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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】建物の制振構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20231003BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20231003BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20231003BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
E04G23/02 D
E04H9/02 301
F16F15/02 L
F16F15/023 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019202033
(22)【出願日】2019-11-07
(65)【公開番号】P2021075866
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】谷 翼
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-097165(JP,A)
【文献】特開2001-049874(JP,A)
【文献】登録実用新案第3128720(JP,U)
【文献】特開2003-097057(JP,A)
【文献】特開2015-052200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02-15/023
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の柱梁架構に併設される制振構造であって、
前記柱梁架構を構成する、間隔をおいて立設された第1柱及び第2柱の上部の、前記建物の外壁側の側面に設けられ、横方向に延在して設けられた上部梁材と、前記第1柱及び第2柱の各々に沿って、前記上部梁材から下方に向けて突出し延在するように、一対として、前記上部梁材に剛接合されて設けられた上部鉛直材と、を備える上部突出架構体と、
前記第1柱及び第2柱の下部の、前記外壁側の側面に設けられ、横方向に延在して設けられた下部梁材と、前記第1柱及び第2柱の各々に沿って、前記下部梁材から上方に向けて突出し延在するように、一対として、前記下部梁材に剛接合されて設けられた下部鉛直材と、を備える下部突出架構体と、
一対の前記上部鉛直材と一対の前記下部鉛直材の各々の間において、これらを上下に連結する振動減衰手段と、
を備え、
記上部突出架構体と前記下部突出架構体の各々は、前記上部梁材と前記下部梁材の端部において、前記第1及び第2柱に対して回転自在にピン接合され、かつ前記柱梁架構を構成する梁に対する回転変位が規制され、
前記柱梁架構と既設の前記外壁との間の空間に設けられ
前記上部突出架構体は、前記柱梁架構を構成して上側に位置する上側梁よりも下側に設けられ、
前記下部突出架構体は、前記柱梁架構を構成して前記上側梁の下方に位置する下側梁よりも上側に設けられていることを特徴とする建物の制振構造。
【請求項2】
前記上部突出架構体及び前記下部突出架構体は、前記柱梁架構を構成する各柱梁接合部において、円筒体を介して接合されていることを特徴とする請求項1に記載の建物の制振構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の柱梁架構に併設される制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の柱梁架構の耐振性能を向上させるため、様々な耐振構造が提案されている。
例えば、特許文献1には、柱梁架構内において上側の梁と下側の梁の各々に上部連結部材と下部連結部材が接続された制震間柱構造が開示されている。上部連結部材にはエネルギー吸収部材が設けられている。地震発生時には、上部連結部材の下端面から下向きに突出する第一支圧部材と、下部連結部材の上端面から上向きに突出する第二支圧部材とが水平方向に係合し、水平方向の力がエネルギー吸収部材に伝達されて、水平エネルギーが吸収される。
また、特許文献2には、建物の階上、階下の梁に第1、第2の取付けフレームが剛性一体的に固着された構造が開示されている。これらフレームは、上下の梁間の中央高さ位置で上下方向において対向されて設けられている。これらのフレームに対し、振れ動き体が、その高さ方向中間部領域の枢結部において枢結されている。枢結部の外側において、振れ動き体と第1,第2のフレームとがオイルダンパーを介して連結されている。
【0003】
特許文献1、2のいずれの構造においても、柱梁架構の柱と梁により囲われた空間の内側に、連結部材、エネルギー吸収部材、フレーム等の制振構造を構成する部材が、柱や梁から大きく突出するように設けられている。
このため、柱と梁により囲われた空間を利用するに際しその自由度が制限されることがある。例えば、当該空間が窓として使用される場合には、これら構成部材により窓の面積が制限されることがある。
このように、柱と梁により囲われた空間の内側に制振構造を構成する部材が大きく突出して設けられると、居住空間への影響が出る可能性がある。
【0004】
これに対して、特許文献3には、変位部材とエネルギー吸収機構を備えた制震構造が開示されている。変位部材は、柱または梁の一方もしくは両方に、地震力により加わる曲げモーメントの方向が切り替わる軸方向の途中位置近傍に設けられ、柱または梁の曲率の変化により回転変位する。エネルギー吸収機構は、柱または梁の他方と変位部材との間に取り付けられ、変位部材の回転変位と他方の柱または梁の変形による相対変位で作動する。
特許文献3の制振構造が、天井裏や床下等に設置された場合には、室内空間の機能性や景観が確保される。しかし、本構造においては依然として、変位部材が、梁から、柱と梁により囲われた空間の内側に突出するように設けられている。したがって、十分な制振性能を持たせようとすると、変位部材を長く突出させる必要があり、この場合には制振構造が天井裏や床下等に収まらず、居住空間に影響する可能性がある。
居住空間への影響をより低減しつつ、建物の柱梁架構に併設可能な、建物の制振構造が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-115427号公報
【文献】特開2000-297556号公報
【文献】特開2005-155019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、居住空間への影響を低減しつつ、建物の柱梁架構に併設可能な、建物の制振構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、建物の制振構造として、柱梁架構の柱梁接合部に、振動減衰手段付きの上部突出架構体、及び下部突出架構体を其々ピン接合させ、当該柱梁架構を構成する柱部材の振動減衰手段を設置することで、居住空間に影響を及ぼすことのない制振構造を実現できる点に着目して、本制振構造を開発した。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、建物の柱梁架構に併設される制振構造であって、前記柱梁架構を構成する柱の上部側面に、前記柱に沿って下方に向けて突出し延在するように設けられた上部鉛直材を備える上部突出架構体と、前記柱の下部側面に、前記柱に沿って上方に向けて突出し延在するように設けられた下部鉛直材を備える下部突出架構体と、前記上部突出架構体と前記下部突出架構体を上下に連結する振動減衰手段と、を備え、前記上部突出架構体と前記下部突出架構体は、前記柱に対して回転自在にピン接合され、かつ前記柱梁架構を構成する梁に対する回転変位が規制されていることを特徴とする。
上記のような構成によれば、振動減衰手段によって上下に連結された上部鉛直材と下部鉛直材の其々を備える上部及び下部突出架構体は、柱に対して回転自在にピン接合されつつも梁に対する回転変位が規制されている。このため、地震が発生して水平方向に力が作用し、柱が傾き、柱の上側と下側が水平方向に相対移動しようとすると、上部突出架構体を構成する上部鉛直材と下部突出架構体を構成する下部鉛直材は、傾こうとする柱とともに傾かずに梁に対する角度を維持しながら、柱の上側、下側の各々とともに水平方向に相対移動する。この相対移動は、上部及び下部突出架構体を連結する振動減衰手段により減衰される。これにより、振動エネルギーを効率的に吸収できる構造となっている。
この制振構造においては、上部鉛直材と下部鉛直材は、柱に沿って延在するように設けられている。このため、柱と梁により囲われた空間に制振構造を構成する部材が大きく突出して設けられることが抑制される。したがって、居住空間への影響を低減することができる。
【0008】
本発明の一態様においては、制振構造は、隣接する前記柱の柱側面に一対として設置されることを特徴とする。
上記のような構成によれば、隣接する柱側面に一対として制振構造が設けられるために、優れた制振性能を発揮させることができる。
【0009】
本発明の別の態様においては、前記上部突出架構体及び前記下部突出架構体は、前記柱梁架構を構成する各柱梁接合部において、円筒体を介して接合されていることを特徴とする。
上記のような構成によれば、柱梁架構と上部突出架構体及び下部突出架構体は、柱梁接合部において、円筒体を介して接合されるために、上部突出架構体と下部突出架構体は、柱に対して回転自在にピン接合され、かつ柱梁架構を構成する梁に対して回転変位を規制できるために、地震時に生じる柱梁架構の変形に追従することのない、振動減衰手段を有する上部突出架構体と下部突出架構体が実現できる。
具体的には、柱梁架構に併設される上部突出架構体及び下部突出架構体は、地震時に発生する柱梁架構の応答性状に追随することなく、柱梁架構の応答性状が、当該柱梁架構と上部突出架構体及び下部突出架構体との間の相対変形量によって推定可能となる。よって、上部突出架構体と下部突出架構体を連結する振動減衰手段により建物に入力された地震エネルギーを吸収する制振構造を実現できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、居住空間への影響を低減しつつ、建物の柱梁架構に併設可能な、建物の制振構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態における建物の制振構造の正面図である。
図2図1のA矢視部分の拡大図である。
図3図2のB-B部分における横断面図である。
図4】(a)は柱梁架構に作用する曲げモーメントの大きさと方向を示す模式図であり、(b)は柱梁架構の、特に梁における変形モードを示す模式図である。
図5】梁の中央に制振機構を設けた場合の、(a)は構成を示す模式図であり、(b)は変形モードを示す模式図である。
図6】柱から梁の長さの1/4の部分に制振機構を設けた場合の、(a)は構成を示す模式図であり、(b)は変形モードを示す模式図である。
図7】実施形態の第1変形例による振動減衰手段(極軟鋼材)を用いた構成の例を示す説明図である。
図8】実施形態の第2変形例による振動減衰手段(粘弾性体)を用いた構成の例を示す説明図である。
図9】実施形態の第3変形例に関する、建物の制振構造の正面図である。
図10】実施形態の他の変形例1に関する、建物の制振構造の正面図である。
図11】実施形態の他の変形例2に関する、建物の制振構造の正面図である。
図12】実施形態の他の変形例3に関する、建物の制振構造の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、柱梁架構の側面に、振動減衰手段付きの上部突出架構体及び下部突出架構体を其々ピン接合させ、当該突出架構体同士を振動減衰手段で連結させた制振構造である。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態における建物の柱梁架構1と、柱梁架構1に設けられた制振構造10の正面図である。図2は、図1のA矢視部分の拡大図である。図3は、図2のB-B部分における横断面図である。
柱梁架構1は、複数の柱2と梁3で構成されており、間隔をおいて立設された複数の柱2間に、複数の梁3が、柱梁接合部4において接合されて構成されている。図1においては、左側の第1柱2Aと、右側の第2柱2Bの2本の柱2の間に、上側梁3Aと下側梁3Bの2本の梁3が架設された状態が示されている。
本実施形態においては、柱2は、断面略正方形状の鋼管柱であり、梁3は、2つのフランジ3aと1つのウェブ3bを備えるH形鋼であるが、柱2と梁3の種類はこれに限られない。
【0013】
上記のような柱梁架構1に対し、制振構造10が併設されて設けられている。本実施形態における制振構造10は、図3に示されるように、柱梁架構1の、居室や廊下等の建物内の空間Iと建物の外側の空間Oを区画する建物外周に相当する部分の、柱梁架構1とその外側に位置する外壁5との間の空間Sに設けられている。
本実施形態における制振構造10は、第1柱2Aに対して設けられる第1制振構造10Aと、第2柱2Bに対して設けられる第2制振構造10Bを備えている。
ここではまず、第1制振構造10Aを説明した後に、第2制振構造10Bを説明する。
【0014】
第1制振構造10Aは、上部突出架構体11A、下部突出架構体21A、及び振動減衰手段30Aを備えている。
上部突出架構体11Aは、図1に示すように上部鉛直材12Aと上部梁材13を備えている。第1制振構造10Aにおける上部突出架構体11Aは、上部梁材13に、上部梁材13の第1端部13cから下方に向けて延在するように上部鉛直材12Aを剛接合することで形成されている。また、後に説明するように、第2制振構造10Bにおける上部突出架構体11Bは、上部梁材13に、上部梁材13の第2端部13dから下方に向けて延在するように上部鉛直材12Bを剛接合することで形成されている。これにより、制振構造10全体としては、第1制振構造10Aと第2制振構造10Bの各々を構成する上部鉛直材12A、12Bが、隣接する柱2A、2Bの各々に沿って延在するように、一対として設けられている。
【0015】
上部梁材13は、空間Sに、上側梁3Aとは間隔をあけて上側梁3Aに沿うように設けられた、長尺の鋼材である。上部梁材13は、本実施形態においては、2つのフランジ13aと1つのウェブ13bを備えるH形鋼であるが、これに限られない。
上部鉛直材12Aは、第1柱2Aの上側に、第1柱2Aに沿って下方に向けて突出し延在するように設けられている。より詳細には、上部鉛直材12Aは、上部梁材13の一方の端部である第1端部13cから下方に向けて延在するように、上部梁材13に対して略垂直となるように剛接合されて設けられた鋼材である。上部鉛直材12Aは、空間Sに、すなわち建物内の空間Iから第1柱2Aを挟んだ反対側に、第1柱2Aとは間隔をあけて第1柱2Aに沿うように設けられている。上部鉛直材12Aは、本実施形態においては、2つのフランジ12aと1つのウェブ12bを備えるH形鋼であるが、これに限られない。
上部鉛直材12Aの下端12cにおいては、各フランジ12a及びウェブ12bと直交するように下側板部12dが接合されている。
上部鉛直材12Aと上部梁材13が接合される仕口部14Aの、双方のウェブ12b、13bが交差する部分においては、円形の開口部14aが開設されている。
【0016】
第1柱2Aと上側梁3Aの柱梁接合部4においては、第1柱2Aの外側表面2bに、円筒状の鋼材である円筒体6が、軸方向が外側表面2bに直交して、外側表面2bから外方へ突出するように設けられ、接合されている。円筒体6は、仕口部14Aの開口部14aよりも外径が僅かに小さくなるように形成されている。
上部突出架構体11Aは、仕口部14Aの開口部14aに円筒体6が挿通されるように設けられることで、上部梁材13の上部鉛直材12Aが設けられた第1端部13cが、柱梁架構1に接合されている。ここでいう円筒体6は、鋼管単体、または鋼管の一方材端の外周面に複数の短尺鉄筋を溶接させた短尺鉄筋付きの鋼管である。
上部梁材13の、第1端部13cとは反対側の端部である第2端部13dは、後述するように、第2柱2Bと上側梁3Aの柱梁接合部4に接合されている。すなわち、上部梁材13は、第1端部13cに加え、上部鉛直材12Aとは離間した位置13dにおいても、柱梁架構1に接合されている。
【0017】
下部突出架構体21Aは、図1に示すように下部鉛直材22Aと下部梁材23を備えている。第1制振構造10Aにおける下部突出架構体21Aは、下部梁材23に、下部梁材23の第1端部23cから上方に向けて延在するように下部鉛直材22Aを剛接合することで形成されている。また、後に説明するように、第2制振構造10Bにおける下部突出架構体21Bは、下部梁材23に、下部梁材23の第2端部23dから上方に向けて延在するように下部鉛直材22Bを剛接合することで形成されている。これにより、制振構造10全体としては、第1制振構造10Aと第2制振構造10Bの各々を構成する下部鉛直材22A、22Bが、隣接する柱2A、2Bの各々に沿って延在するように、一対として設けられている。
【0018】
下部梁材23は、空間Sに、下側梁3Bとは間隔をあけて下側梁3Bに沿うように設けられた、長尺の鋼材である。下部梁材23は、本実施形態においては、2つのフランジ23aと1つのウェブ23bを備えるH形鋼であるが、これに限られない。
下部鉛直材22Aは、第1柱2Aの下側に、第1柱2Aに沿って上方に向けて突出し延在するように設けられている。より詳細には、下部鉛直材22Aは、下部梁材23の一方の端部である第1端部23cから上方に向けて延在するように、下部梁材23に対して略垂直となるように剛接合されて設けられた鋼材である。下部鉛直材22Aは、空間Sに、すなわち建物内の空間Iから第1柱2Aを挟んだ反対側に、第1柱2Aとは間隔をあけて第1柱2Aに沿うように設けられている。下部鉛直材22Aは、本実施形態においては、2つのフランジ22aと1つのウェブ22bを備えるH形鋼であるが、これに限られない。
下部鉛直材22Aの上端22cにおいては、各フランジ22a及びウェブ22bと直交するように上側板部22dが接合されている。
下部鉛直材22Aと下部梁材23が接合される仕口部24Aの、双方のウェブ22b、23bが交差する部分においては、円形の開口部24aが開設されている。
【0019】
第1柱2Aと下側梁3Bの柱梁接合部4においても、上側梁3Aとの柱梁接合部4と同様に円筒体6が接合されている。
下部突出架構体21Aは、仕口部24Aの開口部24aに円筒体6が挿通されるように設けられることで、下部梁材23の下部鉛直材22Aが設けられた第1端部23cが、柱梁架構1に接合されている。
下部梁材23の、第1端部23cとは反対側の端部である第2端部23dは、後述するように、第2柱2Bと下側梁3Bの柱梁接合部4に接合されている。すなわち、下部梁材23は、第1端部23cに加え、下部鉛直材22Aとは離間した位置23dにおいても、柱梁架構1に接合されている。
【0020】
上部鉛直材12Aと下部鉛直材22Aは、これらの間に設けられた振動減衰手段30Aによって上下に連結されている。本実施形態においては、振動減衰手段30Aはオイルダンパーである。
より詳細には、上部鉛直材12Aの下側板部12dから下方に突出するように設けられた振動減衰手段固定部12eと、下部鉛直材22Aの上側板部22dから上方に突出して振動減衰手段固定部12eと対向するように設けられた振動減衰手段固定部22eの間に、振動減衰手段30Aが設けられている。振動減衰手段30Aの一方端30aが振動減衰手段固定部12eに、他方端30bが振動減衰手段固定部22eに、それぞれ接合されている。
【0021】
第2制振構造10Bは、第1制振構造10Aに対して略対称的に構築されている。第2制振構造10Bは、上部突出架構体11B、下部突出架構体21B、及び振動減衰手段30Bを備えている。
上部突出架構体11Bは、上部鉛直材12Bと上部梁材13を備えている。
上部突出架構体11Bの上部梁材13は、上部突出架構体11Aにおける上部梁材13と同一の部材である。すなわち、上部突出架構体11Aと上部突出架構体11Bは、上部梁材13を共有して備えている。
上部鉛直材12Bは、上部梁材13の第2端部13dに対し、上部突出架構体11Aの上部鉛直材12Aと同様に、第2柱2Bの上側に、第2柱2Bに沿って下方に向けて突出し延在するように設けられている。より詳細には、上部鉛直材12Bは、上部梁材13の第2端部13dから下方に向けて延在するように、上部梁材13に対して略垂直となるように剛接合されて設けられている。上部鉛直材12Bは、空間Sに、すなわち建物内の空間Iから第2柱2Bを挟んだ反対側に、第2柱2Bとは間隔をあけて第2柱2Bに沿うように設けられている。
上部鉛直材12Bと上部梁材13が接合される仕口部14Bにおいては、円形の開口部14aが開設されている。
【0022】
第2柱2Bと上側梁3Aの柱梁接合部4においても、第2柱2Bの外側表面2bに、円筒体6が接合されている。
上部突出架構体11Bは、仕口部14Bの開口部14aに円筒体6が挿通されるように設けられることで、第2端部13dの位置で柱梁架構1に接合されている。
【0023】
下部突出架構体21Bは、下部鉛直材22Bと下部梁材23を備えている。
下部突出架構体21Bの下部梁材23は、下部突出架構体21Aにおける下部梁材23と同一の部材である。すなわち、下部突出架構体21Aと下部突出架構体21Bは、下部梁材23を共有して備えている。
下部鉛直材22Bは、下部梁材23の第2端部23dに対し、下部突出架構体21Aの下部鉛直材22Aと同様に、第2柱2Bの下側に、第2柱2Bに沿って上方に向けて突出し延在するように設けられている。より詳細には、下部鉛直材22Bは、下部梁材23の第2端部23dから上方に向けて延在するように、下部梁材23に対して略垂直となるように剛接合されて設けられている。下部鉛直材22Bは、空間Sに、すなわち建物内の空間Iから第2柱2Bを挟んだ反対側に、第2柱2Bとは間隔をあけて第2柱2Bに沿うように設けられている。
下部鉛直材22Bと下部梁材23が接合される仕口部24Bにおいては、円形の開口部24aが開設されている。
【0024】
第2柱2Bと下側梁3Bの柱梁接合部4においても、上側梁3Aと同様に円筒体6が接合されている。
下部突出架構体21Bは、仕口部24Bの開口部24aに円筒体6が挿通されるように設けられることで、第2端部23dの位置で柱梁架構1に接合されている。
【0025】
上部鉛直材12Bと下部鉛直材22Bは、上部突出架構体11Aと同様に、これらの間に設けられた振動減衰手段30Bによって上下に連結されている。本実施形態においては、振動減衰手段30Bはオイルダンパーである。
より詳細には、振動減衰手段30Bは、上部鉛直材12Bから下方に突出するように設けられた振動減衰手段固定部12eと、下部鉛直材22Bから上方に突出して振動減衰手段固定部12eと対向するように設けられた振動減衰手段固定部22eの間に設けられている。
【0026】
上記のようにして、上部突出架構体11A、11Bと下部突出架構体21A、21B、及び振動減衰手段30A、30Bは、柱梁架構1を構成する、隣接する柱材2A、2Bの柱側面に、一対として設置されている。これにより、制振構造10においては、第1制振構造10Aと第2制振構造10Bが一対として設置された構造となっている。
図1に示されるように、制振構造10を構成する上部突出架構体11A、11B、下部突出架構体21A、21Bの各々は、柱2や梁3の延在する方向により形成される平面に直交する方向から視たときに、柱2や梁3に重なっており、柱2と梁3により囲われた空間Rには突出していない。このため、図3に示される建物内の空間Iから柱梁架構1を視たときには、制振構造10を構成する上部突出架構体11A、11B、下部突出架構体21A、21Bの各々は、柱2や梁3に隠れて視えない状態となっている。
【0027】
上記のような柱梁架構1に対し、地震が発生し水平方向の力が作用すると、柱2A、2Bが傾き、上側梁3Aと下側梁3Bが互いに水平方向に相対移動するように変形しようとする。
ここで、上部梁材13は、その両端13c、13dの2点において、柱梁架構1に対して接合されているため、上部突出架構体11A、11Bは、上側梁3Aに対する回転変位が規制されている。上部鉛直材12A、12Bは、この上部梁材13に剛接合されている。また、上部鉛直材12A、12Bは、その上端の仕口部14A、14Bにおいて、円形の開口部14aに円筒体6が挿通することで柱梁架構1に接合されてはいるが、下端12cは柱梁架構1に接合されていない。このため、上部鉛直材12A、12Bは、第1柱2A、第2柱2Bの各々に対し、回転自在にピン接合された状態となっている。したがって、上部鉛直材12A、12Bは、第1柱2A、第2柱2Bが傾いた際には、上部梁材13との間の角度を略垂直に保ちつつ、傾いた第1柱2A、第2柱2Bとの間の角度を広げながら、上部梁材13とともに水平方向に移動する。
同様に、下部突出架構体21A、21Bは、下側梁3Bに対する回転変位が規制されている。また、下部鉛直材22A、22Bは、第1柱2A、第2柱2Bの各々に対し、回転自在にピン接合された状態となっている。したがって、下部鉛直材22A、22Bは、第1柱2A、第2柱2Bが傾いた際には、下部梁材23との間の角度を略垂直に保ちつつ、傾いた第1柱2A、第2柱2Bとの間の角度を広げながら、下部梁材23とともに上部梁材13とは反対の方向に相対移動する。
このように、互いに対向する上部突出架構体11Aと下部突出架構体21A、及び上部突出架構体11Bと下部突出架構体21Bは、上部鉛直材12A、12B、下部鉛直材22A、22Bの各々が上部梁材13、下部梁材23に対して略垂直となる、すなわち略鉛直方向に延在する姿勢を保ちながら、水平方向に相対移動する。この移動は、振動減衰手段30A、30Bにより減衰される。
【0028】
図4(a)は、上記のような水平方向の力が作用したときの、柱梁架構1に作用する曲げモーメントの大きさと方向を示す模式図である。図4(b)は、柱梁架構1の、特に梁における変形モードを示す模式図である。
一般に、水平方向の力Fが柱梁架構1に作用すると、柱2や梁3には、図4(a)に示されるような曲げモーメントが作用する。本図に示されるように、梁3に作用する曲げモーメントは、梁3の軸方向の途中の位置、例えば柱梁架構1が対称的な構造である場合には中央位置P1においてゼロとなり、その両側において反対向きに作用する。また、曲げモーメントは、中央位置P1から離れるにつれて大きくなる。このため、梁3に作用する曲げモーメントが軸方向に沿って切り替わる位置P1は、梁3の曲率の符号が変化する変曲点であり、変形後の梁3の水平方向に対する角度θが最も大きくなる位置である。
他方、梁3の両端は柱2に接合されているため、両端位置P2においては、梁3の変形は制限される。したがって、中央位置P1と両端位置P2の中央の、両端位置P2から梁3の長さの1/4の位置である位置P3においては、変形後の梁3の水平方向に対する角度θはゼロとなる。
【0029】
図5(a)は、梁3の中央位置P1に制振構造を設けた場合の構成を示す模式図であり、図5(b)は、変形モードを示す模式図である。
図5(a)に示されるように、変曲点となる中央位置P1に、梁3に対して上部鉛直材12、下部鉛直材22が垂直となるように制振構造を構築すると、変曲点は上記のように変形後の梁3の水平方向に対する角度θが最も大きくなる位置であるから、変形時には図5(b)に示されるように、上部鉛直材12と下部鉛直材22も大きく傾斜し、上部鉛直材12と下部鉛直材22の先端間が大きく離間するように変形しようとする。このため、梁3の中央位置P1に制振構造を設けた場合には、振動減衰手段30によって振動エネルギーを非常に効率的に吸収することができる。
しかし、図5に示される構造においては、制振構造の柱と梁により囲われた空間Rに、柱や梁から大きく突出するように設ける必要があるため、柱と梁により囲われた空間Rを利用するに際しその自由度が制限される。
【0030】
図6(a)は、梁3の1/4位置P3に制振構造を設けた場合の構成を示す模式図であり、図6(b)は、変形モードを示す模式図である。
図6(a)に示されるように、1/4位置P3に、梁3に対して上部鉛直材12、下部鉛直材22が垂直となるように制振構造を構築すると、1/4位置P3は上記のように変形後の梁3の水平方向に対する角度θがゼロとなる位置であるから、変形時には図6(b)に示されるように、上部鉛直材12と下部鉛直材22の傾斜が抑制されつつ、上部鉛直材12と下部鉛直材22の先端間が離間するように変形しようとする。このため、図5に示されたような、制振構造を中央位置P1に設けた場合ほど、上部鉛直材12と下部鉛直材22の先端間は離間しない。したがって、図6の場合の振動エネルギーの吸収効率は、一定以上の水準を有してはいるが、図5の場合に比べると高くはない。
本実施形態の制振構造10は、既に説明したように、上部鉛直材12A、12B、下部鉛直材22A、22Bの各々の、略鉛直方向に延在する姿勢が維持されるように変形する。すなわち、本実施形態の制振構造10は、図6として示した、制振構造を1/4位置P3に設けた場合と略等しい性能を有している。
このように、本実施形態の制振構造10においては、図6に相当するような、振動エネルギーの吸収効率が最適とはならないまでも一定以上の水準を維持する構造としつつ、制振構造10を柱2と梁3により囲われた空間R内に設ける必要のない構造となっている。
【0031】
次に、上記の制振構造10(10A、10B)の効果について説明する。
本実施形態の建物の制振構造10(10A、10B)は、建物の柱梁架構1に併設される制振構造10(10A、10B)であって、柱梁架構1を構成する柱2(2A、2B)の上部側面に、柱2(2A、2B)に沿って下方に向けて突出し延在するように設けられた上部鉛直材12A、12Bを備える上部突出架構体11A、11Bと、柱2(2A、2B)の下部側面に、柱2(2A、2B)に沿って上方に向けて突出し延在するように設けられた下部鉛直材22A、22Bを備える下部突出架構体21A、21Bと、上部突出架構体11A、11Bと下部突出架構体21A、21Bを上下に連結する振動減衰手段30A、30Bと、を備え、上部突出架構体11A、11Bと下部突出架構体21A、21Bは、柱2(2A、2B)に対して回転自在にピン接合され、かつ柱梁架構1を構成する梁3(3A、3B)に対する回転変位が規制されている。
上記のような構成によれば、振動減衰手段30A、30Bによって上下に連結された上部鉛直材12A、12Bと下部鉛直材22A、22Bの各々を備える上部及び下部突出架構体11A、11B、21A、21Bは、柱2(2A、2B)に対して回転自在にピン接合されつつも梁3(3A、3B)に対する回転変位が規制されている。このため、地震が発生して水平方向に力が作用し、柱2(2A、2B)が傾き、柱2(2A、2B)の上側と下側が水平方向に相対移動しようとすると、上部及び下部突出架構体11A、11B、21A、21Bの上部鉛直材12A、12Bと下部鉛直材22A、22Bは、傾こうとする柱2(2A、2B)とともに傾かずに梁3(3A、3B)に対する角度を維持しながら、柱2(2A、2B)の上側、下側の各々とともに水平方向に相対移動する。この相対移動は、上部及び下部突出架構体11A、11B、21A、21Bを連結する振動減衰手段30A、30Bにより減衰される。これにより、振動エネルギーを効率的に吸収できる構造となっている。
この制振構造10(10A、10B)においては、上部鉛直材12A、12Bと下部鉛直材22A、22Bは、柱2(2A、2B)に沿って延在するように設けられている。このため、柱2(2A、2B)と梁3(3A、3B)により囲われた空間Rに制振構造10(10A、10B)を構成する部材が大きく突出して設けられることが抑制される。したがって、居住空間への影響を低減することができる。
【0032】
特に本実施形態においては、上部鉛直材12A、12Bと下部鉛直材22A、22Bは、建物内の空間Iから柱2(2A、2B)を挟んだ反対側に設けられている。すなわち、上部鉛直材12A、12Bと下部鉛直材22A、22Bは、柱2(2A、2B)と梁3(3A、3B)により囲われた、柱梁架構1を構成する平面の内側の空間Rには突出せず、建物内の空間Iから柱梁架構1を視たときには、上部鉛直材12A、12Bと下部鉛直材22A、22Bは柱2(2A、2B)に隠れて視えないように、制振構造10(10A、10B)を設けることが可能である。したがって、居住空間への影響を、更に効果的に、低減することができる。
【0033】
また、制振構造10A、10Bは、隣接する柱2A、2Bの柱側面に一対として設置される。
上記のような構成によれば、隣接する柱2A、2B側面に一対として制振構造10A、10Bが設けられるために、優れた制振性能を発揮させることができる。
【0034】
また、上部突出架構体11A、11B及び下部突出架構体21A、21Bは、柱梁架構1を構成する各柱梁接合部4において、円筒体6を介して接合されている。
上記のような構成によれば、柱梁架構1と上部突出架構体11A、11B及び下部突出架構体21A、21Bは、柱梁接合部4において、円筒体6を介して接合されるために、上部突出架構体11A、11Bと下部突出架構体21A、21Bは、柱2(2A、2B)に対して回転自在にピン接合され、かつ柱梁架構1を構成する梁3(3A、3B)に対して回転変位を規制できるために、地震時に生じる柱梁架構1の変形に追従することのない、振動減衰手段30A、30Bを有する上部突出架構体11A、11B及び下部突出架構体21A、21Bが実現できる。
具体的には、柱梁架構1に併設される上部突出架構体11A、11B及び下部突出架構体21A、21Bは、地震時に発生する柱梁架構1の応答性状に追随することなく、柱梁架構1の応答性状が、当該柱梁架構1と上部突出架構体11A、11B及び下部突出架構体21A、21Bとの間の相対変形量によって推定可能となる。よって、上部突出架構体11A、11Bと下部突出架構体21A、21Bを連結する振動減衰手段30A、30Bにより建物に入力された地震エネルギーを吸収する制振構造10(10A、10B)を実現できる。
【0035】
また、上記のような制振構造10(10A、10B)は、柱梁架構1と、外壁5との間に設けられている。
上記のような構成によれば、柱梁架構1と外壁5との間のデッドスペースを有効に利用して、制振構造10(10A、10B)を設置することができる。
【0036】
[実施形態の第1変形例]
次に、図7を用いて、上記実施形態として示した制振構造10の第1変形例を説明する。図7は、本変形例における制振構造10Cの正面図である。本変形例における制振構造10Cは、上記実施形態の制振構造10(10A、10B)とは、振動減衰手段30Cがオイルダンパーではない点が異なっている。
制振構造10Cの上部鉛直材12Cにおいては、ウェブ12bはフランジ12aよりも短尺に形成されており、ウェブ12bの下端は下側板部12dとは離間した位置で終端している。この、ウェブ12bの下端と下側板部12dの間には、極軟鋼材30cが設けられている。下側板部12dの下面には、2つの第1係止部材12gが、離間して設けられている。
下部鉛直材22Cの上側板部22dの上面には、2つの第1係止部材12gの間に、これら2つの第1係止部材12gの各々と間隔をあけるように、第2係止部材22gが設けられている。
地震が発生して水平方向に力が作用すると、上記実施形態と同様に、上部鉛直材12Cと下部鉛直材22Cが左右に相対移動しようとする。すると、第2係止部材22gは一方の第1係止部材12gと衝突し、水平方向の力は、極軟鋼材30cへと伝達される。伝達された水平方向の力は、極軟鋼材30cの変形により吸収される。
本第1変形例が、既に説明した実施形態と同様な効果を奏することは言うまでもない。
【0037】
[実施形態の第2変形例]
次に、図8を用いて、上記実施形態として示した制振構造10の第2変形例を説明する。図8は、本変形例における制振構造10Dの正面図である。本変形例における制振構造10Dは、上記実施形態の制振構造10(10A、10B)とは、振動減衰手段30Dがオイルダンパーではない点が異なっている。
制振構造10Dの上部鉛直材12Dにおいては、下側板部12dの下面に垂直に鋼板12hが接合されている。また、下部鉛直材22Dにも同様に、上側板部22dの上面に垂直に鋼板22hが接合されている。これら鋼板12h、22hの対向面に、粘弾性体30dが設けられている。
地震により生じる水平方向の力は、粘弾性体30dにより減衰される。
本第2変形例が、既に説明した実施形態と同様な効果を奏することは言うまでもない。
【0038】
[実施形態の第3変形例]
次に、図9を用いて、上記実施形態として示した制振構造10の第3変形例を説明する。図9は、本変形例における制振構造10Eの正面図である。
上記実施形態においては、上部突出架構体11Aは、柱2と上側梁3Aが接合される柱梁接合部4に接合され、また下部突出架構体21Aは、柱2と下側梁3Bが接合される柱梁接合部4に接合されていた。
本変形例においても、上部突出架構体11Eと下部突出架構体21Eは、それぞれ柱2の上側と下側に設けられる点については上記実施形態と同じであるが、上部突出架構体11Eは上側梁3Aよりも下側に、及び下部突出架構体21Eは下側梁3Bよりも上側に、それぞれ設けられている。
より詳細には、柱2の幅をWとすると、上部突出架構体11Eは、上側梁3Aの下側のフランジ3aから下方向に、例えばWの長さの間の間隔内に上部梁材13が収まるように、設けられている。上部突出架構体11Eの上部鉛直材12Eは、柱2の上側の、上側梁3Aの下側のフランジ3aよりも下の位置から、柱2に沿って下方に向けて突出し延在して設けられている。
また、下部突出架構体21Eは、下側梁3Bの上側のフランジ3aから上方向に、例えばWの長さの間の間隔内に下部梁材23が収まるように、設けられている。下部突出架構体21Eの下部鉛直材22Eは、柱2の下側の、下側梁3Bの上側のフランジ3aよりも上の位置から、柱2に沿って上方に向けて突出し延在して設けられている。
本変形例の制振構造10Eにおいては、上部梁材13と下部梁材23の間隔が狭められているため、地震が発生して水平方向の力が作用した際の、上部鉛直材12Eと下部鉛直材22Eの離間距離が、上記実施形態よりも短くなる。このため、制振構造10Eの振動エネルギーの吸収効率は、上記実施形態の制振構造10よりも低下する。また、上部梁材13や下部梁材23が建物内の空間Iに露出する可能性も高まる。
したがって、本変形例の制振構造10Eは、例えば柱梁接合部4から、図9における紙面手前方向に梁等の構造体が接合され、上記実施形態のように柱梁接合部4に制振構造10を接合できない場合等に限定して使用されるのが望ましい。
【0039】
[実施形態の他の変形例]
なお、本発明の制振構造は、図面を参照して説明した上述の各実施形態及び各変形例に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例1~3が考えられる。
例えば、図10に示す他の変形例1のように、制振構造10は、柱梁架構1の複数の箇所に、個別に設けられてもよい。図5図6を用いて説明したように、上記実施形態の制振構造10は、振動エネルギーの吸収効率が最適な構成として設けられるわけではないが、このように制振構造10を複数設けることで、振動エネルギーの吸収効率を高めることができる。
また、図11に示す他の変形例2のように、第1制振構造10Aと第2制振構造10Bを構成する上部梁材13と下部梁材23を横方向に第2柱2Bを超えて更に延伸させて上部梁材13F、下部梁材23Fとし、その先の、第2柱2Bに隣接する第3柱2Cに、新たな上部突出架構体11Fと下部突出架構体21Fを備える制振構造10Fが構築されてもよい。
更に、図12に示す他の変形例3のように、第1制振構造10Aと第2制振構造10Bを構成する下部突出架構体21Aと下部突出架構体21Bが下部梁材23を超えて下方に延伸し、これを新たな上部突出架構体11G、上部突出架構体11Hの上部鉛直材12G、上部鉛直材12Hとして制振構造10G、制振構造10Hを構築してもよい。
また、制振構造は、建物の1つの側面だけでなく、複数の側面に設けられてもよい。
また、制振構造は、図3を用いて説明したような、柱梁架構1と外壁5の間の空間Sに、すなわち外壁5が設けられる建物の外周に、必ずしも設置されなくともよい。制振構造は、建物内の空間から柱を挟んだ反対側に設けられて、建物内の空間から柱梁架構を視たときには、柱梁架構に隠れて視えない状態となっているのであれば、外周以外の場所に設けられていてもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記各実施形態及び各変形例で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 柱梁架構 14A、14B、24A、24B 仕口部
2、2A、2B、2C 柱 21A、21B、21E、21F 下部突出架構体
3、3A、3B 梁 22A~22E 下部鉛直材
4 柱梁接合部 23、23F 下部梁材
6 円筒体 30A~30D 振動減衰手段
10、10A~10H 制振構造 I 建物内の空間
11A、11B、11E~11H 上部突出架構体
12A~12E、12G、12H 上部鉛直材
13、13F 上部梁材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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