(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】減速逆転機
(51)【国際特許分類】
B63H 23/18 20060101AFI20231003BHJP
B63H 23/08 20060101ALI20231003BHJP
B63H 23/30 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B63H23/18
B63H23/08
B63H23/30
(21)【出願番号】P 2019145921
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】清岡 晃司
(72)【発明者】
【氏名】海老原 智幸
(72)【発明者】
【氏名】西澤 尚史
(72)【発明者】
【氏名】山根 孔雅
(72)【発明者】
【氏名】笹原 謙悟
(72)【発明者】
【氏名】中川 茂明
(72)【発明者】
【氏名】安井 和樹
(72)【発明者】
【氏名】岡西 俊明
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-053936(JP,A)
【文献】特開2013-035297(JP,A)
【文献】特開2008-222203(JP,A)
【文献】特開2017-193224(JP,A)
【文献】特開2008-024187(JP,A)
【文献】米国特許第04316722(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 23/18
B63H 23/08
B63H 23/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に搭載したエンジンと発電電動機とのうち少なくとも一方の動力を正逆転機構経由でプロペラに伝達する減速逆転機であって、
前記正逆転機構における前記エンジンからの動力伝達上流側と下流側とに前記発電電動機を選択的に接続可能な切換機構を備え、前記発電電動機と前記正逆転機構との間に前記切換機構を介在させている、
減速逆転機。
【請求項2】
前記切換機構によって、前記正逆転機構における前記エンジンからの動力伝達下流側に前記発電電動機を接続した状態では、前記正逆転機構の双方遮断時に、前記発電電動機の動力で前記プロペラを回転させたり前記プロペラの遊転力で前記発電電動機を発電させたりすることが可能になっている、
請求項1に記載した減速逆転機。
【請求項3】
前記切換機構によって、前記正逆転機構における前記エンジンからの動力伝達上流側に前記発電電動機を接続した状態では、前記正逆転機構の双方遮断時に、前記エンジンの動力で前記発電電動機を発電させることが可能になっている、
請求項1又は2に記載した減速逆転機。
【請求項4】
前記切換機構は、クラッチシフタの切換駆動によって切換軸に対して継断される低速切換ギヤと高速切換ギヤとを備え、前記正逆転機構は、正転クラッチと逆転クラッチとを備え、カウンタ軸に回転可能に被嵌した低速伝達ギヤ対を介して前記低速切換ギヤと前記逆転クラッチにおける前記エンジンからの動力伝達下流側とを動力伝達可能に連結する一方、
前記カウンタ軸に高速伝達ギヤ対を回転可能に被嵌して、前記高速伝達ギヤ対を介して前記高速切換ギヤと前記逆転クラッチにおける前記エンジンからの動力伝達上流側とを動力伝達可能に連結する仕様と、前記カウンタ軸と別のアイドル軸に高速伝達ギヤ対を回転可能に被嵌して、前記高速伝達ギヤ対を介して前記高速切換ギヤと前記正転クラッチにおける前記エンジンからの動力伝達上流側とを動力伝達可能に連結する仕様とに変更可能に構成されている、
請求項1に記載した減速逆転機。
【請求項5】
前記正逆転機構及び前記切換機構を収容するハウジングは、前部カバー体と中間ケース体と後部カバー体とを備え、前記ハウジング内には、前記前部カバー体と前記中間ケース体とで囲われた前室と、前記中間ケース体後面上部と前記後部カバー体上部とで囲われた後室とが形成され、
前記正逆転機構及び前記切換機構が前記前室内に収容されている一方、前記後室内には、前記発電電動機と前記切換機構とを動力伝達可能に連結する伝動機構が収容されている、
請求項1に記載した減速逆転機。
【請求項6】
前記ハウジングの前記前室上部に前記切換機構が位置し、前記切換機構を構成するクラッチシフタとこれを切換作動させるアクチュエータとを連結する操作系統は、前記ハウジングの上面側に設けられている、
請求項5に記載した減速逆転機。
【請求項7】
前記切換機構を構成する切換ギヤと前記正逆転機構における前記エンジンからの動力伝達下流側の減速ギヤとを動力伝達可能に連結するにあたり、前記切換ギヤと前記減速ギヤとの両方を、互いに逆向きの姿勢で噛み合わせたコニカルギヤで構成している、
請求項1に記載した減速逆転機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、船舶におけるエンジンと発電電動機とのうち少なくとも一方の動力でプロペラを回転させる、いわゆるハイブリッド式の減速逆転機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プレジャーボートといった船舶用の減速逆転機において、エンジンの動力と電動機の動力とを併用して駆動の効率化を図った、いわゆるハイブリッド式のものが知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1の
図6に表された減速逆転機では、エンジン出力軸が減速逆転機を貫通して発電機に連結されている。エンジン駆動中は発電機が常時発電する構造になっている。エンジン出力軸における減速逆転機内の箇所には伝動クラッチが配置されている。プロペラ推進軸上には電動機が配置されている。この場合、伝動クラッチを接続状態にすると、エンジンの動力が伝動クラッチを介してプロペラ推進軸に伝達され、エンジンの動力でプロペラが回転する。伝動クラッチを遮断状態にして電動機を駆動させると、電動機の動力でプロペラが回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の減速逆転機では、伝動クラッチがエンジン動力を直接受け取る構造になっているため、伝動クラッチ自体はエンジンからの大トルクに十分耐え得る大容量のものにしなければならない。このため、減速逆転機全体の大型化、ひいてはコストの上昇を招来するという問題があった。また、特許文献1の減速逆転機では、発電機と電動機とをそれぞれ別々に備えていたが、発電機と電動機とを一体化させた発電電動機を採用すれば、減速逆転機のコンパクト化に貢献すると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明は、上記のような現状を検討して改善を施した減速逆転機を提供することを技術的課題としている。
【0006】
請求項1の発明は、船舶に搭載したエンジンと発電電動機とのうち少なくとも一方の動力を正逆転機構経由でプロペラに伝達する減速逆転機であって、前記正逆転機構における前記エンジンからの動力伝達上流側と下流側とに前記発電電動機を選択的に接続可能な切換機構を備え、前記発電電動機と前記正逆転機構との間に前記切換機構を介在させている、というものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載した減速逆転機において、前記切換機構によって、前記正逆転機構における前記エンジンからの動力伝達下流側に前記発電電動機を接続した状態では、前記正逆転機構の双方遮断時に、前記発電電動機の動力で前記プロペラを回転させたり前記プロペラの遊転力で前記発電電動機を発電させたりすることが可能になっているというものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載した減速逆転機において、前記切換機構によって、前記正逆転機構における前記エンジンからの動力伝達上流側に前記発電電動機を接続した状態では、前記正逆転機構の双方遮断時に、前記エンジンの動力で前記発電電動機を発電させることが可能になっているというものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1に記載した減速逆転機において、前記切換機構は、クラッチシフタの切換駆動によって切換軸に対して継断される低速切換ギヤと高速切換ギヤとを備え、前記正逆転機構は、正転クラッチと逆転クラッチとを備え、カウンタ軸に回転可能に被嵌した低速伝達ギヤ対を介して前記低速切換ギヤと前記逆転クラッチにおける前記エンジンからの動力伝達下流側とを動力伝達可能に連結する一方、前記カウンタ軸に高速伝達ギヤ対を回転可能に被嵌して、前記高速伝達ギヤ対を介して前記高速切換ギヤと前記逆転クラッチにおける前記エンジンからの動力伝達上流側とを動力伝達可能に連結する仕様と、前記カウンタ軸と別のアイドル軸に高速伝達ギヤ対を回転可能に被嵌して、前記高速伝達ギヤ対を介して前記高速切換ギヤと前記正転クラッチにおける前記エンジンからの動力伝達上流側とを動力伝達可能に連結する仕様とに変更可能に構成されているというものである。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1に記載した減速逆転機において、前記正逆転機構及び前記切換機構を収容するハウジングは、前部カバー体と中間ケース体と後部カバー体とを備え、前記ハウジング内には、前記前部カバー体と前記中間ケース体とで囲われた前室と、前記中間ケース体後面上部と前記後部カバー体上部とで囲われた後室とが形成され、前記正逆転機構及び前記切換機構が前記前室内に収容されている一方、前記後室内には、前記発電電動機と前記切換機構とを動力伝達可能に連結する伝動機構が収容されているというものである。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5に記載した減速逆転機において、前記ハウジングの前記前室上部に前記切換機構が位置し、前記切換機構を構成するクラッチシフタとこれを切換作動させるアクチュエータとを連結する操作系統は、前記ハウジングの上面側に設けられているというものである。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1に記載した減速逆転機において、前記切換機構を構成する切換ギヤと前記正逆転機構における前記エンジンからの動力伝達下流側の減速ギヤとを動力伝達可能に連結するにあたり、前記切換ギヤと前記減速ギヤとの両方を、互いに逆向きの姿勢で噛み合わせたコニカルギヤで構成しているというものである。
【発明の効果】
【0013】
本願発明によると、正逆転機構におけるエンジンからの動力伝達上流側と下流側とに発電電動機を選択的に接続可能な切換機構を備え、前記発電電動機と前記正逆転機構との間に前記切換機構を介在させているから、前記エンジンと前記切換機構との間に前記正逆転機構が介在することになり、前記エンジンからの大トルクが前記切換機構に直接伝達されることはない。このため、前記切換機構を大トルクに耐え得る大容量のものにしなくて済み、前記切換機構を小型化できる。その結果、前記減速逆転機自体の小型化を図れると共に、コスト低減も図れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】第1実施形態における減速逆転機の動力伝達系統を示すスケルトン図である。
【
図4】減速逆転機内のギヤトレインの配置関係を示す概略説明図である。
【
図5】第2実施形態における二基二軸方式での減速逆転機を説明する図であり、(a)はアイドル軸あり仕様、(b)はアイドル軸なし仕様、(c)は船舶の背面図である。
【
図6】減速逆転機の動力伝達系統を示すスケルトン図である。
【
図7】減速逆転機内のギヤトレインの配置関係を示す概略説明図である。
【
図8】二基二軸方式での減速逆転機を説明する図であり、(a)(b)は共通仕様、(c)は船舶の背面図である。
【
図10】第3実施形態における減速逆転機の動力伝達系統を示すスケルトン図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、船舶としてのヨット1は、船体2と、船体2の船底中央側に設けられたバラストキール3と、船体2の船底後尾側に設けられた舵4と、バラストキール3と舵4との間に配置されたプロペラ5とを備えている。船体2の上面側にある上部デッキ6にマスト7が立設されている。マスト7の下部にはブーム8が設けられている。マスト7とブーム8との間にメインセール9が張設されている。船体2の船首側とマスト7の上端側とにワイヤロープ10がつながれている。ワイヤロープ10にはジブセール11が張設されている。
【0016】
マスト7の後方には操縦部12が設けられている。操縦部12内には、操舵によって船体2の進行方向を左右に変更させる操舵ハンドル13と、船体2の前進、停止、後退及びその航行速度を変更操作する変速レバー14とが設けられている。船体2の船底後尾側にはプロペラ5を回転させる推進軸15が軸支されている。推進軸15の突出端側にプロペラ5が取り付けられている。
【0017】
船体2内部には、プロペラ5の駆動源であるエンジン16と、エンジン16の回転動力を推進軸15経由でプロペラ5に伝達する減速逆転機18(マリンギヤ装置)とが設けられている。エンジン16から減速逆転機18を経由して推進軸15に伝達された回転動力によって、プロペラ5は回転する。
【0018】
図2~
図4は、本願発明に係る減速逆転機18の第1実施形態を示している。
図3に示すように、減速逆転機18のハウジング19は、前部カバー体20aと中間ケース体20bと後部カバー体20cとを備えている。中間ケース体20bは、エンジン16のある前面側を開口した略箱状の形態である。中間ケース体20bの前面開口は、前部カバー体20aによって着脱可能に塞がれている。中間ケース体20bのうちエンジン16と反対側の後面には、後部カバー体20cが着脱可能に取り付けられている。中間ケース体20b後面上部と後部カバー体20c上部との間には、中空状の空間である後室19bが形成されている。従って、ハウジング19内には、前部カバー体20aと中間ケース体20bとで囲われた前室19aと、中間ケース体20b後面上部と後部カバー体20c上部とで囲われた後室19bとが形成されている。
【0019】
減速逆転機18は、エンジン16のフライホイル17に連結される入力軸21と、推進軸15に連結される出力軸22と、入力軸21から出力軸22への正転(前進)方向の動力を継断する正転クラッチ23と、入力軸21から出力軸22への逆転(後進)方向の動力を継断する逆転クラッチ24とを備えている。
【0020】
入力軸21は、ハウジング19の前室19aから前部カバー体20aを介して前向きに突出している。出力軸22は、ハウジング19の前室19aから中間ケース体20b後面及び後部カバー体20cを介して後ろ向きに突出している。入力軸21は、前部カバー体20aと中間ケース体20b後面とに回転可能に軸支されている。出力軸22も、入力軸21と同様に、前部カバー体20aと中間ケース体20b後面とに回転可能に軸支されている。
【0021】
正転クラッチ23及び逆転クラッチ24は、ハウジング19の前室19a内に収容されている。正転クラッチ23と逆転クラッチ24とで正逆転機構25が構成されている。正転クラッチ23及び逆転クラッチ24は、湿式多板型の油圧摩擦クラッチである。正転クラッチ23は、入力軸21上に配置されている。正転クラッチ23におけるエンジン16からの動力伝達下流側(ハブ側)に正転減速ギヤ23bが形成されている。正転クラッチ23におけるエンジン16からの動力伝達上流側(ドラム側)には正転ギヤ23aが形成されている。正転ギヤ23aは入力軸21に固定されている。正転減速ギヤ23bは入力軸21に回転可能に被嵌されている。逆転クラッチ24は、入力軸21と平行状に延びる逆転軸26上に配置されている。逆転クラッチ24におけるエンジン16からの動力伝達下流側(ハブ側)に逆転減速ギヤ24bが形成されている。逆転クラッチ24におけるエンジン16からの動力伝達上流側(ドラム側)には逆転ギヤ24aが形成されている。逆転ギヤ24aは逆転軸26に固定されている。逆転減速ギヤ24bは逆転軸26に回転可能に被嵌されている。
【0022】
正転クラッチ23の正転ギヤ23aは、逆転クラッチ24の逆転ギヤ24aと常時噛み合っている。正転減速ギヤ23b及び後進減速ギヤ24bは、出力軸22に固定した減速出力ギヤ27に常時噛み合っている。正転減速ギヤ23b、逆転減速ギヤ24b及び減速出力ギヤ27によって、固定減速比の減速ギヤ機構が構成されている。出力軸22の動力は、各減速ギヤ23b,24bと減速出力ギヤ27との間で固定減速比に減速される。
【0023】
なお、逆転軸26には、正転クラッチ23や逆転クラッチ24に作動油を供給する主油圧ポンプ28が取り付けられている。主油圧ポンプ28は、エンジン16の動力に基づく逆転軸26の回転で駆動するように構成されている。なお、主油圧ポンプ28は、後部カバー体20c側に取り付けられている。
【0024】
作動油圧で各クラッチ23,24の摩擦板を圧接させることによって、入力軸21と出力軸22とが動力伝達可能に連結される。すなわち、正転クラッチ23を接続し逆転クラッチ24を遮断すれば、入力軸21の動力を正転(前進)方向の動力として出力軸22に伝達する前進状態になる。逆に、正転クラッチ23を遮断し逆転クラッチ24を接続すれば、入力軸21の動力を逆転(後進)方向の動力として出力軸22に伝達する後進状態になる。正転クラッチ23及び逆転クラッチ24の双方を遮断すれば、入力軸21の動力を出力軸22に伝達しない中立状態になる。
【0025】
ハウジング19における後部カバー体20cの上部外側には、発電機及び電動機として機能する発電電動機30が取り付けられている。発電電動機30は、切換機構37を介して、正逆転機構25に動力伝達可能に構成されている。発電電動機30は、インバータを介して充放電可能な電源装置に接続されている。発電電動機30は、二次電池又は大容量コンデンサ等からなる電源装置の電力によって、電動機として駆動する一方、発電電動機に伝達された動力を基に発電機として駆動して電力を発生させ、電源装置を充電するように構成されている。
【0026】
この場合、発電電動機30の回転軸31は、入力軸21や逆転軸26と平行状に延びていて、ハウジング19の後室19b内に挿し込まれている。回転軸31には回転ギヤ32が固定されている。ハウジング19内には、入力軸21や逆転軸26と平行状に延びる中間軸33、切換軸35及びカウンタ軸41の3本が配置されている。
【0027】
中間軸33は、後室19b内に位置していて、中間ケース体20b後面と後部カバー体20cとに回転可能に軸支されている。切換軸35は、前室19aと後室19bとに跨って延びていて、前部カバー体20a、中間ケース体20b後面及び後部カバー体20cに回転可能に軸支されている。中間軸33には中間ギヤ対34が固定されている。切換軸35における後室19b内の箇所には中継ギヤ36が固定されている。回転軸31の回転ギヤ32が中間ギヤ対34の一方に常時噛み合い、中間ギヤ対34の他方が切換軸35上の中継ギヤ36に常時噛み合っている。発電電動機30における回転軸31の回転ギヤ32、中間軸33の中間ギヤ対34、及び切換軸35の中継ギヤ35は、発電電動機30と切換機構37とを動力伝達可能に連結する伝動機構45を構成している。つまり、発電電動機30における回転軸31の回転ギヤ32、中間軸33の中間ギヤ対34、及び切換軸35の中継ギヤ35は後室19b内に収容されている。なお、
図2、
図4及び
図9に示すように、ハウジング19(中間ケース体20b)の上半部は、正逆転機構25や減速出力ギヤ27等が下半部に収まるため上窄まり状に形成されていて、当該上窄まりの形状によって、減速逆転機18に連結されるエンジン16の吸排気系統(吸気管や排気管等)を取り回しし易くなっている。
【0028】
切換軸35における前室19a内の箇所に切換機構37が配置されている。ハウジング19の前室19a上部に切換機構37が位置している。切換機構37は、正逆転機構25におけるエンジン16からの動力伝達下流側と上流側とに(第1実施形態では逆転クラッチ24のハブ側とドラム側とに)発電電動機30を選択的に接続可能に構成されている。切換機構37は、クラッチシフタ38の切換作動によって切換軸35に対して継断される低速切換ギヤ39と高速切換ギヤ40とを備えている。クラッチシフタ38は、切換軸35に対して、相対回転不能で且つ軸方向にスライド可能に被嵌されている。低速切換ギヤ39及び高速切換ギヤ40は、切換軸35に回転可能に被嵌されている。低速切換ギヤ39と高速切換ギヤ40との減速比は異ならせてもよいし、同じにしてもよい。低速切換ギヤ39と高速切換ギヤ40との減速比を同じにする場合は、電動機として機能する際に高トルクを出力できる発電電動機30を採用するのが望ましい。
【0029】
カウンタ軸41は、前室19a内に位置していて、前部カバー体20aと中間ケース体20bとに軸支されている。カウンタ軸41には、低速伝達ギヤ対42と高速伝達ギヤ対43とが回転可能に被嵌されている。低速伝達ギヤ対42の一方に、切換機構25の低速切換ギヤ39が常時噛み合い、低速伝達ギヤ対42の他方には、正逆転機構25におけるエンジン16からの動力伝達下流側(ハブ側)にある逆転減速ギヤ24bが常時噛み合っている。高速伝達ギヤ対43の一方には、切換機構25の高速切換ギヤ40が常時噛み合い、高速伝達ギヤ対43の他方には、正逆転機構25におけるエンジン16からの動力伝達上流側(ドラム側)にある逆転ギヤ24aが常時噛み合っている。
【0030】
クラッチシフタ38は、アクチュエータ(図示省略)の駆動によって、低速切換ギヤ39と高速切換ギヤ40とに選択的に係合可能になっている。なお、アクチュエータは、航行速度(プロペラ5の回転速度)に応じて、クラッチシフタ38を切換作動させるように構成されている。アクチュエータは電気を駆動源とするものであればよく、例えば電動モータを用いた油圧アクチュエータでも空圧アクチュエータでも差し支えない。
図2及び
図4に示すように、クラッチシフタ38とアクチュエータとを連結する操作系統46(シフトアームや操作軸等)は、ハウジング19(中間ケース体20b)の上面側に設けられている。このため、比較的周辺スペースに余裕のある上窄まり状のハウジング19上部にアクチュエータを搭載することも可能であるし、またアクチュエータに対する配線又は配管等の取り回しも容易に行える。
【0031】
低速切換ギヤ39とクラッチシフタ38とを係合させた低速接続状態では、切換軸35と低速切換ギヤ39とが一体回転するため、低速切換ギヤ39を介して発電電動機30と出力軸22との間で動力伝達可能になる。高速切換ギヤ40とクラッチシフタ38とを係合させた高速接続状態では、切換軸35と高速切換ギヤ40とが一体回転するため、高速切換ギヤ40を介して発電電動機30と出力軸22との間で動力伝達可能になる。クラッチシフタ38がどちらの切換ギヤ39,40にも係合しない遮断状態では、発電電動機30と出力軸22との間は動力伝達不能になる(中立になる)。
【0032】
通常航行時は、変速レバー14操作に応じて正転クラッチ23と逆転クラッチ24とのいずれかが接続状態である上で、航行速度(プロペラ5の回転速度)に応じてクラッチシフタ38を切換作動させる。ヨット1が低速航行中であれば、アクチュエータの駆動によって低速切換ギヤ39とクラッチシフタ38とを係合させ、発電電動機30を発電機として駆動させる。エンジン16動力の余剰分は、逆転減速ギヤ24bから低速伝達ギヤ対42、低速切換ギヤ39及び中間ギヤ対34を介して発電電動機30に伝達され、発電電動機30が電力を発生させる。当該発生した電力は電源装置に充電される。
【0033】
ヨット1が高速航行中であれば、アクチュエータの駆動によって高速切換ギヤ40とクラッチシフタ38とを係合させ、発電電動機30を発電機として駆動させる。エンジン16動力の余剰分は、逆転ギヤ24aから高速伝達ギヤ対43、高速切換ギヤ40及び中間ギヤ対34を介して発電電動機30に伝達され、発電電動機30が電力を発生させる。当該発生した電力は電源装置に充電される。
【0034】
ここで、エンジン16に過負荷がかかった場合、発電電動機30は、電源装置の電力によって電動機として駆動するように切り換わる。低速航行時は、発電電動機30の動力が中間ギヤ対34、低速切換ギヤ39、低速伝達ギヤ対42及び逆転減速ギヤ24bを介して減速出力ギヤ27に伝達され、エンジン16動力の不足分が発電電動機30の動力によって補われる。高速航行時は、発電電動機30の動力が中間ギヤ対34、高速切換ギヤ40、高速伝達ギヤ対43及び逆転ギヤ24aを介して減速出力ギヤ27に伝達され、エンジン16動力の不足分が発電電動機30の動力によって補われる。エンジン16の回転全域にわたって発電電動機30を電動機として機能させ、電動機としての発電電動機30の動力をエンジン16動力のアシストのために有効利用できる。
【0035】
ヨット1を停船係留状態からゼロ発進(航行開始)させる場合は、正逆転機構25を双方遮断状態(正転クラッチ23と逆転クラッチ24の双方が遮断状態)である上で、アクチュエータの駆動によって低速切換ギヤ39とクラッチシフタ38とを係合させ、発電電動機30を電動機として駆動させる。発電電動機30の動力が中間ギヤ対34、低速切換ギヤ39、低速伝達ギヤ対42及び逆転減速ギヤ24bを介して減速出力ギヤ27に伝達される。つまり、発電電動機30の動力が前進又は後進方向の動力としてプロペラ5に伝達され、ヨット1は前進又は後進を開始する。トローリング等の微速航行時も、前記ゼロ発進時の駆動形態と同様に、発電電動機30の動力だけでプロペラ5を回転させることが可能になっている。
【0036】
ヨット1の帆走時には、プロペラ5の遊転力で発電電動機30を発電させることも可能である。この場合、正逆転機構25を双方遮断状態(正転クラッチ23と逆転クラッチ24の双方が遮断状態)である上で、アクチュエータの駆動によって低速切換ギヤ39とクラッチシフタ38とを係合させ、発電電動機30を発電機として駆動させる。潮流等に起因したプロペラ5の遊転力が、推進軸15、出力軸22及び減速出力ギヤ27を介して減速逆転ギヤ24bに伝わり、逆転減速ギヤ24bから低速伝達ギヤ対42、低速切換ギヤ39及び中間ギヤ対34を介して発電電動機30に伝達され、発電電動機30が電力を発生させる。当該発生した電力は電源装置に充電される。
【0037】
また、ヨット1の停船係留時には、エンジン16の動力で発電電動機30を発電させることも可能である。この場合、正逆転機構25を双方遮断状態(正転クラッチ23と逆転クラッチ24の双方が遮断状態)である上で、アクチュエータの駆動によって高速切換ギヤ40とクラッチシフタ38とを係合させ、発電電動機30を発電機として駆動させる。エンジン16動力は、逆転ギヤ24aから高速伝達ギヤ対43、高速切換ギヤ40及び中間ギヤ対34を介して発電電動機30に伝達され、発電電動機30が電力を発生させる。当該発生した電力は電源装置に充電される。
【0038】
上記の記載並びに
図3及び
図4から明らかなように、船舶1に搭載したエンジン16と発電電動機30とのうち少なくとも一方の動力を正逆転機構25経由でプロペラ5に伝達する減速逆転機18であって、前記正逆転機構25における前記エンジン16からの動力伝達上流側24aと下流側24bとに前記発電電動機30を選択的に接続可能な切換機構37を備え、前記発電電動機30と前記正逆転機構25との間に前記切換機構37を介在させているから、前記エンジン16と前記切換機構37との間に前記正逆転機構25が介在することになり、前記エンジン16からの大トルクが前記切換機構37に直接伝達されることはない。このため、前記切換機構37を大トルクに耐え得る大容量のものにしなくて済み、前記切換機構37を小型化できる。その結果、前記減速逆転機18自体の小型化を図れると共に、コスト低減も図れる。
【0039】
また、前記切換機構37によって、前記正逆転機構25における前記エンジン16からの動力伝達下流側24bに前記発電電動機30を接続した状態では、前記正逆転機構25の双方遮断時に、前記発電電動機30の動力で前記プロペラ5を回転させたり前記プロペラ5の遊転力で前記発電電動機30を発電させたりすることが可能になっているから、例えばヨット1をゼロ発進(航行開始)させる際に、前記エンジン16の動力及び前記正逆転機構25を使わずとも、前記発電電動機30の動力でスムーズに航行開始できる。また、前記プロペラ5の遊転力で前記発電電動機30を発電させて、潮流等を有効利用して充電できる。
【0040】
さらに、前記切換機構37によって、前記正逆転機構25における前記エンジン16からの動力伝達上流側24aに前記発電電動機30を接続した状態では、前記正逆転機構25の双方遮断時に、前記エンジン16の動力で前記発電電動機30を発電させることが可能になっているから、例えば停船係留時に前記エンジン16の動力で充電できる。
【0041】
図5~
図7には、二基二軸方式の船舶1に本願発明の減速逆転機18を採用した第2実施形態を示している。ここで、第2実施形態以降において、構成及び作用が第1実施形態と同じものには、第1実施形態と共通の符号を付してその詳細な説明を省略する。第2実施形態の船舶1は二基二軸方式であるため、減速逆転機18も2台搭載されている。第2実施形態において、一方の減速逆転機18(
図5(b)参照)は第1実施形態のものと同様の構造であるが、他方の減速逆転機18(
図5(a)、
図6及び
図7参照)は、切換機構37と正逆転機構25との連結構造を第1実施形態と異ならせている。
【0042】
図5(c)及び
図8(c)に示すように、二基二軸方式の船舶1においては、隣り合うプロペラを互いに逆向きに回転させて前後進するのが一般的である。ここで、
図5(a)~(c)及び
図8(a)~(c)では「+」は正転、「-」は逆転を示している。
図8に示すように、2台の減速逆転機18を全く同一の構造にした場合は、一方の減速逆転機18の切換機構37において、低速切換ギヤ39と高速切換ギヤ40との回転方向が互いに逆向きになる状態が発生する(
図8(a)参照)。この場合、クラッチシフタ38を切換作動させる際に、回転方向を同期させるまでの時間がかかる(切換時間が長くなる)という問題があった。
【0043】
そこで、
図5(a)、
図6及び
図7に示すように、他方の減速逆転機18では、カウンタ軸41上から高速伝達ギヤ対43を取り除き、カウンタ軸41と平行状に延びるアイドル軸44をハウジング19内に別途設け、アイドル軸44に高速伝達ギヤ対43を回転可能に被嵌している。高速伝達ギヤ対43の一方には、切換機構25の高速切換ギヤ40を常時噛み合わせ、高速伝達ギヤ対43の他方には、正逆転機構25におけるエンジン16からの動力伝達上流側(ドラム側)にある逆転ギヤ24aを常時噛み合わせている。つまり、両方の減速逆転機18,18は基本構造を同じくしているが、一方の減速逆転機18をアイドル軸44なし仕様とし、他方の減速逆転機18をアイドル軸44あり仕様としている。換言すると、両方の減速逆転機18,18は、カウンタ軸41に高速伝達ギヤ対43を回転可能に被嵌して、高速伝達ギヤ対43を介して高速切換ギヤ40と逆転クラッチ24におけるエンジン16からの動力伝達上流側とを動力伝達可能に連結するアイドル軸44なし仕様と、カウンタ軸41と別のアイドル軸44に高速伝達ギヤ対43を回転可能に被嵌して、高速伝達ギヤ対43を介して高速切換ギヤ40と正転クラッチ23におけるエンジン16からの動力伝達上流側とを動力伝達可能に連結するアイドル軸44あり仕様とに変更可能に構成されているのである。
【0044】
このように構成すると、
図5(a)(b)に示すように、両方の減速逆転機18,18の切換機構37,37において、低速切換ギヤ39と高速切換ギヤ40との回転方向は常時同じ向きになる。このため、クラッチシフタ38の切換をスムーズに実行できる。基本構造を同じくする減速逆転機18を、アイドル軸44なし仕様とアイドル軸44あり仕様とに簡単に変更できる。二基二軸方式の船舶1において、基本構造を同じくする減速逆転機18を、アイドル軸44なし仕様とアイドル軸44あり仕様とにして適用できる。一種類の減速逆転機18を二つの仕様で共用でき、コスト抑制を図れる。
【0045】
図10には、本願発明に係る減速逆転機18の第3実施形態を示している。第3実施形態の減速逆転機では、中間軸33と中間ギヤ対34とを省略し、発電電動機30における回転軸31の回転ギヤ32と切換軸の中継ギヤ36とを噛み合わせている。そして、カウンタ軸41、低速伝達ギヤ対42及び高速伝達ギヤ対43を省略し、低速切換ギヤ39を正転クラッチ23におけるエンジン16からの動力伝達下流側(ハブ側)にある正転減速ギヤ23bに噛み合わせ、高速切換ギヤ40を正転クラッチ23におけるエンジン16からの動力伝達上流側(ドラム側)にある正転ギヤ23aに噛み合わせている。低速切換ギヤ39と正転クラッチ23の正転減速ギヤ23bとは両方とも、互いに逆向きの姿勢で噛み合わせたコニカルギヤで構成されている。その他の構造は、第1実施形態のものと同様である。なお、第3実施形態における正転クラッチ23と切換機構37との噛み合い関係は、逆転クラッチ24と切換機構37との噛み合い関係に置き換えることも可能である。
【0046】
このように構成すると、第1実施形態における中間軸33やカウンタ軸41関連の動力伝達構造を省略して、減速逆転機18全体の動力伝達構造を簡素化でき、減速逆転機18自体のコンパクト化も図れる。
【0047】
なお、本願発明における各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 ヨット(船舶)
5 プロペラ
15 推進軸
16 エンジン
18 減速逆転機
21 入力軸
22 出力軸
23 正転クラッチ
24 逆転クラッチ
25 正逆転機構
30 発電電動機
37 切換機構