(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】フラックススイッチングモータ、およびそれを用いたファンモータならびにバッテリー駆動型掃除機
(51)【国際特許分類】
H02K 19/10 20060101AFI20231003BHJP
H02K 21/44 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
H02K19/10 A
H02K21/44
(21)【出願番号】P 2019071170
(22)【出願日】2019-04-03
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 昌亨
(72)【発明者】
【氏名】吉田 実
(72)【発明者】
【氏名】小坂 卓
(72)【発明者】
【氏名】中林 佑基
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0091198(US,A1)
【文献】特開2009-136150(JP,A)
【文献】特開2001-352724(JP,A)
【文献】特開2019-019825(JP,A)
【文献】特開2018-196263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 19/10
H02K 21/44
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸を中心に回転可能な複数の回転子ティースを有する回転子と、
各々が前記複数の回転子ティースの各々とエアギャップを介して対向する複数の固定子ティースと、交互に配置された複数の電機子スロットおよび複数の界磁スロットと、各々が前記複数の界磁スロットの各々に配置された複数の磁石と、各々が前記各磁石を跨いで前記各電機子スロットに巻回された電機子コイルとを有する固定子と、を備え、
前記固定子は、前記回転軸における軸方向の長さが前記磁石における前記軸方向の長さよりも短くなる一方、前記回転子は、前記軸方向の長さが前記固定子における前記軸方向の長さ
よりも短くなるように構成されて
おり、
前記回転子の上端部は前記固定子の上端部よりも下側に位置しかつ前記固定子の上端部は前記各磁石の上端部よりも下側に位置しており、
前記回転子の下端部は前記固定子の下端部よりも上側に位置しかつ前記固定子の下端部は前記各磁石の下端部よりも上側に位置している、フラックススイッチングモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のフラックススイッチングモータにおいて、
前記複数の磁石は、各々が前記各界磁スロットに収容されかつ周方向において同じ極性の磁極面が向かい合うように配置されており、
前記各磁石は、前記回転軸に対して径方向に前記回転子に近い側に第1端部を、遠い側に第2端部を配し、前記第2端部における前記周方向の幅が前記第1端部の前記周方向の幅よりも長くなるように形成されている、フラックススイッチングモータ。
【請求項3】
請求項2に記載のフラックススイッチングモータにおいて、
前記磁石の前記第1端部の、前記回転軸の回転中心を中心とする径方向の位置が、前記固定子ティースの端部における径方向の位置よりも径方向外側に位置するように配置されており、
前記第1端部の外形角部にはフィレットが設けられている、フラックススイッチングモータ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のフラックススイッチングモータにおいて、
前記磁石は、ボリューム%において40%以上の樹脂分を含有するように構成された異方性Sm-Fe-Nボンド磁石からなる、フラックススイッチングモータ。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のフラックススイッチングモータにおいて、
前記回転子ティースは、偶数個設けられており、
前記電機子スロットの数と前記回転子ティースの数との差が偶数となる、フラックススイッチングモータ。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のフラックススイッチングモータを搭載したファンモータ。
【請求項7】
請求項
6に記載のファンモータを搭載したバッテリー駆動型掃除機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フラックススイッチングモータ、およびそれを用いたファンモータならびにバッテリー駆動型掃除機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転電気機械の一種である電動機として、例えば特許文献1のようなフラックススイッチングモータが開示されている。
【0003】
特許文献1のフラックススイッチングモータは、回転軸と、回転軸に固定され、回転軸を中心に回転可能な回転子と、回転子の外周を囲むように回転子と対向して配置された固定子と、を備えている。固定子は、回転軸を中心とした周方向において界磁スロットと電機子スロットとを交互に配置した複数の固定子ティースと、各々が、周方向に隣り合う一対の電機子スロットによって挟まれる一対の固定子ティースに巻回される複数の電機子巻線と、各々が、周方向に隣り合う一対の界磁スロットによって挟まれる一対の固定子ティースに巻回される複数の界磁巻線と、各々が各界磁スロットに収容されかつ周方向において同じ極性の磁極面が向かい合うように配置された複数の界磁磁石と、を有している。
【0004】
特許文献1において、各固定子ティースは、径方向の内側に位置する先端部がエアギャップを介して回転子における各回転子ティースの先端部と対向するように構成されている。各磁石は、径方向内側の端部が各固定子ティースの先端部と面一となるように各界磁スロットに収容されている(特許文献1の
図1~
図4を参照)。
【0005】
また、特許文献2の
図1にも、特許文献1のフラックススイッチングモータと近似する構成を備えたフラックススイッチングモータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-032384号公報
【文献】特開2013-201869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、小型化かつ軽量化されたバッテリー駆動型掃除機(特にコードレスタイプのスティック掃除機)が市場で人気を博している。スティック掃除機は、電源コードがなく軽量であるため利便性が高い掃除機として実用化されている。その反面、一般的なスティック掃除機では、その吸引力が電源コード付きの掃除機の吸引力よりも劣ることから、メインの掃除機として使用し難かった。このため、コードレスタイプのスティック掃除機では、小型かつ軽量という特性を損なわずに、電源コード付きの掃除機の吸引力と同等の高い吸引力が求められている。具体的には、スティック掃除機に搭載するファンモータを高出力化することが要求される。かかる要求を実現するために、例えば特許文献1および2のような超高速回転可能なフラックススイッチングモータを備えたファンモータを、スティック掃除機に搭載することが考えられる。
【0008】
特許文献1および2のフラックススイッチングモータにおいて、出力を向上させるには、上記エアギャップを可能な限り小さくすることが望ましい。しかしながら、エアギャップをより小さくするためには、極めて高い製造精度が要求される。このため、エアギャップを極端に小さくすることは現実的に困難である。その結果、固定子の径方向内周側において、回転軸の軸方向(以下「軸方向」という)における固定子ティースの端部付近では、磁石から発生した磁束(以下「磁石磁束」という)の一部がエアギャップを越えて回転子ティースに流れにくくなる。これにより、固定子ティースの上記端部に戻る漏れ磁束が生じてしまうとともに、固定子ティースの上記端部から磁石の軸方向端部に戻る漏れ磁束も生じてしまう。このため、出力が不足してしまうとともに、結果的にモータのサイズが大きくなってしまう。
【0009】
また、一般的にフラックススイッチングモータは鉄製の構造体であり、該モータを構成する要素の中では鉄量が比較的多く用いられている。このため、フラックススイッチングモータにおいて、構成要素の鉄量を減らして超軽量化を実現することは容易ではない。
【0010】
このように、特許文献1および2のフラックススイッチングモータでは、トルクアップによる高出力化と、小型化および超軽量化とを両立させることが容易ではなかった。
【0011】
本開示は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、高出力化と、小型化および超軽量化とを両立させたフラックススイッチングモータを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本開示の第1の形態は、フラックススイッチングモータに係るものであり、フラックススイッチングモータは、回転軸と、回転軸を中心に回転可能な複数の回転子ティースを有する回転子と、を備えている。また、フラックススイッチングモータは、各々が複数の回転子ティースの各々とエアギャップを介して対向する複数の固定子ティースと、交互に配置された複数の電機子スロットおよび複数の界磁スロットと、各々が複数の界磁スロットの各々に配置された複数の磁石と、各々が各磁石を跨いで前記各電機子スロットに巻回された複数の電機子コイルとを有する固定子を備えている。そして、固定子は、回転軸における軸方向の長さが磁石における軸方向の長さよりも短くなる一方、回転子は、軸方向の長さが固定子における軸方向の長さよりも短くなるように構成されており、回転子の上端部は固定子の上端部よりも下側に位置しかつ固定子の上端部は各磁石の上端部よりも下側に位置しており、回転子の下端部は固定子の下端部よりも上側に位置しかつ固定子の下端部は各磁石の下端部よりも上側に位置していることを特徴とする。
【0013】
この第1の形態では、磁石の固定子に対するオーバーハングにより、固定子と磁石との境界付近において、軸方向における漏れ磁束が減少する。すなわち、固定子における軸方向の端面から磁石における軸方向の端面に向かう漏れ磁束のループ経路が遮断されて、固定子に流れる磁束が増加するようになる。その結果、トルクアップによる高出力化に寄与する磁束が増える。さらに、固定子の回転子に対するオーバーハングにより、エアギャップのギャップ磁束密度が増加して回転子に流れる磁束が増加し、トルクアップによる高出力化に寄与する磁束が増える。また、回転子および固定子の双方における軸方向の長さが磁石における軸方向の長さよりも短いことから、モータ全体のサイズを小さくすることが可能となり、フラックススイッチングモータが小型化される。さらに、回転子および固定子の大きさを相対的に小さくすることにより、回転子および固定子を構成する材料(例えば磁性体としての鉄材)の重量を抑えることが可能となり、フラックススイッチングモータが超軽量化される。したがって、第1の形態では、高出力化と、小型化および超軽量化とを両立させたフラックススイッチングモータを得ることができる。
【0014】
第2の形態は、第1の形態において、複数の磁石は、各々が各界磁スロットに収容されかつ周方向において同じ極性の磁極面が向かい合うように配置されており、各磁石は、回転軸に対して径方向に回転子に近い側に第1端部を、遠い側に第2端部を配し、第2端部における周方向の幅が第1端部の周方向の幅よりも長くなるように形成されていることを特徴とする。
【0015】
第2の形態では、第2端部における周方向の幅が第1端部における周方向の幅よりも長くなることから、回転軸の軸方向においてフラックススイッチングモータを平面的に見たときの磁石の外形が、回転子が位置する側に向かって先細るような略台形状となる。これにより、磁石の周方向に面する側部の表面積が相対的に大きくなり、固定子と磁石との接触面積が増加する。その結果、磁石から発生する磁石磁束が固定子に流れやすくなる。このため、回転子を励磁する上記磁石磁束が高くなり、出力をより一層高めることができる。
【0016】
第3の形態は、第2の形態において、磁石の第1端部の、回転軸の回転中心を中心とする径方向の位置が、固定子ティースの端部における径方向の位置よりも径方向外側に位置するように配置されており、第1端部の外形角部にはフィレットが設けられていることを特徴とする。
【0017】
この第3の形態では、磁石が固定子ティースと回転子ティースとの間に発生するフリンジング磁束や固定子ティースからの漏れ磁束に曝される量が減少し、不可逆減磁、すなわち磁力の低下を抑制できることから、モータの出力が安定するとともに、モータの性能低下を抑制することができる。また、フリンジング磁束が磁石を通過する際に発生する渦電流も同様に低減できることから、モータの高効率化も実現可能となる。
【0018】
第4の形態は、第1~第3のいずれか1つの形態において、磁石は、ボリューム%において40%以上の樹脂分を含有するように構成された異方性Sm-Fe-Nボンド磁石からなることを特徴とする。
【0019】
この第4の形態において、ボリューム%において40%以上の樹脂分を含有するように構成された異方性Sm-Fe-Nボンド磁石では、樹脂分の含有量が相対的に多くなる一方、鉄の含有量が相対的に少なくなる。このため、磁石が鉄を含有することに起因する磁石に生じる渦電流の損失が減少することから高効率化でき、効率アップ分の鉄量、銅量、磁石量を減らすことができる。その結果、その材料減少分の軽量化をすることができる。また、上記異方性Sm-Fe-Nボンド磁石の比重(4.5g/cm3)は、例えばNd-Fe-Bボンド磁石の比重(6.5g/cm3)よりも小さい。このため、上記異方性Sm-Fe-Nボンド磁石を適用することにより、例えばNd-Fe-Bボンド磁石と比較して、所望する強さの上記磁石磁束を得つつ、磁石としての重量の増加を抑えることが可能となる。したがって、上記異方性Sm-Fe-Nボンド磁石をフラックススイッチングモータに適用することにより、該モータをより一層軽量化することができる。
【0020】
第5の形態は、第1~第4のいずれか1つの形態において、回転子ティースは、偶数個設けられており、電機子スロットの数と回転子ティースの数との差が偶数となることを特徴とする。
【0021】
この第5の形態では、回転子ティースの数を偶数としかつ電機子スロット数と回転子ティースとの差も偶数とすることにより、偏心回転を防止することが可能となる。その結果、モータによる騒音振動を抑制することができる。
【0022】
第6の形態は、第1~第5のいずれか1つの形態のフラックススイッチングモータを搭載したファンモータであることを特徴とする。
【0023】
この第6の形態では、小型かつ軽量でありかつ高い吸引力を有するバッテリー駆動型掃除機に適用することが可能なファンモータを得ることができる。
【0024】
第7の形態は、第6の形態のファンモータを搭載したバッテリー駆動型掃除機であることを特徴とする。
【0025】
この第7の形態では、小型かつ軽量でありかつ高い吸引力を有するバッテリー駆動型掃除機を得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本開示によると、高出力化と、小型化および超軽量化とを両立させたフラックススイッチングモータを得ることができることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、実施形態に係るファンモータを示す全体斜視図である。
【
図2】
図2は、ファンモータの各構成を示す分解斜視図である。
【
図3】
図3は、フラックススイッチングモータを示す全体斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3に示したフラックススイッチングモータにおいて回転軸および電機子コイルを省略した状態の構成を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、
図4に示したフラックススイッチングモータにおいてホルダ部材を省略した状態の構成を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、
図5に示した構成の左側部分を拡大して示す部分拡大平面図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係るフラックススイッチングモータの変形例を示す
図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0029】
(ファンモータ)
図1は、本開示の実施形態に係るフラックススイッチングモータ10を備えたファンモータ1の全体を示している。このファンモータ1は、主にコードレスタイプのスティック掃除機などのバッテリー駆動型掃除機(図示せず)に搭載される。本実施形態に係るフラックススイッチングモータ10は、インナーロータ型のフラックススイッチングモータとして構成されている。
【0030】
なお、以下の説明では、
図1および
図2に示した後述のファンカバー4が位置する側を上側(上方)とし、後述の配線基板5が位置する側を下側(下方)としてファンモータ1およびフラックススイッチングモータ10における上下方向(後述する回転軸20の軸方向Pに相当)の位置関係を表すものとする。なお、このような位置関係は、ファンモータ1を搭載したバッテリー駆動型掃除機における実際の上下方向とは無関係である。
【0031】
図1および
図2に示すように、ファンモータ1は、ハウジング2と、インペラ3と、ファンカバー4と、配線基板5と、フラックススイッチングモータ10と、を備えている。本実施形態において、ファンモータ1は、吸込仕事率が250W以上となるのが好ましい。
【0032】
ハウジング2は、第1ハウジング2aおよび第2ハウジング2bを有している。第1ハウジング2aは、フラックススイッチングモータ10の上側に配置されている。一方、第2ハウジング2bは、フラックススイッチングモータ10の下側に配置されている。そして、ハウジング2は、第1ハウジング2aと第2ハウジング2bとが互いに組み合わされた状態でフラックススイッチングモータ10の全体を覆うように構成されている。
【0033】
インペラ3は、第1ハウジング2aの上側に配置されている。インペラ3は、本体部3aを有している。本体部3aは、略円錐形状に形成されている。本体部3aの平面視略中央には、後述の回転軸20を嵌合するための嵌合孔3bが形成されている。本体部3aの外周面には、複数の羽根部3c,3c,…が設けられている。
【0034】
ファンカバー4は、インペラ3をその上方から覆うように第1ハウジング2aの上側に配置されている。ファンカバー4の平面視略中央には、上下方向に向かって略円形状に開口した吸気口4aが形成されている。
【0035】
配線基板5は、第2ハウジング2bの下側に配置されている。配線基板5は、フラックススイッチングモータ10を構成する後述の各電機子コイル50と電気的に接続されている。配線基板5の下側には、コンデンサ5a,5a,…が設けられている。また、配線基板5には、後述する各回転子ティース33の位置を検出しかつ後述するA相コイル51,51,…およびB相コイル52,52,…に対する通電状態の制御を行うための制御回路(図示せず)が設けられている。
【0036】
(フラックススイッチングモータ)
フラックススイッチングモータ10は、例えば2相交流によるフラックススイッチングモータである。フラックススイッチングモータ10は、外径が100mm以下、全高が50mm以下であるように構成されている。
【0037】
(回転軸)
図1~
図3に示すように、フラックススイッチングモータ10は、回転軸20を備えている。回転軸20は、符号Pにより示した一点鎖線の方向(以下「軸方向P」という)に沿って延びるように形成されている。回転軸20は、後述する回転子30の孔部32に挿入された状態で回転子30に固定されている。
【0038】
図2に示すように、回転軸20には、軸受け21,21が設けられている。軸受け21,21は、回転子30の上側および下側のそれぞれに配置されている。
【0039】
(回転子)
図2に示すように、フラックススイッチングモータ10は、回転子30を備えている。回転子30は、鉄などの磁性体により形成されている。回転子30は、回転軸20を中心として回転軸20の周方向(以下「周方向」という)に回転可能となるように構成されている。
【0040】
図3~
図7に示すように、回転子30は、ヨーク部31と、孔部32と、複数の回転子ティース33,33,…と、を有している。
【0041】
孔部32は、ヨーク部31の平面視略中心に形成されていて、軸方向Pに向かって貫通している。ヨーク部31は、孔部32に回転軸20が挿入された状態で回転軸20に固定されている。
【0042】
各回転子ティース33は、例えばヨーク部31と一体形成されていて、ヨーク部31から回転軸20を中心とする径方向(以下「径方向」という)の外側に向かって突出している。回転子ティース33,33,…は、偶数個(図示例では6つ)設けられている。そして、後述する電機子スロット46,46,…の数と回転子ティース33,33,…の数との差が偶数となっている。
【0043】
回転子ティース33,33,…は、周方向に間隔をあけて配置されている。具体的に、回転子ティース33,33,…は、周方向において各々の間隔が60°となるように等間隔に配置されている。
【0044】
(固定子)
図2に示すように、フラックススイッチングモータ10は、固定子40を備えている。固定子40は、鉄などの磁性体により形成されている。固定子40は、回転子30の外周を囲むように対向して配置されている。
【0045】
図3および
図4に示すように、固定子40は、固定子コア42を有している。固定子コア42には、ホルダ部材41が取り付けられている。固定子コア42は、後述する分割ステータ43,43,…がホルダ部材41に組み合わされた状態で平面視略円環状となるように構成されている。なお、ホルダ部材41の上面には、後述する各電機子コイル50を各固定子ティース44に保持するための爪部41a,41aが形成されている。
【0046】
図5および
図6に示すように、固定子コア42は、複数(図示例では8つ)の分割ステータ43,43,…からなる。各分割ステータ43は、平面視で略C字状に形成されている。各分割ステータ43は、ヨーク部43aと、一対の突出部43b,43cと、を含む。
【0047】
ヨーク部43aは、径方向の外側(すなわち、各回転子ティース33が位置する側の反対側)に配置されている。ヨーク部43aは、その外周面が固定子コア42の外周方向に沿うように湾曲形成されている。各突出部43b,43cは、ヨーク部43aにおける周方向の端部から径方向の内側に向かって突出している。
【0048】
図3および
図4に示すように、固定子40には、複数の固定子ティース44,44,…が設けられている。各固定子ティース44は、径方向の外側から内側に向かって突出している。固定子ティース44,44,…は、周方向に間隔をあけて配置されている。本実施形態において、各固定子ティース44は、一方の分割ステータ43の突出部43bと、この突出部43bと周方向に対向する他方の分割ステータ43の突出部43cとが一対となるように構成されている。
【0049】
図6および
図7に示すように、各固定子ティース44は、径方向の内側に位置する先端部44aがエアギャップGを介して各回転子ティース33の先端部33aと対向するように形成されている。すなわち、各固定子ティース44は、その先端部44aが各回転子ティース33の先端部33aと接触しないように配置されている。このエアギャップGにより、各固定子ティース44と各回転子ティース33との間に磁束の受け渡しが可能となっている。
【0050】
図5および
図6に示すように、固定子40には、複数の界磁スロット45,45,…が設けられている。各界磁スロット45は、各固定子ティース44における周方向略中央の位置に形成されている。具体的に、各界磁スロット45は、一方の分割ステータ43の突出部43bと、この突出部43bと周方向に対向する他方の分割ステータ43の突出部43cとの間に位置する空間部として構成されている。
【0051】
図4~
図6に示すように、固定子40には、複数の電機子スロット46,46,…が設けられている。各電機子スロット46は、周方向において隣り合う固定子ティース44,44同士の間に配置されている。具体的に、各電機子スロット46は、一つの分割ステータ43における突出部43b,43c同士の間に位置する空間部として構成されている。そして、電機子スロット46,46,…は、各々が周方向において各界磁スロット45と交互に配置されている。
【0052】
なお、本実施形態では、2相モータで、回転子ティース33,33,…の数量が6つのため6極対、すなわち12極であり、電機子スロット46,46,…の数量が8つであることから、分数スロットの構成であるともに、回転子ティース33数も電機子スロット46数もともに偶数、かつ、その差も偶数の構成となっている。
【0053】
(電機子コイル)
図2および
図3に示すように、フラックススイッチングモータ10は、複数の電機子コイル50,50,…を備えている。各電機子コイル50は、平角線からなり、エッジワイズ巻きされている。そして、電機子コイル50,50,…は、回転子30を回転駆動させるための磁界(以下「回転磁界」という)を形成するように構成されている。具体的に、各電機子コイル50に二相の交流電流が供給されることにより上記回転磁界が形成され、該回転磁界が各固定子ティース44の先端部44aから発生する。
【0054】
複数の電機子コイル50,50,…は、固定子40に設けられている。具体的に、各電機子コイル50は、周方向において隣り合う一対の電機子スロット46,46同士の間に位置する界磁スロット45を跨ぐように固定子ティース44に巻回されている。
【0055】
電機子コイル50,50,…は、複数(図示例では4つ)のA相コイル51,51,…および複数(図示例では4つ)のB相コイル52,52,…からなる。A相コイル51およびB相コイル52は、周方向において交互に配置されている。
【0056】
ここで、本実施形態では、A相コイル51が時計回りに巻回され、このA相コイル51に隣り合うB相コイル52も時計回りに巻回されている。また、時計回りに巻回されたB相コイル52に隣り合うA相コイル51は反時計回りに巻回され、このA相コイル51に隣り合うB相コイル52も反時計回りに巻回されている。さらに、反時計回りに巻回されたB相コイル52に隣り合うA相コイル51は時計回りに巻回され、このA相コイル51に隣り合うB相コイル52も時計回りに巻回されている。
【0057】
(磁石)
固定子40は、回転子30を界磁するための複数(図示例では8つ)の磁石60,60,…を有している。各磁石60は、各界磁スロット45に収容されている。各磁石60は、ボリューム%において40%以上の樹脂分を含有するように構成された異方性Sm-Fe-Nボンド磁石からなる。
【0058】
ここで、例えばA相コイル51,51,…に交流電流が流れると、各A相コイル51が巻回された各固定子ティース44が電磁石となって固定子ティース44近傍に位置する回転子ティース33を吸引するようになる。
【0059】
次に、磁石60は、第1端部61および第2端部62を含む。
【0060】
第1端部61は、各磁石60が各界磁スロット45に収容された状態において、各固定子ティース44の先端部44aよりも径方向の外側(各回転子ティース33が位置する側の反対側)に位置するように形成されている。すなわち、各磁石60は、平面視において各固定子ティース44の先端部44aよりも径方向の外側に位置している。言い換えると、各磁石60は、第1端部61が各固定子ティース44の先端部44aと面一にならないように各界磁スロット45に収容されている。
【0061】
第1端部61の周方向位置は、回転子ティース33に対向する固定子ティース44の先端部44aよりも回転子ティース33からの距離が長くなるように配置されている。そして、第1端部61の外形角部にはフィレットが設けられている。
【0062】
第2端部62は、第1端部61よりも径方向の外側(各回転子ティース33が位置する側の反対側)に位置するように形成されている。
【0063】
周方向に隣り合う磁石60,60同士は、周方向において同じ極性の磁極面が互いに向かい合うように配置されている。これにより、周方向に隣り合う磁石60,60同士では、一方の磁石60が他方の磁石60と反発するようになっている。
【0064】
各磁石60は、平面視において径方向の外側から内側に向かって先細るように形成されている。具体的に、
図6に示すように、各磁石60は、第2端部62における周方向の幅(
図6に示した寸法W2)が第1端部61における周方向の幅(
図6に示した寸法W1)よりも大きくなるように形成されている。
【0065】
[本実施形態の特徴的構成]
本実施形態の特徴として、
図7に示すように、固定子40は、軸方向Pの長さ(
図7に示した寸法L2)が磁石60における軸方向Pの長さ(
図7に示した寸法L3)よりも短くなるように構成されている。具体的に、各分割ステータ43は、
図7の紙面上において上端部が磁石60の上端部よりも下側に位置しかつ下端部が磁石60の下端部よりも上側に位置するように形成されている。
【0066】
一方、回転子30は、軸方向の長さ(
図7に示した寸法L1)が固定子40における軸方向Pの長さ(L2)よりも短くなるように構成されている。具体的に、回転子30は、
図7の紙面上において上端部が固定子40の上端部よりも下側に位置しかつ下端部が固定子40の下端部よりも上側に位置するように形成されている。
【0067】
[実施形態の作用効果]
上述したように、本実施形態において、固定子40は、回転軸20における軸方向Pの長さが磁石60における軸方向Pの長さよりも短くなる一方、回転子30は、軸方向Pの長さが固定子における軸方向Pの長さ以下となるように構成されている。かかる構成では、磁石60の固定子40に対するオーバーハングにより、固定子40と磁石60との境界付近において、軸方向Pにおける漏れ磁束が減少する。すなわち、固定子40における軸方向Pの端面から磁石60における軸方向Pの端面に向かう漏れ磁束のループ経路が遮断されて、固定子40に流れる磁束が増加するようになる。その結果、トルクアップによる高出力化に寄与する磁束が増える。さらに、固定子40の回転子30に対するオーバーハングにより、エアギャップGのギャップ磁束密度が増加して回転子30に流れる磁束が増加し、トルクアップによる高出力化に寄与する磁束が増える。また、回転子30および固定子40の双方における軸方向Pの長さが磁石60における軸方向Pの長さよりも短いことから、モータ全体のサイズを小さくすることが可能となり、フラックススイッチングモータ10が小型化される。さらに、回転子30および固定子40の大きさを相対的に小さくすることにより、回転子30および固定子40を構成する材料(例えば磁性体としての鉄材)の重量を抑えることが可能となり、フラックススイッチングモータ10が超軽量化される。したがって、本実施形態では、高出力化と、小型化および超軽量化とを両立させたフラックススイッチングモータ10を得ることができる。
【0068】
また、複数の磁石60,60,…は、各々が各界磁スロット45に収容されかつ周方向において同じ極性の磁極面が向かい合うように配置されており、各磁石60は、回転軸20に対して径方向に回転子30に近い側に第1端部61を、遠い側に第2端部62を配し、第2端部62における周方向の幅が第1端部61の周方向の幅よりも長くなるように形成されている。すなわち、回転軸20の軸方向においてフラックススイッチングモータ10を平面的に見たときの磁石60の外形が、回転子30が位置する側に向かって先細るような略台形状となる。これにより、磁石60の周方向に面する側部の表面積が相対的に大きくなり、固定子40と磁石60との接触面積が増加する。その結果、磁石60から発生する磁石磁束が固定子40に流れやすくなる。このため、回転子30を励磁する上記磁石磁束が高くなり、出力をより一層高めることができる。
【0069】
また、磁石60の第1端部61の周方向位置は、回転子ティース33に対向する固定子ティース44の端部よりも回転子ティース33からの距離が長くなるように配置されており、第1端部61の外形角部にはフィレットが設けられている。これにより、磁石60が固定子ティース44と回転子ティース33との間に発生するフリンジング磁束や固定子ティース44からの漏れ磁束に曝される量が減少し、不可逆減磁、すなわち磁力の低下を抑制できることから、フラックススイッチングモータ10の出力が安定するとともに、フラックススイッチングモータ10の性能低下を抑制することができる。また、フリンジング磁束が磁石60を通過する際に発生する渦電流も同様に低減できることから、フラックススイッチングモータ10の高効率化も実現可能となる。
【0070】
また、ボリューム%において40%以上の樹脂分を含有するように構成された異方性Sm-Fe-Nボンド磁石では、樹脂分の含有量が相対的に多くなる一方、鉄の含有量が相対的に少なくなる。このため、磁石60が鉄を含有することに起因する磁石60に生じる渦電流の損失が減少することから高効率化でき、効率アップ分の鉄量、銅量、磁石量を減らすことができる。その結果、その材料減少分の軽量化をすることができる。また、上記異方性Sm-Fe-Nボンド磁石の比重(4.5g/cm3)は、例えばNd-Fe-Bボンド磁石の比重(6.5g/cm3)よりも小さい。このため、上記異方性Sm-Fe-Nボンド磁石を適用することにより、例えばNd-Fe-Bボンド磁石と比較して、所望する強さの上記磁石磁束を得つつ、磁石60としての重量の増加を抑えることが可能となる。したがって、上記異方性Sm-Fe-Nボンド磁石をフラックススイッチングモータ10に適用することにより、該モータをより一層軽量化することができる。
【0071】
また、本実施形態では、外径が100mm以下かつ全高が50mm以下であるフラックススイッチングモータ10を、小型および軽量でありかつ高い吸引力が要求されるバッテリー駆動型掃除機に搭載するためのファンモータ1の構成部品として適用することができる。
【0072】
また、本実施形態では、回転子ティース33,33,…の数を偶数としかつ電機子スロット46,46,…の数と回転子ティース33,33,…の数との差も偶数とすることにより、偏心回転を防止することが可能となる。その結果、モータによる騒音振動を抑制することができる。
【0073】
また、本実施形態では、小型かつ軽量でありかつ高い吸引力を有するバッテリー駆動型掃除機に適用することが可能なファンモータ1を得ることができる。
【0074】
また、本実施形態では、ファンモータ1の吸込仕事率が250W以上であることから、該ファンモータ1を高い吸引力が要求されるバッテリー駆動型掃除機に適用することができる。
【0075】
さらに、本実施形態に係るファンモータ1を搭載したバッテリー駆動型掃除機では、小型かつ軽量でありかつ高い吸引力を発揮ことができる。
【0076】
[実施形態の変形例]
上記実施形態では、2相交流によるフラックススイッチングモータ10を示したが、この形態に限られない。例えば、フラックススイッチングモータ10は、
図8に示した変形例のように、単相交流による構成であってもよい。具体的に、この変形例では、回転子30および電機子コイル50,50,…の構成が上記実施形態のものと一部異なっている。なお、この変形例におけるその他の構成については、上記実施形態と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0077】
図8に示すように、この変形例の各電機子コイル50は、単相の交流電流が供給されるように構成されている。すなわち、この変形例の電機子コイル50,50,…には、上記実施形態のようなA相コイルおよびB相コイルという区別がない。
【0078】
また、この変形例の回転子30において、回転子ティース33,33,…は、上記実施形態と異なり、4つ設けられている。具体的に、回転子ティース33,33,…は、周方向において各々の間隔が90°となるように等間隔に配置されている。このような変形例では、上記実施形態との対比において回転子ティース33,33,…の極数が少なくなることから、モータ駆動におけるモータコイルへの通電を切り替えるスイッチング周波数を下げることが可能となる。これにより、マイコンの処理能力を下げることや、FETなどパワー素子のスイッチング損失が低減される.その結果、モータにおける製造コストが抑えられるとともに、モータの効率化を高めることができる。
【0079】
そして、この変形例であっても、単相交流によるフラックススイッチングモータ10が、第1端部61を含む各磁石60および上記実施形態の特徴的構成(
図7参照)を備えていれば、上記実施形態と同様の作用効果を奏し得る。
【0080】
[その他の実施形態]
上記実施形態では、フラックススイッチングモータ10を、インナーロータ型として構成した形態を示したが、この形態に限られない。すなわち、フラックススイッチングモータ10を、アウターロータ型として構成してもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、各磁石60がボリューム%において40%以上の樹脂分を含有するように構成された異方性Sm-Fe-Nボンド磁石からなる形態を示したが、この形態に限られない。
【0082】
また、上記実施形態では、固定子コア42が複数の分割ステータ43,43,…からなる形態を示したが、この形態に限られない。すなわち、固定子コア42は、分割ステータ43,43,…を一体的に形成したものであってもよい。
【0083】
以上、本開示についての実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態のみに限定されず、発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本開示は、コードレスタイプのスティック掃除機などのバッテリー駆動型掃除機に搭載するためのフラックススイッチングモータ、およびそれを用いたファンモータならびにバッテリー駆動型掃除機として産業上の利用が可能である。
【符号の説明】
【0085】
1:ファンモータ
10:フラックススイッチングモータ
20:回転軸
30:回転子
33:回転子ティース
40:固定子
42:固定子コア
43:分割ステータ
43a:ヨーク部
43b,43c:突出部
45:界磁スロット
46:電機子スロット
50:電機子コイル
51:A相コイル
52:B相コイル
60:磁石
61:第1端部
62:第2端部
P:軸方向
G:エアギャップ