IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電工ハードメタル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-焼結体及び切削工具 図1
  • 特許-焼結体及び切削工具 図2
  • 特許-焼結体及び切削工具 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】焼結体及び切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/20 20060101AFI20231003BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20231003BHJP
   C04B 35/52 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B23B27/20
B23B27/14 B
C04B35/52
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022521740
(86)(22)【出願日】2021-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2021043683
(87)【国際公開番号】W WO2022114192
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2020198393
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 大継
(72)【発明者】
【氏名】植田 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】久木野 暁
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-220015(JP,A)
【文献】特表2006-502955(JP,A)
【文献】特開2003-291036(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0136495(US,A1)
【文献】特開昭61-205664(JP,A)
【文献】特開2012-126605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14、27/20、51/00
B23C 5/16
C04B 35/52
C22C 26/00
B22F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド粒子と、結合材とを備え、
前記ダイヤモンド粒子中における硼素濃度は、0.001質量パーセント以上0.02質量パーセント以下であり、
前記結合材中における硼素濃度は、0.5質量パーセント以上40質量パーセント以下である、焼結体。
【請求項2】
前記ダイヤモンド粒子中における硼素濃度は、0.005質量パーセント以上あり、
前記結合材中における硼素濃度は、0.6質量パーセント以上33質量パーセント以下である、請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
前記ダイヤモンド粒子の平均粒径は、0.1μm以上50μm以下であり、
前記焼結体中における前記ダイヤモンド粒子の割合は、80体積パーセント以上99体積パーセント以下である、請求項1又は請求項2に記載の焼結体。
【請求項4】
前記結合材は、単体金属、合金及び金属間化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記単体金属、前記合金及び前記金属間化合物は、周期表の第4族元素、周期表の第5族元素、周期表の第6属元素、鉄、アルミニウム、珪素、コバルト及びニッケルからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の焼結体。
【請求項5】
前記結合材は、化合物及び前記化合物由来の固溶体からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記化合物は、単体金属、合金及び金属間化合物からなる群から選択される少なくとも1種と窒素、炭素及び酸素からなる群から選択される少なくとも1種とからなり、
前記単体金属、前記合金及び前記金属間化合物は、周期表の第4族元素、周期表の第5族元素、周期表の第6属元素、鉄、アルミニウム、珪素、コバルト及びニッケルからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の焼結体。
【請求項6】
前記結合材は、少なくともコバルトを含む、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の焼結体。
【請求項7】
刃先部を備え、
前記刃先部は、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の前記焼結体により形成されている、切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焼結体及び切削工具に関する。本出願は、2020年11月30日に出願した日本特許出願である特願2020-198393号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2008-133172号公報)には、焼結体が記載されている。特許文献1に記載の焼結体は、硼素がドープされているダイヤモンド粉末及び炭酸塩粉末を混合するとともに、その混合物を加熱・加圧することにより形成されている。
【0003】
特許文献2(特開昭58-199777号公報)には、焼結体が記載されている。特許文献2に記載の焼結体は、ダイヤモンド粉末及び触媒金属粉末を混合するとともに、その混合物を加熱・加圧することにより形成されている。なお、触媒金属粉末は、炭化硼素粉末と、金属粉末(鉄、ニッケル、コバルト等)とを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-133172号公報
【文献】特開昭58-199777号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の焼結体は、ダイヤモンド粒子と、結合材とを備える。ダイヤモンド粒子中における硼素濃度は、0.001質量パーセント以上0.9質量パーセント以下である。結合材中における硼素濃度は、0.5質量パーセント以上40質量パーセント以下である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、切削インサート100の平面図である。
図2図2は、切削インサート100の斜視図である。
図3図3は、刃先部20を構成している焼結体の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
本発明者らが鋭意検討した結果、特許文献1に記載の焼結体及び特許文献2に記載の焼結体を切削工具に適用した場合に、工具寿命に改善の余地があることがわかった。本開示は、切削工具に適用した場合に工具寿命を改善可能な焼結体を提供するものである。
【0008】
[本開示の効果]
本開示の焼結体によると、切削工具に適用した場合に工具寿命を改善可能である。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
まず、本開示の実施形態を列記して説明する。
【0010】
(1)一実施形態に係る焼結体は、ダイヤモンド粒子と、結合材とを備える。ダイヤモンド粒子中における硼素濃度は、0.001質量パーセント以上0.9質量パーセント以下である。結合材中における硼素濃度は、0.5質量パーセント以上40質量パーセント以下である。
【0011】
上記(1)の焼結体によると、切削工具に適用した場合に工具寿命を改善可能である。
(2)上記(1)の焼結体では、ダイヤモンド粒子中における硼素濃度が、0.005質量パーセント以上0.1質量パーセント以下であってもよい。結合材中における硼素濃度は、0.6質量パーセント以上33質量パーセント以下であってもよい。
【0012】
上記(2)の焼結体によると、切削工具に適用した場合に工具寿命をさらに改善可能である。
【0013】
(3)上記(1)又は(2)の焼結体では、ダイヤモンド粒子の平均粒径が0.1μm以上50μm以下であってもよい。焼結体中におけるダイヤモンド粒子の割合は、80体積パーセント以上99体積パーセント以下であってもよい。
【0014】
(4)上記(1)~(3)の焼結体では、結合材が、単体金属、合金及び金属間化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。単体金属、合金及び金属間化合物は、周期表の第4族元素、周期表の第5族元素、周期表の第6属元素、鉄、アルミニウム、珪素、コバルト及びニッケルからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素を含んでいてもよい。
【0015】
(5)上記(1)~(3)の焼結体では、結合材が、化合物及び化合物由来の固溶体からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。化合物は、単体金属、合金及び金属間化合物からなる群から選択される少なくとも1種と窒素、炭素及び酸素からなる群から選択される少なくとも1種とからなっていてもよい。単体金属、合金及び金属間化合物は、周期表の第4族元素、周期表の第5族元素、周期表の第6属元素、鉄、アルミニウム、珪素、コバルト及びニッケルからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素を含んでいてもよい。
【0016】
(6)上記(1)~(5)の焼結体では、結合材が、少なくともコバルトを含んでいてもよい。
【0017】
(7)一実施形態に係る切削工具は、刃先部を備える。刃先部は、上記(1)~(6)の焼結体により形成されている。
【0018】
上記(7)の切削工具によると、工具寿命を改善可能である。
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態の詳細を、図面を参照しながら説明する。以下の図面においては、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0019】
実施形態に係る切削工具は、例えば、切削インサート100である。実施形態に係る切削工具は切削インサート100に限られないが、以下においては、切削インサート100を実施形態に係る切削工具の例として説明を行う。
【0020】
(実施形態に係る切削工具の構成)
切削インサート100の構成を説明する。
【0021】
<切削インサート100の概略構成>
図1は、切削インサート100の平面図である。図2は、切削インサート100の斜視図である。図1及び図2に示されるように、切削インサート100は、基材10と、刃先部20とを有している。切削インサート100は、平面視において多角形形状(例えば、三角形形状)である。多角形形状(三角形形状)は、厳密な多角形形状(三角形形状)でなくてもよい。より具体的には、切削インサート100の平面視におけるコーナは、丸まっていてもよい。
【0022】
基材10は、平面視において多角形形状(例えば三角形形状)である。基材10は、頂面10aと、底面10bと、側面10cとを有している。頂面10a及び底面10bは、基材10の厚さ方向における端面である。底面10bは、基材10の厚さ方向における頂面10aの反対面である。側面10cは、頂面10a及び底面10bに連なっている面である。
【0023】
頂面10aは、取り付け部10dを有している。取り付け部10dは、平面視において頂面10aのコーナに位置している。取り付け部10dにおける頂面10aと底面10bとの間の距離は、取り付け部10d以外における頂面10aと底面10bとの間の距離よりも小さくなっている。すなわち、取り付け部10dと取り付け部10d以外の頂面10aの部分との間には、段差がある。
【0024】
基材10には、貫通穴11が形成されている。貫通穴11は、基材10を厚さ方向に貫通している。貫通穴11は、平面視における基材10の中央に形成されている。切削インサート100は、例えば、貫通穴11に固定部材(図示せず)が挿入されるとともに、当該固定部材が工具ホルダ(図示せず)に締結されることにより、切削加工に供される。但し、基材10には、貫通穴11が形成されていなくてもよい。
【0025】
基材10は、例えば、超硬合金により形成されている。超硬合金は、炭化物粒子及び結合材を焼結した複合材料である。この炭化物粒子は、例えば、炭化タングステン、炭化チタン、炭化タンタル等の粒子である。この結合材は、例えば、コバルト、ニッケル、鉄等である。但し、基材10は、超硬合金以外の材料により形成されてもよい。
【0026】
刃先部20は、取り付け部10dに取り付けられている。刃先部20は、例えばろう付けにより、基材10に取り付けられている。刃先部20は、すくい面20aと、逃げ面20bと、切れ刃20cとを有している。すくい面20aは、取り付け部10d以外の頂面10aの部分に連なっている。逃げ面20bは、側面10cに連なっている。切れ刃20cは、すくい面20aと逃げ面20bとの稜線に形成されている。刃先部20の底面(すくい面20aの反対面)には、バックメタル21が配置されていてもよい。バックメタル21は、例えば、超硬合金により形成されている。
【0027】
<刃先部20を構成している焼結体の詳細構成>
刃先部20は、ダイヤモンド粒子と、結合材とを含む焼結体により形成されている。刃先部20を構成している焼結体中におけるダイヤモンド粒子の平均粒径は、0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。刃先部20を構成している焼結体中におけるダイヤモンド粒子の割合(体積比率)は、80体積パーセント以上99体積パーセント以下であることが好ましい。結合材は、例えば、コバルトを含んでいる。結合材は、コバルトに加え、チタンを含んでいてもよい。結合材中において最も含有量の多い成分は、コバルトであることが好ましい。
【0028】
刃先部20を構成している焼結体中におけるダイヤモンド粒子の平均粒径は、以下の方法により算出される。
【0029】
刃先部20を構成している焼結体中におけるダイヤモンド粒子の平均粒径の算出においては、第1に、刃先部20の任意の位置から、断面を含む試料が切り出される。この試料の切り出しは、例えば、集束イオンビーム装置、クロスポリッシャ装置等を用いて行われる。
【0030】
第2に、切り出された試料の断面が、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)により観察される。この観察により、切り出された試料の断面における反射電子像(以下「SEM画像」ととする)が得られる。SEMによる観察では、測定視野内に100個以上のダイヤモンド粒子が含まれるように倍率が調整される。SEM画像は、切り出された試料の断面内の5箇所で取得される。
【0031】
第3に、SEM画像に対して画像処理を行うことにより、測定視野内に含まれているダイヤモンド粒子の粒径の分布を取得する。この画像処理は、例えば三谷商事株式会社製のWin ROOF ver.7.4.5、WinROOF2018等を用いて行われる。各々のダイヤモンド粒子の粒径は、画像処理の結果として得られた各々のダイヤモンド粒子の面積から円相当径を算出することにより得られる。なお、ダイヤモンド粒子の粒径の分布の取得に際して、一部が測定視野外にあるダイヤモンド粒子は、考慮されない。
【0032】
第4に、上記のようにして得られた測定視野内に含まれているダイヤモンド粒子の粒径の分布から、測定視野内に含まれているダイヤモンド粒子のメジアン径が決定される。この決定されたメジアン径を5つのSEM画像について平均した値が、刃先部20を構成している焼結体中におけるダイヤモンド粒子の平均粒径であると見做される。
【0033】
刃先部20を構成している焼結体中におけるダイヤモンド粒子の割合は、以下の方法により算出される。
【0034】
刃先部20を構成している焼結体中におけるダイヤモンド粒子の割合の算出においては、第1に、刃先部20の任意の位置から、断面を含む試料が切り出される。この試料の切り出しは、例えば、集束イオンビーム装置、クロスポリッシャ装置等を用いて行われる。
【0035】
第2に、切り出された試料の断面が、SEMにより観察される。この観察により、切り出された試料の断面におけるSEM画像が得られる。SEMによる観察では、測定視野内に100個以上のダイヤモンド粒子が含まれるように倍率が調整される。SEM画像は、切り出された試料の断面内の5箇所で取得される。
【0036】
第3に、SEM画像に対して画像処理を行うことにより、測定視野内に含まれているダイヤモンド粒子の割合を算出する。この画像処理は、例えば、三谷商事株式会社製のWin ROOF ver.7.4.5、WinROOF2018等を用いてSEM画像の二値化処理を行うことにより行われる。二値化処理後のSEM画像における暗視野は、ダイヤモンド粒子が存在する領域に対応する。この暗視野の面積を測定領域の面積で除した値が、刃先部20を構成している焼結体中におけるダイヤモンド粒子の体積比率であると見做される。
【0037】
ダイヤモンド粒子中における硼素濃度は、0.001質量パーセント以上0.9質量パーセント以下である。結合材中における硼素濃度は、0.5質量パーセント以上40質量パーセント以下である。結合材中における硼素濃度は、ダイヤモンド粒子中の硼素濃度以上であることが好ましい(すなわち、結合材中における硼素濃度からダイヤモンド粒子中における硼素濃度を減じた値は、0質量パーセント以上であることが好ましい)。結合材中における硼素濃度からダイヤモンド粒子中における硼素濃度を減じた値は、30質量パーセント以下であることが好ましい。
【0038】
ダイヤモンド粒子中における硼素濃度は、0.005質量パーセント以上0.1質量パーセント以下であってもよい。0.6質量パーセント以上33質量パーセント以下であってもよい。この場合、結合材中における硼素濃度からダイヤモンド粒子中における硼素濃度を減じた値は、0.5質量パーセント以上25質量パーセント以下であることが好ましい。
【0039】
ダイヤモンド粒子中における硼素濃度及び結合材中における硼素濃度は、以下の方法により測定される。
【0040】
ダイヤモンド粒子中における硼素濃度及び結合材中における硼素濃度の測定では、第1に、刃先部20の任意の位置から試料が切り出される。第2に、切り出された試料が酸処理される。この酸処理により、試料に含まれる結合材の成分が、実質的に全て酸中に溶解される。すなわち、この酸処理後の試料は、実質的にダイヤモンド粒子のみからなる。
【0041】
上記の酸処理は、フッ硝酸水溶液が用いて行われる。このフッ硝酸水溶液は、フッ化水素の50パーセント濃度水溶液及び硝酸の60パーセント濃度水溶液を1:1の割合で混合することにより生成される。上記の酸処理は、試料を上記のフッ硝酸水溶液中に浸し、200℃で48時間保持することにより行われる。
【0042】
第3に、酸処理後の試料に対してグロー放電質量分析を行うことにより、ダイヤモンド粒子中の硼素濃度が測定される。また、酸処理に用いられた酸に対して誘導結合プラズマ(Induced Coupled Plasma)分析を行うことにより、結合材中の硼素濃度が測定される。
【0043】
<刃先部20を構成している焼結体の製造方法>
図3は、刃先部20を構成している焼結体の製造方法を示す工程図である。図3に示されるように、刃先部20を構成している焼結体の製造方法は、粉末準備工程S1と、粉末混合工程S2と、焼結工程S3とを有している。
【0044】
粉末準備工程S1では、ダイヤモンド粉末、結合材粉末及び硼素粉末が準備される。ダイヤモンド粉末はダイヤモンドの粉末であり、結合材粉末は結合材を構成している材料により形成されている粉末である。硼素粉末は、硼素の粉末である。ダイヤモンド粉末、結合材粉末及び硼素粉末の割合は、刃先部20を構成している焼結体中におけるダイヤモンド粒子の体積比率並びにダイヤモンド粒子中及び結合材中における硼素濃度に応じて適宜選択される。
【0045】
粉末混合工程S2では、ダイヤモンド粉末、結合材粉末及び硼素粉末が混合される。この混合は、例えば、アトライタ又はボールミルを用いて行われる。但し、混合方法は、これらに限られるものではない。以下においては、ダイヤモンド粉末、結合材粉末及び硼素粉末の混合されたものを、「混合粉末」とする。
【0046】
焼結工程S3では、混合粉末に対して、焼結が行われる。この焼結は、混合粉末を容器内に配置するととともに、所定の焼結圧力において混合粉末を所定の焼結温度で保持することにより行われる。この容器は、混合粉末(焼結体)への不純物の混入を防止するために、タンタル、ニオブ等の高融点金属により形成されている。
【0047】
焼結圧力は、保持時間の経過に伴って増加するように制御される。焼結工程S3は、複数の工程に分けられていてもよい。この複数の工程は、例えば、第1工程と、第2工程とが含んでいる。第2工程は、第1工程の後に行われる。第2工程における焼結圧力は、第1工程における焼結圧力よりも大きい。第2工程における焼結温度は、第1工程における焼結温度よりも高い。第2工程における保持時間は、第1工程における保持時間よりも短い。
【0048】
第1工程における焼結圧力は、例えば3GPaである。第2工程における焼結圧力は、例えば、7GPaである。第1工程における焼結温度は、例えば、1200℃である。第2工程における焼結温度は、例えば、1500℃である。第1工程における保持時間は、刃先部20を構成している焼結体に含まれるダイヤモンド粒子中における硼素濃度及び当該焼結体に含まれる結合材中における硼素濃度に応じて適宜選択される。第1工程における保持時間が長くなるほど、刃先部20を構成している焼結体に含まれるダイヤモンド粒子中における硼素濃度が増加するとともに、当該焼結体に含まれる結合材中の硼素濃度が減少する。第2工程における保持時間は、例えば、1分間である。
【0049】
(実施形態に係る切削工具の効果)
以下に、切削インサート100の効果を説明する。
【0050】
ダイヤモンド粒子中に硼素が存在することにより、ダイヤモンド粒子の耐酸化性が改善される結果、刃先部20の耐摩耗性が改善される。本発明者らが見出した知見によると、ダイヤモンド粒子中の硼素濃度が0.001質量パーセント未満である場合、硼素によるダイヤモンド粒子の耐酸化性の改善効果が乏しい。他方で、ダイヤモンド粒子中の硼素濃度が0.9質量パーセントを超えると、ダイヤモンド粒子中の硼素量が過剰となってダイヤモンド粒子の硬度が低下し、刃先部20の耐摩耗性がかえって低下する。
【0051】
焼結工程S3では、結合材粉末が溶融し、硼素粉末が溶融した結合材に溶解する。そして、ダイヤモンド粉末の一部が溶融した結合材中に溶解し、ダイヤモンド粒子が再析出することにより、ダイヤモンド粒子同士の結合(ネッキング)が進行する。溶解した結合材中の硼素は、この再析出時の核として作用するため、結合材中の硼素濃度が0.5質量パーセント未満である場合、ダイヤモンド粒子同士のネッキングが生じにくい。
【0052】
他方で、本発明者らの見出した知見によると、結合材中の硼素濃度が40質量パーセントを超える場合、ダイヤモンド粒子の再析出がかえって起こりにくくなる(ダイヤモンド粒子同士のネッキングが生じにくくなる)。刃先部20を構成している焼結体中においてダイヤモンド粒子間のネッキングが不十分である場合(ダイヤモンド粒子間のグロスネック強度が低い場合)、刃先部20を構成している焼結体からダイヤモンド粒子が脱落しやすくなり、耐摩耗性が低下する。
【0053】
切削インサート100では、刃先部20を構成している焼結体に含まれているダイヤモンド粒子中の硼素濃度が0.001質量パーセント以上0.9質量パーセント以下であるため、ダイヤモンド粒子の硬度を維持しつつ、ダイヤモンド粒子の耐酸化性が改善されている。また、切削インサート100では、刃先部20を構成している焼結体に含まれる結合材中の硼素濃度が0.5質量パーセント以上40質量パーセント以下であるため、ダイヤモンド粒子間のグロスネック強度を確保することができる。このように切削インサート100によると、刃先部20の耐摩耗性が改善される。
【0054】
(実施例)
切削インサート100の効果を確認するために行った切削試験を説明する。
【0055】
表1には、切削試験に供されたサンプルが示されている。表1に示されるように、切削試験には、サンプル1~サンプル22が供された。サンプル1~サンプル8では、刃先部20を構成している焼結体に含まれる結合材中における硼素濃度を一定(10質量パーセント)とした上で、当該焼結体に含まれるダイヤモンド粒子中における硼素濃度を変化させた。
【0056】
刃先部20を構成している焼結体に含まれるダイヤモンド粒子中における硼素濃度が0.001質量パーセント以上0.9質量パーセント以下であることを、条件A1とする。刃先部20を構成している焼結体に含まれる結合材中における硼素濃度が0.5質量パーセント以上40質量パーセント以下であることを、条件B1とする。
【0057】
刃先部20を構成している焼結体に含まれるダイヤモンド粒子中における硼素濃度が0.005質量パーセント以上0.1質量パーセント以下であることを、条件A2とする。刃先部20を構成している焼結体に含まれる結合材中における硼素濃度が0.6質量パーセント以上33質量パーセント以下であることを、条件B2とする。
【0058】
サンプル1~サンプル6では、条件A1及び条件B1(条件B2)が満たされていた。サンプル1~サンプル4では、条件A2も満たされていた。サンプル7及びサンプル8では、条件B1(条件B2)は満たされているものの、条件A1が満たされていなかった。
【0059】
サンプル9~サンプル16では、刃先部20を構成している焼結体に含まれるダイヤモンド粒子中における硼素濃度を一定(0.016質量パーセント)とした上で、当該焼結体中に含まれる結合材中における硼素濃度を変化させた。
【0060】
サンプル9~サンプル14では、条件A1(条件A2)及び条件B1が、満たされていた。サンプル9~サンプル13では、条件B2も、満たされていた。サンプル15及びサンプル16では、条件A1(条件A2)は満たされているものの、条件B1が満たされていなかった。
【0061】
サンプル1~サンプル16では、刃先部20を構成している焼結体に含まれるダイヤモンド粒子の平均粒径が0.5μmとされ、当該焼結体に含まれるダイヤモンド粒子の割合が90体積パーセントとされた。サンプル17~サンプル22では、刃先部20を構成している焼結体に含まれるダイヤモンド粒子の平均粒径及び割合のいずれかが、サンプル1~サンプル16と異なっている。なお、サンプル17~サンプル22では、条件A1(条件A2)及び条件B1(条件B2)が満たされていた。
【0062】
【表1】
【0063】
切削試験には、第1試験方法、第2試験方法及び第3試験方法が用いられた。第1試験方法はサンプル1~サンプル8の評価に用いられ、第2試験方法はサンプル9~サンプル16の評価に用いられた。第3試験方法は、サンプル17~サンプル22の評価に用いられた。表2には、第1試験方法、第2試験方法及び第3試験方法の詳細が示されている。
【0064】
【表2】
【0065】
表3には、切削試験の結果が示されている。表3に示されるように、サンプル1~サンプル6及びサンプル9~サンプル14は、長い工具寿命を示した。他方で、サンプル7及びサンプル8並びにサンプル15及びサンプル16では、切削加工の開始初期に刃先部20に欠けが生じた(以下「初期欠け」という)。
【0066】
上記のとおり、サンプル1~サンプル6及びサンプル9~サンプル14では条件A1及び条件B1が満たされた一方で、サンプル7及びサンプル8並びにサンプル15及びサンプル16では条件A1及び条件B1の一方が満たされていなかった。この比較から、条件A1及び条件B1の双方が満たされることにより、切削インサート100の工具寿命が改善されることが明らかになった。
【0067】
サンプル2~サンプル5は、サンプル1及びサンプル6と比較して、長い工具寿命を示した。また、サンプル10~サンプル13は、サンプル9及びサンプル14と比較して、長い工具寿命を示した。
【0068】
上記のとおり、サンプル2~サンプル5及びサンプル10~サンプル13では条件A2及び条件B2の双方がさらに満たされていた一方、サンプル1及びサンプル6並びにサンプル9及びサンプル14では条件A2及び条件B2のいずれかが満たされていなかった。この比較から、条件A2及び条件B2がさらに満たされることにより、切削インサート100の工具寿命がさらに改善されることが明らかになった。
【0069】
サンプル17~サンプル22は、いずれも長い工具寿命を示した。上記のとおり、サンプル17~サンプル22は、条件A1(条件A2)及び条件B1(条件B2)を満たしている。
【0070】
刃先部20を構成している焼結体に含まれるダイヤモンド粒子の体積比が80パーセント以上99パーセント以下であることを、条件Cとする。刃先部20を構成している焼結体に含まれるダイヤモンド粒子の平均粒径が0.1μm以上50μm以下であることを、条件Dとする。サンプル17~サンプル19では条件C及び条件Dが満たされていた一方で、サンプル20~サンプル22では条件C及び条件Dの一方が満たされていなかった。
【0071】
サンプル17~サンプル19は、サンプル20~サンプル22と比較して、長い工具寿命を示した。この比較から、条件C及び条件Dがさらに満たされることにより切削インサート100の工具寿命がさらに改善されることが、明らかになった。
【0072】
【表3】
【0073】
(変形例)
上記においては刃先部20を構成している焼結体に含まれる結合材がコバルトである場合を例として説明したが、刃先部20を構成している焼結体に含まれる結合材は、コバルトに限られない。
【0074】
刃先部20を構成している焼結体に含まれる結合材は、単体金属、合金及び金属間化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。この単体金属、合金及び金属間化合物は、周期表の第4族元素(例えばチタン、ジルコニウム、ハフニウム)、周期表の第5族元素(例えばバナジウム、タンタル、ニオブ)、周期表の第6族元素(例えばクロム、モリブデン、タングステン)、アルミニウム、鉄、珪素、コバルト及びニッケルからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を含んでいる。なお、上記の周期表は、いわゆる長周期型の周期表を意味している。
【0075】
刃先部20を構成している焼結体に含まれる結合材は、化合物及び当該化合物由来の固溶体からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。この化合物は、単体金属、合金及び金属間化合物からなる群から選択される少なくとも1種と窒素、炭素及び酸素からなる群から選択される少なくとも1種とからなる。この単体金属、合金及び金属間化合物は、周期表の第4族元素、周期表の第5族元素、周期表の第6族元素、アルミニウム、鉄、珪素、コバルト及びニッケルからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素を含んでいる。
【0076】
上記においては、切削インサート100が基材10を有している場合を説明したが、切削インサート100は、刃先部20以外も刃先部20と同一の焼結体により形成されてもよい。
【0077】
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0078】
10 基材、10a 頂面、10b 底面、10c 側面、10d 取り付け部、11 貫通穴、20 刃先部、20a すくい面、20b 逃げ面、20c 切れ刃、21 バックメタル、100 切削インサート、S1 粉末準備工程、S2 粉末混合工程、S3 焼結工程。
図1
図2
図3