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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】複合樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/02 20060101AFI20231003BHJP
   C08K 5/21 20060101ALI20231003BHJP
   C08L 3/02 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C08L23/02
C08K5/21
C08L3/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019195310
(22)【出願日】2019-10-28
(65)【公開番号】P2021066850
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】竹本 紘基
(72)【発明者】
【氏名】重實 大介
(72)【発明者】
【氏名】高口 均
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-526586(JP,A)
【文献】特表平05-505416(JP,A)
【文献】特開2004-002613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン中に、酸処理澱粉、アルカリ処理澱粉、酸化澱粉、酵素処理澱粉、金属塩との混合処理澱粉、加熱処理澱粉、粉砕処理澱粉、押出処理澱粉、α化処理澱粉、ラジカル処理澱粉、放射線処理澱粉、電子線処理澱粉、マイクロ波処理澱粉、超音波処理澱粉、高周波処理澱粉、圧力処理澱粉、ミリング処理澱粉、粉体衝突処理澱粉、及び摩擦処理澱粉からなる群より選ばれる少なくとも1つが分散した複合樹脂組成物であって、尿素を含み、フィルムにおける澱粉凝集物の面積占有率が5%以下である複合樹脂組成物。
【請求項2】
前記処理澱粉は、α化処理澱粉であることを特徴とする請求項1に記載の複合樹脂組成物。
【請求項3】
前記処理澱粉は、10質量%糊液のRVAピーク粘度が原料となる未処理澱粉のRVAピーク粘度の5%以下でありかつ最大粒子径と最小粒子径との差が2μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の複合樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリオレフィンが25~88質量部、前記処理澱粉が10~50質量部及び前記尿素が2~30質量部の割合で含むことを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリオレフィンは、未変性であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の複合樹脂組成物の製造方法であって、前記ポリオレフィン酸処理澱粉、アルカリ処理澱粉、酸化澱粉、酵素処理澱粉、金属塩との混合処理澱粉、加熱処理澱粉、粉砕処理澱粉、押出処理澱粉、α化処理澱粉、ラジカル処理澱粉、放射線処理澱粉、電子線処理澱粉、マイクロ波処理澱粉、超音波処理澱粉、高周波処理澱粉、圧力処理澱粉、ミリング処理澱粉、粉体衝突処理澱粉、及び摩擦処理澱粉からなる群より選ばれる少なくとも1つ、及び前記尿素を混練機に同時に投入して混練することにより製造することを特徴とする、複合樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化、マイクロプラスチックによる海洋汚染、化石燃料の枯渇等の懸念により、バイオマスを活用した石油由来プラスチックの代替が注目を浴びている。中でも、ポリオレフィンは生産量、使用量が多く、環境に与える影響が大きい。そこで、ポリオレフィンの一部をバイオマスで置き換える試みが成されている。しかしながら、一般にポリオレフィンと前記バイオマスは親和性が悪く、均一化された混合物が得られないといった課題がある。
【0003】
かかる問題に鑑みて、特許文献1には、不飽和カルボン酸若しくはその誘導体で変性されたポリオレフィン等と澱粉との混合物からなる樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2には、化学変性澱粉と、可塑剤、尿素、及び乳化剤と、線状ポリマーとからなる樹脂組成物が開示されている。さらに、特許文献3には、ポリオレフィン及び澱粉質系材料に、不飽和ジカルボン酸等で酸変性された相溶化剤を混合させた樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-340771号公報
【文献】特開平5-239265号公報
【文献】特開2004-2613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、澱粉の分子量に関する検討は無く、特許文献1では、ポリオレフィンを化学的に変性させた変性ポリオレフィンを用いることで、澱粉の相容性を改善する必要があり、特許文献2では、線状ポリマー及び澱粉の他に、可塑剤や乳化剤等の余分な成分を用いる必要があった。また、特許文献3では、ポリオレフィン及び澱粉の他に相溶化剤等を用いて澱粉の相容性を改善する必要がある。この結果、上記いずれの樹脂組成物においても、製造方法が煩雑化してしまうことや、化学薬品を使用し、澱粉を高度に誘導体化する必要があり、用いる樹脂として変性ポリオレフィン、生分解性を有する線状ポリマーに限定されている。
【0006】
本発明は、簡易かつ安価に樹脂組成物中の石油由来成分をバイオマス素材に置き換えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的達成のため、鋭意検討を行った。その結果、驚くべきことに、澱粉を低分子化させ、尿素を添加させることで、ポリオレフィン、低分子化澱粉及び尿素を含有する複合樹脂組成物において、澱粉の分散性が改善され、澱粉がポリオレフィンに高度に分散した複合樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリオレフィン中に酸処理澱粉、アルカリ処理澱粉、酸化澱粉、酵素処理澱粉、金属塩との混合処理澱粉、加熱処理澱粉、粉砕処理澱粉、押出処理澱粉、α化処理澱粉、ラジカル処理澱粉、放射線処理澱粉、電子線処理澱粉、マイクロ波処理澱粉、超音波処理澱粉、高周波処理澱粉、圧力処理澱粉、ミリング処理澱粉、粉体衝突処理澱粉、及び摩擦処理澱粉からなる群より選ばれる少なくとも1つ、及び尿素を含み、フィルムにおける計測可能な澱粉凝集物の面積占有率が5%以下であることを特徴とする、複合樹脂組成物に関する。
【0009】
本発明の複合樹脂組成物において、前記処理澱粉はα化澱粉であることが好ましい。
【0010】
特に好ましくは、前記処理澱粉は、10質量%糊液のRVAピーク粘度が原料となる未処理澱粉のRVAピーク粘度の5%以下でありかつ最大粒子径と最小粒子径との差が2μm以下であるものがより好ましい。
【0011】
本発明の複合樹脂組成物においては、ポリオレフィンが25~88質量部、前記処理澱粉が10~50質量部及び前記尿素が2~30質量部の割合であることが好ましい。
【0012】
本発明の複合樹脂組成物においては、ポリオレフィンは、複合樹脂組成物のコストの点で、安価である未変性ポリオレフィンが望ましい。
【0013】
本発明の複合樹脂組成物の製造方法においては、上記ポリオレフィン酸処理澱粉、アルカリ処理澱粉、酸化澱粉、酵素処理澱粉、金属塩との混合処理澱粉、加熱処理澱粉、粉砕処理澱粉、押出処理澱粉、α化処理澱粉、ラジカル処理澱粉、放射線処理澱粉、電子線処理澱粉、マイクロ波処理澱粉、超音波処理澱粉、高周波処理澱粉、圧力処理澱粉、ミリング処理澱粉、粉体衝突処理澱粉、及び摩擦処理澱粉からなる群より選ばれる少なくとも1つ、及び上記尿素を混練機に同時に投入して混練することにより製造することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
以上、本発明によれば、簡易かつ安価に樹脂組成物中の石油由来成分をバイオマス素材に効率的に分散した複合樹脂組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】試験例11における複合樹脂組成物の拡大写真である。
図2】試験例17における複合樹脂組成物の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のその他の特徴及び詳細について説明する。
【0017】
本発明で使用可能なポリオレフィンとしては、種々のものが使用でき、例えばエチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、4-メチル-ペンテン、オクテン等のオレフィンの単独重合体または共重合体;高圧法低密度ポリエチレン; 線状低密度ポリエチレン(LLDPE);高密度ポリエチレン; ポリプロピレン;プロピレンと炭素数が2以上10以下のオレフィンとのランダム共重合体等が挙げられる。これらのポリオレフィンは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0018】
本発明で使用可能な澱粉は、低分子化澱粉である。当該低分子化澱粉を用いることにより、ポリオレフィン中で澱粉が容易に分散し、目的とする複合樹脂組成物を得ることができる。
【0019】
本発明の複合樹脂組成物において、低分子化した澱粉の製法は特に限定しないが、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、ラジカル処理、酵素処理、金属塩との混合処理等の化学的な低分子化処理、加熱処理、放射線処理、電子線処理、マイクロ波処理、超音波処理、高周波処理、圧力処理、ミリング処理、粉体衝突処理、摩擦処理、粉砕処理、押出処理、α化処理等の澱粉にエネルギーを与えることで物理的に低分子化させる処理が挙げられる。中でも、簡便かつ安価に実施可能な酸処理、アルカリ処理、酸化処理、酵素処理、金属塩との混合処理、加熱処理、粉砕処理、押出処理、α化処理のうち、1種類以上の処理を施すことで分子量が低下した澱粉であることが好ましい。特に、α化処理澱粉であることがより好ましい。
【0020】
澱粉の分子量の低下は、ゲルろ過クロマトグラフィーや多角度光散乱法、などの公知の方法により確認することができ、低分子化処理後の糊粘度の低下から確認することもできる。
【0021】
低分子化処理前の澱粉としては、従来公知の澱粉を用いることができ、例えば、トウモロコシ澱粉、モチ種トウモロコシ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等の未変性澱粉や、エステル化処理、エーテル化処理、架橋処理といった化学変性を施した化学変性澱粉や、造粒処理、湿熱処理、温水処理、漂白処理、殺菌処理、といった物理処理変性澱粉、あるいはそれらの2種以上の処理を施して得られた変性澱粉などを用いることができる。
【0022】
上述のように、ポリオレフィンと低分子化澱粉とに対して尿素を含有させることにより、澱粉のポリオレフィンに対する分散性が改善されるが、この理由の一つとして、尿素が澱粉の水素結合を切断し、ポリオレフィン中で澱粉が拡散しやすい状態を作り出していると考えられる。
【0023】
また、上記低分子化澱粉のうち、10質量%糊液のRVAピーク粘度が原料となる低分子化澱粉のRVAピーク粘度の5%以下でありかつ最大粒子径と最小粒子径との差が2μm以下であるものがより好ましい。この様な澱粉では、上記同様に、ポリオレフィン中で澱粉が容易に拡散し、澱粉凝集物の少ない複合樹脂組成物を得ることができる。
【0024】
この澱粉も低分子化澱粉の一種であり、例えば、澱粉にハロゲン化塩を添加して加熱低分子化処理することで得られる。
【0025】
この低分子化澱粉の調製の原料となる澱粉は、上述のような未加工澱粉を用いることができ、さらには、エステル化処理、エーテル化処理、架橋処理といった化学変性を施した化学変性や、造粒処理、湿熱処理、温水処理、漂白処理、殺菌処理といった物理変性、あるいはそれらの2種以上の処理を併用して施すことができる。
【0026】
この低分子化澱粉の調製に用いるハロゲン化塩は、工業的に入手可能なものであれば特にその種類に制限はないが、例えば塩化物塩(塩化鉄(II、III)、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウム、塩化リチウム、塩化ナトリウムなど)、臭化物塩(臭化鉄(II、III)、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化アンモニウム、臭化リチウム、臭化ナトリウムなど)、ヨウ化物塩(ヨウ化鉄(II)、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリムなど)等を用いることができ、その効果の点から塩化物塩が好ましく、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウムがより好ましく、粒子径分布の点から塩化カルシウムが特に好ましい。ハロゲン化塩は、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
この低分子化澱粉の調製において、加熱変性条件は上記の通りピーク粘度比及び最大粒子径と最小粒子径との差を指標に適宜調整すればよいが、例えば、塩化カルシウムを添加する場合は澱粉100質量部あたりの塩化カルシウムの添加率を0.8~15質量部とし、50~200℃で0.5時間~30日間加熱低分子化処理することができ、塩化アンモニウムを添加する場合は澱粉100質量部あたりの塩化アンモニウムの添加率を0.1~5質量部とし、50~200℃で0.5時間~30日間加熱低分子化処理することができ、塩化マグネシウムを添加する場合は澱粉100質量部あたりの塩化マグネシウムの添加率を0.1~8質量部とし、50~200℃で0.5時間~30日間加熱低分子化処理することができる。
【0028】
低分子化澱粉には、必要に応じて洗浄・乾燥処理を施すことができる。
【0029】
また、この低分子化澱粉の粒子径分布波形は、例えば、澱粉試料の糊液を固形分濃度が0.02質量%となるように水に分散させて分散液を調製し、例えば大塚電子株式会社製ELSZ-2000ZSなどの動的光散乱測定器を用いて測定することができる。粒子径分布波形は散乱強度分布より算出される。
【0030】
さらに、この低分子化澱粉のRVAピーク粘度は以下にようにして測定する。澱粉試料を10質量%となるように水に分散させて分散液を30g調製し、パドルにて160rpmの回転数で撹拌しながら50℃にて1分間保持し、50℃から3分42秒間で95℃に至る連続的な加温状態を与え、2分30秒間95℃で保温し、3分48秒間で50℃に至る連続的な冷却状態を与え、50℃にて2分間保持する。この条件下において、ピーク粘度(最高粘度)を測定する。ピーク粘度は、ラピッドビスコアナライザー(RVA)を用いて測定することができ、ラピッドビスコアナライザー(RVA)としては、例えばPertenInstruments社製のものを用いることができる。
【0031】
また、この低分子化澱粉の最大粒子径と最小粒子径は、上記粒子径分布波形を得るのと同様の手法で測定することができる。
【0032】
本発明においては、ポリオレフィンが25~88質量部、低分子化澱粉が10~50質量部及び尿素が2~30質量部の割合であることが好ましく、さらには、ポリオレフィンが60~88質量部、低分子化澱粉が10~20質量部及び尿素が2~20質量部の割合であることが好ましい。この場合、ポリオレフィンや低分子化澱粉の種類に関係なく、低分子化澱粉のポリオレフィンに対する分散性が改善され、低分子化澱粉がポリオレフィンに分散した複合樹脂組成物が得られる。
【0033】
本発明の複合樹脂組成物を得るための混練は、従来公知の方法、例えばバンバリーミキサー等の混合機やニーダー、各種押出機等を用いて行うことができる。混練条件は、各成分の種類及び量並びに使用する混練機等に応じて適宜決定することができる。例えば、ニーダー、バンバリーミキサーを用いる場合、温度は140~200℃、好ましくは150~190℃とし、この温度で1~180分間、好ましくは3~120分間混練することが適当である。
【0034】
なお、混練に際しては上述の成分を加える順序は特に制限はない。しかしながら、ポリオレフィン、低分子化澱粉及び尿素を同時に混練機に投入して混練することが好ましい。これによって、上述のような尿素添加の作用効果が向上する。さらに、ポリオレフィンに低分子化澱粉が容易に拡散し、澱粉凝集物の少ない複合樹脂組成物を得ることができる。
【0035】
上記澱粉凝集物とは、5μm以上の澱粉凝集物が挙げられる。
【0036】
混練後は、例えば放冷して複合樹脂組成物を得たり、成形用原料として、粉体、ペレット、フレーク等の形状に成形する。但し、場合により、混練して得た複合樹脂組成物をそのまま、所望の成形品に形成することも可能である。
【0037】
このようにして得られた複合樹脂組成物は、加圧成形、フィルム成形、押出成形、射出成形、プレス成形、充填、モールド成形、インフレーション成形、真空成形、ブロー成形、発泡ビーズ成形、乳液ビーズ成形、スプレービーズ成形等の手段により適宜所望の形状に成形して各種成形品を製造することができる。
【0038】
また、本発明の複合樹脂組成物には、必要に応じて充填剤(例えば、ガラス繊維、タルク)、難燃剤(例えば、塩素系難燃剤、リン系難燃剤、臭素系難燃剤、無機系難燃剤)、酸化防止剤(例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤)、透明化剤、可塑剤、帯電防止剤に例示されるような通常の樹脂成形物に配合される原料を含んでいてもよい。
【実施例
【0039】
以下に試験例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
【0040】
(コンパウンド性評価)
コンパウンド性評価としては、得られた複合樹脂組成物0.68gを140℃~170℃に加熱した熱プレス機(AS ONE社製、H300-1)を用いて0.5tの加重下で圧縮し、コンパウンドフィルムを得た。得られたコンパウンドフィルムをマイクロスコープ(株式会社キーエンス社製、VHX-5000)を用いて観察し、フィラーとして用いた澱粉の分散性を評価した。非溶融粒子が確認されない場合、評価結果を◎、僅かに非溶融粒子が確認される場合、評価結果を○、非溶融粒子が多数確認される場合、評価結果を×とし、○以上の評価を合格と判断した。また、面積率は上記観察後、面積自動算出から、5μm以上の澱粉凝集物がフィルムに占める面積占有率を算出した。
【0041】
(RVAピーク粘度)
ラピッドビスコアナライザー(RVA)(Perten Instruments社製)を用いて下記の通り測定した。澱粉を10質量%となるように水に分散させて分散液を30g調製し、パドルにて160rpmの回転数で撹拌しながら50℃にて1分間保持し、50℃から3分42秒間で95℃に至る連続的な加温状態を与え、2分30秒間95℃で保温し、3分48秒間で50℃に至る連続的な冷却状態を与え、50℃にて2分間保持する条件によりピーク粘度(最高粘度)を測定した。
【0042】
(粒子径分布測定)
動的光散乱測定器(大塚電子株式会社製ELSZ-2000ZS)を用いて、下記の通り、粒子径分布を分析した。ラピッドビスコアナライザー(RVA)による測定直後の糊液を固形分濃度が0.02質量%となるまで蒸留水で希釈して分散液を調製し、ガラス製標準セルに充填し、積算回数25回、室温の条件とし、溶媒の屈折率、粘度、誘電率は水の値を使用して測定を実施した。測定値から最大粒子径と最小粒子径との差を算出した。
【0043】
備考にはコンパウンド性に加え、試験例の熱プレス時における成膜性、複合樹脂組成物の着色に関して特筆すべき内容がある場合に記入した。複合樹脂組成物の着色は、目視にて原料となる高密度ポリエチレンペレット及びポリプロピレンペレットと比較して着色が確認された場合、着色有りと見なす。
【0044】
(試験例)
【0045】
試験例1~6
表1に示した割合となる様に、高密度ポリエチレン(プライムポリマー株式会社製、ハイゼックス2100JH)50~90質量部、低分子化の手法としてドラムドライヤーによるα化処理を選択した低分子化コーンスターチ(日本食品化工株式会社製、アルスターE)10質量部、尿素0~40質量部を予め150℃に加熱しておいた加圧式ニーダー(日本スピンドル社製Ms式加圧ニーダーDS1-5MHA-E型)に同時に投入した。40rpmの回転速度にて樹脂温度が140℃に達するまで混練した。混練後、アルミバットに混練物を移し、放冷することで目的とする複合樹脂組成物を得た。
【0046】
【表1】
【0047】
試験例7~16
表2に示した割合となる様に、高密度ポリエチレン25~90質量部、低分子化の手法としてハロゲン化塩を添加して行う加熱低分子化処理及びドラムドライヤーによるα化処理を選択した低分子化澱粉A10~50質量部、尿素0~40質量部を予め150℃に加熱しておいた加圧式ニーダー(日本スピンドル社製Ms式加圧ニーダーDS1-5MHA-E型)に同時に投入した。40rpmの回転速度にて樹脂温度が140℃に達するまで混練した。混練後、アルミバットに混練物を移し、放冷することで目的とする複合樹脂組成物を得た。
【0048】
なお、低分子化澱粉Aは、上記で説明したハロゲン化塩を添加して行う加熱低分子化処理及びドラムドライヤーによるα化処理を施した低分子化澱粉であり、以下のようにして作製した。すなわち、水20質量部に対澱粉質量当たり3質量部となるように塩化カルシウムを添加し、予め溶解させた。塩化カルシウム水溶液をコーンスターチ100質量部に添加して、ブレンダーを用いて均質になるまで攪拌した。攪拌後、ステンレスバット上に移し、10mm以下の厚さとなるように澱粉を分散させた。予め130℃に加温したオーブンに、アルミバットを移し、加熱処理を実施した。加熱処理後、室温中で30分間放冷した。放冷後、澱粉の乾燥質量100質量部に対して2000質量部の水を加え、水洗、脱水した後、乾燥させた。得られた低分子化澱粉は10質量%糊液のRVAピーク粘度が原料となる未処理澱粉のRVAピーク粘度の1.8%であり、最大粒子径と最小粒子径との差が420.6nmであった。さらに得られた低分子化澱粉をドラムドライヤーによりα化処理を施すことで、低分子化澱粉Aを得た。
【0049】
【表2】
【0050】
試験例17~20
澱粉の種類を替えて表3に示した各種澱粉を用いた以外は試験例2と同様に操作し、複合樹脂組成物を得た。試験例17では、低分子化処理を施していない未処理のコーンスターチを用いた。低分子化澱粉Bは低分子化澱粉Aと同様に低分子化処理を施し、α化処理を行わずに得たものを用いた。試験例19、20は、各化学変性澱粉として、エステル化澱粉である尿素リン酸化澱粉、エーテル化澱粉であるカルボキシメチル化澱粉に低分子化の手法としてドラムドライヤーによるα化処理を選択した低分子化澱粉を用いた。
【0051】
【表3】
【0052】
試験例21
ポリプロピレン(サンアロマー株式会社製、サンアロマーPM600A)80質量部、低分子化澱粉A10質量部、尿素10質量部、を予め180℃に加熱しておいた加圧式ニーダー(日本スピンドル社製Ms式加圧ニーダーDS1-5MHA-E型)に同時に投入した。40rpmの回転速度にて樹脂温度が170℃に達するまで混練した。混練後、アルミバットに混練物を移し、放冷することで目的とする複合樹脂組成物を得た。なお、低分子化澱粉Aは、試験例7~16と同様のものを用いた。
【0053】
試験例22
高密度ポリエチレン80質量部、低分子化澱粉A10質量部、尿素10質量部を2軸押出機(パーカーコーポレーション社製同方向回転2軸押出機HK25D、φ25、L/D=41)を用いてシリンダー温度150℃で溶融混練して押出した。ストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ペレット状の複合樹脂組成物を得た。なお、低分子化澱粉Aは、試験例7~16と同様のものを用いた。
【0054】
試験例23
低分子化澱粉A10質量部及び尿素10質量部を予め混合し、アルミバットに5mmの厚さに広げ、40℃の真空乾燥機で12時間乾燥し、乾燥混合物を得た。得られた乾燥混合物20質量部と高密度ポリエチレン80質量部とを予め150℃に加熱しておいた加圧式ニーダー(日本スピンドル社製Ms式加圧ニーダーDS1-5MHA-E型)に同時に投入した。40rpmの回転速度にて樹脂温度が140℃に達するまで混練した。混練後、アルミバットに混練物を移し、放冷することで目的とする複合樹脂組成物を得た。なお、低分子化澱粉Aは、試験例7~16と同様のものを用いた。
【0055】
試験例24
高密度ポリエチレン76質量部、低分子化澱粉A10質量部、尿素10質量部、不飽和ジカルボン酸(無水マレイン酸)4質量部を予め150℃に加熱しておいた加圧式ニーダー(日本スピンドル社製Ms式加圧ニーダーDS1-5MHA-E型)に同時に投入した。40rpmの回転速度にて樹脂温度が140℃に達するまで混練した。混練後、アルミバットに混練物を移し、放冷することで目的とする複合樹脂組成物を得た。なお、低分子化澱粉Aは、試験例7~16と同様のものを用いた。
【0056】
試験例25
高密度ポリエチレン77質量部、低分子化澱粉A10質量部、尿素10質量部、相容化剤(化薬ヌーリオン株式会社製、カヤブリッド:無水マレイン酸変性ポリプロピレン)3質量部を予め150℃に加熱しておいた加圧式ニーダー(日本スピンドル社製Ms式加圧ニーダーDS1-5MHA-E型)に同時に投入した。40rpmの回転速度にて樹脂温度が140℃に達するまで混練した。混練後、アルミバットに混練物を移し、放冷することで目的とする複合樹脂組成物を得た。なお、低分子化澱粉Aは、試験例7~16と同様のものを用いた。
【0057】
【表4】
【0058】
試験例1~6では、高密度ポリエチレン60~85質量部に対して、低分子化澱粉10質量部及び尿素5~30質量部を加えて複合樹脂組成物を製造することにより、分散性に優れ、コンパウンド性が良好な複合樹脂組成物が得られることが判明した。また、試験例7~16では、高密度ポリエチレン25~88質量部、低分子化澱粉A10~50質量部及び尿素2~25質量部を加えて複合樹脂組成物を製造することにより、分散性に優れ、コンパウンド性が良好な複合樹脂組成物が得られることが判明した。但し、尿素の量が40質量部を超えて増大すると、成膜性が低下することが分かる。
【0059】
なお、参考のために、試験例11の拡大写真を図1に示す。当該写真は、マイクロスコープ(200倍、偏光ステージ、透過光、高画質モード)で観察したものである。
【0060】
したがって、試験例1~6及び試験例7~16を比較することにより、低分子化澱粉としてハロゲン化塩を用いて低分子化した低分子化澱粉Aを用いることにより、より少ない尿素の量でコンパウンド性に優れた複合樹脂組成物が得られることが分かる。
【0061】
また、澱粉等の種類によらず、複合樹脂組成物が、ポリオレフィン25~88質量部、澱粉10~50質量部及び尿素2~30質量部の割合で含むことにより、良好なコンパウンド性を示すことが分かる。
【0062】
試験例17に示すように、低分子化していないコーンスターチを用いた場合、コンパウンド性が劣ることが分かる。参考のために、試験例17の拡大写真を図2に示す。当該写真は、マイクロスコープ(200倍、偏光ステージ、透過光、高画質モード)で観察したものである。図中の黒色部分が澱粉凝集物に相当するが、図2から明らかなように、本例では澱粉凝集物が多いことが分かる。
【0063】
試験例18~20より、澱粉としてドラムドライヤーによるα化処理を選択していない低分子化澱粉、あるいはエステル化澱粉及びエーテル化澱粉に低分子化処理としてα化処理を施した澱粉を用いた場合においても、得られた複合樹脂組成物は、良好なコンパウンド性を示すことが分かる。
【0064】
また、試験例21に示すように、ポリオレフィンを高密度ポリエチレンからポリプロピレンに変えた場合においても、得られた複合樹脂組成物は良好なコンパウンド性を示すことが分かる。さらに、試験例22に示すように、混練機を加圧式ニーダーから2軸押出機に変更した場合においても、得られた複合樹脂組成物が良好なコンパウンド性を示すことが分かる。
【0065】
一方、試験例23に示すように、低分子化澱粉Aと尿素とを予め混合して混合物を得た後、この混合物に高密度ポリエチレンを混合して得た複合樹脂組成物では、ポリオレフィン、澱粉及び尿素を混練機に同時に投入して混練することにより得た複合樹脂組成物に比較して、コンパウンド性が劣ることが分かる。また、着色する点で劣ることが分かる。
【0066】
また、試験例24及び25に示すように、複合樹脂組成物中に、高密度ポリエチレン、低分子化澱粉A及び尿素の他に不飽和ジカルボン酸や分散剤を加えた場合は、コンパウンド性や着色性が劣ることが分かる。
【0067】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図1
図2