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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/48 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
D06M11/48
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021542764
(86)(22)【出願日】2020-08-17
(86)【国際出願番号】 JP2020031020
(87)【国際公開番号】W WO2021039474
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2019158937
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 文人
(72)【発明者】
【氏名】寺田 暁
(72)【発明者】
【氏名】狩野 真啓
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-201563(JP,A)
【文献】特開2006-307383(JP,A)
【文献】国際公開第2006/049025(WO,A1)
【文献】特開2009-119189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00 - 9/04
D03D 1/00 - 27/18
D04B 1/00 - 1/28
D04B 21/00 - 21/20
D04H 1/00 - 18/04
D06M 10/00 - 16/00
D06M 19/00 - 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性編織物、又は不織布であって、
前記赤外線吸収性顔料が、
一般式M (1)
{式(1)中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y、及びzは、それぞれ正の数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}
で表される複合タングステン酸化物、並びに
一般式W (2)
{式(2)中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}
で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物
から成る群から選択される1種以上を含み、
赤外線吸収性顔料を含まない編織物又は不織布に、前記赤外線吸収性顔料を付着させることによって製造されたものであり、
前記赤外線吸収性顔料の含有量が、前記赤外線吸収性編織物又は不織布の面積当たり、0.05g/m 以上0.21g/m 以下であり、
CIE1976色空間におけるLが30以上90以下であり、かつ、
前記赤外線吸収性編織物、又は不織布と、前記赤外線吸収性編織物、又は不織布が前記赤外線吸収性顔料を含まないときとの、CIE1976色空間における色差ΔEが10以下である、
赤外線吸収性編織物、又は不織布。
【請求項2】
前記赤外線吸収性顔料を含まない編織物又は不織布に、前記赤外線吸収性顔料を付着させることが、
前記赤外線吸収性顔料を含まない編織物又は不織布に、前記赤外線吸収性顔料を含む塗工液を塗布することである、
請求項1に記載の赤外線吸収性編織物、又は不織布。
【請求項3】
防寒衣料用である、請求項1又は2に記載の赤外線吸収性編織物、又は不織布。
【請求項4】
請求項のいずれか一項に記載の赤外線吸収性編織物又は不織布から構成されている、赤外線吸収性衣類。
【請求項5】
請求項のいずれか一項に記載の赤外線吸収性編織物又は不織布、及び赤外線吸収性顔料を含まない編織物又は不織布から構成されており、
前記赤外線吸収性顔料を含まない編織物又は不織布は、前記赤外線吸収性編織物又は不織布から前記赤外線吸収性顔料を除いた構成を有する、
赤外線吸収性衣類。
【請求項6】
防寒衣料である、請求項4又は5に記載の赤外線吸収性衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
光を吸収して発熱する性質を有する繊維製品は、公知である。例えば、カーボンブラック等の赤外線吸収性顔料は、赤外線を吸収して発熱する性質を有するため、これを繊維に練り込み、又は塗布することにより、発熱性繊維が得られる。
【0003】
しかし、赤外線吸収性顔料としてカーボンブラックを含む繊維は、カーボンブラックの黒色のために色調が極端に暗くなって、明るい色調の意匠を適用できない問題がある。
【0004】
この点、特許文献1には、赤外線吸収性顔料として、Cs0.33WOに代表される複合タングステン酸化物微粒子を含有する繊維であって、当該微粒子の含有量が当該繊維の固形分に対して、0.001~80重量%である赤外線吸収性繊維が記載されている。
【0005】
複合タングステン酸化物は、カーボンブラックの黒色と比較すると、色調が明るい。そのため、複合タングステン酸化物含有の繊維製品は、カーボンブラック含有の繊維製品に比べて、意匠面での自由度が大きい利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-132042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
複合タングステン酸化物、例えばCs0.33WO(以下、CsWOという)は、可視光下で視認可能な淡青緑色を呈し、明るい色調の繊維製品に適用した場合には、得られる繊維製品の色調が変更される場合がある。
【0008】
一般に、発熱性の防寒衣料では、衣料の全部を発熱性繊維製品で構成する必要はなく、衣料のうちの、発熱が防寒性に寄与する程度の大きい部分のみに発熱性繊維製品を用い、他の部分は通常の繊維製品で構成される。このとき、発熱性繊維製品として、CsWOを含む繊維製品と用いると、CsWOを含む部分と、CsWOを含まない部分とで色調の差が生じ、意匠上の問題が生じる場合がある。この傾向は、目的の衣料の色調が特に明るい場合に顕著である。
【0009】
また、特許文献1によると、赤外線吸収性繊維中のCsWO含有量として、当該繊維の固形分に対して0.001~80重量%と、無闇に広い範囲が提示されており、防寒衣料としたときの発熱性が不十分な場合、及び過剰な場合を包含している。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものである。したがって、本発明の目的は、赤外線吸収性顔料を含有し、赤外線を吸収して発熱する性質を有する繊維、編織物、又は不織布であって、防寒衣料等の衣料品に適用したときに、好ましい意匠性を提供することができる、繊維、編織物、又は不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決する本発明は、以下のとおりである。
【0012】
《態様1》赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布であって、
CIE1976色空間におけるLが30以上であり、かつ、
前記赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布と、前記赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布が前記赤外線吸収性顔料を含まないときとの、CIE1976色空間における色差ΔEが10以下である、
赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布。
《態様2》CIE1976色空間における前記Lが90超であり、かつ、下記(i)~(iv)のうちの少なくとも1つを満たす、態様1に記載の赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布:
(i)CIE1976色空間におけるaが-10以下であること、
(ii)CIE1976色空間におけるaが10以上であること、
(iii)CIE1976色空間におけるbが-10以下であること、及び
(iv)CIE1976色空間におけるbが10以上であること。
《態様3》CIE1976色空間における前記Lが90以下である、態様1に記載の赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布。
《態様4》前記赤外線吸収性顔料の含有量が、
前記赤外線吸収性繊維については、前記赤外線吸収性繊維の全質量を基準として、0.01質量%以上0.50質量%以下であり、
前記赤外線吸収性編織物又は不織布については、前記赤外線吸収性編織物又は不織布の面積当たり、0.05g/m以上0.50g/m以下である、
態様1~3のいずれか一項に記載の赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布。
《態様5》前記赤外線吸収性顔料が、
一般式M (1)
{式(1)中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y、及びzは、それぞれ正の数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}
で表される複合タングステン酸化物、並びに
一般式W (2)
{式(2)中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}
で表される、マグネリ相を有するタングステン酸化物
から成る群から選択される1種以上を含む、態様1~4のいずれか一項に記載の赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布。
《態様6》態様1~5のいずれか一項に記載の赤外線吸収性繊維。
《態様7》態様6に記載の赤外線吸収性繊維から構成されている、赤外線吸収性編織物又は不織布。
《態様8》態様6に記載の赤外線吸収性繊維、及び赤外線吸収性顔料を含まない繊維から構成されており、
前記赤外線吸収性顔料を含まない繊維は、前記赤外線吸収性繊維から前記赤外線吸収性顔料を除いた構成を有する、
赤外線吸収性編織物又は不織布。
《態様9》態様1~5のいずれか一項に記載の赤外線吸収性編織物又は不織布。
《態様10》赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性繊維から構成されている、態様9に記載の赤外線吸収性編織物又は不織布。
《態様11》赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性繊維、及び赤外線吸収性顔料を含まない繊維から構成されており、
前記赤外線吸収性顔料を含まない繊維は、前記赤外線吸収性繊維から前記赤外線吸収性顔料を除いた構成を有する、
態様9に記載の赤外線吸収性編織物又は不織布。
《態様12》態様7~11のいずれか一項に記載の赤外線吸収性編織物又は不織布から構成されている、赤外線吸収性衣類。
《態様13》態様7~11のいずれか一項に記載の赤外線吸収性編織物又は不織布、及び赤外線吸収性顔料を含まない編織物又は不織布から構成されており、
前記赤外線吸収性顔料を含まない編織物又は不織布は、前記赤外線吸収性編織物又は不織布から前記赤外線吸収性顔料を除いた構成を有する、
赤外線吸収性衣類。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、赤外線吸収性顔料を含有し、赤外線を吸収して発熱する性質を有する繊維、編織物、又は不織布であって、防寒衣料等の衣料品に適用したときに、好ましい意匠性を提供することができる、繊維、編織物、又は不織布が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布は、
赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布であって、
CIE1976色空間におけるLが30以上であり、かつ、
前記赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布と、前記赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布が前記赤外線吸収性顔料を含まないときとの、CIE1976色空間における色差ΔEが10以下である。
【0015】
本発明の赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布は、更に、
CIE1976色空間におけるLが90超であり、かつ、下記(i)~(iv)のうちの少なくとも1つを満たす、赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布であってもよい:
(i)CIE1976色空間におけるaが-10以下であること、
(ii)CIE1976色空間におけるaが10以上であること、
(iii)CIE1976色空間におけるbが-10以下であること、及び
(iv)CIE1976色空間におけるbが10以上であること。
【0016】
本発明の赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布は、或いは、
CIE1976色空間におけるLが90以下である、
赤外線吸収性繊維、編織物、又は不織布であってもよい。
【0017】
本明細書において、「編織物」とは、布帛(織物)及びニット(編物)の双方を含む概念である。「不織布」とは、繊維を絡み合わせたシート状物を意味し、織物及び編物を含まない概念である。以下、繊維と編織物と不織布とをまとめて、「繊維製品」ということがある。
【0018】
本明細書においては、また、赤外線吸収性繊維製品の、CIE1976色空間におけるLが30以上であることを「L要件」ということがあり、赤外線吸収性繊維製品と、該赤外線吸収性繊維製品が前記赤外線吸収性顔料を含まないときとの、CIE1976色空間における色差ΔEが10以下であることを「ΔE要件」ということがある。
【0019】
なお、色差ΔEは、赤外線吸収性繊維製品のCIE1976色空間における色を(L,a,b)とし、該赤外線吸収性繊維製品が赤外線吸収性顔料を含まないときのCIE1976色空間における色を(L ,a ,b )としたときに、下記数式で表される値である。
ΔE={(L-L +(a-a +(b-b 1/2
【0020】
本発明者らは、本発明の課題を解決するために、
赤外線吸収性顔料を含まないときの繊維製品の色調と、
赤外線吸収性繊維製品に含まれる赤外線吸収性顔料の量と、
所定量の赤外線吸収性顔料を含むときの繊維製品の色調の変化と、
所定量の赤外線吸収性顔料を含むときの繊維製品の発熱性と
の関係を詳細に検討した。
【0021】
その結果、以下のことが分かった:
(1)暗い色調の繊維製品では、赤外線吸収性顔料を含まないときと、含むときとの繊維製品の色調の変化が、そもそも問題にならないほど小さいこと、
(2)明るい色調の繊維製品のうち、特に明るい色では、彩度の小さい繊維製品の方が、彩度の大きい色鮮やかな繊維製品よりも、赤外線吸収性顔料を含むことによる色調の変化を目視で識別し易いこと、及び
(3)明るい色調の繊維製品が、色調の変化を識別し難い範囲で赤外線吸収性顔料を含むことによって、防寒衣料として快適な発熱性を発揮すること。
【0022】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものである。
【0023】
本発明の赤外線吸収性繊維製品において、CIE1976色空間におけるLが30以上である場合、有意の量の赤外線吸収性顔料を含むことによって、色調の変化が問題になり得る程度に、繊維製品の色調が明るい。したがって、有意の量の赤外線吸収性顔料を含んでいても、色調の変化が識別し難い、Lが30未満の暗い色調の繊維製品は、本発明の範囲から除外される。
【0024】
本発明の赤外線吸収性繊維製品において、赤外線吸収性顔料を含むときと、含まないときとの、CIE1976色空間における色差ΔEが10以下であるとは、当該繊維製品が、色調の変化を識別し難い範囲で赤外線吸収性顔料を含んでいることを示す。この要件を満たす繊維製品は、防寒衣料として快適な発熱性を有することができるのに併せて、赤外線吸収性顔料を含有しない部分との色調の差を小さくし、それによって好ましい意匠性を発揮することができる。
【0025】
本発明の赤外線吸収性繊維製品の色調の明るさが特に大きい場合には、赤外線吸収性顔料を含むことによって、繊維製品の色調の変化を目視で識別し易くなっている。このことに鑑みると、繊維製品の色調の明るさが特に大きい場合には、彩度が大きい方が、色調の変化の目視による識別を困難化する観点から有利である。したがって、本発明の赤外線吸収性繊維製品の明るさが特に大きい場合、例えば、CIE1976色空間におけるLが90超である場合には、下記の要件(i)~(iv):
(i)CIE1976色空間におけるaが-10以下であること、
(ii)CIE1976色空間におけるaが10以上であること、
(iii)CIE1976色空間におけるbが-10以下であること、及び
(iv)CIE1976色空間におけるbが10以上であること
のうちの少なくとも1つを満たすことが好ましい。
【0026】
一方、本発明の赤外線吸収性繊維製品の明るさが特に大きくはない場合、例えば、CIE1976色空間におけるLが90以下である場合には、赤外線吸収性顔料を含むことによる色調の変化が、特に目視で識別し易いとの事情はない。したがってこの場合には、a又はbの値にかかわりなく、本発明を好適に適応することができる。
【0027】
CIE1976色空間における、繊維製品のL、a、及びbは、後述の実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0028】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0029】
《赤外線吸収性繊維製品》
本発明の赤外線吸収性繊維製品は、
赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性繊維製品であって、
CIE1976色空間におけるLが30以上であり、かつ、
赤外線吸収性繊維製品と、赤外線吸収性繊維製品が赤外線吸収性顔料を含まないときとの、CIE1976色空間における色差ΔEが10以下である。
【0030】
本発明の赤外線吸収性繊維製品は、
CIE1976色空間におけるLが90超であり、かつ、下記(i)~(iv)のうちの少なくとも1つを満たす、赤外線吸収性繊維製品であってもよい:
(i)CIE1976色空間におけるaが-10以下であること、
(ii)CIE1976色空間におけるaが10以上であること、
(iii)CIE1976色空間におけるbが-10以下であること、及び
(iv)CIE1976色空間におけるbが10以上であること。
【0031】
本発明の赤外線吸収性繊維製品は、或いは、
CIE1976色空間におけるLが90以下である、
赤外線吸収性繊維製品であってもよい。
【0032】
赤外線吸収性繊維製品と、赤外線吸収性繊維製品が前記赤外線吸収性顔料を含まないときとの、CIE1976色空間における色差ΔEは、10以下である。両者間のΔEが10以下であれば、繊維製品が赤外線吸収性顔料を含むことによる色調の変化を、目視で識別することが困難となる。ΔEの値は、9以下、8以下、6以下、5以下、又は4以下であってもよい。また、ΔEの値は、0以上、0超、0.5以上、1以上、2以上、又は3以上であってよい。
【0033】
赤外線吸収性繊維製品において、CIE1976色空間におけるLが90超であるとき、すなわち、繊維製品の色調が特に明るいときであっても、上記(i)~(iv)のうちの少なくとも1つを満たせば、繊維製品が赤外線吸収性顔料を含むことによる色調の変化を、目視で識別することを困難とすることができる。Lが90超であるとき、色調変化の目視識別をより困難にする観点から、色差ΔEは、5以下、4.5以下、4以下、3.5以下、又は3以下であってよく、0以上、0超、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、又は0.5以上であってよい。
【0034】
しかしながら、Lが90超であるとき、色調変化の目視識別の困難性を確実にしようとすると、当該繊維製品中の赤外線吸収性顔料の含有量が制限され、発熱性が制限されることがある。この観点からは、赤外線吸収性繊維製品のCIE1976色空間におけるLは、90以下であってよい。
【0035】
このLは、繊維製品の所望の色調に応じて、上述の範囲で適宜に設定されており、例えば、赤系統の色調を有する繊維製品の場合、Lは、90以下であり、80以下、70以下、60以下、又は50以下であってよい。黄系統の色調を有する繊維製品の場合、Lは、90以下であり、89以下、88以下、87以下、又は86以下であってよい。青系統の色調を有する繊維製品の場合、Lは、90以下であり、80以下、60以下、又は40以下であってよい。
【0036】
が90以下であっても、繊維製品の色調が比較的明るいとき、例えば、Lが80超のときには、色調変化の目視識別の困難性を確実にするためには、色差ΔEを、8以下、7以下、6以下、又は5以下としてよい。一方、Lが80以下のときには、色差ΔEが10以下であれば、色調変化の目視識別は極めて困難となる。
【0037】
〈繊維〉
本発明の赤外線吸収性繊維製品は、繊維及び赤外線吸収性顔料を含む。
【0038】
本発明の赤外線吸収性繊維製品における繊維は、例えば、合成繊維、半合成繊維、天然繊維、生成繊維、無機繊維等、及びこれらのうちの複数種類から構成される混合糸等の中なら適宜に選択されてよい。赤外線吸収性顔料の分散性、繊維製品の保温特性等を考慮すると、これらのうち、合成繊維が好ましい。
【0039】
本発明における合成繊維としては、例えば、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、アクリル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリエーテルエステル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維等が挙げられ、これらのうちから適宜選択して用いてよい。
【0040】
ポリエステル系繊維は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の繊維であってよい。
【0041】
ポリオレフィン系繊維は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の繊維であってよい。
【0042】
アクリル系繊維は、例えば、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル/塩化ビニル共重合体等から成る繊維であってよい。
【0043】
ポリアミド系繊維は、例えば、ナイロン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、アラミド等から成る繊維であってよい。
【0044】
本発明の繊維は、任意の形状の断面を有していてよい。例えば、円形、多角形、偏平状、中空状、Y形、星形、芯鞘形等であってよい。
【0045】
本発明の繊維は、短繊維であっても長繊維であってもよい。
【0046】
〈赤外線吸収性顔料〉
本発明の赤外線吸収性繊維製品における赤外線吸収性顔料は、赤外線、好ましくは近赤外線を吸収し、熱を発する性質を有するとともに、色調が明るく、本発明の赤外線吸収性繊維製品の意匠面での自由度を、過度に損なわないものであることが好ましい。
【0047】
このような赤外線吸収性顔料としては、例えば、
一般式M (1)
{式(1)中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y、及びzは、それぞれ正の数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}
で表される複合タングステン酸化物、
一般式W (2)
{式(2)中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}
で表される、マグネリ相を有するタングステン酸化物
等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を適宜選択して用いてよい。
【0048】
ここで、アルカリ金属元素とは、水素原子を除く周期律表第1族元素である。アルカリ土類金属元素とは、Be及びMgを除く周期律表第2族元素である。希土類元素とは、Sc、Y、及びタンタノイド元素である。
【0049】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、元素Mを含む。そのため、自由電子が生成され、この自由電子由来の吸収帯が近赤外波長領域に発現されるため、波長1,000nm付近の近赤外線を吸収して発熱する材料として、好適である。
【0050】
元素Mの添加量を示すx/yの値が0超であれば、十分な量の自由電子が生成され近赤外線吸収効果を十分に得ることができる。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、近赤外線吸収効果も上昇するが、x/yの値が1程度で飽和する。x/yの値が1以下であれば、微粒子含有層中における不純物相の生成を回避できるので好ましい。x/yの値は、0.001以上、0.2以上又は0.30以上であることが好ましく、この値は、0.85以下、0.5以下又は0.35以下であることが好ましい。x/yの値は、理想的には0.33である。
【0051】
特に、一般式(1)における元素Mが、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、及びSnのうちの1種以上である場合、近赤外線吸収性材料としての光学特性、及び耐候性が向上する観点から好ましく、MがCsである場合、特に好ましい。
【0052】
Cs(0.25≦x/y≦0.35、2.2≦z/Y≦3.0)の場合には、格子定数が、a軸は7.4060Å以上7.4082Å以下、かつc軸は7.6106Å以上7.6149Å以下であることが、近赤外領域の光学特性及び耐候性の面から好ましい。
【0053】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、六方晶の結晶構造を有するか、又は六方晶の結晶構造から成るとき、赤外線吸収性材料微粒子の可視光波長領域の透過が向上し、かつ近赤外光波長領域の吸収が向上するので好ましい。六方晶の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光波長領域の透過が向上し、近赤外光波長領域の吸収が向上する。ここで、一般には、イオン半径の大きな元素Mを添加したときに、六方晶が形成される。具体的には、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Fe等のイオン半径の大きい元素を添加したときに、六方晶が形成され易い。しかしながら、これらの元素に限定されるものではなく、これらの元素以外の元素でも、WO単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すればよい。
【0054】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、より好ましくは0.30以上0.35以下であり、理想的には0.33である。x/yの値が0.33となることにより、添加元素Mが、六角形の空隙のすべてに配置されると考えられる。
【0055】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物が、シランカップリング剤で処理されていると、分散性、近赤外線吸収性及び可視光波長領域における透明性に優れるので好ましい。
【0056】
一般式(2)で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物において、z/yの値が2.45≦z/y≦2.999の関係を満たす組成比を有する所謂「マグネリ相」は、化学的に安定であり、近赤外光波長領域の吸収特性も良いので、近赤外線吸収材料として好ましい。
【0057】
一般式(1)及び(2)において、z/yの値は、酸素量の制御の水準を示す。一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、z/yの値が2.2≦z/y≦3.0の関係を満たすので、一般式(2)で表されるタングステン酸化物と同じ酸素制御機構が働くことに加えて、z/y=3.0の場合でさえも元素Mの添加による自由電子の供給がある。一般式(1)において、z/yの値が2.45≦z/y≦3.0の関係を満たすことがより好ましい。
【0058】
なお、本発明における複合タングステン酸化物及びタングステン酸化物の製造時に使用する原料化合物に由来して、当該複合タングステン酸化物及びタングステン酸化物を構成する酸素原子の一部が、ハロゲン原子に置換されている場合がある。しかし、このことは、本発明の実施において問題はない。そこで、本発明における複合タングステン酸化物及びタングステン酸化物には、酸素原子の一部がハロゲン原子に置換している場合も含まれる。
【0059】
本発明における赤外線吸収性顔料は、近赤外光波長領域、特に波長1,000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調が青色系から緑色系となる場合が多い。しかしながらこの発色は淡いため、当該赤外線吸収性顔料を含む本発明の赤外線吸収性繊維製品は、防寒衣料等の衣料品に適用したときに、好ましい意匠性を提供することができる。
【0060】
本発明の赤外線吸収性繊維製品における赤外線吸収性顔料の含有量については、後述する。
【0061】
〈赤外線吸収性繊維〉
本発明の赤外線吸収性繊維製品は、赤外線吸収性繊維を包含する。
【0062】
したがって、本発明の赤外線吸収性繊維は、
赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性繊維であって、
CIE1976色空間におけるLが30以上であり、かつ、
赤外線吸収性繊維と、赤外線吸収性繊維が赤外線吸収性顔料を含まないときとの、CIE1976色空間における色差ΔEが10以下である。
【0063】
本明細書において、繊維の色調は、当該繊維を平織り又はトリコット生地にした状態で、測定されてよい。
【0064】
本発明の赤外線吸収性繊維における赤外線吸収性顔料の含有量は、赤外線吸収性繊維の全質量を基準として、0.01質量%以上0.50質量%以下であってよい。
【0065】
本発明所定のΔE要件を満たしつつ、快適な発熱性を実現するために好適な赤外線吸収性顔料の含有量は、赤外線吸収性繊維の全質量を基準として、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.10質量%以上、又は0.15質量%以上であってよく、0.50質量%以下、0.40質量%以下、0.30質量%以下、又は0.20質量%以下であってよい。
【0066】
〈赤外線吸収性繊維の製造方法〉
本発明の赤外線吸収性繊維は、公知の適宜の方法、又はこれに当業者による適宜の変更を加えた方法によって、製造されてよい。
【0067】
本発明の赤外線吸収性繊維は、例えば、
(1)合成繊維の原料ポリマーに、赤外線吸収性顔料を直接配合して紡糸する方法;
(2)合成繊維の原料ポリマー中に、赤外線吸収性顔料を高濃度で配合したマスターバッチを製造しておき、該マスターバッチと、赤外線吸収性顔料を含まない希釈ポリマーとを混合して紡糸する方法;
(3)合成繊維の原料ポリマーを含むドープ溶液中に赤外線吸収性顔料を配合して紡糸する方法;
(4)赤外線吸収性顔料を含まない繊維の表面及び内部の少なくとも一方に、赤外線吸収性顔料を付着させる方法
等の方法によって製造されてよい。
【0068】
上記の製造方法(1)、(2)、及び(3)における紡糸は、適当な溶剤を用いる湿式紡糸であっても、溶融紡糸等の乾式紡糸であってよい。
【0069】
本発明の赤外線吸収性繊維は、所望の色調を発現するために、適宜の顔料、染料等の着色剤を含んでいてよい。この着色剤は、赤外線吸収性繊維の製造工程の、任意の時点で添加されてよい。
【0070】
〈赤外線吸収性繊維の適用〉
本発明の赤外線吸収性繊維を用いて、例えば、赤外線吸収性編織物又は不織布に適用されてよい。
【0071】
この赤外線吸収性編織物又は不織布は、本発明の赤外線吸収性繊維のみから構成されていてもよいし、或いは、本発明の赤外線吸収性繊維と、その他の繊維とから構成されていてもよい。ここで、その他の繊維は、赤外線吸収性顔料を含むが、本発明所定のL要件及びΔE要件のうちの少なくとも一方を満たさない繊維であってもよいし、赤外線吸収性顔料を含まない繊維であってもよい。
【0072】
しかしながら、衣料品に適用したときに、好ましい意匠性を提供するという本発明の趣旨を全うするためには、その他の繊維としては、本発明の赤外線吸収性繊維から赤外線吸収性顔料を除いた構成を有するものを用いることが好ましい。
【0073】
すなわち、本発明の赤外線吸収性繊維を用いて構成される赤外線吸収性編織物又は不織布は、
本発明の赤外線吸収性繊維のみから構成されているか、又は
本発明の赤外線吸収性繊維と、この赤外線吸収性繊維から赤外線吸収性顔料を除いた構成を有する繊維とから構成されている
ことが好適である。
【0074】
本発明の赤外線吸収性繊維が本発明所定のL要件及びΔE要件の双方を満たしていればよく、本発明の赤外線吸収性繊維を用いて構成される赤外線吸収性編織物又は不織布は、編織物又は不織布の全体として、本発明所定のL要件及びΔE要件の双方を満たしていてもよいし、これらのうちの少なくとも一方を満たしていなくてもよい。
【0075】
本発明の赤外線吸収性繊維を用いて構成される赤外線吸収性編織物又は不織布は、例えば、
平織り、繻子織り、綾降り等の織物であってもよいし;
くさり編み、こま編み、うね編み、長編み、中長編み、引き抜き編み、トリコット等の編物(ニット)であってもよいし;
乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、ステッチボンド法、スチームジェット法等の適宜の方法で製造された不織布であってもよい。
【0076】
〈赤外線吸収性編織物又は不織布〉
本発明の赤外線吸収性繊維製品は、赤外線吸収性編織物又は不織布を包含する。以下、編織物と不織布とをまとめて、「編織物等」ということがある。
【0077】
本発明の赤外線吸収性編織物等は、
赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性編織物等であって、
CIE1976色空間におけるLが30以上であり、かつ、
赤外線吸収性編織物等と、当該赤外線吸収性編織物等が赤外線吸収性顔料を含まないときとの、CIE1976色空間における色差ΔEが10以下である。
【0078】
本発明の赤外線吸収性編織物等における赤外線吸収性顔料の含有量は、赤外線吸収性編織物等の面積当たり、0.05g/m以上0.50g/m以下であってよい。
【0079】
本発明所定のΔE要件を満たしつつ、快適な発熱性を実現するために好適な赤外線吸収性顔料の含有量は、赤外線吸収性編織物等の色調によって異なる場合がある。明るい暖色系の色調、例えば、赤系及び黄系の色調の編織物等の場合、L値が比較的大きく、編織物等が赤外線吸収性顔料を含むことによる色調の変化が、目視で識別し易い傾向にある。そのため、ΔE要件を満たすための赤外線吸収性顔料の含有量は、上限値に限界がある。この場合、赤外線吸収性顔料の面積当たりの含有量は、快適な発熱性を実現するためには、0.01g/m以上、0.03g/m以上、0.05g/m以上、0.06g/m以上、0.08g/m以上、0.10g/m以上、又は0.12g/m以上であってよく、ΔE要件の充足を確実化するためには、0.50g/m以下、0.40g/m以下、0.30g/m以下、0.25g/m以下、又は0.20g/m以下であってよい。
【0080】
色調が特に明るく、例えば、L値が80超、又は90超の場合には、赤外線吸収性顔料の面積当たりの含有量は、色調変化の目視識別性をより困難にする観点から、0.30g/m以下、0.25g/m以下、0.20g/m以下、0.15g/m以下、0.12g/m以下、又は0.10g/m以下であってよい。
【0081】
一方、暗めの寒色系の色調、例えば、青系の色調の編織物等の場合、L値が比較的小さく、編織物等が赤外線吸収性顔料を含むことによる色調の変化が、目視で識別し難い傾向にある。そのため、赤外線吸収性顔料を比較的多く含んでも、ΔE要件を満たし易い傾向にある。この場合、快適な発熱性を実現するためには、0.05g/m以上、0.06g/m以上、0.08g/m以上、0.10g/m以上、又は0.12g/m以上であってよく、ΔE要件の充足を確実化するためには、0.50g/m以下、0.48g/m以下、0.46g/m以下、0.44g/m以下、0.42g/m以下、又は0.40g/m以下であってよい。
【0082】
〈赤外線吸収性編織物等の構成〉
本発明の赤外線吸収性編織物等は、赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性繊維のみから構成されていてもよいし、或いは、赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性繊維と、赤外線吸収性顔料を含まない繊維とから構成されていてもよい。ここで、赤外線吸収性顔料を含まない繊維は、赤外線吸収性繊維から赤外線吸収性顔料を除いた構成を有するものであってもよいし、これとは別の素材から成るものであってもよい。
【0083】
しかしながら、衣料品に適用したときに、好ましい意匠性を提供するという本発明の趣旨を全うするためには、赤外線吸収性顔料を含まない繊維としては、赤外線吸収性繊維から赤外線吸収性顔料を除いた構成を有するものを用いることが好ましい。
【0084】
すなわち、本発明の赤外線吸収性編織物等は、
赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性繊維のみから構成されているか、又は
赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性繊維と、この赤外線吸収性繊維から赤外線吸収性顔料を除いた構成を有する繊維とから構成されている
ことが好適である。
【0085】
本発明の赤外線吸収性編織物等は、編織物等の全体として、本発明所定のL要件及びΔE要件の双方を満たしていればよく、該赤外線吸収性編織物等を構成する繊維は、本発明所定のL要件及びΔE要件の双方を満たしていてもよいし、これらのうちの少なくとも一方を満たしていなくてもよい。
【0086】
本発明の赤外線吸収性編織物等は、上記の繊維を用いて構成されており、例えば、
平織り、繻子織り、綾降り等の織物であってもよいし;
くさり編み、こま編み、うね編み、長編み、中長編み、引き抜き編み、トリコット等の編物(ニット)であってもよいし;
フリース形成法(例えば、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法等)、フリース結合法(例えば、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、ステッチボンド法、スチームジェット法等)等の適宜の手段で製造された不織布であってもよい。
【0087】
〈赤外線吸収性の編織物の製造方法〉
本発明の赤外線吸収性編織物は、公知の適宜の方法、又はこれに当業者による適宜の変更を加えた方法によって、製造されてよい。
【0088】
本発明の赤外線吸収性編織物は、例えば、
(1)赤外線吸収性繊維の編加工によって、編物を得る方法;
(2)赤外線吸収性繊維、又は赤外線吸収性繊維と赤外線吸収性顔料を含まない繊維の製織によって、織物を得る方法;
(3)赤外線吸収性繊維、又は赤外線吸収性繊維と赤外線吸収性顔料を含まない繊維を用いて、フリース形成法、フリース結合法等の適宜の手段によって、不織布を得る方法;
(4)赤外線吸収性顔料を含まない編織物等に、赤外線吸収性顔料を含む塗工液を塗布する方法;
等の方法によって製造されてよい。
【0089】
(4)の方法に用いる塗工液は、例えば、赤外線吸収性顔料と、適当な溶媒とを含むことができる他、必要に応じて、赤外線吸収性顔料と編織物等との接着性を改善するために、バインダーポリマー等を更に含んでよい。
【0090】
本発明の赤外線吸収性編織物等は、所望の色調を発現するために、適宜の顔料、染料等の着色剤を含んでいてよい。この着色剤は、赤外線吸収性編織物等の製造工程の、任意の時点で適用されてよい。特に、塗工液を用いる(3)の方法では、塗工液中に着色剤を含有させてもよい。
【0091】
《赤外線吸収性衣類》
本発明は、更に、赤外線吸収性衣類を提供する。
【0092】
本発明の赤外線吸収性衣類は、本発明の赤外線吸収性繊維から構成されている赤外線吸収性編織物等、及び本発明の赤外線吸収性編織物等を含んでいてよい。
【0093】
本発明の赤外線吸収性衣類は、上記のような赤外線吸収性編織物等のみから構成されていてもよいし、赤外線吸収性編織物等と、赤外線吸収性顔料を含まない編織物等とから構成されていてもよい。
【0094】
赤外線吸収性顔料を含まない編織物等は、赤外線吸収性編織物等から赤外線吸収性顔料を除いた構成を有するものであってもよいし、これとは別の素材から成るものであってもよい。
【0095】
しかしながら、好ましい意匠性を提供するという本発明の趣旨を全うするためには、赤外線吸収性顔料を含まない編織物等としては、赤外線吸収性編織物等から赤外線吸収性顔料を除いた構成を有するものを用いることが好ましい。
【0096】
すなわち、本発明の赤外線吸収性衣類は、
赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性編織物等のみから構成されているか、又は
赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性編織物等と、この赤外線吸収性編織物等から赤外線吸収性顔料を除いた構成を有する編織物等とから構成されている
ことが好適である。
【0097】
本発明の赤外線吸収性衣類は、上記のような編織物等を用いて、公知の方法によって製造されてよい。
【実施例
【0098】
1.赤外線吸収性編織物
以下の実施例及び比較例において、試料調製用には、以下の原料を用いた。
【0099】
〈赤外線吸収性顔料〉
(セシウム酸化タングステン)
住友金属鉱山(株)製、「YMS-01A-2」、Cs0.33WO25重量%、及び溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含有する分散液
【0100】
以下、上記の赤外線吸収性顔料Cs0.33WOを「CsWO」といい、該CsWO及び溶媒を含有する分散液を「CsWO分散液」という。
【0101】
(アンチモンドープ酸化スズ)
石原産業(株)製、「ATO」、固形分100重量%
【0102】
(カーボンブラック)
CABOT社製、ファーネスブラック「R400R」、固形分100重量%
【0103】
〈バインダーポリマー〉
大日精化工業(株)製、ウレタン系樹脂溶液「レザミンME-44ELPNS」、固形分30重量%
【0104】
〈色インキ〉
赤:(株)セイコーアドバンス製、「MRJ RX02 510アメリカンレッド」、固形分37重量%
黄:(株)セイコーアドバンス製、「MRJ RX02 NC200プリムローズイエロー」、固形分37重量%
青:(株)セイコーアドバンス製、「MRJ RX02 440ブルー」、固形分37重量%
白:(株)セイコーアドバンス製、「MRJ RX02 120ホワイト」、固形分64重量%
【0105】
《比較例r1》
(1)インキの調製
赤色インキ10.0重量部(固形分3.70重量部相当)、ウレタン系樹脂溶液54.0重量部(固形分16.20重量部相当)、及びメチルエチルケトン(MEK)36.0重量部を混合して、赤色インキ含量10重量%(wet/wet)、固形分含量19.9重量%の赤色ベースインキ100重量部を調製した。
【0106】
(2)塗工
ベーカーアプリケータを用い、ウェット膜厚200μm、塗工速度5.2m/分の条件にて、上記で得られたインキをポリエステル100%の白色生地(厚み334μmの織物、L93.6、a1.9、b-8.7)に塗工した。次いで、100℃にて1分間静置して溶媒を除去することにより、基準の織物試料を作製した。
【0107】
(3)評価
(3-1)光発熱性の評価
岩崎電気(株)製の照明用アイランプ(型式名「PRF250」、定格電圧100V、定格消費電力250W、色温度3,200K、散光型)を、7cm×7cmの正方形に切り出した織物試料から30cm離れた位置に設置して、光照射を行った。このときの、光照射前(0分後)及び光照射5分後の織物裏面温度(光照射側の面とは反対側の面の温度)を測定し、両者の差から織物試料の光発熱性を算出した。
【0108】
ここで得られた織物試料の光発熱性の値は、実施例R1及びR2、並びに比較例r2における赤外線吸収性顔料の光発熱効果算出の基準として用いた。
【0109】
(3-2)色調の評価
X-Rite社製の分光測色機、形式名「スペクトロアイ」を用いて、上記で得られた織物試料について、CIE1976色空間におけるL、a、及びbを測定した。測定は、白色の台紙(L=94.84、a=0.03、b=0.44、厚み0.24mm)を3枚重ねて織物試料の下に敷いた状態で行った。
【0110】
ここで得られた織物試料のL、a、及びbの値は、実施例R1及びR2、並びに比較例r2における色差ΔE算出の基準として用いた。
【0111】
また、ここで得られた織物試料は、実施例R1及びR2、並びに比較例r2における色差の官能評価の基準として用いた。
【0112】
《実施例R1》
(1)インキの調製
比較例r1と同様に調製した赤色ベースインキ100重量部に、CsWO分散液0.12重量部(CsWO0.030重量部相当)を添加することにより、赤色インキ含量10重量%(wet/wet)、インキ固形分当たりのCsWO含量が0.15重量%の赤外線吸収性赤色インキを調製した。
【0113】
(2)塗工
上記で得られた赤外線吸収性赤色インキを用いた他は、比較例r1と同様にして、ポリエステル100%の白色生地(織物)に塗工して、織物試料を作製した。ここで、塗工前の生地及び塗工後の織物試料の重さの差から、塗工されたインキの乾燥重量を求め、これに含まれる赤外線吸収性顔料の量、及び塗工面の面積から、織物試料単位面積当たりの赤外線吸収性顔料の含有量を算出した。
【0114】
(3)評価
(3-1)光発熱効果の評価
得られた実施例R1の織物試料を用いて、比較例r1と同様にして、光発熱性及び色調の評価を行った。織物試料の光発熱性の値から、比較例r1の織物試料の光発熱性の値を減じることにより、実施例R1の織物試料における赤外線吸収性顔料の光発熱効果を算出した。
【0115】
(3-2)色差ΔEの評価
織物試料のL、a、及びbの値と、比較例r1の基準の織物試料のL、a、及びbの値とから、実施例R1の織物試料と比較例r1の基準との色差ΔEを算出した。
【0116】
(3-3)色差の官能評価
白色の台紙(L=94.84、a=0.03、b=0.44、厚み0.24mm)を3枚重ねたものの上に、本実施例で得られた織物試料と、比較例r1で得られた基準の織物試料とを、並べて載置し、昼光色の蛍光灯照射下で、両試料の色調の差を目視によって識別できるかどうかを調べた。試験は、6人の試験人によって行い、以下の基準で評価した。
A:両試料の色調の差を識別できた試験人がいなかった(0人であった)場合(良好)
B:両試料の色調の差を識別できた試験人が1人又は2人であった場合(可)
C:両試料の色調の差を識別できた試験人が3人以上であった場合(不良)
【0117】
《実施例R2、及び比較例r2》
赤色ベースインキ100重量部に添加するCsWO分散液の量を、それぞれ、表1に記載のとおりとした他は、実施例R1と同様にして、赤外線吸収性赤色インキを調製し、これを用いて生地への塗工及び評価を行った。
【0118】
《比較例r3》
ウレタン系樹脂溶液、赤色インキ、及びMEKの使用量を、それぞれ、表1に記載のとおりとした他は、比較例r1と同様にして、赤色インキ含量30重量%(wet/wet)、固形分含量21.6重量%の赤色ベースインキを調製し、これを用いて生地への塗工及び評価を行った。
【0119】
ここで得られた織物試料の光発熱性、並びにL、a、及びbの値は、実施例R3及びR4、並びに比較例r4における赤外線吸収性顔料の光発熱効果、及び色差ΔE算出の基準として用いた。
【0120】
また、ここで得られた織物試料は、実施例R3及びR4、並びに比較例r4における色差の官能評価の基準として用いた。
【0121】
《実施例R3》
(1)インキの調製
比較例r3と同様に調製した赤色ベースインキ100重量部に、CsWO分散液0.13重量部(CsWO0.03重量部相当)を添加することにより、赤色インキ含量30重量%(wet/wet)、インキ固形分当たりのCsWO含量が0.15重量%の赤外線吸収性赤色インキを調製し、これを用いて生地への塗工及び評価を行った。
【0122】
《実施例R4、及び比較例r4》
赤色ベースインキとして、比較例r3と同様にして調製した赤色ベースインキ100重量部を用い、当該赤色ベースインキ100重量部に添加するCsWO分散液の量を、それぞれ、表1に記載のとおりとした他は、実施例R3と同様にして、赤外線吸収性赤色インキを調製し、これを用いて生地への塗工及び評価を行った。
【0123】
上記の結果を表2に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
《比較例y1、実施例Y1及びY2、比較例y2及びy3、実施例Y3及びY4、並びに比較例y4》
赤色インキに代えて、同量の黄色インキをそれぞれ用いた他は、比較例r1、実施例R1及びR2、比較例r2及びr3、実施例R3及びR4、並びに比較例r4と同様にして、黄色ベースインキ(比較例y1及びy3)、並びに赤外線吸収性黄色インキ(実施例Y1~Y4、並びに比較例y2及びy4)を調製し、これを用いて生地への塗工及び評価を行った。
【0127】
比較例y1で得られた織物試料の光発熱性、並びにL、a、及びbの値は、実施例Y1及びY2、並びに比較例y2における赤外線吸収性顔料の光発熱効果、及び色差ΔE算出の基準として用いた。また、比較例y1で得られた織物試料は、実施例Y1及びY2、並びに比較例y2における色差の官能評価の基準として用いた。
【0128】
比較例y3で得られた織物試料の光発熱性、並びにL、a、及びbの値は、実施例Y3及びY4、並びに比較例y4における赤外線吸収性顔料の光発熱効果、及び色差ΔE算出の基準として用いた。また、比較例y3で得られた織物試料は、実施例Y3及びY4、並びに比較例y4における色差の官能評価の基準として用いた。
【0129】
上記実施例及び比較例のインキの配合を表3に示す。また、これらについての、光発熱効果、及び色調(L、a、及びb、並びに色差ΔE)の評価結果を表4に示す。
【0130】
【表3】
【0131】
【表4】
【0132】
《比較例b1、及び実施例B1~B4》
赤色インキに代えて、同量の青色インキをそれぞれ用いた他は、比較例r1、実施例R1及びR2、並びに比較例r2と同様にして、青色ベースインキ(比較例b1)、並びに赤外線吸収性青色インキ(実施例B1~B4)を調製し、これを用いて生地への塗工及び評価を行った。
【0133】
比較例b1で得られた織物試料の光発熱性、並びにL、a、及びbの値は、実施例B1~B4における赤外線吸収性顔料の光発熱効果、及び色差ΔE算出の基準として用いた。また、比較例b1で得られた織物試料は、実施例B1~B4における色差の官能評価の基準として用いた。
【0134】
上記実施例及び比較例のインキの配合を表5に示す。また、これらについての、光発熱効果、及び色調(L、a、及びb、並びに色差ΔE)の評価結果を表6に示す。
【0135】
【表5】
【0136】
【表6】
【0137】
《実施例R5》
比較例r1と同様に調製した赤色ベースインキ100重量部に、赤外線吸収性顔料として、アンチモンドープ酸化スズ(石原産業(株)製、「ATO」、固形分100重量%)0.24重量部を添加することにより、赤色インキ含量10重量%(wet/wet)、インキ固形分当たりのATO含量が1.19重量%の赤外線吸収性赤色インキを調製し、これを用いた他は、実施例R1と同様にして、生地への塗工及び評価を行った。
【0138】
《比較例r5》
比較例r1と同様に調製した赤色ベースインキ100重量部に、赤外線吸収性顔料として、カーボンブラック(CB)(CABOT社製、ファーネスブラック「R400R」、固形分100重量%)0.03重量部を添加することにより、赤色インキ含量10重量%(wet/wet)、インキ固形分当たりのCB含量が0.15重量%の赤外線吸収性赤色インキを調製し、これを用いた他は、実施例R1と同様にして、生地への塗工及び評価を行った。
【0139】
これらの実施例及び比較例の評価において、光発熱性、色差ΔE、及び官能評価の基準となる織物試料としては、比較例r1で得られた織物試料を用いた。
【0140】
上記実施例及び比較例のインキの配合を、比較例r1の配合とともに、表7に示す。また、これらについての、光発熱効果、及び色調(L、a、及びb、並びに色差ΔE)の評価結果を、比較例r1の評価結果とともに、表8に示す。
【0141】
【表7】
【0142】
【表8】
【0143】
《比較例p1~p3及び実施例P1~P3》
各色インキ、ウレタン樹脂溶液、MEK、及びCsWO分散液の使用量を、それぞれ、表9に示したとおりに変更した他は、比較例r1及び実施例R1と同様にして、各色ベースインキ(比較例p1~p3)及び赤外線吸収性各色インキ(実施例P1~P3)を調製し、これを用いて生地への塗工及び評価を行った。
【0144】
これらの評価において、光発熱性、色差ΔE、及び官能評価の基準となる織物試料としては、実施例P1の試料については比較例p1の試料を、実施例P2の試料については比較例p2の試料を、実施例P3の試料については比較例p3の試料を、それぞれ用いた。得られた結果を、表10に示す。
【0145】
【表9】
【0146】
【表10】
【0147】
2.赤外線吸収性繊維
以下の実施例及び比較例では、赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性繊維を用いて作製されたトリコット、又は織物についての試験を行った。赤外線吸収性顔料としてセシウム酸化タングステンCsWOを用い、繊維中の含有量を0.11重量%及び0.52重量%の2水準として、ポリエチレンテレフタレート(PET)ベースの赤外線吸収性繊維を作製して試験を行った。
【0148】
以下の実施例及び比較例において、試料調製用には、以下の原料を用いた。
【0149】
〈赤外線吸収性顔料〉
(セシウム酸化タングステン)
住友金属鉱山(株)製、「YMDS-874」、Cs0.33WO23重量%及び分散剤を含有する分散粉
【0150】
以下、上記の赤外線吸収性顔料Cs0.33WOを「CsWO」といい、該CsWO及び分散剤を含有する分散粉を「CsWO分散粉」という。
【0151】
〈ベース樹脂〉
(株)ベルポリエステルプロダクツ製、「ベルぺットIP121B」、第三成分としてイソフタル酸を含む共重合タイプのポリエチレンテレフタレート、固有粘度=0.62
【0152】
〈CsWOマスターバッチの調製〉
二軸押出機中で、ベース樹脂95重量部及びCsWO分散粉5重量部(CsWO1.15重量部相当)を混錬して、CsWO1.15重量%を含むCsWOマスターバッチを得た。
【0153】
《比較例t1》
(1)紡糸
マルチフィラメント溶融紡糸装置を用い、ホモPETを紡糸原料として、紡糸温度290℃、押出量4kg/h、及び引取速度1,500m/分の条件にて1時間紡糸することにより、50デニール24フィラメントのマルチフィラメント繊維を得た。
【0154】
(2)生地作製
上記マルチフィラメント繊維80重量%及びポリウレタン繊維20重量%を用いて、編機により32ゲージ、目付240g/mのトリコット生地を作製した。
【0155】
(3)評価
(3-1)光発熱性の評価
岩崎電気(株)製の照明用アイランプ(型式名「PRF250」、定格電圧100V、定格消費電力250W、色温度3,200K、散光型)を、7cm×7cmの正方形に切り出したトリコット生地試料から30cm離れた位置に設置して、光照射を行った。このときの、光照射前(0分後)及び光照射5分後のトリコット生地表面温度を測定し、両者の差からトリコット生地試料の光発熱性を算出した。
【0156】
ここで得られたトリコット生地試料の光発熱性の値は、実施例T1及び比較例t2における赤外線吸収性顔料の光発熱効果算出の基準として用いた。
【0157】
(3-2)色調の評価
X-Rite社製の分光測色機、形式名「スペクトロアイ」を用いて、上記で得られたトリコット生地試料について、CIE1976色空間におけるL、a、及びbを測定した。測定は、白色の台紙(L=94.84、a=0.03、b=0.44、厚み0.24mm)を3枚重ねてトリコット生地試料の下に敷いた状態で行った。
【0158】
ここで得られたトリコット生地試料のL、a、及びbの値は、実施例T1及び比較例t2における色差ΔE算出の基準として用いた。
【0159】
《実施例T1》
(1)紡糸
紡糸原料として、CsWOマスターバッチ9.57重量部及びホモPET90.43重量部を用いた他は、比較例t1と同様にして、CsWO0.11重量%を含有する赤外線吸収性マルチフィラメント繊維を得た。
【0160】
(2)生地作製
上記赤外線吸収性マルチフィラメント繊維80重量%及びポリウレタン繊維20重量%を用いた他は、比較例t1と同様にして、赤外線吸収性トリコット生地を作製した。この赤外線吸収性トリコット生地のCsWO含有量は、0.19g/mであった。
【0161】
(3)評価
得られた赤外線吸収性トリコット生地を用いて、比較例t1と同様にして、評価を行った。
【0162】
《比較例t2》
紡糸原料として、CsWOマスターバッチ45.25重量部及びホモPET54.75重量部を用いた他は、比較例t1と同様にして、CsWO0.52重量%を含有する赤外線吸収性マルチフィラメント繊維を得た。得られた赤外線吸収性マルチフィラメント繊維を用いて、実施例T1と同様にして赤外線吸収性トリコット生地を作製し、評価した。
【0163】
上記実施例及び比較例についての、光発熱効果、及び色調(L、a、及びb、並びに色差ΔE)の評価結果を、表11に示す。
【0164】
【表11】
【0165】
《比較例c1》
(1)紡糸
マルチフィラメント溶融紡糸装置を用い、ホモPETを紡糸原料として、紡糸温度290℃、押出量4kg/h、及び引取速度1,500m/分の条件にて1時間紡糸して、75デニール24フィラメントのマルチフィラメント繊維を得た。このマルチフィラメント繊維を2本撚り合わせることにより、150デニール相当の双糸を得た。
【0166】
(2)織物作製
得られた双糸を緯糸とし、重量比50:50のポリエステル/ウール混紡糸(250デニール)を経糸とし、緯糸:経糸の使用率を重量比で41:59として、ジョンヘル型織機を用いて3/1綾織りすることにより、目付170g/mの織物を得た。
【0167】
(3)評価
ここで得られた織物は、3/1綾織りによる織布であるため、経糸であるポリエステル/ウール混紡糸が多く露出する経糸面と、緯糸である双糸が多く露出する緯糸面とが表裏を成している。そこで、織物試料の発熱性の評価、及び色調の評価は、それぞれ、経糸面及び緯糸面の双方について行った。
【0168】
(3-1)光発熱性の評価
岩崎電気(株)製の照明用アイランプ(型式名「PRF250」、定格電圧100V、定格消費電力250W、色温度3,200K、散光型)を、7cm×7cmの正方形に切り出した織物試料から30cm離れた位置に設置して、光照射を行った。このときの、光照射前(0分後)及び光照射5分後の織物裏面温度を測定し、両者の差から織物試料の光発熱性を算出した。
【0169】
ここで得られた織物試料の光発熱性の値は、経糸面及び緯糸面について、それぞれ、実施例C1及び比較例c2における赤外線吸収性織物の光発熱効果算出の基準として用いた。
【0170】
(3-2)色調の評価
X-Rite社製の分光測色機、形式名「スペクトロアイ」を用いて、上記で得られた織物試料について、CIE1976色空間におけるL、a、及びbを測定した。測定は、白色の台紙(L=94.84、a=0.03、b=0.44、厚み0.24mm)を3枚重ねて織物試料の下に敷いた状態で行った。
【0171】
ここで得られた織物試料のL、a、及びbの値は、経糸面及び緯糸面について、それぞれ、実施例C1及び比較例c2における色差ΔE算出の基準として用いた。
【0172】
《実施例C1》
(1)紡糸
紡糸原料として、CsWOマスターバッチ9.57重量部及びホモPET90.43重量部を用いた他は、比較例c1と同様にして、CsWO0.11重量%を含有する、75デニール24フィラメントの赤外線吸収性マルチフィラメント繊維を得た。この赤外線吸収性マルチフィラメント繊維を2本撚り合わせることにより、150デニール相当の赤外線吸収性双糸を得た。
【0173】
(2)織物作製
緯糸として、上記で得られた赤外線吸収性双糸を用いた他は、比較例c1と同様にして、目付170g/mの赤外線吸収性織物を得た。この赤外線吸収性織物のCsWO含有量は、0.08g/mであった。
【0174】
(3)評価
得られた赤外線吸収性織物について、比較例c1と同様にして、評価を行った。
【0175】
《比較例c2》
紡糸原料として、CsWOマスターバッチ45.25重量部及びホモPET54.75重量部を用いた他は、比較例c1と同様にして、CsWO0.52重量%を含有する赤外線吸収性マルチフィラメント繊維を得た。得られた赤外線吸収性マルチフィラメント繊維を用いた他は、実施例C1と同様にして赤外線吸収性双糸を作製し、これを用いて目付170g/mの赤外線吸収性織物を得た。この赤外線吸収性織物のCsWO含有量は、0.35g/mであった。
【0176】
この赤外線吸収性織物について、比較例c1と同様にして、評価を行った。
【0177】
上記実施例及び比較例についての、光発熱効果、及び色調(L、a、及びb、並びに色差ΔE)の評価結果を、表12に示す。
【0178】
【表12】