(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】摩擦評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 19/02 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
G01N19/02 B
(21)【出願番号】P 2019219754
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】諫山 直生
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-180096(JP,A)
【文献】特開2017-096759(JP,A)
【文献】特開2005-292005(JP,A)
【文献】特開2006-103618(JP,A)
【文献】特開2017-156276(JP,A)
【文献】国際公開第2018/185625(WO,A1)
【文献】特開2020-085843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/00-19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム製又は樹脂製の部材と摩擦面との間の摩擦力における凝着成分とヒステリシス成分とを求める摩擦評価方法において、
前記摩擦面としての実路面の凹凸を再現した樹脂製の第1模擬路面を作成する工程と、
前記第1模擬路面からミクロな凹凸を除去した第2模擬路面を作成する工程と、
前記部材と前記の樹脂製の面との間の粘着力の温度依存性を調べる第1試験を行う工程と、
前記第1試験の結果に基づき、前記部材と前記の樹脂製の面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数として、基準温度T
baseにおける係数1に対する別の1又は2以上の温度T
iにおけるそれぞれの係数a
iを求める工程と、
前記第2模擬路面にオイルと六方晶型の結晶構造を持つ物質の粉末との少なくとも一方を塗布して潤滑面とし、複数の温度条件下で前記部材を前記潤滑面上で滑らせて摩擦力を測定する第2試験を行う工程と、
前記第2試験の結果に基づき、前記部材と前記潤滑面との間の摩擦力のヒステリシス成分の温度依存係数として、基準温度T
baseにおける係数1に対する別の1又は2以上の温度T
iにおけるそれぞれの係数b
iを求める工程と、
前記部材と前記実路面との間の前記基準温度T
baseでの摩擦力F1と、
前記部材と前記第1模擬路面との間の前記基準温度T
baseでの摩擦力F2と、
前記部材と前記第2模擬路面との間の前記基準温度T
baseでの摩擦力F3
baseと、
前記部材と前記第2模擬路面との間の前記の1又は2以上の温度T
iでのそれぞれの摩擦力F3
iとを測定する工程と、
F1=F1
adh+F1
his・・・(式1)
F2=F2
adh+F2
his・・・(式2)
F3
base=F3
adh+F3
his・・・(式3)
F3
i=a
i×F3
adh+b
i×F3
his・・・(式4)
(式1におけるF1
adh、式2におけるF2
adh、式3におけるF3
adh及び式4におけるa
i×F3
adhは各摩擦力における凝着成分、式1におけるF1
his、式2におけるF2
his、式3におけるF3
his及び式4におけるb
i×F3
hisは各摩擦力におけるヒステリシス成分)
とみなし、式3と式4とからF3
adhとF3
hisとを求める工程と、
F3
adh=F2
adhとみなし、式2に基づきF2-F3
adhを計算してF2
hisを求める工程と、
F2
his=F1
hisとみなし、式1に基づきF1-F2
hisを計算してF1
adhを求める工程と、
を含むことを特徴とする摩擦評価方法。
【請求項2】
ゴム製又は樹脂製の部材と摩擦面との間の摩擦力における凝着成分とヒステリシス成分とを求める摩擦評価方法において、
前記摩擦面としての実路面の凹凸を再現した樹脂製の第1模擬路面を作成する工程と、
前記部材と前記の樹脂製の面との間の粘着力の温度依存性を調べる第1試験を行う工程と、
前記第1試験の結果に基づき、前記部材と前記の樹脂製の面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数として、基準温度T
baseにおける係数1に対する別の1又は2以上の温度
T
iにおけるそれぞれの係数a
iを求める工程と、
前記第1模擬路面にオイルと六方晶型の結晶構造を持つ物質の粉末との少なくとも一方を塗布して潤滑面とし、複数の温度条件下で前記部材を前記潤滑面上で滑らせて摩擦力を測定する第2試験を行う工程と、
前記第2試験の結果に基づき、前記部材と前記潤滑面との間の摩擦力のヒステリシス成分の温度依存係数として、基準温度T
baseにおける係数1に対する別の1又は2以上の温度T
iにおけるそれぞれの係数b
iを求める工程と、
前記部材と前記実路面との間の前記基準温度T
baseでの摩擦力F1と、
前記部材と前記第1模擬路面との間の前記基準温度T
baseでの摩擦力F2と、
前記部材と前記第1模擬路面との間の前記の1又は2以上の温度T
iでのそれぞれの摩擦力F2
iとを測定する工程と、
F1=F1
adh+F1
his・・・(式5)
F2
base=F2
adh+F2
his・・・(式6)
F2
i=a
i×F2
adh+b
i×F2
his・・・(式7)
(式5におけるF1
adh、式6におけるF2
adh、式7におけるa
i×F2
adhは各摩擦力における凝着成分、式5におけるF1
his、式6におけるF2
his、式7におけるb
i×F2
hisは各摩擦力におけるヒステリシス成分)
とみなし、式6と式7とからF2
adhとF2
hisとを求める工程と、
F2
his=F1
hisとみなし、式5に基づきF1-F2
hisを計算してF1
adhを求める工程と、
を含むことを特徴とする摩擦評価方法。
【請求項3】
前記潤滑面を、粘度が50~500cstの植物油が塗布された潤滑面とする、請求項1
又は2に記載の摩擦評価方法。
【請求項4】
前記潤滑面を、グラファイト粉末又は二硫化モリブデン粉末が塗布された潤滑面とする、請求項1
又は2に記載の摩擦評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム部材(例えば空気入りタイヤのトレッド部)と摩擦面(例えば路面)との間で生じる摩擦力が凝着成分とヒステリシス成分とからなることが知られている。そして、近年、摩擦力における凝着成分の大きさやヒステリシス成分の大きさを明らかにすることが要求されている。
【0003】
この要求に応えるため、特許文献1に記載のように、界面活性剤含有水(界面活性剤が含有された水)が散水された摩擦面でゴム材料を摩擦させたときの摩擦係数を計測する第1ステップと、界面活性剤非含有水(界面活性剤が含有されていない水)が散水された摩擦面でゴム材料を摩擦させたときの摩擦係数を計測する第2ステップと、第1ステップで計測された摩擦係数と第2ステップで計測された摩擦係数との差を算出する第3ステップとからなる摩擦評価方法が提案されている。
【0004】
この方法によれば、第1ステップでヒステリシス摩擦に起因する摩擦係数が計測され、第2ステップで粘着摩擦とヒステリシス摩擦に起因する摩擦係数が計測されるので、第3ステップで粘着摩擦成分が算出されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、実際には、摩擦面を界面活性剤含有水等で濡らしても、摩擦力の凝着成分を完全に除去することはできず、ヒステリシス成分の大きさを知ることができない。また近年、摩擦力のヒステリシス成分の温度依存性に関心が持たれているが、特許文献1の方法ではそれを知ることができない。
【0007】
そこで本発明は、摩擦力のヒステリシス成分の温度依存性を明らかにすることができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の摩擦評価方法は、ゴム製又は樹脂製の部材と摩擦面との間の摩擦力における凝着成分とヒステリシス成分とを求める摩擦評価方法において、前記摩擦面としての実路面の凹凸を再現した樹脂製の第1模擬路面を作成する工程と、前記第1模擬路面からミクロな凹凸を除去した第2模擬路面を作成する工程と、前記部材と前記の樹脂製の面との間の粘着力の温度依存性を調べる第1試験を行う工程と、前記第1試験の結果に基づき、前記部材と前記の樹脂製の面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数として、基準温度T
base
における係数1に対する別の1又は2以上の温度T
i
におけるそれぞれの係数a
i
を求める工程と、前記第2模擬路面にオイルと六方晶型の結晶構造を持つ物質の粉末との少なくとも一方を塗布して潤滑面とし、複数の温度条件下で前記部材を前記潤滑面上で滑らせて摩擦力を測定する第2試験を行う工程と、前記第2試験の結果に基づき、前記部材と前記潤滑面との間の摩擦力のヒステリシス成分の温度依存係数として、基準温度T
base
における係数1に対する別の1又は2以上の温度T
i
におけるそれぞれの係数b
i
を求める工程と、前記部材と前記実路面との間の前記基準温度T
base
での摩擦力F1と、前記部材と前記第1模擬路面との間の前記基準温度T
base
での摩擦力F2と、前記部材と前記第2模擬路面との間の前記基準温度T
base
での摩擦力F3
base
と、前記部材と前記第2模擬路面との間の前記の1又は2以上の温度T
i
でのそれぞれの摩擦力F3
i
とを測定する工程と、F1=F1
adh
+F1
his
・・・(式1)、F2=F2
adh
+F2
his
・・・(式2)、F3
base
=F3
adh
+F3
his
・・・(式3)、F3
i
=a
i
×F3
adh
+b
i
×F3
his
・・・(式4)(式1におけるF1
adh
、式2におけるF2
adh
、式3におけるF3
adh
及び式4におけるa
i
×F3
adh
は各摩擦力における凝着成分、式1におけるF1
his
、式2におけるF2
his
、式3におけるF3
his
及び式4におけるb
i
×F3
his
は各摩擦力におけるヒステリシス成分)とみなし、式3と式4とからF3
adh
とF3
his
とを求める工程と、F3
adh
=F2
adh
とみなし、式2に基づきF2-F3
adh
を計算してF2
his
を求める工程と、F2
his
=F1
his
とみなし、式1に基づきF1-F2
his
を計算してF1
adh
を求める工程と、を含むことを特徴とする
また、実施形態の摩擦評価方法は、ゴム製又は樹脂製の部材と摩擦面との間の摩擦力における凝着成分とヒステリシス成分とを求める摩擦評価方法において、前記摩擦面としての実路面の凹凸を再現した樹脂製の第1模擬路面を作成する工程と、前記部材と前記の樹脂製の面との間の粘着力の温度依存性を調べる第1試験を行う工程と、前記第1試験の結果に基づき、前記部材と前記の樹脂製の面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数として、基準温度T
base
における係数1に対する別の1又は2以上の温度T
i
におけるそれぞれの係数a
i
を求める工程と、前記第1模擬路面にオイルと六方晶型の結晶構造を持つ物質の粉末との少なくとも一方を塗布して潤滑面とし、複数の温度条件下で前記部材を前記潤滑面上で滑らせて摩擦力を測定する第2試験を行う工程と、前記第2試験の結果に基づき、前記部材と前記潤滑面との間の摩擦力のヒステリシス成分の温度依存係数として、基準温度T
base
における係数1に対する別の1又は2以上の温度T
i
におけるそれぞれの係数b
i
を求める工程と、前記部材と前記実路面との間の前記基準温度T
base
での摩擦力F1と、前記部材と前記第1模擬路面との間の前記基準温度T
base
での摩擦力F2と、前記部材と前記第1模擬路面との間の前記の1又は2以上の温度T
i
でのそれぞれの摩擦力F2
i
とを測定する工程と、F1=F1
adh
+F1
his
・・・(式5)、F2
base
=F2
adh
+F2
his
・・・(式6)、F2
i
=a
i
×F2
adh
+b
i
×F2
his
・・・(式7)(式5におけるF1
adh
、式6におけるF2
adh
、式7におけるa
i
×F2
adh
は各摩擦力における凝着成分、式5におけるF1
his
、式6におけるF2
his
、式7におけるb
i
×F2
his
は各摩擦力におけるヒステリシス成分)とみなし、式6と式7とからF2
adh
とF2
his
とを求める工程と、F2
his
=F1
his
とみなし、式5に基づきF1-F2
his
を計算してF1
adh
を求める工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記実施形態によれば、潤滑面上でゴム部材を滑らせることによって凝着成分が除去された摩擦力を測定することができ、複数の異なる温度においてそれぞれ測定することによってヒステリシス成分の温度依存性を明らかにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】適正な第2模擬路面が作成されたことを確認するフローチャート。
【
図7】路面の違いによる凝着成分とヒステリシス成分について示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0012】
<全体工程>
本実施形態は、ゴム部材と実路面との間の摩擦力の凝着成分の大きさ及びヒステリシス成分の大きさを明らかにする実施形態である。
【0013】
図1に示すように、実施形態の摩擦評価方法は、実路面の凹凸を再現した樹脂製の第1模擬路面を作成する第1模擬路面作成工程(S1)と、マクロな凹凸及びミクロな凹凸を有する第1模擬路面からミクロな凹凸を除去して第2模擬路面を作成する第2模擬路面作成工程(S2)と、ゴム部材と樹脂製の面との間の粘着力の温度依存性を調べる試験を行う粘着力試験(第1試験)工程(S3)と、粘着力試験(第1試験)の結果に基づきゴム部材と樹脂製の面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数a
iを決定する温度依存係数a
i決定工程(S4)と、第2模擬路面を潤滑面としたうえで複数の温度条件下で潤滑面上でゴム部材を滑らせて摩擦力を測定する第2試験工程(S5)と、第2試験の結果に基づきゴム部材と第2模擬路面との間の摩擦力のヒステリシス成分の温度依存係数b
iを決定する温度依存係数b
i決定工程(S6)と、実路面、第1模擬路面及び第2模擬路面のそれぞれに対するゴム部材の摩擦力を基準温度において測定するとともに、第2模擬路面に対するゴム部材の摩擦力を基準温度以外の温度において測定する摩擦力測定工程(S7)と、測定されたそれぞれの摩擦力及び前記温度依存係数a
i、b
iを使用して摩擦力の凝着成分及びヒステリシス成分を求める計算工程(S8)と、を含む。
【0014】
<第1模擬路面作成工程>
第1模擬路面作成工程では、アスファルト等からなる実路面の凹凸を再現した樹脂製の第1模擬路面が作成される。作成方法の具体例としては、実路面の凹凸がシリコンゴムで型取りされ、そのシリコンゴムの型に樹脂が流し込まれ、その樹脂が硬化して第1模擬路面となる。使用される樹脂としては例えば二液混合型の樹脂が挙げられ、より具体的な例としては二液混合型のウレタン樹脂が挙げられる。
【0015】
ここで、第1模擬路面ひいては後述する第2模擬路面が樹脂で形成される理由は、ゴムと樹脂との間の粘着力が温度に依存して大きく変化するからであり、そのことにより、ゴム部材と樹脂性の第2模擬路面との間の摩擦力の凝着成分が温度に依存して大きく変化するからである。後述するようにこの温度依存性が本実施形態において利用される。すなわち、樹脂性の同じ面において温度を変化させながら摩擦力を測定すると、温度によって摩擦力が変化するが、この摩擦力の変化は凝着成分の温度変化に起因するとみなせる。そのことから、摩擦力の凝着成分とヒステリシス成分とを求めることができる。なお、アスファルト等からなる実路面とゴムとの間の粘着力の温度依存性は小さい。
【0016】
第1模擬路面は、その表面粗さを接針式の表面粗さ計で測定したときに、実路面の表面粗さを1μmオーダーで再現したものであることが好ましい。また、第1模擬路面は、ゴム部材が押し付けられたときに目視上明らかな変形をしない硬度を有することが必要である。具体的には、第1模擬路面のデュロメータタイプD硬さが80以上84以下であることが好ましい。また、第1模擬路面を形成する樹脂の弾性率は、ゴム部材を形成するゴムの弾性率の10倍以上であることが好ましい。また、第1模擬路面を形成する樹脂についてJIS K 7113の方法で測定した引張強さは例えば55MPa以上65MPa以下である。
【0017】
<第2模擬路面作成工程>
第2模擬路面作成工程では、第1模擬路面の表面が研磨されて、マクロな凹凸及びミクロな凹凸を有していた第1模擬路面からミクロな凹凸が除去され、第2模擬路面とされる。研磨には目の細かい研磨布が使用される。
【0018】
ここで、実路面は、小石等の骨材がアスファルト等の素地に埋め込まれて形成されている。そして、マクロな凹凸とは、骨材の大まかな形状等に基づく大きな凹凸のことである。また、ミクロな凹凸とは、素地の表面の微細な凹凸や骨材の表面の微細な凹凸等に基づく小さな凹凸のことである。摩擦力のヒステリシス成分にはミクロな凹凸が効くことがわかっており、第1模擬路面からミクロな凹凸が除去されることにより、第2模擬路面では摩擦力のヒステリシス成分が小さくなる。
【0019】
<第2模擬路面が適正であることの確認方法>
適正な第2模擬路面が作成されたことは
図2に示す方法で確認される。まず、上記の通り第1模擬路面からミクロな凹凸が除去されて第2模擬路面が作成される(S2-1)。
【0020】
次に、第1模擬路面及び第2模擬路面の表面粗さがそれぞれ表面粗さ計で測定される(S2-2)。測定された表面粗さデータは、周波数分析装置に取り込まれて、周波数分析される(S2-3)。
【0021】
ここで、路面の表面粗さデータを周波数分析して得られる波のうち0.1mm以上1.0mm以下の範囲内にある所定波長の波が基準とされ、基準の波の波長より大きな波長の波がマクロな凹凸によるもので、基準の波の波長より小さな波長の波がミクロな凹凸によるものであると考えることとする。この考えに基づき、路面の表面粗さデータを周波数分析して得られる波のうち0.1mm以上1.0mm以下の範囲内にある所定波長の波の周波数が、カットオフ周波数として設定される。カットオフ周波数より低い周波数の成分をほとんど減衰させず、カットオフ周波数より高い周波数の成分を減衰させるフィルタが、ローパスフィルタとして設定される(S2-4)。また、カットオフ周波数より高い周波数の成分をほとんど減衰させず、カットオフ周波数より低い周波数の成分を減衰させるフィルタが、ハイパスフィルタとして設定される(S2-4)。
【0022】
次に、第1模擬路面の表面粗さの周波数分析結果に対してローパスフィルタがかけられ、波長の大きな波が取得される。このようにして取得された波が合成されて出来た波形は、第1模擬路面のマクロな凹凸を再現しているとみなすことができる。そこで、前記の合成されて出来た波形から表面粗さ(例えば算術平均粗さ)が計算される(S2-5)。その計算結果は第1模擬路面のマクロな凹凸に基づく表面粗さ(マクロな表面粗さ)であるとみなすことができる。同様に、第2模擬路面の表面粗さの周波数分析結果に対してローパスフィルタをかけて得られた波から波形が合成され、合成されて出来た波形から表面粗さ(例えば算術平均粗さ)が計算される(S2-5)。
【0023】
次に、第1模擬路面の表面粗さの周波数分析結果に対してローパスフィルタをかけて得られた波からなる波形の表面粗さ(すなわちマクロな表面粗さ)と、第2模擬路面の表面粗さの周波数分析結果に対してローパスフィルタをかけて得られた波からなる波形の表面粗さ(すなわちマクロな表面粗さ)とが比較される。そして、両者の差が5%以下の場合、すなわち両者の差がいずれか一方の値の5%以下の場合(S2-6のYES)、第1模擬路面と第2模擬路面とでマクロな凹凸がほとんど変化していないと判断され、第2模擬路面のマクロな凹凸が適正であると判断される。
【0024】
次に、第2模擬路面の表面粗さの周波数分析結果に対してハイパスフィルタがかけられ、波長の小さな波が取得される。このようにして取得された波が合成されて出来た波形は、第2模擬路面のミクロな凹凸を再現しているとみなすことができる。そこで、前記の合成されて出来た波形から表面粗さ(例えば算術平均粗さ)が計算される(S2-7)。その計算結果は第2模擬路面のミクロな凹凸に基づく表面粗さ(ミクロな表面粗さ)であるとみなすことができる。この表面粗さ(例えば算術平均粗さ)が10μm以下の場合(S2-8のYES)、第2模擬路面がミクロな凹凸が除去されたものであると判断され、第2模擬路面のミクロな凹凸が適正であると判断される。
【0025】
第2模擬路面のマクロな凹凸又はミクロな凹凸が適正でないと判断された場合(S2-6のNO、S2-8のNO)は、各凹凸が適正になるように第2模擬路面が作成し直される(S2-1)。
【0026】
S2-3からS2-8までの工程は、周波数分析装置又はそれに接続されたコンピュータにより実行される。なお、S2-5からS2-6までの工程と、S2-7からS2-8までの工程とは、順序が入れ替わっても良い。
【0027】
<粘着力試験工程>
一方で、ゴム部材と樹脂製の粘着力試験面との間の粘着力の温度依存性を調べる試験が行われる。
図3に示すように、この試験では、ゴム部材1が樹脂製の粘着力試験面2に対し所定の荷重で押し付けられた後に引き離され、引き離すのに要した力(N)が測定される。この測定には既知の装置が使用できる。
【0028】
この試験におけるゴム部材1として、最終的な摩擦評価対象のゴム部材が使用される。また、粘着力試験面2は、第1模擬路面及び第2模擬路面を形成する樹脂と同じ樹脂で形成される。その理由は、樹脂が同じであればゴム部材と樹脂製の面との間の粘着力(及び摩擦力の凝着成分)の温度依存性が同じなので、粘着力試験結果(すなわち粘着力試験面2における粘着力の温度依存性)を、第2模擬路面における摩擦力の凝着成分の温度依存性に利用することができるからである。粘着力試験面2は、第2模擬路面そのものであることが好ましいが、第1模擬路面でも良く、また第1模擬路面及び第2模擬路面とは別に作製された樹脂製の路面であっても良い。
【0029】
粘着力の温度依存性を調べるための試験温度として、2点以上の温度が選択される必要があり、3点以上の温度が選択されることがより好ましい。3点以上の温度が選択される場合の温度には、例えば、常温(例えば20~25℃)と、常温時に対して摩擦力の凝着成分が約2倍になると予想される低温(例えば0~10℃)と、常温時に対して摩擦力の凝着成分が約1/2になると予想される高温(例えば35~40℃)とが含まれる。そして、それぞれの温度において、上記の測定が行われる。測定は、ゴム部材1と粘着力試験面2とが試験温度に達した状態で行われる。本実施形態においては、常温、低温及び高温の3点で試験が行われるものとする。
【0030】
ゴム部材と樹脂製の面との間の粘着力は温度に依存して大きく変化するため、粘着力試験結果として、温度毎に大きく異なる測定結果が得られる。測定結果の例を
図4に棒グラフとして示す。
【0031】
<温度依存係数ai決定工程>
次に、粘着力試験結果に基づき、ゴム部材と樹脂製の面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数aiが決定される。
【0032】
具体的には、まず、ゴム部材と粘着力試験面との間の粘着力の温度依存係数として、ある基準温度Tbaseにおける係数1に対する別の温度Tiにおけるそれぞれの係数aiが求められる。
【0033】
その求め方の一例としては、温度毎の粘着力のデータに対して最小二乗法等による線形回帰が行われ、温度変化に対する粘着力の変化を近似する(
図4を例にすれば、棒グラフの複数の棒の頂点を近似する)関数が求められる(その関数の例を
図4に直線で示す)。そして、求まった関数に基づき、ある基準温度T
baseにおける粘着力を1としたときの別の温度T
iにおける粘着力の割合が、その温度T
iにおける係数a
iとして決定される。例えば、常温である基準温度T
baseにおける粘着力が26.0N、低温である温度T
1(すなわちi=1)における粘着力が48.4N、高温である温度T
2(すなわちi=2)における粘着力が8.8Nの場合、温度T
1における係数a
1は48.4/26.0=1.86、温度T
2における係数a
2は8.8/26.0=0.34である。
【0034】
ここで、基準温度Tbase及び別の温度Tiとして、後述する摩擦力測定のときの温度が選択される。本実施形態では、後述する摩擦力測定が上記の常温、低温及び高温の3点で行われるものとし、基準温度Tbaseとして常温が選択され、別の温度Tiとして低温T1及び高温T2が選択されるものとする。
【0035】
ここで、本実施形態において粘着力としている力は上記のように樹脂製の路面に押し付けられたゴム部材を引き離すのに要した力であり、ゴム部材が路面に対し滑るときの摩擦力の凝着成分とは大きさが異なる。しかし、温度依存性に関しては、前記粘着力と前記凝着成分とで同じであるとみなすことができる。そのため、上記のようにして求まったゴム部材と粘着力試験面との間の粘着力の温度依存係数aiが、そのまま、ゴム部材と粘着力試験面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数aiとされる。
【0036】
また、粘着力試験面における粘着力(又は摩擦力の凝着成分)の温度依存係数aiは、粘着力試験面と同じ樹脂で形成された面全般についてそのまま使用することができる。そして、粘着力試験面を形成する樹脂と第2模擬路面を形成する樹脂とは同じである。そのため、ゴム部材と粘着力試験面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数aiは、ゴム部材と第2模擬路面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存性係数aiと同じであるとみなすことができる。
【0037】
以上のようにして、ゴム部材と樹脂製の面(具体的には粘着力試験面や第2模擬路面)との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数aiが決定される。
【0038】
温度依存係数aiを使用することにより、各温度における摩擦力の凝着成分が求められる。すなわち、基準温度Tbaseのときの摩擦力の凝着成分がF3adhだとすると、別の温度Tiのときの摩擦力の凝着成分はai×F3adhとして求められる。
【0039】
<第2試験工程>
また、第2模擬路面に潤滑剤を塗布して潤滑面とし、複数の温度条件下で潤滑面上でゴム部材1を滑らせて摩擦力を測定する第2試験が行われる。
【0040】
まず、第2模擬路面に潤滑剤が塗布される。第2模擬路面に塗布される潤滑剤としては、オイル又は六方晶型の結晶構造を持つ物質の粉末が使用される。第2模擬路面にこれらの潤滑剤が塗布されることにより、ゴム部材1と第2模擬路面との間の摩擦力から凝着成分が除去され、摩擦力がヒステリシス成分のみからなるとみなせるようになる。
【0041】
オイルとしては、粘度がそれぞれ10cSt以上1000cSt以下の植物油、鉱物油又はシリコンオイルが適している。オイルが塗布されることにより第2模擬路面とゴム部材1との間に油膜ができるが、オイルの粘度が10cSt以上であれば第2模擬路面の凸部によって油膜が破れる現象が起こりにくく、また1000cSt以下であれば油膜の粘性抵抗が摩擦力の測定に影響しにくい。
【0042】
特に好ましいオイルは粘度が50cSt以上500cSt以下の植物油である。植物油としてはサラダオイルやオリーブオイル等が挙げられる。なおcStはセンチストークスのことで、1cSt=1mm2/sである。粘度はJISZ8803の方法で測定される。
【0043】
また、六方晶型の結晶構造を持つ物質の粉末としては、グラファイト粉末又は二硫化モリブデン粉末等が挙げられる。これらの粉末は、そのまま第2模擬路面に塗布(散布)されても良いし、溶媒とともに第2模擬路面に塗布されても良い。なお、六方晶型の結晶構造を持つ物質では、結晶構造の層と層との結合が弱く、せん断力が加わると層間で容易に滑りが生じる。そのため、六方晶型の結晶構造を持つ物質の粉末が第2模擬路面に塗布されると、第2模擬路面に潤滑性が生じる。
【0044】
次に、複数の温度条件下で、ゴム部材を潤滑面上で滑らせて摩擦力を測定する試験が行われる。
図5に示すように、潤滑面3上にゴム部材1が配置され、ゴム部材1に対して矢印Aのように上から荷重が負荷された状態で、矢印Bの方向に潤滑面3に沿ってゴム部材1が滑り、そのときの摩擦力が測定される。この測定には既知の装置が使用できる。この試験におけるゴム部材1として、粘着力試験で使用されたものと同じゴム部材1が使用される。
【0045】
第2試験の試験温度は、粘着力試験のときと同じ常温、低温及び高温である。測定はゴム部材1と潤滑面3とが試験温度に達した状態で行われる。
【0046】
第2試験において、潤滑面3上で測定される摩擦力はヒステリシス成分のみからなるとみなすことができる。ヒステリシス成分の温度依存性は、凝着成分の温度依存性ほど大きくないが、若干ある。第2試験での測定結果の例を
図6に棒グラフとして示す。
【0047】
<温度依存係数bi決定工程>
次に、第2試験の結果に基づき、ゴム部材1と第2模擬路面との間の摩擦力のヒステリシス成分の温度依存係数biが決定される。
【0048】
ここで、第2試験で得られたのは潤滑面3とゴム部材1との間の摩擦力のヒステリシス成分の温度依存性だが、この温度依存性は、何も塗布されていない第2模擬路面とゴム部材1との間のヒステリシス成分の温度依存性や、水が塗布された第2模擬路面とゴム部材1との間のヒステリシス成分の温度依存性と、同じであるとみなすことができる。そのため、ゴム部材1と潤滑面3との間の摩擦力のヒステリシス成分の温度依存係数biを求めれば、その温度依存係数biを、何も塗布されていない第2模擬路面とゴム部材1との間のヒステリシス成分の温度依存係数biや、水が塗布された第2模擬路面とゴム部材1との間のヒステリシス成分の温度依存係数biとして扱うことができる。
【0049】
この工程では、ゴム部材1と潤滑面3との間の摩擦力のヒステリシス成分の温度依存係数として、ある基準温度Tbaseにおける係数1に対する別の温度Tiにおけるそれぞれの係数biが求められる。
【0050】
その求め方の一例としては、温度毎の第2試験のデータに対して最小二乗法等による線形回帰が行われ、温度変化に対するヒステリシス成分の変化を近似する関数が求められる(その関数の例を
図6に直線で示す)。そして、求まった関数に基づき、ある基準温度T
baseにおけるヒステリシス成分を1としたときの別の温度T
iにおけるヒステリシス成分の割合が、その温度T
iにおける係数b
iとして決定される。
【0051】
ここで、基準温度Tbase及び別の温度Tiとして、後述する摩擦力測定のときの温度が選択される。本実施形態では、後述する摩擦力測定が上記の常温、低温及び高温の3点で行われるものとし、基準温度Tbaseとして常温が選択され、別の温度Tiとして低温T1及び高温T2が選択されるものとする。
【0052】
以上のようにして求まった温度依存係数biを使用することにより、各温度におけるヒステリシス成分が求められる。すなわち、基準温度Tbaseのときの摩擦力のヒステリシス成分がF3hisだとすると、別の温度Tiのときの摩擦力の凝着成分はbi×F3hisとして求められる。
【0053】
<摩擦力測定工程>
次に、ゴム部材と実路面との間の基準温度Tbaseでの摩擦力F1と、ゴム部材と第1模擬路面との間の基準温度Tbaseでの摩擦力F2と、ゴム部材と第2模擬路面との間の基準温度Tbaseでの摩擦力F3baseと、ゴム部材と第2模擬路面との間の温度Ti(iは1つ又は2つ以上)でのそれぞれの摩擦力F3iとが測定される。摩擦力F1、F2、F3base及びF3iの測定は、全ての路面(実路面、第1模擬路面及び第2模擬路面)に何も塗布されていない状態で行われても良いし、全ての路面(実路面、第1模擬路面及び第2模擬路面)に水が塗布された状態で行われても良い。
【0054】
ここで、本実施形態では温度Tiとして上記のように低温T1及び高温T2が選択される。従って、本実施形態では、ゴム部材と第2模擬路面との間の摩擦力として、基準温度Tbaseでの摩擦力F3baseと、低温T1での摩擦力F31と、高温T2での摩擦力F32とが測定される。
【0055】
測定には既知の摩擦力の測定装置が使用できる。測定は、ゴム部材と各路面とがそれぞれの温度に達した状態で行われる。
【0056】
測定された摩擦力は凝着成分とヒステリシス成分とからなるものとする。すなわち、
F1=F1adh+F1his・・・(式1)
F2=F2adh+F2his・・・(式2)
F3base=F3adh+F3his・・・(式3)
F3i=ai×F3adh+bi×F3his・・・(式4)
(式1におけるF1adh、式2におけるF2adh、式3におけるF3adh及び式4におけるai×F3adhは各摩擦力における凝着成分、式1におけるF1his、式2におけるF2his、式3におけるF3his及び式4におけるbi×F3hisは各摩擦力におけるヒステリシス成分)
が成立するものとする。
【0057】
ここで示されているように、式3と式4とでは摩擦力の測定温度が異なるので、摩擦力の凝着成分及びヒステリシス成分の大きさが異なる。具体的には、基準温度Tbaseのときの摩擦力の凝着成分がF3adh(式3参照)で、別の温度Tiのときの摩擦力の凝着成分はai×F3adh(式4参照)である。aiは、上記の温度依存係数ai決定工程で決定された係数である。また、基準温度Tbaseのときの摩擦力のヒステリシス成分がF3his(式3参照)で、別の温度Tiのときの摩擦力のヒステリシス成分はbi×F3his(式4参照)である。biは、上記の温度依存係数bi決定工程で決定された係数である。
【0058】
上記のように本実施形態ではゴム部材と第2模擬路面との間の摩擦力が、基準温度Tbaseの他に低温T1及び高温T2で測定されるので、式4は
F31=a1×F3adh+b1×F3his・・・(式4-1)
F32=a2×F3adh+b2×F3his・・・(式4-2)
の2つの式からなる。
【0059】
<計算工程>
上記の式1~式4に基づき、ゴム部材と実路面との間の摩擦力の凝着成分F1adh及びヒステリシス成分F1hisが計算される。この計算は例えばコンピュータが実施する。計算の前提として次のことが仮定される。
【0060】
表1に示すように、実路面と第1模擬路面とでは、材質が異なり、表面粗さが同じである。実路面がアスファルト等からなるのに対して第1模擬路面が樹脂からなるので、実路面における摩擦力の凝着成分が基準値だとすると、第1模擬路面における摩擦力の凝着成分はその基準値より大きい。一方、実路面と第1模擬路面とでは、凹凸状態が同じだと言えるので、摩擦力のヒステリシス成分が同じだと仮定できる。
【0061】
また、表1に示すように、第1模擬路面と第2模擬路面とでは、材質が同じで、表面粗さが異なる。第1模擬路面も第2模擬路面も同じ樹脂からなるので、これらの路面における摩擦力の凝着成分は同じだと仮定できる。一方、第1模擬路面の表面粗さにはミクロな粗さが含まれるのに対して第2模擬路面の表面粗さにはミクロな粗さが含まれないので、第2模擬路面における摩擦力のヒステリシス成分は、実路面や第1模擬路面における摩擦力のヒステリシス成分と比べて、小さいと仮定できる。
【0062】
【0063】
以上の仮定を図示すると
図7のようになる。
図7の棒グラフにおける格子状の部分は凝着成分を表し、ドット状の部分はヒステリシス成分を表している。以上のことから、式1~式4において、F3
adh=F2
adhとみなし、F2
his=F1
hisとみなすことができる。このことを利用してゴム部材と実路面との間の摩擦力の凝着成分F1
adh及びヒステリシス成分F1
hisを求めることができる。
【0064】
まず、式3と式4とからF3adhとF3hisとが求められる。F3adhとF3hisとが求められる具体的方法の例としては、式3と、温度毎に成立する複数の式4とから、2つの式の組み合わせが全て抽出され、それぞれの組み合わせから暫定的なF3adhと暫定的なF3hisとが求められ、求まった複数の暫定的なF3adhのうちの中央値と、F3adhがその中央値のときのF3hisの値とが、最終的なF3adhとF3hisとされる。
【0065】
具体例としては、本実施形態では、第2模擬路面における摩擦力の式として、式3、式4-1及び式4-2が存在する。これら3つの式から、2つの式の組み合わせが3つ出来る。すなわち、
F3base=F3adh+F3his・・・(式3)及び
F31=a1×F3adh+b1×F3his・・・(式4-1)
の第1の組み合わせ、
F31=a1×F3adh+b1×F3his・・・(式4-1)及び
F32=a2×F3adh+b2×F3his・・・(式4-2)
の第2の組み合わせ、及び
F3base=F3adh+F3his・・・(式3)及び
F32=a2×F3adh+b2×F3his・・・(式4-2)
の第3の組み合わせである。
【0066】
F3base、F31及びF32、が測定で明らかになっており、a1、a2、b1及びb2が求まっているので、第1の組み合わせの連立方程式を解いて、暫定的なF3adh及び暫定的なF3hisを求めることができる。同様に、第2の組み合わせの連立方程式から暫定的なF3adh及び暫定的なF3hisが求まり、第3の組み合わせの連立方程式からも暫定的なF3adh及び暫定的なF3hisが求まる。
【0067】
理想的には、第1~第3の組み合わせのどの連立方程式を解いても、暫定的なF3adh及び暫定的なF3hisは同じ値となる。しかし、実際には摩擦力の測定誤差等が原因で、連立方程式毎に、求まる暫定的なF3adh及び暫定的なF3hisが異なる。
【0068】
そこで、求まった3つの暫定的なF3adhのうちの中央値が最終的な(言い換えれば正式な)F3adhとされる。そして、F3adhがその値(すなわち上記の中央値)のときのF3hisが式3(式4-1又は式4-2でも良い)から計算され、最終的なF3hisとされる。
【0069】
次に、上記のようにF3adh=F2adhとみなすことができるので、式2のF2adhとしてF3adhの値を入れ、F2-F3adhを計算してF2hisを求めることができる。
【0070】
次に、上記のようにF2his=F1hisとみなすことができるので、式1のF1hisとしてF2hisの値を入れ、F1-F2hisを計算してF1adhを求めることができる。
【0071】
以上のようにして、ゴム部材と実路面との間の摩擦力の凝着成分F1adh及びヒステリシス成分F1hisが求まる。
【0072】
以上のように、本実施形態の方法によれば、ゴム部材と実路面との間の摩擦力の凝着成分F1adh及びヒステリシス成分F1hisを明らかにすることができる。
【0073】
<変更例1>
変更例について説明する。この変更例では、ゴム部材と樹脂製の面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数aiとして、ある基準温度Tbaseにおける係数1に対する別の1つの温度T1における係数a1が求められる。また、ゴム部材と第2模擬路面との間の摩擦力のヒステリシス成分の温度依存係数biとして、ある基準温度Tbaseにおける係数1に対する別の1つの温度T1における係数b1が求められる。また、ゴム部材と第2模擬路面との間の摩擦力として、基準温度Tbaseでの摩擦力F3baseと、別の温度低温T1での摩擦力F31とが測定される。
【0074】
従って、
F3base=F3adh+F3his・・・(式3)
F31=a1×F3adh+b1×F3his・・・(式4)
の2つの式が出来る。F3baseとF31とが測定されており、係数a1、b1が求められているので、これら2つの連立方程式を解けばF3adhとF3hisとが求まる。F3adhとF3hisとが求まれば、上記実施形態の計算工程と同様にして、式1及び式2に基づき、ゴム部材と実路面との間の摩擦力の凝着成分F1adh及びヒステリシス成分F1hisが求まる。
【0075】
摩擦力の測定誤差が小さい場合は、上記の2つの式の連立方程式を解くだけでも十分精度の良いF3adhとF3hisとが求まり、F1adhとF1hisとを明らかにすることができる。
【0076】
<変更例2>
別の変更例について説明する。この変更例では、ゴム部材と第2模擬路面との間の摩擦力として、基準温度Tbaseでの摩擦力F3baseと、別の3点以上の温度Ti(i=1、2、3・・・)でのそれぞれの摩擦力F3i(i=1、2、3・・・)とが測定される。また、それぞれの温度における、ゴム部材と樹脂製の面との間の摩擦力の凝着成分の温度依存係数ai(i=1、2、3・・・)及びゴム部材と第2模擬路面との間の摩擦力のヒステリシス成分の温度依存係数bi(i=1、2、3・・・)が求められる。
【0077】
従って、
F3base=F3adh+F3his・・・(式3)
F3i=ai×F3adh+bi×F3his(i=1、2、3・・・)・・・(式4)
という4つ以上の式が出来る。これらの式から2つの式の組み合わせが全て抽出され、それぞれの組み合わせから暫定的なF3adhと暫定的なF3hisとが求められる。そして、求まった複数の暫定的なF3adhのうちの中央値と、F3adhがその中央値のときのF3hisの値とが、最終的なF3adhとF3hisとされる。
【0078】
<変更例3>
上記実施形態の第2模擬路面を使用しなくても、ゴム部材と実路面との間の摩擦力の凝着成分及びヒステリシス成分を明らかにすることができる。
【0079】
具体的には、まず、上記実施形態と同じ第1模擬路面作成工程(S1)、粘着力試験工程(S3)及び温度依存係数ai決定工程(S4)が行われる。
【0080】
次に、オイル又は六方晶型の結晶構造を持つ物質の粉末を塗布した潤滑面上で、複数の温度条件下でゴム部材を滑らせて摩擦力を測定する第2試験が、上記実施形態のような第2模擬路面ではなく、第1模擬路面において行われる。つまり、第1模擬路面を潤滑面としたうえで摩擦力の測定が行われる。そして、この第2試験の結果に基づき、ゴム部材と潤滑面(第1模擬路面)との間の摩擦力のヒステリシス成分の温度依存係数biとして、基準温度Tbaseにおける係数1に対する別の1又は2以上の温度Tiにおけるそれぞれの係数biが求められる。
【0081】
次に、摩擦力測定工程が行われるが、本変更例ではゴム部材と実路面との間の基準温度Tbaseでの摩擦力F1と、ゴム部材と第1模擬路面との間の基準温度Tbaseでの摩擦力F2と、ゴム部材と第1模擬路面との間の温度Ti(iは1つ又は2つ以上)でのそれぞれの摩擦力F2iとが測定される。ここでは温度Tiとして低温T1及び高温T2が選択されるものとする。
【0082】
測定された摩擦力について以下の式が成立するものとみなせる。
【0083】
F1=F1adh+F1his・・・(式5)
F2base=F2adh+F2his・・・(式6)
F2i=ai×F2adh+bi×F2his・・・(式7)
(式5におけるF1adh、式6におけるF2adh、式7におけるai×F2adhは各摩擦力における凝着成分、式5におけるF1his、式6におけるF2his、式7におけるbi×F2hisは各摩擦力におけるヒステリシス成分)
次に、測定されたそれぞれの摩擦力及び前記温度依存係数ai、biを使用して摩擦力の凝着成分及びヒステリシス成分を求める計算工程が行われる。具体的には、まず、式6と式7からF2adhとF2hisが求められる。その具体的な方法は、上記実施形態において式3及び式4からF3adh及びF3hisを求めた方法と同じである。
【0084】
次に、上記のようにF2his=F1hisとみなすことができるので、式5のF1hisとしてF2hisの値を入れ、F1-F2hisを計算してF1adhを求めることができる。
【0085】
以上のようにして、ゴム部材と実路面との間の摩擦力の凝着成分F1adh及びヒステリシス成分F1hisが求まる。
【0086】
<変更例4>
上記実施形態はゴム部材と実路面との間の摩擦力の凝着成分及びヒステリシス成分の大きさを明らかにする実施形態であり、その実施形態の中でヒステリシス成分の温度依存性を求めたが、そのような実施形態から離れて独立してヒステリシス成分の温度依存性だけを求めても良い。
【0087】
オイルが塗布された潤滑面又は六方晶型の結晶構造を持つ物質の粉末が塗布された潤滑面の上でゴム部材を滑らせて摩擦力を測定すれば、測定される摩擦力はヒステリシス成分のみからなるとみなすことができる。そのような測定を複数の異なる温度条件下で行えば、測定される摩擦力の温度依存性はヒステリシス成分の温度依存性に等しいとみなすことができる。
【0088】
ヒステリシス成分の温度依存性を求めるこの方法は、上記実施形態の他にも様々な実施形態の中で利用することができる。
【0089】
<変更例5>
上記実施形態ではゴム部材と実路面との間の摩擦力について調べたが、ゴム部材だけでなく、樹脂製の部材と実路面との間の摩擦力についても上記実施形態と同様にして調べることができる。
【0090】
<変更例6>
上記実施形態では潤滑剤としてオイル又は六方晶型の結晶構造を持つ物質の粉末が第2模擬路面に塗布されたが、潤滑剤としてオイルと六方晶型の結晶構造を持つ物質の粉末との両方が第2模擬路面に塗布されても良い。
【符号の説明】
【0091】
1…ゴム部材、2…粘着力試験面、3…潤滑面