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特許7359358神経疾患の予防及び治療に使用するためのポリケチド化合物及びその誘導体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】神経疾患の予防及び治療に使用するためのポリケチド化合物及びその誘導体
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/365 20060101AFI20231003BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20231003BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231003BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231003BHJP
   C07C 313/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
A61K31/365
A23L33/10
A61P25/00
A61P25/28
C07C313/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020529299
(86)(22)【出願日】2018-11-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2018082629
(87)【国際公開番号】W WO2019105905
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-11-24
(31)【優先権主張番号】17204659.1
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520223240
【氏名又は名称】グリアファーム エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】バロン, デニス, マーセル
(72)【発明者】
【氏名】シクレット, オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】グラン-ギル-ローム-ペレノウド, アレキサンドル
(72)【発明者】
【氏名】ナランジョ ピンタ, マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ラティノー, ヤン
(72)【発明者】
【氏名】テヴネ, ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィーダーケール, アンドレアス
【審査官】篭島 福太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0051780(US,A1)
【文献】特表2010-519290(JP,A)
【文献】国際公開第2011/061667(WO,A1)
【文献】特開平8-183733(JP,A)
【文献】特表2013-510900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/365
A23L 33/10
A61P 25/00
A61P 25/28
C07C 313/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合物A:

含む、組成物
【請求項2】
ヒト高齢者個体又はヒト老齢者個体における神経疾患の予防若しくは治療、記憶機能障害の予防若しくは治療、又は認知機能障害からの保護に使用するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、医薬組成物又は栄養補助組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の組成物で強化した食品又は食品抽出物。
【請求項5】
個体における老化時の神経疾患の予防若しくは治療及び/又は記憶機能の改善のための製品の調製における、請求項1に定義された化合物の使用。
【請求項6】
ダイエット食品の調製における請求項1に定義された化合物の使用。
【請求項7】
前記神経疾患が、嗜癖;くも膜嚢胞;注意欠陥/多動性障害(ADHD);自閉症;双極性障害;強硬症;抑うつ症;脳炎;てんかん/発作;感染症;とじ込め症候群;髄膜炎;片頭痛;多発性硬化症;ミエロパシー;並びに、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、及びトゥレット症候群などの神経変性障害から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
前記神経疾患が、嗜癖;くも膜嚢胞;注意欠陥/多動性障害(ADHD);自閉症;双極性障害;強硬症;抑うつ症;脳炎;てんかん/発作;感染症;とじ込め症候群;髄膜炎;片頭痛;多発性硬化症;ミエロパシー;並びに、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、及びトゥレット症候群などの神経変性障害から選択される、請求項5に記載の使用。
【請求項9】
ヒト高齢者個体又はヒト老齢者個体におけるアストロサイトからの乳酸分泌を促進するための製品の調製における、請求項1に定義される化合物Aの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経疾患の予防及び治療に使用するためのポリケチド化合物及びその誘導体に関する。
【発明の詳細な説明】
【0002】
イントロダクション
ニューロン及び神経膠細胞機能に関連する多くのプロセスが大量のエネルギーをATPの形態で必要とすることから、脳は、エネルギー需要器官である。ニューロンにおける、電気活性、細胞膜を隔てたイオン勾配の回復、並びにシナプス伝達は、高レベルのエネルギー供給を必要とする生物学的プロセスの例である。ニューロンがグリコーゲンを貯蔵せず、かつ代替的な栄養源として脂肪を酸化することができないため、脳はグルコースの持続的な供給に強く依存する。
【0003】
グルコース代謝は、ATP、NADH、及び2つの最終生成物であるピルビン酸又は乳酸のいずれかを形成する解糖経路において開始される。第2工程では、ATP分子の大部分の合成を開始し、エネルギーホメオスタシスを維持するために、ミトコンドリアマトリックスにおけるピルビン酸の酸化が必要である。中枢神経系の細胞が有する、十分な量のエネルギーを生成するという能力は、脳機能に不可欠である。老化している脳では、グルコース代謝が低減しており、この低減が加齢による認知機能の低下を説明し得る。グルコースの代謝低下はまた、臨床症状が検出されるよりもかなり前の、アルツハイマー病を発症するリスクがある個体で観察されている。脳エネルギー代謝を改善する介入は、通常の老化時の認知機能の低下又は神経疾患を予防するためのアプローチとして使用できる。
【0004】
ニューロンは、グルコースの他、アミノ酸(主にグルタメート及びグルタミン)、ケトン体、乳酸、及びピルビン酸などの他の栄養分を酸化することができる。例えば、空腹時には、空腹から飢餓へと移行していく中で、ケトン体は段々とグルコースに代わる重要な栄養源として機能する。乳酸は、特に重要なミトコンドリア基質である。乳酸は脱水素されてピルビン酸となる。ピルビン酸は、ミトコンドリアによって完全に酸化されることができ、COを形成する。ピルビン酸の酸化代謝は、ミトコンドリアの電子伝達及び呼吸と連結してATPを合成する。中枢神経系において、乳酸は、シグナル伝達機能も有し、例えば、低酸素誘導因子1α及び下流のシグナル伝達を刺激して脳細胞における転写を変化させる。
【0005】
乳酸源は、数倍になり得る。ニューロンが電気的に活性である場合、ミトコンドリアがピルビン酸の酸化を続けることができなくなる程度にまで解糖経路が早められる。代わりに、ピルビン酸は、好気的解糖と呼ばれるプロセスにおいて一時的に乳酸に変換される。この状況では、乳酸の蓄積は、ニューロンの安定化において、例えば、低酸素誘導因子1αにおいてシグナル伝達の役割を果たし得る、又は神経細胞の生存及び長期記憶に重要な脳由来神経栄養因子の発現を誘導し得る。α乳酸の第2の、更により重要な供給源は、アストロサイトである。この種類の細胞は、ニューロン及び脳の微細血管(cerebral blood vessel capillaries)の両方に代謝の面で密接に関係する。アストロサイトの主な機能は、シナプス活性を感知すること、並びに血液流からニューロンへの栄養素の取り込み及び伝達を調節することである。アストロサイトは解糖系優位である。したがって、グルコースの代謝は殆どが乳酸の形成で終了し、ピルビン酸のごく一部のみがミトコンドリアに入って酸化される。アストロサイトによって合成された乳酸は排出され、モノカルボキシレートトランスポーターを介して近くのニューロンによって取り込まれる。ここで乳酸は、神経細胞のミトコンドリア用の栄養として機能する。この代謝関係は、アストロサイト-ニューロン乳酸シャトル(ANLS)と呼ばれている。
【0006】
脳の第3の乳酸源は、周辺からの直接取り込みによるものである。運動中には乳酸の全身血中濃度が増加し、血液脳関門を通過してニューロンによって代謝される。このようにして、末梢で生成された乳酸は脳エネルギー代謝に寄与する。運動は、記憶機能を改善することが明らかになっている。乳酸は、学習に対する運動の当該効果を説明する重要な代謝産物であり得る。
【0007】
学習に対する乳酸の重要性は、ANLSの研究において説得力のある実証がなされている。特定のモノカルボキシレートトランスポーターの発現を低下させると、アストロサイトからニューロンへの乳酸の輸送が低減し、それによって長期記憶の形成も障害を受ける。
【0008】
したがって、脳における乳酸レベルの調節は、認知機能を改善する可能性を有する。同時に、乳酸は、シグナル伝達分子、又はミトコンドリアの栄養分のいずれかとして、慢性的又は急性的なエネルギー不足を補う必要がある神経疾患に影響し得る。
【0009】
アルツハイマー病(AD)は、認知症の最も一般的な原因である。現在、ADの治療法は存在しない。対症療法のみが存在し、当該療法は主に、低下した神経伝達物質レベルを回復させることによって有益な効果を発揮する。グルコースの代謝低下は、AD進行の早期に生じる傾向がある代謝変化である。脳代謝の補正は、疾患の進行を遅延させるための有望なアプローチである。脳エネルギーホメオスタシスの回復も、老齢者における軽度認知障害を回復させることが判明している。
【0010】
てんかんは4番目に一般的な神経疾患である。てんかんを有する小児の最大30%は、抗痙攣治療を受けた後でも発作を起こす。ケトン食は、難治性てんかんを有する小児における発作頻度の低減に成功している。しかしながら、ケトン食は脂肪分が非常に高く、そのため非常に不味い。
【0011】
てんかんにおいては、局在的な電気的活動が過剰であることにより、ニューロンがそのエネルギー負荷に対処できなくなる場合があり、ミトコンドリアの栄養分を速やかに提供することが有効な場合がある。末梢での乳酸の一時的形成又はANLSによる提供の増強は、発作から回復中のニューロンを保護し得る。
【0012】
脳卒中は、世界の成人において障害の最も一般的な原因であり、死因の第3位である。組織プラスミノゲンアクチベーター(tPA)は、米国食品医薬品局が承認した虚血性脳卒中の唯一の治療法である。この治療の欠点は、虚血後に短い時間枠(3時間以内)の間に投与された場合しか有効となり得ないことである。血管内処置を使用して、動脈を閉塞する血塊を除去することができるが、これはtPA治療後及び虚血の6時間以内に限られる。厳しい基準が、この処置に対する患者の適格性を決定する。非常に限られた治療選択肢しか存在しないことを考慮すると、脳卒中の新たな治療法が必要とされる。
【0013】
脳代謝を標的とすることは、脳卒中において、ニューロンが酸素及び栄養素を一時的に欠乏したときにエネルギー供給を急速に回復させるのに有用であることが証明され得る。脳卒中の前臨床的モデル(一過性中大脳動脈閉塞)では、乳酸は、ニューロンの減少を防止する能力についての試験において成功している。
【0014】
合わせて考えると、代謝を調節してニューロン用の乳酸の利用能を高めることは、ニューロンにおけるエネルギー欠乏が疑われる老化時の軽度認知障害又は神経疾患に有益な効果を有し得る。
【0015】
本出願の発明者らは、アストロサイトからの乳酸分泌を促進する生物活性物質として、不飽和ポリケチド及び大環状ラクトンを同定した。これらの活性化合物は、アストロサイトによるニューロンの乳酸シャトルに影響を及ぼし、又は他の組織からの乳酸放出を刺激し、それにより代謝障害の悪影響に対抗することで、脳エネルギーホメオスタシス及び神経の健康に有益となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】乳酸スクリーニング方法を示す。
図2】乳酸放出を示す。Y軸:相対蛍光単位、X軸:純粋な化合物の画分及びモル濃度についての、化合物の対数濃度(mg/mL)。A.不飽和ポリケチド/大環状ラクトンを含有する画分8;B.不飽和ポリケチド/大環状ラクトンを含有する画分8(第2バッチ);C.不飽和ポリケチド/大環状ラクトンを含有する画分9;D.不飽和ポリケチド/大環状ラクトンC2642を含有する画分10;E.純粋な不飽和ポリケチド/大環状ラクトン。CAS番号はなく(新規化学物質)、本明細書に記載の化合物Aに対応する構造を有することが提示されている。
図3】毒性を示す。Y軸:相対蛍光単位(パーセント)、X軸:純粋な化合物の画分及びモル濃度についての、化合物の対数濃度(mg/mL)。A.不飽和ポリケチド/大環状ラクトンC2642を含有する画分8;B.純粋な不飽和ポリケチド/大環状ラクトン。
図4A図4A図4DはMS及びMS/MSデータを示す。Y軸:イオン強度、X軸:質量対電荷比(m/z)。4A.正イオン化モードにおける不飽和ポリケチド/大環状ラクトンのMSスペクトル(m/z451.30)。
図4B図4A図4DはMS及びMS/MSデータを示す。Y軸:イオン強度、X軸:質量対電荷比(m/z)。4B.正イオン化モードにおける不飽和ポリケチド/大環状ラクトンのMSスペクトル。
図4C図4A図4DはMS及びMS/MSデータを示す。Y軸:イオン強度、X軸:質量対電荷比(m/z)。4C.負イオン化モードにおける不飽和ポリケチド/大環状ラクトンのMSスペクトル(m/z449.29)。
図4D図4A図4DはMS及びMS/MSデータを示す。Y軸:イオン強度、X軸:質量対電荷比(m/z)。4D.負イオン化モードにおける不飽和ポリケチド/大環状ラクトンのMS/MSスペクトル。
図5A図5A図5Jは、不飽和ポリケチド/大環状ラクトンの重水素化クロロホルム(CDCl)及び/又は重水素化DMSO(DMSO-d)中の1D及び2D NMRデータを示す。5A.CDCl中の不飽和ポリケチド/大環状ラクトンのH NMRスペクトル(64スキャン)。
図5B図5A図5Jは、不飽和ポリケチド/大環状ラクトンの重水素化クロロホルム(CDCl)及び/又は重水素化DMSO(DMSO-d)中の1D及び2D NMRデータを示す。5B.CDCl中の不飽和ポリケチド/大環状ラクトンのH NMRスペクトル(16スキャン)の拡大図。
図5C図5A図5Jは、不飽和ポリケチド/大環状ラクトンの重水素化クロロホルム(CDCl)及び/又は重水素化DMSO(DMSO-d)中の1D及び2D NMRデータを示す。5C.CDCl中の不飽和ポリケチド/大環状ラクトンのCOSY NMRスペクトル(8スキャン)。
図5D図5A図5Jは、不飽和ポリケチド/大環状ラクトンの重水素化クロロホルム(CDCl)及び/又は重水素化DMSO(DMSO-d)中の1D及び2D NMRデータを示す。5D.CDCl中の不飽和ポリケチド/大環状ラクトンのEdited-HSQC NMRスペクトル(16スキャン)。
図5E図5A図5Jは、不飽和ポリケチド/大環状ラクトンの重水素化クロロホルム(CDCl)及び/又は重水素化DMSO(DMSO-d)中の1D及び2D NMRデータを示す。5E.CDCl中の不飽和ポリケチド/大環状ラクトンのHMBC NMRスペクトル(64スキャン)。
図5F図5A図5Jは、不飽和ポリケチド/大環状ラクトンの重水素化クロロホルム(CDCl)及び/又は重水素化DMSO(DMSO-d)中の1D及び2D NMRデータを示す。5F.CDCl中の不飽和ポリケチド/大環状ラクトンのROESY NMRスペクトル(8スキャン)。
図5G図5A図5Jは、不飽和ポリケチド/大環状ラクトンの重水素化クロロホルム(CDCl)及び/又は重水素化DMSO(DMSO-d)中の1D及び2D NMRデータを示す。5G.CDCl中の不飽和ポリケチド/大環状ラクトンのHMBC NMRスペクトル(64スキャン)。
図5H図5A図5Jは、不飽和ポリケチド/大環状ラクトンの重水素化クロロホルム(CDCl)及び/又は重水素化DMSO(DMSO-d)中の1D及び2D NMRデータを示す。5H.DMSO-d中の不飽和ポリケチド/大環状ラクトンのH NMRスペクトル(64スキャン)。
図5I図5A図5Jは、不飽和ポリケチド/大環状ラクトンの重水素化クロロホルム(CDCl)及び/又は重水素化DMSO(DMSO-d)中の1D及び2D NMRデータを示す。5I.DMSO-d中の不飽和ポリケチド/大環状ラクトンのEdited-HSQC NMRスペクトル(8スキャン)。
図5J図5A図5Jは、不飽和ポリケチド/大環状ラクトンの重水素化クロロホルム(CDCl)及び/又は重水素化DMSO(DMSO-d)中の1D及び2D NMRデータを示す。5J.DMSO-d中の不飽和ポリケチド/大環状ラクトンのHMBC NMRスペクトル(256スキャン)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
本開示及び添付の特許請求の範囲において使用されるとき、単数形「1つの」(「a」、「an」及び「the」)には、別段の指示がない限り、複数の参照物も含まれる。したがって、例えば、「1つの構成成分(a component)」又は「その構成成分(the component)」についての言及は、2つ以上の構成成分を含む。
【0018】
本明細書で使用するとき、用語「類似体」は、別のものと類似の構造を有するが、特定の構成成分に関して別のものと異なっている化合物を指すものと理解される。「誘導体」は、1つ以上の原子を別の原子又は原子の群で置換することによって生成すると考えられる、又は実際に親化合物から合成され得る、化合物である。
【0019】
本明細書に記載する全てのパーセンテージは、別途記載のない限り、組成物の総重量によるものである。本明細書で使用するとき、「約」、「およそ」、及び「実質的に」は、数値範囲内、例えば、参照数字の-10%から+10%の範囲内、好ましくは-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照数字の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照数字の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数又は分数を含むと理解されるべきである。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数又は数の部分集合を対象とする請求項を支持するために与えられていると解釈すべきである。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲を支持するものと解釈すべきである。
【0020】
本明細書に記載された化学構造の成分は、以下のように定義することができる:本明細書で使用するとき、用語「不飽和」は、炭素原子間に少なくとも1つ、最大8つの二重結合を含有することを意味する。「修飾ポリケチド」(Modified ployketide)鎖は、元のポリケチド骨格が生合成的及び/又は化学的に更に修飾されていることを意味する。このような修飾としては、例えば、カルボニル基のヒドロキシル基への還元、脱水、二重結合の還元、メチルのカルボン酸への酸化、及び大環状ラクトンへの環化が挙げられるがこれらに限定されない。「脱水」は、一方はヒドロキシルを有し、他方は少なくとも1つの水素を有する、2つの隣接する炭素間の水がなくなり、二重結合の形成が生じることを意味する。「還元」は、二重結合に水素が付加されることで、単結合の形成が生じることを意味し、典型的には、カルボニルのアルコールへの還元、又は不飽和鎖の飽和鎖への還元を意味する。炭素酸化は、メチルからアルコールへ、アルデヒドへ、更に最終的にカルボン酸へ、と段階的であり得る。「環化鎖」は、環構造又は閉鎖構造で配列された原子を有する鎖に関する。「開鎖」は、直鎖構造を有する、すなわちその構造内に環を有さない、鎖である。
【0021】
「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含んでいる(comprising)」という用語は、排他的にではなく包含的に解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」は全て、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは包括的なものであると解釈される。しかしながら、本明細書に開示されている組成物は、本明細書において具体的に開示されていない要素を含まない場合がある。したがって、「含む/備える(comprising)」という用語を用いた実施形態の開示は、特定されている構成成分「から本質的になる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」実施形態の開示を含む。「から本質的になる(consisting essentially of)」組成物は、参照構成成分の少なくとも85重量%、最も好ましくは参照構成分の少なくとも95重量%を含有する。
【0022】
「X及び/又はY」の文脈にて使用される用語「及び/又は」は、「X」又は「Y」又は「X及びY」と解釈されるべきである。本明細書において使用する場合、用語「例(example)」及び「などの(such as)」は、特に後に用語の掲載が続く場合は、単に例示的なものであり、かつ説明のためのものであり、排他的又は包括的なものであると判断すべきではない。
【0023】
用語「食品」、「食品製品」、及び「食品組成物」又は「ダイエット食品」は、ヒトなどの個体による摂取が意図され、かかる個体に対して少なくとも1種の栄養分を提供する、製品又は組成物を意味する。本開示の組成物には、本願明細書に記載されている多くの実施形態が含まれ、本願明細書に開示される要素、並びに本願明細書に記載される又はその他の食餌療法において有用である何らかの追加の若しくは任意的な成分、構成成分又は要素を含む、それらからなる、又はそれらから本質的になることができる。
【0024】
認知機能は、情報の処理、記憶容量、状況依存的な判断、学習能力、及び記憶などの脳機能に関与する。
【0025】
本明細書で使用するとき、用語「老化時の記憶機能の障害」及び「老化時の認知障害」は、認知試験を用いたときの、対照となる健康な個体と比較した認知機能の低下又は脳機能に関係する任意のサブカテゴリの障害を意味する。このような認知試験は、通常、記憶、言語、指向能力及び注意持続時間の評価を含む。
【0026】
用語「ポリケチド」は、細菌、菌類、及び植物によって産生される天然産物の一分類を指す。ポリケチドは、適切な長さの鎖が得られるまで、出発分子に延長分子を段階的に付加することから得られる。延長分子は、典型的には、マロネート、メチルマロネート、又はエチルマロネートである。スターターは、古典的にはアセテートであるが、他の多くの有機酸も出発分子として機能し得る。例としては、プロピオネート、サクシネート、イソブチレートなどの直鎖及び分枝鎖脂肪酸、又はベンゾエート及びシンナメートなどの芳香族酸が挙げられる。元のポリケチド鎖は、還元、脱水、酸化、及び内部エステル化(ラクトン化)によって更に修飾され得る。
【0027】
本明細書で使用するとき、用語「神経疾患」は、神経系、特に中枢神経系の任意の疾患を意味する。このような疾患は、疾患の結果として、及び老化時の脳機能の低下が早められた結果として生じ得るが、遺伝的多様性に起因する可能性又は栄養不良によって引き起こされる可能性もある。
【0028】
「予防」は、状態又は疾患のリスク及び/又は重症度を低減させることを含む。用語「治療」、「治療する」、「軽減する」及び「緩和する」には、予防若しくは予防的治療(標的とする病態若しくは障害の発現を予防する及び/又は遅らせる)と、治癒的、治療的若しくは疾患改善的な治療の両方が含まれ、例えば、診断された病態又は障害の治癒、遅延、症状の緩和、及び/又は進行の停止のための治療的手段、並びに、疾患のリスクがある患者又は疾患に罹患する疑いのある患者、及び体調不良の患者又は疾患若しくは医学的症状に罹患していると診断された患者の治療が含まれる。この用語は、個体が完全に回復するまで治療されることを必ずしも意味するものではない。これらの用語はまた、疾患を患ってはいないが、不健康な状態を起こしやすい個体の健康維持及び/又は増進も意味する。これらの用語はまた、1つ以上の主たる予防的又は治療的手段の相乗作用あるいは増進を含むことを意図するものである。
【0029】
用語「治療」「治療する」、「軽減する」及び「緩和する」は更に、疾患若しくは状態の食事療法、又は例えば、ダイエット食品による、疾患若しくは状態の予防(prophylaxis)若しくは予防(prevention)のための食事療法を含むことを意図する。治療は患者に関連するものであってもよく、又は医師に関連するものであってもよい。
【0030】
用語「個体」は、神経疾患を患う可能性があり、したがって本明細書に開示された方法、化合物又は組成物のうちの1つ以上から利益を得ることができる、ヒトを含む任意の動物を意味する。一般には、個体は、ヒト、又はトリ、ウシ、イヌ、ウマ、ネコ、ヤギ、オオカミ、ネズミ、ヒツジ、又はブタといった動物である。「コンパニオンアニマル」は、任意の飼養されている動物であり、限定されないが、ネコ、イヌ、ウサギ、モルモット、フェレット、ハムスター、マウス、アレチネズミ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ロバ、ブタなどが挙げられる。好ましくは、個体はイヌやネコなどのコンパニオンアニマル又はヒトである。本発明の方法、化合物、又は組成物は、脳の健康に関する疾患、特に神経疾患の予防又は治療に使用することができる。
【0031】
高齢者であるヒト個体は、本明細書に開示される方法、化合物又は組成物のうちの1つ以上から利益を得る可能性がある。用語「高齢者(older adult)」は、ヒトに関連して、少なくとも45歳、好ましくは50歳超、より好ましくは55歳超の年齢を意味する。
【0032】
老齢であるヒト個体も、本明細書に開示される方法、化合物、又は組成物のうちの1つ以上から利益を得る可能性がある。用語「老齢」は、ヒトに関連して、少なくとも60歳、より好ましくは64歳超、最も好ましくは68歳超の年齢を意味する。
【0033】
乳児であるヒト個体も利益を得る可能性がある。用語「乳児」は、ヒトに関連して、5歳未満の年齢を意味する。
【0034】
本明細書で使用するとき、「有効量」とは、欠乏を予防する、個体の疾患若しくは医学的状態を治療する、又はより一般的には、症状を軽減させる、疾患の進行を管理する、若しくは個体に対して栄養学的、生理学的若しくは医学的利益を提供する、量である。本願明細書に開示される組成物の効果に関連する「改善された」、「増加した」、「増進された」などの相対的用語は、1つ以上の成分を含まない、及び/又は1つ以上の成分の量が異なるが、その他の成分については同一である組成物と比較した場合に用いられる。
【0035】
用語「栄養補助食品」(nutraceutical)は、単語「栄養」(nutrition)と「医薬」(pharmaceutical)を組み合わせたものである。栄養補助食品は、疾患の予防及び処置を含む、健康及び医学的利益をもたらす食品又は食品製品である。栄養補助食品は、通常は食品と関連しない医薬品の形態で一般に販売されており、食品から単離又は精製された製品である。栄養補助食品は、生理学的効果を有すること、又は慢性疾患に対する保護をもたらすことが実証されている。このような製品は、単離された栄養素、健康補助食品、及び特別食から、遺伝子操作された食品、ハーブ製品、並びにシリアル、スープ、及び飲料などの加工食品にまで及び得る。
【0036】
本明細書で使用するとき、用語「栄養補助食品」は、栄養分野及び医薬品分野の両方において有用であることを意味する。したがって、新規な栄養補助食品組成物は、食品及び飲料への栄養補給剤として、並びにカプセル若しくは錠剤などの固体製剤、又は溶液若しくは懸濁液などの液体製剤であり得る経腸若しくは非経口投与用の医薬製剤として、使用することができる。
【0037】
本発明の化合物
本発明の化合物は、乳酸分泌を促進することが実証されている。
【0038】
本発明は、乳酸分泌の促進に使用するための、一般構造式(Ia)
【化1】

[式中、R1~R9は、独立してH及びCH3から選択され;
R10~R17は、独立してH、C=O、及びOHから選択される]の化合物;
又はその塩に関する。
【0039】
一実施形態では、一般構造式(Ia)の化合物は、カルボニル基のヒドロキシル基への還元によって更に修飾される。
【0040】
一実施形態では、一般構造式(Ia)の化合物は、脱水によって更に修飾される。
【0041】
一実施形態では、一般構造式(Ia)の化合物は、少なくとも1箇所の二重結合の還元によって更に修飾される。
【0042】
一実施形態では、一般構造式(Ia)の化合物は、以下の一連の事象に従う二重結合の還元によって更に修飾される。
【化2】
【0043】
メチルのカルボン酸への酸化、及び大環状ラクトンへの環化は、その他に生じ得る修飾である。
【0044】
鎖の構造の可変性はまた、イソブチレートなどの様々な出発分子単位、及び/又はマロネート若しくはメチルマロネートのような様々な延長単位の組み込みからも生じ得る。
【0045】
一実施形態では、構造式(Ia)の化合物は、修飾されて以下の構造を形成する:
【化3】
【0046】
一実施形態では、化合物は、ポリケチド、特に不飽和ポリケチドである。一実施形態では、化合物は、C2644の分子式を有する。一実施形態では、化合物は、約468g/molの分子量を有する。
【0047】
別の実施形態では、構造式(Ia)の化合物は、19位のカルボン酸基と3位のアルコール基との間がラクトン化され、以下に示すように、18原子環を形成して化合物Aを生成する。
【化4】
【0048】
別の実施形態では、構造式(Ia)の化合物は、19位のカルボン酸基と11位のアルコール基との間がラクトン化され、以下に示すように、10原子環を形成して化合物Bを生成する。
【化5】
【0049】
別の実施形態では、構造式(Ia)の化合物は、1位のカルボン酸基と11位のアルコール基との間がラクトン化され、以下に示すように、12原子環を形成して化合物Cを生成する。
【化6】
【0050】
一実施形態では、ラクトン化化合物は、C2642の分子式を有する。一実施形態では、ラクトン化化合物は、約450g/molの分子量を有する。
【0051】
本発明による全ての化合物は、乳酸分泌の促進に使用することができる。
【0052】
一実施形態では、化合物は、個体における神経疾患の予防及び/又は治療に使用するためのものであって、乳酸分泌が促進される。
【0053】
一実施形態では、化合物は、個体における神経疾患の予防及び/又は治療に使用するためのものであって、アストロサイトからの乳酸分泌が促進される。
【0054】
一実施形態では、化合物は、個体における神経疾患の予防及び/又は治療に使用するためのものであって、末梢組織からの乳酸分泌が促進される。
【0055】
一実施形態では、化合物は、個体における認知機能の低下の予防に使用するためのものであって、特にアストロサイトからの乳酸分泌が促進される。
【0056】
一実施形態では、個体はヒトである。一実施形態では、個体はヒト高齢者である。一実施形態では、個体はヒト老齢者である。一実施形態では、個体はヒト乳児である。
【0057】
一実施形態では、個体はコンパニオンアニマルである。
【0058】
一実施形態では、化合物は、不飽和ポリケチド又は大環状ラクトンである。一実施形態では、化合物は自然界に存在し得る。一実施形態では、化合物は、一般に安全と認められ(GRAS)、ヒト又はコンパニオンアニマルに対して非毒性であるとみなされる。
【0059】
乳酸分泌の促進に使用するための、有効量の本発明の化合物を含む組成物、特に改良された組成物も提供される。
【0060】
個体における乳酸分泌の促進に使用するための、有効量の本発明の化合物を含む組成物、特に改良された組成物も提供される。
【0061】
乳酸分泌の促進に使用することにより、個体における神経疾患を予防又は治療するための、有効量の本発明の化合物を含む組成物、特に改良された組成物も提供される。
【0062】
一実施形態では、上記組成物は医薬組成物又は栄養補助食品組成物である。
【0063】
本発明の化合物又は組成物で強化した食品又は食品抽出物も提供される。
【0064】
神経疾患及び他の疾患の予防又は治療のための化合物の使用
本発明の化合物は、個体における神経疾患の予防若しくは治療、記憶機能障害、又は軽度認知障害のために使用することができる。一実施形態では、本発明の化合物は、個体における記憶機能障害の予防又は治療のために使用することができる。一実施形態では、本発明の化合物は、個体における軽度認知障害の予防又は治療のために使用することができる。
【0065】
神経疾患の例としては、中枢神経系の障害、例えば、嗜癖;くも膜嚢胞;注意欠陥/多動性障害(ADHD);自閉症;双極性障害;強硬症;抑うつ症;脳炎;てんかん/発作;感染症;とじ込め症候群;髄膜炎;片頭痛;多発性硬化症;ミエロパシーから選択され得る。神経疾患としては、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、及びトゥレット症候群などの神経変性障害も挙げられる。本発明の化合物は、上記の神経疾患のうちの1つ以上の予防又は治療に使用され得る。
【0066】
一部の実施形態では、本発明の化合物はまた、糖尿病及び/又は糖尿病関連疾患の予防又は治療、特にII型糖尿病の予防又は治療、インスリン抵抗性の抑制、糖尿病合併症、膵ランゲルハンス島β細胞の保護、抗糖尿病治療、X症候群の治療、糖尿病性神経症、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、及び個体における生活習慣関連疾患にも使用できる。
【0067】
一部の実施形態では、本発明の化合物はまた、個体における脂質代謝に関連する疾患、特に、レチノイドX受容体のリガンド、核受容体のリガンド、PPARアゴニスト、PPARアンタゴニスト、リガンド活性化核受容体スーパーファミリーの脂質代謝、及び脂質代謝の改善に関する疾患の予防又は治療、並びに抗高脂血症(antilipemic disease)の予防又は治療のためにも使用することができる。
【0068】
一部の実施形態では、本発明の化合物はまた、個体における血管合併症、特に、動脈硬化症、高血圧症、脳血管疾患、低血圧症、高血圧症、及び脳血管障害に関連する疾患の予防又は治療のためにも使用することができる。
【0069】
一部の実施形態では、本発明の化合物はまた、個体における癌の予防又は治療、特に腫瘍の制御のため、及び消化器癌にも使用することができる。
【0070】
一部の実施形態では、本発明の化合物はまた、個体における炎症性疾患、特に関節リウマチ、慢性炎症、血管慢性炎症などの予防又は治療にも使用することができる。
【0071】
一部の実施形態では、本発明の化合物は、個体におけるAMPK活性の刺激物質としても使用することができる。
【0072】
一部の実施形態では、本発明の化合物はまた、個体における一連の他の疾患、例えば、自己免疫疾患、食欲不振、再狭窄、粘液水腫、及び悪液質などの予防又は治療にも使用することができる。
【0073】
本発明はまた、個体における神経疾患の予防又は治療のための製品の調製における本発明の化合物の使用にも関する。
【0074】
本発明はまた、ダイエット食品の調製における本発明の化合物の使用にも関する。
【0075】
本発明はまた、本発明の化合物を個体に投与する工程を含む、神経疾患の予防又は治療方法に関する。
【実施例
【0076】
本発明は、以下の実施例によって例示することができるが、当該実施例は、本発明の範囲を限定するものとして理解されるべきではない。
【0077】
実施例1
乳酸放出-スクリーニングアッセイ
図1は、乳酸スクリーニング方法、及びアストロサイトから乳酸を放出させる薬物を発見するスクリーニングの一般的なワークフローを示す。
【0078】
ヒトアストロサイトーマ株CCF-STTG1を、10%(v/v)の熱不活性化ウシ胎児血清、50μg/mLのペニシリン、及び100μg/mLのストレプトマイシンを添加したRPMI-1640培地で、加湿雰囲気(5% CO2)中、37℃で培養した。
【0079】
CCF-STTG1を384ウェルプレートに播種した。2日後、細胞を3回洗浄し、2.5mMグルコースを添加した、(mM単位で)140のNaCl、3.6のKCl、0.5のNaH2PO4、0.5のMgSO4、1.5のCaCl2、10のHEPES、5のNaHCO3(pH7.4)を含有するKrebs-Ringer重炭酸HEPES(KRBH)緩衝液中で30分インキュベートした。次いで細胞を、試験化合物の存在下で緩衝液中に維持した。2時間後に上清を回収し、乳酸濃度を評価した。上清中の乳酸濃度を蛍光酵素アッセイにより測定した。試料を、(mM又はU/mL単位で)100のリン酸ナトリウム(pH7.5)、0.1のEDTA、0.05のAmplex UltraRed、0.1の乳酸オキシダーゼ、1.5の西洋ワサビペルオキシダーゼを含有するアッセイ試薬に希釈した。
【0080】
蛍光発光は、室温で、直接光から保護して30分後に、Bioteck Synergie Neoマルチモードリーダーを用いて、500nmで励起後、600nmで測定した。
【0081】
実施例2
乳酸放出-カウンタースクリーニングアッセイ
化合物を、上記と同じ蛍光酵素アッセイを用いて細胞不含有下でも試験して、酵素アッセイとの相互作用又はその自己蛍光を評価した。蛍光発光は、室温で、直接光から保護して30分後に、Bioteck Synergie Neoマルチモードリーダーを用いて、500nmで励起後、600nmで測定した。次いで、蛍光を、基の細胞及び刺激した細胞で得られた対照蛍光と比較した。
【0082】
薬物発見カウンタースクリーニングでは、KRBHで希釈した化合物を乳酸放出について評価した。同定された不飽和ポリケチド又は大環状ラクトン化合物は、細胞不含有下での酵素アッセイに影響を及ぼさなかった。
【0083】
実施例3
乳酸放出-直交アッセイ
CCF-STTG1を384ウェルプレートに播種した。2日後、細胞を3回洗浄し、2.5mMグルコースを添加した、(mM単位で)140のNaCl、3.6のKCl、0.5のNaH2PO4、0.5のMgSO4、1.5のCaCl2、10のHEPES、5のNaHCO3(pH7.4)を含有するKrebs-Ringer重炭酸HEPES(KRBH)緩衝液中で30分インキュベートした。試験化合物の存在下で、細胞を緩衝液中に維持した。2時間後に上清を回収し、乳酸濃度について評価した。上清中の乳酸濃度は、分光測光酵素アッセイ(乳酸比色分析キットII no.K627;BioVision(Milpitas,CA.USA))により測定した。このキットでは、乳酸が乳酸デヒドロゲナーゼによって酸化され、その生成物は、プローブと相互作用して色(λmax=450nm)を生じる。
【0084】
Bioteck Synergie Neoマルチモードリーダーを使用して、30分後に450nmで吸光度を測定した。キットの不含有下で得られたバックグラウンド吸光度を各値から減算した。
【0085】
不飽和ポリケチド/大環状ラクトン化合物による治療後の乳酸分泌の刺激が、乳酸を測定するための別の酵素に基づく直交アッセイで確認された。各化合物についての薬物発見スクリーニング中の乳酸放出測定の結果と、直交アッセイによる乳酸放出測定の結果とは相関していた。
【0086】
スクリーニングにおいて乳酸分泌を刺激することが識別された化合物について用量反応曲線を作成した。乳酸分泌の刺激のEC50値は、初代ヒトIPS細胞由来のアストロサイトを使用して求めた。
【0087】
分化したヒトiPS細胞(iCellアストロサイト、及びiCell心筋細胞)は、Cellular Dynamics International(CDI(Madison,WI,USA))から入手した。iCellアストロサイトは、10%ウシ胎仔血清及びN2補体を添加したDMEM中で培養した。iCell心筋細胞は、CDIが供給した培地中で維持した。細胞培養物を加湿雰囲気(5% CO)中に37℃で保持した。
【0088】
図2は、乳酸放出を示す。ヒトiPS細胞由来アストロサイトからの乳酸放出に関する化合物の用量反応を、log(アゴニスト)対反応可変勾配を用いて当てはめ、有効性(EC50)を抽出した。平均±SEM(2連)。
【0089】
実施例4
毒性-ATP含量
iCell心筋細胞を384ウェルプレートに播種した。8日後、細胞を化合物で24時間処理した。細胞生存率は、細胞溶解後の細胞内ATPの定量によって求めた。ATPを代謝活性細胞の指標として使用した。ATPは、発光細胞生存率アッセイ(CellTiter-Glo(登録商標);BioRad(Hercules,CA,USA))を使用して測定した。蛍光は、20分後にBioteck Synergie Neoマルチモードリーダーを使用して測定した。
【0090】
ヒトIPS細胞由来心筋細胞における不飽和ポリケチド/大環状ラクトン化合物の毒性を、細胞溶解液中の総ATPを測定することによって評価した。用量反応実験により、不飽和ポリケチド/大環状ラクトン化合物は、心筋細胞中で毒性を生じた濃度よりも数桁低い濃度でアストロサイトからの乳酸分泌を刺激することが明らかになった。
【0091】
図3は、毒性を示す。細胞力価グローを用いたATPレベルの評価による、ヒトiPS細胞由来心筋細胞の用量反応。結果を未処理細胞(100%)と陽性対照(0%)との間で正規化した。
【0092】
実施例5
同定-MS及びNMR
不飽和ポリケチド/大環状ラクトンのMS及びMS/MSデータの取得は、Q-Exactive質量分析計(Thermo Scientific,Bremen,Germany)を用い、加熱したエレクトロスプレーイオン化(HESI)源を用いて、正イオン化及び負イオン化モードで実施した。イオン化源パラメータは、以下のとおりであった:キャピラリー電圧、正モード及び負モードでそれぞれ4.3kV及び4.0kV;キャピラリー及びプローブヒータ温度:350℃;シースガス(N):45.0単位;Auxガス:15.0単位;スペアガス:1.0;S-Lens RFレベル:50.0m/z 451.30(陽イオン化モード)及び449.29(負イオン化モード)を含む含有物のリストを使用してデータに依存した解析を実施し、あるいは、動的排除(dynamic exclusion)時間1.0秒のフルスキャンMSにおいて最も強度が高い5つのイオンに対してデータに依存したMS/MS分析を実施した。フルMS実験の設定は以下のとおりとした:MS分解能:70000;注入時間の最大値:100ms;スキャン範囲100~1000m/z、データに依存した分析設定は以下のように設定した:MS分解能:17500;注入時間の最大値:50ms;単離する質量幅:4.0m/z;段階的に正規化した衝突エネルギー(stepped normalized collision energy、NCE):10,20,30単位。データを重心モードで取得した。
【0093】
図4A、B、C、及びDは、正イオン化モード及び負イオン化モードにおけるMS及びMS/MSデータを示す。
【0094】
表1及び表2は、それぞれ正イオン化モード及び負イオン化モードにおける不飽和ポリケチド/大環状ラクトンのフラグメンテーションに対するMS/MSシグナルのうち、最も強いものを20示す。
【表1】

【表2】
【0095】
NMR実験を、QCI 5mm Cryoprobe及びSampleJet自動サンプル交換器を装備したBruker Avance III HD 600MHz NMR分光計(Bruker BioSpin,Rheinstetten,Germany)で記録した。スペクトルは、CDCl及びDMSO-d中で記録した。化学シフトは、H及び13C NMRについてそれぞれ7.26及び77.16(又は2.50及び39.52)の残留シグナル溶媒を用いて百万分率(δ)単位で報告し、カップリング定数(J)はHz単位で報告する。完全な帰属は、2D実験(COSY、edited-HSQC、HMBC及びROESY)に基づいて実施した。
【0096】
図5A、B、C、D、E、F、G、H、I及びJは、重水素化クロロホルム(CDCl)及び/又は重水素化DMSO(DMSO-d)中の不飽和ポリケチド/大環状ラクトンの1D及び2D NMRスペクトルを示す。
【0097】
表3は、CDCl中の不飽和ポリケチド/大環状ラクトンのH(600MHz)及び13C NMR(151MHz)分光データを示す。
【表3】
【0098】
COSY、HSQC及びHMBC相関の全ての分析(図5C~E)後、第1の線状構造を明らかにした。H及び13C化学シフト並びに2D相関を表3に記載する。
【0099】
450g/molの分子量への適合には環化が必要とされた。エステルの形成には2つのヒドロキシル基及び2つの酸が利用可能であった。低磁場の化学シフトから、δH5.11のヒドロキシメチンH-3は、δH4.58のもの(H-11)よりも好ましい。C-1とH-3との間のエステルの形成は、4員環が得られることになることから、起こらないものと考えられた。したがって、H-3とC-19の酸との間の環化が提案され、本明細書で化合物Aとして例示された。H-3とC-19との間のHMBC相関が予想されたが、64スキャンによる、より長いHMBCスペクトル(図5G)の記録後、交差ピークは観察されなかった。
【0100】
ヒドロキシル基を観察する試みでは、化合物を乾燥させ、60uLのDMSO-dに溶解した。次に、1.7mm管でNMRスペクトル(図5H~J)を測定した。残念ながら、移動性のプロトンは観察されず、CDClで記録されたスペクトルと比較して更なるHMBC相関は認められなかった。
【0101】
CH3-10aとH-8、H-9とH-11、CH3-16aとH-14、H-15及びH-17との間で観察されたNOESY相関(図5F)は、二重結合の配置がEであることを示した。
【0102】
他の立体中心の配置は決定されなかった。
【0103】
実施例6
ヒット評価
表4及び表5は、対象化合物を示す。
【表4】

【表5】
【0104】
実施例のセクション全体にわたって言及された不飽和ポリケチド/大環状ラクトン化合物は、本明細書に記載の化合物Aに対応する構造を有することが提示される。Log IC50で表された毒性(ヒトiPS細胞由来心筋細胞に対する24時間の化合物治療後のATP含量)を、log EC50の乳酸放出(ヒトiPS細胞由来アストロサイトにおける2時間の化合物処理後の乳酸分泌)と比較した。
【0105】
不飽和ポリケチド/大環状ラクトン試験化合物は、ある範囲の濃度で、アストロサイトによる乳酸分泌に対して活性であり、かつ心筋細胞に対して毒性ではないことを示した。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図5I