(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】スポーツ用品及び模様形成方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20231003BHJP
B44C 3/02 20060101ALI20231003BHJP
A63B 53/10 20150101ALI20231003BHJP
A63B 53/12 20150101ALI20231003BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20231003BHJP
【FI】
B41J2/01 123
B44C3/02 Z
A63B53/10 Z
A63B53/12 Z
B41J2/01 121
A63B102:32
(21)【出願番号】P 2020038424
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】手代木 秀章
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-033149(JP,A)
【文献】特開2008-206415(JP,A)
【文献】特開昭60-227866(JP,A)
【文献】特開2002-219755(JP,A)
【文献】特開2015-047719(JP,A)
【文献】特開2014-124148(JP,A)
【文献】米国特許第05601892(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B44C 3/02
A63B 53/10
A63B 53/12
A63B 102/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材の表面にインクジェット印刷で模様を形成する模様形成工程と、
前記形成された模様の
表面上に重ねて一定の肉厚
で加飾層を
被覆する加飾層形成工程と、
前記
被覆された加飾層を
表面研磨して、少なくとも前記模様の表面を露出させる研磨工程と、
を有することを特徴とする模様形成方法。
【請求項2】
前記加飾層は、模様の肉厚よりも厚く形成し、前記研磨工程は、前記模様のエッジ部分を露出させることを特徴とする請求項1に記載の模様形成方法。
【請求項3】
前記模様は、下層から上層に移行するに従って幅が狭くなるようにインクジェット印刷を行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載の模様形成方法。
【請求項4】
前記加飾層を透明性のある材料で形成し、
前記形成された模様のエッジ領域に、濃淡を有する縁取りを形成することを特徴とする請求項3に記載の模様形成方法。
【請求項5】
前記研磨工程の後、表面にクリア保護層を形成することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の模様形成方法。
【請求項6】
素材の表面にインクジェット印刷で形成された模様層と、
前記模様
層の表面上に重ねて一定の肉厚で被着されている加飾層と、
を有し、
前記
被着された加飾層が
表面研磨されて、
前記加飾層と模様層との境界部分が露出していることを特徴とするスポーツ用品。
【請求項7】
前記模様層は、同一幅に形成されている、
ことを特徴とする請求項6に記載のスポーツ用品。
【請求項8】
前記模様層は、下層から上層に移行するに従って幅狭に形成されており、
前記加飾層は、透明性のある材料である、
ことを特徴とする請求項6に記載のスポーツ用品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣り用品、ゴルフ用品、テニス用品など、各種のスポーツ用品、及び、そのようなスポーツ用品の表面に設けられる模様(文字、図形、図柄、及びこれらと色彩を組み合わせた装飾)の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種のスポーツ用品には、その表面に塗装等を施すことで模様を形成することが行なわれている。例えば、釣竿やゴルフクラブシャフトのような管状部材では、色分け模様を形成することがあり、マスキングシール(テープ)を用いて色分け模様を形成することが行なわれている。マスキングによる模様の形成は、例えば、特許文献1に開示されているように、素材或いは装飾層の表面に所定形状のマスキングシールを貼着し、その上から塗装膜や金属層を形成し、マスキングシールを剥離することで行なわれる。
【0003】
具体的には、例えば、
図4(a)(b)の工程図に示すように、素材40の表面を研磨し(S11)、その表面に所定形状のマスキングシール50を貼り付け(S12)、その上から塗装(スプレー塗装等)や蒸着等によって模様膜52を被着(S13)し、その後、マスキングシール50を剥離する(S14)。マスキングシール50を剥離すると、その部分は凹部50aとなるため、表面を平滑化するために目止め塗装55を行ない、必要に応じて、その後、平滑研磨して保護層を形成する(S15)。マスキングシール50を剥離した部分(凹部50a)と模様膜52の境界(エッジ)60が区分け部分(色相が変化する境界)として視認される。
【0004】
また、特許文献2には、多数の貫通孔が形成されたマスキングテープを管状体に巻回し、その上から塗装を施してマスキングテープを剥がすことで、管状体表面に多数の突起を形成する方法が開示されている。すなわち、マスキングテープを貼着して塗装を施すと、貫通孔を通して塗装材が表面に付着して突起を形成し、マスキングテープを剥がすことで貫通孔がある部分に隆起した多数の突起を形成することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-362099号
【文献】特開平6-205626号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したマスキングテープを用いた模様形成方法では、狙った位置にマスキングテープを貼り付けることが難しく、貼り付けが正確に行えるように、位置調整のためのマーキングを施したり溝や部品などを設けるなど、手間やコストが掛かってしまう。特に、管状体に対してマスキングテープをずれなく貼り付けることは困難である。また、表面に塗装などを施した後、マスキングテープを剥がすことから、マスキングテープが無駄になると共に、開口領域が凹部になってしまうことから平滑状態にするための後加工が必要となってしまい高価になってしまう。
【0007】
さらに、マスキングテープを剥がす際に、境界部分(
図4の境界60)の部分が欠ける、特許文献2に開示された構成では、突起が破損する、更には、マスキングテープ上の塗料が他所に付着する等、仕上がりが綺麗にならないことがあり、複雑な文字や図柄等については、マスキングテープでは綺麗に形成することは困難である。
【0008】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、手間やコストが掛かることなく、複雑な模様であっても綺麗に仕上げることを可能にする模様の形成方法、及び、そのような模様を有するスポーツ用品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明に係る模様形成方法は、素材の表面にインクジェット印刷で模様を形成する模様形成工程と、前記形成された模様の上から一定の肉厚の加飾層を形成する加飾層形成工程と、前記加飾層を研磨して、少なくとも前記模様の表面を露出させる研磨工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
上記した模様形成方法は、模様をインクジェット印刷によって素材の表面に形成し、従来のようなマスキングテープを使用しないことから、コストや手間の軽減が図れ、模様のエッジ部分が欠けるようなこともなく、模様を綺麗に仕上げることができる。また、加飾層と共に研磨される模様部分は、凹状に窪んでいないことから、凹部を目止め塗装する等の後加工を行なう必要もない。
【0011】
また、上記した目的を達成するために、本発明に係るスポーツ用品は、素材の表面にインクジェット印刷で形成された模様層と、前記模様上に一定の肉厚で被着されている加飾層と、を有し、前記加飾層が研磨されて、加飾層と模様層との境界部分が露出していることを特徴とする。
【0012】
上記したスポーツ用品は、模様層をインクジェット印刷によって形成し、従来のようなマスキングテープを使用しないことから、コストや手間の軽減が図れ、模様のエッジ部分が欠けるようなこともなく、模様を綺麗に仕上げることができる。また、模様層上に設けられる加飾層は、研磨されて加飾層と模様層との境界部分が露出しており、その境界部分は、欠けることなくインクジェット印刷によるエッジがそのまま露出することから、仕上がりが綺麗になると共に、複雑な模様であっても綺麗に仕上げられた外観が得られる。
【0013】
特に、上記したスポーツ用品は、表面が湾曲している管状体であっても、マスキングテープによる模様の形成方法と比較して、その表面を綺麗に仕上げることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、手間やコストが掛かることなく、複雑な模様であっても綺麗に仕上げることを可能にする模様の形成方法、及び、そのような模様を有するスポーツ用品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るスポーツ用品の一例を示す図であり、(a)は管状体の一部斜視図、(b)は、模様形成部分(A-A線)に沿った断面図。
【
図2】(a)(b)は、本発明に係る模様形成方法の一実施形態を説明する工程図。
【
図3】(a)~(c)は、それぞれ模様部分の各種の変形例を示した断面図。
【
図4】(a)(b)は、従来のマスキングテープによる模様形成方法を説明する工程図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る模様形成方法について、添付図面に沿って具体的に説明する。
本発明に係る模様は、インクジェット印刷機によって素材の表面に形成されるものであり、文字、図形、柄などが含まれる。また、色彩については、インクジェット印刷機に用いられるインクによって適宜、選択され、インクとしては、例えば、水性、油性、溶剤系、無溶剤系等で、色彩には、透明性・非透明性のある有色系、金属色系などを用いることが可能である。また、素材の表面に形成される模様については、インクジェット印刷機のヘッドや光源等を制御すること、例えば、吐出ノズルからのインクの吐出量(ドット状に付着される液滴密度等)、走査速度、光量等を制御することで、その形状、肉厚、高さ方向に伴う幅(模様幅)について種々変化させることが可能である。
【0017】
図1(a)は、スポーツ用品として、釣竿やゴルフクラブシャフトのような管状体1を示しており、その表面(素材10の表面)に、模様(模様層とも称する)20を形成した例を示している。図では、分かりやすいように、「A」,「B」,「C」の文字20Aと、三角形状、四角形状の図柄20Bが示されている。
【0018】
模様が形成される素材については、限定されることはないが、
図1(a)に示すような管状体では、主に繊維強化プラスチック材(FRP)とされる。なお、それ以外のスポーツ用品の素材としては、合成樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリル樹脂等)、ステンレス、アルミニウム、チタン、真鍮等の金属類、更には、セラミック、陶器、ガラス等が挙げられる。
【0019】
図2(a)(b)は、本実施形態の模様を形成する方法を説明する工程図である。
前記素材10の表面に模様20を形成するに際しては、素材10の表面を、研磨等を施して平滑化処理をしても良い(S1)。或いは、別途、蒸着などによって下地層を形成しておいても良いし、微小凹凸を有するような表面状態に処理しておいても良い。
【0020】
次に、上記した素材10の表面にインクジェット印刷機(図示せず)を用いて模様20を形成する(S2)。上記した管状体1の場合、端部をチャッキングして管状体を回転しながら、その表面にインクジェット印刷機のヘッドを往復動させることで、所望の模様20が形成される。この場合、模様の肉厚Tについては特に限定されることはないが、後述するように、表面を研磨処理することからある程度、厚塗りした方が好ましい。具体的には、肉厚Tを0.2mm以上となるように厚塗りして模様を形成することが好ましい。
【0021】
上記したように、インクジェット印刷を行なう場合、その模様については、高さが高くなるに連れて幅を制御することが可能であるが、本実施形態では、模様の両サイド面(インクが積層されながら積み上がる側面)20aについては、素材10の表面に対して垂直(略垂直も含む)となるように模様形成される。すなわち、本実施形態の模様20の幅については、下層から上層まで同一幅となるように形成されている。
【0022】
上記したようにインクジェット印刷機によって模様20が形成された後は、表面を乾燥させて、その表面に加飾層21を形成する(S3)。加飾層21は、例えば、スプレー(吹付)塗装、刷毛塗り塗装、シゴキ塗装等によって形成することが可能であり、有色系、光を反射する光輝色系のものが用いられ、光をある程度吸収する透明状(半透明状)のものを用いても良い。具体的に加飾層21は、例えば、顔料や染料等の着色材を、エポキシやウレタン等の透明、又は半透明の合成樹脂に混入した主材に、硬化剤を含有させることで形成することが可能であり、着色材の混入量を合成樹脂に対して調整することで、透明性を調整することが可能である。或いは、合成樹脂に、光輝性を有する金属系粒子を分散、混入することで、高輝性のある加飾層を形成することも可能である。
【0023】
なお、前記模様20上に被覆される加飾層21の肉厚T1については、以下のように研磨されることから、ある程度、確保されていれば良く、本実施形態では、前記模様20の肉厚Tより厚く被着されている。
【0024】
上記したように加飾層21を形成した後、その表面を研磨する。この研磨は、サンダーベルト、ペーパ(手研磨)等で行ない、模様の全体が把握できるように、少なくとも模様20の表面20bが露出(模様20の表面から加飾層が除去されて加飾層と模様層の境界部分が露出)するまで行う(S4)。この研磨によって、前記模様20と加飾層21の表面は均一に平坦となり、加飾層21と模様20との境界(模様のエッジ20d)が欠けることなく、模様を綺麗に仕上げることができる。例えば、模様20を有色、加飾層21を異なる色彩とすることで、境界部分のコントラストが明確となり、模様20のエッジ部分が切れたり欠けたりすることなく明確になって品質に優れた外観を呈することが可能となる。
【0025】
また、模様層20の幅は、下層から上層に移行するに従って同じとなるように形成されており、研磨工程は、模様20の表面が露出するまで行うことから、研磨量が多少多くなっても、同一の外観を得ることができる。すなわち、研磨状態に多少のばらつきがあっても、全ての製品で同一の外観を得ることができ、模様にばらつきが生じることもない。さらに、上記した模様形成方法は、従来のようなマスキングテープを使用しないことから、マスキングテープのコストや手間の軽減が図れると共に、研磨工程では、模様部分と加飾層が同一の肉厚となるように研磨するため、凹部を目止め塗装する等の後加工を行なう必要もない。
【0026】
そして、上記したように研磨された表面に、エポキシ、ウレタン、アクリル、アクリルシリコン等、透明又は半透明の合成樹脂によって保護層(クリア保護層)25を形成して表面を保護することが好ましい(S5,
図1(b)参照)。
【0027】
図3(a)~(c)は、模様部分の各種の変形例を示した断面図である。
インクジェット印刷によって形成される模様20については、上記したように、高さが高くなるに連れて幅を制御することが可能である。このため、例えば、
図3(a)に示すように、下層20pから上層(20q,20r…)に移行するに連れて吐出量を調整することで、下層から上層に移行するに連れて模様20の幅を狭くすることが可能である。すなわち、模様の両側面20a´については、湾曲状にしたり、傾斜状にすることが可能である。
【0028】
このように幅が制御された模様20に対して上記したように加飾層21を形成し、研磨することで、加飾層21に透明系の材料を用いると、幅Wの部分では、加飾層21の肉厚が変化するようになる。すなわち、矢印D方向に移行するに連れて加飾層の肉厚が増えることから、次第に光の吸収度合いが高くなって、エッジ20dから外方に向けて次第に色彩が濃くなり、従来のマスキングでは得ることのできない縁取り模様(グラデーション領域W)を得ることが可能となる。
【0029】
図3(b)で示す模様20は、
図2で示した構成と同様、同一幅となるように形成されており、模様20上に被覆される加飾層21の肉厚を模様20の肉厚より薄く被着している。
このような構成では、模様20の両側面20a付近で、加飾層21が表面張力によって他の部分よりも多く溜まるようになる。このため、研磨工程で模様20の表面を露出させると、模様20の周辺に、
図3(a)で示す構成と同様、エッジ20dから矢印D方向に向けて次第に色彩が濃くなるグラデーション領域Wを形成することが可能である。
【0030】
また、
図3(c)で示す模様20は、下層側における幅が上昇するに従って次第に減少する側面20a´とし、それよりも上層側を同一幅の側面20aとした構成を示している。
このような構成においても、
図3(b)で示したような表面張力、及び、湾曲(傾斜)による肉厚変化によって、エッジ20d付近の加飾層21の積層状態が変化するため、
図3(a)(b)とは異なるグラデーションの縁取りを形成することが可能となる。
【0031】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形して実施することが可能である。例えば、加飾層20の材料、被着方法、研磨方法等、種々変形することが可能である。また、本発明のスポーツ用品には、釣具の小物(各種仕掛け、ルアーなど)等も含まれる。
【符号の説明】
【0032】
1 管状体(スポーツ用品)
10 素材
20 模様(層)
20a,20a´ 側面
20b 表面
20d エッジ
21 加飾層
25 クリア保護層