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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】三次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/153 20170101AFI20231003BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231003BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20231003BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20231003BHJP
【FI】
B29C64/153
B33Y10/00
B29C64/393
B33Y50/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022117266
(22)【出願日】2022-07-22
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】網岡 弘至
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-183282(JP,A)
【文献】特開2019-073797(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105431279(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0241392(US,A1)
【文献】特開2014-201068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形領域に材料粉体を供給して材料層を形成する材料層形成工程と、前記材料層の所定の照射領域にレーザ光又は電子ビームを照射することにより固化層を形成する固化工程とを繰り返すことにより、前記固化層を積層する固化層形成工程を含んでなる三次元造形物の製造方法であって、
前記レーザ光又は前記電子ビームの照射条件と前記照射領域の分割幅とを設定する造形条件設定工程と、
所望の三次元形状を所定の高さ毎に分割してなる複数の分割層毎に前記照射領域を決定する照射領域決定工程と、
各前記分割層の前記照射領域を所定の分割方向に沿って前記照射条件に適する前記分割幅で分割して複数の分割領域を形成する分割工程と、
前記分割領域内に所定の走査方向に沿ったラスタ走査線を設定する走査線設定工程と、
を備え、
前記固化工程では、前記レーザ光又は前記電子ビームは、前記ラスタ走査線を含む走査経路に沿って走査され、
前記製造方法は、
対象分割層上の前記走査経路に所定値未満の前記ラスタ走査線が含まれるかを判定する長さ判定工程をさらに備え、
前記分割工程では、前記長さ判定工程において前記対象分割層上の前記走査経路に前記所定値未満の前記ラスタ走査線が含まれると判定された場合に、前記対象分割層における前記照射領域の前記分割方向を回転角度θ水平回転させた方向を、前記対象分割層の直上の分割層における前記照射領域の前記分割方向とし、
前記回転角度θは、0°<θ<180°又は-180°<θ<0°(ただし符号は回転方向を示す)を満たす、製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記走査線設定工程において、前記走査方向は前記分割方向に平行に設定される、製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の製造方法であって、
加工条件に基づき前記回転角度θを設定する回転角度設定工程を備え、
前記加工条件は、前記分割幅、前記材料粉体の材質、前記照射領域の条件、前記照射条件のうちの少なくとも1つを含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三次元造形物の積層造形方法としては、種々の方式が知られている。例えば粉末床溶融結合を実施する積層造形装置は、造形領域に材料粉体からなる材料層を形成し、レーザ光又は電子ビームを走査して材料層の所定位置に照射することで材料層を焼結又は溶融させて固化層を形成する。そして、材料層及び固化層の形成を繰り返すことによって固化層が積層され、所望の三次元造形物が製造される。
【0003】
レーザ光又は電子ビームは、例えば、材料層の照射領域内に直線状に並列に配置した走査パターンである、いわゆるラスタ走査線に沿って走査される。ここで、照射領域を所定の分割幅で分割し、分割領域毎にラスタ走査を行う場合がある。分割領域毎にラスタ走査を行う場合、各分割領域におけるラスタ走査線の長さが基本的に所定の分割幅に従って同じ長さであるから、照射条件を変えることなく均一な照射エネルギーで材料層を溶融固化することができる。そのため、スパッタの飛散量がより少なくなり、ピンホールや空隙ができにくくなる。また、所定の分割幅に依存するラスタ走査線の基準長さが数cm程度と短いので、レーザ光又は電子ビームを高速で走査しても周囲に対する熱等の悪影響を最小にできる。そのため、要求される休止時間を比較的短くすることができ、高速で凹凸の差が小さい品質が安定した溶融固化を行なうことができる。特許文献1には、スポット形状を細長形状としたレーザ光を分割領域毎にラスタ走査することで、材料層を均一に加熱し造形品質を向上させることが可能な積層造形装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6266040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
照射領域を分割せずにラスタ走査を行う場合、照射条件を決める走査線の基準長さが長いので、各走査線の長さの違いが照射領域の縁部分の形状差に与える影響は、相対的に小さい。一方、分割領域毎にラスタ走査を行う場合、各ラスタ走査線は、基本的に所定の分割幅と同じ長さを有する直線として設定される。このとき、照射領域の端部において分割幅よりも短いラスタ走査線が不可避的に生じるが、照射領域を分割せずにラスタ走査を行う場合と比べて走査線の基準長さが明らかに短く、照射エネルギーを含む照射条件に基づいてラスタ走査線の基準長さが設定されているので、基準長さよりも短いラスタ走査線による照射箇所においては、照射により形成されるメルトプールの温度が比較的高くなる。固化層の積層とともに短いラスタ走査線による照射箇所が鉛直方向に重複すると、一層毎の固化層の変形が何層もの積重ねによって徐々に隆起が大きくなっていき、ついには、材料層を形成する材料層形成装置のブレードが衝突するに至る。
【0006】
材料層形成装置は、造形領域を移動し材料粉体を供給しながらブレードによって材料粉体を均して材料層を形成するものである。そのため、隆起に材料層形成装置のブレードが衝突すると、材料粉体の供給量が変動して材料層が不均一となり、造形品質が低下する可能性がある。また、隆起の大きさによっては、ブレードが隆起に衝突したまま動くことができなくなってしまって、隆起を除去しない限り、造形作業を継続することができなくなってしまう。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、三次元造形物を高品質に造形することが可能な、三次元造形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]造形領域に材料粉体を供給して材料層を形成する材料層形成工程と、前記材料層の所定の照射領域にレーザ光又は電子ビームを照射することにより固化層を形成する固化工程とを繰り返すことにより、前記固化層を積層する固化層形成工程を含んでなる三次元造形物の製造方法であって、前記レーザ光又は前記電子ビームの照射条件と前記照射領域の分割幅とを設定する造形条件設定工程と、所望の三次元形状を所定の高さ毎に分割してなる複数の分割層毎に前記照射領域を決定する照射領域決定工程と、各前記分割層の前記照射領域を所定の分割方向に沿って前記照射条件に適する前記分割幅で分割して複数の分割領域を形成する分割工程と、前記分割領域内に所定の走査方向に沿ったラスタ走査線を設定する走査線設定工程と、を備え、前記固化工程では、前記レーザ光又は前記電子ビームは、前記ラスタ走査線を含む走査経路に沿って走査され、前記分割工程では、対象分割層における前記照射領域の前記分割方向を回転角度θ水平回転させた方向を、前記対象分割層の直上の分割層における前記照射領域の前記分割方向とし、前記回転角度θは、0°<θ<180°又は-180°<θ<0°(ただし符号は回転方向を示す)を満たす、製造方法。
[2][1]に記載の製造方法であって、前記走査線設定工程において、前記走査方向は前記分割方向に平行に設定される、製造方法。
[3][1]又は[2]に記載の製造方法であって、前記対象分割層上の前記走査経路に所定値未満の前記ラスタ走査線が含まれるかを判定する長さ判定工程を備え、前記分割工程では、前記長さ判定工程において前記対象分割層上の前記走査経路に前記所定値未満の前記ラスタ走査線が含まれると判定された場合に、前記対象分割層における前記照射領域の前記分割方向を前記回転角度θ水平回転させた方向を、前記対象分割層の直上の分割層における前記照射領域の前記分割方向とする、製造方法。
[4][1]~[3]のいずれか1つに記載の製造方法であって、加工条件に基づき前記回転角度θを設定する回転角度設定工程を備え、前記加工条件は、前記分割幅、前記材料粉体の材質、前記照射領域の条件、前記照射条件のうちの少なくとも1つを含む、製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る三次元造形物の製造方法では、任意の対象材料層における照射領域の分割方向を所定の回転角度θ(0°<θ<180°又は-180°<θ<0°)水平回転させた方向を、対象材料層の直上の材料層における照射領域の分割方向とする。分割方向の回転により、鉛直方向において短いラスタ走査線による照射箇所の重複が小さくなり、固化層の隆起の形成及び造形品質の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る積層造形装置100の概略構成図である。
図2】材料層形成装置3の斜視図である。
図3】リコータヘッド11の上方からの斜視図である。
図4】リコータヘッド11の下方からの斜視図である。
図5】照射装置13の概略構成図である。
図6】積層造形装置100の制御系統のブロック図である。
図7】ラスタ走査の説明図であり、図7Aは領域非分割方式によるラスタ走査を、図7Bは領域分割方式によるラスタ走査を示す。
図8】積層造形装置100を用いた三次元造形物の製造方法を示す図である。
図9】積層造形装置100を用いた三次元造形物の製造方法を示す図である。
図10】例示的な三次元造形物のk層目の分割層Lにおける照射領域S、分割領域、及びラスタ走査線を示す図である。
図11】例示的な三次元造形物のk+1層目の分割層Lk+1における照射領域Sk+1、分割領域、及びラスタ走査線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0012】
1.積層造形装置100
図1は、本実施形態に係る積層造形装置100の概略構成図である。積層造形装置100は、チャンバ1と、材料層形成装置3と、照射装置13とを備える。チャンバ1内に配置される造形テーブル5上に設けられた造形領域Rにおいて、材料層82及び固化層83の形成を繰り返すことで、所望の三次元造形物が形成される。
1.1.チャンバ1
チャンバ1は、三次元造形物が形成される領域である造形領域Rを覆う。チャンバ1の内部は不活性ガス供給装置(不図示)から供給される所定濃度の不活性ガスで充満されている。本明細書において不活性ガスとは、材料層82や固化層83と実質的に反応しないガスであり、材料の種類に応じて選択され、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスを使用可能である。固化層83の形成時に発生するヒュームを含んだ不活性ガスは、チャンバ1から排出され、ヒュームコレクタ(不図示)においてヒュームが除去された後にチャンバ1へ供給され再利用される。ヒュームコレクタは、例えば、電気集塵機又はフィルタである。
【0013】
チャンバ1の上面には、レーザ光Bの透過窓となるウィンドウ1aが設けられる。ウィンドウ1aは、レーザ光Bを透過可能な材料で形成される。具体的に、ウィンドウ1aの材料は、レーザ光Bの種類に応じて、石英ガラスもしくはホウケイ酸ガラス又はゲルマニウム、シリコン、ジンクセレンもしくは臭化カリウムの結晶等から選択される。例えば、レーザ光Bがファイバレーザ又はYAGレーザの場合、ウィンドウ1aは石英ガラスで構成可能である。
【0014】
また、チャンバ1の上面には、ウィンドウ1aを覆うように汚染防止装置17が設けられる。汚染防止装置17は、円筒状の筐体17aと、筐体17a内に配置された円筒状の拡散部材17cとを備える。筐体17aと拡散部材17cの間に不活性ガス供給空間17dが設けられる。また、筐体17aの底面には、拡散部材17cの内側に開口部17bが設けられる。拡散部材17cには多数の細孔17eが設けられており、不活性ガス供給空間17dに供給された清浄な不活性ガスは細孔17eを通じて清浄室17fに充満される。そして、清浄室17fに充満された清浄な不活性ガスは、開口部17bを通じて汚染防止装置17の下方に向かって噴出される。このような構成により、ヒュームのウィンドウ1aへの付着を防止し、レーザ光Bの照射経路からヒュームを排除することができる。
【0015】
1.2.材料層形成装置3
図1に示すように、材料層形成装置3は、チャンバ1の内部に設けられる。図2に示すように、材料層形成装置3は、ベース4と、ベース4上に配置されるリコータヘッド11とを備える。リコータヘッド11は、リコータヘッド駆動装置12によって水平1軸方向に往復移動可能に構成される。
【0016】
図3及び図4に示すように、リコータヘッド11は、材料収容部11aと、材料供給口11bと、材料排出口11cとを備える。材料供給口11bは、材料収容部11aの上面に設けられ、材料供給ユニット(不図示)から材料収容部11aに供給される材料粉体の受け口となる。材料排出口11cは、材料収容部11aの底面に設けられ、材料収容部11a内の材料粉体を排出する。材料排出口11cは、材料収容部11aの長手方向に延びるスリット形状を有する。リコータヘッド11の両側面には、平板状のブレード11fb,11rbが設けられる。ブレード11fb,11rbは、材料排出口11cから排出される材料粉体を平坦化して、材料層82を形成する。
【0017】
図1及び図2に示すように、造形領域Rは造形テーブル5上に位置し、造形領域Rに所望の三次元造形物が形成される。造形テーブル5は、造形テーブル駆動装置51によって駆動され鉛直方向に移動可能である。造形時には造形領域R内にベースプレート81が配置され、ベースプレート81の上面に材料粉体が供給されて材料層82が形成される。
【0018】
1.3.照射装置13
図1に示すように、照射装置13は、チャンバ1の上方に設けられる。照射装置13は、造形領域R内に形成される材料層82の照射領域にレーザ光Bを照射して、材料粉体を溶融又は焼結して固化させ、固化層83を形成する。
【0019】
図5に示すように、照射装置13は、光源31と、コリメータ33と、フォーカス制御ユニット35と、走査装置37とを備え、後述する照射制御装置72より制御される。光源31は、レーザ光Bを生成する。レーザ光Bは、材料粉体を焼結又は溶融可能であればよく、例えば、ファイバレーザ、CO2レーザ、YAGレーザである。本実施形態においては、レーザ光Bとして、ファイバレーザが用いられる。
【0020】
コリメータ33は、コリメータレンズを備え、光源31から出力されたレーザ光Bを平行光に変換する。フォーカス制御ユニット35は、焦点制御レンズと、焦点制御レンズを光軸方向に沿って前後に移動させるモータとを備え、コリメータ33により平行光に変換されたレーザ光Bの焦点位置を調整することで、材料層82の表面におけるレーザ光Bのビーム径を調整する。
【0021】
走査装置37は、例えばガルバノスキャナであり、第1ガルバノミラー37a及び第2ガルバノミラー37bと、第1ガルバノミラー37a及び第2ガルバノミラー37bを所望の角度に各々回転させる第1アクチュエータ及び第2アクチュエータ(不図示)とを備える。フォーカス制御ユニット35を通過したレーザ光Bは、第1ガルバノミラー37a及び第2ガルバノミラー37bにより造形領域R内の材料層82の上面に2次元走査される。具体的には、レーザ光Bは、第1ガルバノミラー37aに反射されて造形領域Rにおける水平一軸方向であるX軸方向に、第2ガルバノミラー37bに反射されて造形領域Rにおける他の水平一軸方向であってX軸方向に直交するY軸方向に走査される。
【0022】
第1ガルバノミラー37a及び第2ガルバノミラー37bにより反射されたレーザ光Bは、ウィンドウ1aを透過して造形領域R内の材料層82に照射され、これにより、固化層83が形成される。なお、照射装置13は、上述の形態に限定されない。例えば、フォーカス制御ユニット35に代えてfθレンズが設けられてもよい。また、照射装置13は、レーザ光Bのかわりに電子ビームを照射して材料層82を固化させるよう構成されてもよい。具体的には、照射装置13を、電子を放出するカソード電極と、電子を収束して加速するアノード電極と、磁場を形成して電子ビームの方向を一方向に収束するソレノイドと、被照射体である材料層82と電気的に接続されカソード電極との間に電圧を印加するコレクタ電極とを含むよう構成してもよい。
【0023】
1.4.制御系統
積層造形装置100の制御系統は、図6に示すように、CAM(Computer Aided Manufacturing)装置6及び制御装置7を含む。CAM装置6及び制御装置7は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、補助記憶装置、出入力インターフェース等のハードウェアと、ソフトウェアとを任意に組み合わせて構成される。
【0024】
CAM装置6は、CADデータ等の三次元造形物の形状を特定する造形形状データ、材料粉体の材質、レーザ光Bの照射条件等に基づき、積層造形装置100に対する指令が規定されたプロジェクトファイルを作成する。CAM装置6は、所望の演算を行う演算装置62と、演算に必要なデータ等が保存された記憶装置61と、演算処理の過程で数値やデータを一時的に記憶するメモリ63とを備える。また、CAM装置6は、通信線や記憶媒体を介してプロジェクトファイルを制御装置7に送信可能に構成される。
【0025】
制御装置7は、プロジェクトファイルに従って材料層形成装置3及び照射装置13等を制御し、積層造形を行う。制御装置7は、主制御装置71と、照射制御装置72とを含む。主制御装置71は、CAM装置6が作成したプロジェクトファイルに従ってリコータヘッド駆動装置12や造形テーブル駆動装置51等を制御する。また、主制御装置71はプロジェクトファイルのうち、レーザ光Bの照射に係る指令を含むプログラムを照射制御装置72に送る。照射制御装置72は、当該造形プログラムに従って照射装置13を制御する。具体的には、照射制御装置72は、第1アクチュエータ及び第2アクチュエータを制御して第1ガルバノミラー37a及び第2ガルバノミラー37bを所望の角度だけ回転させ、レーザ光Bを所定の位置に照射する。また、光源31を制御してレーザ光Bの出力(レーザパワー)やオン/オフの切り替えを行い、フォーカス制御ユニット35のモータを制御してレーザ光Bの焦点位置を調整する。
【0026】
2.ラスタ走査
次に、レーザ光Bのラスタ走査について説明する。なお、以下の説明は、レーザ光Bの代わりに電子ビームを照射する場合においても同様にあてはまる。
【0027】
図7A及び図7Bは、ラスタ走査の説明図であり、例示的な照射領域Sに対してラスタ走査を行う場合の走査経路を示す図である。レーザ光Bは矢印で示すラスタ走査線に沿って走査される。また、矢印部分においてはレーザ光Bが照射され、隣接する矢印同士を結ぶ点線部分においてはレーザ光Bの照射が所定時間(OFF時間)一時停止される。OFF時間は、所定のラスタ走査線の照射が完了してから次のラスタ走査線の照射が開示されるまでにレーザ光Bが一時停止される時間であり、レーザ光Bの照射に伴う周囲への熱影響を抑制するために確保される。
【0028】
ラスタ走査線に沿ってレーザ光Bを照射すると、照射された箇所の温度が急激に上昇して材料粉体が溶融しメルトプールが形成される。当該箇所の照射が終わると、放熱により温度が低下するとともに固化層83が形成される。
【0029】
図7Aに示す領域非分割方式によるラスタ走査においては、照射領域S内に、所定の走査方向に沿ってピッチp毎に走査線が設定される。ラスタ走査線は照射領域Sの外縁上の2点を走査方向に沿って結ぶ直線状であり、走査線に直交する方向に沿って走査が進行する。
【0030】
図7Bに示す領域分割方式によるラスタ走査においては、まず、照射領域Sを、分割方向Dに沿って分割幅wで複数の分割領域に分割する。図7Bにおける破線は、照射領域の分割線を示す。そして、分割領域内に、所定の走査方向に沿ってピッチp毎に走査線が設定される。分割領域内において、ラスタ走査線に沿ったレーザ光Bの照射が繰り返されながら走査線に直行する方向に沿って走査が進行し、分割領域内の走査が完了すると、別の分割領域に対して同様の走査によりレーザ光Bの照射が行われる。
【0031】
領域分割方式においては、ラスタ走査線が基本的には分割幅wに応じた同じ基準長さdを有するため、照射条件を変えることなくより均一な条件で材料層82を溶融固化可能である。図7Bの例では、走査方向が分割方向Dに平行に設定されているため基準長さdは分割幅wに等しく、大半のラスタ走査線の長さは基準長さdに等しい。また、領域非分割方式と比較してラスタ走査線が短いため、照射箇所の周囲への熱影響を抑制可能である。
【0032】
一方、分割領域の端部においては、基準長さdよりも短いラスタ走査線が生じ得る。図7Bでは、各分割領域の図中右側の端部、及び図中下側の分割領域に、基準長さdよりも短いラスタ走査線が生じる。基準長さdよりも短いラスタ走査線による照射箇所においては、レーザ光Bの照射に伴い形成されるメルトプールの温度が比較的高くなり、固化層83の変形が生じやすい。固化層83の積層とともに基準長さdよりも短いラスタ走査線による照射箇所が鉛直方向に重複すると、固化層83の変形の積重ねにより隆起が大きくなり、材料層形成装置3のブレード11fb,11rbが衝突しやすくなる。
【0033】
このような隆起は、ラスタ走査線が比較的短い領域分割方式において顕著に発生し、ラスタ走査線が比較的長い領域非分割方式においては問題となりにくい。また、OFF時間を延長することでメルトプールの温度の上昇を抑制することは可能であるが、造形時間が長くなり製造効率が低下する。
【0034】
本実施形態では、領域分割方式において、後述するように照射領域の分割方向を回転させながらラスタ走査線を設定することで、基準長さdよりも短いラスタ走査線による照射箇所の鉛直方向における重複を小さくし、隆起の発生を抑制する。
【0035】
3.三次元造形物の製造方法
次に、上述の積層造形装置100を用いた三次元造形物の製造方法について説明する。本実施形態に係る製造方法は、造形領域Rに材料粉体を供給して材料層82を形成する材料層形成工程と、材料層82の所定の照射領域にレーザ光B又は電子ビームを照射することにより固化層83を形成する固化工程とを繰り返すことにより固化層83を積層する固化層形成工程を含む。また、本実施形態に係る製造方法は、造形条件設定工程と、照射領域決定工程と、分割工程と、走査線設定工程と、回転角度設定工程とを備える。
【0036】
3.1.固化層形成工程
固化層形成工程は、材料層形成工程と固化工程とを備える。本実施形態の材料層形成工程では、造形領域Rに材料粉体からなる材料層82を形成する。また、本実施形態の固化工程では、材料層82の所定の照射領域に対してレーザ光Bを照射して固化層83を形成する。材料層形成工程及び固化工程は繰り返し実施される。
【0037】
まず、1回目の材料層形成工程が行われる。図8に示すように、造形テーブル5上にベースプレート81を載置した状態で造形テーブル5の高さを適切な位置に調整する。この状態で、リコータヘッド11を図8の左側から右側に移動させることにより、図9に示すように、ベースプレート81上に1層目の材料層82が形成される。
【0038】
次に、1回目の固化工程が行われる。図9に示すように、1層目の材料層82の所定の照射領域にレーザ光Bを照射することによって、1層目の材料層82を固化させ、1層目の固化層83を得る。固化工程において、レーザ光Bは、後述するように走査線設定工程において設定されたラスタ走査線を含む走査経路に沿って走査される。
【0039】
続いて、2回目の材料層形成工程が行われる。1層目の固化層83を形成後、造形テーブル5の高さを材料層82の1層分下げる。この状態で、リコータヘッド11を造形領域Rの図9の右側から左側に移動させることにより、1層目の固化層83を覆うように2層目の材料層82が形成される。そして2回目の固化工程が行われる。上述と同様の方法で、2層目の材料層82の所定の照射領域にレーザ光B又は電子ビームを照射することによって2層目の材料層82を固化させ、2層目の固化層83を得る。
【0040】
所望の三次元造形物が得られるまで、材料層形成工程及び固化工程が繰り返され、複数の固化層83が積層される。隣接する固化層83は、互いに強く固着される。
【0041】
3.2.造形条件設定工程
造形条件設定工程では、レーザ光B又は電子ビームの照射条件と照射領域の分割幅とを造形条件として設定する。照射条件として、レーザ光Bの出力(レーザパワー)、スポット径の大きさ、走査速度、レーザ光BのOFF時間、ラスタ走査線のピッチpが例示される。照射領域の分割幅は、このような照射条件に基づき、適した値に設定される。また、造形条件には、その他の条件が含まれてもよく、例えば、レーザ光Bの照射対象である材料層82の積層厚み(材料層1層分の厚み)が含まれてもよい。本実施形態では、造形条件が記録された条件ファイルを作成し、当該条件ファイルをCAM装置6に読み込ませることで、照射条件が設定される。
【0042】
3.3.照射領域決定工程
照射領域決定工程では、三次元造形物の所望の三次元形状を所定の高さ毎に分割してなる複数の分割層毎に照射領域を決定する。本実施形態の照射領域決定工程では、造形条件設定工程で設定された材料層82の積層厚み毎に三次元形状を分割して複数の分割層を作成する。分割層は、三次元形状を分割して仮想的に形成される材料層82に相当する。そして、各分割層において、三次元造形物の輪郭形状で囲繞される領域とおおよそ一致する領域を照射領域として決定する。また、本実施形態では、CAM装置6がCADデータ及び条件ファイルを用いた演算処理を行うことで、分割層の作成及び照射領域の決定が行われる。
【0043】
3.4.分割工程
分割工程では、各分割層の照射領域を所定の分割方向に沿って照射条件に適する所定の分割幅wで分割して複数の分割領域を形成する。図10に、一例として、三次元造形物のk層目の分割層Lにおける照射領域S及びその分割領域を示す。本例では、照射領域Sを、分割方向Dに沿って分割幅wで直線により分割し、複数の分割領域を形成する。図10における破線は、照射領域Sの分割線を示す。本例では、分割線は、分割方向Dに直交する直線状である。なお、分割の起点は、照射領域Sの形状等に応じて適宜設定可能であり、例えば、照射領域Sの外縁上に起点を配置してもよく、外縁よりも内側に起点を配置してもよい。
【0044】
また、分割工程では、対象分割層における照射領域の分割方向を回転角度θ水平回転させた方向を、対象分割層の直上の分割層における照射領域の分割方向とする。ここで、回転角度θは、0°<θ<180°又は-180°<θ<0°(ただし符号は回転方向を示す)を満たす。なお、回転角度θの設定方法については、詳細を後述する。
【0045】
図11に、一例として、k層目の分割層Lを対象分割層とした場合の直上のk+1層目の分割層Lk+1における照射領域Sk+1及び分割領域を示す。本例では、対象分割層Lにおける照射領域Sの分割方向Dを回転角度θ=67°水平回転させた方向を分割層Lk+1における照射領域Sk+1の分割方向Dk+1としている。そして、照射領域Sk+1を、分割方向Dk+1に沿って分割幅wで分割し、複数の分割領域を形成する。図11における破線は、照射領域Sk+1の分割線を示す。
【0046】
本実施形態では、全ての分割層について分割方向の回転を行う。つまり、三次元造形物の下面側から三次元形状をn個の分割層L,L,L,......Lに分割し、各分割層における照射領域の分割方向をD,D,D,......Dとすると、分割層L(k=1,2,3,......n-1)及びその直上の分割層Lk+1について、分割方向Dk+1が分割方向Dに対して回転角度θ水平回転されている。
【0047】
また、本実施形態では、CAM装置6が、照射領域決定工程で決定した照射領域に対して条件ファイル及び後述する回転角度設定工程において設定された回転角度θを用いた演算処理を行うことで、分割領域の形成が行われる。
【0048】
3.5.走査線設定工程
走査線設定工程では、分割領域内に所定の走査方向に沿ったラスタ走査線を設定する。図10及び図11に、例として、分割層L,Lk+1の分割領域内に設定されたラスタ走査線を矢印で示す。本実施形態では、走査方向は分割方向に平行に設定される。また、分割領域内のラスタ走査線は、造形条件設定工程で設定されたピッチp毎に配置される。つまり、分割領域内に、分割方向に平行なラスタ走査線が、分割線に沿ってピッチpの間隔で配置される。
【0049】
なお、走査方向は、本例に限定されるものではなく、分割方向に非平行(例えば、分割方向を±45°回転させた方向)に設定してもよい。また、各分割層において走査方向と分割方向との関係(走査方向と分割方向とがなす角度)は、全ての分割層において同一でもよく、分割層によって異なっていてもよい。
【0050】
図10及び図11に示したラスタ走査線のうち、実線部分は分割幅wに等しい基準長さdを有するラスタ走査線を、点線部分は基準長さdよりも短いラスタ走査線を示している。一般的に鉛直方向に隣接する分割層の照射領域は形状が類似しているため、同じ分割方向に沿って照射領域を分割すると、基準長さdよりも短いラスタ走査線が設定される箇所が鉛直方向に重複しやすい。一方、本実施形態では、鉛直方向に隣接する分割層L,Lk+1について、分割方向Dk+1を分割方向Dに対して回転角度θ(本例においては、θ=67°)水平回転することにより、基準長さdよりも短いラスタ走査線が配置されている箇所が変化し、鉛直方向における重複が小さくなる。全ての分割層について分割方向の回転を行うことで、短いラスタ走査線が設定される箇所の重複を抑制しながら固化層83を積層することができ、これにより固化層83の変形の積重ねによる隆起の発生を抑制することが可能となる。
【0051】
本実施形態では、CAM装置6が、分割工程で形成した分割領域に対して条件ファイルを用いた演算処理を行うことで、ラスタ走査線の設定が行われる。
【0052】
3.6.回転角度設定工程
回転角度設定工程では、加工条件に基づき回転角度θを設定する。加工条件は、分割幅w、材料粉体の材質、照射領域の条件、レーザ光B又は電子ビームの照射条件、材料層82の形成条件のうちの少なくとも1つを含む。回転角度θは、加工条件に基づき、各分割層の照射領域において基準長さdよりも短いラスタ走査線が配置されている箇所の鉛直方向における重複が小さくなるように設定される。
【0053】
分割方向を順次回転させていくと、所定数の分割層毎に分割方向が一致する。例えば、回転角度θ=±90°の場合、分割方向が2層毎に一致する。基準長さdよりも短いラスタ走査線が配置されている箇所の重複を小さくするうえでは、分割方向が一致する周期(分割層数)が大きい方が好ましい。当該周期を大きくするという観点では、回転角度θは、±90°を含まないこと(つまり、0°<θ<90°、90°<θ<180°、-180°<θ<-90°、又は-90°<θ<0°)が好ましい。また、回転角度θは、その絶対値|θ|が360の約数となるような値を含まないことが好ましい。また、回転角度θは、その絶対値|θ|と90との最小公倍数ができるだけ大きくなるように設定することが好ましい。
【0054】
また、回転角度θの絶対値|θ|が小さすぎると、又は回転角度θが±180°に近すぎると、隣接する分割層間における基準長さdよりも短いラスタ走査線の位置変化量が小さく、隆起の発生を十分に抑制できない可能性がある。このような観点では、好ましくは40°≦|θ|≦140°であり、より好ましくは60°≦|θ|≦120°である。
【0055】
回転角度θの設定で加味される加工条件は、領域分割方式において隆起の発生に影響を与え得る条件である。例えば、分割幅wが小さいほどラスタ走査線の基準長さdが小さくなり、隆起が発生しやすくなる。材料粉体の材質によって、具体的には、材料の比熱容量等の条件によって、隆起の発生しやすさが変化する。照射領域の条件、具体的には、照射領域の形状や大きさ等の条件によって、隆起の発生しやすさが変化する。また、レーザ光B又は電子ビームの照射条件、具体的には、レーザ光Bの出力、スポット径の大きさ、走査速度、レーザ光BのOFF時間、走査線のピッチp等の条件によって、隆起の発生しやすさが変化する。回転角度設定工程においてこれらの加工条件に基づき適切な回転角度θを設定することにより、隆起の発生をより効果的に抑制することが可能となる。
【0056】
4.他の実施形態
本発明は、以下の態様でも実施可能である。
【0057】
上述の実施形態では、分割工程において全ての分割層について分割方向の回転を行ったが、このような構成に限定されるものではない。例えば、照射領域の形状等に応じて、一部の分割層について分割方向の回転を行ってもよい。
【0058】
また、製造方法を、対象分割層上の走査経路に所定値未満のラスタ走査線が含まれるかを判定する長さ判定工程を備えるように構成し、判定結果に基づき分割工程において分割方向の回転を行う構成としてもよい。この場合、分割工程では、長さ判定工程において対象分割層上の走査経路に所定値未満のラスタ走査線が含まれると判定された場合に、対象分割層における照射領域の分割方向を回転角度θ水平回転させた方向を、対象分割層の直上の分割層における照射領域の分割方向とする。
【0059】
判定基準となる所定値は、例えば、基準長さdであり、対象分割層上の走査経路に基準長さd未満のラスタ走査線が含まれると判定された場合に、分割方向の回転を行って、対象分割層の直上の分割層における分割方向を決定することができる。なお、所定値は、本例に限定されるものではなく、例えば、基準長さdよりも短い値を設定してもよい。
【0060】
以上、本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0061】
、1:チャンバ、1a:ウィンドウ、3:材料層形成装置、4:ベース、5:造形テーブル、6:CAM装置、7:制御装置、11:リコータヘッド、11a:材料収容部、11b:材料供給口、11c:材料排出口、11fb:ブレード、11rb:ブレード、12:リコータヘッド駆動装置、13:照射装置、17:汚染防止装置、17a:筐体、17b:開口部、17c:拡散部材、17d:不活性ガス供給空間、17e:細孔、17f:清浄室、31:光源、33:コリメータ、35:フォーカス制御ユニット、37:走査装置、37a:第1ガルバノミラー、37b:第2ガルバノミラー、51:造形テーブル駆動装置、61:記憶装置、62:演算装置、63:メモリ、71:主制御装置、72:照射制御装置、81:ベースプレート、82:材料層、83:固化層、100:積層造形装置、B:レーザ光、R:造形領域
【要約】
【課題】三次元造形物を高品質に造形することが可能な三次元造形物の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明によれば、材料層形成工程と、材料層の照射領域にレーザ光等を照射して固化層を形成する固化工程とを繰り返して固化層を積層する固化層形成工程を含む三次元造形物の製造方法であって、照射条件と照射領域の分割幅とを設定する造形条件設定工程と、三次元形状を分割した分割層毎に照射領域を決定する照射領域決定工程と、照射領域を所定の分割方向に沿って当該分割幅で分割して分割領域を形成する分割工程と、分割領域内にラスタ走査線を設定する走査線設定工程と、を備え、固化工程ではレーザ光等はラスタ走査線を含む走査経路に沿って走査され、分割工程では対象分割層における照射領域の分割方向を回転角度θ(0°<θ<180°又は-180°<θ<0°)水平回転させた方向を直上の分割層における分割方向とする、製造方法が提供される。
【選択図】図1
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