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  • -非水系二次電池及び非水系電解液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】非水系二次電池及び非水系電解液
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20231003BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231003BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231003BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231003BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231003BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20231003BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20231003BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20231003BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M10/052
H01M10/0568
H01M10/0567
H01M4/131
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021564345
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2021020557
(87)【国際公開番号】W WO2021241761
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2020093707
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020094801
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎
(72)【発明者】
【氏名】加味根 丈主
(72)【発明者】
【氏名】松岡 直樹
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-054822(JP,A)
【文献】特開2000-207934(JP,A)
【文献】国際公開第2020/054863(WO,A1)
【文献】特開2019-140054(JP,A)
【文献】特開2019-175632(JP,A)
【文献】特表2019-506703(JP,A)
【文献】国際公開第2018/169028(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/163139(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109888372(CN,A)
【文献】特開2019-212400(JP,A)
【文献】国際公開第2012/057311(WO,A1)
【文献】特開2017-073251(JP,A)
【文献】特開2013-016456(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0064459(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0566-10/0569
H01M 4/00-4/62
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトニトリルを含む非水系溶媒と、
下記一般式(1):
【化1】
{式中、Rは炭素数が1~12の直鎖状または分枝状の、酸素原子を含んでもよい2価の脂肪族アルキル基を示す}
で表されるジニトリル化合物と、
LiPF 及びLiFSIを含むリチウム塩と、
を有する非水系電解液であって、
前記非水系電解液が、
前記非水系溶媒の全量に対してアセトニトリルを10~70体積%含有し
前記ジニトリル化合物の含有量は、前記非水系電解液の全量に対して25質量%以下であり、
前記ジニトリル化合物の含有量は、アセトニトリルに対してモル比で0.10以上であり、かつ
LiPF の含有量と、前記LiFSIを含むイミド塩の含有量とが、モル濃度で0<LiPF ≦イミド塩の関係である、
非水系電解液。
【請求項2】
前記非水系溶媒の含有量は、前記非水系溶媒と前記ジニトリル化合物を合わせた全量に対して、70体積%より大きく、かつ/又は70質量%より大きい、請求項1に記載の非水系電解液。
【請求項3】
前記ジニトリル化合物の含有量は、前記非水系電解液の全量に対して1質量%以上である、請求項1または2に記載の非水系電解液。
【請求項4】
正極集電体の片面又は両面に正極活物質層を有する正極と、請求項1~3のいずれか一項に記載の非水系電解液とを具備し、
前記正極活物質が、下記一般式(d):
Li Ni Co ・・・(d)
{式中、M は、Mn及びAlから成る群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、M は、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、且つ、0<p<1.3、0.4<q<1、0<r<0.4、0<s<0.4、0≦t<0.3、0.7≦q+r+s+t≦1.2、1.8<u<2.2の範囲内であり、そしてpは、電池の充放電状態により決まる値である}で表されるリチウム含有金属酸化物を含む、
非水系二次電池。
【請求項5】
前記リチウム含有金属酸化物が、前記一般式(d)において、さらに、0.7<q<1、0<r<0.2、0<s<0.2を満たす、請求項4に記載の非水系二次電池。
【請求項6】
正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、セパレータと、請求項1~3のいずれか一項に記載の非水系電解液とを具備した非水系二次電池において、
前記正極活物質が、下記一般式(a):
LiNiCo ・・・(a)
{式中、Mは、Mn及びAlから成る群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Mは、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、且つ、0<p<1.3、0.5<q<1、0<r<0.3、0<s<0.3、0<t<0.3、0.7≦q+r+s+t≦1.2、1.8<u<2.2の範囲内であり、そしてpは、電池の充放電状態により決まる値である}で表されるリチウム含有金属酸化物、
または、
下記一般式(b):
LiNiCo ・・・(b)
{式中、Mは、Mn及びAlから成る群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Mは、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、且つ、0<p<1.3、0.5<q<1、0<r<0.3、0<s<0.3、0≦t<0.3、0.7≦q+r+s+t≦1.2、1.8<u<2.2の範囲内であり、そしてpは、電池の充放電状態により決まる値である}で表されるリチウム含有金属酸化物を含むコア粒子と、
前記コア粒子の表面の少なくとも一部の領域に存在し、Ti、AlおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する被覆層との正極活物質複合体、を含み、
前記非水系二次電池を、25℃環境下で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電し、次に電流値が0.025Cとなるまで定電圧充電した後、定電流で3Vまで放電する工程1と、工程1の後、50℃環境下で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電した後、電流値が0.025Cとなるまで定電圧充電し、その後、定電流で3Vまで放電を行う工程を1サイクルとし、該工程を100サイクル行う工程2において、工程1の前の前記非水系二次電池の正極をCu-Kα線による粉末X線回折で解析したときのc軸の格子定数をc1とし、かつ、工程2の後、25℃環境下で電池電圧が2.5Vとなるまで定電流放電した後の前記非水系二次電池の正極をCu-Kα線による粉末X線回折で解析したときのc軸の格子定数をc2としたとき、下記式:
{(c2/c1)-1}×100
で表される変化率が、1.0%以下でありかつ、
前記非水系電解液の20℃におけるイオン伝導度が、10mS/cm以上15mS/cm未満である、
ことを特徴とする非水系二次電池。
【請求項7】
前記リチウム含有金属酸化物が、前記一般式(a)または(b)において、さらに、0.7<q<1、0<r<0.2、0<s<0.2を満たす、請求項に記載の非水系二次電池。
【請求項8】
前記被覆層が、Ti、AlおよびZrからなる群から選択される1以上の元素の酸化物を含む、請求項6又は7に記載の非水系二次電池。
【請求項9】
前記被覆層が、ジルコニウム(Zr)酸化物を含む、請求項に記載の非水系二次電池。
【請求項10】
前記一般式(a)または(b)のMが、Zrを含む、請求項のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
【請求項11】
正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、セパレータと、請求項1~3のいずれか一項に記載の非水系電解液とを具備した非水系二次電池において、
前記正極活物質が、下記一般式(c):
LiNiCoMn・・・(c)
{式中、0.5<x<1、0<y<0.3、0<z<0.3}で表されるリチウム含有金属酸化物を含むコア粒子と、
前記コア粒子の表面の少なくとも一部の領域に存在し、Ti、AlおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する被覆層との正極活物質複合体、を含み、
前記非水系二次電池を、25℃環境下で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電し、次に電流値が0.025Cとなるまで定電圧充電した後、定電流で3Vまで放電する工程1と、工程1の後、50℃環境下で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電した後、電流値が0.025Cとなるまで定電圧充電し、その後、定電流で3Vまで放電を行う工程を1サイクルとし、該工程を100サイクル行う工程2において、工程1の前の前記非水系二次電池の正極をCu-Kα線による粉末X線回折で解析したときのc軸の格子定数をc1とし、かつ、工程2の後、25℃環境下で電池電圧が2.5Vとなるまで定電流放電した後の前記非水系二次電池の正極をCu-Kα線による粉末X線回折で解析したときのc軸の格子定数をc2としたとき、下記式:
{(c2/c1)-1}×100
で表される変化率が、1.0%以下でありかつ、
前記非水系電解液の20℃におけるイオン伝導度が、10mS/cm以上15mS/cm未満である、
ことを特徴とする非水系二次電池。
【請求項12】
前記リチウム含有金属酸化物が、前記一般式(c)において、さらに、0.7<x<0.9、0<y<0.2、0<z<0.2を満たす、請求項11に記載の非水系二次電池。
【請求項13】
前記c1が、前記非水系二次電池を組み立てる前の正極をCu-Kα線による粉末X線回折で解析したときのc軸の格子定数である、請求項12のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
【請求項14】
前記c軸の変化率が、0.6%以下である、請求項13のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
【請求項15】
前記非水系電解液が、酸無水物を含まない、請求項14のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
【請求項16】
前記非水系電解液が、さらにイミド塩を含む、請求項15のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
【請求項17】
前記非水系電解液が、下記一般式(2):
【化2】
{式中、R、R、及びRで表される置換基は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフッ素置換アルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のフッ素置換アルコキシ基、フェニル基、シクロヘキシル基、ニトリル基、ニトロ基、アミノ基、N,N’-ジメチルアミノ基、又はN,N’-ジエチルアミノ基であり、これらの置換基のうち2つ以上は水素原子である}
で表される化合物を含有する、請求項16のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
【請求項18】
前記一般式(2)で表される化合物が、ピリジン及び4-(tert-ブチル)ピリジンからなる群より選ばれる1種以上の化合物である、請求項17に記載の非水系二次電池。
【請求項19】
前記一般式(2)で表される化合物の含有量が、前記非水系電解液の全体に対して0.01~10質量%である、請求項17または18に記載の非水系二次電池。
【請求項20】
前記非水系電解液におけるFSOアニオンの含有量が、前記非水系電解液に対して100ppm以下である、請求項19のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
【請求項21】
前記c軸の格子定数c1が、14.3Å以下である、請求項20のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
【請求項22】
前記c軸の格子定数c2が、14.3Å以下である、請求項21のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
【請求項23】
前記非水系電解液に含まれるプロピオニトリルが、前記非水系電解液の全量に対し1.0ppm未満である、請求項22のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池及び非水系電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池をはじめとする非水系二次電池は、軽量、高エネルギー及び長寿命であることが大きな特徴であり、各種携帯用電子機器電源として広範囲に用いられている。近年、高容量化を目的として、正極活物質にニッケル比率の高いリチウム含有金属酸化物が用いられている。しかしながら、非水系二次電池では、高容量化が可能となるものの、長期耐久性能に劣るという課題が残っている。
【0003】
このような課題に鑑みて、非水系電解液、添加剤、及びそれらを含む非水系二次電池の電極材料などについて検討されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、特許文献2によれば、正極活物質の結晶子サイズを制御し、非水系電解液にフルオロエチレンカーボネートを添加することで充放電時の正極抵抗の増大を制御し、サイクル特性が向上することが報告されている。
【0005】
特許文献3によれば、正極のc/a軸比を所定の範囲に規定することにより、充放電時の膨張収縮を抑えられ、高電圧下のサイクル特性を向上することが報告されている。
【0006】
特許文献4によれば、正極の結晶サイズと比表面積を所定の範囲に規定することにより、サイクル特性およびレート特性に優れ、かつエネルギー密度が高いことが報告されている。
【0007】
また、近年、電気自動車を中心とした大型蓄電産業の拡大に伴い、非水系二次電池の更なる高エネルギー密度化が切望されている。リチウムイオン電池の非水系溶媒として、粘度と比誘電率とのバランスに優れたニトリル系溶媒が高イオン伝導性電解液として提案されている。中でもアセトニトリルは、高いポテンシャルを有する。
【0008】
例えば、特許文献5には、アセトニトリルを非水系溶媒に用いた非水系電解液によって高容量電極で作動する非水系二次電池が開示されており、また、複数の電極保護用添加剤を添加することによって、SEI(Solid Electrolyte Interface:固体電解質界面)を強化することが報告されている。
【0009】
特許文献6では、特定の有機リチウム塩を用いることによってSEIが強化され、電解液の分解が抑制されることが報告されている。また、特許文献7においてもアセトニトリルを含有する非水系電解液を用いることが記述されている。
【0010】
非特許文献1では、層状岩塩型の正極活物質において、Niの含有率が高まるほど、エネルギー密度が高まることが報告されている。
【0011】
しかしながら、非水系二次電池では、エネルギー密度の向上と長期耐久性能とを両立させるという課題がある。例えば、非特許文献2では、正極活物質においてNi比率が高いほど低電圧で劣化が進行すると記載されている。非特許文献3では、高誘電率溶媒の分解が引き金となって、リチウム塩の分解を誘発するメカニズムが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2018/169028号
【文献】国際公開第2015/129187号
【文献】国際公開第2011/135953号
【文献】特開2018-98174号公報
【文献】国際公開第2013/062056号
【文献】国際公開第2012/057311号
【文献】国際公開第2016/159108号
【文献】特開2017-10924号公報
【文献】特開2016-207313号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】ACS Energy Lett.,2,196-223(2017).
【文献】J. Power Sources,233,121-130(2013).
【文献】J. Phys. Chem. Lett.,8,4820-4825(2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
リチウム含有金属酸化物中のNiの比率が0.5を超える正極活物質を用いた非水系二次電池の劣化要因として、充放電に伴う正極活物質の膨張収縮により、正極活物質の一次粒子界面で割れが生じて各種劣化を引き起こすことが分かっている。さらに劣化が進行するとスピネル転移が起こり、結晶構造が維持できなくなり、サイクル性能が著しく低下するといった課題が挙げられる。
【0015】
特に、特許文献1に記載されているようなイオン伝導度の高い非水系電解液をニッケル比率の高い正極活物質を用いた非水系二次電池に適用すると、電極表面の正極活物質から優先的にリチウムが引き抜かれて、電極表面の正極活物質の割れが著しく進行してしまい、サイクル途中で容量の急落が確認された。ここで、本件図1図2はイオン伝導度の異なる非水系電解液を用いて非水系二次電池を作製し、初回充放電後に50℃環境下で100サイクルした後の正極の断面SEM写真を示している。イオン伝導度の高い非水系電解液を用いた正極活物質は正極表面に多数の割れが生じているのが分かる。
【0016】
さらに、特許文献2~4に記載されているような結晶子サイズ、比表面積またはc/a軸比を所定の範囲に収めたとしても、Ni比率の高い正極活物質では割れが発生し、良好なサイクル性能は十分に得られなかった。
【0017】
また、高エネルギー密度化を志向したこれらの非水系二次電池は、既存の非水系二次電池と比較して長期耐久性能及び高温耐久性能に劣っていることから、本格的な実用化には至っていない。非水系電解液及び電極の双方により過酷な環境下での耐久性が求められている。
【0018】
特許文献8では、非水系電解液としてジニトリル化合物とフルオロスルホニルイミド化合物とを組み合わせた非水系電解液が報告されている。しかしながら、該非水系電解液を含む非水系二次電池は低容量であり、また、長期耐久性能及び高温耐久性能に関する記載は無い。さらに、特許文献8に記載の非水系電解液は、ジニトリル化合物を除く非水系溶媒の含有量が少ないため、粘度が高く、出力特性が低いと推測される。
【0019】
また、特許文献9では、負極にチタン含有酸化物、リチウム塩にアミドアニオンを有する化合物、非水系溶媒にニトリル系化合物を用いた非水系二次電池が報告されているが、リチウム塩を高濃度に含有するため、電解液の粘度が高くなり、イオン伝導度が低く、電解液の電極への濡れ性も低いと推測される。さらに、特許文献9に記載の負極に用いるチタン含有酸化物は作動電位が高いため、得られる電力容量が低い。
【0020】
また、特に、アセトニトリルを含有する非水系電解液と、Niの含有率が高いリチウムニッケル含有複合金属酸化物を正極活物質に含む正極とを組み合わせた非水系二次電池を用いると、高温サイクル性能が大きく損なわれる、という問題がある。
【0021】
特許文献5~7では、アセトニトリルを含有する非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池について報告されているが、長期耐久性能及び高温耐久性能評価はNi比率の低い正極活物質を用いて行われており、Ni比率の高い正極活物質を用いた場合に生じる問題については指摘されていない。
【0022】
本発明は、上記課題を鑑みて為されたものである。本発明の目的は、第一に、ニッケル比率の高い正極活物質を用い、非水系電解液にアセトニトリルを含有する非水系二次電池であっても、高温環境下で充放電した際の正極活物質の各種劣化を抑制することができる、非水系二次電池を提供することを目的とする。本発明の目的は、第二に、非水系電解液にアセトニトリルを含んでも、高容量かつ優れたサイクル特性及び高温耐久性能を発揮することができる非水系電解液及び非水系二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意研究を重ね、その結果、以下の構成を有する非水系電解液又は非水系二次電池を用いることによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
<1>
正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、セパレータと非水系電解液とを具備した非水系二次電池において、
前記正極活物質が、下記一般式(a):
LiNiCo ・・・(a)
{式中、Mは、Mn及びAlから成る群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Mは、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、且つ、0<p<1.3、0.5<q<1、0<r<0.3、0<s<0.3、0<t<0.3、0.7≦q+r+s+t≦1.2、1.8<u<2.2の範囲内であり、そしてpは、電池の充放電状態により決まる値である}で表されるリチウム含有金属酸化物、
または、
下記一般式(b):
LiNiCo ・・・(b)
{式中、Mは、Mn及びAlから成る群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Mは、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、且つ、0<p<1.3、0.5<q<1、0<r<0.3、0<s<0.3、0≦t<0.3、0.7≦q+r+s+t≦1.2、1.8<u<2.2の範囲内であり、そしてpは、電池の充放電状態により決まる値である}で表されるリチウム含有金属酸化物を含むコア粒子と、
前記コア粒子の表面の少なくとも一部の領域に存在し、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する被覆層との正極活物質複合体、を含み、
前記非水系二次電池を、25℃環境下で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電し、次に電流値が0.025Cとなるまで定電圧充電した後、定電流で3Vまで放電する工程1と、工程1の後、50℃環境下で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電した後、電流値が0.025Cとなるまで定電圧充電し、その後、定電流で3Vまで放電を行う工程を1サイクルとし、該工程を100サイクル行う工程2において、工程1の前の前記非水系二次電池の正極をCu-Kα線による粉末X線回折で解析したときのc軸の格子定数をc1とし、かつ、工程2の後、25℃環境下で電池電圧が2.5Vとなるまで定電流放電した後の前記非水系二次電池の正極をCu-Kα線による粉末X線回折で解析したときのc軸の格子定数をc2としたとき、下記式:
{(c2/c1)-1}×100
で表される変化率が、1.0%以下であり、
前記非水系電解液はアセトニトリルを非水系溶媒の全量に対して5~20体積%含み、かつ、
前記非水系電解液の20℃におけるイオン伝導度が、10mS/cm以上15mS/cm未満である、
ことを特徴とする非水系二次電池。
<2>
前記リチウム含有金属酸化物が、前記一般式(a)または(b)において、さらに、0.7<q<1、0<r<0.2、0<s<0.2を満たす、項目1に記載の非水系二次電池。
<3>
前記被覆層が、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdからなる群から選択される1以上の元素の酸化物を含む、項目1又は2に記載の非水系二次電池。
<4>
前記被覆層が、ジルコニウム(Zr)酸化物を含む、項目3に記載の非水系二次電池。
<5>
前記一般式(a)または(b)のMが、Zrを含む、項目1~4のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
<6>
正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、セパレータと非水系電解液とを具備した非水系二次電池において、
前記正極にリチウム含有金属酸化物を含有し、
前記リチウム含有金属酸化物が、下記一般式(c):
LiNiCoMn・・・(c)
{式中、0.5<x<1、0<y<0.3、0<z<0.3}であり、
前記非水系二次電池を、25℃環境下で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電し、次に電流値が0.025Cとなるまで定電圧充電した後、定電流で3Vまで放電する工程1と、工程1の後、50℃環境下で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電した後、電流値が0.025Cとなるまで定電圧充電し、その後、定電流で3Vまで放電を行う工程を1サイクルとし、該工程を100サイクル行う工程2において、工程1の前の前記非水系二次電池の正極をCu-Kα線による粉末X線回折で解析したときのc軸の格子定数をc1とし、かつ、工程2の後、25℃環境下で電池電圧が2.5Vとなるまで定電流放電した後の前記非水系二次電池の正極をCu-Kα線による粉末X線回折で解析したときのc軸の格子定数をc2としたとき、下記式:
{(c2/c1)-1}×100
で表される変化率が、1.0%以下であり、
前記非水系電解液はアセトニトリルを非水系溶媒の全量に対して5~20体積%含み、かつ、
前記非水系電解液の20℃におけるイオン伝導度が、10mS/cm以上15mS/cm未満である、
ことを特徴とする非水系二次電池。
<7>
前記リチウム含有金属酸化物が、前記一般式(c)において、さらに、0.7<x<0.9、0<y<0.2、0<z<0.2を満たす、項目6に記載の非水系二次電池。
<8>
前記c1が、前記非水系二次電池を組み立てる前の正極をCu-Kα線による粉末X線回折で解析したときのc軸の格子定数である、項目1~7のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
<9>
前記c軸の変化率が、0.6%以下である、項目1~8のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
<10>
前記非水系電解液が、酸無水物を含まない、項目1~9のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
<11>
前記非水系電解液が、さらにイミド塩を含む、項目1~10のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
<12>
前記非水系電解液が、さらに下記一般式(1):
【化1】
{式中、Rは炭素数が1~12の直鎖状または分枝状の、酸素原子を含んでもよい2価の脂肪族アルキル基を示す}
で表されるジニトリル化合物を含む、項目1~11のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
<13>
前記ジニトリル化合物が、スクシノニトリル及びメチルスクシノニトリルからなる群より選ばれる1種以上の化合物である、項目12に記載の非水系二次電池。
<14>
前記ジニトリル化合物の含有量が、前記非水系電解液の全体に対して0.01~25質量%である、項目12又は13に記載の非水系二次電池。
<15>
前記非水系電解液が、下記一般式(2):
【化2】
{式中、R、R、及びRで表される置換基は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフッ素置換アルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のフッ素置換アルコキシ基、フェニル基、シクロヘキシル基、ニトリル基、ニトロ基、アミノ基、N,N’-ジメチルアミノ基、又はN,N’-ジエチルアミノ基であり、これらの置換基のうち2つ以上は水素原子である}
で表される化合物を含有する、項目1~14のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
<16>
前記一般式(2)で表される化合物が、ピリジン及び4-(tert-ブチル)ピリジンからなる群より選ばれる1種以上の化合物である、項目15に記載の非水系二次電池。
<17>
前記一般式(2)で表される化合物の含有量が、前記非水系電解液の全体に対して0.01~10質量%である、項目15または16に記載の非水系二次電池。
<18>
前記非水系電解液におけるFSOアニオンの含有量が、前記非水系電解液に対して100ppm以下である、項目1~17のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
<19>
前記c軸の格子定数c1が、14.3Å以下である、項目1~18のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
<20>
前記c軸の格子定数c2が、14.3Å以下である、項目1~19のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
<21>
前記非水系電解液に含まれるプロピオニトリルが、前記非水系電解液の全量に対し1.0ppm未満である、項目1~20のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
<22>
アセトニトリルを含む非水系溶媒と、
下記一般式(1):
【化3】
{式中、Rは炭素数が1~12の直鎖状または分枝状の、酸素原子を含んでもよい2価の脂肪族アルキル基を示す}
で表されるジニトリル化合物と、
LiPF及びLiFSIを含むリチウム塩と、
を有する非水系電解液であって、
前記非水系電解液が、
前記非水系溶媒の全量に対してアセトニトリルを10~70体積%含有し
前記ジニトリル化合物の含有量は、前記非水系電解液の全量に対して25質量%以下であり、
前記ジニトリル化合物の含有量は、アセトニトリルに対してモル比で0.10以上であり、かつ
LiPFの含有量と、前記LiFSIを含むイミド塩の含有量とが、モル濃度で0<LiPF≦イミド塩の関係である、
非水系電解液。
<23>
前記非水系溶媒の含有量は、前記非水系溶媒と前記ジニトリル化合物を合わせた全量に対して、70体積%より大きく、かつ/又は70質量%より大きい、項目22に記載の非水系電解液。
<24>
前記ジニトリル化合物の含有量は、前記非水系電解液の全量に対して1質量%以上である、項目22または23に記載の非水系電解液。
<25>
正極集電体の片面又は両面に正極活物質層を有する正極と、項目22~24のいずれか一項に記載の非水系電解液とを具備し、
前記正極活物質が、下記一般式(d):
LiNiCo ・・・(d)
{式中、Mは、Mn及びAlから成る群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Mは、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、且つ、0<p<1.3、0.4<q<1、0<r<0.4、0<s<0.4、0≦t<0.3、0.7≦q+r+s+t≦1.2、1.8<u<2.2の範囲内であり、そしてpは、電池の充放電状態により決まる値である}で表されるリチウム含有金属酸化物を含む、
非水系二次電池。
<26>
前記リチウム含有金属酸化物が、前記一般式(d)において、さらに、0.7<q<1、0<r<0.2、0<s<0.2を満たす、項目25に記載の非水系二次電池。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、第一に、ニッケル比率の高い正極活物質を用い、非水系電解液にアセトニトリルを含有する非水系二次電池であっても、高温環境下で充放電した際の正極活物質の各種劣化を抑制することができる、非水系二次電池を提供することができる。そして第二に、非水系電解液にアセトニトリルを含んでも、高容量かつ優れたサイクル特性及び高温耐久性能を発揮することができる非水系二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例I-1に用いた電解液で非水系二次電池を作製し、初回充放電後に50℃環境下で100サイクルした後の正極の断面SEM写真である。
図2】比較例I-1に用いた電解液で非水系二次電池を作製し、初回充放電後に50℃環境下で100サイクルした後の正極の断面SEM写真である。
図3】本発明の一実施形態に係る非水系二次電池の一例を概略的に示す平面図である。
図4図3の非水系二次電池のA-A線断面図である。
図5】正極対向セルのナイキストプロットの一例である。
図6】負極対向セルのナイキストプロットの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施形態」という。)について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。本明細書において「~」を用いて記載される数値範囲は、その前後に記載される数値を含む。
【0027】
≪第1の実施形態≫
以下、第1の実施形態に係る非水系電解液及びそれを含む非水系二次電池について説明する。本実施形態に係る非水系二次電池を用いれば、非水系電解液を具備する非水系二次電池において、通電前後における正極の粉末X線回折から算出される格子定数の変化率を1.0%以下とすることで、高温環境下で充放電サイクルした際の正極活物質の割れを抑制することができ、アセトニトリルを含む非水系電解液のイオン伝導度を所定の範囲内に制御することで、正極のリチウム引き抜き量が均一化し、正極活物質の割れが抑制され、この結果、高温環境下における各種劣化現象を抑制することができる。
【0028】
[非水系二次電池]
本実施形態の非水系電解液は、非水系二次電池に用いることができる。本実施形態の非水系二次電池としては、負極、正極、セパレータ、及び電池外装に対し、特に制限を与えるものではない。
【0029】
また、限定するものではないが、本実施形態の非水系二次電池としては、正極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な正極材料を含有する正極と、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な負極材料、及び/又は金属リチウムを含有する負極と、を備えるリチウムイオン電池が挙げられる。
【0030】
本実施形態の非水系二次電池としては、具体的には、図3及び4に図示される非水系二次電池であってもよい。ここで、図3は非水系二次電池を概略的に表す平面図であり、図4図3のA-A線断面図である。
【0031】
図3及び4に示す非水系二次電池100は、パウチ型セルで構成される。非水系二次電池100は、2枚のアルミニウムラミネートフィルムで構成した電池外装110の空間120内に、正極150と負極160とをセパレータ170を介して積層して構成した積層電極体と、非水系電解液(図示せず)とを収容している。電池外装110は、その外周部において、上下のアルミニウムラミネートフィルムを熱融着することにより封止されている。正極150、セパレータ170、及び負極160を順に積層した積層体には、非水系電解液が含浸されている。ただし、この図4では、図面が煩雑になることを避けるために、電池外装110を構成している各層、並びに正極150及び負極160の各層を区別して示していない。
【0032】
電池外装110を構成しているアルミニウムラミネートフィルムは、アルミニウム箔の両面をポリオレフィン系の樹脂でコートしたものであることが好ましい。
【0033】
正極150は、非水系二次電池100内で正極リード体130と接続している。図示していないが、負極160も、非水系二次電池100内で負極リード体140と接続している。そして、正極リード体130及び負極リード体140は、それぞれ、外部の機器等と接続可能なように、片端側が電池外装110の外側に引き出されており、それらのアイオノマー部分が、電池外装110の1辺と共に熱融着されている。
【0034】
図3及び4に図示される非水系二次電池100は、正極150及び負極160が、それぞれ1枚ずつの積層電極体を有しているが、容量設計により正極150及び負極160の積層枚数を適宜増やすことができる。正極150及び負極160をそれぞれ複数枚有する積層電極体の場合には、同一極のタブ同士を溶接等により接合したうえで1つのリード体に溶接等により接合して電池外部に取り出してもよい。上記同一極のタブとしては、集電体の露出部から構成される態様、集電体の露出部に金属片を溶接して構成される態様等が可能である。
【0035】
正極150は、正極合剤から作製した正極活物質層と、正極集電体とから構成される。負極160は、負極合剤から作製した負極活物質層と、負極集電体とから構成される。正極150及び負極160は、セパレータ170を介して正極活物質層と負極活物質層とが対向するように配置される。
【0036】
これらの各部材としては、本実施形態における各要件を満たしていれば、従来のリチウムイオン電池に備えられる材料を用いることができる。以下、非水系二次電池の各部材について更に詳細に説明する。
【0037】
[正極]
本実施形態に係る非水系二次電池において、正極は、正極集電体の片面又は両面に正極活物質層を有する。
【0038】
<正極活物質層>
正極活物質層は、正極活物質を含有し、必要に応じて、導電助剤及びバインダーを更に含有することが好ましい。
【0039】
(正極活物質)
正極活物質層は、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料を含有することが好ましい。このような材料を用いる場合、高電圧及び高エネルギー密度を得ることができる傾向にあるので好ましい。
【0040】
正極活物質としては、下記一般式(a):
LiNiCo ・・・(a)
{式中、Mは、Mn及びAlから成る群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Mは、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、且つ、0<p<1.3、0.5<q<1、0<r<0.3、0<s<0.3、0<t<0.3、0.7≦q+r+s+t≦1.2、1.8<u<2.2の範囲内であり、そしてpは、電池の充放電状態により決まる値である}で表されるリチウム含有金属酸化物、
または、
下記一般式(b):
LiNiCo ・・・(b)
{式中、Mは、Mn及びAlから成る群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Mは、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、且つ、0<p<1.3、0.5<q<1、0<r<0.3、0<s<0.3、0≦t<0.3、0.7≦q+r+s+t≦1.2、1.8<u<2.2の範囲内であり、そしてpは、電池の充放電状態により決まる値である}で表されるリチウム含有金属酸化物を含むコア粒子と、
コア粒子の表面の少なくとも一部の領域に存在し、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する被覆層との正極活物質複合体、を含むものが好適である。
【0041】
また、別の態様としては、前記正極にリチウム含有金属酸化物を含有し、
前記リチウム含有金属化合物が、下記一般式(c):
LiNiCoMn・・・(c)
{式中、0.5<x<1、0<y<0.3、0<z<0.3}、であることが好適である。前記一般式(c)の化合物は正極活物質である。
【0042】
正極活物質としては、例えば、
LiNiOに代表されるリチウムニッケル酸化物;
LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.75Co0.15Mn0.15、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.85Co0.075Mn0.075、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.81Co0.1Al0.09、およびLiNi0.85Co0.1Al0.05に代表されるLiMO(式中、MはNi、Mn、及びCoから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含み、且つ、Ni、Mn、Co、Al、及びMgから成る群より選ばれる2種以上の金属元素を示し、zは0.9超1.2未満の数を示す)で表されるリチウム含有複合金属酸化物;
上記リチウム含有複合金属酸化物に対して、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素が添加されたもの、または
上記リチウム含有複合金属酸化物を含むコア粒子と、前記コア粒子の表面の少なくとも一部の領域に存在し、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する被覆層と、を含むものが挙げられる。
【0043】
特に、一般式(a)または一般式(b)で表されるリチウム含有金属酸化物のNi含有比qが高く、0.7<q<1、0<r<0.2、0<s<0.2である場合には、レアメタルであるCoの使用量削減と、高エネルギー密度化の両方が達成されるため好ましい。同様の理由で、一般式(c)は、0.7<x<0.9、0<y<0.2、0<z<0.2を満たすことが好ましい。
【0044】
他方、リチウム含有金属酸化物中のNi含有比が高まるほど、高温環境下でサイクルの劣化が進行する傾向にある。
【0045】
本発明者らは、高温環境下で充放電を100サイクルした後の正極と100サイクルの工程を行う前の正極とを粉末X線回折で解析したところ、劣化が大きかった正極ほど、c軸の格子定数が長くなる傾向にあったことを見出した。従って、高温下での100サイクルの工程を行う前の正極のc軸の格子定数に対する、100サイクル後の正極のc軸の格子定数の変化率としては、1.0%以下が好ましく、0.8%以下がより好ましく、0.6%以下が更に好ましい。正極のc軸の格子定数の変化率が前記の範囲である場合、高温環境下で充放電サイクルした際の正極活物質の割れを抑制することができ、所望のサイクル特性を満足することができる。
【0046】
前記正極のc軸の格子定数の変化率を特定の範囲とする制御方法としては、例えば、特定の正極活物質を用いること、特定のアセトニトリルを含有した非水系電解液を用いること、等が挙げられる。具体的には、特定の正極活物質とは、前記一般式(a)又は(c)で表される前記リチウム含有金属酸化物や、前記一般式(b)で表されるリチウム含有金属酸化物を含むコア粒子と被覆層との正極活物質複合体であり、前記一般式(a)で表される前記リチウム含有金属酸化物又は前記正極活物質複合体がより好ましい。また、アセトニトリルを含有した非水系電解液とは、具体的には、アセトニトリルを非水系溶媒の全量に対して5~20体積%含み、かつ前記非水系電解液の20℃におけるイオン伝導度が、10mS/cm以上15mS/cm未満である電解液である。また、ジニトリル化合物や窒素含有環状化合物に代表される、正極の結晶構造を安定化する化合物を添加することにより、前記変化率を制御することができる。
【0047】
より詳細には、第1の実施形態に係る非水系二次電池の正極をCu-Kα線による粉末X線回折で解析したときのc軸の格子定数をc1とし、かつ
本実施形態に係る非水系二次電池を、25℃環境下で初回充放電処理(以下、工程1ともいう)の後、50℃環境下で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電した後、電流値が0.025Cとなるまで定電圧充電し、その後、定電流で3Vまで放電を行う工程(以下、「通電」工程ということがある)を1サイクルとし、この工程を100サイクル行う(以下、工程2ともいう)。その後、25℃環境下で電池電圧が2.5Vとなるまで定電流放電した後の非水系二次電池の正極をCu-Kα線による粉末X線回折で解析したときのc軸の格子定数をc2としたとき、
下記式1:
{(c2/c1)-1}×100 ・・・式1
で表される変化率が、1.0%以下であることが好ましく、0.8%以下がより好ましく、0.6%以下が更に好ましい。
【0048】
上記で説明された観点から、上記の通電工程を行う前の正極のc軸の格子定数c1及び通電工程を100サイクル行った正極のc軸の格子定数c2が、14.3Å以下(14.3×10-10m以下)であることも好ましい。なお、Cu-Kα線による正極の粉末X線回折は、実施例の項目において詳述される。
【0049】
初回充放電処理(工程1)は25℃環境下で行い、25℃環境下で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電し、次に電流値が0.025Cとなるまで定電圧充電した後、定電流で3Vまで放電する工程からなる。初回充放電処理(工程1)における定電流充電及び定電流放電は、安定強固なSEIを電極表面に形成する観点から、0.001~0.3Cで行われることが好ましく、0.002~0.25Cで行われることがより好ましく、0.003~0.2Cで行われることが更に好ましい。また、初回充放電処理(工程1)における定電流充電の方法としては、安定強固なSEIを電極表面に形成する観点から、4.2Vより低い特定の電池電圧まである電流密度で定電流充電を行った後、電池電圧が4.2Vとなるまで異なる電流密度で定電流充電を行うことも可能である。また、安定強固なSEIを電極表面に形成する観点から、初回充放電処理(工程1)を複数回繰り返すこともできる。繰り返す回数としては、1~5回が好ましく、1~4回がより好ましく、1~3回が更に好ましい。
【0050】
工程2は、50℃環境下で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電した後、電流値が0.025Cとなるまで定電圧充電し、その後、定電流で3Vまで放電を行う工程(以下、「通電」工程ということがある)を1サイクルとし、この工程を100サイクル行う工程からなる。工程2における定電流充電及び定電流放電は、0.1~2Cで行われることが好ましく、0.5~1.75Cで行われることがより好ましく、1.0~1.5Cで行われることが更に好ましい。
【0051】
工程2の後、25℃環境下で電池電圧が2.5Vとなるまで定電流放電し、不活性雰囲気下で非水系二次電池を解体して正極を取り出し、ジエチルカーボネートなどの有機溶媒で洗浄後、乾燥し、粉末X線回折装置による測定を行う。解体直前に行う定電流放電は、0.01~1Cで行われることが好ましく、0.05~0.5Cで行われることがより好ましく、0.1~0.25Cで行われることが更に好ましい。この正極のc軸の格子定数をc2とする。
【0052】
組み立て前の非水系二次電池を測定する場合、前記非水系二次電池を組み立てる前の正極をCu-Kα線による粉末X線回折で解析したときのc軸の格子定数をc1とする。
【0053】
尚、組み立て済の非水系二次電池を測定する場合、25℃環境下で電池電圧が2.5V以下となるまで定電流放電し、不活性雰囲気下で非水系二次電池を解体して正極を取り出し、ジエチルカーボネートなどの有機溶媒で洗浄後、乾燥し、粉末X線回折装置による測定を行う。解体直前に行う定電流放電は、0.01~1Cで行われることが好ましく、0.05~0.5Cで行われることがより好ましく、0.1~0.25Cで行われることが更に好ましい。この正極のc軸の格子定数をc1とする。また、組み立て済の非水系二次電池を測定する場合、測定用の非水系二次電池は2つ用意する。片方の非水系二次電池は工程1を行う前に解体してc1を測定し、もう片方の非水系二次電池は工程1及び工程2を行った後に解体してc2を測定する。
【0054】
第1の実施形態に用いる正極活物質は、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素をドープ元素として含有するリチウム含有金属酸化物を含むか、
または、
リチウム含有金属酸化物を含むコア粒子と、
前記コア粒子の表面の少なくとも一部の領域に存在し、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素をコート元素として含有する被覆層と、を含むことが好ましい。
【0055】
正極活物質がドープ元素を含有することで、正極活物質の結晶構造が安定化され、不均一なリチウム引き抜きにより劣化が進行した際のスピネル転移が抑制される。これらの効果によってc軸の格子定数の変化率が抑制され、正極活物質の割れが抑制される。その結果、高温環境下における各種劣化現象を抑制できる。
【0056】
ドープ元素としては、正極活物質の結晶構造を強く安定化するという観点から、Zr、W、Ti、Mg、Ta、及びNbが好ましく、Zr及びTiがより好ましく、Zrが更に好ましい。同様の観点から、一般式(a)または(b)中のMが、Zrを含むことも好ましい。
【0057】
正極活物質が被覆層を含有することで、アセトニトリルを含む非水系電解液の正極活物質粒子深部への拡散速度を低下させ、正極活物質粒子深部におけるリチウム引き抜きを抑制するとともに、正極活物質の結晶構造が安定化され、不均一なリチウム引き抜きにより劣化が進行した際のスピネル転移が抑制される。これらの効果によってc軸の格子定数の変化率が抑制され、正極活物質の割れが抑制される。その結果、高温環境下における各種劣化現象を抑制できる。
【0058】
被覆層に含まれるコート元素としては、正極活物質の結晶構造を強く安定化するという観点から、Zr、W、Al、Ti、Mg、Ta、及びNbが好ましく、Zr、Al、及びTiがより好ましく、Zrが更に好ましい。
【0059】
また、被覆層としては、正極活物質の結晶構造を強く安定化するという観点から、Zr、W、Al、Ti、Mg、Ta、及びNbから成る群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物が好ましく、Zr、Al、及び/又はTiの酸化物がより好ましく、ジルコニウム(Zr)酸化物(例えば、ジルコニア等)が更に好ましい。コート元素にZr酸化物を用いた場合には、被覆層を含まない場合またはAl酸化物若しくはTi酸化物を被覆層として含む場合と比較して、顕著にc軸の格子定数の変化率を低く抑制でき、高温環境下における各種劣化現象を抑制できることが明らかになった。
【0060】
正極活物質に関して、ドープ元素を含有する場合と比較して、被覆層を含有する場合の方が、アセトニトリルを含む非水系電解液の正極活物質粒子深部への拡散速度を低下させ、正極活物質粒子深部におけるリチウム引き抜きを抑制する観点から好ましい。
【0061】
高温環境下で充放電を100サイクルした後の正極を断面SEMで観察したところ、一次粒子間に多数の割れが確認された。これらが、電解液の酸化分解反応、内部抵抗の増加、遷移金属の溶出を引き起こし、サイクル性能の低下を招いている。これらの充放電に伴う正極活物質の割れは、結晶の膨張収縮によって生じる結晶界面の応力により引き起こされると考えられる。ここで、結晶子サイズが大きい正極活物質は、結晶子サイズが小さい正極活物質と比較して、結晶子間界面の割合が低減されるため、大きな結晶子サイズに制御することで、高温環境下の各種劣化を抑制することができる。従って、上記の通電工程を100サイクル行った正極の結晶子サイズとしては、500Å以上が好ましく、600Å以上がより好ましい。
【0062】
正極活物質としては、式(a)及び(b)で表されるリチウム含有金属酸化物以外のリチウム含有化合物であってもよく、リチウムを含有するものであれば特に限定されない。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、リチウムを有する金属カルコゲン化物、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸金属化合物、及びリチウムと遷移金属元素とを含むケイ酸金属化合物が挙げられる。より高い電圧を得る観点から、リチウム含有化合物としては、特に、リチウムと、Co、Ni、Mn、Fe、Cu、Zn、Cr、V、及びTiから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素と、を含むリン酸金属化合物が好ましい。
【0063】
リチウム含有化合物として、より具体的には、以下の式(Xa):
Li (Xa)
{式中、Dはカルコゲン元素を示し、Mは、1種以上の遷移金属元素を示し、vの値は、電池の充放電状態により決まり、0.05~1.10の数を示す。}、
以下の式(Xb):
LiIIPO (Xb)
{式中、Dはカルコゲン元素を示し、MIIは、1種以上の遷移金属元素を示し、wの値は、電池の充放電状態により決まり、0.05~1.10の数を示す。}、及び
以下の式(Xc):
LiIII SiO (Xc)
{式中、Dはカルコゲン元素を示し、MIIIは、1種以上の遷移金属元素を示し、tの値は、電池の充放電状態により決まり、0.05~1.10の数を示し、そしてuは0~2の数を示す。}
のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【0064】
上述の式(Xa)で表されるリチウム含有化合物は層状構造を有し、上述の式(Xb)及び(Xc)で表される化合物はオリビン構造を有する。これらのリチウム含有化合物は、構造を安定化させる等の目的から、Al、Mg、又はその他の遷移金属元素により遷移金属元素の一部を置換したもの、これらの金属元素を結晶粒界に含ませたもの、酸素原子の一部をフッ素原子等で置換したもの、正極活物質表面の少なくとも一部に他の正極活物質を被覆したもの等であってもよい。
【0065】
本実施形態における正極活物質としては、上記のようなリチウム含有化合物を用いてもよいし、該リチウム含有化合物と共にその他の正極活物質を併用してもよい。このようなその他の正極活物質としては、例えば、トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物又は金属カルコゲン化物;イオウ;導電性高分子等が挙げられる。トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物、又は金属カルコゲン化物としては、例えば、MnO、FeO、FeS、V、V13、TiO、TiS、MoS、及びNbSeに代表されるリチウム以外の金属の酸化物、硫化物、セレン化物等が挙げられる。導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、及びポリピロールに代表される導電性高分子が挙げられる。
【0066】
上述のその他の正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられ、特に制限はない。しかしながら、リチウムイオンを可逆安定的に吸蔵及び放出することが可能であり、且つ、高エネルギー密度を達成できることから、正極活物質層がNi、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有することが好ましい。
【0067】
正極活物質として、リチウム含有化合物とその他の正極活物質とを併用する場合、両者の使用割合としては、正極活物質の全部に対するリチウム含有化合物の使用割合として、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。
【0068】
(導電助剤)
導電助剤としては、例えば、グラファイト、アセチレンブラック、及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック、並びに炭素繊維が挙げられる。導電助剤の含有割合は、正極活物質100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは1~5質量部である。
【0069】
(バインダー)
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、及びフッ素ゴムが挙げられる。バインダーの含有割合は、正極活物質100質量部に対して、6質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5~4質量部である。
【0070】
<正極集電体>
正極集電体は、例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔、ステンレス箔等の金属箔により構成される。正極集電体は、表面にカーボンコートが施されていてもよく、メッシュ状に加工されていてもよい。正極集電体の厚みは、5~40μmであることが好ましく、7~35μmであることがより好ましく、9~30μmであることが更に好ましい。
【0071】
<正極活物質層の形成>
正極活物質層は、正極活物質と、必要に応じて導電助剤及びバインダーとを混合した正極合剤を溶剤に分散した正極合剤含有スラリーを、正極集電体に塗布及び乾燥(溶媒除去)し、必要に応じてプレスすることにより形成される。このような溶剤としては、特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。例えば、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水等が挙げられる。
【0072】
[負極]
負極160は、負極合剤から作製した負極活物質層と、負極集電体とから構成される。負極160は、非水系二次電池の負極として作用することができる。
【0073】
負極活物質層は、負極活物質を含有し、必要に応じて導電助剤及びバインダーを含有することが好ましい。
【0074】
負極活物質としては、例えば、アモルファスカーボン(ハードカーボン)、人造黒鉛、天然黒鉛、熱分解炭素、コークス、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、グラファイト、炭素コロイド、及びカーボンブラックに代表される炭素材料の他、金属リチウム、金属酸化物、金属窒化物、リチウム合金、スズ合金、シリコン合金、金属間化合物、有機化合物、無機化合物、金属錯体、有機高分子化合物等が挙げられる。負極活物質は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0075】
負極活物質層は、電池電圧を高められるという観点から、負極活物質としてリチウムイオンを0.4V vs.Li/Liよりも卑な電位で吸蔵することが可能な材料を含有することが好ましい。
【0076】
導電助剤としては、例えば、グラファイト、アセチレンブラック、及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック、並びに炭素繊維が挙げられる。導電助剤の含有割合は、負極活物質100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.1~10質量部である。
【0077】
バインダーとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース、PVDF、PTFE、ポリアクリル酸、及びフッ素ゴムが挙げられる。また、ジエン系ゴム、例えばスチレンブタジエンゴム等も挙げられる。バインダーの含有割合は、負極活物質100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5~6質量部である。
【0078】
負極活物質層は、負極活物質と必要に応じて導電助剤及びバインダーとを混合した負極合剤を溶剤に分散した負極合剤含有スラリーを、負極集電体に塗布及び乾燥(溶媒除去)し、必要に応じてプレスすることにより形成される。このような溶剤としては、特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。例えば、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水等が挙げられる。
【0079】
負極集電体は、例えば、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔等の金属箔により構成される。また、負極集電体は、表面にカーボンコートが施されていてもよいし、メッシュ状に加工されていてもよい。負極集電体の厚みは、5~40μmであることが好ましく、6~35μmであることがより好ましく、7~30μmであることが更に好ましい。
【0080】
[非水系電解液]
本明細書では、「非水系電解液」(以下、単に「電解液」ともいう)とは、電解液全量に対し、水が1質量%以下の電解液を指す。
【0081】
本実施形態に係る電解液は、水分を極力含まないことが好ましいが、本発明の課題解決を阻害しない範囲であれば、ごく微量の水分を含有してもよい。そのような水分の含有量は、非水系電解液の全量に対して300質量ppm以下であり、更に好ましくは200質量ppm以下である。非水系電解液については、本発明の課題解決を達成するための構成を具備していれば、その他の構成要素については、リチウムイオン電池に用いられる既知の非水系電解液における構成材料を、適宜選択して適用することができる。
【0082】
第1の実施形態に係る電解液は、アセトニトリルと、非水系溶媒と、リチウム塩と、を含むことができる。第1の実施形態では、負極における過度な内部抵抗の増加を抑制するという観点から、電解液は、酸無水物を含まないことが好ましい。
【0083】
<非水系溶媒>
【0084】
ここで、非水系溶媒について説明する。本実施形態でいう「非水系溶媒」とは、電解液中からリチウム塩及び各種添加剤を除いた要素をいう。電解液に電極保護用添加剤が含まれている場合、「非水系溶媒」とは、電解液中からリチウム塩及び電極保護用添加剤以外の添加剤を除いた要素をいう。非水系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;非プロトン性溶媒等が挙げられる。中でも、非プロトン性溶媒が好ましい。本発明の効果が損なわれない範囲であれば、非水系溶媒は非プロトン性溶媒以外の溶媒を含有していてもよい。
【0085】
例えば、非水系電解液に係る非水系溶媒は、非プロトン性溶媒としてアセトニトリルを含有することができる。非水系溶媒がアセトニトリルを含有することにより、非水系電解液のイオン伝導性が向上することから、電池内におけるリチウムイオンの拡散性を高めることができる。そのため、非水系電解液がアセトニトリルを含有する場合、特に正極活物質層を厚くして正極活物質の充填量を高めた正極においても、高負荷での放電時にはリチウムイオンが到達し難い集電体近傍の領域にまで、リチウムイオンが良好に拡散できるようになる。よって、高負荷放電時にも十分な容量を引き出すことが可能となり、負荷特性に優れた非水系二次電池を得ることができる。
【0086】
また、非水系溶媒がアセトニトリルを含有することにより、非水系二次電池の急速充電特性を高めることができる。非水系二次電池の定電流(CC)-定電圧(CV)充電では、CV充電期間における単位時間当たりの充電容量よりも、CC充電期間における単位時間当たりの容量の方が大きい。非水系電解液の非水系溶媒にアセトニトリルを使用する場合、CC充電できる領域を大きく(CC充電の時間を長く)できる他、充電電流を高めることもできるため、非水系二次電池の充電開始から満充電状態にするまでの時間を大幅に短縮できる。
【0087】
なお、アセトニトリルは、電気化学的に還元分解され易い。また、アセトニトリルを含有する非水系電解液を用いた従来のリチウムイオン二次電池が長期耐久性能に劣ることがある。各種検証実験の結果から、アセトニトリルを含有する非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池が長期耐久性能に劣る理由は、以下のように考察される:
・アセトニトリルを含有する非水系電解液は、既存電解液に比べて高いイオン伝導度を持つため、充電時に正極から、より多くのリチウムイオンの引き抜きが起こる。従って、充電時の正極中には4価のNiを含む多価の遷移金属が多く存在し、金属が溶出し易い傾向にある。この傾向は、正極活物質として、Niの含有率が高いリチウムニッケル含有複合金属酸化物を用いた場合に顕著である。そのため、アセトニトリルを用いる場合、非水系溶媒としてアセトニトリルとともに他の溶媒(例えば、アセトニトリル以外の非プロトン性溶媒)を併用すること、及び/又は、電極への保護被膜形成のための電極保護用添加剤を添加すること、を行うことが好ましい。
【0088】
アセトニトリルの含有量は、非水系溶媒の全量当たりの量として、5~20体積%であることが好ましい。アセトニトリルの含有量は、非水系溶媒の全量当たりの量として、5体積%以上であることがより好ましく、10体積%以上であることが更に好ましい。この値は、20体積%以下であることがより好ましく、17.5体積%以下であることが更に好ましい。アセトニトリルの含有量が、非水系溶媒の全量当たりの量として5体積%以上である場合、イオン伝導度が増大して高出力特性を発現できる傾向にあり、更に、リチウム塩の溶解を促進することができる。アセトニトリルの含有量が、非水系溶媒の全量当たりの量として20体積%以下である場合、正極のリチウム引き抜き量が均一化し、正極活物質の割れが抑制される。また、正極のリチウム引き抜き量が均一化することで、不均一なリチウム引き抜きにより促進されるスピネル転移が抑制され、正極のc軸の格子定数の変化率が抑制され、正極活物質の割れが抑制される。その結果、高温環境下における各種劣化現象を抑制できる。後述の添加剤が電池の内部抵抗の増加を抑制するため、非水系溶媒中のアセトニトリルの含有量が上記の範囲内にある場合、アセトニトリルの優れた性能を維持しながら、高温サイクル特性及びその他の電池特性を一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0089】
アセトニトリル以外の非プロトン性溶媒としては、例えば、環状カーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ラクトン、硫黄原子を有する有機化合物、鎖状フッ素化カーボネート、環状エーテル、アセトニトリル以外のモノニトリル、アルコキシ基置換ニトリル、環状ニトリル、短鎖脂肪酸エステル、鎖状エーテル、フッ素化エーテル、ケトン、前記非プロトン性溶媒のH原子の一部または全部をハロゲン原子で置換した化合物等が挙げられる。
【0090】
環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、トランス-2,3-ブチレンカーボネート、シス-2,3-ブチレンカーボネート、1,2-ペンチレンカーボネート、トランス-2,3-ペンチレンカーボネート、シス-2,3-ペンチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、及びビニルエチレンカーボネート;
フルオロエチレンカーボネートとしては、例えば、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、シス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5,5-テトラフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、及び4,4,5-トリフルオロ-5-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;
ラクトンとしては、γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、及びε-カプロラクトン;
硫黄原子を有する有機化合物としては、例えば、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ブチレンサルファイト、ペンテンサルファイト、スルホラン、3-スルホレン、3-メチルスルホラン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1-プロペン1,3-スルトン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、及びエチレングリコールサルファイト;
鎖状カーボネートとしては、例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート;
環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、及び1,3-ジオキサン;
アセトニトリル以外のモノニトリルとしては、例えば、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、及びアクリロニトリル;
アルコキシ基置換ニトリルとしては、例えば、メトキシアセトニトリル及び3-メトキシプロピオニトリル;
環状ニトリルとしては、例えば、ベンゾニトリル;
短鎖脂肪酸エステルとしては、例えば、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、イソ酪酸メチル、酪酸メチル、イソ吉草酸メチル、吉草酸メチル、ピバル酸メチル、ヒドロアンゲリカ酸メチル、カプロン酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、イソ酪酸エチル、酪酸エチル、イソ吉草酸エチル、吉草酸エチル、ピバル酸エチル、ヒドロアンゲリカ酸エチル、カプロン酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸プロピル、イソ酪酸プロピル、酪酸プロピル、イソ吉草酸プロピル、吉草酸プロピル、ピバル酸プロピル、ヒドロアンゲリカ酸プロピル、カプロン酸プロピル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸イソプロピル、イソ酪酸イソプロピル、酪酸イソプロピル、イソ吉草酸イソプロピル、吉草酸イソプロピル、ピバル酸イソプロピル、ヒドロアンゲリカ酸イソプロピル、カプロン酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、イソ酪酸ブチル、酪酸ブチル、イソ吉草酸ブチル、吉草酸ブチル、ピバル酸ブチル、ヒドロアンゲリカ酸ブチル、カプロン酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸イソブチル、イソ酪酸イソブチル、酪酸イソブチル、イソ吉草酸イソブチル、吉草酸イソブチル、ピバル酸イソブチル、ヒドロアンゲリカ酸イソブチル、カプロン酸イソブチル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸tert-ブチル、イソ酪酸tert-ブチル、酪酸tert-ブチル、イソ吉草酸tert-ブチル、吉草酸tert-ブチル、ピバル酸tert-ブチル、ヒドロアンゲリカ酸tert-ブチル、及びカプロン酸tert-ブチル;
鎖状エーテルとしては、例えば、ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3-ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、及びテトラグライム;
フッ素化エーテルとしては、例えば、Rf20-OR21(Rf20はフッ素原子を含有するアルキル基、R7はフッ素原子を含有してよい有機基);
ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトン;
前記非プロトン性溶媒のH原子の一部または全部をハロゲン原子で置換した化合物としては、例えば、ハロゲン原子がフッ素である化合物;
を挙げることができる。
【0091】
ここで、鎖状カーボネートのフッ素化物としては、例えば、メチルトリフルオロエチルカーボネート、トリフルオロジメチルカーボネート、トリフルオロジエチルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、メチル2,2-ジフルオロエチルカーボネート、メチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート、メチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルカーボネートが挙げられる。上記のフッ素化鎖状カーボネートは、下記の一般式:
29-O-C(O)O-R30
(式中、R29及びR30は、CH3、CH2CH3、CH2CH2CH3、CH(CH32、及びCH2Rf31から成る群より選択される少なくとも一つであり、Rf31は、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換された炭素数1~3のアルキル基であり、そしてR29及び/又はR30は、少なくとも1つのフッ素原子を含有する)で表すことができる。
【0092】
また、短鎖脂肪酸エステルのフッ素化物としては、例えば、酢酸2,2-ジフルオロエチル、酢酸2,2,2-トリフルオロエチル、酢酸2,2,3,3-テトラフルオロプロピルに代表されるフッ素化短鎖脂肪酸エステルが挙げられる。フッ素化短鎖脂肪酸エステルは、下記の一般式:
32-C(O)O-R33
(式中、R32は、CH3、CH2CH3,CH2CH2CH3、CH(CH32、CF3CF2H、CFH2、CF2Rf34、CFHRf34、及びCH2Rf35から成る群より選択される少なくとも一つであり、R33は、CH3、CH2CH3、CH2CH2CH3、CH(CH32、及びCH2Rf35から成る群より選択される少なくとも一つであり、Rf34は、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換されてよい炭素数1~3のアルキル基であり、Rf35は、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換された炭素数1~3のアルキル基であり、そしてR32及び/又はR33は、少なくとも1つのフッ素原子を含有し、R32がCF2Hである場合、R33はCH3ではない)で表すことができる。
【0093】
本実施形態におけるアセトニトリル以外の非プロトン性溶媒は、1種を単独で使用することができ、又は2種以上を組み合わせて使用してよい。
【0094】
本実施形態における非水系溶媒は、アセトニトリルとともに、環状カーボネート及び鎖状カーボネートのうちの1種以上を併用することが、非水系電解液の安定性向上の観点から好ましい。この観点から、本実施形態における非水系溶媒は、アセトニトリルとともに環状カーボネートを併用することがより好ましく、アセトニトリルとともに環状カーボネート及び鎖状カーボネートの双方を使用することが、更に好ましい。
【0095】
アセトニトリルとともに環状カーボネートを使用する場合、かかる環状カーボネートが、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート及び/又はフルオロエチレンカーボネートを含むことが特に好ましい。
【0096】
<リチウム塩>
本実施形態の非水系電解液は、リチウム塩について上記で限定していない限り、特に限定するものではない。例えば、本実施形態では、リチウム塩として、LiPF又はイミド塩を含む。
【0097】
本実施形態の非水系電解液におけるリチウム塩の含有量は、非水系溶媒1L当たりの量として、3モル未満であることが好ましい。リチウム塩の含有量が上述の範囲内にある場合、過度な粘度の上昇が抑制され、イオン伝導度が増大し高出力特性を発現できる傾向にある。
【0098】
(イミド塩)
イミド塩とは、LiN(SO2m+1〔式中、mは0~8の整数〕で表されるリチウム塩であり、具体的には、LiN(SOF)、及びLiN(SOCFのうち少なくとも1種を含むことが好ましい。これらイミド塩の一方のみ含んでも両方含んでもよい。又は、これらのイミド塩以外のイミド塩を含んでいてもよい。
【0099】
非水系溶媒にアセトニトリルが含まれる場合、アセトニトリルに対するイミド塩の飽和濃度がLiPFの飽和濃度よりも高いことから、LiPF≦イミド塩となるモル濃度でイミド塩を含むことが、低温でのリチウム塩とアセトニトリルの会合及び析出を抑制できるため好ましい。また、イミド塩の含有量が、非水系溶媒1Lに対して0.5mol以上3mol以下であることがイオン供給量の観点から好ましい。LiN(SOF)、及びLiN(SOCFのうち少なくとも1種を含むアセトニトリル含有非水系電解液によれば、-10℃又は-30℃のような低温域でのイオン伝導率の低減を効果的に抑制でき、優れた低温特性を得ることができる。このように、含有量を限定することで、より効果的に、高温加熱時の抵抗増加を抑制することも可能となる。
【0100】
(フッ素含有無機リチウム塩)
また、リチウム塩は、LiPF以外のフッ素含有無機リチウム塩を含んでもよく、例えば、LiBF、LiAsF、LiSiF、LiSbF、Li1212-b〔式中、bは0~3の整数〕、等のフッ素含有無機リチウム塩を含んでもよい。「無機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含まず、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいう。また、「フッ素含有無機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含まず、フッ素原子をアニオンに含み、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいう。フッ素含有無機リチウム塩は、正極集電体である金属箔の表面に不働態被膜を形成し、正極集電体の腐食を抑制する点で優れている。これらのフッ素含有無機リチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。フッ素含有無機リチウム塩として、LiFとルイス酸との複塩である化合物が望ましく、中でも、リン原子を有するフッ素含有無機リチウム塩を用いると、遊離のフッ素原子を放出し易くなることからより好ましい。代表的なフッ素含有無機リチウム塩は、溶解してPFアニオンを放出するLiPFである。フッ素含有無機リチウム塩として、ホウ素原子を有するフッ素含有無機リチウム塩を用いた場合には、電池劣化を招くおそれのある過剰な遊離酸成分を捕捉し易くなることから好ましく、このような観点からはLiBFが特に好ましい。
【0101】
本実施形態の非水系電解液におけるフッ素含有無機リチウム塩の含有量については、特に制限はないが、非水系溶媒1Lに対して0.01mol以上であることが好ましく、0.1mol以上であることがより好ましく、0.25mol以上であることが更に好ましい。フッ素含有無機リチウム塩の含有量が上述の範囲内にある場合、イオン伝導度が増大し高出力特性を発現できる傾向にある。また、非水系溶媒1Lに対して2.8mol未満であることが好ましく、1.5mol未満であることがより好ましく、1mol未満であることが更に好ましい。フッ素含有無機リチウム塩の含有量が上述の範囲内にある場合、イオン伝導度が増大し高出力特性を発現できると共に、低温での粘度上昇に伴うイオン伝導度の低下を抑制できる傾向にあり、非水系電解液の優れた性能を維持しながら、高温サイクル特性及びその他の電池特性を一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0102】
(有機リチウム塩)
本実施形態の非水系電解液は、更に、有機リチウム塩を含んでいてもよい。「有機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含み、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいう。
【0103】
有機リチウム塩としては、シュウ酸基を有する有機リチウム塩を挙げることができる。シュウ酸基を有する有機リチウム塩の具体例としては、例えば、LiB(C、LiBF(C)、LiPF(C)、及びLiPF(Cのそれぞれで表される有機リチウム塩等が挙げられ、中でもLiB(C及びLiBF(C)で表されるリチウム塩から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が好ましい。また、これらのうちの1種又は2種以上を、フッ素含有無機リチウム塩と共に使用することがより好ましい。このシュウ酸基を有する有機リチウム塩は、非水系電解液に添加する他、負極(負極活物質層)に含有させてもよい。
【0104】
シュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液への添加量は、その使用による効果をより良好に確保する観点から、非水系電解液の非水系溶媒1L当たりの量として、0.005モル以上であることが好ましく、0.02モル以上であることがより好ましく、0.05モル以上であることが更に好ましい。ただし、前記シュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液中の量が多すぎると析出する恐れがある。よって、前記シュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液への添加量は、非水系電解液の非水系溶媒1L当たりの量で、1.0モル未満であることが好ましく、0.5モル未満であることがより好ましく、0.2モル未満であることが更に好ましい。
【0105】
シュウ酸基を有する有機リチウム塩は、極性の低い有機溶媒、特に鎖状カーボネートに対して難溶性であることが知られている。シュウ酸基を有する有機リチウム塩は、微量のシュウ酸リチウムを含有している場合があり、更に、非水系電解液として混合するときにも、他の原料に含まれる微量の水分と反応して、シュウ酸リチウムの白色沈殿を新たに発生させる場合がある。従って、本実施形態の非水系電解液におけるシュウ酸リチウムの含有量は、特に限定するものでないが、0~500ppmであることが好ましい。
【0106】
(その他のリチウム塩)
本実施形態におけるリチウム塩として、上記以外に、一般に非水系二次電池用に用いられているリチウム塩を補助的に添加してもよい。その他のリチウム塩の具体例としては、例えば、LiClO、LiAlO、LiAlCl、LiB10Cl10、クロロボランLi等のフッ素原子をアニオンに含まない無機リチウム塩;LiCFSO、LiCFCO、Li(SO、LiC(CFSO、LiC(2n+1)SO(式中、n≧2)、低級脂肪族カルボン酸Li、四フェニルホウ酸Li、LiB(C等の有機リチウム塩;LiPF(CF)等のLiPF(C2p+16-n〔式中、nは1~5の整数、pは1~8の整数〕で表される有機リチウム塩;LiBF(CF)等のLiBF(C2s+14-q〔式中、qは1~3の整数、sは1~8の整数〕で表される有機リチウム塩;多価アニオンと結合されたリチウム塩;下記式(a):
LiC(SO)(SO)(SO) (a)
{式中、R、R、及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を示す。}、
下記式(b)
LiN(SOOR)(SOOR) (b)
{式中、R、及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を示す。}、及び
下記式(c)
LiN(SO)(SOOR) (c)
{式中、R、及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を示す。}
のそれぞれで表される有機リチウム塩等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を、フッ素含有無機リチウム塩と共に使用することができる。
【0107】
<ジニトリル化合物>
本実施形態に係る非水系電解液は、
下記一般式(1):
【化4】
{式中、Rは炭素数が1~12の直鎖状または分枝状の、酸素原子を含んでもよい2価の脂肪族アルキル基を示す}
で表されるジニトリル化合物を含むことが好ましい。ジニトリル化合物は、高い金属配位能を持つニトリル基が正極活物質中の遷移金属に配位することで、正極の結晶構造を安定化すると推測され、その結果、c軸の格子定数の変化率が抑制され、正極活物質の割れが抑制される。その結果、高温環境下における各種劣化現象を抑制できる。
【0108】
上記一般式(1)において、直鎖状もしくは分岐状の2価の脂肪族アルキル基Rの炭素数としては、炭素数1~12が好ましく、炭素数1~10がより好ましく、炭素数1~8が特に好ましい。
【0109】
直鎖状のジニトリル化合物の具体例としては、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,7-ジシアノヘプタン、1,8-ジシアノオクタン、1,9-ジシアノノナン、1,10-ジシアノデカン、1,12-ジシアノドデカンなどが挙げられる。
【0110】
また、分枝状のジニトリル化合物の具体例としては、メチルスクシノニトリル、テトラメチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、2,4-ジメチルグルタロニトリル、1,4-ジシアノペンタン、1,4-ジシアノヘプタン、1,5-ジシアノヘプタン、2,6-ジシアノヘプタン、1,7-ジシアノオクタン、2,7-ジシアノオクタン、1,8-ジシアノノナン、2,8-ジシアノノナン、1,6-ジシアノデカンなどが挙げられる。
【0111】
また、酸素原子を含むジニトリル化合物の具体例としては、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、ジエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、1,3-ビス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,4-ビス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,5-ビス(2-シアノエトキシ)ペンタンなどが挙げられる。
【0112】
上記の化合物の具体例の中では、好ましくは、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、及びエチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテルであり、より好ましくは、スクシノニトリル、グルタロニトリル、メチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、及びエチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテルであり、さらに好ましくは、スクシノニトリル、メチルスクシノニトリル、及びエチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテルである。これらは、1種、もしくは2種以上併用して用いることができる。
【0113】
非水系電解液に含まれるジニトリル化合物の含有量は、非水系電解液の全量に対して、25質量%以下であり、20質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることがより好ましい。また、非水系電解液に含まれるジニトリル化合物の含有量は、非水系電解液の全量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることがさらに好ましく、5質量%以上であることが特に好ましい。ジニトリル化合物の含有量を上述の範囲内に調整することにより、アセトニトリルの備える高イオン伝導性や高出力特性等の特性を維持しながら、正極の結晶構造を安定化でき、高温環境下における各種劣化現象を抑制できる。
【0114】
<窒素含有環状化合物>
本実施形態における電解液は、添加剤として下記一般式(2):
【化5】
{式(2)中、R、R、及びRで表される置換基は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフッ素置換アルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のフッ素置換アルコキシ基、フェニル基、シクロヘキシル基、ニトリル基、ニトロ基、アミノ基、N,N’-ジメチルアミノ基、又はN,N’-ジエチルアミノ基であり、これらの置換基のうち2つ以上は水素原子である。}で表される化合物(窒素含有環状化合物)を含むことが好ましい。
【0115】
上記窒素含有環状化合物の具体例としては、例えば、ピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、4-エチルピリジン、2-(n-プロピル)ピリジン、3-(n-プロピル)ピリジン、4-(n-プロピル)ピリジン、2-イソプロピルピリジン、3-イソプロピルピリジン、4-イソプロピルピリジン、2-(n-ブチル)ピリジン、3-(n-ブチル)ピリジン、4-(n-ブチル)ピリジン、2-(1-メチルプロピル)ピリジン、3-(1-メチルプロピル)ピリジン、4-(1-メチルプロピル)ピリジン、2-(2-メチルプロピル)ピリジン、3-(2-メチルプロピル)ピリジン、4-(2-メチルプロピル)ピリジン、2-(tert-ブチル)ピリジン、3-(tert-ブチル)ピリジン、4-(tert-ブチル)ピリジン、2-トリフルオロメチルピリジン、3-トリフルオロメチルピリジン、4-トリフルオロメチルピリジン、2-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピリジン、3-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピリジン、4-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピリジン、2-(ペンタフルオロエチル)ピリジン、3-(ペンタフルオロエチル)ピリジン、4-(ペンタフルオロエチル)ピリジン、2-メトキシピリジン、3-メトキシピリジン、4-メトキシピリジン、2-エトキシピリジン、3-エトキシピリジン、4-エトキシピリジン、2-(n-プロポキシ)ピリジン、3-(n-プロポキシ)ピリジン、4-(n-プロポキシ)ピリジン、2-イソプロポキシピリジン、3-イソプロポキシピリジン、4-イソプロポキシピリジン、2-(n-ブトキシ)ピリジン、3-(n-ブトキシ)ピリジン、4-(n-ブトキシ)ピリジン、2-(1-メチルプロポキシ)ピリジン、3-(1-メチルプロポキシ)ピリジン、4-(1-メチルプロポキシ)ピリジン、2-(2-メチルプロポキシ)ピリジン、3-(2-メチルプロポキシ)ピリジン、4-(2-メチルプロポキシ)ピリジン、2-トリフルオロメトキシピリジン、3-トリフルオロメトキシピリジン、4-トリフルオロメトキシピリジン、2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリジン、3-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリジン、4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリジン、2-フェニルピリジン、3-フェニルピリジン、4-フェニルピリジン、2-シクロヘキシルピリジン、3-シクロヘキシルピリジン、4-シクロヘキシルピリジン、2-シアノピリジン、3-シアノピリジン、4-シアノピリジン、2-アミノピリジン、3-アミノピリジン、4-アミノピリジン、2-(N,N’-ジメチルアミノ)ピリジン、3-(N,N’-ジメチルアミノ)ピリジン、4-(N,N’-ジメチルアミノ)ピリジン、2-(N,N’-ジエチルアミノ)ピリジン、3-(N,N’-ジエチルアミノ)ピリジン、及び4-(N,N’-ジエチルアミノ)ピリジンが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0116】
窒素含有環状化合物における窒素原子周辺には立体障害が存在しないことが望ましい。そのため、上記一般式(2)中のRは水素原子であることが好ましく、R及びRが共に水素原子であることがより好ましい。上記一般式(2)中のR及びRがともに水素原子である場合、窒素原子上に存在する非共有電子対に及ぼす電子的効果の観点から、上記一般式(2)中のRは、水素原子又はtert-ブチル基であることが特に好ましい。
【0117】
本実施形態の電解液が添加剤として上記一般式(2)で表される窒素含有環状化合物を含有することによって、c軸の格子定数の変化率が抑制される傾向にあった。窒素含有環状化合物がLiPFの安定剤として作用するだけでなく、正極活物質の相転移も抑制し結晶構造の安定化に寄与し、正極活物質の割れが抑制される。その結果、高温環境下における各種劣化現象を抑制できる。
【0118】
本実施形態における電解液中の窒素含有環状化合物の含有量については、特に制限はないが、電解液の全量を基準として、0.01~10質量%であることが好ましく、0.02~5質量%であることがより好ましく、0.05~3質量%であることが更に好ましい。窒素含有環状化合物の含有量を上述の範囲内に調整することにより、アセトニトリルの備える高イオン伝導性や高出力特性等の特性を維持しながら、正極の結晶構造を安定化でき、高温環境下における各種劣化現象を抑制できる。
【0119】
<縮合多環複素環化合物>
本実施形態における非水系電解液は、下記1~5:
1.縮合多環複素環化合物であり、
2.前記縮合多環複素環内にピリミジン骨格を含有し、
3.前記縮合多環複素環内に窒素原子を3つ以上含有し、
4.前記縮合多環複素環内にsp2炭素を5つ以上含有し、
5.前記縮合多環複素環内の前記窒素原子に水素原子が結合していないこと
を満たす構造を有する化合物(縮合多環複素環化合物)を含有することができる。このような縮合多環複素環化合物としてはプリン誘導体が好ましく、中でもカフェインが更に好ましい。ここで、プリン誘導体とは、ピリミジン骨格にイミダゾール環が結合した二環式の複素環を基本骨格とする化合物を指す。本実施形態において、縮合多環複素環化合物は、遷移金属とアセトニトリルとから形成される錯体カチオンの生成を抑制する。従って該縮合多環複素環化合物を含有する非水系二次電池は、優れた負荷特性を発揮すると共に、充放電サイクルを繰り返したときの内部抵抗の増加が抑制されたものとなる。
本実施形態における電解液中の縮合多環複素環化合物の含有量については、電解液の全量を基準として、0.01質量%以上5質量%以下あることが好ましく、0.05質量%以上1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であることが更に好ましい。本実施形態における縮合多環複素環化合物の含有量を上述の範囲内に調整することによって、非水系二次電池としての基本的な機能を損なうことなく、電極表面における錯体カチオンの生成反応が抑制できることとなり、充放電に伴う内部抵抗の増加を低減することができる。本実施形態における電解液を当該範囲に調製することにより、得られる非水系二次電池において、サイクル性能、低温環境下における高出力性能、及びその他の電池特性のすべてを、より一層良好なものとすることができる。
【0120】
<シラノール化合物>
本実施形態における非水系電解液は、
X-Si(OR3(3-m)4 m・・・・・(3)
{式中、R3及びR4は、アリール基若しくはアルコキシシリル基若しくはハロゲン原子で置換されてよいアルキル基、又はアルキル基若しくはアルコキシシリル基若しくはハロゲン原子で置換されてよいアリール基を示し、そしてXは、下記式(5):
【化6】
(式中、kは0~8の整数であり、そして*はSiとの結合個所を示す。)
で表されるシラノール化合物を含有することができる。このようなシラノール化合物としては、トリエトキシビニルシラン、トリメトキシ(7-オクテン-1-イル)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ジメトキシメチルビニルシラン が好ましく、中でもトリエトキシビニルシランが更に好ましい。
【0121】
シラノール化合物には、非水系電解液を酸化劣化させる活性点(正極活物質の活性点)を抑制する効果がある。よって、このような化合物を用いることによって、優れた負荷特性を発揮するとともに、高温貯蔵又は充放電サイクルを繰り返したときの各種劣化現象を抑制することができる、非水系電解液及び非水系二次電池を提供することができる。
【0122】
シラノール化合物の含有量は、非水系電解液の全量当たりの量として、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であることが更に好ましい。この範囲にあることによって、非水系二次電池の内部抵抗を低い状態に保ちながら、非水系電解液を酸化劣化させる正極活物質の活性点を効果的に抑制することができる。
【0123】
<電極保護用添加剤>
本実施形態における電解液には、電極を保護する添加剤が含まれていてもよい。電極保護用添加剤としては、本発明による課題解決を阻害しないものであれば特に制限はない。リチウム塩を溶解する溶媒としての役割を担う物質(すなわち上述の非水系溶媒)と実質的に重複してもよい。電極保護用添加剤は、本実施形態における電解液及び非水系二次電池の性能向上に寄与する物質であることが好ましいが、電気化学的な反応には直接関与しない物質をも包含する。
【0124】
電極保護用添加剤の具体例としては、例えば、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、シス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5,5-テトラフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、及び4,4,5-トリフルオロ-5-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オンに代表されるフルオロエチレンカーボネート;ビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、及びビニルエチレンカーボネートに代表される不飽和結合含有環状カーボネート;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、及びε-カプロラクトンに代表されるラクトン;1,4-ジオキサンに代表される環状エーテル;エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ブチレンサルファイト、ペンテンサルファイト、スルホラン、3-スルホレン、3-メチルスルホラン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1-プロペン1,3-スルトン、及びテトラメチレンスルホキシドに代表される環状硫黄化合物;無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸に代表される鎖状酸無水物;マロン酸無水物、無水コハク酸、グルタル酸無水物、無水マレイン酸、無水フタル酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、又は、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物に代表される環状酸無水物;異なる2種類のカルボン酸、又はカルボン酸とスルホン酸等、違う種類の酸が脱水縮合した構造の混合酸無水物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0125】
本実施形態における電解液中の電極保護用添加剤の含有量については、特に制限はないが、非水系溶媒の全量に対する電極保護用添加剤の含有量として、0.1~30体積%であることが好ましく、0.3~15体積%であることがより好ましく、0.5~4体積%であることが更に好ましい。
【0126】
本実施形態においては、電極保護用添加剤の含有量が多いほど電解液の劣化が抑えられる。しかしながら、電極保護用添加剤の含有量が少ないほど非水系二次電池の低温環境下における高出力特性が向上することになる。従って、電極保護用添加剤の含有量を上述の範囲内に調整することによって、非水系二次電池としての基本的な機能を損なうことなく、電解液の高イオン伝導度に基づく優れた性能を最大限に発揮することができる傾向にある。このような組成で電解液を調製することにより、非水系二次電池のサイクル性能、低温環境下における高出力性能及びその他の電池特性の全てを一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0127】
なお、非水系溶媒の一成分であるアセトニトリルは電気化学的に還元分解され易いため、該アセトニトリルを含む非水系溶媒は、負極への保護被膜形成のための電極保護用添加剤として環状の非プロトン性極性溶媒を1種以上含むことが好ましく、不飽和結合含有環状カーボネートを1種以上含むことがより好ましい。
【0128】
アセトニトリルに対する電極保護用添加剤の混合モル比が、0.06以上2以下であることが、アセトニトリルの還元分解を抑制するための負極保護被膜を形成しつつ、過剰な被膜形成による低温性能の低下を防ぐため、好ましい。
【0129】
不飽和結合含有環状カーボネートとしてはビニレンカーボネートが好ましく、ビニレンカーボネートの含有量は、非水系電解液中、0.1体積%以上4体積%以下であることが好ましく、0.2体積%以上3体積%未満であることがより好ましく、0.5体積%以上2.5体積%未満であることが更に好ましい。これにより、低温耐久性をより効果的に向上させることができ、低温性能に優れた二次電池を提供することが可能になる。
【0130】
電極保護用添加剤としてのビニレンカーボネートは負極表面でのアセトニトリルの還元分解反応を抑制するため、必須である場合が多く、不足すると電池性能が急激に低下する可能性がある。一方で、過剰な被膜形成は低温性能の低下を招く。そこで、ビニレンカーボネートの添加量を上記の範囲内に調整することで、界面(被膜)抵抗を低く抑えることができ、低温時のサイクル劣化を抑制することができる。
【0131】
(その他の任意的添加剤)
本実施形態においては、非水系二次電池の充放電サイクル特性の改善、高温貯蔵性、安全性の向上(例えば過充電防止等)等の目的で、非水系電解液に、例えば、スルホン酸エステル、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、tert-ブチルベンゼン、リン酸エステル〔エチルジエチルホスホノアセテート(EDPA):(CO)(P=O)-CH(C=O)OC、リン酸トリス(トリフルオロエチル)(TFEP):(CFCHO)P=O、リン酸トリフェニル(TPP):(CO)P=O:(CH=CHCHO)P=O、リン酸トリアリル等〕、非共有電子対周辺に立体障害のない窒素含有環状化合物〔ピリジン、1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、1-メチルピラゾール等〕等、及びこれらの化合物の誘導体等から選択される任意的添加剤を、適宜含有させることもできる。特にリン酸エステルは、貯蔵時の副反応を抑制する作用があり、効果的である。
【0132】
本実施形態におけるその他の任意的添加剤の含有量は、非水系電解液を構成する全ての成分の合計質量に対する質量百分率にて算出される。その他の任意的添加剤の含有量について、特に制限はないが、非水系電解液の全量に対し、0.01質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましく、0.02質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.05~3質量%であることが更に好ましい。その他の任意的添加剤の含有量を上述の範囲内に調整することによって、非水系二次電池としての基本的な機能を損なうことなく、より一層良好な電池特性を付加することができる傾向にある。
【0133】
<FSOアニオン>
アセトニトリルを含有する電解液において、正極からのリチウムイオン引き抜き量が大きくなる傾向がある。その結果、正極活物質の結晶構造が不安定化し、正極活物質の遷移金属の溶出を促進させ、負極表面に遷移金属が析出することが分かった。そのため、FSOアニオンの含有量が多すぎると、負極表面に析出した溶出金属と還元分解反応を引き起こし、堆積した分解物は、界面(被膜)抵抗を増大させて出力性能の低下を招く。一方で、少量のFSOアニオンは負極保護被膜の強化に作用するため、FSOアニオンの含有量は、非水系電解液に対し0.001ppm以上100ppm以下の範囲であることが好ましく、0.005ppm以上70ppm以下の範囲であることがより好ましく、0.011ppm以上50ppm以下の範囲であることが更に好ましい。
【0134】
<プロピオニトリル>
プロピオニトリルは、過充電時に素早く反応し、α水素引き抜きに寄与する。これにより、電池が燃焼する前に膨れて破裂させることができる。一方で、正極活物質の劣化が進行すると、正極活物質の割れにより孤立した正極活物質は容量として寄与しなくなり、充放電可能な正極活物質だけで4.2Vまで充電しようとすると、充放電可能な正極活物質から引き抜かれるリチウムイオンが増加し、正極側の電位が上昇してしまう。このため、過剰なプロピオニトリルの添加は、通常の電圧範囲であってもα水素引き抜き反応が促進され、電極内にガス溜まりが発生し、容量劣化が引き起こされる。このため、非水系電解液に含まれるプロピオニトリルを1ppm以下又は1.0ppm未満とすることで、通常の電圧範囲における電池性能を損なうことなく電池の安全性を高めることができる。
プロピオニトリルの含有量としては、非水系電解液に対し、0.001ppm以上1ppm以下、又は0.001ppm以上1.0ppm未満であることが好ましく、0.01ppm以上1ppm以下、又は0.01ppm以上1.0ppm未満であることがより好ましい。
【0135】
<非水系電解液のイオン伝導度>
非水系二次電池において、電極を厚くすることで容量に寄与しない部材を低減することができるため、エネルギー密度を高めることが可能であるが、イオン伝導度の低い電解液と組み合わせた場合、リチウムイオンの移動速度が、非水系電解液のイオン伝導度に律速されることととなり、所望の入出力特性が得られない場合がある。他方で、更にエネルギー密度を高めるために、Ni比率の高い正極活物質を用いた電池の開発が主流となっているが、イオン伝導度の高い電解液と組み合わせた場合、同じ電圧範囲であってもイオン伝導度の低い電解液に対して、充放電容量が大きくなる傾向がある。100サイクル後の正極を断面SEMで観察したところ、集電体側の正極活物質と比較して正極表面側の正極活物質方が割れた箇所が多く確認された。つまり、イオン伝導度の高い電解液を用いると、リチウムイオンの挿入脱離がより進行し易い電極表面の方が、過剰にリチウムイオンが引き抜かれることになるため、正極活物質の割れが多く発生したと考えられる。
そのため、本実施形態に係る非水系電解液の20℃におけるイオン伝導度は、10mS/cm以上15mS/cm未満が好ましく、11mS/cm以上15mS/cm未満がより好ましく、12mS/cm以上15mS/cm未満が更に好ましい。イオン伝導度が10mS/cm以上である場合、リチウムイオンが電極へ挿入脱離する速度が向上し、高出力特性を発現できる傾向にある。また、イオン伝導度が15mS/cm未満である場合、正極のリチウム引き抜き量が均一化し、正極活物質の割れが抑制される。また、正極のリチウム引き抜き量が均一化することで、不均一なリチウム引き抜きにより促進されるスピネル転移が抑制され、正極のc軸の格子定数の変化率が抑制され、正極活物質の割れが抑制される。その結果、高温環境下における各種劣化現象を抑制できる。
【0136】
<セパレータ>
本実施形態における非水系二次電池100は、正極150及び負極160の短絡防止、シャットダウン等の安全性付与の観点から、正極150と負極160との間にセパレータ170を備えることが好ましい。セパレータ170としては、限定されるものではないが、公知の非水系二次電池に備えられるものと同様のものを用いてもよく、イオン透過性が大きく、機械的強度に優れる絶縁性の薄膜が好ましい。セパレータ170としては、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜等が挙げられ、これらの中でも、合成樹脂製微多孔膜が好ましい。
【0137】
合成樹脂製微多孔膜としては、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンを主成分として含有する微多孔膜、又は、これらのポリオレフィンの双方を含有する微多孔膜等のポリオレフィン系微多孔膜が好適に用いられる。不織布としては、例えば、ガラス製、セラミック製、ポリオレフィン製、ポリエステル製、ポリアミド製、液晶ポリエステル製、アラミド製等の耐熱樹脂製の多孔膜が挙げられる。
【0138】
セパレータ170は、1種の微多孔膜を単層又は複数積層した構成であってもよく、2種以上の微多孔膜を積層したものであってもよい。セパレータ170は、2種以上の樹脂材料を溶融混錬した混合樹脂材料を用いて単層又は複数層に積層した構成であってもよい。
【0139】
機能付与を目的として、セパレータの表層又は内部に無機粒子を存在させてもよく、その他の有機層を更に塗工又は積層してもよい。また、架橋構造を含むものであってもよい。非水系二次電池の安全性能を高めるため、これらの手法は必要に応じ組み合わせてもよい。
【0140】
このようなセパレータ170を用いることで、特に上記の高出力用途のリチウムイオン二次電池に求められる良好な入出力特性、低い自己放電特性を実現することができる。微多孔膜の膜厚は、特に限定はないが、膜強度の観点から1μm以上であることが好ましく、透過性の観点より500μm以下であることが好ましい。安全性試験など、発熱量が比較的高く、従来以上の自己放電特性を求められる高出力用途に使用されるという観点および、大型の電池捲回機での捲回性の観点から、5μm以上30μm以下であることが好ましく、10μm以上25μm以下であることがより好ましい。なお、耐ショート性能と出力性能の両立を重視する場合には、15μm以上25μm以下であることが更に好ましいが、高エネルギー密度化と出力性能の両立を重視する場合には、10μm以上15μm未満であることが更に好ましい。気孔率は、高出力時のリチウムイオンの急速な移動に追従する観点から、30%以上90%以下が好ましく、35%以上80%以下がより好ましく、40%以上70%以下が更に好ましい。なお、安全性を確保しつつ出力性能の向上を優先に考えた場合には、50%以上70%以下が特に好ましく、耐ショート性能と出力性能の両立を重視する場合には、40%以上50%未満が特に好ましい。透気度は、膜厚、気孔率とのバランスの観点から、1秒/100cm以上400秒/100cm以下が好ましく、100秒/100cm以上350/100cm以下がより好ましい。なお、耐ショート性能と出力性能の両立を重視する場合には、150秒/100cm以上350秒/100cm以下が特に好ましく、安全性を確保しつつ出力性能の向上を優先に考えた場合には、100/100cm秒以上150秒/100cm未満が特に好ましい。一方で、イオン伝導度の低い非水系電解液と上記範囲内のセパレータを組み合わせた場合、リチウムイオンの移動速度がセパレータの構造ではなく、電解液のイオン伝導度の高さが律速となり、期待したような入出力特性が得られない傾向がある。そのため、非水電解液の20℃でのイオン伝導度は10mS/cm以上が好ましく、15mS/cm未満であることも好ましい。ただし、セパレータの膜厚、透気度及び気孔率、並びに非水系電解液のイオン伝導度は上記の例に限定されない。
【0141】
<電池外装>
本実施形態における非水系二次電池100の電池外装110の構成は特に限定されないが、例えば、電池缶及びラミネートフィルム外装体のいずれかの電池外装を用いることができる。電池缶としては、例えば、スチール、ステンレス、アルミニウム、又はクラッド材等から成る角型、角筒型、円筒型、楕円型、扁平型、コイン型、又はボタン型等の金属缶を用いることができる。ラミネートフィルム外装体としては、例えば、熱溶融樹脂/金属フィルム/樹脂の3層構成から成るラミネートフィルムを用いることができる。
【0142】
ラミネートフィルム外装体は、熱溶融樹脂側を内側に向けた状態で2枚重ねて、又は熱溶融樹脂側を内側に向けた状態となるように折り曲げて、端部をヒートシールにより封止した状態で外装体として用いることができる。ラミネートフィルム外装体を用いる場合、正極集電体に正極リード体130(又は正極端子及び正極端子と接続するリードタブ)を接続し、負極集電体に負極リード体140(又は負極端子及び負極端子と接続するリードタブ)を接続してもよい。この場合、正極リード体130及び負極リード体140(又は正極端子及び負極端子のそれぞれに接続されたリードタブ)の端部が外装体の外部に引き出された状態でラミネートフィルム外装体を封止してもよい。
【0143】
<非水系二次電池の形状>
本実施形態の非水系二次電池の形状は、特に限定されず、例えば、円筒形、楕円形、角筒型、ボタン形、コイン形、扁平形、ラミネート形等に適用できる。
【0144】
<非水系二次電池の製造方法>
本実施形態における非水系二次電池100は、上述の非水系電解液、集電体の片面又は両面に正極活物質層を有する正極150、集電体の片面又は両面に負極活物質層を有する負極160、及び電池外装110、並びに必要に応じてセパレータ170を用いて、公知の方法により作製される。
【0145】
先ず、正極150及び負極160、並びに必要に応じてセパレータ170から成る積層体を形成する。例えば、長尺の正極150と負極160とを、正極150と負極160との間に該長尺のセパレータを介在させた積層状態で巻回して巻回構造の積層体を形成する態様;正極150及び負極160を一定の面積と形状とを有する複数枚のシートに切断して得た正極シートと負極シートとを、セパレータシートを介して交互に積層した積層構造の積層体を形成する態様;長尺のセパレータをつづら折りにして、該つづら折りになったセパレータ同士の間に交互に正極体シートと負極体シートとを挿入した積層構造の積層体を形成する態様;等が可能である。
【0146】
次いで、電池外装110(電池ケース)内に上述の積層体を収容して、本実施形態に係る電解液を電池ケース内部に注液し、積層体を電解液に浸漬して封印することによって、本実施形態における非水系二次電池を作製することができる。
【0147】
代替的には、電解液を高分子材料から成る基材に含浸させることによって、ゲル状態の電解質膜を予め作製しておき、シート状の正極150、負極160、及び電解質膜、並びに必要に応じてセパレータ170を用いて積層構造の積層体を形成した後、電池外装110内に収容して非水系二次電池100を作製することもできる。
【0148】
なお、電極の配置が、負極活物質層の外周端と正極活物質層の外周端とが重なる部分が存在するように、又は負極活物質層の非対向部分に幅が小さすぎる箇所が存在するように設計されている場合、電池組み立て時に電極の位置ずれが生じることにより、非水系二次電池における充放電サイクル特性が低下するおそれがある。よって、該非水系二次電池に使用する電極体は、電極の位置を予めポリイミドテープ、ポリフェニレンスルフィドテープ、PPテープ等のテープ類、接着剤等により、固定しておくことが好ましい。
【0149】
本実施形態において、アセトニトリルを使用した非水系電解液を用いた場合、その高いイオン伝導性に起因して、非水系二次電池の初回充電時に正極から放出されたリチウムイオンが負極の全体に拡散してしまう可能性がある。非水系二次電池では、正極活物質層よりも負極活物質層の面積を大きくすることが一般的である。しかしながら、負極活物質層のうち正極活物質層と対向していない箇所にまでリチウムイオンが拡散して吸蔵されてしまうと、このリチウムイオンが初回放電時に放出されずに負極に留まることとなる。そのため、該放出されないリチウムイオンの寄与分が不可逆容量となってしまう。こうした理由から、アセトニトリルを含有する非水系電解液を用いた非水系二次電池では、初回充放電効率が低くなってしまう場合がある。
【0150】
一方、負極活物質層よりも正極活物質層の面積が大きいか、又は両者が同じである場合には、充電時に負極活物質層のエッジ部分で電流の集中が起こり易く、リチウムデンドライトが生成し易くなる。
【0151】
正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比について特に制限はないが、上記の理由により、1.0より大きく1.1未満であることが好ましく、1.002より大きく1.09未満であることがより好ましく、1.005より大きく1.08未満であることが更に好ましく、1.01より大きく1.08未満であることが特に好ましい。アセトニトリルを含む非水系電解液を用いた非水系二次電池では、正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を小さくすることにより、初回充放電効率を改善できる。
【0152】
正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を小さくするということは、負極活物質層のうち、正極活物質層と対向していない部分の面積の割合を制限することを意味している。これにより、初回充電時に正極から放出されたリチウムイオンのうち、正極活物質層とは対向していない負極活物質層の部分に吸蔵されるリチウムイオンの量(すなわち、初回放電時に負極から放出されずに不可逆容量となるリチウムイオンの量)を可及的に低減することが可能となる。よって、正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を上記の範囲に設計することによって、アセトニトリルを使用することによる電池の負荷特性向上を図りつつ、電池の初回充放電効率を高め、更にリチウムデンドライトの生成も抑えることができるのである。
【0153】
本実施形態における非水系二次電池100は、初回充電により電池として機能し得るが、初回充電のときに電解液の一部が分解することにより安定化する。初回充電の方法について特に制限はないが、初回充電は0.001~0.3Cで行われることが好ましく、0.002~0.25Cで行われることがより好ましく、0.003~0.2Cで行われることが更に好ましい。初回充電が、途中に定電圧充電を経由して行われることも好ましい結果を与える。設計容量を1時間で放電する定電流が1Cである。リチウム塩が電気化学的な反応に関与する電圧範囲を長く設定することによって、安定強固なSEIが電極表面に形成され、内部抵抗の増加を抑制する効果があることの他、反応生成物が負極160のみに強固に固定化されることなく、何らかの形で、正極150、セパレータ170等の、負極160以外の部材にも良好な効果を与える。このため、非水系電解液に溶解したリチウム塩の電気化学的な反応を考慮して初回充電を行うことは、非常に有効である。
【0154】
本実施形態における非水系二次電池100は、複数個の非水系二次電池100を直列又は並列に接続した電池パックとして使用することもできる。電池パックの充放電状態を管理する観点から、1個当たりの使用電圧範囲は2~5Vであることが好ましく、2.5~5Vであることがより好ましく、2.75V~5Vであることが特に好ましい。
【0155】
≪第2の実施形態≫
以下、第2の実施形態に係る非水系電解液及びそれを含む非水系二次電池について説明する。本実施形態に係る非水系電解液及びそれを含む非水系二次電池を用いれば、ジニトリル化合物をアセトニトリルの含有量に対してモル比で0.10以上含有する非水系電解液において、アセトニトリルが正極活物質中の遷移金属に配位して形成された可溶性金属錯体二分子に対して、ジニトリル化合物の持つ二つのニトリル基がそれぞれ配位し、二量化することができる。また、第2の実施形態に係るジニトリル化合物の二量化によって、金属錯体が高分子量化され、不溶化し、金属錯体の負極への移動が抑制されることが推測される。従って、金属錯体の負極での還元析出による負極SEIの劣化が抑制され、高いサイクル耐久性を実現した非水系二次電池を提供することができる。
【0156】
[非水系電解液]
本実施形態における「非水系電解液」とは、非水系電解液の全量に対し、水が1質量%以下の電解液を指す。本実施形態における非水系電解液は、水分を極力含まないことが好ましいが、本発明の課題解決を阻害しない範囲であれば、ごく微量の水分を含有してもよい。好ましい水分の含有量は、非水系電解液の全量に対して300質量ppm以下であり、更に好ましくは200質量ppm以下である。非水系電解液については、本発明所定の構成を具備していれば、リチウムイオン電池に用いられる公知の非水系電解液における構成材料を、適宜選択して適用することができる。
【0157】
本実施形態の非水系電解液は:
アセトニトリルを含む非水系溶媒と、
ジニトリル化合物と、
LiPF及びLiFSIを含むリチウム塩と
を有し、
アセトニトリルの含有量は、非水系溶媒の全量に対して10体積%以上70体積%以下であり、
ジニトリル化合物の含有量は、非水系電解液の全量に対して25質量%以下であり、
ジニトリル化合物の含有量は、アセトニトリルの含有量に対してモル比で0.10以上であり、そして
LiPFの含有量と、LiFSIを含むイミド塩の含有量とが、モル濃度で0<LiPF≦イミド塩の関係である。
【0158】
本実施形態の非水系電解液では、ヘキサフルオロリン酸リチウム(略称:LiPF)の含有量と、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(略称:LiFSI)を含むイミド塩の含有量とが、低温(例えば-10℃など)でのリチウム塩とアセトニトリルの会合の抑制、及び電池の低温サイクル特性の観点から、0<LiPF≦イミド塩であることが好ましい。
本実施形態の非水系電解液では、正極活物質中の遷移金属の溶出抑制の観点から、ジニトリル化合物の含有量は、非水系電解液の全量に対して、1質量%以上であることが好ましい。
【0159】
本実施形態の非水系電解液では、粘度上昇の抑制、及びイオン伝導度の観点から、前記非水系溶媒の含有量は、前記非水系溶媒と前記ジニトリル化合物を合わせた全量に対して、70体積%より大きく、かつ/又は70質量%より大きいことが好ましい。
【0160】
本実施形態の非水電解液におけるリチウム塩の含有量は、非水系溶媒1L当たりの量として、3モル未満であることが好ましい。
【0161】
本実施形態の非水系電解液は、上記以外のその他の添加剤を更に含んでいてもよい。
【0162】
<非水系溶媒>
本実施形態でいう「非水系溶媒」とは、電解液中からリチウム塩及び各種添加剤を除いた要素をいう。
【0163】
本実施形態における非水系溶媒は、アセトニトリルを含む。
非水系溶媒にアセトニトリルを含有することにより、非水系二次電池の急速充電特性を高めることができる。非水系二次電池の定電流(CC)-定電圧(CV)充電では、CV充電期間における単位時間当たりの充電容量よりも、CC充電期間における単位時間当たりの容量の方が大きい。非水系電解液の非水系溶媒にアセトニトリルを使用すると、CC充電が可能となる領域を大きく(CC充電の時間を長く)できると共に、充電電流を高めることができるため、非水系二次電池の充電開始から満充電状態にするまでの時間を大幅に短縮できる。
なお、アセトニトリルは、電気化学的に還元分解され易い。また、アセトニトリルを含有する非水系電解液を用いた従来のリチウムイオン二次電池が長期耐久性能に劣ることがある。各種検証実験の結果から、アセトニトリルを含有する非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池が長期耐久性能に劣る理由は、以下のように考察される:
・アセトニトリルが持つニトリル基は、高い金属配位能を持つため、正極活物質中の遷移金属と錯体を形成し安定化することで金属溶出を促進する。非水系電解液中に溶出した金属イオンは、負極側で還元析出し、負極のSEIに損傷を与える。そのため、負極での溶媒の還元分解が促進され、不可逆容量が増加するとともに、還元分解された溶媒が負極に堆積し、内部抵抗が増加する。この現象は、高温ほど促進されるため、高温耐久性能にも大きな影響を及ぼす。
【0164】
アセトニトリルの含有量は、非水系溶媒の全量に対して、10体積%以上70体積%以下である。
アセトニトリルの含有量が、非水系溶媒の全量に対して10体積%以上であることにより、非水系電解液のイオン伝導度が増大して、高出力特性が発現でき、高濃度にリチウム塩を溶解させることができる。アセトニトリルの含有量が、非水系溶媒の全量に対し70体積%以下であることにより、充放電サイクル特性及びその他の電池特性を良好なものとすることができる。
アセトニトリルの含有量は、非水系溶媒の全量に対して、12体積%以上50体積%以下であることがより好ましく、15体積%以上35体積%以下であることが更に好ましい。
【0165】
非水系溶媒として併用される他の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール;アセトニトリル以外の非プロトン性溶媒等が挙げられる。中でも、アセトニトリル以外の非プロトン性溶媒を含むことが好ましい。
【0166】
アセトニトリル以外の非プロトン性溶媒としては、例えば、環状カーボネート、鎖状カーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ラクトン、硫黄化合物、環状エーテル、鎖状エーテル、フッ素化エーテル、アセトニトリル以外のモノニトリル、アルコキシ基置換ニトリル、環状ニトリル、鎖状エステル、ケトン、ハロゲン化物等が挙げられる。
【0167】
これらアセトニトリル以外の非プロトン性溶媒の具体例としては、
飽和環状カーボネートとして、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、トランス-2,3-ブチレンカーボネート、シス-2,3-ブチレンカーボネート、1,2-ペンチレンカーボネート、トランス-2,3-ペンチレンカーボネート、シス-2,3-ペンチレンカーボネート等を;
不飽和環状カーボネートとして、例えば、ビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート等を;
鎖状カーボネートとして、例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルトリフルオロエチルカーボネート等を;
フルオロエチレンカーボネートとして、例えば、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、シス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5,5-テトラフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5-トリフルオロ-5-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-1,3-ジオキソラン-2-オン等を;
【0168】
ラクトンとして、例えば、γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン等を;
硫黄化合物として、例えば、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ブチレンサルファイト、ペンテンサルファイト、スルホラン、3-スルホレン、3-メチルスルホラン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1-プロペン1,3-スルトン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、エチレングリコールサルファイト等を;
環状エーテルとして、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン等を;
鎖状エーテルとして、例えば、ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3-ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等を;
フッ素化エーテルとして、例えば、Rf20-OR21(式中、Rf20はフッ素原子を含有するアルキル基、かつR21はフッ素原子を含有してもよい有機基である)等を;
【0169】
アセトニトリル以外のモノニトリルとして、例えば、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、アクリロニトリル等を;
アルコキシ基置換ニトリルとして、例えば、メトキシアセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル等を;
環状ニトリルとして、例えば、ベンゾニトリル等を;
鎖状エステルとして、例えば、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酢酸エチル、プロピオン酸プロピル、酢酸2,2-ジフルオロエチル等を;
ケトンとして、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等を、それぞれ挙げることができ、
ハロゲン化物としては、例えば、上記に例示された化合物のフッ素化物等を、挙げることができる。
本実施形態におけるアセトニトリル以外の非プロトン性溶媒は、1種を単独で使用することが出来、又は2種以上を組み合わせて使用してよい。
【0170】
本実施形態における非水系溶媒は、飽和環状カーボネート及び不飽和環状カーボネート及び鎖状カーボネートのうちの1種以上を併用することが、非水系電解液の安定性向上の観点から好ましい。この観点から、本実施形態における非水系溶媒は、飽和環状カーボネート及び不飽和環状カーボネートを併用することがより好ましく、飽和環状カーボネート及び不飽和環状カーボネート及び鎖状カーボネートの全てを使用することが、更に好ましい。
【0171】
併用される飽和環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネートより成る群から選択される少なくとも1種が、特に好ましい。飽和環状カーボネートの含有量は、非水系溶媒の全量に対して、0.5体積%以上50体積%以下であることが好ましく、1体積%以上25体積%以下であることがより好ましい。
【0172】
併用される不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネートが特に好ましい。不飽和環状カーボネートの含有量は、非水系溶媒の全量に対して、0.5体積%以上10体積%以下であることが好ましく、1体積%以上5体積%以下であることがより好ましい。不飽和環状カーボネートの含有量が上述の範囲内にある場合、強固な負極SEIを形成するとともに、充放電時のガス膨れを抑制することができる。
【0173】
鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びメチルエチルカーボネートより成る群から選択される少なくとも1種が、特に好ましい。鎖状カーボネートの含有量は、非水系溶媒の全量に対して、5体積%以上50体積%以下であることが好ましく、10体積%以上40体積%以下であることがより好ましい。
【0174】
本実施形態における非水系溶媒は、硫黄化合物を含有してもよい。併用される硫黄化合物としては、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、及び1,3-プロパンスルトンより成る群から選択される少なくとも1種が、特に好ましい。硫黄化合物の含有量は、非水系溶媒の全量に対して、0.1体積%以上10体積%以下であることが好ましく、0.5体積%以上5体積%以下であることがより好ましい。硫黄化合物の含有量が上述の範囲内にある場合、良質な負極SEIを形成することができる。
【0175】
<ジニトリル化合物>
本実施形態に係る非水系電解液は、
下記一般式(1):
【化7】
{式中、Rは炭素数が1~12の直鎖状または分枝状の、酸素原子を含んでもよい2価の脂肪族アルキル基を示す}
で表されるジニトリル化合物を含む。本発明におけるジニトリル化合物は、アセトニトリルと同様に、高い金属配位能を持つニトリル基を持ち、正極活物質中の遷移金属に配位する。アセトニトリルが正極活物質中の遷移金属に配位してできた可溶性金属錯体二分子に対して、ジニトリル化合物の持つ二つのニトリル基がそれぞれ配位し、二量化することで、金属錯体が高分子量化され、不溶化し、金属錯体の負極への移動が抑制される、と推測される。従って、金属錯体の負極での還元析出による負極SEIの劣化が抑制され、高いサイクル耐久性を実現した非水系二次電池を提供することができる。
【0176】
上記一般式(1)において、直鎖状もしくは分岐状の2価の脂肪族アルキル基Rの炭素数としては、炭素数1~12が好ましく、炭素数1~10がより好ましく、炭素数1~8が特に好ましい。
【0177】
直鎖状のジニトリル化合物の具体例としては、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,7-ジシアノヘプタン、1,8-ジシアノオクタン、1,9-ジシアノノナン、1,10-ジシアノデカン、1,12-ジシアノドデカンなどが挙げられる。
【0178】
また、分枝状のジニトリル化合物の具体例としては、メチルスクシノニトリル、テトラメチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、2,4-ジメチルグルタロニトリル、1,4-ジシアノペンタン、1,4-ジシアノヘプタン、1,5-ジシアノヘプタン、2,6-ジシアノヘプタン、1,7-ジシアノオクタン、2,7-ジシアノオクタン、1,8-ジシアノノナン、2,8-ジシアノノナン、1,6-ジシアノデカンなどが挙げられる。
【0179】
また、酸素原子を含むジニトリル化合物の具体例としては、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、ジエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、1,3-ビス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,4-ビス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,5-ビス(2-シアノエトキシ)ペンタンなどが挙げられる。
【0180】
上記の化合物の具体例の中では、好ましくは、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、及びエチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテルであり、より好ましくは、スクシノニトリル、グルタロニトリル、メチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、及びエチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテルであり、さらに好ましくは、スクシノニトリル、及びメチルスクシノニトリル、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテルである。これらは、1種、もしくは2種以上併用して用いることができる。
【0181】
第2の実施形態において、非水系電解液に含まれるジニトリル化合物の含有量は、アセトニトリルの含有量に対し、モル比で0.10以上である。
一般的にNiなどの遷移金属は、4~6配位の錯体化合物を安定に形成する。そのため、アセトニトリルが遷移金属に配位した可溶性金属錯体二分子が、ジニトリル化合物一分子によって二量化した場合、下記:
【化8】
【化9】
【化10】
のような構造になると推測される。
【0182】
従って、アセトニトリルが遷移金属に配位した可溶性金属錯体を二量化して不溶化するためには、ジニトリル化合物の含有量が、アセトニトリルの含有量に対し、モル比で0.10以上となり、0.17以上であることが好ましく、0.25以上であることがより好ましい。ジニトリル化合物量を上述の範囲内に調整することにより、アセトニトリルによる正極活物質中の遷移金属の溶出を抑制することができる。
【0183】
非水系電解液に含まれるジニトリル化合物の含有量は、非水系電解液の全量に対して、25質量%以下であり、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、非水系電解液に含まれるジニトリル化合物の含有量は、非水系電解液の全量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることがさらに好ましく、3質量%以上であることが特に好ましい。ジニトリル化合物の含有量を上述の範囲内に調整することにより、アセトニトリルの備える高イオン伝導性や高出力特性等の特性を維持しながら、正極活物質中の遷移金属の溶出を抑制し、サイクル特性及びその他の電池特性を良好なものとすることができる。
【0184】
本実施形態における非水系溶媒の含有量は、非水系溶媒とジニトリル化合物を合わせた全量に対して、70体積%より大きいことが好ましく、73体積%より大きいことがさらに好ましく、76体積%より大きいことがより好ましい。
【0185】
本実施形態における非水系溶媒の含有量は、非水系溶媒とジニトリル化合物を合わせた全量に対して、70質量%より大きいことが好ましく、73質量%より大きいことがさらに好ましく、76質量%より大きいことがより好ましい。
【0186】
本実施形態における非水系溶媒の含有量が、上述の範囲内にある場合、ジニトリル化合物による過度な粘度の上昇を抑えることができ、イオン伝導度が増大し、高出力特性を発現できる傾向にある。
【0187】
<リチウム塩>
本実施形態の非水系電解液は、リチウム塩としてLiPF及び式LiN(SOF)で表されることができる略称LiFSIを含む。また、LiPFの含有量と、前記LiFSIを含むイミド塩の含有量とが、モル濃度で0<LiPF≦イミド塩の関係である。
【0188】
非水系溶媒にアセトニトリルが含まれる場合、アセトニトリルに対するイミド塩の飽和濃度がLiPFの飽和濃度よりも高いことから、0<LiPF≦イミド塩となるモル濃度でイミド塩を含むことが、低温でのリチウム塩とアセトニトリルの会合及び析出を抑制できるため好ましい。
【0189】
LiPFは、リン原子を有するフッ素含有無機リチウム塩であり、遊離のフッ素原子を放出し易くなる。
【0190】
本実施形態におけるリチウム塩は、LiFSIと共にLiN(SO2m+1{式中、mは1~8の整数である}で表されるイミド塩を併用することができる。
【0191】
本実施形態の非水系電解液におけるリチウム塩の含有量は、非水系溶媒1L当たりの量として、3モル未満であることが好ましい。リチウム塩の含有量が上述の範囲内にある場合、過度な粘度の上昇が抑制され、イオン伝導度が増大し高出力特性を発現できる傾向にある。
【0192】
本実施形態におけるLiPFとLIFSI以外のリチウム塩の非水系電解液への添加量は、非水系溶媒1L当たりの量として、例えば、0.01モル以上0.5モル以下の範囲で適宜に設定されてよい。
【0193】
(イミド塩)
第2の実施形態に係るイミド塩は、第1の実施形態と同じである。

ここで、特許文献5では、LiPF>イミド塩となるモル濃度でイミド塩を含有することが好ましいとされており、特許文献5に記載の非水系電解液を用いた場合、優れた低温特性を得ることは困難であると推測される。
また、特許文献6では、LiFSIをリチウム塩として含有することを想定していない。そのため、特許文献6に記載の非水系電解液を用いた場合、優れた低温特性を得ることは困難であると推測される。
【0194】
(フッ素含有無機リチウム塩)
第2の実施形態に係るフッ素含有無機リチウム塩は、第1の実施形態と同じである。
【0195】
(有機リチウム塩)
第2の実施形態に係る有機リチウム塩は、第1の実施形態と同じである。
【0196】
(その他のリチウム塩)
第2の実施形態に係るその他のリチウム塩は、第1の実施形態と同じである。
【0197】
<電極保護用添加剤>
第2の実施形態に係る電極保護用添加剤は、第1の実施形態と同じである。
【0198】
(その他の任意的添加剤)
第2の実施形態に係るその他の任意的添加剤は、第1の実施形態と同じである。
【0199】
<非水系電解液のイオン伝導度>
非水系二次電池において、電極を厚くすることで容量に寄与しない部材を低減することができるため、エネルギー密度を高めることが可能であるが、イオン伝導度の低い電解液と組み合わせた場合、リチウムイオンの移動速度が、非水系電解液のイオン伝導度に律速されることととなり、所望の入出力特性が得られない場合がある。また、非水系二次電池において、後述の好ましい態様のセパレータを、イオン伝導度の低い非水系電解液と組み合わせた場合、リチウムイオンの移動速度が、非水系電解液のイオン伝導度に律速されることととなり、所望の入出力特性が得られない場合がある。そのため、本実施形態の非水電解液のイオン伝導度は、10mS/cm以上が好ましく、15mS/cm以上がより好ましく、20mS/cm以上が更に好ましい。
【0200】
<非水系電解液の比重>
非水系電解液の比重が高い場合、電解液の粘性が高くなりイオン伝導度を低下させる原因になるとともに、セパレータへの濡れ性が低く、セパレータに十分に含浸しない傾向にある。従って、電池の内部抵抗の上昇に寄与し、サイクル特性などの電池特性に悪影響を及ぼすと共に、リチウム電池製造時の注液工程に課題を有する可能性がある。そのため、本実施形態の非水電解液の比重は、常温常圧の条件で1.5以下であることが好ましい。
【0201】
[非水系二次電池]
本発明の別の態様によると、本実施形態の非水系電解液を具備する非水系二次電池が提供される。
第2の実施形態に係る非水系二次電池は、第1の実施形態と同じである。
【0202】
以下、本実施形態の非水系二次電池を構成する各要素について、順に説明する。
【0203】
[正極]
本実施形態の非水系二次電池における正極は、正極集電体の片面又は両面に正極活物質層を有する。
【0204】
<正極活物質層>
正極活物質層は、正極活物質を含有し、必要に応じて導電助剤及びバインダーを更に含有していてもよい。
【0205】
(正極活物質)
正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料を含有することが好ましい。このような材料を用いる場合、高電圧及び高エネルギー密度を得ることができる傾向にあるので好ましい。
【0206】
正極活物質としては、例えば:
LiCoOに代表されるリチウムコバルト酸化物;
LiMnO、LiMn、及びLiMnに代表されるリチウムマンガン酸化物;
LiNiOに代表されるリチウムニッケル酸化物;
LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.8Co0.2、LiNi0.75Co0.15Mn0.15、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.85Co0.075Mn0.075、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.81Co0.1Al0.09、及びLiNi0.85Co0.1Al0.05に代表されるLiMO{式中、MはNi、Mn、及びCoから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含み、且つ、Ni、Mn、Co、Al、及びMgから成る群より選ばれる2種以上の金属元素を示し、zは0.9超1.2未満の数を示す}で表されるリチウム含有複合金属酸化物;
等が挙げられる。
【0207】
リチウムイオンを可逆安定的に吸蔵及び放出することが可能であり、高エネルギー密度を達成できることから、本実施形態の正極活物質は、下記一般式(d):
LiNiCo ・・・(d)
{式中、Mは、Mn及びAlから成る群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Mは、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、且つ、0<p<1.3、0.4<q<1、0<r<0.4、0<s<0.4、0≦t<0.3、0.7≦q+r+s+t≦1.2、1.8<u<2.2の範囲内であり、そしてpは、電池の充放電状態により決まる値である}で表されるリチウム含有金属酸化物を含むものが好適である。
特に、一般式(d)で表されるリチウム含有金属酸化物のNi含有比qが高く、0.7<q<1、0<r<0.2、0<s<0.2である場合には、レアメタルであるCoの使用量削減と、高エネルギー密度化の両方が達成されるため好ましい。
他方、リチウム含有金属酸化物中のNi含有比が高まるほど、高温環境下でサイクルの劣化が進行する傾向にある。
【0208】
正極活物質としては、式(d)で表されるリチウム含有金属酸化物以外のリチウム含有化合物であってもよく、リチウムを含有するものであれば特に限定されない。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、リチウムを有する金属カルコゲン化物、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸金属化合物、及びリチウムと遷移金属元素とを含むケイ酸金属化合物が挙げられる。より高い電圧を得る観点から、リチウム含有化合物としては、特に、リチウムと、Co、Ni、Mn、Fe、Cu、Zn、Cr、V、及びTiから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素と、を含むリン酸金属化合物が好ましい。
【0209】
リチウム含有化合物として、より具体的には、以下の式(Xa):
Li (Xa)
{式中、Dはカルコゲン元素を示し、Mは、1種以上の遷移金属元素を示し、vの値は、電池の充放電状態により決まり、0.05~1.10の数を示す。}、
以下の式(Xb):
LiIIPO (Xb)
{式中、Dはカルコゲン元素を示し、MIIは、1種以上の遷移金属元素を示し、wの値は、電池の充放電状態により決まり、0.05~1.10の数を示す。}、及び
以下の式(Xc):
LiIII SiO (Xc)
{式中、Dはカルコゲン元素を示し、MIIIは、1種以上の遷移金属元素を示し、tの値は、電池の充放電状態により決まり、0.05~1.10の数を示し、そしてuは0~2の数を示す。}
のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【0210】
上述の式(Xa)で表されるリチウム含有化合物は層状構造を有し、上述の式(Xb)及び(Xc)で表される化合物はオリビン構造を有する。これらのリチウム含有化合物は、構造を安定化させる等の目的から、Al、Mg、又はその他の遷移金属元素により遷移金属元素の一部を置換したもの、これらの金属元素を結晶粒界に含ませたもの、酸素原子の一部をフッ素原子等で置換したもの、正極活物質表面の少なくとも一部に他の正極活物質を被覆したもの等であってもよい。
【0211】
本実施形態における正極活物質としては、上記のようなリチウム含有化合物を用いてもよいし、該リチウム含有化合物と共にその他の正極活物質を併用してもよい。このようなその他の正極活物質としては、例えば、トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物又は金属カルコゲン化物;イオウ;導電性高分子等が挙げられる。トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物、又は金属カルコゲン化物としては、例えば、MnO、FeO、FeS、V、V13、TiO、TiS、MoS、及びNbSeに代表されるリチウム以外の金属の酸化物、硫化物、セレン化物等が挙げられる。導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、及びポリピロールに代表される導電性高分子が挙げられる。
【0212】
上述のその他の正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられ、特に制限はない。しかしながら、リチウムイオンを可逆安定的に吸蔵及び放出することが可能であり、且つ、高エネルギー密度を達成できることから、正極活物質層がNi、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有することが好ましい。
【0213】
正極活物質として、リチウム含有化合物とその他の正極活物質とを併用する場合、両者の使用割合としては、正極活物質の全部に対するリチウム含有化合物の使用割合として、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。
【0214】
(導電助剤)
第2の実施形態に係る導電助剤は、第1の実施形態と同じである。
【0215】
(バインダー)
第2の実施形態に係るバインダーは、第1の実施形態と同じである。
【0216】
<正極集電体>
第2の実施形態に係る正極集電体は、第1の実施形態と同じである。
【0217】
<正極活物質層の形成>
第2の実施形態に係る正極活物質層の形成は、第1の実施形態と同じである。
【0218】
[負極]
第2の実施形態に係る負極は、第1の実施形態と同じである。
【0219】
<Si材料含有負極>
本実施形態では、負極活物質としてSi材料、特に、SiO(式中、0.5≦x≦1.5である)を含んでいてもよい。Si材料は、結晶体、低結晶体、及びアモルファス体のいずれの形態であってもよい。また、負極活物質としてSi材料を用いる場合、活物質表面を導電性の材料によって被覆すると、活物質粒子間の導電性が向上されるため、好ましい。
【0220】
Si(シリコン)は作動電位が約0.5V(vsLi/Li)と、黒鉛の作動電位の約0.05V(vsLi/Li)に対して少し高い。そのため、Si材料を用いると、リチウム電析の危険性が軽減される。本実施形態の非水系溶媒に用いられているアセトニトリルは、リチウム金属と還元反応して、ガス発生を引き起こす可能性がある。そのため、リチウム電析し難い負極活物質は、アセトニトリルを含む電解液と組み合わせて用いるときに好ましい。
一方で、作動電位が高すぎる負極活物質は、電池としてのエネルギー密度が低下してしまうため、エネルギー密度向上の観点から、負極活物質は0.4V vs.Li/Liよりも卑な電位で作動する方が好ましい。
【0221】
Si材料の含有量は、本実施形態の負極活物質層の全量に対して、0.1質量%以上100質量%以下の範囲であることが好ましく、1質量%以上80質量%以下の範囲であることがより好ましく、3質量%以上60質量%以下の範囲であることが更に好ましい。Si材料の含有量を上述の範囲内に調整することによって、非水系二次電池の高容量化と、充放電サイクル性能とのバランスを確保することができる。
【0222】
[セパレータ]
第2の実施形態に係るセパレータは、第1の実施形態と同じである。
【0223】
<電池外装>
第2の実施形態に係る電池外装は、第1の実施形態と同じである。
【0224】
<非水系二次電池の形状>
第2の実施形態に係る非水系二次電池の形状は、第1の実施形態と同じである。
【0225】
<非水系二次電池の製造方法>
第2の実施形態に係る非水系二次電池の製造方法は、第1の実施形態と同じである。
【0226】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である
【実施例
【0227】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0228】
≪第1の実施形態≫
(1)非水系電解液の調製
不活性雰囲気下、各種非水系溶媒、及び各種添加剤を、それぞれが所定の濃度になるよう混合し、更に、各種リチウム塩をそれぞれ所定の濃度になるよう添加することにより、非水系電解液(S1)~(S31)を調製した。これらの非水系電解液組成及びイオン伝導度を表1に示す。
【0229】
表1における非水系溶媒、リチウム塩、及び添加剤の略称は、それぞれ以下の意味である。また、表1におけるリチウム塩のモル濃度は、非水系溶媒1L当たりのモル濃度を示しており、表1における添加剤の質量%は、非水系電解液の全量に対する質量%を示している。体積%と質量%は、各非水系溶媒、リチウム塩、及び添加剤の比重(25℃)の値を用いて換算可能である。
(非水系溶媒)
AcN:アセトニトリル
EMC:エチルメチルカーボネート
DEC:ジエチルカーボネート
DFA:酢酸2,2-ジフルオロエチル
MBL:α-メチル-γ-ブチロラクトン
EC:エチレンカーボネート
ES:エチレンサルファイト
VC:ビニレンカーボネート
(リチウム塩)
LiPF:ヘキサフルオロリン酸リチウム
LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF)
LiTFSI:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF
(添加剤)
SN:スクシノニトリル
MeSN:メチルスクシノニトリル
Pyridine:ピリジン
CAF:カフェイン
V0044:トリエトキシビニルシラン
FSOCH:フルオロ硫酸メチル
PN:プロピオニトリル
【0230】
【表1】
【0231】
(2)コイン型及び小型非水系二次電池の作製
(2-1)正極の作製
(2-1-1)正極(I-P1)の作製
正極活物質のコア粒子としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.8Mn0.1Co0.1)と、被覆剤として酸化ジルコニウム(ZrO)とをヘンシェルミキサーによって混合する。酸化ジルコニウムの混合量は、ニッケル、コバルト、マンガンのモル総和に対して、ジルコニウム換算で0.05mol%となるように調整する。得られた混合物を大気中にて580℃で10時間焼成を行う。
(A)正極活物質として、上述のようにして得られた正極活物質複合体と、(B)導電助剤として、アセチレンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、94:3:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ15μm、幅280mmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーの目付量を調節しながら、塗工幅240~250mm、塗工長125mm、無塗工長20mmの塗布パターンになるよう3本ロール式転写コーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉で溶剤を乾燥除去した。得られた電極ロールは、両サイドをトリミングカットし、130℃8時間の減圧乾燥を実施した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.9g/cmになるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極(I-P1)を得た。正極集電体を除く目付量は16.6mg/cmであった。
【0232】
(2-1-2)正極(I-P2)の作製
被覆剤として酸化アルミニウム(Al)を用い、酸化アルミニウムの混合量を、ニッケル、コバルト、マンガンのモル総和に対して、アルミニウム換算で3.6mol%となるように調整した以外は(2-1-1)と同様の方法で正極(I-P2)を作製した。
【0233】
(2-1-3)正極(I-P3)の作製
被覆剤として酸化チタン(TiO)を用い、酸化チタンの混合量を、ニッケル、コバルト、マンガンのモル総和に対して、チタン換算で0.12mol%となるように調整した以外は(2-1-1)と同様の方法で正極(I-P3)を作製した。
【0234】
(2-1-4)正極(I-P4)の作製
正極活物質の被覆を行わず、正極活物質としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.8Mn0.1Co0.1)を用いた以外は(2-1-1)と同様の方法で正極(I-P4)を作製した。
【0235】
(2-1-5)正極(I-P5)の作製
正極活物質の被覆を行わず、正極活物質としてリチウム、ニッケル、マンガン、コバルト、及びジルコニウムの複合酸化物(LiNi0.8Mn0.1Co0.1Zr0.005)を用いた以外は(2-1-1)と同様の方法で正極(I-P5)を作製した。
【0236】
(2-1-6)正極(I-P6)の作製
正極活物質のコア粒子としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.6Mn0.2Co0.2)と、被覆剤として酸化アルミニウム(Al)とをヘンシェルミキサーによって混合する。酸化アルミニウムの混合量は、ニッケル、コバルト、マンガンのモル総和に対して、アルミニウム換算で3.6mol%となるように調整する。得られた混合物を大気中にて580℃で10時間焼成を行う。
(A)正極活物質として、上述のようにして得られた混合物と、(B)導電助剤として、アセチレンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、94:3:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ15μm、幅280mmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーの目付量を調節しながら、塗工幅240~250mm、塗工長125mm、無塗工長20mmの塗布パターンになるよう3本ロール式転写コーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉で溶剤を乾燥除去した。得られた電極ロールは、両サイドをトリミングカットし、130℃8時間の減圧乾燥を実施した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.9g/cmになるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極(I-P6)を得た。正極集電体を除く目付量は19.7mg/cmであった。
【0237】
(2-1-7)正極(I-P7)の作製
被覆剤として酸化ジルコニウム(ZrO)を用い、酸化ジルコニウムの混合量は、ニッケル、コバルト、マンガンのモル総和に対して、ジルコニウム換算で0.05mol%となるように調整した以外は(2-1-6)と同様の方法で正極(I-P7)を作製した。
【0238】
(2-1-8)正極(I-P8)の作製
正極活物質の被覆を行わず、正極活物質としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.6Mn0.2Co0.2)を用いた以外は(2-1-6)と同様の方法で正極(I-P8)を作製した。
【0239】
(2-1-9)正極(I-P9)の作製
正極活物質のコア粒子としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.8Mn0.1Co0.1)と、被覆剤として酸化ジルコニウム(ZrO)とをヘンシェルミキサーによって混合する。酸化ジルコニウムの混合量は、ニッケル、コバルト、マンガンのモル総和に対して、ジルコニウム換算で0.05mol%となるように調整する。得られた混合物を大気中にて580℃で10時間焼成を行う。
(A)正極活物質として、上述のようにして得られた正極活物質複合体と、(B)導電助剤として、アセチレンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、94:3:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ15μm、幅280mmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーの目付量を調節しながら、塗工幅240~250mm、塗工長125mm、無塗工長20mmの塗布パターンになるよう3本ロール式転写コーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉で溶剤を乾燥除去した。得られた電極ロールは、両サイドをトリミングカットし、130℃8時間の減圧乾燥を実施した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.7g/cmになるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極(I-P9)を得た。正極集電体を除く目付量は8.4mg/cmであった。
【0240】
(2-1-10)正極(I-P10)の作製
正極活物質のコア粒子としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.6Mn0.2Co0.2)と、被覆剤として酸化アルミニウム(Al)とをヘンシェルミキサーによって混合する。酸化アルミニウムの混合量は、ニッケル、コバルト、マンガンのモル総和に対して、アルミニウム換算で3.6mol%となるように調整する。得られた混合物を大気中にて580℃で10時間焼成を行う。
(A)正極活物質として、上述のようにして得られた混合物と、(B)導電助剤として、アセチレンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、94:3:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ15μm、幅280mmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーの目付量を調節しながら、塗工幅240~250mm、塗工長125mm、無塗工長20mmの塗布パターンになるよう3本ロール式転写コーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉で溶剤を乾燥除去した。得られた電極ロールは、両サイドをトリミングカットし、130℃8時間の減圧乾燥を実施した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.7g/cmになるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極(I-P10)を得た。正極集電体を除く目付量は10.0mg/cmであった。
【0241】
(2-2)負極の作製
(2-2-1)負極(I-N1)の作製
(a)負極活物質として、黒鉛粉末と、(b)導電助剤として、アセチレンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、90.0:3.0:7.0の質量比で混合し、負極合剤を得た。
得られた負極合剤に溶剤として水を固形分45質量%となるように投入して更に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。負極集電体となる厚さ8μm、幅280mmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーの目付量を調節しながら、塗工幅240~250mm、塗工長125mm、無塗工長20mmの塗布パターンになるよう3本ロール式転写コーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉で溶剤を乾燥除去した。得られた電極ロールは、両サイドをトリミングカットし、80℃12時間の減圧乾燥を実施した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.4g/cmになるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体から成る負極(I-N1)を得た。負極集電体を除く目付量は10.3mg/cmであった。
【0242】
(2-2-2)負極(I-N2)の作製
(a)負極活物質として、黒鉛粉末と、(b)導電助剤として、アセチレンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、90.0:3.0:7.0の質量比で混合し、負極合剤を得た。
得られた負極合剤に溶剤として水を固形分45質量%となるように投入して更に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。負極集電体となる厚さ8μm、幅280mmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーの目付量を調節しながら、塗工幅240~250mm、塗工長125mm、無塗工長20mmの塗布パターンになるよう3本ロール式転写コーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉で溶剤を乾燥除去した。得られた電極ロールは、両サイドをトリミングカットし、80℃12時間の減圧乾燥を実施した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.3g/cmになるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体から成る負極(I-N2)を得た。負極集電体を除く目付量は5.4mg/cmであった。
【0243】
(2-3)コイン型及び小型非水系二次電池の組み立て
(2-3-1)コイン型非水系二次電池の組み立て
CR2032タイプの電池ケース(SUS304/Alクラッド)にポリプロピレン製ガスケットをセットし、その中央に上述のようにして得られた正極を直径15.958mmの円盤状に打ち抜いたものを、正極活物質層を上向きにしてセットした。その上からガラス繊維濾紙(アドバンテック社製、GA-100)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものをセットして、非水系電解液を150μL注入した後、上述のようにして得られた負極を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものを、負極活物質層を下向きにしてセットした。更にスペーサーとスプリングをセットした後に電池キャップをはめ込み、カシメ機でかしめた。組立体から溢れた電解液はウエスで拭き取った。組立体を25℃で12時間保持し、積層体に非水系電解液(表1に示される非水系電解液から選択される)を十分馴染ませて、コイン型非水系二次電池を得た。
【0244】
(2-3-2)小型非水系二次電池の組み立て
上述のようにして得られた正極を直径15.958mmの円盤状に打ち抜いたものと、上述のようにして得られた負極を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものとをポリエチレン製微多孔膜セパレータ(膜厚21μm、透気度285s/100cm、気孔率41%))の両側に重ね合わせて積層体を得た。その積層体をSUS製の円盤型電池ケースに挿入した。次いで、その電池ケース内に非水系電解液(表1に示される非水系電解液から選択される)を200μL注入し、積層体を非水系電解液に浸漬した後、電池ケースを密閉して25℃で12時間保持し、積層体に非水系電解液を十分馴染ませて小型非水系二次電池を得た。
【0245】
(3)コイン型及び小型非水系二次電池の評価
(3-1)コイン型非水系二次電池の評価
上述のようにして得られたコイン型非水系二次電池について、まず、下記(3-1-1)の手順に従って初回充電処理及び初回充放電容量測定を行った。次に(3-1-2)の手順に従ってそれぞれのコイン型非水系二次電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-M01A(商品名)及びヤマト科学(株)製のプログラム恒温槽IN804(商品名)を用いて行った。
ここで、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。満充電状態から定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
第1の実施形態における本実施例では、コイン型非水系二次電池における1Cに相当する電流値は6mAである。
【0246】
(3-1-1)初回充放電処理(工程1)
コイン型非水系二次電池の周囲温度を25℃に設定し、0.025Cに相当する0.15mAの定電流で充電して3.1Vに到達した後、0.05Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、0.15Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。
次に、0.2Cに相当する1.2mAの定電流で4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、0.2Cに相当する1.2mAの電流値で3Vまで放電した。その後、上記と同様の充放電を1サイクル行った。
【0247】
(3-1-2)50℃サイクル試験(工程2)
上記(3-1-1)に記載の方法で初回充放電処理を行ったコイン型非水系二次電池について、周囲温度を50℃に設定し、1.5Cに相当する9mAの定電流で4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、1.5Cに相当する9mAの電流値で3Vまで放電した。その後、上記と同様の充放電を100サイクル行った。
初回充放電処理時の2サイクル目の放電容量を100%としたときのサイクル試験時の100サイクル目の放電容量を、50℃サイクル容量維持率として算出した。
【0248】
(3-1-3)5C出力試験
上記(3-1-1)に記載の方法で初回充放電処理を行ったコイン型非水系二次電池について、周囲温度を25℃に設定し、0.5Cに相当する3.0mAの定電流で4.2Vまで充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流値が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、0.2Cに相当する1.2mAの電流値で3.0Vまで放電した。
【0249】
次に、0.5Cに相当する3mAの定電流で4.2Vまで充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流値が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、5Cに相当する30mAの電流値で3.0Vまで放電した。初回充放電処理時の2サイクル目の放電容量を100%とした時の5C放電容量を5C容量維持率として算出した。
5C容量維持率は常温での出力性能の指標となり、30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましい。
【0250】
(3-2)小型非水系二次電池の評価
(3-1)と同様の手法を用いて小型非水系二次電池の評価を行った。
第1の実施形態における本実施例では、小型非水系二次電池における1Cに相当する電流値は3mAである。
(3-2-1)初回充放電処理(工程1)
小型非水系二次電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で3.0Vまで放電した。その後、上記と同様の充放電を2サイクル行った。
【0251】
(3-2-2)50℃サイクル試験(工程2)
上記(3-2-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った小型非水系二次電池について、周囲温度を50℃に設定し、1Cに相当する3mAの定電流で4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、1Cに相当する3mAの電流値で3Vまで放電した。その後、上記と同様の充放電を100サイクル行った。
初回充放電処理時の2サイクル目の放電容量を100%としたときの50℃サイクル試験時の100サイクル目の放電容量を、50℃サイクル容量維持率として算出した。
【0252】
(3-2-3)10C及び20C出力試験
上記(3-2-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った小型非水系二次電池について、周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する3.0mAの定電流で4.2Vまで充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流値が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、0.1Cに相当する0.3mAの電流値で3.0Vまで放電した。この時の放電容量を0.1C放電容量(H)とする。
【0253】
次に、1Cに相当する3mAの定電流で4.2Vまで充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流値が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、10Cに相当する30mAの電流値で3.0Vまで放電した。0.1C放電容量(H)を100%とした時の10C放電容量を10C容量維持率として算出した。
10C容量維持率は常温での出力性能の指標となり、45%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。
【0254】
次に、1Cに相当する3mAの定電流で4.2Vまで充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流値が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、20Cに相当する60mAの電流値で3.0Vまで放電した。0.1C放電容量(H)を100%とした時の20C放電容量を20C容量維持率として算出した。
20C容量維持率は常温での出力性能の指標となり、7.5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。
【0255】
(4)正極の粉末X線回折
工程2に当たる50℃サイクル試験終了後、25℃環境下で電池電圧が2.5Vとなるまで0.1Cに相当する定電流で放電を行い、アルゴン雰囲気下でコイン型及び小型非水系二次電池を解体して正極を取り出し、ジエチルカーボネートで洗浄後、乾燥し、粉末X線回折装置による測定を行った。また、コイン型及び小型非水系二次電池を組み立てる前(未通電)の正極についても、粉末X線回折装置による測定を行った。
測定装置はリガク製Ultima-IVを使用した。X線源はCu-Kα、励起電圧は40kV、電流は40mA、光学系は集中光学系、Cu-Kβ線のフィルタはNi箔、検出器はDtex(高感度検出器)、測定方式はθ/2θ法、スリットはDS=1°、SS=解放、RS=解放、縦スリット=10mm、2θ/θスキャンは2θ=5~90°(0.02°/ステップ、0.5°/分)とした。
格子定数の算出はリガク製のソフトウェア(PDXL)を用いた。格子定数は、観測された全てのピークを使って最小二乗法で精密化した。格子は六方晶、空間群はR-3m(a=b,α=β=90°,γ=120°)とした。
【0256】
コイン型及び小型非水系二次電池を組み立てる前(未通電)の正極のc軸の格子定数をc1、50℃サイクル試験後の正極のc軸の格子定数をc2とする。
c軸の格子定数の変化率を、下記式:
{(c2/c1)-1}×100
に基づき算出した。
尚、組み立て済の非水系二次電池を測定する場合、25℃環境下で電池電圧が2.5V以下となるまで定電流放電し、アルゴン雰囲気下で非水系二次電池を解体して正極を取り出し、ジエチルカーボネートで洗浄後、乾燥し、粉末X線回折装置による測定を行う。この正極のc軸の格子定数をc1とする。
【0257】
(5)正極の断面SEM観察
サイクル試験終了後、アルゴン雰囲気下でコイン型非水系二次電池(実施例I-1及び比較例I-1)を解体して正極を取り出し、ジエチルカーボネートで洗浄後、乾燥し、断面SEM観察を行った。
アルゴン雰囲気下で試料を適切な大きさに切り出し、BIB(Broad Ion Beam)加工試料ホルダに固定した。その後、試料を専用のトランスファーベッセルを用いて、雰囲気遮断した状態で装置に導入し、BIB加工により断面作製を行った。断面加工を行った試料は、再び雰囲気遮断した状態で、SEM装置に導入した。
BIB加工は、JEOL製IB-09029CPを用いた。加工条件は、イオン種にAr、設定温度-150℃、加速電圧4.5kVとした。SEM観察は、日立製SU8220を用いた。測定条件は加速電圧1kVとした。
実施例I-1及び比較例I-1に用いた電解液で作製された非水系二次電池のサイクル試験後の正極の断面SEM写真をそれぞれ図1及び図2に示す。
【0258】
[実施例I-1~I-32及び比較例I-1~I-11]
正極、負極、表1の非水系電解液を用い、上述の(2)に記載の方法に従ってコイン型及び小型非水系二次電池を作製した。次に、上述の(3)~(5)の手順に従ってそれぞれのコイン型及び小型非水系二次電池を評価した。この試験結果を表2~表4に示す。
【0259】
【表2】
【0260】
【表3】
【0261】
【表4】
【0262】
表2および表4に示すように、実施例I-1~I-28は、サイクル試験の容量維持率が70%以上であり、コイン型非水系二次電池を組み立てる前の正極のc軸の格子定数に対するサイクル試験後の正極のc軸の格子定数の変化率が1.0%以下、5C容量維持率が30%以上であった。一方で、比較例I-1~I-3、I-5~I-9はサイクル試験の容量維持率が66%以下、c軸の格子定数の変化率が1.0%より大きかった。また、比較例I-4は5C容量維持率が30%未満であった。
【0263】
また、表3および表4に示すように、実施例I-29~I-32は、サイクル試験の容量維持率が70%以上であり、小型非水系二次電池を組み立てる前の正極のc軸の格子定数に対するサイクル試験後の正極のc軸の格子定数の変化率が1.0%以下、10C容量維持率が45%以上、20C容量維持率が7.5%以上であった。一方で、比較例I-10~I-11は10C容量維持率が45%未満、20C容量維持率が7.5%未満であった。
【0264】
本結果が示すように、本発明範囲内の非水系電解液および特定の正極活物質を用いてc軸の格子定数の変化率を所定の範囲に抑制することにより、十分な出力性能を発揮しながら、高温環境下でのサイクル性能を改善できることが明らかとなった。
【0265】
実施例I-1、I-5~I-23と、比較例I-1、I-5~I-8を比較すると、非水系電解液におけるアセトニトリル量、イオン伝導度を所定の範囲に制御し、c軸の格子定数の変化率を1.0%以下に抑制することで、サイクル試験の容量維持率が70%以上に向上している。これは、正極のc軸の格子定数の変化率を1.0%以下に抑制することで、高温環境下で充放電サイクルした際の正極活物質の割れを抑制することができ、アセトニトリル量、イオン伝導度を所定の範囲に制御することで、正極のリチウム引き抜き量が均一化して正極活物質の割れが抑制され、これらの結果、高温環境下における各種劣化現象を抑制できたためだと考えられる。
【0266】
実施例I-1~I-3と、比較例I-2を比較すると、被覆層を含有する正極を用い、c軸の格子定数の変化率を1.0%以下に抑制することで、サイクル試験の容量維持率が70%以上に向上している。これは、正極活物質が被覆層を含有することで、アセトニトリルを含む非水系電解液の正極活物質粒子深部への拡散速度を低下させ、正極活物質粒子深部におけるリチウム引き抜きを抑制するとともに、正極活物質の結晶構造が安定化され、不均一なリチウム引き抜きにより劣化が進行した際のスピネル転移が抑制されることで、正極のc軸の格子定数の変化率が抑制され、正極活物質の割れを抑制することができ、その結果、高温環境下における各種劣化現象を抑制できたためだと考えられる。
【0267】
実施例I-4と、比較例I-2を比較すると、ドープ元素を含有する正極を用い、c軸の格子定数の変化率を1.0%以下に抑制することで、サイクル試験の容量維持率が80%以上に向上している。これは、正極活物質がドープ元素を含有することで、正極活物質の結晶構造が安定化され、不均一なリチウム引き抜きにより劣化が進行した際のスピネル転移が抑制されることで、正極のc軸の格子定数の変化率が抑制され、正極活物質の割れを抑制することができ、その結果、高温環境下における各種劣化現象を抑制できたためだと考えられる。
【0268】
実施例I-1、I-5~I-23と、比較例I-4を比較すると、非水系電解液におけるアセトニトリル量、イオン伝導度を所定の範囲に制御することで5C容量維持率が30%以上に向上している。これは、アセトニトリル量、イオン伝導度を所定の範囲に制御することで、リチウムイオンが電極へ挿入脱離する速度が向上し、高出力特性を発現できたためだと考えられる。
【0269】
実施例I-24~I-28と比較例I-9を比較すると、被覆層を含有する正極を用い、非水系電解液におけるアセトニトリル量、イオン伝導度を所定の範囲に制御し、c軸の格子定数の変化率を1.0%以下に抑制することで、サイクル試験の容量維持率が70%以上に向上している。これは、正極活物質が被覆層を含有することで、アセトニトリルを含む非水系電解液の正極活物質粒子深部への拡散速度を低下させ、正極活物質粒子深部におけるリチウム引き抜きを抑制するとともに、正極活物質の結晶構造が安定化され、不均一なリチウム引き抜きにより劣化が進行した際のスピネル転移が抑制されることで、正極のc軸の格子定数の変化率が抑制され、正極活物質の割れを抑制することができ、その結果、高温環境下における各種劣化現象を抑制できたためだと考えられる。それに加えて、正極のc軸の格子定数の変化率を1.0%以下に抑制することで、高温環境下で充放電サイクルした際の正極活物質の割れを抑制することができ、アセトニトリル量、イオン伝導度を所定の範囲に制御することで、正極のリチウム引き抜き量が均一化して正極活物質の割れが抑制され、これらの結果、高温環境下における各種劣化現象を抑制できたためだと考えられる。
【0270】
実施例I-29~I-30と比較例I-10、または、実施例I-31~I-32と比較例I-11を比較すると、非水系電解液におけるアセトニトリル量、イオン伝導度を所定の範囲に制御することで、10C容量維持率が45%以上、20C容量維持率が7.5%以上に向上している。これは、アセトニトリルの含有量が、非水系溶媒の全量当たりの量として5体積%以上であることで、イオン伝導度が増大してリチウムイオンが電極へ挿入脱離する速度が向上し、高出力特性を発現できたためだと考えられる。
【0271】
実施例I-1、I-4と実施例I-2~I-3を比較すると、ドープ元素としてジルコニウムを含む、または、被覆剤として酸化ジルコニウムを用い、c軸の格子定数の変化率を0.6%以下に抑制することで、サイクル試験の容量維持率が向上している。これは、コート元素またはドープ元素としてジルコニウムを用いることで、正極活物質の結晶構造が強く安定化され、正極のc軸の格子定数の変化率を抑制できたため、正極活物質の割れを抑制することができ、その結果、高温環境下における各種劣化現象を抑制できたためだと考えられる。
【0272】
実施例I-1と実施例I-4を比較すると、被覆剤として酸化ジルコニウムを用いた場合、ドープ元素としてジルコニウムを含む場合に比べて、サイクル試験の容量維持率が向上している。これは、被覆層を含有する場合の方が、ドープ元素を含有する場合と比較して、アセトニトリルを含む非水系電解液の正極活物質粒子深部への拡散速度を低下させ、
正極活物質粒子深部におけるリチウム引き抜きを抑制するとともに、正極活物質の結晶構造が安定化され、不均一なリチウム引き抜きにより劣化が進行した際のスピネル転移が抑制されることで、正極のc軸の格子定数の変化率が抑制され、正極活物質の割れを抑制することができ、その結果、高温環境下における各種劣化現象を抑制できたためだと考えられる。
【0273】
実施例I-7と実施例I-6、または、実施例I-15と実施例I-14、または、実施例I-18と実施例I-17、または、実施例I-20と実施例I-19、または、実施例I-23と実施例I-22、または、実施例I-25と実施例I-24を比較すると、非水系電解液に所定の量のジニトリル化合物を添加剤として加えることで、c軸の格子定数の変化率が抑制され、サイクル試験の容量維持率が向上している。これは、非水系電解液にジニトリル化合物を添加剤として加えることで、正極活物質の結晶構造が安定化され、正極のc軸の格子定数の変化率を抑制できたため、正極活物質の割れを抑制することができ、その結果、高温環境下における各種劣化現象を抑制できたためだと考えられる。
【0274】
実施例I-21と実施例I-19、または、実施例I-30と実施例I-29、または、実施例I-32と実施例I-31を比較すると、非水系電解液に所定の量の窒素含有環状化合物を添加剤として加えることで、c軸の格子定数の変化率が抑制され、サイクル試験の容量維持率が向上している。これは、非水系電解液に窒素含有環状化合物を添加剤として加えることで、正極活物質の相転移が抑制され、結晶構造が安定化され、正極のc軸の格子定数の変化率を抑制できたため、正極活物質の割れを抑制することができ、その結果、高温環境下における各種劣化現象を抑制できたためだと考えられる。
【0275】
≪第2の実施形態≫
(1)非水系電解液の調製
不活性雰囲気下、各種非水系溶媒、及び各種添加剤を、それぞれが所定の濃度になるよう混合し、更に、各種リチウム塩をそれぞれ所定の濃度になるよう添加することにより、非水系電解液(T01)~(T25)を調製した。これらの非水系電解液組成を表5に示す。
【0276】
なお、表5における非水系溶媒、ジニトリル化合物、リチウム塩の略称は、それぞれ以下の意味である。
また、表5における「DN」はジニトリル化合物を表す。
また、表5におけるリチウム塩のモル濃度は、非水系溶媒1L当たりのモル濃度を示しており、表5におけるジニトリル化合物の質量%は、非水系電解液の全量に対する質量%を示している。体積%と質量%は、各非水系溶媒、リチウム塩、及びジニトリル化合物の比重(25℃)の値を用いて換算可能である。
(非水系溶媒)
AcN:アセトニトリル
EMC:エチルメチルカーボネート
DEC:ジエチルカーボネート
GBL:γ-ブチロラクトン
PP:プロピオン酸プロピル
EC:エチレンカーボネート
ES:エチレンサルファイト
VC:ビニレンカーボネート
SN:スクシノニトリル
MeSN:メチルスクシノニトリル
(リチウム塩)
LiPF:ヘキサフルオロリン酸リチウム
LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF)
(ジニトリル化合物)
SN:スクシノニトリル
MeSN:メチルスクシノニトリル
【0277】
【表5】
【0278】
(2)非水系電解液のイオン伝導度測定
上述のようにして得られた非水系電解液のうち、(T01)~(T11)、(T18)~(T19)、(T21)、(T23)~(T24)について、イオン伝導度測定を行った。
東亜ディーケーケー(株)製のイオン伝導度計「CM-41X」(商品名)に接続した東亜ディーケーケー(株)製のイオン伝導度測定用セル「CT-58101B」(商品名)を、非水系電解液が収容されたポリプロピレン製容器に挿入し、25℃での非水系電解液のイオン伝導度を測定した。
非水系二次電池において、イオン伝導度の低い非水系電解液を用いた場合、リチウムイオンの移動速度が、非水系電解液のイオン伝導度に律速されることとなり、所望の入出力特性が得られない場合がある。そのため、非水系電解液のイオン伝導度は、10mS/cm以上であることが望ましい。
得られた測定結果を表6に示す。
【0279】
【表6】
【0280】
非水系電解液の全量に対するジニトリル化合物の含有量が25質量%より多い、または、非水系溶媒の含有量が非水系溶媒とジニトリル化合物を合わせた全量に対して70体積%及び70質量%以下である比較例II-1~II-2や、非水系溶媒の全量に対してアセトニトリルを10体積%未満含む比較例II-3~II-5は、イオン伝導度が10mS/cm未満であるのに対して、実施例II-1~II-11では、イオン伝導度が10mS/cm以上であった。以上の結果から、アセトニトリル、ジニトリル化合物及びその他の非水系溶媒の含有量を所定の範囲に収めることが望ましいとわかった。
【0281】
(3)出力試験
(3-1)コイン型非水系二次電池の作製
(3-1-1)正極(II-P1)の作製
正極活物質として、リチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.33Mn0.33Co0.33)と、導電助剤として、グラファイト粉末及びアセチレンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、100:4.2:1.8:4.6の質量比で混合し、正極合剤を得た。
【0282】
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように投入してさらに混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が24.0mg/cmになるように調節しながら塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.90g/cmになるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体から成る正極(II-P1)を得た。
【0283】
(3-1-2)負極(II-N1)の作製
負極活物質として、数平均粒子径12.7μmのグラファイト粉末及び数平均粒子径6.5μmのグラファイト粉末と、バインダーとして、カルボキシメチルセルロース及びジエン系ゴムとを、87.2:9.7:1.4:1.7の質量比で混合し、負極合剤を得た。
【0284】
得られた負極合剤に溶剤として水を固形分45質量%となるように投入してさらに混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、負極集電体となる厚さ10μmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーを目付量が10.6mg/cmになるように調節しながら塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.50g/cmになるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体から成る負極(II-N1)を得た。
【0285】
(3-1-3)コイン型非水系二次電池の組み立て
CR2032タイプの電池ケース(SUS304/Alクラッド)にポリプロピレン製ガスケットをセットし、その中央に、上述のようにして得られた正極(II-P1)を直径15.958mmの円盤状に打ち抜いたものを、正極活物質層を上向きにしてセットした。その上から、ガラス繊維濾紙(GA-100;アドバンテック社製)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものをセットして、表5に示される各非水系電解液を150μL注入した後、上述のようにして得られた負極(II-N1)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものを、負極活物質層を下向きにしてセットした。さらに、電池ケース内にスペーサーとスプリングをセットした後に電池キャップをはめ込み、カシメ機でかしめた。溢れた非水系電解液はウエスで拭き取った。II-P1とガラス繊維濾紙とII-N1の積層体、及び非水系電解液を含むアセンブリを25℃で12時間保持し、積層体に非水系電解液を十分馴染ませてコイン型非水系二次電池を得た。
【0286】
(3-2)コイン型非水系二次電池の評価
上述のようにして得られたコイン型非水系二次電池について、まず、下記(3-2-1)の手順に従って初回充電処理を行った。次に下記(3-2-2)の手順に従って、それぞれのコイン型非水系二次電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-M01A(商品名)及びヤマト科学(株)製のプログラム恒温槽IN804(商品名)を用いて行った。
ここで、1Cとは、満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。下記(3-2-1)~(3-2-2)の評価では、1Cは、具体的には、4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0287】
(3-2-1)コイン型非水系二次電池の初回充放電処理
電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.6mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する1.8mAの定電流で3.0Vまで電池を放電した。
【0288】
(3-2-2)コイン型非水系二次電池の出力試験
上記(3-2-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った電池について、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する6mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。その後、1Cに相当する6mAの電流値で3.0Vまで電池を放電した。次に、定電流放電時の電流値を5Cに相当する30mAに変更した以外は同様の充放電を行った。出力試験後、5Cに相当する30mAの電流値の放電曲線について確認を行った。放電曲線は、横軸に時間、縦軸に電池電圧をプロットした。
【0289】
放電曲線の縦軸にプロットされた電池電圧の推移に異常が見られなかった場合を「G(Al箔腐食:無)」、電池電圧の推移に上下に乱れるような異常が見られた場合を「B(Al箔腐食:有)」と判定した。得られた評価結果を表7に示す。
【0290】
【表7】
【0291】
LiPFを含有せずLiFSIのみを含有する比較例II-6では、Al箔の腐食に起因する電池電圧推移の異常が発生したのに対して、LiPFとLiFSIの両方を含有する実施例II-12では、電池電圧推移の異常は発生しなかった。以上の結果から、非水系電解液は、リチウム塩として、LiPFとLiFSIの両方を含有することが望ましいとわかった。
【0292】
(4)-10℃サイクル試験
(4-1)単層ラミネート型非水系二次電池の作製
(4-1-1)リード付き正極(II-P2)の作製
正極活物質として、リチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.5Mn0.3Co0.2)と、導電助剤として、アセチレンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、100:3.5:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。
【0293】
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入してさらに混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が9.50mg/cmになるように調節しながら塗布した。正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.74g/cmになるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体から成る正極を得た。
【0294】
次に、この正極を、正極合剤層の面積が30mm×50mmで、且つアルミニウム箔の露出部を含むように切断した。そして、アルミニウム箔の露出部に電流を取り出すためのアルミニウム製のリード片を溶接し、120℃で12時間真空乾燥を行うことにより、リード付き正極(II-P2)を得た。
【0295】
(4-1-2)リード付き負極(II-N2)の作製
負極活物質として、グラファイト粉末と、バインダーとして、カルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエンラテックスとを、100:1.1:1.5の質量比で混合し、負極合剤を得た。
【0296】
得られた負極合剤に溶剤として水を投入してさらに混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、負極集電体となる厚さ10μmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーを目付量が6.10mg/cmになるように調節しながら塗布した。負極合剤含有スラリーを銅箔に塗布する際には、銅箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.20g/cmになるように圧延することにより、負極活物質層と負極集電体とからなる負極を得た。
【0297】
次に、この負極を、負極合剤層の面積が32mm×52mmで、且つ銅箔の露出部を含むように切断した。そして、銅箔の露出部に電流を取り出すためのニッケル製のリード片を溶接し、80℃で12時間真空乾燥を行うことにより、リード付き負極(II-N2)を得た。
【0298】
(4-1-3)単層ラミネート型非水系二次電池の組み立て
上述のようにして得られたリード付き正極(II-P2)とリード付き負極(II-N2)とを、各極の合剤塗布面が対向するようにポリエチレン製微多孔膜セパレータ(厚み21μm)を介して重ね合わせて積層電極体とした。この積層電極体を、90mm×80mmのアルミニウムラミネートシート外装体内に収容し、水分を除去するために80℃で5時間真空乾燥を行った。続いて、上記した表5に示される各非水系電解液を外装体内に注入した後、外装体を封止することにより、単層ラミネート型(パウチ型)非水系二次電池を作製した。この単層ラミネート型非水系二次電池は、設計容量値が23mAh、定格電圧値が4.2Vのものである。
【0299】
(4-2)単層ラミネート型非水系二次電池の評価
上述のようにして得られた単層ラミネート型非水系二次電池について、まず、下記(4-2-1)の手順に従って初回充電処理を行った。次に下記(4-2-2)の手順に従って、それぞれの単層ラミネート型非水系二次電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-M01A(商品名)及びヤマト科学(株)製のプログラム恒温槽IN804(商品名)を用いて行った。
ここで、1Cとは、満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。下記(4-2-1)~(4-2-2)の評価では、1Cは、具体的には、4.2Vの満充電状態から定電流で2.5Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0300】
(4-2-1)単層ラミネート型非水系二次電池の初回充放電処理
電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する2.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する6.9mAの定電流で2.5Vまで電池を放電した。
【0301】
(4-2-2)単層ラミネート型非水系二次電池の-10℃サイクル試験
上記(4-2-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った電池について、サイクル試験を実施した。なお、サイクル試験は電池の周囲温度を-10℃に設定した3時間後に開始した。まず、0.2Cに相当する4.6mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電を行った。その後、4.6mAの定電流で2.5Vまで電池を放電した。充電と放電とを各々1回ずつ行うこの工程を1サイクルとし、20サイクルの充放電を行った。1サイクル目の放電容量を100%としたときの20サイクル目の放電容量を-10℃サイクル容量維持率として求め、以下の基準で評価した。
評価基準:
A:容量維持率が80%以上であった場合
B:容量維持率が70%以上80%未満であった場合
C:容量維持率が70%未満であった場合
【0302】
-10℃サイクル容量維持率は、低温での長期使用時の電池劣化の指標となる。この値が大きいほど、低温での長期使用による容量低下が少なく、寒冷地での長期使用を目的とする用途に使用可能であると考えられる。従って、-10℃サイクル容量維持率は70%以上であることが望ましく、80%以上であることがより望ましい。
得られた評価結果を表8に示す。
【0303】
【表8】
【0304】
リチウム塩のモル濃度が、LiPF>LiFSIとなる比較例II-7や、LiFSIを含有せずLiPFのみを含有する比較例II-8では、-10℃サイクル容量維持率が70%未満であるのに対して、実施例II-13では-10℃サイクル容量維持率が80%以上であった。以上の結果から、リチウム塩として、LiPFと、LiFSIを含むイミド塩とを、0<LiPF≦イミド塩となるモル濃度で含有することが望ましいとわかった。
【0305】
(5)コイン型非水系二次電池での50℃サイクル試験
(5-1)コイン型非水系二次電池の作製
(5-1-1)正極(II-P3)の作製
正極活物質として、リチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.8Mn0.1Co0.1)と、導電助剤として、カーボンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、94:3:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。
【0306】
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入してさらに混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が16.6mg/cmになるように調節しながら塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.91g/cmになるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体から成る正極(II-P3)を得た。
【0307】
(5-1-2)負極(II-N3)の作製
負極活物質として、グラファイト粉末と、導電助剤として、カーボンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、90:3:7の質量比で混合し、負極合剤を得た。
【0308】
得られた負極合剤に溶剤として水を投入してさらに混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、負極集電体となる厚さ8μmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーを目付量が10.3mg/cmになるように調節しながら塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.36g/cmになるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体から成る負極(II-N3)を得た。
【0309】
(5-1-3)コイン型非水系二次電池の組み立て
CR2032タイプの電池ケース(SUS304/Alクラッド)にポリプロピレン製ガスケットをセットし、その中央に、上述のようにして得られた正極(II-P3)を直径15.958mmの円盤状に打ち抜いたものを、正極活物質層を上向きにしてセットした。その上から、ガラス繊維濾紙(GA-100;アドバンテック社製)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものをセットして、非水系電解液を150μL注入した後、上述のようにして得られた負極(II-N3)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものを、負極活物質層を下向きにしてセットした。さらに、電池ケース内にスペーサーとスプリングをセットした後に電池キャップをはめ込み、カシメ機でかしめた。溢れた非水系電解液はウエスで拭き取った。II-P3とガラス繊維濾紙とII-N3の積層体、及び非水系電解液を含むアセンブリを25℃で12時間保持し、積層体に非水系電解液を十分馴染ませてコイン型非水系二次電池を得た。
【0310】
(5-2)コイン型非水系二次電池の評価
上述のようにして得られたコイン型非水系二次電池について、まず、下記(5-2-1)の手順に従って初回充電処理及び初回充放電容量測定を行った。次に下記(5-2-2)の手順に従って、それぞれの非水系二次電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-M01A(商品名)及びヤマト科学(株)製のプログラム恒温槽IN804(商品名)を用いて行った。
ここで、1Cとは、満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。下記(5-2-1)~(5-2-2)の評価では、1Cは、具体的には、4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
第2の実施形態における本実施例では、コイン型非水系二次電池における1Cに相当する電流値は6mAである。
【0311】
(5-2-1)初回充放電処理
コイン型非水系二次電池の周囲温度を25℃に設定し、0.025Cに相当する0.15mAの定電流で充電して3.1Vに到達した後、3.1Vの定電圧で1.5時間充電を行った。続いて3時間休止後、0.05Cに相当する0.3mAの定電流で電池を充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、0.15Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで電池を放電した。このときの放電容量を初回放電容量(X)とした。
【0312】
(5-2-2)50℃サイクル試験
上記(5-2-1)に記載の方法で初回充放電処理を行ったコイン型非水系二次電池について、周囲温度を50℃に設定し、1Cに相当する6mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する1.8mAの電流値で3.0Vまで電池を放電した。次に、1.5Cに相当する9mAの定電流で電池を充電して、電池電圧が4.2Vに到達するまで充電を行った後、4.2Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、1.5Cに相当する9mAの定電流で電池電圧3.0Vまで放電した。充電と放電とを各々1回ずつ行うこの工程を1サイクルとし、98サイクルの充放電を行った。その後、1Cに相当する6mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、0.3Cに相当する1.8mAの電流値で3.0Vまで電池を放電した。このときの放電容量を100サイクル目放電容量(以後、(T)と表記する場合がある)とした。以下の式に基づき、50℃サイクル容量維持率を算出した。
50℃サイクル容量維持率=(50℃サイクル試験での100サイクル目放電容量(T)/初回充放電処理における初回放電容量(X))×100[%]
【0313】
50℃サイクル容量維持率は、繰り返し使用による電池劣化の指標となる。この値が大きいほど、繰り返し使用による容量低下が少なく、長期使用を目的とする用途に使用可能であると考えられる。
それに加えて、50℃サイクル容量維持率は、高温での自己放電の大きさの指標とすることができる。この値が大きいほど、高温下における自己放電が小さく、電池からより多くの電流を目的とする用途に使用可能であると考えられる。
従って、50℃サイクル容量維持率は70%以上であることが望ましく、80%以上であることがより望ましい。
【0314】
得られた評価結果を表9に示す。
【0315】
【表9】
【0316】
ジニトリル化合物を含有しない比較例II-9は、実施例II-14~II-16に比べて低い50℃サイクル容量維持率を示した。また、ジニトリル化合物の含有量が、アセトニトリルの含有量に対してモル比で0.10未満である比較例II-10~II-11は、50℃サイクル容量維持率が70%を下回った。以上の結果から、ジニトリル化合物の含有量を所定の範囲に収めることが望ましいとわかった。
【0317】
(6)小型非水系二次電池での50℃サイクル試験
(6-1)小型非水系二次電池の作製
【0318】
(6-1-1)正極(II-P4)の作製
正極活物質として、リチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.5Mn0.3Co0.2)と、導電助剤として、カーボンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、94:3:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。
【0319】
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入してさらに混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が20.4mg/cmになるように調節しながら塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.90g/cmになるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体から成る正極(II-P4)を得た。
【0320】
(6-1-2)正極(II-P5)の作製
正極活物質として、リチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.6Mn0.2Co0.2)と、導電助剤として、カーボンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、94:3:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。
【0321】
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入してさらに混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が19.7mg/cmになるように調節しながら塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.90g/cmになるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体から成る正極(II-P5)を得た。
【0322】
(6-1-3)小型非水系二次電池の組み立て
上述のようにして得られた正極(II-P3~II-P5)を直径15.958mmの円盤状に打ち抜いたものと、(5-1-2)に記載の方法にて得られた負極(II-N3)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものとをポリエチレン製微多孔膜セパレータ(膜厚21μm、透気度285s/100cm、気孔率41%))の両側に重ね合わせて積層体を得た。その積層体をSUS製の円盤型電池ケースに挿入した。次いで、その電池ケース内に非水系電解液(T18~T25)を200μL注入し、積層体を非水系電解液に浸漬した後、電池ケースを密閉して25℃で12時間保持し、積層体に非水系電解液を十分馴染ませて小型非水系二次電池を得た。各セルにおける正極、負極、及び電解液の組合せを表10に示す。
【0323】
【表10】
【0324】
(6-2)小型非水系二次電池の評価
上述のようにして得られた小型非水系二次電池(C1~C10)について、まず、下記(6-2-1)の手順に従って初回充電処理及び初回充放電容量測定を行った。次に下記(6-2-2)の手順に従って、それぞれの非水系二次電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-M01A(商品名)及びヤマト科学(株)製のプログラム恒温槽IN804(商品名)を用いて行った。
ここで、1Cとは、満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。下記(6-2-1)~(6-2-2)の評価では、1Cは、具体的には、4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
第2の実施形態における本実施例では、小型非水系二次電池における1Cに相当する電流値は6mAである。
【0325】
(6-2-1)初回充放電処理
小型非水系二次電池の周囲温度を25℃に設定し、0.025Cに相当する0.15mAの定電流で充電して3.1Vに到達した後、3.1Vの定電圧で1.5時間充電を行った。続いて3時間休止後、0.05Cに相当する0.3mAの定電流で電池を充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、0.15Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで電池を放電した。このときの放電容量を初回放電容量(X)とした。
【0326】
(6-2-2)50℃サイクル試験
上記(6-2-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った小型非水系二次電池について、周囲温度を50℃に設定し、1Cに相当する6mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、0.3Cに相当する1.8mAの電流値で3.0Vまで電池を放電した。次に、1.5Cに相当する9mAの定電流で電池を充電して、電池電圧が4.2Vに到達するまで充電を行った後、4.2Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、1.5Cに相当する9mAの定電流で電池電圧3.0Vまで放電した。充電と放電とを各々1回ずつ行うこの工程を1サイクルとし、98サイクルの充放電を行った。その後、1Cに相当する6mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、0.3Cに相当する1.8mAの電流値で3.0Vまで電池を放電した。このときの放電容量を100サイクル目放電容量(以後、(T)と表記する場合がある)とした。以下の式に基づき、50℃サイクル容量維持率を算出した。
50℃サイクル容量維持率=(50℃サイクル試験での100サイクル目放電容量(T)/初回充放電処理における初回放電容量(X))×100[%]
【0327】
50℃サイクル容量維持率は、繰り返し使用による電池劣化の指標となる。この値が大きいほど、繰り返し使用による容量低下が少なく、長期使用を目的とする用途に使用可能であると考えられる。
それに加えて、50℃サイクル容量維持率は、高温での自己放電の大きさの指標とすることができる。この値が大きいほど、高温下における自己放電が小さく、電池からより多くの電流を目的とする用途に使用可能であると考えられる。
従って、50℃サイクル容量維持率は80%以上であることが望ましい。各小型非水系二次電池(C1~C8)に関して得られた評価結果を表11に示す。
【0328】
(6-3)電極組み替え後の交流インピーダンス測定
上記(6-2-2)に記載の方法で50℃サイクル試験を行った小型非水系二次電池(C1~C10)を各セル2つずつ用意する。これら2つの小型非水系二次電池について、周囲温度を25℃に設定し、0.5Cに相当する3mAの定電流で充電して4.0Vに到達した後、4.0Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、これら2つの小型非水系二次電池をアルゴン雰囲気下で解体して、正極及び負極を各2枚取り出した。その後、解体後の正極2枚をポリエチレン製微多孔膜セパレータ(膜厚21μm、透気度285s/100cm、気孔率41%))の両側に重ね合わせて積層体を得た。その積層体をSUS製の円盤型電池ケースに挿入した。次いで、その電池ケース内に、表10に記載の非水系電解液を200μL注入し、積層体を非水系電解液に浸漬した後、電池ケースを密閉して25℃で12時間保持し、積層体に非水系電解液を十分馴染ませて正極対向セルを得た。また、同様の操作により、解体後の負極2枚を用いて、負極対向セルを得た。
上述のようにして得られた、正極対向及び負極対向セルについて、交流インピーダンス測定を行った。測定には、ソーラトロン社製周波数応答アナライザ1400(商品名)とソーラトロン社製ポテンショ-ガルバノスタット1470E(商品名)を用いた。1000kHz~0.01Hzに周波数を変えつつ交流信号を付与し、電圧・電流の応答信号からインピーダンスを測定し、交流インピーダンス値を求めた。その交流インピーダンス値を、インピーダンスの実数成分(Z’)を横軸、インピーダンスの虚数成分(Z’’)を縦軸とするグラフ上にプロットしたナイキストプロットを作成した。また、印可する交流電圧の振幅は±5mVとし、交流インピーダンスを測定する際の電池の周囲温度は25℃とした。
【0329】
本実施形態における正極対向セル及び負極対向セルについてのナイキストプロットは、それぞれ図5及び図6のように表される。
【0330】
図5において、1000kHzにおけるプロットをA1、インピーダンスの虚数成分の絶対値が減少から増加に転じる変曲点となるプロットのうち、最も周波数が高いプロットをA2、次に周波数が高いプロットをA3とする。A2の実数成分とA1の実数成分の差をR正極1、A3の実数成分とA2の実数成分の差をR正極2とする。図5において、正極対向セルのR正極1及びR正極2は、正極の界面抵抗成分に相当している。この値が小さいほど、50℃サイクル試験における正極の界面抵抗成分の増加が抑制されていると考えられる。
【0331】
また、図6において、1000kHzにおけるプロットをB1、インピーダンスの虚数成分の絶対値が減少から増加に転じる変曲点となるプロットのうち、最も周波数が高いプロットをB2とする。B2の実数成分とB1の実数成分の差をR負極1とする。ここで、負極対向セルのR負極1は、負極の界面抵抗成分に相当している。この値が小さいほど、50℃サイクル試験における負極の界面抵抗成分の増加が抑制されていると考えられる。
【0332】
次に、各セル(C1~C8)における、非水系電解液へのジニトリル化合物添加による正極界面抵抗増加率、負極界面抵抗増加率を下記計算式によって算出した。なお、各小型非水系二次電池に対応するジニトリル化合物非含有セルについては、表11に記載した。

正極界面抵抗増加率=(各セルのR正極2)/(各セルに対応するジニトリル化合物非含有セルのR正極2
負極界面抵抗増加率=(各セルのR負極1)/(各セルに対応するジニトリル化合物非含有セルのR負極1
【0333】
正極界面抵抗増加率は、ジニトリル化合物添加による正極の界面抵抗成分の増加率に相当している。この値が1より小さい場合、ジニトリル化合物の添加によって50℃サイクル試験における正極の界面抵抗成分の増加が抑制されていると考えられる。
【0334】
負極界面抵抗増加率は、ジニトリル化合物添加による負極の界面抵抗成分の増加率に相当している。この値が1より小さい場合、ジニトリル化合物の添加によって50℃サイクル試験における負極の界面抵抗成分の増加が抑制されていると考えられる。
【0335】
得られた評価結果を表11に示す。
【0336】
【表11】
【0337】
ジニトリル化合物を含まない比較例II-12及びII-13では、50℃サイクル試験の容量維持率が80%未満であったのに対して、実施例II-17~II-22では、50℃サイクル試験の容量維持率が80%以上であることから、ジニトリル化合物の含有量を所定の範囲に収めることで高温耐久性が向上することが示された。
【0338】
また、実施例II-17~II-22と比較例II-12及びII-13の比較から、ジニトリル化合物の含有量を所定の範囲に収めることで、正極界面抵抗増加率と負極界面抵抗増加率を1より小さい値に抑制することができた。これは、ジニトリル化合物が正極活物質中の粒子の割れを抑制することで正極界面抵抗の増加が抑制されるとともに、正極溶出金属の負極での還元析出による負極SEI損傷が抑制されることで負極界面抵抗の増加が抑制されたためと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0339】
本発明の非水系二次電池は、例えば、携帯電話機、携帯オーディオ機器、パーソナルコンピュータ、IC(Integrated Circuit)タグ等の携帯機器用の充電池;ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車等の自動車用充電池;12V級電源、24V級電源、48V級電源等の低電圧電源;住宅用蓄電システム、IoT機器等としての利用等が期待される。また、本発明の非水系二次電池は、寒冷地用の用途、及び夏場の屋外用途等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0340】
100 非水系二次電池
110 電池外装
120 電池外装110の空間
130 正極リード体
140 負極リード体
150 正極
160 負極
170 セパレータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6