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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ゴム材料の変形解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/04 20180101AFI20231003BHJP
【FI】
G01N23/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019209805
(22)【出願日】2019-11-20
(65)【公開番号】P2021081338
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷺谷 智
(72)【発明者】
【氏名】米山 聡
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-100814(JP,A)
【文献】DUPRE,J. C.,Displacement Discontinuity or Complex Shape of Sample: Assessment of Accuracy and Adaptation of Local DIC Approach,Strain,2015年10月01日,Volume 51, Issue 5,Pages 391-404
【文献】CHEN, Liang-Chia,Novel Boundary Edge Detection for Accurate 3D Surface Profilometry Using Digital Image Correlation,Applied Sciences,2018年12月07日,Vol. 8, Iss. 12,2541,(Open Access)https://doi:10.3390/app8122541
【文献】PAN, Bing,Genuine full-field deformation measurement of an object with complex shape using reliability-guided digital image correlation,OPTICS EXPRESS,2010年01月18日,Vol. 18, No. 2,Pages 1011-1023
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
G01N 21/00 - G01N 21/958
G01B 15/00 - G01B 15/08
G01B 11/00 - G01B 11/30
G06T 1/00 - G06T 1/60
G06T 7/00 - G06T 7/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム材料からなる試験片にランダムパターンを付与すること、
前記試験片を変形させながら撮影して複数の画像を得ること、
前記複数の画像のうち変形前の初期画像を基準画像として当該基準画像から試験片の輪郭を得ること、
前記基準画像において複数の解析点およびサブセットを設定して解析領域を設定し、その際、前記輪郭が通らないように各サブセットを設定すること、及び、
前記解析領域に関して前記基準画像から変形解析におけるターゲットとなる最終画像に向かってデジタル画像相関法により各解析点の変位を計算すること、
を含み、
前記試験片は、試験片縁部の切れ込みもしくはノッチ、又は試験片内部のスリットもしくは穴から選択される異形部位を持つものであり、前記異形部位を含む部位を測定対象部位として前記複数の画像を取得し、
前記サブセットは、前記解析点を中心とした長方形の領域であり、前記解析領域を設定する際に、前記試験片の輪郭部分では、当該輪郭との間にサブセットサイズの半分以上かつサブセットサイズ未満の隔たりを持たせて前記解析点を設定する、ゴム材料の変形解析方法。
【請求項2】
前記輪郭は前記基準画像を二値化することにより取得する、請求項に記載の変形解析方法。
【請求項3】
前記計算により得られた各解析点の変位から前記解析領域における歪みを算出することを更に含む、請求項1又は2に記載の変形解析方法。
【請求項4】
前記撮影は放射線を用いて透過像を得るものであり、前記ランダムパターンが金属元素含有粒子によるものである、請求項1~のいずれか1項に記載の変形解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム材料の変形解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム材料の変形解析のため、ゴム材料の面内歪みを可視化する技術としてデジタル画像相関法(DIC)が知られている。製品使用時の面内歪みはもとより、力学試験時の歪みを可視化することもゴム製品の研究開発には有用である。
【0003】
ゴム材料の変形解析方法として、例えば、非特許文献1には、可視光を用いたカメラによる撮影とデジタル画像相関法を用いて、ゴム材料からなる試験片の切れ込み部の歪みを可視化することが記載されている。また、特許文献1には、X線イメージング法とデジタル画像相関法を組み合わせた方法を用いて、ゴム材料の引き裂き挙動を解析する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-100814号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】チャン・リュー(Chang Liu)、他4名、「カーボンブラック充填SBRの引き裂き抵抗についての裂け目近傍での歪み増大の影響(Influence of Strain Amplification Near Crack Tip on the Fracture Resistanceof Carbon Black-filled SBR)」、Rubber Chemistry andTechnology, Vol.88, No.2, pp276-288 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ゴム材料の変形解析においては、短冊試験片のようなシンプルな輪郭形状の試験片だけでなく、切れ込みのような異形部位を持つ様々な輪郭形状の試験片に対しても、デジタル画像相関法において計算エラーが生じにくく、輪郭に沿って安定して計算できることが望まれる。
【0007】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、試験片の輪郭に沿って安定してデジタル画像相関法による計算を実施することができるゴム材料の変形解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係るゴム材料の変形解析方法は、ゴム材料からなる試験片にランダムパターンを付与すること、前記試験片を変形させながら撮影して複数の画像を得ること、前記複数の画像のうちの1つの画像から試験片の輪郭を得ること、前記輪郭を得た画像において複数の解析点およびサブセットを設定して解析領域を設定し、その際、前記輪郭が通らないように各サブセットを設定すること、及び、前記解析領域に関してデジタル画像相関法により各解析点の変位を計算すること、を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態であると、試験片の輪郭に沿って安定してデジタル画像相関法による計算を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る変形解析方法を示すフローチャート。
図2】一実施形態に係る変形試験を説明するための概略図。
図3】(A)実施例におけるX線透過像、(B)その二値化画像。
図4】解析点及びサブセットの設定方法を説明するための説明図
図5】試験片の輪郭近傍における解析点の設定方法を説明するための説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0012】
一実施形態に係る変形解析方法は、ゴム材料の力学試験における変形解析方法であって、以下の工程を含む。図1はそのフローチャートである。
(a)試験片にランダムパターンを付与する工程(ステップS1)、
(b)試験片を変形させながら撮影して画像を取得する工程(ステップS2)、
(c)試験片の輪郭を取得する工程(ステップS3)、
(d)解析点およびサブセットを設定して解析領域を設定する工程(ステップS4)、
(e)デジタル画像相関法により各解析点の変位を計算する工程(ステップS5)、及び
(f)各解析点の変位から歪みを算出する工程(ステップS6)。
【0013】
変形解析の対象とするゴム材料の力学試験としては、ゴム材料からなる試験片に力を加えて変形させることにより当該試験片内における変位や歪みを観測する種々の力学試験が挙げられる。例えば、引張試験や圧縮試験のように試験片に一方向の力を加える試験でもよく、試験片に所定の大きさの引張又は圧縮の歪みを繰り返し与える試験でもよく、引き裂き試験や亀裂成長屈曲試験のように試験片の破壊を伴う試験でもよい。
【0014】
ゴム材料とは、ゴム状弾性を持つ物質であり、加硫ゴムだけでなく、熱可塑性エラストマーのようなエラストマーも含む概念である。一実施形態として、ゴム材料としては、加硫ゴムが好ましく用いられ、すなわち、ゴムポリマーに硫黄等の加硫剤を含む種々の配合剤を配合したゴム組成物を加硫してなる加硫ゴムが挙げられる。ゴムポリマーとしては、例えば、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、又はこれらの組み合わせなどの各種ジエン系ゴムが挙げられる。また、配合剤としては、カーボンブラックやシリカなどの充填剤、軟化剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、ワックス、加硫促進剤など、通常ゴム工業で使用される各種配合剤を用いることができる。
【0015】
試験片の形状としては、変形解析の対象とする力学試験の種類に応じて指定することができ、特に限定されない。例えば工程(b)において放射線を透過させて画像を取得する場合、試験片の形状は放射線が透過可能であればよく、シート状、円柱状、ブロック状等の種々の形状が挙げられ、好ましくはシート状である。
【0016】
一実施形態において、試験片としては、短冊試験片のようなシンプルな輪郭形状を持つ試験片でもよいが、異形部位を持つ試験片を用いてもよい。異形部位としては、特に限定されず、例えば、試験片の縁部に設けられた切れ込みや、V字状又はU字状などのノッチ、試験片の内部に設けられたスリットや穴(即ち、開口部)などが挙げられる。例えば、図2に示す力学試験における試験片10では、短冊状をなす試験片10の幅方向の一方側の辺において、その長手方向の中央部に切れ込み12が設けられている。切れ込み12は、試験片10の長手方向に垂直な方向に切れ目を入れることで形成されている。
【0017】
実施形態に係る変形解析方法では、まず、工程(a)において、ゴム材料からなる試験片にランダムパターンを付与する(ステップS1)。
【0018】
ランダムパターンは、デジタル画像相関法を行うために試験片に付されるランダムなパターンである。そのため、ランダムパターンは少なくとも測定対象部位に付与されるが、測定対象部位に付与されていれば、例えば試験片の全体に付与されてもよい。測定対象部位は、試験片において変形解析を行うために工程(b)において画像を撮影する領域であり、上記の異形部位を持つ試験片を用いる場合、当該異形部位を含むその周辺部位である。
【0019】
ランダムパターンは、試験片の表面又は内部に付与することができる。例えば、工程(b)における撮影が放射線を用いて透過像を得るものである場合、ランダムパターンは試験片の表面又は内部に付与してもよい。また、工程(b)における撮影が可視光を用いて画像を取得する場合、ランダムパターンは試験片の表面に付与してもよい。
【0020】
ランダムパターンを試験片の表面に付与する場合、例えば、マーカ粒子を含むコート液を試験片の表面にスプレーする等して塗布してもよく、あるいはまた、マーカ粒子を含むゴム層を試験片の表面に設けてもよい。また、例えば可視光を用いて画像を取得する場合、着色剤を用いて試験片表面に斑模様などのランダムパターンを付与してもよい。
【0021】
ランダムパターンを試験片の内部に付与する場合、ゴム材料中にマーカ粒子を配合して、試験片内部にマーカ粒子を分散させることにより、試験片にランダムパターンを付与してもよい。
【0022】
マーカ粒子とは、デジタル画像相関法で利用されるランダムパターンを形成するための微粒子である。例えば、X線等の放射線によって検出可能な微粒子、即ち放射線イメージング法において検出対象とする微粒子である。マーカ粒子としては、放射線によりコントラストがつきやすい金属元素を含む粒子(即ち、金属元素含有粒子)が用いられ、ゴム材料の大部分を構成する炭素よりも原子番号の大きい金属元素を含み、単粒子として安定なものが挙げられる。具体的には、例えば、タングステン粒子、銀粒子、鉛粒子などの金属粒子、アルミナ粒子などが挙げられる。
【0023】
マーカ粒子の粒径は、特に限定されず、例えば放射線イメージング法による空間分解能(実行ピクセル数)以上のものを用いてもよい。なお、空間分解能は、使用する放射線の線幅や発散の仕方により異なる。
【0024】
実施形態に係る変形解析方法では、次いで、工程(b)において、試験片を変形させながら撮影して、解析すべき変形の過程を示す複数の画像を取得する(ステップS2)。
【0025】
詳細には、試験片に力を加えて変形、即ち歪みを付与しながら、測定対象部位を撮影する。試験片に加える力としては、変形解析の対象とする力学試験の種類に応じて指定することができ、試験片に一方向の引張または圧縮の力を加えてもよく、試験片に所定の大きさの伸長歪みや圧縮歪みを所定の周波数で繰り返し与えてもよい。図2に示す例では、切れ込み12を持つ試験片10に対し、その長手方向に所定の周波数で繰り返しの伸長歪みを与える。
【0026】
このように試験片を変形させながら、試験片を所定時間毎に連続して撮影することにより、試験片の変形挙動(歪みの時間的変化)を表す複数の2次元の静止画像を取得する。例えば、試験片の繰り返し歪みを解析対象とする場合、繰り返し歪みの1周期中において、所定のタイミングで複数回撮影が行われ、これにより1周期中における歪みの時間的変化を表す複数の画像が得られる。
【0027】
画像の取得方法は特に限定されない。例えば、通常の可視光を用いたカメラによる撮影でもよく、X線などの放射線を試験片に照射する放射線イメージング法でもよい。放射線イメージング法では、試験片に放射線が透過するように放射線を照射して透過像を取得する。放射線イメージング法による画像取得方法自体は、公知の方法で行うことができ、特に限定されない。ここで、放射線とは、広義の放射線を意味し、中性子線などの粒子放射線、X線、ガンマ線、紫外線などの電磁波を包含する。好ましくはX線であり、従って画像としてX線透過像を得ることが好ましい。
【0028】
図2は、一実施形態に係るX線イメージング試験装置の概略を示したものである。試験片10は、その長手方向の両端部が不図示のつかみ具に保持された状態で引張試験機に取り付けられ、両側のつかみ具を互いに離隔する方向に移動させ、また互いに近づく方向に移動させることを繰り返すことにより、繰り返しの伸長歪みが付与される。
【0029】
試験装置には、試験片10にX線を照射する照射手段としてのX線管22と、試験片10を透過したX線を検知する検出器24とが設けられており、検出器24で検知したX線に基づいてX線透過像を取得する。X線管22と検出器24は、試験片10における切れ込み12を含むその周辺を測定対象部位として、当該測定対象部位を挟んで一直線上に配置されている。
【0030】
使用するX線としては、例えば1010(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)以上の高輝度X線であることが好ましい。このようなX線を放射するシンクロトロンとしては、高輝度光科学研究センターのSPring-8、「知の拠点あいち」のあいちシンクロトロン光センターなどが挙げられる。
【0031】
また、X線のエネルギーとしては、特に限定されず、例えば、1~100keVでもよく、10~50keVでもよい。X線の照射時間(即ち、露光時間)も、特に限定されず、例えば、0.0001~10000msでもよく、1~1000msでもよい。フレームレートも、特に限定されず、例えば、1~10000fpsでもよく、1~2000fpsでもよい。
【0032】
実施形態に係る変形解析方法では、次いで、工程(c)において、上記複数の画像のうちの1つの画像から試験片の輪郭を取得する(ステップS3)。
【0033】
この例では、変形解析を行う基準となる画像、例えば変形前の初期画像を基準画像として、該基準画像において測定対象部位における試験片の輪郭を求める。試験片の輪郭の取得方法としては、画像を二値化する方法を用いることが好ましい。詳細には、ゴム等のポリマーと背景(空気)とマーカ粒子との輝度値差を利用して二値化することにより、上記基準画像から二値化画像を作成し、該二値化画像から試験片の輪郭を取り出すことができる。二値化自体は市販のソフトウェアを用いて行うことができる。
【0034】
図3(A)は基準画像としてのX線透過像を示したものである。このX線透過像を二値化することにより、図3(B)に示す二値化画像が得られる。
【0035】
試験片の輪郭は、少なくとも解析対象とする部位で取得すればよい。例えば上記の輪郭に異形部位を持つ試験片を用いる場合、当該異形部位での輪郭を取得すればよく、画像の全体で輪郭を抽出する必要はない。
【0036】
実施形態に係る変形解析方法では、次いで、工程(d)において、輪郭を得た画像において複数の解析点およびサブセットを設定する(ステップS4)。
【0037】
詳細には、基準画像における試験片内(即ち、試験片に相当する領域内)に解析点とサブセットを設定して解析領域を設定する。ここで、解析点とは、デジタル画像相関法において変位を算出するために用いられる試験片内の任意の点であり、解析点の変位を算出することで試験片の変形を解析することができる。
【0038】
サブセットとは、変形前後での解析点の位置を特定するために輝度値分布等の相関性によってパターンマッチングを行うための微小な計算領域であり、複数の画素からなる。サブセットは解析点毎に設定され、従ってサブセットにはそれぞれ1つの解析点が含まれ、通常はサブセットの中心に解析点が設定される。この例では、サブセットは、解析点を中心とした長方形の領域である。なお、長方形は正方形も含む概念である。
【0039】
解析領域とは、上記測定対象部位のうち解析点とサブセットを設定した領域であり、この領域内でデジタル画像相関法による計算が行われ、各解析点の変位が算出される。解析領域は、輪郭に沿って設定され、輪郭を含むその周辺の試験片領域で設定される。例えば、上記の異形部位を持つ試験片では、異形部位の輪郭に沿って当該輪郭を含むその周辺の試験片範囲で設定される。一例として、図2に示す切れ込み12を持つ試験片では、図4に示すように解析領域28は切れ込みの先端部を含む範囲に設定される。
【0040】
本実施形態では、解析領域を設定する際に、試験片の輪郭が通らないように各サブセットを設定する。すなわち、サブセットは、試験片の輪郭がその領域内に入ることで当該領域内に試験片の背景となる空気領域が含まれないように設定される。
【0041】
図4は、このことを模式的に示した図であり、放物線状の輪郭30の左側が試験片領域32であり、輪郭30の右側が背景領域34である。黒丸が解析点36であり、上記試験片領域32内において、Y方向(伸長方向)に延びる複数の等間隔に配された格子子38と、X方向(伸長方向に垂直な方向)に延びる複数の等間隔に配された格子子40との交点である各格子点に、解析点36が設定されている。各解析点36を中心として長方形(図4の例では正方形)の領域からなるサブセット42が設定されている。なお、図4においては一部のサブセット42のみを図示しているが、図示を省略しているだけであり、各解析点36に同様のサブセット42が設定される。
【0042】
輪郭30の近傍では、背景領域34内に存在する格子点だけでなく、試験片領域32内に存在する格子点であっても、当該格子点を中心としてサブセットを設定したときにそのサブセット内に輪郭30に通るような格子点については、解析点36を設定しておらず、そのため、サブセット42も設定していない。輪郭30近傍においてサブセット42を設定すべきでない位置を、図4において点線の枠44で示している。
【0043】
試験片の輪郭がサブセット内を通らないように設定するためには、一実施形態において次のように設定することが好ましい。例えば、サブセットが解析点を中心とした長方形の領域である場合において、解析領域を設定する際に、試験片の輪郭部分では当該輪郭との間にサブセットサイズの半分以上の隔たりを持たせて各解析点を設定する。より詳細には、試験片の輪郭部分では、当該輪郭との間にサブセットサイズの半分以上かつサブセットサイズ未満の隔たりを持たせて解析点を設定することが好ましい。
【0044】
詳細には、図5(A)に示すように、格子子38,40に対して傾斜して延在する輪郭30に対して長方形のサブセット42を設定する場合を考える。この場合、サブセットサイズの半分は、X方向ではサブセット42をX方向に二等分する範囲42Aであり、Y方向ではサブセット42をY方向に二等分する範囲42Bである。同図において黒丸で示す格子点46については、輪郭30との間でX方向にサブセットサイズの半分の範囲42A以上の隔たり(即ち、余白)がある。詳細には、サブセットサイズの半分の範囲42A以上であり、かつサブセットサイズ1個分未満の隔たりがある。また、輪郭30との間でY方向にもサブセットサイズの半分の範囲42B以上の隔たり(即ち、余白)がある。詳細には、サブセットサイズの半分の範囲42B以上であり、かつサブセットサイズ1個分未満の隔たりがある。そのため、この格子点46については解析点36を設定し、該解析点36を中心としたサブセット42を設定する。
【0045】
一方、該格子点46の右側に隣接する格子点48と下側に隣接する格子点50については、輪郭30との間でX方向及びY方向にそれぞれサブセットサイズの半分の範囲42A及び42Bの隔たりがない。そのため、これらの格子点48,50には解析点36は設定せず、サブセット42も設定しない。
【0046】
図5(B)に示すように、X方向の格子子40に対して平行に延在する輪郭30に対して長方形のサブセット42を設定する場合、黒丸で示す格子点52については、輪郭30との間でX方向についてはもちろんのこと、Y方向についてもサブセットサイズの半分の範囲42Bの隔たりがある。詳細には、Y方向において、サブセットサイズの半分の範囲42B以上、かつサブセットサイズ1個分未満の隔たりがある。そのため、この格子点52については解析点36を設定し、該解析点36を中心としたサブセット42を設定する。一方、該格子点52の下側に隣接する格子点54については、輪郭30との間でY方向にサブセットサイズの半分の範囲42Bの隔たりがない。そのため、格子点54には解析点36は設定せず、サブセット42も設定しない。Y方向の格子子38に対して平行に延在する輪郭30に対しても同様であり、その他の形状ないし位置関係にある輪郭についても同様の考え方を適用すればよい。
【0047】
以上のようにして解析領域を設定した後、実施形態に係る変形解析方法では、工程(e)において、解析領域に関してデジタル画像相関法(DIC)により各解析点の変位を計算する(ステップS5)。
【0048】
デジタル画像相関法は、物体に付与されたランダムパターンの変形前後の画像を比較して物体の変形を解析する手法であり、輝度値パターンの移動追跡を測定原理とする。詳細には、1時刻目t=tと2時刻目t=t+dtにおける画像について、1時刻目の画像におけるサブセットの輝度地分布と高い相関性を示すサブセットを、2時刻目の画像における任意のサブセットを対象として数値解析で探索し、対応するサブセットを同定する。これにより、当該サブセットについて1時刻目から2時刻目への変形における解析点の移動方向と移動量、即ち変位を算出することができる。画像相関法自体については、「可視化情報ライブラリー4 PIVと画像解析技術」((株)朝倉書店発行、(社)可視化情報学会編、2012年4月25日発行)の31~46頁に記載の方法を用いて行うことができ、また市販のソフトウェアを用いて行うこともできる。
【0049】
この例では、解析すべき変形の初期画像(基準画像ともいう。例えば変形前の画像)から最終画像(変形解析におけるターゲット画像)に向かってデジタル画像相関法により各解析点の変位を計算する。すなわち、初期画像から最終画像まで基準となる画像を順次更新しながら計算する。これにより、解析領域内の各解析点について初期画像から最終画像までの変位が得られる。例えば、図2に示す伸長歪みを付与する場合、X方向変位(伸長方向に垂直な方向での変位)及びY方向変位(伸長方向での変位)のような直交2方向での変位を求めてもよい。
【0050】
実施形態に係る変形解析方法では、次いで、工程(f)において、上記計算により得られた各解析点の変位から解析領域における歪みを算出する(ステップS6)。詳細には、解析領域内の各解析点について最終画像における歪みを算出する。
【0051】
歪みは変位の分布を微分することにより求めることができ、例えば、図2に示す伸長歪みを付与する場合、X方向歪み(伸長方向に垂直な方向での歪み)及びY方向歪み(伸長方向での歪み)のように直交2方向での歪みを求めてもよく、また、せん断歪みを求めてもよい。せん断歪みは、X方向変位をY方向座標で微分した値とY方向変位をX方向座標で微分した値とを加えることで求められる。
【0052】
このように本実施形態であると、ゴム材料の力学試験に関してデジタル画像相関法を適用した変形解析を行うことができ、試験片の輪郭に沿って安定してデジタル画像相関法による計算を行うことができる。
【0053】
詳細には、解析領域を設定する際に、試験片の輪郭部分では当該輪郭が通らないように各サブセットを設定するので、背景となる空気領域がサブセット内に含まれることがなく、解析の安定性を高めることができる。特に、輪郭との間にサブセットサイズの半分以上の隔たりを持たせて各解析点を設定するので、異形部位の輪郭形状を持つものに対して、より確実に空気領域がサブセット内に含まれないように設定することができ、輪郭近傍において安定的に計算できる解析領域を定義することができる。
【0054】
また、画像を二値化することにより試験片の輪郭を得ることができ、得られた輪郭を用いて解析点及びサブセットを設定することにより、より正確な解析領域を設定することができる。
【0055】
また、X線などの放射線を用いた撮影により透過像を得ることにより、二値化画像を作成して輪郭を取り出す際に、容易に輪郭情報を抽出することができる。詳細には、可視光の場合、ゴムと背景とのコントラスト差は大きいが、マーカとゴムのコントラスト差も大きくなってしまう。そのため、誤差が生じたり、補正の手間が増えたりする。これに対し、放射線透過像の場合、ゴムと背景のコントラスト差が大きく、かつゴムとマーカとのコントラスト差を小さくできるため、可視光の場合に比べて輪郭を容易に取り出せる。
【0056】
以上より、本実施形態によれば、切れ込みのような異形部位を持つ輪郭形状の試験片に対しても、計算エラーが発生しづらく、試験片の輪郭に沿って安定してデジタル画像相関法による計算を行うことができる。そのため、ゴム製品の材料開発に役立てることができる。
【実施例
【0057】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
バンバリーミキサーを用いて、スチレンブタジエンゴム(JSR(株)製「JSR1502」)100質量部に、カーボンブラック(東海カーボン(株)製「シースト3」)50質量部と、亜鉛華(三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」)2質量部と、ステアリン酸(花王(株)製「ルナックS-20」)1質量部と、硫黄(細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」)2質量部と、加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」)1質量部を添加し混練した。次いで、マーカ粒子(シグマアルドリッチ製「製品番号327077 Silver flakes 10μ品」)4質量部をロール表面温度60℃でロール混合して、未加硫ゴム組成物を調製した。
【0059】
得られた未加硫ゴム組成物を、ロールを用いて、厚み1.00mmの未加硫ゴムシートに成形し、金型モールドでプレス加工(160℃、30分)することにより、厚み1.00mmのゴムシートを作製した。得られたゴムシートを幅9mm×長さ30mmの短冊状に打ち抜き、その中央部に長さ1.42mmの切れ込みを入れることにより、図2に示す試験片10を作製した。
【0060】
得られた試験片10を用いて、図2に示すように、繰り返し伸長歪みを与えながら試験片10の測定対象部位を撮影し、即ちX線イメージング法により画像を取得した。繰り返し伸長歪みは、動歪み25%(引張試験機のつかみ具間距離を試験片の未伸長状態(0%)から25%伸長状態まで伸長)、周波数0.34Hzとした。測定対象部位は切れ込み12の先端部とした。X線の条件及び撮影条件としては、フレームレート:50fsp、X線の露光時間:10ms、X線のエネルギー:15keV、撮影画像の分解能:7μm/pxとした。
【0061】
次いで、得られた複数の画像のうち変形前の初期画像(図3(A)参照)について、輝度値差を利用して二値化することにより二値化画像(図3(B)参照)を作成して試験片の輪郭を求め、解析点およびサブセットを設定することで解析領域を設定した。サブセットは21×21画素の正方形の領域とし、その中心に解析点を設定した。その際、上記のとおり、試験片の輪郭部分では当該輪郭との間にサブセットサイズの半分以上の隔たりを持たせて各解析点を設定することで、各サブセットに試験片の輪郭が通らないようにした。
【0062】
次いで、初期画像から最終画像に向けてデジタル画像相関法を適用することで各解析点のX方向変位(伸長方向に垂直な方向での変位)及びY方向変位(伸長方向での変位)を計算した。そして、得られた変位から最終画像における各解析点でのX方向歪み及びY方向歪みを算出することで、測定対象部位における歪みの分布を求めた。その際、実施例によれば、異常値が算出されることなく、安定してデジタル画像相関法により変位を計算することができた。
【0063】
これに対し、比較例として、解析領域の設定に際し試験片の輪郭部分においてサブセットサイズの半分以上の隔たりを持たせずに解析点を設定し、その他は実施例と同様に解析を行ったところ、デジタル画像相関法において異常値が算出され、安定した計算ができなかった。
【符号の説明】
【0064】
10…試験片、12…切れ込み、28…解析領域、30…輪郭、36…解析点、42…サブセット、42A,42B…サブセットサイズの半分の範囲
図1
図2
図3
図4
図5