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  • 特許-低発熱性ゴム組成物及び索道用受索輪 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】低発熱性ゴム組成物及び索道用受索輪
(51)【国際特許分類】
   B61B 12/02 20060101AFI20231003BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20231003BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B61B12/02 J
C08L9/00
C08K3/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019219681
(22)【出願日】2019-12-04
(65)【公開番号】P2021088659
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】517413605
【氏名又は名称】ニッタ化工品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003465
【氏名又は名称】弁理士法人OHSHIMA&ASSOCIATES
(74)【代理人】
【識別番号】100106024
【弁理士】
【氏名又は名称】稗苗 秀三
(74)【代理人】
【識別番号】100167841
【弁理士】
【氏名又は名称】小羽根 孝康
(74)【代理人】
【識別番号】100168376
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 清隆
(72)【発明者】
【氏名】畦地 利夫
(72)【発明者】
【氏名】足立 亮太
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-227425(JP,A)
【文献】特開2014-028802(JP,A)
【文献】特開2014-088502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,B61B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部と、カーボンブラック60質量部以上とを含有し、前記カーボンブラックは、窒素吸着比表面積が80m2/g以下、ヨウ素吸着量が30mg/g以上、60mg/g未満、かつ、DBP吸収量が100cm3/100g以上である索道用受索輪のゴムライナー用低発熱性ゴム組成物。
【請求項2】
前記ジエン系ゴムは、スチレンブタジエン共重合ゴムとブタジエンゴムとを含んでなる請求項1に記載の索道用受索輪のゴムライナー用低発熱性ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の低発熱性ゴム組成物からなるゴムライナーを備えた索道用受索輪。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大荷重がかかるゴムローラに好適に用いられる低発熱性ゴム組成物に関し、特に、リフト、ゴンドラ、ロープウェー等の索道の受索輪のゴムライナーの成形に好適に用いられるゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、リフト、ゴンドラ、ロープウェー等の索道は、所定距離を隔てて設置される回転駆動装置と、回転駆動装置の間に立設される支持塔と、支持塔を経由して回転駆動装置間に張設される環状ケーブルとを備える。支持塔には索道となる環状ケーブルを支持・案内する受索輪が設けられる。受索輪において、環状ケーブルとの接触面にはゴムライナーが配される。
【0003】
受索輪のゴムライナーには、大きい荷重がかかるため、ケーブルとの摩擦、及び、ゴムライナーの歪みによる内部発熱に対する耐久性が要求される。このような課題を解決するものとして、特許文献2には、ジエン系ゴムに所定の特性を有するカーボンブラックを配合したゴム組成物が開示されている。前記ゴム組成物は、優れた耐摩耗性及び低発熱性を備えるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-156782号公報
【文献】特開2007-284509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ゴム組成物を加硫して得られるゴムの特性は、ゴム組成物の加工安定性によっても大きく影響される。すなわち、ゴム組成物の加熱時の溶融粘度が高かったり、短時間でのゴム組成物の溶融粘度の上昇は、加硫後のゴム焼けの発生や流動不良によるボイドの発生の原因となる。特に、ゴムの成形体サイズが大きくなるほど、その影響も大きくなり、生産効率が低下したり、耐摩耗性及び低発熱性を十分に発揮することができないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明では、優れた耐摩耗性及び低発熱性を備え、かつ、加工安定性に優れたゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る低発熱性ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部と、カーボンブラック60質量部以上とを含有し、前記カーボンブラックは、窒素吸着比表面積が80m2/g以下、ヨウ素吸着量が30mg/g以上、60mg/g未満、かつ、DBP吸収量が100cm3/100g以上である構成とする。
【0008】
前記ジエン系ゴムは、スチレンブタジエン共重合ゴムとブタジエンゴムとを含んでいてもよい。
【0009】
前記低発熱性ゴム組成物を加硫成形することによって、低発熱性ゴム組成物からなるゴムライナーを備えた索道用受索輪としてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様に係る低発熱性ゴム組成物によれば、ゴム組成物に配合するカーボンブラックとして、窒素吸着比表面積が80m2/g以下、ヨウ素吸着量が30mg/g以上、60mg/g未満、かつ、DBP吸収量が100cm3/100g以上のものを使用し、加工安定性に優れるため、ゴム成形体の生産効率に優れるとともに、優れた耐摩耗性及び低発熱性を発揮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のゴム組成物を用いた索道用の受索輪を示す半断面概略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態の低発熱性ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部と、カーボンブラック60質量部以上とを含有し、前記カーボンブラックは、窒素吸着比表面積が80m2/g以下、ヨウ素吸着量が30mg/g以上、60mg/g未満、かつ、DBP吸収量が100cm3/100g以上とされる。
【0013】
ジエン系ゴムとしては、耐摩耗性の観点から、スチレンブタジエン共重合ゴムとブタジエンゴムとを含むものであることが好ましい。スチレンブタジエン共重合ゴム/ブタジエンゴム質量比は、30/70~70/30であることが好ましい。ジエン系ゴムには、スチレンブタジエン共重合ゴム及びブタジエンゴムのほかに、本発明の効果を損なわない範囲で他のゴムを含有することができる。他のゴムとしては、たとえば、天然ゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリルブタジエン共重合ゴム、イソブチレンイソプレンゴム等を挙げることができ、これらを1種又は2種以上併用することができる。
【0014】
本発明のゴム組成物で用いられるカーボンブラックは、窒素吸着比表面積(JIS K6217-2に準じて測定)、ヨウ素吸着量(JIS K6217-1に準じて測定)およびDBP吸収量(JIS K6217-4に準じて測定)がそれぞれ以下の特性を示す。
【0015】
窒素吸着比表面積は80m2/g以下である。これにより、低発熱性に優れたゴム組成物を得ることができる。また、窒素吸着比表面積は35m2/g以上であることが好ましく、40m2/g以上であることがより好ましい。これにより、耐摩耗性に優れたゴム組成物を得ることができる。
【0016】
ヨウ素吸着量は、30mg/g以上、60mg/g未満である。これにより、低発熱性、耐摩耗性及び加工安定性をバランスよく発揮することができる。すなわち、優れた低発熱性及び耐摩耗性を備えたゴム組成物であっても、加工安定性に劣る場合には、加硫成形によって得られたゴム成形体は低発熱性及び耐摩耗性を十分に発揮することができない。特に、ゴム成形体のサイズが大きくなるほど、加工安定性の影響が大きくなる。したがって、低発熱性、耐摩耗性及び加工安定性のバランスをとることにより、結果的にゴム成形体の低発熱性及び耐摩耗性を向上させることが可能となる。
【0017】
DBP吸収量は、100cm3/100g以上である。これにより、耐摩耗性及び機械的特性に優れたゴム組成物を得ることができる。また、DBP吸収量は140cm3/100g以下であることが好ましい。これにより、低発熱性に優れたゴム組成物を得ることができる。
【0018】
ゴム組成物におけるカーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して60質量部以上である。また、90質量部以下であることが好ましい。これにより、耐摩耗性及び低発熱性に優れたゴム組成物を得ることができる。
【0019】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分、カーボンブラック、加硫剤、さらに必要に応じて老化防止剤、加硫促進剤、滑剤等の各種添加剤を混合し、バンバリーミキサー等を用いて常法に従って混練することで得ることができる。
【0020】
上記ゴム組成物は、金型によるプレス加硫成形によってゴム成形体を得ることができる。ゴム成形体としては、索道用の受索輪で使用されるゴムライナーを例示することができる。図1は、索道用の受索輪を示す半断面概略図である。図示のごとく、受索輪1は、外周面2がゴムライナー3で被覆されている。このゴムライナー3の表面にケーブル4が当接し、ケーブル4の張設力によりゴムライナー3が半径方向内側に押圧される。したがって、ゴムライナー3用のゴム組成物としては低発熱性で耐摩耗性に優れた本発明のゴム組成物を好適に使用することができる。
【実施例
【0021】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】
[ゴム組成物の調製]
本実施例では、ジエン系ゴムに種々のカーボンブラック(以下、CBと略する場合がある。)を配合してゴム組成物を調製し、加硫成形時のゴム組成物の加工安定性を評価するとともに、加硫成形によって得られたゴム成形体の物性を評価した。
【0023】
ジエン系ゴム成分としては、スチレンブタジエン共重合ゴム(以下、SBRと略する場合がある。)と、ブタジエンゴム(以下、BRと略する場合がある。)を用いた。CBとしては、No.A~Fの6種類を用い、6種類のゴム組成物を調製した。ゴム組成物の配合を表1に記す。なお、表1に記載されていない共通の添加剤は以下のとおりである。
・加硫剤:硫黄(鶴見化学工業社製)、2質量部
・加硫促進剤:サンセラーNS(三新化学工業社製)、1質量部
【0024】
[評価試験]
ゴム組成物は加熱することで加硫成形を行った。加硫条件は150℃×40分とした。ゴム組成物の加工安定性の評価試験条件、及び、加硫成形によって得られたゴム成形体の評価試験条件を以下に記す。
【0025】
(1)ゴム組成物の加工安定性
表1で調製した6種類のゴム組成物について、JIS K6300-1に準じて、試験温度125℃の条件で、ムーニー粘度を測定した。ムーニー粘度の最低値をVmとした。また、ムーニー粘度がVmから5ポイント上昇するまでのムーニースコーチ時間t5を測定した。結果を表1に記す。ムーニースコーチ時間は、スコーチ(ゴム焼け)の指標であり、時間が長い方が好ましい。
【0026】
(2)ゴム硬さ
JISK6253に準じて測定したタイプAデュロメータ硬さを測定した。結果を表1に示す。
【0027】
(3)ゴムの引張強さ及び破断伸び
JIS K6251に準拠して3号ダンベル型のサンプルを用いて引張試験を行い、引張強さ及び破断伸びを測定した。結果を表1に示す。
【0028】
(4)ゴムの耐摩耗性評価
JIS K6264-2に準じ、アクロン摩耗試験によりゴム成形体の耐摩耗性を評価した。摩耗量はアクロン摩耗試験の摩耗輪1000回転当たりの摩耗容積で表す。結果を表1に示す。
【0029】
(5)ゴムの動的粘弾性の測定
ゴム成形体について、幅5mm、厚み2mmの短冊状試験片を作製し、動的粘弾性測定装置を用いて、引張モード、チャック間距離20mm、温度23℃、周波数10Hz、振幅±400μmの条件でtanδ(損失係数又は正接損失)を測定した。 結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
[評価結果]
ゴム組成物の加工安定性は、ムーニー粘度Vmが低く、t5が長いほどゴムの流動性を確保可能となり、加硫後のゴム焼けの発生や流動不良による気泡(ボイド)の発生を抑制することができる。これにより、ゴム成形体の生産効率を高めることができる。具体的には、t5が30程度以上であることが好ましい。
【0032】
tanδについては、0.3以上の場合に発熱が大きくなる。よって、tanδの値としては、0.25以下が好ましく、0.23以下がより好ましい。加工安定性及び低発熱性の観点からいえば、No.4~6が好ましいといえる。さらに、耐摩耗性についてはアクロン摩耗量ができるだけ少ない方が好ましいといえる。そうすると、耐摩耗性のみで見た場合には、No.1~3が最も耐摩耗性に優れており、次いで、No.4及び5という順番となる。
【0033】
しかしながら、ここに加工安定性の評価結果及びtanδの評価結果を重ねてみると、No.1及び2はtanδ値が0.3以上で発熱が大きくなっており、また、No.3は加工安定性に劣っている。これらを総合的に判断すれば、No.4及び5が耐摩耗性、低発熱性及び加工安定性を最もバランスよく備えていることがわかる。
【0034】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。たとえば、本実施形態においては、ゴム成形体の用途として受索輪用のゴムライナーを例に挙げて説明したがこれに限らず、製鉄用又は製紙用などのゴムロールに用いることも可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 受索輪
2 外周面
3 ゴムライナー
4 ケーブル
図1