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  • 特許-閉じ込め防止システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】閉じ込め防止システム
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/00 20060101AFI20231003BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20231003BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20231003BHJP
   F16P 3/00 20060101ALI20231003BHJP
   G10L 25/84 20130101ALI20231003BHJP
【FI】
B23Q11/00 D
G05B19/418 Z
B23Q17/00 A
F16P3/00
G10L25/84
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019224162
(22)【出願日】2019-12-12
(65)【公開番号】P2021091057
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】100125737
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 昭博
(72)【発明者】
【氏名】山口 徹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌治
(72)【発明者】
【氏名】福岡 大祐
(72)【発明者】
【氏名】黒木 昭伍
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/155947(WO,A1)
【文献】特開2007-118141(JP,A)
【文献】特開昭58-177294(JP,A)
【文献】特開2004-156312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00
G05B 19/418
B23Q 17/00
F16P 3/00
B25J 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉扉から作業者の出入りが可能な作業機または作業設備の内側に設けられた一または二以上の内側マイクロホンと、
前記作業機または前記作業設備の外側に設けられた一または二以上の外側マイクロホンと、
前記内側マイクロホンに入力された前記作業機または前記作業設備の内側に居る作業者の音声を認識することにより、前記作業機または前記作業設備の駆動を停止状態にする制御装置と、を有し、
前記制御装置は、前記内側マイクロホン及び前記外側マイクロホンに入力された音声に基づいて、前記作業機または前記作業設備の内側または外側に居る作業者の位置を判定し、内側であるとの判定に従い前記作業機または前記作業設備の駆動を停止状態にする閉じ込め防止システム。
【請求項2】
前記開閉扉には前記制御装置によって作動する自動ロック機構が設けられ、前記制御装置は、前記内側マイクロホンに入力された前記作業機または前記作業設備の内側に居る作業者の音声を認識することにより、前記ロック機構を解除状態にする請求項1に記載の閉じ込め防止システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大形作業機や工作機械などが安全柵で囲まれた加工設備などの中に入った作業者の安全を確保するための閉じ込め防止システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ワーク加工が行われる工場では、旋盤や研磨機などの作業機やワークを搬送するためのワーク自動搬送機による加工設備が構築され、ワークの搬送及び加工が自動化されている。そうした加工設備では稼働中の安全を確保するため、例えば作業機や搬送機などが設置された周りを囲むように安全柵が設けられ、加工中における作業者の立入りが制限されている。下記特許文献1にも、工作機械における加工および開閉式の扉からロボットがワークの搬入および搬出を行う範囲への侵入を防止するため、その工作機械とロボットが安全柵によって囲われた例が開示されている。
【0003】
このような加工設備は、安全柵で囲まれた中に作業者が入ることがあり、例えば工作機械のメンテナンスなどを行う場合には一定の時間安全柵の中で作業を行うことがある。そのような場合に工作機械や搬送ロボットなどが駆動しないように、加工設備を囲った安全柵内に作業者が居ることを検出し、駆動停止状態にする構成が採られている。具体的には、安全柵に設けられた開閉扉に扉センサが設けられ、その扉センサから送信される検出信号に従って開閉状態、つまり作業者の有無を判定するよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-079286号公報
【文献】特開2003-255971号公報
【文献】特開2017-151216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、加工設備には工作機械などの作業機が何台も並べられた大形の加工機械ラインが安全柵によって囲まれたようなものがある。そうした加工設備は、作業者が工作機械のメンテナンスなどを行うために安全柵の中に入った場合、その範囲が広いため作業者が機械の陰に隠れてしまい外から見えなくなることもある。そのような場合に誤って安全柵の扉が閉じられてしまい、工作機械などの作業機が駆動してしまう危険を回避する必要がある。例えば、安全柵の中での作業中は南京錠などを使用して扉を開状態に維持し、作業者だけが扉を開閉できるようにした作業ルールなどの対策が採られている。
【0006】
しかし、作業者によっては作業ルールを怠ってしまうことがあり、安全柵の中に作業者がいるにも関わらず開閉扉が閉められて作業機が駆動してしまうことが想定される。加工設備にはそうした場合に備えて緊急停止ボタンや開閉扉のロック解錠装置が設けられているが、急な出来事によって焦った作業者がとっさに対応できないことも考えられる。こうしたことは安全柵で囲まれた加工設備だけではなく、機内で作業を行うことが可能な大形機械などでも起こり得る。
【0007】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、作業者の安全を確保するための閉じ込め防止システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る閉じ込め防止システムは、開閉扉から作業者の出入りが可能な作業機または作業設備の内側に設けられた一または二以上の内側マイクロホンと、前記作業機または前記作業設備の外側に設けられた一または二以上の外側マイクロホンと、前記内側マイクロホンに入力された前記作業機または前記作業設備の内側に居る作業者の音声を認識することにより、前記作業機または前記作業設備の駆動を停止状態にする制御装置と、を有し、前記制御装置は、前記内側マイクロホン及び前記外側マイクロホンに入力された音声に基づいて、前記作業機または前記作業設備の内側または外側に居る作業者の位置を判定し、内側であるとの判定に従い前記作業機または前記作業設備の駆動を停止状態にするものである
【発明の効果】
【0009】
前記構成によれば、作業機または作業設備の内側で作業を行う作業者が声を発することにより、作業機などの内側に設けられた内側マイクロホンにその音声が入力され、制御装置が作業者の音声を認識することによって作業機などの駆動を停止状態にするため、作業者の安全を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】加工設備を簡略化して示した平面図である。
図2】加工設備の制御システムを簡略化して示したブロック図である。
図3】音声抽出装置のシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る閉じ込め防止システムの一実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。図1は、加工設備を簡略化して示した平面図である。この加工設備10は、工作機械など4機の作業機1,2,3,4が並べられ、各々にワークを自動搬送するワーク自動搬送機5が設けられたものである。そして、作業機1などが駆動するワーク加工中に作業者が近づけないように、周りが安全柵6によって囲まれている。本実施形態の閉じ込め防止システムは、こうした安全柵6によって囲まれた中で作業を行う作業者の安全を確保するためのものである。
【0012】
加工設備10は、安全柵6の外側にモニタ付きの操作盤11が設けられ、ワークの加工開始や停止などの指示は安全柵6の外から行うことができるようになっている。すなわち、作業機1などの稼働中は作業者が安全柵6の中には入れないように構成されている。その安全柵6には開閉扉61が設けられ、そこに開閉状態を検出するための扉センサ12や、自動的にロックが掛かるロック機構が設けられている。そして、作業機1,2,3,4およびワーク自動搬送機5は、開閉扉61が開けられた場合つまり作業者が安全柵6の中に入る可能性のある場合には、扉センサ12からの開信号に従って駆動停止制御が行われるようになっている。
【0013】
次に、図2は、加工設備10の制御システムを簡略化して示したブロック図である。作業機1,2,3,4およびワーク自動搬送機5は、集線装置であるハブ(HUB)によって各制御装置同士が接続され、加工設備10内にLAN(Local Area Network)が構築されている。図示する制御装置20は、例えば工作機械1に搭載されたものである。作業機1,2,3,4およびワーク自動搬送機5の制御装置は、いずれも同様に構成されCPU21のほかROM22やRAM23、不揮発性メモリ24といった記憶装置などを備えたコンピュータを主体とするものであり、I/0インターフェース25を介して互いに接続されている。
【0014】
そして、作業機1,2,3,4およびワーク自動搬送機5の各制御装置は、各々の作業内容に関する作動プログラムやワークの種類、工具や治具に関するワーク加工情報などが記憶部に格納されている。よって、加工設備10では、ワーク加工を行う工作機械などの各作業機1,2,3,4やワーク自動搬送機5におけるワークの搬送及び、各々の加工がプログラムに従い自動で行われる。そうした中、本実施形態では安全柵の中で作業を行う作業者の閉じ込めを防止するため、作業機1の制御装置20に閉じ込め防止プログラム241が格納されている。
【0015】
作業機1の制御装置20には開閉扉61に設けられた扉センサ12が接続され、開閉扉61が開いた開信号を受けて作業機1自身の駆動を停止するとともに、他の作業機2,3,4およびワーク自動搬送機5に対して駆動停止指令信号が発信される。従って、加工設備10全体の駆動が停止することにより、安全柵6で囲まれた中でメンテナンス作業などを行う作業者の安全が確保されている。しかし、前述したように、作業者の不注意などによって、開閉扉61が閉じられてしまうことを考慮する必要がある。特に、開閉扉61のロック機構によって自動的にロックが掛かってしまい、作業者の脱出が容易でなくなることも想定されるからである。
【0016】
加工設備10は、こうして安全柵6の中に閉じ込められた作業者の安全を図るため、その作業者が直接行う操作ではなく、声に反応する閉じ込め防止システムが構成されている。その閉じ込め防止システムは、図1に示すように、安全柵6内側に複数の内側マイクロホン13が設置され、安全柵6の中で作業者が発する声を検出できるようになっている。ただし、加工設備10が設置されている工場内などでは他の機械が駆動している。そのため、内側マイクロホン13には騒音も入力してしまうことから、騒音と区別した音声認識が必要となる。
【0017】
この点、上記特許文献2には、工場などの騒音下でも有効な音声抽出を可能とする音声抽出装置に関する技術が開示されている。これによれば工場内の騒音つまり機械の駆動音などと作業者が発する音声とは音響的特徴の違いがあり、聴感上の帯域(臨界帯域)において両者の差は顕著である。そのため、機械の駆動音などの騒音と作業者が発する声との帯域を強調した音声区間を算出することが可能である。そこで、本実施形態では、作業機1の制御装置20において当該技術に基づく音声抽出装置が構成されている。図3は、上記特許文献2に開示されている音声抽出装置のシステム構成図である。
【0018】
この音声抽出装置は、図示するように、音声入力手段である内側マイクロホン13、バンドレベル分析に基づいてフィルタ特性が決定されているフィルタ手段であるフィルタ部15、閾値決定手段である閾値決定部16、音声区間算出手段である音声区間算出部17および、音声抽出手段である音声抽出部18によって構成されている。各要素は図2に示すCPU21やROM22などからなるコンピュータやA/D変換装置26によって構成されている。
【0019】
こうした音声抽出装置は、内側マイクロホン13から騒音を含む音声が入力するが、そうした音はA/D変換部26においてデジタル信号に変換され、バンドレベル分析に基づいてフィルタ部15を通過する。フィルタ部15は、バンドレベル分析の結果に基づいて周波数帯域を通過させる(バンドパス)フィルタであり、音声と騒音との差が顕著な各帯域を通過させることにより、音声が相対的に強調される。閾値決定部16では選択された帯域のパワーに基づいて閾値が決定され、音声区間算出部17によって音声区間が算出される。そして、音声抽出部18では、音信号の周波数成分から騒音の周波数成分が差し引かれて音声が抽出される。
【0020】
更に、制御装置20では、不揮発性メモリ24に格納された閉じ込め防止プログラム241により、内側マイクロホン13に入力した音の中から音声検出が行われ、音声を検出した場合には作業機1自身の駆動を停止するとともに、他の作業機2,3,4およびワーク自動搬送機5に対して駆動停止指令信号が発信され、作業機2,3,4およびワーク自動搬送機5においても駆動停止制御が行われる。そして、開閉扉61の自動ロックの解除が行われる。こうして本実施形態の加工設備10では、安全柵6内側で作業を行っている際に開閉扉61が閉じてしまった場合でも、そのことに気が付いた作業者が声を発することにより安全柵6の内側に人が居ることを認識させ、駆動停止やロック解除を行うようにした安全が講じられる。
【0021】
安全柵6の内側で発した作業者の声は、最も近い内側マイクロホン13から入力し、前述したように騒音と区別した音声認識が行われる。よって、加工設備10では、扉センサ12からの閉信号により開閉扉61が閉じられた状態を確認した制御装置20は、通常状態であればスタートボタンの信号に基づいて作業機1,2,3,4およびワーク自動搬送機5の駆動が開始するが、内側マイクロホン13からの音声入力が確認された場合には、安全柵6の中に作業者が居ると判断して駆動停止状態が維持される。その後、作業者が安全柵6の外に出て操作盤11から停止状態の解除指令を行うことにより、加工設備10の作業機1などが通常運転状態に戻される。
【0022】
ところで、作業者が発する声は安全柵6の内側だけではなく、工場内の作業者が安全柵6の外側で発する場合もある。こうした関係のない作業者の声にも反応してしまい、作業機1,2,3,4およびワーク自動搬送機5の駆動が停止してしまったのでは閉じ込め防止システムの実効性が失われてしまう。そのため、内側マイクロホン13に入力した音声が安全柵6の内側のものと外側のものとで区別できるようにする必要がある。
【0023】
そこで、本実施形態では、図1に示すように安全柵6の内側に設けた内側マイクロホン13の他に、安全柵6の外にも複数の外側マイクロホン14が取り付けられている。よって、安全柵6の内外で作業者が発する声は内側マイクロホン13と外側マイクロホン14に入力されることとなる。例えば、安全柵6の外に居る作業者の発する声は、最初に外側マイクロホン14に入力し、遅れて内側マイクロホン13に入力する。これにより、作業者が発した声は、内側マイクロホン13と外側マイクロホン14に対する入力において時間差が生じるため、それぞれにおいて入力された音声信号の時間差から、声の発生源(作業者の位置)が判定可能になる。
【0024】
内側マイクロホン13と外側マイクロホン14に入力した音声の時間差がより顕著になるように、内側マイクロホン13は安全柵6の外側からの音が入力し難くなるようにし、例えば内側マイクロホン13には安全柵6の外側からの音が入力し難くなるように、プレートなどを配置させるようにすることが好ましい。そして、外側マイクロホン14にはその反対の構成を設ける。
【0025】
また、そのほかにも例えば音源推定方法としてMUSIC(Multiple Signal Classification)法を採用し、声の発生源が安全柵6の内側であるか外側であるかの区別を行うようにすることも考えられる。具体的には、上記特許文献3に開示されているような音源方向推定システムを加工設備10に構築することにより、作業者の声について発生源(作業者の位置)を判定するようにしてもよい。
【0026】
よって、本実施形態の加工設備10では、安全柵6の中に作業者が入っているにも関わらず開閉扉61が閉じてしまっても、作業者が声を発することにより内側マイクロホン13から入力した音声によって加工設備10全体を駆動停止状態にすることができる。また、開閉扉61の自動ロックの解除が行われる。その一方で、安全柵6の外側に居る作業者が発する声は、内側マイクロホン13にも入力されるが、その場合には外側に位置する外側マイクロホン14への音声入力により声の発生源が安全柵6の外側であると判定され、加工設備10は通常の駆動制御が継続される。
【0027】
こうして本実施形態によれば、安全柵6の開閉扉61が閉じられたとしても、その中の作業者は確実に且つ迅速に外へ出ることができる。特に、安全柵6の中に居て出られなくなった場合に作業者が冷静を失ってしまうようなことも考えられるが、そうした場合には意識せずとも作業者からは声が発せられるため、それで開閉扉61の自動ロックの解除と、作業機1,2,3,4およびワーク自動搬送機5の駆動停止制御が行われ、状況を悪化させることなくその後の対処を行うことができる。
【0028】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、安全柵6に囲まれた加工設備10を例に挙げて説明したが、大形作業機についても同様に構成することができる。また、大形作業機は、開閉扉が閉じられた場合に外側に居る作業者の声が内側マイクロホン13に入力されなければ外側マイクロホン14は必要とせず、大きさや作業範囲によっては内側マイクロホン13が1本であってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1,2,3,4…作業機 5…ワーク自動搬送機 6…安全柵 10…加工設備 12…扉センサ 13…内側マイクロホン 14…外側マイクロホン 20…制御装置 61…開閉扉 241…閉じ込め防止プログラム

図1
図2
図3