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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】直流電源装置および空気調和機
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/12 20060101AFI20231003BHJP
   F24F 11/88 20180101ALI20231003BHJP
【FI】
H02M7/12 F
F24F11/88
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022178113
(22)【出願日】2022-11-07
(62)【分割の表示】P 2021162166の分割
【原出願日】2016-06-28
(65)【公開番号】P2023009146
(43)【公開日】2023-01-19
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】江幡 勇紀
(72)【発明者】
【氏名】奥山 敦
(72)【発明者】
【氏名】田村 正博
(72)【発明者】
【氏名】田村 建司
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/095699(WO,A1)
【文献】特表2017-505097(JP,A)
【文献】特開2011-091947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
F24F 11/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源に接続された第1乃至第4のスイッチング素子と、
前記交流電源と前記第1乃至第4のスイッチング素子からなる整流回路との間に設けられるリアクトルと、
前記整流回路の出力側に接続され、当該整流回路から印加される電圧を平滑化する平滑コンデンサと、を備え、
前記第1乃至第4のスイッチング素子のリアクトル側である第1のスイッチング素子と第2のスイッチング素子とが直列接続されて構成される回路をレグ1、第3のスイッチング素子と第4のスイッチング素子とが直列接続されて構成される回路をレグ2とした場合、前記レグ2のスイッチング素子は、前記レグ1のスイッチング素子よりもオン抵抗が小さい
ことを特徴とする直流電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載の直流電源装置を備える
ことを特徴とする空気調和機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電源装置および空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
電車、自動車、空気調和機などには、交流電圧を直流電圧に変換する直流電源装置が搭載されている。そして、直流電源装置から出力される直流電圧をインバータによって所定周波数の交流電圧に変換し、この交流電圧をモータなどの負荷に印加するようになっている。このような直流電源装置は、電力変換効率を高めて省エネルギ化を図ることが求められている。
特許文献1には、交流電源に接続され、4つのダイオードを有するダイオードブリッジ回路を備え、交流電源を整流して空調機に設けられた圧縮機へ供給する空調機のコンバータ装置であって、双方向にオンオフ可能に構成され、上記ダイオードの少なくとも1つに互いに並列接続されると共に、該ダイオードの順方向電圧降下よりも飽和電圧が低く構成され且つ該ダイオードがオフする方向に対して耐電圧性を有するスイッチング素子を備える空調機のコンバータ装置が記載されている。
【0003】
特許文献2には、交流電源から出力される交流電圧を直流電圧に変換する整流手段としてMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)を備える直流電源装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-61412号公報
【文献】特開2012-143154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、直流電源装置には省エネルギ化の他に、電子機器や配電・受電設備の保護といった観点から高調波電流の低減が求められている。そのためには電源力率の改善が必要である。一般的に1次電源側を短絡させて、回路に短絡電流を通流させることで力率を改善することが行われる。負荷が大きい領域では、短絡回数が1回であると力率の改善には不十分である。この場合、短絡回数を複数増やすことで力率を更に改善することが可能であるものの、スイッチング損失は悪化してしまう。また、高出力領域ほど力率は悪化し、高調波電流の許容値に対して厳しくなるため、低出力領域以上に力率の改善が必要である。
しかし、前述したように短絡回数を増やすことはスイッチング損失の悪化に繋がるため、省エネルギ化と高調波電流の抑制を両立させるための最適な制御が求められるという課題があった。
【0006】
本発明の目的は、高効率かつ高調波電流の抑制を両立可能な直流電源装置および空気調和機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の直流電源装置は、交流電源に接続された第1乃至第4のスイッチング素子と、前記交流電源と前記第1乃至第4のスイッチング素子からなる整流回路との間に設けられるリアクトルと、前記整流回路の出力側に接続され、当該整流回路から印加される電圧を平滑化する平滑コンデンサと、を備え、前記第1乃至第4のスイッチング素子のリアクトル側である第1のスイッチング素子と第2のスイッチング素子とが直列接続されて構成される回路をレグ1、第3のスイッチング素子と第4のスイッチング素子とが直列接続されて構成される回路をレグ2とした場合、前記レグ2のスイッチング素子は、前記レグ1のスイッチング素子よりもオン抵抗が小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高効率かつ高調波電流の抑制を両立可能な直流電源装置および空気調和機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る直流電源装置を示す構成図である。
図2】スーパージャンクションMOSFETの高速タイプと低速タイプの電流容量、逆回復時間およびオン抵抗を比較して示す図である。
図3】ダイオードおよびMOSFETにおけるV-I特性を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る直流電源装置の交流電源電圧が正の極性の場合において、ダイオード整流を行ったときに回路に流れる電流経路を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る直流電源装置のダイオード整流時における、電源電圧と回路電流とMOSFETの駆動パルスの波形図である。
図6】本発明の実施形態に係る直流電源装置の交流電源電圧が正の極性の場合において、同期整流を行ったときに回路に流れる電流経路を示す図である。
図7】本発明の実施形態に係る直流電源装置の交流電源電圧が負の極性の場合において、同期整流を行ったときに回路に流れる電流経路を示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る直流電源装置の同期整流時における、電源電圧と回路電流とMOSFETの駆動パルスの波形図である。
図9】本発明の実施形態に係る直流電源装置の交流電源電圧が正の極性の場合において、力率改善動作を行った場合に回路に流れる電流経路を示す図である。
図10】本発明の実施形態に係る直流電源装置の交流電源電圧が負の極性の場合において、力率改善動作を行った場合に回路に流れる電流経路を示す図である。
図11】本発明の実施形態に係る直流電源装置の部分スイッチング(2ショット)を行った場合において、電源電圧と回路電流とMOSFETの駆動パルスの波形図である。
図12】本発明の実施形態に係る直流電源装置のVs>0の場合において、部分スイッチングの概要を説明する図である。
図13】本発明の実施形態に係る直流電源装置のVs<0の場合において、部分スイッチングの概要を説明する図である。
図14】本発明の実施形態に係る直流電源装置の高速スイッチングを行った場合において、電源電圧と回路電流とMOSFETの駆動パルスの波形図である。
図15】本発明の実施形態に係る直流電源装置の負荷の大きさに応じた動作モードの切り替えを説明する図である。
図16】本発明の実施形態に係る直流電源装置の部分スイッチングから高速スイッチングへ切り替える場合の電流波形を説明する図である。
図17】本発明の実施形態に係る直流電源装置の変形例を説明する図である。
図18】本発明の実施形態に係る直流電源装置の変形例を説明する図である。
図19】本発明の実施形態に係る直流電源装置を用いた空気調和機の室内機、室外機、およびリモコンの正面図である。
図20】本発明の実施形態に係る直流電源装置の負荷の大きさに応じて直流電源装置の動作モードと空気調和機の運転領域を切り替える様子を説明する概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る直流電源装置を示す構成図である。各図において共通の構成要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
[構成]
図1に示すように、直流電源装置1は、交流電源VSから供給される交流電源電圧Vsを直流電圧Vdに変換し、この直流電圧Vdを負荷H(インバータ、モータなど)に出力するコンバータである。直流電源装置1は、その入力側が交流電源VSに接続され、出力側が負荷Hに接続される。
【0012】
直流電源装置1は、リアクトルL1と、平滑コンデンサC1と、ダイオードD1乃至D4、スイッチング素子であるMOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)およびシャント抵抗R1を備える。ダイオードD1乃至D4と、MOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)とは、ブリッジ整流回路10(ダイオードブリッジ回路)を構成する。
MOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)は、スイッチング素子であり、ダイオードD1乃至D4はMOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)の寄生ダイオードである。また、MOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)の飽和電圧は、寄生ダイオードD1乃至D4の順方向電圧降下よりも低い。
【0013】
直流電源装置1は更に、電流検出部11と、ゲイン制御部12と、交流電圧検出部13と、ゼロクロス判定部14と、負荷検出部15と、昇圧比制御部16と、直流電圧検出部17と、コンバータ制御部18とを備える。
ダイオードD1乃至D4とMOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)は、ブリッジ接続される。MOSFET(Q1)のソースは、MOSFET(Q2)のドレインに接続され、その接続点N1は配線haとリアクトルL1を介して交流電源VSの一端に接続される。MOSFET(Q1)とMOSFET(Q2)は、接続点N1で直列接続されている(以降、この直列回路をレグ1と呼ぶ)。
MOSFET(Q3)のソースは、MOSFET(Q4)のドレインに接続されている。MOSFET(Q3)のソースは、接続点N2と配線hbを介して交流電源VSの一端に接続される。MOSFET(Q3)とMOSFET(Q4)は、接続点N2で直列接続されている(以降、この直列回路をレグ2と呼ぶ)。
【0014】
MOSFET(Q2)のソースは、MOSFET(Q4)のソースに接続されている。
MOSFET(Q1)のドレインは、MOSFET(Q3)のドレインに接続されている。
また、MOSFET(Q1)のドレインとMOSFET(Q3)のドレインは、配線hcを介して平滑コンデンサC1の正極と負荷Hの一端に接続されている。更にMOSFET(Q2)のソースとMOSFET(Q4)のソースは、シャント抵抗R1と配線hdを介して、それぞれ平滑コンデンサC1の負極および負荷Hの他端に接続されている。
【0015】
リアクトルL1は、配線ha上に、すなわち交流電源VSとブリッジ整流回路10との間に設けられている。リアクトルL1は、交流電源VSから供給される電力をエネルギとして蓄え、更にこのエネルギを放出することで昇圧を行う。
平滑コンデンサC1は、MOSFET(Q1)やMOSFET(Q3)を通して整流された電圧を平滑化して、直流電圧Vdとする。平滑コンデンサC1は、ブリッジ整流回路10の出力側に接続されており、正極側が配線hcに接続され、負極側が配線hdに接続される。
【0016】
スイッチング素子であるMOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)は、後記するコンバータ制御部18からの指令によってオン/オフ制御される。スイッチング素子としてMOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)を用いることで、スイッチングを高速で行うことができ、更に電圧ドロップの小さいMOSFETに電流を流すことで、いわゆる同期整流制御を行うことが可能であり、回路の導通損失を低減できる。
【0017】
本実施形態では、このMOSFET(Q1,Q2,Q3,Q4)として、オン抵抗(MOSFETが動作している時の動作抵抗)の小さいスーパージャンクション(Super Junction、SJ)構造を採用したMOSFET(以下、SJ-MOSFETという)を用いる。特に、レグ1を構成するMOSFET(Q1)およびMOSFET(Q2)は、SJ-MOSFETのうち、高速タイプのSJ-MOSFETを用いる。MOSFET(Q1,Q2,Q3,Q4)として、SJ-MOSFETを用いる構成の詳細については後記する。
【0018】
シャント抵抗R1は、回路に通流する瞬時電流を検出する機能を有する。
電流検出部11は、回路に通流する平均電流を検出する機能を有する。
ゲイン制御部12は、回路電流実効値Isと直流電圧昇圧比aから決定される電流制御ゲインKpを制御する機能を有する。このときKp×Isを所定値に制御することで、交流電源電圧Vsから直流電圧Vdをa倍に昇圧することができる。
交流電圧検出部13は、交流電源VSから印加される交流電源電圧Vsを検出するものであり、配線ha,hbに接続されている。交流電圧検出部13は、その検出値をゼロクロス判定部14に出力する。
ゼロクロス判定部14は、交流電圧検出部13によって検出される交流電源電圧Vsの値に関して、その正負が切り替わったか否か(ゼロクロス点に達したか否か)を判定する機能を有する。ゼロクロス判定部14は、交流電源電圧Vsの極性を検出する極性検出部である。例えば、ゼロクロス判定部14は、交流電源電圧Vsが正の期間中にはコンバータ制御部18に‘1’の信号を出力し、交流電源電圧Vsが負の期間中にはコンバータ制御部18に‘0’の信号を出力する。
【0019】
負荷検出部15は、例えば不図示のシャント抵抗によって構成され、負荷Hに流れる電流を検出する機能を有する。なお、負荷Hがインバータやモータである場合、負荷検出部15によって検出した負荷電流によってモータの回転速度やモータの印加電圧を演算してもよい。また、後記する直流電圧検出部17によって検出した直流電圧とモータの印加電圧から、インバータの変調率を演算してもよい。負荷検出部15は、検出値(電流、モータ回転速度、変調率等)を昇圧比制御部16に出力する。
昇圧比制御部16は、負荷検出部15の検出値から直流電圧Vdの昇圧比aを選定し、選定結果をコンバータ制御部18に出力する。そしてコンバータ制御部18は、目標電圧まで直流電圧Vdを昇圧するようにMOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)に駆動パルスを出力して、スイッチング制御を行う。
直流電圧検出部17は、平滑コンデンサC1に印加される直流電圧Vdを検出する。直流電圧検出部17は、正側が配線hcに接続され、負側が配線hdに接続される。直流電圧検出部17は、検出値をコンバータ制御部18に出力する。なお、直流電圧検出部17の検出値は、負荷Hに印加される電圧値が所定の目標値に達しているか否かの判定に用いられる。
【0020】
コンバータ制御部18を含むブロックM(図1の破線囲み)は、例えば、マイコン(Microcomputer:図示せず)であり、ROM(Read Only Memory)に記憶されたプログラムを読み出してRAM(Random Access Memory)に展開し、CPU(Central Processing Unit)が各種処理を実行するようになっている。コンバータ制御部18は、電流検出部11、シャント抵抗R1、ゲイン制御部12、ゼロクロス判定部14、昇圧比制御部16、および直流電圧検出部17から入力される情報に基づいて、MOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)のオン/オフを制御する。なお、コンバータ制御部18が実行する処理については後記する。
【0021】
<MOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)>
次に、レグ1とレグ2のMOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)の構成について説明する。
直流電源装置1は、MOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)のリアクトル側であるMOSFET(Q1)とMOSFET(Q2)とが直列接続されて構成される回路をレグ1、MOSFET(Q3)とMOSFET(Q4)とが直列接続されて構成される回路をレグ2とした場合、レグ1を構成するMOSFET(Q1)およびMOSFET(Q2)と、レグ2を構成するMOSFET(Q3)およびMOSFET(Q4)との逆回復時間の特性が異なる。具体的には、下記である。
【0022】
(1)相対的にレグ2の逆回復時間(trr:Reverse Recovery Time)に対してレグ1の逆回復時間が小さい。すなわち、レグ1を構成するMOSFET(Q1)およびMOSFET(Q2)は、レグ2を構成するMOSFET(Q3)およびMOSFET(Q4)よりも逆回復時間が小さいスイッチング素子を用いる。
(2)相対的にレグ1のオン抵抗(MOSFETが動作している時の動作抵抗)に対してレグ2のオン抵抗が小さい。すなわち、レグ2を構成するMOSFET(Q3)とMOSFET(Q4)は、レグ1を構成するMOSFET(Q1)およびMOSFET(Q2)よりもオン抵抗が小さいスイッチング素子を用いる。
(3)レグ1を構成するMOSFET(Q1)およびMOSFET(Q2)は、レグ2を構成するMOSFET(Q3)およびMOSFET(Q4)よりスイッチング速度が速いスイッチング素子を用いる。
(4)レグ1を構成するMOSFET(Q1)およびMOSFET(Q2)の逆回復時間は、200ns以下である。
(5)レグ2を構成するMOSFET(Q3)およびMOSFET(Q4)のオン抵抗は、最大入力が10Aを超える場合は100mΩ以下、最大入力が10Aより小さい場合は150mΩ以下である。
【0023】
上記(1)~(5)の制約条件から、レグ1を構成するMOSFET(Q1)およびMOSFET(Q2)には、高速タイプのSJ-MOSFET(後記)を用いる。
あるいは、レグ1を構成するMOSFET(Q1)およびMOSFET(Q2)のスイッチング素子に、高速タイプのSJ-MOSFETを用いる構成に代えて、レグ1で使用するスイッチング素子としてSiC(Silicon carbide)-FET、GaN(Gallium nitride)-FET、およびIGBT(Insulated-Gate-Bipolar-Transistor)、およびFRD(Fast-Recovery-Diode)から選択される少なくとも1つを用いる。ただし、レグ1で使用するスイッチング素子としてFRDを用いる場合、当該FRDはレグ2で使用するスイッチング素子より逆回復時間が小さいことが条件とされる。
【0024】
以下、MOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)に、高速タイプのSJ-MOSFETを用いる理由について説明する。
まず、MOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)に、オン抵抗の小さいSJ-MOSFET(高速タイプ/低速タイプ(通常タイプ)を問わない)を用いることで、通常のMOSFETを用いた場合よりも導通損失を低減することが可能である。
次に、レグ1を構成するMOSFET(Q1)およびMOSFET(Q2)に、SJ-MOSFETのうち、高速タイプのSJ-MOSFETを用いる理由は、下記の通りである。
一般に、MOSFETの寄生ダイオードには、回路短絡動作時に逆回復電流が発生する。特に、SJ-MOSFETの寄生ダイオードは、通常のMOSFETの寄生ダイオードに対して逆回復電流が大きく、スイッチング損失が大きい。
【0025】
図2は、高速タイプのSJ-MOSFETと低速タイプ(通常タイプ)のSJ-MOSFETの特性(電流容量、逆回復時間およびオン抵抗)を比較して示す図である。図2に示すように、高速タイプのSJ-MOSFETは、低速タイプのSJ-MOSFETよりもオン抵抗は若干大きいものの、逆回復時間は約3倍小さい。逆回復時間が小さいと、スイッチング損失を低減することができる。ちなみに、低オン抵抗、高速スイッチングが可能なSJ-MOSFETが、従来インバータ回路等で使用されなかったのは、通常のMOSFETに比べて逆回復時間が大きく、スイッチング損失が大きいからであった。
【0026】
本実施形態では、レグ1を構成するMOSFET(Q1)およびMOSFET(Q2)に、SJ-MOSFETのうち、逆回復時間が小さく、かつ、スイッチング速度の速い高速タイプのSJ-MOSFETを用いることで、スイッチング損失を低減する。逆回復時間が小さいスイッチング素子としては、高速タイプのSJ-MOSFETのほか、SiC、GaN、IGBT、またはFRD(ただしMOSFET(Q3,Q4)で使用するスイッチング素子より逆回復時間が短いFRD)が挙げられる。ただし、SiC、GaNは、高速タイプのSJ-MOSFETに比べ高価であり、また、IGBT、FRDは、オン抵抗が大きい。
【0027】
一方、レグ2を構成するMOSFET(Q3)およびMOSFET(Q4)は、アクティブ動作時においても逆回復電流が発生しないため、オン抵抗が小さい素子を使用することで導通損失を低減することが可能である。具体的には、オン抵抗の小さい通常のSJ-MOSFETを用いることで、導通損失を低減することが可能である。
【0028】
次に、MOSFETの逆回復時間およびオン抵抗と、レグ1およびレグ2との関係について説明する。
一般的に、MOSFETは、逆回復時間が大きいとオン抵抗は小さくなり、逆回復時間が小さいとオン抵抗は大きくなることが知られている。MOSFET(Q1)のソースとMOSFET(Q2)のドレインが直列接続されてなる回路をレグ1とし、MOSFET(Q3)のソースとMOSFET(Q4)のドレインが直列接続されてなる回路をレグ2としたとき、逆回復時間はレグ1<レグ2、オン抵抗はレグ1>レグ2であることが望ましい。
つまり、MOSFET(Q1,Q2)の逆回復時間は、200ns以下であることが望ましい。MOSFET(Q1,Q2)の逆回復時間が200nsを超えるとスイッチング損失が大きくなったり、上下短絡により素子が破損したりするおそれがある。本発明者らは、MOSFET(Q1,Q2)の逆回復時間が200ns以下にするとよいことをシミュレーション等により確かめた。
【0029】
図3は、ダイオードおよびMOSFETにおけるV-I特性を示す図である。
図3に示すように、従来のダイオードに比べて導通損失を低減させるため、MOSFET(Q3,Q4)のオン抵抗は最大入力が10Aを超える場合は100mΩ以下、最大入力が10Aより小さい場合は150mΩ以下が望ましい。スイッチング損失の低減のため、レグ1で使用するスイッチング素子のスイッチング速度は、レグ2で使用するスイッチング素子より速いことが望ましい。本発明者らは、上記条件についてシミュレーション等により確かめた。また、レグ1のスイッチング素子としてFRDを用いる場合、当該FRDはレグ2のスイッチング素子より逆回復時間が小さくするとよいことも確かめた。
【0030】
以下、上述のように構成された直流電源装置100の動作について説明する。
本実施形態では、直流電源装置1は、複数の動作モードを有する。
直流電源装置1の動作モードを大別すると、「ダイオード整流モード」、「同期整流モード」、「部分スイッチングモード」、「高速スイッチングモード」の4つである。
「ダイオード整流モード」は、4つの寄生ダイオードD1~D4を用いて全波整流を行うモードである。
「同期整流モード」は、交流電源電圧Vsの極性に応じてMOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)をスイッチング制御する同期整流制御を行うモードである。
【0031】
「部分スイッチングモード」および「高速スイッチングモード」は、コンバータがアクティブ動作(力率改善動作)をするモードである。「部分スイッチングモード」および「高速スイッチングモード」は、ブリッジ整流回路10に力率改善電流を通流させることで直流電圧Vdの昇圧と力率の改善を行うモードである。例えば、インバータやモータなどの負荷が大きい場合には、直流電圧Vdを昇圧することが好ましい。また、負荷が大きくなり、直流電源装置1に流れる電流が大きくなるに従って高調波電流も増大してしまう。そのため、高負荷の場合には、「部分スイッチングモード」または「高速スイッチングモード」に切り替えて、昇圧を行い、高調波電流を低減して電源入力の力率を改善させる。
【0032】
[ダイオード整流モード]
「ダイオード整流モード」は、4つの寄生ダイオードD1~D4を用いて全波整流を行うモードである。「ダイオード整流モード」では、MOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)はオフ状態である。
図4は、直流電源装置1の交流電源電圧Vsが正の極性(Vs>0)の場合において、ダイオード整流を行ったときに回路に流れる電流経路を示す図である。図4中の破線矢印は、電流が流れる経路を示している。
図4に示すように、交流電源電圧Vsが正の半サイクルの期間では、破線矢印で示す向きに電流が流れる。すなわち電流は、交流電源VS→リアクトルL1→寄生ダイオードD1→平滑コンデンサC1→シャント抵抗R1→寄生ダイオードD4→交流電源VSの順に流れる。
また、図示は省略するが、交流電源電圧Vsが負の半サイクルの期間では、電流は、交流電源VS→寄生ダイオードD3→平滑コンデンサC1→シャント抵抗R1→寄生ダイオードD2→リアクトルL1→交流電源VSの順に流れる。
【0033】
図5は、直流電源装置1のダイオード整流時における、電源電圧と回路電流とMOSFETの駆動パルスの波形図である。図5は、ダイオード整流を行った場合における、交流電源電圧Vsと回路電流IsとMOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)の関係を示す。なお、回路電流IsはリアクトルL1に通流する電流である。
図5(a)(b)に示すように、回路電流リアクトル電流Isは、略正弦波状の波形の交流電源電圧Vsから直流電圧Vd(図示略)を引いたような波形となる。図5(c)~(f)に示すように、MOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)はオフ状態(駆動パルス(Q1)~(Q4)は0)である。
【0034】
[同期整流モード]
<同期整流モード:電流経路>
「同期整流モード」は、交流電源電圧Vsの極性に応じてMOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)をスイッチング制御する同期整流制御を行うモードである。「同期整流モード」は、「ダイオード整流モード」よりも高効率動作を行うためのものである。
図6は、交流電源電圧Vsが正の極性の場合において、同期整流を行ったときに回路に流れる電流経路を示す図である。
図6に示すように、交流電源電圧Vsが正の半サイクルの期間では、図6の破線矢印で示す向きに電流が流れる。すなわち電流は、交流電源VS→リアクトルL1→MOSFET(Q1)→平滑コンデンサC1→シャント抵抗R1→MOSFET(Q4)→交流電源VSの順に流れる。このとき、MOSFET(Q2,Q3)は、常時オフである。
【0035】
図7は、交流電源電圧Vsが負の極性の場合において、同期整流を行ったときに回路に流れる電流経路を示す図である。すなわち、交流電源VS→MOSFET(Q3)→平滑コンデンサC1→シャント抵抗R1→MOSFET(Q2)→リアクトルL1→交流電源VSの順に電流が流れる。このとき、MOSFET(Q1、Q4)は常時オフである。
例えば、交流電源電圧Vsが正のとき、仮にMOSFET(Q1),MOSFET(Q4)がオン状態で無い場合には、前述のダイオード整流動作のように電流はMOSFET(Q1),MOSFET(Q4)の寄生ダイオードD1,D4を流れる。しかし通常、MOSFETの寄生ダイオードの順方向電圧降下が大きいため、大きな導通損失が発生してしまう。そこで、交流電源電圧Vsに同期してMOSFET(Q1),MOSFET(Q4)をオンさせて、MOSFET(Q1),MOSFET(Q4)のオン抵抗の部分に電流を流すことで、導通損失の低減を図ることが可能である。これが、いわゆる同期整流制御の原理である。
【0036】
<同期整流モード:駆動パルス>
図8は、同期整流時における、交流電源電圧Vsと回路電流IsとMOSFET(Q1)~MOSFET(Q4)の駆動パルスの波形図である。図8(a)は、交流電源電圧の瞬時値の波形を示し、図8(b)は、回路電流Isの波形を示す。図8(c)は、MOSFET(Q1)の駆動パルス波形を示し、図8(d)はMOSFET(Q2)の駆動パルス波形を示す。図8(e)は、MOSFET(Q3)の駆動パルス波形を示し、図8(f)は、MOSFET(Q4)の駆動パルス波形を示す。なお、所定時間dtについては後記する。
図8(a)に示すように、交流電源電圧Vsの瞬時値は、略正弦波状の波形である。
基本的に、MOSFET(Q1)とMOSFET(Q2)は、回路電流Isに同期させてスイッチングを行い、またMOSFET(Q3)とMOSFET(Q4)は、交流電源電圧Vsに同期させてスイッチングを行う。
【0037】
例えば、前記図6に示すように、交流電源電圧Vsが正の半サイクルの場合、MOSFET(Q2),MOSFET(Q3)はLレベルであり、MOSFET(Q4)は交流電源電圧Vsに同期してHレベルである。このとき、MOSFET(Q4)の駆動パルスは、交流電源電圧Vsのゼロクロスを基準にH、Lの信号を出力している。一方、MOSFET(Q1)に関しては、回路電流Isに同期してHレベルの信号を出力している(回路電流のゼロクロスを基準にH、Lの信号を出力している)。言い換えると、回路電流が通流しているときにHレベルの信号を出力している。これは、平滑コンデンサC1からの逆流電流を防ぐためである。
【0038】
通常、回路電流Isが通流するのは、交流電源電圧Vsに対して直流電圧Vdが小さいときである。例えば、交流電源電圧Vsが正の極性の場合、回路電流Isが通流していない区間、つまり直流電圧Vdが交流電源電圧Vsよりも大きいときにMOSFET(Q1)とMOSFET(Q4)が両方ともオン状態であると、平滑コンデンサC1側から交流電源Vs側へ逆流電流が流れてしまう。しかし、このときMOSFET(Q2,Q3)のどちらかがオフ状態であるならば、ダイオードD1またはダイオードD4があるために、逆流電流が流れるループが生じることはない。
【0039】
そのため、図8(f)に示すように、MOSFET(Q4)を交流電源電圧Vsに同期させてオン状態とし、その後、図8(a)に示すタイミングでMOSFET(Q1)を回路電流Isが流れている区間(図8(b)参照)でのみオンさせている。すなわち、MOSFET(Q1)およびMOSFET(Q4)をオンさせる場合(MOSFET(Q2)およびMOSFET(Q3)はオフ)、まずMOSFET(Q4)を交流電源電圧Vsに同期させてオン状態としてから、MOSFET(Q1)を回路電流Isが流れている区間(図8(b)参照)でオンさせる。そして、回路電流Isが流れている区間が終わるとMOSFET(Q1)をオフし、交流電源電圧Vsの極性反転でMOSFET(Q4)をオフさせる。これにより、まずMOSFET(Q4)をオン状態としてから、MOSFET(Q1)をオンさせることで、平滑コンデンサC1側から交流電源Vs側への逆流電流を確実に防いでいる。
【0040】
なお、変形例としてMOSFET(Q3)とMOSFET(Q4)を回路電流Isに同期してスイッチングを行ってもよい。
また、上記回路電流Isに同期させてスイッチングするのではなく、直流電圧Vdを検出して、交流電源電圧Vs>直流電圧Vdの区間を検出してスイッチングを行ってもよい。
更に、MOSFET(Q1)は回路電流が通流していないとき、つまり交流電源電圧Vsが直流電圧Vdよりも小さいとき(図8のdt参照)はオフ状態にする。
【0041】
交流電源電圧Vsが負の区間においても、交流電源電圧Vsが正の場合と同様の考え方でMOSFET(Q2)、MOSFET(Q3)をスイッチングする。つまり、図8(d)に示すように、MOSFET(Q2)を交流電源電圧Vsに同期させてオン状態とし、その後、図8(e)に示すタイミングでMOSFET(Q3)を回路電流Isが流れている区間(図8(b)参照)でのみオンさせている。すなわち、MOSFET(Q2)およびMOSFET(Q3)をオンさせる場合(MOSFET(Q1)およびMOSFET(Q4)はオフ)、まずMOSFET(Q2)を交流電源電圧Vsに同期させてオン状態としてから、MOSFET(Q3)を回路電流Isが流れている区間(図8(e)参照)でオンさせる。そして、回路電流Isが流れている区間が終わるとMOSFET(Q3)をオフし、交流電源電圧Vsの極性反転でMOSFET(Q2)をオフさせる。
【0042】
<同期整流モード:同期整流後MOSFETオフ>
次に、同期整流後にMOSFETがオフする場合の動作を考える。
交流電源電圧Vsが正の極性の場合、上述したようにMOSFET(Q1)とMOSFET(Q4)をオンにして同期整流を行う。ここで、交流電源電圧Vsの瞬時値が直流電圧Vdより小さくなったときに、回路電流Isは通流しなくなる。しかし実際には、図8(a)に示すように、交流電源電圧Vsが直流電圧Vdを下回った瞬間に電流がゼロになることは無く、リアクトルL1の特性に応じて所定時間dt経過後に電流はゼロになる。
すなわち、同期整流後にMOSFET(Q1)またはMOSFET(Q4)のどちらか一方をオフするタイミングとしては、交流電源電圧Vsが直流電圧Vdを下回った後所定時間dt経過後にオフすればよい。
所定時間をdtとすると次式(1)で表すことができる。
【0043】
【数1】
【0044】
以上のように、MOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)をスイッチング制御することで高効率動作が可能となる。
【0045】
[部分スイッチングモード(部分スイッチング動作)]
<力率改善動作>
まず、力率改善電流を通流させた場合の動作について説明する。
交流電源電圧Vsが正の極性で同期整流を行った場合、電流の流れは、前記図6の通りである。また、MOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)の動作については上述した通りである。このとき、図8(b)に示したように、交流電源電圧Vsに対して回路電流Isは歪んで(正弦波波形からずれて)いる。これは、電流が流れるタイミングが交流電源電圧Vsに対して直流電圧Vdが小さくなった場合のみであることと、リアクトルL1の特性から生じるものである。
【0046】
そこで、複数回に亘って回路に力率改善電流Isp(後記)を通流させ、回路電流Isを正弦波に近づけるように波形成形を行う。これによって力率の改善を行うことができ、高調波電流を低減することが可能である。
また、波形成形を行うことで平滑コンデンサC1に蓄えられる直流電圧が増える効果がある。
例えば、負荷Hがモータ等である場合、回転速度の増加に伴いモータの誘起電圧が上昇してしまい、モータをある回転速度以上で駆動することができなくなる。そこで波形成形を行い、直流電圧の増加によってモータの駆動回転速度を増やすことができる効果がある。
【0047】
図9は、直流電源装置1の交流電源電圧が正の極性の場合において、力率改善動作を行った場合に回路に流れる電流経路を示す図である。図9は、電源電圧が正の極性でMOSFET(Q2)、MOSFET(Q4)をオンさせた場合に流れる力率改善電流Ispの経路を示す。
図9に示すように、力率改善電流Ispの経路としては、交流電源VS→リアクトルL1→MOSFET(Q2)→MOSFET(Q4)→交流電源VS、の順である。このとき、リアクトルL1には、次式(2)で表されるエネルギが蓄えられる。このエネルギが平滑コンデンサC1に放出されることで、直流電圧Vdが昇圧される。
【0048】
【数2】
【0049】
交流電源電圧Vsが負のサイクルで同期整流を行った場合の電流の流れは前記図7の通りである。また、MOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)の動作については上述した通りである。
【0050】
図10は、直流電源装置1の交流電源電圧が負の極性の場合において、力率改善動作を行った場合に回路に流れる電流経路を示す図である。図10は、電源電圧が負のサイクルでMOSFET(Q1,Q3)をオンさせて力率改善電流Ispを通流させた場合の経路を示す。
図10に示すように、電流の経路としては、交流電源VS→MOSFET(Q3)→MOSFET(Q1)→リアクトルL1→交流電源VSの順となる。このときも、前記したようにリアクトルL1にエネルギが蓄えられ、そのエネルギによって直流電圧Vdが昇圧される。
【0051】
<力率改善電流の複数回通流>
図11は、直流電源装置1の部分スイッチングを行った場合において、電源電圧と回路電流とMOSFETの駆動パルスの波形図である。図11は、力率改善電流Ispを2回通流させた場合(2ショットと呼ぶ)における、交流電源電圧Vsと回路電流IsとMOSFETの駆動パルスの波形を示す。
図11(a)は、交流電源電圧の瞬時値の波形を示し、図11(b)は回路電流Isの波形を示す。図11(c)は、MOSFET(Q1)の駆動パルス波形を示し、図11(d)は、MOSFET(Q2)の駆動パルス波形を示す。図11(e)は、MOSFET(Q3)の駆動パルス波形を示し、図11(f)はMOSFET(Q4)の駆動パルス波形を示す。
図11(a)に示すように、交流電源電圧Vsの瞬時値は、略正弦波状の波形である。
【0052】
図11(f)に示すように、例えば交流電源電圧Vsが正の極性のとき、MOSFET(Q4)の駆動パルスはHレベルとなり、図11(d)に示すようにMOSFET(Q2)の駆動パルスは所定タイミングで2回のHレベルのパルスとなる。また、図11(e)に示すように、MOSFET(Q3)の駆動パルスはLレベルであり、MOSFET(Q1)の駆動パルスはMOSFET(Q2)の駆動パルスがLレベル、かつ、回路電流Isが通流している区間でHレベルとなっている。
【0053】
<力率改善動作と同期整流動作の組み合わせ>
図11(c)に示すように、MOSFET(Q1)の駆動パルスは、所定のタイミングでHレベルとLレベルを出力している。これは、力率改善動作と同期整流動作を組み合わせて行っているためである。例えば交流電源電圧Vsが正の極性の場合において、MOSFET(Q2)、MOSFET(Q4)をオンさせることで力率改善動作を行う。その後、MOSFET(Q2)がオフした後、MOSFET(Q1)がオンしている区間は同期整流動作となる。このように、力率改善動作と同期性流動作を組み合わせることで、力率改善を行いつつ高効率動作が可能である。
【0054】
更に、MOSFET(Q2)の1ショット目の前の区間、MOSFET(Q1)はオフさせている。これは、前述した平滑コンデンサC1からの逆流電流を防ぐためである。つまり、直流電圧Vdよりも交流電圧Vsが大きい区間でMOSFET(Q1)をオンさせて、力率の改善と昇圧動作を行う。
図11(b)に示すように、回路電流Isは、交流電源電圧Vsが正極性かつ、MOSFET(Q1)の駆動パルスがHレベルになったときに立ち上がる。これにより、力率が改善される。
【0055】
交流電源電圧Vsが負の極性の場合においても、上述した交流電源電圧Vsが正の極性の場合と同様の考えでMOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)をスイッチングすればよい。
例えば、交流電源電圧Vsが正の場合、力率改善動作中の電流経路は、前記図9のようになる。MOSFET(Q2)がオフしてMOSFET(Q1)がオンとなって同期整流動作に切り替わったときの電流経路は、前記図6のようになる。
【0056】
<力率改善動作とダイオード整流動作の組み合わせ>
なお、上記力率改善動作と前述したダイオード整流動作(図4および図5参照)を組み合わせてもよい。すなわち、交流電源電圧Vsが正の極性の場合、力率改善動作中の電流経路は、前記図9のようになる。MOSFET(Q2)がオフした後、寄生ダイオードD1がオンとなってダイオード整流動作に切り替わったときの電流経路は、前記図4のようになる。
【0057】
<部分スイッチング動作>
次に、部分スイッチング動作について説明する。
部分スイッチング動作とは、交流電源電圧Vsの半サイクルの中で、所定の位相で複数回力率改善動作を行うことで直流電圧Vdの昇圧と力率の改善を行う動作モードである。高速スイッチング動作の場合と比べてMOSFET(Q1),MOSFET(Q2)のスイッチング回数が少ない分、スイッチング損失の低減が可能である。以下、図12図13を用いて部分スイッチング動作の説明を行う。
【0058】
<部分スイッチング動作(Vs>0の場合)>
図12は、直流電源装置1のVs>0の場合において、部分スイッチングの概要を説明する図である。図12は、交流電源電圧Vsが正のサイクルにおける、MOSFET(Q1),MOSFET(Q2),MOSFET(Q4)の駆動パルスと交流電源電圧Vs、回路電流Isの関係を示す。
【0059】
図12(a)は、交流電源電圧Vsの瞬時値を示し、図12(b)は、回路電流Isを示す。図12(c)は、MOSFET(Q2)の駆動パルスを示し、図12(d)はMOSFET(Q4)の駆動パルスを示す。図12(e)は、MOSFET(Q1)の駆動パルスを示す。
図12(a)に示すように、交流電源電圧Vsの瞬時値は、略正弦波状である。
図12(b)の一点鎖線は、理想的な回路電流Isを略正弦波状に示している。このとき、最も力率が改善される。
理想電流上の点P1を考えた場合、この点P1での傾きをdi(P2)/dtとおく。次に、電流がゼロの状態から、MOSFET(Q2)を時間ton1_Q2に亘ってオンしたときの電流の傾きをdi(ton1_Q2)/dtとおく。さらに時間ton1_Q2に亘ってオンした後、時間toff_Q2に亘ってオフした場合の電流の傾きをdi(toff1_Q2)/dtとおく。このときdi(ton1_Q2)/dtとdi(toff1_Q2)/dtとの平均値が点P1における傾きdi(P1)/dtと等しくなるように制御する。
【0060】
次に、点P1と同様に、点P2での電流の傾きをdi(P2)/dtとおく。そして、MOSFET(Q2)を時間ton2_Q2に亘ってオンしたときの電流の傾きをdi(ton2_Q2)/dtとおき、時間toff2_Q2に亘ってオフした場合の電流の傾きをdi(toff2_Q2)/dtとおく。点P1の場合と同様に、di(ton2_Q2)/dtとdi(toff2_Q2)/dtの平均値が点P2における傾きdi(P2)/dtと等しくなるようにする。以降これを繰り返していく。このとき、MOSFET(Q2)のスイッチング回数が多いほど、理想的な正弦波に近似することが可能である。
【0061】
なお、図12に示すように、MOSFET(Q1)とMOSFET(Q2)のスイッチングを相補に切り替え、かつ、MOSFET(Q4)は交流電源電圧に同期させてオン状態にしているのは、部分スイッチング動作と同期整流動作を組み合わせて実行しているためである。また、MOSFET(Q2)の1ショット目の前に、MOSFET(Q1)をオフにしているのは、前述した平滑コンデンサC1からの逆流電流を防ぐためである。つまり、直流電圧Vdに対して交流電源電圧Vsが大きい区間で力率改善動作を行っている。
【0062】
<部分スイッチング動作(Vs<0の場合)>
図13は、直流電源装置1のVs<0の場合において、部分スイッチングの概要を説明する図である。図13は、交流電源電圧Vsが負のサイクルにおける、MOSFET(Q1),MOSFET(Q2),MOSFET(Q4)の駆動パルスと交流電源電圧Vs、回路電流Isの関係を示す。
【0063】
図13(a)は、交流電源電圧Vsの瞬時値を示し、図13(b)は、回路電流Isを示す。図13(c)は、MOSFET(Q2)の駆動パルスを示し、図13(d)はMOSFET(Q4)の駆動パルスを示す。図13(e)は、MOSFET(Q1)の駆動パルスを示す。
図13(a)に示すように、交流電源電圧Vsの瞬時値は、略正弦波状である。
図13(b)の一点鎖線は、理想的な回路電流Isを略正弦波状に示している。このとき、最も力率が改善される。
理想電流上の点P3を考えた場合、この点P3での傾きをdi(P3)/dtとおく。次に、電流がゼロの状態から、MOSFET(Q2)を時間ton1_Q1に亘ってオンしたときの電流の傾きをdi(ton1_Q1)/dtとおく。さらに時間ton1_Q1に亘ってオンした後、時間toff_Q1に亘ってオフした場合の電流の傾きをdi(toff1_Q1)/dtとおく。このときdi(ton1_Q1)/dtとdi(toff1_Q1)/dtとの平均値が点P3における傾きdi(P3)/dtと等しくなるように制御する。
【0064】
次に、点P3と同様に、点P4での電流の傾きをdi(P4)/dtとおく。そして、MOSFET(Q2)を時間ton2_Q1に亘ってオンしたときの電流の傾きをdi(ton2_Q1)/dtとおき、時間toff2_Q1に亘ってオフした場合の電流の傾きをdi(toff2_Q1)/dtとおく。点P3の場合と同様に、di(ton2_Q1)/dtとdi(toff2_Q1)/dtの平均値が点P4における傾きdi(P4)/dtと等しくなるようにする。以降これを繰り返していく。このとき、MOSFET(Q2)のスイッチング回数が多いほど、理想的な正弦波に近似することが可能である。
なお、場合によっては部分スイッチング動作とダイオード整流動作を組み合わせて実行してもよい。
【0065】
[高速スイッチングモード(高速スイッチング動作)]
次に、高速スイッチング動作について説明する。
回路の入力が大きいほど、高調波電流も増大するので、特に高次の高調波電流の規制値を満足することが難しくなる。このため、入力電流が大きいほど高力率を確保する必要がある。
前述した「部分スイッチングモード」によっては、力率の確保が難しい場合には「高速スイッチングモード」でスイッチング制御を行う。
「高速スイッチングモード」は、ある一定のスイッチング周波数でMOSFET(Q1)、MOSFET(Q2)をスイッチング制御することで、直流電圧Vdの昇圧と力率の改善を行う。
【0066】
図14は、直流電源装置1の高速スイッチングを行った場合において、電源電圧と回路電流とMOSFETの駆動パルスの波形図である。図14は、高速スイッチングを行った場合の交流電源電圧Vsと回路電流IsとMOSFETの駆動パルスの波形図を示す。
図14(a)は、交流電源電圧の瞬時値の波形を示し、図14(b)は、回路電流Isの波形を示す。図14(c)は、MOSFET(Q1)の駆動パルス波形を示し、図14(d)はMOSFET(Q2)の駆動パルス波形を示す。図14(e)は、MOSFET(Q3)の駆動パルス波形を示し、図14(f)はMOSFET(Q4)の駆動パルス波形を示す。
【0067】
図14(a)に示すように、交流電源電圧Vsの瞬時値は、略正弦波状の波形である。
高速スイッチング動作においては、例えば交流電源電圧Vsが正の極性の場合、力率改善動作時には、MOSFET(Q2)をオン、かつMOSFET(Q1)をオフ状態とすることで、力率改善電流Ispを通流させる。更に、交流電源電圧Vsに同期させてMOSFET(Q3)をオフ状態にし、MOSFET(Q4)をオン状態にしている。そして、MOSFET(Q1)をオンからオフにした後、MOSFET(Q2)をオン状態とする。つまり、MOSFET(Q4)は交流電源電圧Vsに同期させてオン状態にしつつ、MOSFET(Q1)、MOSFET(Q2)は交互にスイッチングさせている。このようなスイッチング制御を行っているのは、高速スイッチングを行うと同時に同期整流を行うためである。なお、単純に高速スイッチング動作を行うためには、MOSFET(Q1,Q4)はオフ状態で、MOSFET(Q2)を一定周波数でスイッチング動作を行えばよい。
【0068】
しかし、このときMOSFET(Q2)オフ時にMOSFET(Q1),MOSFET(Q4)もオフ状態であると、電流はMOSFET(Q1),MOSFET(Q4)の寄生ダイオードD1,D4を流れることになる。前記したように、この寄生ダイオードは逆回復時間の特性が悪く、電圧ドロップが大きいために、導通損失が大きくなってしまう。
【0069】
そこで本実施形態では、交流電源電圧Vsが正の極性の場合、MOSFET(Q4)は交流電源電圧Vsに同期させてオン状態とし、MOSFET(Q2)オフ時には、MOSFET(Q1)をオン状態にして同期整流を行うことで、導通損失を低減する。交流電源電圧Vsが負の極性の場合も同様である。つまり、MOSFET(Q3)は交流電源電圧Vsの極性に合わせてオン状態とし、MOSFET(Q1)がオフ時には、MOSFET(Q2)をオンさせて同期整流を行う。
【0070】
[制御モードの切り替え]
直流電源装置1は、前記のように「ダイオード整流モード」、「同期整流モード」、「部分スイッチングモード」、「高速スイッチングモード」を有し、それぞれ、ダイオード整流制御、同期整流制御、部分スイッチング制御、高速スイッチング制御を実行する。
次に、これら制御モードの切り替えについて説明する。
低負荷の場合には高調波電流も小さくなるので必要以上に力率を確保する必要が無い場合がある。しかし、高負荷の場合には高調波電流も大きくなるので、「高速スイッチングモード」を用いてショット数を増やして力率を確保する必要がある。しかし、低負荷時に高速スイッチングを行った場合、必要以上に力率を確保することになり、更にスイッチング損失も同期整流制御に対して増大する。換言すれば、負荷条件に応じて効率を考慮しつつ最適なスイッチング制御を行って力率を確保することで高調波電流を低減すればよいと言える。
【0071】
直流電源装置1は、上記したように、ダイオード整流制御と同期整流制御と部分スイッチング制御と高速スイッチング制御を実行可能である。また、使用する機器の負荷条件によっては、高効率化優先の領域、昇圧と力率改善優先の領域等、求められる性能が変わる場合がある。
そこで本実施形態では、上記各制御モードを、予め決められた閾値情報を基にして負荷に応じて選択的に切り替えることで、より最適に高効率化と高調波電流の低減を両立可能とする。
【0072】
図15は、直流電源装置1の負荷の大きさに応じた動作モードの切り替えを説明する図である。図15において、第1の閾値を「閾値#1」、第2の閾値を「閾値#2」と省略して記載している。同様に、第1~第8の制御方法を単に「#1」から「#8」と省略して記載している。
第1制御方法は、予め決められた第1の閾値情報に基づいて、同期整流制御を実行するモードと、同期整流制御および部分スイッチング制御を同時に実行するモードとを切り替える。なお、図面では、部分スイッチング制御のことを「部分SW」と省略して記載している。
第2制御方法は、予め決められた第1の閾値情報に基づいて、同期整流制御を実行するモードと、同期整流制御および高速スイッチング制御を同時に実行するモードとを切り替える。なお、図面では、高速スイッチング制御のことを「高速SW」と省略して記載している。
【0073】
第3制御方法は、予め決められた第1、第2の閾値情報に基づいて、同期整流制御を行うモードと、同期整流制御および部分スイッチング制御を同時に実行するモードと、同期整流制御および高速スイッチング制御を同時に実行するモードと、を切り替える。
なお、この第3制御方法は、レグ1を構成するMOSFET(Q1)およびMOSFET(Q2)に、高速タイプのSJ-MOSFETを用いることで、導通損失とスイッチング損失の低減を両立させる効果が最も良く現わされる制御モードである。
【0074】
第4制御方法は、予め決められた第1の閾値情報に基づいて、同期整流制御を実行するモードと、ダイオード整流制御および部分スイッチング制御を同時に実行するモードとを切り替える。
第5制御方法は、予め決められた第1の閾値情報に基づいて、同期整流制御を実行するモードと、ダイオード整流制御および高速スイッチング制御を同時に実行するモードとを切り替える。
第6制御方法は、予め決められた第1、第2の閾値情報に基づいて、同期整流制御を実行するモードと、ダイオード整流制御および部分スイッチング制御を同時に実行するモードと、ダイオード整流制御および高速スイッチング制御を同時に実行するモードとを切り替える。
第7制御方法は、予め決められた第1、第2の閾値情報に基づいて、同期整流制御を実行するモードと、ダイオード整流制御および部分スイッチング制御を同時に実行するモードと、同期整流制御および高速スイッチング制御を同時に実行するモードとを切り替える。
第8制御方法は、予め決められた第1、第2の閾値情報に基づいて、同期整流制御を実行するモードと、同期整流制御および部分スイッチング制御を同時に実行するモードと、ダイオード整流制御および高速スイッチング制御を同時に実行するモードとを切り替える。
【0075】
例えば、効率向上と高調波電流の低減や昇圧を主目的にするのであれば、第1~第3制御方法で切り替えればよい。また、効率はあまり優先ではなく、高調波電流の低減や昇圧を主目的にするのであれば、第4~第6制御方法等のモードで切り替えればよい。例えば、部分スイッチング動作や高速スイッチング動作と同期整流動作を組み合わせる場合は、交流電源電圧半周期の中で2つのMOSFETを制御する必要があるため、制御としては複雑になる。しかし、ダイオード整流との組み合わせであれば、半周期のうち制御するMOSFETは1つであるため、制御の簡略化にも繋がる。効率や高調波の低減や制御性など、必要に応じて最適な制御を選択すればよい。
【0076】
なお、制御切り替えのトリガとなる閾値情報としては、例えば電流検出部11(図1)のレントトランス(図示省略)で検出される回路電流がある。あるいは負荷検出部15(図1)にて検出した負荷情報を用いてもよい。負荷情報として例えば、負荷H(図1)がモータやインバータの場合はモータ電流、モータ回転速度、変調率、または直流電圧等を用いればよい。
【0077】
更に、第1,第2,第4,第5制御方法のように2つのモードの間で制御を切り替える場合には、閾値情報は1つ(第1の閾値情報)であればよい。第3、第6、第7、第8制御方法のように3つのモードの間で切り替える場合には、閾値情報は2つ(第1の閾値情報と第2の閾値情報)用意する。更に、第1の閾値情報と第2の閾値情報は負荷の大きさに関連されている。つまり、第1の閾値情報は、第2の閾値情報よりも大きいという関係がある。
【0078】
例えば、第3制御方法では、第1の閾値未満の領域では同期整流動作で動作させ、第1の閾値以上で第2の閾値未満の領域では同期整流動作+部分スイッチング動作で動作させ、第2の閾値以上の領域では同期整流動作+高速スイッチング動作で動作させる。その他のモードに関しても同様である。
【0079】
また、第3,第6~第8制御方法のように部分スイッチング動作中から高速スイッチング動作に切り替える場合に、直流電圧が変動する場合がある。部分スイッチング動作中から高速スイッチング動作に切り替える場合の直流電圧変動を回避するために、部分スイッチングの動作から高速スイッチングへの切り替えの瞬間に、部分スイッチング動作時の電流に対して高速スイッチング動作時の電流のピークが小さくなるようにオン時間を調整して切り替える。
【0080】
図16は、部分スイッチングから高速スイッチングへ切り替える場合の電流波形を説明する図である。
図16(a)は、部分スイッチング制御時の交流電源電圧Vsの瞬時値と入力電流Isとを模式的に示している。
図16(b)は、高速スイッチング制御に切り替えたときの交流電源電圧Vsの瞬時値と入力電流Isとを模式的に示している。このときの電流Isのピークは、図16(a)に示した電流Isのピークよりも小さくなっている。このようにオン時間を調整して切り替えることで直流電圧の変動を抑えることが可能である。これは、部分スイッチングに対して高速スイッチング時は力率が良いため電流は小さくなる。つまり、部分スイッチングの電流振幅と同じになるように切り替えてしまうと、直流電圧が昇圧されすぎてしまうためである。これにより、直流電圧Vdの変動を抑えることが可能である。
【0081】
同様に、高速スイッチングから部分スイッチングへの切り替え時には、上記の場合とは逆に電流の振幅が大きくなるようにオン時間を調整して切り替えることで、逆に直流電圧の低下を防ぐことが可能である。
更に、各制御の切り替えは電源電圧ゼロクロスのタイミングで行うことで安定的に制御の切り替えを行うことができる。
また、本実施形態では、瞬時電流の検出にシャント抵抗R1(図1)を用いているが、シャント抵抗の代わりに高速の電流トランスを用いてもよい。
【0082】
[変形例]
図17は、本発明の実施形態に係る直流電源装置1Aの変形例を示す構成図である。本変形例の説明に当たり、図1と同一構成部分には同一符号を付している。
図17に示すように、直流電源装置1Aは、レグ2側にも第2のリアクトルであるリアクトルL2を備える。
このように、レグ2側にリアクトルL2を配置することで、短絡動作に発生するノイズをさらに低減する効果がある。また、リアクトルL1およびリアクトルL2のインダクタンスの値は、図1のようにリアクトルL1のみの場合に対して、リアクトルL1とリアクトルL2ではそれぞれ約半分にすることが可能であり、リアクトルの小型化に効果がある。
【0083】
図18は、本発明の実施形態に係る直流電源装置1Bの変形例を示す構成図である。本変形例の説明に当たり、図1と同一構成部分には同一符号を付している。
図18に示すように、直流電源装置1Bは、図1の直流電源装置1のレグ1を構成するMOSFET(Q1)(第1のスイッチング素子)およびMOSFET(Q2)(第2のスイッチング素子)を、それぞれIGBTとFRDで構成する。
【0084】
以上説明したように、本実施形態に係る直流電源装置1(図1)は、MOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)のリアクトルL1側であるMOSFET(Q1)とMOSFET(Q2)とが直列接続されて構成される回路をレグ1、MOSFET(Q3)とMOSFET(Q4)とが直列接続されて構成される回路をレグ2とした場合、レグ1とレグ2のスイッチング素子の逆回復時間の特性が異なる。特に、レグ1を構成するMOSFET(Q1)およびMOSFET(Q2)は、レグ2を構成するMOSFET(Q3)およびMOSFET(Q4)よりも逆回復時間が小さい高速タイプのSJ-MOSFETを用いる。
【0085】
そして、コンバータ制御部18(図1)は、交流電源電圧Vsが正の極性の場合、リアクトルL1に電流が通流しているときにMOSFET(Q1)とMOSFET(Q4)両方をオン状態にし、一方、リアクトルL1に電流が通流していないとき、MOSFET(Q1)またはMOSFET(Q4)のうち少なくとも1つをオフ状態とし、交流電源電圧Vsが負の極性の場合、リアクトルL1に電流が通流しているときにMOSFET(Q2)とMOSFET(Q3)両方をオン状態にし、一方、リアクトルL1に電流が通流していないとき、MOSFET(Q2)またはMOSFET(Q3)のうち少なくとも1つをオフ状態とする。
【0086】
また、コンバータ制御部18は、交流電源電圧Vsが正の極性の場合、リアクトルL1に通流する電流の波形成形を行うときには、MOSFET(Q4)を電源半周期の一部区間若しくは半周期の間オン状態にし、MOSFET(Q1)とMOSFET(Q2)を交互にオン、オフさせ、交流電源電圧Vsが負の極性の場合、リアクトルL1に通流する電流の波形成形を行うときには、MOSFET(Q3)を電源半周期の一部区間若しくは半周期の間オン状態にし、前記MOSFET(Q1)とMOSFET(Q2)を交互にオン、オフさせる。
この場合、コンバータ制御部18は、交流電源電圧Vsが正の極性の場合、MOSFET(Q4)をオン状態にし、MOSFET(Q2)をオンした後、一定時間経過後にオフさせ、MOSFET(Q2)がオフ後にMOSFET(Q1)をオンさせ、交流電源電圧Vsが負の極性の場合、MOSFET(Q3)をオン状態にし、MOSFET(Q1)をオンした後、一定時間経過後にオフさせ、MOSFET(Q1)がオフ後にMOSFET(Q2)をオンさせる。
【0087】
この構成により、ダイオード特性を有する第1乃至第4のスイッチング素子として、オン抵抗の小さいSJ-MOSFETを用いることで、通常のMOSFETを用いた場合よりも導通損失を低減することできる。また、レグ1のスイッチング素子は、逆回復時間が小さく、かつ、スイッチング速度の速い高速タイプのSJ-MOSFETを用いることで、スイッチング損失を低減することができる。
更に、直流電源装置1は、「ダイオード整流モード」、「同期整流モード」、「部分スイッチングモード」、「高速スイッチングモード」を有し、負荷条件に応じて効率を考慮しつつ最適なスイッチング制御を行って力率を確保する。ここで、使用する機器の負荷条件によって、高効率化優先の領域、昇圧と力率改善優先の領域等、求められる性能を考慮する。本実施形態では、各制御モードを、予め決められた閾値情報を基にして負荷に応じて選択的に切り替えることで、より最適に高効率化と高調波電流の低減を両立することができる。
【0088】
[空気調和機]
図19は、本実施形態の直流電源装置1,1A,1Bを用いた空気調和機の室内機、室外機、およびリモコンの構成図である。
図19に示すように、空気調和機Aは、いわゆるルームエアコンであり、室内機100と、室外機200と、リモコンReと、図示しない直流電源装置1,1A,1B(図1図17および図18参照。以下同様。)とを備えている。
室内機100と室外機200とは冷媒配管300で接続され、周知の冷媒サイクルによって、室内機100が設置されている室内を空調する。また、室内機100と室外機200とは、通信ケーブル(図示省略)を介して互いに情報を送受信するようになっている。更に室外機200には配線(図示省略)で繋がれており室内機100を介して交流電圧が供給されている。直流電源装置は、室外機200に備えられており、室内機100側から供給された交流電力を直流電力に変換している。
【0089】
リモコンReは、ユーザによって操作されて、室内機100のリモコン送受信部Qに対して赤外線信号を送信する。この赤外線信号の内容は、運転要求、設定温度の変更、タイマ、運転モードの変更、停止要求などの指令である。空気調和機Aは、これら赤外線信号の指令に基づいて、冷房モード、暖房モード、除湿モードなどの空調運転を行う。また、室内機100は、リモコン送受信部QからリモコンReへ、室温情報、湿度情報、電気代情報などのデータを送信する。
【0090】
空気調和機Aに搭載された直流電源装置1,1A,1Bの動作の流れについて説明する。
直流電源装置1,1A,1Bは、高効率動作と力率の改善による高調波電流の低減と直流電圧Vdの昇圧を行うものである。そして、動作モードとしては前記のように、ダイオード整流動作、同期整流動作、高速スイッチング動作、部分スイッチング動作の4つの動作モードを備えている。
例えば、負荷H(図1図17および図18参照)として空気調和機Aのインバータやモータを考えた場合、負荷が小さく、効率重視の運転が必要であれば、直流電源装置1,1A,1Bを同期整流モードで動作させるとよい。
【0091】
負荷が大きくなり、昇圧と力率の確保とが必要であれば、直流電源装置1,1A,1Bに高速スイッチング動作を行わせるとよい。また空気調和機Aの定格運転時のように、負荷としてはそれほど大きくないが昇圧や力率の確保が必要な場合には、部分スイッチング動作を行わせるとよい。なお、部分スイッチングと高速スイッチング時にはダイオード整流と同期整流のどちらを組み合わせてもよい。
【0092】
図20は、負荷の大きさに応じて直流電源装置1,1A,1Bの動作モードと空気調和機Aの運転領域を切り替える様子を説明する概要図である。
負荷に、閾値#1,#2を設けて、かつ機器として空気調和機Aを考えた場合、負荷が小さい中間領域において、直流電源装置1,1A,1Bは同期整流を行い、定格運転時には部分スイッチング(ダイオード整流または同期整流の何れかを組み合わせる)を行い、必要に応じて高速スイッチング(ダイオード整流または同期整流の何れかを組み合わせる)を行う。
【0093】
定格運転よりも更に負荷が大きい低温暖房運転領域などにおいて、直流電源装置1は高速スイッチングを行い、必要に応じて部分スイッチング(ダイオード整流または同期整流の何れかを組み合わせる)を行う。
【0094】
以上のように、直流電源装置は、空気調和機Aの運転領域に応じた最適な動作モードに切り替えることで、高効率動作を行いつつ、高調波電流の低減を行うことが可能である。
【0095】
なお、負荷Hがインバータやモータなどの場合、負荷の大きさを決めるパラメータとして、インバータやモータに流れる電流、インバータの変調率、モータの回転速度が考えられる。また、直流電源装置1,1A,1Bに通流する回路電流Isで負荷Hの大きさを判断してもよい。また、直流電圧で負荷の大きさを判断してもよい。
例えば、負荷の大きさが閾値#1以下ならば、直流電源装置1,1A,1Bは同期整流を行い、閾値#1を超えたならば部分スイッチング(ダイオード整流または同期整流の何れかを組み合わせる)を行う。または負荷の大きさが閾値#2を超えたならば、直流電源装置1,1A,1Bは、高速スイッチング(ダイオード整流または同期整流の何れかを組み合わせる)を行い、閾値#2を以下ならば部分スイッチング(ダイオード整流または同期整流の何れかを組み合わせる)を行う。
以上のように直流電源装置1,1A,1Bは、負荷の大きさに応じた最適な動作モードに切り替えることで、高効率動作を行いつつ、高調波電流の低減を行うことが可能である。
【0096】
このように、本実施形態の直流電源装置1,1A,1Bを空気調和機Aに備えることで、エネルギ効率(つまり、APF)を高く、また、信頼性を高めることができる。
空気調和機以外の機器に、本実施形態の直流電源装置1,1A,1Bを搭載してもよく、空気調和機以外の機器において高効率かつ信頼性を高めることができる。
【0097】
本発明は上記の実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
例えば、本実施形態では、MOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)としてSJ-MOSFETを使用した例を説明した。SJ-MOSFETに代えて、このMOSFET(Q1)乃至MOSFET(Q4)としてSiC-MOSFETやGaN-MOSFETを用いたスイッチング素子を用いることで、更なる高効率動作を実現することが可能である。
また、上記した実施形態例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態例の構成の一部を他の実施形態例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態例の構成に他の実施形態例の構成を加えることも可能である。また、各実施形態例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0098】
上記の各構成、機能、処理部、処理手段などは、それらの一部または全部を、例えば集積回路などのハードウェアで実現してもよい。上記の各構成、機能などは、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈して実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイルなどの情報は、メモリ、ハードディスクなどの記録装置、または、フラッシュメモリカード、DVD(Digital Versatile Disk)などの記録媒体に置くことができる。
各実施形態において、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0099】
1,1A,1B 直流電源装置
10 整流回路(ダイオードブリッジ回路)
11 電流検出部
12 ゲイン制御部
13 交流電圧検出部
14 ゼロクロス判定部
15 負荷検出部
16 昇圧比制御部
17 直流電圧検出部
18 コンバータ制御部(制御手段)
19 電源回路
100 室内機
200 室外機
Vs 交流電源
C1 平滑コンデンサ
D1 ダイオード(第1のダイオード)
D2 ダイオード(第2のダイオード)
D3 ダイオード(第3のダイオード)
D4 ダイオード(第4のダイオード)
ha,hb,hc,hd 配線
L1 リアクトル
L2 第2のリアクトル
Q1 MOSFET(第1のスイッチング素子)
Q2 MOSFET(第2のスイッチング素子)
Q3 MOSFET(第3のスイッチング素子)
Q4 MOSFET(第4のスイッチング素子)
R1 シャント抵抗
A 空気調和機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
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図15
図16
図17
図18
図19
図20