両がスムーズに発進したと感じられる時間であることが望ましい。
【0027】
図4の一例は、周知技術の車両の発進を示し、車両の発進時にキャリア周波数を高周波数fhに設定している。また、車両は、空荷の状態で運転手のみが搭乗しており、平坦路(路面勾配β=0)に停車している状態から発進するものとする。この状態での発進時の車両の慣性質量に応じたトルクは、軽発進トルクTlである。図5の一例は、周知技術の車両の発進を示し、車両の発進時にキャリア周波数を高周波数fhに設定している。また、車両は最大積載量を積んだ状態で運転手のみが搭乗しており、上り坂(路面勾配β>0)に停車している状態から発進するものとする。この状態での発進時の車両の慣性質量に応じたトルクは、軽発進トルクT1よりも大きいトルクである。図6の一例は、本開示の制御装置10を搭載した車両の発進を示し、車両の発進時にキャリア周波数を低周波数flに設定している。また、車両は、最大積載量を積んだ状態で運転手のみが搭乗しており、上り坂(路面勾配β>0)に停車している状態から発進するものとし、発進時の出力トルクが短時間最大出力トルクThである。なお、(t1~t5)は、時刻を示しており、経過が早い時刻から遅い時刻の順になっており、(t6~t8)も時刻を示しており、経過が早い時刻から遅い時刻の順になっている。以下に、(t1~t8)の各時刻での動作を詳述する。
【0028】
図4に例示する周知技術の車両の発進時では、まず、アクセル開度取得装置16がアクセルペダルの踏み込みを検知すると、インバータ2が走行用モータ1への通電を開始し、通電により走行用モータ1が軽発進トルクTlを出力する(t1)。ついで、アクセル開度取得装置16がアクセルペダルの踏み込みを検知してから保持期間Δtbが経過すると、制動力保持装置18は、制動力の保持を解除する(t2)。ついで、制動力保持装置18による制動力の保持の解除から所定の期間Δt1が経過すると、ロック状態の継続時間Δthの終了時刻(t4)よりも前に、走行用モータ1の回転軸の回転が開始される(車両の車輪が回転し始める)(t3)。ついで、車両が発進し始めて速度取得装置17が検知可能な速度Vaに到達する(t5)。この車両の発進時では、保持期間Δtbと所定の期間Δt1とを合計した期間が目標時間Δtaとなり、車両がスムーズに発進している。
【0029】
図5に例示する周知技術の車両の発進時では、車両の重量mが重くなっていることに加えて、上り坂での発進であり、車両の発進時の慣性質量が大きくなっている。それ故、車両の慣性質量に応じたトルクが軽発進トルクTlよりも大きいトルクになる。そこで、この車両の発進時では、最初に走行用モータ1が短時間最大トルクThを出力する(t1)。しかし、キャリア周波数が高周波数fhに設定されているため、ロック状態の継続時間Δthが短く、制動力保持装置18の制動力の保持期間Δtbよりも先に終了する(t6)。ついで、制動力保持装置18による制動力の保持の解除から短時間最大トルクThよりも小さく、軽発進トルクTlよりも大きいトルクを出力する(t2)。出力トルクが短時間最大トルクThよりも小さいため、制動力の保持の解除からの所定の期間Δt2が図4の一例の所定の期間Δt1よりも長くなっている。それ故、以降の走行用モータ1の回転軸の回転が開始される(車両の車輪が回転し始める)時刻(t7)や、車両が発進し始めて速度取得装置17が検知可能な速度Vaに到達する時刻(t8)も図4の一例よりも遅くなっている。この車両の発進時では、保持期間Δtbと所定の期間Δt2とを合計した期間が目標時間Δtaを超過している。このように、周知技術の車両の発進時には、車両の発進時の慣性質量が大きくなると、車両の発進性能が低下していた。
【0030】
図6に例示する本開示の制御装置10を搭載した車両の発進時では、キャリア周波数を低周波数flに設定することで、出力トルクが短時間最大トルクThの場合のロック状態の継続時間Δtlが、保持期間Δtbと所定の期間Δt1とを合計した発進時間よりも長くなっている。つまり、走行用モータ1のロック状態の継続時間Δtlが経過する(t4)よりも前に、走行用モータ1の回転軸の回転が開始される(車両の車輪が回転し始める)(t3)。このように、車両の発進時にキャリア周波数を低周波数flに設定することに伴って、出力トルクが短時間最大トルクThの場合のロック状態の継続時間Δtlに延びることで、走行用モータ1の回転軸が回転し始めるまで走行用モータ1の出力を落とすことなく、短時間最大トルクThが出力可能な状態に維持できる。これにより、本開示に制御装置10を搭載した車両は、車両の発進時の慣性質量が大きくなっても保持期間Δtbと所定の期間Δt1とを合計した期間が目標時間Δtaとなり、車両がスムーズに発進している。
【0031】
以上のように、本実施形態によれば、磁気騒音が気になる車両の走行中ではキャリア周波数を高周波数fhに設定し、走行中に比して時間が短く磁気騒音が気にならない車両の発進時ではキャリア周波数を低周波数flに設定する。それ故、車両の走行中での車両の快適性を向上し、車両の発進時では、ロック状態の継続時間を延ばすことにより車両の発進性能を向上することが可能となる。このように、キャリア周波数の高低を車両の走行状況によって使い分けることで、車両での快適性の向上と車両の発進性能の向上とを両立することができる。
【0032】
キャリア周波数は、車両の発進時に低周波数flに設定されて、車両の発進時以外のときに高周波数fhに設定されていればよいが、図4の一例のように、キャリア周波数が高周波数flに設定されている場合でも、車両の発進性能を確保できる場合がある。車両の発進性能が確保される状況では、車両の発進時でもキャリア周波数が高周波数flに設定されることで、車両の発進時での磁気騒音の発生の頻度を低減することができる。そこで、車両の発進時に、キャリア周波数を低周波数flに設定する制御処理の実行の開始を車両の発進時の慣性質量に基づいて判定することが望ましい。
【0033】
図7にインバータ2の制御方法の一例を示す。この制御方法は、走行用モータ1の駆動により停止している車両を発進させる方法において、キャリア周波数を低周波数flに設定する制御処理の実行の開始を車両の発進時の慣性質量に基づいて判定する方法である。まず、車両の慣性質量に基づいた判定を行う(S110)。ついで、判定結果に基づいて、キャリア周波数を低周波数flまたは高周波数fhのどちらか一方の周波数に設定する(S120orS140)。キャリア周波数を低周波数flに設定した場合(S120)には、走行用モータ1の回転軸に基づいた判定を行って(S130)、キャリア周波数を高周波数fhに設定する(S140)。以下に、(S110~S140)の各ステップについて詳述する。
【0034】
慣性質量に基づいた判定を行うステップ(S110)では、制御装置10により、車両の発進時の慣性質量に基づいて、キャリア周波数を低周波数flに設定するステップ(S120)を行うか、キャリア周波数を高周波数fhに設定するステップ(S140)を行うかを判定するデータ処理が実行される。車両の発進時の慣性質量と、車両の発進時に走行用モータ1から出力されるトルク(車両の発進時の慣性質量に応じたトルク)とは、正の相関関係がある。
【0035】
そこで、このステップ(S110)では、その相関関係を用いて判定を行うことができる。具体的に、車両の発進時の慣性質量とトルクとの相関関係を実験や試験、あるいは、コンピュータシミュレーションにより予め把握しておく。車両の発進時には、停車時の車両に作用する抵抗に基づく慣性質量と車両の駆動輪や減速機などの回転体の慣性質量とを合計した慣性質量を算出し、算出した慣性質量と予め把握している相関関係とを用いて、慣性質量に応じたトルクを特定する。車両の発進時の慣性質量に応じたトルクが軽発進トルクTl以下か否かを判定する。車両の発進時の慣性質量に応じたトルクが軽発進トルクTl以下の場合には、キャリア周波数を高周波数fhに設定し、車両の発進に要するトルクが軽発進トルクTlよりも大きい場合には、キャリア周波数を低周波数flに設定する。また、予め把握している相関関係に基づいて閾値を設定し、車両の発進時の慣性質量と設定した閾値とを比較して判定してもよい。このように、車両の発進時の慣性質量に基づいて、キャリア周波数の設定を可変することで、車両の発進時での磁気騒音の発生の頻度を低減するには有利になる。
【0036】
車両の発進時の慣性質量は、停車した車両に作用する抵抗に基づく慣性質量と、車両の駆動輪や減速機など回転体の慣性質量と、の合計である。回転体の慣性質量は概ね一定であるが、停車した車両に作用する抵抗は、路面抵抗βや重量mに応じて変動する。具体的に、車両に作用する抵抗に基づく慣性質量は、車両の停車時の路面勾配βに対して正の相関関係があり、路面勾配βが大きくなるほど大きくなる。また、その慣性質量は、車両の重量mに対しても正の相関関係があり、重量mが大きくなるほど大きくなる。
【0037】
そこで、このステップ(S110)の判定指標として、車両の停車時に路面勾配取得装置14が取得した路面勾配βを用いることができる。また、その判定指標として、車両重量取得装置15が取得した重量mを用いることもできる。判定指標として、路面勾配βや重量mを用いる場合には、慣性質量を用いる場合と同様に、路面勾配βと発進時間との相関関係や重量mと発進時間との相関関係を用いて判定することができる。また、路面勾配βや重量mのそれぞれに対応した閾値を設定して、判定指標が閾値以上になった場合に、キャリア周波数を低周波数flに設定し、判定指標が閾値未満の場合に、キャリア周波数を高周波数fhに設定するように判定してもよい。判定指標の閾値は、予め実験や試験、あるいは、コンピュータシミュレーションにより求めることができる。なお、判定指標として、路面勾配βと重量mとの両方を用いることもできる。このように、ステップ(S110)の判定指標として路面勾配βや重量mを用いることで、車両の発進時の慣性質量を算出する手間を省くことができ、より簡便に判定を行うことができる。また、判定指標として路面勾配βおよび重量mの両方を用いることで、より簡便に判定できる構成でありながら、車両の発進時の慣性質量をより高精度に判定することができる。
【0038】
低周波数flに設定するステップ(S120)では、制御装置10により、キャリア周波数を低周波数flに設定する制御処理が実行される。設定される低周波数flは、上記のステップ(S110)での判定に基づいて、段階的に可変させることもできる。例えば、上記のステップ(S110)で車両の発進時の慣性質量と車両の発進時の慣性質量に応じたトルクとの相関関係を用いる場合には、特定したトルクの大きさに応じたロック状態の継続時間に基づいて、設定される低周波数flの高低を変更してもよい。また、上記のステップ(S110)で判定指標として、路面勾配βまたは重量mを用いる場合には、路面勾配βでの発進時間や重量mでの車両の発進時の慣性質量に応じたトルクを特定し、特定したトルクの大きさに応じたロック状態の継続時間に基づいて、設定される低周波数flの高低を変更してもよい。特定したトルクの大きさが大きいほど、設定される低周波数flは低くなる。さらに、上記のステップ(S110)で判定指標として、路面勾配βおよび重量mを用いる場合には、三次元のルックアップテーブルを用いるとよい。三次元のルックアップテーブルは、X軸(または、ロウ)が路面勾配βであり、Y軸(または、カラム)が重量mであり、Z軸(または、フィールド)が低周波数fl(または、ロック状態の継続時間)であればよい。
【0039】
回転軸が回転したか否かを判定するステップ(S130)では、制御装置10により、走行用モータ1の回転軸の回転が開始されたか否か、つまり、車両の駆動輪の回転が開始されたか否かを判定するデータ処理が実行される。駆動輪の回転は、運転手が所望する方向へ車両が発進した場合の回転とする。このステップ(S130)を詳述すると、制御装置10は、速度取得装置17が車速を取得可能になったことに基づいて、走行用モータ1の回転軸が回転したと判定する。つまり、車両の速度が、速度取得装置17が検知可能な速度Vaに到達したときに、走行用モータ1の回転軸が回転したと判定する。このステップ(S130)は、車両の速度の代わりに、インバータ2の制御部6が監視している走行用モータ1の回転速度を用いて判定してもよい。
【0040】
高周波数fhに設定するステップ(S140)では、制御装置10により、キャリア周波数を高周波数fhに設定する制御処理が実行される。このステップ(S140)により、キャリア周波数を低周波数flに設定した車両の発進後に、キャリア周波数を高周波数fhに再設定することで、発進後の走行での磁気騒音の発生を回避することが可能となる。また、キャリア周波数を低周波数flに設定する必要がない車両の発進時に、キャリア周波数を高周波数fhに設定することで、発進時でも磁気騒音の発生を回避することが可能となる。それ故、車両の発進時での磁気騒音の発生の頻度を低減することができる。
【0041】
車両の発進時にロック状態の継続時間の超過をより確実に回避するために、走行用モータ1が車両の発進時の慣性質量に応じたトルク(短時間最大トルクThを含む)を出力する時刻と、制動力保持装置18による制動力の保持の解除の時刻と、をより近づけることが望ましい。なお、走行用モータ1が車両の発進時の慣性質量に応じたトルクを出力する時刻と、制動力保持装置18による制動力の保持の解除の時刻とを、同期させてもよいが、車両の発進時の安全性を確保するには、走行用モータ1が車両の発進時の慣性質量に応じたトルクを出力した後に、制動力保持装置18により制動力の保持を解除することが望ましい。
【0042】
走行用モータ1が車両の発進時の慣性質量に応じたトルクを出力する時刻と、制動力保持装置18による制動力の保持の解除の時刻と、をより近づける手法としては、制動力保持装置18による制動力の保持期間Δtbを短縮する手法が例示される。具体的に、制御装置10は、制動力保持装置18が作動している場合に、制動力保持装置18により保持期間Δtbが経過するよりも前に制動力の保持を解除させる制御処理の合図として、走行用モータ1が車両の発進時の慣性質量に応じたトルクを出力したことを制動力保持装置18に通知する制御処理を実行するとよい。制動力保持装置18は、その通知を受けて制動力の保持を解除することで、保持期間Δtbを短縮することが可能となる。
【0043】
図8に例示する車両の発進時の時間経過に伴う制動力保持装置18による制動力の作用、速度取得装置17が取得する車両の速度、走行用モータ1の出力トルクの変動の一例は、図6の一例と同条件での車両の発進時を示している。図8の一例での保持期間Δtb’は、図6の一例の保持期間Δtbに比して短くなっている。
【0044】
通電により走行用モータ1が短時間最大トルクThを出力すると、制御装置10から制動力保持装置18に走行用モータ1の出力トルクが短時間最大トルクThに達したことが通知される(t1)。ついで、制動力保持装置18により、予め設定された保持期間Δtbが経過するよりも前に制動力の保持が解除される(t2’)。この短縮された分、走行用モータ1の回転軸の回転が開始される(車両の車輪が回転し始める)時間が早くなる(t3’)。なお、制御装置10から制動力保持装置18への通知は、キャリア周波数を低周波数flに設定した場合に限定されるものではなく、キャリア周波数を高周波数fhに設定した場合にも行われることが望ましい。
【0045】
このように、走行用モータ1が車両の発進時の慣性質量に応じたトルクを出力する時刻と、制動力保持装置18による制動力の保持の解除の時刻と、をより近づけることで、車両の発進時にロック状態の継続時間の超過をより確実に回避することができる。その結果、車両の発進性能を向上することができる。
【0046】
また、車両の発進時では、制動力保持装置18による制動力の保持期間Δtbと車両の発進時の慣性質量に応じた所定の期間とを合計した期間が車両の発進に要する発進時間となっている。よって、保持期間Δtbを短縮することで、アクセルペダルの踏み込みが行われてから、実際に車両が発進するまでの時間が短縮され、車両の発進の応答性を向上することもできる。
【0047】
走行用モータ1が車両の発進時の慣性質量に応じたトルクを出力する時刻と、制動力保持装置18による制動力の保持の解除の時刻と、をより近づける手法としては、保持期間Δtbを短縮せずに、インバータ2から走行用モータ1への送電が開始されてから、走行用モータ1が車両の発進時の慣性質量に応じたトルクを出力するまでの時間を延長する手法も例示される。ロック状態の経過時間は、走行用モータ1が車両の発進時の慣性質量に応じたトルクを出力した状態で回転軸が回転していない状態の経過時間である。それ故、アクセルペダルの踏み込みが行われてから、走行用モータ1の出力トルクが車両の発進時の慣性質量に応じたトルクに達するまでの時刻を延長して、制動力保持装置18による制動力の保持の解除の時刻に近づけることで、車両の発進時にロック状態の継続時間の超過をより確実に回避することができる。ただし、インバータ2から走行用モータ1への送電が開始されてから、走行用モータ1が車両の発進時の慣性質量に応じたトルクを出力するまでの時間を延長する手法では、アクセルペダルの踏み込みが行われてから、実施に車両が発進するまでの時間が短縮されない。それ故、走行用モータ1が車両の発進時の慣性質量に応じたトルクを出力する時刻と、制動力保持装置18による制動力の保持の解除の時刻と、をより近づける手法としては、制動力保持装置18による制動力の保持期間Δtbを短縮する手法がより望ましい。
【0048】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示のインバータの制御装置は特定の実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0049】
走行用モータ1およびインバータ2は、互いに別体で構成されてもよいが、それらが一体的に組み合わされた、あるいは、それらの組み合わせに図示しない減速機が一体的に組み合わされた公知の電動パワートレイン(例えば、eアスクル)で構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 走行用モータ
2 インバータ
10 制御装置
fl 低周波数
fh 高周波数
【要約】
【課題】車両での快適性の向上と車両の発進性能の向上とを両立するインバータの制御装置を提供する。
【解決手段】車両の走行用モータ1の駆動を制御するインバータ2の制御装置10において、走行用モータ1の駆動による車両の発進時に、インバータ2のキャリア周波数を可聴領域の範囲内の低周波数flに設定する制御処理を実行し、発進時以外のときに、キャリア周波数を低周波数flよりも高い高周波数fhに設定する制御処理を実行する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8