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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】金属多孔体および金属多孔体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/08 20060101AFI20231003BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C22C1/08 Z
H01M4/80 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020564954
(86)(22)【出願日】2020-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2020017136
(87)【国際公開番号】W WO2021049088
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2019166355
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591174368
【氏名又は名称】富山住友電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土田 斉
(72)【発明者】
【氏名】中川 俊隆
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-305070(JP,A)
【文献】特開2002-338111(JP,A)
【文献】特開2004-214171(JP,A)
【文献】特開2006-179424(JP,A)
【文献】特開2008-170197(JP,A)
【文献】特開2010-015777(JP,A)
【文献】特開2010-280951(JP,A)
【文献】国際公開第2001/006582(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/017252(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0027260(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 6/00
C22C 1/08
H01M 4/66
H01M 4/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元網目状構造の骨格を有する長尺シート状の金属多孔体であって、
欠陥部を備え、
前記欠陥部には、凹部が形成され、
前記欠陥部は、前記骨格の一部が欠損している部分または前記骨格に異物が付着している部分であ
前記凹部では、前記骨格が、前記凹部以外と比較して圧縮されており、
前記長尺シート状の金属多孔体とは異なる平均気孔径を有する金属多孔体の小片をさらに備え、
前記金属多孔体の小片は、前記凹部の少なくとも底部の前記欠陥部の上に重ねられている、金属多孔体。
【請求項2】
前記凹部の開口部の形状は、円形または楕円形である、請求項に記載の金属多孔体。
【請求項3】
三次元網目構造の骨格を有する長尺シート状の金属多孔体を準備する工程と、
前記長尺シート状の金属多孔体の欠陥部に凹部を形成する工程とを備え、
前記欠陥部は、前記骨格の一部が欠損している部分または前記骨格に異物が付着している部分であ
前記凹部では、前記骨格が、前記凹部以外と比較して圧縮されている、金属多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記凹部を形成する工程は、前記欠陥部の上に、前記長尺シート状の金属多孔体とは異なる平均気孔径を有する金属多孔体の小片を重ねて凹部を形成する、請求項に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項5】
三次元網目状構造の骨格を有する長尺シート状の金属多孔体であって、
欠陥部を備え、
前記欠陥部から離間した位置に、前記欠陥部を特定することができるように凹部が形成されており、
前記欠陥部は、前記骨格の一部が欠損している部分または前記骨格に異物が付着している部分であ
前記凹部では、前記骨格が、前記凹部以外と比較して圧縮されている、金属多孔体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属多孔体および金属多孔体の製造方法に関する。本出願は、2019年9月12日に出願した日本特許出願である特願2019-166355号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
三次元網目状構造の骨格を有するシート状の金属多孔体は、耐熱性を必要とするフィルターや、電池用極板、触媒担持体、及び金属複合材など様々な用途に利用されている。例えば、ニッケル製の金属多孔体であるセルメット(住友電気工業株式会社製:登録商標)は、ニッケル水素電池等のアルカリ蓄電池の電極や、工業用脱臭触媒の担体等、様々な産業分野で広く採用されている。また、アルミニウム製の金属多孔体であるアルミセルメット(住友電気工業株式会社製:登録商標)は、有機電解液中でも安定であるため、リチウムイオン電池の正極として用いることが可能である。
【0003】
金属多孔体の製造方法としては、樹脂多孔体の骨格の表面を導電化処理した後、電気めっき処理によって当該樹脂多孔体の骨格の表面に金属めっきを施し、続いて当該樹脂多孔体を除去することによって製造することができる(例えば、特開平05-031446号公報(特許文献1)や、特開2011-225950号公報(特許文献2)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平05-031446号公報
【文献】特開2011-225950号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る金属多孔体は、三次元網目状構造の骨格を有する長尺シート状の金属多孔体であって、欠陥部を備える。欠陥部には、凹部が形成されている。欠陥部は、骨格の一部が欠損している部分または骨格に異物が付着している部分である。
【0006】
本開示の一態様に係る金属多孔体の製造方法は、三次元網目構造の骨格を有する長尺シート状の金属多孔体を準備する工程と、長尺シート状の金属多孔体の欠陥部に凹部を形成する工程とを備える。欠陥部は、骨格の一部が欠損している部分または骨格に異物が付着している部分である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本開示の実施形態に係る金属多孔体の一例の概略を表す図である。
図2図2は、本開示の実施形態に係る金属多孔体の一例の断面写真である。
図3図3は、本開示の実施形態に係る金属多孔体の一例の、部分断面の概略を表す拡大図である。
図4図4は、図1に示す金属多孔体における凹部Rの一例の、A-A線部分断面の概略を表す拡大図である。
図5図5は、図1に示す金属多孔体における凹部Rの別の一例の、A-A線部分断面の概略を表す拡大図である。
図6図6は、本開示の実施形態に係る金属多孔体の一例の、欠陥部を含む所定領域を除去するための切断部を示す概略図である。
図7図7は、本開示の実施形態に係る金属多孔体の一例の、異物が付着した位置から離間した位置に凹部Rが形成された状態を示す概略図である。
図8図8は、従来の長尺状の金属多孔体の製造方法において、欠陥部を除去するための切断部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
金属多孔体を工業的に大量生産する場合には、基材として長尺シート状の樹脂成形体を用いて連続的に製造されている。長手方向の長さが数百メートルに及ぶ金属多孔体を製造するに際しては、その全長に亘って欠陥部が一切ない金属多孔体を製造することは非常に困難であり、種々の要因により、百メートル当たりに数箇所程度の欠陥部が発生してしまう。
【0009】
例えば、基材として用いた樹脂成形体の骨格の一部に傷や欠損等が存在していた場合には、その部分に良好な金属めっきを形成することがでないため、金属多孔体の骨格にも傷ができたり、骨格の欠損によるピンホールができたりしてしまう。このような欠損部の骨格は強度が弱いため、そのままの状態で金属多孔体を製品として使用すると、使用条件によってはその部分から亀裂が伸展して、場合によっては金属多孔体が裂けてしまうことも有り得る。
【0010】
また、金属多孔体の製造時には、骨格に意図せぬ異物が付着してしまう場合もある。金属多孔体を電池の電極等に使用する場合には、異物が付着した状態のままでは活物質の充填を行うことができないため、異物を除去する必要がある。
【0011】
金属多孔体に上記のような骨格の欠損や異物の付着といった欠陥部が発生してしまった場合、従来は図8に示すように、欠陥部(欠損部Pおよび異物Q)の近傍の上流側と下流側に切断部位Cを定め、短手方向Yに略平行に金属多孔体80を切断することにより欠陥部の除去が行われている。そして、切断された金属多孔体の端部同士を接続することによって、欠陥部を含まない金属多孔体が製造されている。
【0012】
しかしながら、上記のようにして欠陥部の除去を行うと、欠損部Pや異物Qが占める領域はほんの僅かであるにも拘らず、金属多孔体80の短手方向Yの全幅を切断してしまうため、製造ロスが大きいという問題がある。また、例えば、欠陥部の除去が行われた金属多孔体80を電池用電極として用いるために活物質の充填が行われる場合に、接続部において金属多孔体80の構造が他の部分と異なるため、製造ロスとなる場合がある。
【0013】
金属多孔体に骨格の欠損部や異物の付着などの欠陥部が検出された場合には、金属多孔体にパンチ穴(金属多孔体の主面を貫く円形の穴)を開けて欠陥部を除去してしまう(くり抜いてしまう)方法もある。また、パンチ穴によって欠陥部をくり抜くのではなく、欠陥部の近傍にパンチ穴を形成することで金属多孔体上の欠陥部の位置をマーキングしておき、その後、適当なタイミングで上記のように金属多孔体を切断して欠陥部を除去する方法もある。
【0014】
しかしながら、金属多孔体にパンチ穴を開けると、その部分から亀裂が伸展し、場合によっては金属多孔体が裂けてしまうこともあり得た。さらに、金属多孔体のパンチ穴を開けた部分にはバリが出来てしまい、金属多孔体の搬送時にバリが作業台に引っかかって異物が脱落したり、周囲に飛散したりしてしまう可能性もあった。
【0015】
そこで本開示は、金属多孔体の製造時に発生した欠陥部を含む所定領域を除去可能なようにマーキングされた金属多孔体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0016】
[本開示の効果]
本開示によれば、金属多孔体の製造時に発生した欠陥部を含む所定領域を除去可能なようにマーキングされた金属多孔体およびその製造方法を提供することができる。
【0017】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0018】
(1)本開示の一態様に係る金属多孔体は、三次元網目状構造の骨格を有する長尺シート状の金属多孔体は、欠陥部を備える。欠陥部には、凹部が形成されている。欠陥部は、骨格の一部が欠損している部分または骨格に異物が付着している部分である。
【0019】
上記(1)に記載の開示の態様によれば金属多孔体の製造時に発生した欠陥部を含む所定領域を除去可能なようにマーキングされた金属多孔体を提供することができる。
【0020】
なお、本開示の実施形態に係る金属多孔体において、欠陥部とは、金属多孔体の骨格の一部が欠損してしまった部分、または金属多孔体の骨格に意図せぬ異物が付着してしまった部分のことをいうものとする。
(2)上記(1)に記載の金属多孔体は、長尺シート状の金属多孔体とは異なる平均気孔径を有する金属多孔体の小片をさらに備え、金属多孔体の小片は、凹部の少なくとも底部の欠陥部の上に重ねられていることが好ましい。
【0021】
上記(2)に記載の開示の態様によれば、欠陥部を含む金属多孔体の引張強さをより大きくすることができる。また、欠陥部に異物が付着している場合に、当該異物が脱落したり飛散したりしないようにすることができる。
(3)上記(1)または上記(2)に記載の金属多孔体は、凹部の開口部の形状が、円形または楕円形であることが好ましい。
【0022】
上記(3)に記載の開示の態様によれば、凹部が形成されていても割れや破断がより発生しにくい金属多孔体を提供することができる。
(4)本開示の実施形態に係る金属多孔体の製造方法は、三次元網目構造の骨格を有する長尺シート状の金属多孔体を準備する工程と、長尺シート状の金属多孔体の欠陥部に凹部を形成する工程とを備える。欠陥部は、骨格の一部が欠損している部分または骨格に異物が付着している部分である。
【0023】
上記(4)に記載の開示の態様によれば、金属多孔体の製造時に発生した欠陥部を含む所定領域を除去可能なようにマーキングされた金属多孔体を製造する方法を提供することができる。
(5)上記(4)に記載の金属多孔体の製造方法は、凹部を形成する工程において、欠陥部の上に、長尺シート状の金属多孔体とは異なる平均気孔径を有する金属多孔体の小片を重ねて凹部を形成することが好ましい。
【0024】
上記(5)に記載の開示の態様によれば、欠陥部を含む金属多孔体の引張強さがより大きい金属多孔体の製造方法を提供することができる。また、金属多孔体の欠陥部に異物が付着している場合には、当該異物が脱落したり飛散したりしない金属多孔体の製造方法を提供することができる。
(6)本開示の実施形態に係る金属多孔体は、三次元網目状構造の骨格を有する長尺シート状の金属多孔体であって、欠陥部を備える。欠陥部から離間した位置に、欠陥部を特定することができるように凹部が形成されている。欠陥部は、骨格の一部が欠損している部分または骨格に異物が付着している部分である。
【0025】
上記(6)に記載の開示の態様によれば、欠陥部を含む所定領域を除去可能なように凹部によってマーキングされた金属多孔体を提供することができる。また、凹部にはバリが無いため、所定領域を切断する際に、作業台と金属多孔体との間でひっかかりが生じずスムーズに作業を行なうことができる。
【0026】
[本開示の実施態様の詳細]
以下に、本開示の実施態様に係る金属多孔体および金属多孔体の製造方法の具体例を、より詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0027】
<金属多孔体>
以下、図を参照しながら、本開示の実施形態に係る金属多孔体10の各構成を詳細に説明する。
【0028】
図1に本開示の実施形態に係る金属多孔体10の一例の概略を示す。また、図1に示す金属多孔体10の、三次元網目状構造の骨格11を写した拡大写真を図2に示し、図2に示す金属多孔体10の断面を拡大視した拡大模式図を図3に示す。
【0029】
金属多孔体10は、図1に示すように、三次元網目状構造の骨格11を有しており、全体として長尺シート状の外観を有している。三次元網目状構造の骨格11によって形成されている気孔部14は、金属多孔体10の表面から内部まで連なるように形成された連通気孔となっている。
【0030】
図3に示すように、金属多孔体10の骨格11は典型的には、金属または合金による膜12によって構成されており、骨格11の内部13は中空になっている。また、骨格11によって形成されている気孔部14は、前述のように連通気孔となっている。
【0031】
金属多孔体10の骨格11は、金属または合金による膜12によって構成されていればよい。骨格11を構成する金属としては、例えば、ニッケル、アルミニウムまたは銅等が挙げられる。また、骨格11を構成する合金としては、上記の金属に他の金属が不可避的または意図的に添加されることによって合金化されたものを挙げることができる。
【0032】
長尺シート状の金属多孔体10の長手方向Xの長さは特に限定されるものではなく、例えば、60m以上600m以下程度のものが挙げられる。また、金属多孔体10の短手方向Yの長さも特に限定されるものではなく、金属多孔体10の使用用途に応じて適宜変更すればよい。なお、金属多孔体10の短手方向Yは、金属多孔体10の長手方向Xおよび厚み方向Zと直交する方向である(図1参照)。
【0033】
金属多孔体10の厚みは、金属多孔体10の利用用途に応じて適宜選択すればよい。金属多孔体10の厚みは、例えば、デジタルシックネスゲージによって測定が可能である。多くの場合、厚みを0.1mm以上3.0mm以下とすることで、軽量でかつ強度が高い金属多孔体とすることができる。これらの観点から、金属多孔体10の厚みは、0.2mm以上2.5mm以下とすることがより好ましく、0.3mm以上2.0mm以下とすることが更に好ましい。
【0034】
金属多孔体10の平均気孔径は、金属多孔体10の利用用途に応じて適宜選択すればよい。なお、金属多孔体10の平均気孔径とは、金属多孔体10の表面を顕微鏡等で少なくとも10視野観察し、1インチ(25.4mm=25400μm)あたりのセル(気孔部14)の平均の数(nc)を求め、次式で算出されるものをいうものとする。
【0035】
平均気孔径(μm)=25400μm/nc
なお、セル数の測定は、JIS K6400-1:2004 附属書1(参考)による軟質発泡材料のセル数の求め方に準じて行うものとする。
【0036】
例えば、金属多孔体10を電池の集電体として用いる場合には、金属多孔体10の平均気孔径は、気孔部14に充填する活物質の充填量および利用量が好適となる範囲にすればよい。また、金属多孔体10をフィルターとして用いる場合には、捕集対象の粒子のサイズに応じて平均気孔径が選択される。
【0037】
なお、多くの場合、平均気孔径を100μm以上2000μm以下とすることで、軽量でかつ強度が高い金属多孔体とすることができる。これらの観点から、金属多孔体10の平均気孔径は、200μm以上1300μm以下とすることがより好ましく、250μm以上900μm以下とすることが更に好ましい。
【0038】
金属多孔体10の気孔率は、金属多孔体10の利用用途に応じて適宜選択すればよい。金属多孔体10の気孔率は次式で定義される。
【0039】
気孔率(%)=[1-{Mp/(Vp×dp)}]×100
Mp:金属多孔体の質量[g]
Vp:金属多孔体における外観の形状の体積[cm
dp:金属多孔体を構成する金属の密度[g/cm
例えば、金属多孔体10を電池の集電体として用いる場合に、金属多孔体10の気孔率は、気孔部14に充填する活物質の充填量および利用量が好適となる範囲にすればよい。
【0040】
また、多くの場合、気孔率を90%以上98%以下程度とすることで、軽量でかつ強度が高い金属多孔体とすることができる。また、金属多孔体の用途によっては、気孔率が90%以上98%以下程度の金属多孔体を、1/10程度の厚みにまでに圧縮し、気孔率が50%以上の金属多孔体とすることもできる。
【0041】
本開示の実施形態に係る金属多孔体10は、図1に示すように、製造時に発生した欠陥部に凹部Rが形成されている。一般に、三次元網目状構造の骨格を有する長尺シート状の金属多孔体は、サイズが大きければ大きいほど、種々の原因により欠陥部が存在し得る。例えば、金属多孔体の製造時に基材として用いた樹脂成形のシート(例えば、ウレタンシート等)の骨格の一部が欠損していた場合には、その部分には金属めっきが形成されないため、金属多孔体10にも骨格の一部が欠損したピンホールが形成されてしまう。また、金属多孔体10の骨格の表面の一部に意図せぬ異物が付着してしまう場合もある。本開示の実施形態に係る金属多孔体10は、このような骨格の欠損や異物の付着といった欠陥部ができてしまった場所に凹部Rが形成されている。
【0042】
図4に、図1に示す金属多孔体10における凹部Rの一例の、A-A線部分断面の概略の拡大図を示す。
【0043】
図4に示すように、凹部Rは金属多孔体10の製造時に発生した欠損部Pを押しつぶすように形成されている。多くの場合、欠損部Pは、金属多孔体10の骨格11の一部に割れやヒビ、欠損が発生することによって形成されている。このため、欠損部Pに何も対処をしないまま金属多孔体を製品として使用し、その際に金属多孔体に応力が加わると、場合によっては割れやヒビが広がって金属多孔体が破断してしまうことも有り得る。これに対して本開示の実施形態に係る金属多孔体10は、欠陥部である欠損部Pに凹部Rが形成されているため、欠損部Pの近傍の骨格11が圧縮されて金属密度が高まり、骨格の強度が他の部分に比べて大きくなっている。これにより、欠陥部が補強されてその近傍での金属多孔体10の引張強さが大きくなり、欠陥部の近傍に応力が加わっても骨格11のヒビや割れが広がらないようにすることができる。
【0044】
図5に、図1に示す金属多孔体10における凹部Rの別の一例の、A-A線部分断面の概略の拡大図を示す。
【0045】
図5に示す凹部Rは、金属多孔体10とは異なる平均気孔径を有する金属多孔体20の小片が重ねられて形成されたものである。凹部Rの底部が、金属多孔体10と金属多孔体20とによって構成されていることにより、金属多孔体の欠陥部近傍の引張強さをより大きくすることができる。また、欠陥部には異物Q(図5には不図示)が付着している場合もあるが、その場合には、異物Qを両金属多孔体(10、20)で挟み込んで、異物Qが脱落したり飛散したりしないようにすることができる。上述のように従来は、異物が付着した欠陥部またはその近傍にパンチ穴を形成して欠陥部を除去したり、マーキングしたりする場合もあった。しかしながら金属多孔体にパンチ穴を開けると、パンチ穴を形成した部分に亀裂が生じ易くなり、場合によっては金属多孔体が裂けてしまうこともあり得た。さらに、金属多孔体のパンチ穴を形成した部分にバリが出来てしまい、金属多孔体の搬送時にバリが作業台に引っかかって異物が脱落したり、周囲に飛散したりしてしまう可能性があった。これに対して図5に示す凹部Rを有する金属多孔体は、凹部Rの形成時に骨格11が圧縮されて変形しているため、凹部Rの底部においては気孔部14が押し潰されて金属密度が高まっており、異物は圧縮された金属多孔体10と金属多孔体20との間に挟まれて閉じ込められた状態となっている。
【0046】
また、金属多孔体10の平均気孔径と金属多孔体20の平均気孔径とが異なることにより、金属多孔体20が金属多孔体10から剥がれ難くすることができる。これは、金属多孔体10と金属多孔体20の平均気孔径が異なる方が、凹部Rの形成時に、金属多孔体10と金属多孔体20の接触部においてお互いの骨格11同士がよく絡み合った状態で押し潰されるためである。
【0047】
例えば、金属多孔体10の平均気孔径が200μm以上1300μm以下程度の場合には、金属多孔体20の平均気孔径は250μm以上900μm以下程度であることが好ましい。
【0048】
凹部Rの形状は特に限定されるものではないが、金属多孔体10を厚み方向Zから見た場合に凹部Rの開口部の形状が円形または楕円形であることが好ましい。凹部Rの開口部の形状が円形または楕円形であることにより、搬送時等において金属多孔体10に力が加えられた場合に、凹部Rに応力が集中して亀裂や破断が発生することを抑制することができる。
【0049】
凹部Rの開口部の大きさは特に限定されるものではないが、欠損部Pによる亀裂や破断の発生や、異物Qの脱落を抑制する観点からは、欠陥部の全域が凹部Rの底部に位置するように凹部Rが形成されていることが好ましい。
【0050】
凹部Rの深さは特に限定されるものではなく、金属多孔体10の凹部Rの厚みZが金属多孔体10の厚みZよりも薄くなっていればよい。例えば、凹部Rにおける金属多孔体10の厚みZは、他の部分における金属多孔体10の厚みZの、10%以上75%以下程度であることが好ましい。これにより、欠陥部の周囲の金属多孔体10の強度を高めることができる。厚みZは、厚みZの15%以上50%以下であることがより好ましく、20%以上35%以下であることが更に好ましい。
【0051】
また、凹部Rの断面の形状は、図4および図5に示すように、壁部が垂直に起立しているのではなく、底部から開口部に向けて広がるようにテーパー状に形成されていることが好ましい。さらに、開口部の端部(金属多孔体10の主面と壁部との境界付近)は断面形状が曲線状になっていることが好ましい。これにより、例えば、金属多孔体10を電池用電極として用いる場合に、金属多孔体10の気孔部14に活物質を充填する工程で、凹部Rを起点として金属多孔体10が破断してしまう可能性を低減することができる。
【0052】
上述のように、本開示の実施形態に係る金属多孔体10は、欠陥部が凹部Rによって補強されているため、搬送時等において亀裂が生じる心配がない。このため、例えば、金属多孔体10を電池の電極として用いる場合に、凹部Rを予め除去せずに活物質の充填作業を行うことができる。また、欠陥部に異物が付着していた場合には、図5に示すように、金属多孔体20が重なった状態で凹部Rが形成されていることにより、活物質の充填時においても異物が脱落したり飛散したりしないようにすることができる。
【0053】
凹部Rが除去されていない状態で金属多孔体10に活物質の充填を行うと、凹部Rの底部は骨格11が押し潰されていて気孔部14が小さくなっているため、金属多孔体の他の部分と比べて活物質の充填量に差が生じる。このため、活物質の充填後においても凹部Rを容易に検出することができる。活物質が充填された金属多孔体は、作製する電極の大きさに合わせて切断される。
【0054】
図6に金属多孔体10の切断例を示す。図6においては破線が切断部位を示している。金属多孔体10を切断した後に、凹部Rを含む切断片を取り除くことで、欠陥部を含まない製品が出来上がる。なお、活物質を充填する前に、金属多孔体10の切断部位が決まっている場合には、凹部Rを含む部分のみを先に切断除去してから活物質の充填を行ってもよい。
【0055】
このように、本開示の実施形態に係る金属多孔体10は凹部Rを含む切断片を取り除くだけでよいため、従来の短手方向Yの全幅が切断された金属多孔体に比べて目的物の製造ロスを小さくすることができる。
【0056】
長尺シート状の金属多孔体を製造すると、上述のように低頻度ではあるが異物が付着している場合がある。このような異物が付着した部分は、当該異物を含む所定領域を除去したり、異物が脱落しないように他の金属多孔体20を貼り合わせたりする必要がある。いずれの場合においても異物が付着した部分を処置可能なようにマーキングしておくことが好ましい。
【0057】
本開示の実施形態に係る金属多孔体は、欠陥部から離間した位置に凹部Rを形成することによって、欠陥部が分かるようにマーキングすることも可能である。凹部Rを形成する位置や数は特に限定されるものではないが、例えば、欠陥部として欠損部Pが形成されている位置を中心として直線状に等間隔に離間した2箇所に凹部Rを設けると、欠損部Pの位置が分かり易くなり好ましい。すなわち、この場合には2つの凹部Rを結ぶ線状の中心に欠損部Pが存在していることになる。
【0058】
図7に、金属多孔体10の骨格に生じてしまった欠損部Pが当該欠損部から離間した位置に形成された凹部Rによってマーキングされた例を示す。金属多孔体10には、欠損部Pから短手方向Yに離間した位置に凹部Rが形成されている。図7に示す例では欠損部Pから短手方向Yに離間した位置に凹部Rを形成しているが、凹部Rは、欠損部Pから長手方向Xに離間した位置に形成しても構わない。凹部Rの数は1つでもよいし、2つ以上でもよい。図7に示す例では、欠損部Pを中心として、欠損部Pを挟むようにして短手方向Yの両側(上流側と下流側)に2つの凹部Rが形成されている。これにより、2つの凹部Rを結ぶ線上の略中心部に欠損部Pが存在していることが分かり易くなり、作業時に注意を払い易くなる。
【0059】
凹部Rには、バリが形成されていない。このため、例えば、欠損部Pを含む所定領域を切断除去する工程において、金属多孔体10と作業台と間にひっかかりが生じずスムーズに作業を行うことができ、金属多孔体に亀裂を生じさせずに作業を行うことができる。なお、バリとは、金属多孔体の厚み方向Zと直交する方向から金属多孔体10を観察した場合に、金属多孔体10の主面から金属多孔体10の骨格が飛び出ている領域のことをいうものとする。
【0060】
金属多孔体の欠陥部から離間した位置に形成する凹部Rの形状は特に限定されるものではなく、例えば、円形や楕円形のように、上述の欠陥部に形成する凹部Rと同様の形状とすればよい。
<金属多孔体の製造方法>
以下に本開示の実施形態に係る金属多孔体の製造方法を説明する。
【0061】
本開示の実施形態に係る金属多孔体の製造方法は、三次元網目状構造の骨格を有する長尺シート状の金属多孔体10の欠陥部に凹部Rを形成する工程、を有する。凹部Rを形成する方法は特に限定されるものではなく、金属多孔体10に発見された欠陥部を圧縮し、欠陥部が凹部Rの底部に位置するようにできる方法であればよい。例えば、端部が略平坦な棒状の治具を欠陥部に押し当てて座押しすることにより凹部Rを形成する方法が挙げられる。欠陥部が比較的大きく、棒状の治具の端部の面積からはみ出る場合には、複数の凹部Rを連続して形成し、欠陥部の全域が凹部Rの底部に位置することとなるようにすることが好ましい。
【0062】
上記の凹部Rを形成する工程においては、欠陥部の上に、長尺シート状の金属多孔体10とは異なる平均気孔径を有する金属多孔体20の小片を重ねて凹部Rを形成することが好ましい。これにより、図5に示す様な、凹部Rの底部が金属多孔体10と金属多孔体20とによって構成される金属多孔体10を製造することができる。
【0063】
金属多孔体20の大きさは特に限定されるものではないが、欠陥部の全域を覆うことができる大きさであることが好ましい。また、金属多孔体20の厚みは特に限定されるものではなく、金属多孔体10と同程度の厚みのものを用いることができる。
【0064】
また、凹部Rは、金属多孔体10の欠陥部から離間した位置に形成してもよい。この場合には、欠陥部を略中心として、直線状に等間隔に離間した2箇所に形成ることが好ましい。直線の方向は、短手方向Yであってもよいし、長手方向Xであってもよい。
【実施例
【0065】
以下、実施例に基づいて本開示をより詳細に説明するが、これらの実施例は例示であって、本開示の梱包体およびその製造方法はこれらに限定されるものではない。本開示の範囲は請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0066】
[実施例1]
金属多孔体10として、住友電気工業株式会社製のセルメットNo.1(ニッケル製、気孔率98%、平均気孔径600μm、厚み1.0mm、長手方向の長さ100m、短手方向の長さ200mm)を用意した(「セルメット」は住友電気工業株式会社の登録商標である)。セルメットNo.1には、骨格11の一部が欠損することによりピンホールが形成された欠損部Pは検出されなかったが、骨格11に異物Qが付着することにより形成された欠陥部が3ヶ所検出された。
【0067】
異物Qが付着した3ヶ所の欠陥部には、以下のようにして凹部Rを形成した。
まず、金属多孔体20として、直径が約10mmで、厚みが1.0mmに切り出されたセルメットの小片(住友電気工業株式会社製、ニッケル製、気孔率98%、平均気孔径500μm)を用意した。そして、異物Qが付着した欠陥部に上記のセルメットの小片を重ね、棒状の治具を押し当てて座押することにより、図5に示すような円形の凹部Rを形成した。凹部Rの形状は、深さ(Z-Z図5参照)が0.7mmであり、開口部の直径が約10mmであった。また、図5に示すように、凹部Rの壁部は、底部から開口部に向けて広がるようにテーパー状に形成されていた。
【0068】
[実施例2]
金属多孔体10として、実施例1と同様のセルメットNo.2を用意した。セルメットNo.2には骨格11の一部が欠損することによりピンホールが形成された欠損部Pが3ヶ所検出されたが、異物Qが付着することにより形成された欠陥部は検出されなかった。
【0069】
ピンホールが形成された3ヶ所の欠陥部(欠損部P)に、棒状の治具を押し当てて座押することで円形の凹部Rを形成した。凹部Rの形状は、深さ(Z-Z図4参照)が0.7mmであり、開口部の直径が約10mmであった。また、図4に示すように、凹部Rの壁部は、底部から開口部に向けて広がるようにテーパー状に形成されていた。
【0070】
[実施例3]
金属多孔体10として、実施例1と同様のセルメットNo.3を用意した。セルメットNo.3には骨格11の一部が欠損することによりピンホールが形成された欠損部Pが2ヶ所検出されたが、異物Qが付着することにより形成された欠陥部は検出されなかった。
【0071】
ピンホールが形成された2ヶ所の欠陥部(欠損部P)に、実施例1と同様に金属多孔体20を用いて凹部Rを形成した。
【0072】
[実施例4]
金属多孔体10として、実施例1と同様のセルメットNo.4を用意した。セルメットNo.4には骨格11の一部が欠損することによりピンホールが形成された欠損部Pが3ヶ所検出されたが、異物Qが付着することにより形成された欠陥部は検出されなかった。
【0073】
ピンホールが形成された3ヶ所の欠陥部について、図7に示すように、それぞれの欠陥部(欠損部P)を略中心として短手方向Yの両側に離間した位置に凹部Rを形成した。凹部Rは実施例2と同様にして形成した。
【0074】
[比較例1]
金属多孔体10として、実施例1と同様のセルメットNo.5を用意した。セルメットNo.5には、欠陥部として異物Qが付着することにより形成された欠陥部が3ヶ所検出された。この欠陥部(異物Qが付着した位置)に開口部の直径が約10mmのパンチ穴を開けて、異物Qが付着した欠陥部を除去した。
【0075】
[比較例2]
金属多孔体10として、実施例1と同様のセルメットNo.6を用意した。セルメットNo.6には、欠陥部として、ピンホールが形成された欠損部Pが3ヶ所検出された。この欠陥部(欠損部P)に開口部の直径が約10mmのパンチ穴を開けて、欠陥部を除去した。
【0076】
[比較例3]
金属多孔体10として、実施例1と同様のセルメットNo.7を用意した。セルメットNo.7には、欠陥部として、ピンホールが形成された欠損部Pが2ヶ所検出された。この欠陥部(欠損部P)について、それぞれの欠陥部を略中心として短手方向Yの両側に離間した位置に、直径約10mmのパンチ穴を形成した。
【0077】
-評価-
(搬送)
実施例1~実施例4および比較例1~3において作製したセルメットNo.1~No.7をロールから繰り出して水平方向に搬送し、別のロールに巻き取った。搬送の最中の各セルメットを確認したところ、セルメットNo.1~No.4の各凹部Rには変化が見られなかったが、セルメットNo.5~No.7のパンチ穴の一部には亀裂の拡がりが確認された。これは搬送時に金属多孔体に加わるテンションにより、骨格が弱くなったパンチ穴部に亀裂が生じたものと考えられる。
【0078】
(活物質の充填)
実施例1~実施例4および比較例1~比較例3において作製したセルメットNo.1~No.7の気孔部に、蓄電デバイス(リチウムイオン二次電池)の電極(正極)用の活物質を充填した。活物質としては、LiCoO粉末、アセチレンブラック(導電助剤)およびPVDF(バインダー)を質量比で88:6:6となるように混合した混合物をNMPに添加してスラリーとしたものを用いた。活物質の充填は、このスラリーに各セルメットを浸漬することにより行なった。活物質を充填した後、各セルメットを乾燥炉に通してNMPを除去し、乾燥させた。
【0079】
活物質を充填した後に各セルメットを確認したところ、全てのセルメットについて凹部Rもしくはパンチ穴の位置をすぐに発見することができた。そこで、凹部Rおよびパンチ穴の状態を確認したところ、セルメットNo.1~No.4の欠陥部またはその近傍に形成された凹部Rには変化がみられなかったが、セルメットNo.5~No.7のパンチ穴には亀裂の広がりが確認された。また、セルメットNo.1の異物Qが付着した部分に形成された凹部Rを確認したところ、異物Qの脱落は確認されなかった。セルメットNo.7に形成した2つのパンチ穴を結ぶ直線上の略中心付近を確認したところ、欠損部Pに亀裂の広がりが確認された。
【0080】
(欠陥部の除去)
セルメットNo.1~No.7の凹部Rが形成された部分を作業台に載せ、欠陥部が存在する部分を含む所定領域を切断除去した。この際、セルメットNo.1~No.4の凹部にはバリがないため、各セルメットは作業台にひっかからず、上記の所定領域の切断除去作業をスムーズに行うことができた。また、作業時に欠損部Pに変化はなく、さらに、異物Qが脱落したり、周囲に飛散したりしないようにすることができた。
【0081】
一方、セルメットNo.5~No.7のパンチ穴を形成した部分にはバリが形成されていたため、作業時にバリが作業台にひっかかってしまい作業がし難く、また、振動によりパンチ穴や欠損部Pに亀裂の広がりが確認された。
【符号の説明】
【0082】
10 金属多孔体、11 骨格、12 金属または合金による膜、13 骨格の内部、14 気孔部、20 金属多孔体の小片、80 金属多孔体、P 欠損部、Q 異物、R凹部、X 金属多孔体の長手方向、Y 金属多孔体の短手方向、Z 金属多孔体の厚み方向。
図1
図2
図3
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図8