(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ジアミン化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 211/52 20060101AFI20231003BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20231003BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C07C211/52 CSP
C08G73/10
C08J5/18 CFG
(21)【出願番号】P 2019163184
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】金田 隆行
(72)【発明者】
【氏名】坂田 勇男
(72)【発明者】
【氏名】石田 真一郎
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102093230(CN,A)
【文献】国際公開第2016/052311(WO,A1)
【文献】特開2019-119779(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142866(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121691(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/083652(WO,A1)
【文献】米国特許第05965717(US,A)
【文献】Wu, Dimeng et al,Synthesis and characterization of tetramethylbiphenyl diamine and organo-soluble polyimides,POLYMER MATERIALS SCIENCE AND ENGINEERING,2012年,28(11),13-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08G
C08J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
{式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基を表し、
R
3及びR
4は、それぞれ独立に
、置換
又は非置換の炭素数6~24の芳香族環
基を表し、
R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、又は置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基を表し、かつ
n
1及びn
2は
、1の整数であ
る。}
で表されるジアミン化合物。
【請求項2】
前記一般式(1)において、R
5及びR
6が、水素原子である、請求項1に記載のジアミン化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)において、R
1及びR
2が、メチル基である、請求項1
又は2に記載のジアミン化合物。
【請求項4】
前記一般式(1)において、R
1及びR
2が、トリフルオロメチル基である、請求項1
又は2に記載のジアミン化合物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のジアミン化合物を単量体として用いる重合反応により得られる高分子重合体組成物。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のジアミン化合物に由来する構成単位を含むポリイミド前駆体。
【請求項7】
酸二無水物化合物に由来する構成単位をさらに含む、請求項
6に記載のポリイミド前駆体。
【請求項8】
前記酸二無水物化合物が、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-シクロヘキセン-1,2ジカルボン酸無水物、ピロメリット酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’―ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、メチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,1-エチリデン-4,4’-ジフタル酸二無水物、2,2-プロピリデン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,2-エチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,3-トリメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,4-テトラメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,5-ペンタメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、チオ-4,4’-ジフタル酸二無水物、スルホニル-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ベンゼン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,3-ビス[2-(3,4-ジカルボキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン二無水物、1,4-ビス[2-(3,4-ジカルボキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン二無水物、ビス[3-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、2,2-ビス[3-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジメチルシラン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、カルボニル-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、メチレン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、1,2-エチレン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、1,1-エチリデン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、2,2-プロピリデン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、オキシ-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、チオ-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、スルホニル-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、rel-[1S,5R,6R]-3-オキサビシクロ[3,2,1]オクタン-2,4-ジオン-6-スピロ-3’-(テトラヒドロフラン-2’,5’-ジオン)、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物、エチレングリコール-ビス-(3,4-ジカルボン酸無水物フェニル)エーテル、4,4’-ビフェニルビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、及び9,9’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物から成る群から選択される少なくとも1つの化合物である、請求項
7に記載のポリイミド前駆体。
【請求項9】
前記ジアミン化合物とは異なる第二ジアミン化合物に由来する構成単位をさらに含む、請求項
6~
8のいずれか一項に記載のポリイミド前駆体。
【請求項10】
前記第二ジアミン化合物が、ジアミノジフェニルスルホン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノビフェニル、3,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、4,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、9,10-ビス(4-アミノフェニル)アントラセン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、及び1,4-ビス(3-アミノプロピルジメチルシリル)ベンゼン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(BAFL)、及びジアミノ(ポリ)シロキサンから成る群から選択される少なくとも1つの化合物である、請求項
9に記載のポリイミド前駆体。
【請求項11】
前記ポリイミド前駆体が、下記一般式(2):
【化2】
{式中、R
7及びR
8は、それぞれ独立に、炭素数1~5の1価の脂肪族炭化水素、又は炭素数6~10の1価の芳香族基を示し、R
7が複数の場合には互いに同一でも異なってもよく、R
8が複数の場合には互いに同一でも異なってもよく、かつmは、正の整数である。}
で表される構造単位をさらに含む、請求項
6~
10のいずれか一項に記載のポリイミド前駆体。
【請求項12】
請求項
6~
11のいずれか一項に記載のポリイミド前駆体がイミド化されたポリイミド。
【請求項13】
前記ポリイミドが、下記一般式(2):
【化3】
{式中、R
7及びR
8は、それぞれ独立に、炭素数1~5の1価の脂肪族炭化水素、又は炭素数6~10の1価の芳香族基を示し、R
7が複数の場合には互いに同一でも異なってもよく、R
8が複数の場合には互いに同一でも異なってもよく、かつmは、正の整数である。}
で表される構造単位をさらに含む、請求項
12に記載のポリイミド。
【請求項14】
請求項
6~
11のいずれか一項に記載のポリイミド前駆体及び/又は請求項
12若しくは
13に記載のポリイミドと、
溶媒と、
を含む樹脂組成物。
【請求項15】
請求項
12又は
13に記載のポリイミドを含むポリイミドフィルム。
【請求項16】
請求項
12若しくは
13に記載のポリイミド及び/又は請求項
15に記載のポリイミドフィルムを含むフレキシブルディスプレイ。
【請求項17】
支持体の表面上に、請求項
14に記載の樹脂組成物を塗布する塗布工程と、
前記樹脂組成物を加熱してポリイミドフィルムを形成する膜形成工程と、
前記ポリイミドフィルムを前記支持体から剥離する剥離工程と
を含むポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項18】
前記剥離工程に先立って、又は前記剥離工程中に、前記支持体側から前記ポリイミドフィルムにレーザーを照射する照射工程を更に含む、請求項
17に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項19】
支持体の表面上に、請求項
14に記載の樹脂組成物を塗布する塗布工程と、
前記樹脂組成物を加熱してポリイミドフィルムを形成する膜形成工程と、
前記ポリイミドフィルム上に素子を形成する素子形成工程と、
前記素子が形成された前記ポリイミドフィルムを前記支持体から剥離する剥離工程と、
を含むフレキシブルディスプレイの製造方法。
【請求項20】
前記塗布工程は、前記樹脂組成物のスリットコートにより行われる、請求項
19に記載のフレキシブルディスプレイの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアミン化合物及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアミン化合物は、ポリアミンのうち、2つのアミノ基を有する化合物を意味する。ジアミン化合物は、例えば、化学合成、染髪、ガス分離膜、光学材料、電子材料、ディスプレイなどの様々な分野において使用されている。中でも、不溶、不融の超耐熱性樹脂であるポリイミド及びその前駆体の合成において、ジアミン化合物の使用が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、燃料電池用プロトン伝導性膜を提供するために、芳香族酸二無水物又は芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類との特定の組み合わせを反応させることにより得られるスルホン酸化・フッ素化ポリイミドが記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2008/0194794号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の芳香族ジアミン類及びスルホン酸化・フッ素化ポリイミドは、燃料電池用プロトン伝導性膜に使用されるものであるが、ディスプレイ材料としては検討されず、透過率、黄色度、低減された厚み方向のレタデーション(Rth)などのようなディスプレイ材料の要求特性に乏しい。
【0006】
また、特許文献1に記載のスルホン酸化・フッ素化ポリイミドで形成されるフィルムは、フレキシブルディスプレイへの適用、特に、ガラス基板を含まない構造を有するフレキシブルディスプレイへの適用について想定されていないため、ガラス基板が無くても機械強度、例えばヤング率などを確保するものではない。
【0007】
したがって、本発明は、新規なジアミン化合物及びその原料又は製造方法、並びにそれを用いて機械強度の確保とRthの低減とを両立させられるポリイミド前駆体及びポリイミドを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、次の技術的手段の例により解決されることができる。
[1]
下記一般式(1):
【化1】
{式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基を表し、
R
3及びR
4は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基、又はハロゲン原子を表し、
R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、又は置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基を表し、かつ
n
1及びn
2は、それぞれ独立に、0又は1の整数であり、但し、n
1とn
2が同時に0となることはない。}
で表されるジアミン化合物。
[2]
前記一般式(1)において、R
5及びR
6が、水素原子である、項目1に記載のジアミン化合物。
[3]
前記一般式(1)において、n
1及びn
2が、1であり、かつR
3及びR
4が、置換又は非置換の炭素数6~24の芳香族環基である、項目1又は2に記載のジアミン化合物。
[4]
前記一般式(1)において、R
1及びR
2が、メチル基である、項目1~3のいずれか一項に記載のジアミン化合物。
[5]
前記一般式(1)において、R
1及びR
2が、トリフルオロメチル基である、項目1~3のいずれか一項に記載のジアミン化合物。
[6]
項目1~5のいずれか一項に記載のジアミン化合物を単量体として用いる重合反応により得られる高分子重合体組成物。
[7]
項目1~5のいずれか一項に記載のジアミン化合物に由来する構成単位を含むポリイミド前駆体。
[8]
酸二無水物化合物に由来する構成単位をさらに含む、項目7に記載のポリイミド前駆体。
[9]
前記酸二無水物化合物が、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-シクロヘキセン-1,2ジカルボン酸無水物、ピロメリット酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’―ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、メチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,1-エチリデン-4,4’-ジフタル酸二無水物、2,2-プロピリデン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,2-エチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,3-トリメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,4-テトラメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,5-ペンタメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、チオ-4,4’-ジフタル酸二無水物、スルホニル-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ベンゼン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,3-ビス[2-(3,4-ジカルボキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン二無水物、1,4-ビス[2-(3,4-ジカルボキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン二無水物、ビス[3-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、2,2-ビス[3-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジメチルシラン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、カルボニル-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、メチレン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、1,2-エチレン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、1,1-エチリデン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、2,2-プロピリデン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、オキシ-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、チオ-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、スルホニル-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、rel-[1S,5R,6R]-3-オキサビシクロ[3,2,1]オクタン-2,4-ジオン-6-スピロ-3’-(テトラヒドロフラン-2’,5’-ジオン)、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物、エチレングリコール-ビス-(3,4-ジカルボン酸無水物フェニル)エーテル、4,4’-ビフェニルビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、及び9,9’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物から成る群から選択される少なくとも1つの化合物である、項目8に記載のポリイミド前駆体。
[10]
前記ジアミン化合物とは異なる第二ジアミン化合物に由来する構成単位をさらに含む、項目7~9のいずれか一項に記載のポリイミド前駆体。
[11]
前記第二ジアミン化合物が、ジアミノジフェニルスルホン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノビフェニル、3,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、4,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、9,10-ビス(4-アミノフェニル)アントラセン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、及び1,4-ビス(3-アミノプロピルジメチルシリル)ベンゼン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(BAFL)、及びジアミノ(ポリ)シロキサンから成る群から選択される少なくとも1つの化合物である、項目7~10のいずれか一項に記載のポリイミド前駆体。
[12]
前記ポリイミド前駆体が、下記一般式(2):
【化2】
{式中、R
7及びR
8は、それぞれ独立に、炭素数1~5の1価の脂肪族炭化水素、又は炭素数6~10の1価の芳香族基を示し、R
7が複数の場合には互いに同一でも異なってもよく、R
8が複数の場合には互いに同一でも異なってもよく、かつmは、正の整数である。}
で表される構造単位をさらに含む、項目7~11のいずれか一項に記載のポリイミド前駆体。
[13]
項目7~12のいずれか一項に記載のポリイミド前駆体がイミド化されたポリイミド。
[14]
前記ポリイミドが、下記一般式(2):
【化3】
{式中、R
7及びR
8は、それぞれ独立に、炭素数1~5の1価の脂肪族炭化水素、又は炭素数6~10の1価の芳香族基を示し、R
7が複数の場合には互いに同一でも異なってもよく、R
8が複数の場合には互いに同一でも異なってもよく、かつmは、正の整数である。}
で表される構造単位をさらに含む、項目13に記載のポリイミド。
[15]
項目7~12のいずれか一項に記載のポリイミド前駆体及び/又は項目13若しくは14に記載のポリイミドと、
溶媒と、
を含む樹脂組成物。
[16]
項目13又は14に記載のポリイミドを含むポリイミドフィルム。
[17]
項目13若しくは14に記載のポリイミド及び/又は項目16に記載のポリイミドフィルムを含むフレキシブルディスプレイ。
[18]
支持体の表面上に、項目15に記載の樹脂組成物を塗布する塗布工程と、
前記樹脂組成物を加熱してポリイミドフィルムを形成する膜形成工程と、
前記ポリイミドフィルムを前記支持体から剥離する剥離工程と
を含むポリイミドフィルムの製造方法。
[19]
前記剥離工程に先立って、又は前記剥離工程中に、前記支持体側から前記ポリイミドフィルムにレーザーを照射する照射工程を更に含む、項目18に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
[20]
支持体の表面上に、項目15に記載の樹脂組成物を塗布する塗布工程と、
前記樹脂組成物を加熱してポリイミドフィルムを形成する膜形成工程と、
前記ポリイミドフィルム上に素子を形成する素子形成工程と、
前記素子が形成された前記ポリイミドフィルムを前記支持体から剥離する剥離工程と、
を含むフレキシブルディスプレイの製造方法。
[21]
前記塗布工程は、前記樹脂組成物のスリットコートにより行われる、項目20に記載のフレキシブルディスプレイの製造方法。
[22]
下記一般式(3):
【化4】
{式中、X
1及びX
2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表し、
Y
1及びY
2は、それぞれ独立に、アミノ基、又はニトロ基を表し、
R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基を表し、
R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、又は置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基を表す。}
で表される含窒素・ハロゲン芳香族化合物を原料又は中間物質として用いて、下記一般式(1):
【化5】
{式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基を表し、
R
3及びR
4は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基、又はハロゲン原子を表し、
R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、又は置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基を表し、
n
1及びn
2は、それぞれ独立に、0以上1以下の数であり、かつn
1+n
2は、1以上である。}
で表されるジアミン化合物を製造する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規なジアミン化合物が提供され、新規なジアミン化合物を出発原料又は中間物質として用いて、様々な化学反応又は合成を行うことができ、例えば、新規なポリイミド及びその前駆体と、それらの製造方法とを提供することができる。また、本発明によれば、新規なジアミン化合物を用いて形成されるポリイミドのフィルム及びそれを備えるフレキシブルディスプレイについて、機械強度の確保とレタデーション(Rth)の低減を両立させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための形態(以下、本実施形態ともいう)の一例を説明する。
本明細書中、「~」とは、その両端の数値を上限値、及び下限値として含む意味である。また、本明細書中、各数値範囲の上限値、及び下限値は任意に組み合わされることができる。
【0011】
本明細書では、置換の炭化水素基及び置換の芳香族環基は、置換基として、炭化水素基の一部分がヘテロ原子又はハロゲン原子に置換された構造も含んでよい。ハロゲン原子は、例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などであることができる。
【0012】
<ジアミン化合物>
本実施形態に係るジアミン化合物は、下記一般式(1):
【化6】
{式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換又は非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基又は置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基を表し、
R
3及びR
4は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基、又はハロゲン原子を表し、
R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、又は置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基を表し、かつ
n
1及びn
2は、それぞれ独立に、0又は1の整数であり、但し、n
1とn
2が同時に0となることはない。}
で表される。
【0013】
一般式(1)で表されるジアミン化合物は、例えば4,4’-ジアミノビフェニル(別名:ベンジジン)のようにビフェニルジイル基に対して4,4’位に位置する2つのアミノ基、複数の置換基R1~R6、それらの置換基のうちで3,3’位に位置する相対的に嵩高い基R3及び/又はR4によって、剛直ながら側鎖がアミノ基側に配向している構造(以下、準ロッドライク(quasi rod-like)構造という)を有する。
【0014】
一般式(1)で表されるジアミン化合物は、例えば、酸二無水物などとの反応によりポリイミド前駆体及びポリイミド(PI)を生成したときに、下記(ア)~(ウ)のような作用機序が推察される:
(ア)PI主鎖中に導入された剛直な準ロッドライク構造によりヤング率などの機械強度を向上させることができる。
(イ)準ロッドライク構造に由来する複数の置換基R1~R6がPI側鎖として導入され、PI分子全体が球状に近付くことにより、PIフィルムの固有複屈折及びレタデーション(Rth)を低減させることができる。
(ウ)準ロッドライク構造に由来するジアミン化合物の側鎖がアミノ基側に配向していること、および複数の置換基R1~R6がPI側鎖として導入されているため、イミド構造とそれに隣接する主鎖を構成する芳香族環、およびビフェニル構造を構成する芳香族環が同平面上に存在する確率が低くなるため、PIフィルムの黄色度を抑制することができる。
【0015】
一般式(1)において、準ロッドライク構造の形成並びにPIフィルムの機械強度及びRth低減の観点から、R3及びR4の少なくとも一方が存在する(すなわち、n1及びn2の少なくとも一方が1の整数である)ことが好ましく、R3及びR4の両方が存在する(すなわち、n1及びn2の両方が1の整数である)ことがより好ましい。
【0016】
一般式(1)においてn
1=1かつn
2=0であるジアミン化合物は、具体的には、下記一般式(1A):
【化7】
{式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基を表し、
R
3は、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基、又はハロゲン原子を表し、かつ
R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、又は置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基を表す。}
で表されるジアミン化合物である。
【0017】
一般式(1)においてn
1=n
2=1であるジアミン化合物は、具体的には、下記一般式(1B):
【化8】
{式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基を表し、
R
3及びR
4は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基、又はハロゲン原子を表し、かつ
R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、又は置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基を表す。}
で表されるジアミン化合物である。
【0018】
一般式(1)、(1A)及び(1B)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基を表す。置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基R1及びR2は、鎖状の場合には、炭素数1~10、1~15又は4~12が好ましく、脂環式の場合には、炭素数3~18又は3~20が好ましい。R1及びR2の置換基には、炭化水素基の一部分がヘテロ原子又はハロゲン原子に置換された構造も包含されることができる。置換若しくは非置換の脂肪族炭化水素基R1及びR2としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、及びn-デシル基等の直鎖又は分岐鎖アルキル基;例えば、ビニル、アリル、プロペニル、3-ブテニル、2-ブテニル、ペンテニル、シクロペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、及びヘキシニル基等の不飽和脂肪族炭化水素基;例えば、アルコキシ、エポキシ基等のヘテロ原子含有基;例えば、モノ-,ジ-又はトリ-フルオロメチル、モノ-,ジ-又はトリ-クロロメチル基等のハロゲン含有基;並びにシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びシクロオクチル基等のシクロアルキル基が挙げられる。中でも、準ロッドライク構造の形成及び維持並びに複数のジアミン化合物間の相互作用の観点から、メチル基又はトリフルオロメチル基が好ましい。
【0019】
R1又はR2については、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基として、例えば、フェニル基、アリール基、ベンジル基、フェノキシ基、ベンゾイル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられる。中でも、準ロッドライク構造の形成及び維持とPIフィルムの機械強度及びRth低減の観点から、フェニル基又はフッ素を擁したフェニル基が好ましい。
【0020】
一般式(1)及び(1B)中のR3及びR4と一般式(1)中のR3は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基、又はハロゲン原子を表す。中でも、R3及び/又はR4としては、例えば約400℃などの高温での耐熱性の観点から共役二重結合を有する基が好ましく、PIフィルムのRth低減の観点からπ共役系を有する基が好ましく、耐熱性とRth低減の両立の観点から、置換又は非置換の炭素数6~24の芳香族環基が好ましい。
【0021】
R3又はR4については、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基は、例えば、鎖状の場合には、炭素数1~10、1~15又は4~12が好ましく、脂環式の場合には炭素数3~18又は3~20が好ましい。置換若しくは非置換の脂肪族炭化水素基R3又はR4としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、及びn-デシル基等の直鎖又は分岐鎖アルキル基;例えば、ビニル、アリル、プロペニル、3-ブテニル、2-ブテニル、ペンテニル、シクロペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、及びヘキシニル基等の不飽和脂肪族炭化水素基;例えば、アルコキシ、エポキシ基等のヘテロ原子含有基;例えば、モノ-,ジ-又はトリ-フルオロメチル、モノ-,ジ-又はトリ-クロロメチル基等のハロゲン含有基;並びにシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びシクロオクチル基等のシクロアルキル基が挙げられる。
【0022】
R3又はR4については、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基として、例えば、フェニル基、アリール基、ベンジル基、フェノキシ基、ベンゾイル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられる。中でも、準ロッドライク構造の形成及び維持とPIフィルムの機械強度及びRth低減の観点から、フェニル基又はアリール基が好ましい。
【0023】
R3又はR4については、置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基として、例えば、フラン、ピロール、チオフェン、ホスホール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、インドール、キノリン、アクリジン等の複素芳香族化合物から1個の水素原子を除いた基等が挙げられる。
【0024】
また、R3又はR4は、ハロゲン原子、例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などであることができる。中でも、合成経路及び反応収率の観点から、塩素(Cl)、臭素(Br)又はヨウ素(I)が好ましく、臭素(Br)がより好ましい。
【0025】
一般式(1)、(1A)及び(1B)において、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、又は置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基を表す。中でも、合成経路及び反応収率と、得られるポリイミド(PI)の機械強度及び低減されたRthとのバランスを取るという観点から、R5及び/又はR6は、水素原子であることが好ましい。
【0026】
また、R5及びR6としての置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、及び置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基は、R3又はR4について上記で説明された基と同じであることができる。
【0027】
一般式(1)で表されるジアミン化合物の具体例の幾つかを以下に示す。
【化9】
X=H,F,Cl,Br又はI
Y=-CH
3、-CF
3、フェニル基、又はモノ-、ジ-、トリ-、テトラ(2,3,4,5;2,3,5,6;若しくは2,4,5,6)-若しくはペンタ-フルオロフェニル基
【0028】
上記で説明されたジアミン化合物を単量体として用いる重合反応により高分子重合体組成物を得ることができる。
【0029】
<ジアミン化合物の製造方法>
本実施形態に係るジアミン化合物の製造方法としては、例えば、予備的に行うことができるハロゲン化反応と、カップリング反応と、所望により行われる還元反応とが挙げられる。
【0030】
<ハロゲン化反応>
下記一般式(S1):
【化10】
{式中、Y
1及びY
2は、それぞれ独立に、アミノ基、又はニトロ基を表し、
R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基を表し、
R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、又は置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基を表す。}
で表される化合物とハロゲン化剤とを用いて、下記一般式(3):
【化11】
{式中、X
1及びX
2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表し、
Y
1及びY
2は、それぞれ独立に、アミノ基、又はニトロ基を表し、
R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基を表し、
R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、又は置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基を表す。}
で表される含窒素・ハロゲン芳香族化合物を得ることができる。
【0031】
一般式(3)において、X1及びX2としてのハロゲン原子は、例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などであることができ、高い反応性を得るために、塩素、臭素又はヨウ素であることが好ましく、臭素又はヨウ素であることがより好ましい。代替的には、X1及びX2は、擬ハロゲンであることができる。擬ハロゲンは、ハロゲンに類似した性質を示すものであり、例えばトリフルオロメタンスルホナートなどが挙げられる。
【0032】
一般式(S1)で表される化合物のハロゲン化に使用されるハロゲン化剤としては、例えば、N-ブロモスクシンイミド(NBS)、N-ヨードスクシンイミド(NIS)、N-クロロスクシンイミド(NCS)、臭素などが挙げられる。中でもNBS又はNISが好ましい。
【0033】
一般式(S1)で表される化合物1モルに対して、好ましくは約1.5~2.5モルのハロゲン化剤を使用し、より好ましくは約2モルのハロゲン化剤を使用する。反応温度は、-20℃~室温(約25℃±10℃)の範囲内であることが好ましい。反応溶媒は、例えば、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル(PGMEA)などでよい。
【0034】
一般式(S1)及び(3)中のY1及びY2は、最終的生成物であるジアミン化合物又はその前駆体であるジニトロ化合物などに応じて、アミノ基又はニトロ基から適宜選択されることができる。
【0035】
一般式(S1)及び(3)中のR1及びR2とR5及びR6は、それぞれ独立に、一般式(1)、(1A)及び(1B)について上記で説明されたとおりである。
【0036】
<カップリング反応>
一般式(3)で表される含窒素・ハロゲン芳香族化合物をカップリング反応の原料又は中間物質として用いて、下記一般式(I-A):
【化12】
{式中、Y
1及びY
2は、それぞれ独立に、アミノ基、又はニトロ基を表し、
R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基を表し、
R
3及びR
4は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基、又はハロゲン原子を表し、
R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、又は置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基を表し、かつ
n
1及びn
2は、それぞれ独立に、0又は1の整数であり、但し、n
1とn
2が同時に0となることはない。}
で表される化合物を製造することができる。
【0037】
一般式(1-A)中のR1~R6とn1及びn2は、それぞれ独立に、一般式(1)について上記で説明されたとおりである。また、一般式(1-A)中のY1及びY2は、一般式(3)で表される含窒素・ハロゲン芳香族化合物のY1及びY2と対応する。
【0038】
一般式(I-A)においてY1及びY2の両方がアミノ基である化合物は、一般式(1)で表されるジアミン化合物と対応するものである。したがって、本実施形態に係るジアミン化合物の製造方法は、一般式(3)で表される含窒素・ハロゲン芳香族化合物を原料又は中間物質として用いて、一般式(1)で表されるジアミン化合物を製造することを特徴とする。
【0039】
また、一般式(I-A)において、Y1及びY2の一方がニトロ基であり、他方がアミノ基である化合物と、Y1及びY2の両方がニトロ基であるジニトロ化合物とは、それぞれ本発明の一態様に包含される。
【0040】
一般式(I-A)で表される化合物の製造方法において、一般式(3)で表される含窒素・ハロゲン芳香族化合物のX1及びX2に有機ホウ素試薬をカップリング反応させることができる。有機ホウ素試薬は、限定されるものではないが、例えば有機ボロン酸などでよい。有機ボロン酸としては、限定されるものではないが、例えば、ボロン酸、ボロン酸エステル、アルキルボラン、トリオールボレートなどが挙げられる。カップリング反応において使用される有機ボロン酸は、1種類に限られず、複数種を同時に反応させてよい。
【0041】
有機ホウ素試薬の一例として、下記一般式(B1):
【化13】
{式中、Rは、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又はハロゲン原子を表し、かつqは、0又は1の整数である。}
で表されるボロン酸構造体を挙げることができる。
【0042】
一般式(B1)において、反応性の観点からは、qは0であることが好ましい。また、一般式(B1)においてqが1である場合には、Rは、一般式(1)で表されるジアミン化合物の耐熱性の観点から、好ましくはC1~12のアルキル基、又はハロゲン原子であり、高い反応性を得る観点から、より好ましくはC1~12のアルキル基である。
【0043】
一般式(B1)で表されるボロン酸構造体としては、限定されるものではないが、例えば、フェニルボロン酸、2-又は4-メチルフェニルボロン酸、2-又は4-トリフルオロメチルフェニルボロン酸などが挙げられる。
【0044】
カップリング反応における有機ホウ素試薬の使用量は、一般式(3)で表される含窒素・ハロゲン芳香族化合物1モルに対して、通常2モル以上であり、好ましくは2モル超又は3モル以上であり、より好ましくは2モルより多く50モル以下である。有機ホウ素試薬の使用量を2モルより多くすることで、反応系中で複数の有機ホウ素試薬同士が縮合して有機ホウ素試薬の有効量が不足することを回避することができ、また50モル以下とすることで不純物の生成を抑えることができる。
【0045】
カップリング反応には触媒を用いることができる。好ましく用いられる触媒としては、例えば、パラジウム触媒、ニッケル触媒、鉄触媒又はルテニウム触媒などが挙げられる。高い反応性を得る観点からパラジウム触媒又はニッケル触媒を用いることがより好ましい。パラジウム触媒またはニッケル触媒の例として、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、塩化パラジウム(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、ジクロロビス(トリ-o-トリルホスフィン)パラジウム(II)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、パラジウム/炭素、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロニッケル(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、ヨウ化ニッケル(II)などが挙げられる。これらの触媒は、原料化合物に存在する置換基に応じて選択することができ、単独又は必要に応じて混合して使用してもよい。
【0046】
カップリング反応における触媒の使用量は、一般式(3)で表される含窒素・ハロゲン芳香族化合物1モルに対して、通常0.001モル%以上100モル%以下であり、好ましくは0.002モル%以上80モル%以下であり、より好ましくは0.05モル%以上50モル%以下である。触媒の使用量を0.002モル%以上とすることで反応速度が向上し、また80モル%以下とすることでも反応速度が向上する。
【0047】
本実施形態に係るカップリング反応には、必要に応じて、配位子を用いることができる。配位子としては、例えば、ホスフィン配位子、ホスフィンオキサイド配位子、又はN-ヘテロ環状カルベン配位子が挙げられる。ホスフィン配位子の例としては、限定されるものではないが、1,1’-フェロセンビス(ジフェニルホスフィン)、1,1’-ビス(ジイソプロピルホスフィノ)フェロセン、トリブチルホスフィン、テトラメチレンビス(ジフェニルホスフィン)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニルなどが挙げられる。また、触媒前駆体(pre-catalyst)を上記触媒及び配位子として用いることもできる。配位子は、触媒又は原料の置換基に応じて選択することができ、単独または必要に応じて混合して使用してよい。配位子の使用量は、触媒中に存在する被配位子1モルに対して、通常10モル以下であるが、好ましくは8モル以下、より好ましくは5モル以下である。配位子の使用量を8モル以下に調整すると、反応速度が向上する傾向にある。
【0048】
本実施形態に係るカップリング反応には、必要に応じて、塩基性化合物を用いることができる。使用される塩基化合物としては、限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、トリエチルアミン、2-アミノ-2-メチルプロパン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、フッ化カリウム、フッ化セシウム、1-メチルイミダゾール、2,2’-ビピリジル、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンなどが挙げられる。塩基性化合物は、カップリング反応の原料及び条件に応じて、上記で説明された配位子に包含される場合がある。
【0049】
本発明の別の実施形態では、カップリング反応のために上記で説明された触媒又は配位子は、シリカ(SiO2)又はポリマーに担持された状態で使用されることができる。
【0050】
カップリング反応には溶媒を使用してよい。使用される溶媒は、反応系中の化合物と反応し得ない溶媒でよく、反応系中の化合物の溶解性が良好な溶媒が好ましい。使用される溶媒の例としては、限定されるものではないが、1,4-ジオキサン、ベンゼン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトン、トルエン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、アセトニトリル、水などが挙げられる。
【0051】
カップリング反応は、通常、上記で説明された溶媒に、上記で説明された原料、触媒、配位子、塩基性化合物などを添加、攪拌することにより行われることができる。これらのうち、配位子と塩基性化合物は、必要に応じて、添加を割愛してよい。カップリング反応中の気相反応は、大気中で実施することができるが、希ガス類、窒素などの不活性ガスの存在下で反応させることが好ましい。不活性ガス下で反応させることにより、触媒の失活を避けることができ、反応収率を高めることができる。攪拌中の温度は、反応が進めば特に制限されないが、好ましくは0℃以上、より好ましくは室温(例えば10℃~38℃)以上100℃以下かつ溶媒の沸点以下である。攪拌温度を室温以上とすることで反応速度が向上し、100℃以下かつ溶媒の沸点以下とすることで意図せぬ反応速度とならないように制御することができる。最適な反応時間は、使用した原料、触媒、配位子、塩基性化合物などに応じて決定されることができる。
【0052】
<還元反応>
一般式(I-A)で表される化合物について、R1とR2の一方又は両方がニトロ基である場合には、還元処理を行うことによって所定のジアミン化合物、例えば一般式(1)で表されるジアミン化合物を得ることができる。ニトロ基の還元は、限定されるものではないが、例えば接触還元法などにより行われることができる。還元処理において使用可能な触媒としては、限定されるものではないが、例えば、パラジウム炭素(Pd/C)、抱水ヒドラジン(NH2NH2・H20)などが挙げられる。
【0053】
<ポリイミド前駆体>
本実施形態に係るポリイミド前駆体は、
(ア)上記で説明されたジアミン化合物(以下、第一ジアミン化合物と呼ばれる場合がある)に由来する構成単位と、
(イ)所望により、酸二無水物化合物に由来する構成単位と、
(ウ)所望により、第一ジアミン化合物とは異なる第二ジアミン化合物に由来する構成単位と、
を含む。
【0054】
ポリイミド前駆体の一例は、下記一般式(PIP1):
【化14】
{式中、P
1は、下記一般式(DA1):
【化15】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基を表し、
R
3及びR
4は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基、又はハロゲン原子を表し、
R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、又は置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基を表し、かつ
n
1及びn
2は、それぞれ独立に、0又は1の整数であり、但し、n
1とn
2が同時に0となることはない。)
で表される2価の基を示し、P
2は4価の有機基を示し、そしてpは正の整数を示す。}
で表される繰り返し単位を含む。
【0055】
一般式(PIP1)において、2価の基P1は、構成単位(ア)であることができ、そして上記で説明された一般式(1)で表されるジアミン化合物を単量体として使用する重合反応により得られることができる。また、一般式(DA1)において、R1~R6とn1及びn2の好ましい例は、それぞれ一般式(1)について上記で説明されたものと同じでよい。さらに、2価の基P1は、第一ジアミン化合物に由来する構成単位(ア)だけでなく、第二ジアミン化合物に由来する構成単位(ウ)も含んでよい。
【0056】
本実施形態では、上記で説明されたポリイミド前駆体がイミド化されたポリイミド、及びそのフィルムは、機械強度の確保とレタデーション(Rth)の低減を両立させることができる。ポリイミド前駆体、ポリイミド及びポリイミドフィルムの作用効果の一例は以下のとおり推察される。例えば一般式(PIP1)において、2価の基P1及びその両側の2つの-NH-は、ポリイミド前駆体及びポリイミドの主鎖中に準ロッドライク構造を導入するものであり、その剛直性によりヤング率などの機械強度を向上させることができ、かつポリイミド前駆体及びポリイミドの側鎖に嵩高い基(例えば、芳香族基)を導入するものであり、それによりポリイミド分子全体を球状にして、ポリイミドフィルムの固有複屈折及びレタデーション(Rth)を低減させることができる。
【0057】
また、ポリイミド前駆体及びそれから得られるポリイミドは、下記一般式(2):
【化16】
{式中、R
7及びR
8は、それぞれ独立に、炭素数1~5の1価の脂肪族炭化水素、又は炭素数6~10の1価の芳香族基を示し、R
7が複数の場合には互いに同一でも異なってもよく、R
8が複数の場合には互いに同一でも異なってもよく、かつmは、正の整数である。}
で表される構成単位をさらに含むことが好ましい。
【0058】
ポリイミド前駆体の総質量を基準として、一般式(2)で表される構造単位の比率の下限は、支持体との間に発生するポリイミドフィルムの残留応力を低減する観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上、更に好ましくは7質量%以上である。ポリイミド前駆体の総質量を基準として、一般式(2)で表される構造単位の比率の上限は、ポリイミドフィルムの透明性、及び耐熱性の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。上記一般式(2)中、得られるポリイミドの耐熱性の観点から、mは1~200の整数が好ましい。
【0059】
一般式(2)で表される構成単位は、ケイ素含有化合物、例えば第二ジアミン化合物として、ケイ素含有ジアミンに由来することが好ましい。ケイ素含有ジアミンとしては、ジアミノ(ポリ)シロキサンが好ましい。ジアミノ(ポリ)シロキサンとしては、具体的には、両末端アミン変性メチルフェニルシリコーンオイル(信越化学社製:X22-1660B-3(数平均分子量4400)、X22-9409(数平均分子量1340))、両末端酸無水物変性メチルフェニルシリコーンオイル(信越化学社製:X22-168-P5-B(数平均分子量4200))、両末端エポキシ変性メチルフェニルシリコーンオイル(信越化学社製:X22-2000(数平均分子量1240))、両末端アミノ変性ジメチルシリコーン(信越化学社製:X22-161A(数平均分子量1600)、X22-161B(数平均分子量3000)、KF8021(数平均分子量4400)、東レダウコーニング製:BY16-835U(数平均分子量900)チッソ社製:サイラプレーンFM3311(数平均分子量1000))等が挙げられる。
【0060】
ケイ素含有化合物は、ポリイミド前駆体を得るための重合反応より前に、精製されることが好ましい。ケイ素含有化合物の精製により、最終的に副生成物となり得る環状シロキサンの生成量を抑制することができる。ケイ素含有化合物の精製法としては、例えば、任意の容器内でケイ素含有化合物に不活性ガス、例えば窒素ガスを吹き込みながらストリッピングを行うことが挙げられる。ストリッピングの温度としては、好ましくは150℃以上300℃以下、より好ましくは1600℃以上300℃以下、更に好ましくは200℃以上300℃以下である。ストリッピングの蒸気圧としては、低いほど好ましく、1000Pa以下、より好ましくは300Pa以下、更に好ましくは200Pa以下、より更に好ましくは133.32Pa(1mmHg)Pa以下である。ストリッピングの時間としては、好ましくは2時間以上12時間以下、より好ましくは4時間以上12時間以下、更に好ましくは6時間以上10時間以下である。上記の条件に調整することにより、環状シロキサンの総量を好ましい範囲に制御することができる。
【0061】
本実施形態に係るポリイミド前駆体は、その重量平均分子量が、好ましくは30,000以上、より好ましくは50,000以上である。ポリイミドフィルムのヘイズを低減させる観点から、ポリイミド前駆体の重量平均分子量は、好ましくは200,000以下、より好ましくは150,000以下である。ポリイミド前駆体の望ましい重量平均分子量は、所望される用途、ポリイミド前駆体の種類、樹脂組成物の固形分含有量、樹脂組成物が含み得る溶媒の種類等によって異なってよい。
【0062】
本実施形態に係るポリイミド前駆体は、ジアミン成分と、酸成分との共重合体であることが好ましい。ジアミン成分は、第一ジアミン化合物と、所望により第二ジアミン化合物とを含み、また、酸成分は、例えば一般式(PIP1)のP2基を有する、酸二無水物化合物を含むことが好ましい。
【0063】
(第二ジアミン化合物)
第二ジアミン化合物は、ジアミノジフェニルスルホン(例えば、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホンなど)、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノビフェニル、3,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、4,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、9,10-ビス(4-アミノフェニル)アントラセン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(3-アミノプロピルジメチルシリル)ベンゼン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(BAFL)、及びジアミノ(ポリ)シロキサンから成る群から選択される少なくとも1つであることができる。
【0064】
(酸成分:酸二無水物化合物)
酸二無水物化合物は、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-シクロヘキセン-1,2ジカルボン酸無水物、ピロメリット酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、メチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,1-エチリデン-4,4’-ジフタル酸二無水物、2,2-プロピリデン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,2-エチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,3-トリメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,4-テトラメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,5-ペンタメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、チオ-4,4’-ジフタル酸二無水物、スルホニル-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ベンゼン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,3-ビス[2-(3,4-ジカルボキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン二無水物、1,4-ビス[2-(3,4-ジカルボキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン二無水物、ビス[3-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、2,2-ビス[3-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジメチルシラン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、カルボニル-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、メチレン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、1,2-エチレン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、1,1-エチリデン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、2,2-プロピリデン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、オキシ-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、チオ-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、スルホニル-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、rel-[1S,5R,6R]-3-オキサビシクロ[3,2,1]オクタン-2,4-ジオン-6-スピロ-3’-(テトラヒドロフラン-2’,5’-ジオン)、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物、エチレングリコール-ビス-(3,4-ジカルボン酸無水物フェニル)エーテル、4,4’-ビフェニルビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、及び9,9’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物から成る群から選択される少なくとも1つであることができる。
【0065】
中でも、P2基を含む酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、ノルボルナン-2-スピロ-2’-シクロペンタノン-5’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物(CpODA)、及び4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)から成る群より選択される少なくとも一つであることが好ましい。
ただし、ポリイミド前駆体を得るために用いられる酸成分は、上記酸二無水物とは異なる酸成分(その他の酸成分)を含んでよい。その他の酸成分は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
(その他の酸成分:ジカルボン酸)
その他の酸成分としては、ジカルボン酸が挙げられる。すなわち、本実施形態に係るポリイミド前駆体はポリアミドイミド前駆体であってよい。このようなポリイミド前駆体から得られるフィルムは、機械伸度、ガラス転移温度等の諸性能が良好である場合がある。ジカルボン酸としては、芳香環を有するジカルボン酸、及び脂環式ジカルボン酸が挙げられる。特に炭素数が8~36の芳香族ジカルボン酸、及び炭素数が6~34の脂環式ジカルボン酸から成る群より選択される少なくとも一つの化合物が挙げられる。ここでいう炭素数には、カルボキシル基に含まれる炭素の数も含む。
【0067】
芳香環を有するジカルボン酸としては、具体的には、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、3,4’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ビフェニルジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-スルホニルビス安息香酸、3,4’-スルホニルビス安息香酸、3,3’-スルホニルビス安息香酸、4,4’-オキシビス安息香酸、3,4’-オキシビス安息香酸、3,3’-オキシビス安息香酸、2,2-ビス(4-カルボキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-カルボキシフェニル)プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニルジカルボン酸、2,2’-ジメチル-3,3’-ビフェニルジカルボン酸、9,9-ビス(4-(4-カルボキシフェノキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-カルボキシフェノキシ)フェニル)フルオレン、4,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)ビフェニル、3,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)ビフェニル、3,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(3―カルボキシフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、4,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、3,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、3,3’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、3,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、3,3’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、4,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、4,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、3,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、3,3’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、3,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、3,3’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、1,1-シクロブタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、1,3-フェニレン二酢酸、1,4-フェニレン二酢酸等;及び国際公開第2005/068535号に記載の5-アミノイソフタル酸誘導体等が挙げられる。これらジカルボン酸をポリマーに実際に共重合させる場合には、塩化チオニル等から誘導される酸クロリド体、活性エステル体等の形で使用してもよい。
【0068】
<樹脂組成物>
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記で説明されたポリイミド前駆体及び/又はそれから得られるポリイミドと、溶媒と、所望により追加の成分とを含む。
【0069】
<溶媒>
樹脂組成物は溶媒を含む。溶媒としては、ポリイミド前駆体の溶解性が良好で、かつ樹脂組成物の溶液粘度を適切に制御できるものが好ましく、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、及び/又はγ-ブチロラクトン(GBL)が好ましい。NMPとGBLとの混合溶媒を用いる場合、NMPとGBLとの質量比は、例えば、NMP:GBL(質量比)=10:90~90:10であってよい。
【0070】
<追加の成分>
樹脂組成物は、ポリイミド前駆体、及び溶媒に加えて、追加の成分を更に含んでよい。追加の成分としては、例えば、界面活性剤が挙げられる。
【0071】
(界面活性剤)
樹脂組成物は、界面活性剤を更に含むことにより、樹脂組成物の塗布性の向上を図り易くなる。具体的には、塗工膜におけるスジの発生を防ぎ易くなる。
このような界面活性剤は、例えば、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、これら以外の非イオン界面活性剤等を挙げることができる。シリコーン系界面活性剤としては、例えば、オルガノシロキサンポリマーKF-640、642、643、KP341、X-70-092、X-70-093(商品名、信越化学工業社製);SH-28PA、SH-190、SH-193、SZ-6032、SF-8428、DC-57、DC-190(商品名、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製);SILWET L-77,L-7001,FZ-2105,FZ-2120,FZ-2154,FZ-2164,FZ-2166,L-7604(商品名、日本ユニカー社製);DBE-814、DBE-224、DBE-621、CMS-626、CMS-222、KF-352A、KF-354L、KF-355A、KF-6020、DBE-821、DBE-712(Gelest)、BYK-307、BYK-310、BYK-378、BYK-333(商品名、ビックケミー・ジャパン製);グラノール(商品名、共栄社化学社製)等が挙げられる。フッ素系界面活性剤としては、例えば、メガファックF171、F173、R-08(大日本インキ化学工業株式会社製、商品名);フロラードFC4430、FC4432(住友スリーエム株式会社、商品名)等が挙げられる。これら以外の非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンウラリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル等が挙げられる。
【0072】
これらの界面活性剤の中でも、樹脂組成物の塗工性(スジ抑制)の観点から、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤が挙げられ、キュア工程時の酸素濃度による黄色度(YI値)、及び全光線透過率への影響を低減する観点から、シリコーン系界面活性剤が挙げられる。界面活性剤を用いる場合、その配合量は、樹脂組成物中のポリイミド前駆体100質量部に対して、例えば、0.001~5質量部又は0.01~3質量部である。
【0073】
<樹脂組成物の製造方法>
以上説明した樹脂組成物を製造するための、製造方法の一例は、以下のとおりである。
【0074】
<ポリイミド前駆体の合成>
本実施形態に係るポリイミド前駆体は、酸成分、及びジアミン成分を含む重縮合成分を重縮合反応させることにより合成することができる。酸成分、及びジアミン成分については、上記説明のとおりである。重縮合反応は、適当な溶媒中で行うことが好ましい。具体的には、例えば、溶媒に所定量のジアミン成分を溶解させた後、得られたジアミン溶液に、酸成分を所定量添加し、撹拌する方法が挙げられる。
【0075】
ポリイミド前駆体を合成するときの酸成分とジアミン成分とのモル比は、ポリイミド前駆体樹脂の高分子量化、樹脂組成物のスリットコーティング特性の観点から、酸成分:ジアミン成分=100:90~100:110(酸成分1モル部に対してジアミン成分0.90~1.10モル部)の範囲が好ましく、100:95~100:105(酸成分1モル部に対してジアミン成分0.95~1.05モル部)の範囲が更に好ましい。
【0076】
ポリイミド前駆体の分子量は、酸成分及びジアミン成分の種類、酸成分とジアミン成分とのモル比の調整、末端封止剤の添加、反応条件の調整等によって制御可能である。酸成分とジアミン成分とのモル比が1:1に近いほど、及び末端封止剤の使用量が少ないほど、ポリイミド前駆体を高分子量化することができる。
【0077】
酸成分及びジアミン成分として、高純度品を使用することが推奨される。その純度としては、それぞれ、好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上、更に好ましくは99.5質量%以上である。酸成分及びジアミン成分における水分含量を低減することによって高純度化することもできる。複数種類の酸成分、及び/又は複数種類のジアミン成分を使用する場合には、酸成分全体として、及びジアミン成分全体として上記純度を有することが好ましく、使用する全種類の酸成分、及びジアミン成分が、それぞれ上記純度を有していることがより好ましい。
【0078】
反応の溶媒としては、酸成分、及びジアミン成分、並びに生じるポリイミド前駆体を溶解することができ、高分子量の重合体が得られる溶媒であればよい。このような溶媒としては、例えば、非プロトン性溶媒、フェノール系溶媒、エーテル、及びグリコール系溶媒等が挙げられる。非プロトン性溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、NMP、N-メチルカプロラクタム、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素、及び下記一般式(7)のアミド系溶媒:
【化17】
{式中、R
12=メチル基で表されるエクアミドM100(商品名:出光興産社製)、及び、R
12=n-ブチル基で表されるエクアミドB100(商品名:出光興産社製)};γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒;ヘキサメチルホスホリックアミド、ヘキサメチルホスフィントリアミド等の含リン系アミド系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ピコリン、ピリジン等の3級アミン系溶媒;酢酸(2-メトキシ-1-メチルエチル)等のエステル系溶媒等が挙げられる。
【0079】
フェノ-ル系溶媒としては、例えば、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール等が挙げられる。
エーテル、及びグリコール系溶媒としては、例えば、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等が挙げられる。
これらの溶媒は、単独で又は2種類以上混合して用いてもよい。
【0080】
ポリイミド前駆体の合成に用いられる溶媒の常圧における沸点は、好ましくは60~300℃、より好ましくは140~280℃、更に好ましくは170~270℃である。溶媒の沸点が300℃より低いことにより、乾燥工程が短時間になる。溶媒の沸点が60℃以上であると、乾燥工程中に、樹脂膜の表面における荒れの発生、樹脂膜中への気泡の混入等が起こり難く、より均一なフィルムを得ることができる。特に、沸点が170~270℃であり、及び/又は20℃における蒸気圧が250Pa以下である溶媒を使用することが、溶解性、及び塗工時のエッジ異常の低減の観点から好ましい。より具体的には、NMP、GBL、及び一般式(7)で表される化合物から成る群より選択される1種以上が好ましい。
【0081】
溶媒中の水分含量は、重縮合反応を良好に進行させるために、例えば3,000質量ppm以下であることが好ましい。また、樹脂組成物中、分子量1,000未満の分子の含有量が5質量%未満であることが好ましい。樹脂組成物中に分子量1,000未満の分子が存在するのは、合成時に使用する溶媒や原料(酸二無水物、ジアミン)の水分量が関与しているためと考えられる。すなわち、一部の酸二無水物モノマーの酸無水物基が水分によって加水分解してカルボキシル基になり、高分子量化することなく低分子の状態で残存することによると考えられる。従って、上記重縮合反応に使用する溶媒の水分量は少ないほど好ましい。溶媒の水分量は、3,000質量ppm以下とすることが好ましく、1,000質量ppm以下とすることがより好ましい。同様に、原料に含まれる水分量についても、3,000質量ppm以下とすることが好ましく、1,000質量ppm以下とすることがより好ましい。
【0082】
溶媒の水分量は、使用する溶媒のグレード(脱水グレード、汎用グレード等)、溶媒容器(ビン、18L缶、キャニスター缶等)、溶媒の保管状態(希ガス封入の有無等)、開封から使用までの時間(開封後すぐ使用するか、開封後経時した後に使用するか等)等が関与すると考えられる。合成前の反応器の希ガス置換、合成中の希ガス流通の有無等も関与すると考えられる。従って、ポリイミド前駆体の合成時には、原料として高純度品を用い、水分量の少ない溶媒を用いるとともに、反応前、及び反応中に系内に環境からの水分が混入しないような措置を講ずることが推奨される。
【0083】
溶媒中に各重縮合成分を溶解させるときには、必要に応じて加熱してよい。重合度の高いポリイミド前駆体を得る観点から、ポリイミド前駆体合成時の反応温度としては、好ましくは0℃~120℃、40℃~100℃、又は60~100℃であってよく、重合時間としては、好ましくは1~100時間又は2~10時間であってよい。重合時間を1時間以上とすることによって均一な重合度のポリイミド前駆体となり、100時間以下とすることによって重合度の高いポリイミド前駆体を得ることができる。
【0084】
樹脂組成物は、本実施形態に係るポリイミド前駆体以外に、他の追加のポリイミド前駆体を含んでもよい。しかしながら、追加のポリイミド前駆体の質量割合は、樹脂組成物中のポリイミド前駆体の総量に対して、好ましくは30質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0085】
本実施形態に係るポリイミド前駆体は、その一部がイミド化されていてもよい(部分イミド化)。ポリイミド前駆体を部分イミド化することにより、樹脂組成物を保存するときの粘度安定性を向上できる。この場合のイミド化率は、樹脂組成物中のポリイミド前駆体の溶解性と溶液の保存安定性とのバランスをとる観点から、好ましくは5%以上、より好ましくは8%以上であり、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下、更に好ましくは50%以下である。この部分イミド化は、ポリイミド前駆体を加熱して脱水閉環することにより得られる。この加熱は、好ましくは120~200℃、より好ましくは150~180℃の温度において、好ましくは15分~20時間、より好ましくは30分~10時間行うことができる。
【0086】
上記反応によって得られたポリアミド酸に、N,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール又はN,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタールを加えて加熱することでカルボン酸の一部又は全部をエステル化したものを、本実施形態に係るポリイミド前駆体として用いてもよい。エステル化によって、保存時の粘度安定性を向上することができる。これらエステル変性ポリアミド酸は、上記酸成分を、酸無水物基に対して1当量の1価のアルコール、及び塩化チオニル、ジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水縮合剤と順次に反応させた後、ジアミン成分と縮合反応させる方法によっても得ることができる。
【0087】
<樹脂組成物の調整>
ポリイミド前駆体を合成したときに用いた溶媒と、樹脂組成物に含有させる溶媒とが同一の場合には、合成したポリイミド前駆体溶液をそのまま樹脂組成物として使用することができる。必要に応じて、室温(25℃)~80℃の温度範囲で、ポリイミド前駆体に更なる溶媒、及び追加の成分の1種以上を添加して、攪拌混合することにより、樹脂組成物を調整してよい。この攪拌混合は、撹拌翼を備えたスリーワンモータ(新東化学株式会社製)、自転公転ミキサー等の適宜の装置を用いて行うことができる。必要に応じて樹脂組成物を40℃~100℃に加熱してよい。
【0088】
他方、ポリイミド前駆体を合成したときに用いた溶媒と、樹脂組成物に含有させる溶媒とが異なる場合には、合成したポリイミド前駆体溶液中の溶媒を、例えば再沈殿、溶媒留去等の適宜の方法により除去してポリイミド前駆体を単離してよい。次いで、室温(25℃)~80℃の温度範囲で、単離したポリイミド前駆体に、所望の溶媒、及び必要に応じて追加の成分を添加して、攪拌混合することにより、樹脂組成物を調製してよい。
【0089】
上記のように樹脂組成物を調製した後、樹脂組成物を、例えば130~200℃で、例えば5分~2時間加熱することにより、ポリマーが析出を起こさない程度にポリイミド前駆体の一部を脱水イミド化してよい(部分イミド化)。加熱温度、及び加熱時間をコントロールすることにより、イミド化率を制御することができる。ポリイミド前駆体を部分イミド化することにより、樹脂組成物を保存する際の粘度安定性を向上することができる。
【0090】
樹脂組成物の溶液粘度は、スリットコート性能の観点においては、好ましくは500~100,000mPa・s、より好ましくは1,000~50,000mPa・s、更に好ましくは3,000~20,000mPa・sである。具体的には、スリットノズルから液漏れし難い点で、好ましくは500mPa・s以上、より好ましくは1,000mPa・s以上、更に好ましくは3,000mPa・s以上である。スリットノズルが目詰まりし難い点で、好ましくは100,000mPa・s以下、より好ましくは50,000mPa・s以下、更に好ましくは20,000mPa・s以下である。
【0091】
ポリイミド前駆体の合成時における樹脂組成物の溶液粘度については、200,000mPa・sより高いと、合成時の撹拌が困難になる可能性がある。ただし、合成するときに溶液が高粘度になったとしても、反応終了後に溶媒を添加して撹拌することにより、取扱い性のよい粘度の樹脂組成物を得ることが可能である。本実施形態に係る樹脂組成物の溶液粘度は、E型粘度計(例えばVISCONICEHD、東機産業製)を用い、23℃で測定される値である。
【0092】
樹脂組成物の水分量は、樹脂組成物を保存するときの粘度安定性の観点から、好ましくは3,000質量ppm以下、より好ましくは2,500質量ppm以下、更に好ましくは2,000質量ppm以下、より更に好ましくは1,500質量ppm以下、特に好ましくは1,000質量ppm以下、特に好ましくは500質量ppm以下、特に好ましくは300質量ppm以下、特に好ましくは100質量ppm以下である。
【0093】
<ポリイミド、ポリイミドフィルム及びそれらの製造方法>
本実施形態に係るポリイミドは、本実施形態に係るポリイミド前駆体又は樹脂組成物を熱または化学イミド化することにより得ることができる。すなわち、本実施形態に係るポリイミドは、下記一般式(8):
【化18】
{式中、P
1は、下記一般式(DA1):
【化19】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基を表し、
R
3及びR
4は、それぞれ独立に、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基、又はハロゲン原子を表し、
R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数6~24の芳香族環基、又は置換若しくは非置換の炭素数4~24のヘテロ芳香族環基を表し、かつ
n
1及びn
2は、それぞれ独立に、0又は1の整数であり、但し、n
1とn
2が同時に0となることはない。)
で表される2価の基を示し、P
2は4価の有機基を示し、そしてpは2以上の正の整数を示す。}
で表される繰り返し単位を含む。本実施形態に係る樹脂組成物について述べた好ましい態様は、本実施形態に係るポリイミドについても適用することができる。また、本実施形態に係る樹脂組成物を用いて、本実施形態に係るポリイミドフィルム(以下、ポリイミド樹脂膜ともいう)を提供することができる。
【0094】
本実施形態に係るポリイミドフィルムの製造方法は、以下の工程:
・支持体の表面上に、本実施形態に係る樹脂組成物を塗布する塗布工程と;
・所望により、樹脂組成物を乾燥させる乾燥工程;
・樹脂組成物を加熱してポリイミド樹脂膜を形成する膜形成工程と;
・ポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する剥離工程と;
を含む。
【0095】
<塗布工程>
塗布工程では、支持体の表面上に樹脂組成物を塗布する。支持体は、その後の膜形成工程(加熱工程)における加熱温度に対する耐熱性を有し、かつ剥離工程における剥離性が良好であれば特に限定されない。支持体としては、例えば、ガラス基板、例えば無アルカリガラス基板;シリコンウェハー;PET(ポリエチレンテレフタレート)、OPP(延伸ポリプロピレン)、ポリエチレングリコールテレフタレート、ポリエチレングリコールナフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンスルフィド等の樹脂基板;ステンレス、アルミナ、銅、ニッケル等の金属基板等が挙げられる。
【0096】
薄膜状のポリイミド成形体を形成する場合には、例えば、ガラス基板、シリコンウェハー等が好ましく、厚膜状のフィルム状又はシート状のポリイミド成形体を形成する場合には、例えばPET(ポリエチレンテレフタラート)、OPP(延伸ポリプロピレン)等から成る支持体が好ましい。
【0097】
塗布方法としては、一般には、ドクターブレードナイフコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ロータリーコーター、フローコーター、ダイコーター、バーコーター等の塗布方法、スピンコート、スプレイコート、ディップコート等の塗布方法;スクリーン印刷、及びグラビア印刷等に代表される印刷技術等が挙げられる。中でも、本実施形態に係る樹脂組成物には、スリットコートによる塗布が好ましい。塗布厚は、所望の樹脂フィルムの厚さと樹脂組成物中のポリイミド前駆体の含有量に応じて適宜調整するべきであるが、好ましくは1~1,000μm程度である。塗布工程における温度は室温でもよく、粘度を下げて作業性をよくするために、樹脂組成物を例えば40~80℃に加温してもよい。
【0098】
<乾燥工程>
塗布工程に続いて乾燥工程を行ってもよく又は乾燥工程を省略して直接次の膜形成工程(加熱工程)に進んでもよい。乾燥工程は、樹脂組成物中の有機溶剤除去の目的で行われる。乾燥工程を行う場合、例えば、ホットプレート、箱型乾燥機、コンベヤー型乾燥機等の適宜の装置を使用することができる。乾燥工程の温度は、好ましくは80~200℃、より好ましくは100~150℃である。乾燥工程の実施時間は、好ましくは1分~10時間、より好ましくは3分~1時間である。上記のようにして、支持体上にポリイミド前駆体を含有する塗膜が形成される。
【0099】
<膜形成工程>
続いて、膜形成工程(加熱工程)を行う。加熱工程は、上記塗膜中に含まれる有機溶剤の除去を行うとともに、塗膜中のポリイミド前駆体のイミド化反応を進行させ、ポリイミド樹脂膜を得る工程である。この加熱工程は、例えば、イナートガスオーブン、ホットプレート、箱型乾燥機、コンベヤー型乾燥機等の装置を用いて行うことができる。この工程は乾燥工程と同時に行っても、両工程を逐次的に行ってもよい。
【0100】
加熱工程は、空気雰囲気下で行ってもよいが、安全性と、得られるポリイミドフィルムの良好な透明性、低い厚み方向レタデーションを得る観点から、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン等が挙げられる。加熱温度は、ポリイミド前駆体の種類、及び樹脂組成物中の溶媒の種類に応じて適宜に設定されてよいが、好ましくは250℃~550℃、より好ましくは300~450℃である。250℃以上であればイミド化が良好に進行し、550℃以下であれば得られるポリイミドフィルムの透明性の低下、耐熱性の悪化等の不都合を回避できる。加熱時間は、好ましくは0.1~10時間程度である。
【0101】
本実施形態では、上記加熱工程における周囲雰囲気の酸素濃度は、得られるポリイミドフィルムの透明性の観点から、好ましくは2,000質量ppm以下、より好ましくは100質量ppm以下、更に好ましくは10質量ppm以下である。
【0102】
<剥離工程>
剥離工程では、支持体上のポリイミド樹脂膜を、例えば室温(25℃)~50℃程度まで冷却した後に剥離する。この剥離工程としては、例えば下記の(1)~(4)の態様が挙げられる。
【0103】
(1)上記方法によりポリイミド樹脂膜/支持体を含む構成体を作製した後、構造体の支持体側からレーザーを照射して(照射工程)、支持体とポリイミド樹脂膜との界面をアブレーション加工することにより、ポリイミド樹脂を剥離する方法(つまり、剥離工程に先立って、支持体側からポリイミドフィルムにレーザーを照射する照射工程を有する方法)。レーザーの種類としては、固体(YAG)レーザー、ガス(UVエキシマー)レーザー等が挙げられる。波長308nm等のスペクトルを用いることが好ましい(特表2007-512568号公報、特表2012-511173号公報等を参照)。
【0104】
(2)支持体に樹脂組成物を塗工する前に、支持体に剥離層を形成し、その後ポリイミド樹脂膜/剥離層/支持体を含む構成体を得て、ポリイミド樹脂膜を剥離する方法。剥離層としては、パリレン(登録商標、日本パリレン合同会社製)、酸化タングステンが挙げられ;植物油系、シリコーン系、フッ素系、アルキッド系等の離型剤を用いてもよい(特開2010-067957号公報、特開2013-179306号公報等を参照)。
この方法(2)と方法(1)のレーザー照射とを併用してもよい。
【0105】
(3)支持体としてエッチング可能な金属基板を用いて、ポリイミド樹脂膜/支持体を含む構成体を得た後、エッチャントで金属をエッチングすることにより、ポリイミド樹脂フィルムを得る方法。金属としては、例えば、銅(具体例としては、三井金属鉱業株式会社製の電解銅箔「DFF」)、アルミニウム等を使用することができる。エッチャントとしては、銅に対しては塩化第二鉄等を、アルミニウムに対しては希塩酸等を使用することができる。
【0106】
(4)上記方法によりポリイミド樹脂膜/支持体を含む構成体を得た後、ポリイミド樹脂膜表面に粘着フィルムを貼り付けて、支持体から粘着フィルム/ポリイミド樹脂膜を分離し、その後粘着フィルムからポリイミド樹脂膜を分離する方法。
【0107】
得られるポリイミドフィルムの厚さは、限定されないが、好ましくは1~200μm、より好ましくは5~100μmである。
【0108】
<ポリイミドフィルムの用途>
上記樹脂組成物から得られる、本実施形態に係るポリイミドフィルムは、例えば、フレキシブルデバイスの製造において、薄膜トランジスタ(TFT)基板、カラーフィルタ基板、タッチパネル基板、透明導電膜(ITO:Indium Thin Oxide)の基板として好適に使用することができる。本実施形態に係るポリイミドフィルムを適用可能なフレキシブルデバイスとしては、例えば、フレキシブルディスプレイ用TFTデバイス、フレキシブル太陽電池、フレキシブルタッチパネル、フレキシブル照明、フレキシブルバッテリー、フレキシブルプリント基板、フレキシブルカラーフィルター、スマートフォン向け表面カバーレンズ等を挙げることができる。
【0109】
<フレキシブルディスプレイ>
本実施形態に係るポリイミドフィルムは、フレキシブルディスプレイに好適に用いることができる。ここで、フレキシブルディスプレイとしてのポリイミドフィルムに要求される特性、特に、ヤング率、レタデーション、及び耐熱性について述べる。
【0110】
ポリイミドフィルムのヤング率は、実施例に記載の手法により測定することができる。ポリイミドフィルムのヤング率は、フレキディスプレイを巻き出し、巻き入れを繰り返した場合の耐久性の観点から、3.5以上であればよい。
【0111】
ポリイミドフィルムのレタデーションRth(膜厚10μmの厚さに換算したときの厚さ方向レタデーション)は、実施例に記載の手法により測定することができる。ポリイミドフィルムのレタデーションは、かかるポリイミドフィルムを用いて得られる画像表示デバイスの画質向上の観点から、500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、100nm以下が特に好ましい。
【0112】
ポリイミドフィルムの耐熱性は、市販の熱分析評価装置を用いて、ガラス転移温度(Tg)を測定することで評価することができる。ディスプレイの製造は高温になる箇所もあり、特に本用途のようなフレキディスプレイのTFT基板用の場合、ポリイミドフィルムのガラス転移温度は高いほど好ましい。具体的には、390℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましく、410℃以上が特に好ましい。
【0113】
フレキシブルディスプレイの製造方法は、上記ポリイミドフィルムの製造方法の各工程に加えて、膜形成工程と剥離工程の間に、ポリイミドフィルム上に素子を形成する素子形成工程を行うことが好ましい。形成される素子は、ディスプレイの構成又は種類に応じて選択されることができる。
【0114】
ポリイミドフィルムを使ったフレキシブルディスプレイにおいて、TFTを形成する工程は、典型的には、150~650℃の広い範囲の温度で実施される。アモルファスシリコンを使用したTFTデバイスを作製する場合には、一般的に250℃~350℃のプロセス温度が必要となり、その温度に耐えうる必要があるため、かかるプロセス温度以上のガラス転移温度、熱分解開始温度を有するポリマー構造を適宜選択する必要がある。
【0115】
金属酸化物半導体(IGZO等)を使用したTFTデバイスを作製する場合には、一般的に320℃~400℃のプロセス温度が必要となり、本実施形態に係るポリイミドフィルムはその温度に耐えうる必要があるため、かかるプロセス最高温度以上のガラス転移温度、熱分解開始温度を有するポリマー構造を適宜選択する必要がある。
【0116】
低温ポリシリコン(LTPS)を使用したTFTデバイスを作製する場合には、一般的に380℃~520℃のプロセス温度が必要となり、その温度に耐えうる必要があるため、かかるプロセス最高温度以上のガラス転移温度、熱分解開始温度を適宜選択有する必要がある。他方、これら熱履歴により、ポリイミドフィルムの光学特性(特に、光線透過率、レタデーション特性等)は高温プロセスに晒されるほど低下する傾向にある。しかしながら、本実施形態に係るポリイミド前駆体から得られるポリイミドは、熱履歴を経ても良好な光学特性を有する。
【実施例】
【0117】
<実施例1>
【0118】
<臭素付加反応>
下記スキーム1に従って反応を行なった。
【化20】
三口フラスコに4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(3.2g)およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(20mL)を加え、-20℃に冷却した後、その調製溶液に対してN-ブロモスクシンイミド(3.6g)をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(30mL)に溶解させた溶液を2時間かけて滴下した。滴下後、さらに30分間-20℃で保持した状態で撹拌し、その後、室温で終夜撹拌した。反応は薄層クロマトグラフィー(メルク社製、TLC Silica gel 60 F254)にて追跡し、原料が消失した時点を反応の終点とした。
【0119】
溶媒をロータリーエバポレーターにより留去した後、5%亜硫酸ナトリウム水溶液(100mL)で洗浄し、さらにイオン交換水(100mL)で洗浄することで橙色の粗生成物を得た。
【0120】
この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(富士フィルム和光社製ワコーゲルC-200、40mL、展開溶媒はTHF及びノルマル-ヘキサンの混合溶媒)により精製し、溶媒をロータリーエバポレーターで留去することで、淡黄色固体4,4’-ジアミノ-5,5’-ジブロモ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(1.8 g)を得た。
【0121】
化合物同定は1H NMR(日本電子製、ECS-400)によって行った。
1H NMR (DMSO-d6, RT) δ[ppm]=7.26(s,2H),7.16(s, 2H),及び5.88(s,4H).
【0122】
<カップリング反応>
下記スキーム2に従って反応を行なった。
【化21】
三口フラスコに4,4’-ジアミノ-5,5’-ジブロモ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(4.8g)、フェニルボロン酸(3.7g)、酢酸パラジウム(0.34g)、炭酸ナトリウム(4.2g)を入れた後、系内を窒素置換し、そこにアセトン(30mL)と水(40mL)を加えた。反応は薄膜クロマトグラフィー(メルク社製、TLC Silica gel 60 F254)にて追跡し、12時間40℃に保持した状態で撹拌した後、室温まで冷却した。
【0123】
反応溶液を酢酸エチル(10mL)で3回抽出し、有機層を硫酸マグネシウム(20g)で乾燥した。ロータリーエバポレーターにより溶媒を留去した後、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(富士フィルム和光社製ワコーゲルC-300、200mL、展開溶媒:THF及びノルマルヘキサンの混合溶媒)により分離した。ロータリーエバポレーターにより溶媒を留去した後、THF及びノルマル-ヘキサンによる再結晶操作を行った。得られた沈殿を濾過することで、白色固体の4,4’-ジアミノ-5,5’-ジフェニル-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(2.8g)を得た。
【0124】
化合物同定は1H NMR(日本電子製ECS-400)によって行った。
1H NMR (DMSO-d6,RT) δ[ppm]=7.48-7.42(m,2H),7.37(m,2H),7.17(s,2H),6.90(s,2H),及び5.32(s,4H)
【0125】
<ポリイミド前駆体及びポリイミドの調製>
≪測定、及び評価方法≫
<レタデーション(Rth)>
ポリイミド前駆体を含む樹脂組成物を、表面にアルミニウム蒸着層を設けた6インチシリコンウェハー基板に、加熱イミド化処理後の膜厚が10μmになるようにスピンコートし、100℃にて6分間プリベークした。その後、縦型キュア炉(光洋リンドバーグ社製、型式名VF-2000B)を用いて、庫内の酸素濃度が10質量ppm以下になるように調整し、400℃で30分間の加熱イミド化処理を施し、ポリイミドフィルムが形成されたウェハーを作製した。次に、該ウェハーのポリイミドフィルムを希塩酸水溶液に一晩浸してフィルム片を剥離し、乾燥させた。得られたポリイミドフィルムを試料として、位相差複屈折測定装置(王子計測機器社製、KOBRA-WR)を用いて測定した。測定光の波長は589nmとした。そして、膜厚10μmの厚さに換算して用いた。
【0126】
<ヤング率>
ポリイミド前駆体を含む樹脂組成物を、表面にアルミニウム蒸着層を設けた6インチシリコンウェハー基板に、加熱イミド化処理後の膜厚が10μmになるようにスピンコートし、100℃にて6分間プリベークした。その後、縦型キュア炉(光洋リンドバーグ社製、型式名VF-2000B)を用いて、庫内の酸素濃度が10質量ppm以下になるように調整して、400℃で30時間の加熱イミド化処理を施し、ポリイミドフィルムが形成されたウェハーを作製した。次に、ダイシングソー(株式会社ディスコ製 DAD 3350)を用いて該ウェハーのポリイミドフィルムに3mm幅の切れ目を入れた後、希塩酸水溶液に一晩浸してフィルム片を剥離し、乾燥させた。これを、長さ50mmにカットし、サンプルとした。
上記サンプルにつき、TENSILON(オリエンテック社製 UTM-II-20)を用いて、試験速度40mm/min、初期加重0.5fsにてヤング率を測定した。
【0127】
<黄色度(YI)評価>
ポリイミド前駆体を含む樹脂組成物を、4インチガラス基板に、加熱イミド化処理後の膜厚が10μmになるようにスピンコートし、100℃にて6分間プリベークした。その後、縦型キュア炉(光洋リンドバーグ社製、型式名VF-2000B)を用いて、庫内の酸素濃度が10質量ppm以下になるように調整し、400℃で30分間の加熱イミド化処理を施し、ポリイミドフィルムが形成されたウェハーを作製した。上記サンプルにつき、日本電色工業(株)製(Spectrophotometer:SE600)にてD65光源を用いて黄色度(YI)値(膜厚10μm換算)を測定した。
【0128】
<合成例1>
撹拌棒付き500mLセパラブルフラスコに、窒素ガスを導入しながら、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジフェニル-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(2.3g)を投入し、ジアミンの全質量の4倍の質量の重合溶媒(NMP)を加えた。
次に上記セパラブルフラスコに滴下ロートをセットし、その滴下ロートに窒素ガスを導入しながら酸二無水物としてPMDA(1.1g)並びに酸二無水物の4倍の質量の重合溶媒(NMP)を加え、そして、室温にて小型の撹拌羽根で撹拌した。
続いて、オイルバスを用いて反応系を80℃に昇温し、4時間撹拌した。その後、オイルバスを外して室温に戻し、透明なポリアミド酸のNMP溶液(以下、ワニス1とも記す)を得た。得られたワニス1は冷凍庫(設定-20℃、以下同じ。)で保管し、評価をする際は解凍して使用した。
このワニス1を使用して上記各方法で作成したポリイミドフィルムの各物性を測定した。その結果、レタデーションは50nm、ヤング率は3.8GPa、黄色度は23.7となった。
【0129】
<合成例2>
撹拌棒付き500mLセパラブルフラスコに、窒素ガスを導入しながら、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジフェニル-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(2.2g)及び両末端アミン変性メチルフェニルシリコーンオイル(Mw=4,400)(0.8g)を投入し、ジアミンの全質量の4倍の質量の重合溶媒(NMP)を加えた。
次に上記セパラブルフラスコに滴下ロートをセットし、その滴下ロートに窒素ガスを導入しながら酸二無水物としてPMDA(1.1g)並びに酸二無水物の4倍の質量の重合溶媒(NMP)を加え、そして、室温にて小型の撹拌羽根で撹拌した。
続いて、オイルバスを用いて反応系を80℃に昇温し、4時間撹拌した。その後、オイルバスを外して室温に戻し、透明なポリアミド酸のNMP溶液(以下、ワニス2とも記す)を得た。得られたワニス2は冷凍庫(設定-20℃、以下同じ。)で保管し、評価をする際は解凍して使用した。
このワニス2を使用して上記各方法で作成したポリイミドフィルムの各物性を測定した。その結果、レタデーションは40nm、ヤング率は3.3GPa、黄色度は20.3となった。
【0130】
本明細書中の略語は以下のとおりである。
酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODPA:4,4’-オキシジフタル酸二無水物
6FDA:4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物
CpODA:ノルボルナン-2-スピロ-2’-シクロペンタノン-5’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物
ジアミン
TFMB:2,2’-ビス(卜リフルオロメチル)ペンジジン
Br2-TFMB:4,4’-ジアミノ-5,5’-ジブロモ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル
Ph2-TFMB:4,4’-ジアミノ-5,5’-ジフェニル-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル