(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】インクジェットプリント物の製造方法および画像形成方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20231003BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20231003BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B41J2/01 129
C09D11/30
B41M5/00 100
B41J2/01 109
(21)【出願番号】P 2019204035
(22)【出願日】2019-11-11
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 廣視
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-116714(JP,A)
【文献】特開2016-83886(JP,A)
【文献】特開2018-99848(JP,A)
【文献】特開2013-86446(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103213395(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
C09D 11/30
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式により、基材上に、第1のインクおよび第2のインクを付与するインクジェット工程と、
付与された前記第1のインクおよび前記第2のインクを仮硬化させる仮硬化工程と、
付与された前記第1のインクおよび前記第2のインクをさらに硬化させる本硬化工程と、を含み、
前記基材は、第1の領域と、前記第1の領域とは異なる第2の領域と、前記第1の領域と前記第2の領域との間の第3の領域とを有し、
前記基材は、水平方向に対して所定の角度傾斜した傾斜面を有し、
前記第1の領域の少なくとも一部は、前記傾斜面において前記第2の領域よりも上位置に形成され、
前記インクジェット工程は、前記第1の領域に前記第1のインクを付与し、前記第2の領域に前記第2のインクを付与する工程であり、
前記仮硬化工程は、
前記第1のインクおよび前記第2のインクの流動性を低下させることにより、前記第1のインクを、前記第1の領域からはみ出るよう流動させて、前記第3の領域を覆う工程である、インクジェットプリント物の製造方法。
【請求項2】
インクジェット方式により、基材上に、第1のインクおよび第2のインクを付与するインクジェット工程と、
付与された前記第1のインクおよび前記第2のインクを仮硬化させる仮硬化工程と、
付与された前記第1のインクおよび前記第2のインクをさらに硬化させる本硬化工程と、を含み、
前記基材は、第1の領域と、前記第1の領域とは異なる第2の領域と、前記第1の領域と前記第2の領域との間の第3の領域とを有し、
前記基材は、水平方向に対して所定の角度傾斜した傾斜面を有し、
前記第1の領域の少なくとも一部は、前記傾斜面において前記第2の領域よりも上位置に形成され、
前記インクジェット工程は、前記第1の領域に前記第1のインクを付与し、前記第2の領域に前記第2のインクを付与する工程であり、
前記仮硬化工程は、
前記第1のインクおよび前記第2のインクの流動性を低下させることにより、前記第1のインクを、前記第1の領域からはみ出るよう流動させて、前記第3の領域を覆う工程である、画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリント物の製造方法および画像形成方法に関する。より詳細には、本発明は、それぞれのインクの境界面における滲みが抑えられており、光沢感の付与されたインクジェットプリント物を作製することのできるインクジェットプリント物の製造方法および画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線硬化型インクを用いて、基材にインクジェット画像を形成し、プリント物を作製する技術が開発されている。特許文献1には、立体メディアに対してUV硬化型インクを付与し、着弾したインクの液滴に紫外線を照射して仮硬化し、インクのドット形状を保持する技術が提案されている。
【0003】
ところで、従来、基材を異なる2色以上に塗り分けたプリント物が開発されている。このようなプリント物は、通常、1色目の塗料を基材に塗布し、乾燥により硬化させたのち、1色目の塗料が付与された領域の一部または全部をマスキング処理して、2色目の塗料を塗布し、再度乾燥(硬化)処理することにより作製され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のインクジェットプリンタは、インク液滴のドット形状が崩れないように、インク着弾直後に仮硬化を行い、インクが流動してドット形状が崩れるのを防ぐことを特徴とする。この場合、インク液滴は仮硬化によってドット形状を保持しているため、形成される画像は、表面が粒状感を有しており、光沢性が劣る。そのため、特許文献1に記載のインクジェットプリンタは、光沢感のあるインクジェット画像を作製することが難しい。
【0006】
ところで、塗料を用いて基材を異なる2色以上に塗り分ける場合、上記のように、1色の塗料を塗布する度に乾燥(硬化)工程を要したり、2色目以降の塗料を塗布する前に、都度マスキング工程を要したりするため、製造工程が煩雑であり、かつ、プリント物の生産効率が低い。そこで、インクジェット方式によって、1回の塗装工程で2色以上に塗り分けることが考えられる。しかしながら、この場合、付与されたそれぞれのインクが接する境界面において滲みを生じる場合がある。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、インクジェット方式によって1回の塗装工程で異なる2色以上のインクを付与することができ、製造工程を簡略化することができ、それぞれのインクの境界面における滲みが抑えられており、光沢感の付与されたインクジェットプリント物を作製することのできるインクジェットプリント物の製造方法および画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、インクジェット方式によって複数のインクを付与する際に、それぞれのインクを付与する領域を幾らか離すこと、および、それぞれのインクを付与した後にインクを仮硬化することにより、それぞれのインクが接する境界面においても滲みが生じにくくし得ること、仮硬化させた後にインクを流動させることにより、あえてインク液滴の形状を平坦化しインク液滴同士を結合させ被膜化し、得られるインクジェット画像に光沢を付与し得ることに着目し、本発明を完成させた。上記課題を解決する本発明のインクジェットプリント物の製造方法および画像形成方法には、以下の構成が主に含まれる。
【0009】
(1)インクジェット方式により、基材上に、第1のインクおよび第2のインクを付与するインクジェット工程と、付与された前記第1のインクおよび前記第2のインクを仮硬化させる仮硬化工程と、付与された前記第1のインクおよび前記第2のインクをさらに硬化させる本硬化工程と、を含み、前記基材は、第1の領域と、前記第1の領域とは異なる第2の領域と、前記第1の領域と前記第2の領域との間の第3の領域とを有し、前記インクジェット工程は、前記第1の領域に前記第1のインクを付与し、前記第2の領域に前記第2のインクを付与する工程であり、前記仮硬化工程は、前記第1のインクおよび前記第2のインクの流動性を低下させるとともに、前記第1のインクおよび前記第2のインクのうち少なくともいずれか一方を、前記第1の領域および前記第2の領域のうち少なくともいずれか一方からはみ出るよう流動させて、前記第3の領域を覆う工程である、インクジェットプリント物の製造方法。
【0010】
このような構成によれば、第1のインクおよび第2のインクのうち少なくともいずれか一方は、仮硬化工程において、適度に流動する程度に硬化される。その結果、インクは、流動し、インク液滴の形状が平坦化するとともにインク液滴同士が結合し被膜化する。これにより、得られるプリント物は、光沢が付与され得る。また、流動したインクは、第3の領域を覆うように流動した後、互いのインクが接する。この際、それぞれのインクは、適度に流動する程度に仮硬化されているため、混ざり合いにくい。その結果、得られるプリント物は、境界面において滲みを生じにくい。そして、得られるプリント物は、インクジェット方式によって異なる2色以上のインクが付与され得る。そのため、本プリント物の製造方法は、従来の塗料を用いてマスキングや乾燥工程を行う方法と比較して、製造工程を簡略化することができる。
【0011】
(2)前記基材は、水平方向に対して所定の角度傾斜した傾斜面を有し、前記第1の領域の少なくとも一部は、前記傾斜面において前記第2の領域よりも上位置に形成され、前記仮硬化工程は、前記第1のインクおよび前記第2のインクの流動性を低下させることにより、前記第1のインクを、前記第1の領域からはみ出るよう流動させて、前記第3の領域を覆う工程である、(1)記載のインクジェットプリント物の製造方法。
【0012】
このような構成によれば、仮硬化工程において、傾斜面に付与されたインクのうち、一方のインク(第2のインク)よりも、他のインク(第1のインク)の少なくとも一部が上位置に付与されている場合、そのような他のインク(第1のインク)が、適度に流動し、第3の領域を覆った後、第2のインクと接触する。これにより、得られるプリント物は、傾斜面においても境界面において滲みを生じにくい。
【0013】
(3)前記基材は、略水平方向に形成された水平面を有し、前記仮硬化工程は、前記第1のインクおよび前記第2のインクの流動性を低下させることにより、前記第1のインクおよび前記第2のインクを、前記第1の領域および前記第2の領域からはみ出るよう流動させて、前記第1のインクおよび前記第2のインクによって前記第3の領域を覆う工程である、(1)記載のインクジェットプリント物の製造方法。
【0014】
このような構成によれば、仮硬化工程において、水平面に付与された両方のインクが適度に流動し、第3の領域を覆う。これにより、得られるプリント物は、水平面においても境界面において滲みを生じにくい。
【0015】
(4)インクジェット方式により、基材上に、第1のインクおよび第2のインクを付与するインクジェット工程と、付与された前記第1のインクおよび前記第2のインクを仮硬化させる仮硬化工程と、付与された前記第1のインクおよび前記第2のインクをさらに硬化させる本硬化工程と、を含み、前記基材は、第1の領域と、前記第1の領域とは異なる第2の領域と、前記第1の領域と前記第2の領域との間の第3の領域とを有し、前記インクジェット工程は、前記第1の領域に前記第1のインクを付与し、前記第2の領域に前記第2のインクを付与する工程であり、前記仮硬化工程は、前記第1のインクおよび前記第2のインクの流動性を低下させるとともに、前記第1のインクおよび前記第2のインクのうち少なくともいずれか一方を、前記第1の領域および前記第2の領域のうち少なくともいずれか一方からはみ出るよう流動させて、前記第3の領域を覆う工程である、画像形成方法。
【0016】
このような構成によれば、第1のインクおよび第2のインクのうち少なくともいずれか一方は、仮硬化工程において、仮硬化前よりもいくらか流動性が失われるが、完全には硬化されない。その結果、インクは、仮硬化後も流動することができ、インク液滴の形状が平坦化するとともにインク液滴同士が結合し被膜化する。これにより、得られるインクジェット画像は、光沢が付与され得る。また、流動したインクは、第3の領域を覆うように流動した後、互いのインクが接する。この際、それぞれのインクは、適度に流動する程度に仮硬化されているため、混ざり合いにくい。その結果、得られるインクジェット画像は、境界面において滲みを生じにくい。そして、得られるインクジェット画像は、インクジェット方式によって異なる2色以上のインクが付与され得る。そのため、本画像形成方法は、従来の塗料を用いて基材を異なる2色以上に塗り分ける方法と比較して、より簡便な方法で画像を形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、インクジェット方式によって異なる2色以上のインクを付与することができるため、製造工程を簡略化することができ、それぞれのインクの境界面における滲みが抑えられており、光沢感の付与されたインクジェットプリント物を作製することのできるインクジェットプリント物の製造方法および画像形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】
図1Aは、本発明の一実施形態を説明するための模式的な断面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の一実施形態を説明するための模式的な平面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態を説明するための模式的な断面図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の一実施形態を説明するための模式的な断面図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明の一実施形態を説明するための模式的な平面図である。
【
図4A】
図4Aは、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な断面図である。
【
図4B】
図4Bは、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な平面図である。
【
図5A】
図5Aは、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な断面図である。
【
図5B】
図5Bは、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な平面図である。
【
図6A】
図6Aは、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な断面図である。
【
図6B】
図6Bは、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な平面図である。
【
図7A】
図7Aは、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な断面図である。
【
図7B】
図7Bは、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な平面図である。
【
図8A】
図8Aは、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な断面図である。
【
図8B】
図8Bは、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な平面図である。
【
図9A】
図9Aは、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な断面図である。
【
図9B】
図9Bは、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な平面図である。
【
図10A】
図10Aは、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な断面図である。
【
図10B】
図10Bは、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な平面図である。
【
図11A】
図11Aは、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な断面図である。
【
図11B】
図11Bは、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<プリント物の製造方法および画像形成方法>
本発明の一実施形態のプリント物の製造方法は、インクジェット方式により、基材上に、第1のインクおよび第2のインクを付与するインクジェット工程と、付与された第1のインクおよび第2のインクを仮硬化させる仮硬化工程と、付与された第1のインクおよび第2のインクをさらに硬化させる本硬化工程とを含む。基材は、第1の領域と、第1の領域とは異なる第2の領域と、第1の領域と第2の領域との間の第3の領域とを有する。インクジェット工程は、第1の領域に第1のインクを付与し、第2の領域に第2のインクを付与する工程である。仮硬化工程は、第1のインクおよび第2のインクの流動性を低下させるとともに、第1のインクおよび第2のインクのうち少なくともいずれか一方を、第1の領域および第2の領域のうち少なくともいずれか一方からはみ出るよう流動させて、第3の領域を覆う工程である。また、本発明の一実施形態の画像形成方法は、インクジェット方式により、基材上に、第1のインクおよび第2のインクを付与するインクジェット工程と、付与された第1のインクおよび第2のインクを仮硬化させる仮硬化工程と、付与された第1のインクおよび第2のインクをさらに硬化させる本硬化工程とを含む。基材は、第1の領域と、第1の領域とは異なる第2の領域と、第1の領域と第2の領域との間の第3の領域とを有する。インクジェット工程は、第1の領域に第1のインクを付与し、第2の領域に第2のインクを付与する工程である。仮硬化工程は、第1のインクおよび第2のインクの流動性を低下させるとともに、第1のインクおよび第2のインクのうち少なくともいずれか一方を、第1の領域および第2の領域のうち少なくともいずれか一方からはみ出るよう流動させて、第3の領域を覆う工程である。
【0020】
本実施形態のプリント物の製造方法および画像形成方法(以下、これらを合わせて本実施形態という)によれば、第1のインクおよび第2のインクのうち少なくともいずれか一方は、仮硬化工程において、適度に流動する程度に硬化される。その結果、インクは、流動し、インク液滴の形状が平坦化するとともにインク液滴同士が結合し被膜化する。これにより、得られるプリント物は、光沢が付与され得る。また、流動したインクは、第3の領域を覆うように流動した後、互いのインクが接する。この際、それぞれのインクは、適度に流動する程度に仮硬化されているため、混ざり合いにくい。その結果、得られるプリント物は、境界面において滲みを生じにくい。そして、得られるプリント物は、インクジェット方式によって異なる2色以上のインクが付与され得る。そのため、本実施形態は、従来の塗料を用いて基材を異なる2色以上に塗り分ける方法と比較して、製造工程を簡略化することができる。以下、それぞれの構成について説明する。なお、本実施形態は、説明の簡略化のため、2種のインク(第1のインクおよび第2のインク)を用いる場合について例示する。本実施形態は、3種以上のインクが使用される場合であっても、同様である。
【0021】
(インクジェット工程)
インクジェット工程は、インクジェット方式により、基材上に、第1のインクおよび第2のインクを付与する工程である。
【0022】
インクジェット方式により第1のインクおよび第2のインクを基材に付与する方式は特に限定されない。このような方式は、荷電変調方式、マイクロドット方式、帯電噴射制御方式、インクミスト方式等の連続方式、ピエゾ方式、パルスジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式、静電吸引方式等のオン・デマンド方式等が例示される。
【0023】
インクジェット方式によりインクを吐出するインクジェット装置は特に限定されない。インクジェット装置は、シリアル型インクジェット装置、ライン型インクジェット装置のほか、たとえばロボットアームの先端にヘッドを搭載したインクジェット装置や、ロボットアームの先端にシリアル機構を有するインクジェット装置を搭載したものなどであってもよい。
【0024】
本実施形態において、第1のインクおよび第2のインクを付与するそれぞれのノズル、および、後述する仮硬化および本硬化を行うそれぞれの手段(たとえば紫外線照射ランプ(UV照射ランプ))は、いずれも、インクジェット装置の任意の位置に設けられ得る。
【0025】
第1のインクおよび第2のインクが付与される基材は特に限定されない。一例を挙げると、基材は、鋼板、アルミ、ステンレス等の金属板、アクリル、ポリカーボネート、ABS、ポリプロピレン、ポリエステル、塩化ビニル等のプラスチック板またはフィルム、窯業板、コンクリート、木材、ガラス等である。これらの基材は、プリント前に、前処理剤により処理されることが好ましい。前処理剤は、フッ素系塗料、シリコーン系塗料、アクリルシリコーン系塗料、アクリル系塗料、エポキシ系塗料、ウレタン系塗料等が例示される。これら前処理剤を基材に付与する方法は、スプレー法、ロールコーター法、カーテンフローコーター法、ハケ塗り法、ヘラ塗り法、浸漬法、インクジェット法等が例示される。また、本実施形態の基材は、表面に塗料が付与されることにより、各種意匠(たとえばシルバー系、パール系の意匠)が表現されていてもよい。
【0026】
基材は、後述する第1のインクが付与される領域(第1の領域)と、第2のインクが付与される領域(第2の領域)とを有する。第1の領域と第2の領域とは、基材上の任意の位置に設けられた領域であり、互いの領域は重複しない。また、基材は、第1の領域と第2の領域との間に、第1のインクおよび第2のインクが付与されない第3の領域を有する。第3の領域は、後述する仮硬化工程において、第1の領域および第2の領域のうち少なくともいずれか一方から、第1のインクおよび第2のインクのうち少なくともいずれか一方が流入し、これらいずれかのインクによって覆われる領域である。
【0027】
・第1のインク
第1のインクは、種々の基材に適用でき、乾燥(硬化)させやすい点から、UV硬化型インクジェットインクであることが好ましい。UV硬化型インクジェットインクは、反応性モノマーまたは反応性オリゴマーと、光重合開始剤を含む。
【0028】
第1のインクは、必要に応じて、染料、顔料、バインダー樹脂、分散剤、溶剤および各種任意成分を含む。任意成分は、たとえば、熱安定剤、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、浸透剤、還元防止剤、レベリング剤、pH調整剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤および光安定剤等である。これらは適宜選択され得る。
【0029】
・反応性モノマー
反応性モノマーは特に限定されない。一例を挙げると、反応性モノマーは、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートやそれらの変性体などの6官能アクリレート;ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレートなどの5官能アクリレート;ペンタジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの4官能アクリレート;トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、グリセリルトリアクリレートなどの3官能アクリレート;ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンアクリル酸安息香酸エステル、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、ビスフェノールAジアクリレートなどの2官能アクリレート;および、カプロラクトンアクリレート、トリデシルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコールジアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ネオペンチルフリコールアクリル酸安息香酸エステル、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ-トリエチレングリコールアクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシ-ポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸などの単官能アクリレート等である。反応性モノマーは、併用されてもよい。
【0030】
反応性モノマーが配合される場合、反応性モノマーの含有量は特に限定されない。一例を挙げると、反応性モノマーの含有量は、インク100質量部に対し、50質量部以上であることが好ましい。また、反応性モノマーの含有量は、インク100質量部に対し、85質量部以下であることが好ましい。反応性モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、インクは、粘度が適切に調整されやすく、インクジェットプリント時に吐出不良を生じにくい。また、インクは、適切に硬化されやすい。
【0031】
・反応性オリゴマー
反応性オリゴマーは特に限定されない。一例を挙げると、反応性オリゴマーは、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、シリコンアクリレート、ポリブタジエンアクリレート等である。反応性オリゴマーは、併用されてもよい。
【0032】
反応性オリゴマーの重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。一例を挙げると、反応性オリゴマーのMwは、1000以上であることが好ましい。また、反応性オリゴマーのMwは、50000以下であることが好ましい。なお、本明細書において、反応性オリゴマーのMwは、たとえばGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値であり、高速GPC装置(東ソー(株)製、HLC-8120GPC)を用いて測定し得る。
【0033】
反応性オリゴマーが配合される場合、反応性オリゴマーの含有量は特に限定されない。一例を挙げると、反応性オリゴマーの含有量は、インク100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましい。また、反応性オリゴマーの含有量は、インク100質量部に対し、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましい。反応性オリゴマーの含有量が上記範囲内であることにより、得られるプリント物のインクジェット層は、優れた強靭性、柔軟性および密着性を示しやすい。
【0034】
・光重合開始剤
光重合開始剤は特に限定されない。一例を挙げると、光重合開始剤は、ベンゾイン類、ベンジルケタール類、アミノケトン類、チタノセン類、ビスイミダゾール類、ヒドロキシケトン類およびアシルホスフィンオキサイド類等である。光重合開始剤は、併用されてもよい。
【0035】
光重合開始剤が配合される場合、光重合開始剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、光重合開始剤の含有量は、インク100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましい。また、光重合開始剤の含有量は、インク100質量部に対し、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。光重合開始剤の含有量が上記範囲内であることにより、重合が進行しやすい。
【0036】
・バインダー樹脂
バインダー樹脂は、たとえば、インクの粘度の調整、得られるプリント物の硬度の調整や形状を制御するために好適に含まれる。
【0037】
バインダー樹脂の種類は特に限定されない。一例を挙げると、バインダー樹脂は、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アイオノマー樹脂、エチレンエチルアクリレート樹脂、アクリロニトリルアクリレートスチレン共重合樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリル塩化ポリエチレンスチレン共重合樹脂、エチレン酢ビ樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、ポリスチレンマレイン酸共重合樹脂、ポリスチレンアクリル酸共重合樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、メチルペンテン樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート樹脂、ブチラール樹脂、ホルマール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、およびこれらの共重合樹脂等が例示される。バインダー樹脂は、膜強度、粘度、インクジェットインクの残部粘度、色材の分散安定性、熱安定性、非着色性、耐水性、耐薬品性を考慮し、適宜選択され得る。バインダー樹脂は、併用されてもよい。
【0038】
バインダー樹脂の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、バインダー樹脂は、固形分換算で、インク中、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。また、バインダー樹脂は、固形分換算で、インク中、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
・分散剤
分散剤は、上記顔料を分散させるために好適に含まれる。分散剤は特に限定されない。一例を挙げると、分散剤は、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、高分子分散剤等である。分散剤は併用されてもよい。
【0040】
分散剤がインクに含まれる場合、分散剤の含有量は、分散すべき顔料の種類および含有量によって適宜決定される。一例を挙げると、分散剤の含有量は、顔料100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましい。また、分散剤の含有量は、顔料100質量部に対して、150質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましい。
【0041】
・溶剤
溶剤は、インクにおいて、反応性オリゴマーやバインダー樹脂を溶解するために好適に含まれる。溶剤の種類は特に限定されない。一例を挙げると、溶剤は、水、グリコールエーテル系溶剤、アセテート系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、炭化水素系溶剤、脂肪酸エステル系溶剤、芳香族系溶剤等である。溶剤は併用されてもよい。本実施形態の溶剤は、これらの中でも、グリコールエーテル系溶剤およびアセテート系溶剤のうち、少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。グリコールエーテル系溶剤およびアセテート系溶剤は、いずれも低粘度であり、かつ、比較的沸点が高い。そのため、これらを溶剤として含むインクは、乾燥性がより改善されており、インクジェットプリント時における吐出安定性がより優れている。
【0042】
第1のインク全体の説明に戻り、第1のインクの粘度は特に限定されない。一例を挙げると、第1のインクの粘度は、2mPa・s以上であることが好ましく、5mPa・s以上であることがより好ましい。また、第1のインクの粘度は、50mPa・s以下であることが好ましく、30mPa・s以下であることがより好ましい。第1のインクの粘度が上記範囲内であることにより、第1のインクは、インクジェットヘッドからの吐出不良を生じにくく、吐出安定性が優れる。本実施形態において、第1のインクの粘度は、B型粘度計(東機産業(株)製、TVB-20LT、ロータ回転数60rpm)を用いて測定することができる。なお、粘度を上記範囲内に調整する方法は特に限定されない。一例を挙げると、粘度は、各成分の添加量や、溶剤の種類および添加量によって調整され得る。粘度は、必要に応じて増粘剤等の粘度調整剤が使用されることにより調整されてもよい。
【0043】
第1のインクの表面張力は特に限定されない。第1のインクの表面張力は、25℃において、20dyne/cm以上であることが好ましく、22dyne/cm以上であることがより好ましい。また、第1のインクの表面張力は、25℃において、40dyne/cm以下であることが好ましく、35dyne/cm以下であることがより好ましい。表面張力が上記範囲内である場合、第1のインクは、吐出安定性が優れる。なお、本実施形態において、表面張力は、静的表面張力計(プレート法)(協和界面科学(株)製、CBVP-A3)を用いて測定することができる。
【0044】
・第2のインク
第2のインクは、第1のインクと異なる色相を示す以外、第1のインクと同様である。すなわち、第2のインクは、第1のインクと異なる染料または顔料が含まれることにより、異なる色相を示してもよく、第1のインクと同じ染料または顔料を、異なる含有量となるよう含むことにより、異なる色相を示してもよい。
【0045】
また、第2のインクは、後述する仮硬化工程において、第1のインクと接触した際に、混ざり合わないことが好ましい。そのため、第1のインクおよび第2のインクには、互いのインクが混ざりにくくなるように、第1のインクと第2のインクとの粘度差および表面張力差ができるだけ小さいことが好ましい。
【0046】
インクジェット工程の説明に戻り、第1のインクと第2のインクとは、インクジェット装置によって、基材に同時に付与されてもよい。なお、本実施形態において、「同時に付与」することは、厳密に「同時」に第1のインクと第2のインクとを付与することを要しない。すなわち、本実施形態は、従来の塗料を用いてマスキング工程や乾燥工程(本実施形態における本硬化工程)を各塗布工程の間に設けながら塗布する方法と比較して、異なる2色以上のインクを付与することができることを特徴とする。そのため、たとえば、1色目のインク(第1のインク)を付与し、一時的に1色目のインクを吐出していない状態であっても、マスキング工程や本硬化工程を行うことなく、2色目のインク(第2のインク)を付与する場合であれば、本実施形態における「同時に付与」することに含まれる。これらは、第1のインクを付与する第1の領域と、第2のインクを付与する第2の領域の領域面積の違いなどによって、適宜調整され得る。
【0047】
インクジェット工程が行われた時点において、第1のインクは、基材の第1の領域に付与されており、第2のインクは、基材の第2の領域に付与されている。第1の領域と第2の領域との間には、第1のインクおよび第2のインクが付与されていない第3の領域が形成されている。また、この時点で、第1のインクおよび第2のインクは、硬化されていない。そのため、第1のインクおよび第2のインクは、所定の流動性を示す。第1のインクおよび第2のインクは、続く仮硬化工程において、流動性がある程度失われる程度に硬化される。
【0048】
(仮硬化工程)
仮硬化工程は、付与された第1のインクおよび第2のインクを仮硬化させる工程である。
【0049】
仮硬化工程によれば、第1のインクおよび第2のインクの流動性が低下する。これにより、第1のインクおよび第2のインクのうち少なくともいずれか一方が、第1の領域および第2の領域のうち少なくともいずれか一方からはみ出るよう流動し、第3の領域を覆う。
【0050】
第3の領域が、第1のインクおよび第2のインクのうち少なくともいずれか一方によって覆われると、第1のインクおよび第2のインクは、互いに接触する。この際、第1のインクおよび第2のインクは、いずれも仮硬化されていることにより、仮硬化前と比較して、いくらか流動性が失われている。その結果、第1のインクと第2のインクとは、互いに混ざり合いにくく、境界面において滲みを生じにくい。第1のインクおよび第2のインクは、続く本硬化工程において、さらに硬化される。
【0051】
本実施形態において、第3の領域を覆うインクの種類は特に限定されない。第3の領域は、いずれか一方(たとえば第1のインク)のみによって覆われてもよく、第1のインクと第2のインクとの両方によって覆われてもよい。
【0052】
・一方のインクのみによって第3の領域が覆われる場合
たとえば、基材に、水平方向に対して所定の角度傾斜した傾斜面(曲面であってもよい)が形成されており、かつ、第1の領域の少なくとも一部が傾斜面において第2の領域よりも上位置に形成されている場合、仮硬化工程は、第1のインクおよび第2のインクの流動性を低下させることにより、第1のインクを、第3の領域を覆うよう第1の領域からはみ出るよう流動させてもよい。すなわち、傾斜面では、一方のインク(たとえば第1のインク)が付与される領域(第1の領域)が、他方のインク(たとえば第2のインク)が付与される領域(第2の領域)よりも、上位置に形成され得る。この場合、第1のインクは、第1の領域から下方向に流動し、第3の領域を覆う。一方、第2のインクは、第1のインクよりも下位置にある第2の領域に付与されているため、第3の領域を覆うようには流動しにくい。その結果、このような傾斜面を有する基材では、第3の領域は、一方のインク(第1のインク)のみによって、第3の領域が覆われる。この場合において、第1のインクおよび第2のインクは、いずれも仮硬化されていることにより、仮硬化前と比較して、いくらか流動性が失われている。その結果、第1のインクが流動して第3の領域を覆ったのち、第2のインクと接触する場合であっても、第1のインクおよび第2のインクは、互いに混ざり合いにくく、境界面において滲みを生じにくい。したがって、得られるプリント物は、傾斜面においても境界面において滲みを生じにくい。
【0053】
・両方のインクによって第3の領域が覆われる場合
一方、たとえば、基材に、略水平方向に形成された水平面が形成されている場合、仮硬化工程は、第1のインクおよび第2のインクの流動性を低下させることにより、第1のインクおよび前記第2のインクを、第1の領域および第2の領域からはみ出るよう流動させて、第1のインクおよび第2のインクによって第3の領域を覆わせてもよい。すなわち、水平面では、第1のインクだけでなく、第2のインクも、流動する。これにより、第1の領域と第2の領域との間に形成された第3の領域は、これら両方のインクによって覆われる。この場合において、第1のインクおよび第2のインクは、いずれも仮硬化されていることにより、仮硬化前と比較して、いくらか流動性が失われている。その結果、第1のインクおよび第2のインクが流動して第3の領域を覆ったのち、互いに接触する場合であっても、第1のインクおよび第2のインクは、互いに混ざり合いにくく、境界面において滲みを生じにくい。したがって、得られるプリント物は、水平面においても境界面において滲みを生じにくい。
【0054】
このように、本実施形態によれば、基材の形状(傾斜面を有するか、水平面を有するか等)を問わず、適宜、いずれかまたは両方のインクを流動させて、第3の領域を覆い、滲みのない境界面を形成することができる。そのため、本実施形態は、平面状の基材のみでなく、種々の表面形状を有する立体状の基材(成形体)に対しても適用でき、このような基材において、滲みのない境界面を形成することができる。
【0055】
なお、第3の領域の幅(第1の領域と第2の領域との距離)は、特に限定されない。第3の領域の幅は、流動するインクの種類、物性等に基づいて、適宜調整され得る。たとえば、上記した傾斜面にインクが付与される場合、第3の領域を覆うよう流動するインクは第1のインクのみである。一方、水平面にインクが付与される場合、第3の領域を覆うよう流動するインクは第1のインクと第2のインクとの両方である。そのため、傾斜面における第3の領域の幅は、水平面における第3の領域の幅と比べて、いくらか狭くなるよう調整されてもよい。これにより、流動するインクが第1のインクのみである場合であっても、第3の領域が充分に覆われやすい。
【0056】
第3の領域の幅は、0.1~2mmであることが好ましく、0.5~1.5mmであることがより好ましい。第3の領域の幅を上記範囲にすることにより、より鮮明な境界面が形成されやすい。
【0057】
仮硬化工程における仮硬化の条件は特に限定されない。基材に付与されたインクは、インクジェット装置に付帯されたUV照射ランプによって紫外線が照射され、仮硬化される。UV照射ランプは、水銀ランプやガス・固体レーザー等が例示される。これらの中でも、UV照射ランプは、水銀ランプ、メタルハライドランプであることが好ましい。また、UV照射ランプは、紫外線発光ダイオード(UV-LED)や紫外線レーザダイオード(UV-LD)であってもよい。
【0058】
仮硬化時の紫外線の積算光量は、インク液滴が適度に流動性を有する程度に仮硬化させることができる量であればよく、特に限定されない。積算光量は、10mJ/cm2以上であることが好ましく、30mJ/cm2以上であることがより好ましい。また、積算光量は、500mJ/cm2以下であることが好ましく、300mJ/cm2以下であることがより好ましい。なお、積算光量は、たとえば紫外線照度計・光量計(UVPF-A2 アイグラフィックス(株)製)を用い、測定波長域365nmの条件で測定することができる。積算光量が上記範囲内であることにより、第1のインクおよび第2のインクは、適度な流動性を有し、かつ、互いが接触した際に混ざり合わない程度に仮硬化され得る。
【0059】
本実施形態において、仮硬化工程は、インクジェット工程とは別の工程として、インクジェット工程後に行われてもよく、インクジェット工程と並行して行われてもよい。
【0060】
インクジェット工程と並行して仮硬化工程が行われる場合、仮硬化工程で使用される仮硬化用UV照射ランプは、インクジェット装置のヘッドに追従するよう設けられてもよく、追従しないように設けられてもよい。ヘッドに追従するよう設けられる場合、仮硬化用UV照射ランプは、ヘッドに追従し、基材に付与されたインクジェットインクの液滴を、順次仮硬化する。一方、ヘッドに追従しないよう設けられる場合、仮硬化用UV照射ランプは、ヘッドの動作とは別に、基材に付与されたインクジェットインクの液滴を、適宜、順次仮硬化する。
【0061】
・本硬化工程
本硬化工程は、付与および仮硬化された第1のインクおよび第2のインクをさらに硬化させる工程である。上記した仮硬化工程において、第1のインクおよび第2のインクのうち少なくともいずれか一方は、第1の領域および第2の領域のうち少なくともいずれか一方からはみ出るよう流動し、第3の領域を覆っている。この状態でさらに硬化(本硬化)されることにより、第3領域を覆った状態のインクジェット画像が形成される。
【0062】
本硬化工程における本硬化の条件は特に限定されない。基材に付与されたインクは、インクジェット装置に付帯されたUV照射ランプによって紫外線が照射され、本硬化される。UV照射ランプは、水銀ランプやガス・固体レーザー等が例示される。これらの中でも、UV照射ランプは、水銀ランプ、メタルハライドランプであることが好ましい。また、UV照射ランプは、紫外線発光ダイオード(UV-LED)や紫外線レーザダイオード(UV-LD)であってもよい。
【0063】
本硬化時の紫外線の積算光量は特に限定されない。積算光量は、500mJ/cm2以上であることが好ましく、800mJ/cm2以上であることがより好ましい。また、積算光量は、5000mJ/cm2以下であることが好ましく、3000mJ/cm2以下であることがより好ましい。なお、積算光量は、たとえば紫外線照度計・光量計(UVPF-A2 アイグラフィックス(株)製)を用い、測定波長域365nmの条件で測定することができる。積算光量が上記範囲内であることにより、第1のインクおよび第2のインクは、充分に硬化され得る。
【0064】
本硬化工程は、仮硬化工程から、所定の待機時間が経過した後に実施されることが好ましい。すなわち、仮硬化工程において、第1のインクおよび第2のインクの流動性が低減され、第1のインクおよび第2のインクのうち少なくともいずれか一方がさらに流動して第3の領域を覆う。本硬化工程は、第3の領域が覆われた後に実施されることが好ましい。これにより、第3の領域が充分に覆われ、かつ、互いのインクが接触している境界面でさらに混ざり合わないように、インクが本硬化され得る。
【0065】
仮硬化工程を終えて本硬化工程を行うまでの待機時間は特に限定されない。待機時間は、仮硬化工程によって流動性が低減されたインクが示す流動性の程度や、第3の領域の幅、基材角度などにより、適宜調整され得る。一例を挙げると、待機時間は、10~300秒程度である。
【0066】
また、仮硬化工程と本硬化工程とは、連続的に行われてもよい。また、仮硬化工程において、第1のインクまたは第2のインクが流動し、第3の領域が覆われていく程度に応じて、徐々に硬化条件(たとえば紫外線の積算光量の程度)が厳しくなるよう調整されてもよい。これにより、仮硬化工程の初期にはインクを素早く流動させ、仮硬化工程の終期にはインクの流動性がより低減されるように硬化条件を厳しくすることができる。そして、互いのインクが接した後に行われる硬化を本硬化工程と称してもよい。これにより、本実施形態は、仮硬化工程に要する時間を短縮でき、より生産効率を高めることができる。
【0067】
以上、本実施形態によれば、第1のインクおよび第2のインクのうち少なくともいずれか一方が、仮硬化工程において、適度に流動する程度に硬化される。その結果、インクは、流動し、インク液滴の形状が平坦化する。これにより、得られるプリント物は、光沢が付与され得る。また、流動したインクは、第3の領域を覆うように流動した後、互いのインクが接する。この際、それぞれのインクは、適度に流動する程度に仮硬化されているため、混ざり合いにくい。その結果、得られるプリント物は、境界面において滲みを生じにくい。そして、得られるプリント物は、インクジェット方式によって異なる2色以上のインクが付与され得る。そのため、本実施形態によれば、従来の塗料を用いてマスキングや乾燥工程を行う方法と比較して、製造工程を簡略化することができる。
【0068】
その結果、本実施形態は、2色以上の色相に塗り分けることを要する種々の用途に好適である。たとえば、本実施形態によれば、鋼板、アルミ、ステンレス等の金属板、アクリル、ポリカーボネート、ABS、ポリプロピレン、ポリエステル、塩化ビニル等のプラスチック板またはフィルム、窯業板、コンクリート、木材、ガラス等の基材を用いる種々の用途において好適である。これらの基材は、プリント前に、前処理により処理されてもよい。前処理剤は、フッ素系塗料、シリコーン系塗料、アクリルシリコーン系塗料、アクリル系塗料、エポキシ系塗料、ウレタン系塗料等が例示される。これら前処理剤を基材に付与する方法は、スプレー法、ロールコーター法、カーテンフローコーター法、ハケ塗り法、ヘラ塗り法、浸漬法、インクジェット法等が例示される。また、基材は、表面に塗料が付与されることにより、各種意匠(たとえばシルバー系、パール系の意匠)が表現されていてもよい。
【0069】
ここで、本実施形態によって得られるプリント物は、境界面において滲みを生じにくく、従来の塗料を用いて2色以上に基材を塗り分ける方法と比べて得られる意匠(インクジェット画像)がより鮮明である点について、図面を参照して説明する。
【0070】
図1A~
図3Bは、本実施形態を説明するための模式的な断面図である。
図1Aはインクジェット工程後の状態(断面図)を示し、
図1Bは、インクジェット工程後の状態(平面図)を示し、
図2は仮硬化工程後の状態を示し、
図3Aは本硬化工程後の状態(断面図)を示し、
図3Bは、本硬化工程後の状態(平面図)を示している。
【0071】
図1Aおよび
図1Bに示されるように、インクジェット工程において、第1のインク1は基材3の第1の領域R1に付与されている。一方、第2のインク2は基材3の第2の領域R2に付与されている。なお、インクジェット工程において第1のインク1および第2のインク2の付与されていない領域は、第3の領域R3である。
【0072】
インクジェット工程において、第1のインク1および第2のインク2は、いずれもいくらか流動性を有している。そのため、続く仮硬化工程において、第1のインク1および第2のインク2の流動性をいくらか低減されるように、仮硬化が行われる。
【0073】
図2に示されるように、仮硬化工程において、第1のインク1および第2のインク2は仮硬化される。
図2において、仮硬化する手段として、紫外線A1を照射する態様が例示されている。
【0074】
紫外線A1の照射された第1のインク1および第2のインク2は、流動性がいくらか低減される。ただし、仮硬化後の第1のインク1および第2のインク2は、完全には硬化されておらず、仮硬化前に比べて低減されているものの、流動性を有している。そのため、第1のインク1および第2のインク2は、いずれも第3の領域R3を覆うよう流動し、互いに接触する。矢印A2は、インクの流動方向を示している。接触した第1のインク1および第2のインク2は、流動性がいくらか低減されているため、互いに混ざり合いにくい。また、流動することにより、第1のインクおよび第2のインクの液滴の形状は、平坦化され、また、インク液滴同士が結合し被膜化する。これにより、得られるプリント物の光沢度を向上させ得る。
【0075】
図3Aおよび
図3Bに示されるように、本硬化工程において、第1のインク1および第2のインク2は本硬化される。
図3Aおよび
図3Bにおいて、本硬化する手段として、紫外線A1を照射する態様が例示されている。
【0076】
第1のインク1および第2のインク2は、硬化され、基材3上にインクジェット画像が形成される。
図3Aおよび
図3Bに示されるように、硬化した第1のインク1と第2のインク2とは、境界面付近において、重なりを生じにくい。その結果、得られるインクジェット画像は、境界面が鮮明であり、滲みを生じにくい。また、得られるインクジェット画像は、マスキング処理を用いて形成された従来画像に見られる、マスキングによる塗装段差がない。そのため、得られる画像は色の境界部分がなめらかな仕上がりとなる。
【0077】
次に、従来の塗料を用いて2色以上に基材を塗り分ける方法を説明する。
図4A~
図7Bは、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な断面図および平面図である。
図4Aは基材3に対して1色目の塗料4が付与された状態(断面図)を示し、
図4Bは基材3に対して1色目の塗料4が付与された状態(平面図)を示し、
図5Aは1色目の塗料4を乾燥後にマスキング6を施した状態(断面図)を示し、
図5Bは1色目の塗料4を乾燥後にマスキング6を施した状態(平面図)を示し、
図6Aは基材3に対して2色目の塗料5を付与した状態(断面図)を示し、
図6Bは基材3に対して2色目の塗料5を付与した状態(平面図)を示し、
図7Aはマスキング6を除去した状態(断面図)を示し、
図7Bはマスキング6を除去した状態(平面図)を示している。
【0078】
図4Aおよび
図4Bに示されるように、たとえば、スプレーによって1色目の塗料4を基材3に塗布すると、多くの場合、塗布面の端部は、塗料の塗布量が均一でなく、いくらか塗布量の少ない領域(領域4a)が形成される。塗布された1色目の塗料4は、次いで、乾燥される。
図4Aおよび
図4Bにおいて、乾燥する手段として、熱A3が付与される態様が例示されている。このように、従来の塗料を用いる方法は、2色目の塗料5を付与する前に、1色目の塗料4を乾燥する工程を要する。
【0079】
図5Aおよび
図5Bに示されるように、乾燥された1色目の塗料4は、2色目の塗料5を塗布する際に重ね塗りされないように、マスキング6が施される。この際、マスキング6は、均一に1色目の塗料4が塗布されていない領域(領域4a、
図4A参照)には施されない。このような領域4aは、2色目の塗料5が重ね塗りされる。また、このように、従来の塗料を用いる方法は、2色目の塗料5を付与する前に、1色目の塗料4にマスキング6を要する。
【0080】
図6Aおよび
図6Bに示されるように、2色目の塗料5が塗布される。塗布された2色目の塗料5は、次いで、乾燥される。
図6Aおよび
図6Bにおいて、乾燥する手段として、熱A3が付与される態様が例示されている。このように、従来の塗料を用いる方法は、2色目の塗料5を付与した後に、2色目の塗料5を乾燥するための2度目の乾燥工程を要する。
【0081】
図7Aおよび
図7Bに示されるように、マスキング6が除去されると、意匠の付与されたプリント物が作製される。
【0082】
ここで、
図7Aおよび
図7Bに示されるように、領域R4は、1色目の塗料4と2色目の塗料5とが混在している。このような領域R4は、たとえば2色目の塗料5の光透過性が優れる場合や、1色目の塗料4が濃色である場合などには、互いの色相が影響を及ぼし合い、異なる2色が混在した境界線が形成される。その結果、従来の塗料を用いて2色以上に基材3を塗り分ける方法は、鮮明な境界線が形成されにくい。また、従来の方法は、複数回の乾燥工程を要したり、追加工程としてマスキング6を要するなど、本実施形態と比較して、製造工程が煩雑である。
【0083】
また、
図8A~
図11Bは、上記とは異なる、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法を説明するための模式的な断面図および平面図である。
図8Aは基材3の全面に対して1色目の塗料4が付与された状態(断面図)を示し、
図8Bは基材3の全面に対して1色目の塗料4が付与された状態(平面図)を示し、
図9Aは1色目の塗料4を乾燥後にマスキング6を施した状態(断面図)を示し、
図9Bは1色目の塗料4を乾燥後にマスキング6を施した状態(平面図)を示し、
図10Aは2色目の塗料5を全面に付与した状態(断面図)を示し、
図10Bは2色目の塗料5を全面に付与した状態(平面図)を示し、
図11Aはマスキング6を除去した状態(断面図)を示し、
図11Bはマスキング6を除去した状態(平面図)を示している。
【0084】
図8Aおよび
図8Bに示されるように、1色目の塗料4は、基材3の全面に塗布される。塗布された1色目の塗料4は、次いで、乾燥される。
図8Aおよび
図8Bにおいて、乾燥する手段として、熱A3が付与される態様が例示されている。このように、従来の塗料を用いる方法は、2色目の塗料5を付与する前に、1色目の塗料4を乾燥する工程を要する。
【0085】
図9Aおよび
図9Bに示されるように、乾燥された1色目の塗料4は、2色目の塗料5を塗布する際に、所望する領域以外が重ね塗りされないように、1色目として残すべき領域にマスキング6が施される。このように、従来の塗料を用いる方法は、2色目の塗料5を付与する前に、1色目の塗料4にマスキング6を要する。
【0086】
図10Aおよび
図10Bに示されるように、2色目の塗料5が、マスキング6を施した第1の塗料4を付与した領域の全面に塗布される。塗布された2色目の塗料5は、次いで、乾燥される。
図10Aおよび
図10Bにおいて、乾燥する手段として、熱A3が付与される態様が例示されている。このように、従来の塗料を用いる方法は、2色目の塗料5を付与した後に、2色目の塗料5を乾燥するための2度目の乾燥工程を要する。
【0087】
図11Aおよび
図11Bに示されるように、マスキング6が除去されると、意匠の付与されたプリント物が作製される。
【0088】
ここで、
図11Aおよび
図11Bに示されるように、2色目の塗料5が形成されている領域には、その下に1色目の塗料4が形成されている。そのため、たとえば2色目の塗料5の光透過性が優れる場合や、1色目の塗料4が濃色である場合などには、1色目の塗料4の色相が、2色目の塗料5の色相に影響を及ぼし得る。また、
図11Aおよび
図11Bに示されるように、2色目の塗料5が形成された領域と、1色目の塗料4が形成された領域とは、2色目の塗料5の厚み分の段差が形成され得る。そのため、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法によれば、所望しない段差を含む画像が形成されるおそれがある。さらに、1色目の塗料4は、2色目の塗料5が塗布される部分を含めて全面塗装される。また、2色目の塗料5は、マスキング6を含めて全面塗装され、その後、マスキング6に対応する部分が除去される。その結果、従来の塗料を用いてプリント物を製造する方法によれば、いずれも塗装に要するコストが高くなる。加えて、従来の方法は、
図10Aに示される状態から、1色目の塗料4に対応する領域のマスキング6のみを剥がすことが困難である。そのため、
図11Aに示される状態では、マスキング6を剥がしたことにより、2色目の塗料5が塗布された面(特にマスキング6と接していた面)が荒らされやすい。
【0089】
これに対し、本実施形態は、2色以上のインクジェットインクを同時または連続して付与することができ、かつ、2色以上のインクを付与する際にそれぞれのインクを別々の工程で乾燥(硬化)させる必要がない。また、マスキング処理等の追加の工程を要しない。したがって、本実施形態は、従来の方法と比較して、特に境界線においてより鮮明な意匠(インクジェット画像)を形成し得るのみでなく、製造方法も簡略であり、生産性も優れる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。
【0091】
使用した原料を以下に示す。
(顔料分散体Bk)
15質量部の黒色顔料(NIPEX35、オリオン エンジニアドカーボンズ(株)製)と、10質量部の分散剤(solsperse33000、日本ルーブリゾール(株)製)と、75質量部のIBXA(イソボニルアクリレート、共栄社化学(株)製)をミキサーにて混合、ろ過することにより、顔料分散体Bkを調製した。
(顔料分散体Y)
15質量部の黄色顔料(D1085J、BASF(株)製)と、7.5質量部の分散剤(solsperse33000、日本ルーブリゾール(株)製)と、77.5質量部のIBXA(イソボニルアクリレート、共栄社化学(株)製)をミキサーにて混合、ろ過することにより、顔料分散体Yを調製した。
(反応性モノマー)
SR420NS:3,3,5-トリメチルシクロヘキサノールアクリレート、アルケマ(株)製
SR238F:2官能アクリレートモノマー、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、アルケマ(株)製
FX-AO-MA:2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル、(株)日本触媒製
(反応性オリゴマー)
CN991:ポリエステルウレタンアクリレート、アルケマ(株)製
(光重合開始剤)
Irg184:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、BASF社製
Irg819:ビス(2,4,6,-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、BASF社製
(重合禁止剤)
UV10:セバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1-オキシル)、BASF社製
(レベリング剤)
メガファックF-556:含フッ素基・親水性基・親油性基含有オリゴマー、DIC(株)製
【0092】
<実施例1>
水平に置かれた鋼板基材に対して、以下のインクジェット条件にてインクジェットプリントを行い、プリント物を作製した。
【0093】
<インクジェット条件>
シングルパス方式
ドットサイズ:30pl
ノズル径:40μm
駆動電圧:80V
パルス幅:10μm
周波数:10kHz
解像度:400×800dpi
塗布量:15g/m
2
基材温度:50℃(加温)
柄:黒色と黄色の2色ベタ柄(
図3B参照)
第3の領域の幅:1.0mm
【0094】
<仮硬化条件>
インクジェット工程後、以下の条件にて仮硬化を行った。
紫外線照射ランプ:メタルハライドランプ
照射強度:120mW/cm2
積算光量:60mJ/cm2
照射高さ:40mm
【0095】
<本硬化条件>
仮硬化工程後、180秒待機した後に、以下の条件にて本硬化を行った。
紫外線照射ランプ:メタルハライドランプ
照射強度:600mW/cm2
積算光量:1800mJ/cm2
照射高さ:40mm
【0096】
【0097】
<実施例2>
第3の領域の幅を0.5mmにした以外は、実施例1と同様にして、実施例2のプリント物を作製した。
【0098】
<実施例3>
第3の領域の幅を1.5mmにした以外は、実施例1と同様にして、実施例3のプリント物を作製した。
【0099】
<実施例4>
水平から30°傾斜させた状態で固定した鋼板基材に対して、インクジェットプリントを行った以外は、実施例1と同様にして、実施例4のプリント物を作製した。この際、黒色になるよう第1のインクを付与した領域(第1の領域)が、黄色になるよう第2のインクを付与した領域(第2の領域)よりも上位置となるよう、両方のインクを付与した。第1のインクを下方に流動させて、第1の領域と第2の領域との間に形成された第3の領域を覆い、プリント物を作製した。
【0100】
<比較例1>
第3の領域の幅を0mm(第3の領域を設けず第1のインクと第2のインクを付与)にした以外は、実施例1と同様にして、比較例1のプリント物を作製した。
【0101】
<比較例2>
第3の領域の幅を0mm(第3の領域を設けず第1のインクと第2のインクを付与)にし、仮硬化工程を設けずインクジェット工程後に即本硬化した以外は、実施例1と同様にして、比較例2のプリント物を作製した。
【0102】
得られたプリント物について、プリント物の画像鮮明性、光沢性について、以下の評価基準にしたがって評価した。結果を表2に示す。
【0103】
<プリント物の画像鮮明性>
得られたプリント物に関して、目視で境界部分を確認することにより、境界面における鮮明さを評価した。
(評価基準)
○:境界が鮮明に形成されていた。
×:境界が不鮮明であり、境界部分に混色領域が見られた。
【0104】
<プリント物の光沢性>
得られたプリント物に関して、光沢度計(ハンディ光沢計グロスチェッカIG-410、(株)堀場製作所製)を使用し、黒色に印刷した領域と黄色に印刷した領域とについて、それぞれ、60°測定(入射角60°、受光角60°)の条件で光沢度を測定し、以下の評価基準にしたがって評価した。なお、鋼板基材表面の光沢度(ブランク)は78であった。
(評価基準)
◎:光沢度が80以上であった。
○:光沢度が50以上、80未満であった。
△:光沢度が20以上、50未満であった。
×:光沢度が20未満であった。
【0105】
【0106】
表2に示されるように、本発明のインクジェットプリント物の製造方法によれば、黒色および黄色に印刷されたそれぞれの領域は、互いの境界が鮮明であり、かつ、それぞれの領域は良好な光沢を示した。一方、第3の領域を設けなかった比較例1のインクジェットプリント物の製造方法によれば、黒色および黄色に印刷されたそれぞれの領域の境界が不鮮明であり、混色した領域がみられた。また、仮硬化工程を採用しなかった比較例2のインクジェットプリント物の製造方法によれば、黒色および黄色に印刷されたそれぞれの領域において光沢度が低く、粒状感があった。
【符号の説明】
【0107】
1 第1のインク
2 第2のインク
3 基材
4 1色目の塗料
4a 領域
5 2色目の塗料
6 マスキング
A1 紫外線
A2 インクの流動方向
A3 熱
R1 第1の領域
R2 第2の領域
R3 第3の領域
R4 領域