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特許7359362バイオポリマー層を備える複合繊維製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】バイオポリマー層を備える複合繊維製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 16/00 20060101AFI20231003BHJP
   D06M 15/05 20060101ALI20231003BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20231003BHJP
   C12P 19/04 20060101ALN20231003BHJP
   C12P 21/00 20060101ALN20231003BHJP
【FI】
D06M16/00 Z
D06M15/05
D06M15/643
C12P19/04
C12P21/00 A
【請求項の数】 46
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018201528
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2019081996
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2021-08-27
(31)【優先権主張番号】17198751.4
(32)【優先日】2017-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507343327
【氏名又は名称】サンコ テキスタイル イスレットメレリ サン ベ ティク エーエス
【氏名又は名称原語表記】SANKO TEKSTIL ISLETMELERI SAN. VE TIC. A.S.
【住所又は居所原語表記】Organize Sanayi Bolgesi 3. Cadde 16400 Inegol-Bursa(TR)
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【弁理士】
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【弁理士】
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】イトカ イルマズ
(72)【発明者】
【氏名】エルトゥグ エルクシュ
(72)【発明者】
【氏名】オズギュル シバノグル
(72)【発明者】
【氏名】レイラ ゼンギ
(72)【発明者】
【氏名】エジェ セネル
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-272772(JP,A)
【文献】特開昭62-014787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00 - 16/00
C12P 1/00 - 41/00
D06M 19/00 - 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともバイオポリマー層を備える複合繊維製品の製造方法であって、前記製造方法は、
a.少なくとも1つの繊維製品を提供する工程と、
b.前記繊維製品の少なくとも一部に、少なくともバイオポリマー層を設ける工程と、
c.前記バイオポリマー層の少なくとも一部に、少なくとも繊維柔軟剤が施されている、複合繊維製品を提供する工程とを含んでおり、
- 前記工程bは、前記繊維製品の少なくとも一部を、細菌、藻類、酵母、真菌およびそれらの混合物から選択されるバイオポリマー産生微生物を含む培養物と接触させ、前記バイオポリマー産生微生物を培養させることによって行われ、前記繊維製品の少なくとも一部にバイオポリマー層を設けており、
- 前記繊維柔軟剤は、シリコーン柔軟剤であることを特徴とする複合繊維製品の製造方法。
【請求項2】
前記培養物は、繊維柔軟剤をさらに含むことで、繊維柔軟剤を有する前記バイオポリマー層の少なくとも一部を提供することを特徴とする請求項1に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項3】
前記培養物は、前記繊維柔軟剤を、最終培養物の重量の0.5~2重量%の範囲で含んでいることを特徴とする請求項2に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項4】
前記培養物は、前記繊維柔軟剤を、最終培養物の重量の0.8~1.2重量%の範囲で含んでいることを特徴とする請求項2に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項5】
前記工程cは、前記工程bで得られる少なくともバイオポリマー層を設けた前記繊維製品を、最終混合物の重量の5~50重量%の範囲の前記繊維柔軟剤を含んでいる少なくとも混合物と接触させることによって行われることを特徴とする請求項1に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項6】
前記混合物は、前記最終混合物の重量の10~40重量%の範囲の前記繊維柔軟剤を含んでいることを特徴とする請求項5に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項7】
前記混合物は、前記最終混合物の重量の10~30重量%の範囲の前記繊維柔軟剤を含んでいることを特徴とする請求項5に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項8】
前記シリコーン柔軟剤は、マクロシリコーン、セミマイクロシリコーン、マイクロシリコーンおよびナノシリコーン柔軟剤からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項9】
前記シリコーン柔軟剤は、マイクロシリコーン柔軟剤であることを特徴とする請求項1に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項10】
前記マイクロシリコーン柔軟剤は、マイクロシリコーンエマルジョンであり、マイクロシリコーンは、80nm~10nmの範囲の粒径を有しており、前記粒径は、動的光散乱を用いて測定されることを特徴とする請求項に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項11】
前記マイクロシリコーンは、60nm~10nmの範囲の粒径を有しており、前記粒径は、動的光散乱を用いて測定されることを特徴とする請求項10に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項12】
前記マイクロシリコーンは、40nm~10nmの範囲の粒径を有しており、前記粒径は、動的光散乱を用いて測定されることを特徴とする請求項10に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項13】
前記バイオポリマーは、糖系バイオポリマー、およびアミノ酸系バイオポリマー、またはそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項14】
前記糖系バイオポリマーは、微生物セルロースであることを特徴とする請求項13に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項15】
前記糖系バイオポリマーは、細菌由来セルロースであることを特徴とする請求項13に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項16】
前記アミノ酸系バイオポリマーは、微生物コラーゲンであることを特徴とする請求項13に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項17】
前記アミノ酸系バイオポリマーは、細菌由来コラーゲンであることを特徴とする請求項13に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項18】
前記バイオポリマーは、細菌由来セルロースであることを特徴とする請求項1~17のいずれか1項に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項19】
前記繊維製品は、繊維、糸、布帛および衣類から選択されることを特徴とする請求項1~18のいずれか1項に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項20】
前記繊維製品は、布帛であることを特徴とする請求項19に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項21】
前記繊維製品は、織布であることを特徴とする請求項19に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項22】
前記繊維製品は、デニム生地であることを特徴とする請求項19に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項23】
前記繊維製品は、60デシテックス~2000デシテックスの範囲の繊度を有する糸であることを特徴とする請求項19に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項24】
前記糸は、150デシテックス~1800デシテックスの範囲の繊度を有することを特徴とする請求項23に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項25】
前記糸は、400デシテックス~1000デシテックスの範囲の繊度を有することを特徴とする請求項23に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項26】
前記繊維製品は、弾性繊維製品であることを特徴とする請求項1~25のいずれか1項に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項27】
前記繊維製品は、弾性布帛であることを特徴とする請求項1~25のいずれか1項に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項28】
前記繊維製品は、弾性織布であることを特徴とする請求項1~25のいずれか1項に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項29】
前記繊維製品は、弾性デニム生地であることを特徴とする請求項1~25のいずれか1項に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項30】
前記バイオポリマー産生微生物は、遺伝子組み換え微生物であることを特徴とする請求項1に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項31】
前記バイオポリマー産生微生物は、バイオポリマー産生菌、バイオポリマー産生藻類、およびそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項30に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項32】
前記バイオポリマー産生菌は、グルコンアセトバクター、エアロバクター、アセトバクター、アクロモバクター、アグロバクテリウム、アゾトバクター、サルモネラ菌、アルカリゲネス、シュードモナス、リゾビウム、サルシナおよび連鎖球菌、バチルス属、ならびにそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項31に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項33】
前記バイオポリマー産生藻類は、褐藻類、紅藻類および黄色植物類、ならびにそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項31に記載の複合繊維製品の製造方法。
【請求項34】
少なくとも1つの繊維製品を含み、前記繊維製品の少なくとも一部に少なくともバイオポリマー層が設けられている複合繊維製品であって、前記バイオポリマー層の少なくとも一部に、少なくとも繊維柔軟剤を含んでおり、前記複合繊維製品が前記繊維柔軟剤を含んでおり、前記繊維柔軟剤は、シリコーン柔軟剤であることを特徴とする複合繊維製品。
【請求項35】
前記繊維柔軟剤がマイクロシリコーン柔軟剤であることを特徴とする請求項34に記載の複合繊維製品。
【請求項36】
前記繊維製品は、繊維、糸、布帛および衣類から選択されることを特徴とする請求項34または35に記載の複合繊維製品。
【請求項37】
前記布帛の重量は、洗濯前に、ASTM D3776に準拠して測定すると、50g/m~1000g/mの範囲であることを特徴とする請求項36に記載の複合繊維製品。
【請求項38】
前記布帛の重量は、洗濯前に、ASTM D3776に準拠して測定すると、90g/m~600g/mの範囲であることを特徴とする請求項36に記載の複合繊維製品。
【請求項39】
前記布帛の重量は、洗濯前に、ASTM D3776に準拠して測定すると、150g/m~500g/mの範囲であることを特徴とする請求項36に記載の複合繊維製品。
【請求項40】
前記布帛の重量は、洗濯前に、ASTM D3776に準拠して測定すると、170g/m~450g/mの範囲であることを特徴とする請求項36に記載の複合繊維製品。
【請求項41】
前記複合繊維製品は、弾性伸縮性複合繊維製品であることを特徴とする請求項36または37に記載の複合繊維製品。
【請求項42】
前記複合繊維製品は、弾性伸縮性複合布帛であることを特徴とする請求項36または37に記載の複合繊維製品。
【請求項43】
前記弾性伸縮性複合繊維製品が弾性伸縮性複合布帛である場合、前記弾性伸縮性複合布帛は、ASTM D3107に準拠して測定すると、25%まで伸縮性を備えていることを特徴とする請求項41に記載の複合繊維製品。
【請求項44】
前記弾性伸縮性複合繊維製品が弾性伸縮性複合布帛である場合、前記弾性伸縮性複合布帛は、ASTM D3107に準拠して測定すると、50%まで伸縮性を備えていることを特徴とする請求項41に記載の複合繊維製品。
【請求項45】
前記複合繊維製品は、染色されていることを特徴とする請求項34~44のいずれか1項に記載の複合繊維製品。
【請求項46】
前記複合繊維製品は、インディゴで染色されていることを特徴とする請求項34~44のいずれか1項に記載の複合繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維品分野、特にバイオポリマーを含む複合繊維製品に関する。具体的には、本発明は、バイオポリマーを含む、糸および布帛などの複合繊維製品の製造方法、当該方法で得られる複合繊維製品、および当該複合繊維製品を含む衣料品、すなわち衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
複合繊維品は、異なる物理的または化学的性質を有する2つ以上の構成材料を含む繊維品であり、それらを組み合わせると、例えば、個々の素材とは異なる特性を持つ布帛のような材料を生産する。一般に、個々の素材は、完成した複合繊維品の構成の内部で、実質的に分離し、個々の素材のままである。
【0003】
基材繊維製品、例えば布帛がバイオポリマーと結合しているような複合繊維品は、既知である。細菌由来セルロースは、繊維品に使用されている既知のバイオポリマーである。一般に、細菌由来セルロースおよびバイオポリマーをいくつかの既知の方法で繊維品に適用している。例えばバイオポリマーを産生する細菌または微生物を、吹付け、含浸、培養によって糸または布帛などに適用している。
【0004】
最終製品において、バイオポリマーは、少なくとも繊維基材の表面に粘着する。以下の説明では、基材に付着したバイオポリマーをバイオポリマー「層」と呼ぶことにする。しかしながら、「層」という表現は、その量、形状および範囲とは無関係に、少なくとも繊維品の面に位置するバイオポリマーのより広い意味として解釈されるべきである。実施形態では、バイオポリマーは、繊維品の下面に拡がることができ、例えば、繊維品の少なくとも一部に含浸することもできる。
【0005】
細菌由来セルロースは、式(C10からなる有機化合物であり、細胞外ポリマーとして或る種の細菌から産生される植物セルロースである。
【0006】
細菌由来セルロースは、植物セルロースと同じ分子式で表されるが、植物セルロースとは、高分子特性において異なっている。実際、細菌由来セルロースは、植物セルロースに比べて、一般にヘミセルロースまたはリグニンを含まず、かつより高い保水能力、より大きい引張強度、より高い重合度、およびより高い結晶化度を有している。
【0007】
これらの特有な性質により、細菌由来セルロースは、食品産業、医療分野(例えば、創傷被覆材および血管再生)などのいくつかの技術分野で、および上述のように、繊維品の分野で使用されている。
【0008】
例えば、特許文献1は、セルロース産生微生物用培地で処理したフジエット布帛を開示しており、セルロース産生微生物は、布帛を構成するレーヨンフィラメントの表面で培養されている。このように、布帛を構成するレーヨンフィラメントに、細菌由来セルロース層が設けられている。
【0009】
両方とも本出願人の名前で出願された特許文献2および特許文献3は、布帛、糸および繊維などの繊維品に細菌由来セルロースを成長させる方法を開示している。
【0010】
特許文献4は、空気透過性ポリウレタン合成皮革の調製について開示している。この調製は、ポリエーテル変性アミノシリコーン油混合物を製造すること、ポリエーテルアミノシリコーン変性ポリウレタンであるコロイドを得るために、この混合物を反応させること、アセトバクターサッカロース溶液を得ること、細菌由来セルロースを得るために、変性ポリエーテル型シリコーン油変性ポリウレタンをアセトバクターサッカロース溶液および他の成分と混合すること、スラリーを得るために、変性ポリエーテルアミノシリコーン油変性ポリウレタン、細菌由来セルロース、脱イオン水およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを混合すること、最後にベルベット布の片面にスラリーを均一にコーティングし、コーティングされた布を凝固させることを含んでいる。
【0011】
特許文献5は、微生物によって産生されたセルロースを含む管腔微生物セルロースを開示している。管腔微生物セルロースは、各種酵素、微生物と細胞、管状工業材料、医療材料、化学材料などの固定化担体として使用することができる。例えば、特許文献5は、医療分野において、管腔微生物セルロースが、尿管、気管、消化管、リンパ管または血管のような内部管腔器官の代替品として使用することができることを開示している。特許文献5は、例えば織布からなる酸素透過性管腔担体の内面および/または外面でセルロース産生微生物を培養することによって管腔微生物セルロースを得ることができることを開示している。特許文献5によれば、例示的な管腔担体は、円筒形の綿布とすることができる。特許文献5の布帛は、衣類の製造には適していない。
【0012】
特許文献6は、合成樹脂エマルジョンおよび粉砕された親水性有機天然材料、例えば、コラーゲン、エラスチン、シルクパウダー、スポンジパウダー、ウールなどの粉砕した動物性タンパク質、および綿、麻、パルプ、海藻などの粉砕した植物セルロースを含有する繊維処理組成物を開示している。
【0013】
特許文献7は、分散染料の昇華堅牢度および反応染料の湿潤摩擦堅牢度を改善することができる柔軟剤を開示している。柔軟剤は、パルミチン酸エチルエステル基4級アンモニウム塩、キトサン、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル変性シリコーンオイル、3元共重合体ブロックシリコーンオイル、コラーゲンタンパク質および純水を含んでいる。
【0014】
特許文献8は、天然基材の存在下で、セルロースミクロフィブリルを合成することができるアセトバクターバクテリアを接種した培地をインキュベートすることによって親水性物質(例えば綿または紙)の親水性特性を増強する方法を開示している。セルロースミクロフィブリルは、基材の表面に産生され、付着していく。適切な天然基材としては、(例えば、親水性を高めるために)綿などの材料が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開平09―279483号公報
【文献】国際出願番号PCT/EP2017/059477号(国際公開第2017/186584号)
【文献】国際出願番号PCT/EP2017/059471号(国際公開第2017/186583号)
【文献】中国特許出願公開第106087451号明細書
【文献】欧州特許出願第0396344号明細書
【文献】米国特許第5514737号
【文献】中国特許出願公開第102619088号明細書
【文献】米国特許第4378431号
【0016】
しかし、バイオポリマー層を備える既知の複合布帛、特に衣料品製造用のこれらの複合布帛は、いくつかの欠点を有している。欠点の1つは、応力の下でバイオポリマー層が布帛から部分的に分離または剥離することである。
【0017】
例えば、細菌由来セルロースの層は、例えばそれを洗濯した場合、容易に引き裂きまたはひび割れを起こし、かつ布帛から分離してしまう恐れがある。
【0018】
さらに、細菌由来セルロース層のような本質的に非弾性のバイオポリマー層を、伸縮性を備えた布帛、例えば弾性布帛に設けると、布帛を伸ばすことにより、細菌由来セルロース層は、容易に引き裂き、またはひび割れを起こしてしまう恐れがある。
【0019】
さらに、衣料品および衣類の製造において求められる審美的なファッション効果と心地よい感触とを有するバイオポリマー層を備える既知の複合布帛を提供するために、複雑な方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明が解決しようとする課題は、上述の諸課題を解決して、かつ、バイオポリマー層を備える複合繊維製品の製造方法を提供し、複合繊維製品を伸縮する場合でも、バイオポリマー層の引き裂きおよびひび割れを実質的に減少、または回避することである。
【0021】
本発明が解決しようとする別の課題は、複合繊維製品、例えば、バイオポリマー層を備え、ファッション性のある外観と心地よい感触とを有する、したがって、日常生活のための衣類の製造に適している布帛の製造方法を提供することである。
【0022】
本発明が解決しようとする、さらに別の課題は、安価で、容易かつ迅速に実施することができるバイオポリマー層を備える複合繊維製品の製造方法を提供することである。
【0023】
これらおよびそれ以外の課題は、請求項1に記載の方法によって、その結果として、請求項16に記載の複合繊維製品を製造することによって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0024】
このようにして、本発明の課題は、少なくともバイオポリマー層を備える複合繊維製品の製造方法であって、前記製造方法は、
a.少なくとも1つの繊維製品を提供する工程と、
b.前記繊維製品の少なくとも一部に、少なくともバイオポリマー層を設ける工程と、
c.前記バイオポリマー層の少なくとも一部に、少なくとも繊維柔軟剤が施されている、複合繊維製品を提供する工程とを含んでいる。
【0025】
本発明の課題はまた、本発明による方法で得ることができる複合繊維製品であって、前記複合繊維製品は、繊維柔軟剤を含んでいる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下の説明において、本発明の特徴は、例示的な実施形態を参照して説明されるであろう。しかし、本明細書に開示されている本発明の如何なる特徴も、本発明のさらなる実施形態を提供するために、本明細書に開示されている1以上の他の特徴と組み合わせることができる。そのような実施形態は、本出願によって開示されていると見なされるべきものである。
【0027】
上述のように、本発明の課題は、少なくともバイオポリマー層を備える複合繊維製品の製造方法であって、前記製造方法は、
a.少なくとも1つの繊維製品を提供する工程と、
b.前記繊維製品の少なくとも一部に、少なくともバイオポリマー層を設ける工程と、
c.前記バイオポリマー層の少なくとも一部に、少なくとも繊維柔軟剤が施されている、複合繊維製品を提供する工程とを含んでいる。
【0028】
実際、驚くべきことに、本発明の方法を通じて、バイオポリマー層を備える複合繊維製品、例えばバイオセルロース層を備える複合布帛を得ることができ、バイオポリマー層の引き裂きおよびひび割れを実質的に減少、または防止することが見出された。
【0029】
換言すれば、本発明の方法を通じて、バイオポリマー層を備える複合繊維製品を得ることができ、この複合繊維製品(すなわち、複合繊維製品のバイオポリマー層の少なくとも一部)は、繊維柔軟剤を含んでおり、複合繊維製品は、洗濯および/または伸縮などの応力に耐えることができ、これにより、複合繊維製品の健全性、特に複合繊維製品のバイオポリマー層の健全性を維持することができる。
【0030】
繊維柔軟剤が施されている本発明の複合繊維製品のバイオポリマー層の構造的健全性は、本発明による複合繊維製品が、洗濯および/または伸縮などの応力を受けた場合でも、ダメージを受けることがないという利点を有している。特に、本発明による複合繊維製品では、バイオポリマー層の引き裂きおよびひび割れは実質的に回避され、これにより、「基材」繊維製品からの(例えば、バイオポリマー層のひび割れによって引き起こされる)バイオポリマー層の分離のリスクは実質的に無視することができる。
【0031】
本発明の実施形態によれば、有意に、本発明の繊維製品は、弾性繊維製品、すなわち伸縮性を備えた繊維製品とすることができる。
【0032】
実施形態によれば、本発明による方法の工程bは、当該繊維製品の少なくとも一部を、バイオポリマー産生微生物を含む培養物と接触させ、当該バイオポリマー産生微生物を培養させることによって行われ、当該繊維製品の少なくとも一部にバイオポリマー層を設けている。
【0033】
換言すれば、本発明による方法の工程bは、繊維製品に直接、すなわち布帛に直接バイオポリマー層を「成長させる」(すなわち産生させる)ことによって行うことができる。
【0034】
例えば、織布の表側および/または裏側を、バイオポリマー産生微生物を含む培養物と接触させ、これにより、バイオポリマー産生微生物を布帛の表側および/または裏側で培養することができる。より詳細には、いったん織布がバイオポリマー産生微生物の培養物と接触すると、バイオポリマー産生微生物が培養されて、布帛に直接バイオポリマーの層が産生され、このようにして、布帛に少なくともバイオポリマーの層が設けられる。
【0035】
実施形態によれば、製織の前に、糸をバイオポリマー産生微生物の培養物と接触させ、当該バイオポリマー産生微生物を培養することによって、糸の少なくとも一部にバイオポリマーを産生(すなわち「成長」)させることができる。このようにして、「複合糸」、すなわちバイオポリマー層を設けた糸を提供することができる。
【0036】
本発明の実施形態によれば、上で定義したような「複合糸」は、バイオポリマー層を設けた織布を提供するために製織することができる。
【0037】
実施形態によれば、衣類をバイオポリマー産生微生物の培養物と接触させ、当該バイオポリマー産生微生物を培養することによって、当該衣類の少なくとも一部にバイオポリマーを産生(すなわち「成長」)させることができる。このようにして、「複合衣類」、すなわち衣類の少なくとも一部にバイオポリマー層が設けられている衣類を提供することができる。
【0038】
実施形態によれば、本発明による方法の工程bは、当該繊維製品の少なくとも一部を、バイオポリマー産生微生物を含むと共にさらに繊維柔軟剤を含有する培養物と接触させることによって行うことができ、バイオポリマー産生微生物によって産生されるバイオポリマー層の少なくとも一部に繊維柔軟剤を施すことができる。
【0039】
換言すれば、バイオポリマー産生微生物を含む培養物が繊維柔軟剤をさらに含む場合、柔軟剤を含むバイオポリマー(すなわちバイオポリマー層)を得ることができる。
【0040】
実施形態によれば、バイオポリマー産生微生物を含む培養物が、繊維柔軟剤をさらに含む場合、本発明の方法による工程bおよび工程cは、実質的に、同時に、すなわち「1段」プロセスによって実施することができる。
【0041】
特に、バイオポリマー産生微生物を含む培養物が繊維柔軟剤をさらに含んでいる場合、柔軟剤を含んでいるバイオポリマー層を繊維製品に直接産生(すなわち「成長」)させることができる。
【0042】
実施形態によれば、繊維柔軟剤を含むバイオポリマー層は、繊維製品に直接産生(すなわち「成長」)している。
【0043】
例えば、繊維製品、例えば布帛を、その表側および/または裏側で、バイオポリマー産生微生物、例えばバイオポリマー産生菌を含む培養物と接触させて、バイオポリマーの層、例えば細菌由来セルロースの層を布帛に直接産生することができ、このようにして、上述のように、布帛に少なくともバイオポリマー(例えば細菌由来セルロース)の層を設けることができる。実施形態によれば、バイオポリマー産生微生物(例えばバイオポリマー産生菌)の培養物が、繊維柔軟剤をさらに含む場合、当該繊維柔軟剤の少なくとも一部を含むバイオポリマー層(例えば、細菌由来セルロース層)を、布帛の表側および/または裏側に直接得ることができる。
【0044】
特定の科学的説明に拘束されることなく、バイオポリマー産生微生物の培養物が、繊維柔軟剤をさらに含む場合には、バイオポリマー産生微生物を培養する際に、培養物中に(すなわち、培地中に)存在する繊維柔軟剤の少なくとも一部は、「成長する」バイオポリマー層に組み込まれることが観察されている。
【0045】
例えば、細菌由来セルロース産生菌の培養物が、繊維柔軟剤をさらに含む場合には、セルロース産生菌を培養する際に、培養物中に(すなわち、培地中に)存在する繊維柔軟剤の少なくとも一部は、「成長する」細菌由来セルロース層に組み込まれる。
【0046】
例えば、細菌由来セルロース層は、Acetobacter xylinumの菌株などのAcetobacter菌の菌株を培養することによって、および/またはGluconacetobacter hanseniiの菌株などのGluconacetobacterの菌株を培養することによって産生することができる。
【0047】
換言すれば、本発明による複合繊維製品は、繊維製品を提供する工程と、当該繊維製品の少なくとも一部を、バイオポリマー産生微生物および少なくとも繊維柔軟剤を含む培養物と接触させる工程と、繊維柔軟剤を含み、かつ繊維製品に直接産生する(すなわち「成長する」)バイオポリマー層を繊維製品に設けるために、当該バイオポリマー産生微生物を培養する工程とを含む方法によって得ることができるという利点を有している。
【0048】
実施形態によれば、バイオポリマー産生微生物を含んでいる培養物が繊維柔軟剤をさらに含んでいる場合、当該培養物は、当該繊維柔軟剤を、繊維品に施される最終培養物の重量の0.5~2重量%、好ましくは0.8~1.2重量%の範囲で含んでいる。
【0049】
実施形態によれば、本発明による方法の工程cは、工程bで得られる少なくともバイオポリマー層を設けた繊維製品、すなわちバイオポリマー層を備えた繊維製品を、少なくとも繊維柔軟剤を含む混合物と接触させることによって行われる。
【0050】
換言すれば、これらの実施形態では、本発明の方法の工程bおよび工程cは、順番に行うことができる。すなわち工程cは、工程bの後に行われる。実際、本発明の実施形態によれば、繊維製品にバイオポリマー層が設けられ、次にバイオポリマー層の少なくとも一部に繊維柔軟剤が施される。本発明の方法の工程bにおいて得られる複合繊維製品のバイオポリマー層の少なくとも一部を、繊維柔軟剤を含む少なくとも混合物と接触させることが好ましい。これにより、バイオポリマー層は、繊維柔軟剤が施されることになる。
【0051】
例えば、繊維製品、例えば布帛を、バイオポリマー産生微生物、例えばバイオポリマー産生菌を含む培養物と接触させ、布帛に直接バイオポリマーの層、例えば細菌由来セルロースの層を産生することができる。このようにして、上述のように、布帛にバイオポリマーの層(すなわちバイオポリマー層、例えば細菌由来セルロース層)を設けることができる。実施形態によれば、バイオポリマー層が布帛に設けられた後、そのようにして得られた「複合布帛」(すなわち、バイオポリマー層を設けた布帛)を繊維柔軟剤、例えば繊維柔軟剤を含む混合物と接触させ、バイオポリマー層の少なくとも一部に当該繊維柔軟剤が施されることになる。
【0052】
実施形態によれば、バイオポリマー層の少なくとも一部に、繊維柔軟剤、好ましくは繊維柔軟剤を含む混合物を含浸させることができる。
【0053】
実施形態によれば、ステップbの後に得られる複合繊維製品、例えば少なくともバイオポリマー層を設けた繊維製品を、繊維柔軟剤を含む混合物で含浸させる。この場合、有意に、繊維製品およびバイオポリマー層の両方に繊維柔軟剤が施され、これにより、複合繊維製品の繊維製品およびバイオポリマー層の両方に繊維柔軟剤が含まれることになる。
【0054】
実施形態によれば、本発明による方法のステップcは、ステップbで得られた少なくともバイオポリマー層を設けた繊維製品、すなわち、バイオポリマー層を少なくとも部分的に含んでいる複合繊維製品を、少なくとも繊維柔軟剤を含む混合物と接触させることによって行われ、この混合物は、最終混合物の重量の5~50重量%、より好ましくは10~40重量%、さらにより好ましくは10~30重量%の範囲の繊維柔軟剤を含んでいる。
【0055】
実施形態によれば、繊維柔軟剤は、カチオン性、非イオン性、アニオン性および両性の繊維柔軟剤から選択され、カチオン性柔軟剤であることが好ましい。好ましい実施形態によれば、繊維柔軟剤は、シリコーン柔軟剤、最も好ましくはマイクロシリコーン柔軟剤である。
【0056】
本発明に適した微生物は、例えば本出願人の名前で出願された、上で引用している特許文献2および特許文献3に開示されている。
【0057】
実施形態によれば、繊維製品(例えば布帛)は、繊維製品をバイオポリマー産生微生物の培養物中に浸漬することによって、繊維柔軟剤を任意に含むことができるバイオポリマー産生微生物の培養物と接触することができる。
【0058】
換言すれば、実施形態によれば、繊維製品の少なくとも一部は、当該繊維製品の少なくとも一部をバイオポリマー産生微生物の培養物に浸漬することによって、バイオポリマーを産生する当該微生物の培養物と接触することができる。上述のように、バイオポリマー産生微生物の培養物は、繊維柔軟剤、好ましくはシリコーン柔軟剤を任意に含むことができる。
【0059】
繊維製品をバイオポリマー産生微生物の培養物に浸漬すると、培養物に浸漬している繊維製品のほぼ全体に亘って、バイオポリマー層が成長するという利点を有している。例えば、布帛、例えば織布をバイオポリマー産生微生物の培養物に浸漬すると、バイオポリマー層は、実質的に両側(すなわち織布の表側および裏側)で成長する。このようにして、織布に同じバイオポリマーから成る2つのバイオポリマー層が設けられている複合布帛を提供することができる。
【0060】
実施形態によれば、任意の繊維柔軟剤、好ましくはシリコーン柔軟剤を含むバイオポリマー産生微生物の培養物を、繊維製品の少なくとも一部に注ぎ込み、または吹付ける。この実施形態では、シリコーンおよびマイクロシリコーンは、特に有用な柔軟剤であることが示された。
【0061】
バイオポリマー産生微生物の培養物を、繊維製品の少なくとも一部に注ぎ込み、または吹付ける場合、バイオポリマー層は、実質的に、培養物を注ぎ込み、または吹付ける繊維製品の部分のみで成長するという利点を有している。例えば、バイオポリマー産生微生物の培養物を布帛、例えば織布の表側または裏側に注ぎ込み、または吹付ける場合、バイオポリマー層は、実質的に、培養物を注ぎ込み、または吹付ける側(すなわち、織布の表側または裏側)でのみ成長する。このようにして、複合布帛を提供することができる。ここで、織布は、その表側またはその裏側にのみバイオポリマー層を設けている。
【0062】
上述のように、本発明の方法を通じて、複合繊維製品、例えばバイオポリマー層と繊維柔軟剤とを含む複合布帛は、洗濯および/または伸縮などの応力に耐えることができ、これにより複合繊維製品の健全性、特に複合繊維製品のバイオポリマー層の健全性を維持することができ、バイオポリマー層の(例えば、ひび割れによって引き起こされる)分離のリスクを実質的に無視することができる。
【0063】
好ましい実施態様によれば、繊維柔軟剤がシリコーン柔軟剤である場合に、これは、特に当てはまる。
【0064】
実際、驚くべきことに、バイオポリマー層を備える複合繊維製品の少なくとも一部にシリコーン柔軟剤を施すと、(シリコーン柔軟剤が施されていないバイオポリマー層を備える複合布帛に関する)複合繊維製品の剛性が低下することが観察されている。バイオポリマー層は、特に柔軟性がある。これにより、例えば複合繊維製品を頻繁に伸縮する場合であっても、バイオポリマー層の引き裂きおよびひび割れを実質的に回避している。
【0065】
また、複合繊維製品にシリコーン柔軟剤を施している場合、すなわちバイオポリマー層の少なくとも一部がシリコーン柔軟剤を含んでいる場合、例えば複合繊維製品の洗濯中に、繊維製品からバイオポリマー層が分離することを実質的に回避することができるという利点を有している。
【0066】
特定の科学的説明に拘束されることなく、容認できる説明としては、シリコーン柔軟剤を施すことによって、バイオポリマー層の疎水性が増加する(換言すれば、バイオポリマー層の親水性が低下する)ということである。これにより、複合繊維製品の洗濯中に、複合繊維製品におけるバイオポリマー層と繊維製品との間の相互作用は、実質的にダメージを受けることなく維持されるようになる。
【0067】
さらに、本発明による複合繊維がシリコーン柔軟剤を含む場合、複合繊維製品は、有意に、革のような外観、特に柔らかな感触を与えることができる。すなわち、革の外観と同様の外観を有することにより、ユーザが触れると特に柔らかい感触を与えることができる。
【0068】
特定の科学的説明に拘束されることなく、微生物セルロースなどのバイオポリマーは、綿などの繊維品に使用されている標準的なセルロース系繊維と比較して、より高く(約25%高く)シリコーンを摂取することが観察されている。
【0069】
バイオポリマーが細菌由来セルロース、すなわち細菌によって産生された微生物セルロースであるときに、このことは、特に当てはまる。
【0070】
本発明の好ましい実施形態によれば、バイオポリマー層は、細菌由来セルロース層である。
【0071】
本発明の好ましい実施形態によれば、繊維柔軟剤は、シリコーン柔軟剤であり、かつバイオポリマー層は細菌由来セルロース層である。
【0072】
例えば、微生物セルロース、好ましくは細菌由来セルロースなどのバイオポリマー層を備える複合繊維製品に、一定量のシリコーン柔軟剤を含浸させると、バイオポリマー層は、「基材」繊維製品に関するよりも多くのシリコーン柔軟剤を吸着するようになる。このようにして、「基材」繊維製品はそのままで、バイオポリマー層に革のような外観を備えることができる。
【0073】
例えば、綿糸を含む布帛は、その一つの面、例えば表側に、バイオポリマー層、例えば微生物セルロース層、好ましくは細菌由来セルロースを設けることができ、少なくともバイオポリマー層は、シリコーン柔軟剤を含んでいる。この場合、複合布帛の表側の少なくともバイオポリマー層、すなわち複合布帛を備えている衣類を着用するときに見える布帛の面が、革のような外観を備えている複合布帛を得ることができる。したがって、少なくとも部分的に革のような外観を有する衣類は、本発明の方法を通じて、得ることができる。
【0074】
本明細書では、用語「革のような外観」は、革の外観と同様の外観を有する材料を指している。
【0075】
上述のように、有意に、本発明による複合繊維がシリコーン柔軟剤を含んでいる場合、複合繊維製品は、特に柔らかい感触を与えている。
【0076】
本発明の実施形態によれば、シリコーン柔軟剤を含むバイオポリマー層(例えば、細菌由来セルロース層)を、布帛の裏側、すなわち、複合布帛を備えている衣類を着用するときに、外から見えない布帛の面に設けてもよい。この場合、ユーザの肌は、複合布帛のバイオポリマー層と接触して、ユーザの肌に特に柔らかく心地良い感触を与えることができる。
【0077】
本発明の実施形態によれば、繊維柔軟剤、好ましくはシリコーン柔軟剤を含むバイオポリマー層を、布帛の表側および裏側の両方に設けることができる。
【0078】
実施形態によれば、シリコーン柔軟剤は、マクロシリコーン、セミマイクロシリコーン、マイクロシリコーンおよびナノシリコーン柔軟剤からなる群から選択され、マイクロシリコーン柔軟剤が好ましい。
【0079】
本発明の好ましい実施形態によれば、バイオポリマー層は、細菌由来セルロース層であり、繊維柔軟剤は、マイクロシリコーン柔軟剤である。
【0080】
本明細書では、用語「マクロシリコーン」、「セミマイクロシリコーン」、「マイクロシリコーン」および「ナノシリコーン」は、シリコーン柔軟剤中のシリコーン粒子のサイズを指している。特に、これらの用語は、シリコーンエマルジョン柔軟剤中の、すなわちシリコーンエマルジョンを含む柔軟剤中のシリコーン粒子のサイズを指している。シリコーンは、それぞれ「マクロ粒子」、「セミマイクロ粒子」、「マイクロ粒子」または「ナノ粒子」の形状をしている。
【0081】
実施形態によれば、マクロシリコーン柔軟剤は、マクロシリコーンエマルジョンであり、マクロシリコーンは、300nm~120nm、好ましくは300nm~150nmの範囲の粒径を有しており、この粒径は、動的光散乱を用いて測定される。
【0082】
例えば、Ceraperm(登録商標)MN Liq.は、本発明である方法の使用に適している例示的なマクロシリコーンエマルジョンである。
【0083】
実施形態によれば、セミマイクロシリコーン柔軟剤は、セミマイクロシリコーンエマルジョンであり、セミマイクロシリコーンは、120nm~80nmの範囲の粒径を有しており、この粒径は、動的光散乱を用いて測定される。
【0084】
実施形態によれば、マイクロシリコーン柔軟剤は、マイクロシリコーンエマルジョンであり、マイクロシリコーンは、80nm~10nm、好ましくは60nm~10nm、より好ましくは40nm~10nmの範囲の粒径を有しており、この粒径は、動的光散乱を用いて測定される。
【0085】
例えば、Ceraperm(登録商標)3P Liq.およびSANSI MIC 3145は、本発明である方法の使用に適している例示的なマイクロシリコーンエマルジョンである。
【0086】
実施形態によれば、ナノシリコーン柔軟剤は、ナノシリコーンエマルジョンである。ナノシリコーンは、10nm以下の粒径を有しており、この粒径は、動的光散乱を用いて測定される。
【0087】
例えば、Sandoperm(登録商標)SE1 Oil Liq.は、本発明である方法の使用に適している例示的なナノシリコーンエマルジョンである。
【0088】
動的光散乱は、当該技術分野で知られている技術であり、例えば「マイクロ粒子」および「ナノ粒子」などの微粒子の粒子径分布プロフィールを決定するために使用される。
【0089】
実施形態によれば、シリコーン柔軟剤は、カチオン性シリコーン柔軟剤または非イオン性シリコーン柔軟剤である。
【0090】
実施形態によれば、カチオン性シリコーン柔軟剤は、アミノシリコーン柔軟剤である。本明細書では、用語「アミノシリコーン」は、1つ以上のアミノ基で変性されているシリコーンを指している。実施形態によれば、アミノシリコーン柔軟剤は、マイクロアミノシリコーン柔軟剤、すなわち、上で定義したようなマイクロシリコーンである。マイクロアミノシリコーン柔軟剤は、マイクロアミノシリコーンエマルジョンであることが好ましく、マイクロアミノシリコーンは、80nm~10nm、好ましくは60nm~10nm、より好ましくは40nm~10nmの範囲の粒径を有しており、この粒径は、動的光散乱を用いて測定される。
【0091】
実施形態によれば、バイオポリマーは、糖系バイオポリマー、好ましくは微生物セルロース、より好ましくは細菌由来セルロース、およびアミノ酸系バイオポリマー、好ましくは微生物コラーゲン、またはそれらの混合物から選択される。
【0092】
本明細書では、用語「バイオポリマー層」は、少なくとも1つのバイオポリマーを含む層を指している。
【0093】
本明細書では、用語「バイオポリマー」は、微生物によって産生することができる全てのポリマー、すなわち「微生物バイオポリマー」を指している。例えば、「微生物バイオポリマー」は、「細菌由来バイオポリマー」、すなわち細菌によって産生されるバイオポリマーとすることができる。
【0094】
本明細書では、用語「微生物」は、肉眼で見るには小さすぎるが、顕微鏡下で見ることができる小さい単細胞または多細胞生物を指しており、細菌、酵母、真菌、ウイルスおよび藻類を包含している。本明細書では、用語「微生物」は、遺伝子組み換えがされていない(すなわち野生型)微生物および遺伝子組み換え微生物も包含している。
【0095】
本明細書では、用語「細菌由来バイオポリマー」は、細菌によって、すなわちバイオポリマー産生菌によって産生することができるポリマーを指している。
【0096】
本明細書では、用語「糖系バイオポリマー」は、直鎖状および分岐状多糖類、それらの変異体および誘導体を包含している。本発明による例示的な糖系バイオポリマーは、微生物セルロース、好ましくは細菌由来セルロースである。
【0097】
本明細書では、用語「アミノ酸系バイオポリマー」は、直鎖状および分岐状ポリペプチド、それらの変異体および誘導体を包含している。本発明による例示的なアミノ酸系バイオポリマーは、微生物コラーゲン、好ましくは細菌由来コラーゲンである。
【0098】
本発明の実施形態によれば、微生物バイオポリマーは、微生物セルロース、微生物コラーゲン、微生物セルロース/キチン共重合体、微生物シルク、およびそれらの混合物からなる群から選択される。これらのバイオポリマーは、それ自体当該技術分野において既知である。
【0099】
本発明の実施形態によれば、細菌由来バイオポリマーは、細菌由来セルロース、細菌由来コラーゲン、細菌由来セルロース/キチン共重合体、細菌由来シルク、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0100】
したがって、本明細書で定義している「バイオポリマー層」は、微生物セルロース、微生物コラーゲン、微生物セルロース/キチン共重合体、微生物シルク、およびそれらの混合物から選択される1以上の微生物バイオポリマーを含むことができる。実施形態では、本明細書で定義している「バイオポリマー層」は、細菌由来セルロース、細菌由来コラーゲン、細菌由来セルロース/キチン共重合体、細菌由来シルク、およびそれらの混合物から選択される1以上の細菌由来バイオポリマーを含むことができる。
【0101】
実施形態によれば、バイオポリマー、すなわち微生物バイオポリマーは、微生物セルロース、微生物コラーゲンまたはそれらの混合物から選択される。
【0102】
本発明の実施形態によれば、繊維製品は、繊維、糸、布帛および衣類から選択される。繊維製品は、好ましくは布帛、より好ましくは織布、そしてさらにより好ましくはデニム生地である。換言すれば、繊維、糸、布帛および衣類から選択される繊維製品は、本発明による方法において使用することができる。
【0103】
好適な糸としては、60デシテックス~2000デシテックス、好ましくは150デシテックス~1800デシテックス、より好ましくは400デシテックス~1000デシテックスの範囲の繊度を有することができる。
【0104】
実施形態によれば、繊維製品が布帛である場合、この布帛は、少なくとも50cm、好ましくは少なくとも100cm、より好ましくは2500cmの表面積を有している。
【0105】
適切な衣類としては、シャツ、ブラウスまたはジャケットなどの上着、またはズボン、スラックス、ショートパンツ、レギンス、キュロット、タイツまたはスカートなどの下半身用衣服とすることができる。他の実施形態では、衣類としては、パンツスーツ、ガウン、ドレス、またはつなぎ服などの全身用衣服、または任意の他の衣類とすることができる。開示された発明は、特定の種類の衣類に限定されないことを理解されたい。衣類を形成するために、既知の様々な製造方法を使用することができる。
【0106】
実施形態によれば、本発明の方法を通じて、バイオポリマー層(例えば、細菌由来セルロース層)を含み、かつ繊維柔軟剤(例えば、シリコーン柔軟剤)が施されている複合繊維、または複合糸、または複合布帛、もしくは複合衣類を得ることができる。
【0107】
実施形態によれば、布帛は、衣類の製造に使用する前または後に、バイオポリマー層(例えば、細菌由来セルロース層)を設け、繊維柔軟剤(例えば、シリコーン柔軟剤)を施すことができる。
【0108】
実施形態によれば、繊維製品は、天然繊維、合成繊維、再生繊維またはそれらの混合物を含むことができ、例えば、糸は、天然繊維、合成繊維、再生繊維またはそれらの混合物を含むことができる。
【0109】
実施形態によれば、天然繊維は、綿、羊毛、亜麻、ケナフ、ラミー、麻、リネンおよびそれらの混合物から選択される。
【0110】
実施形態によれば、合成繊維は、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、ライクラ、エラスタンおよびそれらの混合物から選択される。
【0111】
実施形態によれば、再生繊維は、リヨセル、モーダル、ビスコース、竹、およびそれらの混合物から選択することができる。
【0112】
実施形態によれば、繊維製品は、エラストマー繊維を含む。本明細書では、「エラストマー繊維」は、しわ、ひだのあるなしに拘わらず、少なくとも100%の破断点伸びを有する連続フィラメントまたは複数のフィラメントでできている繊維である。破断点伸びは、例えばASTM D2256/D2256M-10(2015)に準拠して測定することができる。「エラストマー繊維」とは、元の長さの2倍に伸し、その長さで1分間保持した後、解放し、解放してから1分以内に、元の長さの1.5倍未満に収縮する繊維をいう。
【0113】
実施形態によれば、繊維製品は、ゴム入り生地、すなわち伸縮性を備えた繊維製品とすることができ、エラストマー糸、すなわちエラストマー繊維を含む糸を含んでいることが好ましい。
【0114】
実施形態によれば、繊維製品は、弾性繊維製品、すなわち伸縮性を備えた繊維製品であり、好ましくは弾性布帛、より好ましくは弾性織布、さらにより好ましくは弾性デニム生地である。
【0115】
実施形態によれば、繊維製品が織布である場合、横糸方向の弾性値は、ASTM D3107に準拠して測定すると、10%~50%の範囲である。
【0116】
本開示では、ASTM D3107に準拠した伸びを、1.35kg(3.0ポンド)の錘を使って測定した。
【0117】
本発明の実施形態によれば、バイオポリマー産生微生物は、細菌、藻類、酵母、真菌およびそれらの混合物、場合により遺伝子組み換え微生物から選択される。
【0118】
実施形態によれば、バイオポリマー産生微生物は、バイオポリマー産生菌、バイオポリマー産生藻類、およびそれらの混合物から選択される。
【0119】
特に、バイオポリマー産生菌は、グルコンアセトバクター、エアロバクター、アセトバクター、アクロモバクター、アグロバクテリウム、アゾトバクター、サルモネラ菌、アルカリゲネス、シュードモナス、リゾビウム、サルシナおよび連鎖球菌、バチルス属、ならびにそれらの混合物から選択される。バイオポリマー産生藻類は、褐藻類、紅藻類および黄色植物類、ならびにそれらの混合物から選択される。
【0120】
例えば、微生物セルロース、例えば細菌由来セルロースは、Acetobacter xylinumの菌株などのAcetobacter菌の菌株を培養することによって、および/またはGluconacetobacter hanseniiの菌株などのGluconacetobacterの菌株を培養することによって産生することができる。
【0121】
例えば、微生物コラーゲン、特に細菌由来コラーゲンは、バチルス、シュードモナス、連鎖球菌の細菌株、またはコラーゲンを産生する変性菌株を得るために遺伝子が組み換えられた細菌株を培養することによって産生することができる。
【0122】
例えば、微生物セルロース/キチン共重合体、例えば細菌由来セルロース/キチン共重合体は、微生物セルロース/キチン共重合体を産生する変性菌株を得るために遺伝子が組み換えられたAcetobacter xylinumの菌株を培養することによって産生することができる。
【0123】
本発明の例示的実施形態によれば、バイオポリマー産生微生物、すなわち微生物バイオポリマー産生微生物は、野生型および遺伝子組み換え微生物の混合物、例えば、野生型および遺伝子組み換え細菌の混合物である。
【0124】
本発明の課題はまた、本発明による方法で得ることができる複合繊維製品であって、この複合繊維製品は、繊維柔軟剤を含んでいる。
【0125】
本発明の方法に関して本明細書に開示されている全ての特徴は、当該方法で得ることができる複合繊維製品にも適用されるものである。
【0126】
実施形態によれば、繊維柔軟剤は、マイクロシリコーン柔軟剤である。換言すれば、実施形態によれば、複合繊維製品は、上で定義したようなマイクロシリコーン柔軟剤を含んでいる。
【0127】
実施形態によれば、繊維製品は、繊維、糸、布帛および衣類から選択される。換言すれば、本発明による方法で得ることができるような繊維柔軟剤を含む複合繊維製品は、複合繊維、複合糸、複合布帛、または複合衣類とすることができる。
【0128】
実施形態によれば、本発明による方法で得ることができるような複合布帛の重量は、洗濯前に、ASTM D3776に準拠して測定すると、50g/m~1000g/m、好ましくは90g/m~600g/m、より好ましくは150g/m~500g/m、さらにより好ましくは170g/m~450g/mの範囲とすることができる。
【0129】
上述のように、有意に、本発明は、ASTM D3107に準拠して測定すると、横糸方向および/または縦糸方向に50%まで伸すことができる複合布帛を得ることができる。
【0130】
これは、複合布帛が微生物セルロースおよびシリコーン柔軟剤を含んでいる場合に、特に当てはまる。実際、特定の科学的説明に拘束されることなく、微生物セルロースを含む複合繊維製品を柔軟剤、特にシリコーン柔軟剤で処理することによって、微生物セルロースの繊維間の摩擦係数を著しく減少させることができることが観察されている。これにより、柔軟剤で処理した後は、たとえその製品を伸した場合でも、複合繊維製品における微生物セルロースの引き裂きまたはひび割れは、実質的に減少または回避されるようになる。
【0131】
実施形態によれば、繊維製品が布帛である場合、この布帛は、弾性、伸縮性を備えた布帛とすることができる。この場合、有意に、弾性、伸縮性を備えた複合布帛を得ることができる。
【0132】
実施形態によれば、複合繊維製品は、弾性、伸縮性を備えた複合布帛とすることができる。
【0133】
実施形態によれば、ASTM D3107に準拠して測定すると、バイオポリマー(例えば、微生物セルロース)を引き裂きまたはひび割れを起こすことなく、25%まで複合布帛を伸すことができる。
【0134】
いくつかの場合において、実施形態によれば、ASTM D3107に準拠して測定すると、50%まで複合布帛を伸すことができる。
【0135】
本開示では、ASTM D3107に準拠する伸びは、1.35kg(3.0ポンド)の錘を使って測定した。
【0136】
本発明の好ましい実施形態によれば、複合繊維製品は、染色されており、好ましくはインディゴで染色されている。
【0137】
実施形態によれば、複合繊維製品は、バイオポリマー(例えば、細菌由来セルロース)と繊維柔軟剤とを含む複合布帛を備えている複合衣類である。ここで、バイオポリマー層の少なくとも一部は、染色されており、より好ましくはインディゴで染色されている。バイオポリマー層は、布帛の表側、すなわち布帛を備えている衣類を着用するときに、外側から見える布帛の面であることが好ましい。
【0138】
実施形態によれば、バイオポリマー層は、布帛の裏側、すなわち布帛を備えている衣類を着用するときに、外側から見えない布帛の面であってもよい。
【0139】
実施形態によれば、バイオポリマー層は、布帛の表側および裏側の両方に、すなわち、布帛を備えている衣類を着用するときに、外側から見える布帛の面、および布帛を備えている衣類を着用するときに、外側から見えない布帛の面の両方にあってもよい。
【実験的セクション】
【0140】
[実施例1]細菌由来セルロースを設け、次にシリコーン柔軟剤を含浸させた布帛
25×35cmの布帛サンプルを準備した。
細菌由来セルロース産生菌の1200ml培養物を、綿で覆ったフラスコ中で、200rpm、28℃で、2日間インキュベートした。
形成された細菌由来セルロース繊維を除去するために、スクリムを用いて培養物を濾過した。
濾過した培養物を布帛サンプルに注ぎ込み、または吹付けし、18時間インキュベートして、細菌由来セルロース層を備えた布帛サンプルを得た。
細菌由来セルロースを備えた布帛サンプルを80℃で20分間、0.1MのNaOHで洗浄し、次に蒸留水で中和した。
細菌由来セルロースを備えた布帛サンプルを、10~40重量%のシリコーン(SANSIL MIC 3145、マイクロシリコーン)を含む混合物中(サンプル10gに対して混合物200g)で、36℃、100rpmで18時間インキュベートした。
細菌由来セルロース層とマイクロシリコーン柔軟剤とを含む複合布帛のサンプルが得られた。
サンプルを乾燥させた。
【0141】
[実施例2]シリコーン柔軟剤を細菌由来セルロース培地に添加し、次に布帛にシリコーン柔軟剤含有細菌由来セルロース層を成長させる
25×35cmの布帛サンプルを準備した。
細菌由来セルロース産生菌の1200ml培養物を、綿で覆ったフラスコ中で、200rpmおよび28℃で、2日間インキュベートした。
形成された細菌由来セルロース繊維を除去するために、スクリムを用いて培養物を濾過した。
シリコーン柔軟剤(SANSIL MIC 3145、マイクロシリコーン)を培養物に、すなわち培地に1重量%添加した。
濾過したシリコーン含有培養物を布帛サンプルに注ぎ込み、または吹付けし、次に18時間インキュベートして、細菌由来セルロース層とマイクロシリコーン柔軟剤とを含む複合布帛のサンプルが得られた。
細菌由来セルロース層とマイクロシリコーン柔軟剤とを含む、得られた複合布帛のサンプルを80℃で20分間、0.1MのNaOHで洗浄し、次に蒸留水で中和した。
サンプルを乾燥させた。
【0142】
[実施例3]布帛の剛性解析
実施例1の手順に従って、細菌由来セルロース層とマイクロシリコーン柔軟剤とを含む複合布帛のサンプルが得られた。特に、細菌由来セルロース被覆布帛サンプルを、10%重量パーセントのシリコーン柔軟剤(SANSIL MIC 3145、マイクロシリコーン)中で、36℃、100rpmで18時間インキュベートした。得られたサンプル(「細菌由来セルロース被覆布帛+18時間の10%シリコーン処理」と命名)の剛性を、標準ASTM D4032に準拠して測定した。
比較のために、以下の剛性(標準ASTM D4032に準拠)を測定した。
- サンプル布帛のみ(「コントロール布帛」と命名したサンプル)。
- 細菌由来セルロース層を含まず、10重量%のシリコーン柔軟剤(SANSIL MIC 3145、マイクロシリコーン)と共にインキュベートしたサンプル布帛(「コントロール布帛+18時間の10%シリコーン処理」と命名したサンプル)。
- シリコーン柔軟剤と共にインキュベートしていない、細菌由来セルロース層を備えたサンプル布帛(「細菌由来セルロース被覆布帛」と命名したサンプル)。
【0143】
上述の表のデータから観察できるように、10重量%のシリコーン柔軟剤を含む混合物での処理は、布帛が細菌由来セルロース層を備えていない場合、サンプル布帛の剛性を実質的に変えていない。
【0144】
これとは逆に、シリコーン柔軟剤による処理は、細菌由来セルロース層を備えている複合布帛サンプルの剛性を低下させている。
【0145】
特に、細菌由来セルロース層とシリコーン柔軟剤とを含む複合布帛サンプルの剛性は、0.96であり、一方、細菌由来セルロース層を含むがシリコーン柔軟剤を含まない複合布帛サンプルの剛性は、1.53である。剛性は、標準ASTM D4032に準拠して測定している。
【0146】
従って、細菌由来セルロース層とシリコーン柔軟剤とを含む複合布帛サンプルの剛性は、細菌由来セルロース層を含むがシリコーン柔軟剤を含まない複合布帛サンプルの剛性より約37%低くなっている。
【0147】
換言すれば、細菌由来セルロース層とシリコーン柔軟剤を含む複合布帛サンプルは、細菌由来セルロース層を含むがシリコーン柔軟剤を含まない複合布帛サンプルよりも柔軟性がある。