(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】人の歯肉の健康状態の指標を提供するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20231003BHJP
G01N 21/3577 20140101ALI20231003BHJP
G01N 21/33 20060101ALI20231003BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
G01N33/50 G
G01N21/3577
G01N21/33
G01N33/483 C
(21)【出願番号】P 2021507952
(86)(22)【出願日】2019-08-15
(86)【国際出願番号】 EP2019071926
(87)【国際公開番号】W WO2020035562
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-06-15
(32)【優先日】2018-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】フェルムーレン オラフ トーマス ヨハン アントニー
(72)【発明者】
【氏名】デーン スティーヴン チャールス
(72)【発明者】
【氏名】シェファーズ ルーカス ペトルス ヘンリクス
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第07386333(US,B1)
【文献】特開昭53-106093(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0253286(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0047740(US,A1)
【文献】小川,比色分析装置の基礎,生物試料分析,2013年,36(3),273-280
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の口内において口腔ケア動作を行うよう構成された口腔ケア器具と、前記口腔ケア動作中又は後に収集される人の唾液を含む試料において血液が存在するかどうかの評価に基づいて前記人の歯肉の健康の指標を提供するように構成されたシステムとのアセンブリであって、前記システムが、前記試料に光を発するよう構成された発光ユニットと、前記試料から戻る光を受けるよう構成された受光ユニットと、前記受光ユニットにより受けられた光の解析を実行し、前記人の歯肉の健康を表す出力を提供するように
構成され、少なくとも1つのアルゴリズムを実行するよう構成された解析ユニットと、を有し、前記アルゴリズムにより、
前記受光ユニットにより受けられた光の測定値が、血液の成分によるより高い光吸収に関連する光の1つ以上の主波長について、及び前記血液の成分によるより低い光吸収に関連する光の1つ以上の補助波長について、決定され、
前記測定値に基づいて識別値が決定され、前記識別値の決定の工程において、主波長に関連する測定値が、1つ以上の補助波長に関連する測定値を用いて調節され、背景の影響について前記主波長に関連する前記測定値を補正
し、
前記試料を収集するために特に形成された前記口腔ケア器具における領域が存在し、
前記システムの少なくとも前記発光ユニット及び前記受光ユニットが、前記口腔ケア器具に組み込まれる、アセンブリ。
【請求項2】
前記システムの前記解析ユニットが、前記口腔ケア器具の外側に提供され、前記口腔ケア器具が、前記解析ユニットと通信するよう設計された少なくとも1つのユニットを具備する、請求項
1に記載のアセンブリ。
【請求項3】
識別値は、
主波長に関連する測定値からの、補助波長に関連する測定値の減算、
補助波長に関連する測定値による、主波長に関連する測定値の除算、
補助波長と主波長との差分値による、補助波長に関連する測定値と主波長に関連する測定値との差分値の除算、及び
補助波長に関連する測定値と主波長に関連する測定値との加算値による、補助波長に関連する測定値と主波長に関連する測定値との差分値の除算
のうちの1つにより決定される、請求項1
又は2に記載のアセンブリ。
【請求項4】
前記システムの前記解析ユニットにより実行されるべき前記少なくとも1つのアルゴリズムは、前記識別値が、試料中の血液の存在を示す値であるか否かを決定する更なるステップを有する、請求項1乃至
3のいずれかに記載のアセンブリ。
【請求項5】
前記システムが、前記識別値が、試料中の血液の存在を示す値であると見出された場合に、警告信号を発するよう構成されたインジケータを有する、請求項
4に記載のアセンブリ。
【請求項6】
前記主波長は、ヘモグロビンの光吸収が高い波長であり、前記補助波長は、ヘモグロビンの光吸収が低い波長である、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載のアセンブリ。
【請求項7】
前記主波長は、410乃至430nmの範囲内であり、及び/又は前記補助波長は、440nm以上である、請求項1乃至
6のいずれか一項に記載のアセンブリ。
【請求項8】
前記システムの前記発光ユニットは、前記主波長及び前記補助波長のみで光を発するよう構成され、及び/又は、前記受光ユニットは、2つ以上のバンドパスフィルタ又は光検出器の組み合わせを有し、1つ以上のバンドパスフィルタ又は光検出器の組み合わせのバンドパスフィルタは、前記主波長における光のみを通過させるよう構成され、1つ以上の他のバンドパスフィルタ又は光検出器の組み合わせのバンドパスフィルタは、前記補助波長における光のみを通過させるよう構成された、請求項1乃至
7のいずれか一項に記載のアセンブリ。
【請求項9】
プロセッサを含むモバイル装置を有し、前記システムの前記解析ユニットは、前記モバイル装置の前記プロセッサを有し、前記解析ユニットにより実行されるべき前記少なくとも1つのアルゴリズムは、前記モバイル装置にインストールされたアプリケーションにより定義される、請求項1乃至
8のいずれかに記載のアセンブリ。
【請求項10】
前記モバイル装置は、照明及び画像チップを更に有し、前記システムの前記発光ユニットは、前記モバイル装置の前記照明を有し、前記システムの前記受光ユニットは、前記モバイル装置の画像チップを有する、請求項
9に記載のアセンブリ。
【請求項11】
人の唾液を含む試料において血液が存在するかどうかの評価に基づいて前記人の歯肉の健康の指標を提供する方法であって、
口腔ケア器具を用いる口腔ケア動作が前記人の口内において行われ、
前記人の唾液を含む前記試料が、前記口腔ケア動作中又は後に収集され、
光が
前記口腔ケア器具に組み込まれた発光ユニットから前記試料に発せられ、前記試料から戻って
前記口腔ケア器具に組み込まれた受光ユニットで受けられ、解析され、
前記試料から戻って受けられた光の測定値が、血液の成分によるより高い光吸収に関連する光の1つ以上の主波長について、及び血液の成分によるより低い光吸収に関連する光の1つ以上の補助波長について、決定され、
前記測定値に基づいて識別値が決定され、前記識別値の決定の工程において、主波長に関連する測定値が、1つ以上の補助波長に関連する測定値を用いて調節され、背景の影響について前記主波長に関連する前記測定値を補正
し、
前記試料を収集するために特に形成された前記口腔ケア器具における領域が存在する、方法。
【請求項12】
前記識別値が、前記試料中の血液の存在を示す値であるか否かが更に決定される、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記識別値が、前記試料中の血液の存在を示す値であると見出された場合に、警告信号が発せられる、請求項
12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の歯肉の健康状態の指標を提供するためのシステムに関し、また人の歯肉の健康状態の指標を提供する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔ヘルスケアの分野では、歯と歯肉の衛生と健康が最も重要である。歯及び歯肉の衛生及び健康の最適レベルを確保するために、様々な口腔状態の定期的な検査が必要である。発生する可能性があり、特定視診が行われなければ気づかないことがある一般的な問題の1つに、歯肉炎がある。
【0003】
歯肉炎は歯肉の炎症で、歯肉の腫脹、浮腫及び発赤を特徴とする。歯肉炎の主な原因は、殆どは歯肉溝(ポケット)における、歯垢の蓄積である。歯肉炎は、隣接歯間領域、即ち隣接する歯の間の領域、及び適切に清掃することが困難な後歯周囲など、到達しにくい領域に生じることが最も多い。
【0004】
歯肉炎は、口腔衛生の改善、特に炎症の初期段階では回復可能である。歯肉炎は不可逆性歯周炎に伝播する可能性があるため、高いレベルの口腔衛生を維持し、歯肉炎をできるだけ早期に発見することが重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯肉の発赤と腫脹を評価することにより、視覚的に歯肉炎を診断することが知られている。例えば、非接触歯肉炎指数を使用することが知られている。しかしながら、この方法は、限られた感度しか有さず、工程で使用される光源の演色評価数に大きく依存し、例えば、現代の蛍光体変換LEDは、低いCRI(演色評価数)を有し得、その結果、視覚的判断が不十分になる。一般に、前述したように歯肉炎はしばしば口の奥に発生するため、歯肉炎の自己診断は困難である。
【0006】
人が歯肉炎に罹患しているかどうかを評価するための別の公知の方法は、人の口内の組織領域を調査し、DRS(拡散反射分光法)に基づいて歯肉炎を検出することを可能にする、プローブの使用を含む。DRS技術を適用することは、歯肉炎に関連する総ヘモグロビン濃度の増加及び血中酸素化の減少を決定する可能性を提供する。DRSは、中等度の歯肉炎を検出する高感度の方法を可能にするが、プローブの正確な位置決めが必要であるという事実、動きに敏感であるという事実、及びプローブと組織との間の直接的な接触が大きすぎる力で起こる場合に、血液が調査中の組織から押し離されるときに測定値が損なわれ得るという事実に存する、幾つかの欠点を有する。
【0007】
本発明の目的は、中等度の歯肉炎の容易で信頼性のある検出の必要性を満たすことである。より一般的に言えば、本発明の目的は、歯肉の健康の容易で信頼性のある評価の必要性を満たすことである。好適には、検出は、ブラッシング及びフロッシングなどの通常の/毎日の口腔衛生ルーチンと容易に組み合わせることができるような性質のものであるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、人の歯肉の健康の指標を提供する方法は、人の唾液を含有する試料中の血液トレースの存在の評価に基づいており、
光は、人の唾液を含有する試料に放出され、試料から戻って受けられ、解析され、 試料から受けられた光の測定値は、血液の成分によるより高い光吸収に関連する光の1つ以上の主波長について、及び血液の成分によるより低い光吸収に関連する光の1つ以上の補助波長について決定され、
識別値は、測定値に基づいて決定され、識別値を決定する工程において、主波長に関連する測定値は、背景の影響について主波長に関連する測定値を補正するように、1つ以上の補助波長に関連する測定値を用いて調整される。
【0009】
従って、本発明は、(i)人の唾液を含有する試料中の血液トレースの存在の評価に基づいて人の歯肉の健康の指標を提供するように構成され、(ii)唾液を含有する試料に光を放出するように構成された発光ユニットと、試料から光を受けるように構成された受光ユニットと、受光ユニットによって受け取られた光の解析を実行し、人の歯肉の健康を表す出力を提供するように構成され、1つ以上のアルゴリズムを実行するように構成された解析ユニットと、を有し、該1つ以上のアルゴリズムにより、
受光ユニットによって受けられた光の測定値が、血液の成分によるより高い光吸収に関連する光の1つ又は複数の主波長について、また血液の成分によるより低い光吸収に関連する光の1つ又は複数の補助波長について、決定され、
識別値が、測定値に基づいて決定され、識別値を決定する工程において、主波長に関連する測定値が、背景の影響について主波長に関連する測定値を補正するように、1つ以上の補助波長に関連する測定値で調整される。
【0010】
成人の50乃至70%が歯肉炎に罹患していると推定されているが、炎症が酷くなって歯肉が磨き中に大量に出血するまでは、気付いていない。歯肉炎の初期段階では歯肉もブラッシング中に出血するが、失血量は非常に少ないため、唾液中の裸眼又は歯磨き粉-唾液混合物などの流体-唾液混合物では目立たない。着色した歯磨き粉を使用する場合、特に歯磨き粉が赤い場合には、失血に気付くことが更に困難になる。本発明は、ブラッシング又はフロッシングのような口腔ケア作用の結果として唾液又は液体-唾液混合物中に血液が存在するかどうかを決定することを目的とする測定値に基づいて歯肉炎を診断することが可能であるという洞察に基づく。本発明の文脈において、歯肉炎が早期に診断され得るように、唾液又は流体-唾液混合物中の非常に少量の血液でさえ追跡することが可能である高感度の方法が開発された。
【0011】
本発明が実施される場合、唾液又は流体-唾液混合物が血液を含むかどうかをチェックするために、唾液又は流体-唾液混合物の光学的な解析が行われる。特に、唾液を含有する代表的な試料から受けた光を検出し、解析するが、この光は、試料に光を照射し、試料から光を戻すことによって得られる。解析は、特定の方法で行われ、前述のステップを有する。有利には、代表的なサンプルの調査は、口腔ケア動作が人の口のなかで行われる間又は後に行われる。
【0012】
第1のステップは、光の1つ又は複数の主波長について、また光の1つ又は複数の補助波長について、受光ユニットによって受けられた光の測定値を決定することを含む。測定値は、例えば、透過値であっても良い。本発明によれば、測定値は、限定された数の光の波長、即ち1つ以上の主波長及び1つ以上の補助波長のみについて決定され、1つ以上の主波長及び補助波長は、1つ又は2つの主波長及び1つ又は2つの補助波長を有することで十分であり得るが、より多くの数の主波長及び補助波長も同様に本発明によってカバーされる。
【0013】
第2のステップは、測定値に基づいて識別値を決定することを含み、識別値を決定する工程において、主波長に関連する測定値は、1つ又は複数の補助波長に関連する測定値で調整される。2つ以上の主波長に関する測定値が識別値を決定する目的で使用される場合、これらの測定値の各々は、1つ以上の補助波長に関する測定値で調整されても良い。そのような場合、解析ユニットは、主波長の調整された測定値の重み付けされた合計のような、主波長の調整された測定値の組み合わせである識別値を計算するように構成されても良い。
一般的な意味では、識別値は、何らかの方法で人の歯肉の健康に関連する情報を表し、人の歯肉の健康を表す出力を決定する目的に使用するのに適していると見なすことができる。前述の第1及び第2のステップの後に、識別値が試料中の血液の存在を示す値であるかどうかの判定を含む更なるステップが続くことも可能である。斯かる更なるステップは特に、識別値を、試料中の血液の存在を示す値の範囲の所定の限界値を表す基準値と比較することを含み得る。ユーザに知らせる目的のために、識別値が試料中の血液の存在を示す値であることが分かった場合に警告信号が発せられると有利であり得る。そのために、本発明によるシステムは、任意の適切なタイプのインジケータを備えても良い。
【0014】
本発明によるシステムの解析ユニットは、少なくとも第1及び第2のステップを実行するように構成される。従って、解析ユニットの出力は、識別値の形になることができる。解析ユニットは、更なるステップを実行するように構成されることも可能であり、その場合、解析ユニットの出力は、更なる解釈を必要としないが、試料中に血液が存在するかどうか、及び/又は口腔健康問題が想定され得るかどうかについての直接的な指標である形態となり得る。
【0015】
解析ステップの背景は、以下のように更に説明される。本発明は、唾液の試料又は流体-唾液混合物の試料中の血液痕跡を検出する実用的な方法を提供することに関する。人が歯肉炎又は歯肉の健康に影響を及ぼす他の状態に罹患している尤度を示す目的のためには、試料中に血液が存在するか否かを検出することで十分である。従って、本発明の重要な態様は、背景に対して血液を識別する方法を提供することであり、該背景は唾液、水、歯磨き粉、口腔洗浄液などのうちの1つ又は複数であっても良い。
【0016】
血液のヘモグロビンは、約400乃至440nmの範囲の波長値において吸収ピークが明確に区別できる光吸収スペクトルを有することが知られている。約440nm以上の波長値では、ヘモグロビンの吸収は有意に低い。このことは、オキシヘモグロビン、即ち結合酸素を有するヘモグロビン、及び脱酸素化ヘモグロビン、即ち結合酸素を有さないヘモグロビンの両方に当てはまる。従って、試料が血液を含むか否かを決定する目的のために、光学的測定結果が約400乃至440nmの範囲の波長で考慮されることが有利である。斯かる主波長での光学的測定結果の他に、少なくとも1つの他の光学的測定結果を調整即ち補正、即ち背景の影響を補償するために使用する必要があり、このことは、400乃至440nmの範囲外の補助波長での光学的測定結果を使用することによって行うことができる。
【0017】
本発明に関連して実施された試験において、歯磨き粉及び水を含有するが、一方では血液を含有しない試料、及び他方では歯磨き粉及び水を含有し、少量の血液のみを含有する試料について、異なる補正透過率値を測定することが実際に可能であることが見出された。これらの試験の詳細は、
図2及び
図3を参照して実施例の詳細な説明において更に説明される。
【0018】
以上から、人の歯肉の健康の指標を提供する目的のために、実施される解析においてヘモグロビンが血液の成分として採られる場合、及び主波長がヘモグロビンの光吸収が比較的高い波長であり、補助波長がヘモグロビンの光吸収が比較的低い波長である場合、有利であることがわかる。主波長は410乃至430nmの範囲であっても良く、補助波長は440nm以上であっても良い。例えば、補助波長は、440乃至470nmの範囲から選択され得る。2つの主波長に関する光の測定値が解析に使用される場合、第1の主波長は、上述のように410乃至430nmの範囲であっても良く、一方、第2の主波長は、520乃至580nmの範囲であっても良い。
【0019】
多くの実行可能な状況では、2つのそれぞれの波長、即ち、主波長及び1つの補助波長に関連する測定結果に解析を基にすれば十分であり得る。主波長を有する第2の補助波長の使用は、1つの補助波長の使用が背景に対して血液を識別するのに十分でない場合に有用であり得、斯かる場合は、例えば、試料が着色された歯磨き粉及び/又は食品及び/又は飲料の残渣を含有する場合であり得る。
【0020】
本発明の顕著な利点は、複雑な動作を実行する必要がない、又は唾液を含有する試料の解析を実行するための洗練された高価な装置を使用する必要がないという事実に存する。第一に、調査に適した試料を得るために必要なことは、通常の口腔ケア処置を行うことだけである。試料の収集は、この目的のために特に成形された口腔ケア器具上の領域を有することから、人に幾らかの唾液を吐き出させることまで、様々な方法で行うことができる。更に、LEDのような一般的に入手可能な光源が、発光ユニットとして、場合によっては光学フィルタと組み合わせて使用されても良く、受光ユニットとしてフォトダイオードのような一般的に入手可能な光検出器が使用されても良く、高価な分光計を必要としない。解析ユニットは、2つの実際的な例を挙げると、マイクロプロセッサの動作を制御するために、予めプログラムされたマイクロプロセッサ、又は適切なアプリなどと組み合わせた一般的なマイクロプロセッサの形で提供されても良い。
【0021】
前述のように、解析の第2のステップにおいて、試料中の血液の存在の指標が得られるか否かを決定する目的に使用するのに適した識別値が決定される。本発明の範囲内で、識別値の決定に関して、様々な可能性が存在する。識別値を決定する適切な方法の例は、以下の通りである:
-主波長に関する測定値から補助波長に関する測定値を減算する、
-主波長に関する測定値を補助波長に関する測定値で除算する、
-補助波長に関する測定値と主波長に関する測定値との差分値をこれら波長の差分値で除算する、及び
-補助波長に関する測定値と主波長に関する測定値との差分値をこれら測定値の加算値で除算する。
【0022】
識別値が決定され得る方法の第1の例に関して、それぞれの測定値は透過値であっても良く、解析の可能な更なるステップにおいて、識別値は、血液の存在と血液の不在とを区別するように選択される所定の透過値差分と比較されても良いことに留意されたい。識別値が所定の透過値差よりも大きい場合には、血液の存在が推定され得、一方、識別値が所定の透過値差よりも小さい場合には、血液の不在が推定され得る。
【0023】
識別値が決定され得る方法の第2の例に関して、それぞれの測定値は透過値であっても良く、識別値の決定は実際には主波長に関連する透過値の正規化であり、解析の可能な更なるステップにおいて、識別値は、血液の存在と血液の不在とを区別するように選択される所定の正規化された透過値と比較されても良いことに留意されたい。識別値が所定の透過値差よりも大きい場合には、血液の不在が推定され得、識別値が所定の透過値差よりも小さい場合には、血液の存在が推定され得る。
【0024】
識別値が決定され得る方法の第3の例に関して、それぞれの測定値は透過値であっても良く、識別値の決定は実際には波長に対して透過値をプロットするグラフの勾配の決定であり、解析の可能な更なるステップにおいて、識別値は、血液の存在と血液の不在とを区別するように選択される所定の勾配と比較されても良いことに留意されたい。識別値が所定の傾斜勾配よりも高い場合には、血液の存在が推定され得、識別値が所定の傾斜勾配よりも低い場合には、血液の不在が推定され得る。
【0025】
識別値が決定され得る方法の第4の例に関して、それぞれの測定値は透過値であっても良く、識別値の決定は実際には透過値合計に対する透過値の差の正規化であり、解析の可能な更なるステップにおいて、識別値は、血液の存在と血液の不在とを区別するように選択される所定の比率と比較されても良いことに留意されたい。識別値が所定の比率よりも高い場合には、血液の存在が推定され得、所定の比率よりも低い場合には、血液の不在が推定され得る。
【0026】
以上に説明したように、本発明の注目すべき態様は、限られた数の主波長及び限られた数の補助波長、恐らくは1つ又は2つ以下の主波長及び1つ又は2つ以下の補助波長に関連する測定値を処理することが、血液(実際には、血液のヘモグロビン又は血液の他の成分)を背景に対して弁別し、それによって試料が血液を含むか否かを判定するのに十分であると考えられるという事実である。その観点から、本発明によるシステムに関して存在する可能性のうちの2つは、以下の通りである:
-発光ユニットは、主波長及び補助波長のみで光を放出するように構成され、この場合、発光ユニットは、2つ以上のLEDを含むことが実用的であり得、LEDの一部は、主波長で光を放出するように構成され、LEDの別の部分は、補助波長で光を放出するように構成され、
-受光ユニットは、2つ以上のバンドパスフィルタ/光検出器の組み合わせを含み、1つ以上のバンドパスフィルタ/光検出器の組み合わせのバンドパスフィルタは、主波長の光のみを通過させるように構成され、1つ以上の他のバンドパスフィルタ/光検出器の組み合わせのバンドパスフィルタは、補助波長の光のみを通過させるように構成される。
【0027】
上述した可能性は、限られた数の波長のみに関連する測定値が解析される必要がある場合、そのような測定値のみを生成することで十分であり、それ以上は生成する必要がないこととなり得るという洞察に基づく。解析に必要な測定値のみを生成する利点は、安価で一般に入手可能な構成要素を適用できることである。
【0028】
実用的な実施例においては、本発明によるシステムは、識別値が、試料中の血液の存在を示す値の範囲内にあることが分かった場合、即ち、場合に関係なく、基準値より上又は下であることが分かった場合に、信号を発するように構成されたインジケータを備えても良い。該信号は、例えば可視信号及び/又は可聴信号であっても良い。一般的な意味では、本発明によるシステムは、解析ユニットによって決定され出力された、人の口内の歯肉の健康に関する情報を、その人自身及び/又は歯科医などの別の人であっても良い出力インターフェースのユーザに伝達するように構成された、出力インターフェースを備えても良い。情報の出力は、例えば、ユーザの電話上のアプリを介して、又は適切なディスプレイ上で行われても良い。出力インターフェースは、人間が処理可能な形態で、即ち人間の感覚の少なくとも1つによって検出され、人間の脳内で処理されて、出力インターフェースの出力を人間に認識させることができる形態で、出力を生成するよう構成される。人間が処理可能な出力の実用的な例としては、人間の視覚で検出可能な出力、人間の聴覚で検出可能な出力、触覚出力などがある。後者の例に関して、本発明が電動歯ブラシなどの口腔ケア器具の使用を含む場合、その機能ユニット(ヘッド)の運動の周波数及び/又は振幅を変化させることによって触覚出力を提供することができることに留意されたい。解析ユニットは、無線信号として情報信号を送信するように構成されても良く、この場合には、解析ユニット及び出力インターフェースは、何らかの方法で物理的に接続される必要はない。解析ユニットによって生成された情報が関心のあるものであり得る任意の人に情報信号を伝達するために、インターネットが使用されても良い。連続した解析動作の結果は、保存されても良く、時間傾向の評価を実行するために、更なる解析に供されても良い。
【0029】
種々の公知の装置及びオブジェクトが、本発明を実施することができ、それによって、人間の歯肉の健康の指標を提供することができるように調節されても良い。例えば、照明、撮像チップ、及びプロセッサを有するモバイル装置と、システムの解析ユニットがモバイル装置のプロセッサを備え、解析ユニットによって実行される少なくとも1つのアルゴリズムが、モバイル装置にインストールされたアプリによって定義される、システムのアセンブリが実現可能である。モバイル装置は、照明及び撮像チップを含んでも良く、その場合、システムの発光ユニットがモバイル装置の照明を含み、システムの受光ユニットがモバイル装置の撮像チップを含む場合、有利であり得る。少なくとも1つのアルゴリズムが定義されるアプリが、モバイル装置上ではなく、モバイル装置によってアクセス可能な遠隔サーバ上にインストールされる構成、又は、解析ユニットがモバイル装置の外部に配置される構成など、他の構成が可能であり、その場合、モバイル装置は、モバイル装置に測定データを解析ユニットに送信させるように設計されたアプリを有することができる。
【0030】
本発明を実施する別の可能性によれば、本発明によるシステムと、飲用グラスの底部、飲用グラスを保持するためのクレードル、及び口腔ケア器具のうちの1つと、のアセンブリが提供され、システムの少なくとも発光ユニット及び受光ユニットは、飲用グラスの底部、飲用グラスを保持するためのクレードル、及び口腔ケア器具のうちの1つに組み込まれる。飲用グラスの場合、試料の収集は、検査中の人に飲用グラス中に唾液を吐かせるだけで行われる。口腔ケア器具の場合、口腔ケア器具は、歯肉の健康状態が低下した場合又は不良の場合に歯肉から血液を放出させる口腔ケア動作を実行する工程と、口腔ケア動作中又は口腔ケア動作が行われた直後に収集された唾液を含有する試料中に血液が存在するかどうかを判定する工程と、の両方で使用されるように構成されても良い。第1のケースでは、口腔ケア器具の使用中にリアルタイムの歯肉健康指標を取得することが可能であり、また、口腔ケア器具の口腔に対する(部分)位置を追跡するための措置が講じられる場合には、人の口内の様々な位置に関する一連の局所的な指標を取得することが可能である。解析ユニットは、口腔ケア器具の外部に設けられても良く、この場合には、口腔ケア器具が、無線方式で及び/又は別の適切な方式で解析ユニットと通信するように設計された少なくとも1つのユニットを有することが有利である。
【0031】
本発明によるシステムと共に使用するように設計された口腔ケア器具は、口腔ケア器具の凹部として実現される人の唾液を含む試料を収容するための領域を有することが有利であり得る。このことは、人の口の中に人の唾液を含む試料を採取し、評価する可能性を提供し、このことは、該人が、定期的に行われる口腔ケアルーチンの間に、減少した又は不十分な歯肉の健康を患っているかどうかの指標を得る最適な方法である。
【0032】
本発明の上記及び他の態様は、本発明の理論的背景の態様の以下の詳細な説明及び本発明を実施するための多くの実際的な方法から明らかであり、そしてそれらを参照して解明される。
【0033】
本発明は、図面を参照してより詳細に説明され、図面において、同等の又は類似の部分は、同じ参照符号によって示される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図2】歯磨き粉-唾液混合物における血液の存在を検出するための試験装置の設定を示す。
【
図3】種々のヘモグロビン濃度を持つ歯磨き粉溶液の正規化された透過スペクトルを示す。
【
図4】本発明が拡散反射プローブにおいてどのように実現され得るかを示す。
【
図5】本発明は飲用グラスにおいてどのように実現され得るかを示す。
【
図6】本発明が口腔ケア器具においてどのように実現され得るかを示す。
【
図7】本発明が口腔ケア器具においてどのように実現され得るかを示す。
【
図8】本発明が口腔ケア器具においてどのように実現され得るかを示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、人の歯肉の健康状態の指標を提供する実用的な方法を提供する。本発明によれば、人の唾液を含む試料中の血液痕跡の存在は、光学的測定を実施し、測定の結果を解析することによって評価され、該工程において考慮される測定値の波長に関して適切な選択が行われる。
【0036】
本発明は特に、唾液を調査中である人が、(初期段階の)歯肉炎又は歯肉の健康に影響を及ぼす別の状態に罹患している可能性があることを示す指標を得る目的で、唾液又は歯磨き粉-唾液混合物中の血液痕跡を検出する方法を提供することを目的とする。この観点から、本発明は、ヘモグロビン吸収スペクトルにおける既知の吸収ピークに基づく光学的検出を使用することによって、低いヘモグロビン濃度を検出するための信頼できる方法を提供する。一般に知られているように、ヘモグロビンは血液の重要な成分である。
【0037】
図1は、ヘモグロビンの2つの吸収スペクトルを示し、参照番号11によって示されるスペクトルは、オキシヘモグロビン、即ち結合酸素を有するヘモグロビンに関連し、参照番号12によって示されるスペクトルは、脱酸素化ヘモグロビン、即ち結合酸素を有さないヘモグロビンに関連する。nmで表される光の波長はスペクトルのx軸であり、cm
-1で表される吸収係数はスペクトルのy軸である。この図から、幾つかの特定の高吸収波長範囲が存在することが分かる。特に、410乃至430nmの青色波長範囲は、ヘモグロビンの吸収係数の比較的高い値を含む。
【0038】
本発明の状況においては、唾液を含有する試料中に血液が存在するか否かをチェックすることで十分であり、試料中の血液の濃度を決定する必要はない。本発明は、血液の痕跡についてブラッシング又はフロッシングのような口腔ケア作用の間又は後に得られた唾液を含有する試料をチェックするために、唾液又は唾液と歯磨き粉との混合物の背景に対して血液を識別する方法を提供する。上述のように、410乃至430nmの波長範囲では、水の吸収係数は比較的低いことが知られている。水は唾液の主成分であるので、唾液の因子を考慮する必要はない。しかしながら、歯磨き粉の吸収特性は、410乃至430nmの波長範囲で得られる測定値の補正を必要とする因子を構成することが予想され得る。
【0039】
歯磨き粉の背景に対して血液を識別する可能性を調べるために、
図2に構成を示す試験装置を用いて試験を行った。
図2は、光源21と、コリメータ22と、スライドガラス24上に存在するものとして調査される試料23と、解析ユニット26に結合された光検出器25と、を図式的に示す。歯磨き粉と水を1:5の比率で混合した後、少量の人血液を混合物に添加した。5mlの歯磨き粉-唾液混合物中の約0.5μlの小さな血液滴の存在に匹敵する、極めて低い濃度でさえも血液の存在が見出され得るかどうかを試験するために、血液よりも10,000倍まで多い歯磨き粉及び水の希釈系列を作製した。歯磨き粉-唾液混合5mlの体積は、ブラッシング後に口腔内で終わる体積の一例とみなすことができる。10,000倍の希釈は、0.5μlは極めて小さい滴であり、人は通常、特に口腔ケア作用により口腔内の2つ以上のスポットが出血している場合、出血している歯肉からより多くの血液を失うので、最悪の場合のシナリオを代表するものとみなすことができる。
【0040】
図3は、唾液と特定のタイプの歯磨き粉との混合物についての透過率測定の結果の図を示す。この図は、血液を含まない試料及び5つの異なる希釈物についての透過スペクトルを示し、これらは全て、血液の寄与、即ち血液(ヘモグロビン)による光の吸収が低いと予想され得る波長である650nmの波長に正規化されている。nmで表される光の波長は、スペクトルのx軸にあり、正規化透過率、即ち650nm波長におけるその特定の希釈に関連する透過率値で割った特定の希釈に関連する透過率値の範囲は、スペクトルのy軸にある。5つの異なる希釈は、それぞれ、1:10,000、1:1,000、1:500、1:100、1:50の希釈である。
【0041】
図3の挿入図は、正規化透過率のピーク値、特に1以上の値の拡大図を示す。上端のグラフは、血液を全く含まない試料に関連する。典型的には410乃至430nmの範囲の波長に関連するピーク領域において、他の試料に関連する全ての正規化透過値は、血液を含まない試料に関連する正規化透過値よりも低い。1:10,000希釈の正規化透過値は、血液を含まない希釈の正規化透過値に対して約2%の透過の低下を表すようである。このことは、実際に唾液を含有する試料中の血液の有無を決定できることを意味する。
【0042】
実施された試験から、唾液と歯磨き粉の混合物中の血液(ヘモグロビン)の存在を検出すること、特に歯磨き粉に対して血液を識別することが非常に良好に可能であることがわかる。より高い波長値では、透過値は主に歯磨き粉の存在によって影響され、一方、血液吸収は非常に低く、一方、より低い波長値、特に410乃至430nmの範囲の値では、血液の寄与ははるかに有意である。特定のタイプの歯磨き粉が、血液と同じ範囲の波長で歯磨き粉が高度に吸収する色を有する場合、第3の波長で得られた第3の測定値が、更なる補正のために用いられても良い。
図1から、血液による光吸収の大幅な低下は、410乃至430nmの波長範囲よりも僅かに高い波長で存在することがわかる。全く同じ特性を有する歯磨き粉が存在する可能性は非常に低い。従って、血液と歯磨き粉との識別に関しては、血液に関連する測定値の大きな低下が予想される波長領域における特性を調べることが有用である。代替としては、測定の前に、水及び歯磨き剤のみを使用して較正ステップが実行されても良く、その場合、2つを超える波長からの透過値を使用する必要はない。
【0043】
全体として、試験から、歯磨き粉を含有する溶液中の少量の血液の検出を可能にするためには、単純な設定であっても十分であることがわかる。本発明は、歯磨き粉-唾液混合物中の、人間の目によって行うことができるよりもかなり低い血中濃度を検出する方法を提供し、従って、歯肉炎又は歯肉の健康に影響を及ぼす他の状態を、早期の可逆的段階で検出することを可能にする。検出は、通常の口腔ケアルーチンにできるだけ影響を及ぼさずに行うことができる。例えば、本発明が後述するように口腔ケア器具において実現される場合、唾液を含有する試料が自動的に採取され、自動的に光学解析を受けることさえ可能である。
【0044】
溶液を通るスペクトル透過を測定することに加えて、溶液の拡散反射特性を測定することも可能であることに留意されたい。このことは、反射率測定を実行することによって、シンク表面などの不透明なキャリア上に存在する唾液を含有するサンプルから、人の歯肉の健康の指標を得ることが可能になるため、有利である。そのような場合、調査されるべき人は、口腔ケア動作中のある時点で、又は口腔ケア動作が行われた直後に、シンクの中に唾液を吐き出す必要があるだけである。光吸収/透過値の測定及び光の2つ以上の所定の波長に関連するこれらの値の処理は、例えば、
図2に示されるような基本的な設定を有するツールによって行うことができ、光検出器25は、反射における光の測定を実行することを可能にするように、光源21及びコリメータ22として試料23と共にガラススライド24の同じ側に配置される。斯かるツールは、その目的のために特に設計されたツールであっても良いが、例えば、本明細において後に説明するように、スマートフォンであっても良く、その場合、感度の向上は、ベースライン測定を行うことによって、即ち最初に唾液/歯磨きのない清潔な背景の特性を測定することによって、達成することができる。
【0045】
以下に、本発明を実施するための幾つかの好適な方法を説明する。最初の2つの選択肢は、人の歯肉の健康を評価する際に使用するのに適した測定結果を得るための装置の拡散反射設定に関するものであり、このことは、前述のことから分かるように、唾液を含有する試料を収容するための別個の容器を必要とせず、その容器を使用することが可能であるという事実を変えないという利点を伴う。
【0046】
本発明の枠組み内に存在する第1の選択肢によれば、解析される試料23の照明のために、光源21に結合された照明スポットを含む、
図4に例示されているような拡散反射プローブ40が提供される。好適には、光源21は、周囲光を排除するように変調される。拡散反射プローブ40は更に、血液が試料23中に存在するか否かを判定し、人が歯肉の健康状態の低下又は不良に苦しむ可能性があるか否かを示す指標を提供するように構成された、解析ユニット26に連結された光検出器25を含む。図では、放射光と反射光の経路が矢印で示されている。スペクトル検出処理では、2つの波長がカバーされ、即ち、好適には410乃至430nmの範囲から選択される、ヘモグロビンの吸収を測定するための1つの主波長と、及び440乃至470nmの範囲の波長又は650nmより高い波長などの、ヘモグロビンの吸収がかなり少ないことが知られている範囲から選択される1つの補助波長と、がカバーされる。解析の1つのステップとして、補助波長反射を用いた主波長反射の正規化であっても良い、反射値の補正が実行される。このようにして、識別値が得られ、該識別値は、測定が試料23中の血液の存在を支持するかどうかを見るために評価される。プローブ40は、血液が検出されたと思われる場合に警告信号を発するための適切なインジケータを備えても良い。
【0047】
光検出器25は、種々の適切な方法で実現することができる。例えば、光検出器25は、2つのバンドパスフィルタ/検出器の組み合わせを有する。更に、光源21は、白熱灯又は蛍光体で変換された白色又はアンバーのLEDのような広帯域LEDを有しても良い。このような場合、青色ポンプ光は、主波長の光を提供し、一方、蛍光体変換されたLEDは、補助波長の光を提供する。代替例は、フォトダイオードのような1つの検出器及び2つの異なるLEDを使用することであり、一方のLEDは主波長で発光し、他方のLEDは補助波長で発光する。該2つのLED は、時間順次モードで使用されても良いし、又はLEDの異なる変調を同時に使用することもできる。各LEDに狭帯域バンドパスフィルタを供給することにより、感度を高めることができる。
【0048】
LEDのとり得る使用に関して、白色照明LEDの青色波長は通常、約440nmの値を有し、30nmのFWHM (半値幅)を有し得ることに、更に留意されたい。斯かる白色照明LEDが使用される場合に、440nmのすぐ下の範囲の主波長及び440nmのすぐ上の範囲の補助波長に基づく解析を依然として実行することができるようにするために、測定光が、照明LEDの青色波長に対して識別され得るようLEDを変調することが、実用的な可能性である。
【0049】
第2の選択肢によれば、スマートフォン又は他の携帯装置を使用して、シンク表面などに残っている歯磨き粉-唾液の画像を撮る。このような場合、補助波長は、スマートフォンの撮像チップからの赤又は緑のチャネルから取得することができ、赤のチャネルから補助波長を取得することが好ましいことに留意されたい。スマートフォンのカメラは鏡面反射を取得する可能性/傾向があるので、スマートフォンにクロス偏光子箔を備えることが有利である。このことは、想定どおりの解析を実行するために必要なスペクトル特性を含む拡散反射画像のみを確実に取るための実用的な方法である。感度を高めるために使用することができる別の(ことによると追加の)設定は、多重通過帯域光フィルタを適用することを含む。斯かるフィルタは、主波長及び補助波長の光のみを透過させ、スマートフォンの(フラッシュ) LED及びカメラレンズの上に配置するように設計されたアドオンに保持されることが好ましい。斯かるフィルタを使用することの付加的な利点は、周囲光がこのようにして大部分排除されるという事実である。
【0050】
本発明の枠組み内に存在する第3の選択肢によれば、透過的な設定が使用される。透過的な設定の利点は、より高い感度である。透過的な設定の欠点は、唾液を含有する試料を収集するための容器/担体が必要であることである。この場合の基本的な構成は、
図2に示されるようなものであっても良い。図に示すガラススライド24は、試料23を収容するための凹部を有する(使い捨ての)プラスチックスライドに置き換えることができる。プラスチックスライドは、光源21と、光検出器25と、血流検出を実行するための解析ユニット26とを含む測定及び解析装置に挿入することができる。完全を期すために、第1の選択肢に関して述べた光検出器25及び光源21の代替形態は、本発明の第3の選択肢にも同様に適用可能であることに留意されたい。
【0051】
プラスチックスライドは、様々な実施例に含まれ得る。スライドには、唾液をスライドの少なくとも1つのチャンバに輸送するための少なくとも1つの毛細管チャネルを設けることが可能である。このことは、測定及び解析装置にスライドを置く前にスライドを洗浄することを可能にする。あるいは、少なくとも1つのチャンバを有するスライドの部分のみが装置内に配置され、唾液で覆われたスライドの汚れた部分が装置から突出することを可能にし、その結果、洗浄動作が不要になるようにしても良い。
【0052】
本発明の枠組み内に存在する第4の選択肢によれば、
図5に例示されているように、単純な飲用グラス50は、グラス50の底部付近に光源21及び光検出器25を備えている。解析した歯磨き粉-唾液試料23を得るために、人はグラス50中に歯磨き粉-唾液泡を吐き出す。グラス50の周囲に配置された光源21からグラス50を通って入射した光は、図中の矢印で示すように、光検出器25に向かって泡の中に散乱される。変形例では、飲用グラス50を受けて支持するための別個のクレードルが使用され、光源21及び光検出器25がクレードル内に一体化される。
【0053】
本発明の枠内に存在する第5の選択肢によれば、口腔ケア装置は、唾液を含む試料中の血液トレースを検出する工程において、1つ以上の機能を実行するように構成される。この選択肢の例を
図6乃至8に示す。
図6には、動力歯ブラシのブラシヘッド部60が示されている。電力歯ブラシの状況において、歯磨き-唾液の泡は、電力歯ブラシの動作中に、房62間でブラシヘッド61上に自動的に集まることとなる。これに鑑み、ブラシヘッド61内の房62の位置に光学窓を設け、またブラシヘッド61内に光源と光検出器とを配置することで、反射測定が行えるようにすることが有利である。歯磨き粉-唾液の泡はまた、ブラシヘッド61の裏側に自動的に集まる。それ故、光学窓がブラシヘッド61の裏側に設けられている場合、実用的となり得る。更に別の可能性によれば、ブラシヘッド部60のネック部63には、ブラッシング動作中に歯磨き粉-唾液の泡を収集する目的で凹部64を設けることができる。このような凹部64は、
図7に示すように、光検出器25が光源21からの光路に配置され、歯磨き粉-唾液の泡23を通過する光を受光する位置にある場合、又は、
図8に示すように、光検出器25が光源21からの光路の外側に配置され、代わりに歯磨き粉-唾液の泡23によって反射された光を受光する位置にある場合に、透過測定によって血液トレースの存在を検出するために使用することができる。
【0054】
一般的に、口腔ケア装置は、装置の機能的なヘッド上、又はネック部若しくは本体部上のような、装置上の適切な位置に光学窓を有し、発光ユニット及び光学窓に関連する受光ユニットを有する可能性を包含する。光学ウィンドウは、説明したように、凹部の位置とすることができる、口腔ケア装置の使用中に唾液が蓄積する領域の位置に配置されることが実用的である。
【0055】
口腔ケア装置の場合においては、口腔ケア装置(の一部)の口腔に対する位置を追跡することができる。例えば、歯ブラシが使用される場合、ブラシヘッド61の実際の位置に関する情報は、適切な制御及び/又は検出手段に基づいて連続的に利用可能であり得る。本発明の状況では、斯かる情報は、口腔内の歯肉の健康の低下/不良の領域を許容可能/良好な歯肉の健康の領域と区別することができるように、局所レベルで歯肉の健康の徴候を得るために使用することができる。この点に関して、反射信号のゆっくりとした連続的な低下が希釈を意味し、信号の突然かつ迅速な低下が血液の放出によって引き起こされる(追加の)光学的吸収を意味すると仮定して、口腔ケア作用の間の反射の時間依存性を監視することが有利であり得ることに留意されたい。斯くして、口腔ケア装置から得られる信号の経時変化を監視することにより、血流の放出が引き起こされる瞬間を追跡することができる。位置情報と組み合わせて、このことは、口のなかの「ホットスポット」、即ち容易に出血するようにされ歯肉の健康状態が悪いと想定され得る領域を見つけるのに役立ち得る。
【0056】
歯ブラシ及び他の口腔ケア装置に関しては、本装置のクレードルが備えられ、解析ユニット26及び関連する出力インターフェースをクレードルに組み込むことが可能である。口腔ケア装置は、必ずしも、装置の使用中に人間の口に入れられることになっている装置の一部に配置された、光学ウィンドウと、関連する光源21と、光検出器25と、を有する必要はない。また、口腔ケア装置は、ハンドル部の底部に上述したような構成要素を備えることも可能であり、このケースでは、該装置は、表面に吐き出された唾液試料のスペクトル特性を検出するために使用するのに適している。
【0057】
本発明を実施するための口腔ケア装置を設計することは、口腔ケア行為中に人間の歯肉の健康を評価するための血液トレースの検出を自動的に行うことができる利点、又は追加のツールを必要とせずに最小限の追加の労力しか必要としないという利点を伴う。
【0058】
本発明の範囲は、以上に議論された例に限定されるものではなく、添付される請求項において定義された本発明の範囲から逸脱することなく、幾つかの修正及び変更が可能であることは、当業者には明らかであろう。本発明は、請求の範囲又はそれと同等のものに含まれる限りにおいて、斯かる修正及び変更の全てを含むものとして解釈されることを意図されている。本発明は図面及び記述において詳細に説明され記載されたが、斯かる説明及び記載は単に説明するもの又は例示的なものであって、限定するものではない。本発明は、開示された実施例に限定されるものではない。図面は模式的なものであり、本発明を理解するために必要ではない詳細は省かれており、必ずしも定縮尺で描かれていない。
【0059】
図面、説明及び添付される請求項を読むことにより、請求される本発明を実施化する当業者によって、開示された実施例に対する変形が理解され実行され得る。請求項において、「有する(comprising)」なる語は他のステップ又は要素を除外するものではなく、「1つの(a又はan)」なる不定冠詞は複数を除外するものではない。請求項におけるいずれの参照記号も、請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0060】
特定の実施例について又は特定の実施例に関連して議論された要素及び態様は、明示的に言及されない限り、他の実施例の要素及び態様と適切に組み合わせられ得る。従って、特定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実は、これら手段の組み合わせが有利に利用されることができないことを示すものではない。
【0061】
本明細において用いられる「有する(comprising)」なる語は、「から成る(consist of)」なる語をカバーするものとして、当業者には理解されるであろう。それ故、「有する」なる語は、或る実施例については「から成る」を意味し得るが、別の実施例においては「少なくとも定義された種及び任意に1つ以上の他の種を含む/包含する」を意味する。
【0062】
特許請求の範囲を含む本文の明確さ及び正確な解釈のために、光源又はフィルタのような装置に関して特定の波長値が言及される場合、このことは実際には許容範囲が適用可能であることを考慮して、その理論的意味ではなくその実際的意味について理解されるべきであることに留意されたい。
【0063】
本分野から知られているように、吸収分光法の文脈では、吸収スペクトル及び透過スペクトルは同様の情報を表し、一方は他方から計算することができる。透過スペクトルのピークは、吸収が最小である波長に存在し、吸収スペクトルのピークは、透過が最小である波長に存在する。
【0064】
本文では、一方では光吸収が高い又は比較的高い、他方では低い又は比較的低いと表記することは、一方の光吸収が他方の光吸収よりも著しく高いことを意味する。吸収スペクトルに関して、より高い又は比較的高い光吸収は、スペクトルのピークに関連し、一方、より低い又は比較的低い光吸収は、スペクトルの谷に関連する。
【0065】
本発明の概要は、以下のようになり得る。口腔ケアの動作中または動作後に得られる唾液または流体-唾液混合物の光学的解析が、唾液または流体-唾液混合物が血液を含有するかどうかをチェックするために実行され、人が歯肉炎または歯肉の健康に影響を及ぼす別の状態に罹患しているかどうかを決定することを可能にする。特に、唾液を含有する代表試料から受けた光が検出され解析される。該解析は、光の1つ以上の主波長(限られた数の主波長)及び光の1つ以上の補助波長(限られた数の補助波長)について、受光ユニットによって受けられた光の測定値の決定を含む。有利にも、主波長は高いヘモグロビン吸収に関連し、補助波長は低いヘモグロビン吸収に関連する。補助波長での測定値は、背景の影響について主波長における測定値を補正するために使用される。