(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】測定冶具及び測定方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20231003BHJP
C30B 15/10 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C30B29/06 502B
C30B15/10
(21)【出願番号】P 2020032945
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】友国 和樹
(72)【発明者】
【氏名】大濱 康生
(72)【発明者】
【氏名】沢▲崎▼ 二郎
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/207942(WO,A1)
【文献】特開2019-167263(JP,A)
【文献】特開2019-048750(JP,A)
【文献】特開2011-157230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CZ法によりシリコン単結晶インゴットを育成するために有底筒状の石英坩堝が有底筒状の黒鉛坩堝の内部に配置されたときの、前記有底筒状の石英坩堝の外面と前記有底筒状の黒鉛坩堝の内面との隙間の間隔を測定するための測定冶具であって、
前記黒鉛坩堝の中心軸を含む縦断面のうち、少なくとも底部を含む領域の前記黒鉛坩堝の内面の断面形状が形成された断面形状部を有するギャップ板を備えることを特徴とする測定冶具。
【請求項2】
前記ギャップ板を複数備え、それぞれの前記ギャップ板における前記黒鉛坩堝の中心軸に対応する位置で交差状に連結されたものであることを特徴とする請求項1に記載の測定冶具。
【請求項3】
前記ギャップ板は、前記石英坩堝の径を示すスケールが形成されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の測定冶具。
【請求項4】
CZ法によりシリコン単結晶インゴットを育成するために有底筒状の石英坩堝が有底筒状の黒鉛坩堝の内部に配置されたときの、前記有底筒状の石英坩堝の外面と前記有底筒状の黒鉛坩堝の内面との隙間の間隔を測定するための測定方法であって、
請求項1から3のいずれか一項に記載の測定冶具を用い、
前記ギャップ板における前記断面形状部を前記石英坩堝の底部の外面にあてがい、前記ギャップ板における前記断面形状部と前記石英坩堝の外面との間の隙間に円錐テーパーゲージを挿入し、前記円錐テーパーゲージの円錐面を、前記ギャップ板における前記断面形状部と前記石英坩堝の外面に接触させて、前記円錐テーパーゲージの円錐面と前記ギャップ板における前記断面形状部及び前記石英坩堝の外面との接触位置から、前記隙間の間隔を測定することを特徴とする測定方法。
【請求項5】
前記有底筒状の石英坩堝の開口部を下にして、前記石英坩堝の底部の外面が上方を向く状態として前記隙間の間隔を測定することを特徴とする請求項4に記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有底筒状の石英坩堝の外面と有底筒状の黒鉛坩堝の内面との隙間の間隔を測定するための測定冶具及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶の製造方法として、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」という。)が知られている。特に、半導体電子部品の材料となるシリコン単結晶の多くは、CZ法が広く工業的に採用されている。CZ法は、石英坩堝内に充填した多結晶シリコン等をヒータで溶解した後、このシリコン融液の表面に種結晶を浸し、シリコン融液に浸した種結晶と石英坩堝を回転させつつ種結晶を上方に引き上げることによって種結晶と同一の結晶方位をもつ単結晶を育成する方法である。
【0003】
図4は、上述のCZ法により単結晶を引き上げる際に用いられる引上げ装置を模式的に示した概念図である。
図4に示すように、単結晶引上げ装置10は、引上げ室12と、引上げ室12中に設けられた坩堝13と、坩堝13の周囲に配置されたヒータ14と、坩堝13を回転・昇降させる坩堝保持軸15及びその回転・昇降機構(図示せず)と、シリコンの種結晶16を保持するシードチャック17と、シードチャック17を引き上げるワイヤ18と、ワイヤ18を回転又は巻き取る巻取り機構(図示せず)を備えて構成されている。また、ヒータ14の外側周囲には断熱材19が配置されている。シリコン単結晶20は、原料のシリコン融液11からワイヤ18によって引き上げられる。
【0004】
図5に、単結晶引上げ装置10内に配置される坩堝13を示す。
図5に示すように、坩堝13は、原料融液を収容する有底筒状の石英坩堝13Aと、石英坩堝13Aを内部に収容する有底筒状の黒鉛坩堝13B(「カーボンサセプター」と呼ばれることもある)から構成される(例えば、特許文献1,2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-42968号公報
【文献】特開2014-73925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
石英坩堝13Aは、黒鉛坩堝13Bの内部に収容可能な寸法で作製されるが、それぞれの作製誤差等により、石英坩堝13Aの外面と黒鉛坩堝13Bの内面とが完全に接触するように作製することは困難である。本発明者が鋭意調査を行ったところ、石英坩堝13Aの外面と黒鉛坩堝13Bの内面とが接触する場所によっては、石英坩堝13Aを黒鉛坩堝13Bの内部に設置したときに形成された隙間30により、石英坩堝13Aが不安定となり、石英坩堝13Aが黒鉛坩堝13B内で揺れると、石英坩堝13Aを黒鉛坩堝13Bの内部に設置するときに破損する恐れがあることがわかった。また、シリコンメルトが揺れ、シリコン単結晶の引上げが困難となる湯面振動を引き起こすだけでなく、シリコン単結晶の引上げ時に石英坩堝13Aが偏心状態となり、シリコンインゴットへの均一な熱供給が不可能となるため、シリコンインゴットの品質劣化にも繋がることがわかった。
【0007】
上記のような問題に対し、石英坩堝13Aと黒鉛坩堝13Bの相性の良いものを選択して組み合わせることで、安定性の良い坩堝13とすることが考えられる。しかしながら、従来は、相性の良い石英坩堝13Aと黒鉛坩堝13Bの組み合わせを試行錯誤的に探すほかないため、非常に効率が悪いばかりでなく、必ずしも好ましい組み合わせが得られるわけではなかった。
【0008】
また、黒鉛坩堝13Bの内面の形状に合わせて石英坩堝13Aの外面の形状を修正加工することや、隙間30を無くすように各坩堝を作製することとは逆に、石英坩堝13Aの外面と黒鉛坩堝13Bの内面との間に、意図的に隙間30を設けることも考えられる。
【0009】
しかしながら、上記いずれの場合も隙間30の間隔を取得する必要があるところ、石英坩堝13Aを黒鉛坩堝13Bの内部に設置した状態では、外部から隙間30を観察することは不可能であり、石英坩堝13Aの外面と黒鉛坩堝13Bの内面との間の隙間30の間隔を、実測することができないという問題があった
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、CZ法によりシリコン単結晶インゴットを育成するための有底筒状の石英坩堝が有底筒状の黒鉛坩堝の内部に配置されたときの、石英坩堝の外面と黒鉛坩堝の内面との隙間の間隔を容易に測定することが可能な測定冶具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、CZ法によりシリコン単結晶インゴットを育成するために有底筒状の石英坩堝が有底筒状の黒鉛坩堝の内部に配置されたときの、前記有底筒状の石英坩堝の外面と前記有底筒状の黒鉛坩堝の内面との隙間の間隔を測定するための測定冶具であって、前記黒鉛坩堝の中心軸を含む縦断面のうち、少なくとも底部を含む領域の前記黒鉛坩堝の内面の断面形状が形成された断面形状部を有するギャップ板を備える測定冶具を提供する。
【0012】
このような測定冶具によれば、石英坩堝の外面と黒鉛坩堝の内面との隙間の間隔を容易に測定することが可能なものとなる。
【0013】
このとき、前記ギャップ板を複数備え、それぞれの前記ギャップ板における前記黒鉛坩堝の中心軸に対応する位置で交差状に連結されたものである測定冶具とすることができる。
【0014】
これにより、隙間の間隔を、より簡便に安定して精度よく測定することが可能なものとなる。
【0015】
このとき、前記ギャップ板は、前記石英坩堝の径を示すスケールが形成されたものである測定冶具とすることができる。
【0016】
これにより、高い位置精度で隙間の間隔を容易に測定することが可能なものとなる。
【0017】
このとき、CZ法によりシリコン単結晶インゴットを育成するために有底筒状の石英坩堝が有底筒状の黒鉛坩堝の内部に配置されたときの、前記有底筒状の石英坩堝の外面と前記有底筒状の黒鉛坩堝の内面との隙間の間隔を測定するための測定方法であって、上述の測定冶具を用い、前記ギャップ板における前記断面形状部を前記石英坩堝の底部の外面にあてがい、前記ギャップ板における前記断面形状部と前記石英坩堝の外面との間の隙間に円錐テーパーゲージを挿入し、前記円錐テーパーゲージの円錐面を、前記ギャップ板における前記断面形状部と前記石英坩堝の外面に接触させて、前記円錐テーパーゲージの円錐面と前記ギャップ板における前記断面形状部及び前記石英坩堝の外面との接触位置から、前記隙間の間隔を測定する測定方法を提供することができる。
【0018】
これにより、石英坩堝の外面と黒鉛坩堝の内面との隙間の間隔を容易に精度よく測定することができる。
【0019】
このとき、前記有底筒状の石英坩堝の開口部を下にして、前記石英坩堝の底部の外面が上方を向く状態として前記隙間の間隔を測定する測定方法とすることができる。
【0020】
これにより、より簡便に安定して、また、安全に、隙間の間隔を容易に測定することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明の測定冶具によれば、石英坩堝の外面と黒鉛坩堝の内面との隙間の間隔を容易に測定することが可能なものとなる。また、本発明の測定方法では、本発明の測定冶具を使用して測定を行うことで、石英坩堝の外面と黒鉛坩堝の内面との隙間の間隔を容易に測定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る測定冶具の側面図及び上面図を示す。
【
図5】石英坩堝を黒鉛坩堝内に設置したときの状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
上述のように、CZ法によりシリコン単結晶インゴットを育成するために有底筒状の石英坩堝が有底筒状の黒鉛坩堝の内部に配置されたときの、石英坩堝の外面と黒鉛坩堝の内面との隙間の間隔を容易に測定することが可能な測定冶具及び測定方法が求められていた。
【0025】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、CZ法によりシリコン単結晶インゴットを育成するために有底筒状の石英坩堝が有底筒状の黒鉛坩堝の内部に配置されたときの、前記有底筒状の石英坩堝の外面と前記有底筒状の黒鉛坩堝の内面との隙間の間隔を測定するための測定冶具であって、前記黒鉛坩堝の中心軸を含む縦断面のうち、少なくとも底部を含む領域の前記黒鉛坩堝の内面の断面形状が形成された断面形状部を有するギャップ板を備える測定冶具により、石英坩堝の外面と黒鉛坩堝の内面との隙間の間隔を容易に測定することが可能なものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0026】
以下、図面を参照して説明する。
【0027】
(測定冶具)
図1の(A)に本発明に係る測定冶具1の側面図を、
図1の(B)に上面図を示す。本発明に係る測定冶具1は、黒鉛坩堝の中心軸を含む縦断面のうち、少なくとも底部を含む領域の黒鉛坩堝の内面の断面形状が形成された断面形状部2を有するギャップ板3を備えるものである。ギャップ板3には、石英坩堝13Aの径を示すスケール4を形成することも、有効である。このようなギャップ板3であれば、高い位置精度で隙間の間隔を容易に測定することが可能なものとなる。
【0028】
ギャップ板3の材料は特に限定されない。剛性の高い金属材料を用いれば、ギャップ板3の厚さを薄くすることができる。樹脂材料を用いれば、坩堝の金属汚染の恐れが少ないものとなる点で好ましい。また、樹脂材料であれば、軽量のギャップ板3とできるため、測定の作業性も容易になる。また、コストの点でも樹脂材料が有利である。例えば、テフロン(登録商標)などのフッ素樹脂、ジュラコン(登録商標)などのポリアセタール系樹脂等の材料を使用することも好ましい。
【0029】
ギャップ板3は、例えば、黒鉛坩堝13Bの内面の断面形状に合わせて材料を削り出して作製しても良いし、いわゆる3Dプリンタ(積層造形)により作製しても良い。ギャップ板を作製する場合には、予め黒鉛坩堝13Bの内面の断面形状を取得する必要がある。このとき、三次元形状測定機を使用して黒鉛坩堝13Bの内面の形状データを取得すれば、断面形状データも容易に取得できるため好ましい。そして、取得した断面形状データに基づいて、積層造形によりギャップ板3を容易に作製できる。また、黒鉛坩堝13Bの内面の型をとり、その型に合わせてギャップ板3の断面形状部2を形成する方法などによっても、ギャップ板3を作製できる。
【0030】
図2に、本発明に係る測定冶具1の具体例を示す。
図2の測定冶具は、厚さ3mmのテフロン(登録商標)板を切り出して作製した、直径32インチ(約800mm)の石英坩堝に対して使用する測定冶具である。
図2に示すように、ギャップ板3を複数作製し、それぞれのギャップ板における黒鉛坩堝の中心軸に対応する位置で、直交するように交差状に連結したものとすることが好ましい。
図2の例では、2枚のギャップ板を直交するように連結している。このようにすれば、石英坩堝13Aの底部の外面に安定して置くことができ、大型の石英坩堝を測定の対象とする場合でも、一人で正確に測定を行うことができるものとなる。なお、
図2は2枚のギャップ板を用いた例であるが、3枚以上のギャップ板を連結して用いることも、もちろん可能である。ギャップ板の数が多いほど、坩堝全体にわたって精度高く、容易に、隙間の評価を行うことができる。
【0031】
(測定方法)
上述のような測定冶具1を用いて、有底筒状の石英坩堝の外面と有底筒状の黒鉛坩堝の内面との隙間の間隔を測定する方法を以下に説明する。
【0032】
測定冶具1のギャップ板3の断面形状部2は、黒鉛坩堝13Bの内面の断面形状を反映した形状であるため、石英坩堝13Aの外面と黒鉛坩堝13Bの内面の形状が一致しない場合は、ギャップ板3の断面形状部2を石英坩堝13Aの底部の外面にあてがうことで、測定冶具1の断面形状部2と石英坩堝13Aの底部との間に隙間が生じる。この隙間の間隔を測定すれば、隙間の間隔の計測が可能である。このとき、
図3に示すような円錐テーパーゲージを隙間に挿入し、円錐テーパーゲージの円錐面を、ギャップ板3における断面形状部2と石英坩堝13Aの外面に接触させて、円錐テーパーゲージの円錐面とギャップ板3における断面形状部2及び石英坩堝13Aの外面との接触位置から、隙間の間隔を測定することできる。このような測定方法とすれば、熟練を要することなく、極めて簡便かつ正確に、有底筒状の石英坩堝13Aの外面と有底筒状の黒鉛坩堝13Bの内面との隙間の間隔を測定することができる。
【0033】
また、上記のようにして隙間の測定を行うときには、有底筒状の石英坩堝の開口部を下にして、石英坩堝の底部の外面が上方を向く状態として隙間の間隔を測定することが好ましい。このようにすれば、特に坩堝が大きな場合であっても、より簡便に安定して、また、安全に測定を行うことができる。
【0034】
本発明に係る測定冶具及びこれを用いた測定方法によれば、これまで測定することができなかった、CZ法により単結晶を引き上げる際に用いられる引上げ装置における石英坩堝の外面と黒鉛坩堝の内面との隙間の間隔を、極めて容易かつ正確に測定することが可能となった。特に、石英坩堝の外面と黒鉛坩堝の内面との間に、意図的に隙間を形成する場合には、本発明に係る測定冶具を用いて測定を行うことで、容易に精度高く、所望の隙間を有する石英坩堝と黒鉛坩堝の組み合わせを得ることができる。
【0035】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0036】
1…測定冶具、 2…断面形状部、 3…ギャップ板、 4…スケール、
10…単結晶引上げ装置、 11…シリコン融液、 12…引上げ室、
13…坩堝、13A…石英坩堝、13B…黒鉛坩堝、 14…ヒータ、
15…坩堝保持軸、 16…種結晶、 17…シードチャック、
18…ワイヤ、 19…断熱材、 20…シリコン単結晶、 30…隙間。