IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】検体検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/12 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
G01N1/12 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020544343
(86)(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 US2018058440
(87)【国際公開番号】W WO2019089746
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】62/615,576
(32)【優先日】2018-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/580,277
(32)【優先日】2017-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パルツ、ゲイリー
(72)【発明者】
【氏名】ウー、マンホン
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/191738(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0214875(US,A1)
【文献】特開2016-006420(JP,A)
【文献】特開2017-072470(JP,A)
【文献】特表2010-515062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00~ 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッセイを実施する方法であって、
水と、メタノール、エタノール、イソプロパノールまたはこれらの混合物を含む安定化溶媒とを含む溶液に、毛細管マイクロサンプリング(CMS)法で得られた1~50μLの量の生体液を加えて試験溶液を調製するステップと、
前記生体液中の対象の検体の存在及び/または濃度を検出するために、前記試験溶液のアッセイを実施するステップとを有する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記アッセイが、前記対象の前記検体を連続的にモニタリングすることを含み、
毛細管マイクロサンプリング(CMS)法を用いて前記対象から、2以上の前記生体液試料が、指定された時間間隔で採取されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の方法であって、
前記生体液が、新生児血液であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の方法であって、
前記検体が、薬物、栄養素、または代謝物であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の方法であって、
前記安定化溶媒が、メタノール、エタノール、またはそれらの任意の組み合わせを含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の方法であって、
前記安定化溶媒が、イソプロパノールを含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の方法であって、
前記溶液が、前記安定化溶媒を10~75v/v%の割合で含有することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の方法であって、
前記溶液が、アセトニトリルを実質的に含有しないことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の方法であって、
前記アッセイを実施するステップが、質量分析法、クロマトグラフィ法、電気泳動法、または酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の方法であって、
前記対象から採取される試料の量が、2~50μLであることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の方法であって、
前記生体液が、前記溶液によって3~20倍に希釈されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の方法であって、
前記生体液が、前記溶液によって5~15倍に希釈されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2017年11月1日出願の米国特許仮出願第62/580、277号、及び2018年1月10日出願の米国特許仮出願第62/615、576号に基づく優先権を主張するものである。上記の各出願の開示内容は、参照により本明細書中に援用される。
【0002】
(連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載)
本発明は、米国国立衛生研究所から交付された助成金番号5R01HD070795の下に、米国政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、薬物または代謝物の濃度の診断測定に関する。
【背景技術】
【0004】
医学の多くの分野では、診断検査から得られる結果は、適切な診断及び治療のために重要である。しかしながら、臨床検査のための既存のシステム及び方法は、多くの欠点を有する。現在、現行の方法では、少量の血液を正確に検査することができない。さらに、多くの現行の尿検査方法は容易に妨げられ、それにより、検査結果の正確性が損なわれる。
【0005】
DBS法は、静脈切開術を必要とせず、DBSを容易に保存でき、かつ、DBSを分析施設に郵送できるので、1963年以来、新生児に対して実施される診断検査に選択されている。近年では、DBS法は、治療指数が低い薬物の濃度をモニタリングし、トランスクリプトーム変化を分析し、バイオマーカーを測定するため使用されている。
【0006】
DBSを調製するために、ピンプリックにより採取した標準量の血液(通常、40~50マイクロリットル)を、ろ紙上の予め印刷された円(通常、対象あたり2~4個の円)内にスポットする(滴下させる)。血液を乾燥させた後、ろ紙から溶出した物質を分析する。
【0007】
DBS測定のほとんどは、遺伝子検査のためである。この場合、特定の代謝物の存在の有無が判定され、検体の量を正確に定量する必要はない。しかしながら、薬物検査の場合、検体の量の測定は、高い精度を必要とする。DBS測定を正確に行うためには、標準血液量を、予め印刷された円内にスポットする必要がある。不均等性はばらつきを生じさせるので、検体を効率的にろ紙上にスポットし、ろ紙から溶出させる必要がある。さらに、とりわけ乳児は、様々な遺伝性疾患(フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症など)についてスクリーニングされる。このような検査、とりわけ検体または薬物の濃度が変化したかどうかを評価する検査には、慎重な定量を必要とする。
【0008】
もし、小量の試料(例えば血液)を低侵襲的に採取することができ、かつ、試料中の検体を正確に測定することができれば、ヘルスケアを改善することが可能となる。本開示は、このような課題を解決するとともに、様々な利点を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
治療の質を改善する、より迅速かつ正確な診断法が求められている。特に、診断検査用の試料を採取、調製、及び分析するための改善された方法が強く求められている。さらに、医療専門家によって信頼されるデータの生成を可能にする、容易にアクセス可能な試料収集サイトが求められている。
【0010】
早期介入を可能にし、それにより、ばらつきがほとんどなく、かつヒューマンエラーが少ない高品質のケアを患者に提供するシステム及び診断法がさらに求められている。本明細書に開示されるシステム及び方法は、上記の課題を解決するとともに、関連する利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、血液などの少量の試料を調製及び検査する方法であって、DBS測定よりもはるかに正確な方法を提供する。本明細書に記載される方法は、イソプロパノールなどの臨床現場に対して安全な溶媒を使用する。一実施形態では、本開示の方法は、10マイクロリットル以下の血液、例えば8マイクロリットルしか必要としない。重要なことには、イソプロパノールは、一般的に使用される溶媒である。イソプロパノールは、DNAまたはRNAの沈殿などの様々な分析目的でよく使用される。また、イソプロパノールは、HPLC、質量分析法、その他の分析法に用いられる様々なカラムクロマトグラフィ法における溶媒としてよく使用される。しかしながら、本開示は、イソプロパノールが、新規な有用性を有することを明らかにする。イソプロパノールは、非常に少量の生体試料が添加される安定化溶媒として使用することができ、これにより、非常に少量の生体試料を、様々な重要な薬物及び代謝物の濃度を測定するための分析検査に使用することが可能となる。
【0012】
いくつかの態様では、本開示は、検体を検出する方法であって、(a)試料及び生体適合性溶液を含有する試験溶液のアッセイを実施するステップと、(b)試料中の検体の存在及び/または濃度を検出するステップと、を有し、生体適合性溶液が、安定化溶媒及び水を含有し、試料が、毛細管マイクロサンプリング(CMS)法を用いて採取されることを特徴とする方法を提供する。
【0013】
いくつかの態様では、本開示は、検体を検出する方法であって、(a)試料及び生体適合性溶液を含有する試験溶液のアッセイを実施するステップと、(b)試料中の検体の存在及び/または濃度を検出するステップと、を有し、生体適合性溶液が、安定化溶媒及び水を含有し、試料の量が、1~50μLであることを特徴とする方法を提供する。
【0014】
いくつかの態様では、本開示は、アッセイを実施する方法であって、試料及び生体適合性溶液を含有する試験溶液のアッセイを実施するステップを有し、試料の量が、1~50μLであり、当該アッセイのエラー率が、20%未満であることを特徴とする方法を提供する。
【0015】
いくつかの態様では、本開示は、対象から採取した試料中の検体を連続的にモニタリングする方法であって、毛細管マイクロサンプリング(CMS)法を用いて採取した試料を生体適合性溶液に添加するステップを有し、生体適合性溶液が、水及び安定化溶媒を含有し、安定化溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、またはそれらの任意の組み合わせを含み、かつ、1以上の試料が、指定された時間間隔で採取されることを特徴とする方法を提供する。いくつかの実施形態では、本方法は、1以上の試料を比較するステップをさらに有する。
【0016】
いくつかの態様では、本開示は、検体を検出するための試料を調製する方法であって、毛細管マイクロサンプリング(CMS)法を用いて採取した試料を、水及び安定化溶媒を含有する生体適合性溶液に添加するステップを有し、安定化溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、またはそれらの任意の組み合わせを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0017】
本開示の方法のいくつかの実施形態では、試料は、診断検査に使用される生物学的流体である。生物学的流体は、血液、尿、涙、唾液、汗、精子、または脳脊髄液であり得る。いくつかの実施形態では、生物学的流体は、新生児血液である。
【0018】
本開示の方法のいくつかの実施形態では、検体は、薬物、栄養素、または代謝物である。
【0019】
本開示の方法のいくつかの実施形態では、安定化溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、またはそれらの任意の組み合わせを含む。安定化溶媒は、イソプロパノールであり得る。いくつかの実施形態では、安定化溶媒は、臨床現場に適した溶媒である。
【0020】
本開示の方法のいくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、安定化溶媒を10~75v/v%の割合で含有する。いくつかの実施形態では、アセトニトリルを実質的に含有しない。
【0021】
本開示の方法のいくつかの実施形態では、アッセイは、診断検査に使用される標準的な分析方法である。分析方法は、質量分析法、クロマトグラフィ法、電気泳動法、または酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)であり得る。
【0022】
本開示の方法のいくつかの実施形態では、対象から採取される試料の量は、2~50μLである。いくつかの実施形態では、試料は、生体適合性溶液によって約10倍に希釈される。
【0023】
本開示の方法のいくつかの実施形態では、本開示の方法は、試料を冷却するステップをさらに有する。
【0024】
いくつかの態様では、本開示は、キットであって、(a)毛細管作用によって対象から試料を採取するように構成された容器と、(b)生体適合性溶液と、(c)使用説明書と、を備えることを特徴とするキットを提供する。
【0025】
本開示のキットのいくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、水及び安定化溶媒を含有する。安定化溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、イソプロパノール及び水を含有する。
【0026】
本開示のキットのいくつかの実施形態では、本開示のキットは、対象の皮膚を穿刺するように構成された器具をさらに備える。
【0027】
いくつかの態様では、本開示は、検体を検出する方法であって、(a)試料及び生体適合性溶液を含有する試験溶液のアッセイを実施するステップと、(b)試料中の検体の存在及び/または濃度を検出するステップと、を有し、生体適合性溶液は、安定化溶媒及び水を含有し、試料が、毛細管マイクロサンプリング(CMS)法を用いて採取され、試料の量が、1~50μLの量であり、かつ、安定化溶媒が、イソプロパノールを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0028】
いくつかの実施形態では、試料は、診断検査に使用される生物学的流体である。生物学的流体は、血液、尿、涙、唾液、汗、精子、または脳脊髄液であり得る。いくつかの実施形態では、生物学的流体は、新生児血液である。いくつかの実施形態では、試料は、臨床現場で対象から採取される。
【0029】
いくつかの実施形態では、検体は、薬物、栄養素、または代謝物である。いくつかの実施形態では、代謝物は、遺伝性疾患または薬物代謝物のマーカーである。
【0030】
安定化溶媒は、臨床現場に適した溶媒であり得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、安定化溶媒を10~75v/v%の割合で含有し得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、アセトニトリルを実質的に含有しない。
【0033】
いくつかの実施形態では、アッセイは、診断検査に使用される標準的な分析方法である。分析方法は、質量分析法、クロマトグラフィ法、電気泳動法、または酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)であり得る。
【0034】
約4~10μLの試料が、対象から採取され得る。いくつかの実施形態では、8μLの試料が、対象から採取される。いくつかの実施形態では、試料は、生体適合性溶液によって約10倍に希釈される。
【0035】
本開示の方法は、アッセイを実施する前に、試料を冷却するステップをさらに有し得る。
【図面の簡単な説明】
【0036】
様々な態様、特徴、実施形態、及び実施例の説明が、添付図面を参照して本明細書に提供され、以下に簡潔に説明される。添付図面は、1または複数の態様、特徴、実施形態、及び/または実施例の全体または一部を示す。添付図面は例示的なものであり、必ずしも縮尺で描かれているわけではない。
【0037】
本発明の新規な特徴は、とりわけ、添付の特許請求の範囲に記載される。本発明の特徴及び利点のより良い理解は、本発明の原理を利用する例示的な実施形態を説明する以下の詳細な説明、及び添付図面を参照することによって得られるであろう。
【0038】
図1図1は、患者からの血液の採取、調製、処理、及び分析を示す。
図2A図2Aは、互いに異なる2つの方法によって血液試料を採取した20人の健康な成人の試料において測定されたオンダンセトロン濃度(ng/ml)[ONDS]を示す。
図2B図2Bは、互いに異なる2つの方法によって血液試料を採取した19人の新生児の試料において測定されたオンダンセトロン濃度(ng/ml)[ONDS]を示す。[ONDS]は、血漿試料(x軸)及び同一の対象から同時に得たDBS(y軸)で測定した。青色の破線は、これらの試料について決定された傾向線を示す。成人(y=0.7063x、図2A)と乳児(y=1.4726x、図2B)の傾向線は、明らかに互いに異なる。理論上の赤色の点線(y=x)は、2つの方法によって同一の[ONDS]を測定した場合に得られる結果を示す。
図3A図3Aは、DBS法を用いて測定した[ONDS]を示す標準曲線である。DBSを調製するために使用した血液中の[ONDS]は、0~250ng/mlの範囲であり、標準曲線のrは0.999、精度は20%以内であった。これらの試料で測定された濃度(対象試料で測定された高、中、低濃度を表す)はすべて評価に含まれ、精度は20%以内であった。
図3B図3B:12匹のマウスにオンダンセトロン(10mg/kg、経口投与)を投与し、投与後の様々な時点で、全血(x軸)及び血漿(y軸)中の[ONDS](ng/ml)を測定した。青色の傾向線(y=0.973x)と赤色の理論上の点線(y=x)が示されている。血漿分析では50μlの全血が採取され、全血分析では20μlの全血が採取された。
図4A図4A及び図4Bは、DBS試料を示す。図4Aは、検査室でろ紙上に注意深くスポットされたDBSを示す。各DBSには、様々な濃度のオンダンセトロンが添加された50μLの血液が含まれている。
図4B図4B:臨床現場で看護師が新生児から採取したDBSを含むフィルタペーパーを示す。DBSの1セットは、均一な血液量(左上)を示したが、他の全てのフィルタ上にスポットした血液量はばらつきが大きかった。同一のろ紙を検査室及び臨床現場の両方で使用したが、臨床現場ではスポットした血液量のばらつきが大きかった。
図5図5は、72μlの緩衝液及び8μlのEDTA被覆毛細管を含むスクリューキャップバイアルの画像を示す。画像は、ボルテックスする前のチューブ(左側)と、ボルテックスした後のチューブを示す(右側)。
図6図6は、毛細管マイクロサンプリング(CMS)法によって全血で測定されたオンダンセトロン濃度(ng/ml)(x軸)と、血漿で測定されたオンダンセトロン濃度(ng/ml)(y軸)を示す。オンダンセトロン(10mg/kg、経口投与)投与後の様々な時点で、12匹のマウスから血液を採取した。青色の傾向線(y=0.949x)と、赤色の理論上の点線(y=x)が示されている。重要なことには、CMS法では、8マイクロリットルの血液しか分析できない。理論線と傾向線の一致は、CMS法により血漿オンダンセトロン濃度を正確に測定されることを示している。
図7A図7A及び図7Bは、様々な溶液中の[ONDS]の応答比、並びに各試料についての[ONDS]のiso-CMS及びプラズマ測定値のグラフ表示をそれぞれ示す。図7A:安定化溶媒は、血液のCMS測定[ONDS]に影響を及ぼさない。これらの分析のために、全血を、75%の水と、25%のアセトニトリル、イソプロパノール、メタノール、またはエタノールとを含有する安定化溶液で10倍に希釈した。標準曲線の生成に関しては、所定の[ONDS]を血液/溶媒マトリックスで希釈し、[ONDS](範囲:0.20~100ng/ml)をLC/MS分析によって測定した。このグラフは、測定された応答強度(内部標準(d-オンダンセトロン)を基準に正規化)に対する[ONDS]をプロットしている。様々な安定化溶液において、同一の結果が得られた。
図7B図7B:マウスをオンダンセトロン(10または20mg/kg、経口投与、n=4匹/群)で処理した。血液は、2種類の方法:(i)血漿[ONDS]測定のための200μlの全血、または、(ii)[ONDS]のiso-CMS測定(安定化溶液としてイソプロパノールを使用)のための8μlにより、各々のマウスから30分後に同時に得た。このグラフは、各試料について[ONDS]の等CMS測定値と血漿測定値を比較したものである。このグラフの下記の2つの特徴は、血漿測定値とiso-CMS測定値が、互いに高度に一致することを示した。(1)計算された線(y=0.99x)の傾きが、同一性の理論線(y=x)と実質的に同一である。(2)Rは0.93であり、これは、測定点の一致線からの全体的な偏差は非常に小さいことを示す。
図8図8は、様々な化学構造を有する薬物及びIso-CMSを用いた薬物の応答比のグラフを示す。ボセンタン、イリノテカン及びその代謝物(SN-38)、クレミゾール、及びフロセミドの濃度を測定するiso-CMS法の性能を試験した。これらの分析のために、全血を、25%アセトニトリルまたは25%イソプロパノールと、75%水とを含有する安定化溶中で10倍に希釈した。標準曲線の生成のために行うように、各薬物を指示された濃度で血液/溶媒マトリックスで希釈し、公開されている方法を用いてLC/MS分析によって薬物濃度を測定した。プロットは、測定された応答強度(各薬物の2回重水素化された形で内部標準に対して標準化される)と、各試験薬物の薬物濃度との関係を示す。試験した各々の薬物について、イソプロパノール安定化溶液は、試験した薬物濃度の範囲でアセトニトリル安定化溶液と同じ結果が得られた。
図9図9は、0.5~1000ng/mlの範囲の濃度で試験されたフェンタニル、モルヒネ、及びヒドロモルホンの較正曲線を示す。近似曲線とR二乗値(すべて>0.99)の方程式を図中に示す。
図10図10は、血漿試料において測定した場合に対応するiso-CMSを用いて測定されたデキサメタゾン濃度(ng/ml)を示す。15人の対象から血漿試料とiso-CMS試料を同時に採取し、各試料中のデキサメタゾン濃度をLCMS分析法により測定した。各データ点は、各対象についてのiso-CMS試料及び血漿試料の分析によって測定されたデキサメタゾン濃度を示す。iso-CMSと血漿の測定値の一致を評価したピアソン相関とスピアマン順位相関は、それぞれ、0.95と0.93であった。
図11図11は、血漿試料において測定した場合に対応するiso-CMSによって測定されたメサドン濃度(ng/ml)を示す。7人の対象から血漿試料とiso-CMS試料を同時に採取し、各試料中のメサドン濃度をLCMS分析法により測定した。各データ点は、各対象についてのiso-CMS試料及び血漿試料の分析によって測定されたメサドン濃度を示す。iso-CMSと血漿の測定値の一致を評価したRは0.91であった。
図12図12は、血漿試料で測定した場合に対応するiso-CMSによって測定されたガバペンチン濃度(ng/ml)を示す。8人の対象から血漿試料とiso-CMS試料を同時に採取し、各試料中のガバペンチン濃度をLCMS分析法により測定した。各データ点は、各対象についてのiso-CMS試料及び血漿試料の分析によって測定されたガバペンチン濃度を示す。iso-CMSと血漿の測定値の一致を評価したRは0.95であった。
図13A図13A及び図13Bは、血漿試料において測定した場合に対応する、iso-CMSによって測定されたオンダンセトロン濃度(ng/ml)を示す。図13A:外科手術患者から同時に採取した血漿試料及びiso-CMS試料44個におけるオンダンセトロン濃度をLCMS分析によって測定した。各データ点は、各対象についてのiso-CMS漿試料及び血漿試料の分析によって測定されたオンダンセトロン濃度を示す。iso-CMSと血漿の測定値の一致を評価したRは0.999であった。
図13B図13B図13Aの領域を拡大して、オンダンセトロン濃度が15~60ng/mlの範囲の試料についての血漿及びCMSの測定値の対応をよりよく示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明のいくつかの態様を、例示のための例示的な適用例を参照して以下に説明する。本発明の完全な理解を提供するために、様々な具体的な詳細、関係、及び方法が説明されていることを理解されたい。しかし、当業者であれば、本発明は、説明された具体的な詳細のうちの1以上を用いずに、または他の方法を用いて実施できることを容易に理解できるであろう。いくつかの動作は、異なる順序で、及び/または他の動作または事象と同時に発生し得るので、別段の記載がない限り、本発明は、動作または事象の説明された順序に限定されない。さらに、全ての例示された動作または事象が、本発明による方法を実施するために必要とされるわけではない。開示された組成物中の種々の成分の濃度は例示的であり、記載された濃度自体に限定されることを意図するものではない。
【0040】
本明細書で使用されるセクションの見出しは、体系化のみを目的とするものであり、記載される主題を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0041】
本開示は、生物学的流体の少量の試料中の分子を正確に測定するための方法に関する。試料中の分子は、代謝物、薬物、血液の成分、または、他の分子であり得る。分子の測定は、生理学的マーカーを測定することによって遺伝性疾患を診断すること、または、インビボで薬物の量を測定することであり得る。
【0042】
定義
【0043】
別段の定めがない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で参照される全ての特許及び刊行物は、参照により援用される。
【0044】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で使用される場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、[その(the)]は、文脈が明らかにそうでないことを示していない限り、複数形も含むことを意図している。さらに、「含む(comprising、includes)」、「有する(having、has、with)」という用語、またはそれらの派生語は、詳細な説明及び/または特許請求の範囲で使用される限り、「含む(comprising)」という用語と同様に内包的であることを意図している。
【0045】
本明細書で使用するとき、「対象」または「個体」という用語は、哺乳動物を含む。哺乳動物の非限定的な例には、ヒト及び動物、例えばマウス(トランスジェニック及び非トランスジェニックマウスを含む)が含まれる。本開示の方法は、前臨床のヒト治療、及び獣医学用途の両方の適用において有用であり得る。いくつかの態様では、対象は動物であり、いくつかの態様では、対象はヒトである。他の哺乳動物としては、これに限定しないが、類人猿、チンパンジー、オランウータン、サル、ペット動物(イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラット、ウサギ、フェレットなど)、家畜動物(牛、水牛、バイソン、馬、ロバ、豚、羊、ヤギなど)、または、一般的に動物園で見られる珍しい動物(クマ、ライオン、トラ、ヒョウ、ゾウ、カバ、サイ、キリン、レイヨウ、ナマケモノ、ガゼル、シマウマ、ウィルドビースト、プレーリードッグ、コアラ、カンガルー、パンダ、ジャイアントパンダ、ハイエナ、アザラシ、アシカ、ゾウアザラシなど)が挙げられる。
【0046】
本明細書で使用するとき、「実質的に含まない」という表現は、特定の成分の含有率が、約10%未満、5%未満、1%未満、0.5%未満、0.1%未満、またはそれ以下である組成物を指す。例えば、アセトニトリルを実質的に含まない組成物は、アセトニトリルの含有率が約10%未満であり得る。
【0047】
本明細書において単数形で表される単語は、その複数の対応物を包含し、本明細書において複数形で現れる単語は、黙示的または明示的に理解されるかまたは別段に記載されない限り、その単数の対応物を包含することを理解されたい。さらに、本明細書に記載された任意の所与の構成要素について、その構成要素について列挙された任意の可能な候補形態または代替形態は、暗黙的または明示的に理解されるかまたは別段に記載されない限り、一般に、個々に使用されるかまたは互いに任意の組み合わせで使用できることが理解されたい。さらに、そのような候補形態または代替形態の任意のリストは、暗黙的または明示的に理解されるかまたは別段に記載されない限り、単なる例示であり、制限ではないことを理解されたい。さらに、本明細書に提示された任意の数字、数、または量は近似的であり、任意の数値範囲は、暗黙的または明示的に理解されるかまたは別段に記載されない限り、「包括的」などの語が使用されるか否かにかかわらず、範囲を定義する最小数及び最大数を包含することを理解されたい。一般的に、数字、数、または量に関連する用語「約」または記号「~」は、暗黙的または明示的に理解されるかまたは別段に記載されない限り、その±5%の範囲内に数を包含する。さらに、使用されるいかなる見出しも、制限のためではなく便宜のためであることを理解されたい。さらに、暗黙的または明示的に理解されるかまたは別段に記載されない限り、任意の許容的な、開放的なまたは開放的な言語は、それぞれ制限的な言語に対して比較的許容的なもの、閉鎖的な言語に対してあまり開放的でないもの、または閉鎖的な言語に対してあまり開放的でないものを包含することを理解されたい。
【0048】
本明細書で使用される場合、特に示されない限り、本明細書のいくつかの発明的実施形態は、数値範囲を意図する。本発明の種々の態様は、範囲形式で提示することができる。範囲形式での説明は、単に便宜及び簡潔さのためであり、本発明の範囲に対する融通のきかない制限として解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、範囲の記載は、明示的に記載されているかのように、その範囲内の全ての下位範囲及び個々の数値を具体的に開示したものと見なされるべきである。例えば、1~6という範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの具体的に開示された部分範囲、及び、例えば、1、2、3、4、5、及び6などのその範囲内の個々の数値を含むと見なされるべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用される。範囲が存在する場合、範囲には範囲の端点が含まれる。
【0049】
薬物検査の課題
【0050】
オピオイド乱用の蔓延は、過去10年間にわたって米国に大きな影響を与えてきた。処方オピオイドを乱用している人は、他の全ての違法薬物の使用者よりも多い。2006年以降、オピオイドの投与を行う医師の数が著しく増加した(3200万人/年)。また、現在ではヘロインの末端価格をはるかに上回る高力価のオピオイド(例えば、ヒドロコドン、及びオキシコドン)の処方へと劇的な転換が起きている。オピオイドの乱用が蔓延しているので、オピオイドの臨床検査がオピオイド慢性使用者の臨床治療に組み込まれているだけでなく、連邦政府及びその他の職場で実施される監視が義務付けられている。
【0051】
オピエイトの尿中薬物検査(UDTO)は、一般的に使用される監視方法であるが、この方法には、重要な問題がある、この問題は、本明細書に開示の方法、システム、及びキット、例えばiso-CMSベースのオピエイト分析方法(iCOAM)によって解決することができる。尿は個人的に採取されるため、試料を希釈したり、クリーンな尿試料と置き換えたりする方法が多数存在する。UDTOでは、オピエイト検出に使用される免疫学的検査を妨げる薬物を添加することによって尿試料を変化させることができる。そのような薬物としては、家庭用品(例えば、漂白剤、酢、洗剤など)、または市販薬(例えば、目薬、NaCl、グルタルアルデヒド(「Clean-X」)、硝酸カリウム(「Klear」)など)が挙げられる。iCOAMを使用する場合、血液試料は、適切に本人確認された対象から指腹採血により直接的に採取され、認定された薬物により安定化緩衝液に入れられ、置換または改変の機会が排除されるので、上記の問題を軽減することができる。
【0052】
乾燥血液スポット(DBS)法の課題
【0053】
図2A及び図2Bに示すように、血漿試料中で測定された薬物(オンダンセトロン、以下、[ONDS]とも称する)の濃度は、DBS法を用いて測定した濃度とは大幅に異なる。重要なことには、健常成人と乳児から生成した、血漿とDBSとの測定値を比較する傾向線の傾きは全く異なっていた(図2Aの0.71、図2Bの1.47)。新生児から得られたDBSから測定された[ONDS]の濃度は、血漿から測定した場合より低かったが、この関係は成人では逆転していた。DBSから測定された[ONDS]の濃度を、血漿中で測定された[ONDS]の濃度に変換するための、成人と乳児との両方に有効な補正因子は見つからなかった。この相違は、オンダンセトロン濃度のDBS測定に制度的な問題があることを示す。
【0054】
とりわけ、ろ紙上にスポットした血液量にばらつきがあった。DBS測定を正確に行うためには、ろ紙上の指定された領域内に一定量の血液をスポットしなければならない。DBSが臨床現場で得られた場合、指定された領域内にスポットされた血液量には大きなばらつきがある。ろ紙上にスポットされた血液量にばらつきがある場合、DBS法を用いて行った検査結果にばらつきが生じる。このばらつきは、標準曲線を使用して計算されるDBS薬物濃度測定値を大幅に変化させる。標準曲線を使用した計算は、ろ紙上の指定された円領域内の血液量が常に一定であると仮定し、検体の標準曲線から導出した一次方程式を使用して薬物または代謝物の量または量の変化を求める。
【0055】
上記の血液量のばらつきは、新生児を分析する場合に特に問題となる。この場合、ろ紙上に少量の血液をスポットすることに対する系統的バイアスが存在する。対照的に、既知の血液量がDBSに使用される場合、関連するばらつきは排除され、薬物または代謝物を正確に測定できる。
【0056】
この現象の一例を実証するために、DBS結果のばらつきの原理を調べるための一連の実験を行った。50マイクロリットルの血液中に様々な濃度のオンダンセトロンを滴下し、検査室でろ紙上に注意深くスポットした。信頼できる標準曲線を、分析される[ONDS]の範囲にわたって生成した。これらの[ONDS]は、対象において測定したものと同様であった(図3A及び図3B)。これらの結果は、DBSが検査室で注意深く調製されたならば、[ONDS]を正確に測定できることを示す。また、臨床試料結果のばらつきは、血液中には存在するが血漿中には存在しない赤血球内へのオンダンセトロンのパーテーショニングに起因する可能性もある。オンダンセトロン投与後の様々な時点でマウスから採取した、同時に調製した全血試料及び血漿試料中の[ONDS]を測定した。血漿測定値と全血測定値とは完全に一致していたので(図3A及び図3B)、オンダンセトロンのパーテーショニングの差異は、結果のばらつきの原因ではなかった。ろ紙上にスポットされた血液量のばらつきに起因するばらつきを調べた。DBS測定を正確に行うためには、ろ紙上の指定された領域内に一定の血液量をスポットしなければならない。血液が検査室で注意深くスポットされたとき、DBSは一定量の血液を有するはずである。しかしながら、臨床現場から得られたDBSを調べたところ、ろ紙上の指定された領域内にスポットされた血液量に大幅なばらつきがあった(図4A及び図4B)。多数の臨床試料を検査した結果、ろ紙上にスポットされた血液量に大幅なばらつきが確認された。
【0057】
このばらつきは、臨床現場でろ紙上にスポットした新生児血液量のばらつきに起因する。この結果はまた、新生児を分析する場合、ろ紙上に少量の血液をスポットすることに対する系統的バイアスが存在することを示す。このことにより、新生児(図2A及び図2B)における[ONDS]測定の傾向線の傾きが成人試料と比べて大幅に小さい理由が説明される。成人から血液を採取した場合、より多い量の血液がろ紙上にスポットされた。このばらつきは、DBSを用いて得られた薬物濃度測定の結果を大幅に変化させ得る。検査結果は、適切な量の血液がスポットされた場合、DBS測定法により優れた結果が得られることを示す。しかし、臨床現場で新生児から血液を採取する場合には、このことを達成することは困難である。
【0058】
少量の血液を採取する現在の方法は、血液中の薬物または代謝物の正確な分析及び測定には不十分である。いくつかの態様では、本開示の方法及びシステムは、検体の正確な検査のための少量の試料のサンプリングサイズのばらつきについての問題を解決する。
【0059】
毛細管マイクロサンプリング(CMS)法は薬物測定を改善することができる
【0060】
げっ歯動物の血液中の様々な薬物の濃度を測定する研究により、CMS法を用いて得られた結果は、非常に正確であり信頼できることが分かった。一般的なマウスは、体重が20~25グラムであり、全血液量が1.5mL未満である。マウスの生存が優先され、かつCMS測定法で使用される血液量が10μl未満の研究では、少量の血液しか必要としないサンプリング手順が必要である。CMS法は、薬物動力学的研究及びトキシコキネティクス研究のための、げっ歯類における薬物濃度の連続的測定を可能にした。さらに、50以上のマウスCMS研究では、希釈した試料を適切にボルテックスすると、後で分析するために、試料を凍結できることが分かった。これらのポジティブな結果を踏まえて、CMS研究の結果は、規制当局によって日常的に受け入れられている。
【0061】
この概念を実証するために、マウスモデルでCMS研究を行った。このマウスCMS研究では、商業的供給者から入手した8μLガラスEDTA被覆毛細管を使用する。ピンプリックによって8μlのマウス血液を採取した後、72μlの抽出緩衝液(水中にアセトニトリルを25%V/Vの割合で含有する)が予め添加されたスクリューキャップ式バイアル(1.10ml、Vボトム)内に毛細管を入れる。キャップをしたバイアルを振とうし、毛細管中の血液が抽出緩衝液中に溶解するまで激しくボルテックスする(図5)。バイアルは、-80°Cの冷凍庫内に保存する前に、濡れた氷の上に20分間静置する。必要であれば、試料は、分析のための別の場所に送ってもよい。本研究により、CMS(8μlの採取された血液)がマウスの[ONDS]の連続的測定に使用することができ、かつ、CMSの結果が同時に採取されたマウス血漿(試料あたり100μlの採取された血液)での[ONDS]測定と完全に一致することが実証された(図6)。さらに、この結果は、[ONDS]のCMS測定が、少なくとも10倍以上の血液を必要とするDBSによる測定よりも大幅に信頼性が高いことを示す。したがって、CMSは、薬物または代謝物の正確な測定及び分析のための少量の血液を採取するのに適している。アセトニトリルを使用するCMS法は信頼できることが分かったが、本開示は、CMS分析のための新規かつ改良された方法を提供する。
【0062】
CMS分析のための新規かつ改良された方法
【0063】
いくつかの態様では、本開示は、検体を検出するための試料を調製する方法であって、毛細管マイクロサンプリング(CMS)法を用いて採取した試料を、水及び定化溶媒を含有する生体適合性溶液に添加するステップを有し、安定化溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、またはそれらの任意の組み合わせを含む、方法を提供する。
【0064】
前節で述べたCMS実験の抽出緩衝液は、溶媒としてのアセトニトリルを25%の割合で含有しているが、このことは、臨床現場において安全性に関する重大な問題を生じさせる。アセトニトリルは、肝臓でシトクロムP450分子によって代謝され、それにより、毒性分子であるシアン化水素及びホルムアルデヒドが生成される。シアン化物は体内に蓄積するため、通常は、暴露してから2~13時間後に毒性作用が現れる。この毒性作用は、わずか100ppmのアセトニトリルを含有する空気を吸い込むことによって引き起こされる。とりわけ、アセトニトリルは、2000年にEUによって化粧品での使用が禁止された。したがって、臨床従事者が、薬物、代謝物、及び他の成分の分析及び測定のために、試料、場合によっては多数の試料を、安全に採取及び処理することを可能にするためには、毒性の低い抽出緩衝液が必要である。
【0065】
本開示は、アセトニトリルよりも毒性が低い溶媒を含有する生体適合性溶液(または「抽出緩衝液」)を提供する。いくつかの実施形態では、本開示の抽出緩衝液は、薬局またはドラッグストアなどの臨床現場で使用される。本開示の抽出緩衝液は、安全に使用することができると考えられる。本開示の抽出緩衝液は、アセトニトリルよりも毒性が低いので、臨床現場の医療従事者は、臨床現場で、対象から試料を採取し、採取した試料を抽出緩衝液中に抽出することができる。抽出緩衝液中の抽出試料は、分析のために現場で検査してもよい。
【0066】
本明細書に記載の抽出緩衝液は、水と、プロトン性極性溶媒などの安定化溶媒とを含有する。いくつかの実施形態では、安定化溶媒は、イソプロパノール、メタノール、エタノール、またはそれらの任意の組み合わせである。一実施形態では、安定化溶媒は、イソプロパノールである。「消毒用アルコール」としても知られるイソプロパノールは、その非毒性特性を考慮して使用することができる。イソプロパノールを25%の割合で含有する水溶液が、臨床現場で使用され得る。一実施形態では、抽出緩衝液は、水と安定化溶液とを75/25(V/V)の比で含有する。いくつかの実施形態では、抽出緩衝液は、水とイソプロパノールとを75/25(V/V)の比で含有し、これを、本明細書では、「iso-CMS」と称する。いくつかの実施形態では、安定化溶媒は、非プロトン性極性溶媒ではない。
【0067】
図1は、検体を検出する方法の例示的な実施例を示す。本明細書に記載の、検体を検出するための方法及びシステムは、一般的に、次のように行われる。まず、対象から試料を採取する(例えば、ステップ101)。試料は、診療所、薬局、クリニック、ドラッグストア、緊急医療センターなどの臨床現場で採取され得る。対象から試料を採取する採取者は、正確な方法で試料を採取することができる。採取者は、毛細管などの医療器具を使用して、少量の試料、例えば生物学的流体を対象から採取することができる(例えば、ステップ103)。いくつかの実施形態では、1~50μLの試料、例えば約8μLの試料が採取される。次いで、試料を有する毛細管を、抽出緩衝液とも称される生体適合性溶液を所定量で収容する容器内に入れる。生体適合性溶液は、水と、例えばイソプロパノールなどの本明細書に記載の安定化溶媒とを含有する。試料が生体適合性溶液内に移り、生体適合性溶液によって希釈されるように、試料を安定化溶媒と混合させる(例えば、ステップ105)。生体適合性溶液で希釈された試料が、希釈試料である。希釈試料は、次いで、質量分析などの本明細書に記載の1以上の技術を用いて処理または分析され(例えば、ステップ107)、それにより、溶液中の1以上の検体が検出及び/または測定される(例えば、ステップ109)。希釈試料は、臨床現場で検査してもよい。いくつかの実施形態では、試料は、生試料、すなわち未処理試料である。
【0068】
いくつかの実施形態では、本開示は、検体を検出する方法であって、(a)試料及び生体適合性溶液を含有する検査溶液のアッセイの実施するステップと、(b)試料中の検体の存在及び/または濃度を検出するステップと、を有し、生体適合性溶液が、安定化溶媒及び水を含有し、試料が、毛細管マイクロサンプリング(CMS)法を用いて採取される方法を提供する。いくつかの実施形態では、CMS法を用いて採取された試料の量は、約1~50μLである。いくつかの実施形態では、安定化溶媒は、例えばイソプロパノールなどのプロトン性極性溶媒を含む。
【0069】
いくつかの実施形態では、本開示は、検体を検出する方法であって、(a)試料及び生体適合性溶液を含有する検査溶液のアッセイの実施するステップと、(b)試料中の検体の存在及び/または濃度を検出するステップと、を有し、生体適合性溶液が、安定化溶媒及び水を含有し、試料の量が、約1~50μLである方法を提供する。
【0070】
いくつかの実施形態では、本開示は、対象から採取した試料中の検体を連続的にモニタリングする方法であって、毛細管マイクロサンプリング(CMS)法を用いて採取した試料を、生体適合性溶液に添加するステップを有し、生体適合性溶液が、水及び安定化溶媒を含有し、安定化溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、またはそれらの任意の組み合わせを含み、1以上の試料が、指定された時間間隔で採取される方法を提供する。いくつかの実施形態では、本方法は、1以上の試料を比較するステップをさらに有する。試料は、同一の対象から採取したものであってもよいし、互いに異なる対象から採取したものであってもよい。試料は、標準試料または対照試料と比較してもよい。試料は、検体の存在または濃度の変化についてモニタリングされ得る。
【0071】
いくつかの実施形態では、対象の血液中の薬物の量を経時的にモニタリングすることが望ましい。試料は、経時的にモニタリングされ得る。一般的に、経時的なモニタリングプロトコルは、本明細書に記載の方法を用いて、複数の時間間隔で、患者から複数の試料を採取することを含む。時間間隔は、規則的であってもよいし、不規則的であってもよい。試料は、1分毎、1時間毎、2時間毎、6時間毎、12時間毎、24時間毎、2日毎、毎週、毎月、毎年、またはこれらの間隔の1つに相当する間隔でモニタリングされ得る。
【0072】
例えば、患者に薬物を経時的に投与し、血漿中の薬物濃度がその薬物の治療濃度域であるかどうかを判定するために、薬物の血漿中濃度をモニタリングする。血液試料は、本明細書に記載のCMS法を用いて毎日または他の間隔で採取され、これらの試料は、薬物の血漿中濃度を測定するために分析される。
【0073】
いくつかの実施形態では、本開示は、疾患または障害を判定する方法であって、(a)試料及び生体適合性溶液を含有する検査溶液を分析するステップと、(b)試料中の検体の存在及び/または濃度を検出するステップと、を有し、生体適合性溶液が、安定化溶媒及び水を含有し、試料が、毛細管マイクロサンプリング(CMS)法を用いて採取される方法を提供する。いくつかの実施形態では、CMS法を用いて採取される試料の量は、約1~50μLである。いくつかの実施形態では、疾患または障害は、遺伝性疾患である。
【0074】
生体適合性溶液
【0075】
本明細書に開示の方法、システム、またはキットのいくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、水及び安定化溶媒を含有する。安定化溶媒は、アセトニトリルよりも毒性の低い溶媒であり得る。いくつかの実施形態では、安定化溶媒は、1以上のプロトン性極性溶媒である。安定化溶媒は、任意選択で置換されたアルキルアルコールであり得る。安定化溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態では、安定化溶媒は、イソプロパノールを含む。いくつかの実施形態では、安定化溶媒は、実質的にイソプロパノールからなる。安定化溶媒は、安全に使用できると考えられており、臨床現場に適している。いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、毛細管から血液などの試料を溶液中に抽出するために使用される。いくつかの実施形態では、安定化溶媒は、非プロトン性極性溶媒ではない。
【0076】
いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、例えばイソプロパノールなどの安定化溶媒を10~80%V/Vの割合で含有する。例えば、生体適合性溶液は、安定化溶媒を、約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、または80%V/Vの割合で含有し得る。生体適合性溶液は、安定化溶媒を、10~75%、15~50%、15~40%、または20~30%V/Vの割合で含有し得る。いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、安定化溶媒を50~80%V/Vの割合で含有する。例えば、生体適合性溶液は、イソプロパノールを75%V/Vの割合で含有する。いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、安定化溶媒を20~30%V/Vの割合で含有する。いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、安定化溶媒を約25%V/Vの割合で含有する。例えば、生体適合性溶液は、イソプロパノールを25%V/Vの割合で含有する。
【0077】
いくつかの実施形態では、検査溶液は、約50~1000μLの生体適合性溶液中、例えば、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、900、または1000μLの生体適合性溶液中に、少量の試料を含有する。検査溶液は、約50~100μL、100~200μL、200~300μL、300~400μL、または400~500μLの生体適合性溶液を含有し得る。いくつかの実施形態では、検査溶液は、約50~100μLの生体適合性溶液中、例えば約72μLの生体適合性溶液中に、少量の試料を含有する。
【0078】
いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、10~500μLの安定化溶媒、例えばイソプロパノールなどを含有する。例えば、生体適合性溶液は、約10、20、30、40、50、60、70、80、または90μLの安定化溶媒を含有し得る。生体適合性溶液は、約100、110、120、130、140、150、160、170、180、または190μLの安定化溶媒を含有し得る。生体適合性溶液は、約200、210、220、230、240、250、260、270、280、または290μLの安定化溶媒を含有し得る。生体適合性溶液は、約300、310、320、330、340、350、360、370、380、または390μLの安定化溶媒を含有し得る。生体適合性溶液は、約400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、または500μLの安定化溶媒を含有し得る。いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、10~100μL、10~75μL、10~50μL、50~150μL、50~125μL、50~100μL、または50~90μLの安定化溶媒を含有する。
【0079】
いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、毒性溶媒を実質的に含有しない。生体適合性溶液は、毒性溶媒を含有しない。いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、毒性溶媒を、25%未満、例えば、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、または25%未満の割合で含有する。いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、毒性溶媒を5%未満の割合で含有する。いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、毒性溶媒を1%未満の割合で含有する。
【0080】
いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、アセトニトリルを実質的に含有しない。生体適合性溶液は、アセトニトリルを含有しない。いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、アセトニトリルを、25%未満、例えば1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、または25%未満の割合で含有する。いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、アセトニトリルを5%未満の割合で含有する。いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、アセトニトリルを1%未満の割合で含有する。
【0081】
検体の測定
【0082】
本明細書に記載の方法またはシステムは、試料中の1以上の検体を測定するために使用され得る。検体は、本明細書に記載の方法の実施前、実施中、または実施後に、誘導体化、保存、精製、または他の追加的な処理が施され得る。加えて、検体の測定は、試料の採取の直後に行ってもよいし、または、試料の保存、希釈、誘導体化、検証、または他の処理の後に行ってもよい。いくつかの実施形態では、試料は、生試料、すなわち未処理試料である。本明細書に開示の方法またはシステムのいくつかの実施形態では、検体は、薬物、代謝物、または栄養素である。いくつかの実施形態では、抗癌剤、抗てんかん剤、オピエイト、鎮痛剤、ホルモン治療薬、例えば、ステロイド、ビタミンA、ビタミンDなどが、疾患または障害を診断するために検査される。
【0083】
薬物:本明細書に開示の方法またはシステムのいくつかの実施形態では、検体は、薬物である。薬物は、抗癌剤、オピオイド、または薬学的に活性な薬物であり得る。いくつかの実施形態では、検体は、デキサメタゾンである。これらの薬物には、プロドラッグ及び薬物代謝物が含まれる。いくつかの実施形態では、薬物は、複数の薬物を組み合わせたものである。
【0084】
抗癌剤:本開示の方法によって検出することができるいくつかの薬物は、癌の治療に使用される薬物(本明細書では抗癌剤と称する)である。癌は、異常な細胞増殖を伴う疾患群であり、身体の他の部位に浸潤または転移する可能性がある。抗癌剤は、化学療法薬、標的治療薬、またはホルモン治療薬であり得る。
【0085】
化学療法薬には、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗微小管薬、トポイソメラーゼ阻害剤、及び細胞毒性抗生物質が含まれる。標的治療薬には、ホルモン治療薬、シグナル伝達阻害剤、遺伝子発現調節剤、アポトーシス誘導剤、血管新生阻害剤、免疫療法剤、及び毒素送達分子が含まれる。ホルモン治療薬には、ホルモンに干渉してホルモン感受性腫瘍の増殖を停止または遅延させる薬物が含まれる。
【0086】
本明細書に記載の方法によって検出することができる化学療法薬の例としては、これに限定しないが、例えば、シクロホスファミド、メトトレキサート、5-フルオロウラシル、ドキソルビシン、ドセタキセル、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン、ムスチン、ビンクリスチン、プロカルバジン、プレドニゾロン、エトポシド、シスプラチン、エピルビシン、カペシタビン、フォリン酸、及びオキサリプラチンが挙げられる。
【0087】
オピエイト:本明細書に開示の方法のいくつかの実施形態では、薬物は、オピエイトであり得る。Iso-CMSに基づくオピエイト分析法(iCOAM)が、いくつかの関心のあるオピエイトに対して提示されている。そのようなオピエイトとしては、これに限定しないが、例えば、ヘロイン、モルヒネ、コデイン、オキシコドン及びその代謝物(ノルオキシコドン、オキシモルホン)、ヒドロコドン及びその代謝物(ヒドロモルホン)、メサドン、ブプレノルフィン、フェンタニル、ヒドロモルホン、及びジアムルヒネが挙げられる。
【0088】
他の薬物:本願明細書に記載の方法を使用して測定することができる他の薬物としては、例えば、抗不安薬、抗生物質、抗凝固薬、抗痙攣薬、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、抗高血圧薬、降圧薬、抗片頭痛薬、抗精神病薬、抗ウイルス薬、βアドレナリン遮断薬、ベンゾジアゼピン、気管支拡張薬、カルシウムチャンネル遮断薬、コルチコステロイド、利尿薬、麻酔薬、神経筋遮断薬、またはプロトンポンプ阻害薬が挙げられる。測定される薬物は、アゴニスト、インバースアゴニスト、またはアンタゴニストであり得る。
【0089】
本明細書に記載の方法によって測定することができる他の薬物のいくつかの例としては、これに限定しないが、ワルファリン、ボセンタン、クレマゾール、ガパベンチン、及びフロセミドが挙げられる。本明細書に記載の方法によって測定することができる薬物の代謝物としては、これに限定しないが、SN-38、オキシモルホン、及びノルオキシコドンが挙げられる。
【0090】
代謝物:本明細書に開示の方法またはシステムのいくつかの実施形態では、検体は、代謝物である。本明細書に記載の代謝物は、分子の同化作用及び異化作用を含む代謝中に形成される物質である。代謝物は、代謝の中間産物または最終産物であり得る。代謝物は、薬物、栄養素、または他の分子の代謝作用によって形成され得る。
【0091】
生物学的流体中に存在する代謝物は、本明細書に記載の方法を用いて測定することができる。生物学的流体は、標準的な分析方法を用いて測定することができる。標準的な分析方法としては、これに限定しないが、質量分析法、分光分析法、クロマトグラフィ法、電気泳動法、及びELISAが挙げられる。
【0092】
場合によっては、薬物または栄養素のそれ自体ではなく、薬物または栄養素の代謝物を測定することが望ましい。いくつかの場合では、代謝物を測定することが望ましいが、代謝物は毒性を有するので、有害作用を回避するために、代謝物の濃度をモニタリングする必要がある。
【0093】
代謝物はいくつかの追加的な利益を提供するので、いくつかの場合では、代謝物を測定することが望ましく、その利益が得られることを確実にするためには、代謝物の濃度をモニタリングする必要がある。薬物は非常に短い半減期を有し、代謝物はより長い半減期を有するので、代謝物の濃度は、対象の状態をより正確に示すことができる。そのため、いくつかの場合では、代謝物を測定することが望ましい。代謝物は、薬物または栄養素よりも安定的であるので、いくつかの場合では、代謝物を測定することが望ましく、代謝物を使用した場合は、本開示の方法をより容易またはより正確に実施することができる。代謝物は研究目的のための追加的な情報を提供し得るので、いくつかの場合では、代謝物を測定することが望ましい。
【0094】
栄養素:本明細書に開示の方法またはシステムのいくつかの実施形態では、検体は、栄養素である。検体が栄養素である場合、それは、微量栄養素または多量栄養素であり得る。栄養素が多量栄養素である場合、それは、タンパク質、アミノ酸、炭水化物、ステロール、または脂質であり得る。栄養素が微量栄養素である場合、それは、ビタミンまたは鉱物であり得る。
【0095】
タンパク質及びアミノ酸:いくつかの実施形態では、栄養素は、タンパク質またはアミノ酸である。アミノ酸は、アミノ及びカルボキシル官能基と、側鎖とを有する有機化合物である。タンパク質は、アミノ酸の集合鎖である。
【0096】
本明細書に記載の方法によって測定されるアミノ酸は、脂肪族、芳香族、酸性、塩基性、ヒドロキシリル、硫黄含有、アミド、非必須、または必須のアミノ酸であり得る。
【0097】
栄養素がアミノ酸である場合、それは、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、アロイソロイシン、アラニン、グリシン、プロリン、バリン、トリプトファン、チロシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン、リジン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、またはグルタミンであり得る。
【0098】
アミノ酸は遺伝性疾患のマーカーであるので、いくつかの実施形態では、アミノ酸は、診断ツールとして使用するために測定される。例えば、フェニルアラニンは、フェニルケトン尿症(PKU)のマーカーであるので、本明細書に記載の方法を用いてフェニルアラニンを測定することにより、PKUを診断することができる。加えて、ロイシン、イソロイシン、及びアロイソロイシンは、メープルシロップ尿症(MSUD)のマーカーであるので、それらを本明細書に記載の方法を用いて測定することにより、MSUDを診断することができる。これらの実施形態に関する詳細は、実施例の欄に記載されている。
【0099】
炭水化物:いくつかの実施形態では、本明細書に開示の方法またはシステムは、炭水化物を測定するために使用され得る。
【0100】
炭水化物及びその代謝物は、健康に不可欠である。したがって、炭水化物の検査及びモニタリングは、公衆衛生のために重要である。Iso-CMS及び本明細書に記載の方法は、少量の試料中の炭水化物を検出することができる。
【0101】
ステロール類:本明細書に開示の方法のいくつかの実施形態では、検体は、ステロールである。いくつかの実施形態では、本明細書に開示の方法またはシステムは、試料中のステロールまたはコレステロールを測定するために使用される。コレステロールは、ホルモン、ビタミンD、及び、消化を助ける物質を産生するために、身体に必要とされる。食事供給源に加えて、体内でコレステロールが産生される。過剰量のコレステロールは、心臓病または他の疾患を引き起こす恐れがあるため、コレステロール分子の濃度をモニタリングすることが不可欠である。
【0102】
他の実施形態では、本明細書に開示の方法またはシステムは、植物ステロール及びスタノールを含む他のステロール類を測定するために使用される。植物ステロール及びスタノールは、身体に摂取されると、循環コレステロール値を低下させるため、心疾患リスクを低下させることができる。
【0103】
脂質:本明細書に開示の方法のいくつかの実施形態では、検体は、脂質である。脂質は、脂肪酸及びその誘導体であり、それらには、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、及びリン脂質、並びに、他のステロール含有代謝物が含まれる。これらの分子は一般的に、水に対して不溶性であるが、本明細書に記載の方法に用いられる溶媒を含む他の溶媒に対しては可溶性である。脂質は、脂肪酸、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、ステロール脂質、プレノール脂質、サッカロ脂質、またはポリケチドであり得る。
【0104】
食事脂肪摂取と体脂肪状態のモニタリングの重要性を考えると、対象の脂質を測定しモニタリングすることは重要である。本明細書に記載の方法は、少量の試料を使用して脂質を測定するのに用いることができる。
【0105】
ビタミン:ビタミンは、ビタミン、プロビタミン、またはそれらの前駆体であり得る。例えば、ビタミンは、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、またはビタミンEであり得る。本開示の方法のいくつかの実施形態では、検体は、ビタミンDである。これらのビタミンは健康に不可欠であるため、欠乏及び過剰、並びにこれらの状態に関連する疾患を予防するための検査及びモニタリングは、公衆衛生のために重要である。
【0106】
ビタミンB:ビタミンB群及びその代謝物の測定は、質量分析法、クロマトグラフィ法、及び他の方法などの現在利用可能ないくつかの測定法を用いて行うことができる。本開示の方法は、生物学的流体の少量の試料からビタミンB類を測定するのに有用である。
【0107】
ビタミンC:ビタミンCは、抗炎症作用及び免疫支援作用を有する重要な循環抗酸化剤であり、重要なモノキシゲナーゼ酵素またはジオキシゲナーゼ酵素の補因子である。外傷、虚血/再灌流、及び敗血症モデルにおける多数の前臨床研究は、薬理学的用量で投与されたビタミンCは、酸化ストレス及び炎症を減弱させ、内皮機能または臓器機能を回復させることを示している。古い研究は、ビタミンCを補充量で投与すると(1日あたり2~3gのビタミンCの静脈内投与)、臓器機能障害がより少なくなることを示している。薬理学的用量(6~16g/日)を用いた最近の小規模な対照研究は、ビタミンCが昇圧薬サポート及び臓器機能障害を減少させ、さらには、死亡率も低下させることを示唆している。
【0108】
ビタミンCの濃度の検査及びモニタリングは、公衆衛生のために重要である。このような検査及びモニタリングは、本明細書に記載の方法を用いて、少量の試料を使用して実施することができる。
【0109】
ビタミンD:本明細書に記載の方法、例えばiso-CMS法を用いて、血液中の栄養素の量を測定することができる。栄養素は、多量栄養素、または、ビタミン若しくは鉱物などの微量栄養素であり得る。一例として、iso-CMS法を用いて採取した試料を使用して、ビタミンDを測定することができる。いくつかの実施形態では、試料は、骨の健康を評価するために検査される。
【0110】
ビタミンDは、カルシウム及び骨の代謝、妊娠中の母体の健康、及び子供の発育において重要な役割を果たすことが知られている。最近、ビタミンDは、糖尿病、心血管疾患、関節炎、多発性硬化症、及び癌を含む様々な他の医学的状態に関与することが分かった。
【0111】
低存在量及び低いイオン化ポテンシャルを有することにより、化学誘導体化ストラテジーは、ビタミンD代謝物にイオン化可能基を導入することにより、検出感度を高めるために使用される。ディールス・アルダー誘導体化反応法が、ジエノフィル試薬をビタミンDのcis-ジエン基と反応させるのに用いられる。しかしながら、第二世代誘導体化法が近年開発され、現在では、様々なビタミンD代謝物の分析が可能になった。これらの方法は、iso-CMS法の場合のように試料が少量であっても、アッセイを実施することを可能にする。
【0112】
ビタミンE:ビタミンEは、トコフェロールのα型、β型、δ型、及びγ型、並びに、トコトリエノールの化学的分類を説明する一般的な用語である。
【0113】
ビタミンEの濃度の検査及びモニタリングは、公衆衛生のために重要である。このような検査及びモニタリングは、本明細書に記載の方法を用いて、少量の試料を使用して行うことができる。
【0114】
鉱物:いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、対象から採取した試料中の鉱物の量を測定するために使用され得る。鉱物は、対象の食事の一部として摂取される。鉱物は、生物に必要とされる化学元素である。食事由来の各鉱物の適切な摂取濃度は、身体の健康を保つために維持する必要がある。
【0115】
本明細書に記載の方法によって測定することができる鉱物としては、これに限定しないが、カルシウム、リン、カリウム、硫黄、塩化ナトリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、モリブデン、クロム、及びフッ化物が挙げられる。いずれの場合も、鉱物の過不足は対象の健康に悪影響を及ぼすので、所定量の鉱物が、健康に不可欠である。
【0116】
遺伝性疾患の診断
【0117】
いくつかの実施形態では、本開示は、疾患または障害を判定する方法であって、(a)試料及び生体適合性溶液を含有する検査溶液のアッセイを実施するステップと、(b)試料中の検体の存在及び/または濃度を検出するステップと、を有し、生体適合性溶液が、安定化溶媒及び水を含有し、試料の量が、約1~50μLである、方法を提供する。いくつかの実施形態では、疾患または障害は、遺伝性疾患である。
【0118】
500以上の疾患が、タンパク質/酵素の産生障害を引き起こす遺伝子変異に関連しており、これらの疾患は先天性代謝異常症(IEM)と呼ばれている。これらの疾患のうちの91例は、早期に診断されれば治療可能である。さらに、治療可能なIEMのうちの13例は、アミノ酸産生またはアミノ酸異化作用に影響を及ぼす障害(アミノ酸代謝異常症)である:フェニルケトン尿症(PKU)、メープルシロップ尿症(MSUD)、ホモシスチン尿症/メチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼ(MTHFR)欠損症、チロシン血症II型、シトルリン血症I型及びII型、アルギニノコハク酸尿症、カルバモイルリン酸シンテターゼI(CPS)欠損症、アルギニン血症(アルギナーゼ欠損症)、高オルニチン血症-高アンモニア血症-ホモシトルリン尿症(HHH)症候群、N-アセチルグルタミン酸シンターゼ(NAGS)欠損症、オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症、及びピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)複合体欠損症。もし、効果的な新生児スクリーニングプログラムが実施されれば、これらのIEMによって引き起こされる経済的負担及び心理的負担が軽減される。もし、診断が早期に行われれば、疾患により引き起こされるダメージを防ぐために、食事療法などを導入することができる。
【0119】
試料
【0120】
Iso-CMS法を含む本明細書に記載の方法またはシステムはまた、血液及び他の生物学的流体などの試料の測定に有用である。いくつかの実施形態では、試料は、診断検査に使用される生物学的流体である。Iso-CMS法は、血液、涙、汗、脳脊髄液(CSF)、及び他の体液を非侵襲的に採取して分析することを可能にする。
【0121】
いくつかの実施形態では、試料は、血液、血清、血漿、鼻腔スワブまたは鼻咽頭洗浄液、唾液、尿、涙、胃液、髄液、糞便、粘液、汗、耳垢、油、腺分泌物、脳脊髄液、組織、精液、膣液、咽頭スワブ、呼気、毛髪、指爪、皮膚、生検、胎盤液、羊水、臍帯血、エンファティク流体(emphatic fluid)、腔液、痰、粘液、膿、微生物、胎便、母乳、及び/または他の排出物からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、生物学的流体は、血液、尿、涙、唾液、汗、精子、または脳脊髄液である。いくつかの実施形態では、試料は、血液である。いくつかの実施形態では、試料は、新生児血液である。
【0122】
いくつかの実施形態では、少量の試料、例えば血液などが、対象から採取される。いくつかの実施形態では、対象から採取される試料の量は、約または少なくとも2μL、3μL、4μL、5μL、6μL、7μL、8μL、9μL、10μL、15μL、20μL、25μL、30μL、40μL、50μL、60μL、70μL、80μL、90μL、100μL、500μL、1mL、2mL、3mL、4mL、5mL、6mL、7mL、8mL、9mL、または10mLである。いくつかの実施形態では、約2~100μLの試料が、対象から採取され、検査に使用される。例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、または100μLの試料が、対象から採取され、検査に使用される。いくつかの実施形態では、約2~25μL、4~15μL、または4~10μLの量の試料が、対象から採取され、検査に使用される。いくつかの実施形態では、約8μLの試料が対象から採取され、検査に使用される。いくつかの実施形態では、対象から採取された所定量の試料は、分析前に生体適合性溶液によって希釈される。
【0123】
いくつかの実施形態では、試料は、生体適合性溶液によって希釈される。いくつかの実施形態では、試料は、生体適合性溶液によって、約3~20倍、例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20倍に希釈される。試料は、生体適合性溶液によって約5~15倍に希釈され得る。いくつかの実施形態では、試料は、生体適合性溶液によって約10倍に希釈される。
【0124】
本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態では、本開示の方法は、試料を冷却するステップをさらに有する。試料は、後で使用できるように試料を保存するために冷却される。例えば、試料は、氷の上、冷水中、または、冷蔵庫や冷凍庫などの温度制御ユニット内に保存され得る。試料を冷却するステップは、試料を約-17.8℃(約0°F)未満の温度に維持するステップを有し得る。いくつかの実施形態では、試料は、アッセイを実施する前に冷却される。試料は、アッセイを実施する前に、予め凍結及び解凍され得る。本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態では、本開示の方法は、抗凝固剤または保存剤を添加するステップをさらに有する。
【0125】
本明細書に記載の方法を実施するときは、試料を採取した場所から試料を検査可能な施設まで試料を輸送するかまたは試料を輸送することなく、試料の定性的及び/または定量的な評価を、単独でまたは組み合わせて行うことができる。いくつかの実施形態では、施設は、薬局またはドラッグストアなどの臨床現場である。
【0126】
アッセイ
【0127】
本明細書に記載の方法またはシステムは、診断検査に用いることができる標準的なアッセイ(分析方法)の1または複数と組み合わせることができる。そのようなアッセイとして、これに限定しないが、質量分析法、分光法、クロマトグラフィ法、電気泳動法、または酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)が挙げられる。
【0128】
質量分析法は、化学種を分析する分析技術であり、検体から発生したイオンを質量電荷比に基づいて分離させる。質量分析法は、純粋な試料、並びに、本明細書に記載されている生物学的流体などの複合試料の分析に適用することができる。
【0129】
分光法は、電磁放射と試料との相互作用に基づく試料の分析方法である。試料の分光分析に使用される装置としては、分光計、分光光度計、分光器、及びスペクトル分析器などが挙げられる。
【0130】
クロマトグラフィ法は、混合物を溶液中に通過させるか、あるいは、混合物の各成分が互いに異なる速度で移動する媒体中に混合物を蒸気として通過させることによって、混合物を分離させる方法である。このようにして、試料の成分を分離することができる。その結果、成分を識別して定量化することが可能となる。
【0131】
クロマトグラフィ法は、試料の分析のために、質量分析法または分光法と組み合わせてもよい。このような組み合わせの例としては、LCMS(液体クロマトグラフィ法/質量分析法)、及びGCMS(ガスクロマトグラフィ法/質量分析法)が挙げられる。
【0132】
いくつかの実施形態では、本開示は、アッセイを実施する方法であって、試料及び生体適合性溶液を含有する検査溶液のアッセイを実施するステップを有し、試料の量が1~50μLの量であり、アッセイのエラー比が20%以下である方法を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、アッセイを実施する方法であって、試料及び生体適合性溶液を含有する検査溶液のアッセイを実施するステップを有し、試料が、CMS法を用いて採取され、アッセイのエラー比が20%未満である方法を提供する。
【0133】
本明細書で使用するとき、エラー比(ER)は、ゴールドスタンダード方法を用いて採取した血漿から測定された検体の量に対する、本明細書に記載の方法により測定された検体の量の偏差の正規化バージョンであり、下記のようにして計算される。
【0134】
【数1】
【0135】
上記の式中、ACMSは、本明細書に記載のCMS法を用いて採取した試料から測定された検体の量であり、APlasmaは、ゴールドスタンダード方法を用いて同時に採取した試料から測定された検体の量である。ゴールドスタンダード方法は、静脈穿刺によって血漿を採取する方法であり得る。ERが0である場合、その方法で得られる結果が、ゴールドスタンダード方法で得られる結果と完全に一致していることを意味する。低いER(0に近いER)は、その方法で得られる結果がゴールドスタンダード方法で得られる結果と同様であることを示し、高いERは、その方法で得られる結果がゴールドスタンダード方法で得られる結果とは異なることを示す。ERの範囲は、0~100%であり得る。
【0136】
対象
【0137】
本明細書に記載の方法またはシステムのいずれにおいても、対象(subject)はヒトまたは動物である。対象は、幼児、小児、青年、成人、または高齢者であり得る。対象は、遺伝性疾患、慢性疼痛、癌、感染性疾患、心血管疾患、栄養素欠乏、代謝性疾患、薬物依存症、または他の疾患を有するか、またはそれらの疾患のリスクを有している可能性がある。対象は、妊娠しているヒトまたは動物、例えば妊娠している女性であり得る。いくつかの実施形態では、対象は、新生児である。いくつかの実施形態では、対象は、栄養欠乏を有する。
【0138】
本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態では、対象は、ヒトである。例えば、ヒト対象は、成人、小児、または幼児であり得る。例示的な実施形態では、ヒト対象は、ヒト成人である。ヒト対象は、18歳以上のヒト成人であり得る。ヒト対象は、18歳~90歳のヒト成人であり得る。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、40歳~85歳のヒト成人である。例示的な実施形態では、ヒト対象は、65歳~80歳のヒト成人である。
【0139】
本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態では、対象は、動物である。動物対象は、イヌまたはネコなどの飼い慣らされた動物であり得る。動物対象は、マウスまたはラットであり得る。動物対象は、7週齢以上のマウスまたはラットであり得る。動物対象は、7週齢~15週齢のマウスまたはラットであり得る。動物対象は、10週齢~11週齢のマウスまたはラットであり得る。
【0140】
遺伝子検査患者:対象が遺伝性疾患を有するか、または遺伝性疾患のリスクを有する場合、本明細書に記載の方法を用いて、その遺伝性疾患のマーカーの存在について試料を分析することができる。2つの注目すべき実施形態では、対象は、PKUまたはMSUDのリスクを有している。対象がPKUのリスクを有している場合、本明細書に記載の方法を用いて、PKUのマーカーであるフェニルアラニンの濃度を測定することができる。
【0141】
対象がMSUDリスクを有している場合、本明細書に記載の方法を用いて、MSUDのマーカーであるロイシン、イソロイシン、またはアロイソロイシンを含む分岐鎖アミノ酸の濃度を分析することができる。
【0142】
対象が幼児である場合、対象は遺伝性疾患のリスクを有し得るので、本明細書に記載の方法を用いて、PKU、MSUD、または本明細書に記載の他の遺伝性疾患について対象を検査することができる。
【0143】
慢性の痛み:対象が慢性疼痛患者である場合、患者は、1以上のオピオイドまたは他の鎮痛薬が処方される。この実施形態では、治療の安全性及び依存リスクをモニタリングするために、患者の試料を、処方されたまたは処方されていないオピオイドまたは他の鎮痛薬の存在について分析する。
【0144】
栄養素欠乏症:対象が栄養素欠乏症を有するか、または栄養素欠乏症のリスクを有する場合、本明細書に記載の方法を用いて、その栄養素の欠乏について試料を分析することができる。この場合、栄養素は、多量栄養素または微量栄養素であり得る。栄養素が多量栄養素である場合、それは、タンパク質、アミノ酸、炭水化物、または脂質であり得る。栄養素が微量栄養素である場合、それは、ビタミンまたは鉱物であり得る。栄養素がビタミンである場合、それは、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、または、それらのビタミンの前駆体または代謝物であり得る。栄養素が鉱物である場合、それは、カルシウム、リン、カリウム、硫黄、塩化ナトリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、モリブデン、クロム、またはフッ化物であり得る。
【0145】
感染症:対象が感染症を有するか、または感染症のリスクを有する場合、本明細書に記載の方法を用いて、感染症のマーカー、または、感染症の治療のために対象に投与される抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬、もしくは抗寄生虫薬について、試料を分析することができる。
【0146】
心血管疾患:対象が心血管疾患を有するか、または心血管疾患のリスクを有する場合、本明細書に記載の方法を用いて、コレステロールについて試料を分析することができる。また、この実施形態では、本明細書に記載の方法を用いて、心血管疾患の治療に使用される薬物について試料を分析することができる。心血管疾患の治療に使用される薬物としては、これに限定しないが、スタチン、変力薬、変時薬、または心血管疾患を治療できる他の薬物が挙げられる。
【0147】
癌患者:本開示の方法が用いられる対象としては、下記の疾患を有すると診断された対象が挙げられる。急性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、青年期の癌、小児副腎皮質癌、AIDS関連癌(例えば、リンパ腫及びカポジ肉腫)、肛門癌、虫垂癌、星状細胞腫、非定型奇形腫様、基底細胞癌、胆管癌、膀胱癌、骨癌、脳幹グリオーマ、脳腫瘍、乳癌、気管支腫瘍、バーキットリンパ腫、カルチノイド腫瘍、非定型奇形腫様、胎児性腫瘍、胚細胞腫瘍、原発性リンパ腫、子宮頸癌、小児癌、脊索腫、心臓腫瘍、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄増殖性障害、結腸癌、大腸癌、頭蓋咽頭腫、皮膚T細胞リンパ腫、肝外非浸潤性乳管癌(DCIS)、胎児性腫瘍、CNS癌、子宮内膜癌、上衣腫、食道癌、鼻腔神経芽細胞腫、ユーイング肉腫、頭蓋外胚細胞腫瘍、性腺外胚細胞腫瘍、眼癌、骨の線維性組織球腫、胆嚢癌、胃癌、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、胚細胞腫瘍、妊娠性絨毛腫瘍、有毛細胞白血病、頭頸部癌、心臓癌、肝癌、ホジキンリンパ腫、下咽頭癌、眼内黒色腫、島細胞腫、膵神経内分泌腫瘍、腎癌、喉頭癌、口唇・口腔癌、肝癌、非浸潤性小葉癌(LCIS)、肺癌、リンパ腫、原発不明の転移性頸部扁平上皮癌、正中線管癌、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍、口腔癌、多発性内分泌腫瘍症候群、多発性骨髄腫/形質細胞腫瘍、菌状息肉症、多発性骨髄腫、メルケル細胞癌、悪性中皮腫、骨の悪性線維性組織球腫、骨肉腫、鼻腔・副鼻腔癌、鼻咽頭癌、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌(NSCLC)、口腔癌、口唇・口腔癌、口腔咽頭癌、卵巣癌、膵癌、乳頭腫症、傍神経節腫、副鼻腔・鼻腔癌、副甲状腺癌、陰茎癌、咽頭癌、胸膜肺芽腫、原発性中枢神経系(CNS)リンパ腫、前立腺癌、直腸癌、移行上皮癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺癌、皮膚癌、胃癌、小細胞肺癌、小腸癌、軟部組織肉腫、T細胞リンパ腫、精巣癌、咽喉癌、胸腺腫、胸腺癌、甲状腺癌、腎盂及び尿管の移行上皮癌、絨毛性腫瘍、小児期のまれな癌、尿道癌、子宮肉腫、膣癌、外陰癌、ウイルス誘発性癌、白血病、血液悪性腫瘍、固形腫瘍癌、前立腺癌、去勢抵抗性前立腺癌、乳癌、ユーイング肉腫、骨肉腫、原発性骨肉腫、T細胞前リンパ球性白血病、神経膠腫、グリア芽腫、肝細胞癌、肝癌、糖尿病、それらの関連疾患、及びそれらの任意の組み合わせ。いくつかの実施形態では、本開示の食品組成物、液体組成物、及び/または乾燥組成物によって治療される対象としては、皮膚の良性過形成(例えば、乾癬)、再狭窄、及び前立腺の良性過形成(例えば、良性前立腺肥大症(BPH))などの非癌性過剰増殖性疾患を有すると診断された対象が挙げられる。対象は、癌の遺伝的素因を有し得る。
【0148】
システム
【0149】
疾患の診断、治療、または予防のために、対象から採取した試料を評価するシステムが、本開示のさらなる態様にしたがって提供され得る。いくつかの実施形態では、本開示は、対象から採取された試料(血液試料)を評価するシステムを提供する。本開示のシステムは、(a)通信ユニットであって、試料を処理して試料の定性的及び/または定量的な評価に必要なデータを生成するように構成されたデータ生成装置からデータを受信するように構成された、通信ユニットと、(b)プロセッサであって、認定された分析施設及び/またはその関連組織での試料の定性的及び/または定量的評価のために上記データを処理するプロセッサと、を備える。上記のデータ生成装置は、(i)試料を採取するように構成された試料採取ユニットと、(ii)定性的及び/または定量的な評価のために生物学的試料を調製するために、試料に、水及び安定化溶媒を含有する生体適合性溶液を添加するように構成された試料調製ユニットと、(iii)認定された分析機関またはその関連機関にデータを送信するように構成された送信ユニットと、を含む。試料は、臨床現場または検査室で採取され得る。
【0150】
上記または本明細書の他の箇所に記載のシステムは、単独でまたは組み合わせて、上記の定性的及び/または定量的な評価に関する情報を受信し、任意選択で上記情報を表示するように構成された別の装置を含み得る。上記または本明細書の他の箇所に記載のシステムは、単独でまたは組み合わせて、薬物、代謝物、または栄養素などの検体の検出を実施する。いくつかの実施形態では、試料は、CMS法を用いて採取される。いくつかの実施形態では、試料は、医療供給者のオフィス、病院、診療所、薬局、または医療施設で採取される。いくつかの実施形態では、試料は、薬局で採取される。いくつかの実施形態では、試料は、自宅で採取される。上記または本明細書の他の箇所に記載のシステムは、単独でまたは組み合わせて、定性的及び/または定量的な評価は、検体の存在または濃度の検出を実施する。
【0151】
上記または本明細書の他の箇所に記載のいくつかのシステムは、単独でまたは組み合わせて、ピンプリックによって生物学的試料を採取する。いくつかの実施形態では、約2~100μLの試料が対象から採取され、検査に使用される。いくつかの実施形態では、生物学的流体は、血液、尿、涙、唾液、汗、精子、または脳脊髄液である。
【0152】
施設
【0153】
本開示は、本明細書に記載のキットを作製及び/または管理するための施設、並びに、本明細書に記載の方法を使用するための施設を提供する。いくつかの態様では、本開示は、本明細書に記載の複数のキットを備える施設を提供する。特定の実施形態では、本開示の施設は、本明細書に記載のキットまたはその構成要素を製造する。一実施形態では、施設は、製造所である。特定の実施形態では、施設は、本明細書に記載のキットまたはその構成要素を分配する。例えば、施設は、配送センターであり得る。特定の実施形態では、施設は、本明細書に記載のキット及びその構成要素を、患者、医療提供者、病院、診療所、ドラッグストア、薬局、医療施設などに提供する。一実施形態では、施設は、本明細書に開示のキットをドラッグストアに販売する。別の実施形態では、施設は、キットを作製する。別の実施形態では、施設は、キットを対象に提供する。例えば、施設は、病院、診療所、薬局、または医療施設であり得る。施設は、病院、診療所、ドラッグストア、薬局、または医療施設内に存在するか、あるいは、病院、診療所、ドラッグストア、薬局、または医療施設から0.1、0.5、1、または5マイル以内に存在し得る。
【0154】
キット
【0155】
本開示は、キットを提供する。キットは、本明細書に開示の方法及び/またはシステムに使用することができる。キットは、適切なパッケージ内に収容された本明細書に記載の容器及び溶液と、使用説明書及び副作用のリストなどを含む書類とを備え得る。いくつかの実施形態では、本開示は、(a)毛細管作用によって対象から試料を採取するように構成された容器と、(b)生体適合性溶液と、(c)使用説明書と、を備えるキットを提供する。本開示のキットはまた、本明細書に記載の方法の活性及び/または利点を示す、または立証する、及び/または医療提供者及び/または患者に有用な投与、副作用、または他の情報を記載した、科学文献、添付文書資料、及び/またはこれらの要約などの情報を含み得る。いくつかの実施形態では、容器は、対象から少量の試料、例えば1~50μLの試料を抽出するように構成され得る。本明細書に開示のキットのいくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、水及び安定化溶媒を含有する。安定化溶媒は、プロトン性極性溶媒を含み得る。安定化溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態では、生体適合性溶液は、イソプロパノール及び水を含有する。本明細書に開示のキットのいくつかの実施形態では、キットは、試料を保存するための抗凝固剤などをさらに備える。本明細書に開示のキットのいくつかの実施形態では、キットは、対象の皮膚を穿刺するように構成された穿刺デバイスをさらに備える。本明細書に開示のキットのいくつかの実施形態では、キットは、毛細管をさらに備える。いくつかの実施形態では、使用説明書は、試料を毛細管内に引き出すために毛細管マイクロサンプリング(CMS)を実施すること、毛細管を生体適合性溶液と共に容器内に挿入すること、及び、試料が生体適合性溶液中に移動するまで容器を撹拌することを記載する。
【0156】
いくつかの実施形態では、試料及び生体適合性溶液のための容器は、キット内の別個の容器として提供される。いくつかの実施形態では、試料及び生体適合性溶液のための容器は、キット内の1つの容器として提供される。適切なパッケージ及び追加の使用物品(例えば、液体調製のための計量カップ、空気への曝露を最小限に抑えるためのホイル包装など)は、当技術分野で公知であり、キットに含まれ得る。本明細書に記載のキットは、医師、看護師、薬物師、処方医などの医療提供者に提供、販売、及び/または販売促進され得る。また、いくつかの実施形態では、キットは、消費者に対して直接的に提供、販売、及び/または販売促進され得る。
【0157】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のキットは、複数の検査のためのサプライを含み得る。キットは、サプライの使用期間(日、週、月)を指示する使用説明書を含み得る。
【0158】
実施例
【0159】
実施例1:CMS法及びiso-CMS法のための安定化溶媒の同定
【0160】
代替溶媒を同定するために、図3A及び図3Bに示すようにして実施したCMS条件下で作成した、血液[ONDS]測定値についての標準曲線及び検出感度を調べた。全血を、水と、イソプロパノール、メタノール、及びエタノールのうちの1つ(25%V/V)とを含有する安定化溶液で10倍に希釈した。これらの溶媒の毒性は、アセトニトリルよりも低い。すなわち、毒性作用が現れるには、より多い用量を必要とする。次いで、これらを使用して、所定量の[ONDS]が滴下された血液試料をアッセイした。アッセイは、上述したようにして実施した。試験した抽出溶媒の全ては、アセトニトリル対照試料と同様の結果を示した(図7A)。イソプロパノールはさらなる試験のために選択され、臨床現場における[ONDS]測定のための安定化溶媒として使用された。再度、これらの試験及び測定を上述したようにして実施した。本研究では、水中にイソプロパノールを25%V/Vの濃度で含有する安定化溶液を使用してCMS法を実施した。iso-CMS法は、オンダンセトロン(図7B)投与後のマウス中の[ONDS]を正確に測定することができる。重要なことには、iso-CMS法によって測定された[ONDS]は、血漿の分析によって測定したものと同一であった。
【0161】
また、iso-CMS法は、該方法を用いて採取した試料中の様々な化学構造を有する様々な他の薬物の濃度も正確に測定することができる。すなわち、iso-CMS法は、ボセンタン、フロセミド、クレミゾール、イリノテカン、及びイリノテカン代謝物SN-38の濃度を正確に測定することができる。これらの薬物の既知量を、対象から採取され、CMS法(アセトニトリルを使用)またはiso-CMS法(イソプロパノールを使用)に使用される安定化溶液で希釈された少量の血液試料に添加した。これらの分析のために、全血を、25%のアセトニトリルまたは25%のイソプロパノールと、75%の水とを含有する安定化溶液で10倍に希釈した。その後、薬物の濃度を、LC-MS分析法を用いて測定した。試料中の薬物濃度に対する、応答比、または測定された応答強度を示すプロットを各薬物について作成した。典型的なデータを示す代表的なプロットを図8に示す。分析結果の線形回帰分析は、iso-CMS法がアセトニトリルを使用した方法と同様の直線性及び感度でこれら薬物を測定できることを示した。実際、試験した各薬物について、イソプロパノール安定化溶液は、試験した薬物濃度の範囲でアセトニトリル安定化溶液と同様の結果を示した。したがって、iso-CMS法は、血液試料の量は十分に一貫しており、薬物は十分に可溶性を有する。したがって、安定化溶液にイソプロパノールを使用した場合(すなわち、アセトニトリルを使用しない場合)、正確な測定値が得られた。以上の結果を考慮すると、安定化溶液の組成にメタノール、エタノール、またはこれらの混合物を用いた場合にも、iso-CMS法と同様の性能を期待できる。
【0162】
実施例2:iso-CMS法による血液マーカーの検出
【0163】
この実施例では、遺伝性疾患の血液マーカーは、本明細書に記載のiso-CMS法によって正確に測定された。したがって、本研究は、本開示の方法を用いて、遺伝性疾患を、容易に、迅速に、かつ、非侵襲的に診断できることを示した。
【0164】
フェニルケトン尿症(PKU)は、治療可能な先天性代謝異常症(IEM)の一例である。PKU(OMIM261600)は常染色体劣性IEMであり、フェニルアラニン(Phe)代謝を仲介する染色体12q23.2上の171kB遺伝子によりコードされる452アミノ酸酵素(フェニルアラニン水酸化酵素、PAH)の欠損により生じる。毒性Phe代謝産物の蓄積は、成長障害、小頭症、発作、発達遅延、及び重度の知的障害を引き起こす。
【0165】
スクリーニング及び治療:PKUは、効果的な治療法(摂取フェニルアラニンの食事制限)を有する最初の遺伝性疾患である。このため、新生児のPKUスクリーニングは必須である。通常、新生児の血液はヒールスティックを使用して採取され、ろ紙上に移され、タンデムMSを用いて分析される。新生児における全血中または血漿中のPheの上限基準値は、150μmol/L未満であり、年長児では、それよりも若干低く、120μmol/L未満である。Phe摂取制限は、神経発達障害の予防に非常に効果的であり、少なくとも神経発達の期間を通じて継続するべきである。食事コンプライアンスを評価するために、血中Phe濃度の定期的なモニタリングが実施される。
【0166】
本研究では、iso-CMS法がPKUの診断に使用できるかどうかを究明しようとした。5人の正常者と5人のPKU罹患者を含む10人の対象から、血漿試料を採取した。各試料から採取した8μlの血漿を、EDTA(Vitrex Medical A/S、デンマーク国)で被覆された8μLのガラス毛細管チューブ内に入れた。このチューブを、水中にイソプロパノールアルコール(25%)を含有する水溶液72μLと共に遠心分離管に入れた。次いで、この混合物を、十分にボルテックスし、その後、この血漿試料を1/10に希釈して希釈物を調製した。希釈した試料のアリコートを、内部標準として添加される等量の0.8μMD8-フェニルアラニンと混合させた。3倍の量の氷冷アセトニトリルを添加し、タンパク質を沈殿させ、混合物を遠心分離させた。上清が得られた。上清を蒸発させて乾燥させ、その後、HPLC水中で再懸濁させた。分析は、他の系ではメタボロミクス変化を公正に分析することに成功している、LC/MS分析と組み合わせたダンシル誘導体化を用いた半標的メタボロミクス法(STMM)を用いて行った。ダンシル誘導体化は、逆相カラムでの代謝物分離を改善し、検出感度を10~1000倍増加させる。試料は、本発明者らが以前に開示した方法「Wu M, Zheng M, Zhang W, Suresh S, Schlecht U, Fitch WL, Aronova S, Baumann S, Davis R, St Onge R, Dill DL, Peltz G. 2012. Identification of drug targets by chemogenomic and metabolomic profiling in yeast. Pharmacogenet Genomics 22: 877-86」を用いてダンシル化した。そして、ダンシル化試料を、Infinity1290UPLCシステムを備えたAgilentQTOF6520(米国カリフォルニア州サンタクララ、Agilent)で分析した。フェニルアラニン濃度は、AgilentQTOF定量分析ソフトウェアを使用して標準曲線と比較して算出した。比較のために、各血漿試料中のアミノ酸濃度を、本発明者らが以前に開示した方法「Le A, Ng A, Kwan T, Cusmano-Ozog K, Cowan TM. 2014. A rapid, sensitive method for quantitative analysis of underivatized amino acids by liquid chromatography-tandem mass spectrometry (LC-MS/MS). J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci 944: 166-74」を用いて、臨床検査室改善修正法案(CLIA)認証を取得した研究室(スタンフォード病理臨床研究所)で測定した。ダンシル化CMSと直接的な血漿測定との相関を評価するために、ピアソンの相関係数を計算し、観察された相関係数の統計的有意性を、R(www.r-project.org)を用いて評価した。このデータはまた、スピアマンのρ統計を用いて評価した。
【0167】
表1に示すように、iso-CMS分析により得られた値は、CLIA認定研究所で得られた値と高度に一致した。上記の2つの方法により得られたデータを比較するために計算されたピアソンの相関係数は0.997であり、これは、上記の2つの方法で得られた結果が非常に高く相関することを示す。このデータについて計算されたスピアマンのρ統計は0.963であった。
【0168】
表1:5人の正常者(#1~#5)と5人のPKU罹患者(#6~#10)から採取した血漿中のフェニルアラニン濃度(μM)の測定値を示す。各血漿試料中のフェニルアラニン濃度(μM)を、下記の(i)及び(ii)の2つの方法を用いて測定した。(i)8μlの試料を使用した、ダンシル標識を用いたiso-CMS法;(ii)mlの試料から得た血漿を使用した、イオン対LCMSによる直接アミノ酸測定法。
【0169】
【表1】
【0170】
実施例3:iso-CMS法により測定される遺伝性疾患のバイオマーカー
【0171】
この実施例では、遺伝性疾患の血液マーカーは、本明細書に記載のiso-CMS法によって正確に測定された。したがって、本研究は、本開示の方法を用いて、遺伝性疾患を、容易に、迅速に、かつ、非侵襲的に診断できることを示した。
【0172】
メープルシロップ尿症(MSUD、MIM#248600)は、常染色体劣性IEMである。分枝α-ケト酸デヒドロゲナーゼ(BCKAD)複合体の正常な活性が、変異によって破壊され、これにより、バリン、ロイシン、及びイソロイシンを含む分枝アミノ酸(BCAA)の異化が妨げられる。BCAAは、患者の血漿及び尿中で増加する。MSUDは、神経学的発達遅延、脳障害、摂食障害、及び尿のメープルシロップ臭を特徴とする。未治療の場合、MSUDは、代謝性代償不全、不可逆的な神経学的障害、及び死を引き起こし得る。5つのIEMに対するMS/MSスクリーニングデータの最近の分析は、それらの出生率が西洋人集団において出生10万人当たり0.5~1.06の範囲であることを示している。MSUD0.71、ホモシスチン尿症0.53、グルタル酸尿症1.06、イソ吉草酸血症0.79、長鎖3-ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症0.65。これらの出生率は、通常、世界中の集団を調べた場合よりも高い。
【0173】
BCAAの異化は正常な生理学的機能に不可欠であり、BCAAの異化のほとんどは、(肝臓でなく)骨格筋で起こる。脳においては、BCAA代謝は、脳の発達と機能において重要な役割を果たす神経伝達物質であるグルタミン酸量を維持するのに不可欠である。また、ロイシンが蓄積すると、高度の神経毒性が発現する。BKADは、E1α、E1β、E2、及びE3のサブユニットからなる。BKAD活性がMSUDを引き起こす、これらのサブユニットにおけるホモ接合性または複合ヘテロ接合性突然変異。MSUDの古典的形態は、新生児期に存在し、BCKAD酵素活性の2%未満と関連している。MSUDの中間形態もあり、これは、正常なBCKAD酵素活性の30%と関連しており、通常は異化状態を伴う一時的な症状を呈する。
【0174】
スクリーニング及び治療:BCAAは、タンパク質を豊富に含む食事に含まれており、人間の生命に不可欠な9つのアミノ酸のうちの1つである。MSUD治療は、BCAAの食事制限及び代謝モニタリングからなる。早期に治療を開始すれば、転帰は非常に良好になる。そのため、新生児は、定期的にMSUDのスクリーニングを受ける。2011年に、血斑及び血漿中の分岐鎖アミノ酸濃度を定量するための高速型高スループット逆相LC/MS法が開発された。この方法は、ロイシン、イソロイシン、及びアロイソロイシンを分離及び定量することができる。カリフォルニアでは、過去4年間に220万人以上の乳児がスクリーニングされ、17例のMSUD症例が検出され、3例が見逃された。見逃された5例のレトロスペクティブ分析では、従来の基準(ロイシン>200μM,ロイシン/アラニン比>1.5)を満たす症例が存在しないことが示され、間欠型のMSUCであると考えられた。見逃された症例のうちの2例は、イソロイシン代謝物(アロ-イソロイシン)の濃度が増加していた。したがって、場合によっては、アロ-イソロイシンの第2段階スクリーニングを実施することが重要となり得る。
【0175】
ダンシル標識を使用するiso-CMS法を用いてMSUDを診断できるかどうかを判断するために、本発明者らは、上記の10の試料におけるロイシン、バリン、及びイソロイシンの濃度を測定した。表2に示すように、iso-CMS分析により得られた値は、CLIA認定試験所で得られた値と高度に一致した。
【0176】
表2:分枝鎖アミノ酸(BCAA)の血漿中濃度(μM)を、5人の正常者(#1~#5)及び5人のPKU罹患者(#6~#10)において測定した。各血漿試料中のBCAA濃度は、下記の(i)及び(ii)の2つ方法で測定した。(i)ダンシル標識を用いたiso-CMS法;(ii)イオン対LCMSによる直接アミノ酸測定法。上記の2つの方法により得られたデータを比較するために計算されたピアソンの相関係数とスピアマンのρ統計は、各アミノ酸の下側に記載した。上記の2つの方法により得られた結果は、非常に高く相関した。
【0177】
【表2】
【0178】
実施例4:他のアミノ酸の血漿中濃度の測定
【0179】
ダンシル標識を用いたiso-CMS法を使用して他のIEMを診断できるかどうかを判断するために、上記の10の試料中のアルギニン、メチオニン、及びチロシンの濃度を測定した。表3に示すように、iso-CMS分析により得られた値は、CLIA認定試験所で得られた値と高度に一致した。これらの結果は、どのアミノ酸も、ダンシル(または他のSTMM)標識を用いたiso-CMS法によって定量的に分析できることを示す。
【0180】
表3:他の3種類のアミノ酸の血漿中濃度(μM)を、5人の正常者(#1~#5)及び5人のPKU罹患者(#6~#10)において測定した。各血漿試料中の濃度は、下記の(i)及び(ii)の2つ方法で測定した。(i)ダンシル標識を用いたiso-CMS法;(ii)イオン対LCMSによる直接アミノ酸測定法。上記の2つの方法により得られたデータを比較するために計算されたピアソンの相関係数とスピアマンのρ統計は、各アミノ酸の下側に記載した。上記の2つの方法により得られた結果は、非常に高く相関した。
【0181】
【表3】
【0182】
実施例5:オピエイト分析
【0183】
上述のオピエイト類中の第三級アミンは、それらがエレクトロスプレーイオン化後に効率的に検出できることを確実にする。非常に高感度で特異的なLC/MS分析法が開発され、オピエイトの定量に広く用いられている。これらのアッセイは、ここでは、ヘロイン、モルヒネ、コデイン、オキシコドン及びその代謝産物(ノルオキシコドン、オキシモルホン)、ヒドロコドン及びその代謝産物(ヒドロモルホン)、メサドン、ブプレノルフィン、及びフェンタニルに対するiCOAMとして適合されている。これらオピエイト類の8種(モルヒネ、コデイン、オキシモルホン、オキシコドン、ノルオキシコドン、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、及びフェンタニル)(3つを図9に示す)の検出感度を評価する標準曲線を作成した。
【0184】
8μLのCMS試料からの全血を、水中にイソプロパノールを含有する安定化溶液(25%/75%V/V)で10倍に希釈した。このことは、微量遠心管内に毛細管を挿入し、血液が安定化溶液中に分散するまで試料をボルテックスすることによって達成された。このようにして、iso-CMS試料を調製した。
【0185】
これらの試験では、重水素化類似体(Sigma)を内部標準物質として使用した。各iso-CMS血液試料50μlに、これらの内部標準の混合物を指示濃度で滴下させた。タンパク質を沈殿させるために、冷たいアセトニトリルを添加した。試料を乾燥させ、5%アセトニトリル/0.1%ギ酸中で再懸濁させ、Phenomenex(アメリカ合衆国カリフォルニア州トーランス)のporeshellkinetexC18(2.0x100)カラムを用いたUHPLCInfinity1290と組み合わせたAgilentQTOF6520で分析した。移動相Aは0.1%ギ酸、移動相Bはアセトニトリルであり、勾配は15分で5%から50%Bまで行った。各オピエイトの定量下限(LoQ)は、検量線から決定した。標準iso-CMS試料の1/10の量を注入した場合、8つの薬物の各々に対するLoQは<0.5ng/mlであった(図9)。これらのオピオイドについて既知の必要最小限の血漿中鎮痛剤濃度(MEAC)(ng/ml)は、フェンタニル(0.6)、ヒドロモルホン(1.5)、モルヒネ(8)、メサドン(60)である。これらの結果は、これらのオピオイドのMEACが、本発明者らのiso-CMS法によって容易に検出できることを示す。
【0186】
これらのアッセイは、SUHでオピエイト治療患者から得られた静脈穿刺試料及びiso-CMS法により同時に得られた「オピエイト」を測定した。ヘロインは米国では治療薬として使用されていないが、他の薬物はすべて、SUH手術室で頻繁に使用されている。
【0187】
実施例6:治療薬物の測定
【0188】
オピエイト類に加えて、iso-CMS法は、様々な治療薬物及びその代謝産物の血漿中濃度を測定するために使用することができる。これは、患者の安全性にとって非常に重要である。その理由は、薬物が、その治療濃度域、すなわち患者に重大な副作用を引き起こさずに治療効果をもたらす用量の範囲外に存在した場合、薬物は、役に立たなくなったり危険になったりするからである。薬物の濃度がその治療濃度域外である場合、薬物は、もはや治療効果を発揮しない。また、薬物の濃度がその治療濃度域を超えた場合には、薬物は、患者に有害な作用を発揮し始める。このことは、一般に「安全」と見なされている薬物についても当てはまる。
【0189】
特に興味深いのは、抗凝固性を有するビタミンK拮抗薬であるワルファリンである。ワルファリンは、静脈血栓症の予防及び治療、並びに心房細動に関連する血栓塞栓性合併症の予防及び治療のための経口薬として一般に処方される。ワルファリンはまた、再発性の一過性脳虚血発作を予防し、再発性心筋梗塞のリスクを低下させるために使用されている。
【0190】
ワルファリン療法は治療濃度域が極めて狭く、様々な薬物-薬物相互作用、及び薬物-食物相互作用と関連している。このことは、ワルファリン治療中の患者は、過量投与に起因する副作用(重度の出血を含む。また、死に至る可能性がある)のリスクが常にあることを意味する。したがって、ワルファリン療法を受けている患者は常にモニタリングする必要があり、そのため、血液検査を頻繁に受けなければならない。
【0191】
静脈穿刺ベースの血液検査は、痛みを伴うため不便である。iso-CMS法は、血液検査の痛みを軽減し、迅速化することができ、また、各検査で患者から採取する血液の量を減らすことができる。このように、iso-CMS法は、ワルファリン療法または他の薬物療法を受けている患者の治療結果を改善することができる。
【0192】
CMS試料からの全血は、水とイソプロパノール(25%/75%V/V)とを含有する安定化溶液(安定化溶液)で10倍に希釈することができる。このことは、微量遠心管内に毛細管を挿入し、血液が安定化溶液中に分散するまで試料をボルテックスすることによって達成され得る。このようにして、iso-CMS試料を調製した。次いで、この調製されたCMS試料をLCMS分析に供して、血液中のワルファリンの量を測定し、測定のためのゴールドスタンダードと比較することができる。以下の他の薬物測定例の結果を考慮すると、iso-CMS法は、血液または他の体液中のワルファリンまたは他の薬物を測定することが可能な試料を取得するために使用できると期待される。
【0193】
実施例7:iso-CMS法により採取された試料の分析精度
【0194】
4種類の薬物、デキサメタゾン、メサドン、ガバペンチン、及びオンダンステトロンを異なる対象に投与した。静脈穿刺法及びiso-CMS法の各方法を用いて各患者から血液を採取し、iso-CMS法を用いて採取した試料中の薬物量を、静脈穿刺法(ゴールドスタンダード)を用いて採取した試料中の薬物量と比較した。
【0195】
15人のヒト対象に対して、少なくとも1つの安全な用量のデキサメタゾンを経口投与した。デキサメタゾンの投与後、デキサメタゾンが全身中に分散することができるように、対象は、30分~24時間の待機期間を待機した。
【0196】
追加の7人の対象に対して、少なくとも1つの安全な用量のメサドンを経口投与した。メサドンの投与後、メサドンが全身中に分散することができるように、対象は、1時間~30時間の待機期間を待機した。
【0197】
8人の追加の対象に対して、少なくとも1つの安全な用量のガバペンチンを経口投与した。ガバペンチンの投与後、ガバペンチンが全身中に分散することができるように、対象は、4時間~24時間の待機期間を待機した。
【0198】
手術を受けたばかりの44人の対象に対して、少なくとも1つの安全な用量のオンダンセトロンを経口投与した。オンダンセトロンの投与後、対象は、2時間~12時間の待機期間を待機した。
【0199】
上記の4つの群の各々において、少なくとも1mLの血液を静脈穿刺によって採取し、血液から血漿を分離し、貯蔵した(静脈穿刺試料)。それと同時に、8μLの血液を、本明細書に記載のiso-CMS法の一実施形態を用いて、毛細管内に採取した(CMS試料)。
【0200】
CMS試料からの全血を、水とイソプロパノール(25%/75%V/V)とを含有する安定化溶液で10倍に希釈した。このことは、微量遠心管に毛細管を挿入し、血液が安定化溶液中に分散するまで試料をボルテックスすることによって達成された。このようにして、CMS試料を調製した。
【0201】
静脈穿刺試料及び調製したCMS試料の両方を、各試料で予想される薬物の検出のための特定のプロトコルを用いてLCMS分析に供した。例えば、デキサメタゾンが投与された患者から採取した試料を、試料中のデキサメタゾンを正確かつ精密に定量することができるLCMSプロトコルに供した。
【0202】
各薬物の標準曲線も作成し、各試料中の薬物量を定量し、他の試料と比較できるようにLCMS装置で分析した。各薬物の適切な標準曲線を用いて、各試料中の薬物量を計算した。データは、静脈穿刺試料を用いて測定した血漿薬物量と、調製したCMS試料を用いて測定した血漿中薬物量との関係としてプロットした。このようにして、試料中の各薬物の量を正確に測定するためのiso-CMS法の信頼性を可視化した。
【0203】
各プロットについて、線形曲線をデータにフィットさせ、R値を計算した。R値は、測定値の相関を示す測定値であり、0~1の範囲である。0は、相関しないことを示す、1は、完全な1:1の相関であること、すなわち各採取方法の測定値が互いで同一であることを示す。さらに、ピアソン相関とスピアマン順位相関を、これらのデータセットのいくつかについて計算した。ピアソン相関は、2つの変数間の線形相関の尺度であり、0~1の範囲をとり、1は完全な相関を示す。スピアマン順位相関は、2つの変数間の関係が単調関数を使用してどの程度良好に記述できるかを評価する、順位相関のノンパラメトリック尺度である。簡単に言うと、これも、0~1の範囲をとり、1は、2つの変数間の完全な相関を示す。
【0204】
図10は、2つの採取方法で採取された試料のLCMS分析によって測定されたデキサメタゾン濃度を示すグラフである。グラフ中の各点は、1人の対象を示す。x軸は、iso-CMS法を用いて得られた試料において測定された血漿中デキサメタゾン濃度をmg/mlで表し、y軸は、静脈穿刺法を用いて得られた試料において測定された血漿中デキサメタゾン濃度をng/mlで表す。線形フィットが計算され、破線で示されている。ピアソン及びスピアマンの順位相関値はそれぞれ0.95及び0.93であり、良好な相関を示した。これは、iso-CMS法は、デキサメタゾンを正確に測定できることを示唆する。
【0205】
図11は、2つの採取方法で採取された試料のLCMS分析によって測定されたメサドン濃度を示すグラフである。グラフ中の各点は、1人の対象を示す。x軸は、静脈穿刺法を用いて得られた試料において測定された血漿中メサドン濃度をmg/mlで表し、y軸は、iso-CMS法を用いて得られた試料において測定された血漿中メサドン濃度をng/mlで表す。線形フィットが計算され、破線で示されている。R値は0.91と計算され、良好な相関を示した。これは、iso-CMS法は、メサドンを正確に測定できることを示唆する。
【0206】
図12は、2つの採取方法で採取された試料のLCMS分析によって測定されたガバペンチン濃度を示すグラフである。グラフ中の各点は、1人の対象を示す。x軸は、静脈穿刺法を用いて得られた試料において測定された血漿中ガバペンチン濃度をmg/mlで表し、y軸は、iso-CMS法を用いて得られた試料において測定された血漿中ガバペンチン濃度をng/mlで表す。線形フィットが計算され、破線で示されている。R値は0.95と計算し、良好な相関を示した。これは、iso-CMSは、ガバペンチンを正確に測定できることを示唆する。
【0207】
図13A及び図13Bでは、2つの採取方法で採取された試料のLCMS分析によって測定されたオンダンセトロン濃度を示すグラフである。グラフ中の各点は、1人の対象を示す。x軸は、静脈穿刺法を用いて得られた試料において測定された血漿中オンダンセトロン濃度をmg/mlで表し、y軸は、iso-CMS法を用いて得られた試料において測定された血漿中オンダンセトロン濃度をng/mlで表す。図13Aは、血漿オンダンセトロンの異常に高い濃度を有する対象を含む、全ての患者のデータを示す。図13Bは、15~60ng/mlの範囲のオンダンセトロン濃度を有する対象のデータを示す。線形フィットが計算され、破線で示されている。R値は0.999と計算し、良好な相関を示した。これは、iso-CMSは、オンダンセトロンを正確に測定できることを示唆する。
【0208】
以上、本発明のいくつかの好適な実施形態を説明したが、これらの実施形態が例示のためだけに提供されていることは当業者には明らかであろう。様々な変形、変更、及び置換が、本発明から逸脱することなく、当業者により想起されるであろう。本明細書に記載された本発明の実施形態に対する様々な代替物が、本発明の実施に使用され得ることを理解されたい。添付の特許請求の範囲は、本発明の範囲を定義すること、並びに、特許請求の範囲の範囲内の方法、構造、及びそれらの均等物を包含することを意図している。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B