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特許7359439ニコチンアミドN-メチルトランスフェラーゼ(NNMT)のキノリン由来小分子阻害剤及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ニコチンアミドN-メチルトランスフェラーゼ(NNMT)のキノリン由来小分子阻害剤及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 215/18 20060101AFI20231003BHJP
   C07D 215/10 20060101ALI20231003BHJP
   C07D 215/38 20060101ALI20231003BHJP
   C07D 215/12 20060101ALI20231003BHJP
   A61K 31/47 20060101ALI20231003BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231003BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C07D215/18 CSP
C07D215/10
C07D215/38
C07D215/12
A61K31/47
A61P43/00 111
A61P21/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019553173
(86)(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 US2018025134
(87)【国際公開番号】W WO2018183668
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-24
(31)【優先権主張番号】62/479,256
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/559,417
(32)【優先日】2017-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506025899
【氏名又は名称】ザ ボード オブ レジェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワトウィッチ、スタンレー
(72)【発明者】
【氏名】ニーラカンタン、ハラシニ
(72)【発明者】
【氏名】マクハーディ、スタントン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ファ-ユー
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04035367(US,A)
【文献】特表2014-514420(JP,A)
【文献】英国特許第00846611(GB,B)
【文献】VAN HAREN, M. J. et al.,Biochemistry,2016年,Vol. 55,pp. 5307-5315
【文献】GALANAKIS, D. et al.,Journal of Medicinal Chemistry,1995年,Vol. 38,pp. 595-606
【文献】RUSINOV, G. L. et al.,Russian Journal of Organic Chemistry,1998年,Vol. 34,pp. 263-270
【文献】GABRIEL, S. et al.,Berichte der Deutschen Chemischen Gesellschaft [Abteilung] B: Abhandlungen ,1919年,pp. 1079-1092
【文献】MEGUELLATI, K. et al.,Molecular BioSystems ,2010年,Vol. 6,pp. 1694-1699
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式IAのカチオン
【化1】
[式中、
前記カチオンは、R、R、R、及びRの位置のいずれかにおいて、2つ以上の非水素置換基を含み、
は、H又はNHであり、
は、H又はFであり、
は、H又はNHであり、
は、H又はメチルである]。
【請求項2】
前記C1~4アルキルがメチル又はエチルである、請求項に記載のカチオン。
【請求項3】
がFである、請求項又はに記載のカチオン。
【請求項4】
【化2】
から選択される、請求項1~3のいずれかに記載のカチオン。
【請求項5】
前記C 1~4 アルキルがメチルであり、
は、NH であり、
は、Fであり、
は、Hであり、
は、Hである、請求項1~4のいずれかに記載のカチオン。
【請求項6】
【化3】
から選択されるカチオン(式中、Rは、H又はFであり、Rは、H又はメチルである。)。
【請求項7】
【化4】
から選択されるカチオン(式中、R は、H、CH 、CF 、及びNH からなる群から独立に選択され、R は、H又はFであり、R は、H、CH 、又はCF である。)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年3月30日出願の米国仮出願第62/479,256号及び2017年9月15日出願の米国仮出願第62/559,417号の利益を主張する。前述の出願の内容に依拠し、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府の支援を受けた研究開発であることの表明
本発明は、米国国防省(DOD)より与えられた交付第W81XWH-15-1-0372号のもと、政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明において、ある一定の権利を有する。
【0003】
本発明の分野は、一般に、ニコチンアミドN-メチルトランスフェラーゼ(NNMT)のキノリン由来小分子阻害剤、その調製、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0004】
ニコチンアミドN-メチルトランスフェラーゼ(NNMT)は、補因子S-(5’-アデノシル)-L-メチオニン(SAM)から、ニコチンアミド(NCA)などの基質、ピリジン及び関連類似体、たとえば、キノリン、イソキノリン、及び脂肪族アミン1,2,3,4テトラヒドロイソキノリンへのメチル基の転移を触媒する、細胞質ゾル環境中にある鍵酵素である。
【0005】
NNMTは、1-メチルニコチンアミド(1-MNA)、メチル化ピリジニウム、メチル化関連類似体などのメチル化代謝産物の生成によって、内因性及び外因性薬物/生体異物の解毒を直接調節する。その主な代謝機能から考えると、NNMTは、主として肝臓において発現されるが、若干のレベルのその酵素が脂肪組織、腎臓、脳、肺、心臓、及び筋肉を含む他の組織にも存在する。
【0006】
NNMTの発現及び酵素活性の増大は、いくつかの慢性疾患状態と関連付けられているため、医薬品開発の関連ターゲットとなっている。たとえば、いくつかの研究は、がん細胞におけるNNMT活性の増大と、様々ながん性状態における腫瘍増殖/増悪との因果関係を裏付けており、NNMTに、がん予後のバイオマーカー、及び抗がん治療開発のための関連ターゲットとしての潜在的な含みをもたせている。NNMT活性は、パーキンソン病患者の脳組織においても上向き調節され(たとえば、非特許文献1;非特許文献2を参照されたい)、神経変性の病因と関連付けられる神経毒として働くN-メチルピリジニウムイオンの脳における過剰産生につながる(たとえば、非特許文献3を参照されたい)。
【0007】
さらに、動物及びヒトの両方で、肥満及び関連した慢性代謝状態(たとえば、2型糖尿病)においてNNMT発現及び活性が増大することも報告されている。実際に、脂肪組織及び肝臓においてアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用してNNMTタンパク質をノックダウンすると、高脂肪食を与えたマウスにおいて体重増加が制限され、エネルギー消費の増大によって、体脂肪量が実質的に減少した。
【0008】
加えて、NNMTは、メチオニン-ホモシステイン回路及び細胞のエネルギー消費に不可欠なニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)合成経路における細胞内代謝産物の代謝回転をモジュレートすることが知られている。したがって、NNMTの標的化小分子阻害剤は、機構調査のための分子プローブとして、また異常なNNMT活性を特徴とする代謝性及び慢性疾患状態を処置するための治療薬の開発に、著しく有益となりうる。
【0009】
最後に、幹細胞には、自己複製能、及び身体におけるすべての組織を再生させる能力があるため、その生物学的機序を理解することは、重要な目標となっている。実際に、最近、NNMTがhESCにおける幹細胞多能性の調節に関与することが発見された。たとえば、非特許文献4を参照されたい。特に、NNMTは、低いSAMレベル及びH3K27me3抑制状態に必要となることがわかっている。たとえば、非特許文献4を参照されたい。NNMTと幹細胞との間にこの関連があるため、変性関連疾患を処置する治療薬の開発は、関連ターゲットとなる。
【0010】
さらに、最近のいくつかの研究は、細胞内NAD+の若干の増加が、栄養補助食品によって実現され、老齢マウス及びデュシェンヌMDのmdxマウスモデルにおける筋肉幹細胞(muSC)活性を劇的に増大させたことを示している。
【0011】
要約すると、NNMTがいくつかの疾患/状態において役割を果たすという事実があるため、NNMT阻害剤の開発は、種々の疾患/状態を処置する治療薬を開発するための重要な経路になる。
【0012】
この背景情報は、本発明に潜在的に関連していると出願人が考える情報を公開する目的で提供している。前述の情報はいずれも、本発明に対する先行技術をなすことを必然的に認めるものではなく、そのように解釈すべきでもない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】K.Aoyama、K.Matsubara、M.Kondo、Y.Murakawa、M.Suno、K.Yamashita、S.Yamaguchi、S.Kobayashi、Nicotinamide-N-methyltransferase is higher in the lumbar cerebrospinal fluid of patients with Parkinson’s disease、Neurosci Lett.298、78~80、2001
【文献】R.B.Parsons、M.L.Smith、A.C.Williams、R.H.Waring、D.B.Ramsden、Expression of nicotinamide N-methyltransferase(E.C.2.1.1.1)in the Parkinsonian brain、J.Nueropathol.Exp.Neurol.61、111~124、2002
【文献】Herraiz T.、N-methyltetrahydropyridines and pyridinium cations as toxins and comparison with naturally-occurring alkaloids、Food Chem Toxicol.、97、23~39、2016
【文献】Sperber,H.ら、Nat Cell Biol.17:1523~1535(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、ある特定の新規の小分子NNMT阻害剤を発見し、そうした分子の調製方法を開発した。
【0015】
本発明者らは、NNMT阻害剤を使用して、NNMTを阻害し、関連疾患及び状態を処置できることも発見した。さらに、本発明者らは、NNMT阻害剤を筋肉治療に使用できることも発見した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様は、式Iの小分子キノリン由来カチオン
【0017】
【化1】
に関するものであり、式中、
は、C1~4アルキルであり、
、R、R、及びRは、H、C1~4アルキル、ハロゲン置換C1~4アルキル、NR10、及びCNからなる群から独立に選択され、
は、H又はハロゲンであり、
は、H、メチル、又はNR1112であり、
は、H、C1~4アルキル、ハロゲン置換C1~4アルキルであり、
、R10、R11、及びR12は、H及びC1~4アルキルから独立に選択され、
前記化合物は、R~Rの位置に少なくとも2つの非水素置換基を有しており、
~Rの位置にある前記非水素置換基の少なくとも1つは、NHである。
【0018】
本発明の別の態様は、式IAの小分子キノリン由来カチオン
【0019】
【化2】
に関するものであり、式中、
式IAのカチオンは、2つ以上の非水素置換基を含み、
は、H又はNHであり、
は、H又はFであり、
は、H又はNHであり、
は、H又はメチルである。
【0020】
本発明のさらなる態様は、本発明のカチオンを使用して、NNMTを阻害し、関連疾患又は状態を処置することに関する。一部の実施形態では、本発明は、NNMTを発現する細胞を接触させることによる、in vitro又はin vivoでNNMTを阻害するための、本発明の1種以上のカチオンの使用を包含する。
【0021】
一部の実施形態では、本発明は、肥満、又はメタボリック症候群、糖尿病前症、2型糖尿病、肥満と関連付けられる疾患(たとえば、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、CVDなど)を始めとする関連した慢性代謝状態を処置するための、本発明の1種以上のカチオンの使用を包含する。
【0022】
一部の実施形態では、本発明は、NNMT発現がんを処置するための、本発明の1種以上のカチオンの使用を包含する。さらなる実施形態では、本発明は、NNMT陽性がんの腫瘍形成及び転移を処置するための、本発明の1種以上のカチオンの使用を包含する。
【0023】
一部の実施形態では、本発明は、パーキンソン病及び関連神経性疾患を処置するための、本発明の1種以上のカチオンの使用を包含する。
【0024】
一部の実施形態では、本発明は、幹細胞分化をモジュレートするための、本発明の1種以上のカチオンの使用を包含する。
【0025】
本発明の一態様は、式Iの小分子キノリン由来カチオン
【0026】
【化3】
の筋肉治療への使用に関するものであり、式中、
は、C1~4アルキルであり、
、R、R、及びRは、H、C1~4アルキル、ハロゲン置換C1~4アルキル、NR10、及びCNからなる群から独立に選択され、
は、H又はハロゲンであり、
は、H、メチル、又はNR1112であり、
は、H、C1~4アルキル、ハロゲン置換C1~4アルキルであり、
、R10、R11、及びR12は、H及びC1~4アルキルから独立に選択され、
前記化合物は、R~Rの位置に少なくとも2つの非水素置換基を有しており、
~Rの位置にある前記非水素置換基の少なくとも1つは、NHである。
【0027】
本発明の別の態様は、式IAの小分子キノリン由来カチオン
【0028】
【化4】
の筋肉治療への使用に関するものであり、式中、
式IAのカチオンは、2つ以上の非水素置換基を含み、
は、H又はNHであり、
は、H又はFであり、
は、H又はNHであり、
は、H又はメチルである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】キノリニウム誘導体であるNNMT阻害剤1j(5-アミノ-1-メチルキノリニウム)についての正規化反応曲線を示すグラフである。データ点は、正規化されたNNMT活性の平均及び標準偏差を表す[各実験内で無阻害剤条件(0μM)に対して正規化されたデータ点、n=5実験]。適合された曲線とデータの適合度R2は、0.97であった。
図1A】エネルギー代謝に送り込まれる前駆体としてのNAから出発するNAD+生合成サルベージ経路、細胞内SAM濃度、したがって細胞のエピジェネティック修飾及びポリアミン流出を調節するメチオニン回路、並びに1-MNA及び排泄産物への変換によるNAのクリアランスを含む、NNMTによって調節される経路の概略図である。経路酵素略語には、NMNAT(ニコチンアミドモノヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ)、NAMPT(ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ)、MTase(SAM依存性メチルトランスフェラーゼ)、PARP(ポリ-ADP-リボースポリメラーゼ)、及びCD38(分化クラスター38/サイクリックADPリボースヒドロラーゼ)が含まれる。
図1B】(B)阻害剤(30μM)で24時間処理した分化脂肪細胞(3T3細胞)におけるNAD+、NA、NAD+:NA比の細胞内レベルに対するNNMT阻害剤5-アミノ-1MQの効果を示すグラフである。データは、生物学的に二連で、5-アミノ-1MQで処理した脂肪細胞においてLC/MS/MSによって測定された平均代謝産物レベル(空白のバー)を対照未処理脂肪細胞(塗りつぶしのバー)レベルに対して正規化したものを表す(±SD)。対応のないスチューデントのt検定によって分析した、対照未処理脂肪細胞に対しての*:P<0.05、**:P<0.01。
図1C】阻害剤(30μM)で24時間処理した分化脂肪細胞(3T3細胞)におけるSAM、SAH、SAM:SAH比の細胞内レベルに対するNNMT阻害剤5-アミノ-1MQの効果を示すグラフである。データは、生物学的に二連で、5-アミノ-1MQで処理した脂肪細胞においてLC/MS/MSによって測定された平均代謝産物レベル(空白のバー)を対照未処理脂肪細胞(塗りつぶしのバー)レベルに対して正規化したものを表す(±SD)。対応のないスチューデントのt検定によって分析した、対照未処理脂肪細胞に対しての*:P<0.05、**:P<0.01。
図2】コア骨格それぞれにおけるN1’位にメチル置換を有するすべての類似体(~40化合物)について、AutoDock Vina Programを使用して求めたVinaドッキングスコアと、実験によって立証されたIC50値間の相関を示すグラフである。ピアソンの相関分析によって、算出されたドッキングスコア(類似体とNNMT活性部位間のエネルギー相互作用を示す)と阻害効力(IC50値)とに若干の正の線形相関が示された(r=0.676、p<0.0001、R2=0.5)。
図3】基質(A)5-アミノ-1-メチルキノリニウム(1j)とのNNMT活性基質結合部位の模式図である。リガンドと相互作用する疎水性NNMT残基標識を赤色とする。リガンドと相互作用する水素結合NNMT残基結合を褐色とし、残基/結合距離標識を緑色とする。模式図は、LIGPLOTを用いて作成した。
図4】5-アミノ-1-メチルキノリン-1-イウムヨージド(1j)の化学構造を示す図である。
図5】老齢(27か月齢C57BL6)及び若齢(3か月齢C57BL/6)マウス(n=2)から単離された前脛骨筋における(β-アクチンを基準とした)NNMTタンパク質の発現を示すグラフである。NNMT又はβ-アクチンに特異的な一次抗体を使用するウエスタンブロッティングから定量化された発現レベル。
図6】(a)。様々な5-アミノ-1MQ濃度で処理した後の脂肪細胞における細胞内1-MNAレベルを示す用量反応曲線である(b)。データ点は、内部標準に対して正規化し、対対照%値±SDに変換した平均1-MNAレベルを表す(データ点あたりn=2反復試験)。適合された曲線とデータの適合度R2は、0.94であった。スチューデントのt検定、又はダネットの事後を用いた一元配置ANOVAによって適宜分析した、対照前脂肪細胞に対しての#:P<0.05;対照脂肪細胞に対しての*:P<0.05、**:P<0.01、***:P<0.001;5-アミノ-1MQ(10μM)処理脂肪細胞に対しての^:P<0.01。
図7】データは、生物学的に二連で、5-アミノ-1MQで処理した脂肪細胞においてLC/MS/MSによって測定した平均代謝産物レベル(空白のバー)を、対照未処理脂肪細胞(塗りつぶしのバー)レベルに対して正規化したものを表す(±SD)。一元配置ANOVA分析に続いてダネットの後検定比較によって求めた、対照未処置脂肪細胞に対しての*:P<0.05。
図8A-B】DIOマウスにおいて11日間にわたってSC投与された食塩水又はNNMT阻害剤(5-アミノ-1MQ、20mg/kg、1日3回)が、ベースラインからの体重変化(a)、平均食物摂取(g/日)及び11日間の累積食物摂取[挿入グラフ](b)に与える効果を示すグラフ又は像である。データ点はすべて、n=9マウス/群の平均値±SEMを表す。対応のないスチューデントのt検定、又は多重比較事後検定を用いた反復測定二元配置ANOVAによって適宜分析した、食塩水処置DIOに対しての*:P<0.05、**:P<0.01、***:P<0.0001。
図8C-D】DIOマウスにおいて11日間にわたってSC投与された食塩水又はNNMT阻害剤(5-アミノ-1MQ、20mg/kg、1日3回)が、精巣上体脂肪パッド重量(c)、EWATのサイズ(代表的な像)(d)に与える効果を示すグラフ又は像である。データ点はすべて、n=9マウス/群の平均値±SEMを表す。対応のないスチューデントのt検定、又は多重比較事後検定を用いた反復測定二元配置ANOVAによって適宜分析した、食塩水処置DIOに対しての*:P<0.05、**:P<0.01、***:P<0.0001。
図8E-G】DIOマウスにおいて11日間にわたってSC投与された食塩水又はNNMT阻害剤(5-アミノ-1MQ、20mg/kg、1日3回)が、20.7±1.8(DIO、食塩水)及び28.6±2.3(DIO、5-アミノ-1MQ)脂肪細胞という平均数に従って求めた脂肪細胞サイズ(μm2)(e)、食塩水及び5-アミノ-1MQ処置DIO EWAT組織の代表的なH&E染色像(スケールバー=200μm)(f)、並びに4時間の絶食期間後の総血漿コレステロールレベル(mg/gL)(g)に与える効果を示すグラフ又は像である。データ点はすべて、n=9マウス/群の平均値±SEMを表す。対応のないスチューデントのt検定、又は多重比較事後検定を用いた反復測定二元配置ANOVAによって適宜分析した、食塩水処置DIOに対しての*:P<0.05、**:P<0.01、***:P<0.0001。
図9A】分化する3T3-L1細胞における脂質生合成に対する5-アミノ-1MQの効果を示す像又はグラフである。対照未処理及び5-アミノ-1MQ(15、30、及び60μM)処理脂肪細胞(分化期間中終始継続した処理)における脂肪滴のオイルレッドO染色後の、代表的な培養プレート像(上のパネル)及び顕微鏡像(20倍の倍率、スケールバー=50μm、下のパネル)(a)。
図9B-C】5-アミノ-1MQ(15、30、及び60μM)処理脂肪細胞におけるオイルレッドO染色の定量化によって求めた脂質蓄積。データ点は、処理脂肪細胞サンプルにおける平均正規化(対未処理対照%)値(±SEM)を表す(実験あたりn=2反復試験、実験は3回実施)(b)。5-アミノ-1MQ(0.1~60μM)で処理した3T3-L1細胞の生存度。データ点は、処理3T3-L1サンプルにおける平均正規化(対未処理対照%)値(±SEM)を表す(実験あたりn=3反復試験、実験は3回実施)。ダネットの事後検定を用いた一元配置ANOVAによって分析した、未処理脂肪細胞(0μM)に対しての***:P=0.0001、未処理3T3-L1細胞に対しての*:P<0.01(c)。
図10】NNMTタンパク質が、老齢(28か月)前脛骨(TA)骨格筋組織において、若齢(4か月)TA筋組織に比べて高度に発現されることを示すグラフである。
図11A】NNMT阻害剤での処置によって、老齢(24か月齢超)マウスにおいて、筋線維横断面積が2倍になり、傷害後の筋幹細胞(muSC)活性化及び再生筋線維への統合が増強されることを示す像及びグラフである。処置動物において、EdU+/Pax7+muSC(白い矢印)、EdU+筋核(赤い矢印)のより顕著な行き渡り、及びより大きい平均線維横断面積(CSA、ラミニン染色周囲の点線の輪によって示される)がはっきりと認められた(パネルA)。
図11B-D】NNMT阻害剤での処置によって、老齢(24か月齢超)マウスにおいて、筋線維横断面積が2倍になり、傷害後の筋幹細胞(muSC)活性化及び再生筋線維への統合が増強されることを示す像及びグラフである。スケールバー=50um。*:対照に対してのp<0.05。Edu+陽性muSC%は、処置マウスにおいて2倍になった(パネルB)。処置マウスにおいて対照の2倍になった線維横断面積(CSA)(パネルC)。損傷筋線維への融合の増加を示す、処置マウスにおいて増加したEdu+線維%(パネルD)。
図12】NNMT阻害剤での処置によって、老齢マウス(24か月齢超)の四頭骨格筋におけるミトコンドリア呼吸能及び酸化的リン酸化が増大したことを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
前述の本発明の一般説明及び以下の詳細な説明は、両方とも例示的であり、したがって、本発明の範囲を限定しないと理解される。
【0031】
定義
本発明の原理の理解を促進する目的で、ここでは特定の実施形態に言及し、それについて述べるのに特定の専門用語を使用する。それにもかかわらず、本発明の範囲がそれによって限定されるものではなく、本発明が関連する分野の技術者が通常見出すことになるような、示される発明の変更及び改変並びに本明細書で示すとおりの本発明の原理のさらなる適用は、本明細書において企図されると理解される。
【0032】
別段定義しない限り、本明細書で使用するすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する業界の技術者が一般に理解しているものと同じ意味を有する。
【0033】
本明細書を説明する目的で、以下の定義が適用され、適切である場合、単数形で使用される用語は、複数形も包含し、逆もまたそうである。以下で示す定義が、参照により本明細書に援用される文書を含む、他のいずれかの文書におけるその単語の用法と矛盾する事象において、本明細書及びそれに関連する請求項を説明する目的では、(たとえば、その用語がもともと使用されている文書において)反対の意味が明確に意図されない限り、以下で示す定義によって統制されるものとする。
【0034】
「or」の使用は、別段明記しない限り、「and/or」を意味する。
【0035】
本明細書における「a」の使用は、別段明記しない限り、又は「one or more」の使用が明らかに不適切である場合でない限り、「one or more」を意味する。
【0036】
「comprise」、「comprises」、「comprising」、「include」、「includes」、及び「including」の使用は、相互交換可能であり、限定するものではない。さらに、1つ以上の実施形態の記述が、用語「comprising」を使用している場合において、当業者なら、ある特定の例では、その実施形態を、別法として、専門用語「consisting essentially of」及び/又は「consisting of」を使用して記載することができると理解する。
【0037】
本明細書で使用するとき、用語「約」とは、表示値からの±10%の変動を指す。そのような変動は、詳細に言及されているかどうかに関わりなく、本明細書で提供する所与の値に常に含まれると理解される。
【0038】
本明細書で使用する用語「アルキル」とは、それ自体で、又は別の基の一部として、直鎖及び分鎖両方のラジカルを指す。一実施形態では、アルキル基は、1~12個の炭素を有する。別の実施形態では、アルキル基は、1~7個の炭素を有する。別の実施形態では、アルキル基は、1~6個の炭素を有する。別の実施形態では、アルキル基は、1~4個の炭素を有する(「C1~4アルキル」又は「C1~4アルキル」とも呼ばれる)。用語「アルキル」は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、4,4-ジメチルペンチル、オクチル、2,2,4-トリメチルペンチル、ノニル、デシル、ウンデシル、及びドデシルを含みうる。
【0039】
本明細書で使用する用語「アルキレン」とは、直鎖及び分鎖アルキル連結基、すなわち、分子においてある基を別の基に連結しているアルキル基を指す。一部の実施形態では、用語「アルキレン」は、-(CH)n-(nは、2~8である)を含みうる。
【0040】
用語「アリール」とは、非置換であるか、又はハロゲン、ハロアルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボニル、アルキルアミド、ニトロ、アミノ、ジアルキルアミノ、カルボキシ、チオ、又はチオアルキルから選択される1つ以上の基で置換されている場合のある、少なくとも1つの炭素環式芳香族基又はヘテロ環式芳香族基を有する芳香族基を指す。アリール環の非限定的な例は、フェニル、ナフチル、ピラニル、ピロリル、ピラジニル、ピリミジニル、ピラゾリル、ピリジニル、フラニル、チオフェニル、チアゾリル、イミダゾリル、イソオキサゾリルなどである。
【0041】
「アミノ」基とは、-NH 基を示す。
【0042】
「アミド」基とは、-CONH基を指す。アルキルアミド基とは、-CONHR基を指し、Rは、上で定義したとおりである。ジアルキルアミド基とは、-CONRR’基を指し、R及びR’は、上で定義したとおりである。
【0043】
本明細書で使用する用語「ハロゲン」又は「ハロ」とは、それ自体で、又は別の基の一部として、塩素、臭素、フッ素、又はヨウ素を指す。
【0044】
本明細書で使用する用語「ヒドロキシ」又は「ヒドロキシル」とは、それ自体で、又は別の基の一部として、-OH基を指す。
【0045】
「アルコキシ」基とは、-O-アルキル基を指し、「アルキル」は、上で定義したとおりである。
【0046】
「チオ」基とは、-SH基を指す。
【0047】
「アルキルチオ」基とは、-SR基を指し、Rは、上で定義したとおりのアルキルである。
【0048】
本明細書で使用する用語「ヘテロアリール」とは、5~14個の環原子を有し、環配列において6、10、又は14個の7π電子が共有され、炭素原子と、1、2、又は3個の酸素、窒素、又は硫黄ヘテロ原子とを含んでいる基を指す。ヘテロアリール部分は、非置換であるか、又はハロゲン、ハロアルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボニル、アルキルアミド、ニトロ、アミノ、ジアルキルアミノ、カルボキシ、チオ、又はチオアルキルから選択される1つ以上の基で置換されている場合がある。ヘテロアリール基の例としては、チエニル、イマジゾリル(imadizolyl)、オキサジアゾリル、イソオキサゾリル、トリアゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピリダジニル、フリル、ピラニル、チアントレニル、ピラゾリル、ピラジニル、インドリジニル、イソインドリル、イソベンゾフラニル、ベンゾオキサゾリル、キサンテニル、2H-ピロリル、ピロリル、3H-インドリル、インドリル、インダゾリル、プリニル、4H-キノリジニル、イソキノリル、キノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キナゾリニル、フェナントリジニル、アクリジニル、ペリミジニル(perimidinyl)、フェナントロリニル、フェナジニル、イソチアゾリル、フェノチアジニル、イソオキサゾリル、フラザニル、及びフェノキサジニル基が挙げられる。特に好ましいヘテロアリール基としては、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、5-アミノ1,2,4-トリアゾール、イミダゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、1,2,3-オキサジアゾール、1,2,4-オキサジアゾール、3-アミノ-1,2,4-オキサジアゾール、1,2,5-オキサジアゾール、1,3,4-オキサジアゾール、ピリジン、及び2-アミノピリジンが挙げられる。
【0049】
本明細書で使用する用語「ヘテロ環」又は「ヘテロ環式環」は、特記する場合を除き、そのいずれかの環が、飽和又は不飽和である場合があり、炭素原子と、N、O、及びSからなる群から選択される1個~3個のヘテロ原子とからなり、窒素及び硫黄ヘテロ原子は、任意選択で酸化されていてもよく、窒素ヘテロ原子は、任意選択で四級化されていてもよい、安定な5~7員単環式又は安定な7~11員二環式のヘテロ環式環系を表し、上で定義したヘテロ環式環のいずれかがベンゼン環に縮合している任意の二環式基を含む。環は、1個の酸素若しくは硫黄、1個~3個の窒素原子、又は1個若しくは2個の窒素原子と組み合わされた1個の酸素若しくは硫黄を含んでいる場合がある。ヘテロ環式環は、結果として安定した構造が作られる、いずれのヘテロ原子又は炭素原子において結合していてもよい。さらに、「ヘテロ環」又は「ヘテロ環式環」部分は、非置換であるか、又はハロゲン、ハロアルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボニル、アルキルアミド、ニトロ、アミノ、ジアルキルアミノ、カルボキシ、チオ、又はチオアルキルから選択される1つ以上の基で置換されている場合がある。そのようなヘテロ環基の例としては、ピペリジニル、ピペラジニル、2-オキソピペラジニル、2-オキソピペリジニル、2-オキソピロロジニル、2-オキソアゼピニル、アゼピニル、ピロリル、4-ピペリドニル、ピロリジニル、ピラゾリル、ピラゾリジニル、イミダゾリル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、オキサゾリル、オキサゾリジニル、イソオキサゾリル、イソオキサゾリジニル、モルホリニル、チアゾリル、チアゾリジニル、イソチアゾリル、キヌクリジニル、イソチアゾリジニル、インドリル、キノリニル、イソキノリニル、ベンゾイミダゾリル、チアジアゾイル、ベンゾピラニル、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、フリル、テトラヒドロフリル、テトラヒドロピラニル、チエニル、ベンゾチエニル、チアモルホリニル、チアモルホリニルスルホキシド、チアモルホリニルスルホン、及びオキサジアゾリルが挙げられる。モルホリノは、モルホリニルと同じものである。
【0050】
本明細書で使用する用語「アルキルアミノ」とは、それ自体で、又は別の基の一部として、1~6個の炭素原子を有する1つのアルキル基で置換されているアミノ基を指す。本明細書で使用する用語「ジアルキルアミノ」とは、それ自体で、又は別の基の一部として、それぞれが1~6個の炭素原子を有する2つのアルキル基で置換されているアミノ基を指す。
【0051】
本明細書で使用する用語「アルキルチオ」とは、それ自体で、又は別の基の一部として、1~6個の炭素原子を有する1つのアルキル基で置換されているチオ基を指す。
【0052】
本明細書で使用するとき、(本明細書では区別なく使用される)用語「細胞(cell)」、「細胞(cells)」、及び「NNMTを発現する細胞」とは、限定はせず、ラット、マウス、サル、ウマ、イヌ、ネコ、ヒトなどのいずれかの動物からの、NNMTを発現する1個以上の細胞を指す。たとえば、限定はせず、細胞は、幹細胞などの前駆細胞、又は内皮細胞、平滑筋細胞などの分化細胞である場合がある。ある特定の実施形態では、医療処置のための細胞は、自家処置では患者から、同種異系間処置では他のドナーから得ることができる。
【0053】
「治療有効量」とは、医学的状態と関連する症状を軽減、予防、又は改善するのに十分な量である。
【0054】
用語「非水素置換基」とは、水素だけではできていない置換基を指す。非水素置換基の例としては、ハロゲン、C1~4アルキル、ハロゲン置換C1~4アルキル、NR10、NR1112、及びCNが挙げられる。一部の実施形態では、非水素置換基として、メチルが挙げられる。さらなる実施形態では、非水素置換基として、フッ化物(F)が挙げられる。さらなる実施形態では、非水素置換基として、NHが挙げられる。
【0055】
用語「化合物」、「カチオン」、「小分子カチオン」、及び「キノリン由来小分子カチオン」は、本出願全域で、本発明の実施形態に言及するのに区別なく使用しており、そうすることが本発明の範囲を限定するということは一切ない。
【0056】
本明細書で使用する用語「筋肉治療」とは、対象の1個以上の細胞を1種以上のNNMT阻害剤と接触させて、筋障害を処置及び/若しくは予防し、神経筋機能を向上させ、神経筋機能の回復に必要となる時間を短縮し、神経筋傷害を予防し、かつ/又は筋再生を向上させることを指す。この用語は、筋障害を処置及び/若しくは予防し、神経筋機能を向上させ、神経筋機能の回復に必要となる時間を短縮し、神経筋傷害を予防し、かつ/又は筋再生を向上させるための、NNMT阻害剤の投与も包含する。
【0057】
本明細書で使用する用語「NNMT阻害剤」とは、NNMTの酵素活性を阻害する小分子の化学的実体を指し、式I及び式IAの化合物並びに表1~3中の化合物を包含する。
【0058】
用語「投与する」又は「投与」とは、(ヒト、ウマ、ネコ、イヌ、サル、ラット、及びマウスを含む)対象の1個以上の細胞を1種以上のNNMT阻害剤と接触させることを指す。一部の実施形態では、投与は、in vitroで行われる場合がある。さらなる実施形態では、投与は、in vivoで行われる場合がある。
【0059】
先の記述は、例示的なものであり、したがって、本発明の範囲を限定しないと理解される。
【0060】
式Iの化合物
本発明者らは、驚いたことに、NNMTの阻害に使用することのできる式Iのキノリン由来カチオン類を発見した。一部の実施形態では、本発明は、式Iのカチオン
【0061】
【化5】
を包含し、式中、
は、C1~4アルキルであり、
、R、R、及びRは、H、C1~4アルキル、ハロゲン置換C1~4アルキル、NR10、及びCNからなる群から独立に選択され、
は、H又はハロゲンであり、
は、H、メチル、又はNR1112であり、
は、H、C1~4アルキル、ハロゲン置換C1~4アルキルであり、
、R10、R11、及びR12は、H及びC1~4アルキルから独立に選択され、
前記化合物は、R~Rの位置に少なくとも2つの非水素置換基を有しており、
~Rの位置にある前記非水素置換基の少なくとも1つは、NHである。
【0062】
さらなる実施形態では、Rは、メチル又はエチルである場合がある。
【0063】
さらなる実施形態では、Rは、メチルである。
【0064】
一部の実施形態では、R及びRの少なくとも一方は、NHである。
【0065】
一部の実施形態では、Rは、NHである。
【0066】
一部の実施形態では、R、R、及びRは、水素である。
【0067】
一部の実施形態では、Rは、ハロゲンである。
【0068】
一部の実施形態では、Rは、Fである。
【0069】
一部の実施形態では、Rは、NHである。
【0070】
一部の実施形態では、Rは、メチル又はCFである。
【0071】
一部の実施形態では、Rは、メチルである。
【0072】
さらなる実施形態では、本発明は、式IAのカチオン
【0073】
【化6】
を包含し、式中、
式IAのカチオンは、R~Rの位置に、2つ以上の非水素置換基を含み、
は、H又はNHであり、
は、H又はFであり、
は、H又はNHであり、
は、H又はメチルである。
【0074】
式IAの一部の実施形態では、Rは、メチル又はエチルである。
【0075】
式IAの一部の実施形態では、Rは、Fである。
【0076】
ある特定の実施形態では、式IAのカチオンは、
【0077】
【化7】
【化8】
の1つであり、
式中、
は、H又はNHであり、
は、H又はFであり、
は、H又はメチルである。
【0078】
ある特定の実施形態では、本発明の小分子カチオンは、対アニオン(X)を伴う場合がある。一部の実施形態では、対イオンは、スルホン酸(たとえば、トリフルオロメタンスルホン酸、メシル酸、トシル酸、ベシル酸など)、ハロゲン化物(たとえば、フッ化物、臭化物、塩化物、又はヨウ化物)、酢酸、硫酸、硫酸水素、硝酸、シュウ酸、吉草酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ホウ酸、安息香酸、乳酸、リン酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、グルコヘプトン酸、及びラクトビオン酸から選択される場合がある。
【0079】
本発明の別の態様は、一般に、NNMTを阻害し、NNMTが関与する疾患又は状態を抑制するための本発明のカチオンの使用に関する。NNMTは、いくつかの慢性疾患/状態と関連付けられている。たとえば、いくつかの研究は、がん細胞におけるNNMT活性の増大と、様々ながん性状態における腫瘍増殖/増悪との因果関係を裏付けており、NNMTに、がん予後のためのバイオマーカー、及び抗がん治療開発のための関連ターゲットとしての潜在的な含みをもたせている。最近では、たとえば、NNMTが、間葉性の神経膠芽腫幹細胞(GSC)によって優先的に発現されたことが見出された。たとえば、Jung,J.ら、Nicotinamide metabolism regulates glioblastoma stem cell maintenance JCI Insight、2:1~23(2017)の図5及び9を参照されたい。
【0080】
NNMT活性は、パーキンソン病、及び幹細胞分化のモジュレートにおいても役割を果たす。さらに、動物及びヒト両方における新しい報告では、NNMTが、肥満及び関連した慢性代謝状態(たとえば、2型糖尿病)において役割を果たすことが示されている。
【0081】
一部の実施形態では、本発明は、NNMTを発現する細胞を、本発明の1種以上のカチオンと接触させることにより、in vitro又はin vivoでNNMTを阻害する方法を包含する。さらなる実施形態では、本発明は、NNMTを発現する細胞を、1c、1f、1l、1m、2j、2k、2l、2m、2aa、1c’、1f’、1l’、1m’、2j’、2k’、2l’、2m’、及び2aa’から選択される1種以上のカチオンと接触させることにより、in vitro又はin vivoでNNMTを阻害する方法を包含する。
【0082】
さらなる実施形態では、本発明は、NNMTを発現する細胞を、表1、2、3a、及び3bから選択される1種以上のカチオンと接触させることにより、in vitro又はin vivoでNNMTを阻害する方法を包含する。さらなる実施形態では、本発明は、NNMTを発現する細胞を、本発明の1種以上のカチオン並びに表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンと接触させることにより、in vitro又はin vivoでNNMTを阻害する方法を包含する。本発明の一態様では、本発明の1種以上のカチオンを、表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンと同時に、NNMTを発現する細胞と接触させる。本発明の別の態様では、本発明の1種以上のカチオンを、NNMTを発現する細胞と接触させた後、前記NNMTを発現する細胞を、表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンと接触させる。本発明のさらなる態様では、表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンを、NNMTを発現する細胞と接触させた後、前記NNMTを発現する細胞を、本発明の1種以上のカチオンと接触させる。
【0083】
一部の実施形態では、本発明は、治療有効量の本発明の1種以上のカチオンを投与することにより、肥満又は関連した慢性代謝状態を処置する方法を包含する。さらなる実施形態では、本発明は、1c、1f、1l、1m、2j、2k、2l、2m、2aa、1c’、1f’、1l’、1m’、2j’、2k’、2l’、2m’、及び2aa’から選択される、治療有効量の1種以上のカチオンを投与することにより、肥満又は関連した慢性代謝状態を処置する方法を包含する。
【0084】
さらなる実施形態では、本発明は、治療有効量の表1、2、3a、及び3bから選択される1種以上のカチオンを投与することにより、肥満又は関連した慢性代謝状態を処置する方法を包含する。さらなる実施形態では、本発明は、本発明の1種以上のカチオン並びに表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンを治療有効量投与することにより、肥満又は関連した慢性代謝状態を処置する方法を包含する。本発明の一態様は、治療有効量の本発明の1種以上のカチオンを、表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンを同時投与しながら投与することにより、肥満又は関連した慢性代謝状態を処置することに関する。本発明の別の態様は、治療有効量の本発明の1種以上のカチオンを投与した後、表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンを投与することにより、肥満又は関連した慢性代謝状態を処置することに関する。本発明のさらなる態様は、治療有効量の表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンを投与した後、本発明の1種以上のカチオンを投与することにより、肥満又は関連した慢性代謝状態を処置することに関する。
【0085】
ある特定の実施形態では、本発明は、治療有効量の本発明の1種以上のカチオンを投与することにより、神経膠芽腫などのNNMT発現がんを処置する方法を包含する。さらなる実施形態では、本発明は、1c、1f、1l、1m、2j、2k、2l、2m、2aa、1c’、1f’、1l’、1m’、2j’、2k’、2l’、2m’、及び2aa’から選択される、治療有効量の1種以上のカチオンを投与することにより、神経膠芽腫などのNNMT発現がんを処置する方法を包含する。
【0086】
さらなる実施形態では、本発明は、治療有効量の、表1、2、3a、及び3bから選択される1種以上のカチオンを投与することにより、神経膠芽腫などのNNMT発現がんを処置する方法を包含する。さらなる実施形態では、本発明は、本発明の1種以上のカチオン並びに表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンを治療有効量投与することにより、NNMT発現がんを処置する方法を包含する。本発明の一態様は、治療有効量の本発明の1種以上のカチオンを、表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンを同時投与しながら投与することにより、神経膠芽腫などのNNMT発現がんを処置することに関する。本発明の別の態様は、治療有効量の本発明の1種以上のカチオンを投与した後、表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンを投与することにより、神経膠芽腫などのNNMT発現がんを処置することに関する。本発明のさらなる態様は、表3a及び3bから選択される、治療有効量の1種以上のカチオンを投与した後、本発明の1種以上のカチオンを投与することにより、神経膠芽腫などのNNMT発現がんを処置することに関する。
【0087】
ある特定の実施形態では、本発明は、治療有効量の本発明の1種以上のカチオンを投与することにより、パーキンソン病及び関連神経性疾患を処置する方法を包含する。さらなる実施形態では、本発明は、1c、1f、1l、1m、2j、2k、2l、2m、2aa、1c’、1f’、1l’、1m’、2j’、2k’、2l’、2m’、及び2aa’から選択される、治療有効量の1種以上のカチオンを投与することにより、パーキンソン病及び関連神経性疾患を処置する方法を包含する。
【0088】
さらなる実施形態では、本発明は、表1、2、3a、及び3bから選択される、治療有効量の1種以上のカチオンを投与することにより、パーキンソン病及び関連神経性疾患を処置する方法を包含する。さらなる実施形態では、本発明は、本発明の1種以上のカチオン並びに表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンを治療有効量投与することにより、パーキンソン病及び関連神経性疾患を処置する方法を包含する。本発明の一態様は、治療有効量の本発明の1種以上のカチオンを、表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンを同時投与しながら投与することにより、パーキンソン病及び関連神経性疾患を処置することに関する。本発明の別の態様は、治療有効量の本発明の1種以上のカチオンを投与した後、表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンを投与することにより、パーキンソン病及び関連神経性疾患を処置することに関する。本発明のさらなる態様は、表3a及び3bから選択される、治療有効量の1種以上のカチオンを投与した後、本発明の1種以上のカチオンを投与することにより、パーキンソン病及び関連神経性疾患を処置することに関する。
【0089】
一部の実施形態では、本発明は、NNMTを発現する幹細胞を本発明の1種以上のカチオンと接触させることにより、幹細胞分化をモジュレートする方法を包含する。さらなる実施形態では、本発明は、NNMTを発現する幹細胞を、1c、1f、1l、1m、2j、2k、2l、2m、2aa、1c’、1f’、1l’、1m’、2j’、2k’、2l’、2m’、及び2aa’から選択される1種以上のカチオンと接触させることにより、幹細胞分化をモジュレートする方法を包含する。
【0090】
さらなる実施形態では、本発明は、NNMTを発現する幹細胞を、表1、2、3a、及び3bから選択される1種以上のカチオンと接触させることにより、幹細胞分化をモジュレートする方法を包含する。さらなる実施形態では、本発明は、NNMTを発現する幹細胞を、本発明の1種以上のカチオン並びに表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンと接触させることにより、幹細胞分化をモジュレートする方法を包含する。本発明の一態様では、本発明の1種以上のカチオンを、表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンと同時に、NNMTを発現する幹細胞と接触させる。本発明の別の態様では、本発明の1種以上のカチオンを、NNMTを発現する幹細胞と接触させた後、前記NNMTを発現する幹細胞を、表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンと接触させる。本発明のさらなる態様では、表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンを、NNMTを発現する幹細胞と接触させた後、前記NNMTを発現する幹細胞を、本発明の1種以上のカチオンと接触させる。
【0091】
式I及びIAのカチオンの合成
本発明のある特定の実施形態の調製についての記述は、本発明のある特定の実施形態を例示するものである。本明細書及び以下で概略を述べる合成変換に使用した試薬及び反応物は、単に例示的なものにすぎない。本発明は、本発明のカチオンの調製を実現するのに、本明細書で論述した同じ又は異なる試薬を使用することを企図する。
【0092】
式I及びIAのある特定のカチオンは、置換キノリン誘導体のN-アルキル化によって調製することができる。一部の実施形態では、式I及びIAのある特定のカチオンの調製は、たとえば、ヨードメタン又はトリフルオロメタンスルホン酸メチルを使用して、キノリン骨格のN位をアルキル化することにより行われる場合がある(スキーム1を参照されたい)。
【0093】
スキーム1.本発明のある特定のカチオンの合成経路
【0094】
【化9】
試薬及び条件:(a)ヨードメタン、イソプロパノール、90℃、12時間、(b)MeOTf、トルエン、100℃、12時間。
【0095】
一部の実施形態では、本発明のある特定のカチオンの調製は、還元的アミノ化に続くアルキル化によって行われる場合がある。
【0096】
スキーム2.本発明のある特定のC3-アミノアルキル化キノリニウム誘導体の合成
【0097】
【化10】
試薬及び条件:(a)オルトギ酸トリエチル、TFA、125℃、12時間、次いで、NaBH、EtOH、室温、12時間、(b)MeI、IPA、90℃、12時間。
【0098】
本発明のある特定のカチオンは、カチオン1fの調製で例示されるとおり、スキーム2に概略を示した2段階工程によって調製することができる。詳細には、化合物8などのC3-アミノ-キノリン由来前駆体のアルキル化を、たとえば、TFA中にてオルトギ酸トリエチルを用いた還元的アミノ化に続き、NaBHで処理して、対応する第二級C3-アミン誘導体(N-メチル-C3-アミノ-キノリン9など)を得ることにより実現することができる。次いで、第二級C3-アミン誘導体中間体(たとえば、化合物9)をメチル化して、所望のカチオン(たとえば、化合物1f)を取得することができる。
【0099】
一部の実施形態では、本発明のある特定のカチオンの調製は、カチオン2jの調製(スキーム3)で例示されるとおり、SnClを媒介とするフリードレンダー合成を含む、Venkatesanらによって報告されているワンポット手順、続いてクルティウス転位、及びその後のアルキル化による脱保護によって行われる場合がある。
【0100】
特に、カチオン2jは、5-フルオロ-2-ニトロ-ベンズアルデヒド11から、所望のC2-エチル-カルボキシレートキノリン12を構築するための、SnClを媒介とするフリードレンダー合成を含む、Venkatesanらによって報告されているワンポット手順によって調製することができる(スキーム3)。得られるエステル基を、次いで、加水分解し、DPPAを用いてアジ化アシルに変換した後、tert-ブタノールなどのアルコールを用いたクルティウス転位にかけて、対応するN-Boc保護された基体(図示せず)を得ることができる。TFAを用いたN-Boc脱保護によって、対応するフッ素化C3-アミノ-キノリン中間体13が得られる。次いで、たとえば、スキーム1に概略を示す一般法を使用して、前駆体13のメチル化を行って、カチオン2jを得ることができる。
【0101】
スキーム3.本発明のある特定のC6-フッ素化キノリニウム誘導体の合成
【0102】
【化11】
試薬及び条件:(a)SnCl・2HO、エチル3,3-ジエトキシプロピオネート、EtOH、90℃、24時間、(b)3N NaOH、MeOH、室温、2時間、(c)ジフェニルホスホリルアジド、EtN、トルエン、室温、30分、次いで、tert-BuOH、還流、12時間、(d)TFA/CHCl、室温、3時間、(e)MeI、IPA、90℃、12時間。
【0103】
一部の実施形態では、本発明のある特定のカチオンの調製は、カチオン2kの調製(スキーム4)で例示されるとおり、(たとえば、mCPBAを使用する)キノリンの酸化に続き、それぞれ、ニトロ化及び塩素化、さらにその後、それぞれ、アミノ化及びアルキル化を経て行われる場合がある。
【0104】
特に、カチオン2kは、キノリンからmCPBA酸化を経て導くことのできるキノリン-N-オキシド14などから調製することができる(スキーム4)。化合物14などのC3位に、14の位置選択的ニトロ化を使用して、ニトロ基を選択的に導入した後、POClの存在下で、キノリン-N-オキシド部分を塩素化して、中間体15を得ることができる。所望のC2/3-ジアミノ基を、たとえばアンモニアを用いたC2-クロロ基のアミノ化と、(たとえば、水素化による)C3-ニトロ基の還元とを含む2段階の順序で導入して、前駆体16を得ることができる。化合物16を、たとえば、スキーム1で概略を示した一般法を使用してメチル化すると、カチオン2kを得ることができる。
【0105】
スキーム4.本発明のある特定のC2,3-ジアミノ-キノリニウム誘導体の合成
【0106】
【化12】
試薬及び条件:(a)mCPBA、CHCl、0℃~室温、12時間、(b)亜硝酸tert-ブチル、MeCN、100℃、24時間、(c)POCl、95℃、12時間、(d)NH(MeOH中7N)、90℃、12時間、(e)Pd/C、H、MeOH/THF、室温、12時間、(f)MeI、IPA、90℃、12時間。
【0107】
筋肉治療を施すためのNNMT阻害剤の使用
本発明の別の態様は、一般に、筋肉治療を施すためのNNMT阻害剤の使用に関する。NNMTは、いくつかの疾患/状態と関連付けられている。たとえば、NNMT活性が、ある特定の神経性疾患/状態において役割を果たすことが示されている。本発明者らは、驚いたことに、NNMT阻害剤を、ある特定の筋ジストロフィー疾患の処置を始めとする筋肉治療に使用できることを発見した。
【0108】
一部の実施形態では、本発明は、1個以上の細胞を1種以上のNNMT阻害剤と接触させることを含む、1種以上のNNMT阻害剤の筋肉治療への使用を包含する。他の実施形態では、本発明は、1個以上の細胞を1種以上のNNMT阻害剤と接触させることを含む、筋ジストロフィー疾患を処置するためのNNMT阻害剤の使用を包含する。
【0109】
一部の実施形態では、本発明は、式Iのカチオン
【0110】
【化13】
を投与することによって筋肉治療を施す方法を包含し、式中、
は、C1~4アルキルであり、
、R、R、及びRは、H、C1~4アルキル、ハロゲン置換C1~4アルキル、NR10、及びCNからなる群から独立に選択され、
は、H又はハロゲンであり、
は、H、メチル、又はNR1112であり、
は、H、C1~4アルキル、ハロゲン置換C1~4アルキルであり、
、R10、R11、及びR12は、H及びC1~4アルキルから独立に選択され、
前記化合物は、R~Rの位置に少なくとも2つの非水素置換基を有しており、
~Rの位置にある前記非水素置換基の少なくとも1つは、NHである。
【0111】
さらなる実施形態では、Rは、メチル又はエチルである場合がある。
【0112】
さらなる実施形態では、Rは、メチルである。
【0113】
一部の実施形態では、R及びRの少なくとも一方は、NHである。
【0114】
一部の実施形態では、Rは、NHである。
【0115】
一部の実施形態では、R、R、及びRは、水素である。
【0116】
一部の実施形態では、Rは、ハロゲンである。
【0117】
一部の実施形態では、Rは、Fである。
【0118】
一部の実施形態では、Rは、NHである。
【0119】
一部の実施形態では、Rは、メチル又はCFである。
【0120】
一部の実施形態では、Rは、メチルである。
【0121】
さらなる実施形態では、本発明は、式IAのカチオン
【0122】
【化14】
を投与することによって筋肉治療を施す方法を包含し、式中、
式IAのカチオンは、R~Rの位置に、2つ以上の非水素置換基を含み、
は、H又はNHであり、
は、H又はFであり、
は、H又はNHであり、
は、H又はメチルである。
【0123】
式IAの一部の実施形態では、Rは、メチル又はエチルである。
【0124】
式IAの一部の実施形態では、Rは、Fである。
【0125】
ある特定の実施形態では、本発明は、式IAのカチオンを投与することによって筋肉治療を施す方法を包含し、前記カチオンは、
【0126】
【化15】
【化16】
から選択され、
式中、
は、H又はNHであり、
は、H又はFであり、
は、H又はメチルである。
【0127】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載の小分子カチオンは、対アニオン(X)を伴う場合がある。一部の実施形態では、対イオンは、スルホン酸(たとえば、トリフルオロメタンスルホン酸、メシル酸、トシル酸、ベシル酸など)、ハロゲン化物(たとえば、フッ化物、臭化物、塩化物、又はヨウ化物)、酢酸、硫酸、硫酸水素、硝酸、シュウ酸、吉草酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ホウ酸、安息香酸、乳酸、リン酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、グルコヘプトン酸、及びラクトビオン酸から選択される場合がある。
【0128】
ある特定の実施形態では、本発明は、表1、2、3a、及び3bから選択される本明細書に記載のカチオンを投与することにより、筋肉治療を施す方法を包含する。
【0129】
一部の実施形態では、本発明は、NNMTを発現する細胞を、本発明の1種以上のカチオンと接触させることにより、筋肉治療を施す方法を包含する。さらなる実施形態では、本発明は、NNMTを発現する細胞を、1c、1f、1l、1m、2j、2k、2l、2m、2aa、1c’、1f’、1l’、1m’、2j’、2k’、2l’、2m’、及び2aa’から選択される1種以上のカチオンと接触させることにより、筋肉治療を施す方法を包含する。
【0130】
さらなる実施形態では、本発明は、NNMTを発現する細胞を、表1、2、3a、及び3bから選択される1種以上のカチオンと接触させることにより、筋肉治療を施す方法を包含する。さらなる実施形態では、本発明は、NNMTを発現する細胞を、本発明の1種以上のカチオン並びに表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンと接触させることにより、筋肉治療を施す方法を包含する。本発明の一態様では、本発明の1種以上のカチオンを、表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンと同時に、NNMTを発現する細胞と接触させる。本発明の別の態様では、本発明の1種以上のカチオンを、NNMTを発現する細胞と接触させた後、前記NNMTを発現する細胞を、表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンと接触させる。本発明のさらなる態様では、表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンを、NNMTを発現する細胞と接触させた後、前記NNMTを発現する細胞を、本発明の1種以上のカチオンと接触させる。
【0131】
一部の実施形態では、本発明は、治療有効量の1種以上のNNMT阻害剤を投与することにより、筋肉治療を施す方法を包含する。一部の実施形態では、本発明は、治療有効量の本発明の1種以上のカチオンを投与することにより、筋肉治療を施す方法を包含する。本発明の別の態様は、治療有効量の1種以上のカチオンを投与することにより、筋肉治療を施す方法に関する。
【0132】
さらなる実施形態では、本発明は、治療有効量の、1c、1f、1l、1m、2j、2k、2l、2m、2aa、1c’、1f’、1l’、1m’、2j’、2k’、2l’、2m’、及び2aa’から選択される1種以上のカチオンを投与することにより、筋肉治療を施す方法を包含する。
【0133】
さらなる実施形態では、本発明は、治療有効量の、表1、2、3a、及び3bから選択される1種以上のカチオンを投与することにより、筋肉治療を施す方法を包含する。さらなる実施形態では、本発明は、本発明の1種以上のカチオン並びに表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンを治療有効量投与することにより、筋肉治療を施す方法を包含する。本発明の一態様は、治療有効量の本発明の1種以上のカチオンを、表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンを同時投与しながら投与することにより、筋肉治療を施すことに関する。本発明の別の態様は、治療有効量の本発明の1種以上のカチオンを投与した後、表3a及び3bから選択される1種以上のカチオンを投与することにより、筋肉治療を施すことに関する。本発明のさらなる態様は、表3a及び3bから選択される、治療有効量の1種以上のカチオンを投与した後、本発明の1種以上のカチオンを投与することにより、筋肉治療を施すことに関する。
【0134】
本発明の一態様は、1種以上のNNMT阻害剤を、たとえば、動物の1個以上の細胞を接触させることにより投与して、
(a)限定はしないが、筋肉減少症、筋萎縮、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、ポンペ病、心筋症、肺障害を始めとする筋障害を処置及び/又は予防する
(b)限定はしないが、急性筋傷害後、オーバーユース筋傷害後、慢性筋傷害後、体力/抵抗力及び/又は持久力トレーニング中、加齢に伴う筋機能不全中/後、筋萎縮症後を始めとして、神経筋機能を向上させる
(c)限定はしないが、急性筋傷害後、オーバーユース筋傷害後、及び/又は慢性筋傷害後を始めとして、神経筋機能の回復に必要となる時間を短縮する
(d)限定はしないが、急性、オーバーユース、及び/又は慢性筋傷害を生じかねない活動と関連するものを含めて、神経筋傷害を予防する
(e)筋再生を向上させる
ことに関する。
【0135】
さらなる実施形態では、NNMT阻害剤の投与は、in vitroである。さらなる実施形態では、NNMT阻害剤の投与は、in vivoである。
【0136】
一部の実施形態では、相乗又は相加効果を生じさせるために、NNMT阻害剤を、細胞内NAD+レベルを増大させる1種以上の化学的実体(たとえば、ニコチンアミドリボシド、ニコチンアミドモノヌクレオチド)と共に使用して、筋肉治療を施すことができる。
【0137】
一部の実施形態では、本発明は、治療有効量の1種以上のNNMT阻害剤を、細胞内NAD+レベルを増大させる1種以上の化学的実体(たとえば、ニコチンアミドリボシド、ニコチンアミドモノヌクレオチド)と共投与して筋肉治療を施すことにより、筋肉治療を施す方法を包含する。
【0138】
さらなる実施形態では、本発明は、NNMTを発現する細胞を、NNMT阻害剤(式I若しくはIA、又は本明細書において別の形で開示するカチオンなど)及び細胞内NAD+レベルをモジュレートする1種以上の化学的実体(たとえば、ニコチンアミドリボシド、ニコチンアミドモノヌクレオチド)と接触させて筋肉治療を施すことにより、筋肉治療を施す方法を包含する。一部の実施形態では、本発明は、NNMTを発現する細胞を、NNMT阻害剤(式I若しくはIA、又は本明細書において別の形で開示するカチオンなど)及び細胞内NAD+レベルを増大させる1種以上の化学的実体(たとえば、ニコチンアミドリボシド、ニコチンアミドモノヌクレオチド)と接触させて筋肉治療を施すことにより、筋肉治療を施す方法を包含する。
【0139】
本発明の一態様では、1種以上のNNMT阻害剤(式I若しくはIA、又は本明細書において別の形で開示するカチオンなど)を、細胞内NAD+レベルを増大させる1種以上の化学的実体(たとえば、ニコチンアミドリボシド、ニコチンアミドモノヌクレオチド)と同時に、NNMTを発現する細胞と接触させて、筋肉治療を施す。一部の実施形態では、本発明は、1種以上のNNMT阻害剤(式I若しくはIA、又は本明細書において別の形で開示するカチオンなど)を、細胞内NAD+レベルをモジュレートする1種以上の化学的実体(たとえば、ニコチンアミドリボシド、ニコチンアミドモノヌクレオチド)と同時に、NNMTを発現する細胞と接触させて、筋肉治療を施すことを包含する。
【0140】
本発明の別の態様では、1種以上のNNMT阻害剤(式I若しくはIA、又は本明細書において別の形で開示するカチオンなど)を、NNMTを発現する細胞と接触させた後、前記NNMTを発現する細胞を、細胞内NAD+レベルをモジュレートする1種以上の化学的実体(たとえば、ニコチンアミドリボシド、ニコチンアミドモノヌクレオチド)と接触させて、筋肉治療を施す。
【0141】
本発明の別の態様では、1種以上のNNMT阻害剤(式I若しくはIA、又は本明細書において別の形で開示するカチオンなど)を、NNMTを発現する細胞と接触させた後、前記NNMTを発現する細胞を、細胞内NAD+レベルを増大させる1種以上の化学的実体(たとえば、ニコチンアミドリボシド、ニコチンアミドモノヌクレオチド)と接触させて、筋肉治療を施す。
【0142】
本発明のさらなる態様では、筋肉治療を施すための細胞内NAD+レベルをモジュレートする1種以上の化学的実体(たとえば、ニコチンアミドリボシド、ニコチンアミドモノヌクレオチド)を、NNMTを発現する細胞と接触させた後、前記NNMTを発現する細胞を、1種以上のNNMT阻害剤(式I若しくはIA、又は本明細書において別の形で開示するカチオンなど)と接触させる。
【0143】
本発明のさらなる態様では、筋肉治療を施すための細胞内NAD+レベルを増大させる1種以上の化学的実体(たとえば、ニコチンアミドリボシド、ニコチンアミドモノヌクレオチド)を、NNMTを発現する細胞と接触させた後、前記NNMTを発現する細胞を、1種以上のNNMT阻害剤(式I若しくはIA、又は本明細書において別の形で開示するカチオンなど)と接触させる。
[実施例]
【実施例1】
【0144】
本発明のある特定の例示的実施形態の調製
化学。すべての試験化合物の同一性は、1H NMR及びHPLC-MSによって確認され、純度は、95%以上になるように徹底された(裏付け情報を参照されたい)。
【0145】
SAMは、Sigma Aldrichから、ニコチンアミドは、Fluka Analytical(南アフリカ国クワズール-ナタール、米国ではSigma Aldrichが販売)から取得した。MNA塩化物及びS-アデノシルホモシステイン(SAH)は、Cayman Chemical Company(ミシガン州アナーバー)から取得した。化合物はすべて、二段蒸留水中で作製した。
【0146】
一般手順。別段指摘しない限り、反応はすべて、標準の合成化学法及び装備を使用して、市販品として入手可能な標準ガラス器具において実施した。空気及び水分に敏感な反応はすべて、無水条件下で、乾燥させた溶媒及びガラス器具を用い、窒素雰囲気中で実施した。出発材料及び試薬は、入手可能な最高純度の市販化合物とし、精製せずに使用した。反応に使用した溶媒には、工業用無水(commercial dry)又は超無水(extra-dry)又は分析グレードとの表示があった。分析薄層クロマトグラフィーは、Merck Kieselgel 60F254でコートされたアルミニウムプレートで実施し、UV照射(254nm)によって、又は過マンガン酸カリウムの溶液で染色して可視化した。
【0147】
フラッシュカラムクロマトグラフィーは、Biotage Isolera One 2.2において、Merck Kieselgel 60(230~400メッシュ)シリカゲルが予め充填された市販のカラムを使用して実施した。生物学的試験用の化合物は、すべて、HPLC-MS及び1H NMRによって測定される純度が95%以上であった。
【0148】
NMR。NMR実験は、Agilent DD2 400MHz分光計において周囲温度で記録した。サンプルを重水素化溶媒(CDCl、CDOD、及びDMSOd)に溶解させ、調製し、すべての場合において、残留溶媒を内部標準として使用した。重水素化溶媒ピークはすべて、標準化学シフト(CDCl,d=7.26ppm、CDOD,d= 3.31ppm、DMSO-d,d=2.50ppm)に対して補正した。スペクトルは、自動のベースライン補正後に、すべて手作業で積分した。化学シフト(d)は、百万分率(ppm)で示し、結合定数(J)は、ヘルツ(Hz)で示す。
【0149】
プロトンスペクトルは、d(多重度、結合定数J、プロトンの数)のように報告する。多重度を説明するのに、次の略語を使用した:app=明白、b=ブロード、d=二重線、dd=二重線の二重線、ddd=二重線の二重線の二重線、dddd=二重線の二重線の二重線の二重線、m=多重線、s=一重線、t=三重線。
【0150】
HPLC-MS。サンプルはすべて、バイナリポンプと、デガッサーと、UV検出器とからなり、Agilent 6150質量分析計と連結されているオートサンプラーを備えた、Agilent 1290シリーズのHPLCシステムにおいて分析した。純度は、230~400nmの範囲内の170nmのバンド幅を用いたUV検出によって求めた。一般的なLCパラメーターは、次のとおりである。カラム- Zorbax Eclipse Plus C18、サイズ2.1×50mm;溶媒A:水中0.10%のギ酸、溶媒B:アセトニトリル中0.00%のギ酸;流量- 0.7mL/分;勾配:5分で5%のB~95%のB、95%のBで2分間保持;UV検出器- チャネル1=254nm、チャネル2=254nm。質量検出器 AJS-ES。
【0151】
合成- 一般手順A:ヨウ化メチル(MeI)を使用するキノリニル環N-アルキル化
適切なキノリン誘導体(およそ1当量)及びMeI(別段指摘しない限り、およそ1.5当量)の0.5Mのイソプロピルアルコール(IPA)中の混合物を、90℃でおよそ12時間加熱した。反応液を周囲温度まで冷却し、得られた沈殿を真空濾過によって単離し、IPA/EtO(v:v/1:1)の混合物で洗浄し、真空乾燥した。
【0152】
合成- 一般手順B:MeOTfを使用するキノリニル環N-アルキル化
適切なキノリン誘導体(およそ1当量)及びトリフルオロメタンスルホン酸メチル(MeOTf)(別段指摘しない限り、およそ3当量)のトルエン(0.2M)中の混合物を、100℃で12時間加熱した。反応液を周囲温度に冷却し、EtOを加えて、沈殿を誘導した。得られる沈殿を真空濾過によって単離し、EtOで洗浄し、真空乾燥した。
【0153】
本発明のある特定の例示的実施形態の調製
2-アミノ-1-メチルキノリン-1-イウムヨージド(1c)
【0154】
【化17】
一般手順Aに従って、表題化合物を灰色の粉末として得た(収率26%)。1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 9.45 (br, 1H), 8.87 (br, 1H), 8.34 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 8.01 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.98 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.87 (dd, J = 8.4, 7.6 Hz, 1H), 7.57 (dd, J = 7.6, 7.6 Hz, 1H), 7.17 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 3.87 (s, 3H).HPLC-MS(AJS-ES):Rt 1.31分、m/z159.1[M+-I]。
【0155】
1-メチル-3-(メチルアミノ)キノリン-1-イウムヨージド(1f)
【0156】
【化18】
一般手順Aに従って、表題化合物を橙色の粉末として得た(収率72%)。1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 8.90 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 8.22 (dd, J = 4.8, 4.4 Hz, 1H), 8.10 (dd, J = 4.8, 4.4 Hz, 1H), 7.97 (d, J = 1.6 Hz, 1H), 7.78 (dd, J = 4.8, 4.4 Hz, 1H), 7.13 (br, 1H), 4.54 (s, 3H), 2.90 (s, 3H);HPLC-MS(AJS-ES):Rt 0.78分、m/z173.1[M+-I]。
【0157】
6-アミノ-1-メチルキノリン-1-イウムヨージド(1m)
【0158】
【化19】
一般手順Aに従って、表題化合物を橙褐色の粉末として得た(収率58%)。1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 8.94 (s, 1H), 8.77 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 8.18 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 7.83 (m, 1H), 7.58 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 7.11 (s, 1H), 6.46 (br, 2H), 4.48 (s, 3H);HPLC-MS(AJS-ES):Rt 0.74分、m/z159.1[M+-I]。
【0159】
3-アミノ-6-フルオロ-1-メチルキノリン-1-イウム(2j)
【0160】
【化20】
一般手順Aに従って、表題化合物を黄色の粉末として得た(収率58%)。1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 8.84 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 8.35 (dd, J = 9.6, 4.4 Hz, 1H), 7.99 (dd, J = 9.2, 2.8 Hz, 1H), 7.94 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.76 (ddd, J = 8.8, 8.8, 3.2 Hz, 1H), 6.78 (br, 2H), 4.56 (s, 3H);HPLC-MS(AJS-ES):Rt 0.22分、m/z177.1[M+-I]。
【0161】
4-クロロ-1-メチル-8-(トリフルオロメチル)キノリン-1-イウム トリフルオロメタンスルホネート(2l)
【0162】
【化21】
一般手順Bに従って、生成物の単離に過剰量のMeOTf(5当量)を使用し、表題化合物を薄灰色の粉末として得た(収率88%)。1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 8.56 (m, 1H), 8.33 - 8.10 (m, 2H), 7.59 (m, 1H), 6.47 (m, 1H), 3.93 (m, 3H);HPLC-MS(AJS-ES):Rt 0.92分、m/z226.1[M+-OSOCF]。
【0163】
生物学。組換え型hNNMTの発現及び精製。IPTG誘導可能プラスミドpJ401発現ベクターにクローン化された、改変突然変異体ヒトNNMT(mt-hNNMT)[結晶構造において観察されなかったNNMTタンパク質のC末端から3つのアミノ酸残基を欠いている](3ROD、PDB受入コード)を、DNA2.0(カリフォルニア州メンローパーク)から購入した。mt-hNNMTの発現及び精製は、以前に報告されたプロトコールに手を加えたものとした。簡潔に述べると、この発現ベクターを使用して、化学的にコンピテントな大腸菌(E.coli)BL21/DE3細胞を形質転換させた。BL21形質転換体を、カナマイシン(KAN)(30μg/mL)を含有するLB寒天プレートに播き、37℃で終夜インキュベートし、これを、0.5mMずつの塩化マグネシウム及びカルシウムと共に使用して1Lの培地に播種して、タンパク質を過剰発現させた。
【0164】
培養物を、OD600が0.7~0.8になるまで(~2~3時間)37℃の振盪機に入れた後、0.5mMのIPTGを用いて誘導し、さらに3時間インキュベートした。10℃で20分間、4000rpmで遠心分離し、上清を除去することにより、細胞を収穫した。精製については、収穫した細胞を、冷やした溶解緩衝液(20mMのTris[pH7.9]、0.5MのNaCl、5mMのイミダゾール、10%のグリセロール、1mMのDTT、1mMのPMSF)にまず再懸濁し、溶解混合物を氷上で超音波処理した。細胞可溶化液を4℃で30分間、15000rpmで遠心分離した。可溶性分画を、溶解緩衝液で予め平衡化した、ニッケルセファロースビーズ(GE Biosciences)から生成されたニッケルアフィニティーカラムにかけた。
【0165】
カラムを、溶解緩衝液(溶解緩衝液中5mMのイミダゾール)及び漸増濃度のNaCl(0.5mM及び1mM)に続いて、漸増濃度のイミダゾール(溶解緩衝液中5mM及び20mM)で洗浄して、混入しているタンパク質を除去した。溶解緩衝液、及び1mlの一定分量中の150mMのイミダゾール、200mMの塩、及び5%のグリセロールを用いて、結合したmt-hNNMTをカラムから溶離させた。収集された分画を、SDS-PAGE上で泳動させて、タンパク質発現を検証し、貯蔵緩衝液(25mMのTris[pH 8.6]、20%のグリセロール、100mMのNaCl、1mMのDTT)に対して透析した。プールされたタンパク質透析液濃度を、UV分光法によって求め、最終グリセロール濃度を20%とした120uLの一定分量に分割し、液体窒素でフラッシュ凍結し、-70℃で貯蔵した。
【0166】
NNMT活性アッセイ:HPLC計測及びクロマトグラフィー条件。以前に報告されたプロトコール(Patelら、2013)に手を加えることにより、NNMTによって触媒された産物である1-メチルニコチンアミド(MNA)を検出するためのHPLC-UV法を開発した。手動サンプル注入器を備えたShimatzu 10AVP HPLCシステム(Shimatzu、日本国京都府)を使用して、10mMの1-ヘプタンスルホネート、20mMのリン酸二水素カリウム[pH3.1]、4%のメタノール、及び3%のアセトニトリルからなる移動相を用いた定組成勾配でHPLC-UV法を実施した。クロマトグラフィー分離は、Platinum EPS C18 100A 3u(長さ:53mm、内径:7mm、最大圧力:5000PSIG)分析用カラム(Alltech Associates,Inc.、イリノイ州ディアフィールド)において、周囲温度で、移動相の流量を1ml/分に保ちながら実施した。サンプル注入体積は、100μLとし、実施時間は、1サンプルあたり20分とした。
【0167】
MNA検量線及びNNMT活性アッセイ。MNAピークを検出するための線形曲線を構築するために、1mMのTris[pH8.6]、1mMのDTT、10%のトリクロロ酢酸、4%のメタノール、及び水を含有する反応緩衝液中に、10~0.3125uM/100μLに2倍連続希釈されたMNAサンプルを調製した。同様に、100μMの、基質であるニコチンアミド、5μMの、メチル供与体であるS-アデノシル-L-メチオニン(SAM)、及び5μM濃度のS-アデノシルメチオニン(SAH)サンプルについても、反応緩衝液[1mMのTris[pH8.6]、1mMのDTT、10%のトリクロロ酢酸、4%のメタノール、及び水]中で個々に進めて、溶離時間を突き止め、基質、補因子、及び産物ピークを明確にした。MNA、ニコチンアミド、SAM、及びSAHピークを、265nmの波長を使用して検出した。NNMT活性を求めるために、水中に作製した10mMのニコチンアミド5μL、水中に作製した1mMのSAM2.5μLに、500μLの反応緩衝液を加えた。25μMの貯蔵精製NNMTタンパク質4μLを加えて反応を開始し(NNMTの反応液中最終濃度は200nMとした)、37℃の温熱ブロック上で6分間インキュベートし、その後、10%トリクロロ酢酸と4%メタノールの混合物を加えて反応を終結させ、5秒間ボルテックス撹拌し、14,000rpmで2分間遠心分離して、タンパク質を沈殿させた。上述のクロマトグラフィー条件を使用して100μLの上清を流すことにより、MNAについてのピーク面積及びピーク高さを求めた。各実験において、対照サンプルとして、NNMTなしで反応を実施した。
【0168】
阻害剤のNNMT IC50曲線。NNMT反応産物を上述のとおりのHPLCによって分析し、1-MQ及び1-MQ類似体についての阻害曲線の構築に使用した。初めに、化合物を、100μM又は1mMの濃度でのNNMT阻害活性について試験した(100uMで活性のない化合物を、1mMの濃度で試験した)。1mMで阻害活性が50%を超える化合物を、包括的な濃度-反応分析(100nM~1mM/反応液100μLの濃度範囲)へと進めた。そうでなければ、IC50値が1000uMより高い、又は観察可能な阻害なし(NI)と報告される。データを正規化し、試験した濃度(uM)に対するNNMT活性%として報告した。最小二乗法によって適合させた3パラメーター非線形回帰[阻害剤濃度対正規化されたNNMT活性%]によって、IC50値を求めた(Graphpad Prism 7.0、GraphPad Software Inc.、カリフォルニア州ラホーヤ)。IC50値が20μMより低い、かつ/又は曲線適合のためのR2値が0.8より小さい化合物については、データセットを二回又は三回運用し、分析のために平均した。
【0169】
分子ドッキング。AutoDock Vinaプログラムを使用して、本発明のある特定の実施形態(及びある特定の構造類似体)を、mt-hNNMT単量体鎖A[3ROD、PDB受入コード]のNCA結合部位に、コンピューター上で合体させた。マイナスのVinaドッキングスコアが最も低い類似体立体構造が、NNMTタンパク質のNCA活性部位内で、最も好都合な相互作用を有する、予測された結合型阻害剤立体構造に相当した。それぞれの化合物について、Vinaドッキングスコアと、実験によって打ち立てられたIC50間で、ピアソンの相関を使用する相関分析を行った(Graphpad Prism 7.0、GraphPad Software Inc.、カリフォルニア州ラホーヤ)。
【0170】
Auto Dock Tools(ADT)分子グラフィックスプログラムを使用して、各骨格内でIC50値が最低である類似体についての、hNNMT単量体(3ROD、PDB受入コード)とのVinaドッキングから生成された合体出力PDBファイルを使って合体画像を作成した。LigPlot+プログラム(Wallaceら、1995)でも、リガンドとhNNMT単量体(3ROD、PDB受入コード)についての合体PDBファイルを使用して、代表的な二次元像を作成し、NNMTのNCA活性部位における鍵触媒残基と阻害剤類似体間の4Åの距離内に、水素結合及び疎水性相互作用が示唆された。NNMT/阻害剤接触図におけるNCA基質部位を使用して、このシステムのための初期のSARパラメーターを書き表し、開発した。
【実施例2】
【0171】
本発明のある特定の実施形態(及びその類似体)の生物学的評価
以下の表1及び2に示すカチオンの阻害活性を探ることにより、本発明のカチオンのNNMT阻害能を調査した。本発明者らは、驚いたことに、カチオン1c、1f、1l、及び1mが、NNMTに対して阻害活性を示すことを見出した。
【0172】
【表1】
【0173】
IC50値は、二回又は三回の測定値の平均±SDで表される。
【0174】
本発明者らは、驚いたことに、Rがメチルであり、二重位置置換を有する本発明の特定の実施形態でも、阻害活性を見出した(たとえば、表2の化合物2j、2m、2k、及び2lを参照されたい)。
【0175】
【表2】
【0176】
IC50値は、二回又は三回の測定値の平均±SDで表される。
【0177】
本発明者らは、驚いたことに、本発明のある特定の類似体が、NNMT阻害能を有することも発見した(表3を参照されたい)。
【0178】
【表3】
【0179】
IC50値は、二回又は三回の測定値の平均±SDで表される。
【0180】
【表4】
【0181】
IC50値は、二回又は三回の測定値の平均±SDで表される。
【実施例3】
【0182】
阻害剤の分子ドッキング及び結合モード
本発明のある特定の実施形態について、ピアソンの相関を使用して、Vinaドッキングスコアと、実験によって打ち立てられたIC50値間の相関分析を行うと、若干の正の線形相関が示された(図2を参照されたい、r=0.676、p<0.0001、R=0.5)。最もマイナスのドッキングスコアを有する試験化合物の一部(すなわち、最低のドッキングスコア、たとえば、化合物1j、ドッキングスコア=-8.1)は、ターゲットであるNNMT酵素とのより活発な相互作用を示すものであり、高い効力を示し(すなわち、1j、IC50=1.2μM)、逆もまた同じであった(ドッキングスコアが-6.0~-5.0の間であるすべての化合物は、IC50が1000μMを超えていた)。
【0183】
Vinaドッキング計算は、ターゲットタンパク質の触媒ドメイン内での小分子阻害剤の結合モード、配向、及び立体構造を予測するのに有用であることがわかっている。
【0184】
Vinaドッキング計算によって、ターゲットタンパク質の触媒ドメイン内での小分子阻害剤の結合モード、配向、及び立体構造が予測されるため、IC50値が1.2μMである1-MQ類似体1jについての合体出力を使用して、Auto Dock Tools(ADT)分子グラフィックスプログラムを使いながら、1jの予測阻害剤結合モードを生成した。最もマイナスのドッキングスコアに有利である配向及び立体構造を有する1jの予測阻害剤結合モードからは、NNMT酵素の内因性基質であるNCAと重ね合わせたとき、この類似体が、NCAの結合モードと一致して結合する、すなわち、両方のリガンドのN1原子は、ほとんど同一の並び方であり、酵素の活性部位内で、鍵残基との同様の分子相互作用が付与されたことが示唆された。
【0185】
1jの結合モードでは、Tyr20、Tyr204、Tyr242、Leu164、Ala198、及びAla247残基(赤い切り込み線で強調された疎水性残基、図3)からなる、キノリニウムN1原子を取り囲む無極性ポケット内での強力な疎水性相互作用の成立が可能になる。これは、NNMTの活性部位へのNCAピリジン環結合に関する以前の報告と一致する。1jの予測結合モードからは、NNMT Ser213残基から水素結合距離にあるNCAアミド基とは異なり、C5’-アミノ置換基によって、Ser201残基のカルボン酸主鎖との水素結合相互作用及びSer213残基との疎水性結合が成立することが示唆される。1jについてのこうした相互作用は、内因性基質であるNCAに比べて、1jのはるかに低い計算Vinaドッキングスコア(-8.1、対NCA)によってさらに示された、より密な結合親和性を促進する可能性があり、NNMT活性部位における1jについての活発な相互作用の向上が示唆される。
【実施例4】
【0186】
筋組織におけるNNMTタンパク質発現は、老齢(27か月齢C57BL/6マウス)個体において、若齢(3か月齢C57BL/6マウス)個体に比べて有意に大きかったことが観察された(図5)。したがって、NNMT阻害剤によって、老齢筋肉におけるNNMT活性が低減されて、老齢筋細胞におけるNAD+サルベージ回路が、若齢筋細胞において観察される機能に戻るといえる。
【実施例5】
【0187】
in vitroで細胞内1-MNAレベルを低減し、脂質生合成を妨げる、膜透過性の高い選択的阻害剤としての小分子NNMT阻害剤を調査した。さらに、最も強力な阻害剤は、全身投与されたとき、観察可能な有害作用を引き起こすことなく、体重及び脂肪症の実質的な減少を引き起こすことにより肥満を後退させるという仮説を検証する、食事性肥満マウスにおける概念実証in vivo研究を実施した。
【0188】
材料及び方法
化学。LC/MS/MS研究のためのNNMT阻害剤及び標準物質は、確立された市販品供給業者から購入し、又は以前に記載されているとおりに、確立された合成スキームによって社内で合成した。SAM、NA、1-MQ、1,8-ジMQ、NAD+、及び6-クロロニコチンアミド(6-CN)は、Sigma-Aldrich(米国ミズーリ州セントルイス)から入手した。1-MNA及びS-(5’-アデノシル)-L-メチオニン(SAH)は、Cayman Chemical Company(米国ミシガン州アナーバー)から取得した。
【0189】
5.1 平行人工膜透過性アッセイ(PAMPA)。膜孔径が0.4μmである96ウェルプレコーティッドPAMPAプレートシステム(Gentest(商標)、Corning、米国マサチューセッツ州ベッドフォー)を使用して、受動膜輸送特性を測定した。簡潔に述べると、各化合物の1mMの保存液を脱イオン水中に調製し、PBS(Sigma Aldrich、ミズーリ州セントルイス)中に希釈して最終濃度を400μMとし、プレート下層ウェル(ドナーウェル)に入れた。室温で4時間インキュベートした後、各化合物の吸収極大に相当する波長に設定した紫外可視分光光度計(Beckman、DU640)を使用して、ドナー及びアクセプターウェルにおけるサンプル濃度を測定した。400~3.125μMにかけての検量線から、ドナー及びアクセプターウェルにおける化合物濃度を算出した。サンプルは、3つの別々の実験において三回試験した。
【0190】
Caco-2細胞を用いた双方向透過性アッセイ。確立された調査請負機関(Cyprotex、米国マサチューセッツ州ウォータータウン)を利用してのCaco-2細胞双方向透過性アッセイにおいて、化合物を試験した。簡潔に述べると、Caco-2細胞を96ウェルプレートに播き、培地において、2日おきに養分を与えながら3週間増殖させた。実験開始前に明確なCaco-2細胞単層を確保するために、一定分量の細胞緩衝液を蛍光分析にかけて、不透過性染料ルシファーイエローの輸送を判定した。頂端から基底面(A→B)及び基底面から頂端(B→A)への透過性について、化合物を、それぞれ、頂端(A)側及び基底面(B)側に10μMの濃度で加え、B側又はA側における化合物濃度を測定することにより、対応する透過量を求めた。A側緩衝液は、輸送緩衝液(10mMのHEPES中1.98g/Lのグルコース、1倍ハンクス平衡塩類溶液、pH7.4)中に100μMのルシファーイエロー染料を含有し、B側緩衝液は、pH7.4の輸送緩衝液とした。Caco-2細胞を、これらの緩衝液と共に2時間インキュベートし、受け器側緩衝液を、(分析用内部標準としてブセチンを使用する)LC/MS/MSによる分析用に取り出した。データを、次式を使用して算出した透過性(Papp)として示した。
【0191】
【数1】
【0192】
5.2. MTT細胞生存度アッセイ。3T3-L1前脂肪細胞(カタログCL-173、American Type Culture Collection、米国ヴァージニア州マナッサス)を、96ウェルプレートに、ウェルあたり2×103細胞の密度で播き、標準培地[DMEM、4.5g/Lのグルコース、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム(Mediatech Inc.、米国マサチューセッツ州テュークスベリー)、10%のFBS(Sigma Aldrich、米国ミズーリ州セントルイス)、1%の抗菌抗カビ溶液(Mediatech Inc.、米国マサチューセッツ州テュークスベリー)]で培養し、集密度が~90%を超えるまで48時間増殖させた。細胞培養培地において、細胞を0.1~600μMのNNMT阻害剤で24時間処理した。3T3-L1細胞をNNMTアンチセンスオリゴヌクレオチド又は小分子NNMT産物阻害剤(1-MNA)でそれぞれトランスフェクト又は処理するのに24時間の期間を使用するという以前の報告に基づき、表現型測定に24時間時点を選択した。各ウェルにMTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)(ATCC、米国ヴァージニア州マナッサス)を加え、製造者の指示に従ってアッセイにかけた。処理された細胞によって産生されたホルマザン色素の量に対応する吸光度を、対照(未処理)細胞によって産生されたものに対して正規化して、処理されたサンプル中の生細胞%を算出した。
【0193】
5.3. 3T3-L1前脂肪細胞の分化。3T3-L1前脂肪細胞を標準培地(DMEM、4.5g/Lのグルコース、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、10%のFBS、1%の抗菌抗カビ溶液)で培養し、48時間増殖させた後、製造者が提案し、以前の公開著述に手を加えたプロトコールを使用して、分化を起こさせた。簡潔に述べると、3T3-L1線維芽細胞の脂肪細胞への分化を促進するために、脂肪生成剤[3-イソブチル-1メチルキサンチン(IBMX)、Sigma Aldrich、米国ミズーリ州)、デキサメタゾン(Sigma Aldrich、米国ミズーリ州)、インスリン(Gibco Life Technologies Inc.、米国ニューヨーク州グランドアイランド)]を10日間かけて計画的に加えることにより標準培地を補充し、完全に集密な3T3-L1線維芽細胞に、培地中1mMのIBMXと1μMのデキサメタゾンと10μg/mlのインスリンの組合せを3日間(0~3日目)加えて、分化を起こさせた。3日目に、培地を、インスリン(10μg/ml)で補充した培地と差し替えた。6日目の後、記載する実験を開始するまで(8~10日目)細胞を培地に維持した。
【0194】
5.4. 培養細胞におけるNNMT反応産物である1-MNAの定量的測定。Agilent 1260超高圧クロマトグラフィー(LC/MS/MS)システムに連結された超高感度高分解能AB Sciex 6500 Q-trap質量分析計を使用して、細胞の1-MNA濃度を求めた。多重反応モニタリング(MRM)陽イオンモードを使用しながら、AB Sciex Analyst及びMultiQuant 2.1ソフトウェア、並びにそれぞれm/z137.1及び94.1に設定した親プリカーサー及びQ3質量を使用して、ピーク面積比から、1-MNA NNMT反応産物を定量化した。1-MNAの検出及び確認に、m/zがそれぞれ92.1及び77.9であるフラグメントイオンをさらに使用した。培養した3T3-L1細胞バッチ(~7~8継代目)すべてにわたって、未分化の3T3-L1前脂肪細胞(0日目)及び分化した脂肪細胞(10日目)の加工処理を、1-MNAレベルの回復及び再現性について最適化し、1-MNAレベルを前脂肪細胞と脂肪細胞とで比較した。前脂肪細胞及び分化した脂肪細胞(分化を起こす前に播かれた8×104細胞/ウェル)におけるNNMT阻害剤のNNMT活性に対する効果を明らかにするために、細胞を30μMの阻害剤で24時間処理した。同様に、培養脂肪細胞においてNNMT活性に対するいくつものNNMT阻害剤の相対的な効果を比較するために、6ウェルプレート中の分化した脂肪細胞を、10μMの試験化合物で24時間処理した。処理後、培地を、内部標準(IS)としての500nmolの6-クロロニコチンアミド(6-CN)を含有する80%(v/v)のメタノール(-80℃に冷却)と差し替えて、細胞代謝産物を抽出した。付着細胞をこすり落とし、次いで、4℃で15分間、13000gで遠心分離し、得られる上清を、確立されたプロトコールを使用して加工処理した。1-MNA並びにISの細胞内レベルを、LC/MS/MSピーク面積から求めた。引き続いて、サンプル間比較のために、データをISピーク面積に対して正規化し、対対照値%として変換した。0.3~60μMにかけての阻害剤濃度で上記手順を繰り返して、培養脂肪細胞において50%のNNMT活性を阻害するのに必要となる有効濃度(EC50)を求めた。阻害剤濃度及び期間の選択は、MTT研究の結果に基づいて行った。
【0195】
5.4. 培養細胞における選択された代謝産物の定量的測定。NNMTと関連する細胞エネルギー消費経路によって調節される選択された代謝産物(NA、SAM、SAH、NAD+)の相対的レベルを、LC/MS/MS及びMRM比を使用して並行して検出した。サンプル加工処理は、上述のとおりに行った。124.0、399.3、385.1、及び665.1Daの親プリカーサー質量、並びにm/z80.0、250.1、136.0、及び136.0に設定したQ3質量を、それぞれ、NA、SAM、SAH、及びNAD+の定量化に使用した。
【0196】
5.5. NNMT阻害剤の選択性。カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)、DNA(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼ1(DNMT1)、及びタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ3(PRMT3)を含む、構造が類似した3種のメチルトランスフェラーゼに対する活性について、試験化合物を生化学的アッセイでスクリーニングした。追加の生化学的アッセイを使用して、化合物が、NAD+生合成/サルベージ経路における2種の酵素であるニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)及びNAD+依存性タンパク質デアセチラーゼサーチュイン1(SIRT1)を阻害する能力を試験した。アッセイはすべて、Reaction Biology Corporation(RBC、米国ペンシルヴェニア州モルバーン)が実施し、完全なアッセイ細目を以下に記す。各試験化合物について、10段階の濃度の半対数希釈系列を用いて作成された用量反応曲線からIC50値を算出した。アッセイ毎に、確立された酵素特異的阻害剤を、酵素機能及びアッセイ再現性についての陽性対照として含めた。4パラメーター用量反応曲線の補正されたデータ点への非線形最小二乗適合によって、IC50値を求めた(Graphpad Prism 7.0、米国カリフォルニア州ラホーヤ)。
【0197】
5.5(a). DNMT1活性アッセイ。RBCが、100μM~5nMのSAHを阻害剤陽性対照として使用して、放射測定アッセイを実施した。類似体である1,8-ジMQ及び5-アミノ-1MQを、それぞれ200μM~10nM及び600μM~10nMの濃度で試験した。0.001mg/mlのDNA基質Poly(dI-dC)、1μMの放射標識S-アデノシル-L-[メチル-3H]メチオニン(SAM)補助基質、及び組換え型ヒトDNMT1酵素を用いて反応を実施した。放射標識された反応産物であるDNA5-[メチル-3H]-シトシンを定量化することにより、活性をモニターした。
【0198】
5.5(b). PRMT3活性アッセイ。RBCが、100μM~5nMのSAHを阻害剤陽性対照として使用して、放射測定アッセイを実施した。類似体である1,8-ジMQ及び5-アミノ-1MQを、それぞれ200μM~10nM及び600μM~10nMの濃度で試験した。5μMのヒストンH3(ヒストンL-アルギニン)基質、1μMの放射標識S-アデノシル-L-[メチル-3H]メチオニン(SAM)補助基質、及び組換え型ヒトPRMT3酵素を用いて反応を実施した。放射標識された反応産物であるヒストン[メチル-3H]-L-アルギニンを定量化することにより、活性をモニターした。
【0199】
5.5(c). COMT活性アッセイ。RBCが、1μM~50pMのトルカポンを阻害剤陽性対照として使用して、放射測定アッセイを実施した。類似体である1,8-ジMQ及び5-アミノ-1MQを、それぞれ200μM~10nM及び600μM~10nMの濃度で試験した。0.5μMのカテコール基質COMT-S01、1μMの放射標識S-アデノシル-L-[メチル-3H]メチオニン(SAM)補助基質、及び組換え型ヒトCOMT酵素を用いて反応を実施した。メチル化されたカテコール反応産物(グアイアコール[メチル-3H])を定量化することにより、活性をモニターした。
【0200】
5.5(d). NAMPT活性アッセイ。RBCが、1μM~50pMのFK866を阻害剤陽性対照として使用して、蛍光定量的アッセイを実施した。類似体である5-アミノ-1MQを、600μM~30nMの濃度で試験した。1mMのATP及び組換え型ヒトNAMPT酵素の存在下、2μMのニコチンアミド及び30μMのホスホリボシルピロリン酸(PRPP)を用いて反応を実施した。ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)反応産物の蛍光検出及び定量化を使用して、活性をモニターした。
【0201】
5.5(e). SIRT-1活性アッセイ。RBCが、100μM~5nMのスラミンナトリウムを阻害剤陽性対照として使用して、蛍光定量的アッセイを実施した。類似体である5-アミノ-1MQを、600μM~30nMの濃度で試験した。50μMのRHKKAc、p53残基379~382からの蛍光発生ペプチド基質、500μMのNAD+補助基質、及び組換え型ヒトSIRT-1(NAD+依存的)酵素を用いて反応を実施した。SIRT-1による基質の脱アセチル化に続いてフルオロフォアを二次的に放出するものであった2段階の結合反応によって生じる蛍光産物(クマリン)の生成によって、活性をモニターした。
【0202】
5.6. 食事性肥満(DIO)マウスにおけるNNMT阻害剤5-アミノ-1MQの効果。高脂肪食(HFD)を(6週目に開始して)11週間給餌された17週齢の雄DIO C57Bl/6マウスを、Jackson Labs(Jackson Laboratory、米国メイン州バーハーバー)から購入した。マウスを、最初にグループで収容し(3匹/ケージ)、12時間の明暗サイクル(0600~1800時点灯)で、一定の温度(21~23℃)及び湿度(40~50%)に保たれたコロニー環境に順化させた。到着後、マウスには、45%の脂肪由来エネルギーを含んだHFD(Research Diets Inc.のOpen Source DietsフォーミュラD12451、米国ニュージャージー州ニューブランズウィック)を給餌し続けた。水は、自由に利用可能とした。
【0203】
実験はすべて、実験動物の管理と使用に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に従って、またテキサス大学医学部におけるInstitutional Animal Care and Use Committeeの承認を得て実施した。7日間順化させた後、マウスを単独で収容し、HFDをさらに4週間継続させた。マウスは、体重及び食物摂取(ホッパー重量)を1週間に2~3回測定しながら、断続的に取り扱った。HFDが合計16週間給餌され(DIOの適切なげっ歯類モデル、ヒト肥満に匹敵)、到着前体重(~38g)に達した後、マウスを、群平均重量及び標準偏差が同様であるバランスのとれた対照及び処置コホート(n=9/コホート)にランダム化した。媒体コホートのマウスには、3回の皮下(SC)食塩水(1ml/kg)注射/日(~0930、1330、1730時)を施し、処置コホートのマウスには、NNMT阻害剤5-アミノ-1MQの3回のSC注射を、親化合物の合計用量を~34mg/kg/日(無体重に従って算出)とするための20mg/kg/注射の用量で11日間施した。選択した用量は、DIOマウス(n=2)における(10mg/kg/日から150mg/kg/日の合計用量の範囲での)初期用量増大研究に基づいており、60mg/kg/日の合計用量が、観察可能な有害作用なしに、申し分なく忍容された。体重及び食物摂取を1日おきに測定した。12日目に、マウスを4時間の絶食期間にかけ、次いで、イソフルランを使用して深麻酔し、断頭によって躯幹血液を収集した。すべてのサンプルから血漿を分離し、サンプルの血漿脂質-パネル測定(総コレステロール及びトリグリセリド)を、Texas A&M Veterinary Medical Diagnostic Laboratory(TVMDL、米国テキサス州カレッジステーション)に委託した。トリグリセリド値は、サンプルの溶血性がアッセイにおけるトリグリセリド試薬に支障を来したことによって測定が混乱したため、分析に含めなかった。すべてのマウスから精巣上体脂肪パッド(精巣上体白色脂肪組織、EWAT)を切除し、秤量し、さらなる加工処理のために、10%緩衝ホルマリン中に固定した。
【0204】
5.7. 組織学的分析。ホルマリン固定したEWATサンプルをパラフィン包埋し、薄片にし(4μM)、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。光学顕微鏡(Leica DM LB)を使用して、20倍の倍率で像を取得し、自動画像解析用にデジタル方式で撮影した。ImageJ(NIH)において「Adiposoft」プラグインソフトウェアを使用して画像を解析した。簡潔に述べると、画像を8ビット画像に変換し、(Leica顕微鏡における20倍の倍率に相当する)1画素あたり0.366ミクロンに調整した。最小及び最大直径パラメーターを割り当てて、自動脂肪細胞面積計算に適した細胞を特定し、画像の境界に沿った細胞を解析から除外した。サンプルあたり3件~5件の画像を解析し、自動解析を目視検査によって確認した。各サンプルに対応する画像の平均をとって、サンプルあたりの平均脂肪細胞面積(μm2)を取得し、合わせて、対照(媒体処置EWATサンプル)及び処置(NNMT阻害剤処置EWATサンプル)コホートについて群平均値を算出した。
【0205】
5.8. オイルレッドO染色によって定量化した、脂肪細胞分化に対するNNMT阻害剤の効果。直径60mmのシャーレにおいて3T3-L1細胞を培養し(8.4×104細胞/シャーレ)、(上述した)分化過程の間の計画的な培地交換それぞれの際に、脂肪生成要素(1mMのIBMX、1μMのデキサメタゾン、10μg/mlのインスリン)を含む/含まない培地に溶解させたNNMT阻害剤で処理した。分化後9日目に、公開されているプロトコールを適合させ、改変しながら、細胞を定量的オイルレッドO(Thermo Fisher Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム)染色にかけた。簡潔に述べると、細胞をPBSで2回洗浄し、室温にて10%ホルマリンで30分間固定し、オイルレッドO希釈標準溶液(99%のイソプロパノール中~0.2%のオイルレッドO)で30分間染色した。次いで、取り込まれていないオイルレッドO染色剤が完全に除去されるまで、細胞を滅菌水で5回洗浄した。対照及び阻害剤処理細胞におけるオイルレッドO染色の像を、光学顕微鏡(Olympus BX41、日本国東京都)を使用してデジタル方式で撮影した。画像を取り込んだ後、各シャーレに2-プロパノール(3.5mL)を10分間加えて、オイルレッドO染色剤を溶解させ、492nmの波長に設定したプレートリーダーにおいて吸光度を定量化した。オイルレッドO染色からの吸光度がプレートリーダーの線形検出範囲内になったことを確実にするために、以前に記載されているプロトコールを使用して、脂肪細胞におけるオイルレッドO染色についての検量線を作成した。
【0206】
5.9. 統計分析。対応のないスチューデントのt検定を使用して、2群比較のための統計分析を行った。ダネットの事後検定を用いた一元配置分散分析(ANOVA)を使用して、複数の群(細胞の評価における異なる阻害剤処理又は濃度効果)を対照と比較した。DIOマウスにおける体重尺度に対する毎日のNNMT阻害剤効果は、Sidakの多重比較事後検定を用いた反復測定二元配置ANOVAを使用して分析した。統計分析はすべて、Graphpad Prism 7.0を使用して、実験基準過誤率α=0.05として実施した。
【0207】
結果
5.10. NNMT阻害剤は、高い膜透過性を示す。NNMT阻害について~100倍のIC50値に及ぶ化合物を、N-メチル化キノリニウム骨格周囲での位置置換に基づいて選択して、薬物様の経口吸収/生物学的利用能特性の概算を実現し、in vitro及びin vivo表現型研究のための阻害剤の選択を導いた。表4及び5に、構造活性関係が以前に明らかにされている小分子NNMT阻害剤を選択するための、受動的な膜拡散及び能動輸送膜透過性をそれぞれ要約する。NNMTの産物阻害剤である1-MNAは、受動透過性を示さなかった(表4)。同様に、キノリニウムを含んでいる親類似体1-MQも、受動拡散特性を欠いており(表4)、メチルキノリニウムシリーズ内の類似体の親油性及び薬物様透過性特性を化学修飾によって改善する必要があったことが示唆された。このために、本発明者らは、分配計数(clogP)のin silico計算によって導いた、いくつかの過メチル化キノリニウム類似体を合成した。キノリニウム骨格周囲に疎水性メチル基置換を加える(NNMT阻害活性にマイナスの影響を与えることが以前から知られている)ことだけが、1,8-ジMQ及び1,2,4,8-テトラMQについての低いがゼロではない透過性値によって示されるとおり、受動輸送による膜透過性をわずかに向上させた(表4)。対照的に、キノリニウムコア周囲での極性アミン位置置換は、以前に言及したとおりNNMT阻害を向上させただけでなく、膜を介した好都合な受動及び能動輸送も可能にした(表4及び5)。詳細には、5-アミノ-1MQ及び7-アミノ-1MQは、膜を介した高い受動及び能動輸送を示し、Caco-2細胞アッセイにおいて、検出可能な流出が認められなかった。対照的に、1MQ骨格における2,3-ジアミノ置換(2,3-ジアミノ-1MQ)は、高い受動透過性を示したが(表4)、中程度の流出比を伴って、中程度の双方向能動輸送を示した(表5)。PAMPA測定値と一致して、1,8-ジMQ類似体は、Caco-2細胞アッセイにおいて非常に低い双方向輸送を示した(表5)。
【0208】
【表5】
【0209】
【表6】
【0210】
5.11. NNMT阻害剤が3T3-L1細胞生存度に及ぼす影響。3種の膜透過性NNMT阻害剤、5-アミノ-1MQ、7-アミノ-1MQ、及び2,3-ジアミノ-1MQの細胞毒性効果を、3T3-L1前脂肪細胞において評価した。細胞を10μMの5-アミノ-1MQ又は7-アミノ-1MQ及び300μMの2,3-ジアミノ-1MQで24時間処理しても、細胞生存度には影響が及ばなかった(図1)。5-アミノ-1MQ及び7-アミノ-1MQは、未処理細胞に比べると、100~300μMの範囲の濃度で穏当な細胞毒性を生じた(P<0.01、処理対対照未処理細胞)。3種すべての化合物が、試験した最高濃度で~40%の細胞毒性を示した(P<0.001、600μM処理細胞対対照未処理細胞)。
【0211】
5.12. 分化3T3-L1脂肪細胞は、NNMT阻害剤作用機序を実証するための、妥当な細胞主体システムとなる。NNMT阻害剤を作用機序及び表現型によって特徴付けるための細胞主体システムとして分化3T3-L1脂肪細胞を利用できるかを明らかにするために、本発明者らは、NNMTの発現レベルを測定し、LC/MS/MSを使用して、完全に分化した脂肪細胞(分化後9~10日目)及び未分化の前脂肪細胞(0日目)におけるNNMT反応産物1-MNAのレベルを評価した。NNMTタンパク質発現は、脂肪細胞(9日目)において、前脂肪細胞に対して~37倍の高さになることがわかった(P<0.0001)。同様に、総細胞タンパク質に対して正規化した1-MNAレベルも、脂肪細胞では、前脂肪細胞に比べて~7.5倍の高さになり(P<0.05、前脂肪細胞対脂肪細胞)、完全に分化した脂肪細胞ではNNMT酵素の活性が相対的に高いことが示唆された。前脂肪細胞(P<0.01、処理前脂肪細胞対未処理対照)と脂肪細胞(P<0.05、処理脂肪細胞対未処理対照)の両方において5-アミノ-1MQ(30μM濃度)を使用してNNMTを阻害すると、1-MNAの細胞内レベルは有意に低下した。
【0212】
5.13. NNMT阻害剤は、分化脂肪細胞における1-MNAの産生を減少させる。分化脂肪細胞において1-MNAレベルを低下させるNNMT阻害剤の相対的な有効性を、10μMの単一濃度(NNMT阻害剤の細胞毒性濃度範囲を十分に下回る濃度)で比較した。脂肪細胞を膜透過性NNMT阻害剤で24時間処理すると、細胞1-MNAレベルは、未処理対照脂肪細胞における1-MNAのレベルに比べて有意に低下した(F(5,6)=42.64、P<0.0001)。ダネットの事後検定によって、試験したすべての膜透過性NNMT阻害剤が、脂肪細胞における1-MNAレベルを、対照に比べて有意に低下させたことが明らかになった(対照未処理脂肪細胞に対して、それぞれ、5-アミノ-1MQ、P<0.001;3-アミノ-6-フルオロ-1MQ、P<0.01;及び2,3-ジアミノ-1MQ、P<0.05)。対照的に、膜透過性の不十分なNNMT阻害剤である1,2,4,8-テトラMQでは、細胞内1-MNAレベルが、未処理対照に比べて有意に低下しなかった(P>0.05、n.s.)。試験した阻害剤の中でも、IC50値が低く(IC50=~1μM)、膜透過性の高い(表5)、本発明者らの初期のNNMT阻害剤シリーズからの類似体である5-アミノ-1MQは、10μMの濃度で、細胞内1-MNAレベルの最も大幅な低下を生じた。これらの結果に基づき、本発明者らは、様々な5-アミノ-1MQ濃度での24時間の処理に応じた細胞内1-MNAの変化をモニターした。5-アミノ-1MQは、完全に分化した脂肪細胞において、3パラメーターシグモイド用量反応曲線に適合させることのできた、濃度依存的なNNMTの阻害を示し、EC50=2.3+/-1.1μMが算出された(図6A~B、適合度R2=0.94)。
【0213】
10~60μMの範囲の阻害剤濃度において、相対的な細胞内1-MNAレベルは、未処理脂肪細胞について観察されたレベルの~40%で安定化し、60μMより高い濃度は、3T3-L1細胞における細胞毒性効果が不明であるため試験しなかった。
【0214】
5.14. NNMT阻害は、分化脂肪細胞においてNAD+及びSAMの細胞内濃度を増大させる。図1Aに、NAを出発基質として使用する哺乳動物NAD+サルベージ経路の主な要素の概略を示す。NNMT阻害剤である5-アミノ-1MQによって細胞内1-MNA濃度が有意に低下したため、本発明者らは、脂肪細胞におけるNNMT阻害によって、補助基質であるNA及びSAMの細胞内濃度が増大し、より多くのNAがNAD+サルベージ回路へと向けられるという仮説を立てた。一元配置ANOVAによって、NNMT阻害剤処理の細胞内NAD+レベルに対するほぼ有意な主効果が明らかになり(F(5,6)=4.131、P=0.0568)(図7)、脂肪細胞をNNMT阻害剤である5-アミノ-1MQで処理すると、NAD+レベルは、濃度依存的に増大し、1~60μMの範囲の濃度では、NAD+レベルが、対照脂肪細胞に比べて~1.2~1.6倍増大した。ダネットの後検定(Dunnett’s posttests)によって、10μMの阻害剤濃度でのNAD+レベルの有意な増大が明らかになった(対照に対してP<0.05、図7)。同様に、一元配置ANOVAによって、脂肪細胞における細胞内SAMレベルに対するNNMT阻害の有意な主効果が明らかになった(F(5.5)=7.35、P=0.0236)(図7)。ダネットの後検定によって、より高い濃度での、細胞内SAMレベルの、対照脂肪細胞と比べて有意な増大が明らかになった(30μM、P<0.05;60μM、P=0.06)。しかし、NA(F(5,6)=1.031、P>0.05)及びSAH(F(5,6)=0.334、P>0.05)の細胞内レベルについては、NNMT阻害剤処理の統計的に有意な主効果が観察されなかった(図3B)。
【0215】
5.15. NNMT阻害剤は、選択的であり、関連メチルトランスフェラーゼ又はNAD+サルベージ経路における酵素に影響を及ぼさない。構造が類似したメチルトランスフェラーゼ及びNAD+サルベージ経路における2種の酵素のパネルに対して試験することにより、NNMT阻害剤の選択性を確認した(NAMPT及びSIRT1、図1A及び7)。それぞれ10nM~200又は600μMの範囲の1,8-ジMQ及び5-アミノ-1MQの濃度では、DNMT1又はPRMT3が阻害されなかった。試験したNNMT阻害剤濃度でDNMT1及びPRMT3の有意な阻害が観察されなかったため、シグモイド用量反応曲線、及び利用可能なデータに対する非線形最小二乗適合に基づく信頼性のあるIC50推定値を得ることはできなかった(表6)。加えて、1,8-ジMQ及び5-アミノ-1MQは、濃度依存的な阻害の明確な傾向が認められなかったものの、それぞれ、200μM(20%の阻害)及び600μM(10%の阻害)の最大試験濃度で、COMTの阻害をわずかしか示さなかった。DNMT1及びPRMT3について言及したとおり、試験したNNMT阻害剤濃度で有意な阻害が観察されなかったため、シグモイド用量反応曲線及び信頼性のあるIC50推定値を得ることはできなかった。
【0216】
5-アミノ-1MQは、100μMの試験濃度までNAMPTを阻害せず、100μMを上回る5-アミノ-1MQ濃度では、NAMPTアッセイ読み出しシグナルに支障が出たため、信頼性のあるデータを得ることはできなかった(表6)。しかし、NAMPTアッセイに支障を来さなかった5-アミノ-1MQの類似体である5-アミノ-6-フルオロ-1MQでアッセイを繰り返したとき、30μM~600μMの間の類似体濃度でNAMPTの阻害は観察されなかった(データは示さず)。
【0217】
5-アミノ-1MQは、10nM~300μMの範囲の濃度でSIRT1を阻害せず、600μMの5-アミノ-1MQによって、SIRT1活性の軽微な低下が観察された。しかし、試験した5-アミノ-1MQ濃度では有意な阻害が観察されなかったため、シグモイド用量反応曲線及び信頼性のある(すなわち、R2>0.8)IC50推定値を得ることはできなかった。まとめると、これらの結果から、NNMT阻害に薬理学的に妥当な濃度での小分子5-アミノ-1MQ類似体の高い選択性が示唆される。
【0218】
【表7】
【0219】
5.16. NNMT阻害剤は、DIOマウスにおいて体重減少及び脂肪組織質量の減少を引き起こす。in vitro研究によって、5-アミノ-1MQが高い細胞透過性、酵素選択性、及び細胞培養有効性を有することが示されたため、亜慢性(11日)概念実証in vivo研究を行って、HFD給餌マウスにおける肥満に対するNNMT阻害の効果を試した。DIOマウスを20mg/kgの5-アミノ-1MQで1日3回全身(SC)処置すると、対照に比べて、処置期間にかけて漸進的な体重の減少が引き起こされた(図8A)。反復測定二元配置ANOVAによって、処置(F(1,16)=12.47、P=0.0028)、時間(日数)(F(5,80)=4.437、P=0.0012)因子の有意な主効果、及び有意な処置×時間交互作用(F(5,80)=10.89、P<0.0001)が明らかになった。
【0220】
Sidakの多重比較後検定によって、6日目(P<0.01)、9日目(P<0.0001)、及び10日目(P<0.0001)における対照と処置DIOマウス間の体重の有意差が明らかになった(図8A)。11日の処置期間終了時に、対照DIOマウスは、0.6±0.4gの累積重量増加(ベースライン測定から~1.4%の体重増加)を示したが、NNMT阻害剤で処置したDIOマウスは、2.0±0.6gの体重減少(ベースライン測定から~5.1%の体重減少)を示した(図8A)。食物摂取は、群間で同じままであり、体重減少効果が主として代謝の変化に関係していることが示唆され(F(1,16)=1.101、P>0.05、図8B)、対照及び処置DIOマウスにおける合計累積食物摂取は、それぞれ、28.1±1.2g及び26.2±1.4gであった(図8B、挿入グラフ)。加えて、DIOマウスをNNMT阻害剤で処置すると、EWATの質量(図8C)及びサイズ(図8D)が、対照DIOマウスと比較して、実質的に~35%減少した(P<0.001)。これらの結果と一致して、処置DIOマウスからのEWATの組織学的分析では、対照DIOマウスに比べて、脂肪細胞サイズの30%を超える縮小(P<0.05、図8E及び8F)及び脂肪細胞体積の40%を超える縮小(データは示さず)が示された。血漿脂質プロファイル測定では、処置DIOマウスにおける総コレステロールレベルが、対照DIOマウスに比べて~30%低かったことが示された(P<0.05、図8G)。本発明者らの研究終了時の対照DIOマウスにおける総コレステロールレベルは、同齢DIOマウスについて供給業者が報告したコレステロールレベルと同等であった。対照的に、NNMT阻害剤処置DIOマウスにおけるコレステロールレベルは、通常の固形飼料が給餌された同齢C57Bl/6マウスについて供給業者が報告したコレステロールレベルと同様であった(www.jax.org/jax-mice-and-services/find-and-order-jax-mice/most-popular-jax-mice-strains/dio-b6)。
【0221】
5.17. NNMT阻害によって、3T3-L1細胞における脂質生合成は抑制される。脂肪細胞分化及び脂質生合成に対するNNMTの効果を明らかにするために、脂肪生成要素を含有する培地において3T3-L1細胞をNNMT阻害剤で処理した後の脂肪細胞において脂質蓄積を確認した。5-アミノ-1MQでの処理によって、分化する前脂肪細胞における脂質蓄積の濃度依存的な阻害が引き起こされた(F(3,19)=39.26、P<0.0001、図9A及び9B)。30μM及び60μMの濃度の5-アミノ-1MQによって、脂質生合成は、対照未処理脂肪細胞に比べて、それぞれ50%及び70%減少した(P=0.0001、図9B)。3T3-L1細胞生存度は、5-アミノ-1MQの最高試験濃度でも、未処理細胞生存度に比べてわずかしか低下しなかった(P<0.05、図9C)。
図1
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A-B】
図8C-D】
図8E-G】
図9A
図9B-C】
図10
図11A
図11B-D】
図12