(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】多円弧軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 17/02 20060101AFI20231003BHJP
F02B 39/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
F16C17/02 B
F02B39/00 J
(21)【出願番号】P 2022514306
(86)(22)【出願日】2020-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2020042658
(87)【国際公開番号】W WO2021205686
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2020068572
(32)【優先日】2020-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】采浦 寛
(72)【発明者】
【氏名】西井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】望月 寛己
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-200998(JP,A)
【文献】特開2019-065934(JP,A)
【文献】国際公開第2017/203880(WO,A1)
【文献】特開2015-196419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/02
F02B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトが挿通される環状の本体と、
前記本体の内周面に形成され、互いに異なる曲率中心を有し、前記本体の周方向に互いに隣接して配される複数の円弧面を含み、前記シャフトの中心軸と前記円弧面との最小距離、前記円弧面の曲率半径、および、前記シャフトの半径が以下の式(1)および式(2)により表される関係を満たすラジアル軸受面と、
を備え
、
前記円弧面は、縮小部と、中間部と、拡大部とを含み、
前記縮小部は、前記中間部に対し、前記シャフトの回転方向後方側に位置し、
前記拡大部は、前記中間部に対し、前記シャフトの回転方向前方側に位置し、
前記シャフトと前記円弧面との間隔は、前記中間部で最も小さくなり、
前記シャフトと前記縮小部との間隔は、前記シャフトと前記中間部との間隔より大きく、前記シャフトの回転方向後方側ほど大きくなり、
前記シャフトと前記拡大部との間隔は、前記シャフトと前記中間部との間隔より大きく、前記シャフトの回転方向後方側ほど小さくなり、
前記シャフトの中心軸と前記円弧面との最小距離は、前記シャフトの中心軸と前記中間部との距離に相当し、
前記円弧面の曲率半径は、前記シャフトの中心軸と前記円弧面との最小距離と、前記シャフトの中心軸から前記曲率中心までの距離との和に相当する、
多円弧軸受。
Ra/Rs≧1.001 ・・・(1)
(Rb-Ra)/0.9≦(Rb-Rs)≦(Rb-Ra)/0.6 ・・・(2)
ただし、
Ra:前記シャフトの中心軸と前記円弧面との最小距離
Rb:前記円弧面の曲率半径
Rs:前記シャフトの半径
【請求項2】
前記シャフトの中心軸と前記円弧面との最小距離、前記円弧面の曲率半径、および、前記シャフトの半径が以下の式(3)により表される関係を満たす、
請求項1に記載の多円弧軸受。
(Rb-Ra)/0.85≦(Rb-Rs)≦(Rb-Ra)/0.75 ・・・(3)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多円弧軸受に関する。本出願は2020年4月6日に提出された日本特許出願第2020-068572号に基づく優先権の利益を主張するものであり、その内容は本出願に援用される。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数(具体的には、3つ)の円弧面を有する多円弧軸受について開示がある。多円弧軸受は、シャフトを軸支する。複数の円弧面は、多円弧軸受のラジアル軸受面となる領域に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多円弧軸受では、ラジアル軸受面の横断面形状が真円である場合と比較して、シャフトの許容回転数(つまり、シャフトを安定的に軸支できる回転数の限界値)を向上させることができる。しかしながら、シャフトの許容回転数をより向上させることが望ましいと考えられる。
【0005】
本開示の目的は、シャフトの許容回転数を向上させることが可能な多円弧軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の多円弧軸受は、シャフトが挿通される環状の本体と、本体の内周面に形成され、互いに異なる曲率中心を有し、本体の周方向に互いに隣接して配される複数の円弧面を含み、シャフトの中心軸と円弧面との最小距離、円弧面の曲率半径、および、シャフトの半径が以下の式(1)および式(2)により表される関係を満たすラジアル軸受面と、を備え、円弧面は、縮小部と、中間部と、拡大部とを含み、縮小部は、中間部に対し、シャフトの回転方向後方側に位置し、拡大部は、中間部に対し、シャフトの回転方向前方側に位置し、シャフトと円弧面との間隔は、中間部で最も小さくなり、シャフトと縮小部との間隔は、シャフトと中間部との間隔より大きく、シャフトの回転方向後方側ほど大きくなり、シャフトと拡大部との間隔は、シャフトと中間部との間隔より大きく、シャフトの回転方向後方側ほど小さくなり、シャフトの中心軸と円弧面との最小距離は、シャフトの中心軸と中間部との距離に相当し、円弧面の曲率半径は、シャフトの中心軸と円弧面との最小距離と、シャフトの中心軸から曲率中心までの距離との和に相当する。
Ra/Rs≧1.001 ・・・(1)
(Rb-Ra)/0.9≦(Rb-Rs)≦(Rb-Ra)/0.6 ・・・(2)
ただし、
Ra:シャフトの中心軸と円弧面との最小距離
Rb:円弧面の曲率半径
Rs:シャフトの半径
【0007】
シャフトの中心軸と円弧面との最小距離、円弧面の曲率半径、および、シャフトの半径が以下の式(3)により表される関係を満たしてもよい。
(Rb-Ra)/0.85≦(Rb-Rs)≦(Rb-Ra)/0.75 ・・・(3)
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、シャフトの許容回転数を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】
図3は、本実施形態のラジアル軸受面の形状を説明するための説明図である。
【
図4】
図4は、予圧係数と許容回転数比との関係を示す図である。
【
図5】
図5は、予圧係数と損失比との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の一実施形態について説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0011】
図1は、過給機TCの概略断面図である。以下では、
図1に示す矢印L方向を過給機TCの左側として説明する。
図1に示す矢印R方向を過給機TCの右側として説明する。
図1に示すように、過給機TCは、過給機本体1を備える。過給機本体1は、ベアリングハウジング3と、タービンハウジング5と、コンプレッサハウジング7とを含む。タービンハウジング5は、ベアリングハウジング3の左側に締結機構9によって連結される。コンプレッサハウジング7は、ベアリングハウジング3の右側に締結ボルト11によって連結される。
【0012】
ベアリングハウジング3の外周面には、突起3aが設けられる。突起3aは、タービンハウジング5側に設けられる。突起3aは、ベアリングハウジング3の径方向に突出する。タービンハウジング5の外周面には、突起5aが設けられる。突起5aは、ベアリングハウジング3側に設けられる。突起5aは、タービンハウジング5の径方向に突出する。ベアリングハウジング3とタービンハウジング5は、締結機構9によってバンド締結される。締結機構9は、例えば、Gカップリングである。締結機構9は、突起3aおよび突起5aを挟持する。
【0013】
ベアリングハウジング3には、軸受孔3bが形成される。軸受孔3bは、過給機TCの左右方向に貫通する。軸受孔3bには、セミフローティング軸受13が配される。セミフローティング軸受13は、シャフト15を回転自在に軸支する。シャフト15の左端部には、タービンインペラ17が設けられる。タービンインペラ17は、タービンハウジング5に回転自在に収容される。シャフト15の右端部には、コンプレッサインペラ19が設けられる。コンプレッサインペラ19は、コンプレッサハウジング7に回転自在に収容される。
【0014】
コンプレッサハウジング7には、吸気口21が形成される。吸気口21は、過給機TCの右側に開口する。吸気口21は、不図示のエアクリーナに接続される。ベアリングハウジング3とコンプレッサハウジング7の対向面によって、ディフューザ流路23が形成される。ディフューザ流路23は、空気を昇圧する。ディフューザ流路23は、環状に形成される。ディフューザ流路23は、径方向内側において、コンプレッサインペラ19を介して吸気口21に連通している。
【0015】
コンプレッサハウジング7には、コンプレッサスクロール流路25が設けられる。コンプレッサスクロール流路25は、環状に形成される。コンプレッサスクロール流路25は、例えば、ディフューザ流路23よりもシャフト15の径方向外側に位置する。コンプレッサスクロール流路25は、不図示のエンジンの吸気口と、ディフューザ流路23とに連通している。コンプレッサインペラ19が回転すると、吸気口21からコンプレッサハウジング7内に空気が吸気される。吸気された空気は、コンプレッサインペラ19の翼間を流通する過程において加圧加速される。加圧加速された空気は、ディフューザ流路23およびコンプレッサスクロール流路25で昇圧される。昇圧された空気は、エンジンの吸気口に導かれる。
【0016】
タービンハウジング5には、吐出口27が形成される。吐出口27は、過給機TCの左側に開口する。吐出口27は、不図示の排気ガス浄化装置に接続される。タービンハウジング5には、連通路29と、タービンスクロール流路31とが形成される。タービンスクロール流路31は、環状に形成される。タービンスクロール流路31は、例えば、連通路29よりもタービンインペラ17の径方向外側に位置する。タービンスクロール流路31は、不図示のガス流入口と連通する。ガス流入口には、不図示のエンジンの排気マニホールドから排出される排気ガスが導かれる。連通路29は、タービンインペラ17を介してタービンスクロール流路31と吐出口27とを連通させる。ガス流入口からタービンスクロール流路31に導かれた排気ガスは、連通路29、タービンインペラ17を介して吐出口27に導かれる。吐出口27に導かれる排気ガスは、流通過程においてタービンインペラ17を回転させる。
【0017】
タービンインペラ17の回転力は、シャフト15を介してコンプレッサインペラ19に伝達される。コンプレッサインペラ19が回転すると、上記のとおりに空気が昇圧される。こうして、空気がエンジンの吸気口に導かれる。
【0018】
図2は、
図1の一点鎖線部分を抽出した図である。
図2に示すように、ベアリングハウジング3の内部には軸受構造Sが設けられる。軸受構造Sは、軸受孔3bと、セミフローティング軸受13と、シャフト15とを含む。
【0019】
ベアリングハウジング3には、油路3cが形成される。油路3cには、潤滑油が供給される。油路3cは、軸受孔3bに開口(連通)する。油路3cは、潤滑油を軸受孔3bに導く。潤滑油は、油路3cから軸受孔3b内に流入する。
【0020】
軸受孔3bには、セミフローティング軸受13が配される。セミフローティング軸受13は、環状の本体13aを有する。本体13aには、挿通孔13bが形成される。挿通孔13bは、本体13aをシャフト15の軸方向(以下、単に軸方向という)に貫通する。挿通孔13bには、シャフト15が挿通される。
【0021】
本体13a(具体的には、挿通孔13b)の内周面13cには、2つのラジアル軸受面13d、13eが形成される。2つのラジアル軸受面13d、13eは、軸方向に離隔して配される。本体13aには、油孔13fが形成される。油孔13fは、本体13aの内周面13cから外周面13gまで貫通する。油孔13fは、2つのラジアル軸受面13d、13eの間に配される。油孔13fは、シャフト15(および、本体13a)の径方向(以下、単に径方向という)において、油路3cの開口と対向する。
【0022】
潤滑油は、本体13aの外周面13g側から、油孔13fを通って内周面13c側に流入する。本体13aの内周面13c側に流入した潤滑油は、内周面13cとシャフト15との間を、シャフト15の周方向に沿って移動する。また、本体13aの内周面13c側に流入した潤滑油は、内周面13cとシャフト15との間を、シャフト15の軸方向(
図2中、左右方向)に沿って移動する。潤滑油は、シャフト15と2つのラジアル軸受面13d、13eとの間隙に供給される。潤滑油の油膜圧力によってシャフト15が軸支される。2つのラジアル軸受面13d、13eは、シャフト15のラジアル荷重を受ける。
【0023】
本体13aには、貫通孔13hが形成される。貫通孔13hは、本体13aの内周面13cから外周面13gまで貫通する。貫通孔13hは、2つのラジアル軸受面13d、13eの間に配される。貫通孔13hは、本体13aのうち油孔13fが形成される側とは反対側に配される。ただし、これに限定されず、貫通孔13hの位置は、本体13aの周方向において油孔13fの位置と異なっていればよい。
【0024】
ベアリングハウジング3には、ピン孔3eが形成される。ピン孔3eは、軸受孔3bのうち貫通孔13hと対向する位置に形成される。ピン孔3eは、軸受孔3bを形成する壁部を貫通する。ピン孔3eは、軸受孔3bの内部空間と外部空間とを連通する。ピン孔3eには、位置決めピン33が挿通される。
【0025】
本実施形態では、ピン孔3eには、位置決めピン33が圧入される。位置決めピン33の先端は、本体13aの貫通孔13hに挿通される。位置決めピン33は、本体13aの回転方向および軸方向の移動を規制する。
【0026】
シャフト15は、大径部15aと、中径部15bと、小径部15cとを備える。大径部15aは、本体13aよりもタービンインペラ17(
図1参照)側に位置する。大径部15aは、円柱形状である。大径部15aの外径は、本体13aの内周面13c(具体的には、ラジアル軸受面13d)の内径より大きい。大径部15aの外径は、本体13aの外周面13gの外径より大きい。ただし、大径部15aの外径は、本体13aの外周面13gの外径と等しくてもよいし、小さくてもよい。大径部15aは、本体13aと軸方向に対向する。大径部15aは、一定の外径を有する。ただし、大径部15aの外径は、一定でなくてもよい。
【0027】
中径部15bは、大径部15aよりもコンプレッサインペラ19(
図1参照)側に位置する。中径部15bは、円柱形状である。中径部15bは、本体13aの挿通孔13bに挿通される。したがって、中径部15bは、径方向において挿通孔13bの内周面13cと対向する。中径部15bは、大径部15aより小さい外径を有する。中径部15bの外径は、本体13aのラジアル軸受面13d、13eの内径より小さい。中径部15bは、一定の外径を有する。ただし、中径部15bの外径は、一定でなくてもよい。
【0028】
小径部15cは、中径部15b(および、本体13a)よりもコンプレッサインペラ19(
図1参照)側に位置する。小径部15cは、円柱形状である。小径部15cは、中径部15bより小さい外径を有する。小径部15cは、一定の外径を有する。ただし、小径部15cの外径は、一定でなくてもよい。
【0029】
小径部15cには、環状の油切り部材35が挿通される。油切り部材35は、シャフト15を伝ってコンプレッサインペラ19側に流れる潤滑油を径方向外側に飛散させる。つまり、油切り部材35は、コンプレッサインペラ19側への潤滑油の漏出を抑制する。
【0030】
油切り部材35は、中径部15bより大きな外径を有する。油切り部材35の外径は、本体13aの内周面13c(具体的には、ラジアル軸受面13e)の内径より大きい。油切り部材35の外径は、本体13aの外周面13gの外径より小さい。ただし、油切り部材35の外径は、本体13aの外周面13gの外径と等しくてもよいし、大きくてもよい。油切り部材35は、本体13aと軸方向に対向する。
【0031】
本体13aは、油切り部材35および大径部15aによって軸方向に挟まれている。本体13aと油切り部材35との間隙には、潤滑油が供給される。本体13aと大径部15aとの間隙には、潤滑油が供給される。
【0032】
シャフト15が軸方向(
図2中、左側)に移動すると、本体13aと油切り部材35との間の潤滑油の油膜圧力によって軸方向の荷重が支持される。シャフト15が軸方向(
図2中、右側)に移動すると、本体13aと大径部15aとの間の潤滑油の油膜圧力によって軸方向の荷重が支持される。つまり、本体13aの軸方向の両端面が、スラスト荷重を受けるスラスト軸受面13i、13jとなっている。
【0033】
本体13aの外周面13gには、ダンパ部13k、13mが形成される。ダンパ部13k、13mは、互いに軸方向に離隔する。ダンパ部13k、13mは、外周面13gのうち軸方向の両端部に形成される。ダンパ部13k、13mの外径は、外周面13gのうち他の部位の外径よりも大きい。ダンパ部13k、13mと軸受孔3bの内周面3fとの間隙には、潤滑油が供給される。潤滑油の油膜圧力によってシャフト15の振動が抑制される。
【0034】
図3は、本実施形態のラジアル軸受面13dの形状を説明するための説明図である。
図3は、本体13aのうちラジアル軸受面13dが形成された部位の、シャフト15の軸方向に垂直な断面図(シャフト15の中心軸O(つまり、挿通孔13bの中心軸)に垂直な断面図)である。ここでは、ラジアル軸受面13dの断面形状について説明する。ラジアル軸受面13eは、ラジアル軸受面13dと大凡等しい形状である。したがって、ラジアル軸受面13eの形状については、説明を省略する。
【0035】
図3に示すように、ラジアル軸受面13dには、複数の円弧面37と、複数の軸方向溝39とが形成される。本実施形態では、ラジアル軸受面13dは、4つの円弧面37と、4つの軸方向溝39を有する。ただし、複数の円弧面37の数と、複数の軸方向溝39の数は、これに限定されない。例えば、複数の円弧面37の数は、2つ、3つ、5つ、あるいは、6つ以上であってもよい。複数の軸方向溝39の数は、2つ、3つ、5つ、あるいは、6つ以上であってもよい。円弧面37の数と軸方向溝39の数は、同数である。ただし、円弧面37の数と軸方向溝39の数は、異なっていてもよい。
【0036】
円弧面37は、曲率中心Aがラジアル軸受面13dの内側(つまり、挿通孔13bの内側)に位置している。円弧面37の曲率中心Aは、シャフト15の中心軸Oと異なる位置にある。複数の円弧面37の曲率中心Aは、互いに異なる位置にある。複数の円弧面37の曲率中心Aは、シャフト15の中心軸Oから径方向に離隔した位置にある。複数の円弧面37の曲率中心Aは、中心軸Oを中心とした同心円上に位置する。複数の円弧面37の曲率中心Aは、本体13aの周方向(以下、単に周方向という)に等間隔に配される。
【0037】
複数の円弧面37は、シャフト15から径方向に離隔している。複数の円弧面37は、本体13a(および、ラジアル軸受面13d)の周方向に互いに隣接して配される。隣接する2つの円弧面37の間には、軸方向溝39が形成される。軸方向溝39は、シャフト15の軸方向に延在する。軸方向溝39の軸方向と垂直な断面は、三角形状である。ただし、これに限定されず、軸方向溝39の軸方向と垂直な断面は、矩形状、半円形状、多角形状であってもよい。
【0038】
軸方向溝39は、ラジアル軸受面13dのうち、2つのラジアル軸受面13d、13e(
図2参照)が近接する側の端部から、2つのラジアル軸受面13d、13eが離隔する側の端部まで延在している。軸方向溝39は、スラスト軸受面13i(すなわち、本体13aの軸方向の端面)に開口している。軸方向溝39は、潤滑油を流通させる。軸方向溝39は、ラジアル軸受面13dに潤滑油を供給する。また、軸方向溝39は、スラスト軸受面13iに潤滑油を供給する。
【0039】
円弧面37は、縮小部37aと、中間部37bと、拡大部37cとを備える。縮小部37aは、円弧面37のうち、シャフト15の回転方向(
図3中、矢印方向)後方側に位置する。中間部37bは、円弧面37のうち周方向の中間(中央)に位置する。拡大部37cは、円弧面37のうち、シャフト15の回転方向前方側に位置する。つまり、縮小部37aは、中間部37bに対し、シャフト15の回転方向後方側に位置する。拡大部37cは、中間部37bに対し、シャフト15の回転方向前方側に位置する。
【0040】
シャフト15と円弧面37との間隔は、中間部37bで最も小さくなる。シャフト15と縮小部37aとの間隔は、シャフト15と中間部37bとの間隔より大きい。シャフト15と縮小部37aとの間隔は、シャフト15の回転方向後方側ほど大きくなる。シャフト15と拡大部37cとの間隔は、シャフト15と中間部37bとの間隔より大きい。シャフト15と拡大部37cとの間隔は、シャフト15の回転方向後方側ほど小さくなる。
【0041】
シャフト15とラジアル軸受面13dとの間の潤滑油は、シャフト15の回転に伴って、シャフト15の回転方向に移動する。このとき、潤滑油は、縮小部37aから中間部37bに向かうにしたがって圧縮される。圧縮された潤滑油は、シャフト15を径方向内側(つまり、ラジアル方向)に押圧する(くさび効果)。これにより、ラジアル方向の荷重がラジアル軸受面13dによって支持される。
【0042】
ラジアル軸受面13dには、複数(ここでは、4つ)の縮小部37aおよび中間部37bが形成される。複数の縮小部37aおよび中間部37bは、ラジアル軸受面13dの周方向に等間隔に配される。シャフト15は、複数の縮小部37aおよび中間部37bにより径方向内側に押圧される。これにより、シャフト15は、セミフローティング軸受13に安定して軸支される。このように、本実施形態のセミフローティング軸受13は、複数の円弧面37を有する多円弧軸受である。それにより、シャフト15を軸支する安定性を向上させることができる。
【0043】
シャフト15を軸支する安定性は、以下の式(4)により表される予圧係数Mpに応じて変化する。なお、予圧係数Mpが0の場合は、ラジアル軸受面13dの横断面形状が仮に真円である場合に相当する。
【0044】
Mp=1-(Ra-Rs)/(Rb-Rs)・・・(4)
【0045】
図3に示すように、式(4)において、Raは中心軸Oと円弧面37との最小距離を示し、Rbは円弧面37の曲率半径を示し、Rsはシャフト15(具体的には、中径部15b)の半径を示す。中心軸Oと円弧面37との最小距離Raは、中心軸Oと中間部37bとの距離に相当する。円弧面37の曲率半径Rbは、中心軸Oと円弧面37との最小距離Raと、中心軸Oから曲率中心Aまでの距離との和に相当する。複数の円弧面37の曲率半径Rbは、互いに等しい。ただし、複数の円弧面37の曲率半径Rbは、互いに異なっていてもよい。
【0046】
実機試験によって、シャフト15の許容回転数(つまり、シャフト15を安定的に軸支できる回転数の限界値)が効果的に向上する予圧係数Mpの範囲が導き出された。以下、実機試験の結果について説明する。
【0047】
本実機試験では、上記の式(1)(Ra/Rs≧1.001)が満たされる条件で、セミフローティング軸受13に挿通されたシャフト15の回転数を徐々に上昇させながらシャフト15の挙動を観察することによって、シャフト15の許容回転数が特定された。ラジアル軸受面13d、13eの寸法(具体的には、円弧面37の曲率半径Rbと曲率中心Aの位置)およびシャフト15の寸法(具体的には、中径部15bの半径Rs)を変更することによって、予圧係数Mpが変更された。様々に異なる予圧係数Mpの各々について、シャフト15の許容回転数が特定された。
【0048】
Ra/Rsは、シャフト15とラジアル軸受面13dとの最小隙間の大きさを示す指標に相当する。シャフト15とラジアル軸受面13dとの最小隙間が過度に小さい場合、シャフト15とラジアル軸受面13dとの間において、潤滑油が不足し、シャフト15を安定的に軸支することが困難となるおそれがある。本実機試験の結果によれば、上記の式(1)(Ra/Rs≧1.001)が満たされる場合に、シャフト15とラジアル軸受面13dとの間での潤滑油の不足を抑制できることがわかった。
【0049】
本実機試験の許容回転数に関する結果を
図4に示す。
図4は、予圧係数Mpと許容回転数比との関係を示す図である。
図4中の許容回転数比は、予圧係数Mpが0である場合(つまり、ラジアル軸受面13dの横断面形状が仮に真円である場合)の許容回転数に対する比率を示す。許容回転数比が大きいほど、シャフト15の許容回転数が高い。
【0050】
図4によれば、予圧係数Mpが0.0から0.8付近までの間の範囲内では、予圧係数Mpの増加に伴って、許容回転数比が上昇している。許容回転数比は、予圧係数Mpが0.8付近で最大となる。予圧係数Mpが0.8付近から1.0までの間の範囲内では、予圧係数Mpの増加に伴って、許容回転数比が下降している。
【0051】
予圧係数Mpが大きいほど、ラジアル軸受面13dの横断面形状が真円よりも正方形に近づくので、縮小部37aにおけるシャフト15の回転方向後方側の端部とシャフト15との間隔が大きくなる。それにより、シャフト15の回転に伴い圧縮された潤滑油によるくさび効果(つまり、シャフト15を径方向内側に押圧する効果)が大きくなり、シャフト15を軸支する安定性が高くなる。一方、予圧係数Mpが過度に大きい場合、シャフト15とラジアル軸受面13dとの間において圧縮された潤滑油が存在する範囲が過度に狭くなる。それにより、ラジアル軸受面13dにおいてラジアル方向の荷重を支持する範囲が過度に狭くなり、シャフト15を軸支する安定性が却って低くなってしまう。よって、
図4に示すように、予圧係数Mpが増加する過程で、許容回転数比は、上昇した後に下降する。
【0052】
図4によれば、予圧係数Mpが以下の式(5)を満たす場合、許容回転数比が1.025を超え、許容回転数が効果的に向上することがわかる。
【0053】
0.6≦Mp≦0.9・・・(5)
【0054】
上記の式(2)((Rb-Ra)/0.9≦(Rb-Rs)≦(Rb-Ra)/0.6)は、式(5)から導き出される。本実施形態のセミフローティング軸受13では、シャフト15の中心軸Oと円弧面37との最小距離Ra、円弧面37の曲率半径Rb、および、シャフト15の半径Rsは、上記の式(1)に加えて上記の式(2)により表される関係を満たす。それにより、シャフト15の許容回転数を向上させることができる。
【0055】
図4によれば、予圧係数Mpが以下の式(6)を満たす場合、許容回転数比が1.045を超え、許容回転数がより効果的に向上することがわかる。
【0056】
0.75≦Mp≦0.85・・・(6)
【0057】
上記の式(3)((Rb-Ra)/0.85≦(Rb-Rs)≦(Rb-Ra)/0.75)は、式(6)から導き出される。シャフト15の中心軸Oと円弧面37との最小距離Ra、円弧面37の曲率半径Rb、および、シャフト15の半径Rsは、上記の式(3)により表される関係を満たすことが好ましい。それにより、シャフト15の許容回転数をより効果的に向上させることができる。
【0058】
本実機試験では、様々に異なる予圧係数Mpの各々について、セミフローティング軸受13における損失が特定された。損失は、セミフローティング軸受13において生じる摩擦損失である。損失は、シャフト15へ入力されるエネルギとシャフト15から出力されるエネルギとを比較することによって、特定された。
【0059】
本実機試験の損失に関する結果を
図5に示す。
図5は、予圧係数Mpと損失比との関係を示す図である。
図5中の損失比は、予圧係数Mpが0である場合(つまり、ラジアル軸受面13dの横断面形状が仮に真円である場合)の損失に対する比率を示す。損失比が小さいほど、セミフローティング軸受13において生じる摩擦損失が小さい。
【0060】
図5によれば、予圧係数Mpが大きいほど、損失比が小さくなることがわかる。予圧係数Mpが大きいほど、シャフト15とラジアル軸受面13dとの間隔(具体的には、シャフト15と縮小部37aとの間隔およびシャフト15と拡大部37cとの間隔)の周方向の平均値が大きくなる。それにより、シャフト15とラジアル軸受面13dとの間における潤滑油の発熱量が小さくなるので、セミフローティング軸受13において生じる摩擦損失が小さくなる。
【0061】
図5によれば、予圧係数Mpが上記の式(5)(0.6≦Mp≦0.9)を満たす場合、損失比が0.90を下回る(特に、予圧係数Mpが0.9である場合には、損失比が0.70を下回る)。予圧係数Mpが上記の式(6)(0.75≦Mp≦0.85)を満たす場合、損失比が0.80を下回る。このように、予圧係数Mpが上記の式(5)または上記の式(6)を満たす場合、損失が効果的に低減されることがわかる。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0063】
上記では、多円弧軸受がセミフローティング軸受13である例について説明した。しかし、これに限定されず、多円弧軸受は、フルフローティング軸受であってもよい。多円弧軸受がフルフローティング軸受である場合、ベアリングハウジング3の軸受孔3bの内周面3fに、互いに異なる曲率中心を有し、周方向に互いに隣接して配される複数の円弧面が形成されてもよい。軸受孔3bの内周面3fに複数の円弧面が形成される場合、フルフローティング軸受の中心軸と当該円弧面との最小距離、当該円弧面の曲率半径、および、フルフローティング軸受の外周面の半径が上記の式(1)および上記の式(2)により表される関係と同様の関係を満たすことが好ましい。この場合、フルフローティング軸受の中心軸と軸受孔3bの円弧面との最小距離が上記の式(1)および上記の式(2)のRaと対応し、当該円弧面の曲率半径が上記の式(1)および上記の式(2)のRbと対応し、フルフローティング軸受の外周面の半径が上記の式(1)および上記の式(2)のRsと対応する。
【符号の説明】
【0064】
13:セミフローティング軸受(多円弧軸受) 13a:本体 13c:内周面 13d:ラジアル軸受面 13e:ラジアル軸受面 15:シャフト 37:円弧面 A:曲率中心 O:中心軸 Ra:シャフトの中心軸と円弧面との最小距離 Rb:円弧面の曲率半径 Rs:シャフトの半径