(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】多発性硬化症に関連する自己抗原並びに治療及び診断でのその使用
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20231003BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231003BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20231003BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20231003BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20231003BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/53 K
G01N33/53 P
G01N33/50 T
C12Q1/02
C07K14/47
(21)【出願番号】P 2019552921
(86)(22)【出願日】2018-03-29
(86)【国際出願番号】 SE2018050341
(87)【国際公開番号】W WO2018182495
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-26
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】518207959
【氏名又は名称】ネオギャップ・セラピューテックス・アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グレンルンド、ハンス
(72)【発明者】
【氏名】ブロンゲ、マティアス
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】D'Ambrosio, A. et al.,Peripheral blood biomarkers in multiple sclerosis,Autoimmunity Reviews,2015年,Vol.14, No.12,p.1097-1110,doi:10.1016/j.autrev.2015.07.014
【文献】Kipp, M. et al.,Brain lipid binding protein (FABP7) as modulator of astrocyte function,Physiological Research,2011年,Vol.60, Suppl.1,S49-S60,doi:10.33549/physiolres.932168
【文献】Chiurchiu, V. et al.,The role of reticulons in neurodegenerative diseases,Neuromolecular Medicine,2014年,Vol.16, No.1,p.3-15,doi:10.1007/s12017-013-8271-9
【文献】Gao, Y. F. et al.,COL3A1 and SNAP91: novel glioblastoma markers with diagnostic and prognostic value,Oncotarget,2016年,Vol.7, No.43,p.70494-70503,doi:10.18632/oncotarget.12038
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
G01N 33/00-33/98
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 1/70
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の多発性硬化症(MS)関連自己免疫の程度を決定することを補助する方法であって、
該方法は、
a.T細胞エピトープを含む試験抗原に対する、被験者の生存可能なT細胞および抗原提示細胞を含む試験試料のT細胞の抗原特異的活性化をインビトロで定量すること、
ここで、前記試験抗原は、
配列番号2、配列番号1、配列番号3若しくは配列番号4のいずれかと少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、
MS患者のT細胞を抗原特異的に活性化することができる、並びに、
b.
工程aにおいて定量された試験試料のT細胞の抗原特異的活性化と、関連する参照とを比較して、被験者のMS関連自己免疫の程度を決定することを補助すること、
ここで、関連する参照は、
(i)病理学的MS関連自己免疫のない参照対象から得られた参照試料の比較可能に定量された抗原特異的活性化である、
(ii)病理学的MS関連自己免疫のない参照対象のセットから得られた参照試料のセットの比較可能に定量された抗原特異的活性化の平均値である、または
(iii)異なる時点に採取された、同じ対象からの試料の比較可能に定量された抗原特異的活性化である、
を含
み、
前記工程aは、IFN-γ、IL-17若しくはIL-22の分泌を測定すること又はT細胞増殖を測定することにより、T細胞応答を決定することを含む、
上記方法。
【請求項2】
被験者の多発性硬化症(MS)関連自己免疫の程度を決定することを補助する方法であって、
該方法は、
a.T細胞エピトープを含む試験抗原に対する、被験者の生存可能なT細胞および抗原提示細胞を含む試験試料のT細胞の抗原特異的活性化をインビトロで定量すること、
ここで、T細胞エピトープは、n個の連続する残基のアミノ酸配列を含み、n個の連続する残基のアミノ酸配列が、
i.配列番号2の残基
43~
67の部分配列と同一であるか、若しくは
ii.配列番号2の残基
43~
67の部分配列に由来し、該配列番号2の残基
43~
67の部分配列と比較してm個以下の残基の置換、欠失及び/又は挿入を有し、
nが少なくとも8であり、mが1であり、
前記試験抗原はMS患者のT細胞を抗原特異的に活性化することができ、並びに、
b.
工程aにおいて定量された試験試料のT細胞の抗原特異的活性化と、関連する参照とを比較して、被験者のMS関連自己免疫の程度を決定することを補助すること、
ここで、関連する参照は、
(i)病理学的MS関連自己免疫のない参照対象から得られた参照試料の比較可能に定量された抗原特異的活性化である、
(ii)病理学的MS関連自己免疫のない参照対象のセットから得られた参照試料のセットの比較可能に定量された抗原特異的活性化の平均値である、または
(iii)異なる時点に採取された、同じ対象からの試料の比較可能に定量された抗原特異的活性化である、
を含
み、
前記工程aは、IFN-γ、IL-17若しくはIL-22の分泌を測定すること又はT細胞増殖を測定することにより、T細胞応答を決定することを含む、
上記方法。
【請求項3】
n個の連続する残基のアミノ酸配列が、
i.配列番号2の残基43~62の部分配列と同一であるか、若しくは
ii.配列番号2の残基43~62の部分配列に由来し、該配列番号2の残基43~62の部分配列と比較してm個以下の残基の置換、欠失及び/又は挿入を有し、
nが少なくとも8であり、mが1である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
被験者の多発性硬化症(MS)関連自己免疫の程度を決定することを補助する方法であって、
該方法は、
a.T細胞エピトープを含む試験抗原に対する、被験者の生存可能なT細胞および抗原提示細胞を含む試験試料のT細胞の抗原特異的活性化をインビトロで定量すること、
ここで、T細胞エピトープは、n個の連続する残基のアミノ酸配列を含み、n個の連続する残基のアミノ酸配列が、
i.配列番号1の残基
111~
145の部分配列と同一であるか、若しくは
ii.配列番号1の残基
111~
145の部分配列に由来し、該配列番号1の残基
111~
145の部分配列と比較してm個以下の残基の置換、欠失及び/又は挿入を有し、
nが少なくとも8であり、mが1であり、
前記試験抗原はMS患者のT細胞を抗原特異的に活性化することができ、並びに、
b.
工程aにおいて定量された試験試料のT細胞の抗原特異的活性化と、関連する参照とを比較して、被験者のMS関連自己免疫の程度を決定することを補助すること、
ここで、関連する参照は、
(i)病理学的MS関連自己免疫のない参照対象から得られた参照試料の比較可能に定量された抗原特異的活性化である、
(ii)病理学的MS関連自己免疫のない参照対象のセットから得られた参照試料のセットの比較可能に定量された抗原特異的活性化の平均値である、または
(iii)異なる時点に採取された、同じ対象からの試料の比較可能に定量された抗原特異的活性化である、
を含
み、
前記工程aは、IFN-γ、IL-17若しくはIL-22の分泌を測定すること又はT細胞増殖を測定することにより、T細胞応答を決定することを含む、
上記方法。
【請求項5】
抗原特異的活性化が、配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含
み、MS患者のT細胞を抗原特異的に活性化することができる試験抗原、配列番号1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含
み、MS患者のT細胞を抗原特異的に活性化することができる試験抗原、配列番号3と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含
み、MS患者のT細胞を抗原特異的に活性化することができる試験抗原、及び配列番号4と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含
み、MS患者のT細胞を抗原特異的に活性化することができる試験抗原からなる群から選択される2つ、3つ又は4つの試験抗原に対して定量される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
抗原特異的活性化が、各々が請求項2
~4のいずれかに記載の基準を満たす2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個又はそれ以上の異なるT細胞エピトープに対して定量される、請求項2
~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
nが少なくとも11である、請求項2
~4及び
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
T細胞エピトープを含む試験抗原が、配列番号2、配列番号1、配列番号3、又は配列番号4のいずれかに対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含
み、MS患者のT細胞を抗原特異的に活性化することができるペプチド又はペプチド模倣体である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
T細胞エピトープを含む試験抗原が、配列番号2、配列番号1、配列番号3、又は配列番号4のいずれかと同一のアミノ酸配列を含むペプチド又はペプチド模倣体である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
T細胞エピトープを含む
試験抗原が、配列番号2に対して少なくとも80%の配列同一性を有
し、MS患者のT細胞を抗原特異的に活性化することができるペプチドまたはペプチド模倣体である、請求項2
又は3に記載の方法。
【請求項11】
T細胞エピトープを含む
試験抗原が、配列番号1に対して少なくとも80%の配列同一性を有
し、MS患者のT細胞を抗原特異的に活性化することができるペプチドまたはペプチド模倣体である、請求項
4に記載の方法。
【請求項12】
試験試料がPBMC試料である、請求項1~
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか一項に記載の方法であって、
工程aが、
a
-I.試験抗原と試験試料中の抗原提示細胞とを接触させることと、
a-II.抗原提示細胞によって提示された抗原に応答してT細胞の抗原特異的活性化が可能になる条件下で、試験試料中の生存可能なT細胞と、試験抗原と接触させた抗原提示細胞とをインビトロで接触させること
とをさらに含む、上記方法。
【請求項14】
方法が、貪食可能な粒子に緊密に会合した試験抗原を提供することを含む、請求項1~
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程aが、IFN-γ、IL-17またはIL-22の分泌を測定することによりT細胞応答を決定することを含む、請求項1~
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~12、14及び15のいずれか一項に記載の方法であって、工程aが、
a
-III.緊密に会合した試験抗原を有する貪食可能な粒子を提供する工程と、ここで、会合した試験抗原を有する粒子を変性洗浄に供し、後続の工程を妨害しないほどエンドトキシンのレベルを十分に低くし、
a-IV.抗原提示細胞による粒子の貪食を可能にする条件下で、洗浄された粒子と試験試料中の抗原提示細胞とを接触させる工程と、
a-V.抗原提示細胞によって提示された抗原に応答してT細胞の抗原特異的活性化が可能になる条件下で、試験試料中の生存可能なT細胞と、粒子と接触させた抗原提示細胞とをインビトロで接触させる工程
とを含む、
上記方法。
【請求項17】
(i)試験試料の定量された抗原特異的活性化が、参照の少なくとも2倍、3倍、5倍、若しくは10倍である場合、
(ii)試験試料の定量された抗原特異的活性化が、病理学的MS関連自己免疫のない参照対象のセットから得られた比較可能に定量された参照試料のセットの平均よりも、参照試料のセットの標準偏差の2倍だけ高い場合、
(iii)試験試料の定量された抗原特異的活性化が、スチューデントのT検定によって計算された0.05未満のp値を伴って参照よりも統計的に有意に高い場合、又は
(iv)試験試料の定量された抗原特異的活性化が、マン・ホイットニーのU検定によって計算された0.05未満のp値を伴って参照よりも統計的に有意に高い場合、
MS関連自己免疫の程度の増加が結論付けられる、請求項1~
16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
多発性硬化症(MS
)の診断における非in vivo使用のための、ペプチド又はペプチド模倣体を含む医薬組成物であって、ペプチド又はペプチド模倣体が、配列番号2、配列番号1、配列番号3若しくは配列番号4のいずれかと少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含
み、
かつMS患者のT細胞を抗原特異的に活性化することができる、上記医薬組成物。
【請求項19】
多発性硬化症(MS
)の診断における非in vivo使用のための、ペプチド又はペプチド模倣体を含む医薬組成物であって、ペプチド又はペプチド模倣体が、MS抗原に対応する特異的T細胞エピトープを含み、
かつMS患者のT細胞を抗原特異的に活性化することができ、T細胞エピトープは、n個の連続する残基のアミノ酸配列を含み、n個の連続する残基のアミノ酸配列が、
i.配列番号2の残基
43~
67の部分配列と同一であるか、若しくは
ii.配列番号2の残基
43~
67の部分配列に由来し、該配列番号2の残基
43~
67の部分配列と比較してm個以下の残基の置換、欠失及び/又は挿入を有し、
nが少なくとも8であり、mが1である、上記医薬組成物。
【請求項20】
多発性硬化症(MS
)の診断における非in vivo使用のための、ペプチド又はペプチド模倣体を含む医薬組成物であって、ペプチド又はペプチド模倣体が、MS抗原に対応する特異的T細胞エピトープを含み、
かつMS患者のT細胞を抗原特異的に活性化することができ、T細胞エピトープは、n個の連続する残基のアミノ酸配列を含み、n個の連続する残基のアミノ酸配列が、
i.配列番号1の残基
111~
145の部分配列と同一であるか、若しくは
ii.配列番号1の残基
111~
145の部分配列に由来し、該配列番号1の残基
111~
145の部分配列と比較してm個以下の残基の置換、欠失及び/又は挿入を有し、
nが少なくとも8であり、mが1である、上記医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多発性硬化症の治療及び診断に関する。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症
多発性硬化症(MS、ICD10コードG35)は、中枢神経系(CNS)の免疫介在性の慢性疾患である。現在の範例では、多発性硬化症は、脱髄及び軸索破壊をもたらす自己免疫性炎症性疾患であると提案されている。20歳~40歳の若年成人が主に罹患し、世界中で合計250万人が罹患しており、MSは先進国の若者では障害の主要な原因の1つであり、集団内の相当な罹患率の原因であるとともに、その必要なケアのため社会に大きな負担をかける原因となっている。
【0003】
MSは、血液脳関門(BBB)を介したCNSへの自己反応性T細胞の浸潤を特徴とし、BBBでは、抗原提示細胞(APC)によって自己反応性T細胞が活性化されると考えられている。その後、これらの自己反応性T細胞は、MSの典型的な特徴である神経炎症、脱髄及び軸索破壊を引き起こし、特徴的な病理組織学的特徴であるプラークを形成する。局所破壊は、運動、感覚、視覚及び自律神経系を含む多種多様な病理学的臨床症状をもたらす。炎症は通常一過性であり、炎症性エピソードの間にいくらかの再ミエリン化が起こり、増加した神経機能障害の明確な発作(再燃と呼ばれる)を来たし、これに部分回復のエピソードが続く。しかし、時間が経つにつれて、回復が乏しくなり、持続する症状が度重なる。
【0004】
MSのT細胞及び自己抗原
CD4+T細胞及びMS
CD4+T細胞の主な生理学的役割は、MHCクラスII分子を介してAPCによって提示される外来抗原を認識し、その後サイトカインを活性化及び放出して免疫応答を調節することである。各CD4+T細胞クローンは、特異的な抗原に感受性である特異的な細胞表面発現T細胞受容体(TCR)を有する。Tヘルパー細胞と呼ばれることが多いCD4+T細胞は、機能とそれらが産生するサイトカインとに基づいて、さらにサブセットに分けることができる。簡単に言うと、タイプ1ヘルパー(Th1)T細胞の主な機能は、細胞内病原体に対する免疫応答を調整することであり、Th2細胞の主な機能は、寄生虫感染及び細胞外病原体に対する免疫応答を調整することであり、Th17の主な機能は、真菌及び細菌感染に対する免疫応答を調整することである。
【0005】
CD4+T細胞及びそのTCRの目的は、適応免疫応答の一部として、外来病原体に対して特異的であることである。しかし、受容体はコーディング遺伝子のランダムな再配列によって生成されるため、自己構造に特異的なTCRを有するT細胞が発生し、自己反応性が生じる可能性がある。健康な個体では自己反応性T細胞がネガティブ選択を受けて除去されるが、中枢性及び末梢性免疫寛容に欠陥があると、持続性の自己反応性T細胞を生じさせる可能性がある。そのようなCD4+T細胞は、MSの病因に中心的な役割を果たすと考えられている。MHCクラスIIをコードする特定の遺伝子がこの疾患と強く関連しているという事実と、MS病変での多数のCD4+T細胞の検出とは、APCによる抗原提示とそれに続くCD4+T細胞の活性化が、この疾患に必須の役割を果たすことを示唆している。同様に、CD8+T細胞もMS病変に存在し、この疾患の病態生理に果たすCD8+T細胞の正確な役割は不明のままであるが、これらも何らかの役割を果たしている可能性がある。広く使用されているマウスモデル実験的自己免疫性脳炎(EAE)は、MSを模倣し、ミエリン由来ペプチドによりマウスの免疫を介して誘発され、さらに、自己反応性がMSに関与していることを示す。MSなどの臓器特異的自己免疫疾患は、一般にTh1介在性であると考えられてきたが、最近の試験では、Th17細胞が自己免疫応答を同様に促進することができることが示されている。
【0006】
T細胞及びAPCはともに、一般に末梢血単核球(PBMC)と呼ばれる細胞の画分に存在する。PBMCは、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、単球及び樹状細胞を含む末梢血由来の不均一な細胞群である。
【0007】
T細胞のサイトカイン
APCによる活性化により、CD4+T細胞の様々なサブセットが多種多様な異なるサイトカインを産生する。それらの機能は、他の細胞の増殖及び成熟を誘導すること、又は炎症の全体的な強度及び持続時間を調節することであり得る。
【0008】
インターフェロンガンマ(IFNγ)は、Th1細胞によって高度に発現され、Th1細胞の主要産物として作用する多能性の炎症誘発性サイトカインである。IFNγは、他の細胞の細胞傷害活性を促進し、マクロファージを活性化し、MHCクラスI及びIIの発現を調節し、ナイーブT細胞がTh1細胞にさらに分化するのに寄与する。特定の状況下でAPCが抗原特異的CD4+T細胞を活性化すると、大量のIFNγが放出されて、T細胞がTh1に分化するように誘導される。インターロイキン17A(IL-17A)は、CD4+T細胞サブグループTh17の主要なサイトカインであり、他の細胞の炎症誘発性サイトカイン、ケモカイン及びメタロプロテアーゼの産生及び分泌を上方制御する。IL-17AはMSに関与することが示されており、EAEのマウスモデル並びにRA、乾癬及び炎症性腸疾患などの他の自己免疫疾患患者では上方制御されることがわかっている。インターロイキン22(IL-22)は、メモリーCD4+T細胞、Th17細胞及び最近特徴付けられたTh22細胞によって主に発現される活性化T細胞に見出される。IL-17AとともにBBB破壊及びCNS炎症を促進することがわかっており、MSの病因に重要なサイトカインであると考えられている。
【0009】
MSの自己抗原
CD4+T細胞が活性化されるためには、APCによって提示されるその特異的な抗原を認識する必要がある。自己反応性T細胞の場合、抗原は自己タンパク質、いわゆる自己抗原である。MSのいくつかの異なる自己抗原が提案され、検討されている(Elong Ngono A,Pettre S,Salou M,Bahbouhi B,Soulillou JP,Brouard S,et al.Frequency of circulating autoreactive T cells committed to myelin determinants in relapsing-remitting multiple sclerosis patients.Clin Immunol.2012;144(2):117-26)。最も検討されているものには、ミエリン、アストロサイト及びニューロン由来の抗原が挙げられるが、他にも示唆されている(Riedhammer C,Weissert R.Antigen Presentation,Autoantigens,and Immune Regulation in Multiple Sclerosis and Other Autoimmune Diseases.Front Immunol.2015;6:322)。検討された候補自己抗原の中には、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリンオリゴデンドロサイト塩基性タンパク質(MOBP)、CNPase、S100β及びトランスアルドラーゼがあり、MBPが最も徹底的に検討されている。これらの候補に対して、T細胞の自己反応性又は自己抗体が、いくつかのヒトを対象とした試験及び動物モデルで発見されている。ただし、結果は決定的なものではなく、データは整合性を欠いている。証拠を発見するのが困難であるにもかかわらず、自己抗原と、CD4+T細胞のその活性化とが、MSの病因に重要な役割を果たすとなお考えられている(Hohlfeld R,Dornmair K,Meinl E,Wekerle H.The search for the target antigens of multiple sclerosis,part 1:autoreactive CD4+T lymphocytes as pathogenic effectors and therapeutic targets.Lancet Neurol.2015)。
【0010】
T細胞エピトープ
ある抗原に特異的なT細胞は、その抗原のアミノ酸(aa)配列全体を認識するのではなく、その抗原のどこかに含まれるはるかに短い特異的T細胞エピトープを認識する。エピトープは典型的には、MHCクラスI分子において提示される場合は8~11アミノ酸長であり、MCHクラスII分子において提示される場合は13~17アミノ酸長である。APCが抗原をインターナライズすると、抗原がさらに短いペプチド断片に分解され、これが次いで、APC表面のMHC分子を介してT細胞に提示される。抗原のこれらの消化された断片は、潜在的な特異的T細胞エピトープである。
【0011】
抗原特異的免疫療法
抗原特異的免疫療法は、MSの潜在的に効果的な将来の治療法であると考えられている。この治療の目標は、自己抗原特異的疾患を誘発するT細胞の枯渇又は好ましい免疫応答の誘導(制御)のいずれかによって、免疫寛容を誘導することである。これを達成する主な方法には、経口、経皮もしくは皮下注射経路を介して免疫優性ペプチドエピトープなどの自己抗原を寛容原性様式で適用すること、又は抗原特異的T細胞もしくはその受容体をワクチンとして使用して制御応答を誘導することのいずれかがある。様々な手法に共通するテーマは、使用される抗原標的である。この治療戦略は、様々な手法を介してT細胞寛容が誘導され得ることが十分に確立されているという点で、一般的には成功している。MSのマウスモデル、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)では有望な結果が報告されているが、これまでのところ、ヒトを対象とした試験での成功は限られており、効果はないか、あまりない。これの主な理由の1つは、EAEとは異なり、MSの標的自己抗原が未だ十分にわかっておらず、最適な標的又は十分な標的が使用されていなかった可能性があることである;「抗原特異的治療法を発見及び開発する際の主な障害の1つは、もちろん、多発性硬化症の標的抗原がわかっていないことである」(Hohlfeld R,Dornmair K,Meinl E,Wekerle H.The search for the target antigens of multiple sclerosis,part 1:autoreactive CD4+T lymphocytes as pathogenic effectors and therapeutic targets.Lancet Neurol.2015)。
【0012】
知識の欠落
要約すると、APCによるCD4+T細胞の活性化と、それらが認識する自己抗原とが、MSの病因に重要な役割を果たすと考えられている。MHCクラスIIとMSとの関連性、T細胞を標的とする免疫調節療法(例えば、ナタリズマブ)の有効性、MS病変でのCD4+T細胞の発見、及び以前の試験でのいくつかの自己反応性T細胞の発見はいずれも、この仮説を裏付けている。しかし、いくつかの試験が行われているにもかかわらず、どの自己抗原が自己反応性T細胞を誘発し、炎症を引き起こすかは正確にはわかっていない。抗原特異的免疫療法の展望を考慮すると、自己抗原の同定はますます重要になる。しかし、これまでの発見は決定的ではなく、当技術分野ではMS病因に関与する新たな抗原を同定する必要がある。
【0013】
したがって、本発明の目的は、対象の多発性硬化症関連自己免疫を決定するための改善された又は代替の手段及び方法を提供し、MSの治療に使用するための改善された手段、方法及び組成物を提供することである。
【0014】
定義
百分率で表される配列同一性は、比較ウィンドウ上で2つの最適にアラインメントされた配列を比較することによって決定される値として定義され、比較ウィンドウ内の配列の一部は、2つの配列を最適にアラインメントのために、参照配列(付加又は欠失を含まない)と比較して付加又は欠失(すなわち、ギャップ)を含んでもよい。百分率は、両配列内で同一のアミノ酸残基が現れる位置の数を決定してマッチする位置の数を得、マッチする位置の数を比較ウィンドウ内の位置の総数で割り、その結果に100を掛けて配列同一性の百分率を得ることによって算出される。特に指定がない限り、比較ウィンドウは参照される配列の全長である。この文脈では、最適なアラインメントとは、以下の入力パラメータ、すなわち、Word length=3、Matrix=BLOSUM62、Gap cost=11、Gap extension cost=1を用いて、米国国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI Handbook[インターネット]、第16章を参照)による実装されたオンラインとしてのBLASTPアルゴリズムによって作成されるアラインメントである。
【0015】
本発明の文脈では、抗原という用語は、特異的T細胞エピトープを含む分子(典型的にはポリペプチド)を指す。
【0016】
特異的T細胞エピトープという用語は、T細胞によって認識される抗原の一部として定義される。典型的には、特異的T細胞エピトープは、MHCクラスI分子において提示される場合は8~11アミノ酸長及びMCHクラスII分子において提示される場合は13~17アミノ酸長のアミノ酸配列である。
【0017】
MS抗原という用語は、多発性硬化症(MS)の病理に関連する抗原を指す。
【0018】
エンドトキシン、例えばリポ多糖(LPS)は、大腸菌などのグラム陰性菌の外側の細胞壁に見出される共有結合した脂質及び多糖サブユニットを含む。
【0019】
CD4+T細胞又はTヘルパー細胞は、サイトカイン分泌を通じて免疫応答を調整する細胞である。B細胞の抗体クラススイッチングの刺激、細胞傷害性T細胞の増殖又は食細胞の増強など、他の免疫細胞を抑制又は増強することができる。これらは、APC上のMHCクラスIIを介した抗原提示によって活性化され、特定の抗原内の約13~17アミノ酸のストレッチ(いわゆるT細胞エピトープ)に特異的なT細胞受容体(TCR)を発現する。
【0020】
CD8+T細胞又は細胞傷害性T細胞は、腫瘍細胞、感染細胞又は損傷した細胞を死滅させる細胞である。CD4+T細胞とは異なり、活性化のために特別なAPCを必要としない。それらのT細胞受容体は、あらゆる有核細胞に発現するタンパク質であるMHCクラスIによって提示される抗原由来ペプチド(約8~11アミノ酸長)を認識する。
【0021】
抗原特異的T細胞活性化とは、共刺激と組み合わせて、TCRとMHC(HLA)分子上に提示された特定のペプチドとの相互作用を必要とするプロセスである。
【0022】
抗原提示細胞(APC)は、典型的には、樹状細胞(DC)、B細胞又はマクロファージ、細胞外の生物又はタンパク質、すなわち抗原を貪食又はインターナライズする細胞であり、処理後にMHCクラスII上の抗原由来ペプチドをCD4+T細胞に提示する。血液中では、単球が最も豊富な抗原提示細胞である。
【0023】
貪食可能な粒子とは、免疫系の細胞、特に単球が貪食することができる粒子として定義される。
【0024】
末梢血単核球(PBMC)は、全血の密度勾配遠心分離によって調製されたヒト血液の画分である。PBMC画分は、主に、リンパ球(70~90%)及び単球(10~30%)からなり、赤血球、顆粒球及び血漿は除去されている。
【0025】
タンパク質エピトープシグネチャータグ(PrEST)、ヒトタンパク質の固有の部分を表す短い組換え10~12kDaペプチド(Lindskog M,Rockberg J,Uhlen M,Sterky F.Selection of protein epitopes for antibody production.Biotechniques.2005;38(5):723-7)。
【0026】
本出願の文脈では、ペプチド模倣体という用語は、ペプチドを構造的に模倣するように設計されているが、いくつかの点で異なる又は改善された特性を有するペプチド様ポリマー鎖として定義される。
【0027】
本文脈では、治療という用語は、わずかな軽減、実質的な軽減、大幅な軽減並びに治癒を含むあらゆる程度の軽減を含め、治療すべき症状に苦しむ対象又は患者に有益な効果をもたらす治療を指す。好ましくは、軽減の程度は少なくともわずかな軽減である。MSは一時的な再燃性の特徴を有する疾患であるため、本文脈での治療とは、再燃の予防又は再燃の可能性の低減も指す。
【0028】
本文脈では、予防という用語は、症状を発症又は再発症する可能性のわずかな、実質的な、又は大幅な低減並びに全体的な予防を含め、予防すべき症状を発症する可能性又は症状が再燃する可能性にあらゆる程度の低減をもたらす予防措置を指す。好ましくは、可能性の低減の程度は、少なくともわずかな低減である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】125種類のタンパク質のライブラリーに対する多発性硬化症患者の自己抗原スクリーニング。1~2種類の異なるヒトタンパク質由来のPrESTを含む抗原プールを用いて刺激した場合の、MS患者のPBMCからのT細胞活性化と健常対照からのPBMCの活性化との比較。パネルA、IFNγ-FluoroSpotによる活性化決定。パネルB、IL17-FluoroSpotによる活性化決定。パネルC、IL22-FluoroSpotによる活性化決定。患者のT細胞は、ライブラリー内の特定のタンパク質に対して著しく反応する。白四角及び黒丸はそれぞれ、患者及び対照のPBMCの平均活性化を示し、ひげ線は平均のCI95%を示す。双方向ANOVAを使用して決定されたP値。アスタリスクはP値を示す。
【
図2】MSの被疑自己抗原を用いて刺激した場合の多発性硬化症(MS)患者及び健常対照のT細胞活性化を比較するIFNγ/IL-22/IL-17 Fluorospotアッセイ。この適用に含まれる新たなMSマーカーのそれぞれを表す、
図1と同じデータに基づく結果。患者16例と対照9例とを含めた。パネルA、FABP7(配列番号1及び6)及びCYB561D2を含む抗原プール18を用いて刺激した場合の活性化。パネルB、PROK2(配列番号:2)及びNOVA2を含む抗原プール23を用いて刺激した場合の活性化。パネルC、RTN3(配列番号3)及びSDK2を含む抗原プール26を用いて刺激した場合の活性化。パネルD、SNAP91(配列番号4)及びSNAP25を含む抗原プール29を用いて刺激した場合の活性化。P値はマン・ホイットニーのU検定を用いて決定し、見出された際に記載されている。ひげ線は平均のCI95%を示す。
【
図3】抗原スクリーニングからの抗原プールの分割。患者と対照との間で活性化に有意差が検出されたスクリーニング実験からの抗原プールをさらに分割した。これらのプールのそれぞれには、図中の番号1及び番号2と名付けられた2つの異なるヒトタンパク質由来のPrESTを含めた。IFNγ/IL-22/IL-17 Fluorospotでは、別個の抗原を用いて、スクリーニングで高度の活性化を示して反応した4例の患者を再度試験した。試験はいずれも3連で行った。各ウェル内の活性化された細胞の数を比較する、スチューデントのt検定によって決定されたP値(1抗原当たりn=12)。ひげ線はSDを示す。陽性抗原は、以下の通りであった。18の番号2-FABP7。23の番号2-PROK2。26の番号1-RTN3。29の番号2-SNAP91。
【
図4】患者間の反応性プロファイル。患者間に観察された活性化のパターン。各線は、1例の患者のデータ点を接続する。プロファイル1a、1b及び3では、点線は対照平均+2SDを示す。プロファイル2では、点線は3例の患者の平均IL-22プロファイルを示す。抗原26(RTN3)に顕著に応答したのは3例の患者のみであり、IFNγ産生細胞のみが活性化したことから、抗原26に関する前述の図の結果は、これらの特定の患者を示すのに最適ではない。しかし、図は、本明細書中でプロファイル2と名付けられた、この抗原に応答する別個の患者群を明確に示している。このようなパターンは、健常対照では確認されなかった。
【
図5】診断マーカーとして使用した場合の個々の抗原のROC曲線、感度及び特異性。個々に、FABP7(プール18から)は疾患のマーカーとして機能する最大の有望性を示し、それぞれ75及び85%の感度及び特異性に達する。A~Dは、単独で使用される各抗原のROC曲線を示す。
図5Eでは、PROK2又はSNAP91のいずれかに対して活性化された細胞の数(特定の個体ごとに高い方の数(患者及び対照について同じ))を用いた。最も高い応答のみを選択し分析するこの方法では、それらを個別に分析するよりもさらに優れたROC曲線が得られた。(PROK2及びSNAP91の)平均値を使用すると、同様の改善されたROC曲線が得られたが、最高値のみを使用するほど良くはなかった。
図5Fは、抗原18の全長組換えバージョン、FABP7アイソフォーム2(配列番号1)に基づく。
【
図6】全長組換えFABP7アイソフォーム2を用いて刺激した場合の多発性硬化症(MS)患者及び健常対照のT細胞活性化を比較するIFNγ/IL-22/IL-17 Fluorospotアッセイ。13例の患者(このうち7例は以前に試験登録した患者の初回サンプリングから1年後の新たなサンプリングからなり、6例は以前に試験していない(白四角))及び7例の対照(以前の試験に含めていない)を、FABP7アイソフォーム2タンパク質(配列番号1)の社内で生産した組換えバージョンを用いてさらに試験した。マン・ホイットニー検定を使用して計算されたP値。ひげ線は平均及びCI95%を示す。
【
図7】自己抗原由来の重複ペプチドを用いて患者の細胞を刺激するIFNγ/IL-22/IL-17 Fluorospotアッセイ。FABP7アイソフォーム2及びPROK2全体に及ぶ重複ペプチド(15アミノ酸長、10アミノ酸重複)を、それぞれ5~7個のペプチドを含むプールにプールした。FluoroSpotアッセイで、これらに対して6例のMS患者の細胞を試験した。パネルA、FABP7(配列番号1)由来の重複ペプチドの6つの異なるプールを用いて刺激した場合の活性化。パネルB、PROK2(配列番号2)由来の重複ペプチドの3つの異なるプールを用いて刺激した場合の活性化。詳細なペプチド情報を表4に示す。ひげ線はCI95%を示す。グラフ内の負の数の活性化T細胞は、平均応答が陰性対照よりも低いことに起因する。
【
図8】全長組換え抗原(FABP7、PROK2、RTN3、SNAP91)を用いて刺激した場合の多発性硬化症(MS)患者及び健常対照のT細胞活性化を比較するIFNγ/IL-22/IL-17 Fluorospotアッセイ。FluoroSpotアッセイで、組換え全長バージョンの自己抗原に対するT細胞活性化について、52例の多発性硬化症患者と24例の健常対照とを試験した。A:FABP7アイソフォーム2(配列番号1)。B:PROK2(配列番号2)。C:RTN3(配列番号3)。D:SNAP91(配列番号4)。マン・ホイットニー検定を使用して計算されたP値。ひげ線は平均及びCI95%を示す。
【
図9】診断マーカーとして使用した場合の全長抗原のROC曲線、感度及び特異性。個々に、4つの抗原は疾患の診断マーカーとして同様に機能し、いずれも95%の特異性で約50%の感度に達する。A:FABP7アイソフォーム2。B:PROK2。C:RTN3。D:SNAP91。E:4つの抗原すべての組合せを診断試験として使用すると、さらに高い感度及び特異性が得られる。具体的には、4つの抗原に対する平均応答に対するIFNγ応答の平方根で割ったIL-17の比率を利用すると、>95%の特異性で70%の感度が得られる。
【
図10】HLA DRB5 01:01に対するFABP7及びPROK2ペプチドの結合親和性の程度の例。競合結合アッセイで、HLA DRB5 01:01に関連する多発性硬化症に対する親和性について、FABP7(配列番号1及び6)及びPROK2(配列番号2)全体に及ぶ重複ペプチドを試験した。親和性の程度を4つのカテゴリーに分け、代表的な結合曲線を示す:A:-結合なし、B:+弱い結合、C:++中程度の結合、D:+++強い結合。黒丸は参照H1N1インフルエンザペプチド結合を示し、三角は試験された自己抗原ペプチドを示す。表4に全結果を示す。
【発明の概要】
【0030】
本発明は、本発明者らによって、PCT/欧州特許第2016/081141号明細書に以前に開示されたT細胞反応性プラットフォーム上で行われたスクリーニングからの発見に基づいている。
【0031】
45プールの125の候補抗原のライブラリーに対して、多発性硬化症(MS)患者及び対照から得られたT細胞の試料をスクリーニングした(例1)。陽性抗原プール18、23、26及び29を個々のタンパク質に分けて再試験し、MSの新規自己抗原としてのFABP7(配列番号1)、PROK2(配列番号2)、RTN3(配列番号3)及びSNAP91(配列番号4)の同定を可能にした(例2)。また、個々の患者が、新規自己抗原に対するいくつかの異なるタイプの反応性プロファイルを示したことが発見された(例3)。
【0032】
新規自己抗原の診断的有用性は、レシーバーオペレーター特性(ROC)分析によって実証された(例4)。個々の抗原のうち、感度及び特異性(常にトレードオフ)は、75%の感度及び85%の特異性を示すFABP7が最も有望であった。感度及び特異性は、4つの抗原すべての組合せが最も有望であり、感度は70%、特異性は>95%であった。
【0033】
各抗原の全長組換えバージョンを試験することによって自己抗原をさらに検証し(例7)、FABP7及びPROK2の配列全体を網羅する重複ペプチド(15アミノ酸、10アミノ酸重複)を使用して、特異的T細胞エピトープの同定の原理を実証した(例6)。さらに、異なるペプチド-エピトープのHLA結合特性を実証した(例6)。
【0034】
先行技術では、疾患関連T細胞エピトープを含む寛容原性組成物(tolerogenic composition)を用いてMSを首尾よく治療することが可能であることが実証されたことを考えると、本発明者らは、自己抗原の発見がMSの新たな治療をさらに提供することを認識した(例8を参照)。
【0035】
背景の節で述べたように、T細胞寛容を誘導する方法は知られているが、MSの治療は、T細胞寛容が誘導され得る好適な抗原の欠如によって妨げられてきた。本発明のMSの治療の生物学的メカニズムは、抗原特異的T細胞寛容の誘導に基づいており、これはこの分野で広く受け入れられている。
【0036】
当初の学術研究は、別個の実体(それらの天然の生物学的背景から)としての4つの新規自己抗原の概念に基づいていたが、その後、診断及び治療の両方に用いられるT細胞エピトープの性質が短いこと、並びに4つすべての自己抗原を組み合わせることによって診断結果が改善されるという事実(ROC解析)を考慮すると、本発明で用いるための特異的T細胞エピトープ(配列番号5)の単一の供給源として、4つすべての新規自己抗原のプールされた配列を考慮することが可能かつ有利であることが認識された。配列番号5の配列は、FABP7アイソフォーム2(配列番号1)、PROK2(配列番号2)、RTN3(配列番号3)、SNAP91(配列番号4)及びFABP7アイソフォーム1の固有の部分(配列番号6)の組合せである。
【0037】
本発明は、具体的には以下の項目に関する。以下の項目に開示された主題は、この主題が特許請求の範囲に開示された場合と同じ方法で開示されているものとみなされるべきである。
【0038】
1.配列番号5のアミノ酸配列に含まれる特異的T細胞エピトープに対応する内因性エピトープに対してT細胞自己反応性を示すMS患者の多発性硬化症(MS)の治療方法に使用するための寛容原性組成物であって、
組成物が、n個の連続するアミノ酸残基の配列を含む治療用T細胞エピトープを含み、n個の連続するアミノ酸残基の配列が、
a.配列番号5の部分配列(sub-sequence)と同一であるか、
b.m個以下の残基の置換、欠失及び/又は挿入により配列番号5の部分配列とは異なり、
nが少なくとも8であり、mが0、1又は2である寛容原性組成物。
【0039】
2.配列番号5のアミノ酸配列に含まれる特異的T細胞エピトープに対応する内因性エピトープに対してT細胞自己反応性を示すMS患者の多発性硬化症(MS)の治療方法に使用するための寛容原性組成物であって、
組成物が、n個の連続するアミノ酸残基の配列を含む治療用T細胞エピトープをコードする核酸を含み、n個の連続するアミノ酸残基の配列が、
a.配列番号5の部分配列と同一であるか、
b.m個以下の残基の置換、欠失及び/又は挿入により配列番号5の部分配列とは異なり、
nが少なくとも8であり、mが0、1又は2である寛容原性組成物。
【0040】
3.配列番号5のアミノ酸配列に含まれる特異的T細胞エピトープに対応する内因性エピトープに対してT細胞自己反応性を示すMS患者の多発性硬化症(MS)の治療方法に使用するための寛容原性組成物であって、
組成物が、n個の連続するアミノ酸残基の配列を含む治療用T細胞エピトープにエクスビボで曝露された抗原提示細胞を含み、n個の連続するアミノ酸残基の配列が、
a.配列番号5の部分配列と同一であるか、
b.m個以下の残基の置換、欠失及び/又は挿入により配列番号5の部分配列とは異なり、
nが少なくとも8であり、mが0、1又は2である寛容原性組成物。
【0041】
4.治療方法が、配列番号5のアミノ酸配列に含まれるT細胞エピトープに対する患者のT細胞自己反応性を決定することを含む、項目1~3のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0042】
5.決定が、項目43~110のいずれか一項目に記載の方法を用いて実行される、項目4に記載の使用のための組成物。
【0043】
6.部分配列が配列番号5の残基1~166に含まれる、項目1~5のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0044】
7.部分配列が配列番号5の残基167~295に含まれる、項目1~5のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0045】
8.部分配列が配列番号5の残基296~1327に含まれる、項目1~5のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0046】
9.部分配列が配列番号5の残基1328~2234に含まれる、項目1~5のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0047】
10.部分配列が配列番号5の残基2235~2250に含まれる、項目1~5のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0048】
11.部分配列が配列番号5の残基1~2234に含まれる、項目1~5のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0049】
12.部分配列が表4のペプチドの配列のいずれか1つに含まれる、項目1~5のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0050】
13.nが少なくとも11である、項目1~12のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0051】
14.nが少なくとも13である、項目1~13のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0052】
15.nが少なくとも15である、項目1~14のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0053】
16.nが少なくとも17である、項目1~15のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0054】
17.nが少なくとも19である、項目1~16のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0055】
18.nが少なくとも50、少なくとも75、最も好ましくは少なくとも100である、項目1~17のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0056】
19.mが2である、項目1~18のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0057】
20.mが1である、項目1~18のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0058】
21.mが0である、項目1~18のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0059】
22.上記T細胞エピトープが、m個以下の残基の置換により部分配列とは異なり、部分配列と比較して置換又は欠失を含まない、項目1~21のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0060】
23.治療用T細胞エピトープがペプチド又はペプチド模倣体である、項目1もしくは3又はそれに従属する任意の項目に記載の使用のための組成物。
【0061】
24.治療用T細胞エピトープが、配列番号5の部分配列に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の配列同一性を有するペプチド又はペプチド模倣体である、項目23に記載の使用のための組成物。
【0062】
25.組成物が、各々が項目1に記載の基準を満たす2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個又はそれ以上の異なる治療用T細胞エピトープを含む、項目1又はそれに従属する任意の項目に記載の使用のための組成物。
【0063】
26.組成物が、各々が項目2に記載の基準を満たす2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個又はそれ以上の異なる治療用T細胞エピトープをコードする核酸を含む、項目2又はそれに従属する任意の項目に記載の使用のための組成物。
【0064】
27.抗原提示細胞が、各々が項目3に記載の基準を満たす2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個又はそれ以上の異なる治療用T細胞エピトープに曝露されている、項目3又はそれに従属する任意の項目に記載の使用のための組成物。
【0065】
28.異なる治療用T細胞エピトープが、項目6~11で指定された配列区間(sequence interval)のうちの1個、2個、3個、4個、5個又は6個から選択される、項目25~27のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0066】
29.組成物が、生体適合性ポリマー、粒子又は細胞などの固体担体に結合した治療用T細胞エピトープを含む、項目1又はそれに従属する任意の項目に記載の使用のための組成物。
【0067】
30.結合が共有結合によるものである、項目29に記載の使用のための組成物。
【0068】
31.組成物が、患者に上記治療用T細胞エピトープに対するT細胞寛容を誘導するために製剤化される、項目1~30のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0069】
32.組成物が、上記内因性エピトープと同じT細胞受容体に特異的に結合することができる治療用T細胞エピトープを含む、項目1又はそれに従属する任意の項目に記載の使用のための組成物。
【0070】
33.組成物が、上記内因性エピトープと同じT細胞受容体に特異的に結合することができる治療用T細胞エピトープをコードする核酸を含む、項目2又はそれに従属する任意の項目に記載の使用のための組成物。
【0071】
34.組成物が、上記内因性エピトープと同じT細胞受容体に特異的に結合することができる治療用T細胞エピトープに曝露された抗原提示細胞を含む、項目3又はそれに従属する任意の項目に記載の使用のための組成物。
【0072】
35.方法が、患者がT細胞自己反応性を示すエピトープに治療用T細胞エピトープが対応するように、治療用T細胞エピトープを選択することを含む、項目1~34のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0073】
36.治療用T細胞エピトープが、上記内因性エピトープと同じTCRに治療用T細胞エピトープが特異的に結合することができることに基づいて選択される、項目35に記載の使用のための組成物。
【0074】
37.治療方法が、対象に組成物を寛容原性様式で投与し、それにより患者の上記T細胞エピトープに対するT細胞寛容を誘導することを含む、項目1~36のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0075】
38.治療方法が、組成物を経口投与、経粘膜投与、皮内投与、経皮投与又は皮下投与することを含む、項目1~37のいずれか一項目に記載の使用のための組成物。
【0076】
39.治療方法が、抗原提示細胞に組成物をインビトロで投与し、続いて上記抗原提示細胞を患者に投与することを含む、項目1もしくは2又はそれに従属する任意の項目に記載の使用のための組成物。
【0077】
40.上記核酸が、細胞、好ましくは抗原提示細胞での発現を可能にするプロモーターに作動可能に結合したベクターに含まれる、項目2又はそれに従属する任意の項目に記載の使用のための組成物。
【0078】
41.上記ベクターが遺伝子治療ベクター又はウイルスベクターである、項目40に記載の使用のための組成物。
【0079】
42.抗原提示細胞が、樹状細胞、単球、マクロファージ、B細胞(好ましくはPBMCに由来する)又はミクログリアである、項目3又はそれに従属する任意の項目に記載の使用のための組成物。
【0080】
43.被験者の多発性硬化症(MS)関連自己免疫の程度を決定する方法であって、
a.生存可能なT細胞を含む、被験者に由来する試験試料を提供することと、
b.T細胞エピトープを含む試験抗原に応答した試験試料のT細胞の抗原特異的活性化をインビトロで定量することと、ここで、上記T細胞エピトープは、n個の連続する残基のアミノ酸配列を含み、n個の連続する残基のアミノ酸配列が、
i.配列番号5の部分配列と同一であるか、
ii.m個以下の残基の置換、欠失及び/又は挿入により配列番号5の部分配列とは異なり、
nが少なくとも8であり、mが0、1又は2であり、
c.定量された抗原特異的活性化と、関連する参照とを比較して、被験者のMS関連自己免疫の程度を決定することとを含む方法。
【0081】
44.部分配列が、配列番号5の残基1~166に含まれる、項目43に記載の方法。
【0082】
45.部分配列が、配列番号5の残基167~295に含まれる、項目43に記載の方法。
【0083】
46.部分配列が、配列番号5の残基296~1327に含まれる、項目43に記載の方法。
【0084】
47.部分配列が、配列番号5の残基1328~2234に含まれる、項目43に記載の方法。
【0085】
48.部分配列が、配列番号5の残基2235~2250に含まれる、項目43に記載の方法。
【0086】
49.部分配列が、配列番号5の残基1~2234に含まれる、項目43に記載の方法。
【0087】
50.部分配列が、表4のペプチドの配列のいずれか1つに含まれる、項目43に記載の方法。
【0088】
51.抗原特異的活性化が、各々が項目43に記載の基準を満たす2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個又はそれ以上の異なるT細胞エピトープに対して定量される、項目43~50の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0089】
52.異なるT細胞エピトープが、項目44~49で指定された配列区間のうちの1個、2個、3個、4個、5個又は6個から選択される、項目51に記載の方法。
【0090】
53.抗原特異的活性化が、FABP7(配列番号1)、PROK2(配列番号2)、RTN3(配列番号3)及びSNAP91(配列番号4)からなる群から選択される異なるMS抗原に対応する特異的T細胞エピトープをそれぞれ含む少なくとも2つ、3つ又は4つの試験抗原に対して定量される、項目43~52の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0091】
54.上記部分配列が、FABP7(配列番号1)残基1~82の配列に含まれる、項目43~53の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0092】
55.上記部分配列が、FABP7(配列番号1)残基83~166の配列に含まれる、項目43~54の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0093】
56.上記部分配列が、FABP7(配列番号1)残基105~166の配列に含まれる、項目43~55の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0094】
57.上記部分配列が、PROK2(配列番号2)残基34~74の配列に含まれる、項目43~56の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0095】
58.上記部分配列が、PROK2(配列番号2)残基106~128の配列に含まれる、項目43~57の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0096】
59.上記部分配列が、RTN3(配列番号3)残基81~217の配列に含まれる、項目43~58の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0097】
60.上記部分配列が、RTN3(配列番号3)残基345~483の配列に含まれる、項目43~59の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0098】
61.上記部分配列が、SNAP91(配列番号4)残基378~480の配列に含まれる、項目43~60の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0099】
62.上記部分配列が、SNAP91(配列番号4)残基481~572の配列に含まれる、項目43~61の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0100】
63.上記部分配列が、SNAP91(配列番号4)残基584~691の配列に含まれる、項目43~62の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0101】
64.nが少なくとも11である、項目43~63の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0102】
65.nが少なくとも13である、項目43~64の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0103】
66.nが少なくとも15である、項目43~65の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0104】
67.nが少なくとも17である、項目43~66の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0105】
68.nが少なくとも19である、項目43~67の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0106】
69.nが少なくとも50、少なくとも75、最も好ましくは少なくとも100である、項目43~68の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0107】
70.mが2である、項目43~69の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0108】
71.mが1である、項目43~69のいずれか一項目に記載の方法。
【0109】
72.mが0である、項目43~69のいずれか一項目に記載の方法。
【0110】
73.上記T細胞エピトープが、m個以下の残基の置換により、選択されたMS抗原の部分配列とは異なり、部分配列と比較して置換又は欠失を含まない、項目43~72の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0111】
74.上記T細胞エピトープがペプチド又はペプチド模倣体である、項目43~73の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0112】
75.特異的T細胞エピトープを含む抗原が、配列番号1~4、配列番号5又は配列番号6のいずれかに対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の配列同一性を有するペプチド又はペプチド模倣体である、項目43~74の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0113】
76.対象が診断されたMS患者である、項目43~75の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0114】
77.対象がMSを有する疑いのある個体である、項目43~75のいずれか一項目に記載の方法。
【0115】
78.対象がヒトである、項目43~77の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0116】
79.試験試料が血液試料に由来する、項目43~78の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0117】
80.試験試料がPBMC試料である、項目43~79の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0118】
81.試験試料が抗原提示細胞をさらに含む、項目43~80の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0119】
82. 項目43~81の方法項目のいずれか一項目に記載の方法であって、
a.生存可能な抗原提示細胞を提供することと、
b.試験抗原と抗原提示細胞とを接触させることと、
c.抗原提示細胞によって提示された抗原に応答してT細胞の抗原特異的活性化が可能になる条件下で、試験試料と、試験抗原と接触させた抗原提示細胞とをインビトロで接触させることと、
d.試験試料の抗原特異的T細胞活性化を定量することとをさらに含む方法。
【0120】
83.方法が、貪食可能な粒子に緊密に会合した試験抗原を提供することを含む、項目43~82の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0121】
84.方法が、(a’)貪食可能な粒子に試験抗原を緊密に会合させる工程、及び/又は(a’’)粒子に会合した試験抗原を変性洗浄に供し、後続の工程を妨害しないほどエンドトキシンのレベルを十分に低くする工程をさらに含む、項目83に記載の方法。
【0122】
85.粒子が、5.6μm未満、好ましくは4μm未満、さらに好ましくは3μm未満、さらに一層好ましくは0.5~2μmの区間又は最も好ましくは約1μmの最大寸法を有する、項目83~84のいずれか一項目に記載の方法。
【0123】
86.粒子が実質的に球形である、項目85に記載の方法。
【0124】
87.変性洗浄が、会合した試験抗原を有する粒子を、少なくともpH13、さらに好ましくは少なくともpH14、最も好ましくは少なくともpH14.3などの高pHにさらすことを含む、項目84~86のいずれか一項目に記載の方法。
【0125】
88.変性洗浄が、会合した試験抗原を有する粒子を低pHにさらすことを含む、項目84~87のいずれか一項目に記載の方法。
【0126】
89.変性洗浄が、会合した試験抗原を有する粒子を少なくとも90℃、さらに好ましくは少なくとも92℃、最も好ましくは少なくとも95°Cなどの高温にさらすことを含む、項目84~88のいずれか一項目に記載の方法。
【0127】
90.変性洗浄が、会合した試験抗原を有する粒子を、少なくとも5M、6M、7M又は8Mなどの十分な濃度で尿素又は塩酸グアニジンなどの変性剤にさらすことを含む、項目84~89のいずれか一項目に記載の方法。
【0128】
91.変性洗浄により、試験抗原中のエンドトキシン量が、該方法ではエンドトキシンの最終濃度が100pg/ml未満、好ましくは50pg/ml未満、さらに好ましくは25pg/ml未満、最も好ましくは10pg/ml未満になるような量になる、項目84~90のいずれか一項目に記載の方法。
【0129】
92.粒子が常磁性特性を有する、項目83~91のいずれか一項目に記載の方法。
【0130】
93.試験抗原が粒子に共有結合しているか、金属キレートを介して粒子に結合している、項目83~92のいずれか一項目に記載の方法。
【0131】
94.試験試料の抗原特異的T細胞活性化の定量が、ELISpotもしくはFluoroSpot技術を使用して、又はT細胞増殖を測定することにより行われる、項目43~93の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0132】
95.試験試料の抗原特異的T細胞活性化の定量が、IFN-γの分泌を測定することによりT細胞応答を決定することを含む、項目43~94の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0133】
96.試験試料の抗原特異的T細胞活性化の定量が、IL-17の分泌を測定することによりT細胞応答を決定することを含む、項目43~95の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0134】
97.試験試料の抗原特異的T細胞活性化の定量が、IL-22の分泌を測定することによりT細胞応答を決定することを含む、項目43~96の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0135】
98.試験細胞試料のT細胞活性化の定量が、試料中の活性化T細胞の割合を決定することを含む、項目43~97の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0136】
99.抗原特異的T細胞活性化の定量が、
a.緊密に会合した試験抗原を有する貪食可能な粒子を提供する工程と、ここで、会合した試験抗原を有する粒子を変性洗浄に供し、後続の工程を妨害しないほどエンドトキシンのレベルを十分に低くし、
b.生存可能な抗原提示細胞を提供する工程と、
c.抗原提示細胞による粒子の貪食を可能にする条件下で、洗浄された粒子と抗原提示細胞とを接触させる工程と、
d.生存可能なT細胞を含むアッセイ対象の試験試料を提供する工程と、
e.抗原提示細胞によって提示された抗原に応答してT細胞の抗原特異的活性化が可能になる条件下で、試験試料と、粒子と接触させた抗原提示細胞とをインビトロで接触させる工程と、
f.試験試料の抗原特異的T細胞活性化を定量する工程とを含む、項目43~98の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0137】
100.参照が、病理学的MS関連自己免疫のない参照対象から得られた参照試料の比較可能に定量された抗原特異的活性化である、項目43~99の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0138】
101.参照が、病理学的MS関連自己免疫のない参照対象のセットから得られた参照試料のセットの比較可能に定量された抗原特異的活性化の平均値である、項目43~99のいずれか一項目に記載の方法。
【0139】
102.セットが、少なくとも10例の参照対象を含む、項目101に記載の方法。
【0140】
103.参照が、異なる時点に採取された、同じ対象から得られた試料の比較可能に定量された抗原特異的活性化である、項目43~99のいずれか一項目に記載の方法。
【0141】
104.試験試料の定量された抗原特異的活性化が、参照の少なくとも2倍、好ましくは3倍、さらに好ましくは5倍、最も好ましくは10倍である場合、MS関連自己免疫の程度の増加が結論付けられる、項目43~103の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0142】
105.試験試料の定量された抗原特異的活性化が、病理学的MS関連自己免疫のない参照対象のセットから得られた比較可能に定量された参照試料のセットの平均よりも、参照試料のセットの標準偏差の2倍だけ高い場合、MS関連自己免疫の程度の増加が結論付けられる、項目43~104の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0143】
106.試験試料の定量された抗原特異的活性化が、スチューデントのT検定によって計算された0.05未満のp値を伴って参照よりも統計的に有意に高い場合、MS関連自己免疫の程度の増加が結論付けられる、項目43~105の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0144】
107.試験試料の定量された抗原特異的活性化が、マン・ホイットニーのU検定によって計算された0.05未満のp値を伴って参照よりも統計的に有意に高い場合、MS関連自己免疫の程度の増加が結論付けられる、項目43~106の方法項目のいずれか一項目に記載の方法。
【0145】
108. 項目43~107の方法項目のいずれか一項目に記載の方法であって、
a.方法が、対象のMSを診断するためのものであり、
b.参照が、病理学的多発性硬化症関連自己免疫のない参照対象の比較可能に定量された抗原特異的活性化の代表であり、
c.参照と比較して、試験試料の定量された抗原特異的活性化の程度が高ければ、被験者が多発性硬化症であることを示す方法。
【0146】
109.項目43~108の方法項目のいずれか一項目に記載の方法であって、
a.方法が、対象のMSの経過を追跡するためのものであり、
b.参照が、同じ対象から異なる時点に採取された試料の比較可能に定量された抗原特異的活性化の代表であり、
c.参照と比較して、試験試料の定量された抗原特異的活性化の程度が高ければ、被験者の多発性硬化症疾患活動性が高いことを示し、逆もまた同様である方法。
【0147】
110. 項目43~109の方法項目のいずれか一項目に記載の方法であって、
a.方法が、対象のMS経過の予後を確認するためのものであり、
b.参照が、同じ対象から異なる時点に採取された試料の比較可能に定量された抗原特異的活性化の代表であり、
c.参照と比較して、試験試料の定量された抗原特異的活性化の程度が高ければ、被験者の多発性硬化症疾患活動性が増大していることを示し、逆もまた同様である方法。
【0148】
111. 項目43~110の方法項目のいずれか一項目に記載の方法であって、
a.方法が、治療的処置に対する対象の応答を評価するためのものであり、
b.参照が、評価対象の治療的処置の実施前に同じ対象から採取された試料の比較可能に定量された抗原特異的活性化の代表であり、
c.試験試料が、治療的処置の開始後、同じ対象から得られたものであり、
d.参照と比較して、試験試料の定量された抗原特異的活性化の程度が低ければ、被験者の多発性硬化症疾患活動性に対する治療効果を示し、定量された抗原特異的活性化の程度が変わらないか高ければ、被験者の多発性硬化症疾患活動性に対する治療効果の欠如を示す方法。
【0149】
112.MSの診断又は治療でのペプチド又はペプチド模倣体の使用であって、ペプチド又はペプチド模倣体がMS抗原に対応する特異的T細胞エピトープを含み、上記T細胞エピトープが、m個以下の残基の置換、欠失及び/又は挿入により配列番号5の部分配列とは異なる、n個の連続する残基のアミノ酸配列を含み、mが0、1又は2である使用。
【0150】
113.部分配列が、配列番号5の残基1~166、配列番号5の残基167~295、配列番号5の残基296~1327、配列番号5の残基1328~2234、配列番号5の残基2235~2250及び/又は配列番号5の残基1~2234から選択される、項目112に記載の使用。
【0151】
114.nが少なくとも11である、項目112又は113に記載の使用。
【0152】
115.nが少なくとも13である、項目112又は113に記載の使用。
【0153】
116.nが少なくとも15である、項目112又は113に記載の使用。
【0154】
117.nが少なくとも17である、項目112又は113に記載の使用。
【0155】
118.nが少なくとも19である、項目112又は113に記載の使用。
【0156】
119.mが1である、項目112~118のいずれか一項目に記載の使用。
【0157】
120.mが0である、項目112~118のいずれか一項目に記載の使用。
【0158】
詳細な説明
多発性硬化症の治療に使用するための寛容原性組成物
第1の態様では、本発明は、配列番号5のアミノ酸配列に含まれる特異的T細胞エピトープに対応する内因性エピトープに対してT細胞自己反応性を示すMS患者の多発性硬化症(MS)の治療方法に使用するための寛容原性組成物を提供し、
組成物は、n個の連続するアミノ酸残基の配列を含む治療用T細胞エピトープを含み、n個の連続するアミノ酸残基の配列は、
a.配列番号5の部分配列と同一であるか、
b.m個以下の残基の置換、欠失及び/又は挿入により配列番号5の部分配列とは異なり、
nは少なくとも8であり、mは0、1又は2である。
【0159】
第2の態様では、配列番号5のアミノ酸配列に含まれる特異的T細胞エピトープに対応する内因性エピトープに対してT細胞自己反応性を示すMS患者の多発性硬化症(MS)の治療方法に使用するための寛容原性組成物が提供され、組成物は、第1の態様に関して定義された治療用T細胞エピトープをコードする核酸を含む。
【0160】
第3の態様では、配列番号5のアミノ酸配列に含まれる特異的T細胞エピトープに対応する内因性エピトープに対してT細胞自己反応性を示すMS患者の多発性硬化症(MS)の治療方法に使用するための寛容原性組成物が提供され、組成物は、第1の態様に関して定義された治療用T細胞エピトープにエクスビボで曝露された抗原提示細胞を含む。
【0161】
治療方法が患者に組成物を投与することを含むことを意味すると理解されるべきである。
【0162】
治療方法は、好ましくは、本発明の第4の態様として以下に開示される方法により、組成物を投与する前に、配列番号5のアミノ酸配列に含まれる特異的T細胞エピトープに対する患者のT細胞自己反応性を決定する工程を含んでもよい。
【0163】
患者の抗原提示細胞(APC)が比較的大きなを消化し、断片をT細胞に提示することを考慮すれば、実質的にあらゆる比較的大きなポリペプチドの一部として(例えば、遺伝子工学又は化学ペプチド合成によって)、治療用T細胞エピトープを含めることができることに留意すべきである。言い換えれば、APCによる消化のために、治療用T細胞エピトープが見出される配列状況は、ほとんど又は全く変化することはない。
【0164】
第1の態様の組成物が、各々が上記の基準を満たす2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、30、40、50、100又はそれ以上などの複数の治療用T細胞エピトープを含むことが好ましい。上記及び背景の節で述べたように、抗原提示細胞は、抗原提示のための任意のタンパク質を小さな断片に消化するため、同じ治療の枠組み内で使用される比較的大きなポリペプチド又はペプチド模倣体に1つ以上の治療用T細胞エピトープを含めることが可能であるか、さらに好ましい。不確実性を避けるために、治療用T細胞エピトープが別個の化学物質であってもよいことは明らかである。
【0165】
組成物が、各エピトープが上記の基準を満たす2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、30、40、50、100又はそれ以上などの複数の治療用T細胞エピトープをコードする1つ以上の核酸を含むという改変を伴う第2の態様の組成物にも、同じことが当てはまる。上記のように、細胞は抗原提示のための任意の発現タンパク質を小さな断片に消化するため、核酸は複数の治療用T細胞エピトープをコードしてもよい。或いは、又はさらに、前述の理由のために、特異的T細胞エピトープではない配列を含む比較的長い配列の一部として治療用T細胞エピトープを含めることが可能である。
【0166】
第3の組成物の抗原提示細胞は、各々が上記の基準を満たす2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、30、40、50、100又はそれ以上などの複数の治療用T細胞エピトープに曝露されていてもよい。前述のように、この場合でも、T細胞エピトープが比較的大きな単数又は複数のポリペプチドに含まれてもよい。
【0167】
第3の態様の文脈の「曝露」とは、抗原提示細胞と、治療用T細胞エピトープを含むペプチド又はペプチド模倣体とを接触させることだけでなく、治療用T細胞エピトープをコードする核酸を抗原提示細胞にトランスフェクトし、細胞に治療用T細胞エピトープを発現させて細胞を曝露することも指し得ることが理解されるべきである。
【0168】
部分配列
第1、第2又は第3の態様の部分配列は、i)配列番号5の残基1~166、ii)配列番号5の残基167~295、iii)配列番号5の残基296~1327、iv)配列番号5の残基1328~2234又はv)配列番号5の残基2235~2250に含まれ得る。好ましくは、部分配列は、vi)配列番号5の残基1~2234に含まれる。
【0169】
第1の態様の組成物は、上記で定義された複数の異なる治療用T細胞エピトープを含んでもよい。好ましくは、複数の異なる治療用T細胞エピトープは、i)~vi)として上記で提示された異なる区間のうちの2つ、3つ、4つ、5つ又は6つから選択される。
【0170】
同じ原則が、必要な変更を加えて、第2の態様の核酸に適用される。好ましくは、核酸は、上記で定義された複数の異なる治療用T細胞エピトープをコードする。好ましくは、複数の異なるコードされたT細胞エピトープは、i)~vi)として上記で提示された異なる区間のうちの2つ、3つ、4つ、5つ又は6つから選択される。
【0171】
同様に、第3の態様の細胞は、上記で定義された複数の異なる治療用T細胞エピトープに曝露されていてもよい。好ましくは、複数の異なる治療用T細胞エピトープは、i)~vi)として上記で提示された異なる区間のうちの2つ、3つ、4つ、5つ又は6つから選択される。
【0172】
部分配列は、表4のペプチドの配列のいずれか1つに含まれてもよい。好ましくは、部分配列は、HLA結合が「++」又は「+++」、最も好ましくは「+++」として示される表4のペプチドの配列のいずれか1つに含まれる。
【0173】
好ましくは、nは少なくとも9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21又は22である。nは、少なくとも50、少なくとも75、さらに一層好ましくは少なくとも100であってよい。nは、前述の数値から形成される任意の区間、例えば8~22、9~21、8~17、8~15、8~12又は8~100であってよい。最も好ましくは、nは、8~19、又はm=0の場合、8~17である。好ましくは、mは2であり、さらに好ましくはmは1であり、最も好ましくはmは0である。
【0174】
好ましくは、治療用T細胞エピトープは部分配列と同一である(m=0)。ただし、ほとんどの場合、配列をわずかに変化させ、配列番号5の部分配列を同定する配列を有するものと比較して機能的に完全又は実質的に同等の治療用T細胞エピトープを依然として有することが可能であると考えられる。例えば、あるアミノ酸を、極性、電荷又は疎水性に関して同様の特性を有する別のアミノ酸に置換することが許容され得る。治療的T細胞エピトープ内の小さな挿入又は欠失も、それらが、配列番号5の部分配列を同定する配列を有するものと比較して機能的に完全又は実質的に同等の治療用T細胞エピトープをもたらすことを条件に許容され得る。好ましくは、mは2であり、さらに好ましくはmは1であり、最も好ましくはmは0である。
【0175】
好ましくは、上記治療用T細胞エピトープは、m個以下の残基の置換により部分配列とは異なり、部分配列と比較して置換又は欠失を含まなくてもよい。
【0176】
第1又は第3の態様の治療用T細胞エピトープは、ペプチド又はペプチド模倣体であり得る。第1又は第3の態様の治療用T細胞エピトープは、配列番号5の部分配列に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の配列同一性を有するペプチド又はペプチド模倣体であり得る。
【0177】
第2の態様の核酸は、DNA、PNA、又は哺乳動物細胞での発現のためのタンパク質をコードすることができる他の任意の核酸であり得る。
【0178】
組成物の製剤化
組成物は、ヒト又は非ヒト哺乳動物、好ましくはヒトであり得る患者に上記治療用T細胞エピトープに対するT細胞寛容を誘導するために製剤化される。
【0179】
第1の態様の組成物は、生体適合性ポリマー(PLGAなど)、リポソーム、固体粒子又は細胞などの固体担体に結合した治療用T細胞エピトープを含んでもよい。
【0180】
結合は共有結合を介することが好ましいが、金属キレート結合、疎水性相互作用又はイオン相互作用を含む他の結合も可能である。抗原ペプチドを細胞に結合するための好適な結合プロトコルが、欧州特許第2205273号明細書に開示されている。抗原ペプチドをPLGA微粒子に結合するための好適な結合プロトコルが、Gholamzadらによって開示されている(Iranian Journal of Allergy,Asthma and Immunology 2017. 16(3):271-281)。抗原ペプチドを高分子担体に結合するための好適なプロトコルが、Pearsonらによって開示されている(Mol Ther. 2017 Jul 5;25(7):1655-1664. doi:10.1016/j.ymthe.2017.04.015)。
【0181】
第1の態様による組成物は、上記内因性エピトープと同じT細胞受容体に特異的に結合することができる治療用T細胞エピトープを含んでもよい。本発明の文脈では、特異的結合とは、インビトロ又はインビボでの生物学的状況でT細胞活性化をもたらすのに十分に高い結合を意味する。
【0182】
第2の態様による組成物は、上記内因性エピトープと同じT細胞受容体に特異的に結合することができる治療用T細胞エピトープをコードする核酸を含んでもよい。
【0183】
第3の態様の抗原提示細胞は、上記内因性エピトープと同じT細胞受容体に特異的に結合することができる治療用T細胞エピトープに曝露されていてもよい。
【0184】
治療用T細胞エピトープの選択
第1、第2又は第3の態様の治療方法は、患者がT細胞自己反応性を示す内因性T細胞エピトープに治療用T細胞エピトープが対応するように治療用T細胞エピトープを選択することを含んでもよい。
【0185】
治療用T細胞エピトープは、上記内因性エピトープと同じTCRに特異的に治療用T細胞エピトープが結合することができることに基づいて選択され得る。
【0186】
第1、第2又は第3の組成物の治療用T細胞エピトープは、治療対象の個々の患者又は対象の自己反応性に合うように個別に調整又は選択され得る。しかし、多くの場合、組成物を調整することは時間がかかり、費用がかかり、多くの区域では規制上の課題を提示する可能性があるため、最も一般的な内因性T細胞エピトープに対応するいくつかの治療用T細胞エピトープを含む組成物を投与する方が実用的であり得る。
【0187】
組成物の投与
第1から第3の態様の治療方法は、好ましくは、対象に組成物を寛容原性様式で投与し、それにより患者の治療用T細胞エピトープに対するT細胞寛容を誘導することを含む。
【0188】
治療方法は、組成物を経口投与、経粘膜投与、皮内投与、経皮投与又は皮下投与することを含んでもよい。投与は注射によるものであってよい。
【0189】
第1又は第2の態様の治療方法は、抗原提示細胞に組成物をエクスビボで投与し、続いて上記抗原提示細胞を対象に投与することを含んでもよい。
【0190】
治療用量は、好ましくは、数週間/月の期間で、低用量から高用量まで漸増される。治療は、最初の低用量で開始し、その後の投与ごとに用量を増やす(例えば、倍増する)ことが好ましい。数週間/月のこの漸増期間の後、開始用量の10~100倍であり得る維持レベルに到達し、これを一定期間維持することができる。
【0191】
文献には、MS及び他の症状に対してT細胞寛容を誘導するためのいくつかのプロトコルが記載されており、寛容が誘導されるT細胞抗原を本明細書に記載されている治療用T細胞エピトープに置き換えるだけで、このプロトコルを本発明との使用に適合させることができる。
【0192】
Cathawayら(Cathaway J,Martin K,Barrell K,Sharrack B,Stolt P,Wraith DC.Effects of ATX-MS-1467 immunotherapy over 16 weeks in relapsing multiple sclerosis.Neurology 2018)は、多発性硬化症が再燃している患者に対する抗原特異的免疫療法の安全性、忍容性及び有効性を評価するために、抗原に対する寛容を誘導するための様々な治療プロトコルを用いてオープンラベル試験を実施している。
【0193】
Walczakら(Walczak A,Siger M,Szczepanik M,Selmaj K.Transdermal application of myelin peptides in multiple sclerosis treatment.JAMA Neurol.2013)は、二重盲検プラセボ対照コホート試験で、ヒト患者に対するミエリンペプチドの経皮投与を用いて、多発性硬化症に対する効果的な抗原特異的療法を実証している。
【0194】
Lutterottiらは、7つのミエリンペプチドと化学的に結合した自己末梢血単核球の単回注入を用いるMS患者における寛容化レジメンを発表している(Sci Transl Med.2013 Jun 5;5(188):188ra75)。同チームはまた、ペプチドが赤血球に結合した同様のレジメンを特許公開に開示している(欧州特許第2205273号明細書)。
【0195】
Gholamzadら(Iranian Journal of Allergy,Asthma and Immunology 2017.16(3):271-281)は、MSの疾患モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎に対して寛容原性効果を有するミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)被覆PLGA微粒子の静脈内注射を含むレジメンを開示している。
【0196】
Pujol-Autonellら(Nanomedicine(Lond).2017 Jun;12(11):1231-1242.Doi:10.2217/nnm-2016-0410)は、MOGペプチドを抗原として用いて、多発性硬化症疾患モデルに対して治療効果を有するホスファチジルセリン-リポソームに基づく免疫療法を用いるレジメンを開示している。
【0197】
Pearsonら(Mol Ther.2017 Jul 5;25(7):1655-1664.Doi:10.1016/j.ymthe.2017.04.015)は、多発性硬化症のマウスモデルである再発寛解型実験的自己免疫性脳脊髄炎(R-EAE)に対してポリ(ラクチド‐コ‐グリコリド)にコンジュゲートした抗原性MOGペプチドを用いた実験プロトコルを報告した。ポリマーにコンジュゲートしたペプチドは、疾患の抑制に有効であった。
【0198】
上記のレジメン及びプロトコルのいずれも、第1の態様に従うように抗原ペプチドを改変することにより、第1の態様の組成物とともに使用することができる。
【0199】
遺伝子治療
一般的に言えば、第2の態様の核酸は、患者の細胞、好ましくは抗原提示細胞での発現を可能にするプロモーターに作動可能に結合したベクターに含まれることが好ましい。ベクターは、遺伝子導入ベクター、又は当技術分野で知られているウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクター、又はアデノ随伴ウイルスベクターもしくはアデノウイルスベクターであってよい。エレクトロポレーション、遺伝子銃、ソノポレーション、マグネトフェクション又は流体力学的送達など、当技術分野で知られている任意の方法によって、裸のDNA遺伝子導入ベクターを投与してもよい。使用され得るベクター送達を強化する化学的方法には、リポソーム、リポフレックス(lipoflex)、ポリマーソーム、ポリプレックス、デンドリマー、無機もしくは有機ナノ粒子、又は細胞透過性ペプチドが挙げられる。
【0200】
治療用T細胞エピトープをコードする配列の発現が望まれる組織に応じて、好適なプロモーターが当技術分野で知られている。
【0201】
Keelerら(Mol Ther.2018 Jan 3;26(1):173-183)は、肝細胞で完全長ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)を発現する肝標的遺伝子導入ベクターを用いて、遺伝子治療誘導抗原特異的制御性T細胞(Treg)がMSの神経炎症を阻害し、疾患を逆転させることができることを実証している。使用される材料及び方法は、第2の態様による治療方法に適用してもよく、発現される核酸配列の改変は、第2の態様に関して本明細書に定義される治療用T細胞エピトープに置き換えられる。
【0202】
抗原提示細胞を用いた治療
第3の態様の抗原提示細胞は、樹状細胞、単球、マクロファージ又はB細胞であり得、好ましくは末梢血単核球に由来し得る。或いは、抗原提示細胞は、CNS由来であり得るミクログリアであってよい。好ましくは、細胞は患者にとって自己由来であるが、MHC受容体に関してドナーに適合した異なる個体に由来するものであってもよい。
【0203】
さらに、異なる個体又は異なる種由来の遺伝子操作されたAPC細胞株の使用も想定され、ここでMHC受容体は、患者に適合するように遺伝子操作される。
【0204】
細胞がエピトープを取り込み、患者に投与された後に患者の免疫系にエピトープを提示するように、細胞が第3の態様の組成物(治療用T細胞エピトープ)にエクスビボで曝露される。細胞は表面にポリペプチドを提示する前にポリペプチドを処理及び消化するため、比較的大きなタンパク質又はいくつかの異なるタンパク質の一部としてエピトープが細胞に与えられ得る。エピトープが細胞で発現されるように、治療用T細胞エピトープをコードする核酸構築物を細胞にトランスフェクトすることも同様に適用可能であろう。
【0205】
Phillipsら(Front Immunol.2017; 8:1279)は、MS及び他の自己免疫疾患について、寛容原性樹状細胞を用いて計画され、進行中の臨床試験についてレビュー論文で考察している。
【0206】
Jones及びHawiger(Front Immunol.2017 May 9;8:532.doi:10.3389/fimmu.2017.00532)は、関連する神経抗原に対する寛容原性応答の際に末梢免疫系で胸腺外に形成された抗原特異的Treg細胞(pTreg細胞)によって、神経炎症を改善したり、さらには完全に予防したりすることができることを示す実験、及びMS治療に対するこれらの知見の関連性について考察している。
【0207】
Ibergら(Trends Immunol.2017 Nov;38(11):793-804.doi:10.1016/j.it.2017.07.007)は、臨床現場での寛容誘導に、T細胞抗原の特異的な送達によって強化される樹状細胞の機能をどのように生かすことができるかについて考察している。
【0208】
Huangらは、Lewisラットでは自己抗原パルス樹状細胞が実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)に対する寛容を誘導することを報告している(Clin Exp Immunol (2000) 122(3):437-44.doi:10.1046/j.1365-2249.2000.01398.x)。
【0209】
Mengesらは、腫瘍壊死因子αによって成熟した樹状細胞の反復注射が、自己免疫からのマウスの抗原特異的保護を誘導することを報告している(J Exp Med (2002) 195(1):15-21.Doi:10.1084/jem.20011341)。
【0210】
上記の元の試験及びレビュー(そこで引用された元の試験を含む)で考察された手段及び方法は、本発明の治療用T細胞エピトープの組成物とともに使用するように適合させることができる。
【0211】
多発性硬化症(MS)関連自己免疫の程度を決定する方法
第4の態様では、本発明は、被験者の多発性硬化症(MS)関連自己免疫の程度を決定する方法であって、
a.生存可能なT細胞を含む、被験者に由来する試験試料を提供することと、
b.MS抗原に対応する特異的T細胞エピトープを含む試験抗原に応答した試験試料のT細胞の抗原特異的活性化をインビトロで定量することと、ここで、上記T細胞エピトープは、n個の連続する残基のアミノ酸配列を含み、n個の連続する残基のアミノ酸配列が、
i.配列番号5の部分配列と同一であるか、
ii.m個以下の残基の置換、欠失及び/又は挿入により配列番号5の部分配列とは異なり、
nが少なくとも8であり、mが0、1又は2であり、
c.定量された抗原特異的活性化と、関連する参照とを比較して、被験者のMS関連自己免疫の程度を決定することとを含む方法を提供する。
【0212】
第4の態様の被験者の多発性硬化症(MS)関連自己免疫の程度を決定する方法は、
a.生存可能なT細胞を含む、被験者から得られた試験試料を提供することと、
b.MS抗原に対応する特異的T細胞エピトープを含む試験抗原に応答した試験試料のT細胞の抗原特異的活性化をインビトロで定量することと、
c.定量された抗原特異的活性化と、関連する参照とを比較して、被験者のMS関連自己免疫の程度を決定することとを含んでもよく、
MS抗原は、FABP7(配列番号1)、PROK2(配列番号2)、RTN3(配列番号3)及びSNAP91(配列番号4)からなる群から選択され、
上記T細胞エピトープは、n個の連続する残基のアミノ酸配列を含み、n個の連続する残基のアミノ酸配列は、
i.選択されたMS抗原の部分配列と同一であるか、
ii.m個以下の残基の置換、欠失及び/又は挿入により、選択されたMS抗原の部分配列とは異なり、
nは少なくとも8であり、mは0、1又は2である。
【0213】
抗原提示細胞(APC)が試験抗原を消化することを考慮すれば、実質的に任意の比較的大きなポリペプチド試験抗原(例えば、遺伝子工学による)にT細胞エピトープを含めることができることに留意すべきである。試験抗原は消化されるため、特異的T細胞エピトープが試験抗原に見出される状況が変化することはない。したがって、試験抗原がその配列の一部として新規MS抗原FABP7、PROK2、RTN3及びSNAP91(いずれも配列番号5に含まれる)のうちの1つに対応する特異的T細胞エピトープを含む限り、任意の試験抗原を使用することができる。
【0214】
背景の節で述べたように、最短のエピトープは典型的には8アミノ酸長であるが、個々の場合に応じて長くすることができる。したがって、本発明は、T細胞エピトープが、n個のアミノ酸の連続するストレッチについて少なくとも類似性を共有する配列番号5(すなわち、新規MS抗原の1つ)に対して配列同一性又は類似性を有することを必要とする。
【0215】
nの値は、少なくとも8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20であり得る。好ましくは、nは少なくとも11であり、さらに好ましくはnは少なくとも13であり、なお一層好ましくはnは少なくとも15であり、さらになお好ましくはnは少なくとも17であり、さらに一層好ましくはnは少なくとも19である。或いは、nは、少なくとも50、好ましくは少なくとも75、又は最も好ましくは少なくとも100であり得る。nは、前述の数値から形成される任意の区間、例えば8~22、9~21、8~17、8~15、8~12又は8~100であり得る。最も好ましくは、nは、8~19、又はm=0の場合、8~17である。
【0216】
好ましくは、T細胞エピトープは部分配列と同一である(m=0)。ただし、ほとんどの場合、配列をわずかに変化させ、機能的に完全に又は実質的に同等の、MS抗原に対応する特異的T細胞エピトープを依然として有することが可能である。例えば、あるアミノ酸を、極性、電荷又は疎水性に関して同様の特性を有する別のアミノ酸に置換することが許容され得る。特異的T細胞エピトープ内の小さな挿入又は欠失も、それらが、選択されたMS抗原に対応する機能的に完全又は実質的に同等の特異的T細胞エピトープをもたらすことを条件に許容され得る。
【0217】
好ましくは、差は置換のみであり、すなわち、欠失又は挿入はない。さらに好ましくは、差は、あるアミノ酸を、極性、電荷及び/又は疎水性に関して同様の特徴を有する別のアミノ酸に置換することを含む置換のみである。好ましくは、mは2であり、さらに好ましくはmは1であり、最も好ましくはmは0である。
【0218】
好ましくは、抗原特異的活性化は、FABP7(配列番号1)、PROK2(配列番号2)、RTN3(配列番号3)及びSNAP91(配列番号4)からなる群から選択される異なるMS抗原に対応する特異的T細胞エピトープをそれぞれ含む少なくとも2つ、3つ又は4つの試験抗原に対して定量される。例2に示すように、あらゆるMS患者がいずれの新規MS抗原に対してもT細胞関連自己免疫を示すわけではない。したがって、特にスクリーニング設定では、異なるMS抗原から同時に得られる複数の特異的T細胞エピトープに対して、被験者のMS関連自己免疫を試験することが有利である。また、新規MSマーカーに対する自己免疫の決定は、他の既知のMSマーカーの決定と有利に組み合わせることができると考えられる。
【0219】
特異的T細胞エピトープを含む試験抗原は、配列番号1~4、配列番号5又は配列番号6のいずれかに対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の配列同一性を有するペプチド又はペプチド模倣体であってよい。
【0220】
診断方法における部分配列
第4の態様の部分配列は、i)配列番号5の残基1~166、ii)配列番号5の残基167~295、iii)配列番号5の残基296~1327、iv)配列番号5の残基1328~2234又はv)配列番号5の残基2235~2250に含まれ得る。好ましくは、部分配列は、vi)配列番号5の残基1~2234に含まれる。
【0221】
第4の態様の方法は、上記で定義された複数の異なるT細胞エピトープに応答する抗原特異的活性化を定量することを含んでもよい。好ましくは、複数の異なるT細胞エピトープは、i)~vi)として上記で提示された異なる区間のうちの2つ、3つ、4つ、5つ又は6つから選択される。
【0222】
第4の態様の方法は、各々が上記の基準を満たす2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、30、40、50、100又はそれ以上などの複数の治療用T細胞エピトープに応答する抗原特異的活性化を定量することを含み得ることが好ましい。
【0223】
部分配列は、表4のペプチドの配列のいずれか1つに含まれてもよい。好ましくは、部分配列は、HLA結合が「++」又は「+++」、最も好ましくは「+++」として示される表4のペプチドの配列のいずれか1つに含まれる。
【0224】
部分配列は、例で使用される特異的抗原タンパク質に対応する、本明細書に記載のMS抗原の特異的部分に由来することが好ましい場合がある。
【0225】
上記部分配列は、FABP7(配列番号1)の残基1~82、残基83~166又は残基105~166の配列に含まれてもよい。
【0226】
上記部分配列は、PROK2(配列番号2)の残基34~74又は残基106~128の配列に含まれてもよい。
【0227】
上記部分配列は、RTN3(配列番号3)の残基81~217又は残基345~483の配列に含まれてもよい。
【0228】
上記部分配列は、SNAP91(配列番号4)の残基378~480、残基481~572又は残基584~691の配列に含まれてもよい。
【0229】
被験者
対象は、診断されたMS患者、又はMSを有する疑いのある個体であり得る。好ましくは、対象はヒトである。
【0230】
試験試料
試験試料は、好ましくは血液試料に由来し、さらに好ましくはPBMC試料である。
【0231】
最も好ましくは、試験試料は、試料のT細胞に試験抗原を提示するために使用することができる抗原提示細胞(APC)をさらに含む。定量に同一個体由来のAPCを利用することによって(詳細は以下)、APC上のMCH受容体の個々の遺伝的変異から生じる不確実性が排除される。
【0232】
特異的T細胞活性化を決定する好ましい方法の詳細
本発明者によって、MS関連自己免疫を決定するのに有用なT細胞反応性プラットフォームが、PCT/欧州特許第2016/081141号明細書に以前に開示されている。
【0233】
本発明の方法は、
a.生存可能な抗原提示細胞を提供することと、
b.試験抗原と抗原提示細胞とを接触させることと、
c.抗原提示細胞によって提示された抗原に応答してT細胞の抗原特異的活性化が可能になる条件下で、試験試料と、試験抗原と接触させた抗原提示細胞とをインビトロで接触させることと、
d.試験試料の抗原特異的T細胞活性化を定量することとをさらに含んでもよい。
【0234】
抗原提示細胞は、被験者に由来することが好ましい。
【0235】
該方法は、貪食可能な粒子に緊密に会合した試験抗原を提供することを含んでもよい。粒子は、試験抗原とともに抗原提示細胞によって貪食される。試験抗原はAPCによって酵素的に消化され、消化された抗原エピトープはT細胞に提示される。
【0236】
試験抗原を貪食可能な粒子に緊密に会合させることの特別な利点は、変性洗浄によって、あらゆる汚染エンドトキシンを除去することができることである。残念ながら、T細胞活性化を決定するアッセイに共通する問題は、T細胞と接触するエンドトキシンが低レベルであっても、通常非常に低いレベルの抗原特異的活性化をマスクする活性化を生じることである。試験されているT細胞集団のうち、特定の抗原に抗原特異的に応答するのはごく一部であるが(最近その抗原に遭遇した対象の血中では約1/10000である)、細胞の大部分がエンドトキシンに応答して高レベルのバックグラウンドを生じる。どこにでも存在するエンドトキシン汚染を考えると、これは実用面で大きな問題となる可能性がある。
【0237】
したがって、該方法は、(a’)貪食可能な粒子に試験抗原を緊密に会合させる工程、及び/又は(a’’)粒子に会合した試験抗原を変性洗浄に供し、後続の工程を妨害しないほどエンドトキシンのレベルを十分に低くする工程をさらに含んでもよい。
【0238】
粒子は、5.6μm未満、好ましくは4μm未満、さらに好ましくは3μm未満、さらに一層好ましくは0.5~2μmの区間又は最も好ましくは約1μmの最大寸法を有することが好ましい。粒子は好ましくは実質的に球形である。
【0239】
変性洗浄は、会合した試験抗原を有する粒子を、少なくともpH13、さらに好ましくは少なくともpH14、最も好ましくは少なくともpH14.3などの高pHにさらすことを含んでもよい。変性洗浄は、会合した試験抗原を有する粒子を低pHにさらすことを含んでもよい。変性洗浄は、会合した試験抗原を有する粒子を、少なくとも90℃、さらに好ましくは少なくとも92℃、最も好ましくは少なくとも95°Cなどの高温にさらすことを含んでもよい。変性洗浄は、会合した試験抗原を有する粒子を、少なくとも5M、6M、7M又は8Mなどの十分な濃度で尿素又は塩酸グアニジンなどの変性剤にさらすことを含んでもよい。
【0240】
好ましくは、変性洗浄により、試験抗原中のエンドトキシン量が、該方法ではエンドトキシンの最終濃度が100pg/ml未満、好ましくは50pg/ml未満、さらに好ましくは25pg/ml未満、最も好ましくは10pg/ml未満になるような量になる。
【0241】
粒子が常磁性特性を有すると有利であり、磁気保持により取り扱いが容易になる。
【0242】
好ましくは、試験抗原は粒子に共有結合しているか、金属キレートを介して粒子に結合している。
【0243】
抗原提示細胞(APC)及びT細胞試料
本発明の文脈では、APCは、単球/マクロファージ又は樹状細胞などの専門的な抗原提示細胞である。APCは、初代細胞又は不死化細胞であり得る。
【0244】
APCはT細胞試料のT細胞と適合していなければならず、その結果、T細胞が反応することができる抗原特異的な状況(MHC拘束性)で、APCがT細胞に抗原を提示することができる。APC及びT細胞試料は、好ましくは同じ種から得られ、MHC受容体に関してドナーに適合している。ただし、異なる種から得られた遺伝子組換えAPCの使用も想定されている。
【0245】
抗原提示細胞とT細胞試料とが同じ個体に由来する場合、APCとT細胞との間のミスマッチの可能性は回避される。
【0246】
抗原提示細胞及びT細胞試料は同じ血液試料に由来してもよく、これは実際的な観点から有利である。抗原提示細胞及びT細胞試料は、同じ個体から得られたPBMC試料に由来してもよい。末梢血試料からPBMCを得ることは、通常のプロトコルであり、同時に、かつ同じ個体からのAPC及びT細胞の両方の便利な供給源を提供する。
【0247】
PBMC試料は、新鮮なものを使用してもよく、凍結されてもよい。凍結細胞を使用するという可能性は、物流の観点から大きな実用的な利点である。
【0248】
T細胞試料は、腫瘍、好ましくは腫瘍のリンパ管に由来し得る。
【0249】
T細胞試料はまた、腹水に由来し得る。
【0250】
T細胞試料は、CD4+T細胞及びCD8+T細胞をともに含む全PBMC、精製されたT細胞集団、又は特定のT細胞集団を欠いたPBMCを含み得る。
【0251】
抗原特異的T細胞活性化の定量
抗原特異的T細胞活性化の定量は、
a.緊密に会合した試験抗原を有する貪食可能な粒子を提供する工程と、ここで、会合した試験抗原を有する粒子を変性洗浄に供し、後続の工程を妨害しないほどエンドトキシンのレベルを十分に低くし、
b.生存可能な抗原提示細胞を提供する工程と、
c.抗原提示細胞による粒子の貪食を可能にする条件下で、洗浄された粒子と抗原提示細胞とを接触させる工程と、
d.生存可能なT細胞を含むアッセイ対象の試験試料を提供する工程と、
e.抗原提示細胞によって提示された抗原に応答してT細胞の抗原特異的活性化が可能になる条件下で、試験試料と、粒子と接触させた抗原提示細胞とをインビトロで接触させる工程と、
f.試験試料の抗原特異的T細胞活性化を定量する工程とを含んでもよい。
【0252】
試験試料の抗原特異的T細胞活性化の定量は、ELISpotもしくはFluoroSpot技術を使用して、又はT細胞増殖を測定することにより行われてもよい。本例はリードアウトとして特定のサイトカインの発現を使用するが、抗原特異的T細胞活性化を決定するために使用することができる多くの追加の方法があることに留意することが重要である。例えば、T細胞増殖をリードアウトとして使用することが(有用性はPCT/欧州特許第2016/081141号明細書で以前に実証されている)、任意の特異的なサイトカインを測定する必要性を排除するために使用され得る。
【0253】
試験試料の抗原特異的T細胞活性化の定量は、好ましくは、IFN-γ、IL-17及び/又はIL-22の分泌を測定することによりT細胞応答を決定することを含んでもよい。これらの中では、最も堅牢な結果が得られるため、IL-17及びIL-22が特に好ましい(表3を参照)。
【0254】
好ましくは、試験細胞試料のT細胞活性化の定量は、試料中の活性化T細胞の割合を決定することを含む。試験細胞試料のT細胞活性化の定量は、2つの異なる測定を使用して検出された、試料の活性化T細胞の比率を決定することを含んでもよい。数値は、対数又は平方根をとるなどの数値演算によって正規化されてもよい。1つの特に好ましい定量は、IFN-γ陽性細胞数の平方根からIL-17陽性細胞数を分割することによって得られる測定値を決定することを含む。
【0255】
関連する参照
好ましくは、定量された抗原特異的活性化と比較される関連する参照は、病理学的MS関連自己免疫のない参照対象から得られた参照試料の比較可能に定量された抗原特異的活性化である。
【0256】
参照は、病理学的MS関連自己免疫のない参照対象のセットから得られた参照試料のセットの比較可能に定量された抗原特異的活性化の平均値であり得る。上記セットは、少なくとも10例の参照対象を含み得る。
【0257】
参照は、異なる時点に採取された、同じ対象から得られた試料の比較可能に定量された抗原特異的活性化であり得る。
【0258】
診断用途
該方法の診断的有用性を例3~7に示した。レシーバーオペレーター特性(ROC)分析によって実証されるように、感度と選択性との間には常にトレードオフがある。病態の存在を結論付ける閾値を低く設定すると、感度は向上するが(すなわち、偽陰性の数が減少する)、選択性が低下するという代償を支払う(すなわち、偽陽性の数が増加する)。代わりに閾値を上げると、感度が低下し、選択性が向上する。設定に応じて、偽陰性及び偽陽性の許容値は異なる。例えば、何百万人もの人々が試験される集団全体のスクリーニングでは、偽陽性の数は非常に少なくなければならず、そうでなければ追跡を必要とする患者の数は圧倒的ものになる。一方、診断試験が患者1例の専門家による評価の一部として用いられ、診断に至る前に他のいくつかの因子が考慮される場合には、はるかに大きな割合の偽陽性が許容可能であると考えられる場合がある。したがって、結論を下すための閾値は、ほとんどの場合、分析が行われる設定を考慮して設定する必要があり、一般的に適用可能な閾値を決定することは適切でも必要でもない。
【0259】
試験試料の定量された抗原特異的活性化が、参照の少なくとも2倍、好ましくは3倍、さらに好ましくは5倍、最も好ましくは10倍である場合、MS関連自己免疫の程度の増加が結論付けられ得る。
【0260】
試験試料の定量された抗原特異的活性化が、病理学的MS関連自己免疫のない参照対象のセットから得られた比較可能に定量された参照試料のセットの平均よりも、参照試料のセットの標準偏差の2倍だけ高い場合、MS関連自己免疫の程度の増加が結論付けられ得る。
【0261】
試験試料の定量された抗原特異的活性化が、スチューデントのT検定によって計算された0.05未満のp値を伴って参照よりも統計的に有意に高い場合、MS関連自己免疫の程度の増加が結論付けられ得る。
【0262】
試験試料の定量された抗原特異的活性化が、マン・ホイットニーのU検定によって計算された0.05未満のp値を伴って参照よりも統計的に有意に高い場合、MS関連自己免疫の程度の増加が結論付けられ得る。
【0263】
特定の設定での適用
第4の態様による方法が提供され、
a.方法は、対象のMSを診断するためのものであり、
b.参照は、病理学的多発性硬化症関連自己免疫のない参照対象の比較可能に定量された抗原特異的活性化の代表であり、
c.参照と比較して、試験試料の定量された抗原特異的活性化の程度が高ければ、被験者が多発性硬化症であることを示す。
【0264】
上記方法は、患者のMSの存在を検出するために特に適合されている。
【0265】
第4の態様による方法が提供され、
a.方法は、対象のMSの経過を追跡するためのものであり、
b.参照は、同じ対象から異なる時点(好ましくは早期)に採取された試料の比較可能に定量された抗原特異的活性化の代表であり、
c.参照と比較して、試験試料の定量された抗原特異的活性化の程度が高ければ、被験者の多発性硬化症疾患活動性が高いことを示し、逆もまた同様である。
【0266】
上記方法は、MSに罹患していることが既にわかっている対象のMSの経過を追跡するために特に適合されている。
【0267】
第4の態様による方法が提供され、
a.方法は、対象のMS経過の予後を確認するためのものであり、
b.参照は、同じ対象から早い時点に採取された試料の比較可能に定量された抗原特異的活性化の代表であり、
c.参照と比較して、試験試料の定量された抗原特異的活性化の程度が高ければ、被験者の多発性硬化症疾患活動性が増大していることを示し、逆もまた同様である。
【0268】
上記方法は、MSに罹患していることが既にわかっている対象のMS経過の予後を確認するために特に適合されている。MSは間欠的な回復を伴う再燃を特徴とすることから、起こりつつある再燃を事前に検出し、治療を事前に実施することができるようにすることは価値がある。
【0269】
第4の態様による方法が提供され、
a.方法は、治療的処置に対する対象の応答を評価するためのものであり、
b.参照は、評価対象の治療的処置の実施前に同じ対象から採取された試料の比較可能に定量された抗原特異的活性化の代表であり、
c.試験試料は、治療的処置の開始後、同じ対象から得られたものであり、
d.参照と比較して、試験試料の定量された抗原特異的活性化の程度が低ければ、被験者の多発性硬化症疾患活動性に対する治療効果を示し、定量された抗原特異的活性化の程度が変わらないか高ければ、被験者の多発性硬化症疾患活動性に対する治療効果の欠如を示す。
【0270】
上記方法は、治療的処置に対する対象の応答を評価するために特に適合されている。特に、該方法は、個々の患者に適切な薬物を選択し、個々の患者のための用量を把握するための臨床試験を実施する際に価値がある。
【0271】
ペプチド又はペプチド模倣体の使用
第5の態様では、MSの診断又は治療でのペプチド又はペプチド模倣体の使用が提供され、ペプチド又はペプチド模倣体は配列番号5に含まれる特異的T細胞エピトープを含み、上記T細胞エピトープは、0、1又は2個以下の残基の置換、欠失及び/又は挿入により、選択されたMS抗原の部分配列とは異なる、n個の連続する残基のアミノ酸配列を含む。この使用は、特に診断用途のために、インビトロであり得る。
【0272】
部分配列は、配列番号5の残基1~166、配列番号5の残基167~295、配列番号5の残基296~1327、配列番号5の残基1328~2234、配列番号5の残基2235~2250又は配列番号5の残基1~2234から選択され得る。
【0273】
好ましくは、T細胞エピトープは、FABP7アイソフォーム2(配列番号1)、PROK2(配列番号2)、RTN3(配列番号3)、SNAP91(配列番号4)及びFABP7アイソフォーム1(配列番号6)からなる群から選択されるMS抗原に対応し得る。
【0274】
nの値は、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20であり得る。好ましくは、nは少なくとも11であり、さらに好ましくはnは少なくとも13であり、なお一層好ましくはnは少なくとも15であり、さらになお好ましくはnは少なくとも17であり、さらに一層好ましくはnは少なくとも19である。好ましくは、mは1であり、さらに好ましくはmは0である。
【0275】
第5の態様のT細胞エピトープは、第1の態様の治療用T細胞エピトープについて定義された通りであり得る。
【0276】
本開示に関する一般的な態様
用語「含む(comprising)」は、限定するものではないが、含む(including)ものとして解釈されるべきである。見出し及び小見出しを有する節に本開示を配置しているのは、単に見やすさを改善するためのものであり、いかなる様式にも限定するものと解釈すべきではなく、その分割は、異なる見出し及び小見出しでの特徴を互いに組み合わせることを除外又は限定しない。
【0277】
すべての参考文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0278】
例
以下の例は、限定とみなされるべきではない。実験の詳細に関する追加の情報については、当業者は、材料及び方法と題された別の節を参照されたい。
【0279】
例1:FluoroSpot自己抗原スクリーニングによる多発性硬化症の自己抗原の同定
本発明者らは、T細胞活性化のアッセイとしてIFNγ/IL-22/IL-17A FluoroSpotを使用して、45プールに分割されビーズに結合した125のPrESTのライブラリーに応答したT細胞活性化を測定した。スクリーニングでは、健常対照よりもMS患者から得られたPBMCで高いT細胞応答を刺激する抗原プールを検出することにより、有力な自己抗原を同定した。
図1に見られるように、患者16例及び健常対照9例のこのスクリーニングでは、双方向ANOVAを使用して分析した際に、活性化された細胞の平均患者数と平均対照数との間に統計的有意差を認めることができた。IL-22分泌活性化T細胞については、5つの抗原プール、抗原番号6(P<0.0001)、抗原番号18(P<0.0001)、抗原番号23(P<0.0001)、抗原番号29(P<0.0001)及び抗原番号33(P<0.05)に差が認められた(パネルa)。IL-17分泌T細胞については、同じ5つの抗原、抗原番号6(P<0.05)、抗原番号18(P<0.0001)、抗原番号23(P<0.01)、抗原番号29(P<0.0001)及び抗原番号33(P<0.05)に、患者と対照との間の差を認めることができた(パネルb)。IFNγについては、抗原番号18(p<0.0001)にのみ差を認めることができた(パネルc)。
【0280】
図2は、上記の抗原プールに対する個々の患者及び対照の活性化と同じ提示されたデータを示す。
【0281】
例2:抗原プールに含まれる免疫原性抗原の決定。
例1に記載の抗原プール18、23、26及び29を、それらに含まれる個々のタンパク質に分割した。この個々のタンパク質に対する活性化について、例1でこれらの特異的な抗原プールに対して高度のT細胞活性化を示した4例の患者由来のPBMCを再度試験した。使用した方法及びプロトコルは、例1と同じであった。各プールで、1つの特異的なタンパク質が、明らかな大部分のT細胞活性化を誘導した。試験したタンパク質は、以下の通りであった。抗原プール18、番号1 CYB561D2及び番号2 FABP7(配列番号1)。番号1 NOVA2及び番号2 PROK2(配列番号2)を含む抗原プール23。番号1 RTN3(配列番号3)及び番号2 SDK2を含む抗原プール26。番号1 SNAP25及び番号2 SNAP91(配列番号4)を含む抗原プール29。結果を
図3に示す。
【0282】
例3:反応性プロファイルに基づく患者のグループ化。
個々の対象のレベルで4つの候補自己抗原に対するT細胞活性化を分析した際に、患者間に4つの異なる反応性プロファイルが観察された。候補抗原全種を用いて刺激すると、番号26を除いて、4例の患者が応答し、全サイトカインを産生する細胞の顕著な活性化を示し、これを「プロファイル1a」と名付けた。5例の患者が、番号18及び1つ又は2つ以上の抗原に対して応答し、全サイトカインを産生する細胞の顕著な活性化を示し、これを「プロファイル1b」と名付けた。3例の患者が番号26に対して応答し、IFNγ産生細胞のみの活性化を示し、これを「プロファイル2」と名付けた。4例の患者には応答が認められず、これを「プロファイル3」と名付けた。プロファイルを
図4に示す。
【0283】
プロファイル2の患者は、平均的な患者と対照活性化との間に明確な統計的有意差をもたらすには少なすぎたが(
図1及び
図2Cを参照)、いずれの健常対照にも見られない独特なプロファイルを顕著に有した。
【0284】
例4:診断用途のデモンストレーション
これらの抗原に対するT細胞活性化は、多発性硬化症のための診断ツール及びバイオマーカーとして使用することができる。例1から得られたデータに基づいて、レシーバーオペレーター特性(ROC)曲線を作成して、T細胞活性化を診断ツールとして使用した場合の感度及び特異性を推定した。これらのグラフを
図5A~Fに、データを表1及び表3に示す。抗原番号18(FABP7 PrESTを含む)又は完全長のFABP7アイソフォーム2(配列番号1)を用いて刺激した場合のIL22及びIL17産生T細胞の活性化は特に有望であり、それぞれ約80%の感度及び特異性に達する。これらの抗原全種の混合物に対して患者及び対照のPBMCを試験すると、これらの数値がさらに向上する可能性が非常に高くなる。表2に見られるように、抗原23及び29の組合せは、それ自体で各抗原よりも感度の高い試験を提供する。
【0285】
全長タンパク質も同様に使用することができる。
図9A~Dを参照されたい。4つの全長抗原をいずれも利用し、4種に対する各個体の平均応答を使用すると、感度及び特異性がさらに向上する(
図9E)。IL-17とIFNγとの比率を分析するなど、異なるリードアウトを組み合わせると、試験の感度をさらに向上させることができる(
図9E、表2)。
【0286】
【0287】
【0288】
【0289】
例5:全長組換えバージョンを使用したMS抗原としてのFABP7の検証
組換え型のヒトFABP7アイソフォーム2(配列番号1)を大腸菌で生産した。このタンパク質は、標準的な大腸菌組換えタンパク質プロトコルに従って社内で生産した。これをhisタグ精製により精製し、常磁性ビーズに結合させ、前述のプロトコルに従って洗浄した。前述のFluoroSpotアッセイで、T細胞活性化について、13例の患者(このうち7例は以前に試験登録した患者の新たなサンプリングからなり、6例は以前に試験していない)及び7例の対照(以前の試験に含めていない)を試験した。
【0290】
結果を
図6に示す。例1及び3のFABP7 PrESTの結果と、この例で使用した全長組換えバージョンとは、互いによく似ている。
【0291】
例6:特異的T細胞エピトープの同定
FABP7大部分重複アイソフォーム2及び1(それぞれ、配列番号1及び配列番号6)並びにPROK2(配列番号2)の全長を網羅する重複ペプチド(15アミノ酸長、10アミノ酸重複)を、FABP7については6つの画分、PROK2については3つの画分にプールし、FluoroSpot分析でPBMCを刺激するために使用した。これらのプールに対して、6例の患者由来のPBMCを試験した。
図7A及び
図7Bが示すように、患者は各抗原の単一プール(FABP7についてはプール5、PROK2についてはプール1)に対して比較的高い応答を示した。この例は、さらに長いタンパク質を使用した以前の例と比較して、特異的T細胞エピトープを含むアミノ酸配列を有する短いペプチドもMS患者の自己反応性T細胞を同定するために使用することができることを示している。
【0292】
陽性ペプチドプールをさらに分割し、実験を反復して繰り返すことにより、各MS抗原内の特異的T細胞エピトープのさらに詳細な同定が可能になる。15アミノ酸よりも短いペプチドを設計及び試験して、特異的T細胞エピトープを完全に解明することができる。
【0293】
有力なT細胞エピトープを発見するもう1つの相補的な方法が、HLA結合実験を実施することである。競合結合アッセイで、多発性硬化症関連HLA DRB5 01:01分子に対する結合親和性について、同じ重複ペプチドを試験した。次いで、結合親和性を、H1N1インフルエンザウイルスに由来する既知の強力なバインダーペプチドの結合親和性と比較した。FABP7及びPROK2の両方について、患者も応答した同じペプチドプールで最も強い結合ペプチドが発見され、これがT細胞エピトープ候補であることが示された。結果を表4に示す。様々な結合親和性の代表的な例を
図10A~Eに示す。
【0294】
【0295】
例7:組換え全長抗原を使用した自己抗原スクリーニングの検証
標準的な組換えタンパク質生産プロトコルに従って、大腸菌で抗原FABP7(配列番号1)、PROK2(配列番号2)、RTN3(配列番号3)、SNAP91(配列番号4)の組換え全長バージョンを社内で生産し、hisタグ精製により精製した。前述のように、IFNγ/IL17/IL22 FluoroSpotアッセイで、抗原に対する反応性について、52例の患者及び24例の対照を試験した。以前に試験したPrESTと同様に、SNAP91に対するIFNγを除き、分析した全サイトカインについて全4種の抗原に対する多発性硬化症患者のPBMCの反応性が有意に高かった(
図8A~Dを参照)。
【0296】
例8:抗原特異的免疫療法
抗原特異的免疫療法では、以前に知られている多発性硬化症自己抗原ペプチドエピトープの皮下、皮内又は経皮投与を使用した先行試験が十分に説明されている。例えば、Walczakら(Walczak A,Siger M,Szczepanik M,Selmaj K.Transdermal application of myelin peptides in multiple sclerosis treatment.JAMA Neurol.2013)は、既知の自己抗原であるミエリン塩基性タンパク質(MBP)、プロテオリピドタンパク質(PLP)及びミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)由来の既知のエピトープの混合物を使用し、1年間にわたって経皮的に適用し、疾患活動性の顕著であるが中等度の低下をもたらした。Chatawayら(Cathaway J,Martin K,Barrell K,Sharrack B,Stolt P,Wraith DC.Effects of ATX-MS-1467 immunotherapy over 16 weeks in relapsing multiple sclerosis.Neurology 2018)は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)由来の4つのペプチドエピトープの混合物を用量を漸増して4週間かけて皮下注射し、続いて16週間かけて最高用量を隔週投与した。同様に、顕著に良好であるが軽微な効果が認められた。これは、自己抗原に対するT細胞寛容の誘導を介した抗原特異的免疫療法の方法が有効な手法であることを示している。
【0297】
この文献で以前に記述された例、及びエピトープ-マッピングの既知の方法に基づいて、まず、FABP7、PROK2、RTN3及びSNAP91の特異的ペプチドエピトープを同定する。次いで、前述のように、これらの自己抗原に対するT細胞反応性について患者をスクリーニングする。スクリーニングに基づいて、ペプチドエピトープの患者ベースの混合物を選択し、次いで、抗原特異的免疫療法について確立されたプロトコルに従って治療に用いる。以前に使用されたものよりも多くの自己抗原から得られたペプチドエピトープを用いて治療すると、個別化された手法(患者に関係のないペプチドエピトープは含まない)は同じままであるため、忍容性に対して、有効性が大きくなると予測することができる。
【0298】
材料及び方法
遊離カルボン酸基を含む常磁性ビーズに対するタンパク質の共有結合。
直径1μmのDynabeads(登録商標)MyOne(商標)Carboxylic Acid(ThermoFischer Scientific)を使用し、製造業者のプロトコル(NHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)及びEDC(エチルカルボジイミド)を使用した2段階の手順)に従って結合手順を実施した。
【0299】
MES緩衝液(25mM MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、pH6)を用いて、ビーズを2回洗浄した。次いで、MES緩衝液中50mg/mlのNHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)及び50mg/mlのEDC(N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド)をビーズに加えることによってカルボン酸基を活性化し、室温で30分間インキュベートした。磁石を用いてビーズを回収し、上清を除去し、MES緩衝液を用いてビーズを2回洗浄した。タンパク質をMES緩衝液で1mg/mlの濃度、合計100ugになるまで希釈し、これをビーズに加え、室温で1時間インキュベートした。磁石を用いてビーズを回収し、上清を除去し、タンパク質濃度測定のために保存した。50mM Tris(pH7.4)を用いて、未反応の活性化カルボン酸基を15分間クエンチした。次いで、PBS(pH7.4)を用いてビーズを洗浄し、-80℃で保存した。
【0300】
ビーズに結合したタンパク質の量を測定するために、BCAタンパク質アッセイキット(Pierce BCA Protein Assay Kit、ThermoFisher Scientific)を使用して、結合前のタンパク質及び結合後の上清中のタンパク質濃度を測定した。製造業者のプロトコルに従って、BCAアッセイを使用した。
【0301】
変性洗浄によるエンドトキシンの除去。
ビーズを、大腸菌で生産された組換えタンパク質と結合させた。タンパク質結合ビーズをいくつかの異なる変性条件で洗浄して、エンドトキシンを確実に除去した。エンドトキシン除去のために、3種類の洗浄バッファー、2M NaOH(pH14.3)、0.5M L-アルギニン及び0.1%Triton X100(いずれも室温で滅菌水中)を用いてビーズを洗浄した。ビーズを緩衝液に懸濁し、4分間振盪し、磁石を用いて回収し、上清を除去した。これを5回繰り返した。次いで、滅菌PBSを用いてビーズを5回洗浄して、残りの洗浄緩衝液を除去した。単球反応性アッセイ(IL1B/IL6 FluoroSpotアッセイ、MABTECH、スウェーデン)を使用して、残りのエンドトキシンを測定した。
【0302】
患者
ソールナ及びフーディンゲのカロリンスカ大学病院神経クリニックでナタリズマブ治療を受けた合計24例のMS患者に、通常の治療来院と同時に80mlの静脈血を提供するよう依頼した。その後の実験に使用するために、最初の採血から6~12カ月後に、これらの患者のうち6例を再度採血した(例5)。
【表5】
【0303】
施設及びクリニックのスタッフの間で、年齢及び性別がマッチした健常対照を採用した。対照に対して、患者と同じ採血手順を行った。
【0304】
標準プロトコルに従って、Ficoll‐Paque(GE Healthcare、ウプサラ、スウェーデン)勾配遠心分離によって、静脈血試料(BD Vacutainer EDTA管に採取)からPBMCを分離した。細胞を凍結培地中(45%FCS、45%RPMI、10%DMSO)で凍結し、-150℃で保存した。
【0305】
全長抗原を試験するために、第2のさらに大規模のコホートを収集した。このコホートには、52例の患者及び24例の健常対照を含めた。包含/除外基準(表5)並びに採血及びPBMC分離は同じであった。
【0306】
候補抗原ライブラリー
使用した抗原は、王立工科大学(KTH、スウェーデン)及びSwedish Human Protein Atlasプロジェクトから入手した(Uhlen M,Fagerberg L,Hallstrom BM,Lindskog C,Oksvold P,Mardinoglu A,et al.Proteomics.Tissue-based map of the human proteome.Science.2015;347(6220):1260419)。それらは、ヒトタンパク質の固有の部分を表す短い組換え10~12kDaペプチドであるタンパク質エピトープシグネチャータグ(PrEST)からなる。PrESTを大腸菌で生産し、タグを介して精製した。以下の基準によって、このプロジェクトのPrESTを選択した。1)公開されたデータによると、MSに関与すると想定されるタンパク質。2)ミエリンシートの主要な構造タンパク質。3)当該分野の専門家との情報交換により選択された目的のタンパク質。4)以前は疾患に関連していなかった高発現CNS特異的タンパク質。この試験では、70種類のタンパク質から得られた合計125のPrESTを使用した。
【0307】
全長抗原の生産
タンパク質の全長バージョンを用いたその後の試験のために、例1及び2に記載のPrESTのスクリーニングから取り出した抗原(FABP7、PROK2、RTN3及びSNAP91)を選択した。抗原及びヒスタミンタグをコードするプラスミドを大腸菌に形質転換することにより、全長抗原を生産した。増殖後、細菌を溶解し、固定化金属アフィニティークロマトグラフィーカラムでの6xヒスチジンタグ精製により細菌溶解の上清からタンパク質を精製した。その後、抗原をビーズに結合させ、前述のようにエンドトキシンを洗浄した。
【0308】
FluoroSpot T細胞活性化アッセイ
細胞培養フード内の無菌条件下でFluoroSpotアッセイを実施した。細胞を37°Cの水浴中で解凍し、cRPMI(10%ウシ胎児血清、1%L-グルタミン(200mM)、1%ペニシリン(10,000U/ml)-ストレプトマイシン(10mg/ml)を含むRPMI 1640培地、Sigma Aldrich)を用いて洗浄した。光学顕微鏡(Nikon TMS-F、Nikon、日本)を用いて細胞を手動で計数し、続いてcRPMIで2.5x106細胞/mlの濃度に希釈した。PBSを用いてFluoroSpotプレート(ヒトIFNγ/IL-22/IL-17A FluoroSpotキット、プレコート、Mabtech、スウェーデン)を洗浄した後、室温で30分間cRPMIを用いてブロックした。次いで、ブロッキングcRPMIを廃棄し、FluoroSpotプレートの各ウェルに100μlの新鮮なcRPMIを加えた。特定のレイアウトに従って、抗原(3x106ビーズ)を各ウェルに2連で加えた。製造業者のプロトコルに従って、抗CD3を陽性対照として使用した。結合していないビーズ及び刺激のない培地の両方を陰性対照として使用した。100μlのcRPMI中のPBMC(250,000個の細胞)を各ウェルに加えた(抗CD3に対して125,000個の細胞)。プレートをインキュベーター(37°C加湿環境下、5%CO2)に44時間置いた。メーカーのプロトコルに従って、スポットを発色させた。
【0309】
重複ペプチド
FABP7アイソフォーム1及び2並びにPROK2全体に及ぶ連続重複ペプチド(15アミノ酸長、10アミノ酸重複)を、市販業者から凍結乾燥された形態で購入し、続いて、100%ジメチルスルホキシド(DMSO)中に50~100mg/mlの濃度まで懸濁させた。次いで、それらを滅菌PBSで5mg/mlの濃度にさらに希釈した。それらを、それぞれ5~7個のペプチドを含む、FABP7については6つの画分及びPROK2については3つの画分にプールした。含まれた各プールは、全長タンパク質上に互いに隣り合って位置していた。前述のプロトコルに従って、FluoroSpotアッセイで、これらに対して6例のMS患者の細胞を試験した。細胞培養ウェル内の各ペプチドの最終濃度は5μg/mlであった。
【0310】
抗原特異的免疫療法
同定された自己抗原FABP7、PROK2、RTN3及びSNAP91を標的とする抗原特異的免疫療法の安全性、忍容性及び有効性を評価するために、臨床試験が行われるであろう。第一に、例6で先に説明されたように、各抗原由来の免疫優性エピトープが同定される。第二に、例7に記載の方法を使用して、自己抗原に対するT細胞活性について試験参加者(多発性硬化症患者)がスクリーニングされる。自己抗原に対する反応性を有する患者が試験の適格対象になる。治療は、各自己抗原からの1つもしくは複数の免疫優性ペプチドエピトープの混合物、又は患者が包含前のスクリーニングで応答した自己抗原のみに由来する1つもしくは複数の免疫優性ペプチドエピトープの混合物のいずれかからなり得る。
【0311】
治療プロトコルは、以前に公開された成功した抗原特異的免疫療法プロトコルに基づくことになる(Cathaway J,Martin K,Barrell K,Sharrack B,Stolt P,Wraith DC. Effects of ATX-MS-1467 immunotherapy over 16 weeks in relapsing multiple sclerosis.Neurology 2018)(Walczak A,Siger M,Szczepanik M,Selmaj K.Transdermal application of myelin peptides in multiple sclerosis treatment.JAMA Neurol.2013)。1つの代替プロトコルでは、治療は、週1回/隔週のペプチドエピトープ混合物の皮下注射又は皮内注射からなり、これは低用量で開始され、その後、所望のさらに高い用量に達するまで増量期間が続く。その後、限られた期間にわたり、高用量の週1回/隔週の注射の期間が続く。或いは、ペプチドエピトープは、同様のスキームの下で、経皮投与、舌下投与又は経口投与される。安全性及び忍容性は継続的に評価され、有効性は完全な治療後に評価される。エンドポイントは、病変の数及び体積の磁気共鳴画像法に基づく評価と、総合障害度(EDSS)及び初回再燃までの期間又は再燃の頻度を含む臨床的変数との組合せなどの有効性パラメータからなる。
【配列表フリーテキスト】
【0312】
配列表5 <223>ヒトタンパク質FABP7、PROK2、RTN3及びSNAP91の組合せ配列。
【配列表】