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特許7359545化合物、それを含む組成物、および該組成物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子
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  • 特許-化合物、それを含む組成物、および該組成物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】化合物、それを含む組成物、および該組成物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
   C07C 211/54 20060101AFI20231003BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231003BHJP
   H10K 50/15 20230101ALI20231003BHJP
【FI】
C07C211/54 CSP
H05B33/14 A
H05B33/22 D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018248449
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020105156
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】沼田 真樹
(72)【発明者】
【氏名】高麗 敬介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光則
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0116220(KR,A)
【文献】国際公開第2011/102112(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/114921(WO,A1)
【文献】特開2000-063335(JP,A)
【文献】国際公開第2005/094133(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
H10K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物:
【化1】

上記式(1)中、
Arは置換または非置換の1価の芳香族炭化水素基を表し、
lは、0を表し、
は、下記のいずれか一方の構造であり、
【化2】

この際、式中、R は、炭素数1以上8以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基を表し、
pは1以上4以下の整数であり、p=2~4である場合、R は、互いに異なるものであっても同じものであってもよく、
qは2以上5以下の整数であり、qが2以上である場合、複数の
【化3】

は、互いに異なるものであっても同じものであってもよく、
上記において、*は隣接する基との結合手を表し、
は、下記式(2)で表され、
【化4】

上記式(2)中、
は、下記式(3a)で表される基であり;
【化5】

式(3a)中
*は結合手を表し、
Yは、=C(R-であり、
は、水素原子(重水素原子を含む)であり
1、*2は、結合手を表し、
は、2以上6以下の整数であり、少なくとも1つのmは4以上の整数であり、この際、各々のEはそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、
は、単結合、あるいはN(窒素原子)を表し、
はそれぞれ独立して、上記式(2)または単結合を表し、
Aは、下記式(4);
【化6】

式(4)中、
*5は結合手を表し、
Arは、置換もしくは非置換の1価の芳香族炭化水素基であり、
は、下記式;
【化7】

ここで、式中、
*は結合手を表し、
Zは、それぞれ独立して、=C(R-であり、
は、水素原子(重水素原子を含む)、または炭素原子数1~6のアルキル基であり
は2または3であり、この際、各々のEはそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、
Ar、およびArは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の1価の芳香族炭化水素基でり;
で表され、複数のAは同じであっても異なるものであってもよく、少なくとも一つのAは、Aに含まれるアルキル基の合計炭素数が6以上であり、
、G
【化8】

で表される構造であるとき3であり、G
【化9】

で表される構造であるとき4であり、
は1または2であり、
が単結合であるとき、n は1であり、
がN(窒素原子)であるとき、n は2である。
【請求項2】
上記式(1)中のG は、下記のいずれか一方の構造であり、
【化10】

この際、式中、pは1または2であり、p=2である場合、2つのR は、互いに異なるものであっても同じものであってもよく、
上記式(2)中のm は、4以上6以下の整数であり、
上記式(1)中のL は単結合である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
分子量が2000以上20000以下である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
分子量が3000以上10000以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
上記式(1)中のG は、下記構造である、請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物。
【化11】
【請求項6】
下記化学式1、化学式3、化学式3’、化学式5、化学式8、化学式11、化学式21または化学式22で表される化合物のうちの1つである、請求項1、3および4のいずれか1項に記載の化合物。
【化12】

【化13】

【化14】

【化15】
【請求項7】
上記化学式1、化学式3、または化学式3’で表される化合物のうちの1つである、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
式(1)におけるLにおいて、少なくとも1つのmが5以上の整数である、請求項1~のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物と、分子量2000未満の低分子化合物と、を含む有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物または請求項に記載の組成物と、溶剤と、を含む組成物。
【請求項11】
1対の陽極と陰極の間に請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物または請求項に記載の組成物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、それを含む組成物、および該組成物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
正孔輸送層/発光層のような積層構造を形成することが高性能の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製するために重要なことは一般的に知られている。しかしながら、湿式でこのような積層構造を形成することは容易ではない。正孔輸送層上へ発光層を積層するためには発光層溶液に対して正孔輸送層膜が不溶であることが必要である。従来技術では架橋性の化合物を正孔輸送層に用い、加熱等の後処理によって不溶化する等の手法が用いられている。しかしながら、架橋性の化合物を用いると架橋反応に伴って不純物や構造欠陥が発生することが多かった。これに伴い、効率の低下や素子寿命の劣化を招くことが課題であった。このため、架橋反応を用いずに積層性を実現する正孔輸送性化合物の実現が期待されている。
【0003】
このような架橋反応を用いない正孔輸送性化合物としては、例えば、特許文献1や2に記載の化合物が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-186066号公報
【文献】米国特許出願公開第2006/0232198号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、湿式法で正孔輸送性層を形成すると、性能(たとえば効率、寿命)の点で十分なものとはならなかった。
【0006】
そこで本発明は、湿式法で正孔輸送性層を形成しても性能(たとえば効率、寿命)の点で十分な有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一般式(1)で表される化合物に特徴を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、湿式法で正孔輸送性層を形成しても性能(たとえば効率、寿命)の点で十分な有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の化合物を溶液に溶かした状態(A)、および成膜した後の膜状態(B)での化合物の存在状態を示す概念図である。図1(C)は、各状態でのエネルギー座標を示す概念図である。
図2図2は、第四実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
本発明の第一実施形態は、下記式(1)で表される化合物(以下、本化合物とも称する)である。
【0012】
【化1】
【0013】
上記式(1)中、
Arは置換または非置換の1価の芳香族炭化水素基を表し、
lは、0以上2以下の整数を表し、
は、N(窒素原子)、Si(珪素原子)、置換もしくは非置換の2価の芳香族炭化水素基、または置換もしくは非置換の2価の芳香族複素環基を含む連結基を表し、
は、下記式(2)で表され、
【0014】
【化2】
【0015】
上記式(2)中、
は、下記式(3a)~(3f)からなる群より選択される基であり;
【0016】
【化3】
【0017】
式(3a)~(3f)中、
*は結合手を表し、
Yは、それぞれ独立して、=C(R)-または=N-であり、
は、水素原子(重水素原子を含む)、アルキル基、シアノ基、置換または非置換の1価の芳香族炭化水素基、置換または非置換の1価の芳香族複素環基、炭化水素基置換シリル基、アルコキシ基およびハロゲン原子からなる群から選択される基であり、
Tは、-O-、-S-または-Se-であり、
Xは、-C(=O)-、-C(R)(R)-、-N(R)-、-O-、-S-および-Se-からなる群より選択される基であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子(重水素原子を含む)、アルキル基、シアノ基、置換または非置換の1価の芳香族炭化水素基、置換または非置換の1価の芳香族複素環基、炭化水素基置換シリル基、アルコキシ基およびハロゲン原子からなる群から選択される基であり、この際、RおよびRは互いに結合して環を形成してもよく、Rは、水素原子(重水素原子を含む)、アルキル基、シアノ基、置換または非置換の1価の芳香族炭化水素基、置換または非置換の1価の芳香族複素環基、炭化水素基置換シリル基、アルコキシ基およびハロゲン原子からなる群から選択される基である;
*1、*2は、結合手を表し、
は、2以上の整数であり、この際、化合物中の全てのEが上記式(3a)~(3c)のみで構成される場合は、少なくとも1つのmは4以上の整数であり、それ以外の場合は3以上の整数であり、この際、各々のEはそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、
は、単結合、あるいはN(窒素原子)、Si(珪素原子)、置換もしくは非置換の2価の芳香族炭化水素基、または置換もしくは非置換の2価の芳香族複素環基を含む連結基を表し、
はそれぞれ独立して、上記式(2)または単結合を表し、
Aは、下記式(4);
【0018】
【化4】
【0019】
式(4)中、
*5は結合手を表し、
Arは、置換もしくは非置換の1価の芳香族炭化水素基、置換もしくは非置換の1価の芳香族複素環基、または置換もしくは非置換の1価の芳香族炭化水素基と置換もしくは非置換の1価の芳香族複素環基とが組合された置換基であり、
は、下記式;
【0020】
【化5】
【0021】
ここで、式中、
*は結合手を表し、
Zは、それぞれ独立して、=C(R)-または=N-であり、
は、水素原子(重水素原子を含む)、アルキル基、シアノ基、置換または非置換の1価の芳香族炭化水素基、置換または非置換の1価の芳香族複素環基、炭化水素基置換シリル基、アルコキシ基およびハロゲン原子からなる群から選択される基であり、
互いに異なる隣接したEがRを介して環を形成してもよく、
この際、N、ArおよびEは、それぞれが互いに結合して環を形成してもよく、
aは2以上の整数であり、この際、各々のEはそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、
Ar、およびArは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の1価の芳香族炭化水素基、置換もしくは非置換の1価の芳香族複素環基、または置換もしくは非置換の1価の芳香族炭化水素基と置換もしくは非置換の1価の芳香族複素環基とが組合された置換基であり、
この際、E、N、およびArは、それぞれが互いに結合して環を形成してもよい;
で表され、複数のAは同じであっても異なるものであってもよく、少なくとも一つのAは、Aに含まれるアルキル基の合計炭素数が6以上であり、
は2以上8以下の整数であり、nは1または2である。
【0022】
本化合物によれば、湿式法で正孔輸送性層を形成しても性能(たとえば効率、寿命)の点で十分な有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【0023】
本発明がかような効果を奏するメカニズムは以下のように推定される。なお、本発明の技術的範囲は下記推定メカニズムによって何ら制限されない。
【0024】
有機エレクトロルミネッセンス素子の製造は、現在、蒸着法や湿式法により行われている。このうち、蒸着法は蒸着により多層に積層でき、積層によるエネルギーダイアグラムの最適化が容易である。このため、発光効率や寿命の向上、ならびに低駆動電圧化が可能である。しかしその一方で、低い生産性および低い歩留まりが大きな課題となっている。これに対して、湿式法による有機エレクトロルミネッセンス素子の製造では、印刷プロセスが可能であるため、大面積化および高生産性が期待できる。しかしその一方で、積層可能な材料の設計が大きな課題となっている。
【0025】
そこで、本発明者らは、積層性に優れる化合物の設計を鋭意検討した。その結果、上記式(1)で表される化合物を用いることで、積層性が顕著に向上することを見出した。
【0026】
図1は、本発明の化合物を溶液に溶かした状態(A)、および成膜した後の膜状態(B)での化合物の存在状態を示す概念図である。なお、本図は、発明の理解を容易にするための概念図であり、実施の状態がこれに限定されるものではない。
【0027】
本化合物は、分子内に可溶性基としてのアルキル基が存在する(例えば、置換基Aに存在するアルキル基)。かようなアルキル基によって、分子間接近が妨げられ、湿式法で用いられるインク溶液中での溶解状態が安定化する(図1A)。一方、本化合物は、分子内に不溶性基として芳香族基が複数連結した構造が存在する(例えば、連結基L、L)。成膜後の膜状態では、剛直な芳香族基(不溶性基)によって凝集状態が安定化する。そして、これら2つの安定相(溶解状態および膜状態)が大きな活性化障壁エネルギーを介して存在する(図1C)。
【0028】
本化合物は、分子内で不溶性の役割を有する剛直な芳香族基と可溶性の役割を有するアルキル基とを、適度な量的バランスおよび分子内配置とする。ゆえに、湿式法の際に用いられる溶媒への溶解性が高い。これに加え、有機エレクトロルミネッセンス素子を作成する際に湿式法により正孔輸送層を形成しても上層形成(例えば、発光層の形成)の際に用いられる溶媒には溶解しにくい。よって、優れた積層性を実現する。
【0029】
また、従来用いられている高分子化合物の場合は、重合反応や架橋反応の過程において不純物が高分子中に取り込まれやすく、不純物の識別・除去が難しい。本化合物は、従来の高分子化合物と異なり分子量が小さく、且つ、構造単分散の化合物であるため、合成過程において重合反応や架橋反応を伴わない。ゆえに、合成過程において不純物が分子中に取り込まれた不純物分子が生成されても、そのような不純物分子の識別・除去が容易となる。よって、本化合物によれば、不純物の特定が容易で精製工程や品質管理の利便性が良い。
【0030】
さらに、本化合物は、アリールアミン構造を有する。このため、本化合物を用いて形成される有機膜は、正孔輸送パスが効率的に形成され、良好な正孔輸送性を発揮する。
【0031】
以上のように、本化合物の優れた積層性、不純物の除去可能性、正孔輸送性によって、得られる有機エレクトロルミネッセンス素子の高い性能(例えば、高効率化および/または長寿命化)が実現しうる。
【0032】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0033】
<式(1)で表される化合物>
(Ar
上記式(1)中、Arは置換または非置換の1価の芳香族炭化水素基を表す。
【0034】
本明細書において、「芳香族炭化水素基」は、一つ以上の芳香族環を含む炭素環を有する炭化水素(芳香族炭化水素)由来の基である。また、芳香族炭化水素基が2以上の環を含む場合、2以上の環は互いに連結または縮合していてもよい。
【0035】
芳香族炭化水素基を構成する芳香族炭化水素としては、以下に制限されないが、ベンゼン、ペンタレン、インデン、ナフタレン、アントラセン、アズレン、ヘプタレン、アセナフタレン、フェナレン、フルオレン、アントラキノン、フェナントレン、ビフェニル、ターフェニル、クォーターフェニル、キンクフェニル、セキシフェニル、トリフェニレン、ピレン、クリセン、ピセン、ペリレン、ペンタフェン、ペンタセン、テトラフェン、ヘキサフェン、ヘキサセン、ルビセン、トリナフチレン、ヘプタフェン、ピラントレン等を挙げることができる。
【0036】
1価の芳香族炭化水素基としては、炭素数6以上24以下の1価の芳香族炭化水素基であることが好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フルオレニル基、アンスリル基、ピレニル基、アズレニル基、アセナフチレニル基、ターフェニル基、フェナントリル基などが挙げられる。これらのうち、フェニル基、ビフェニル基、フルオレニル基が好ましく、フェニル基、ビフェニル基がより好ましく、ビフェニル基がさらに好ましい。
【0037】
1価の芳香族炭化水素基に導入されうる置換基は、特に制限されない。当該置換基の例としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキル基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、および芳香族複素環基、ならびにこれらの組み合わせなどが挙げられる。なお、当該置換基において、当該置換基と同種の置換基が当該置換基に置換されることはない。例えば、置換基がアルキル基である場合に、当該アルキル基はさらにアルキル基で置換されることはない(以下同様)。
【0038】
上記ハロゲン原子は、特に制限されないが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0039】
上記アルキル基は、特に制限されないが、炭素数1以上24以下の直鎖状または分岐状のアルキル基でありうる。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、1,3-ジメチルブチル基、1-イソプロピルプロピル基、1,2-ジメチルブチル基、n-ヘプチル基、1,4-ジメチルペンチル基、3-エチルペンチル基、2-メチル-1-イソプロピルプロピル基、1-エチル-3-メチルブチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、3-メチル-1-イソプロピルブチル基、2-メチル-1-イソプロピル基、1-tert-ブチル-2-メチルプロピル基、n-ノニル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、n-デシル基、イソデシル基、n-ウンデシル基、1-メチルデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基、n-ヘンエイコシル基、n-ドコシル基、n-トリコシル基、n-テトラコシル基などが挙げられる。
【0040】
上記アルコキシ基は、特に制限されないが、炭素数1以上24以下の直鎖状または分岐状のアルコキシ基でありうる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、トリデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基、ペンタデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、ヘプタデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、3-エチルペンチルオキシ基などが挙げられる。
【0041】
上記シクロアルキル基は、特に制限されないが、炭素数3以上16以下のシクロアルキル基でありうる。具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0042】
上記シクロアルコキシ基は、特に制限されないが、炭素数3以上16以下のシクロアルコキシ基でありうる。具体的には、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などが挙げられる。
【0043】
上記アリールオキシ基は、特に制限されないが、炭素数6以上30以下のアリールオキシ基でありうる。具体的には、フェノキシ基、ナフチルオキシ基などが挙げられる。
【0044】
上記アラルキル基は、特に制限されないが、炭素数7以上40以下のアラルキル基でありうる。具体的には、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基などが挙げられる。
【0045】
上記アルキルアミノ基は、特に制限されないが、炭素数1以上20以下のアルキルアミノ基でありうる。具体的には、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジn-プロピルアミノ基などが挙げられる。
【0046】
上記アリールアミノ基は、特に制限されないが、炭素数6以上30以下のアリールアミノ基でありうる。具体的には、フェニルアミノ基、ビフェニルアミノ基、ナフチルアミノ基、アントリルアミノ基、フェナントリルアミノ基などが挙げられる。
【0047】
上記芳香族複素環基は、1個以上のヘテロ原子(例えば、窒素原子(N)、酸素原子(O)、リン原子(P)、硫黄原子(S))を有し、残りの環原子が炭素原子(C)である1以上の芳香族環を含む環(芳香族複素環)由来の基である。また、芳香族複素環基が2以上の環を含む場合、2以上の環は互いに縮合していてもよい。芳香族複素環基を構成する芳香族複素環としては、以下に制限されないが、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、テトラゾール、オキサジアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、トリアジン、カルバゾール、インドール、キノリン、イソキノリン、ベンゾイミダゾール、イミダゾピリジン、イミダゾピリミジン等を挙げることができる。1価の芳香族複素環基としては、上記の芳香族複素環の水素元素のうち、任意の1つの水素原子を取り除いた基が挙げられる。
【0048】
Arにおいて、1価の芳香族炭化水素基に存在しうる置換基は、アルキル基であることが好ましく、炭素数1以上12以下の直鎖状または分岐状のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1以上8以下の直鎖状または分岐状のアルキル基であることがさらに好ましく、炭素数1以上4以下の直鎖状または分岐状のアルキル基であることがさらにより好ましく、炭素数1以上4以下の直鎖状のアルキル基であることが特に好ましい。また、Arにおいて、1価の芳香族炭化水素基に存在しうる置換基の置換基数は特に制限されないが、1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0049】
(l)
lは、0以上2以下の整数を表す。lが2である場合、複数のArは同じ構造であっても互いに異なる構造であってもよいが、同じ構造であることが好ましい。
【0050】
(G
は、N(窒素原子)、Si(珪素原子)、置換もしくは非置換の2価の芳香族炭化水素基、または置換もしくは非置換の2価の芳香族複素環基を含む連結基を表す。
【0051】
芳香族炭化水素基としては、Arの欄で記載した芳香族炭化水素の水素原子のうち、任意の水素原子を取り除いた基が挙げられる。また、これら芳香族炭化水素基に存在する1以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。
【0052】
芳香族複素環基としては、Arの置換基の欄で記載した芳香族複素環の水素原子のうち、任意の水素原子を取り除いた基が挙げられる。また、これら芳香族複素環基に存在する1以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。
【0053】
N(窒素原子)、Si(珪素原子)、芳香族炭化水素基、または芳香族複素環基に存在しうる置換基は、上記Arに記載の1価の芳香族炭化水素基、1価の芳香族複素環基および、1価の芳香族炭化水素基に導入されうる置換基(例えば、アルキル基)と同様である。
【0054】
における結合手は、n+lとなる。このため、Gにおける結合手は、2以上8以下であり、2以上4以下であることが好ましい。
【0055】
としては具体的には以下の構造であることが好ましい。
【0056】
【化6】
【0057】
ここで、R、R、およびRは、それぞれ独立して、炭素数1以上8以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基を表し、好ましくは炭素数1以上6以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、より好ましくは、炭素数1以上6以下の直鎖のアルキル基である。pは1以上4以下の整数であり、好ましくは1または2である。p=2である場合、2つのRは、互いに異なるものであっても同じものであってもよい。qは2以上5以下の整数であり、好ましくは2以上4以下の整数であり、特に好ましくは3である。qが2以上である場合、複数の
【0058】
【化7】
【0059】
は、互いに異なるものであっても同じものであってもよい。
【0060】
また、上記において、X’は、-C(=O)-、-C(R)(R)-、-N(R)-、-O-、-S-および-Se-からなる群より選択される基である。中でも-O-、または-S-であることが好ましく、-O-であることがより好ましい。
【0061】
としてはさらに具体的には以下の構造であることがより好ましい。
【0062】
【化8】
【0063】
上記式中、*は隣接する基との結合手を表す。
【0064】
(n
は2以上8以下の整数である。nは、Gと、下記置換基(I);
【0065】
【化9】
【0066】
との結合数を指す。nは、好ましくは2以上6以下の整数であり、より好ましくは2、3または4である。複数の置換基(I)は、同じであっても異なるものであってもよい。
【0067】
また、置換基(I)および-Arと、Gとの結合位置は特に制限されない。
【0068】
例えば、l=2、n=2で、Gが下記式の場合、
【0069】
【化10】
【0070】
置換基(I)および-Arと、Gとの結合位置は、下記いずれの形態であってもよい。
【0071】
【化11】
【0072】
上記式中、*は隣接する基との結合手を表す。
【0073】
(L
は、下記式(2)で表される。
【0074】
【化12】
【0075】
*1、*2は、GまたはGとの結合手を表す。
【0076】
上記式(2)中、Eは、下記式(3a)~(3f)で表される。
【0077】
【化13】
【0078】
式(3a)~(3f)中、*は隣接する基との結合手を表す。
【0079】
Yは、それぞれ独立して、=C(R)-または=N-である。本発明の効果を考慮すると、Yは、=C(R)-であることが好ましい。
【0080】
は、水素原子(重水素原子を含む)、アルキル基、シアノ基、置換または非置換の1価の芳香族炭化水素基、置換または非置換の1価の芳香族複素環基、炭化水素基置換シリル基、アルコキシ基およびハロゲン原子からなる群から選択される基である。各置換基の例示は、上記Arの欄に記載のとおりである。また、1価の芳香族炭化水素基、または1価の芳香族複素環基に存在しうる置換基は、上記Arに記載の1価の芳香族炭化水素基、および1価の芳香族複素環基に導入されうる置換基(例えば、アルキル基)と同様である。炭化水素基置換シリル基としては、炭素原子数1以上20以下の炭化水素基置換シリル基が挙げられ、具体的にはトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、tert-ブチルジフェニルシリル基などが挙げられる。Rは、水素原子またはアルキル基であることが好ましく、水素原子または炭素原子数1以上8以下のアルキル基であることがより好ましく、水素原子または炭素原子数1以上4以下のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0081】
Tは、-O-、-S-または-Se-である。中でも-O-、または-S-であることが好ましく、-S-であることがより好ましい。
【0082】
Xは、-C(=O)-、-C(R)(R)-、-N(R)-、-O-、-S-および-Se-からなる群より選択される基である。中でも-O-、または-S-であることが好ましく、-S-であることがより好ましい。
【0083】
およびRは、それぞれ独立して、水素原子(重水素原子を含む)、アルキル基、シアノ基、置換または非置換の1価の芳香族炭化水素基、置換または非置換の1価の芳香族複素環基、炭化水素基置換シリル基、アルコキシ基およびハロゲン原子からなる群から選択される基である。この際、RおよびRは互いに結合して環を形成してもよい。中でも、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子または炭素原子数1以上8以下のアルキル基であることがより好ましく、水素原子または炭素原子数1以上4以下のアルキル基であることがさらに好ましい。また、芳香族炭化水素基、または芳香族複素環基に存在しうる置換基は、上記Arに記載の1価の芳香族炭化水素基、および1価の芳香族複素環基に導入されうる置換基(例えば、アルキル基)と同様である。
【0084】
は、水素原子(重水素原子を含む)、アルキル基、シアノ基、置換または非置換の1価の芳香族炭化水素基、置換または非置換の1価の芳香族複素環基、炭化水素基置換シリル基、アルコキシ基およびハロゲン原子からなる群から選択される基である。中でも、Rは、水素原子(重水素原子を含む)、アルキル基、シアノ基、1価の芳香族炭化水素基、1価の芳香族複素環基、炭化水素基置換シリル基であることが好ましく、水素原子または炭素原子数1以上8以下のアルキル基であることがより好ましく、水素原子または炭素原子数1以上4以下のアルキル基であることがさらに好ましい。また、1価の芳香族炭化水素基、または1価の芳香族複素環基に存在しうる置換基は、上記Arに記載の1価の芳香族炭化水素基、および1価の芳香族複素環基に導入されうる置換基(例えば、アルキル基)と同様である。
【0085】
複数のEは、同じ構造であっても異なる構造であってもよい。
【0086】
中でも、Eは、下記グループ1から選択される基であることがより好ましい。かような基を選択することで、所望の正孔輸送性を発現しつつ、Lであらわされる骨格の剛直性をさらに高めることができる。ゆえに、積層性と素子の性能向上とをより高度に両立することができる。
【0087】
【化14】
【0088】
*は隣接する基との結合手を表す。
【0089】
上記グループ1中、Rは、それぞれ独立して、炭素数1以上3以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、好ましくはメチル基またはエチル基であり、より好ましくはメチル基である。rは、1以上4以下の整数であり、1または2であることが好ましい。r=2の場合、2つのRの置換基の位置は特に限定されないが、パラ位であることが好ましい。上記グループ1中、Tは、好ましくはOまたはSであり、より好ましくはSである。また、上記グループ1中、Xは、好ましくは-C(R)(R)-、OまたはSであり、より好ましくは-C(R)(R)-、Sである。
【0090】
は、2以上の整数である。分子量を低く制御することができることから、2以上10以下の整数であることが好ましく、2以上8以下の整数であることがより好ましい。分子量を低く制御することで、化合物が密に凝集することができ、層内に空隙が少なくなる。ゆえに正孔輸送層上に他層(例えば発光層)を積層形成する際に他層(例えば発光層)成分の正孔輸送層内への侵入が低減され、高効率および/または長寿命になる。さらに、分子量を低く制御することで、絡み合い効果が小さく、インク粘度を低くすることができる。このため極小液滴吐出が可能となり、高精細インクジェットに適用しうる。
【0091】
また、積層性を考慮すると、複数のLに存在するmのうち、少なくとも1つのmは、3以上の整数であることが好ましく、5以上の整数であることがより好ましい。
【0092】
この際、化合物中の全てのEが上記式(3a)~(3c)のみで構成される場合は、少なくとも1つのmは4以上の整数であり、それ以外の場合は3以上の整数である。
【0093】
積層性の観点から、複数存在するLの内、少なくとも一つのLは、有するアルキル基の合計炭素数が(0以上)5以下であることが好ましい。アルキル基の合計炭素数をそのようにすることでLであらわされる骨格の剛直性をさらに高めることができ、ゆえに、積層性と素子の性能向上とをより高度に両立することができる。ここで、アルキル基の合計炭素数とは、L中に存在するアルキル基の合計炭素数(R、R、R、およびRの少なくとも1つがアルキル基の場合の合計炭素数)を指し、一つのアルキル基の炭素数であっても、複数のアルキル基の合計炭素数であってもどちらでもよい。
【0094】
(G
は、単結合、あるいはN(窒素原子)、Si(珪素原子)、置換もしくは非置換の2価の芳香族炭化水素基、または置換もしくは非置換の2価の芳香族複素環基を含む連結基を表す。置換もしくは非置換の2価の芳香族炭化水素基、または置換もしくは非置換の2価の芳香族複素環基についての具体的例示は、Gの欄に記載したものと同様である。
【0095】
は、分子量の低減および正孔輸送性の観点から、単結合、または、
【0096】
【化15】
【0097】
であることが好ましい。
【0098】
*は隣接する基との結合手を表す。
(n
は1または2である。
【0099】
は、Gと、下記置換基(II);
【0100】
【化16】
【0101】
との結合数を指す。
【0102】
が2の場合、複数の置換基(II)は同じであっても異なるものであってもよい。
【0103】
(L
は、上記式(2)または単結合を表す。Lが上記式(2)で表される場合の例示または好ましい例示は、上記Lの欄で記載したものと同様である。
【0104】
が上記式(2)で表される場合、Eは、下記グループ1’から選択される基であることが特に好ましい。
【0105】
【化17】
【0106】
上記式において、Rおよびrはグループ1における式と同義である。
【0107】
が上記式(2)で表される場合、mは、同様に2以上の整数である。分子量を低く制御することができることから、2以上10以下の整数であることが好ましく、2以上8以下の整数であることがより好ましい。分子量を低く制御することで、化合物が密に凝集することができ、層内に空隙が少なくなる。ゆえに正孔輸送層上に他層(例えば発光層)を積層形成する際に他層(例えば発光層)成分の正孔輸送層内への侵入が低減され、高効率および/または長寿命になる。さらに、分子量を低く制御することで、絡み合い効果が小さく、インク粘度を低くすることができる。このため極小液滴吐出が可能となり、高精細インクジェットに適用しうる。
【0108】
(A)
Aは、下記式(4)で表される基である。
【0109】
【化18】
【0110】
式(4)中、*5は結合手を表す。
【0111】
複数のAは同じであっても異なるものであってもよい。
【0112】
少なくとも一つのAは、Aに含まれるアルキル基の合計炭素数が6以上である。アルキル基の合計炭素数が6以上であることで、湿式法を用いた場合の溶媒溶解性が向上する。ここで、アルキル基の合計炭素数とは、置換基Aに存在するアルキル基の合計炭素数を指し、一つのアルキル基の炭素数であっても、複数のアルキル基の合計炭素数であってもどちらでもよい。ただし、立体障害性の観点から、複数のアルキル基の合計炭素数であることが好ましい。すなわち、Ar、E、ArまたはArが複数のアルキル基で置換されている形態が好ましい。少なくとも一つのAは、Aに含まれるアルキル基の合計炭素数が6以上40以下であることが好ましく、合計炭素数が6以上30以下であることがより好ましい。
【0113】
Arは、置換もしくは非置換の1価の芳香族炭化水素基、置換もしくは非置換の1価の芳香族複素環基、または置換もしくは非置換の1価の芳香族炭化水素基と置換もしくは非置換の1価の芳香族複素環基とが組合された置換基である。
【0114】
1価の芳香族炭化水素基としては、上記Arの欄で記載したものが例示される。これらのうち、1価の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ビフェニル基、フルオレニル基が好ましい。
【0115】
1価の芳香族複素環基としては、上記Arの欄で記載したものが例示される。
【0116】
1価の芳香族炭化水素基または1価の芳香族複素環基に導入されうる置換基としても、上記Arの欄で記載したものが例示される。1価の芳香族炭化水素基に導入されうる置換基は、アルキル基であることが好ましく、炭素数1以上12以下の直鎖状または分岐状のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1以上8以下の直鎖状または分岐状のアルキル基であることがさらに好ましく、炭素数1以上6以下の直鎖状または分岐状のアルキル基であることがさらにより好ましく、炭素数1以上6以下の直鎖状のアルキル基であることが特に好ましい。アルキル基の置換基数は特に限定されるものではないが、1または2であることが好ましい。
【0117】
Arは、非置換の1価の芳香族炭化水素基またはアルキル基で置換された1価の芳香族炭化水素基であることが好ましい。
【0118】
なお、N、Arおよび(Nに隣接する)Eは、それぞれが互いに結合して環を形成してもよい。例えば、Arがフェニル基、Eがフェニレン基であって、環を作る下記のような形態であってもよい。
【0119】
【化19】
【0120】
上記*は、隣接する原子との結合部位を表す。
【0121】
は、下記式(5)で表される。
【0122】
【化20】
【0123】
ここで、式(5)中、*は結合手を表す。
【0124】
Zは、=C(R)-または=N-であり、=C(R)-であることが好ましい。
【0125】
は、水素原子(重水素原子を含む)、アルキル基、シアノ基、置換または非置換の1価の芳香族炭化水素基、置換または非置換の1価の芳香族複素環基、炭化水素基置換シリル基、アルコキシ基およびハロゲン原子からなる群から選択される基である。各置換基の例示は、上記Rの欄に記載のとおりである。また、1価の芳香族炭化水素基、または1価の芳香族複素環基に存在しうる置換基は、上記Arに記載の1価の芳香族炭化水素基、および1価の芳香族複素環基に導入されうる置換基(例えば、アルキル基)と同様である。Rは、水素原子またはアルキル基であることが好ましく、水素原子または炭素原子数1~8のアルキル基であることがより好ましく、水素原子または炭素原子数1~6のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0126】
複数のRは互いに異なるものであってもよいし、同じであってもよい。
【0127】
また、互いに異なる隣接したEがRを介して環を形成してもよい。例えば、下記の形態;
【0128】
【化21】
【0129】
が炭素原子を介して環を形成した下記形態(フルオレニレン基)なども含まれる。
【0130】
【化22】
【0131】
aは2以上の整数である。溶媒溶解性を考慮すると、aは2以上8以下の整数であることが好ましく、2以上6以下の整数であることがより好ましく、2以上4以下の整数であることがさらにより好ましく、2または3であることが特に好ましい。この際、各々のEはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0132】
上記式(4)中、
【0133】
【化23】
【0134】
で表される連結基の具体例としては、下記グループ2から選択される基が挙げられる。なお、下記グループ2中、*は、隣接する原子との結合部位を表す。よって、下記グループ2に示される基は、2つある*の内、少なくとも一つの*が上記式(4)のN原子に結合する。
【0135】
【化24】
【0136】
Rは、それぞれ独立して、水素原子あるいは炭素数1以上8以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基を表し、好ましくは炭素数1以上6以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、より好ましくは、炭素数1以上6以下の直鎖のアルキル基である。
【0137】
上記式(4)中、
【0138】
【化25】
【0139】
で表される連結基のさらなる具体例としては、下記グループ2-1が挙げられる。
【0140】
【化26】
【0141】
Ar、およびArは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の1価の芳香族炭化水素基、置換もしくは非置換の1価の芳香族複素環基、または置換もしくは非置換の1価の芳香族炭化水素基と置換もしくは非置換の1価の芳香族複素環基とが組合された置換基である。
【0142】
ここで、1価の芳香族複素環基または1価の芳香族複素環基としては、Arの欄に記載と同様である。また、ArおよびArとしての1価の芳香族炭化水素基または1価の芳香族複素環基に導入されうる置換基は、Arとしての1価の芳香族炭化水素基または1価の芳香族複素環基に導入されうる置換基と同義である。
【0143】
正孔輸送性のさらなる向上の観点から、ArおよびArとしては、下記グループ3から選択される基であることがより好ましい。
【0144】
【化27】
【0145】
上記グループ3中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子またはアルキル基である。この際、アルキル基としては、炭素数1以上10以下の直鎖状アルキル基が好ましく、炭素数3以上8以下の直鎖状アルキル基がより好ましい。上記グループ3中、*は、N原子との結合部位を表す。
【0146】
なお、(Nに隣接する)E、N、およびArは、それぞれが互いに結合して環を形成してもよい。例えば、Eがフェニレン基、Arがフェニル基であって、環を作る下記形態のような形態であってもよい。
【0147】
【化28】
【0148】
上記*は、隣接する原子との結合部位を表す。
【0149】
上記式(1)におけるAの具体例としては、下記化学式で表される基が挙げられる。なお、下記化学式中、*は、上記式(1)の隣接する原子との結合部位を表す。なお、グループA1は、合計炭素数が6個以上のアルキル基を含む群であり、グループA2は合計炭素数が6個以上のアルキル基を含まない群である。
【0150】
【化29】
【0151】
本発明の化合物として、具体的には以下が例示される。
【0152】
【化30-1】
【0153】
【化30-2】
【0154】
【化31】
【0155】
【化32】
【0156】
【化33】

【0157】
【化34】
【0158】
【化35】
【0159】
【化36】
【0160】
【表1-1】
【0161】
【表1-2】
【0162】
【表1-3】
【0163】
【表1-4】
【0164】
[本化合物の製造方法]
本化合物は、公知の有機合成方法を用いることで合成することが可能である。本化合物の具体的な合成方法は、後述する実施例を参照した当業者であれば、容易に理解することが可能である。
【0165】
例えば、本化合物は、G、Lが単結合、nが1の場合、下記式(6)で表される化合物と、下記式(7)で表される化合物と、を反応させることで得ることができる。
【0166】
【化37】
【0167】
上記式(6)において、Ar、l、G、E、nは、上記式(1)におけるのと同様の定義である。式(6)、(7)において、kは、1以上(m-1)以下の整数である。Qは、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、特に臭素原子)である。
【0168】
上記式(7)において、E、mは、上記式(1)におけるのと同様の定義である。式(7)において、R~Rは、それぞれ独立して、炭素数1以上3以下のアルキル基である
、Lが単結合ではない場合にも、同様の反応により化合物を得ることができる。
【0169】
[本化合物の物性]
本化合物の分子量は、好ましくは2,000以上20,000以下である。分子量は、より好ましくは、3,000以上10,000以下である。分子量が上記下限値以上であれば、積層性が一層向上する。一方、分子量が上記上限以下であれば、溶解性およびインクの低粘度化において有利となる。分子量を低く制御することで、絡み合い効果が小さく、インク粘度を低くすることができる。このため、極小液滴吐出が可能となり、高精細インクジェットに適用しうる。
【0170】
<組成物>
第二実施形態は、本化合物と、分子量2,000未満の低分子化合物と、を含む組成物である。以下、当該組成物を第二実施形態の組成物とも称する。正孔輸送層を形成する際の空隙を低分子化合物が埋めることが可能となる。ゆえに、低分子化合物を組み合わせることで、上層に発光層などを湿式法で形成した際に溶媒が下層である正孔輸送層の空隙に侵入し、素子性能が低下することを抑制することができる。よって、当該組成物は、正孔輸送性に優れるため、有機エレクトロルミネッセンス素子の正孔輸送層などに好適に使用することができる。
【0171】
[低分子化合物]
本発明の電荷輸送材料に含まれる分子量2,000未満の低分子化合物(以下、単に「低分子化合物」とも称する)としては、下記式(J1)~(J3)で表される化合物の少なくとも1種であることが好ましい。
【0172】
【化38】
【0173】
上記式(J1)中、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換されていてもよい、1価の芳香族炭化水素基または1価の芳香族複素環基である。好ましくは、ArおよびArは、置換されていてもよい、フェニル基またはm-ターフェニル基である。ArおよびArとしての1価の芳香族炭化水素基または1価の芳香族複素環基に導入されうる置換基は、特に制限されない。該置換基の例としては、ArおよびArにおける説明で例示した置換基が挙げられる。また、ArおよびArは、隣接する芳香環と結合して環を形成してもよい。
【0174】
上記式(J1)中、Jは、=C(R)-または=N-であり、好ましくは=C(R)-である。この際、Rは、水素原子、アルキル基、シアノ基、1価の芳香族炭化水素基、1価の芳香族複素環基、炭化水素基置換シリル基、アルコキシ基またはハロゲン基である。複数のRは互いに結合して環を形成してもよい。
【0175】
上記式(J1)で表される化合物としては、下記化学式(J1-1)で表される化合物が好ましい。
【0176】
【化39】
【0177】
上記式(J1-1)中、Ara’およびArb’は、下記グループ5からなる群より選択される基である。なお、下記グループ5の各基は、置換されていてもよい。この際、導入されうる置換基は、特に制限されず、ArおよびArにおける説明で例示した置換基が挙げられる。また、下記グループ5中、*は、上記式(J1-1)のベンゼン環炭素との結合手を表す。また、上記式(J1-1)中、Rは、それぞれ独立して、Rは、好ましくは炭素数1以上12以下の直鎖状アルキル基であり、より好ましくは炭素数3以上8以下の直鎖状アルキル基である。
【0178】
【化40】
【0179】
上記式(J1)で表される低分子化合物の具体例としては、下記式で表される化合物が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0180】
【化41】
【0181】
【化42】
【0182】
上記式(J2)中、Ar~Arは、それぞれ独立して、置換されていてもよい、1価の芳香族炭化水素基または1価の芳香族複素環基である。好ましくは、Ar~Arは、それぞれ独立して、置換されていてもよい、フェニル基、ビフェニル基、フルオレニル基またはジベンゾフラニル基である。Ar~Arとしての1価の芳香族炭化水素基または1価の芳香族複素環基に導入されうる置換基は、特に制限されない。該置換基の例としては、ArおよびArにおける説明で例示した置換基が挙げられる。Ar~Arは同一であっても異なっていてもよいが、Ar~Arのうち少なくとも2つは同一であることが好ましい。
【0183】
上記式(J2)で表される低分子化合物の具体例としては、下記式で表される化合物が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0184】
【化43】
【0185】
【化44】
【0186】
上記式(J3)中、Ar、Ar、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換されていてもよい、1価の芳香族炭化水素基または1価の芳香族複素環基である。好ましくは、Ar、Ar、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換されていてもよい、フェニル基、ビフェニル基またはフルオレニル基である。Ar、Ar、ArおよびArとしての1価の芳香族炭化水素基または1価の芳香族複素環基に導入されうる置換基は、特に制限されない。該置換基の例としては、ArおよびArにおける説明で例示した置換基が挙げられる。また、Ar、Ar、ArおよびArは、互いに結合して環を形成してもよい。
【0187】
上記式(J3)中、Arは、置換されていてもよい、2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基である。好ましくは、Arはフェニレン基である。Arとしての2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基に導入されうる置換基は、特に制限されない。該置換基の例としては、ArおよびArにおける説明で例示した置換基が挙げられる。また、Arは、Ar、Ar、ArおよびArと結合して環を形成してもよい。
【0188】
上記式(J3)中、qは、1以上10以下の整数であり、好ましくは2以上5以下の整数である。
【0189】
上記式(J3)で表される低分子化合物の具体例としては、下記式で表される化合物が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0190】
【化45】
【0191】
本発明の電荷輸送材料において、上記本化合物および上記低分子化合物の質量比は、20:80から90:10までの範囲内にあることが好ましい。
【0192】
<組成物>
本発明は、本化合物または第二実施形態の組成物と、溶剤と、を含む組成物(以下、第三実施形態の組成物とも称する)についても提供する。当該組成物は、溶液塗布法(湿式法)に適用することができる。さらに、当該組成物は、低粘度であるため、高精細なEL素子を得るためのインクジェット印刷に好適に使用することができる。
【0193】
[溶剤]
溶剤としては常圧にて沸点が100℃以上350℃以下の溶剤(以下、単に「溶剤」とも称する)であることが好ましく、湿式法に使用されうるものであれば、特に制限されない。具体的には、トルエン、キシレン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アニソール、ヘキサメチルリン酸トリアミド、安息香酸メチル、安息香酸エチル、フェニルシクロヘキサン、テトラヒドロナフタレン等が挙げられる。
【0194】
第三実施形態の組成物における溶剤の含有量は、特に制限されない。例えば、組成物における本化合物の含有量が下記範囲となるような程度であることが好ましい。
【0195】
第三実施形態の組成物における本化合物の含有量は、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上5質量%以下である。
【0196】
第三実施形態の組成物は、25℃における粘度が5mPa・s以下であることが好ましい(下限:例えば0.1mPa・s)。上記範囲内であれば、高精細な有機エレクトロルミネッセンス素子を得るためのインクジェット印刷に好適に使用することができる。本明細書において、粘度は、オストワルド粘度計により測定した値を採用するものとする。
【0197】
<有機層>
本発明は、本化合物、第二実施形態の組成物、または第三実施形態の組成物から形成される有機層についても提供する。
【0198】
本発明に係る有機層は、塗布法(溶液塗布法)によって形成される。具体的には、スピンコート(spin coat)法、キャスティング(casting)法、マイクログラビアコート(micro gravure coat)法、グラビアコート(gravure coat)法、バーコート(bar coat)法、ロールコート(roll coat)法、ワイアーバーコード(wire bar coat)法、ディップコート(dip coat)法、スプレーコート(spry coat)法、スクリーン(screen)印刷法、フレキソ(flexographic)印刷法、オフセット(offset)印刷法、インクジェット(ink jet)印刷法等の溶液塗布法を用いて成膜される。
【0199】
溶液塗布法で有機層を形成する際、溶媒を除去するために、加熱処理を行ってもよい。この際、加熱温度は、特に制限されないが、例えば100℃以上250℃以下である。また、加熱時間も、特に制限されないが、例えば5分以上300分以下である。
【0200】
<有機エレクトロルミネッセンス素子>
本発明は、上記の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子についても提供する。
【0201】
以下、図2を参照して、本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子について、詳細に説明する。図2は、第四実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を示す模式図である。
【0202】
図2に示すように、本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子100は、基板110と、基板110上に配置された第1電極120と、第1電極120上に配置された正孔注入層130と、正孔注入層130上に配置された正孔輸送層140と、正孔輸送層140上に配置された発光層150と、発光層150上に配置された電子輸送層160と、電子輸送層160上に配置された電子注入層170と、電子注入層170上に配置された第2電極180とを備える。
【0203】
ここで、本化合物は、例えば、第1電極120と第2電極180との間に配置されたいずれかの有機層中に含まれる。具体的には、本化合物は、正孔注入材料として正孔注入層130に含まれるか、正孔輸送材料として正孔輸送層140に含まれることが好ましい。中でも、正孔輸送材料として正孔輸送層140に含まれることが特に好ましい。
【0204】
本化合物を含む有機層の形成方法については、上述したとおりである。また、本化合物を含む有機層以外の層(以下、その他の層とも称する)の成膜方法については、特に限定されない。その他の層は、例えば、真空蒸着法にて成膜されてもよく、溶液塗布法にて成膜されてもよい。
【0205】
基板110は、一般的な有機エレクトロルミネッセンス素子で使用される基板を使用することができる。例えば、基板110は、ガラス(glass)基板、シリコン(silicon)基板などの半導体基板、またはプラスチック(plastic)基板等であってもよい。
【0206】
基板110上には、第1電極120が形成される。第1電極120は、具体的には、陽極であり、金属、合金、または導電性化合物等のうち仕事関数(物質内にある電子を一個外へ取り出すのに必要な最小エネルギー)が大きいものによって形成される。例えば、第1電極120は、透明性および導電性に優れる酸化インジウムスズ(In-SnO:ITO)、酸化インジウム亜鉛(In-ZnO)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)等によって透過型電極として形成されてもよい。また、第1電極120は、上記透明導電膜に対して、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)などを積層することによって反射型電極として形成されてもよい。
【0207】
第1電極120上には、正孔注入層130が形成される。正孔注入層130は、第1電極120からの正孔の注入を容易にする層であり、具体的には、約10nm以上約1000nm以下、より具体的には、約10nm以上約100nm以下の厚さで形成されてもよい。
【0208】
正孔注入層130は、公知の正孔注入材料で形成することができる。正孔注入層130を形成する公知の正孔注入材料としては、例えば、トリフェニルアミン含有ポリエーテルケトン(poly(ether ketone)-containg triphenylamine:TPAPEK)、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(4-isopropyl-4’-methyldiphenyliodonium tetrakis(pentafluorophenyl)borate:PPBI)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス-[4-(フェニル-m-トリル-アミノ)-フェニル]-ビフェニル-4,4’-ジアミン(N,N’-diphenyl-N,N’-bis-[4-(phenyl-m-tolyl-amino)-phenyl]-biphenyl-4,4’-diamine:DNTPD)、銅フタロシアニン(copper phthalocyanine)、4,4’,4’’-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(4,4’,4’’-tris(3-methylphenylphenylamino)triphenylamine:m-MTDATA)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニルベンジジン(N,N’-di(1-naphthyl)-N,N’-diphenylbenzidine:NPB)、4,4’,4’’-トリス(ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(4,4’,4’’-tris(diphenylamino)triphenylamine:TDATA)、4,4’,4’’-トリス(N,N-2-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(4,4’,4’’-tris(N,N-2-naphthylphenylamino)triphenylamine:2-TNATA)、ポリアニリン/ドデシルベンゼンスルホン酸(polyaniline/dodecylbenzenesulphonic acid)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホネート)(poly(3,4-ethylenedioxythiophene)/poly(4-styrenesulfonate):PEDOT/PSS)、およびポリアニリン/10-カンファースルホン酸(polyaniline/10-camphorsulfonic acid)等を挙げることができる。
【0209】
正孔注入層130上には、正孔輸送層140が形成される。正孔輸送層140は、正孔を輸送する機能を備えた層であり、例えば、約10nm以上約150nm以下の厚さ(乾燥膜厚)にて形成されてもよい。正孔輸送層140は、本化合物を用いて溶液塗布法によって成膜されることが好ましい。この方法によれば、有機エレクトロルミネッセンス素子100の性能向上を実現しうる化合物を、効率的に大面積にて成膜することができる。
【0210】
ただし、有機エレクトロルミネッセンス素子100のいずれかの他の有機層が本化合物を含む場合、正孔輸送層140は、公知の正孔輸送材料にて形成されてもよいことはいうまでもない。公知の正孔輸送材料としては、例えば、1,1-ビス[(ジ-4-トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(1,1-bis[(di-4-tolylamino)phenyl]cyclohexane:TAPC)、N-フェニルカルバゾール(N-phenylcarbazole)およびポリビニルカルバゾール(polyvinylcarbazole)などのカルバゾール(carbazole)誘導体、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ジフェニル-[1,1-ビフェニル]-4,4’-ジアミン(N,N’-bis(3-methylphenyl)-N,N’-diphenyl-[1,1-biphenyl]-4,4’-diamine:TPD)、4,4’,4’’-トリス(N-カルバゾリル)トリフェニルアミン(4,4’,4’’-tris(N-carbazolyl)triphenylamine:TCTA)、ならびにN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニルベンジジン(N,N’-di(1-naphthyl)-N,N’-diphenylbenzidine:NPB)等を挙げることができる。
【0211】
正孔輸送層140上には、発光層150が形成される。発光層150は、蛍光、りん光等によって光を発する層である。発光層150は、例えば、約10nm以上約60nm以下の厚さで形成されてもよい。発光層150の発光材料としては、公知の発光材料を用いることができる。ただし、発光層150に含まれる発光材料は、三重項励起子からの発光(すなわち、りん光発光)が可能な発光材料であることが好ましい。このような場合、有機エレクトロルミネッセンス素子100の電流効率および発光寿命をさらに向上させることができる。
【0212】
発光層150は、ホスト材料として、例えば、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(tris(8-quinolinato)aluminium:Alq)、4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(4,4’-bis(carbazol-9-yl)biphenyl:CBP)、ポリ(n-ビニルカルバゾール)(poly(n-vinyl carbazole):PVK)、9,10-ジ(ナフタレン-2-イル)アントラセン(9,10-di(naphthalene)anthracene:ADN)、4,4’,4’’-トリス(N-カルバゾリル)トリフェニルアミン(4,4’,4’’-tris(N-carbazolyl)triphenylamine:TCTA)、1,3,5-トリス(N-フェニルベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼン(1,3,5-tris(N-phenyl-benzimidazol-2-yl)benzene:TPBI)、3-tert-ブチル-9,10-ジ(ナフト-2-イル)アントラセン(3-tert-butyl-9,10-di(naphth-2-yl)anthracene:TBADN)、ジスチリルアリーレン(distyrylarylene:DSA)、4,4’-ビス(9-カルバゾール)-2,2’-ジメチル-ビフェニル(4,4’-bis(9-carbazole)2,2’-dimethyl-bipheny:dmCBP)、下記化合物h-1、下記化合物h-2などを含んでもよい。
【0213】
また、発光層150は、ドーパント材料として、例えば、ペリレン(perylene)およびその誘導体、ルブレン(rubrene)およびその誘導体、クマリン(coumarin)およびその誘導体、4-ジシアノメチレン-2-(p-ジメチルアミノスチリル)-6-メチル-4H-ピラン(4-dicyanomethylene-2-(pdimethylaminostyryl)-6-methyl-4H-pyran:DCM)およびその誘導体、ビス[2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジネート]ピコリネートイリジウム(III)(bis[2-(4,6-difluorophenyl)pyridinate]picolinate iridium(III):FIrpic)、ビス(1-フェニルイソキノリン)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)(bis(1-phenylisoquinoline)(acetylacetonate)iridium(III):Ir(piq)(acac))、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(tris(2-phenylpyridine)iridium(III):Ir(ppy))、トリス(2-(3-p-キシイル)フェニル)ピリジン イリジウム(III)などのイリジウム(Ir)錯体、オスミウム(Os)錯体、白金錯体などを含んでもよい。
【0214】
また、発光層150は、発光材料として量子ドットなどのナノ粒子を含んでよい。量子ドットは、I-VI族系列の半導体、III-V族系列の半導体またはIV-IV族系列の半導体で構成されるナノ粒子である。上記半導体の例として、CdS、CdSe、CdTe、ZnSe、ZnS、PbS、PbSe、HgS、HgSe、HgTe、CdHgTe、CdSeTe1-X、GaAs、InAsおよびInPなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0215】
また、ナノ粒子の直径は、特に限定されないが、例えば、1nm以上20nm以下であることができる。また、量子ドット等のナノ粒子は、単一コア構造を有していてもよいし、コアの表面上にシェルが被覆された、いわゆるコア/シェル構造を有していてもよい。
【0216】
発光層150上には、電子輸送層160が形成される。電子輸送層160は、電子を輸送する機能を備えた層である。電子輸送層160は、例えば、約15nm以上約50nm以下の厚さで形成されてもよい。
【0217】
電子輸送層160は、公知の電子輸送材料にて形成されてもよい。公知の電子輸送材料としては、例えば、(8-キノリノラト)リチウム((8-quinolinato)lithium:Liq)、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(tris(8-quinolinato)aluminium:Alq)、および含窒素芳香環を有する化合物等を挙げることができる。含窒素芳香環を有する化合物の具体例としては、例えば、1,3,5-トリ[(3-ピリジル)-フェン-3-イル]ベンゼン(1,3,5-tri[(3-pyridyl)-phen-3-yl]benzene)のようなピリジン(pyridine)環を含む化合物、2,4,6-トリス(3’-(ピリジン-3-イル)ビフェニル-3-イル)-1,3,5-トリアジン(2,4,6-tris(3’-(pyridin-3-yl)biphenyl-3-yl)-1,3,5-triazine)のようなトリアジン(triazine)環を含む化合物、2-(4-(N-フェニルベンゾイミダゾリル-1-イル-フェニル)-9,10-ジナフチルアントラセン(2-(4-(N-phenylbenzoimidazolyl-1-yl-phenyl)-9,10-dinaphthylanthracene)のようなイミダゾール(imidazole)環を含む化合物等を挙げることができる。
【0218】
電子輸送層160上には、電子注入層170が形成される。電子注入層170は、第2電極180からの電子の注入を容易にする機能を備えた層である。電子注入層170は、0.3nm以上20nm以下の厚さで形成されてもよい。電子注入層170は、特に限定されず、電子注入層170を形成する材料として公知の材料を使用することができる。例えば、電子注入層170は、(8-キノリノラト)リチウム((8-quinolinato)lithium:Liq)およびフッ化リチウム(LiF)等のリチウム(lithium)化合物、塩化ナトリウム(NaCl)、フッ化セシウム(CsF)、酸化リチウム(LiO)、または酸化バリウム(BaO)等で形成されてもよい。
【0219】
電子注入層170上には、第2電極180が形成される。第2電極180は、具体的には、陰極であり、金属、合金、または導電性化合物等のうち仕事関数が小さいものによって形成される。例えば、第2電極180は、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)等の金属、またはアルミニウム-リチウム(Al-Li)、マグネシウム-インジウム(Mg-In)、マグネシウム-銀(Mg-Ag)等の合金で反射型電極として形成されてもよい。また、第2電極180は、上記金属材料の20nm以下の薄膜、酸化インジウムスズ(In-SnO)および酸化インジウム亜鉛(In-ZnO)などの透明導電膜によって透過型電極として形成されてもよい。
【0220】
本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子100は、本化合物を含む有機層を備えることで、電流効率や発光寿命にも優れる。なお、本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子100は、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の一例である。
【0221】
なお、本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子100の積層構造は、上記の例示に限定されない。本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子100は、他の公知の積層構造にて形成されてもよい。例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子100は、正孔注入層130、正孔輸送層140、電子輸送層160および電子注入層170のうちの1層以上が省略されてもよく、また、追加で他の層を備えていてもよい。また、有機エレクトロルミネッセンス素子100の各層は、それぞれ単層で形成されてもよく、複数層で形成されてもよい。
【0222】
例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子100は、励起子または正孔が電子輸送層160に拡散することを防止するために、発光層150と電子輸送層160との間に正孔阻止層をさらに備えていてもよい。なお、正孔阻止層は、例えば、オキサジアゾール(oxadiazole)誘導体、トリアゾール(triazole)誘導体、または、フェナントロリン(phenanthroline)誘導体等によって形成することができる。
【実施例
【0223】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0224】
(実施例1)
<化合物1の合成>
【0225】
【化46】
【0226】
窒素雰囲気下、ビス(4-ブロモフェニル)アミン(581.0mmol,190.0g),(4-プロピルフェニル)ボロン酸(1162mmol,190.6g),テトラヒドロフラン(2905ml)を4口フラスコに入れ溶解させた。炭酸カリウム2M水溶液 1162mlを加え、その後、酢酸パラジウム(34.9mmol,7.83g),トリ(o-トリル)ホスフィン(52.3mmol,15.92g)を加えて5時間還流させた。反応終了後、室温まで冷却し、トルエンで希釈、抽出した。無水硫酸マグネシウムで乾燥後、シリカゲルパッドを用いて濾過を行い、メタノールで再結晶を2回行い、真空乾燥(50℃、 16時間)して白色固体の化合物1aを得た。収量 200.3g、収率 85%。
【0227】
【化47】
【0228】
窒素雰囲気下、アミン体1a(246.6mmol,100g),1-ブロモ-4-ヨード-2-メチルベンゼン(1.05eq.258.9mmol,76.87g),tert-BuONa(2eq.493.2mmol,47.4g),1,4-ジオキサン(493ml)を入れ、撹拌して分散させ、そこにCuI(3mol%,7.4mmol,1.41g),trans-1,2-diaminocyclohexane(15mol%,37.0mmol,4.4ml)を加えて10時間還流させた。反応終了後、室温まで冷却し、トルエンで希釈、celiteを用いて濾過した。濃縮したのち、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:トルエン=7:3)で精製したのち、アセトンから再結晶を行い、白色固体の化合物1bを得た。収量99.2g、収率70%。
【0229】
【化48】
【0230】
窒素雰囲気下、化合物1b(200mmol,114.9g),ビスピナコラートジボロン(1.05eq.210mmol,53.3g),酢酸カリウム(2eq.400mmol,39.3g),N,N-ジメチルホルムアミド(800ml)を入れ、撹拌して分散させ、そこに1,1’-(diphenylphosphino)ferrocene]palladium(II) dichloride・Dichloromethane Adduct(2mol%, 4mmol, 3.27g)を加えて10時間還流させた。反応終了後、室温まで冷却し、トルエン(1L)で希釈、celiteを用いて濾過した。濾液を分液ロートで3回水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、シリカゲルパッドを用いて濾過を行い、濃縮した。これをシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 ジクロロメタン:ヘキサン=1:2)で精製したのち、トルエン:エタノール(200ml:1000ml)から再結晶を行い白色固体の化合物1cを得た。収量 94.5g、収率 76%。
【0231】
【化49】
【0232】
窒素雰囲気下、N-(4-ブロモフェニル)-[1,1’-ビフェニル]-4-アミン(160mmol,51.9g),4-クロロフェニルボロン酸(1.05eq.168mmol, 26.3g),トルエン(640ml)、エタノール(160ml)を4口フラスコに入れ溶解させた。炭酸カリウム2M水溶液 160mlを加え、その後、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(4.8mmol,5.55g)を加えて70℃で12時間、加熱撹拌させた。反応終了後、室温まで冷却し、メタノールで希釈し、析出固体を濾過で回収、メタノールでリンスした。これを真空乾燥(50℃、16時間)したのち、テトラヒドロフラン(1L)に溶解させ、シリカゲルパッドを用いて濾過を行い、濃縮した。これを精製原料1g当たりトルエン20mlで2回再結晶を行い、灰色固体の化合物1dを得た。収量 40.4g、収率 71%。
【0233】
【化50】
【0234】
窒素雰囲気下、化合物1d(110mmol,39.1g),1-ブロモ-4-ヨードベンゼン(1.2eq.132mmol, 37.3g),tert-BuONa(1.5eq.165mmol,15.9g)、トルエン(550ml)を三口フラスコに入れ、フラスコ内を窒素パージしたのちに、1,1’-(diphenylphosphino)ferrocene]palladium(II) dichloride(4mol%,4.4mmol,3.22g)を加えて100℃で4時間加熱撹拌させた。反応終了後、トルエン(500ml)で希釈し、celiteを用いて濾過した。これをさらにシリカゲルパッドを用いて濾過を行い、濃縮した。これを、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:トルエン=1:1)で精製したのち、精製原料1g当たりトルエン:ヘキサン=4ml:10mlの混合溶媒から2回再結晶を行い白色固体の化合物1eを得た。収量 37.7g、収率 67%。
【0235】
【化51】
【0236】
窒素雰囲気下、化合物1e(70mmol,35.8g),化合物1c(1.05eq.73.5mmol,45.7g),トルエン(350ml)、エタノール(70ml)を3口フラスコに入れ溶解させた。炭酸カリウム2M水溶液 70mlを加え、その後、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(3.5mmol,4.04g)を加えて70℃で12時間、加熱撹拌させた。反応終了後、トルエン(1L)で希釈し、分液ロートで3回水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、シリカゲルパッドを用いて濾過を行い、濃縮した。これを、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:トルエン=1:1)で精製したのち、精製原料1g当たりトルエン:酢酸エチル=4ml:10mlの混合溶媒から2回再結晶を行い白色固体の化合物1fを得た。収量 47.3g、収率 73%。
【0237】
【化52】
【0238】
窒素雰囲気下、化合物1f(50mmol,46.3g),ビスピナコラートジボロン(1.05eq.52.5mmol,13.3g),酢酸カリウム(2eq.100mmol,9.81g),1,4-ジオキサン(250ml)を入れ、撹拌して分散させ、そこに酢酸パラジウム(2mol%,1mmol, 225mg)、Xphos(4mol%,2mmol,953mg)を加えて12時間100℃で加熱撹拌させた。反応終了後、室温まで冷却し、トルエン(1L)で希釈、celiteを用いて濾過した。濾液を分液ロートで3回水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、シリカゲルパッドを用いて濾過を行い、濃縮した。これをシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 ジクロロメタン:ヘキサン=1:2)で精製したのち、トルエン:ヘキサン(200ml:1000ml)から再結晶を行い淡黄色固体の化合物1gを得た。収量 40.7g、収率 80%。
【0239】
【化53】
【0240】
4-ブロモ-4’-クロロ-1,1’-ビフェニル(374mmol,100.2g),ビスピナコラートジボロン(1.05eq.392.7mmol,99.7g),酢酸カリウム(2eq.748mmol,73.4g),N,N-ジメチルホルムアミド(1496ml)を入れ、撹拌して分散させ、そこに、1’-(diphenylphosphino)ferrocene]palladium(II) dichloride・Dichloromethane Adduct (2mol%,7.5mmol,6.10g)を加えて10時間還流させた。反応終了後、トルエン(1.5L)で希釈し、celiteを用いて濾過した。濾液を分液ロートで3回水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、シリカゲルパッドを用いて濾過を行い、濃縮した。これを精製原料1gに対してトルエン:ヘキサン(2ml:10ml)の混合溶媒で2回再結晶を行い白色固体の化合物1hを得た。収量 84.7g、収率 72%。
【0241】
【化54】
【0242】
トリス(4-ブロモフェニル)アミン(20mmol,9.64g),化合物1h(3.3eq.66mmol,20.8g),トルエン(100ml)、エタノール(20ml)を3口フラスコに入れ溶解させた。炭酸カリウム2M水溶液 40mlを加え、その後、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.6mmol,0.69g)を加えて70℃で24時間、加熱撹拌させた。反応終了後、メタノール(200ml)で希釈し、析出固体を濾過で回収し、これを真空乾燥(50℃、16時間)させた。この粗物をトルエン(300ml)に加熱して溶解させ、シリカゲルパッドを用いて濾過を行い、濃縮した。これを、精製原料1g当たりトルエン=20mlから2回再結晶を行い淡黄色固体の化合物1iを得た。収量 10.5g、収率 65%。
【0243】
【化55】
【0244】
化合物1i(5mmol,4.03g),化合物1g(3.3eq.16.5mmol,16.78g),トルエン(100ml)、エタノール(10ml)を3口フラスコに入れ分散させる。炭酸カリウム2M水溶液 15mlを加え、その後、酢酸パラジウム(5mol%,0.25mmol,56mg)、Sphos(8mol%,0.4mmol, 164mg)を加えて70℃で24時間、加熱撹拌させた。反応終了後、メタノール(200ml)で希釈し、析出固体を濾過で回収し、これを真空乾燥(50℃、16時間)させた。この粗物をトルエン(300ml)に加熱して溶解させ、シリカゲルパッドを用いて濾過を行い、濃縮した。
【0245】
これをシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 トルエン)および分取GPC(展開溶媒:テトラヒドロフラン)で精製し淡黄色固体の化合物3’を得た。収量 11.46g、収率 68%。
【0246】
(比較例1~4)
【0247】
【化56】
【0248】
<溶解性評価>
合成で得られた化合物1、または比較化合物C1~C4のアニソールに対する溶解性を評価した。具体的には、各化合物を固形分濃度1質量%となるようアニソールに添加し、80℃で10分加熱した。その後、溶解状態を目視で確認した。
【0249】
○:目視で残存物が見られない、
△:目視で若干の残存物が見られる、
×:目視で多くの残存物が見られる。
【0250】
<粘度測定>
溶解性評価に用いた方法と同じ方法で調製された正孔輸送層用インクを用いて、オストワルド粘度計により、25℃での粘度(mPa・s)を測定した。5mPa・s以下であれば、高精細な有機EL素子を得るためのインクジェット印刷に適していると言える。
【0251】
<積層性の評価>
(1)残膜率評価(上層塗布溶剤に対する耐溶解性評価)
溶解性評価に用いた方法と同じ方法で調製された正孔輸送層用インクを用いて、以下の工程を経て以下2種類の薄膜を作製した。
【0252】
[薄膜1](下地薄膜の作製)
(A)成膜工程 石英基板上に100nmの膜厚となるようにスピンコート法により成膜した。
(B)乾燥工程 10-1Pa以下の真空下において230℃で1時間加熱した。
(C)アニール工程 10-1Pa以下の真空下において室温(25℃)まで冷却した。
[薄膜2](上層塗布溶剤による下地薄膜の耐溶解性評価)
(D) (C)で得られた薄膜付き石英基板をスピンコート装置に設置し、薄膜上に上層の塗布工程に用いる溶剤(以下、上層溶剤)を滴下した。本実施例では例として、安息香酸メチルを用いた。薄膜上に上層溶剤が乗った状態で10秒間待機し、その後にスピンを行った。
(E) 上記(B),(C)と同様の工程を行った。
【0253】
上記で得られた[薄膜1]と[薄膜2]を用いてUV-Vis吸光度を測定し、以下の式によって残膜率を評価した。また、この算出方法はランバートベールの法則(Beer-Lambert law)に基づいている。
【0254】
【数1】
【0255】
下記基準により判定した:
◎:残膜率が99~100%
○:残膜率が98~99%
△:残膜率が90~98%
×:残膜率が90%以下。
【0256】
(2)塗布積層された上層との間の界面混合性評価
特許文献(国際公開第2015/089304)に開示の方法(以下PL(Photo Luminescence)法)に従って正孔輸送層上に発光層を塗布積層した2層薄膜の界面混合性を評価した。
【0257】
○:界面混合が見られない
△:界面混合が少し認められる
×:界面混合が強くみられる。
【0258】
<有機EL素子の作製>
まず、第1電極(陽極)として、ストライプ(stripe)状の酸化インジウムスズ(ITO)が膜厚150nmにて成膜されたITO付きガラス基板を用意する。このガラス基板上に、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホネート)(poly(3,4-ethylene dioxythiophene)/poly(4-styrene sulfonate):PEDOT/PSS)(Sigma-Aldrich製)を、乾燥膜厚が30nmになるようにスピンコート法にて塗布し、正孔注入層を形成した。
【0259】
次に、正孔注入層上に、上記調製した各正孔輸送層用インクを乾燥膜厚が100nmになるようにスピンコート法にて塗布し、10-1Pa以下の真空下において230℃にて1時間加熱、その後10-1Pa以下の真空下において室温まで冷却して、正孔輸送層を形成した。
【0260】
次いで、正孔輸送層上に、発光層用インク(ホスト材料として、下記構造を有する化合物h-1および化合物h-2、ドーパント材料として、下記構造を有する化合物TEG(トリス(2-(3-p-キシイル)フェニル)ピリジンイリジウム)を含む安息香酸メチル溶液)をスピンコート法で塗布し、乾燥膜厚が30nmになるように発光層を正孔輸送層上に形成した。
【0261】
発光層用インクの組成は、溶剤の安息香酸メチルに対して、下記化合物h-1の固形分濃度を1.2質量%、下記化合物h-2の固形分濃度を2.8質量%、下記化合物TEGの固形分濃度を0.4質量%となるように調製した。
【0262】
【化57】
【0263】
次に、発光層上に、(8-キノリノラト)リチウム(Liq)およびKLET-03(ケミプロ化成株式会社製)を真空蒸着装置にて2:8の質量比となるように共蒸着し、膜厚30nmの電子輸送層を形成した。
【0264】
また、電子輸送層上に、フッ化リチウム(LiF)を真空蒸着装置にて蒸着し、膜厚1nmの電子注入層を形成した。
【0265】
さらに、電子注入層上に、アルミニウム(Al)を真空蒸着装置にて蒸着し、膜厚100nmの第2電極(陰極)を形成した。
【0266】
その後、水分濃度1ppm以下、酸素濃度1ppm以下の窒素雰囲気グローブボックス中で、乾燥剤付きのガラス製の封止管と紫外線硬化型樹脂を用いて封止し、有機EL素子を作製した。
【0267】
<有機EL素子の評価>
下記方法に従って、駆動電圧、電流効率および発光寿命(耐久性)を評価した。
【0268】
直流定電圧電源(株式会社キーエンス製、ソースメータ(source meter))を用いて、有機EL素子に対して0Vから20Vまで印可電圧を連続的に変化させて有機EL素子に通電して発光させ、このときの輝度を輝度測定装置(Topcom製、SR-3)にて測定した。
【0269】
ここで、有機EL素子の面積から単位面積あたりの電流値(電流密度)を計算し、輝度(cd/m)を電流密度(A/m)にて除算することで、電流効率(cd/A)を算出した。なお、電流効率は、電流を発光エネルギーへ変換する効率(変換効率)を示し、電流効率が高いほど有機EL素子の性能が高いことを示す。
【0270】
また、発光寿命(耐久性)は、初期輝度が6,000cd/mとなる電流値において連続駆動し、時間経過とともに減衰する発光輝度が初期輝度の80%になるまでの時間を「LT80(h)」として測定した。
【0271】
結果を下記表2に示す。なお、表2中、電流効率は、比較例1の有機EL素子の電流効率を100とした場合の相対値として表す。また、発光寿命(耐久性)は、比較例1の有機EL素子の素子寿命を100とした場合の相対値として表す。また、「*1」は、比較例化合物が溶解しなかったため、測定不可であったことを表す。また、「*2」は、EL素子を作製できなかったため、測定不可であったことを表す。
【0272】
【表2】
【0273】
表2の結果から本発明化合物1では溶解性、粘度、積層性、駆動電圧、電流効率、発光寿命に優れることが分かる。
【0274】
一方で、本発明の特徴を有しない低分子アミン化合物の比較例化合物C1は、粘度が高く、また、駆動電圧、電流効率、発光寿命の点で実施例に比べて劣るものであった。さらに、本発明の特徴を有しない低分子アミン化合物の比較例化合物C2,3,4では溶解性や積層性を満足せず、塗布で薄膜積層構造を形成する方式に不適であることが分かる。
【0275】
(実施例2)
低分子化合物として下記化合物Iを化合物1に対して20質量%で上記正孔輸送層用インクに添加した以外は実施例1と同様にして評価を行った。
【0276】
【化58】
【0277】
(比較例5)
低分子化合物として上記化合物Iを化合物1に対して20質量%で上記正孔輸送層用インクに添加した以外は比較例1と同様にして評価を行った。
【0278】
結果を下記表3に示す。なお、表3中、電流効率は、比較例1の有機EL素子の電流効率を100とした場合の相対値として表す。また、発光寿命(耐久性)は、比較例1の有機EL素子の素子寿命を100とした場合の相対値として表す。
【0279】
【表3】
【0280】
表3の結果から、正孔輸送層に低分子化合物を添加物として加えた実施例2が、低分子化合物を添加しない実施例1よりもさらに積層性が優れ、これによって駆動電圧、電流効率、発光寿命に優れることが分かる。
【符号の説明】
【0281】
100 有機エレクトロルミネッセンス素子、
110 基板、
120 第1電極、
130 正孔注入層、
140 正孔輸送層、
150 発光層、
160 電子輸送層、
170 電子注入層、
180 第2電極。
図1
図2