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特許7359529エアジェット織機における緯入れ制御方法
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  • 特許-エアジェット織機における緯入れ制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】エアジェット織機における緯入れ制御方法
(51)【国際特許分類】
   D03D 47/30 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
D03D47/30
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018090158
(22)【出願日】2018-05-08
(65)【公開番号】P2019196556
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2020-08-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】濱口 真崇
(72)【発明者】
【氏名】奥田 泰治郎
(72)【発明者】
【氏名】メーダー カーステン
【合議体】
【審判長】藤原 直欣
【審判官】金丸 治之
【審判官】西本 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-145537(JP,A)
【文献】特表2014-500914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 47/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緯入れ用のノズルからエアを噴射して緯糸を緯入れするエアジェット織機における緯入れ制御方法であって、
緯入れする前の緯糸の状態を検出するステップと、
前記検出した緯糸の状態に基づいて、該緯糸を所定の緯入れ条件に従って緯入れしたときに該緯糸が所定の位置に到達する緯糸到達タイミングを予測するステップと、
前記緯糸到達タイミングのバラツキに対して、糸切れによって緯入れミスが発生しやすい分布領域を含まない最小の機台角度または該最小の機台角度に所定量の安全角度を加算した機台角度に対応するタイミングである早め限界値を予め設定しておき、前記予測した緯糸到達タイミングが前記早め限界値よりも早い場合に、実際の緯糸到達タイミングが前記早め限界値よりも遅くなるように前記緯入れ条件を変更するステップと、
前記変更した緯入れ条件に従って前記緯入れ用のノズルからエアを噴射することにより、前記緯糸を緯入れするステップと、
を含むエアジェット織機における緯入れ制御方法。
【請求項2】
前記検出した緯糸の状態に応じて前記早め限界値を変更する
請求項1に記載のエアジェット織機における緯入れ制御方法。
【請求項3】
前記緯入れ用のノズルはメインノズルを含み、
前記予測した緯糸到達タイミングが前記早め限界値よりも早い場合に、前記緯入れ条件として前記メインノズルのエア噴射開度を変更する
請求項1または2に記載のエアジェット織機における緯入れ制御方法。
【請求項4】
前記緯入れ用のノズルはタンデムノズルを含み、
前記予測した緯糸到達タイミングが前記早め限界値よりも早い場合に、前記緯入れ条件として前記タンデムノズルのエア噴射開始タイミングを変更する
請求項1~3のいずれか一項に記載のエアジェット織機における緯入れ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアジェット織機における緯入れ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮エアを利用して緯糸を緯入れするエアジェット織機に関して、たとえば特許文献1には、通常より細い緯糸が緯入れされる場合に、より小さい噴射圧を使用することにより、糸切れによる緯入れミスを防止する技術が記載されている。また、同文献には、緯糸が通常よりも細い場合に、主ノズル又は/及び補助ノズルの噴射時間を短くすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公昭61-25817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、緯入れに使用する緯糸の太さだけに着目して噴射圧等を変更している。しかしながら、糸切れのし易さは、緯糸の太さだけでなく、たとえば、糸の撚り数など他の要因も考えられる。このため、特許文献1に記載の技術では、糸切れによる緯入れミスの発生を充分に抑えることができないおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、糸切れによる緯入れミスの発生を充分に抑制することができるエアジェット織機における緯入れ制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、緯入れ用のノズルからエアを噴射して緯糸を緯入れするエアジェット織機における緯入れ制御方法であって、緯入れする前の緯糸の状態を検出するステップと、前記検出した緯糸の状態に基づいて、該緯糸を所定の緯入れ条件に従って緯入れしたときに該緯糸が所定の位置に到達する緯糸到達タイミングを予測するステップと、前記緯糸到達タイミングのバラツキに対して、糸切れによって緯入れミスが発生しやすい分布領域を含まない最小の機台角度または該最小の機台角度に所定量の安全角度を加算した機台角度に対応するタイミングである早め限界値を予め設定しておき、前記予測した緯糸到達タイミングが前記早め限界値よりも早い場合に、実際の緯糸到達タイミングが前記早め限界値よりも遅くなるように前記緯入れ条件を変更するステップと、前記変更した緯入れ条件に従って前記緯入れ用のノズルからエアを噴射することにより、前記緯糸を緯入れするステップと、を含む。
【0007】
本発明のエアジェット織機における緯入れ制御方法では、前記検出した緯糸の状態に応じて前記早め限界値を変更してもよい。
【0008】
本発明のエアジェット織機における緯入れ制御方法において、前記緯入れ用のノズルはメインノズルを含み、前記予測した緯糸到達タイミングが前記早め限界値よりも早い場合に、前記緯入れ条件として前記メインノズルのエア噴射開度を変更してもよい。
【0009】
本発明のエアジェット織機における緯入れ制御方法において、前記緯入れ用のノズルはタンデムノズルを含み、前記予測した緯糸到達タイミングが前記早め限界値よりも早い場合に、前記緯入れ条件として前記タンデムノズルのエア噴射開始タイミングを変更してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エアジェット織機で緯糸を緯入れする際に、糸切れによる緯入れミスの発生を充分に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るエアジェット織機における緯入れ装置の構成例を示す概略図である。
図2】本発明の実施形態に係るエアジェット織機における緯入れ制御方法を示すフローチャートである。
図3】本発明を適用しない場合の緯糸到達タイミングのバラツキを説明する図である。
図4】本発明を適用した場合の緯糸到達タイミングのバラツキを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
<エアジェット織機における緯入れ装置の構成>
図1は、本発明の実施形態に係るエアジェット織機における緯入れ装置の構成例を示す概略図である。
緯入れ装置1は、緯糸チーズ2と、緯糸状態検出装置3と、緯糸貯留装置4と、緯糸張力補正装置5と、メインノズル6と、タンデムノズル7と、サブノズル8と、筬打ち用の筬9と、緯糸フィーラ10と、を備えている。また、緯入れ装置1は、メインバルブ12と、タンデムバルブ14と、メインタンク16と、レギュレータ18と、サブバルブ22と、サブタンク23と、レギュレータ24と、制御装置31と、ファンクションパネル32と、を備えている。
【0014】
緯糸チーズ2は、緯入れに使用する緯糸11を緯糸貯留装置4に供給する給糸部として機能するものである。緯糸状態検出装置3は、緯糸チーズ2から供給される緯糸11の状態を検出するものである。緯糸状態検出装置3の検出結果である緯糸11の状態は、制御装置31に通知される。
【0015】
緯糸状態検出装置3は、緯糸搬送方向において、緯糸チーズ2と緯糸貯留装置4との間に配置されている。緯入れは、緯糸搬送方向において、緯糸貯留装置4よりも下流側で行われる。これに対し、緯糸状態検出装置3は、緯糸貯留装置4よりも上流側に配置されている。このため、緯糸状態検出装置3は、緯入れ前の緯糸11の状態を検出することになる。
【0016】
緯糸状態検出装置3が検出する緯糸11の状態には、少なくとも、緯糸の単位長さあたりの質量(以下、「緯糸質量」という。)が含まれる。この糸状態は、エアの噴射によって緯糸を飛走させて緯入れする際に緯糸の飛走に影響を与える。緯糸状態検出装置3としては、たとえば、特表2014-500914号公報に開示されている装置を挙げることができる。
【0017】
緯糸貯留装置4は、緯入れ前の緯糸を貯留するものである。緯糸貯留装置4は、測長ドラム15と、係止ピン17と、を有する。緯糸貯留装置4は、緯糸チーズ2から緯糸貯留装置4へと供給される緯糸11を測長ドラム15に巻き付けて貯留する。
【0018】
係止ピン17は、緯入れに使用する緯糸11を係止可能なピンである。係止ピン17は、電磁ソレノイド19の駆動により、測長ドラム15の外周面に対して接近または離間する方向に動作する。電磁ソレノイド19の駆動は制御装置31が制御する。係止ピン17は、測長ドラム15の外周面に接近する方向に動作することで、測長ドラム15の外周面と係止ピン17の先端部との間に緯糸11を把持する。また、係止ピン17は、測長ドラム15の外周面から離間する方向に動作することで、緯糸11の把持を解除する。測長ドラム15の近傍にはバルーンセンサ20が配置されている。バルーンセンサ20は、係止ピン17の解除によって測長ドラム15から引き出される緯糸11のバルーンを検出し、その検出結果を電気信号として制御装置31に出力するセンサである。
【0019】
緯糸張力補正装置5は、緯糸11に過大な張力が加わらないよう、緯糸11に加わる張力を補正する装置である。
【0020】
メインノズル6、タンデムノズル7およびサブノズル8は、それぞれ緯入れ用のノズルとして設けられたものである。メインノズル6は、タンデムノズル7よりも緯糸搬送方向の下流側に配置され、サブノズル8は、メインノズル6よりも緯糸搬送方向の下流側に配置されている。メインノズル6およびタンデムノズル7は、それぞれ1つずつ設けられ、サブノズル8は、複数設けられている。
【0021】
メインノズル6は、メインバルブ12を介してメインタンク16に接続され、タンデムバルブ14は、タンデムバルブ14を介してメインタンク16に接続されている。また、メインタンク16にはレギュレータ18が接続されている。レギュレータ18は、図示しないエアコンプレッサで生成された圧縮エアの圧力を調整するものである。メインタンク16は、レギュレータ18によって圧力が調整された圧縮エアを貯留するものである。メインタンク16に貯留された圧縮エアは、メインバルブ12を介してメインノズル6に供給されるとともに、タンデムバルブ14を介してタンデムノズル7に供給される。
【0022】
メインノズル6は、メインバルブ12の開閉状態に応じてエアを噴射または停止するものである。タンデムノズル7は、タンデムバルブ14の開閉状態に応じてエアを噴射または停止するものである。具体的には、メインノズル6は、メインバルブ12が開状態のときにエアを噴射し、メインバルブ12が閉状態のときにエアの噴射を停止する。同様に、タンデムノズル7は、タンデムバルブ14が開状態のときにエアを噴射し、タンデムバルブ14が閉状態のときにエアの噴射を停止する。メインバルブ12とタンデムバルブ14は、それぞれ制御装置31に電気的に接続されている。制御装置31は、メインバルブ12の開閉状態とタンデムバルブ14の開閉状態をそれぞれ個別に制御する。
【0023】
複数のサブノズル8は、緯糸搬送方向に所定の間隔をあけて配置されている。各々のサブノズル8は、メインノズル6とタンデムノズル7からのエア噴射によって送り出される緯糸11を、筬9の長手方向に沿って搬送する。筬9は、緯糸11が1ピック緯入れされるたびに1回ずつ筬打ち動作する。メインノズル6と筬9との間にはカッター21が配置されている。カッター21は、1本の緯糸11を緯入れするごと、すなわち1ピックごとに、緯糸11を切断する。カッター21の駆動は制御装置31によって制御される。
【0024】
複数のサブノズル8は、筬9の長手方向で隣り合う4つのサブノズル8を1つの組として、合計6組設けられている。なお、サブノズル8の組数は織幅によって異なる。各組のサブノズル8は、それぞれに対応する1つのサブバルブ22を介してサブタンク23に接続されている。また、サブタンク23にはレギュレータ24が接続されている。レギュレータ24は、図示しないエアコンプレッサで生成された圧縮エアの圧力を調整するものである。サブタンク23は、レギュレータ24によって圧力が調整された圧縮エアを貯留するものである。メインタンク16に貯留された圧縮エアは、各々のサブバルブ22を介して各組のサブノズル8に分配して供給される。
【0025】
各組のサブノズル8は、それぞれに対応するサブバルブ22の開閉状態に応じてエアを噴射または停止する。具体的には、各組のサブノズル8は、それぞれに対応するサブバルブ22が開状態のときにエアを噴射し、サブバルブ22が閉状態のときにエアの噴射を停止する。
【0026】
緯糸フィーラ10は、メインノズル6、タンデムノズル7およびサブノズル8からそれぞれエアを噴射して緯糸11を緯入れする際に、その緯糸11が予め設定された所定の位置に到達したか否かを検知するものである。所定の位置は、筬9の長手方向において、メインノズル6から遠い側となる緯入れ終端側に、織布の織幅に合わせて設定される。
【0027】
緯糸フィーラ10は、たとえば光学式センサによって構成される。緯糸フィーラ10は、緯入れ用のノズル6,7,8からのエア噴射によって筬9の長手方向に搬送される緯糸11の先端部が所定の位置に到達したときに検知信号を出力する。したがって、緯糸11が所定の位置に到達する緯糸到達タイミングは、緯糸フィーラ10が検知信号を出力したタイミングとなる。
【0028】
制御装置31は、緯入れ装置1の動作を制御するものである。制御装置31は、たとえば、中央演算処理装置、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等によって構成される。制御装置31は、緯糸11の緯入れをフィードフォワード制御によって行う。制御装置31によるフィードフォワード制御の詳細については後段で詳しく説明する。
【0029】
ファンクションパネル32は、緯入れに必要な各種のデータの入出力装置として制御装置31に接続されている。ファンクションパネル32は、たとえば、図示しない表示装置と入力キーを備えている。表示装置には、緯糸11の緯入れを制御装置31がフィードフォワード制御によって行うための設定画面が表示される。緯入れに使用する緯糸11の種類は、表示装置に設定画面を表示した状態のもとで、オペレータのキー操作により入力される。なお、ファンクションパネル32を用いて入力されるデータは、緯糸11の種類のみに限らず、他のデータ、たとえば織布の織幅や目標緯糸到達タイミングなどの緯入れ設定値を指定するデータも含まれる。
【0030】
<エアジェット織機における緯入れ制御方法>
次に、本発明の実施形態に係るエアジェット織機における緯入れ制御方法について図2のフローチャートを用いて説明する。なお、図2に示す緯入れ制御方法は1ピックごとに繰り返し適用されるものである。
【0031】
(ステップ1)
まず、ステップS1においては、緯入れする前の緯糸11の状態を検出する。
緯入れに使用する緯糸11は、緯糸チーズ2から緯糸貯留装置4へと供給され、この供給経路の途中で緯糸11の状態を緯糸状態検出装置3が検出する。緯糸状態検出装置3で検出された緯糸11の状態は制御装置31に通知される。これにより、制御装置31は、緯入れする前の緯糸11の状態を認識することができる。本実施形態では一例として、緯糸質量を緯糸状態検出装置3が検出し、この検出結果を制御装置31に出力するものとする。
【0032】
(ステップS2)
次に、ステップS2においては、先のステップS1で検出した緯糸11の状態に基づいて、その緯糸11を所定の緯入れ条件に従って緯入れしたときに、その緯糸11が所定の位置に到達する緯糸到達タイミングを予測する。緯糸到達タイミングの予測は制御装置31が行う。
【0033】
制御装置31のメモリには、緯糸11の材質、番手などで特定される緯糸11の種類ごとに所定の緯入れ条件が予め登録されている。このため、制御装置31の中央演算処理装置は、緯入れに使用する緯糸11の種類に対応してメモリに登録されている緯入れ条件を読み出し、この緯入れ条件を適用して緯糸到達タイミングを予測する。緯入れ条件には、メインタンク16の圧力、サブタンク23の圧力、メインノズル6およびサブノズル8のエア噴射開度、タンデムノズル7のエア噴射開度、メインノズル6およびサブノズル8のエア噴射開始タイミング、タンデムノズル7のエア噴射開始タイミングなどが含まれる。
【0034】
ここで、制御装置31が予測する緯糸到達タイミングをTWpとすると、制御装置31は、緯糸状態検出装置3が検出した緯糸11の状態に基づいて、緯糸到達タイミングTWpを予測する。本実施形態では、緯糸状態検出装置3が緯糸質量を検出する。その場合、制御装置31は、緯糸質量に応じて緯糸到達タイミングTWpを予測する。以下、具体例を説明する。
【0035】
制御装置31は、緯糸状態検出装置3が検出した緯糸質量が基準質量よりも大きい場合は、基準となる緯糸到達タイミングTWrよりも緯糸到達タイミングTWpが遅くなると予測する。また、制御装置31は、緯糸状態検出装置3が検出した緯糸質量が基準質量よりも小さい場合は、基準となる緯糸到達タイミングTWrよりも緯糸到達タイミングTWpが早くなると予測する。このとき、基準となる緯糸到達タイミングTWrと、制御装置31が予測する緯糸到達タイミングTWpとの差は、緯糸質量と基準質量との差によって決まる。言い換えると、緯糸質量と基準質量との差が大きいほど、緯糸到達タイミングTWrと緯糸到達タイミングTWpとの差が大きくなる。
【0036】
なお、上述した緯糸の基準質量は、緯糸11の種類に応じて予め設定されるとともに、制御装置31のメモリ(たとえば、RAM)に予めデータとして記憶される。そして、緯糸到達タイミングTWpを予測するときに、制御装置31の中央演算処理装置がメモリから読み出して使用する。
【0037】
(ステップS3)
次に、ステップS3においては、先のステップS2で予測した緯糸到達タイミングTWpが、予め設定された早め限界値TWfよりも早いかどうかを判断する。この判断は制御装置31が行う。早め限界値TWfは、緯糸到達タイミングのバラツキに対して予め設定される限界値である。
【0038】
ここで、緯糸到達タイミングのバラツキに対して早め限界値TWfがどのように設定されるのかについて説明する。
まず、ファンクションパネル32を用いて指定された緯糸11の種類を、これに対応して制御装置31のメモリに登録されている緯入れ条件で緯入れする場合は、同じ種類の緯糸11を同じ緯入れ条件で緯入れしても、緯糸11の飛走には進み遅れが生じる。このため、同じ種類の緯糸11を、たとえば数千ピックほど同じ緯入れ条件で緯入れすると、実際に緯糸フィーラ10によって検知される緯糸到達タイミングは、図3に示すように、基準となる緯糸到達タイミングTWrを中心値とした正規分布に近いバラツキをもつ。
【0039】
図3において、縦軸は筬の長手方向位置、横軸は機台角度を示し、緯糸の先端部の移動を移動特性線Lで表している。図3から分かるように、緯糸の緯入れは機台角度が90°~240°の範囲で行われている。また、緯糸到達タイミングは、機台角度が240°となるタイミングを中心にばらついている。機台角度が240°となるタイミングは、所定の緯入れ条件で緯糸を緯入れするときに目標とする緯糸到達タイミング、すなわち、基準となる緯糸到達タイミングTWrに相当する。
【0040】
本発明の実施形態においては、図3に示す緯糸到達タイミングのバラツキのうち、機台角度=240°に相当する緯糸到達タイミングTWrよりも早い方のバラツキに対して早め限界値TWfを設定している。早め限界値TWfは、基準となる緯糸到達タイミングTWrよりも早いタイミングで緯糸が所定の位置に到達したときに生じる可能性がある緯入れミスの発生状況に応じて設定される。
【0041】
緯入れミスの発生状況は、実際にどの程度の割合で緯入れミスが発生するかを示すものである。緯入れミスの発生状況は、緯糸11の種類ごとに、予め実験等によって確認することができる。そこで、実験等によって得られたデータから、たとえば、緯糸到達タイミングのバラツキを表す正規分布において、糸切れによって緯入れミスが発生しやすい分布領域Eを特定する。そして、この分布領域Eを含まない最小の機台角度または該最小の機台角度に所定量の安全角度(たとえば、2°程度)を加算した機台角度に対応するタイミングを早め限界値TWfに設定する。この場合、早め限界値TWfは、緯入れに使用される緯糸11の太さのみに応じて単純に設定されるわけではなく、糸切れのし易さに影響を与える他の要因、たとえば、緯糸11の撚り数なども加味して設定されることになる。
【0042】
また、基準となる緯糸到達タイミングTWrよりも早いタイミングで緯糸が所定の位置に到達したときに生じる可能性がある緯入れミスの発生状況は、緯糸11の種類に大きく依存するものの、それ以外にも、緯糸11の状態によって若干変わる場合がある。このため、制御装置31は、上記ステップS1で検出した緯糸11の状態に応じて早め限界値TWfを変更してもよい。また、早め限界値TWfは、緯糸11の状態に応じて1ピックごとに変更してもよいし、複数ピックごとに変更してもよい。このように緯糸11の状態に応じて早め限界値TWfを変更することにより、その時々の緯糸11の状態に適した早め限界値TWfを適用してステップS3の処理を行うことができる。
【0043】
ステップS3において、制御装置31は、このように設定される早め限界値TWfと、先のステップS2で予測した緯糸到達タイミングTWpとの比較により、緯糸到達タイミングTWpが早め限界値TWfよりも早いかどうかを判断する。そして、制御装置31は、ステップS3でYesと判断した場合はステップS4に進み、Noと判断した場合はステップS5に移行する。
【0044】
(ステップS4)
次に、ステップS4においては、実際の緯糸到達タイミングが早め限界値TWfよりも遅くなるように緯入れ条件を変更する。緯入れ条件の変更は制御装置31が行う。制御装置31によって変更可能な緯入れ条件は複数存在する。ただし、フィードフォワード制御では緯入れ条件を変更した際に直ちに変更後の条件で緯入れ可能な高い応答性が要求される。これに対し、メインタンク16の圧力やサブタンク23の圧力は、その圧力設定値を変更しても、圧力調整弁のアクチュエータの応答性が遅いため、実際のタンク圧力が変更後の圧力で安定するまでに時間がかかる。このため、ステップS4で変更の対象となる緯入れ条件には、メインタンク16の圧力やサブタンク23の圧力は適さない。本実施形態では、ステップS4で変更の対象とする緯入れ条件の好ましい例として、メインノズル6のエア噴射開度、および、タンデムノズル7のエア噴射開始タイミングを挙げる。メインノズル6のエア噴射開度、および、タンデムノズル7のエア噴射開始タイミングは、いずれか一方のみを変更してもよいし、両方を同時に変更してもよい。以下に具体的な変更の仕方について説明する。
【0045】
まず、メインノズル6のエア噴射開度を変更する場合について説明する。
メインノズル6のエア噴射開度は、1ピックの緯入れに際して、メインノズル6のエア噴射を開始してから終了するまでの時間で規定され、この時間が長いほどエア噴射開度が大きくなる。また、メインノズル6のエア噴射開度は、制御装置31がメインバルブ12の開閉状態を制御することにより調整される。そこで、制御装置31は、先のステップS2で予測した緯糸到達タイミングTWpが早め限界値TWfよりも早い場合は、緯入れ条件を変更する前に比べてメインノズル6のエア噴射開度が小さくなるように、メインノズル6のエア噴射開度を変更する。
【0046】
メインノズル6のエア噴射開度が小さくなると、筬9の長手方向に緯糸11を搬送するときの搬送速度が遅くなる。このため、制御装置31では、実際の緯糸到達タイミングが早め限界値TWfよりも遅くなるように、メインノズル6のエア噴射開度を所定の割合だけ小さくする。メインノズル6のエア噴射開度をどの程度の割合で小さくするかは、たとえば、メインノズル6のエア噴射開度と緯糸到達タイミングとの関係を予め実験等によって確認しておき、これによって得られたデータを用いて決定すればよい。また、メインノズル6のエア噴射開度を変更する場合は、実際の緯糸到達タイミングが、基準となる緯糸到達タイミングTWrに一致するように変更することが好ましい。
【0047】
次に、タンデムノズル7のエア噴射開始タイミングを変更する場合について説明する。
メインノズル6およびタンデムノズル7からのエア噴射によって緯糸11を緯入れする場合は、先にメインノズル6からエアを噴射し、その後でタンデムノズル7からエアを噴射することにより、緯糸11を加速させる。その場合、タンデムノズル7のエア噴射開始タイミングは、メインノズル6のエア噴射開始タイミングを基準に設定される。たとえば、メインノズル6のエア噴射開始タイミングが機台角度=θmに相当するタイミングであると仮定すると、タンデムノズル7のエア噴射開始タイミングは機台角度=θm+αに相当するタイミングに設定される。
【0048】
タンデムノズル7のエア噴射開始タイミングは、制御装置31がタンデムバルブ14を閉状態から開状態に切り換えるタイミングを制御することにより調整される。そこで、制御装置31は、先のステップS2で予測した緯糸到達タイミングTWpが早め限界値TWfよりも早い場合は、緯入れ条件を変更する前に比べてタンデムノズル7のエア噴射開始タイミングが遅くなるように、タンデムノズル7のエア噴射開始タイミングを変更する。
【0049】
タンデムノズル7のエア噴射開始タイミングが遅くなると、筬9の長手方向に緯糸11を搬送するときの搬送速度が遅くなる。このため、制御装置31では、実際の緯糸到達タイミングが早め限界値TWfよりも遅くなるように、タンデムノズル7のエア噴射開始タイミングを所定量だけ遅くする。タンデムノズル7のエア噴射開始タイミングをどの程度の割合で遅くするかは、たとえば、タンデムノズル7のエア噴射開始タイミングと緯糸到達タイミングとの関係を予め実験等によって確認しておき、これによって得られたデータを用いて決定すればよい。また、タンデムノズル7のエア噴射タイミングを変更する場合は、実際の緯糸到達タイミングが、基準となる緯糸到達タイミングに一致するように変更することが好ましい。
【0050】
(ステップS5)
次に、ステップS5においては、制御装置31がメインバルブ12、タンデムバルブ14およびサブバルブ22の開閉状態をそれぞれ制御することにより、メインノズル6、タンデムノズル7およびサブノズル8からのエア噴射によって緯糸11を緯入れする。その際、制御装置31は、先のステップS3でYseと判断した場合は、ステップS4で変更した緯入れ条件に従って各々のバルブ12,14,22の開閉状態を制御することにより緯糸11を緯入れする。また、制御装置31は、先のステップS3でNoと判断した場合は、ステップS4で変更する前の緯入れ条件に従って各々のバルブ12,14,22の開閉状態を制御することにより緯糸11を緯入れする。
【0051】
<実施形態の効果>
本発明の実施形態に係るエアジェット織機における緯入れ制御方法を採用すれば、実際に緯入れされる緯糸11の緯糸到達タイミングは、図4に示すように、糸切れによって緯入れミスが発生しやすい分布領域E(図3参照)を含まないバラツキ分布となる。これにより、緯糸フィーラ10が緯糸11の到達を検知するタイミング、すなわち実際の緯糸到達タイミングが、早め限界値TWfよりも早くなることはなくなる。このため、エアジェット織機で緯糸11を緯入れする際に、糸切れによる緯入れミスの発生を充分に抑制することが可能となる。
【0052】
<変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0053】
たとえば、上記実施形態においては、緯糸状態検出装置3が検出する緯糸11の状態として、緯糸質量を挙げたが、本発明はこれに限らない。たとえば、緯糸の太さや毛羽立ちなど、緯糸の飛走に影響を与え得る他の糸状態があれば、これを緯糸状態検出装置3によって検出し、制御装置31による緯入れのフィードバック制御に適用してもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 緯入れ装置、3 緯糸状態検出装置、6 メインノズル、7 タンデムノズル、8 サブノズル、11 緯糸、31 制御装置、Twf 早め限界値。
図1
図2
図3
図4