(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】分子標的併用腫瘍治療・予防薬
(51)【国際特許分類】
A61K 38/15 20060101AFI20231003BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20231003BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231003BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
A61K38/15
A61K31/704
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2019040233
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】599090202
【氏名又は名称】酒井 敏行
(73)【特許権者】
【識別番号】504366165
【氏名又は名称】オンコリスバイオファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【氏名又は名称】横井 宏理
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【氏名又は名称】横井 知理
(72)【発明者】
【氏名】酒井 敏行
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-049706(JP,A)
【文献】国際公開第2009/067543(WO,A1)
【文献】特表2010-510302(JP,A)
【文献】Cancer Biology & Therapy,2012年,Vol.13, No.8,p.614-622
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 38/00-38/58
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(III):
【化3】
(式中、R4はイソプロピル基を表す。)
で示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩であるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と、
アムルビシンとを有効成分として含有することを特徴とする、
肺癌治療用及び予防用医薬組成物。
【請求項2】
式(III):
【化3】
(式中、R4はイソプロピル基を表す。)
で示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩であるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、
アムルビシンと併用するための
肺癌治療用及び予防用医薬組成物。
【請求項3】
アムルビシンを有効成分として含有することを特徴とする、
式(III):
【化3】
(式中、R4はイソプロピル基を表す。)
で示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩であるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と併用するための
肺癌治療用及び予防用医薬組成物。
【請求項4】
式(III):
【化6】
(式中、R4はイソプロピル基を表す。)
で示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩であるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と
アムルビシンとを、有効成分として含有させる工程を有することを特徴とする、
肺癌治療用及び予防用医薬組成物の製造方法。
【請求項5】
式(III):
【化6】
(式中、R4はイソプロピル基を表す。)
で示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩であるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を有効成分として含有させる工程を有することを特徴とする、
アムルビシンと併用するための
肺癌治療用及び予防用医薬組成物の製造方法。
【請求項6】
アムルビシンを有効成分として含有させる工程を有することを特徴とする、
式(III):
【化6】
(式中、R4はイソプロピル基を表す。)
で示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩であるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と併用するための
肺癌治療用及び予防用医薬組成物の製造方法。
【請求項7】
式(III):
【化9】
(式中、R4はイソプロピル基を表す。)
で示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩であるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物、及び、
アムルビシンを有効成分として含有する医薬組成物からなる、
肺癌治療用及び予防用医薬組成物のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍治療及び予防における分子標的併用療法並びに予防法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌などの悪性腫瘍は、疾患を原因とする主要な死因の一つである。化学療法剤を用いた腫瘍の化学療法の有効性は上昇しているが、依然として満足のいく臨床治療成績は得られていない。たとえば、気管・気管支・肺癌は、世界中で毎年200万人が新たに罹患し170万人が亡くなっており(非特許文献1参照。)、罹患数の著しい増加に伴い進行性の肺癌の症例数が増加しているため、有効な治療法の開発が課題となっている。
【0003】
近年、進行肺癌に対しては、上皮成長因子受容体(EGFR)を始めとする、がんの発生や進展において直接的に重要な役割を果たすドライバー(driver)遺伝子におけるdriver変異を標的とした分子標的治療が試みられており、進行肺癌の罹患患者における生存期間は劇的に改善してきている。
【0004】
しかしながら、肺扁平上皮癌に対しては、有効な分子標的治療は未だ無く、免疫チェックポイント阻害剤が適応となったものの、肺扁平上皮癌に対する化学療法は、未だ細胞障害性抗がん剤が主力となっている。肺扁平上皮癌のdriver変異として最も頻度の高い線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)を標的としたFGFR阻害剤を用いた臨床試験も行われているが、奏効率は僅か7~19%に留まることが報告されており(非特許文献2参照。)、他の癌を対象とした分子標的薬で確認されているような高い有効性は得られていない現状である。そのため、肺扁平上皮癌に対する新規治療開発が早期に望まれている。
【0005】
悪性腫瘍に対処して克服するべく開発されている分子標的薬として、癌細胞の生長阻害、細胞分化及びアポトーシスを誘導する活性を有するものがあることが報告された分子標的薬であるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤がある。本発明者らは、HDAC阻害剤がp53変異を有する悪性腫瘍に対する抗腫瘍効果を示すことを見出す(非特許文献3~9参照。)とともに、p21WAF1/Cip1-誘導物質をスクリーニングすることにより、新規なHDAC阻害薬としてOBP-801/YM753(spiruchostatin A)も見出している(非特許文献10、特許文献1及び特許文献2参照。)。
【0006】
しかし、SAHA/ボリノスタット、ロミデプシン/イストダックス、ベリノスタット/ベレオダックによる皮膚T細胞性リンパ腫治療、パノビノスタット/ファリーダックによる多発性骨髄腫治療が承認された例を除き、臨床において癌などの悪性腫瘍に対する治療において用いることが認められたHDAC阻害剤の報告はない。
【0007】
HDAC阻害剤は様々な非小細胞肺癌細胞株において抗腫瘍効果を示した報告もあるが、非小細胞肺癌に対するHDAC阻害剤単剤での臨床試験の成績は十分なものではなく、単剤投与試験による奏効率は、僅か0~6%に留まる(非特許文献11~13)。また、非小細胞肺癌に対する既存抗癌剤とHDAC阻害剤の併用の試みにおいても、併用群においてGrade 3以上の有害事象が有意に多く発生し、さらにはPFSの延長を認めないものがあるなど不十分であり(非特許文献14~15)、未だ肺癌を対象とした臨床試験で安全性と有効性とが確認された報告は見当たらない。小細胞肺癌細胞株でHDAC阻害剤とアントラサイクリン系抗癌剤のアムルビシン(amrubicin)を含むいくつかのトポイソメラーゼ阻害剤との併用効果をみた報告はあるが(非特許文献16)、扁平上皮癌を含む非小細胞肺癌を対象とした報告はない。
【0008】
このように様々な試みがなされているも十分な成果があがっているとまではいえず、依然として、癌などの悪性腫瘍治療及び予防における臨床成績を改善するための新たな治療戦略の開発と、該治療戦略に基づく新たな治療薬の開発が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第3554707号公報
【文献】特開2001-348340号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Global Burden of Disease Cancer Collaboration, JAMA Oncol. 2018;4(11):1553-1568.
【文献】Rebecca S. Heist, et al. J Thorac Oncol. 2012; 7(12): 1775-1780.
【文献】Hirose T, Sowa Y, Takahashi S, et al. p53-independent induction of Gadd45 by histone deacetylase inhibitor: coordinate regulation by transcription factors Oct-1 and NF-Y. Oncogene 2003;22:7762-73.
【文献】Nakata S, Yoshida T, Horinaka M, et al. Histone deacetylase inhibitors upregulate death receptor 5/TRAIL-R2 and sensitize apoptosis induced by TRAIL/APO2-L in human malignant tumor cells. Oncogene 2004;23:6261-71.
【文献】Yokota T, Matsuzaki Y, Miyazawa K, et al. Histone deacetylase inhibitors activate INK4d gene through Sp1 site in its promoter. Oncogene 2004;23:5340-9.
【文献】Hitomi T, Matsuzaki Y, Yokota T, et al. p15(INK4b) in HDAC inhibitor-induced growth arrest. FEBS Lett 2003;554:347-50.
【文献】Yokota T, Matsuzaki Y, Sakai T. Trichostatin A activates p18INK4c gene: differential activation and cooperation with p19INK4d gene. FEBS Lett 2004;574:171-5.
【文献】Nakano K, Mizuno T, Sowa Y, et al. Butyrate activates the WAF1/Cip1 gene promoter through Sp1 sites in a p53-negative human colon cancer cell line. J Biol Chem 1997;272:22199-206.
【文献】Sowa Y, Orita T, Minamikawa S, et al. Histone deacetylase inhibitor activates the WAF1/Cip1 gene promoter through the Sp1 sites. Biochem Biophys Res Commun 1997;241:142-50.
【文献】Shindoh N, Mori M, Terada Y, et al. YM753, a novel histone deacetylase inhibitor, exhibits antitumor activity with selective, sustained accumulation of acetylated histones in tumors in the WiDr xenograft model. International journal of oncology. 2008; 32: 545-55.
【文献】Wagner JM,et al. Clin Epigenetics. 2010 Dec;1(3-4):117-136.
【文献】Traynor AM, et al. J Thorac Oncol. 2009 Apr;4(4):522-526.
【文献】Gridelli C, et al. Crit Rev Oncol Hematol. 2008 Oct;68(1):29-36.
【文献】Tambo Y, et al. Invest New Drugs. 2017 Apr;35(2):217-226.
【文献】Ramalingam SS, et al. J Clin Oncol. 2010 Jan 1;28(1):56-62.
【文献】Gray J, et al. Cancer Biol Ther. 2012 Jun;13(8):614-622.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、悪性の腫瘍、特に肺癌を治療及び予防することができる、新たな治療薬並びに治療戦略を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、悪性の腫瘍、特に肺癌に対する、合理的かつ有効性の高い新たな治療戦略の確立を目指し、新規及び既存の分子標的医薬化合物を用いた評価を進めていた中で、分子標的薬であるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤のOBP-801と、アントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシンとを用いたところ、有意に高い相乗的な癌治療・予防効果が発揮されることを見出し、その分子機構の解明を通して、新たな治療戦略に基づく合理的で有効性の高い新規腫瘍治療用薬及び予防用医薬の発明を完成させた。
【0013】
本発明は、腫瘍に対する治療及び予防を可能とするため、特に肺癌に対する治療及び予防のためのものであって、分子標的薬であるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤とアントラサイクリン系抗癌剤とを医薬の有効成分として併用する点を、最も主要な特徴とする。
【0014】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、第1の手段では、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と、アントラサイクリン系抗癌剤とを有効成分として含有することを特徴とする、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物である。
【0015】
本発明の第2の手段は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、アントラサイクリン系抗癌剤と併用するための腫瘍治療用及び予防用医薬組成物である。
【0016】
本発明の第3の手段は、アントラサイクリン系抗癌剤を有効成分として含有することを特徴とする、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と併用するための腫瘍治療用及び予防用医薬組成物である。
【0017】
本発明の第4の手段は、前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤が、
次式(I):
【化1】
又は、次式(II):
【化2】
(式中、R1~R3は独立して水素原子、メチル基、エチル基、R4は水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、sec-ブチル基又はイソブチル基、R5~R8はそれぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基又はイソプロピル基、R8は水素原子、メチル基又は保護基、R10及びR11は、独立して水素原子、メチル基又は保護基を表す。)
で示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩であることを特徴とする、本発明の第1の手段~第3の手段のいずれか1に記載の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物である。
【0018】
本発明の第5の手段は、前記デプシペプチド化合物が、
次式(III):
【化3】
(式中、R4はイソプロピル基、sec-ブチル基又はイソブチル基を表す。)
で示される化合物であることを特徴とする、本発明の第4の手段に記載の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物である。
【0019】
本発明の第6の手段は、R4がイソプロピル基である本発明の第5の手段に記載の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物である。
【0020】
本発明の第7の手段は、前記アントラサイクリン系抗癌剤がアムルビシンであることを特徴とする、本発明の第1の手段~第6の手段のいずれか1に記載の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物である。
【0021】
本発明の第8の手段は、前記腫瘍が、肺癌であることを特徴とする、本発明の第1の手段~第7の手段のいずれか1に記載の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物である。
【0022】
本発明の第9の手段は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤とアントラサイクリン系抗癌剤とを、有効成分として含有させる工程を有することを特徴とする、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物の製造方法である。
【0023】
本発明の第10の手段は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を有効成分として含有させる工程を有することを特徴とする、アントラサイクリン系抗癌剤と併用するための腫瘍治療用及び予防用医薬組成物の製造方法である。
【0024】
本発明の第11の手段は、アントラサイクリン系抗癌剤を有効成分として含有させる工程を有することを特徴とする、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と併用するための腫瘍治療用及び予防用医薬組成物の製造方法である。
【0025】
本発明の第12の手段は、前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤が、
次式(I):
【化4】
又は、次式(II):
【化5】
(式中、R1~R3は独立して水素原子、メチル基、エチル基、R4は水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、sec-ブチル基又はイソブチル基、R5~R8はそれぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基又はイソプロピル基、R8は水素原子、メチル基又は保護基、R10及びR11は、独立して水素原子、メチル基又は保護基を表す。)
で示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩であることを特徴とする、本発明の第9の手段~第11の手段のいずれか1に記載の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物の製造方法である。
【0026】
本発明の第13の手段は、前記デプシペプチド化合物が、
次式(III):
【化6】
(式中、R4はイソプロピル基、sec-ブチル基又はイソブチル基を表す。)
で示される化合物であることを特徴とする、本発明の第12の手段に記載の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物の製造方法である。
【0027】
本発明の第14の手段は、R4がイソプロピル基である本発明の第13の手段に記載の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物である。
【0028】
本発明の第15の手段は、前記アントラサイクリン系抗癌剤がアムルビシンであることを特徴とする、本発明の第9の手段~第14の手段のいずれか1に記載の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物の製造方法である。
【0029】
本発明の第16の手段は、前記腫瘍が、肺癌であることを特徴とする、本発明の第9の手段~第15の手段のいずれか1に記載の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物の製造方法である。
【0030】
本発明の第17の手段は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物、及び、アントラサイクリン系抗癌剤を有効成分として含有する医薬組成物からなる、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物のキットである。
【0031】
本発明の第18の手段は、前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤が、
次式(I):
【化7】
又は、次式(II):
【化8】
(式中、R1~R3は独立して水素原子、メチル基、エチル基、R4は水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、sec-ブチル基又はイソブチル基、R5~R8はそれぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基又はイソプロピル基、R8は水素原子、メチル基又は保護基、R10及びR11は、独立して水素原子、メチル基又は保護基を表す。)
で示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩であることを特徴とする、本発明の第17の手段に記載の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物のキットである。
【0032】
本発明の第19の手段は、前記デプシペプチド化合物が、
次式(III):
【化9】
(式中、R4はイソプロピル基、sec-ブチル基又はイソブチル基を表す。)
で示される化合物であることを特徴とする、本発明の第18の手段に記載の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物のキットである。
【0033】
本発明の第20の手段は、R4がイソプロピル基である本発明の第19の手段に記載の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物のキットである。
【0034】
本発明の第21の手段は、前記アントラサイクリン系抗癌剤がアムルビシンであることを特徴とする、本発明の第17の手段~第20の手段のいずれか1に記載の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物のキットである。
【0035】
本発明の第22の手段は、前記腫瘍が、肺癌であることを特徴とする、本発明の第17の手段~第21の手段に記載の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物のキットである。
【発明の効果】
【0036】
本発明の、OBP-801などのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と、アントラサイクリン系抗癌剤とを有効成分として併用する医薬組成物を用いることで、相乗的な腫瘍細胞及び腫瘍組織に対するアポトーシス誘導並びに腫瘍増殖阻害効果が得られ、有効成分に起因した副作用を回避した、腫瘍治療及び予防が可能となる。更に、OBP-801などのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤とアントラサイクリン系抗癌剤という薬剤標的分子がそれぞれ異なるものを組み合わせたことで、単剤では得ることができない相乗的な、カスパーゼ経路の活性化とTXNIP及びチオレドキシン2の発現及び活性制御によるミトコンドリア・アポトーシス経路の活性化という顕著な薬理効果を得ることが可能となり、従来療法の有効性が低い肺癌のような腫瘍を含む幅広い腫瘍に適用できる有効な治療薬及び予防薬として、臨床的に有効な、腫瘍に対する新たな治療・予防戦略を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1-1】ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤及び/またはアントラサイクリン系抗癌剤のヒト肺扁平上皮癌細胞株に対するin vitro細胞増殖抑制作用を示す。
図1Aは、OBP-801のCalu-1細胞に対するin vitro細胞増殖抑制作用を示す。
図1Bは、アムルビシンのCalu-1細胞におけるin vitro細胞増殖抑制作用を示す。データは平均値±SDを示す。
【
図1-2】
図1Cは、OBP-801及びアムルビシン併用時のCalu-1細胞に対するin vitro細胞増殖抑制作用を示す。
図1Dは、OBP-801及びアムルビシン併用時のH520細胞に対するin vitro細胞増殖抑制作用を示す。
図1Eは、OBP-801及びアムルビシン併用時のA549細胞に対するin vitro細胞増殖抑制作用を示す。データは平均値±SDを示す。**はP<0.01(vs.control)を示す。
【
図1-3】
図1Fは、OBP-801及びアムルビシン併用時のCalu-1細胞に対するin vitro細胞増殖抑制作用に関する併用係数(combination index: CI)を示す。
【
図2-1】Calu-1細胞におけるSub-G1期細胞の割合の解析結果を示す。
図2Aは、Calu-1細胞に対するOBP-801及び/またはアムルビシンの72時間処理によるSub-G1期細胞の割合の解析結果を示す。データは平均値±SDを示し、**はP<0.01を示す。
【
図2-2】
図2Bは、Calu-1細胞に対するOBP-801、アムルビシン、N-アセチル-L-システイン(NAC)、及び/またはパンカスパーゼ阻害剤zVAD-fmk(Z-VAD)の72時間処理によるSub-G1期細胞の割合の解析結果を示す。
図2Cは、H520細胞に対するOBP-801、アムルビシン、NAC、及び/またはZ-VADの72時間処理によるSub-G1期細胞の割合の解析結果を示す。
図2Dは、A549細胞に対するOBP-801、アムルビシン、NAC、及び/またはZ-VADの72時間処理によるSub-G1期細胞の割合の解析結果を示す。データは平均値±SDを示し、**はP<0.01を示す。
【
図2-3】
図2Eは、Calu-1細胞に対するOBP-801及び/またはアムルビシンの72時間処理時におけるウエスタンブロット解析結果である。併用時のCleaved PARP(切断型PARP(ポリ[ADP-リボース]ポリメラーゼ))発現を示す。
【
図3】ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、アントラサイクリン系抗癌剤、及び/またはキナーゼ阻害薬のCalu-1細胞に対するin vitro細胞増殖抑制作用を示す。
図3Aは、OBP-801、アムルビシン、及び/またはASK1(アポトーシス・シグナル調節キナーゼ1)阻害薬であるSelonsertibのin vitro細胞増殖抑制作用を示す。
図3Bは、OBP-801、アムルビシン、及び/またはp38MAPK阻害剤であるSB203580のin vitro細胞増殖抑制作用を示す。
図3Cは、OBP-801、アムルビシン、及び/またはJNK阻害剤であるSP2600125のin vitro細胞増殖抑制作用を示す。データは平均値±SDを示し、**はP<0.01を示す。
【
図4-1】Calu-1細胞におけるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤及び/またはアントラサイクリン系抗癌剤の72時間処理時におけるウエスタンブロット解析結果である。
図4Aは、OBP-801及び/またはアムルビシンの72時間処理時におけるウエスタンブロット解析結果である。TXNIP(Thioredoxin-interacting protein(チオレドキシン相互作用タンパク質))発現を示す。
【
図4-2】
図4Bは、Calu-1細胞におけるOBP-801及び/またはアムルビシンの48時間処理時における細胞内の活性酸素種(ROS)の量を示す。
【
図5-1】Calu-1細胞におけるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤及び/またはアントラサイクリン系抗癌剤の48時間処理時におけるウエスタンブロット解析結果及びSub-G1期細胞の割合の解析結果である。
図5Aは、OBP-801及び/またはアムルビシンと、チオレドキシン2に対するsiRNAのsiTrx2との48時間処理時におけるウエスタンブロット解析結果である。チオレドキシン2(Thioredoxin2)発現を示す。
【
図5-2】
図5Bは、OBP-801及び/またはアムルビシンと、チオレドキシン2に対するsiRNAのsiTrx2との48時間処理時におけるSub-G1期細胞の割合の解析結果を示す。データは平均値±SDを示し、**はP<0.01を示す。
【
図6-1】ヒト肺扁平上皮癌細胞株H520を皮下移植したヌードマウスを用いた評価系によるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤及び/またはアントラサイクリン系抗癌剤のin vivo抗腫瘍効果を示す。
図6Aは、OBP-801及び/またはアムルビシンの非処理または処理時における腫瘍体積の変動を示す。データは平均値±SDを示し、**はP<0.01を示す。
【
図6-2】
図6Bは、OBP-801及び/またはアムルビシンの非処理または処理時における被検体マウスの体重変化を確認した試験結果を示す。データは平均値±SDを示す。
【
図7】ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤のOBP-801又はSAHAと、アントラサイクリン系抗癌剤のアムルビシンとの72時間併用処理時のCalu-1細胞に対する腫瘍細胞増殖抑制作用を示す。
図7A及び
図7Bは、Calu-1細胞に対するOBP-801又はSAHAと、アムルビシンとの72時間併用処理による腫瘍細胞増殖抑制効果を確認した結果である。
【
図8】OBP-801及びアムルビシン併用時の作用機序のモデルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤であるOBP-801と、アントラサイクリン系抗癌剤とを有効成分として含有することを特徴とする、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物を提供する。
【0039】
本明細書において「ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDAC阻害剤)」とは、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を分子標的とし、阻害する分子標的剤を指す。
【0040】
本発明の組成物に含まれるHDAC阻害剤のOBP-801は、オンコリスバイオファーマ株式会社(東京、日本)から入手、使用することができる。
【0041】
HDAC阻害剤のSAHA/ボリノスタット、ロミデプシン、パノビノスタット/LBH589、ベリノスタット/PXD101、モセチノスタット/MGCD0103、アベキシノスタット/PCI-24781、エンチノスタット/SNDX-275/MS-275、SB939、CS055/HBI-8000、レスミノスタット/4SC-201/BYK408740、givinostat/ITF2357、quisinostat/JNJ-26481585、CHR-2845、CHR-3996、CUDC-101、AR-42、DAC-060、EVP-0334、MGCD-290、CXD-101/AZD-9468、CG200745、arginine butyrate、4SC-202、rocilinostat/ACY-1215又はSHP-141は、本発明の組成物に含まれるOBP-801と同様にして用いてもよい。
【0042】
また、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤として、
次式(I):
【化10】
または、次式(II):
【化11】
(式中、R1~R3は独立して水素原子、メチル基、エチル基、R4は水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、sec-ブチル基又はイソブチル基、R5~R8はそれぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基又はイソプロピル基、R8は水素原子、メチル基又は保護基、R10及びR11は、独立して水素原子、メチル基又は保護基を表す。)
で示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩を使用してもよい。
中でも、次式(III):
【化12】
(式中、R4はイソプロピル基、sec-ブチル基又はイソブチル基を表す。)
で示される化合物であることがより好ましく、R4がイソプロピル基である化合物(OBP-801)が特に好ましい。
【0043】
また、本明細書において「アントラサイクリン系抗癌剤」とは、DNAトポイソメラーゼIIを阻害し、DNA鎖の塩基対間にインターカレートしてDNAの合成・複製・転写を阻害し、腫瘍細胞の増殖を抑える抗癌剤としての活性を有する化合物を指す。
【0044】
本発明の組成物に含まれるアントラサイクリン系抗癌剤としては、アムルビシン、アムルビシン塩酸塩、ドキソルビシン、ドキソルビシン塩酸塩、ダウノルビシン、ダウノルビシン塩酸塩、ダウノルビシンクエン酸塩、エピルビシン、エピルビシン塩酸塩、アクラルビシン、アクラルビシン塩酸塩、ゾルビシン塩酸塩、イダルビシン、イダルビシン塩酸塩、ピラルビシン、ピラルビシン塩酸塩、バルルビシン、ピクサントロン、ピクサントロンマレイン酸塩、アルドキソルビシン、アルドキソルビシン塩酸塩、カルビシン塩酸塩、エソルビシン塩酸塩、ベルビシン塩酸塩などを用いることができる。本発明の組成物に含まれるアントラサイクリン系抗癌剤としては、好ましくは、アムルビシン、またはアムルビシン塩酸塩などのアムルビシンの各種塩を用いることができる。
【0045】
本発明の組成物に含まれるアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン、アムルビシン塩酸塩は、ApexBio(台湾)などから入手し、使用することができる。
【0046】
本発明において、「腫瘍」とは、癌などの上皮性悪性腫瘍や肉腫などの非上皮性悪性腫瘍である悪性腫瘍並びに良性腫瘍を包含する。悪性腫瘍としては、好ましくは、肺癌、気管支癌、咽頭癌、甲状腺癌、黒色腫、乳癌、骨腫瘍、骨軟部腫瘍、骨肉腫、胃癌、肝臓癌、食道癌、膵臓癌、胆道癌、腎細胞癌、子宮体癌、子宮頸癌、卵巣癌、前立腺癌、膀胱癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、皮膚癌、中皮腫、リンパ腫、神経系腫瘍、又は、神経組織腫瘍腫が包含され、さらに好ましくは、肺癌が包含される。肺癌としては、非小細胞肺癌(Non-Small Cell Lung Cancer; NSCLC)、又は、小細胞肺癌(Small Cell Lung Cancer; SCLC)が包含され、より好ましくは非小細胞肺癌が包含され、さらにより好ましくは、非小細胞肺癌としては、扁平上皮非小細胞肺がん(Squamous Non-Small Cell Lung Cancer; Sq NSCLC)、又は、非扁平上皮非小細胞肺がん(Non-Squamous Non-Small Cell Lung Cancer; Non-Sq NSCLC)が包含され、よりさらに好ましくは、扁平上皮非小細胞肺がん(Squamous Non-Small Cell Lung Cancer; Sq NSCLC)が包含される。
【0047】
本発明において、「ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と、アントラサイクリン系抗癌剤とを有効成分として含有することを特徴とする、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物」とは、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤とアントラサイクリン系抗癌剤とを、腫瘍の治療または予防において同時に、別々に、または、順次に投与するために組み合わせた医薬組成物を意味する。
【0048】
本発明の医薬組成物は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と、アントラサイクリン系抗癌剤とが、共に含有される配合剤の形で提供することができる。また、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を含有する医薬組成物とアントラサイクリン系抗癌剤を含有する医薬組成物とが別々に提供され、これらの医薬組成物が、同時に、別々に、または順次に使用されてもよい。さらに、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を含有する医薬組成物とアントラサイクリン系抗癌剤を含有する医薬組成物から構成されるキットとして提供してもよい。
【0049】
さらに、本発明にしたがって、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤とアントラサイクリン系抗癌剤とが腫瘍治療及び予防において併用される場合には、 いずれか一方が単独で用いられる投与量よりも各々が少ない投与量で投与され得る。
【0050】
本発明の、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と、アントラサイクリン系抗癌剤とを含有する組成物は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と、アントラサイクリン系抗癌剤とを必須の成分として含有し、所望により、製剤化のための添加物を含有していてもよい。
好適には、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤及び、アントラサイクリン系抗癌剤のみを有効成分として含有し、更に製剤化のための添加物を含有する医薬組成物である。
より好適には、次式(I):
【化13】
又は、次式(II):
【化14】
(式中、R1~R3は独立して水素原子、メチル基、エチル基、R4は水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、sec-ブチル基又はイソブチル基、R5~R8はそれぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基又はイソプロピル基、R8は水素原子、メチル基又は保護基、R10及びR11は、独立して水素原子、メチル基又は保護基を表す。)
で示されるデプシペプチド化合物又はその製薬学的に許容可能な塩であるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、及び、アントラサイクリン系抗癌剤のみを有効成分として含有し、更に製剤化のための添加物を含有する医薬組成物である。
さらに好適には、次式(III):
【化15】
(式中、R4はイソプロピル基、sec-ブチル基又はイソブチル基を表す。)
で示される化合物又はその製薬学的に許容可能な塩であるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、及び、アントラサイクリン系抗癌剤のみを有効成分として含有し、更に製剤化のための添加物を含有する医薬組成物である。
特に好適には、前記式(III)で示され、式中のR4がイソプロピル基である化合物(OBP-801)又はその製薬学的に許容可能な塩であるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、及び、アントラサイクリン系抗癌剤のみを有効成分として含有し、更に製剤化のための添加物を含有する医薬組成物である。
【0051】
本発明において、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と、アントラサイクリン系抗癌剤とを有効成分として含有するとは、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と、アントラサイクリン系抗癌剤とを主要な活性成分として含むという意味であって、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と、アントラサイクリン系抗癌剤の含有率を制限するものではない。
【0052】
本発明において、「治療」という用語は、本発明に係る医薬組成物が被験者に投与されることにより、腫瘍が死滅またはその細胞数が減少すること、腫瘍の増殖が抑制されること 、腫瘍に起因する様々な症状が改善されることを意味するものである。また、本発明において「予防」という語は、減少した腫瘍が再度増殖することによりその数が増加することの防止、増殖が抑制された腫瘍の再増殖の防止を意味する。
【0053】
本発明の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤とアントラサイクリン系抗癌剤とを有効成分として含有させる工程を経ることにより製造することができる。また、本発明のアントラサイクリン系抗癌剤と併用するための腫瘍治療用及び予防用医薬組成物は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を有効成分として含有させる工程を経ることにより、また、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と併用するための腫瘍治療用及び予防用医薬組成物は、アントラサイクリン系抗癌剤を有効成分として含有させる工程を経ることにより、製造することができる。さらに、上記各工程にくわえ、所望により、製剤化のための添加物を含有させる工程を加えたものとしてもよい。
【0054】
本発明の医薬組成物において、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤とアントラサイクリン系抗癌剤とが別々の医薬組成物に含有され提供される場合には、これらの医薬組成物の剤型は、同じ剤型であっても異なる剤型であってもよい。例えば、双方が経口製剤、非経口製剤、注射剤、点滴剤、静脈内点滴剤のうちの一つであって互いに異なる剤型であってもよく、双方が経口製剤、非経口製剤、注射剤、点滴剤、静脈内点滴剤のうちの一つであって同種の剤型であってもよい。また、上記の医薬組成物には、 さらに異なる一種以上の製剤を組み合わせてもよい。
【0055】
本発明の医薬組成物は、バルク液体溶液若しくは懸濁液などの液体組成物、又は、バルク粉末、錠剤などの固形組成物の形態をとることができる。例えば、液体組成物の予め充填・測定したアンプル又は注射器、或いは固体組成物の場合には丸薬、錠剤、カプセルなどとする。これら製剤における有効成分量は腫瘍の治療及び/又は予防効果が得られるように設定される。
【0056】
上記液体組成物としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが例示され、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80、HCO-50と適宜併用され得る。油性液としてはゴマ油、大豆油が例示され、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と好適に配合され得る。
【0057】
また、上記固形組成物としては、結合剤、例えば微結晶性セルロース、トラガカント・ガム又はゼラチン;賦形剤、例えばデンプン又はラクトース、崩壊剤、例えばアルギン酸、プリモゲル(Primogel)、又はトウモロコシデンプン;潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム;流動促進剤、例えばコロイド二酸化シリコン;甘味剤、例えばショ糖又はサッカリン;又は、香料、例えばペパーミント、サリチル酸メチル、又はオレンジ香味料などの、任意の成分、又は類似の性質の化合物を含むことができる。
【0058】
本発明の医薬組成物は、経口、直腸、経皮、皮下、静脈内、筋肉内及び鼻腔内を含む様々な経路により、経口投与もしくは非経口投与することができる。非経口投与の場合には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが例示される。注射投与の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などによって本発明の治療用抗体が全身または局部的に投与され得る。また、投与方法及び投与用量は、患者の年齢、症状により適宜選択され得る。
【0059】
以下、本発明を実施例の記載によって具体的に説明するが、本発明は当該記載によって限定して解釈されるものではない。
【実施例】
【0060】
腫瘍治療及び予防における、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤とアントラサイクリン系抗癌剤との併用による顕著な治療・予防効果を明らかにした。本実施例においては、本発明が治療対象とする腫瘍の例として、ヒト肺扁平上皮癌細胞を用い、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の例としてOBP-801、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と併用するアントラサイクリン系抗癌剤の例として、アムルビシン塩酸塩を用いた。
【0061】
<材料と方法>
〔1.細胞培養〕
ヒト肺扁平上皮癌細胞株のCalu-1細胞とヒト肺腺癌細胞株A549細胞は、10%FBSと4mMグルタミンを添加したDMEM培地中で、37℃、5%CO2条件下で培養した。ヒト肺扁平上皮癌細胞株のH520細胞は、10%FBSと2mMグルタミンを添加したRPMI 1640培地中で、37℃、5%CO2条件下で培養した。
【0062】
〔2.試薬〕
OBP-801は、オンコリスバイオファーマ株式会社(東京、日本)から供給された。アムルビシン塩酸塩は、ApexBio(台湾)より購入した。N-アセチル-L-システイン(NAC)は、ナカライテスク(日本)から購入した。パンカスパーゼインヒビター zVAD-fmkは、R&D システムズ(ミネアポリス,ミネソタ州,米国)から購入した。selonsertib、SB203580、SP2600125は、セレック ケミカルズ(ヒューストン,テキサス州,米国)より購入した。siTrx2は、サーモンフィッシャーサイエンティフィック(ウォルサム,マサチューセッツ州,米国)より購入した。
【0063】
〔3.細胞生存率試験〕
細胞生存率は、Cell Counting Kit-8(株式会社同仁化学研究所、日本)を用い、マルチウェルスペクトロフォトメーター Multiskan FC(サーモンフィッシャーサイエンティフィック(ウォルサム,マサチューセッツ州,米国)で波長450nmにて測定し、決定した。
【0064】
〔4.アポトーシスの解析〕
細胞を、各濃度で、OBP-801を添加又は非添加、及び/又はアムルビシン塩酸塩を添加し、72時間処理したのち、細胞を回収した。細胞は、0.1%トライトン-X100で透過処理された後、核をヨウ化プロピジウム(PI)にて染色した。DNA量はFACSCaliburTMフローサイトメーター(ベクトン-ディッキンソン,フランクリン レイクス,ニュージャージー州,米国)にて測定され、Cell QuestTM software package(ベクトン-ディッキンソン)により解析された。
【0065】
〔5.併用係数〕
併用係数(CI)は、ChouとTalalayによる方法に基づき、CalcuSyn software(Biosoft,英国)を用いて算出した。CI<1の場合は相乗効果、すなわち、予想される相加効果よりも大きいと判断される。CI=1の場合は相加効果、また、CI>1の場合は拮抗効果と判断される。
【0066】
〔6.異種移植モデルにおける抗腫瘍活性評価 〕
メスBALB/c nu/nuマウス(5週齢)をチャールス・リバー・ラボラトリー(ウィルミントン,マサチューセッツ州,米国)より購入した。H520細胞(4x106個)は、マウス背部に皮下注射により移植した。腫瘍体積は、1/2x(長さ)x(幅)2の計算式により算出した。平均腫瘍体積が40mm3に到達した時(第13日目に)、マウスを無作為に4つの群(5匹/群)に分け、処置を続けた。マウスには、週1回(第15,22,29及び36日目に)、希釈液のみ(コントロールグループ)又はOBP-801(10mg/kg)を投与した。また、希釈液のみ(コントロールグループ)又はアムルビシン塩酸塩(AMR)(25mg/kg)を、一回のみ(第14日目に)投与した。OBP-801は、20%ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン/生理食塩水に溶解し、尾静脈に注射した。アムルビシン塩酸塩は生理食塩水に溶解し、尾静脈に注射した。マウス体重及び腫瘍体積は、第13,18,22,26,30,33,37及び40日目に計測した。全ての実験及び術式は、研究施設内委員会が定めた指針に基づき実施された。
【0067】
〔7.ウェスタンブロット解析〕
細胞を溶解液(50mM トリス-HCl,150mM NaCl,1% NP-40,0.5% デオキシコール酸,0.1% SDS,1mM ジチオスレイトール,及び0.5mM フェニルメチルスルフォニルフルオライド)にて溶解した。タンパク抽出液をポリアクリルアミドゲルにロードし、電気泳動処理し、ニトロセルロース膜に転写した。ブロットは、ブロッキング液(5%スキムミルク/TBS―T)にて室温1時間ブロッキング処理し、適切な一次抗体で室温1時間インキュベートする。シグナルは、Chemi-Lumi One L(ナカライテスク、日本)又はImmobilon Western(ミリポア,ビレリカ,マサチューセッツ州,米国)を用いて検出した。
抗体は、ウサギポリクローナル抗体である、抗Cleaved PARP抗体(#5625,セルシグナリングテクノロジー,ダンバース,マサチューセッツ州,米国)、抗TXNIP抗体(ab188865,アブカム,ケンブリッジ,英国)、抗thioredoxin2抗体(sc-133201,サンタクルーズ バイオテクノロジー,ダラス,テキサス州,米国)、及び抗β-アクチン抗体(シグマ,セントルイス,ミズーリ州,米国)を用いた。
【0068】
〔8.低分子干渉(si)RNAトランスフェクション〕
Thioredoxin2のノックダウンは、LipofectamineTMRNAiMAX(インビトロジェン)を用いた低分子干渉RNA(siRNA)の遺伝子導入により行った。
【0069】
<結果>
〔試験例1:OBP-801及び/またはアムルビシンのヒト肺扁平上皮癌細胞株に対するin vitro細胞増殖抑制作用〕
【0070】
OBP-801又はアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩が腫瘍細胞の増殖に与える影響を、ヒト肺扁平上皮癌細胞株であるCalu-1細胞を用いて検討した。
【0071】
OBP-801は、ヒト肺扁平上皮癌細胞に対する濃度依存的な細胞増殖抑制作用を示し、50%阻害効果を示す濃度は約2.75nMであった(
図1A)。また、アムルビシン塩酸塩は、ヒト肺扁平上皮癌細胞に対する濃度依存的な細胞増殖抑制作用を示し、60%阻害効果を示す濃度は約2μMであった(
図1B)。
【0072】
〔実施例2:アントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩をOBP-801と併用処理することによる、ヒト肺扁平上皮癌細胞株に対するin vitro細胞増殖抑制作用の相乗的増強〕
【0073】
OBP-801及びアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩との併用処理が腫瘍組織中の腫瘍細胞に与える増殖阻害効果を、ヒト肺扁平上皮癌細胞株のCalu-1細胞、H520細胞、並びに、ヒト肺腺癌細胞株のA549細胞を用いて検討した。
【0074】
Calu-1細胞に対しては、OBP-801を2.75nMの濃度で単剤処理またはアムルビシン塩酸塩を2.5μMの濃度で単剤処理しても、約50~60%ほどの阻害効果しか示さないが、OBP-801を2.75nM、アムルビシン塩酸塩を2.5μMの濃度で併用処理すると、約95%程度の顕著な細胞増殖抑制作用を示すことが確認された(
図1C)。この併用処理における併用係数は、相乗的な細胞増殖抑制作用であることを示す1.0未満であることが判明した(
図1F)。
【0075】
H520細胞に対しては、OBP-801を4.5nMの濃度で単剤処理またはアムルビシン塩酸塩を4μMの濃度で単剤処理しても50%ほどの阻害効果しか示さないが、OBP-801を4.5nM、アムルビシン塩酸塩を4μMの濃度で併用処理すると、約85%程度の顕著な細胞増殖抑制作用を示すことが確認された(
図1D)。
【0076】
A549細胞に対しては、OBP-801を2.5nMの濃度で単剤処理またはアムルビシン塩酸塩を400nMの濃度で単剤処理しても約50~70%ほどの阻害効果しか示さないが、OBP-801を2.5nM、アムルビシン塩酸塩を400nMの濃度で併用処理すると、約90%程度の顕著な細胞増殖抑制作用を示すことが確認された(
図1D)。
【0077】
これらの結果から、OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩とを癌細胞に対して併用処理することで、癌細胞の増殖が相乗的に抑制されることが明らかとなった。
【0078】
〔実施例3:OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩との併用処理による、腫瘍細胞の相乗的アポトーシス誘導効果〕
【0079】
OBP-801及びアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩が、腫瘍細胞に如何なる影響を与えるものであるのか、Calu-1細胞を用いて検討した。その結果、興味深いことに、Calu-1細胞に対してOBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩を72時間併用処理すると、Calu-1細胞に顕著なアポトーシス誘導が生じることを見出した(
図2A)。
【0080】
これらの結果から、癌細胞の増殖が相乗的に抑制されるOBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩との併用処理では、顕著なアポトーシス誘導効果が得られるものであることが、明らかとなった。
〔実施例4:OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩との併用による、カスパーゼ及び細胞内活性酸素種(ROS)依存性アポトーシスの誘導〕
【0081】
OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩との併用による腫瘍細胞に生じるアポトーシスが、カスパーゼ依存性であるか検討するため、Calu-1細胞、H520細胞、A549細胞を用い、カスパーゼ阻害剤を利用して解析した。
【0082】
その結果、OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩の併用により誘導されたアポトーシスは、汎カスパーゼ阻害剤であるzVAD-fmkによって抑制された(
図2B、
図2C、
図2D)。
【0083】
これらの結果から、腫瘍に対するOBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩との併用においては、カスパーゼ依存アポトーシスが誘発されていることが示唆される。
【0084】
さらに、OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩の併用により誘導されたアポトーシス誘導効果は、N-アセチル-L-システイン(NAC)によっても抑制された(
図2B、
図2C、
図2D)。
【0085】
これらの結果から、腫瘍に対するOBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩との併用においてROS依存性のアポトーシスが生じていることが理解される。
【0086】
〔実施例5:OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩の併用による、Cleaved PARPの増加〕
【0087】
PARPはアポトーシスの初期にカスパーゼによって切断されることから、アポトーシス誘導後にCleaved PARPが増加する。そこで、OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩の併用によりCleaved PARPが増加するか確認し、アポトーシスの誘導が生じているか検討した。
【0088】
その結果、OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩の併用により、Cleaved PARPが増加していることが確認された(
図2E)。
【0089】
〔実施例6:OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩の併用による腫瘍細胞の相乗的アポトーシス誘導へのアポトーシス・シグナル調節キナーゼ1(ASK1)、p38MAPK、JNKの寄与〕
【0090】
OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩へアポトーシス誘導効果に対するアポトーシス・シグナル調節キナーゼ1(ASK1)、p38MAPK及びJNKの寄与の程度を、Calu-1細胞を用いて検討した。
【0091】
アポトーシス・シグナル調節キナーゼ1(ASK1)の寄与の程度の検討には、アポトーシス・シグナル調節キナーゼ1(ASK1)阻害薬のSelonsertib(GS-4997)を用いた。p38MAPKの寄与の程度の検討には、p38MAPK阻害剤のSB203580を用いた。JNKの寄与の程度の検討には、JNK阻害剤のSP2600125を用いた。
【0092】
Calu-1細胞に対してOBP-801を2.75nMとアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩を2μMとで72時間併用処理すると、Calu-1細胞に顕著なアポトーシス誘導が生じるが、ASK1阻害薬のSelonsertibを同時に処理すると、誘導されるアポトーシスの程度が部分的に減少した(
図3A)。他方、p38MAPK阻害剤のSB203580またはJNKの寄与の程度の検討には、JNK阻害剤のSP2600125を同時に処理しても、誘導されるアポトーシスの程度には変化が生じなかった(
図3B及び
図3C)。
【0093】
これらの結果から、OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩の併用による腫瘍細胞の相乗的アポトーシス誘導には、アポトーシス・シグナル調節キナーゼ1(ASK1)の経路が関与していることが明らかとなった。
【0094】
〔実施例7:OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩の併用による腫瘍細胞のアポトーシス誘導へのTXNIP(ThioredoXiN Interacting Protein)と活性酸素種(ROS)の寄与〕
【0095】
チオレドキシン2(Trx2)は、アポトーシス・シグナル調節キナーゼ1(ASK1)に結合し阻害していることが知られている。Trx2は、活性酸素種(ROS)やTXNIP(ThioredoXiN Interacting Protein)によって酸化されると、ASK1から解離し、その結果ASK1が活性化されアポトーシスが誘導される。そこで、OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩の併用の、腫瘍細胞に対するアポトーシス誘導に関与することが明らかとなったアポトーシス・シグナル調節キナーゼ1(ASK1)の活性化機序を解析した。
【0096】
Calu-1細胞に対してOBP-801を2.75nMとアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩を2μMとで72時間併用処理した。すると、OBP-801単剤と併用処理において、顕著にTXNIPの発現が上昇することが明らかになった(
図4A)。また、Calu-1細胞に対してOBP-801を2.75nMとアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩を2μMとで48時間併用処理したところ、アムルビシン塩酸塩単独と併用処理において、ROSが上昇することが明らかになった(
図4B)。
【0097】
〔実施例8:ヒト肺扁平上皮癌細胞におけるチオレドキシン2(Trx2)とアポトーシスの関係〕
【0098】
アポトーシス・シグナル調節キナーゼ1(ASK1)に結合し阻害しているチオレドキシン2(Trx2)の、ヒト肺扁平上皮癌細胞における役割をsiRNAを用いた発現抑制を行うことで解析した。
【0099】
Calu-1細胞にチオレドキシン2(Trx2)特異的に設計されたsiRNA(siTrx2 #1,#2,#3)を導入することで、導入後48時間後のウエスタンブロット解析により、Trx2の発現抑制が確認された(
図5A)。さらに、これらのsiRNAを導入後120時間において、アポトーシスが誘導されることを見出した(
図5B)。よって、Calu-1細胞において、Trx2が機能阻害されると、アポトーシスが誘導されることが明らかになった。
【0100】
〔実施例9:OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩の併用投与による、マウスにおける腫瘍増殖抑制効果並びに腫瘍体積の縮小効果〕
【0101】
分子標的薬であるOBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩とをin vivoにおいて併用投与することで、宿主動物体内の腫瘍細胞及び腫瘍組織の増殖を妨げることが可能となるか否か検討した。腫瘍細胞としてヒト肺扁平上皮癌細胞株のH520細胞を用い、それをヌードマウスの皮下に移植して腫瘍を担持させ、異種移植モデルを得た。そして、それらをコントロール群、OBP-801単剤投与群、アントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩単剤投与群、及び、OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩との併用群に分け、各試薬を投与した。
【0102】
その結果、腫瘍体積は、OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩との併用投与処理群において、顕著に抑制された(
図6A)。また、OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤であるアムルビシン塩酸塩とを長期併用投与しても、動物の体重に影響は出ないものであることが確認された(
図6B)。
【0103】
これらの結果から、腫瘍の治療・予防においては、OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤とを併用投与することが、腫瘍増殖を顕著に減少に転じさせることができる点において、大変有効であるとともに、長期投与時にも体重減少などの副作用が生じない効果を奏するものであり、腫瘍治療に適することを示している。
【0104】
〔実施例10:アムルビシンとの併用により、OBP-801は、SAHAと比べ、より強い細胞増殖抑制効果を示した。〕
【0105】
SAHAは、臨床的に最も用いられているHDAC阻害剤である。アムルビシンとの併用における、OBP-801とSAHAの腫瘍細胞の増殖に与える影響を検討した。腫瘍細胞としては、Calu-1細胞を用いた。HDAC阻害剤としては、OBP-801又はSAHAを用いた。
図7A及び
図7Bに示すように、Calu-1細胞へのOBP-801又はSAHA単剤処理では、ほぼ同程度に腫瘍細胞の増殖抑制効果を示したが、OBP-801とアムルビシンとの併用処理では、SAHAとアムルビシンとの併用処理に比べ、より効果的に腫瘍細胞の増殖抑制効果を示した。これらの結果は、OBP-801がアムルビシンとの併用において、SAHAよりも強い作用を示し、より腫瘍治療に適していることを示している。
【0106】
以上の試験例、実施例の結果から、OBP-801やアムルビシンの各単剤では治療し得ない肺扁平上皮癌などを含む肺癌のような難治性の癌に対しても、OBP-801とアントラサイクリン系抗癌剤、好適には、OBP-801とアムルビシンという薬剤標的分子が異なる医薬を併用することで、相乗的な、カスパーゼ経路の活性化、TXNIP及びチオレドキシン2の発現及び活性制御によるミトコンドリア・アポトーシス経路活性化による強いアポトーシス誘導効果が期待できるものとなることが明らかとなった(
図8)。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と、アントラサイクリン系抗癌剤とを有効成分として併用する医薬組成物を用いることで、相乗的な腫瘍細胞及び腫瘍組織に対するアポトーシス誘導並びに腫瘍増殖阻害効果が得られ、有効成分に起因した副作用を回避した、腫瘍治療及び予防が可能になった。更に、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤と、アントラサイクリン系抗癌剤という異なる作用機序の医薬を組み合わせたことで、単剤の処方では得ることができない、相乗的な、カスパーゼ経路の活性化とTXNIP及びチオレドキシン2の発現及び活性制御によるミトコンドリア・アポトーシス経路の活性化という顕著な薬理効果を得ることが可能となり、従来療法の有効性が低い腫瘍を含む幅広い腫瘍に適用できる有効な治療薬及び予防薬として、臨床的に有効な新たな腫瘍の治療・予防戦略を提供することが可能になった。