(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】複合繊維およびこれを含む繊維構造体
(51)【国際特許分類】
D01F 8/04 20060101AFI20231003BHJP
D01F 8/12 20060101ALI20231003BHJP
D01F 8/10 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
D01F8/04 Z
D01F8/12 Z
D01F8/10 D
(21)【出願番号】P 2022557367
(86)(22)【出願日】2021-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2021036634
(87)【国際公開番号】W WO2022080167
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2020173448
(32)【優先日】2020-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591121513
【氏名又は名称】クラレトレーディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 康平
(72)【発明者】
【氏名】中塚 均
(72)【発明者】
【氏名】池田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】小野木 祥玄
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-076200(JP,A)
【文献】特開2019-214211(JP,A)
【文献】特開2015-193953(JP,A)
【文献】特開2010-126842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00- 8/18
D04H 1/00-18/04
D03D 1/00-27/18
D04B 1/00- 1/28,
21/00-21/20
D01D 1/00-13/02
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分であるA成分と、該A成分を少なくとも部分的に被覆するB成分とから構成される複合繊維であって、
A成分が、tanδのピークトップ強度が0.5以上
4.0以下である制振性エラストマーを含んでなり、
A成分のtanδピークトップ強度が0.5以上4.0以下であり、A成分のtanδのピークトップが-30℃以上70℃以下の温度域に位置し、
B成分が、tanδのピークトップ強度が
0.03以上0.5未満である熱可塑性エラストマーを含んでなり、
B成分における前記熱可塑性エラストマー以外の成分の含有量が、B成分の総質量に対して10質量%以下であり、
繊維断面においてB成分がA成分の断面周長の70%以上を被覆する複合繊維。
【請求項2】
A成分のtanδのピークトップ温度と、B成分のtanδのピークトップ温度との差は0℃以上85℃以下である、請求項1に記載の複合繊維。
【請求項3】
複合繊維のtanδのピークトップ強度が0.15以上
1.0以下である、請求項1
または2に記載の複合繊維。
【請求項4】
前記制振性エラストマーは、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(a)と、共役ジエン系化合物を主体とする重合体ブロック(b)とから構成されるブロック共重合体および/またはその水素添加物である、請求項1~
3のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項5】
下記(1)および(2):
(1)前記ブロック共重合体および/またはその水素添加物における重合体ブロック(a)の含有量が1~30質量%である、および、
(2)前記ブロック共重合体および/またはその水素添加物における重合体ブロック(b)中、1,2-結合単位および3,4-結合単位の含有量の合計が70モル%以上
95モル%以下である、
を満たす、請求項
4に記載の複合繊維。
【請求項6】
前記制振性エラストマーは、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(a)と、共役ジエン系化合物を主体とする重合体ブロック(b)とから構成されるブロック共重合体の水素添加物であり、該水素添加物における重合体ブロック(b)の水素添加率が80モル%以上
99モル%以下である、請求項1~
5のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項7】
前記熱可塑性エラストマーは
-60℃以上45℃未満のガラス転移温度を有する、請求項1~
6のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項8】
前記熱可塑性エラストマーは、ポリアミド系エラストマーおよびポリエステル系エラストマーからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~
7のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれかに記載の複合繊維を少なくとも一部に含む、繊維構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合繊維および前記複合繊維を含む繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、制振性能を有する繊維は、振動制御を必要とされる種々の用途において使用されている。例えば、主に遮音・防音の観点から制振性能が求められる壁材や床材、カーペット用材などに適する制振性繊維として、特許文献1には、スチレンブロック(A)とイソプレンブロック(B)とからなるブロック共重合体ポリマーを芯成分とし、ガラス転移温度が45℃以上の繊維形成性ポリマーを鞘成分とする複合繊維が開示されている。また、特許文献2には、ガラス転移温度が-40~30℃である熱可塑性エラストマー(A)を、易溶解性または易分解性熱可塑性ポリマー(B)で被覆した複合繊維が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平05-051823号公報
【文献】特開2015-193953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献に開示されるような複合繊維は、高い制振性能を期待できる繊維であるものの、制振性能を発揮し得る温度域が比較的狭く、使用環境の温度によっては十分に高い制振性能を発揮できない場合がある。このため、壁材や床材、カーペット用材等の上記用途のみならず、例えばスポーツ衣料やインナー、シューズ部材などの使用環境の温度が変化しやすい各種用途や種々の温度下で使用される各種用途に用いる制振性繊維としては、必ずしも適するものではなかった。
【0005】
本発明は、幅広い温度域において高い制振性能を発揮することができ、様々な温度環境で使用される種々の用途に好適な制振性繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために詳細に検討を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
[1]芯成分であるA成分と、該A成分を少なくとも部分的に被覆するB成分とから構成される複合繊維であって、
A成分が、tanδのピークトップ強度が0.5以上である制振性エラストマーを含んでなり、B成分が、tanδのピークトップ強度が0.5未満である熱可塑性エラストマーを含んでなり、繊維断面においてB成分がA成分の断面周長の70%以上を被覆する複合繊維。
[2]A成分のtanδのピークトップ温度と、B成分のtanδのピークトップ温度との差は0℃以上85℃以下である、前記[1]に記載の複合繊維。
[3]A成分のtanδのピークトップは-30℃以上70℃以下の温度域に位置する、前記[1]または[2]に記載の複合繊維。
[4]複合繊維のtanδのピークトップ強度が0.15以上である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の複合繊維。
[5]前記制振性エラストマーは、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(a)と、共役ジエン系化合物を主体とする重合体ブロック(b)とから構成されるブロック共重合体および/またはその水素添加物である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の複合繊維。
[6]下記(1)および(2):
(1)前記ブロック共重合体および/またはその水素添加物における重合体ブロック(a)の含有量が1~30質量%である、および、
(2)前記ブロック共重合体および/またはその水素添加物における重合体ブロック(b)中、1,2-結合単位および3,4-結合単位の含有量の合計が70モル%以上である、
を満たす、前記[5]に記載の複合繊維。
[7]前記制振性エラストマーは、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(a)と、共役ジエン系化合物を主体とする重合体ブロック(b)とから構成されるブロック共重合体の水素添加物であり、該水素添加物における重合体ブロック(b)の水素添加率が80モル%以上である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の複合繊維。
[8]前記熱可塑性エラストマーは45℃未満のガラス転移温度を有する、前記[1]~[7]のいずれかに記載の複合繊維。
[9]前記熱可塑性エラストマーは、ポリアミド系エラストマーおよびポリエステル系エラストマーからなる群より選択される少なくとも1種である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の複合繊維。
[10]前記[1]~[9]のいずれかに記載の複合繊維を少なくとも一部に含む、繊維構造体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、幅広い温度域において高い制振性能を発揮することができ、様々な温度環境で使用される種々の用途に好適な制振性繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
【0009】
<複合繊維>
本発明の複合繊維は、芯成分であるA成分と、該A成分を少なくとも部分的に被覆するB成分とから構成される複合繊維である。本発明の複合繊維を構成するA成分は、tanδのピークトップ強度が0.5以上である制振性エラストマー(以下、「制振性エラストマー(A)」ともいう)を含んでなり、B成分は、tanδのピークトップ強度が0.5未満である熱可塑性エラストマー(以下、「熱可塑性エラストマー(B)」ともいう)を含んでなる。複合繊維の芯成分となるA成分が制振性エラストマー(A)を含んでいることにより、芯成分に高い制振性能を付与することができる。また、前記芯成分を被覆する鞘成分となるB成分が熱可塑性エラストマー(B)を含んでいることにより、芯成分が本来有する制振性能を十分に発揮しやすく、幅広い温度域で優れた制振性能を有する複合繊維を得ることができる。
【0010】
(A成分)
制振性エラストマー(A)は、0.5以上のtanδピークトップ強度を有する。ここで、tanδとは、動的粘弾性測定で得られるもので、損失正接とも呼ばれ、損失弾性率を貯蔵弾性率で除したものである。この値が高いほど、高い制振性が期待される。tanδのピークトップ強度とは、tanδ値が最大となるピークにおける強度を意味する。該値が0.5以上であると芯成分が高い制振性を有し、複合繊維とした際にも高い制振性能を確保しやすい。A成分に所望のtanδ分散挙動を与えやすく、複合繊維の制振性能をより向上させ得る観点から、制振性エラストマー(A)のtanδピークトップ強度は、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは1.0以上、特に好ましくは1.5以上である。tanδのピークトップ強度の上限値は特に限定されるものではないが、tanδ値が高くなるとエラストマーの溶融粘度が高くなる傾向にある。このため、A成分の取扱性や紡糸性の観点からは、制振性エラストマー(A)のtanδのピークトップ強度は、例えば4.0以下であり、好ましくは3.0以下である。
【0011】
本発明において上記tanδは、JIS K 7244-10に準じて、動的粘弾性測定装置を用いて周波数1Hz、測定温度-70~100℃で測定される。詳細には、後述する実施例に記載の方法に従い測定できる。なお、以下、熱可塑性エラストマー(B)、A成分、B成分に関するtanδについても、前記と同様の方法において測定される。
【0012】
制振性エラストマー(A)のtanδのピークトップは、-30℃以上70℃以下の温度域に位置することが好ましい。制振性エラストマー(A)のtanδ値のピークが上記温度域にあると、A成分に所望のtanδ分散挙動を与えやすく、一般的に想定される生活温度または環境温度(例えば、-10~50℃の温度域)下において使用した場合に、高い制振性能を有する複合繊維を得ることができる。より実用的な観点からは、制振性エラストマー(A)のtanδのピークトップは、より好ましくは-25℃以上、さらに好ましくは-20℃以上の温度域に位置し、また、より好ましくは65℃以下、さらに好ましくは60℃以下の温度域に位置する。
【0013】
制振性エラストマー(A)のtanδ値が連続して0.3以上となる温度領域の最大幅は5℃以上であることが好ましい。tanδ値が連続して0.3以上となる温度領域の最大幅とは、制振性エラストマー(A)のtanδ値が0.3以上となる温度(t)からピークトップを経て0.3以下となる温度(t’)までの一連の温度領域の幅をいい、温度(t)と温度(t’)との差(℃)により表される。該温度域においてtanδ値は常に0.3以上である。前記温度領域の最大幅が5℃以上であると、該制振性エラストマー(A)を含んで形成される芯成分が幅広い温度域において高い制振性を発揮し得る。これにより、様々な温度環境に適応し得る複合繊維を得ることができる。前記温度領域の最大幅は、より広い温度域において高い制振性を有する複合繊維を得やすい観点から、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上、特に好ましくは30℃以上である。前記温度領域の最大幅の上限値は特に限定されるものではないが、通常100℃以下であり、例えば80℃以下であってもよい。
【0014】
制振性エラストマー(A)としては、tanδのピークトップ強度が0.5以上となるエラストマーであれば特に限定されず、例えば、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマーまたはポリエステル系エラストマー等の熱可塑性エラストマーを用いることができる。上述したようなtanδの特定の分散挙動を示しやすいことから、本発明における好適な制振性エラストマー(A)としては、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(a)と、共役ジエン系化合物を主体とする重合体ブロック(b)とから構成されるブロック共重合体(以下、「ブロック共重合体(A1)」ともいう)および/またはその水素添加物、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体等が挙げられる。また、制振性エラストマー(A)は、前記ブロック共重合体(A1)若しくはその水素添加物に炭化水素系ゴム用軟化剤を含有してなるポリマー組成物(エラストマーコンパウンド)であってもよい。制振性エラストマー(A)として、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
重合体ブロック(a)を構成するビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、2,6-ジメチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、α-メチル-o-メチルスチレン、α-メチル-m-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、β-メチル-o-メチルスチレン、β-メチル-m-メチルスチレン、β-メチル-p-メチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、α-メチル-2,6-ジメチルスチレン、α-メチル-2,4-ジメチルスチレン、β-メチル-2,6-ジメチルスチレン、β-メチル-2,4-ジメチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,6-ジクロロスチレン、2,4-ジクロロスチレン、α-クロロ-o-クロロスチレン、α-クロロ-m-クロロスチレン、α-クロロ-p-クロロスチレン、β-クロロ-o-クロロスチレン、β-クロロ-m-クロロスチレン、β-クロロ-p-クロロスチレン、2,4,6-トリクロロスチレン、α-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、α-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、o-ブロモメチルスチレン、m-ブロモメチルスチレン、p-ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N-ビニルカルバゾール等が挙げられる。これらのビニル芳香族化合物は1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレンおよびこれらの混合物が好ましく、スチレンがより好ましい。
【0016】
本明細書において、「ビニル芳香族化合物を主体とする」とは、重合体ブロック(a)が重合体ブロック(a)を構成する全構造単位に対して60モル%以上のビニル芳香族化合物に由来する構造単位を含んでなることを意味する。機械的特性や取扱性等の観点から、重合体ブロック(a)におけるビニル芳香族化合物に由来する構造単位の割合は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは85モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、とりわけ好ましくは95モル%以上であり、実質的に100モル%であってもよい。
【0017】
重合体ブロック(a)がビニル芳香族化合物に由来する構造単位以外に含み得る構造単位としては、例えば、ビニル芳香族化合物以外の不飽和単量体に由来する構造単位が挙げられる。そのような他の不飽和単量体に由来する構造単位として、具体的には、例えばブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、イソブチレン、メタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフランなどが挙げられる。重合体ブロック(a)がビニル芳香族化合物以外の構造単位を含む場合、その結合形態は特に限定されるものではなく、ランダム、テーパー、ブロックまたはそれらの組み合わせのいずれであってもよい。
【0018】
重合体ブロック(a)がビニル芳香族化合物に由来する構造単位以外の構造単位を含む場合、その含有量は、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下である。本発明の好適な一実施態様において、重合体ブロック(a)はビニル芳香族化合物に由来する構造単位以外の構造単位を実質的に含まない(すなわち、0モル%である)。
【0019】
ブロック共重合体(A1)は重合体ブロック(a)を少なくとも1つ含んでなる。ブロック共重合体(A1)が重合体ブロック(a)を2つ以上含む場合、それらの重合体ブロック(a)は、互いに同一であっても異なっていてもよい。なお、本明細書において「重合体ブロックが異なる」とは、重合体ブロックを構成するモノマー単位、重量平均分子量、立体規則性、および複数のモノマー単位を有する場合には各モノマー単位の比率および共重合の形態(ランダム、グラジエント、ブロック等)のうちの少なくとも1つが異なることを意味する。これは後述する重合体ブロック(b)においても同じである。
本発明の好適な一実施態様において、ブロック共重合体(A1)は重合体ブロック(a)を2つ含んでいることが好ましい。
【0020】
ブロック共重合体(A1)に含まれる重合体ブロック(a)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されるものではないが、ブロック共重合体(A1)が有する重合体ブロック(a)のうち、少なくとも1つの重合体ブロック(a)の重量平均分子量が3,000~60,000であることが好ましく、4,000~50,000であることがより好ましい。ブロック共重合体(A1)が、前記範囲内の重量平均分子量を有する重合体ブロック(a)を少なくとも1つ含むことにより、機械的特性がより向上しやすい。なお、上記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めたポリスチレン換算の重量平均分子量であり、以下、ブロック重合体(b)等においても同様である。
【0021】
重合体ブロック(a)のガラス転移温度は、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下であり、また、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上である。重合体ブロック(a)のガラス転移温度が上記範囲内にあると、ブロック共重合体(A1)を含むA成分のtanδ値を特定の範囲に制御しやすくなり、得られる複合繊維の制振性能の向上につながる。なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量分析法(DSC)により測定でき、後述する制振性エラストマー(A)、熱可塑性エラストマー(B)等においても同様である。
【0022】
ブロック共重合体(A1)における重合体ブロック(a)の含有量(複数の重合体ブロック(a)を含む場合は、それらの合計含有量)は、ブロック共重合体(A1)の総質量に対して、好ましくは1~30質量%である。ブロック共重合体(A1)のモルフォロジーによって制振性エラストマー(A)のtanδ値は変化する。特にスフィア構造からなるミクロ相分離構造をとる場合にtanδが高くなる傾向にある。スフィア構造の形成のしやすさには、ブロック共重合体(A)における重合体ブロック(a)の含有量が大きく影響し得る。このため、ブロック重合体(a)の含有量を調整することは、得られる複合繊維の制振性能をより向上させる上で重要になる。特に、重合体ブロック(a)の含有量が上記範囲内であると、複合繊維とした際に、複合繊維の機械的性質が向上しやすい。また、複合繊維のtanδのピークトップ強度が高くなり、tanδ値が0.1以上となる温度領域の最大幅が広くなりやすい。このため、幅広い温度域で高い制振性能を有する複合繊維を得やすい。さらに、複合繊維を製造する際の紡糸性が向上し、高速かつ効率的に紡糸し得る点においても有利となる。これらの観点から、重合体ブロック(a)の含有量は、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、特に好ましくは5質量%以上、とりわけ好ましくは8質量%以上であり、また、より好ましくは28質量%以下、さらに好ましくは27質量%以下、特に好ましくは18質量%以下、とりわけ好ましくは15質量%以下である。
なお、ブロック共重合体(A1)における重合体ブロック(a)の含有量は、1H-NMRスペクトルによって求められる。
【0023】
重合体ブロック(b)を構成する共役ジエン系化合物としては、例えば、イソプレン、ブタジエン、ヘキサジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、ミルセン等を挙げることができる。これらの共役ジエン系化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、入手の容易さや汎用性、後述する結合形態の制御性などの観点から、イソプレン、ブタジエン、イソプレンとブタジエンの混合物が好ましく、イソプレンとブタジエンの混合物、イソプレンがより好ましい。
【0024】
共役ジエン系化合物がブタジエンとイソプレンとの混合物である場合、それらの混合比率[イソプレン/ブタジエン](質量比)は特に限定されるものではない。好ましくは5/95~95/5、より好ましくは10/90~90/10、さらに好ましくは40/60~70/30、特に好ましくは45/55~65/35である。なお、該混合比率[イソプレン/ブタジエン]をモル比で示すと、好ましくは5/95~95/5、より好ましくは10/90~90/10、さらに好ましくは40/60~70/30、特に好ましくは45/55~55/45である。
【0025】
本明細書において、「共役ジエン系化合物を主体とする」とは、重合体ブロック(b)が重合体ブロック(b)を構成する全構造単位に対して60モル%以上の共役ジエン系化合物に由来する構造単位を含んでなることを意味する。重合体ブロック(b)における共役ジエン系化合物に由来する構造単位の割合は、好ましくは65モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは85モル%以上であり、その上限値は特に限定されず、実質的に100モル%であってもよい。
【0026】
重合体ブロック(b)は、1種の共役ジエン系化合物に由来する構造単位のみを有していてもよく、2種以上の共役ジエン系化合物に由来する構造単位を有していてもよい。本発明においては、重合体ブロック(b)は、共役ジエン系化合物に由来する構造単位(以下、「共役ジエン構造単位」ともいう)を主体とするものである。前記共役ジエン構造単位として、イソプレンに由来する構造単位(以下、「イソプレン単位」ともいう)、ブタジエンに由来する構造単位(以下、「ブタジエン単位」ともいう)、または、イソプレンとブタジエンとの混合物に由来する構造単位(以下、「イソプレン/ブタジエン混合物単位」ともいう)を、それぞれの場合において、例えば60モル%以上含むことが好ましい。重合体ブロック(b)が、共役ジエン構造単位として、上記構造単位からなる群から選択される少なくとも1種の構造単位を60モル%以上含むことにより、良好な制振性能を示すセグメントを有するエラストマーとなり得る。
重合体ブロック(b)が2種以上の共役ジエン構造単位を含む場合、それらの結合形態はランダム、テーパー、完全交互、一部ブロック状、ブロックまたはそれらの2種以上の組み合わせのいずれであってもよい。
【0027】
重合体ブロック(b)は、共役ジエン構造単位以外の他の不飽和単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。他の不飽和単量体としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、ビニルナフタレンおよびビニルアントラセンなどのビニル芳香族化合物、並びにメタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、N-ビニルカルバゾール、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフラン、1,3-シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、1,3-シクロヘプタジエン、1,3-シクロオクタジエンなどに由来する構造単位が挙げられる。中でも、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。重合体ブロック(b)が共役ジエン構造単位以外の他の不飽和単量体に由来する構造単位を含む場合、その具体的な組み合わせとしては、好ましくは、イソプレンとスチレン、ブタジエンとスチレンであり、より好ましくはイソプレンとスチレンである。
重合体ブロック(b)が他の不飽和単量体に由来する構造単位を含む場合、その結合形態は特に限定されるものではなく、ランダム、テーパー状のいずれであってもよい。
【0028】
重合体ブロック(b)が共役ジエン構造単位以外の他の構造単位を含む場合、その含有量は、重合体ブロック(b)を構成する全構造単位に対して、40モル%未満であり、好ましくは35モル%未満であり、より好ましくは20モル%未満である。本発明の好適な一実施態様において、重合体ブロック(b)は共役ジエン構造単位以外の他の構造単位を実質的に含まない(すなわち、0モル%である)。
【0029】
重合体ブロック(b)を構成する単量体単位が、イソプレン単位、ブタジエン単位、イソプレン/ブタジエン混合物単位のいずれかである場合、イソプレンおよびブタジエンそれぞれの結合形態としては、ブタジエンの場合には1,2-結合、1,4-結合を、イソプレンの場合には1,2-結合、3,4-結合、1,4-結合をとることができる。
【0030】
ブロック共重合体(A1)においては、重合体ブロック(b)中の1,2-結合単位および3,4-結合単位の含有量の合計(以下、「ビニル結合量」ともいう)が好ましくは45モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは75モル%以上、特に好ましくは80モル%以上である。重合体ブロック(b)のビニル結合量が上記下限値以上であると、芯成分におけるtanδのピークトップ強度が高くなる傾向にある。これにより、複合繊維とした際に幅広い温度域において0.1以上のtanδ値を維持しやすく、広い温度域において高い制振性能を示し、様々な温度環境に適応し得る複合繊維を得やすい。重合体ブロック(b)中のビニル結合量の上限値は、特に限定されるものではないが、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下である。
ここで、ビニル結合量は、ブロック共重合体をCDCl3に溶解して1H-NMRスペクトルを測定して算出される。イソプレンおよび/またはブタジエン由来の構造単位の全ピーク面積と、イソプレン単位における3,4-結合単位および1,2-結合単位、ブタジエン単位における1,2-結合単位、または、イソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位の場合はそれぞれの前記結合単位に対応するピーク面積の比から、ビニル結合量(1,2-結合単位と3,4-結合単位との含有量の合計)を算出することができる。
なお、重合体ブロック(b)がブタジエンのみからなる場合には、前記の「1,2-結合単位および3,4-結合単位の含有量」とは「1,2-結合単位の含有量」と読み替えて適用する。
【0031】
ブロック共重合体(A1)に含まれる前記重合体ブロック(b)の重量平均分子量は、制振性などの観点から、好ましくは15,000~800,000であり、より好ましくは50,000~700,000であり、さらに好ましくは70,000~600,000、特に好ましくは90,000~500,000、最も好ましくは130,000~450,000である。なお、制振性エラストマー(A1)がブロック共重合体(A1)の水素添加物である場合、上記重量平均分子量は水素添加前の状態での値を意味する。
【0032】
ブロック共重合体(A1)は、上記重合体ブロック(b)を少なくとも1つ有していればよい。ブロック共重合体(A1)が重合体ブロック(b)を2つ以上有する場合には、それらの重合体ブロック(b)は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
本発明の好適な一実施態様において、ブロック共重合体(A1)は重合体ブロック(b)を1つのみ含んでいることが好ましい。
【0033】
ブロック共重合体(A1)における重合体ブロック(b)の含有量(複数の重合体ブロック(b)を有する場合には、それらの合計含有量)は、ブロック共重合体(A1)の総質量に対して、好ましくは70~99質量%である。ブロック共重合体(A1)のモルフォロジーによって制振性エラストマー(A)のtanδ値は変化し、特にスフィア構造からなるミクロ相分離構造をとる場合にtanδが高くなる傾向にある。スフィア構造の形成のしやすさには、ブロック共重合体(A)における重合体ブロック(b)の含有量が大きく影響し得る。このため、ブロック重合体(b)の含有量を調整することは、得られる複合繊維の制振性能をより向上させる上で重要になる。特に、重合体ブロック(b)の含有量が上記範囲内であると、複合繊維とした際に、複合繊維の機械的性質が向上しやすい。また、tanδのピークトップ強度が高くなり、tanδ値が0.1以上となる温度領域の最大幅が広くなりやすい。また、複合繊維を製造する際の紡糸性が向上し、高速で、効率的に紡糸し得る点においても有利となる。これらの観点から、重合体ブロック(b)の含有量は、より好ましくは73質量%以上、さらに好ましくは82質量%以上、特に好ましくは85質量%以上であり、また、より好ましくは98質量%以下、さらに好ましくは97質量%以下、特に好ましくは95質量%以下、とりわけ好ましくは92質量%以下である。
なお、ブロック共重合体(A1)における重合体ブロック(b)の含有量は、1H-NMRスペクトルによって求められる。
【0034】
ブロック共重合体(A1)は、重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)とが結合している限りは、その結合形式は限定されず、直鎖状、分岐状、放射状、またはこれらの2つ以上が組合わさった結合様式のいずれであってもよい。中でも、重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)の結合形式は直鎖状であることが好ましい。その例としては重合体ブロック(a)をaで、また重合体ブロック(b)をbで表したときに、a-bで示されるジブロック共重合体、a-b-aまたはb-a-bで示されるトリブロック共重合体、a-b-a-bで示されるテトラブロック共重合体、a-b-a-b-aまたはb-a-b-a-bで示されるペンタブロック共重合体、(a-b)nX型共重合体(Xはカップリング剤残基を表し、nは3以上の整数を表す)などを挙げることができる。中でも、直鎖状のトリブロック共重合体、またはジブロック共重合体が好ましく、a-b-a型のトリブロック共重合体が、柔軟性、製造の容易性などの観点から好ましく用いられる。
なお、本明細書においては、同種の重合体ブロックが二官能のカップリング剤などを介して直線状に結合している場合、結合している重合体ブロック全体は一つの重合体ブロックとして取り扱われる。これに従い、上記例示も含め、本来、厳密にはY-X-Y(Xはカップリング剤残基を表す)と表記されるべき重合体ブロックは、特に単独の重合体ブロックYと区別する必要がある場合を除き、全体としてYと表示される。本明細書においては、カップリング剤残基を含むこの種の重合体ブロックを上記のように取り扱う。したがって、例えば、カップリング剤残基を含み、厳密にはa-b-X-b-a(Xはカップリング剤残基を表す)と表記されるべきブロック共重合体はa-b-aと表記され、トリブロック共重合体の一例として取り扱われる。
【0035】
本発明の一実施態様において、制振性エラストマー(A)は、下記(1)および(2):
(1)前記ブロック共重合体および/またはその水素添加物における重合体ブロック(a)の含有量が1~30質量%である、および、
(2)前記ブロック共重合体および/またはその水素添加物における重合体ブロック(b)中、1,2-結合単位および3,4-結合単位の含有量の合計が70モル%以上である、
を満たすことが好ましい。
上記(1)および(2)を満たすことにより、A成分のtanδのピークトップ強度が高くなり、複合繊維とした際に幅広い温度域で高いtanδ値を維持しやすくなるため、広い温度域において高い制振性能を示し、様々な温度環境に適用し得る複合繊維を得ることができる。
【0036】
本発明の一実施態様において、制振性エラストマー(A)は、ブロック共重合体(A1)の水素添加物(以下、「水添ブロック共重合体(A1’)」ともいう)であることが好ましく、重合体ブロック(b)が有する炭素-炭素二重結合の80モル%以上が水素添加(以下、「水添」ともいう)されていることが好ましい。重合体ブロック(b)の水素添加率が高いと、幅広い温度域において複合繊維に高い制振性能を付与することができ、また、耐光性に優れる傾向にある。したがって、重合体ブロック(b)の水素添加率は、より好ましくは85モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、特に好ましくは93モル%以上、とりわけ好ましくは95モル%以上である(以下、この値を「水素添加率」(水添率)ともいう)。水素添加率の上限値は特に限定されるものではなく、99モル%以下であってもよく、98モル%以下であってもよい。
なお、上記水素添加率は、重合体ブロック(b)中の共役ジエン系化合物由来の構造単位中の炭素-炭素二重結合の含有量を、水素添加後の1H-NMR測定によって求めた値である。
【0037】
本発明の一実施態様において、制振性エラストマー(A)は水添ブロック共重合体(A1’)であり、上記(1)および(2)に加えて下記(3):
(3)前記水素添加物における重合体ブロック(b)の水素添加率が85モル%以上である
を満たすことが好ましい。
上記(1)~(3)を満たすことにより、複合繊維のtanδのピークトップ強度が高くなり、幅広い温度域で高いtanδ値を示しやすくなり、より広い温度域において高い制振性能を発揮し得る複合繊維を得ることができる。
【0038】
水添ブロック共重合体(A1’)のゲル浸透クロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算で求めた重量平均分子量は、好ましくは20,000以上、より好ましくは50,000以上、さらに好ましくは60,000以上、特に好ましくは80,000以上であり、また、好ましくは800,000以下、より好ましくは700,000以下、さらに好ましくは500,000以下、特に好ましくは400,000以下である。水添ブロック共重合体(A1’)の重量平均分子量が上記下限値以上であれば耐熱性が高くなり、上記上限値以下であれば成形性が良好となる傾向にある。
【0039】
水添ブロック共重合体(A1’)は、本発明の目的および効果を損なわない限り、分子鎖中および/または分子末端に、カルボキシル基、水酸基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基などの官能基を、1種または2種以上を有していてもよく、また官能基を有さないものであってもよい。
【0040】
制振性エラストマー(A)が水添ブロック共重合体(A1’)である場合、重合体ブロック(a)中のビニル芳香族化合物の核水添率は8モル%以下であることが好ましく、より好ましくは6モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下、特に好ましくは4モル%以下、とりわけ好ましくは3.5モル%以下である。重合体ブロック(a)中のビニル芳香族化合物の核水添率が上記上限値以下であると、所望の機械物性が得られやすい。核水添率の下限値は特に限定されるものではなく0%であってもよい。
上記核水添率は、水素添加前のビニル芳香族化合物の含有量と水素添加後のビニル芳香族化合物の含有量から求められる。
【0041】
ブロック共重合体(A1)の製造方法は特に限定されず、溶液重合法、乳化重合法または固相重合法などの従来公知の方法に従い製造し得る。中でも、溶液重合法が好ましく、例えばアニオン重合法、カチオン重合法、ラジカル重合法などを採用し得る。例えばアニオン重合の場合、具体的には、
(i)アルキルリチウム化合物を重合開始剤として用い、ビニル芳香族化合物、共役ジエン系化合物、次いでビニル芳香族化合物を逐次重合させる方法;
(ii)アルキルリチウム化合物を重合開始剤として用い、ビニル芳香族化合物、共役ジエン系化合物を逐次重合させ、次いでカップリング剤を加えてカップリングする方法;
(iii)ジリチウム化合物を重合開始剤として用い、共役ジエン系化合物、次いでビニル芳香族化合物を逐次重合させる方法、
などが挙げられる。
【0042】
アルキルリチウム化合物としては、例えばメチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、ペンチルリチウムなどが挙げられる。また、ジリチウム化合物としては、例えばナフタレンジリチウム、ジリチオヘキシルベンゼンなどが挙げられる。
【0043】
カップリング剤としては、例えばジクロロメタン、ジブロモメタン、ジクロロエタン、ジブロモエタン、ジブロモベンゼン、安息香酸フェニルなどが挙げられる。
【0044】
溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ペンタンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0045】
重合反応の条件は、目的とするブロック共重合体(A1)が得られるよう適宜決定すればよい。例えば、0~100℃、好ましくは10~70℃の温度で、0.5~50時間、好ましくは1~30時間の条件で重合反応を行い得る。
【0046】
共役ジエン系化合物を用いる場合、アニオン重合の際にルイス塩基を添加することによって、重合体ブロック(b)のビニル結合量を増やすことができる。ルイス塩基の添加量を調整することによって、制振性エラストマー(A)におけるビニル結合量を容易に制御することができる。これらを制御することにより、制振性エラストマー(A)のtanδのピーク温度や高さを調整することができる。例えば、ルイス塩基を添加し、制振性エラストマー(A)のビニル結合量が増えるほど、tanδの値が高くなりやすく、tanδ値が0.1以上となる温度領域の最大幅が広くなりやすい傾向にある。このため、この値を特定の範囲に制御することにより、得られる芯成分や複合繊維の制振性能を効果的に向上させることができる。特に、ビニル結合量とともに水素添加率を高くすることによって、tanδの値を広範囲で高くすることができ、より優れた上記効果が期待できる。
【0047】
前記ルイス塩基としては、例えば、酢酸エチルなどのエステル;トリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、N-メチルモルホリンなどのアミン;ピリジンなどの含窒素複素環式芳香族化合物;ジメチルアセトアミドなどのアミド;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどのエーテル;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン;などが挙げられる。重合体ブロック(b)がイソプレン単位を含む場合、ビニル結合量とともに水素添加率を高くするためには、ルイス塩基として2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン(DTHFP)を用いることが好ましい。
【0048】
ブロック共重合体(A1)を水素添加反応に付すことにより、水添ブロック共重合体(A1’)を得ることができる。未水添のブロック共重合体(A1)を水素添加反応に付す方法としては、水素添加触媒に対して不活性な溶媒に、得られた未水添のブロック共重合体(A1)を溶解させるか、または、未水添のブロック共重合体(A1)を反応液から単離せずにそのまま用い、水素添加触媒の存在下、水素と反応させる方法が挙げられる。
【0049】
水素添加触媒としては、例えばラネーニッケル;Pt、Pd、Ru、Rh、Niなどの金属をカーボン、アルミナ、珪藻土などの単体に担持させた不均一系触媒;遷移金属化合物とアルキルアルミニウム化合物、アルキルリチウム化合物などとの組み合わせからなるチーグラー系触媒;メタロセン系触媒などが挙げられる。水素添加反応は、通常、水素圧力0.1MPa以上20MPa以下で、反応温度20℃以上250℃以下、反応時間0.1時間以上100時間以下の条件で行うことができる。
【0050】
制振性エラストマー(A)として、前記ブロック共重合体(A1)または水添ブロック共重合体(A1’)に炭化水素系ゴム用軟化剤を含有してなるポリマー組成物(以下、「ポリマー組成物(A2)」ともいう)を用いる場合、用い得る炭化水素系ゴム用軟化剤としては、例えば、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、アロマ系オイル等のプロセスオイル、流動パラフィン等が挙げられる。中でもパラフィン系オイル、ナフテン系オイル等のプロセスオイルが好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
制振性エラストマー(A)が前記ポリマー組成物(A2)から構成される場合、ポリマー組成物(A2)における炭化水素系ゴム用軟化剤の含有量は、ブロック共重合体(A1)および/または水添ブロック共重合体(A1’)100質量部に対して、好ましくは50~300質量部、より好ましくは60~200質量部、さらに好ましくは60~150質量部である。炭化水素系ゴム用軟化剤の含有量が上記範囲内であると、適度なゴム弾性を有するエラストマーが得られる。
【0052】
本発明においては、制振性エラストマー(A)として4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(以下、「共重合体(A3)」ともいう)を用いてもよい。該共重合体(A3)としては、具体的に、例えば特開2012-82388号公報に記載されるような共重合体が挙げられる。
【0053】
制振性エラストマー(A)は、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下の、また、好ましくは-30℃以上、より好ましくは-20℃以上のガラス転移温度を有する。制振性エラストマー(A)のガラス転移温度が上記範囲内であると、一般的な生活環境における温度域において制振性エラストマー(A)を含むA成分のtanδ値が高くなりやすく、得られる複合繊維の制振性能の向上につながる。なお、本発明において、制振性エラストマー(A)における上記ガラス転移温度は、エラストマー自体のガラス転移温度であってもよく、上記エラストマーを構成する重合体部分が有しているガラス転移温度であってもよい。
【0054】
本発明において、制振性エラストマー(A)の250℃における溶融粘度は、制振性能および紡糸性等の観点から、好ましくは3000poise以下、より好ましくは2500poise以下であり、また、好ましくは500poise以上、より好ましくは700poise以上である。なお、上記溶融粘度は、例えば、キャピラリーレオメーターを用いて測定することができ、後述する熱可塑性エラストマー(B)においても同様である。
【0055】
制振性エラストマー(A)として市販品を用いてもよい。本発明において制振性エラストマー(A)として使用し得る市販品としては、例えば、水添ブロック共重合体(A1’)として株式会社クラレ製の「ハイブラー」(登録商標)および「セプトン」(登録商標)、ポリマー組成物(A2)としてクラレプラスチックス株式会社製の「アーネストン」(登録商標)、共重合体(A3)として三井化学株式会社製の「アブソートマー」(登録商標)が挙げられる。
【0056】
本発明において、A成分は上述した制振性エラストマー(A)からなってもよく、制振性エラストマー(A)に加えて、本発明の効果に影響を及ぼさない限りにおいて、必要に応じて、他の(共)重合体、ブロッキング防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、結晶核剤、発泡剤、着色剤等を含んでいてもよい。A成分が制振性エラストマー(A)以外の成分を含む場合、他の成分の含有量は、A成分の総質量に対して、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。本発明の一実施態様において、A成分は実質的に制振性エラストマー(A)からなる。
【0057】
制振性エラストマー(A)に含むことができる他の(共)重合体としては、例えば、強度や成形性、耐薬品性、耐熱性の改善の観点から、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、プロピレン系重合体、エチレン系重合体等が挙げられる。プロピレン系重合体としては、例えばホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン等を使用することができる。中でも、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンを用いるのが好ましい。エチレン系重合体としては、例えば中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のエチレン単独重合体;エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-ヘプテン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン・1-ノネン共重合体、エチレン・1-デセン共重合体等のエチレン・α-オレフィン共重合体等を使用することができる。
【0058】
A成分は、好ましくは0.5以上のtanδピークトップ強度を有する。A成分のtanδのピークトップ強度が0.5以上であると該A成分を含んでなる複合繊維において高い制振性能を確保しやすい。制振性能をより向上させ得る観点から、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは1.0以上、特に好ましくは1.5以上である。A成分のtanδのピークトップ強度の上限値は特に限定されるものではないが、A成分の取扱性や紡糸性の観点からは、例えば4.0以下であり、好ましくは3.0以下である。
【0059】
A成分のtanδのピークトップは、-30℃以上70℃以下の温度域に位置することが好ましい。A成分のtanδ値のピークが上記温度域にあると、一般的な環境温度下において使用した場合に、高い制振性能を発揮し得る複合繊維を得ることができる。成分Aのtanδのピークトップは、より好ましくは-25℃以上、さらに好ましくは-20℃以上の温度域に位置し、また、より好ましくは65℃以下、さらに好ましくは60℃以下の温度域に位置する。
【0060】
A成分のtanδ値が連続して0.3以上となる温度領域の最大幅が5℃以上であることが好ましい。前記温度領域の最大幅が5℃以上であると、A成分からなる芯成分を含んで形成される複合繊維が幅広い温度域において高い制振性を発揮しやすくなり、様々な温度環境に適応し得る複合繊維を得ることができる。前記温度領域の最大幅は、より広い温度域において高い制振性を有する複合繊維を得やすい観点から、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上、特に好ましくは30℃以上である。前記温度領域の最大幅の上限値は特に限定されるものではないが、通常100℃以下であり、例えば80℃以下であってもよい。
【0061】
A成分のtanδの分散挙動は、主に用いる制振性エラストマー(A)の種類、特に、制振性エラストマー(A)がブロック共重合体(A1)、水添ブロック共重合体(A1’)および/またはポリマー組成物(A2)である場合には、ブロック共重合体(A1)等における重合体ブロック(a)の含有量、重合体ブロック(b)におけるビニル結合量や水添率、重合体ブロック(a)および(b)の構成成分、ガラス転移温度等を、先に記載した範囲内で調整することにより所望の範囲に制御できる。
【0062】
(B成分)
本発明の複合繊維において、制振性エラストマー(A)を含むA成分から形成される芯成分は、熱可塑性エラストマー(B)を含んでなるB成分によって少なくとも部分的に被覆される。
制振性能を有するような制振性エラストマーは、一般的に溶融粘度が高い傾向にある。このため、単独で紡糸しようとしても繊維同士が激しく膠着するため、生産自体が困難であったり、繊維を製造し得てもその解舒性が著しく劣るといった問題が生じやすい。かかる問題を解決するためには、紡糸時に繊維同士の膠着が生じ難いような成分で芯成分を被覆することが有効である。例えば、特定の繊維形成性ポリマーや易溶解性または易分解性熱可塑性ポリマーからなる鞘成分により芯成分を被覆した複合繊維がある(上記特許文献1および2等)。一方で、芯成分を鞘成分で被覆することにより解舒性や生産性の向上は期待できるものの、芯成分が本来有する制振性能は鞘成分によって損なわれやすい。このため、複合繊維とした場合に制振性能を発揮し得る温度域が比較的狭くなり、使用環境の温度によっては十分に高い制振性能を発揮することが困難となる場合がある。
本発明の複合繊維は、熱可塑性エラストマー(B)を含み、適度なゴム状弾性(エラストマー特性)を有する成分により芯成分であるA成分を被覆することによって、良好な解舒性や高速紡糸性を確保しながら、A成分が本来発揮し得る制振性能を低減または阻害することなく、幅広い温度域において高い制振性能を発揮し得る。
【0063】
熱可塑性エラストマー(B)のtanδピークトップ強度は0.5未満である。tanδ値が高くなるとエラストマーの溶融粘度が高くなる傾向にある。このため、tanδピークトップ強度が0.5以上であると鞘成分で被覆することによる紡糸性や解舒性向上効果を十分に得ることが難しい。紡糸性や解舒性がより向上しやすいことから、熱可塑性エラストマー(B)のtanδピークトップ強度は、好ましくは0.45以下、より好ましくは0.35以下、さらに好ましくは0.25以下である。また、紡糸性および解舒性向上効果を確保しながら、B成分にも可能な限り高い制振性能を付与する観点から、熱可塑性エラストマー(B)のtanδピークトップ強度の下限値は、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.04以上、さらに好ましくは0.05以上である。
【0064】
熱可塑性エラストマー(B)のtanδのピークトップは、-60℃以上50℃以下の温度域に位置することが好ましい。熱可塑性エラストマー(B)のtanδ値のピークが上記温度域にあると、A成分を被覆した際にA成分が有する制振性能を損ない難く、一般的な環境温度下において幅広く高い制振性能を有する複合繊維を得ることができる。熱可塑性エラストマー(B)のtanδのピークトップは、より好ましくは-55℃以上、さらに好ましくは-50℃以上の温度域に位置し、また、より好ましくは45℃以下、さらに好ましくは40℃以下の温度域に位置する。
【0065】
熱可塑性エラストマー(B)のtanδ値が連続して0.03以上となる温度領域の最大幅が5℃以上であることが好ましい。前記温度領域の最大幅が5℃以上であると、A成分を被覆した際にA成分が有する制振性能を損ない難く、該熱可塑性エラストマー(B)を含んで形成される複合繊維が幅広い温度域において高い制振性を発揮しやすく、様々な温度環境に適応し得る複合繊維を得やすい。前記温度領域の最大幅は、より広い温度域において高い制振性を有する複合繊維を得やすい観点から、より好ましくは25℃以上、さらに好ましくは50℃以上、特に好ましくは100℃以上である。前記温度領域の最大幅の上限値は特に限定されるものではないが、通常200℃以下であり、例えば150℃以下であってもよい。
【0066】
熱可塑性エラストマー(B)のガラス転移温度は、好ましくは45℃未満である。熱可塑性エラストマー(B)が比較的低いガラス転移温度を有することにより、B成分自体の制振性能を高めやすくなり、A成分が有する制振性能を十分に維持したまま、幅広い温度域において高い制振性能を発揮し得る複合繊維を得やすい。かかる観点から、熱可塑性エラストマー(B)のガラス転移温度は、より好ましくは40℃以下、さらに好ましくは30℃以下、特に好ましくは20℃以下であり、好ましくは-60℃以上、より好ましくは-50℃以上である。
【0067】
熱可塑性エラストマー(B)の曲げ弾性率は、600MPa以下であることが好ましい。前記曲げ弾性率が600MPa以下であると、A成分を被覆した際にA成分が有する制振性能を損ない難く、該熱可塑性エラストマー(B)を含んで形成される複合繊維が幅広い温度域において高い制振性を発揮しやすく、様々な温度環境に適応し得る複合繊維を得やすい。かかる観点から、熱可塑性エラストマー(B)の曲げ弾性率は、より好ましくは500MPa以下、さらに好ましくは450MPa以下である。熱可塑性エラストマー(B)の曲げ弾性率の下限値は、特に限定されるものではなく、通常50MPa以上である。なお、上記曲げ弾性率は、例えば、万能材料試験機を用いて測定することができる。
【0068】
熱可塑性エラストマー(B)の250℃における溶融粘度は、好ましくは3000poise以下、より好ましくは2500poise以下であり、また、好ましくは500poise以上、より好ましくは700poise以上である。熱可塑性エラストマー(B)の250℃における溶融粘度が上記上限値以下であると、低温での取扱性が向上しやすく、高速紡糸性や良好な解舒性を期待できる。また、上記溶融粘度が上記下限値以上であると、得られる複合繊維が高い強度を有する傾向にある。
【0069】
熱可塑性エラストマー(B)としては、tanδのピークトップ強度が0.5未満となるエラストマーであれば特に限定されず、例えば、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー等を用いることができる。上述したようなtanδの特定の分散挙動を示しやすいことから、本発明において熱可塑性エラストマー(B)は、ポリアミド系エラストマーおよびポリエステル系エラストマーからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。熱可塑性エラストマー(B)として、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
ポリアミド系エラストマーとしては、例えば、脂肪族ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612など)等のポリアミド樹脂、ポリアミド単位からなるハードセグメントとソフトセグメントとから構成されるポリエーテルブロックアミド共重合体、ポリエーテルアミド共重合体、ポリエステルアミド共重合体等が挙げられる。
ポリエーテルブロックとしては、炭素数2~10の直鎖または分岐鎖の飽和脂肪族ポリエーテルであってもよく、好ましくは、エーテル結合間に2~6個の炭素を有するセグメント(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリペンタメチレングリコールおよびポリヘキサメチレングリコールなど)であってもよい。ハードセグメントとソフトセグメントとの割合(質量比)は、例えば、50/50~95/5であってもよく、好ましくは60/30~92/8、より好ましくは70/30~90/10であってもよい。中でも、ポリエーテルブロックアミド共重合体、ポリエーテルアミド共重合体が好ましい。
【0071】
ポリアミド系エラストマーとして市販品を用いてもよく、例えば、ダイセル・エボニック株式会社製の「ベスタミド」(登録商標)および「ダイアミド」(登録商標)、ARKEMA社製の「ペバックス」(登録商標)、宇部興産株式会社製の「UBESTA XPA」(登録商標)等が挙げられる。
【0072】
ポリエステル系エラストマーとしては、例えば、ポリエーテルエステル共重合体、ポリエステルエステル共重合体等が挙げられる。中でも、ポリエーテルエステル共重合体が好ましい。
【0073】
ポリエステル系エラストマーとして市販品を用いてもよく、例えば、SKchemical社製の「SKYPEL」(登録商標)、東レ・デュポン株式会社製の「ハイトレル」(登録商標)、東洋紡績株式会社製の「ペルプレン」(登録商標)等が挙げられる。
【0074】
B成分は、上述した熱可塑性エラストマー(B)からなってもよく、熱可塑性エラストマー(B)に加えて、本発明の効果に影響を及ぼさない限りにおいて、必要に応じて、他の(共)重合体、ブロッキング防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、結晶核剤、発泡剤、着色剤等を含んでいてもよい。B成分が熱可塑性エラストマー(B)以外の成分を含む場合、他の成分の含有量は、B成分の総質量に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。本発明の一実施態様において、B成分は実質的に熱可塑性エラストマー(B)からなる。
【0075】
B成分はA成分との関係において、A成分のtanδのピークトップ温度とB成分のtanδのピークトップ温度との差が0℃以上85℃以下となるtanδの分散挙動を有することが好ましい。A成分およびB成分における各ピークトップ温度の差が上記範囲内であると、B成分による紡糸性および解舒性向上効果を確保しながら、A成分が有する制振性能を損ない難く、幅広い温度域において高い制振性を発揮しやすく、様々な温度環境に適応し得る複合繊維を得やすい。かかる観点から、前記ピークトップ温度の差は、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは75℃以下、特に好ましくは70℃以下、とりわけ好ましくは65℃以下である。
【0076】
また、B成分はA成分との関係において、A成分のtanδのピークトップ強度とB成分のtanδのピークトップ強度との差が0.05以上4.0以下となるtanδの分散挙動を有することが好ましい。A成分およびB成分における各ピークトップ強度の差が上記範囲内であると、B成分自体が適度な制振性能を有しやすく、A成分を被覆した際にA成分の制振性を損ない難くなるため、制振性能に優れる複合繊維を得やすい。かかる観点から、前記ピークトップ強度の差は、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3.0以下である。
【0077】
B成分は、先に記載したようにA成分との関係において望ましいtanδの分散挙動を有することが好ましく、B成分のtanδのピークトップ強度、ピークトップ温度および/またはtanδ値が連続して0.03以上となる温度領域の最大幅は、複合繊維を構成するA成分との関係において適宜決定することができる。
本発明の一実施態様において、B成分の前記各値および好適な範囲は、例えば、先に記載の熱可塑性エラストマー(B)におけるtanδのピークトップ強度、ピークトップ温度および/またはtanδ値が連続して0.03以上となる温度領域の最大幅における値および範囲と同様である。
【0078】
B成分のtanδの分散挙動は、主に用いる熱可塑性エラストマー(B)の種類、特に、熱可塑性エラストマー(B)のガラス転移温度を先に記載の範囲に調整する等により所望の範囲に制御することができる。
【0079】
本発明の複合繊維は、先に説明した特定の制振性エラストマー(A)を含む芯成分(A成分)を、特定の熱可塑性エラストマー(B)を含む鞘成分(B成分)で被覆することにより、制振性向上効果と解舒性および/または紡糸性向上効果とのバランスに優れる。このため、本発明の複合繊維は、従来の制振性複合繊維と比較して、B成分で被覆することによるA成分の制振性能への影響が少なく、一般的な生活温度または環境温度下の幅広い温度域において高い制振性能を発揮することができる。また、A成分を単独で紡糸する場合と比較して、繊維化工程の工程通過性が良好となり、高速かつ高収率での生産が期待できる。さらに、A成分がB成分により被覆されていることにより、加工時に容易に解舒が可能となることから、該複合繊維を用いた繊維構造体の生産性の面においても有利である。
【0080】
(複合繊維の製造方法)
本発明の複合繊維は、A成分およびB成分の組み合わせを決定したうえで、従来公知の複合紡糸装置を用いて繊維化することが可能である。例えば、低速または中速で溶融紡糸して未延伸糸として得る方法、低速または中速で溶融紡糸した後に延伸する方法、高速による直接紡糸延伸方法、紡糸後に延伸と仮撚を同時にまたは続いて行う方法などの任意の製糸方法で製造することができる。これらの中でも、繊維の生産性や高い制振性能を確保する観点から、低速または中速で溶融紡糸して未延伸糸として得る方法、または直接紡糸延伸方法で製造することが好ましい。
【0081】
本発明の複合繊維において、A成分とB成分の複合比率(質量比)は、A:Bが好ましくは90:10~10:90であり、より好ましくは85:15~15:85、さらに好ましくは80:20~20:80である。A成分とB成分との複合比率が前記範囲内であると、A成分による高い制振性能を十分に確保しながら、繊維化工程における繊維同士の膠着を抑制し、高速かつ高収率での製造が可能になる。
【0082】
本発明の複合繊維の断面において、B成分が繊維表面全体を覆う必要はない。しかし、繊維化の巻取り工程性や、巻取り後の取扱性、良好な工程通過性を確保するために、繊維断面において、A成分が芯となり、B成分がA成分の全断面周長の70%以上を被覆していることが重要であり、80%以上被覆していることが好ましく、90%以上被覆していることがより好ましく、実質的に100%被覆していてもよい。
【0083】
本発明において、複合繊維の形状としては、芯鞘型複合繊維、海島型複合繊維、分割型複合繊維等が挙げられる。本発明の複合形態は、特に限定されるものではなく、本発明の効果が得られるものである限り、同芯型、偏芯型、多芯型でもよい。また、A成分の繊維断面形状は、円形断面形状であってもよく、三角形、偏平、多葉型などの異形断面形状であってもよい。さらに、A成分の内部に中空部を設けることも可能であり、一孔中空、二孔中空以上の多孔中空等の中空形状など、各種の断面形状としてもよい。
【0084】
本発明の複合繊維の単繊維繊度は、目的に応じて適宜設定することができる。複合繊維を製造しやすく、紡糸性を向上させ得る観点から、例えば、0.3~50dtex、好ましくは0.3~40dtexの範囲から選択できる。なお、本発明の複合繊維では、糸切れ性を防止しつつ、6dtex以下の細繊度の繊維を得ることも可能である。これらの繊維は、長繊維のみならず短繊維、あるいはショートカットとしても用いることができる。
【0085】
本発明の複合繊維は高い制振性能を確保する観点から、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.25以上、特に好ましくは0.3以上、とりわけ好ましくは0.35以上のtanδピークトップ強度を有する。その上限値は特に限定されるものではないが、通常1.0以下である。
【0086】
本発明において、複合繊維のtanδは、JIS K 7244-4に準じて、動的粘弾性測定装置を用いて周波数10Hz、測定温度-70~100℃で測定される。詳細には、後述する実施例に記載の方法に従い測定できる。
【0087】
また、一般的な環境温度域において発揮し得る高い制振性能を確保する観点から、本発明の複合繊維におけるtanδのピークトップ温度は、好ましくは-5℃以上、より好ましくは0℃以上、さらに好ましくは5℃以上であり、また、好ましくは50℃以下、より好ましくは45℃以下、さらに好ましくは40℃以下である。さらに、より幅広い温度域において発揮し得る高い制振性能を確保する観点から、本発明の複合繊維において、tanδ値が0.1以上となる温度域の最大幅は、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上である。その上限値は特に限定されるものではないが、通常50℃以下である。
【0088】
本発明の複合繊維は、各種繊維集合体である繊維構造体として用いることができる。ここで、繊維構造体としては各種織編物や不織布などが挙げられる。本発明の複合繊維は、特に、幅広い温度域において高い制振性能を発揮することができるため、様々な温度環境で使用される種々の用途に好適である。そのような用途としては、具体的に例えば、スポーツ衣料、スポーツ部材、インナー、ストッキング、ソックス、シューズ部材、クッション材、シート材、カーペット用材、フロアマット、寝装品、エアフィルター、フィルター、消音材、吸音材、メディカル用品等が挙げられる。
【実施例】
【0089】
以下に実施例に基づいて本発明をより詳細に述べるが、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0090】
1.A成分の調製
以下の通り、制振性エラストマーとして、水添ブロック共重合体1~4を調製した。
【0091】
(1)水添ブロック共重合体1: 実施例1、5~10および比較例1~5にて使用
窒素置換して乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン5kg、アニオン重合開始剤として濃度10.5質量%のsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液8.7gを仕込んだ。次いで、耐圧容器内を50℃に昇温した後、スチレン0.1kgを加えて1時間重合させ、容器内温度50℃において、ルイス塩基として2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン(DTHFP)6.3gを加え、イソプレン0.82kgおよびブタジエン0.65kgの混合液を5時間かけて加えた後2時間重合させた。さらにスチレン0.1kgを加えて1時間重合させることにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。
得られた反応液に、オクチル酸ニッケルおよびトリメチルアルミニウムから形成されるチーグラー系水素添加触媒を水素雰囲気下で添加し、水素圧力1MPa、80℃の条件で5時間反応させた。該反応液を放冷および放圧させた後、水洗により上記触媒を除去し、真空乾燥させることにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物(以下、「水添ブロック共重合体1」ともいう)を得た。
【0092】
(2)水添ブロック共重合体2: 実施例2にて使用
窒素置換して乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン5kg、アニオン重合開始剤として濃度10.5質量%のsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液25gを仕込んだ。次いで、耐圧容器内を50℃に昇温した後、スチレン0.3kgを加えて1時間重合させ、容器内温度50℃において、ルイス塩基として2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン(DTHFP)17gを加え、イソプレン0.82kgおよびブタジエン0.67kgの混合液を5時間かけて加えた後2時間重合させた。さらにスチレン0.3kgを加えて1時間重合させることにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。
得られた反応液に、オクチル酸ニッケルおよびトリメチルアルミニウムから形成されるチーグラー系水素添加触媒を水素雰囲気下で添加し、水素圧力1MPa、80℃の条件で5時間反応させた。該反応液を放冷および放圧させた後、水洗により上記触媒を除去し、真空乾燥させることにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物(以下、「水添ブロック共重合体2」ともいう)を得た。
【0093】
(3)水添ブロック共重合体3: 実施例3にて使用
窒素置換して乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン5kg、アニオン重合開始剤として濃度10.5質量%のsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液8.7gを仕込んだ。次いで、耐圧容器内を50℃に昇温した後、スチレン0.1kgを加えて1時間重合させ、容器内温度50℃において、ルイス塩基として2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン(DTHFP)3.2gを加え、イソプレン0.82kgおよびブタジエン0.65kgの混合液を5時間かけて加えた後2時間重合させた。さらにスチレン0.1kgを加えて1時間重合させることにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。
得られた反応液に、オクチル酸ニッケルおよびトリメチルアルミニウムから形成されるチーグラー系水素添加触媒を水素雰囲気下で添加し、水素圧力1MPa、80℃の条件で5時間反応させた。該反応液を放冷および放圧させた後、水洗により上記触媒を除去し、真空乾燥させることにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物(以下、「水添ブロック共重合体3」ともいう)を得た。
【0094】
(4)水添ブロック共重合体4: 実施例4にて使用
窒素置換して乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン5kg、アニオン重合開始剤として濃度10.5質量%のsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液12gを仕込んだ。次いで、耐圧容器内を50℃に昇温した後、スチレン0.1kgを加えて1時間重合させ、容器内温度50℃において、ルイス塩基として2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン(DTHFP)3.2gを加え、イソプレン1.5kgを5時間かけて加えた後2時間重合させた。さらにスチレン0.1kgを加えて1時間重合させることにより、ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。
得られた反応液に、オクチル酸ニッケルおよびトリメチルアルミニウムから形成されるチーグラー系水素添加触媒を水素雰囲気下で添加し、水素圧力1MPa、80℃の条件で5時間反応させた。該反応液を放冷および放圧させた後、水洗により上記触媒を除去し、真空乾燥させることにより、ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物(以下、「水添ブロック共重合体4」ともいう)を得た。
【0095】
(5)A成分の組成
表1に示す通り、A成分1~4として上記で得た水添ブロック共重合体1~4(100質量%)をそれぞれ用い、A成分5として上記水添ブロック共重合体1を80質量%およびポリプロピレン(プライムポリマー株式会社製の「ポリプロピレン Y-2005GP」)20質量%からなる混合物を用いた。
【0096】
2.制振性エラストマー(水添ブロック共重合体)および/またはA成分の構成/物性
上記で得た水添ブロック共重合体1~4の構成、並びに、水添ブロック共重合体および/またはA成分の各種物性を、以下の方法に従って測定した。結果を表1に示す。
【0097】
(1)重合体ブロック(a)の含有量
水添ブロック共重合体をCDCl3に溶解して1H-NMRスペクトルを測定[装置:ADVANCE 400 Nanobay(Bruker社製)、測定温度:30℃]し、スチレンに由来するピーク強度から重合体ブロック(a)の含有量を算出した。
【0098】
(2)重合体ブロック(a)の核水添率
水添前後のブロック共重合体をそれぞれCDCl3に溶解して1H-NMRスペクトル測定[装置:ADVANCE 400 Nanobay(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行った。未水添ブロック共重合体の芳香族ビニル化合物の含有量と水添ブロック共重合体の芳香族ビニル化合物の含有量から核水添率を算出した。
【0099】
(3)ビニル結合量
水添前のブロック共重合体をCDCl3に溶解して1H-NMRスペクトル測定[装置:ADVANCE 400 Nanobay(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行った。イソプレンおよび/またはブタジエン由来の構造単位の全ピーク面積に対する、イソプレン構造単位における1,2-結合単位および3,4-結合単位並びにブタジエン構造単位における1,2-結合単位に対応するピーク面積の比から、ビニル結合量(1,2-結合単位と3,4-結合単位との含有量の合計)を算出した。
【0100】
(4)水素添加率
水添ブロック共重合体をCDCl3に溶解して1H-NMRスペクトル測定[装置:ADVANCE 400 Nanobay(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行った。イソプレンまたはブタジエンの残存オレフィン由来のピーク面積と、エチレン、プロピレンおよびブチレン由来のピーク面積比から水素添加率を算出した。
【0101】
(5)重量平均分子量
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、水添ブロック共重合体のポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0102】
(6)ガラス転移温度
水添ブロック共重合体1~4を構成する重合体ブロック(a)のガラス転移温度(Tg)は、示差熱走査型熱量計[装置:DICOVERY DSC25(TAインスツルメント・ジャパン株式会社製)]を使用して、昇温速度10℃/分にて-100℃から300℃まで昇温して測定した。
【0103】
(7)溶融粘度の測定
溶融粘度は、キャピラリーレオメーター[装置:キャピログラフ1C PMD-C(東洋精機製作所社製)]を用いて、250℃、せん断速度1000sec-1の条件で測定した。
【0104】
(8)tanδ測定
JIS K 7244-10に準じて、ゆがみ制御型動的粘弾性測定装置[装置:ARES-G2(TAインスツルメント社製)]を使用し、周波数1Hzで振動を与え、-70℃から100℃まで3℃/分で昇温して測定した。
【0105】
【0106】
3.B成分の構成
実施例および比較例で使用したB成分は以下の通りである。
・B成分1: 実施例1~4、6~10および比較例5にて使用
ダイセル・エボニック株式会社製の「ベスタミド E47-S1」
・B成分2: 実施例5にて使用
SKchemical社製の「SKYPEL G163D」
・B成分3: 比較例1にて使用
イソフタル酸を8モル%共重合した固有粘度[η]0.64の変性ポリエチレンテレフタレート
・B成分4: 比較例2にて使用
エチレン-ポリビニルアルコール共重合体(株式会社クラレ製、ケン化度:98.5、エチレン含有量8.0モル%、重合度:380)
・B成分5: 比較例3にて使用
プライムポリマー株式会社製の「ポリプロピレン Y-2005GP」
【0107】
4.B成分の構成/物性
B成分の各種物性を、A成分における各種物性の測定方法と同様の方法により測定した。また、曲げ弾性率は以下の方法により測定した。結果を表2に示す。
【0108】
(1)曲げ弾性率
JIS K 7171に準じて、万能材料試験機[装置:INSTRON 5966(インストロン社製)]を使用し、曲げ速度2mm/分で測定した。
【0109】
【0110】
5.複合繊維の製造
(1)実施例1~10および比較例5
以下の方法に従い、実施例1~10および比較例5の複合繊維をそれぞれ調製した。
(i)実施例1
表3に示す複合比率(A/B)に従い、A成分(芯成分)とB成分(鞘成分)とを、それぞれ別々の押出し機で溶融させ、芯鞘断面(※実施例7のみ海島断面)で複合繊維を複合紡糸ノズルより吐出させた。次いで、紡糸口金より吐出された糸条を、長さ1.0mの横吹付け型冷却風装置により冷却した後、冷却風装置から出てきた繊維に紡糸油剤を付与し、引き続いてローラーを介して2500m/分の引取り速度で巻き取って、185dtex/24フィラメントの複合繊維を得た。なお、紡糸油剤としては鉱物系油剤を使用した。
【0111】
(ii)実施例2~4および10
それぞれ、A成分の構成を変更した以外は、実施例1と同様にして複合繊維を調製した。
【0112】
(iii)実施例5
B成分のポリマー種を変更した以外は、実施例1と同様にして複合繊維を調製した。
【0113】
(iv)実施例6
B成分によるA成分の被覆率を変更した以外は、実施例1と同様にして複合繊維を調製した。
【0114】
(v)実施例7
断面形状を芯鞘型から海島型に変更した以外は、実施例1と同様にして複合繊維を調製した。
【0115】
(vi)実施例8および9
A成分とB成分の複合比率を変更した以外は、実施例1と同様にして複合繊維を調製した。
【0116】
(vii)比較例5
B成分によるA成分の被覆率を変更した以外は、実施例1と同様にして複合繊維を調製した。
【0117】
(2)比較例1
以下の方法に従い、比較例1の複合繊維を調製した。なお、比較例1はB成分のポリマー種において実施例1と異なる。
表3に示す複合比率(A/B)に従い、A成分(芯成分)とB成分(鞘成分)とを、それぞれ別々の押出し機で溶融させ、芯鞘断面で複合繊維を複合紡糸ノズルより吐出させた。次いで、紡糸口金より吐出された糸条を、長さ1.0mの横吹付け型冷却風装置により冷却した後、連続して紡糸口金直下から1.3mの位置に設置した長さ1.0m、内径30mmのチューブヒーター(内壁温度:180℃)に導入してチューブヒーター内で延伸した。その後、チューブヒーターから出てきた繊維に紡糸油剤を付与し、引き続いてローラーを介して2500m/分の引取り速度で巻き取って、185dtex/24フィラメントの複合繊維を得た。
【0118】
(3)比較例2
以下の方法に従い、比較例2の複合繊維を調製した。なお、比較例2はB成分のポリマー種において実施例1と異なる。
表3に示す複合比率(A/B)に従い、A成分(芯成分)とB成分(鞘成分)とを、それぞれ別々の押出し機で溶融させ、芯鞘断面で複合繊維を複合紡糸ノズルより吐出させた。次いで、紡糸口金より吐出された糸条を、長さ1.0mの横吹付け型冷却風装置により冷却した後、連続して紡糸口金直下から1.3mの位置に設置した長さ1.0m、内径30mmのチューブヒーター(内壁温度:130℃)に導入してチューブヒーター内で延伸した。その後、チューブヒーターから出てきた繊維に紡糸油剤を付与し、引き続いてローラーを介して2500m/分の引取り速度で巻き取って、185dtex/24フィラメントの複合繊維を得た。
【0119】
(4)比較例3
以下の方法に従い、比較例3の複合繊維を調製した。なお、比較例3はB成分のポリマー種において実施例1と異なる。
表3に示す複合比率(A/B)に従い、A成分(芯成分)とB成分(鞘成分)とを、それぞれ別々の押出し機で溶融させ、芯鞘断面で複合繊維を複合紡糸ノズルより吐出させた。次いで、紡糸口金より吐出された糸条を、長さ1.0mの横吹付け型冷却風装置により冷却した後、連続して紡糸口金直下から1.3mの位置に設置した長さ1.0m、内径30mmのチューブヒーター(内壁温度:100℃)に導入してチューブヒーター内で延伸した。その後、チューブヒーターから出てきた繊維に紡糸油剤を付与し、引き続いてローラーを介して2500m/分の引取り速度で巻き取って、185dtex/24フィラメントの複合繊維を得た。
【0120】
(5)比較例4
以下の方法に従い、比較例4の繊維を調製した。比較例4はB成分を含まないことにおいて実施例1と異なる。
表3に示すA成分を押出し機で溶融させ、丸断面で単独繊維を単独紡糸ノズルより吐出させた。次いで、紡糸口金より吐出された糸条を、長さ1.0mの横吹付け型冷却風装置により冷却した後、冷却風装置から出てきた繊維に紡糸油剤を付与し、引き続いてローラーを介して2500m/分の引取り速度で巻き取って、92dtex/24フィラメントの単独繊維を得た。
【0121】
6.複合繊維の物性/特性評価
実施例および比較例における複合繊維の各物性値は以下の方法により測定した。各結果を表3に示す。
【0122】
(1)断面形状
繊維断面の形状は、パラフィンで繊維を包埋後、ミクロトーム[装置:PR-50(大和光機工業株式会社製)]を使用して繊維断面薄片を作製し、光学顕微鏡[装置:ECLIPSE Ci(株式会社ニコン製)]により観察した。
【0123】
(2)繊維断面におけるB成分によるA成分の被覆率
繊維断面写真から、ランダムに選択したフィラメント10本について、各フィラメントの繊維被覆部の長さを測定して繊維断面周長に対する被覆部長の百分率を被覆率として算出し、各フィラメントの被覆率の平均値を求めた。
【0124】
(3)tanδ測定
JIS K 7244-4に準じて、動的粘弾性測定装置[装置:Rheogel E4000(株式会社ユービーエム製)]を使用して、周波数10Hzで振動を与え、-70℃から100℃まで3℃/分で昇温して測定した。
【0125】
(4)制振性評価
実施例および比較例で得られた繊維で目付200g/m2の筒編地を作製し、10gの鉄球を高さ30cmから筒編地に向け落下させ、鉄球の跳ね返り回数を測定した。鉄球の跳ね返り回数を10回繰り返し測定して、その平均値を算出し、以下の基準に基づき制振性を評価した。
○:鉄球の跳ね返り回数が5回未満である。
×:鉄球の跳ね返り回数が5回以上である。
【0126】
(5)パッケージからの解舒性
捲取機を使用して200m/分の速度で解舒した繊維を捲取り、以下の基準にしたがって解舒性評価を行った。
○:300分間で断糸が何ら発生せず、しかも得られた繊維に毛羽・ループが全く発生せず、極めて良好である。
×:300分間で断糸が1回以上発生、得られた繊維に毛羽・ループが1個以上発生し、不良である。
【0127】
(6)耐光性
耐光性は、実施例及び比較例で得られた繊維で目付200g/m2の筒編地を作製し、紫外線フェードメーター[装置:U48(スガ試験機株式会社製)]を使用して、JIS L 1096に準拠して、フェードメーター60時間照射による変退色をグレースケールにて等級判定した。
【0128】
【0129】
本発明に従う実施例1~10の複合繊維では、解舒性が良好であり、tanδピークトップ強度が高くかつtanδ≧0.1となる温度領域の最大幅が広く優れた制振性能を有することが確認された。一方、B成分として熱可塑性エラストマー(B)を含まない比較例1~3の複合繊維では、解舒性は良好であったが、A成分の制振性が損なわれて制振性能に劣ることが確認された。また、B成分を有しない比較例4の繊維、および、B成分による被覆率が低い比較例5の複合繊維では解舒性が劣っていた。