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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】多層シート及びそれを用いた容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20231003BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20231003BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B32B27/30 B
B32B5/18
B32B27/36
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019077680
(22)【出願日】2019-04-16
(65)【公開番号】P2020175536
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】富澤 孝
(72)【発明者】
【氏名】光橋 潤
(72)【発明者】
【氏名】山田 寛明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
(72)【発明者】
【氏名】神巻 恵理
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-273147(JP,A)
【文献】特開2006-328318(JP,A)
【文献】特開2015-150877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
B65D 65/00 - 65/46
C08J 9/00 - 9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層シート両面の最表面部に、スチレン系樹脂又はプロピレン系樹脂からなる最表面層と、多層シートの中間部に、ポリ乳酸とスチレン系樹脂とを含む樹脂組成物からなる中芯層と、を含み、共押出し成形により一体化された層構造を有し、
前記中芯層が、発泡倍率1.1倍以上2.0倍以下の発泡層であり、
前記中芯層の樹脂組成物における、ポリ乳酸とスチレン系樹脂の合計100質量部に対するポリ乳酸の質量部数が、15質量部以上50質量部以下である、多層シート。
【請求項2】
中芯層の樹脂組成物における、ポリ乳酸とスチレン系樹脂の合計質量の割合が、前記中芯層の樹脂組成物全体の質量の80質量%以上99質量%以下である、請求項記載の多層シート。
【請求項3】
中芯層の厚さの割合が、多層シート全体の厚さに対して50%以上90%以下である、請求項1又は2記載の多層シート。
【請求項4】
ダイス中で、多層シートの全ての層を一体化させて共押出し成形する、請求項1~のいずれか一項記載の多層シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項記載の多層シートを成形した容器。
【請求項6】
食品用の容器である、請求項記載の容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層シート及びそれを用いた容器、前記多層シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からスーパーマーケット、コンビニエンスストア、デパート、弁当店等の店舗に
おいて、生鮮食料品や加工食品等を販売する際の包装に使用される容器として、合成樹脂製のシートを成形して得た容器が多く用いられている。
【0003】
前記生鮮食料品や加工食品等を包装する合成樹脂製シートの容器は、一般には1回の使用後に焼却処分され、また自然環境中への廃棄や散逸も見逃せない状況であるため、近年では石油資源節約及び環境保護の観点から、合成樹脂そのものの使用量を減らす、或いは環境への負荷が少ない素材を、容器全体ではないにせよ、その一部に用いることが推奨されてきている。
【0004】
環境への負荷を従来より減らすことができる素材として、当分野では植物を原料とするポリ乳酸が注目されている。但しポリ乳酸のみでは成形加工性が不十分であり、例えばポリ乳酸のシートを成形して食品用容器の製造を試みた場合に、目的とする容器の形に満足に賦形することには困難さが伴う。そのため、例えばポリ乳酸とスチレン系樹脂とを含む種々の樹脂組成物が開発され、それらは例えば特許文献1~7に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-328318号公報
【文献】特開2014-189748号公報
【文献】特開2016-086251号公報
【文献】特開2016-199652号公報
【文献】特開2016-199654号公報
【文献】特開2018-048248号公報
【文献】国際公開第2016/080134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
合成樹脂製のシートをさらに成形加工して得る容器、特に食品に直接接触する、例えば惣菜用の容器を製造する場合においては、衛生安全上の観点から、素材であるシートの表面に異物が付着してないことが前提である。合成樹脂を用いてシートを製造する場合には、合成樹脂やそれに含まれる添加剤に由来する粘着性異物(「目やに」と呼ばれることもある)が発生し、シート成膜で用いているダイスの吐出口(リップ)周縁部に溜まることがあり、シート成膜を進めると共に粘着性異物はしだいに滞留量を増して、ついには成膜しているシートに付着してその表面を汚染することがある。特にポリ乳酸を含む原料を用いると、粘着性異物の発生量は一般に増える傾向があり、シート表面を汚染する危険性がより高まる。そのため、リップ周縁部に滞留している粘着性異物を除去する作業の頻度も増え、生産効率も低下する。このような状況下で、ポリ乳酸を主要な原料として用いるが、粘着性異物の発生を抑制できるシート、前記シートを用いた容器の提供、及び前記シートの適切な製造方法の提供が求められていた。
【0007】
本発明者はかかる状況に鑑み、課題を解決するための手段を検討し、本発明の完成に至った。即ち本発明は、以下に示す(1)~(8)である。
(1)多層シート両面の最表面部に、スチレン系樹脂又はプロピレン系樹脂からなる最表面層と、多層シートの中間部に、ポリ乳酸とスチレン系樹脂とを含む樹脂組成物からなる中芯層と、を含む層構造を有する多層シート。
(2)中芯層の樹脂組成物における、ポリ乳酸とスチレン系樹脂の合計100質量部に対するポリ乳酸の質量部数が、15質量部以上50質量部以下である、(1)記載の多層シート。
(3)中芯層の樹脂組成物における、ポリ乳酸とスチレン系樹脂の合計質量の割合が、前記中芯層の樹脂組成物全体の質量の80質量%以上99質量%以下である、(1)又は(2)記載の多層シート。
(4)中芯層が、発泡倍率1.1倍以上2.0倍以下の発泡層である、(1)~(3)いずれか一項記載の多層シート。
(5)中芯層の厚さの割合が、多層シート全体の厚さに対して50%以上90%以下である、(1)~(4)いずれか一項記載の多層シート。
(6)ダイス中で、多層シートの全ての層を一体化させて共押出し成形する、(1)~(5)いずれか一項記載の多層シートの製造方法。
(7)(1)~(5)いずれか一項記載の多層シートを成形した容器。
(8)食品用の容器である、(7)記載の容器。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施により、環境負荷の少ないポリ乳酸を主要な成分として含み、衛生安全上の危険性も低減された、特に食品容器の用途に適した多層シートを提供することができる。さらにまた本発明の多層シートに適する製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。但し、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く限定されて解釈されることはない。
【0010】
<層の構成>
本発明の多層シートは、多層シート両面の最表面部に、スチレン系樹脂又はプロピレン系樹脂からなる最表面層と、多層シートの中間部に、ポリ乳酸とスチレン系樹脂とを含む樹脂組成物からなる中芯層と、を含む層構造を有する多層シートである。
【0011】
本発明の多層シートにおける最表面層は、シート両面の2層の最表面層を指し、前記最表面層は、スチレン系樹脂又はプロピレン系樹脂のいずれかであればよく、必ずしも2層が同一である必要はない。即ち、例えば一方の面の最表面層がスチレン系樹脂であり、反対側の面の最表面層はプロピレン系樹脂であってもよい。また例えば、一方側の面の最表面層が例えば一般的なポリスチレン(以降GPPSと記す)であり、反対側の面の最表面層が同じスチレン系樹脂であるハイインパクトポリスチレン(以降HIPSと記す)であってもよい。もちろん最表面層の両方が、例えばGPPSであっても許容される。
【0012】
本発明でいう多層シートの中間部とは、多層シートから両最表面層を除いた部分である。本発明の多層シートでは、前記多層シートの中間部に、ポリ乳酸とスチレン系樹脂とを含む樹脂組成物からなる中芯層を含んでいることも要件のひとつである。前記中芯層は、ポリ乳酸とスチレン系樹脂とを含む樹脂組成物からなる層であればよい。ポリ乳酸とスチレン系樹脂とを含む樹脂組成物からなる層であれば、複数の中芯層が含まれていてもよい。また、中芯層を複数含む場合、それらの化学組成は同一でもよいし、異なっていても良い。さらにシート中間部には、必要に応じてポリ乳酸とスチレン系樹脂のいずれかまたはいずれも含まない層が存在することも可能である。なお本発明の多層シートの最も簡単な層構成は、中芯層の両面にそれぞれ同じ化学組成を有する層が1層設けられた、いわゆる2種3層の層構成を有する多層シートである。この場合は最も簡単な層構成であるが故に、製造容易性の観点からは好ましい。
【0013】
<スチレン系樹脂>
本発明の多層シートの最表面層は、スチレン系樹脂又はプロピレン系樹脂からなる。前記スチレン系樹脂としては、スチレン、メチルスチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレンの群から選ばれる1種または2種以上のスチレン系単量体を重合または共重合した樹脂や、HIPSやスチレンとブタジエンの共重合体(以降SBCと記す)として知られているゴム変性したスチレン系樹脂や、前記スチレン系単量体と、前記スチレン系単量体に共重合が可能な単量体、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシルの群から選ばれる1種または2種以上の単量体を共重合させた樹脂が挙げられる。これらの中で、好ましいスチレン系樹脂としては、GPPS、HIPS、SBC、MS樹脂、MBS樹脂等が挙げられ、さらにこれら樹脂を混合した樹脂組成物が挙げられる。特に好ましいスチレン系樹脂は、GPPS及びHIPSである。なお最表面層を形成するスチレン系樹脂には、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲の量で、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑材、可塑剤など各種添加剤を含むことが可能である。これら各種添加剤は、予めスチレン系樹脂中に含まれていても良いし、多層シートを成膜する時点で新たに添加しても良い。
【0014】
前記スチレン系樹脂の分子量については特に制限はないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法を用い、標準分子量を有するGPPSを用いた検量線からの換算により算出した重量平均分子量(Mw)としては、1万以上50万以下であることが好ましい。特に好ましくは、Mwは3万以上40万以下である。Mwが50万を超えるスチレン系樹脂は流動性が低いため、シート成形性が低下して、シート表面に鮫肌やモアレ模様が発生しやすくなる傾向がある。一方、Mwが1万未満だとシートの耐熱性や耐衝撃性が劣るため好ましくない。
【0015】
また、前記スチレン系樹脂の溶融時の流動性の指標として、JIS K7210のH法に準拠した方法で測定される200℃、5kgfにおけるMFR値が1(g/10分)以上15(g/10分)以下であることが好ましく、2(g/10分)以上8(g/10分)以下であることがさらに好ましい。
【0016】
<プロピレン系樹脂>
本発明の多層シートの最表面層は、スチレン系樹脂又はプロピレン系樹脂からなる。前記プロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、即ちプロピレンとエチレン及び/又はブテン-1のランダム共重合体(但し分子中、プロピレン単量体単位が数的に多いもの)、プロピレンブロック共重合体、即ちプロピレン単独重合体とエチレン-ポリプロピレン重合体との混合物が挙げられる。また前記種類の異なるプロピレン系樹脂をさらに混ぜて用いることも可能である。特に好ましいプロピレン系樹脂は、プロピレン単独重合体である。なおこれらプロピレン系樹脂にも、必要に応じて着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑材、可塑剤など各種添加剤を添加することができる。
【0017】
前記プロピレン系樹脂の分子量については特に制限はないが、溶融時の流動性の指標として、JIS K7210のM法に準拠した方法で測定される230℃、2.16kgfにおけるMFR値が0.2(g/10分)以上8(g/10分)以下であることが好ましく、0.3(g/10分)以上5(g/10分)以下であることがさらに好ましい。
【0018】
<中芯層、ポリ乳酸>
本発明の多層シートの中芯層は、ポリ乳酸とスチレン系樹脂とを含む樹脂組成物からなる。本発明の多層シートの中芯層に用いることができるポリ乳酸は、乳酸が多数エステル結合してできた高分子である。乳酸には1つの不斉炭素に結合する官能基の立体配置の相違により、L体及びD体の2種の乳酸が存在し、従って、ポリ乳酸にもD体またはL体の単量体単位がほぼ単独で結合しているもの、D体単量体単位及びL体単量体単位が混合して結合しているもの、さらにD体単量体単位とL体単量体単位の結合についても、それらがランダムに結合しているもの、交互に結合しているもの、ブロック状に結合しているもの、いずれも用いることが可能である。但し、耐熱性の観点からは、L体単量体単位を95質量%以上含むポリ乳酸であることが好ましい。なおポリ乳酸は、植物由来の原料から合成することができるカーボンニューラルな化合物として、環境保護の観点から近年注目を集めており、従って本発明で用いるポリ乳酸も、植物由来のポリ乳酸であることが好ましい。ポリ乳酸の分子量は特に限定は無く、スチレン系樹脂と溶融混合できればよいが、一般にはMwが5万以上のポリ乳酸が用いられる。なお、最表面層と中芯層とに用いるポリ乳酸は、必ずしも同一である必要はないが、特に必要がなければ、同一であることが好ましい。
【0019】
<中芯層、スチレン系樹脂>
本発明の多層シートの中芯層は、ポリ乳酸とスチレン系樹脂とを含む樹脂組成物からなる。本発明の多層シートの中芯層に用いることができるスチレン系樹脂は、最表面層で使用可能な前記スチレン系樹脂と同じものを同様に用いることができる。特に好ましいスチレン系樹脂は、GPPS及びHIPSである。なお、最表面層に用いたスチレン系樹脂と、中芯層に用いたスチレン系樹脂とは、必ずしも、同じものである必要はない。また、中芯層のスチレン系樹脂のMwも、1万以上50万以下であることが好ましい。特に好ましくは、Mwは3万以上40万以下である。Mwが1万未満のスチレン系樹脂を用いると、シートの耐熱性や耐衝撃性が劣るため好ましくなく、一方、Mwが50万を超えるスチレン系樹脂は流動性が低いため、シート成形性が低下して、シート膜厚のバラツキ幅が広がってしまう課題が新たに生じる。
【0020】
<中芯層におけるポリ乳酸とスチレン系樹脂合計質量に対するポリ乳酸の質量割合>
本発明の多層シートは、さらに中芯層において、中芯層を構成する樹脂組成物に含まれるポリ乳酸とスチレン系樹脂の合計100質量部に対するポリ乳酸の質量部数が、15質量部以上50質量部以下、好ましくは20質量部以上45質量部以下である、多層シートであることが好ましい。ポリ乳酸の質量部数が50質量部を超えると耐熱性が低下するため好ましくなく、一方15質量部未満ではポリ乳酸の割合が少なく、環境保護の目的からは逸脱してしまう。
【0021】
<中芯層の組成物全体に占めるポリ乳酸+スチレン系樹脂の質量割合>
本発明の多層シートでは、さらに中芯層を構成する樹脂組成物においては、ポリ乳酸とスチレン系樹脂以外に、必要に応じて着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑材、可塑剤、相溶化材、流動化材、ブロッキング防止材、結晶核材を含む樹脂組成物であることが可能であり、中芯層を構成する樹脂組成物に含まれるポリ乳酸とスチレン系樹脂の合計質量の割合が、中芯層を構成する樹脂組成物全体の質量の80質量%以上99質量%以下である、好ましくは85質量%以上95質量%以下である多層シートとすることができる。特に前記相溶化材として、具体的には、例えばスチレンとブタジエンのブロック共重合体、ポリブタジエンにメタクリル酸メチル及びスチレンをグラフト共重合させたグラフト共重合体、メタクリル酸メチルとn-アクリル酸ブチルのブロック共重合体、等を挙げることができる。
【0022】
また、前記中芯層を構成するポリ乳酸とスチレン系樹脂とを含む樹脂組成物の、溶融時の流動性の指標として、JIS K7210のH法に準拠した方法で測定される200℃、5kgfにおけるMFR値は、1(g/10分)以上15(g/10分)以下であることが好ましく、5(g/10分)以上12(g/10分)以下であることがさらに好ましい。
【0023】
<発泡倍率>
本発明の多層シートでは、各層における発泡状態には特に限定はなく、目的とする用途に応じて発泡させても良いし、発泡させなくても良い。また特定の層のみを発泡層とすることも可能である。発泡倍率は1.1倍以上10倍以下、好ましくは1.1倍以上5倍以下、より好ましくは1.1倍以上2倍以下が一般的である。発泡させる場合には、泡は連通している泡であってもよいし、独立泡であっても良く、また、両者が混在する発泡状態であっても良い。例えば中芯層を発泡させることにより、より軽量で、熱伝導率がより低い多層シートや容器を得ることができるようになる。また、例えば最表面層を発泡させない層とすれば、よりシート表面の平滑性が高く、印刷適正や光沢に優れた多層シートを得ることができる。
【0024】
多層シート中の特定の層を発泡層とする場合には、多層シートの成膜時に、発泡層とする層の原料樹脂とは別に、さらに発泡剤を添加して多層シートを成膜するのが好ましい製造方法である。発泡剤の種類に特に限定はないが、無機系化学発泡剤や有機系化学発泡剤が好ましく用いられる。また発泡剤の添加方法にも特に限定はなく、例えば発泡剤を単独で添加することも、また発泡剤を含む樹脂マスターバッチを添加することも可能である。また発泡剤の添加量は、多層シートの目標とする厚さや発泡倍率により、適宜調整することができるが、通常は中芯層の樹脂組成物100質量部に対して、0.3以上3質量部以下の範囲で添加する。
【0025】
本発明の多層シートでは、シート全体の厚さについて特に限定はないが、全体の厚さは、0.2mm以上3.0mm以下であることが好ましく、0.4mm以上1.5mm以下であることがより好ましい。本発明の多層シートは、食品容器用のシート素材として好ましく用いられるが、全体の厚さが0.2mm未満であると、絶対的な強度が不足する。一方3.0mmを超えるとその厚さの故に賦形性、柔軟性が低下するため、食品容器への成形加工が一般的に困難になり、またシートをロール状に巻くことも困難になる。
【0026】
また、本発明の多層シートでは、シート全体の厚さに対する各層の厚さの割合について特に限定はない。ただし、本発明の多層シートの中芯層は、特にポリ乳酸を含むことを必須としている層であり、中芯層はシート全体の厚さに対して50%以上90%以下であることが好ましい。中芯層の厚さ割合が50%未満であると、ポリ乳酸の割合が少なく、環境保護の目的からは逸脱してしまう。また中芯層の厚さ割合が90%を超えると、最表面層が途切れる部分が生じ易くなり、シートの外観も損なわれる可能性が高まる。なお、最表面層は2層存在するが、この2層は必ずしも同じ厚さである必要はない。
【0027】
本発明の多層シートは、その層構成として、多層シート両面の最表面部に、スチレン系樹脂又はプロピレン系樹脂からなる最表面層と、多層シートの中間部に、ポリ乳酸とスチレン系樹脂とを含む樹脂組成物からなる中芯層とを含んでいれば、その他は特に限定は無く、即ち前記最表面層と中芯層以外の層をさらに含んでいても良い。但し、好ましい多層シートの層構成としては、最表面層/中芯層/最表面層の順に各層が積層されている3層構造であり、具体的には、HIPSまたはPPのいずれかである最表面層の2層と、その中間部に設けられている、ポリ乳酸とGPPSまたはHIPSのいずれかを含む樹脂組成物からなる中芯層の1層とで構成されている、2種3層構造の多層シートである。多層シートの層構成を本発明の要件のように規定することにより、これまで課題となっていた、ポリ乳酸を多く含むシートの製造時における、Tダイのリップ周縁部への粘着性異物の付着が抑制された多層シート、及びそれを用いた容器を得ることができる。
【0028】
<シートの製造方法>
本発明の多層シートの製造方法は、一般的な共押出多層法であるフィードブロック方式やマルチマニホールド方式により、ダイス中で、多層シートの全ての層を一体化させて、吐出口のリップから一枚のシート状に押し出し、冷却ロールの間を通して固化させ、シートを巻き取る製造方法が好ましい。ダイスは、Tダイス(Tダイともいう)が好ましく用いられる。なお、一般的な共押出し方法で多層シートを製造する際は、各層の流動性を合わせた樹脂を使用することが好ましい。
【0029】
<容器>
本発明の多層シートを成形加工して得た容器もまた、本発明のひとつの実施形態である。多層シートの成形加工方法は特に限定はないが、例えば、真空成形や圧空成形等の公知の成形加工方法によって、得ることができる。本発明の容器は、特に食品用の容器であることが好ましい。
【実施例
【0030】
以下、実施例に基づいて本発明の多層シートを更に詳細に説明するとともに、本発明の効果を検証した結果を示す。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0031】
<シートの成膜>
実施例1~13、及び比較例1、2の多層シートは全て2種3層の多層シートであり、表1に記載した層構成で成膜した。このうち実施例13、比較例2の多層シートは、特に中芯層を発泡させた多層シートである。以下に多層シートの製造方法をさらに具体的に記載する。
【0032】
<実施例1>
実施例1の多層シートの中芯層として用いた樹脂組成物を、予め以下の方法で準備した。即ち、ポリ乳酸(REVODA110、海正生物材料社製)の10質量部と、HIPS(トーヨースチロールHI E640N、東洋スチレン社製)の90質量部と、相溶化材(メタブレンC-223A、三菱ケミカル社製)の10質量部、滑材と流動化材の合計3質量部を、ヘンシェルミキサーで予備混合し、次いで二軸押出機(東芝機械社製、TEM26SS)を用いて溶融混練し、さらにストランドをペレタイザーに通して、実施例1の多層シートの中芯層用樹脂組成物のペレットを得た。なお、二軸押出機のシリンダー設定温度は200℃、樹脂組成物の突出量は、30kg/時間の条件で運転した。
【0033】
次いで、実施例1の多層シートの中芯層として、65mm押出機を用い、前記中芯層用樹脂組成物のペレットを押し出し、また実施例1の多層シートの両最表面層として、40mm押出し機を2台使用してHIPS(トーヨースチロールHI E640N、東洋スチレン社製)を押し出し、それぞれの溶融樹脂をフィードブロックを経由させて、幅700mmのTダイ中に送り、中芯層と最表面層を全て一体化させた2種3層とし、冷却後のシート全体の厚さが0.4mm、及びシート全体の厚さに対する最表面層/中芯層/最表面層の厚さの割合が、15%/70%/15%とした層構成を有する多層シートを押し出した。なお実施例1の層構成は表1にも示した。Tダイのリップから押し出された前記実施例1の多層シートは、その後3本のロールを用いて冷却し、巻取機にて巻き取りした。実施例1の多層シートの成膜は、途中で中断することなく1時間連続的に実施した。
【0034】
<実施例2~11>
実施例2~11の多層シートは、中芯層の樹脂組成物の化学組成、シート全体の厚さに対する最表面層/中芯層/最表面層の厚さを表1に示したように設定し、成膜装置の各ヒーター温度、吐出量、リップ幅は適宜調整したが、基本的には実施例1と同じ手順で、同じ装置を用い、実施例2~11の多層シートを成膜した。実施例2~11の多層シートのTダイからの押し出しも、途中で中断することなく実施例1と同様に1時間連続的に実施した。実施例2~9の層構成は表1と表2に、実施例10~11の層構成は表3に示した。
【0035】
<実施例12>
実施例12の多層シートは、両表面層をPP(PL400A、サンアロマー社製)とした他は、実施例3と同じ手順、装置を用いて成膜した。実施例12の多層シートのTダイからの押し出しも、途中で中断することなく実施例1と同様に1時間連続的に実施した。実施例12の層構成も表3に示した。
【0036】
<比較例1>
比較例1では、両最表面層の樹脂は供給せず、中芯層のみ実施例3と同じ樹脂組成物を用い、成膜装置の各ヒーター温度、吐出量、リップ幅は適宜微調整したが、基本的には実施例3と同じ装置を用い、シート全体がポリ乳酸とHIPSとを含む樹脂組成物である単層のシートを成膜した。比較例1のTダイからのシート押し出しも、途中で中断することなく実施例1と同様に1時間連続的に実施した。比較例1の層構成も表3に示した。
【0037】
<実施例13>
実施例13の多層シートは、実施例12と同じ原料、手順、装置を用いるが、中芯層の樹脂組成物として、さらに発泡剤マスターバッチ(ポリスレンES405、永和化成社製)を0.8質量部添加し、成膜装置の各ヒーター温度、吐出量、リップ幅は適宜調整して、全体の厚さが0.6mmで、中芯層が1.3倍に発泡している多層シートを成膜した。実施例13の多層シートのTダイからの押し出しも、途中で中断することなく1時間連続的に実施した。実施例13の層構成は表4に示した。
【0038】
<比較例2>
比較例2の多層シートは、比較例1と同様に両最表面層の樹脂は供給せず、中芯層のみ実施例13と同じ樹脂組成物を用い、成膜装置の各ヒーター温度、吐出量、リップ幅は適宜調整したが、基本的には実施例13と同じ装置を用い、シート全体がポリ乳酸とHIPSとを含む樹脂組成物である単層の発泡シートを成膜した。比較例2のTダイからのシート押し出しも、途中で中断することなく実施例13と同様に1時間連続的に実施した。比較例2の層構成も表4に示した。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
<粘着性異物の発生状況>
実施例1~13、比較例1、2の各多層シートの成膜押し出しする間に、Tダイのリップ周縁部に滞留してくる粘着性異物の発生状態、さらにリップ周縁部に溜まった前記粘着性異物が、押出し中のシート表面へ付着したか否か、ビデオカメラによる撮影記録を補助的に利用して目視観察した。勿論、粘着性異物の発生が少なければ少ないほど、本発明の効果を反映している多層シートであることを示す。評価の段階としては、成膜開始直後から成膜終了まで、Tリップ周縁部に粘着性異物の付着が全く観られない場合を最良「A」とし、リップ周縁部への粘着性異物が顕著に観られ、さらに成膜中のシートに表面にも付着してしまう場合が1回でも起きれば「E」とした。その中間段階、即ち粘着性異物のリップ付着が僅かに観られる場合は「B」、リップ付着が「B」より多く観られる場合は「C」、シートへの粘着性異物の付着は起きないまでも、リップ周縁部への粘着性異物の滞留が顕著である場合は「D」とした。「A」~「C」の評価であれば、本発明の効果を発現しているとした。
【0044】
<多層シートの賦形性の評価>
実施例1~13、比較例1、2の多層シートについて、開口部の横幅が270mm、開口部の縦長さが200mm、深さが30mmであり、各コーナー部に丸みを設けた角形容器に成形加工する金型を用いて、真空成形によりヒーター温度(間接加熱)上/下500℃の条件のもと角形容器サンプルを作製した。作製した角形容器については、金型の設計通り成形されている場合は「A」、成形できているが角部の再現性等が「A」には及ばないような場合は「B」とした。さらに賦形性は「B」に達しないが、割れなく成形できた場合を「C」、容器の表面に割れや裂けが生じたりした場合は「D」と、賦形性を4段階で比較評価した。賦形性に関しては、容器の形状にも左右されるため、本試験では、「A」~「C」の評価であれば、本発明の効果を発現しているとした。
【0045】
実施例1~13、比較例1、2の評価結果については表1~3の該当欄に合わせて記載した。これらの評価結果から、本発明の実施により、環境負荷の少ないポリ乳酸を成分として含み、成膜時における粘着性異物のリップ周縁部への付着が少なく、衛生安全上の危険性も低減された、特に食品容器の用途に適した多層シートを提供できることが確認された。