IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社グツドマンの特許一覧

<>
  • 特許-バルーンカテーテル 図1
  • 特許-バルーンカテーテル 図2
  • 特許-バルーンカテーテル 図3
  • 特許-バルーンカテーテル 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】バルーンカテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/10 20130101AFI20231003BHJP
   A61B 17/22 20060101ALI20231003BHJP
   A61B 17/3207 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
A61M25/10 510
A61B17/22
A61B17/3207
A61M25/10 512
A61M25/10 550
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021528219
(86)(22)【出願日】2020-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2020023416
(87)【国際公開番号】W WO2020255923
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2019115743
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】393015324
【氏名又は名称】株式会社グッドマン
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】岡本 光正
(72)【発明者】
【氏名】太田 光浩
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】大原 匡人
(72)【発明者】
【氏名】堀場 啓太郎
(72)【発明者】
【氏名】國定 嵩
【審査官】田中 玲子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-529658(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204042(WO,A1)
【文献】特表2005-518842(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第2487400(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/10
A61B 17/22
A61B 17/3207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側に膨張及び収縮可能なバルーンを備え、
前記バルーンは、所定の厚みを有する膜部により形成され、
前記バルーンの外表面には前記バルーンの軸線方向に線状に延び、前記膜部と一体形成された線状部が設けられ、
前記線状部には、その長さ方向の途中位置に、前記長さ方向に対して交差する方向に開口する凹状の切り欠き部が形成され
前記膜部には、前記切り欠き部に対応する位置に前記バルーンの内周側に隆起した隆起部が形成され、
前記切り欠き部に対応する位置では、前記隆起部により前記膜部の厚みが大きくされていることを特徴とするバルーンカテーテル。
【請求項2】
前記切り欠き部は、前記線状部の長さを略等分する位置に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のバルーンカテーテル。
【請求項3】
前記切り欠き部は、その幅が当該切り欠き部の底部に向かうにつれて小さくなっていることを特徴とする請求項1又は2に記載のバルーンカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年6月21日に出願された日本出願番号2019-115743号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、バルーンカテーテルに関する。
【背景技術】
【0003】
従来から、PTA(経皮的血管形成術)やPTCA(経皮的冠動脈形成術)といった治療等においては、バルーンカテーテルが用いられている。バルーンカテーテルは、その先端側に膨張及び収縮可能なバルーンを備えている。バルーンカテーテルでは、血管内に生じた病変部等により狭窄又は閉塞された箇所にバルーンを収縮状態で導入し、その後、そのバルーンを膨張させることで当該箇所の拡張を行うものとなっている。
【0004】
バルーンカテーテルには、バルーンの外表面に軸線方向に延びる線状のエレメントが設けられたものがある(例えば特許文献1参照)。かかるバルーンカテーテルでは、病変部においてバルーンを膨張させた際に、エレメントにより病変部に切り込みを入れることが可能となっている。そのため、病変部を拡張させ易くすることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-112361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、バルーンカテーテルを血管内に導入する際には、その途中でバルーンが屈曲血管を通過する場合がある。ここで、上述したエレメントを有するバルーンカテーテルでは、バルーンが屈曲血管を通過する際に、エレメントが突っ張ってバルーンが屈曲血管に対して上手く追従しないことが考えられる。その場合、バルーンを体内に導入する際の抵抗が大きくなる等して、導入作業が大変になるおそれがある。
【0007】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、体内に導入する際の操作性の低下を抑制することができるバルーンカテーテルを提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、第1の開示のバルーンカテーテルは、先端側に膨張及び収縮可能なバルーンを備え、そのバルーンの外表面には前記バルーンの軸線方向に線状に延びる線状部が設けられ、前記線状部には、その長さ方向の途中位置に、前記長さ方向に対して交差する方向に開口する凹状の切り欠き部が形成されている。
【0009】
本開示によれば、バルーンの外表面に軸線方向に延びる線状部が設けられ、その線状部には長さ方向の途中に切り欠き部が形成されている。この場合、その切り欠き部を起点に線状部を曲がり易くすることができるため、バルーンを屈曲血管に通過させる際に、線状部が突っ張ってバルーンの追従性が低下するのを抑制することができる。これにより、バルーンを体内に導入する際の操作性の低下を抑制することができる。
【0010】
第2の開示のバルーンカテーテルは、第1の開示において、前記線状部は前記バルーンと一体形成されているか、又は前記バルーンの外表面に固定されている。
【0011】
本開示によれば、線状部がバルーンと一体形成されているか、又はバルーンの外表面に固定されているため、バルーンを膨張させた際、線状部がバルーンに対して位置ずれすることがない。そのため、バルーンを膨張させて線状部により病変部に切り込みを入れる際、好適に切り込みを入れることが可能となる。ただ、このような構成では、バルーンを屈曲血管に通過させる際に、線状部がより突っ張り易くなることが想定される。このため、屈曲血管に対する追従性が大きく低下し、バルーンを体内に導入する作業がより困難になることが考えられる。この点、本開示では、こうした構成に上記第1の開示を適用しているため、かかる構成においてもバルーンを体内に導入する際の操作性低下を好適に抑制することができる。
【0012】
第3の開示のバルーンカテーテルは、第1又は第2の開示において、前記切り欠き部は、前記線状部の長さを略等分する位置に形成されている。
【0013】
本開示によれば、切り欠き部が線状部の長さを等分する位置に形成されているため、線状部を好適に曲がり易くすることができる。これにより、屈曲血管に対する追従性の低下をより一層抑制することができる。
【0014】
第4の開示のバルーンカテーテルは、第1乃至第3のいずれかの開示において、前記切り欠き部は、その幅が当該切り欠き部の底部に向かうにつれて小さくなっている。
【0015】
本開示によれば、切り欠き部が設けられている箇所でバルーンカテーテルの剛性が局所的に変化するのを抑制することができる。そのため、当該箇所においてバルーンカテーテルにキンクが発生するのを抑制しながら、上記第1の開示の効果を得ることができる。
【0016】
第5の開示のバルーンカテーテルは、第1乃至第4のいずれかの開示において、前記バルーンは、所定の厚みを有する膜部により形成され、前記線状部は、前記膜部と一体形成され、前記膜部には、前記切り欠き部に対応する位置に前記バルーンの内周側に隆起した隆起部が形成されている。
【0017】
本開示によれば、バルーンを形成する膜部に線状部が一体形成されている。こうした構成では、屈曲血管へのバルーン導入時に、バルーン(換言すると膜部)が線状部の切り欠き部を起点として追従変形する際、膜部において切り欠き部に対応する箇所に上記追従変形に伴う応力が集中し易いと考えられる。そのため、当該箇所において膜部に伸びが生じる等の不都合が生じることが懸念される。
【0018】
そこで、本開示では、このような点に鑑み、膜部において線状部の切り欠き部に対応する位置にバルーンの内周側に隆起した隆起部を形成している。この場合、切り欠き部が設けられている箇所では膜部の厚みが大きくされるため、膜部の強度を高めることが可能となる。そのため、上述した不都合が発生するのを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本開示についての上記目的およびその他の目的、特徴や利点は、添付の図面を参照しながら下記の詳細な記述により、より明確になる。
図1】バルーンカテーテルの構成を示す概略全体側面図。
図2】膨張状態におけるバルーン及びその周辺の側面図であり、バルーン及び外側チューブを縦断面の状態で示している。
図3】(a)が膨張状態におけるバルーン及びその周辺の構成を示す側面図であり、(b)が(a)のA-A線断面図であり、(c)が(a)のB-B線断面図である。
図4】(a)が収縮状態におけるバルーン及びその周辺の構成を示す側面図であり、(b)が(a)のC-C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、バルーンカテーテルの一実施の形態を図面に基づいて説明する。先ず図1を参照しながらバルーンカテーテル10の概略構成を説明する。図1はバルーンカテーテル10の構成を示す概略全体側面図である。
【0021】
図1に示すように、バルーンカテーテル10は、カテーテル本体11と、カテーテル本体11の基端部(近位端部)に取り付けられたハブ12と、カテーテル本体11の先端側(遠位端側)に取り付けられたバルーン13とを備えている。
【0022】
カテーテル本体11は、外側チューブ15と、外側チューブ15の内部に挿通された内側チューブ16とを備える。外側チューブ15は、樹脂材料により形成され、例えばポリアミドエラストマにより形成されている。外側チューブ15は、その基端部がハブ12に接合され、その先端部がバルーン13に接合されている。また、外側チューブ15は、その内部に軸線方向全域に亘って延びる内腔15a(図2参照)を有している。この内腔15aは、ハブ12内に通じているとともにバルーン13内に通じている。
【0023】
なお、外側チューブ15は、軸線方向に並ぶ複数のチューブが互いに接合されることで形成されていてもよい。この場合、例えば、各チューブのうち、基端側のチューブをNi―Ti合金やステンレス等の金属材料により形成し、先端側のチューブをポリアミドエラストマ等の樹脂材料により形成することが考えられる。
【0024】
内側チューブ16は、樹脂材料により形成され、例えばポリアミドエラストマにより形成されている。内側チューブ16は、その内部に軸線方向全域に亘って延びる内腔16a(図2参照)を有している。内側チューブ16は、その基端部が外側チューブ15における軸線方向の途中位置に接合され、その先端側の一部が外側チューブ15よりも先端側に延出している。そして、内側チューブ16において上記延出された領域を外側から覆うようにバルーン13が設けられている。
【0025】
外側チューブ15の内腔15aは、バルーン13を膨張又は収縮させる際に圧縮流体が流通する流体用ルーメンとして機能する。また、内側チューブ16の内腔16aは、ガイドワイヤGが挿通されるガイドワイヤ用ルーメンとして機能する。内腔16aの基端開口21はバルーンカテーテル10の軸線方向の途中位置に存在している。そのため、本バルーンカテーテル10は所謂RX型のカテーテルとされている。なお、内腔16aの基端開口21はバルーンカテーテル10の基端部にあってもよく、その場合、バルーンカテーテル10は所謂オーバー・ザ・ワイヤ型のカテーテルとされる。
【0026】
次に、バルーン13及びその周辺の構成について図2図4に基づいて説明する。図2は、膨張状態におけるバルーン13及びその周辺の側面図であり、バルーン13及び外側チューブ15を縦断面の状態で示している。図3は(a)が膨張状態におけるバルーン13及びその周辺の構成を示す側面図であり、(b)が(a)のA-A線断面図であり、(c)が(a)のB-B線断面図である。図4は(a)が収縮状態におけるバルーン13及びその周辺の構成を示す側面図であり、(b)が(a)のC-C線断面図である。
【0027】
バルーン13は、上述したように、内側チューブ16において外側チューブ15よりも先端側に延出した延出領域を外側から覆うようにして設けられている。バルーン13は、図2及び図3(a)に示すように、その基端部が外側チューブ15の先端部に接合され、その先端部が内側チューブ16の先端側に接合されている。
【0028】
バルーン13は、熱可塑性のポリアミドエラストマにより形成されている。但し、流体の供給及び排出に伴ってバルーン13が良好に膨張及び収縮可能であれば、バルーン13はポリアミドエラストマ以外の熱可塑性樹脂により形成されてもよい。例えばポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドエラストマ、シリコンゴムなどにより形成されてもよい。
【0029】
バルーン13は、所定の厚みを有する膜部29により形成されている。バルーン13は、カテーテル本体11に対して接合される両端の接合部と、それら接合部の間に設けられ膨張及び収縮を行う膨張収縮部とを有している。具体的には、バルーン13は、外側チューブ15の先端部に接合される基端側レッグ領域13aと、先端側に向けてバルーン13の内径及び外径が連続的に拡径されるようにテーパ状をなす基端側コーン領域13bと、長さ方向の全体に亘って内径及び外径が同一でありバルーン13の最大外径領域をなす直管領域13cと、先端側に向けてバルーン13の内径及び外径が連続的に縮径されるようにテーパ状をなす先端側コーン領域13dと、内側チューブ16の先端側に接合される先端側レッグ領域13eとを、基端側からこの順で有している。この場合、基端側コーン領域13b、直管領域13c及び先端側コーン領域13dにより膨張収縮部が構成され、基端側レッグ領域13aと先端側レッグ領域13eとがそれぞれ接合部となっている。
【0030】
バルーン13は、外側チューブ15の内腔15aを通じて圧縮流体が当該バルーン13内に供給されると膨張状態となり、内腔15aに対して陰圧が付与されて圧縮流体が当該バルーン13内から排出されると収縮状態となる。図4(a)及び(b)に示すように、バルーン13は、その収縮状態において形成される複数(本実施形態では3つ)の羽25を備えている。これら各羽25は、バルーン13の周方向に所定の間隔(詳しくは等間隔)で設けられている。各羽25は、バルーン13の膨張収縮部において軸線方向に延びるように形成されている。この場合、各羽25は、基端側コーン領域13b、直管領域13c及び先端側コーン領域13dに跨がって延びている。バルーン13が収縮状態になると、これらの羽25がそれぞれバルーン13の周方向に折り畳まれて、内側チューブ16の周囲に巻き付いた状態となる。
【0031】
なお、内側チューブ16においてバルーン13の内側には一対の造影環23が取り付けられている。造影環23は、X線投影下においてバルーン13の視認性を向上させ、目的とする治療箇所へのバルーン13の位置決めを容易に行うためのものである。
【0032】
バルーン13の外表面には、バルーン13の軸線方向に沿って線状に延びる線状部30が設けられている。線状部30は、バルーン13の外表面から突出して設けられている。線状部30は、バルーン13を膨張させることで病変部を拡張する際に、その病変部に切り込みを入れるためのものである。本バルーンカテーテル10では、病変部が石灰化等して硬くなっている場合でも、線状部30により病変部に切り込みを入れることで、その切り込みをきっかけとして病変部を破壊等して拡張させ易くすることが可能となっている。したがって、本バルーンカテーテル10は、いわゆるカッティングバルーンカテーテル(スコアリングバルーンカテーテルともいう)として構成されている。
【0033】
図2図3(a)及び図3(b)に示すように、線状部30は、バルーン13の直管領域13cに設けられている。線状部30は、膜部29の外表面(つまり直管領域13cの外表面)に沿ってバルーン13の軸線方向に延びており、詳しくは直管領域13cにおける軸線方向の全域に亘って連続して延びている。線状部30は、バルーン13の周方向において所定の間隔(詳しくは等間隔)で複数配置され、本実施形態では3つの線状部30が120°間隔で配置されている。また、これら各線状部30は、膜部29(つまりバルーン13)と一体形成されている。なお、本実施形態では、これら各線状部30がいずれも同じ構成とされている。
【0034】
各線状部30はいずれも、その横断面(詳しくは線状部30の長さ方向と直交する断面)が三角形状をなしている。線状部30は、その一の頂部30aがバルーン13の外周側(径方向外側)に突出する向きで配置されている。なお、線状部30は、必ずしも横断面で三角形状をなしている必要はなく、横断面で半円形状や四角形状等その他の形状をなしていてもよい。
【0035】
バルーン13の収縮状態においては、上述したように、バルーン13の膨張収縮部(直管領域13c及び各コーン領域13b,13d)に複数の羽25が形成され、これらの羽25がバルーン13の周方向に折り畳まれた状態となる。この場合、図4(a)及び(b)に示すように、直管領域13cの各線状部30は羽25と1対1の関係で設けられ、それぞれ羽25の折り畳みの内側に配置される。これにより、バルーン13の収縮状態では、各線状部30が羽25により外側から覆われた状態となり、詳しくは各線状部30の全体が羽25により覆われた状態となる。
【0036】
ここで、本バルーンカテーテル10では、各線状部30にそれぞれ切り欠き部31が設けられている。本バルーンカテーテル10では、この点に特徴を有しており、以下においてはその特徴的構成について説明する。
【0037】
各線状部30にはそれぞれ、その長さ方向の途中位置に切り欠き部31が形成されている。切り欠き部31は、各線状部30にそれぞれ所定の間隔で複数(具体的には2つ)ずつ形成されている。詳しくは、切り欠き部31は、各線状部30において、線状部30の長さを略3等分する位置にそれぞれ形成されている。したがって、各線状部30では、その線状部30の長さ方向(換言するとバルーン13の軸線方向)における切り欠き部31の位置関係がいずれも同じとなっている。このため、各線状部30の切り欠き部31はバルーン13の周方向に並んで配置されている。なお、本実施形態では、各線状部30の切り欠き部31がいずれも同じ構成となっている。
【0038】
また、切り欠き部31は、線状部30の長さを略3等分する位置にのみ形成されており、それ以外の位置には形成されていない。このため、線状部30は、その突出高さ(詳しくは膜部29の外表面からの突出高さ)が、切り欠き部31が形成されていない範囲ではその全域に亘って一定の高さとされており、切り欠き部31が形成されている箇所では上記一定の高さよりも小さくされている。なお、線状部30の突出高さは、切り欠き部31の底部31bが形成されている箇所で最小となる。つまり、線状部30は切り欠き部31の底部31bにおいても上記最小の突出高さで存在しており、そのため、線状部30は切り欠き部31を挟んだ両側に跨がって連続して形成されている。
【0039】
切り欠き部31は、線状部30の長さ方向と交差する方向(詳しくは直交する方向)に開口する凹状に形成されている。詳しくは、切り欠き部31は、バルーン13の外表面とは反対側(換言するとバルーン13の径方向の外側)に開口する凹状に形成されている。切り欠き部31は、線状部30をバルーン13の周方向に貫通しており、その周方向の両側においてそれぞれ開口されている。切り欠き部31は、その形状が三角形状とされており、詳しくはバルーン13の周方向から見て三角形状とされている。また、本実施形態では、切り欠き部31の形状が略正三角形状とされている。
【0040】
切り欠き部31において互いに対向する各側面部31a、すなわち線状部30の長さ方向に対向する各側面部31aは切り欠き部31の底部31bに向けて互いに近づくよう線状部30の長さ方向に対して傾斜している。これにより、線状部30の長さ方向における各側面部31aの間の距離、すなわち切り欠き部31の幅Wは切り欠き部31の底部31bに向かうにつれ連続的に小さくなっている。
【0041】
図3(c)に示すように、バルーン13の膜部29には、各切り欠き部31に対応する位置にそれぞれバルーン13の内周側(内側)に隆起した隆起部35が形成されている。各隆起部35は、膜部29の厚み方向に切り欠き部31と並んで配置されている。これにより、各切り欠き部31に対応する位置では膜部29の厚みが隆起部35により大きくされている。隆起部35は、バルーン13の内周側に凸となる曲面状をなしており、バルーン13の内周側から見ると略円形状をなしている。また、隆起部35は、バルーン13の軸線方向の長さと周方向の長さとがいずれも切り欠き部31の最大幅(詳しくは切り欠き部31においてバルーン13の外周面とは反対側に開口する開口部分の幅)と略同じとされているか又はそれよりも大きくされている。
【0042】
次に、バルーン13を製造する際の製造方法について簡単に説明する。
【0043】
まず押出成形により、バルーン13の元となる管状パリソンを作製する。管状パリソンは、円管状に形成され、その外周面には軸線方向に延びる突条部が形成されている。突条部は、その横断面が三角形状をなしており、管状パリソンの周方向に等間隔で複数(具体的には3つ)形成されている。
【0044】
続いて、管状パリソンを長さ方向に延伸させた後、バルーン13の形状に対応した収容空間を有する金型を用いて、所定の条件下でブロー成形を行う。金型には、各突条部を収容する溝部が形成されている。溝部には、その長さ方向における一部に溝深さが小さくされた溝浅部が設けられている。溝浅部は、溝部の長さを三等分する位置にそれぞれ設けられている。
【0045】
ブロー成形に際しては、金型の各溝部にそれぞれ各突条部を収容した状態で管状パリソンを収容空間にセットし、そのセット状態でブロー成形を行う。このブロー成形に際しては、管状パリソンを金型内(収容空間)において加熱膨張させる。このブロー成形により、管状パリソンは2軸延伸された状態となり、また各突条部はそれぞれ線状部30として形成される。そして、突条部において浅溝部に配置された箇所には切り欠き部31が形成される。その後、延伸された管状パリソンの両端を切断することでバルーン13の製造が完了する。
【0046】
以上が、バルーン13の製造方法についての説明である。なお、バルーン13の製造方法は必ずしも上記の方法に限らず、他の製造方法を採用してもよい。
【0047】
次に、バルーンカテーテル10の使用方法について説明する。ここでは、血管内に生じた病変部をバルーンカテーテル10を用いて拡張させる場合の手順について説明する。
【0048】
先ず血管内に挿入されたシースイントロディーサにガイディングカテーテルを挿通し、ガイディングカテーテルの先端開口部を冠動脈入口部まで導入する。次いで、ガイドワイヤGをガイディングカテーテルに挿通し、その挿通したガイドワイヤGを冠動脈入口部から病変部を経て抹消部位まで導入する。
【0049】
続いて、ガイドワイヤGに沿わせてバルーンカテーテル10をガイディングカテーテルに導入する。導入後、押引操作を加えながらバルーン13を病変部へ向けて導入(配置)する。なお、この導入に際しては、バルーン13を収縮状態としておく。
【0050】
ここで、バルーン13を病変部へ導入する際には、その導入途中においてバルーン13が屈曲血管を通過する場合が考えられる。この場合、本バルーン13では、線状部30に切り欠き部31が設けられているため、線状部30が切り欠き部31を起点として曲がり易くなっている。そのため、バルーン13を屈曲血管に通過させる際に、線状部30が突っ張ってバルーン13の追従性が低下するのを抑制することが可能となっている。これにより、バルーン13を病変部へ向けて導入するに際し、操作性の低下を抑制することが可能となっている。
【0051】
バルーン13が病変部に到達したら、バルーン13を膨張させる。これにより、線状部30が病変部に押し付けられ、その線状部30により病変部に切り込み(ひび)が入れられる。このため、その切り込みをきっかけとして病変部を破壊等することで、病変部を外側に拡張させることが可能となる。
【0052】
バルーン13による病変部の拡張が終了した後、バルーン13を収縮状態とする。そして、その収縮状態でバルーンカテーテル10を体内から引き抜く。これにより、一連の作業が終了する。
【0053】
なお、バルーンカテーテル10は上記のように主として血管内を通されて、例えば冠状動脈、大腿動脈、肺動脈などの血管を治療するために用いられるが、血管以外の尿管や消化管などの生体内の「管」や、「体腔」にも適用可能である。
【0054】
以上、詳述した本実施形態の構成によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0055】
線状部30がバルーン13(膜部29)と一体形成されている構成では、バルーン13を膨張させた際、線状部30がバルーン13に対して位置ずれすることがない。そのため、バルーン13を膨張させて線状部30により病変部に切り込みを入れる際、好適に切り込みを入れることが可能となる。ただ、このような構成では、バルーン13を屈曲血管に通過させる際に、線状部30がより突っ張り易くなることが想定される。そのため、屈曲血管に対する追従性が大きく低下し、バルーン13の導入作業がより困難になるおそれがある。この点、上記の実施形態では、こうした構成において、線状部30に切り欠き部31を設けているため、かかる構成であってもバルーン13を体内に導入する際の操作性低下を好適に抑制することが可能となる。
【0056】
複数(n個)の切り欠き部31が線状部30の長さを略等分(n+1等分)する位置にそれぞれ形成されている。具体的には、2つ(n=2)の切り欠き部31が線状部30の長さを略3等分する位置にそれぞれ形成されている。この場合、線状部30を好適に曲がり易くすることができるため、屈曲血管に対する追従性の低下をより一層抑制することができる。
【0057】
切り欠き部31の幅Wが切り欠き部31の底部31bに向かうにつれて小さくなっているため、切り欠き部31が設けられている箇所でバルーンカテーテル10の剛性が局所的に変化するのを抑制することができる。そのため、当該箇所においてバルーンカテーテル10にキンクが発生するのを抑制しながら、切り欠き部31により奏する上述した各効果を得ることができる。
【0058】
バルーン13を形成する膜部29に線状部30が一体形成されている構成では、屈曲血管へのバルーン13の導入時に、バルーン13(換言すると膜部29)が線状部30の切り欠き部31を起点として追従変形する際、膜部29において切り欠き部31に対応する箇所に上記追従変形に伴う応力が集中し易いと考えられる。そのため、当該箇所において膜部29に伸びが生じる等の不都合が生じることが懸念される。
【0059】
そこで、上記の実施形態では、このような点に鑑み、膜部29において線状部30の切り欠き部31に対応する位置にバルーン13の内周側に隆起した隆起部35を形成している。この場合、切り欠き部31が設けられている箇所では膜部29の厚みが大きくされるため、膜部29の強度を高めることが可能となる。そのため、上述した不都合が発生するのを抑制することが可能となる。
【0060】
また、膜部29の厚みを一様(全体的)に大きくすることによっても、上述の効果を得ることは可能であるが、その場合、バルーン13の柔軟性が大きく損なわれてしまうおそれがある。その点、上記のように、膜部29において切り欠き部31に対応する位置に(のみ)隆起部35を形成する構成によれば、バルーン13の柔軟性が大きく損なわれるのを抑制しながら、上述の効果を得ることが可能となる。
【0061】
本開示は上記実施形態に限らず、例えば次のように実施されてもよい。
【0062】
・上記実施形態では、切り欠き部31の形状を三角形状としたが、切り欠き部31の形状を半円形状としたり、四角形状としたりする等、他の形状としてもよい。
【0063】
・上記実施形態では、切り欠き部31をバルーン13の外周面とは反対側に開口する凹状に形成したが、切り欠き部をバルーン13の周方向に開口する凹状に形成してもよい。この場合、線状部30に、切り欠き部として、バルーン13の周方向における一方側に開口する第1切り欠き部と、他方側に開口する第2切り欠き部とのうちいずれか一方だけを設けるようにしてもよいし、又は両方を設けるようにしてもよい。例えば、線状部30に第1切り欠き部及び第2切り欠き部の両方を設ける場合、それら各切り欠き部を線状部30の長さ方向の同じ位置に設けるようにしてもよい。この場合、第1切り欠き部と第2切り欠き部とが互いに反対側に開口するように設けられることになる。
【0064】
・上記実施形態では、切り欠き部31を線状部30に2つ形成したが、切り欠き部31を線状部30に3つ以上形成してもよい。また、切り欠き部31を線状部30に1つだけ形成するようにしてもよい。これらの場合にも、各切り欠き部31を線状部30の長さを等分する位置にそれぞれ形成するのが望ましい。つまり、切り欠き部31を3つ形成する場合には、それらの切り欠き部31を線状部30の長さを略4等分する位置にそれぞれ形成するのが望ましい。また、切り欠き部31を1つだけ形成する場合には、切り欠き部31を線状部30の長さを略2等分する位置、つまり線状部30の略中央位置に形成するのが望ましい。
【0065】
また、切り欠き部31は必ずしも線状部30の長さを等分する位置に形成する必要はない。例えば、切り欠き部31を1つだけ形成する場合に、その切り欠き部31を線状部30の中央部より基端側に形成したり、先端側に形成したりしてもよい。
【0066】
・上記実施形態では、線状部30をバルーン13と一体形成したが、線状部をバルーン13と別体で形成し、その線状部をバルーン13の外表面に熱溶着や接着等により固定するようにてもよい。この場合にも、線状部に切り欠きを設けることで、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0067】
・線状部をバルーン13と別体で形成し、その線状部をバルーン13の外表面に非固定の状態で設けるようにしてもよい。具体的には、この場合、線状部を弾性を有する樹脂材料により形成し、バルーン13の外周側においてバルーン13を軸線方向に跨ぐように設けるようにする。この際、線状部は、その基端部を外側チューブ15に接合し、その先端部を内側チューブ16の先端部に接合する。かかる構成では、バルーン13を膨張させた際に、バルーン13の外表面上に線状部が軸線方向に延びるように配置される。この際、線状部はバルーン13の外表面上において突出して配置されるため、かかる構成においても、バルーン13を膨張させた際、線状部により病変部に切り込みを入れることが可能となる。そして、かかる構成においても、線状部に切り欠きを設けることで、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0068】
・上記実施形態では、線状部30をバルーン13の直管領域13cに(のみ)設けたが、線状部30を直管領域13cに加え、基端側コーン領域13b及び先端側コーン領域13dにそれぞれ跨がるよう設けてもよい。この場合、線状部30をそれら各領域13b~13dの外表面に沿って軸線方向に連続して延びるよう形成することになる。また、この場合、線状部30をそれら各領域13b~13dにおける軸線方向の全域に亘って連続して設けるようにしてもよい。
【0069】
また、線状部30を直管領域13cに加え、基端側コーン領域13b及び先端側コーン領域13dのうちいずれか一方に跨がるよう設けてもよい。
【0070】
・上記実施形態では、線状部30を病変部に切り込みを入れるために用いたが、線状部30を他の目的で用いてもよい。例えば、バルーン13を血管内で膨張させることにより線状部30を血管壁に食い込ませ、それによりバルーン13が滑ってしまうのを防止する滑り止めとして用いてもよい。
【0071】
本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0072】
10…バルーンカテーテル、13…バルーン、13c…直管領域、29…膜部、30…線状部、31…切り欠き部、35…隆起部。
図1
図2
図3
図4