IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジーディーイー エンジニアリング プティ リミテッドの特許一覧

特許7359528カスタマイズされた音響分布を提供するための方法および装置
<>
  • 特許-カスタマイズされた音響分布を提供するための方法および装置 図1
  • 特許-カスタマイズされた音響分布を提供するための方法および装置 図2
  • 特許-カスタマイズされた音響分布を提供するための方法および装置 図3
  • 特許-カスタマイズされた音響分布を提供するための方法および装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】カスタマイズされた音響分布を提供するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/40 20060101AFI20231003BHJP
   H04R 1/24 20060101ALI20231003BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20231003BHJP
   H04R 3/14 20060101ALI20231003BHJP
   H04S 7/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
H04R1/40 310
H04R1/24 Z
H04R3/00 310
H04R3/14
H04S7/00 320
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017538273
(86)(22)【出願日】2015-10-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2017-11-24
(86)【国際出願番号】 AU2015000604
(87)【国際公開番号】W WO2016054679
(87)【国際公開日】2016-04-14
【審査請求日】2018-10-05
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-08
(31)【優先権主張番号】2014904043
(32)【優先日】2014-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2015901241
(32)【優先日】2015-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】517123287
【氏名又は名称】ジーディーイー エンジニアリング プティ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GDE Engineering Pty Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100110319
【弁理士】
【氏名又は名称】根本 恵司
(72)【発明者】
【氏名】ディビッド、カーティンスミス
(72)【発明者】
【氏名】ポール アンソニー、チャイルズ
(72)【発明者】
【氏名】エリン、カーティンスミス
【合議体】
【審判長】五十嵐 努
【審判官】樫本 剛
【審判官】高橋 宣博
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-85340(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0110269(US,A1)
【文献】特表2009-531926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/20 - 1/40
H04R 3/00 - 3/14
H04S 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波ドライバセグメント(3)の少なくとも1つの第1の二次元アレーと第1の二次元アレーの後方に配置された低周波ドライバセグメント(5)の少なくとも一つの第2の二次元アレーを内部に有し、低周波ドライバセグメント(5)の第2の二次元アレーからの波面が高周波ドライバセグメント(3)の第1の二次元アレーを通過可能であるスピーカハウジング(1)を含むスピーカシステムであって、
第1の二次元アレー及び第2の二次元アレーの各々のドライバセグメント(3)、(5)が音源からカスタマイズ処理されかつ増幅された信号を受信して、第1の二次元アレー及び第2の二次元アレーの各々のドライバセグメント(3)、(5)がカスタマイズ処理されかつ増幅された信号に従って、スピーカシステムから供給する振幅及び位相制御された水平及び垂直音響パターンを生成するように働く、ことを特徴とするスピーカハウジング(1)を含むスピーカシステム。
【請求項2】
第1の二次元アレー及び第2の二次元アレーの各ドライバセグメント(3)、(5)は専用の周波数範囲を制御するのに適合されていると共に音源放射面を有し、かつ
第1の二次元アレーと第2の二次元アレーにおける、あるドライバセグメント(3)、(5)の音源放射面の外縁と隣接するドライバセグメント(3)、(5)の音源放射面の外縁との間の測定された距離が、あるドライバセグメント(3)、(5)及び隣接するドライバセグメント(3)、(5)により制御される最高周波数の10波長の距離より大きくない、請求項1に記載されたスピーカシステム。
【請求項3】
第1の二次元アレーと第2の二次元アレーの各ドライバセグメント(3)、(5)の直径は、ドライバセグメント(3)、(5)により制御される最高周波数の10波長のサイズ未満である、請求項2に記載されたスピーカシステム。
【請求項4】
複数の帯域制限フィルタを有するコンピュータシステムをさらに含み、スピーカシステムは、帯域制限フィルタの使用によって1つ以上に分割された領域の周波数を生成するように適合されている、請求項1ないし3のいずれかに記載されたスピーカシステム。
【請求項5】
さらにレーザ距離計を含み、それによって、スピーカの設定及び動作パラメータの選択を支援するため、水平パン角、垂直チルト角及び対象までの距離を含むその3次元モデルを獲得するために、スピーカシステムの周辺のローカルエリアが、レーザ距離計によってスピーカの視点で自動的に走査される、請求項4に記載されたスピーカシステム。
【請求項6】
さらにカメラを含み、コンピュータシステムがスピーカの設定及び動作パラメータを支援するため、占有度及び聴衆境界状態を観測しかつ分析する顔認識ソフトウエアを含む、請求項4に記載されたスピーカシステム。
【請求項7】
コンピュータにおいて、同じスピーカシステムから2カ所以上の物理的に離れた位置の2人以上に音響を同時に向ける目的で、垂直および水平両方向の適合的及び動的制御により、2つ以上の多次元波面を同時に提供するソフトウェアを含む請求項4に記載されたスピーカシステム。
【請求項8】
スピーカシステムによって生成される音波面を最適化する目的で、音波面の方向について、垂直および水平両方向の適合的及び動的制御により音響を特に出演者に向けるように、出演者に取り付けられたRFID送信機及びステージ又は音響空間に亘って出演者の位置及び動きを追跡するための受信アンテナをさらに含む請求項4に記載されたスピーカシステム。
【請求項9】
音源はシネマ又はゲームメディアであり、かつドライバセグメント(3)、(5)は、水平及び垂直両方向で制御されかつ動的に調整可能な音波面を生成するためシネマ又はゲームメディアからの音響信号を受信するに適合している、請求項1に記載されたスピーカシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く音響システムに関し、それに限定されないが、特に、様々な聴取状態に対処するためのカスタマイズされた音響の空間的分布を提供するための装置及びそのような装置の空間的な音響分布を制御するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
音質を最高にするために、現在、音響の静的(又は機械的)な制御のみ、又は音響分散特性の一次元(通常、垂直次元として知られている。しかしながら、スピーカの回転がこの一次元を水平次元に相対的に変更することは可能である。)の動的制御を有する2ウェイ(別個の高周波及び低周波ドライバを有する)及びより多数ウェイのスピーカを提供することが知られている。しかしながら、2番目の次元(通常、水平次元として知られている)の分散角は、現在、2ウェイスピーカの機械的な(静的又は固定された)作り付けの特性に限定されている。さらに、従来の一般的な2ウェイスピーカは、高周波ドライバが一列に低周波ドライバの横に並ぶか又は上に載っていることだけを特徴としている。これらの機械的な制限は、一般的なスピーカに対して、一次元のみで音階を奏しかつ調整することを可能とするのみである。
【0003】
あるケースでは、2次元配列の帯域制限ドライバは、1ウェイスピーカとして利用できるであろう。しかしながら、この手法は、ドライバのサイズとドライバの性能の妥協により、ハイファイ全帯域音響をサポートしない。そのために、現存する従来の技術の音響システムは、垂直と水平の両平面に亘る、高周波及び低周波の両方を含む全音響帯域に亘る、制御された動的に適応性のある2次元波面を提供することができない。
【0004】
マルチドライバシステムの個々のスピーカに送出される信号の差動制御の一般的な従来技術の場合:
(1)一次変化する遅延をスピーカアレー全体に亘って与えることにより、音響の方向を変化させること、
(2)二次変化する遅延をスピーカアレー全体に亘って与えることにより、音響の合焦又は脱焦をすること、及び
(3)個々のスピーカのパラメータの手動変更により、十分な音響分布を発見的に達成すること
を含むであろう。
【0005】
遠方場境界(far-field limit)においては、波動方程式はフーリエ変換になる。
この場合、方向の変更はフーリエシフト(shift)特性によって達成されることがわかる。
【0006】
【数1】
【0007】
ここで:λは音響の波長
s=sin(θ)/λ(θは法線からスピーカまでの視角である)
aは一次元的な遅延(偏向角の正弦として与えられる)、かつ
Fはfのフーリエ変換である:
【0008】
【数2】

【0009】
(脱)合焦は、焦点距離bのフレネルレンズのそれと等しい位相を与えることによって達成される:
【0010】
【数3】
【0011】
しかしながら、これらの3つの方法(1,2,及び3)は;自然の非対称性が存在する大部分の環境(例えば講堂或いはスポーツ屋外競技場)のためには不十分である。そのため、他の手法が必要とされている。フーリエ変換は使用可能であるが、これは不確かな聴衆による遅延のためにしばしば不適当である。このことは、1つのユニークな解法があるのではなく多くがあることを意味する;かつ問題はどれが最適な解法であるかを決定することについてのより難しい問題(解法が典型的に個々のスピーカの減衰を特定する-それに伴って、全ての利用可能なエネルギーを活用する効率を失うこと、及びさらにsにおけるλの項による周波数依存性を考慮する必要があること)に及ぶ。
【発明の概要】
【0012】
本発明の1つの態様によれば、垂直及び水平パターン制御並びに振幅(amplitude)及び位相の制御によるカスタマイズされた音波面(acoustical wavefronts)を提供するためのスピーカシステムが開示され、前記システムは、高周波のドライバセグメント(高周波スピーカ)の少なくとも1つの第1のアレーと、前記第1のアレーの後方に配置された低周波ドライバセグメント(低周波スピーカ)の少なくとも1つの第2のアレーとを内部に有するスピーカハウジングを含み、前記第1のアレーは、前記ドライバセグメント間に、それによって前記第2のアレーからの波面が前記第1のアレーを通過できる音響透過性を許容するに十分なスペースを有する。
【0013】
本発明の別の態様によれば、方向及び焦点を変更する前述の方法(1及び2)をさらに音響分布の非対称性を変更するための方法を含むように拡張する方法も開示される。これはまた、アレーのスピーカに付与される遅延を利用する。
【0014】
より詳しくは、ビーム又はその拡散したものの方向を変更するために、数(1)及び(3)による一次及び二次的な遅延を提供する最初のステップを含む方法が開示される。次いで非対称性を変更するために、数(4)による遅延が適用される。
【0015】
【数4】
【0016】
数(4)は、そのフーリエ変換が三次位相の項であるエアリー関数の特性を利用する。これに伴い、三次遅延を加える効果の作用で、遠方場でエアリー関数との回旋(convolution)が生成されるであろう:それに応じて音響の分布にゆがみを誘発する。位相関数の代数変換におけるエアリー関数及びディラック分布の独自性(uniqueness)により、それらの振舞のモデル化がより簡単になる。
【0017】
本発明のさらに別の態様によれば、アレーの複数のスピーカに付与される付加的な遅延を計算する方法も開示され、そこにおいて(一次、二次、及び三次の項を除く)遅延の成分は、音響分布の空間的な差異のリップルをフラットにするため、及び/又は音響分布の周波数依存の一貫性(consistency)を改善するためにフーリエ級数として決定される。
【0018】
コサイン項の統合された位相項は一例として数(5)として与えられる:
【0019】
【数5】
【0020】
ここで、Δは特定の周期関数の振幅であり、Λはその周期である。これにおいて、遅延は括弧内の項の負数として処理することができる。
数(5)のフーリエ変換は数(6)として与えられる:
【0021】
【数6】
【0022】
ここで、δはディラックデルタ関数であり、変数がゼロのとき1、それ以外のときはゼロに等しい。これにより、数(7)の角度だけシフトされた空間的な分布の付加的な高調波を作成することがわかる:
【0023】
【数7】
【0024】
フーリエ級数は、空間的分布の任意の振動において、その期間の半分はθnが一致するようにΛを選択することによって、音波の空間的分布の分析に基づいて計算される。Δはこれらの振動を最小にするように選択される。この分析は、任意の高調波分析(例えばフーリエ変換,短時間FFT,ウェーブレット)及び/又はパワースペクトル中のより高い周波数のピークを低減する最適化手法(例えば最小二乗平均化回帰法(least mean squares regression)、模擬焼きなまし法(simulated annealing)によっても実行可能である。
【0025】
本発明のさらに別の態様によれば、垂直及び水平次元を備えた音響放射面を含む上記方法の使用のための音響スピーカが開示される。前記次元は個別のセグメントにより設定されており、各セグメントは、振幅及び位相が制御された水平及び垂直音響パターンを生成するために処理されかつ増幅された信号を提供される、それぞれの音源(acoustic source)に関連付けられている。
【0026】
好ましくは、セグメントは、制御された最高周波数の10波長のサイズに制限される。最良の性能は、セグメントサイズが1波長未満に低減されたときに達成される。
【0027】
好ましくは、前記信号処理は、位相、遅延、及び振幅、IIRフィルタ及びFIRフィルタ処理の形のデジタル信号処理(DSP)を含む。
【0028】
さらに、制御の方法、DSP処理及び増幅が前記音響スピーカの内部又は外部のいずれかで行われることが好ましい。
【0029】
さらに、一つのセグメントの音源放射面の外縁と隣接するセグメントの音源放射面の外縁との間の距離が、セグメントが制御している最高周波数の10波長の距離に制限されていることが好ましい。最良の性能は、この距離が、セグメントが制御している最高の周波数の4分の1未満に制限されるときに達成される。
【0030】
さらに、スピーカが生成する周波数の範囲が、帯域制限フィルタの使用により1つ以上の周波数帯域に分割されることが好ましい。
【0031】
2つ以上の周波数帯域が利用されているとき、各周波数帯域は、好ましくは前述のガイドラインに応じて、平面アレーの表面の全体に亘る1セットのセグメントを形成する。それぞれの帯域制限されたセグメントは、互いに三次元空間内で重ねられるであろう。帯域制限されたセグメントの各層は個別に処理されるであろう。
【0032】
さらに、他の帯域制限層の上に置かれた各帯域制限層は、一つの帯域制限平面アレーの波面が任意の外層の帯域制限層を音響的に通過できるように、十分に音響的に透明であることが好ましい。音響の透明性を達成するために10%の最小穿孔サイズが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
ここで、本発明によるスピーカボックスの1つの現在の好ましい実施形態が、以下の図面を参照して説明される。
【0034】
図1】前記発明による音響スピーカの分解斜視図である。
図2】組み立てられた図1のスピーカの側面断面図である。
図3】スピーカを収容するライブ会場システムのための好ましい設定方法を示す図である。
図4】音響システムの継続適応のための好ましい構成(set-up)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明によるスピーカは、以下では単一ユニットに関連して説明される。しかしながら、本発明のスピーカは、より大きなシステムを作成するために、複数のスピーカが垂直及び水平に重ねられるように適合され得ることが当業者に認識されるであろう。
【0036】
このようなより大きなシステムは、任意のサイズ及び形状を持つことができ、かつ垂直及び水平パターン制御並びに振幅及び位相制御により、1つ以上のカスタム音波面を作成することができる。本発明による任意のサイズのスピーカシステムでも、任意の選択された低い周波数の下限まで水平及び垂直パターン制御並びに振幅及び位相制御が可能であるが、前記のより大きなシステムが、制御される最低周波数の波長より長い垂直長さ又は水平長さを有するときに最適な結果が得られる。
【0037】
本発明によるスピーカは、垂直及び水平パターン制御並びに振幅及び位相制御で複合非対称音響波面を作成することができる。経済的な代替案として、より費用効果のある本発明のバージョンは、同じ処理及び増幅段から、対向する音源に対して対称的に電力を供給することにより作成可能である。このような本発明の変形は、本発明を、単に垂直及び水平パターン制御並びに振幅及び位相制御を備えた対称的なカスタム音波面を作成するものに限定するだけである。
【0038】
図1を参照すると、本発明の実施形態によるツーウェイスピーカが示されている。スピーカシステムは、1.5kHz-20kHzの帯域制限された音(band limited sound)を生成する直径22mmのソフトドームツイータ3(高周波セグメント)から成るステンレスパネル2を有するアルミニウムハウジング1を含む。直径22mmのソフトドームツイータは、5列及び10行配列の50個のツイータからなる第1平面アレーを形成するように、水平及び垂直に5.3cmのピッチの間隔で配置されている。スピーカハウジング全体のサイズは、ツイータ3のアレー内の50個の高周波セグメントを有する、好ましくは略26.5cmの幅及び53cmの高さである。それぞれのソフトドームツイータ点音源(point source)は、好ましくは取付け枠を含めて略直径40mmである。高周波平面の下には、20Hz-1.5kHzの帯域制限された音を生成する10個の43/4”ドライバ5(低周波セグメント)を含む第2低周波平面アレーを搭載するアルミニウムパネル4が取り付けられている。それぞれの43/4”低周波ドライバは、好ましくは垂直に略106mm、かつ水平に略125mmの間隔で配置される。この第2平面アレーには10個の低周波セグメントがある。高周波セグメント3は、約54%の音響透過性を許容するに十分なスペースをドライバ間に有する。アルミニウムの前面覆い6がある。それぞれの低周波(LF)及び高周波(HF)セグメントには、ユニークでかつカスタム計算され処理された音響信号が音源(図示されていない)から供給される。カスタム電子機器及び増幅器は、好ましくは、出力毎に、2秒間の遅延、4個の4次IIRフィルタ、1個の10係数FIRフィルタ、1個のローパスフィルタ、1個のハイパスフィルタ、及び振幅制御の形で、それぞれのLF及びHFセグメントのために、ユニークな信号処理を提供する。2個の入力が供給され、各々は、それぞれの入力のためのユニークな処理を備え、それぞれの増幅器モジュールの前段に印加されかつ加算される。この現在の実施形態には、好ましくは合計60個の増幅器チャンネルがある。
【0039】
上述の実施形態は、20Hz-20kHzの動作帯域に亘って、振幅及び位相制御により水平及び垂直に制御されたカスタム波面を作成することができる。以下でより明らかになるように、本発明のスピーカシステムは、さらに水平及び垂直の両平面内で180度から1度までの垂直及び水平パターン制御だけではなく、(水平軸、垂直軸、及び音響強度である3次元の)より複雑な2D及び3D波面を可能にする。さらに説明するように、このスピーカシステムは、2個のユニークに処理された音源入力を備えていることが特徴なので、さらに“二重監視モード(dual monitor mode)”が採用可能である。本スピーカシステムのこれらの動作モードは、“ライブ会場設定(Live Venue Setup)”、“ライブ会場動作(Live Venue Operation)”、“ライブ公演者追跡(Live Performer Tracking)”、“3次元平面アレーサウンドバー(3-Dimensional Plane Array Sound Bar)”、及び“3次元平面アレーシネマ(3-Dimensional Plane Array Cinema)”システムへの統合を提供するために、以下で説明される。
【0040】
[ライブ会場設定]
音響(audio)が増幅され、リスナー聴衆に向けて放出されるライブ会場では、音響は聴衆に対して、聴衆の聴取体験を高めるのに十分な方法で伝達されなければならない。多くの状況において、会場及び異なる会場を構築する方法間における差異により、これを達成することは困難である。
【0041】
放出された音響と会場の環境との間の相互作用は、会場に特有の2つの主要な問題を引き起こす:
1)リスナーとスピーカとの間の変化する距離。距離の変化は音圧レベルの変化に転換される。
2)音響を反射している種々の表面。これは通常、部屋残響或いは音響反射と呼ばれ、かつ音質に影響する。リスナーのいない表面に向かって放射される音響が少ないほど残響が少なくなり、かつ自然の音響及び高品質の音響が多くなる。
【0042】
“ライブ会場設定”は、本発明のスピーカシステムとともに、会場に参加している聴衆の聞く楽しみを最適化するために音響が放出されている会場に対応するシステムを設定することができる。
【0043】
以下でより詳しく説明するように、これは、3次元空間内の聴衆(リスナー)平面までの距離のコンピュータ測定を可能にするために会場を電子的にマッピングするための単純な手段を提供し、本発明によるスピーカシステムを構築するために使用することができる従来の距離計及び/又はレーザ測距装置の使用によって達成される。
【0044】
以下に述べるように、好ましい数学モデルを使うことによって、空間に対する最良の音響性能結果を生むため、前記スピーカシステムのためのカスタム音波面を作成することができる。このことは、リスナー領域(listener field)全体に亘ってより均一な体験を作り出すために、聴衆位置のみに対して向けられるべき音響エネルギーを制限する空間内の問題となる音響表面に向けられた音響エネルギーを減らし、かつ音圧レベル及び他の音質を最適化することを含む。
【0045】
公演の準備のために、本発明のスピーカシステムを収容するライブ会場システムを設定する方法20が図3に示されている。
【0046】
方法20は、それによって音響が放出される会場の環境情報が取得される第1ステップ22を含む。このステップは、JEC J-PT1205のような市販のパン-チルト動力(motorized)台に載せられたオプティ-ロジック(Opti-logic)RS800のような市販のレーザ距離計(laser range finder)を用いて行い得る。このようなレーザ距離計は一般的にRS232のようなコンピュータインタフェース機能を備えており、かつ最小値で10mから30mの間の距離の無反射面を標的にするように動作可能である。小型コンピュータ或いはマイクロコントローラが、市販のパン-チルト台上の市販のレーザ距離計に取り付けられる。小型コンピュータは、パン-チルト動力台を制御することだけではなく、レーザ距離計からのデータを読み返すことができる。好ましい形態では、小型コンピュータは、レーザ距離計及び動力台の双方を制御するためのRS232ポート及びRS485ポートを備える、ラズベリーパイ(Rasberry Pi)ミニチュアコンピュータでよい。
【0047】
この方法の実施形態では、レーザ距離計の照準位置を示す可視フィードバックを可能にするために、可視レーザがシステム全体に取り付けられる。代替的には、カメラをレーザ距離計のビューファインダに取り付け、標準的なビデオリンクを介してコントローラのインタフェースに信号を流せるようにしてもよい。好ましい形態では、カメラは、有線又は無線の標準的なイーサネットネットワークリンクを介してオペレータに映像(video)を流すために、ラズベリーパイ又は同様のミニチュアコンピュータに接続される。
【0048】
ステップ22における会場の環境情報を取得することの一部として、パンチルト動力制御装置(motorized control)を備えたレーザ距離計が会場の任意の場所に設置され得る。しかしながら、好ましい状況では、レーザ距離計は、本発明の平面アレースピーカシステムを会場内につるすか又は取り付ける取付け又は懸架ブラケットに取り付けられる。このようにして、レーザ距離計は、スピーカと同じ視野を持ち、会場の幾何学的計算をより単純化することができる。
【0049】
ラズベリーパイ或いは同様のコンピュータは、水平範囲の全体に亘ってパンし、かつ垂直範囲全体に亘ってチルトして、レーザ距離計からの設定された解像度の距離測定値を小型コンピュータに伝送し、空間の3次元モデルを作成するように、会場のローカルな環境を自動的にスキャンするように遠隔制御可能である。このモデルから、それぞれの水平角及び垂直角解像度に対応する距離情報を含む一連のデータが構築可能である。それにより、オペレータは手動入力によって、スピーカのための探知範囲の目標領域を設定することができる。
【0050】
好ましい形態では、オペレータは、無線イーサネットネットワークを介して、ラズベリーパイ或いは同様のコンピュータを制御することができる。このようにしてオペレータは、遠隔操作によって、遠隔作業位置からデータにアクセスし、まず最初に、会場の3Dモデルに基づく最低4つの境界位置を決定することができる。これらの4つの境界位置は、形式的には、通常会場の聴衆位置の後方右隅、会場の聴衆位置の後方左隅、会場の聴衆位置の前方左隅及び会場の聴衆位置の前方隅である。より複雑な形状又は円形又は曲がったような聴衆位置を有する会場については、4つより多い聴衆境界位置が設定可能であることが認識されよう。
【0051】
これらの4つ以上の聴衆境界位置は、オペレータに対して、動力台のパン及びチルト位置を自動的に調整するための座標入力情報を提供する。垂直方向に1度、水平方向に1度の増分量の解像度が好ましいが、他の解像度もまた適切である。動力台がある位置に動かされた後、レーザ距離計の距離が読み取られ、それによって、各水平及び垂直位置についての一連のデータが構築される。この手順は、指定された解像度に従って、4つ以上の境界位置によって境界が定められた領域全体が、カバーされるまで繰り返される。一旦聴衆位置に結び付けられたパン及びチルト角に関連する距離情報を含む一連のデータが作成されると、オペレータは必要な環境情報を有することになり、それによって、ステップ22は完了する。
【0052】
ステップ24において、オペレータは、それから平面アレースピーカシステムに対する入力を定めなければならない。このことは、典型的には、スピーカの必要数並びに会場内のスピーカの配置及び位置の評価を含む、会場に適したスピーカタイプを定めることをオペレータに要求する。
【0053】
ステップ26において、スピーカに対する要件が定められると、スピーカボックス内の個々の変換器のサイズ、形状及び間隔を含む全般的なスピーカパラメータが決定可能である。スピーカパラメータは、一般にスピーカメーカーにより提供されるパラメータのライブラリーを使用することによって一般的に知られている。オペレータは、会場に据え付けられるスピーカのタイプ及びそれらのパラメータについてのこのような知識によって、特定の会場内の聴衆の喜びを最適化するための最良に適合した平面アレースピーカシステムを計算することができる。a,bの値、エアリー関数の非対称性、Δ及びΛの最適な選択は、(1)空間的分布の峰及び谷を単に計算することのみ、(2)より多くのデータポイントに対して適合した解像度を用いること、(3)空間的分布における周期性及び振幅を同定するためにフーリエ解析を用いること、又は(4)遺伝的アルゴリズム/模擬焼きなまし法などを用いること、により成し遂げられる。
【0054】
ステップ28において、一旦平面アレースピーカシステムの最適なパラメータが決定されると、最適化されたパラメータは、オペレータによってハードウェアスピーカに直接展開することができる。このようにして、平面アレースピーカシステムは、同量の音響エネルギーを維持しながら、会場の聴衆形状及び3D地図で同定された任意の非聴衆位置から離れたリスナーの距離に最良に適合する多次元音波面を生成するために、オペレータにより最適にプログラムすることができる。このような、会場のためのスピーカシステムを設定する方法は、できる限り多くの反響を取り除くことによって、聴衆環境中における音質に重要な向上をもたらす。さらに、聴衆位置内の音響(sound)も音色特性(tonal characteristics)及び音圧レベルの両方に関して、可能な限り均一であるように最適化される。
【0055】
[ライブ会場動作]
いくつかの会場は聴衆を収容可能なオープンスペースを有するであろう。しかし、聴衆はそのスペースの一部のみに集まることがあり得る。他方、他の会場では、聴衆はスペース全体に亘って分散するかもしれない。リスナーのいない表面に向かって放射される音が少ないほど、残響が少なくなり、かつ自然の音響及び高品質の音響が多くなる。会場内のイベントの進行全体にわたり、聴衆位置及び占有状態は流動的で絶えず変化するであろう。
【0056】
図3に関する上述の設定方法20により、本発明のスピーカシステムを会場で放出する音響に適合させるための単純で効果的な手段が提供されることが認識されよう。しかしながら、本発明のシステムは、イベント中の会場パラメータの変化に伴う音響システムの継続適応も提供可能である。これを実現するための方法30が図4に示されている。
【0057】
ステップ31において、イベント中、聴衆空間が監視される。これは、会場内のリスナー位置を評価し、決定することが可能なライブカメラシステム及び顔認識ソフトウェアの使用により達成される。リスナー位置の変化を監視することにより、スピーカシステムのためのカスタム音波面をアップデートして、音響エネルギーを特に占有空間に向けられるように制限することができる。このようなシステムは、占有されていない反射面に向けられた音響エネルギーを減らすことによって、明瞭度(intelligibility)及び他の音質を改善する。
【0058】
スピーカシステムの設定のための方法20に関して上述したように、平面アレースピーカシステムがカバーしている空間を観察するように、典型的には、市販のカメラシステムが設定され、配置される。このカメラは会場内のどこにでも設置可能である;しかし、カメラを、平面アレースピーカシステムを吊るすか又は取り付ける取付け又は懸架ブラケットに取り付けるか、或いはスピーカの横に取り付ける選択が優先される。このようにして、カメラは、スピーカと同じ視野を持つことができ、幾何学的計算をより単純化する。
【0059】
コンピュータシステム上で動作できる第三者顔認識ソフトウェアの提供は、スピーカに関連する水平及び垂直位置のX-Y平面図内の相対座標によって会場の占有状態の持続的な解析を提供する。好ましい第三者の顔認識ソフトウェアはシスコビデオ監視システムである。この点に関して、オペレータは、座標情報とともに占有状態検知データを読み戻すために、第三者の顔認識システムを監視することができる。この情報は、次いで聴衆境界状態をアップデートするためにステップ32で変換可能である。
【0060】
ステップ32において、以上で概説したように、この聴衆境界状態は“ライブ会場設定”モジュールにアップデートされる。この新たな境界位置は、新たに制限された聴衆位置内の指定された解像度(一般に水平及び垂直に1度)でのそれぞれの垂直及び水平位置についてのレーザ走査又は物理的測定による距離測定によって獲得済みの一連の情報に挿入可能である。
【0061】
一旦聴衆位置に結び付けられたパン及びチルト角に関連した距離情報を含んだ一連のデータが作成されると、オペレータは、必要な環境情報を有することになる。ステップ33で、聴衆空間の境界状態が変化したか否かを判断するための評価が行われ、もし変化がなければ、システムは、ステップ31において、聴衆空間の監視を続ける。しかし、もし聴衆数の増加又は聴衆空間の形状の変更による聴衆空間の変化があり、かつ聴衆空間の境界が変化したことがステップ33で判断されたならば、その場合、システムは、ステップ34において、会場スピーカ要件を再設定することを求める。ステップ34で、オペレータは、典型的にはスピーカタイプ、スピーカ数、及び指定された聴衆位置をカバーするスピーカの配置を含む、平面アレーシステムに対する入力を設定しなければならない。スピーカボックス内の個々の変換器のサイズ、形状及び間隔のような他の様態(aspect)も決定される。ほとんどの場合、このようなスピーカの様態は、スピーカの製造者によって出版されるパラメータのライブラリーを使用することで分かる。このステップで、オペレータは、使用されるスピーカのタイプ、スピーカの数、及びスピーカアレーがどのようにして構築されるかを手作業で入力することが期待される。
【0062】
ステップ35において、一旦全ての環境及びスピーカの入力が分かると、ソフトウェアは、変化しつつある環境に適合する平面アレースピーカシステムのパラメータの最良の適合を計算することができる。a,hの値、エアリー関数の非対称性、Δ及びΛの最適な選択は、(1)空間的分布の峰及び谷を単に計算することのみ、(2) より多くのデータポイントに対して適合した解像度を用いること、(3)空間的分布における周期性及び振幅(amplitude)を同定するためにフーリエ解析を用いること、又は(4)遺伝的アルゴリズム/模擬焼きなまし法、などを用いることにより、成し遂げられる。
【0063】
ステップ36において、一旦平面アレースピーカシステムの最適なパラメータが決定されると、最適化されたパラメータは、オペレータによってハードウェアスピーカに直接展開することができる。このようにして、平面スピーカシステムは、同量の音響エネルギーを維持しながら、会場の常に変化する聴衆形状及び任意の非聴衆位置から離れたリスナーの距離に最良に適合する多次元音波面を生成するために、オペレータによって最適にプログラムすることができる。このような、会場のためのスピーカシステムを設定する方法は、できる限り多くの反響を取り除くことによって、聴衆環境中における音質に重要な向上をもたらす。さらに、聴衆位置内の音響も音色特性及び音圧レベルの両方に関して、可能な限り均一であるように最適化される。
【0064】
[二重監視モード]
本発明の別の実施形態では、スピーカシステムは二重監視動作モードを提供するように制御され、それによって、スピーカが1つ以上の音波面を同時に生成するように制御されよう。2つ以上の音源を使用し、かつそれぞれの音源のために異なる個別処理(discrete processing)を適用することによって、カスタム音波面が、本発明による1つのスピーカシステムによって加算されかつ生成され得る。この点に関して、音波面の加算は増幅段の前又は後に行える。このような本発明の二重監視動作モードのスピーカシステムは特定のアプリケーションを提供し、それによって、単一のスピーカシステムで、第2段モニター混合(second stage monitor mix)がステージ上の別の出演者に向けている間に、第1段モニター混合(first stage monitor mix)をステージ上の出演者に向けることができる。
【0065】
このように、二重監視動作モードは、各々が分離した音源入力(audio input)から供給された、2つ以上の多次元音波面が同時に動作する本スピーカシステムを動作させる方法に関連する。
【0066】
二重動作モードにおける本発明を動作させる方法の第1ステップにおいて、オペレータは最初に第1の所望の音波面を決定する。これは、好ましくは、望ましい目標分散(target dispersion)の手動入力を用いて、1つの多次元音波面を規定するオペレータによって達成される。そのような望ましい目標分散の一例は、垂直面内で+45度パンされた垂直に40度の広角ビームを有し、水平面内で+20度パンされた水平に40度の広角ビームであり得る。
【0067】
この第1の望ましい音波面が確立された後に、システムソフトウェアは、a,hの値、エアリー関数の非対称性、Δ及びΛの最適な選択を、(1)空間的分布の峰及び谷を単に計算することのみ、(2)より多くのデータポイントに対して適合した解像度を用いること、(3)空間的分布における周期性及び振幅を同定するためにフーリエ解析を用いること、又は(4)遺伝的アルゴリズム/模擬焼きなまし法、などを用いること、により成し遂げることができる。このステップにおいて、この音波面の望ましい音波面形状及び指向性を作成するために、それぞれのスピーカ素子の最適な動作パラメータが決定される。平面アレースピーカについて、これらのパラメータが確立されると、次にこれらのパラメータは、選択された通信方法、好ましくは無線イーサネット接続によってスピーカに展開可能である。
【0068】
この二重動作モードによれば、一旦スピーカシステムに初期音波面が設定されると、次にオペレータは、目標分散の手動入力を用いて、付加的な多次元波面を設定することができる。そのような目標分散の一例は、垂直面内で+45度パンされた垂直に40度の広角ビームを有し、水平面内で-20度パンされた水平に40度の広角ビームであり得る。それぞれの付加的な波面について、a,hの値、エアリー関数の非対称性、Δ及びΛの最適な選択は、(1)空間的分布の峰及び谷を単に計算することのみ、(2)より多くのデータポイントに対して適合した解像度を用いること、(3)空間的分布における周期性及び振幅を同定するためにフーリエ解析を用いること、又は(4)遺伝的アルゴリズム/模擬焼きなまし法、などを用いること、により成し遂げられる。次に、この音波面の望ましい音波面形状及び指向性を作成するために、それぞれのスピーカ素子のための最良のパラメータが決定可能となる。平面アレースピーカについてのこれらの計算されたパラメータは、次に無線イーサネット接続のような選択された通信方法を介してスピーカに展開可能である。
【0069】
平面アレースピーカシステムの二重動作モードを確立するための上記の方法を用いることによって、次に、それぞれの波面が空間内で重なるが、1つの平面アレースピーカによって生成された2つ以上の音響入力が、平面アレースピーカから2つ以上の音波面を生成するために、それぞれの分離した処理チェーンに従って進むことができる。上に列記した例では、同じスピーカから、それぞれが垂直に40度離れた(水平に-20度の音響のビーム、及び水平に+20度の他の音響のビーム)40度×40度の2つの音波面が生成される。
【0070】
平面アレースピーカについての最適な動作パラメータを決定するステップは、平面アレースピーカについてのパラメータの事前設定(preset)をオペレータに提示することによって単純化されることが認識されよう。好ましい事前設定は、任意の事前設定構成も可能であるが、垂直方向に+45度傾き、40度離れた2つの40×40度の音波面を提供する上に列記したパラメータ例となろう。平面アレー二重監視モードのために決定されたパラメータの事前設定の使用は使い易さに役立つであろう。
【0071】
[ライブ出演者追跡]
本発明の別の実施形態では、平面アレースピーカは、空間内の位置に関係なく、音響を常に出演者に向けることができることを保証するために、ステージ上又は音響空間内の出演者の位置を追跡することにも使用できる。出演者の位置は、空間をカバーする複数のスピーカシステムの既知の配置及び位置に対応させることができる。このシステムは、スピーカからの出演者の距離、及び音波面の距離損失を補償することができる。さらにこの動作方法は、開放した(open)マイクロホンソースが音波面の発生源のより近くで進路追跡するときに、フィードバックの可能性を低減するために使用可能である。このような本発明の動作モードはライブ出演者追跡モードと呼ばれる。
【0072】
ライブ出演者追跡モードにおけるシステムを動作させる第1のステップにおいては、上で参照したより早期の動作モードにおいて、以前に説明した方法で空間の3次元地図が最初に取得される。
【0073】
一旦空間についての3次元地図が作成されると、最低3つのアンテナがステージの外周に設置されるか又は出演者空間が信号強度を獲得してコンピュータに供給可能となる。次に、設定周波数又は拡散周波数(spread frequency)を送信するF送信機が移動する出演者に取り付けられる。基本的な単一周波数のRF送信機が利用可能であるが、デカウェーブ(Deca Wave)のDW 1000 ICのようなIEEE802.15.4-201 UWB対応無線送受信機の形態のRFID送信機が好ましい。3つ以上の受信アンテナからの受信信号は、次にコンピュータシステムにより受信され、かつ3つの(又はより多くの)受信アンテナに対するRF送信機の位置が、信号強度及び信号タイミング情報を考慮する従来の三角測量アルゴリズムによって、10cmまで又はより高い精度で決定可能である。
【0074】
次に、通常のコンピュータモデルのウェイによって、送信機の位置が3次元空間内にマッピング可能となる。このコンピュータモデル内に、1つ以上の平面アレースピーカシステムの位置及び向きが手動で入力される。
【0075】
公演の間中、1つ以上の平面アレースピーカに関連する出演者の位置が連続的に監視可能である。単純な幾何学的アルゴリズムによって、平面アレースピーカからの出演者の方向の幾何学的情報は計算可能である。一旦1つ以上の平面アレースピーカからの出演者の方向が分かると、出演者に向けられる出演者の個人的音響混合(personal audio mix)を可能にするために、パン及びチルトパラメータが自動的に決定可能である。波面の水平及び垂直の分散はオペレータにより予め設定可能であるが、水平40度かつ垂直40度の分散が好ましい。システムは、次にa,bの値、エアリー関数の非対称性、Δ及びΛの最適な選択を、(1)空間的分布の峰及び谷を単に計算することのみ、(2)より多くのデータポイントに対して適合した解像度を用いること、 (3)空間的分布における周期性及び振幅を同定するためにフーリエ解析を用いること、又は(4)遺伝的アルゴリズム/模擬焼きなまし法などを用いること、により成し遂げることができる。この分析から、この音波面の望ましい音波面形状及び指向性を生成するように、それぞれのスピーカ素子についての最良のパラメータが決定可能である。それぞれの平面アレースピーカについてのこのようなパラメータは、次に、選択された通信方法、好ましくは無線イーサネットによって、スピーカに展開可能である。
【0076】
この方法の変形例においては、出演者と平面アレースピーカとの間の距離は、出演者の既知の位置及び平面アレースピーカの既知の位置に基づいて計算可能である。次に、平面アレースピーカの全体的なゲインに影響を与える単純なアルゴリズムが適用可能である。このような仕方で、出演者及びオペレータによって予め決定されたレベルに対する出演者に向けられる音響のレベルを、出演者が、平面アレースピーカに、より遠く離れているときにはレベルを増大し、かつ出演者が、平面アレースピーカに、より近いときにはレベルを低減できるように自動的に調整することができる。このような仕方で、出演者によって聴取される音響のレベルは一定に維持され、かつ平面アレースピーカに対して至近距離にあるマイクロホンの高すぎるゲインによるフィードバックの影響は、自動的に無効にされる。
【0077】
上述のライブ出演者追跡モードのステップが、出演者の音響混合の方向及び振幅の連続的なアップデート及びリフレッシュ(Refresh)を提供するために、連続して繰り返し得ることが認識されるであろう。好ましい更新レートは、1秒毎に1回のアップデートであるが、他のアップデート時間も可能である。
【0078】
[3次元平面アレーサウンドバー(sound bar)]
本発明の別の実施形態によれば、スピーカシステムは、1つ以上の音波面を同時に生成するように構築可能である。2つ以上の音源を用い、かつ前以てそれぞれの音源に対して異なる個別処理を適用することによって、本発明の単一のスピーカシステムによりカスタム音波面が加算されかつ生成される。加算は増幅段の前又は後で実行できる。例示としてのみ一例を挙げると、前記単一のスピーカシステムによって、異なる音響を天井、床及び壁の面で正反射させて、これらの面からリスナーに向かわせる目的で音響指向性を提供し、サラウンド音響シネマ的混合(surround sound cinematic mix)を室内のリスナーに対して向けることができる。
【0079】
現在のサラウンドサウンドバーシステムは、単一の水平軸上を包む音響を提供するだけである。さらに、現在のサラウンドサウンドバー技術は、一次元的遅延による方向(1)及び焦点(2)を提供するのみである。リスナーが空間内の中心にいないとき、最も近くの音源の振幅が増加することにより、リスナーの音響イメージをより大音量の音源に変化させる。単純なゲイン調整により、このサラウンド音源間の振幅バランスを補正することができるが、この補正はサラウンド音場内の他のリスナーのための焦点を変化させるという犠牲をもたらす。このように、現在のサラウンドサウンドシステムは、単一のリスナー位置を最適化できるだけである。
【0080】
垂直方向に制御された音響を加えることでリスナーを包むことにより、より没入型のサラウンド音場を生成することができる。例示としてのみ一例を挙げると、シネマ及びゲーム用の家庭内3次元サウンドバーは、13個の個別音響チャンネルを生成することができる。
前方左、前方中心、前方右
中央左、中央右、サラウンド左、サラウンド右
上方左、上方中心、上方右
下方左、下方中心、下方右
【0081】
さらに、エアリー関数の非対称性とゆがみを探し出す(combing)ことにより、空間内の異なるリスナー位置間の任意かつ全ての音源について音響ゲインを補償し、かつ正常化する音場を生成することができ、それによって、サラウンド場環境内の全てのリスナーに対して音響の合焦を維持することができる。そうすることによって、空間イメージングを維持するための最適な座席位置である“スイートスポット”は、全ての聴衆空間に広がる。本発明によるスピーカシステムは、全てのリスナーのためのサラウンド音場を同時に最適化することができる。
【0082】
方法:
1)シネマ及びゲーム媒体は、デコードされる幾つかの個別音響チャンネルでエンコードされよう。デコードされる音響チャンネル数は、3次元サウンドバーで利用可能なチャンネル数と相関させるために置き換えられる。好ましいチャンネル数は13チャンネルであるが、他のチャンネル数も可能である。
2)3次元平面アレーサウンドバーのそれぞれの個別の実施(implementation)は、それぞれの音源についての異なる分離された処理を備えて予めプログラムされている。好ましい実施については、以下で特徴付けられる音波面分散特性を見ること:
前方左-サウンドバーの左手の3分の1の変換器のみが使用される。水平に-10度、垂直に0度傾いた20×20度の分散ビーム。
前方中心-サウンドバーの全ての変換器が使用される。水平に0度、垂直に0度傾いた20×20度の分散ビーム。
前方右-サウンドバーの右手の3分の1の変換器のみが使用される。水平に+10度、垂直に0度傾いた30×30度の分散ビーム。
中央左-サウンドバーの全ての変換器が使用される。水平に-45度、垂直に0度傾いた20×20度の分散ビーム。
中央右-サウンドバーの全ての変換器が使用される。水平に+45度、垂直に0度傾いた20×20度の分散ビーム。
サラウンド左-サウンドバーの全ての変換器が使用される。水平に-15度、垂直に0度傾いた20×20度の分散ビーム。
サラウンド右-サウンドバーの全ての変換器が使用される。水平に+15度、垂直に0度傾いた20×20度の分散ビーム。
上方左-サウンドバーの全ての変換器が使用される。水平に-45度、垂直に+45度傾いた20×20度の分散ビーム。
上方中心-サウンドバーの全ての変換器が使用される。水平に0度、垂直に+45度傾いた20×20度の分散ビーム。
上方右-サウンドバーの全ての変換器が使用される。水平に+45度、垂直に+45度傾いた20×20度の分散ビーム。
下方左-サウンドバーの全ての変換器が使用される。水平に-45度、垂直に-45度傾いた20×20度の分散ビーム。
下方中心-サウンドバーの全ての変換器が使用される。水平に-0度、垂直に-45度傾いた20×20度の分散ビーム。
下方右-サウンドバーの全ての変換器が使用される。水平に+45度、垂直に-45度傾いた20×20度の分散ビーム。
【0083】
3)それぞれのデコードされた音響信号は、その個別処理チャンネルを通して送り出され、3次元の没入型音場を生成する。
【0084】
このようなシステムを採用するために、ユーザは、部屋の寸法、座席位置、及び3次元サウンドバーモデルをコンピュータインタフェースに入力することになろう。一旦環境情報が分かると、次にソフトウェアは、a,bの値、エアリー関数の非対称性、Δ及びΛの最適な選択を、 (1)空間的分布の峰及び谷を単に計算することのみ、(2)より多くのデータポイントに対して適合した解像度を用いること、(3)空間的分布における周期性及び振幅を同定するためにフーリエ解析を用いること、又は(4)遺伝的アルゴリズム/模擬焼きなまし法、などを使用すること、により成し遂げることができる。平面アレースピーカについての計算されたパラメータは、次に、選択された通信方法、好ましくは無線イーサネット接続によって、展開可能である。
【0085】
[3次元平面アレーシネマ]
本発明が、3次元平面アレーシネマを作成するためにシネマ状況での応用例を同様に提供することが認識されるであろう。
【0086】
本発明のこのような実施形態は、同時に1つ以上の音波面を生成するために、本スピーカシステム能力を利用することも、利用しないことも可能である。
2つ以上の音源を用い、かつそれぞれの音源について異なる個別処理を事前に適用することで、1つのスピーカシステムによって、カスタム音波面を加算し、生成することができる。本発明のこのような実施形態によれば、大型の平面アレースピーカシステムを、音響的に透明な投射スクリーンの背後に組み立てることができる。音響信号を生成するために利用される平面アレーシステム内の素子数を制限することによって、スクリーン上のどの位置でも音響合焦の状態で音響を生成することができる。この音源は次にシネマ聴衆平面内の全てのリスナーに放出可能である。このようにして、音響及び視覚合焦が完全に調整される。
【0087】
さらに、カスタム音波面構成は、音源が聴衆平面全体を完全にカバーし、かつ距離損失を補償して、音圧レベルに関してカバー範囲の均一性を提供するように計算可能である。エアリー関数の非対称性とゆがみを探し出すことにより、空間内の異なるリスナー位置間の任意かつ全ての音源について音響ゲインを補償し、かつ正常化する音場を生成することができ、それによってサラウンド場環境内の全てのリスナーに対して音響の合焦を維持することができる。そうすることによって、空間イメージングを維持するための最適な座席位置である“スイートスポット”は、全ての聴衆空間に広がる。本発明によるスピーカシステムは、全てのリスナーのためのサラウンド音場を同時に最適化することができる。
【0088】
方法:
1)シネマ媒体は幾つかの音響チャンネルでエンコードされ得る。それぞれの音響チャンネルは、室内の3次元空間内の音響合焦に関するX-Y-Z座標でもエンコードされる。
2)シネマは、平面アレースピーカのサイズと位置、スピーカの間隔、及び変換器のサイズと間隔と同様に、シネマ空間のサイズ、幾何学的形状及び寸法を詳述する既知の環境及びソース情報を持っている。
カスタムコンピュータアルゴリズムは、エンコードされた音響合焦位置の情報を受け取る。次に、ソフトウェアは、a,bの値、エアリー関数の非対称性、Δ及びΛの最適な選択を、 (1)空間的分布の峰及び谷を単に計算することのみ、(2)より多くのデータポイントに対して適合した解像度を用いること、(3)空間的分布における周期性及び振幅を同定するためにフーリエ解析を用いること、又は(4)遺伝的アルゴリズム/模擬焼きなまし法、などを使用すること、により成し遂げることができる。この分析により、ソフトウェアは、次にそれぞれの音源に対して、聴衆サイズ及び形状に最適化された望ましい音響合焦、音波面形状及び音響指向性を生成するために、それぞれの音源素子についての最良パラメータを決定することができる。平面アレースピーカについてソフトウェアで計算されたパラメータは、次に、選択された通信方法によって展開される。好ましい通信方法は無線イーサネットである。
【0089】
3)コンピュータアルゴリズムは、好ましくは、エンコードされた音響ストリームを伴うエンコードされた指示に基づいて、常に理想的な音響パラメータをアップデートし、計算する。このように、ソフトウェアは、全ての聴衆メンバーのために音響合焦を維持しながら、音源の動きをサポートすることができる。
【0090】
[設計及びモデリングソフトウェア]
本発明による1組のソフトウェアスーツ(suite)は、所望の動作環境に適合させるための音響分布のモデリング作業及び波面のカスタマイズを支援するために使用可能である。ソフトウェアは、好ましくは、いくつかの変数に亘るループ処理(loops)が必要な処理を並列化するために利用可能なハードウェア加速を利用することができる。
【0091】
ソフトウェアは次の部品を含むことができる;
1)GUIフロントエンド:結果として得られる波面及び周波数応答を見ながら、かつスピーカアレーについての結果及び構成を送出(export)しながら、スピーカアレー及び環境パラメータを設定する(例えば、データの表形式入力(tabular entry)又は対話型グラフィカル制御(interactive graphical control)による)か又は手作業でスピーカの振幅と遅延時間を設定するような機能を可能にするインタフェース(デスクトップ、ウェブベース又はそれ以外であるか否かにかかわらず)。
フロントエンドの典型的な動作順序(run sequence)は、(1)スピーカデータ(スピーカ群を定義しているパラメータ、例えば数及びボックス間のオフセットスペース及び各周波数帯域についての周波数範囲、SPL、スピーカサイズ、間隔及び数)をロードする。(2)環境情報(環境のレーザ走査から計算されるパラメータ、例えば聴衆までの距離及びそれぞれのビームについての水平及び垂直のパン/チルトの拡散(spread)、ゆがみ及び頂上、底、左、右、大まかに囲んでいる四辺形の勾配)をロードする。(3)ランタイムカーネル(例えば、設計、単一周波数及び広帯域平均での3dモデリング、周波数応答のための)をコンパイルする。
(4)GUIを設定する(例えばGTK又はQtのようなイベントに基づく枠組みを使用)
【0092】
2)バックエンド設計:バックエンド設計では、そこからアレー内のそれぞれのスピーカについての一連の遅延値を生成する一連の環境パラメータ、及びスピーカアレーを設定している数個のパラメータを論点として取り上げる。そのような環境パラメータの例は、角度オフセット(例えばパン/チルト)である、
3)波面上のそれぞれの次元についての拡散及びゆがみ、及び各々対をなす次元に対して、囲んでいる四辺形を定義する一連の4つの勾配(例えば頂上、
【0093】
4)底、左、及び右勾配)。スピーカパラメータは、例えばスピーカアレーのそれぞれについてのスピーカの数及び間隔並びにそれぞれのスピーカ群についてのそれらの数及び間隔を含むであろう。アルゴリズムは、スピーカアレーに亘る位相分布を計算し、かつそれからそれぞれのスピーカについての遅延値を計算するために、数(1)、(3)及び(4)を用いる。
5)バックエンドのモデリング:バックエンドのモデリングは、ハードウェア加速が利用可能であるカーネル又はアルゴリズムを非並列化型で実行させる弱点のためのラッパー(wrapper)である。空間の波面をモデリングするため(2d又は3dであるか否かにかかわらず)、計算方法は、それぞれのスピーカからの寄与の合計としての振幅及び位相(かつ広帯域の結果が要求されるならば周波数)を計算するために、それぞれの帯域及びチャンネルについて、波面の次元に亘って反復して (好ましくは、一連の次元変数に亘って並列化し、かつそれらが存在するところで対称性を探すカーネルを用いて) 行われるものである。波の伝播はフレネル回折式を用いて計算される。周波数応答をモデリングすることについて、より粗い空間解像度とより細かい周波数解像度がモデルのために用いられること以外、3d広帯域モデルとして類似する方法が採用される。周波数応答から、周波数応答を平坦にするEQフィルタ値が計算される。
【0094】
モデリングソフトウェアに使用されるフレネル回折式は下記の数(8)で与えられる:
【0095】
【数8】
【0096】
ここで、Eは(音)場、λ=2π/kは波長、w1,2は波面寸法、s1,2はスピーカアレーに亘る寸法、zはそれらの法線、かつr=((w1-s1)2+(w2-s2)2+z2)1/2はスピーカ源から考慮中の点までの半径である。
【0097】
広く記載された本発明の範囲の趣旨から逸脱することなく、特定の実施形態として示された本発明に対して多くの変化及び/又は変更を作成できることが当業者には認識されるであろう。したがって、現在の実施形態はあらゆる点で例示的であり限定的ではないと考えられるべきである。例えばスピーカハウジングの形状及び構造、アレー/セグメント/帯域制限層/音源/ドライバの数と大きさ及びHFとLFセグメントの取付け方法は、応用及び設計の選択に従って変化するであろう。さらに、Δ及びΛの最適な選択が、(1)空間的分布の峰及び谷を単に計算することのみ、(2)より多くのデータポイントに対して適合した解像度を用いること、(3)空間的分布における周期性及び振幅を同定するためにフーリエ解析を用いること、又は(4)遺伝的アルゴリズム/模擬焼きなまし法、などを使用すること、により成し遂げられる。その上、好ましい実施形態は、平易にする目的で、1次元のターゲット及びスピーカアレーで記載されたが、本発明は多次元のターゲット及び多次元のスピーカアレーにも適用される。
図1
図2
図3
図4