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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】車載シート装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/64 20060101AFI20231003BHJP
   B60N 2/22 20060101ALI20231003BHJP
   B60N 2/42 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B60N2/64
B60N2/22
B60N2/42
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020006326
(22)【出願日】2020-01-17
(65)【公開番号】P2021112972
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 哲也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 康之
(72)【発明者】
【氏名】功刀 晃輝
(72)【発明者】
【氏名】武田 歩
(72)【発明者】
【氏名】羽田 昌敏
【審査官】瀧本 絢奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-025238(JP,A)
【文献】特開2011-218862(JP,A)
【文献】特開2019-142405(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0088158(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内において立脚し、リクライニング軸を介してシートクッションと連結されたシートバックメインフレームと、
前記シートバックメインフレームに対して、少なくともロール方向に揺動可能なシートバックサブフレームと、
乗員の背部がもたれかかるバックレストであって、前記シートバックサブフレームに取り付けられ、前記シートバックサブフレームとともに揺動可能なバックレストと、
前記シートバックサブフレームの後方移動を規制する一方で、ロール方向の移動を許容するべく、前端が前記シートバックメインフレームに、後端が前記シートバックサブフレームに連結されるとともに、その連結間距離が可変の複数の支持部材と、
を備え、前記複数の支持部材は、前記シートバックサブフレームの下側半分領域に設けられた下支持部材と、前記シートバックサブフレームの上側半分領域に設けられた上支持部材と、を含み、
前記下支持部材の前端と後端を結ぶ直線は、前記シートバックメインフレームの上端かつ前後方向中心と前記リクライニング軸とを結ぶ直線に対する法線である基準法線に対して前上がりに傾斜しており、
前記上支持部材の前端と後端を結ぶ直線は、前記基準法線に対して前下がりに傾斜している、
ことを特徴とする車載シート装置。
【請求項2】
請求項に記載の車載装置であって、
前記上支持部材は、前記シートバックサブフレームを前記シートバックメインフレームに対して後方に移動させる後ろ向き荷重を印加した初期段階では、テンションを発揮せず、前記初期段階を超えてからテンションが増加する、非線形弾性体である、ことを特徴とする車載シート装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車載装置であって、
前記基準法線に対する前記下支持部材の前端と後端を結ぶ直線の傾斜角度は、25度以上35度以下である、ことを特徴とする車載シート装置。
【請求項4】
請求項1からのいずれか一項に記載の車載装置であって、
前記上支持部材および前記下支持部材は、線材、または、バネ、または、ダンパである、ことを特徴とする車載シート装置。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載の車載装置であって、さらに、
前記バックレストの背面に固定された中継ディスクと、
前記中継ディスクと前記シートバックメインフレームとの間に架け渡され、前記バックレストを前記シートバックメインフレームから吊り下げ保持する複数の吊り具と、
を備えている、ことを特徴とする車載シート装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、着座者の背部がもたれかかるバックレストが、車室内において立脚するシートバックメインフレームに対して少なくともロール方向に揺動可能な車載シート装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来から、着座者の姿勢保持性を向上するために、着座者の背部がもたれかかるバックレストを、シートバックメインフレーム(以下「シートバック」を「SB」と略す)に対して揺動可能とした車載シート装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、バックレストがSBメインフレームからワイヤで吊り下げ保持された車載シート装置が開示されている。バックレストには、SBサブフレームが取り付けられており、当該SBサブフレームは、バックレストとともにSBメインフレームに対して揺動可能となっている。また、特許文献1において、SBメインフレームとSBサブフレームは、左右に撓むことができる板バネを介して連結されており、この板バネにより、SBサブフレームのSBメインフレームに対する後方移動が規制される。特許文献1に記載の車載シート装置によれば、SBサブフレームひいてはバックレストの後方移動が規制されるため、着座者の姿勢がある程度安定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-142405公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の車載シート装置の場合、SBサブフレームに後ろ向きの大きな荷重がかかったとき、例えば、車両が急加速した場合やオフロードを走行した場合に、着座者の頭部が前後または上下に揺れやすいという問題があった。このような頭部の前後または上下の揺れは、着座者の前方環境の視認性に悪影響を与える。頭部のピッチ方向の揺れが大きくなる原因は、はっきりしないが、SBサブフレームに後ろ向きの荷重がかかったときにSBサブフレームからの反力の方向が、頭部の揺れを抑制する方向になっていないことが原因の一つと考えられる。
【0006】
そこで、本明細書では、着座者の頭部の揺れを軽減できる車載シート装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示する車載シート装置は、車室内において立脚し、リクライニング軸を介してシートクッションと連結されたSBメインフレームと、前記SBメインフレームに対して、少なくともロール方向に揺動可能なSBサブフレームと、乗員の背部がもたれかかるバックレストであって、前記SBサブフレームに取り付けられ、前記SBサブフレームとともに揺動可能なバックレストと、前記SBサブフレームの後方移動を規制する一方で、ロール方向の移動を許容するべく、前端が前記SBメインフレームに、後端が前記SBサブフレームに連結されるとともに、その連結間距離が可変の複数の支持部材と、を備え、前記複数の支持部材は、前記SBサブフレームの下側半分領域に設けられた下支持部材と、前記SBサブフレームの上側半分領域に設けられた上支持部材と、を含み、前記下支持部材の前端と後端を結ぶ直線は、前記SBメインフレームの上端かつ前後方向中心と前記リクライニング軸とを結ぶ直線に対する法線である基準法線に対して前上がりに傾斜しており、前記上支持部材の前端と後端を結ぶ直線は、前記基準法線に対して前下がりに傾斜している、ことを特徴とする。
【0008】
かかる構成とすることで、SBサブフレームに後ろ向きの力がかかった際、着座者の腰部付近に、SBサブフレームから前上がり方向の反力が作用する。その結果、着座者の背中が自然と反り、頭部の前下方向への動きが規制されるため、頭部の動きが軽減される。
【0010】
かかる構成とすることで、頭部の左右方向の動きを軽減できる。
【0011】
また、前記上支持部材は、前記SBサブフレームを前記SBメインフレームに対して後方に移動させる後ろ向き荷重を印加した初期段階では、テンションを発揮せず、前記初期段階を超えてからテンションが増加する、非線形弾性体であってもよい。
【0012】
かかる構成とすることで、頭部の上下方向の動きをより効果的に抑制できる。
【0013】
また、前記基準法線に対する前記下支持部材の前端と後端を結ぶ直線の傾斜角度は、25度以上35度以下でもよい。
【0014】
かかる構成とすることで、頭部のピッチ方向の動きをより効果的に抑制できる。
【0015】
また、前記上支持部材および前記下支持部材は、線材、または、バネ、または、ダンパでもよい。
【0016】
線材、または、バネ、または、ダンパという一般的な部材を用いることで、車載シート装置のコストを低減できる。
【0017】
また、さらに、前記バックレストの背面に固定された中継ディスクと、前記中継ディスクと前記SBメインフレームとの間に架け渡され、前記バックレストを前記SBメインフレームから吊り下げ保持する複数の吊り具と、を備えていてもよい。
【0018】
かかる構成とすることで、簡易かつ軽量な構成で、SBサブフレームをSBメインフレームに対して、ロール方向に揺動にできる。
【発明の効果】
【0019】
本明細書で開示する車載シート装置によれば、着座者の頭部の揺れを軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】車載シート装置を斜め後ろから見た斜視図である。
図2】SBメインフレームの分解斜視図である。
図3】SBサブフレームおよびバックレストの分解斜視図である。
図4】ワイヤの架け渡しの様子を示す図である。
図5】下支持ワイヤ周辺の斜視図である。
図6】SBサブフレームおよび支持ワイヤの概略側面図である。
図7】上支持ワイヤの模式図である
図8】下支持ワイヤの模式図である
図9】車載シート装置に、オフロード走行時と同様の振動を付加した際の頭部の上下方向の移動速度を示すグラフである。
図10】車載シート装置に、オフロード走行時と同様の振動を付加した際の頭部の前後方向の移動速度を示すグラフである。
図11】車載シート装置に、オフロード走行時と同様の振動を付加した際の頭部のピッチ方向角速度を示すグラフである。
図12】上支持ワイヤの他の配置形態を示す模式図である。
図13】下支持バネ周辺の斜視図である。
図14】上支持バネ周辺の斜視図である。
図15図13図14の車載シート装置を背面から見た模式図である。
図16】他の車載シート装置を背面から見た模式図である。
図17】支持バネの概略斜視図である。
図18】下支持部材として、ダンパを用いた様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して車載シート装置10の構成について説明する。図1は、車載シート装置10を斜め後ろから見た斜視図である。なお、以下の説明において、「上下」、「前後」、「左右」は、特に説明が無い限り、車載シート装置10に着座する乗員(以下「着座者」という)から見ての方向を意味する。また、各図において、「Fr」、「Up」、「R」は、それぞれ、前方、上方、右側方を意味する。さらに、本明細書では、必要に応じて「シートバック」を「SB」と略す。
【0022】
この車載シート装置10は、車両に搭載されるもので、例えば、運転席や助手席である前側シートとして利用される。車載シート装置10は、着座者の臀部を支えるシートクッション12と、着座者の上半身を支えるシートバック14と、に大別できる。シートクッション12の構成は、従来の公知技術を利用できるため、ここでの詳説は、省略する。また、図1において、シートクッション12は、おおよその形のみを図示している。
【0023】
車室の床面には、スライドレール18が取り付けられている。スライドレール18は、車室の床面に固定されて前後方向に延びるロアレール18Lと、当該ロアレール18Lに沿ってスライド可能なアッパーレール18Uと、を有している。シートクッション12の四隅は、アッパーレール18Uに連結されており、これにより、車載シート装置10は、前後方向にスライド可能となっている。
【0024】
シートバック14は、SBメインフレーム22と、SBサブフレーム28と、バックレスト26と、に大別される。図2は、SBメインフレーム22の分解斜視図であり、図3は、SBサブフレーム28およびバックレスト26の分解斜視図である。SBメインフレーム22は、車室内で立脚するフレーム部材で、本体フレーム24と、当該本体フレーム24に装着される中間フレーム25と、を有する。本体フレーム24は、図2に示すように、上下左右に位置する四つのフレーム部材を連結して構成されており、正面から見た場合、略ロの字形状となっている。本体フレーム24の下端近傍には、左右方向に延びるリクライニング軸20が設定されている。本体フレーム24を含むSBメインフレーム22は、このリクライニング軸20を介してシートクッション12に揺動可能に連結されている。そして、SBメインフレーム22がリクライニング軸20を中心として揺動することで、シートバック14全体がシートクッション12に対して揺動(すなわちリクライニング)できる。
【0025】
中間フレーム25は、上下方向に延びる一対のサイドフレーム34と、当該一対のサイドフレーム34から延びるサポートパイプ36と、を有している。各サイドフレーム34は、本体フレーム24の外側面に重ねられ、本体フレーム24にボルト締結される。サイドフレーム34の前端には、上前側拘束ブラケット52Uおよび下前側拘束ブラケット52L(以下、上下を区別しない場合は「前側拘束ブラケット52」という)が、取り付けられている。上前側拘束ブラケット52Uには、上支持ワイヤ66Uの前端が、下前側拘束ブラケット52Lには、下支持ワイヤ66Lの前端が、固定されるが、これについては後述する。なお、上支持ワイヤ66Uおよび下支持ワイヤ66Lについても、上下を区別しない場合は「支持ワイヤ66」という。
【0026】
次に、バックレスト26およびSBサブフレーム28について図3を参照して説明する。バックレスト26は、着座者の背部がもたれかかる薄板材である。このバックレスト26は、SBメインフレーム22の中間フレーム25から吊り下げ保持されており、SBメインフレーム22に対して揺動可能となっている。また、SBサブフレーム28は、バックレスト26の背後に取り付けられており、バックレスト26とともに、中間フレーム25、ひいては、SBメインフレーム22に対して揺動可能となっている。
【0027】
より具体的に説明すると、バックレスト26は、着座者の背部を支える部材で、人の背中の形状に合わせて滑らかに湾曲している。バックレスト26の背面かつ左右中心となる箇所には、中継ディスク32が固着されている。この中継ディスク32は、バックレスト26の高さ方向中心よりも上側位置に設けられている。中継ディスク32は、その直径寸法が、その軸方向寸法よりも十分に大きくなるような円板状部材である。中継ディスク32には、後述するワイヤを引っかけるための溝や滑車が設けられている。バックレスト26の背面かつ中継ディスク32の下側には、複数のワイヤガイド48が上下方向に間隔を開けて配置されている。このワイヤガイド48は、後述する横ワイヤ58の配置位置をガイドするもので、バックレスト26の背面から立脚するリブで構成されている。
【0028】
SBサブフレーム28は、バックレスト26の背面に取り付けられるフレーム部材である。このSBサブフレーム28は、一対の縦フレーム50と、上横フレーム51Uおよび下横フレーム51L(以下、上下を区別しない場合は「横フレーム51」という)と、複数の横ワイヤ58と、を有している。縦フレーム50は、上下方向に延びるフレーム部材で、バックレスト26の左右両端に取り付けられる。横フレーム51は、この一対の縦フレーム50を連結する。
【0029】
横フレーム51は、上面視で、略コ字状になるように、縦フレーム50よりも後方、すなわち、SBメインフレーム22側に張り出している。上横フレーム51Uには、一対の上後側拘束ブラケット44Uと、一対の第四係止部40dと、が固着されている。下横フレーム51Lには、一対の下後側拘束ブラケット44L(以下、上下を区別しない場合は「後側拘束ブラケット44」という)と、一対の第五係止部40eと、が固着されている。
【0030】
第四係止部40dおよび第五係止部40eは、後述する下ワイヤ64の端部が係止される部位である。また、後側拘束ブラケット44は、後述する支持ワイヤ66の後端が固定される部位である。横ワイヤ58は、一対の縦フレーム50の間に架け渡されるワイヤである。この横ワイヤ58が、バックレスト26を後方から支え、着座者からの荷重を受ける。
【0031】
次に、バックレスト26を支持あるいはバックレスト26の位置を規制する各種ワイヤの架け渡し形態について図4図5を参照して説明する。図4は、ワイヤの架け渡しの様子を示す図である。また、図5は、下支持ワイヤ66L周辺の斜視図である。なお、図4では、本体フレーム24、バックレスト26および横ワイヤ58の図示は、省略している。
【0032】
図4から明らかな通り、中継ディスク32からは、一つの上ワイヤ60と、左右一対の左右ワイヤ62と、二つの下ワイヤ64と、が放射状に延びている。これらのワイヤ60,62,64は、バックレスト26をSBメインフレーム22に対して揺動可能に吊り下げ保持する吊り具として機能する。上ワイヤ60は、中継ディスク32と、中継ディスク32の上方に位置する第一係止部40aとの間に架け渡される。第一係止部40aは、サポートパイプ36の左右方向中心に固着されており、中継ディスク32の上方に位置している。上ワイヤ60は、中継ディスク32から、サポートパイプ36の第一係止部40aを通って、再び、中継ディスク32に戻るような閉ループ形状である。
【0033】
ここで、第一係止部40aが固着されているサポートパイプ36は、中間フレーム25、および、SBメインフレーム22の一部である。かかるサポートパイプ36から吊り下げ保持されることで、バックレスト26が、SBメインフレーム22に対して揺動可能となる。
【0034】
左右ワイヤ62は、中継ディスク32、第二係止部40b、および第三係止部40cを通る閉ループの略三角状に架け渡されている。第二係止部40bは、サポートパイプ36のうち、中継ディスク32よりも左右方向かつ上前方向となる箇所に固着されている。また、第三係止部40cは、縦フレーム50の上端に固着されている。二つの左右ワイヤ62が、左右対称に架け渡されることで、バックレスト26は、当該二つの左右ワイヤ62のテンションが釣り合う中立位置、すなわち、バックレスト26の左右中心がSBメインフレーム22の左右中心と一致する位置に、自動的に位置決めされる。
【0035】
下ワイヤ64は、その両端が中継ディスク32の下方に向かうように、中継ディスク32でUターンする有端のワイヤである。各下ワイヤ64の両端は、横フレーム51に設けられた一対の第四係止部40dまたは一対の第五係止部40eに固定される。
【0036】
以上の通り、中継ディスク32および中継ディスク32が固着されたバックレスト26は、複数のワイヤ60,62,64により、中間フレーム25(ひいてはSBメインフレーム22)に対する位置が、拘束されている。ただし、この拘束は、強固なものではなく、ワイヤ60,62,64が、適度に撓んだり、傾いたりすることで、バックレスト26およびバックレスト26に取り付けられたSBサブフレーム28は、中継ディスク32を中心として、SBメインフレーム22に対して前後方向に延びる軸周り、すなわちロール方向に揺動できる。
【0037】
バックレスト26の前後方向位置は、四つの支持ワイヤ66により規制される。各支持ワイヤ66の前端は、前側拘束ブラケット52に固着され、後端は、後側拘束ブラケット44に固着される。各支持ワイヤ66は、SBサブフレーム28の後方移動を規制する一方で、ロール方向の移動を許容するもので、その連結間距離(すなわち前側拘束ブラケット52と後側拘束ブラケット44との距離)が可変の支持部材として機能する。
【0038】
ここで、図5に示す通り、また、上述した通り、下後側拘束ブラケット44Lは、SBサブフレーム28の下横フレーム51Lに固着されており、SBサブフレーム28に対して位置不変である。また、下前側拘束ブラケット52Lは、下後側拘束ブラケット44Lの前方に配置されている。この下前側拘束ブラケット52Lは、中間フレーム25に固着されており、SBメインフレーム22に対して位置不変である。かかる下前側拘束ブラケット52Lと下後側拘束ブラケット44Lとの間に下支持ワイヤ66Lを架け渡すことで、バックレスト26およびSBサブフレーム28の後方移動が規制される。なお、図5では、下前側拘束ブラケット52Lと下後側拘束ブラケット44Lを例に挙げて説明しているが、上前側拘束ブラケット52Uと上後側拘束ブラケット44Uも、同様の構成である。
【0039】
以上のような構成の車載シート装置10によれば、バックレスト26が、SBメインフレーム22に対して、ロール方向に揺動できる。この場合、車両の走行に伴い生じる左右方向の揺れを、頭部ではなく、胴体の動きで吸収できるため、着座者の頭部の姿勢が安定する。また、背部がもたれかかるバックレスト26が、複数のワイヤによって支持されているため、肉厚のクッション部材(例えばウレタンシート等)がなくても、適度なクッション性を確保でき、車載シート装置10の軽量化が可能となる。
【0040】
ところで、車両走行時、着座者には、左右方向の力だけではなく、後ろ向きの力もかかる。例えば、急加速時や、オフロード走行時に車両が凹凸を乗り越える際には、着座者に後ろ向きの力がかかる。このとき、特許文献1に記載されているような従来の車載シート装置では、着座者の頭部が、左右方向の軸周り、すなわち、ピッチ方向に比較的大きく揺れていた。すなわち、従来の車載シート装置では、後ろ向きの力が印加された際、着座者の頭部は、まず、当該後ろ向きの力に抗するために、大きく頷くように前下方向に動き、その後、頭部姿勢を元に戻すために、俯いた顔を上げるように後上方向に動く。結果として、頭部がピッチ方向に動くものと推測される。こうした頭部のピッチ方向の揺れ、特に、頭部の上下方向の動きは、着座者の前方環境の視認性に悪影響を与える。
【0041】
そこで、こうした頭部のピッチ方向の揺れを軽減するために、本例では、下支持ワイヤ66Lを、前上がりになるように設置している。これについて、図6図8を参照して説明する。図6は、SBサブフレーム28および支持ワイヤ66の概略側面図である。図7は、上支持ワイヤ66Uの、図8は、下支持ワイヤ66Lの模式図である。
【0042】
本例では、SBメインフレーム22の上端とリクライニング軸20とを結ぶ直線をシート基準線L1、このシート基準線L1に直交する直線を基準法線L2として設定している。図7図8に示すように、以下では、この基準法線L2と上支持ワイヤ66Uとの成す角度を「上ワイヤ角度α」と呼び、基準法線L2と下支持ワイヤ66Lとの成す角度を「下ワイヤ角度β」と呼ぶ。
【0043】
図6図8に示す通り、本例では、下支持ワイヤ66Lが、この基準法線L2に対して前上がりに傾斜するように、下支持ワイヤ66Lを取り付けている。かかる構成とすることで、着座者のピッチ方向の揺れ、特に上下方向の動きが抑制できる。すなわち、着座者、ひいては、SBサブフレーム28に後ろ向きの力が印加された際、当該SBサブフレーム28は、支持ワイヤ66の張力が許す範囲内で後方に移動する。そして、SBサブフレーム28が、下支持ワイヤ66Lが充分に伸びきる位置まで後方に移動すると、着座者の腰部付近には、SBサブフレーム28から反力が付加される。この反力の向きは、下支持ワイヤ66Lの傾斜方向と同じ、前上がり方向となる。そして、腰部に前上方向の力を受けることで、着座者の背中が、自然と反るような姿勢となり、頭部が前下方向に動きにくくなる。そして、これにより、着座者の頭部の動きが安定する。
【0044】
図9図11は、下ワイヤ角度βの違いによる頭部の動きの違いを示すグラフである。より具体的に説明すると、図9図11は、車載シート装置10に、オフロード走行時と同様の振動を付加した際の頭部の動きを計測した結果を示すグラフである。図9は、頭部の上下方向の移動速度を、図10は、頭部の前後方向の移動速度を、図11は、頭部のピッチ方向角速度を、それぞれ示している。また、図9図11において、横軸に示す数値は、条件番号を示しており、条件1は、下ワイヤ角度βを前下がり30°に、条件2は、下ワイヤ角度βを0°としている。同様に、条件3~6は、それぞれ、下ワイヤ角度βを前上がり15°,25°,30°,35°としている。また、条件1~条件6は、いずれも、上ワイヤ角度αは、0°としている。
【0045】
図9を見ると、下支持ワイヤ66Lが前上がりの場合(条件3~6の場合)、下支持ワイヤ66Lが、基準法線L2と平行な場合(条件2の場合)と比べて、頭部の上下方向の動きが低下していることが分かる。また、図10を見ると、頭部の前後方向の動きは、下支持ワイヤ66Lが前上がりで、β=25°、β=30°の場合には、β=0°の場合に比べて低下していることが分かる。さらに、図11を見ると、下支持ワイヤ66Lが前上がりでβ≧25°の場合(条件4~6の場合)、β=0°に比べて、頭部のピッチ方向の角速度が、小さいまたはほぼ同じであることが分かる。
【0046】
ここで、一般に、頭部の上下方向の動きは、前後方向の動きに比べて、前方環境の視認性に大きな影響を与える。したがって、頭部の前後方向の動きが増加したとしても、上下方向の動きを抑制できれば、前方環境の視認性低下を効果的に防止できる。したがって、前方環境の視認性低下を防止するためには、下支持ワイヤ66Lは、前上がりに配置すればよい。さらに、下支持ワイヤ66Lが前上がりで、下支持ワイヤ66L角度が25°以上とすれば、頭部のピッチ方向の揺れも軽減できる。ピッチ方向の揺れを軽減することで、着座者の肉体的負担を軽減でき、快適性も向上できる。なお、下ワイヤ角度βは、機械的な構造上、35°より大きくすることは難しい。したがって、下ワイヤ角度βは、25°以上35°未満の範囲内で設定すれば、前方環境の視認性低下を効果的に防止でき、さらに、着座者の快適性を向上できる。
【0047】
次に、図6図7を参照して、上支持ワイヤ66Uについて説明する。本例では、上支持ワイヤ66Uは、基準法線L2に対して前下がりとなるように傾斜させている。かかる構成とするのは、着座者のロール方向の揺動を軽減するためである。すなわち、上支持ワイヤ66Uを、下支持ワイヤ66Lと同様に、前上がり配置とした場合、頭部の上下方向、あるいは、ピッチ方向の動きは軽減できるものの、頭部のロール方向の揺動が大きくなりやすかった。本例では、ロール方向の揺動も軽減することを目的として、上支持ワイヤ66Uを、前下がり配置としている。ただし、頭部の上下方向またはピッチ方向の動きを軽減することを重視するのであれば、上支持ワイヤ66Uも、下支持ワイヤ66Lと同様に前上がり配置、あるいは、α=0°としてもよい。
【0048】
ここで、この上支持ワイヤ66Uは、図12に示すように、無負荷状態では弛んだ状態としてもよい。この場合、SBサブフレーム28に後ろ向きの力が印加された直後(すなわち初期段階)では、上支持ワイヤ66Uは、テンションを発揮しない。一方、初期段階を越えた場合、すなわち、上支持ワイヤ66Uの弛みが解消される位置までSBサブフレーム28がSBメインフレーム22に対して後方に移動した場合、上支持ワイヤ66Uは、そのテンションが徐々に増加する。換言すれば、上支持ワイヤ66Uを弛ませて設置した場合、上支持ワイヤ66Uは、そのテンションが非線形に変化する非線形弾性体として機能する。
【0049】
上支持ワイヤ66Uを、非線形弾性体とした場合、後ろ向きの力が印加された際の頭部の上下方向またはピッチ方向の動きを、より軽減できる。このように頭部の動きを軽減できる正確な原理は不明であるが、例えば次のような推測が考えられる。上支持ワイヤ66Uを弛ませた場合、初期段階では、頭部の動きを抑制する角度で配置された下支持ワイヤ66Lの影響が相対的に大きくなる。その結果、上支持ワイヤ66Uを非弾性体とすることで頭部の動きが抑制できると推測できる。また、上支持ワイヤ66Uを弛ませた場合、下支持ワイヤ66Lの近傍に位置する腰部は、初期段階であっても後方移動が規制されるのに対し、上支持ワイヤ66Uの近傍に位置する胸部は、初期段階では、後方移動が許容される。その結果、着座者の上半身がより反りやすくなり、頭部の前下方向への動きが抑制されるとも推測できる。
【0050】
いずれにしても、これまでの説明で明らかな通り、本例によれば、下支持ワイヤ66Lを基準法線L2に対して前上がりとなるように傾斜させることで、頭部の動きを抑制でき、着座者の前方環境の視認性や、快適性を向上できる。
【0051】
なお、支持ワイヤ66の望ましい配置角度は、車種等に応じて異なる。そこで、支持ワイヤ66の配置角度は、適宜、変更できるようにしてもよい。例えば、支持ワイヤ66の後端が取り付けられる後固定部55(図5参照)を、後側拘束ブラケット44に対して着脱自在にするとともに、後側拘束ブラケット44に後固定部55の取付部45を複数、設けてもよい。かかる構成とした場合、必要に応じて後固定部55の取付位置を変更することで、支持ワイヤ66の傾斜角度を変更できる。また、後固定部55ではなく、後側拘束ブラケット44全体を、横フレーム51に対して交換可能としてもよい。
【0052】
また、これまでの説明では、SBサブフレーム28の後方移動を規制する支持部材として、支持ワイヤ66を用いたが、支持部材は、SBサブフレーム28の後方移動を規制する一方で、ロール方向の揺動を許容でき、さらに、連結間距離を変更できるのであれば、他の構成でもよい。例えば、支持ワイヤ66に替えて、バネ、例えば、板バネを用いてもよい。これについて、図13図14を参照して説明する。図13は、下支持部材周辺の、図14は、上支持部材周辺の斜視図である。
【0053】
図13に示す例では、下支持部材として、板バネである下支持バネ70Lを用いている。また、図13の例では、下支持バネ70Lは、SBメインフレーム22の左右中央に一つだけ設けられている。下支持バネ70Lの前端は、下前側拘束ブラケット52Lを介してSBメインフレーム22に連結されている。また、下支持バネ70Lの後端は、下後側拘束ブラケット44Lを介してSBサブフレーム28に連結されている。また、下支持バネ70Lは、基準法線L2に対して前上がりに傾斜している。
【0054】
また、下支持バネ70Lは、その厚み方向が左右方向と平行になるように配置されている。その結果、下支持バネ70Lが撓むことで、SBサブフレーム28のSBメインフレーム22に対する左右方向への揺動が許容される。また、下支持バネ70Lが撓むことで、下支持バネ70Lの連結間距離が変化する。
【0055】
このように、ワイヤに替えて、板バネを用いた場合であっても、当該板バネ(下支持バネ70L)を前上がりに傾斜した姿勢で配置することで、SBサブフレーム28に後ろ向きの力が印加された際に、前上がりの反力が発生する。そしてこれにより、着座者の頭部の動きを軽減できる。
【0056】
また、図14に示すように、上支持部材として、板バネである上支持バネ70Uを用いてもよい。この場合、上支持バネ70Uの前端は、上前側拘束ブラケット52Uを介してSBメインフレーム22に連結されている。また、上支持バネ70Uの後端は、上後側拘束ブラケット44Uを介してSBサブフレーム28に連結されている。また、図14に示す例では、上支持バネ70Uは、その厚み方向が左右方向に対して傾いている。具体的には、図15に示すように、上支持バネ70Uは、その幅方向が、中継ディスク32と当該上支持バネ70Uとを結ぶ直線L3と平行になるように配置されている。また、図14図15に示す例では、上支持バネ70Uは、基準法線L2に対して前上がりに配置されている。
【0057】
ただし、ここで示した上支持バネ70Uの配置は、一例であり、適宜変更をされてもよい。例えば、図16に示すように、上支持バネ70Uは、その厚み方向が、左右方向と平行になるように配置されてもよいし、基準法線L2に対して前下がりに配置されてもよい。いずれの場合であっても、上支持バネ70Uが撓むことで、SBサブフレーム28のロール方向の揺動が、許容されるとともに、連結間距離が変化する。なお、支持バネ70の連結間距離をよりダイナミックに変化させるために、図17に示すように、支持バネ70の途中に、湾曲部72または屈曲部を設けてもよい。
【0058】
また、別の形態として、支持部材として、ダンパを用いてもよい。図18は、下支持部材として、ダンパである下支持ダンパ74Lを用いた様子を示す図である。この場合でも、下支持ダンパ74Lを、基準法線L2に対して前上がりに傾斜した姿勢で配置することで、着座者の頭部の動きを軽減できる。また、支持部材として、支持ダンパ74を用いた場合には、当該支持ダンパ74のロール方向の動きを許容するために、SBサブフレーム28またはSBメインフレーム22との間に、ユニバーサルジョイント、例えばボールジョイント76等を設けてもよい。
【0059】
また、これまでの説明では、SBサブフレーム28は、SBメインフレーム22に対してロール方向に揺動可能であれば、必ずしも吊り下げ保持されていなくてもよい。例えば、SBサブフレーム28は、回転軸や円弧状のガイドレールを介して、SBメインフレーム22に揺動可能に連結されていてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 車載シート装置、12 シートクッション、14 シートバック、18 スライドレール、20 リクライニング軸、22 SBメインフレーム、24 本体フレーム、25 中間フレーム、26 バックレスト、28 SBサブフレーム、32 中継ディスク、34 サイドフレーム、36 サポートパイプ、44L 下後側拘束ブラケット、44U 上後側拘束ブラケット、45 取付部、48 ワイヤガイド、50 縦フレーム、51L 下横フレーム、51U 上横フレーム、52L 下前側拘束ブラケット、52U 上前側拘束ブラケット、55 後固定部、58 横ワイヤ、60 上ワイヤ、62 左右ワイヤ、64 下ワイヤ、66L 下支持ワイヤ、66U 上支持ワイヤ、70L 下支持バネ、70U 上支持バネ、72 湾曲部、74 支持ダンパ、76 ボールジョイント、L1 シート基準線、L2 基準法線、α 上ワイヤ角度、β 下ワイヤ角度。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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