(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】樹脂板の張り合わせ構造
(51)【国際特許分類】
F16B 5/02 20060101AFI20231003BHJP
F16B 43/00 20060101ALI20231003BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
F16B5/02 F
F16B5/02 U
F16B43/00 C
F16B43/00 Z
F16J15/10 K
(21)【出願番号】P 2019220173
(22)【出願日】2019-12-05
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】596002767
【氏名又は名称】トヨタ自動車九州株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 太姿
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-40106(JP,U)
【文献】特開2015-86942(JP,A)
【文献】特開平09-195377(JP,A)
【文献】実開昭60-152822(JP,U)
【文献】特開2013-204636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 5/00-5/12
F16B 23/00-43/02
F16J 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端縁部に締め込みフランジを突出し、中央にボルト挿通孔を有するカラーを合成樹脂板と金属板に設けたカラー挿貫孔に挿入し、ボルト挿通孔からボルトを挿通してボルト頭とボルトに螺合したナットによって、合成樹脂板と金属板とを張り合わせて圧着締め込み固定する樹脂板の張り合わせ構造において、前記カラーの外周面と合成樹脂板及び金属板に形成した挿貫孔との間に外周面を上方漸次肉厚状とした断面テーパー状の筒状の弾性シール部材を介設したことを特徴とする樹脂板の張り合わせ構造。
【請求項2】
カラーの筒部の外周側面は、その周面に1以上の環状突起部又は環状凹部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の樹脂板の張り合わせ構造。
【請求項3】
合成樹脂板のカラー挿貫孔の内周上端縁部は上方拡開状のテーパー状に形成すると共に、弾性シール部材はカラー挿通孔に対応した形状に形成したことを特徴とする請求項1に記載の樹脂板の張り合わせ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂板と金属板とを張り合わせ固定するための張り合わせ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のバックドアにおける合成樹脂板に金属板を張り合わせる構造として、
図14に示すように、合成樹脂板4と単板の金属板3とを重ね合わせてナット12とボルト10により張り合わせ固定する構造が使用されている。すなわち、合成樹脂板4に挿貫孔4aを設け、この挿貫孔4aに締め込みフランジ6bを上端縁部に突出して中央にボルト挿通孔8を有する側断面略T字状のカラー6を挿入し、当該カラー6のボルト挿通孔8にボルト10を挿通して合成樹脂板4と金属板3にボルト10を挿貫し、金属板3側からナット12を螺合させて金属板3と合成樹脂板4とを圧着して張り合わせるものである。
【0003】
しかしながら、このような、張り合わせ構造においては、合成樹脂板4と金属板3とをボルト10の軸芯方向に押圧して張り合わせるため、ボルト10とナット12の締結力により合成樹脂板4がクリープ変形や応力緩和現象を生じた場合には、合成樹脂板4の押圧力が弱くなり、その結果、カラー6のフランジ6b下面と合成樹脂板4との間から雨水などが車内に侵入するおそれが生ずるという問題があった。
【0004】
このようにカラーのフランジ下面と合成樹脂板とに形成される間隙から、雨水などが侵入するのを防止するための張り合わせ構造として、例えば、次のような技術が提案されている。
【0005】
特許文献1には、ゴムなどの弾性を有する樹脂で構成されたシール部材が円環状の絶縁ワッシャの内周面の全周に亘って均一な厚みで形成され、そのシール部材は弾性変形していない中立状態でその内径がボルト軸部の外径よりも若干小さく形成されている。このため、絶縁ワッシャ内にボルト軸部が挿通されると、シール部材の内径は該ボルト軸部により押し広げられるために、シール部材は内径を縮小しようとする方向に力を生じ、これにより絶縁ワッシャの内周面とボルト軸部との間を水密に保って、ねじ孔内に水などの液体が侵入することを規制する技術が開示されている。
【0006】
特許文献2には、カラーのフランジ部の外周面及び下面にシールゴムが一体成形され、樹脂部材の上面には、挿貫孔周りを突起部が周方向に沿って連続して形成され、金属部材に樹脂部材を張り合わせする際に、フランジボルトの締結力により、前記樹脂部材に形成された突起部がカラーに設けられたシールゴムに食い込むと共に、シールゴムが樹脂部材に圧接され、これにより、金属部材と樹脂部材との間のシール性が向上し水分等の侵入を抑制・防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-106868号公報
【文献】特開2015-121316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に開示された発明は、ボルト軸部の挿通により押し広げられた弾性体のシール部材の内径を元の状態に縮小しようとする反力によりワッシャの内周面とボルト軸部との間を水密に保って、ねじ孔内に水などの液体が侵入することを規制するものである。すなわち、弾性体が内径方向に縮小しようとする軸部の中心方向の弾性力を利用して止水効果を得るものである。しかし、この技術は、10-2mmクラスの加工精度が要求されるねじの螺合の微小な隙間の水密を確保しようとする用途には適しているものの、それほど加工精度が要求されない(10-1mmクラス)車両のバックドアのような大型部品における合成樹脂板と金属板との張り合わせ固定技術においてはボルトの挿貫孔全周の止水効果を維持するためには高精度の弾性体を必要とし、高価になり、かつ、後述する弾性体のへたり現象も早く来て、目的とする用途には適していない。
【0009】
また、上記特許文献2に開示された発明は、樹脂部材の挿貫孔上端部周辺に連続して突起部が形成され、従来に比べ止水効果が格段に改善されている。しかし、ボルトの軸芯方向の螺着締結力により樹脂部材を張り合わせ固定するものであるため、樹脂部材の挿貫孔上端部周りに連続して形成された環状突起部が、長期使用によりクリープや応力緩和現象を生じ、締め付ける力が弱くなり、止水効果が低下する可能性があり、さらに改善をすることが望ましい。
【0010】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、車両のバックドアのような、それほど加工精度が要求されない大型部品における合成樹脂板と単板或いは複数板の金属板との張り合わせ構造において、ボルト締め付けのためのカラー挿通孔の内周面に断面テーパー状の弾性シール部材を介在することにより、合成樹脂板やシール部材にボルトの軸芯方向の力が加わることによって、弾性シール部材に生じるクリープや応力緩和現象を低減して、雨水等の侵入を防止し、止水効果を高める樹脂板の張り合わせ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、上端縁部に締め込みフランジを突出し、中央にボルト挿通孔を有するカラーを合成樹脂板と金属板に設けたカラー挿貫孔に挿入し、ボルト挿通孔からボルトを挿通してボルト頭とボルトに螺合したナットによって、合成樹脂板と金属板とを張り合わせて圧着締め込み固定する樹脂板の張り合わせ構造において、前記カラーの外周面と合成樹脂板及び金属板に形成した挿貫孔との間に外周面を上方漸次肉厚状とした断面テーパー状の筒状の弾性シール部材を介設したことを特徴とする樹脂板の張り合わせ構造を提供せんとするものである。
【0012】
また、カラーの筒部の外周側面は、その周面に1以上の環状突起部又は環状凹部を形成したものである。
【0013】
また、合成樹脂板のカラー挿貫孔の内周上端縁部は上方拡開状のテーパー状に形成すると共に、弾性シール部材はカラー挿通孔に対応した形状に形成したものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、車両のバックドアのような大型部品における合成樹脂板と1以上の金属板との張り合わせ構造において、上方漸次肉厚状とした断面テーパー状の弾性シール部材がカラーの挿貫孔内周面を外周横断方向へ押圧することにより止水するものであるため、ボルトの締結力の向きは軸芯方向であるのに対し、弾性シール部材に働く力の向きは、これと直角方向であり、ボルトの締結力とは無関係である。また、弾性シール部材が受ける力は、ボルトの締結力に比べて格段に小さいため、シール部材のクリープや応力緩和現象を発生することがない。
【0015】
さらに、シール部材は断面テーパー状であるため、圧縮による各部の変形量は、上端部分が大きく、下端部分になるにしたがって次第に小さくなっていき、あるところからシール部材のはみ出しによる変形量に反転する。すなわち、シール部材の各部分に加わる力は均一ではない。したがって、仮にクリープ等が生じるとしても、全部分に亘って同時に生じることはなく、少なくともいずれかの部分は弾性力を維持することができるため、長期間にわたって雨水等の侵入を防止する止水効果の高い樹脂板の張り合わせ構造を提供することができるという効果がある。
【0016】
また、シール部材は断面テーパー状であるため、カラーをカラー挿貫孔に挿入するとき、自然に挿貫孔の中心位置に挿入することができ、いわゆるセンター出しが容易に行えるという効果がある。
【0017】
請求項2の発明によれば、カラーの筒部の外周側面に1以上の環状突起部又は環状凹部を形成することにより、シール部材とカラーの筒部との接触面積が増加し、密着性が向上するため、カラー挿貫孔にカラーを挿入する際に、筒部外周側面に被覆された弾性を有するシール部材が合成樹脂板に形成されたカラー挿貫孔の内周面に接触したとしても、シール部材が剥離することを防止でき、カラーの挿入を確実に行うことができるという効果がある。
【0018】
請求項3の発明によれば、合成樹脂板のカラー挿貫孔の内周端部を上方拡開状のテーパー状に形成することにより、カラー挿貫孔の上端部の直径が大きくなるため、カラーのセンター出しや挿入がさらに容易になるという効果がある。
【0019】
また、カラー挿貫孔にカラーを挿入する際に、カラー挿貫孔の上端部の直径が大きいため、カラー筒部外周側面に被覆された弾性を有するシール部材が、合成樹脂板のカラー挿貫孔の内周面に接触しにくくなり、これによりシール部材が剥離することを防止でき、カラーの挿入を確実に行うことができるという効果がある。
【0020】
さらに、カラーを挿入したときに、カラー挿貫孔の上端部の直径が大きいために、シール部材の上端部分の変形量を小さくすることができ、シール部材上端部分に加えられる押圧力を緩和できる。これにより、弾性力を長期間維持でき、これに伴って、止水効果も長期間維持できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る樹脂板の張り合わせ構造を示す断面図である。
【
図2】カラーを筒部底面の側から見た状態を示す斜視図である。
【
図4】合成樹脂板と金属板の挿貫孔にカラーが挿入されていく状態を示す図である。 (a)はカラーを挿貫孔に挿入する直前の図であり、(b)はカラーを更に挿貫孔に挿入する図であり、(c)はカラーのフランジの底面が合成樹脂板に達した図である。
【
図5】張り合わせ時に各部が受ける力を示す説明図である。
【
図6】本発明の他の実施形態に係る樹脂板の張り合わせ構造を示す断面図である。
【
図7】カラーの他の第1の実施形態の軸方向に沿った断面図である。
【
図8】カラーの他の第2の実施形態の軸方向に沿った断面図である。
【
図9】カラーの他の第3の実施形態の軸方向に沿った断面図である。
【
図10】カラーの他の第4の実施形態の軸方向に沿った断面図である。
【
図11】カラーの他の第5の実施形態の軸方向に沿った断面図である。
【
図12】
図7に示すカラーを使用した実施形態を示す断面図である。
【
図13】車両のバックドアのダンパ26の取付部周辺の水平方向の断面図である。
【
図14】従来の車両のバックドアにおける合成樹脂板に金属板を張り合わせる構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る樹脂板の張り合わせ構造について説明する。
図1は、一実施形態に係る樹脂板の張り合わせ構造100の断面図である。
図1に示すように、本発明に係る樹脂板の張り合わせ構造の基本的な構成は、最上層に合成樹脂板4、中間層に金属板3、最下層に金属板2を重ね合わせた3層板からなり、合成樹脂板4と金属板3とには、カラー6の筒部6aを挿入するための筒部6aの直径よりもやや大きい平面視円形の挿貫孔4a、3aが穿設されている。また、最下層の金属板2にはボルト軸部10aが挿通可能な挿貫孔2aが穿設されている。
【0023】
前記カラー6は、断面T字形状で、上端縁にフランジ6bを突設し、本体部分である筒部6aの長さは合成樹脂板4と金属板3との肉厚相当分しかなく、その中心にボルト軸部10aを挿通するための挿貫孔2aが穿設されている。
【0024】
そして、合成樹脂板4と金属板3を重ね合わせて、合成樹脂板4側からカラー6の筒部6aを挿入し、合成樹脂板4側からカラー6の筒部6aの中心に穿設されたボルト挿通孔8と金属板2の挿貫孔2aとにボルト軸部10aを挿通させ、金属板2側からナット12で螺合し、これを締結することにより、合成樹脂板4、金属板3及び金属板2を張り合わせ固定する。
【0025】
図2はカラー6を筒部底面から見た状態を示す斜視図である。また、
図3はカラー6の軸方向に沿った断面図である。
【0026】
図2に示すように、カラー6は筒部6aの上端縁部にフランジ6bを突出し、中央にボルト挿通孔8が穿設され、金属材で構成されている。そして、
図3に示すように、カラー6の筒部6aの外周側面は、上方漸次肉厚状とした断面テーパー状の弾性シール部材7で被覆されている。この弾性シール部材7の上端部の厚さはフランジ6bの直径を超えない範囲とし、軸芯方向の長さは、合成樹脂板4と金属板3との肉厚よりもやや短くする。また、弾性シール部材7の材料は、例えば、ゴムを使用する。
【0027】
次に、本発明の一実施形態のカラー6の挿入方法の詳細について説明する。
図4(a)乃至(c)は前記挿貫孔3a、4aにカラー6が挿入されていく状態を示す図である。
【0028】
図4(a)に示すように、挿貫孔3a、4aの直径はカラー6の筒部6aの直径よりも大きめに形成されており、しかも筒部6aの断面はテーパー状であるため、筒部6aの下端部を挿貫孔3a、4aに挿入することやセンター出しは、きわめて容易である。
【0029】
次に、
図4(b)に示すように、カラー6を挿貫孔3a、4aに挿入すると、弾性を有する弾性シール部材7は前記挿貫孔4aの内周面に接触する。そして、さらにカラー6を挿入すると弾性シール部材7は挿貫孔3a、4aの内周面に押圧され筒部6aの中心方向に変形を伴いながら挿入されていく。
【0030】
そして、
図4(c)に示すように、カラー6のフランジ6bの下面が合成樹脂板4の上面に達すると、そこで挿入は止まる。その結果、弾性シール部材7は、その厚さがフランジ6bの直径を超えず、軸芯方向の長さが合成樹脂板4と金属板3とを合わせた肉厚よりもやや短く、かつ、弾性シール部材7の全体積は、後述するように、筒部6aの外周側面、挿貫孔3a、4aの内周面、フランジ6bの底面及び金属板2の上面とで構成される空間の容積よりも小さいため、前記空間内で押圧挟持される。
【0031】
その状態で、
図1に示すように、カラー6の筒部6aの中心に穿設されたボルト挿通孔8に合成樹脂板4側からボルト軸部10aを挿通させ、金属板2側からナット12で螺合し締結することにより張り合わせが完了する。
【0032】
次に、ボルト軸部10aとナット12の締結完了時において各部が受ける力について、
図5により説明する。
ここで、ボルト10とナット12を締結するときに働く力の向き、すなわち軸芯方向をY方向(図面の上下方向)とし、これと直角方向に働く力の向き、すなわち軸横断方向をX方向(図面の横方向)とする。
【0033】
図5に示すように、ナット12とボルト軸部10aを螺合させ締め付けると、ボルト10の頭側からY方向の下向きの力31a(図面の実線矢印方向の力)及びナット12側から、これと大きさが同じで、方向が上向きの力32a(図面の実線矢印方向の力)が発生し、金属板2、3及び合成樹脂板4を上下両方向から押圧挟持する。
【0034】
これに対し、金属板2、3及び合成樹脂板4は、作用反作用の法則により、反力31b、32b(図面の破線矢印方向の力)を生じる。この反力31b、32bは、それぞれ力31a、32aと大きさが同じで、方向が反対の力である。
【0035】
この力31aは、具体的には力33aとして、カラー6のフランジ6bの下面表面全体から金属板2、3及び合成樹脂板4をY方向の下向きに押圧する。また、力32aは、具体的には力34aとして、ナット12の金属板2の裏面の当接面全体から金属板2、3及び合成樹脂板4をY方向の上向きに押圧する。
【0036】
これに対して、金属板2、3及び合成樹脂板4からは、力33aに対するY方向の上向きの反力33bが、フランジ6bの下面表面全体をY方向の上向きに押圧する。また、力34aに対する反力34bが、ナット12の金属板2の裏面の当接面全体をY方向の下向きに押圧する。この反力33b、34bは、それぞれ力33a、34aと大きさが同じで、方向が反対の力である。
【0037】
そして、強く締め付ければY方向の力33a、34aはそれに伴って大きくなり、これに対するY方向の反力33b、34bもそれに比例して大きくなる。ボルト軸部10aとナット12を締結することにより、各部は、それぞれ以上のような力を受けて、力の平衡状態が維持される。
【0038】
次に、ボルト軸部10aとナット12の締結完了時において弾性シール部材7、筒部6aの外周側面と挿貫孔3a、4aの内周面、フランジ6bの底面及び金属板2の上面の各部が受ける力について、
図5により説明する。
【0039】
図5に示すように、カラー6の筒部6aが挿貫孔3a、4aに挿入され、ナット12とボルト軸部10aを螺合させ、締め付けが完了した場合、弾性シール部材7は、筒部6aの外周側面と挿貫孔3a、4aの内周面とで押圧挟持されて変形している。ここで、二点鎖線71は弾性シール部材7の自然状態における形状を示す。
【0040】
この状態において、弾性シール部材7の上端部分は、筒部6aの外周側面及び挿貫孔3a、4aの内周面から、X方向の両方向からの力41a(図面の実線矢印方向の力)で押圧され、X方向の内方向に収縮変形している。
【0041】
これに対して、弾性シール部材7は、もとの形状に戻ろうとする弾性力により、X方向の反力41b(図面の破線矢印方向の力)で筒部6aの外周側面及び挿貫孔3a、4aの内周面に向かってX方向の両方向に押圧する。この反力41bは、力41aと大きさが同じで、方向が反対の力である。
【0042】
また、弾性シール部材7は、力41aによりX方向の内方向に収縮変形した結果、Y方向の上下方向に膨らみ、Y方向の上向きの力44aでカラー6のフランジ6bの底面を押圧する。これに対して、フランジ6bの底面はY方向の下向きの反力44bを生じる。この反力44bは、力44aと大きさが同じで、方向が反対の力である。この力44aは弾性シール部材7の弾性変形に伴い生じる力であり、前記力41aと比べて小さく、前記Y方向の締付力33a、34aと比べれば格段に小さい。
【0043】
また、弾性シール部材7は上方漸次肉厚状とした断面テーパー状をしているため、下端部分になるほど肉厚は上端部分の肉厚に比べて徐々に薄くなり、それに伴って、押圧挟持による押圧力も減少して変形量も少なくなる。そして、ある点45でX方向の押圧力はゼロになる。
【0044】
さらに下端部分になると、今度は、弾性シール部材7の下方向への膨らみにより、筒部6aの外周側面と挿貫孔3a、4aの内周面とを押圧するようになる。
【0045】
ここで、弾性シール部材7であるゴムの伸びは、例えば、ウレタンゴムの硬度70の場合、通常の環境条件では約700%程度の値であり、大きな伸縮特性を有する。
【0046】
このため、先述のように上端部で押圧挟持されることにより圧縮された体積に相当するゴムは、膨らみによりはみ出してY方向の下向きの力43aを生じ、弾性シール部材7の肉厚の薄い下端部方向に膨らむ。これに対し、当該ゴムはもとの形状に戻ろうとするY方向の上向きの内部応力43bを生じる。また、はみ出したゴムが金属板2の上面に達した場合は、当該ゴムと金属板2とは上記と同様の力及びその反力を生じる。
【0047】
これにより、弾性シール部材7の下端部分では、上記圧縮された体積に相当するはみ出したゴムが、筒部6aの外周側面及び挿貫孔3a、4aの内周面をX方向の両方向への力42a(図面の実線矢印方向の力)で押圧する。
【0048】
これに対して、筒部6aの外周側面及び挿貫孔3a、4aの内周面は、X方向の反力42b(図面の破線矢印方向の力)を生じ、ゴムをX方向の内方向に押圧する。この反力42bは、力42aと大きさが同じで、方向が反対の力である。
【0049】
弾性シール部材7、筒部6aの外周側面、挿貫孔3a、4aの内周面、フランジ6bの底面及び金属板2の上面は、それぞれ以上のような力を受けて、力の平衡状態が維持される。
【0050】
なお、弾性シール部材7であるゴムは、上記のように大きな伸縮特性を有するため、外力を加えると様々な形状に自在に変形するが、その体積自体は変化しないという非圧縮性を有するために、弾性シール部材7の全体積は、筒部6aの外周側面、挿貫孔3a、4aの内周面、フランジ6bの底面及び金属板2の上面とで構成される空間の容積を超えてはならない。また、弾性シール部材7の伸び率を超える変形をさせてはならない。
【0051】
このように弾性シール部材7は、押圧挟持されることによりY方向の力43a、43b、44a、44bを生ずるが、当該空間の容積が弾性シール部材7の体積よりも大きい限り、弾性シール部材7がY方向に働く力は小さいため、その影響は無視することができる。
【0052】
以上説明したように、筒部6aの外周側面と挿貫孔3a、4aの内周面とで弾性シール部材7を押圧挟持することにより、弾性シール部材7は、その弾性力により元の形状に戻ろうとしてX方向の反力41b、及び力42aを生じ、筒部6aの外周側面、挿貫孔3a、4aの内周面、フランジ6bの底面及び金属板2の上面とで構成される空間を密閉する。これにより、弾性シール部材7による止水機能が維持される。
【0053】
さらに、
図5に示すように、ボルト軸部10aとナット12を締め付ける力31a、32aの向きはY方向であるのに対し、弾性シール部材7が受ける主たる力41a、42bの向きは、これと直角方向(軸横断方向)のX方向である。したがって、弾性シール部材7が受ける力は、ボルト軸部10aとナット12の締め付け力31a、32aとは無関係である。これは、ボルト軸部10aとナット12による締め付け力31a、32aによっては、弾性シール部材7が長期間の使用により、いわゆる「へたり」現象を生じないということを意味する。
【0054】
ここで「へたり」とは、弾性材料であるゴムを含む高分子材料が長期の荷重や変形を受けた場合に生ずる永久クリープや応力緩和の現象のことをいう。
【0055】
また、弾性シール部材7が、筒部6aの外周側面と挿貫孔3a、4aの内周面とから押圧される力は、ボルト軸部10aとナット12の締め付ける力に比べて格段に小さく、さらに、弾性シール部材7は断面テーパー状であるために、圧縮による各部の変形量は、上端部分が大きく、下端部分になるにしたがって次第に小さくなっていき、あるところからゴムのはみ出しによる変形量に反転する。すなわち、弾性シール部材7の各部分に加わる力は均一ではない。したがって、仮にクリープ等が生じるとしても、全部分に亘って同時に生じることはなく、少なくともいずれかの部分は弾性力を維持することができるため、従来技術に比べて長期間にわたって、雨水等の侵入を防止する止水効果を維持することができる。
【0056】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
図6は他の実施形態の樹脂板の張り合わせ構造100の断面図である。本実施形態では
図6に示すように、合成樹脂板4の挿貫孔4aの上部内周端部は上方拡開状のテーパー4bを形成している。
【0057】
このテーパー4bを設けることにより、挿貫孔4aの上端部の直径が大きくなるため、カラー6のセンター出しや挿入がさらに容易になるとともに、カラー6を挿入したときに弾性シール部材7の上端部分の変形量を小さくすることができるため、弾性シール部材7を押圧挟持する力が緩和される。したがって、長期使用による「へたり」を生じにくくなり、長期間にわたって弾性力を維持することができるため、止水効果を長期間維持することができる。
【0058】
次に、本発明の張り合わせ構造に使用するカラー6の他の第1の実施形態について説明する。
図7はカラー6の軸方向に沿った断面図である。
【0059】
図7に示すように、本実施形態では、筒部6aの外周側面略中央に環状突起部6cを形成している。また、環状突起部6cが突出することにより、当該環状突起部6cの部分の弾性シール部材7の肉厚が薄くなるため、筒部6aの外周側面と前記環状突起部6cとを被覆する弾性シール部材7の肉厚を、
図3に示すカラー6の弾性シール部材7よりも厚く形成する。
【0060】
図12に肉厚を厚くした弾性シール部材7を使用した場合の実施形態を示す。
図12に示すように、肉厚を厚くしたことに伴って、挿貫孔3a、4aの直径も大きく形成する。後述する
図8、11に示すカラー6を使用した場合も同様である。
【0061】
環状突起部6cを形成することにより、弾性シール部材7と筒部6aの外周側面との密着性が向上し、カラー6を挿貫孔3a、4aに挿入した際に弾性シール部材7が筒部6aの所定位置から移動することを防止することができ、確実に止水効果を維持できる。
【0062】
次に、本発明の張り合わせ構造に使用するカラー6の第2の実施形態について説明する。
図8はカラー6の軸方向に沿った断面図である。
【0063】
図8に示すように、本実施形態では、筒部6aの外周側面略中央に環状突起部6c1、6c2を形成している点と、弾性シール部材7を厚く形成する点が
図3との相違点である。
【0064】
当該環状突起部6c1、6c2を形成することにより弾性シール部材7と筒部6aの外周側面との接触面積が増加し、密着性がさらに向上するため、カラー6を挿貫孔3a、4aに挿入する際に挿貫孔4aの上端周縁部に弾性シール部材7が接触したときに、弾性シール部材7が剥がれることを防止することができる。
【0065】
次に、本発明の張り合わせ構造に使用するカラー6の第3の実施形態について説明する。
図9はカラー6の軸方向に沿った断面図である。
【0066】
図9に示すように、本実施形態では、筒部6aの外周側面略中央に環状凹部6dを形成している点が
図3との相違点である。
【0067】
この環状凹部6dを形成することにより弾性シール部材7と筒部6aの外周側面との接触面積が増加し、密着性がさらに向上するため、カラー6を挿貫孔3a、4aに挿入する際に挿貫孔4aの上端周縁部に弾性シール部材7が接触したときに弾性シール部材7が剥がれることを防止することができる。
【0068】
また、環状凹部6dを被覆する部分は弾性シール部材7の肉厚が増えるため弾性変形量が少なくてすみ、弾性シール部材7の上端部の肉厚を薄くする場合に有効である。
【0069】
次に、本発明の張り合わせ構造に使用するカラー6の第4の実施形態について説明する。
図10はカラー6の軸方向に沿った断面図である。
【0070】
図10に示すように、第4の実施形態では、筒部6aの外周側面略中央の上下に環状凹部6d1、6d2を形成していることが
図3との相違点である。
【0071】
筒部6aを上述した形状とすることで第1乃至第3の実施形態と同様に弾性シール部材7が剥がれることを防止することができる。
【0072】
また、環状凹部6d1、6d2を被覆する部分は弾性シール部材7の肉厚が増えるため弾性変形量が少なくてすむ。
【0073】
次に、本発明の張り合わせ構造に使用するカラー6の第5の実施形態について説明する。
図11はカラー6の軸方向に沿った断面図である。
【0074】
図11に示すように、第5の実施形態では、筒部6aの外周側面略中央の上下に環状突起部6cと環状凹部6dを形成している点と、弾性シール部材7を厚く形成する点が
図3との相違点である。
【0075】
また、第1乃至第4の実施形態と同様、弾性シール部材7が剥がれることを防止することができる。
【0076】
また、環状凹部6dを被覆する部分は弾性シール部材7の厚みが厚くなるため環状凹部6dの部分の弾性変形量は少なくてすむ。
【0077】
以上のような実施形態について説明した本発明に係る樹脂部材の張り合わせ構造は、上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨に沿う範囲で、種々の態様を採用することができる。
【0078】
上述の実施形態では、1枚の合成樹脂板4と2枚の金属板2、3を張り合わせる場合について説明したが、張り合わせる金属板は、1枚であってもよいし3枚以上であってもよい。
【0079】
また、合成樹脂板4と2枚の金属板2、3をあらかじめ接着剤で接着した後、本発明により締結するように構成してもよい。
【0080】
また、上述した実施形態では、金属板2にはボルト軸部10aが挿通できる挿貫孔2aを穿設し、金属板3及び合成樹脂板4には、それぞれカラー6の筒部6aの直径よりもやや大きい平面視円形の挿貫孔3a、4aを穿設していたが、金属板2、3にボルト軸部10aが挿通できる挿貫孔2a、3aを穿設し、合成樹脂板4には、カラー6の筒部6aの直径よりもやや大きい平面視円形の挿貫孔4aを穿設し、カラー6の筒部6aは合成樹脂板4の挿貫孔4aにのみ挿入するよう構成してもよい。
【0081】
また、筒部6aに形成した環状突起部6cや環状凹部6dは、連続する突起部や凹部ではなく、断続する突起部や凹部としてもよい。
【0082】
また、
図7乃至
図11の説明では、筒部6aに形成した環状突起部6cや環状凹部6dは、1及び2個設けた場合について説明したが、1又は2個に限定されるものではなく、3個又はそれ以上設けても差し支えない。
【0083】
また、筒部6aの外周側面に形成した弾性シール部材7の肉厚は、
図7、
図8及び
図11で示したように、
図3の肉厚に比べて厚くしたが、
図3、
図9及び
図10に示す実施例において肉厚を厚くすることを禁ずるものではなく、カラー6のフランジ6bの直径を超えない範囲内で任意の厚さにすることができることはいうまでもない。
【0084】
また、筒部6aの外周側面に形成した弾性シール部材7の形状は、肉厚が上方漸次肉厚状とした断面テーパー状であるが、直線のテーパー形状に限定されるものではなく、放物線のテーパー形状や双曲線のテーパー形状など用途に応じた形状をとることができることはいうまでもない。
【0085】
また、弾性シール部材7は、カラー6の筒部6aの外周側面に接着してもよい。さらに、環状突起部6c、環状凹部6dと弾性シール部材7とが当接する部分は、弾性シール部材7の突起部に対面する部分に凹部や突起部を設けて、環状突起部6c及び環状凹部6dと当該凹部が嵌合するよう構成してもよい。
【0086】
また、本張り合わせ構造に使用するボルト10は、六角ボルト(JIS B 1180)、六角穴付きボルト(JIS B 1176)やフランジ付六角ボルト(JIS B 1189)などの他に、ステー取付ボルトなどの特定用途のボルトも含まれる。すなわち、ねじ山を有し、ナット12と螺合して締結可能な結合手段が含まれることはいうまでもない。
【0087】
また、本張り合わせ構造に使用するナット12は、六角ナット(JIS B 1181)やウエルドナット(JIS B 1196)などの他、他の特定用途のナットも含まれる。すなわち、ねじ山を有し、上記ボルト10と螺合して締結可能な結合手段が含まれることはいうまでもない。
【0088】
次に、本樹脂板の張り合わせ構造100が適用された一例として、ステー取付ボルトとウエルドナットを使用した車両用のバックドアのダンパ26の取付部及びその周囲部の構造について簡単に説明する。
【0089】
図13は、車両のバックドアのダンパ26の取付部周辺の水平方向の断面図である。図中矢印FRは車両前方側を示しており、矢印Wは車両幅方向を示している。
【0090】
図13に示すように、バックドア30は樹脂製のドアインナーパネル24にバックドアウインドウガラス22bが接着層23により接合されている。
【0091】
また、ドアインナーパネル24に金属製の断面コの字状のサイド補強部54が接着層56により接合され、さらに、サイド補強部54に、断面コの字状の金属製の補強ブラケット48が重ね合わされている。
【0092】
また、補強ブラケット48には、挿通孔54kに対応する位置にボルト挿通孔48kが貫通形成されている。
【0093】
そして、ドアインナーパネル24には貫通孔24kが貫通形成され、サイド補強部54には貫通孔54kが貫通形成されて、ステー取付ボルト26dを通すためのフランジ付カラー60の筒部60aが挿通状態で配設されている。
【0094】
フランジ付カラー60の筒部60aは、その外周側面が上方漸次肉厚状とした断面テーパー状の弾性シール部材7で被覆され、貫通孔24k、54kに挿入され、補強ブラケット48に形成されたボルト挿通孔48kの外周部に当接している。
【0095】
また、フランジ付カラー60のフランジ部60bは、ドアインナーパネル24の車両幅方向外側の面に当接している。
【0096】
そして、ステー取付ボルト26dの軸部26jが、フランジ付カラー60内及びボルト挿通孔48kを車両幅方向外側から貫通し、補強ブラケット48の車両幅方向内側の面に固着されたウエルドナット62と螺合されている。これにより、ドアインナーパネル24、サイド補強部54及び補強ブラケット48がステー取付ボルト26dのフランジ部26fとウエルドナット62との間でフランジ付カラー60に挟まれて締め付けられる。
【0097】
これにより、弾性シール部材7は、フランジ付カラー60の筒部60aの外周側面と、貫通孔24k、54kの内周面とに押圧挟持されるため、弾性シール部材7の弾性力により反力を生じ、筒部60aの外周側面と貫通孔24k、54kの内周面とで構成される空間を密閉し、止水機能が実現される。
【0098】
また、ステー取付ボルト26dの頭部は球状を形成しており、図示しないダンパ26のジョイント26cと嵌合しダンパ部を構成する。
【0099】
以上のように、本発明による樹脂板と金属板の張り合わせ構造は、単に合成樹脂板と金属板の張り合わせの用途のみならず、ボルト10をステー取付ボルトにすることにより、幅広い用途に使用することができる利便性を有するとともに、長期間にわたり止水効果を発揮することができる。
【符号の説明】
【0100】
100 樹脂板の張り合わせ構造
2 金属板
2a 挿貫孔
3 金属板
3a 挿貫孔
4 合成樹脂板
4a 挿貫孔
4b テーパー
6 カラー
6a 筒部
6b フランジ
6c 環状突起部
6d 環状凹部
7 弾性シール部材
8 ボルト挿通孔
10 ボルト
12 ナット
24 ドアインナーパネル
54 サイド補強部
48 補強ブラケット
26d ステー取付ボルト
60 フランジ付カラー
62 ウエルドナット