(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】炊飯器
(51)【国際特許分類】
A47J 27/00 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
A47J27/00 103G
A47J27/00 103P
(21)【出願番号】P 2019104526
(22)【出願日】2019-06-04
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003702
【氏名又は名称】タイガー魔法瓶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】福井 勇仁
【審査官】西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-050493(JP,A)
【文献】実開昭63-003316(JP,U)
【文献】特開2010-179151(JP,A)
【文献】特開2014-200516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00-36/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被調理物を入れる内鍋と、
前記内鍋を取り出し可能に収容する内鍋収容部を有する炊飯器本体と、
前記内鍋収容部を覆う蓋体と、
前記蓋体を前記炊飯器本体に回動可能に取り付けるヒンジ機構と、
前記内鍋を加熱する加熱手段と、前記加熱手段を制御して炊飯プログラムを実行する制御手段と、前記加熱手段および前記制御手段を含む負荷回路を動作させるための電力を供給する電源回路とを備えた炊飯器であって、
前記ヒンジ機構が配置された領域の下方の前記炊飯器本体内部に、垂直壁部と前記垂直壁部の下端部分から連続して左右方向において斜め下方に延在するように形成された斜面部とを有し、前記ヒンジ機構部分から前記炊飯器本体の内部に侵入した水が前記電源回路側に流れることを防止する導水部材が配置されていることを特徴とする炊飯器。
【請求項2】
前記導水部材が、前記垂直壁部の上端部分に連続して形成された水平面部を更に備え、前記水平面部が前記ヒンジ機構の下端部分に接触した状態で配置される、請求項1に記載の炊飯器。
【請求項3】
前記導水部材の前記斜面部は、先端がインレットの配置部分を超えて延在している、請求項1または2に記載の炊飯器。
【請求項4】
前記導水部材が、前記水平面部に形成された取り付け穴を介して、前記ヒンジ機構に取り付けられる、
請求項2に記載の炊飯器。
【請求項5】
前記導水部材が、樹脂製のシート部材を折り曲げて形成される、請求項1~4のいずれかに記載の炊飯器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は炊飯器に関し、特に、本体内部に水が侵入した場合でも電源回路での短絡が引き起こされることを防止し得る炊飯器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、炊飯器は、内鍋の周囲に配置された温度センサにより検出された内鍋温度に基づいて、加熱手段であるIHコイルやヒータへの通電電流をマイクロコンピュータ(マイコン)によって制御し、吸水工程、昇温工程、炊き上げ工程(沸騰工程)、追い炊き工程、むらし工程という炊飯工程それぞれにおいて内鍋の温度を細かく調整することで、炊飯量や環境温度の変化に左右されずにおいしいお米を炊くことができるようになっている。また、通常の炊飯に限られず、おかゆや炊き込みご飯などの各種の炊飯メニューを備えたもの、さらには、パン焼きメニューや、ポトフ、シチューなどの調理メニューを備えた炊飯器も実用化されている。
【0003】
炊飯器においては、調理中や保温中に生じた水蒸気が蓋の内側に露として付着し、調理完了後に蓋をあけて調理物を取り出す際に、この露が蓋を開閉可能に固定するヒンジ機構が配置された部分近傍に垂れてしまうという課題を有している。また、炊飯過程で生じたおねばが、蓋の内側から内鍋の周囲に垂れてしまうこともある。
【0004】
このような、蓋を開けた際に垂れる露やおねばなどの水分が、蓋の開閉機構部分などから炊飯器本体の内部に浸入すると、本体内部に配置された電源回路で短絡が生じるなどして炊飯器の故障の原因となってしまうおそれがある。
【0005】
そこで、蓋解放時に露などの水分が炊飯器本体内に浸入して電源回路での短絡が生じることを防止するために、内鍋を収容する内鍋収容部の上部開口部の周囲部分にカバーを配置し、当該カバーのヒンジ機構近傍部分に凹所を形成して垂れた露などを受け止めるとともに、ヒンジ機構を覆う第2のカバーを配置して、露などの炊飯器本体内部への浸入を防止する構成を備えた炊飯器が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、ヒンジ部のカバーでは炊飯器本体内への水の浸入を完全には防止できないこと鑑みて、IHコイルの漏洩磁束回収カバーにヒンジ部から炊飯器本体内部に浸入してしまった水を受け止めて短絡を防止する機能を備えさせるなど、電源回路にカバーを設けること(特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-272597号公報
【文献】特開2014- 36720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の炊飯器では、蓋から垂れた露やおねばなどを、内鍋収容部上部の周囲に配置されたカバーで受け止めることができるため、内鍋の周囲に垂れた露などが機器本体内部へ浸入することを防ぐことができ、また、使用後のお手入れをし易くすることができる。また、電源回路基板やIHコイルなどの高周波回路部分である電源回路をカバーで覆うことで、ヒンジ部を伝わって炊飯器本体の内部に水が侵入した場合の短絡を防止することができる。
【0009】
一方、国際安全規格のIEC60335-1では、炊飯器本体を電源回路が配置された側を下側となるようにして左右方向に5度傾斜させ、内鍋が満水となっている状態でさらに100mlの水を注入するという、炊飯器本体の内部により水が浸入しやすく、かつ、浸入した水が電源回路側に伝いやすい状態での溢水試験が行われる。これに対し、上記従来の構成の炊飯器は、炊飯器がテーブル上などに載置されて上面が略水平となっている状態を前提として、炊飯器本体の内部への水の浸入や、内部に侵入した水による電源回路での短絡を防止するものであり、このような厳しい溢水試験に十分対応できているとは言えなかった。
【0010】
本開示は、このような従来の炊飯器における課題を解決するものであり、炊飯器を電源回路側が下となるように傾斜させた状態での溢水試験にも耐えうる、より安全性の高い炊飯器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本開示の炊飯器は、被調理物を入れる内鍋と、前記内鍋を取り出し可能に収容する内鍋収容部を有する炊飯器本体と、前記内鍋収容部を覆う蓋体と、前記蓋体を前記炊飯器本体に回動可能に取り付けるヒンジ機構と、前記内鍋を加熱する加熱手段と、前記加熱手段を制御して炊飯プログラムを実行する制御手段と、前記加熱手段および前記制御手段を含む負荷回路を動作させるための電力が供給され電源回路とを備えた炊飯器であって、前記ヒンジ機構が配置された領域の下方の前記炊飯器本体の内部に、垂直壁部と前記垂直壁部の下端部分から連続して形成された斜面部とを有し、前記ヒンジ機構部分から前記炊飯器本体の内部に侵入した水が前記電源回路側に流れることを防止する導水部材が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示の炊飯器は、蓋体を回動可能に取り付けるヒンジ機構が配置された領域の下方の炊飯器本体内部に、垂直壁部と斜面部とを備えた導水部材が配置されている。このため、ヒンジ機構部分から炊飯器本体の内部に水が浸入した場合でも、浸入した水が、電源回路が配置されている部分に到達することを回避でき、不所望な短絡が生じるおそれを低減した安全性の高い炊飯器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態にかかる炊飯器の外観を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態にかかる炊飯器の蓋体を開けた状態を示す斜視図である。
【
図3】本実施形態にかかる炊飯器の本体内部の背面側の構成を説明する斜視図である。
【
図4】本実施形態にかかる炊飯器に用いられる導水部材の形状を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の炊飯器は、被調理物を入れる内鍋と、前記内鍋を取り出し可能に収容する内鍋収容部を有する炊飯器本体と、前記内鍋収容部を覆う蓋体と、前記蓋体を前記炊飯器本体に回動可能に取り付けるヒンジ機構と、前記内鍋を加熱する加熱手段と、前記加熱手段を制御して炊飯プログラムを実行する制御手段と、前記加熱手段および前記制御手段を含む負荷回路を動作させるための電力が供給され電源回路とを備えた炊飯器であって、前記ヒンジ機構が配置された領域の下方の前記炊飯器本体の内部に、垂直壁部と前記垂直壁部の下端部分から連続して形成された斜面部とを有し、前記ヒンジ機構部分から前記炊飯器本体の内部に侵入した水が前記電源回路側に流れることを防止する導水部材が配置されている。
【0015】
なお本明細書において、電源回路とは、電源コードによって外部から取り込まれた商用電源が印加される電子部品全体とそれらを接続する配線等を含めた回路構成部品の総称とする。したがって、取り込まれた電圧を調整等する電気回路全般やそれらの回路部品が搭載されたいわゆる電源基板、インレットまたは電源コードリールなどの接続端子部分、インバータ方式の炊飯器に採用されるノイズ防止のためのフィルタ回路が搭載されるフィルタ基板、さらには、炊飯器内部に二次電池を備えた充電式電源の場合の充電回路などは、いずれも、本明細書における電源回路にふくまれる。
【0016】
本開示の炊飯器は、上記構成を備えることで、ヒンジ機構を伝って炊飯器本体の内部に水が浸入した場合でも、導水部材によって、その水を電源回路が配置されている部分以外へと導くことができる。このため、炊飯器本体の内部に浸入した水によって電源回路で不所望な短絡が生じるおそれを効果的に低減することができる。
【0017】
上記本開示にかかる炊飯器において、前記導水部材が、前記垂直壁部の上端部分に連続して形成された水平面部を更に備え、前記水平面部が前記ヒンジ機構の下端部分に接触した状態で配置されることが好ましい。このようにすることで、ヒンジ機構を伝って炊飯器本体の内部に侵入した水の流れる方向を、導水部材によって確実に制御することができる。
【0018】
また、前記導水部材が、前記水平面部に形成された取り付け穴を介して、前記ヒンジ機構に取り付けられることが好ましい。このようにすることで、導水部材を配置するための部材を別に設ける必要がなくなるとともに、導水部材を、水が伝わってくるヒンジ機構に密着させて固着することができる。
【0019】
さらに、前記導水部材が、樹脂製のシート部材を折り曲げて形成されることが好ましい。このようにすることで、導水部材のコストを低減できるとともに、炊飯器本体内部の形状に合わせて導水部材の形状を調整することができる。
【0020】
(実施の形態)
以下、本開示にかかる炊飯器について、具体的な実施形態を用いて説明する。
【0021】
図1は、本実施形態の炊飯器の外観を示す斜視図である。
【0022】
本実施形態の炊飯器は、
図1に示すように、米と水、具入り炊飯モードでは野菜や豆類、肉類などの各種の具である被炊飯物、さらには、炊飯以外の各種調理メニューに対応する場合には被調理物を入れる
図1では図示しない内鍋と、この内鍋を収容することができる炊飯器本体20と、炊飯器本体20の上部開口を開閉自在に閉塞できる蓋体10とを有している。
【0023】
蓋体10の表面側である外面には、ユーザが炊飯器に各種設定を与えるための操作部11が配置されている。
【0024】
操作部11には、ユーザが調理するメニューの選択や火加減、保温工程の保温設定時間などを選択するための複数のメニューボタン12と、調理の開始や予約操作、操作の取消などを指示するための複数の操作ボタン13が配置されている。また、メニューボタン12や操作ボタン13での選択状況や、調理状態や残り時間、タイマーの設定状況などの炊飯器の状態等を表示する、液晶パネルその他の画像表示パネルにより形成された表示部14が配置されている。
【0025】
本実施形態の炊飯器は、一例として内鍋内部の圧力を調整して炊飯を行う圧力炊飯が可能な炊飯器を例示しているため、蓋体10には、蓋体10が閉じた状態で内鍋内部の圧力を調整可能な図示しない圧力弁が配置されている。また、蓋体10外面後方側部分には、圧力弁が開放されている際に内鍋内部で発生した蒸気が放出される蒸気放出口15を備えた調圧キャップ16が配置されている。
【0026】
蓋体10外面の手前側には、ロックボタン17が設けられ、蓋体10が閉じている状態でロックボタン17を押し込むと、蓋体10のロックが外れ、後述するバネ機構により蓋体10が後方側、すなわち、
図1における右奥側に開くようになっている。
【0027】
図2は、本実施形態にかかる炊飯器の、蓋体10を開けた状態を示す斜視図である。
【0028】
蓋体10の内面側、すなわち、炊飯器本体20に形成された内鍋30を収容する内鍋収容部22と対向する面には、内鍋30の開口を覆う内蓋18が着脱可能に配置されている。なお、内蓋18の中央部には、蓋体10の表面側に形成された調圧キャップ16に形成された蒸気放出口15(
図1参照)に繋がる調圧口18aが形成されている。また、内蓋18の周囲には、内鍋30の上面に形成された平面部分30aと密着して炊飯工程における内鍋30内部の圧力を保持する内蓋パッキン18bが配置されている。
【0029】
蓋体10内面の前方部分には、炊飯器本体20の上面前方部分に形成されたフック部23と係合するロックピン19が形成されている。ロックピン19は、
図1で説明した蓋体10外面のロックボタン17と連動して、蓋体10と炊飯器本体20とのロックとその解除とを行う。
【0030】
炊飯器本体20の内鍋収容部22に収容された内鍋30を容易に取り出すことができ、かつ、蓋体10が開いた状態をより容易に維持できるように、蓋体10は炊飯器本体20の上面に対して略垂直、またはそれ以上の角度、すなわち蓋体10が少し後方側に倒れた状態となるまで開くことができるようになっている。
【0031】
炊飯や各種の調理直後に蓋体10を開けると、内蓋18の表面に付着していた水蒸気が冷やされた露や、炊飯過程で生じたおねばなどが、内蓋18の表面から蓋体10の内側表面を伝って炊飯器本体20の上面に落ちることになる。このため、炊飯器本体20上面の内鍋収容部22の周囲部分には、継ぎ目のない一枚状の上面プレート24が配置されている。また、上面プレート24の外周部分にはリブ24aが形成されていて、上面プレート24上に落ちた露などの水分やおねばなどを受け止めることができるようになっている。
【0032】
さらに、本実施形態にかかる炊飯器では、蓋体10と炊飯器本体20とを回動可能に固着するヒンジ機構40が配置されている領域、すなわち、炊飯器後方側の両側面部分の上面プレート24に、他の部分よりも低くなる凹所部25が形成されていて、炊飯器本体20の上面にこぼれた水滴などを一定量までならば貯めておくことができる。
【0033】
しかし、例えば、ユーザが内鍋30を内鍋収容部22に収容した状態で内鍋内に水を注入しようとしてこぼれてしまった場合など、上面プレート24に大量の水がかかった場合には、上面プレート24の凹所部25では受け止めきれずに上面プレート24から水が溢れることが想定される。このような場合、溢れた水の大部分は上面プレート24のリブ24aを超えて炊飯器本体20の外表面を伝って落ちることになるが、一部の水は、上面プレート24に形成された隙間部分から炊飯器本体20の内部に侵入する。この隙間部分とは、ヒンジ機構40の回動部を炊飯器本体20内部に配置された支持部材に固着するための貫通孔などである。一定の重量を有する蓋体10を回動可能に支持するためには、ヒンジ機構40を炊飯器本体20に強固に支持する必要があるため、このような支持部材との貫通孔は必要不可欠なものであるが、炊飯器本体20内部への水の進入口となるという問題を生じてしまうために対策が必要となる。
【0034】
そこで、本願実施形態の炊飯器では、上面プレート24に生じているヒンジ機構40の保持のための隙間から炊飯器本体20の内部に侵入した水が、電源回路の配置部分に流れ込んで短絡などの不所望な事態を引き起こすことを防止するための導水部材50を備えている。
【0035】
図3は、本実施形態にかかる炊飯器の内部を斜め後方下側から見た斜視図である。
図3では、炊飯器本体の外殻を構成する樹脂製の筐体が取り外された状態を示している。
【0036】
図3に示すように、本実施形態にかかる炊飯器では、使用時のユーザから見て左側(
図3では右側)の後方部分に、電源回路であるフィルタ基板26が、立てた状態、すなわち、基板の主面が上下方向に延在する状態で配置されている。
【0037】
炊飯器の構造として、炊飯器本体内部の略中心部分には内釜が配置されるため、電源回路関連の基板など一定の面積を有し、しかも、基板上に搭載される電気回路部品が比較的大きな電源回路関連の基板は、本実施形態にかかる炊飯器と同様に、炊飯器の側方または後方側(使用時のユーザから見た背面側)に、主面を立てた状態で配置されることが多い。また、普段の使用時には電源コードが見えると見栄えか良くなく、さらに、いわゆるインレット方式と呼ばれるような、電源コードを本体表面に配置された電源ピンに対して着脱可能とする構成では、インレット部分に水がかかりにくくすることが必要となる。このため、通常は、電源コードが炊飯器の後面(ユーザに正対しない背面側)から後方側に延在するように配置される。このことから、商用電源から取り込まれた電圧を調整する電気回路部品が搭載されたいわゆる電源回路基板や、インレットまたは電源コードリール、インバータ方式の炊飯器に採用されるノイズ防止のためのフィルタ回路が搭載されるフィルタ基板、さらには炊飯器内部に二次電池を備えた充電式電源の場合の充放電回路などの電源回路は、炊飯器本体の後方(背面側)に配置される。
【0038】
したがって、炊飯器本体20の上面プレート24の隙間から炊飯器本体20の内部に浸入した水を、すぐ近くに配置されている電源回路に掛からないようにする導水部材50を配置することは、不所望な短絡を引き起こさないようにする上で重要である。
【0039】
図4に、本実施形態にかかる炊飯器に使用されている導水部材の斜視図を示す。
【0040】
図4に示すように、導水部材50は、帯状のシート部材を2個所で谷折りにして形成されていて、炊飯器本体20の内部で略鉛直方向に配置される垂直壁部51と、垂直壁部51の下端部分から延在する斜面部52と、垂直壁部51の上端部分から延在する水平面部53とを有している。また、水平面部53には、導水部材50を炊飯器本体20内部の所定位置に取り付けるためのねじ穴54が形成されている。なお、説明の便宜上、水平面部53と垂直壁部51と斜面部52とで囲まれている側の導水部材50表面を、内側面50aと称する。
【0041】
導水部材50は、一例として厚さ約0.12mmのポリエステルフィルム製であり、幅30mm、長さ約100mmに切断されたリボン状のシートを、2個所で内側面50a側に谷折りにして折り曲げて、長さ方向が20mmの水平面部53、長さ方向が25mmの垂直壁部51、長さ方向が約55mmの斜面部52を構成している。
【0042】
図4に示すように、本実施形態にかかる炊飯器では、導水部材50の水平面部53が炊飯器本体20内部の背面側上方部分に配置されているヒンジ機構40を支持する支持部材41の下側面に面同士が当接するように配置され、ねじ穴54を用いて支持部材41を固着するネジ42に共締めされて固着されている。
【0043】
このとき、導水部材50の垂直壁部51が、支持部材41のフィルタ基板26側の端部、すなわち、
図3における支持部材41の右側の端部の真下に位置するように配置されるとともに、斜面部52が、フィルタ基板26から遠ざかる方向に傾斜するように配置され、斜面部52の先端がインレット27の配置部分よりも
図3における左側の位置まで延在するようになっている。
【0044】
このように導水部材50を配置することで、本実施形態にかかる炊飯器では、上面プレート26の隙間を伝って炊飯器本体20の内部に侵入した水は、ヒンジ機構40の支持部材41の表面を伝った後に、導水部材50の垂直壁部51の内側面50a(
図3における左側の表面)にと伝わるため、フィルタ基板26側に回り込むことが効果的に防止できる。また、導水部材50の内側面50aを伝わる水は、垂直壁部51から斜面部52の内側面20aに伝わり、インレット27の配置位置に侵入することなくインレット27よりも
図3における左側の位置まで流れる。この結果、炊飯器本体20の内部に浸入した水が、インレット27の配置位置に侵入することも防止できる。
【0045】
なお、導水部材50によって、
図3の左側方向へと導かれた水は、斜面部52の下端部分から落下した後に、炊飯器本体20のカバー底面に形成された排水口や、その他の隙間部分から炊飯器本体20の外部へと流出するため、炊飯器本体20の内部で商用電源に接続される電源回路に掛かることはなく、不所望な短絡を引き起こすことが回避される。
【0046】
また、本実施形態にかかる炊飯器では、導水部材50が配置されるヒンジ機構40の下側領域は、前面側が
図3に示す炊飯器本体20内の他の部材の壁面28で遮られ、後方側には、
図3には示されない炊飯器本体20の外殻を構成する筐体の内面が存在することから、全体が一定の幅を有する略直方体状の空間となっている。このため、上述のように、導水部材50として長さ方向において一定の幅を有する形状として配置することができる。
【0047】
以上のように、本実施形態にかかる炊飯器では、
図3に示すように導水部材50が配置されているため、例えば、IEC60335-1に基づく溢水試験のように、電源回路が配置されている側(
図3における右側)が下になるように5度から最大10数度程度傾けた状態でも、上面プレート24の隙間から浸入した水が、炊飯器本体20内で電源回路の配置部分に侵入することはなく、不所望な短絡が生じることを効果的に防止することができる。
【0048】
なお、本実施形態では、導水部材50としてシート状の部材を折り曲げて所定の形状としたものを用いた例を説明した。しかし、導水部材はシート状の物を折り曲げて所定の形状とするものには限られず、少なくとも一部分が所定の形状となるように成型されたものであっても良いことは言うまでも無い。しかし、シート状部材を折り曲げる方法であれば、複数個の導水部材をまとめて持ち運ぶ際など、炊飯器の製造工程における取り扱いが容易となる。また、シート状の部材を折り曲げる方法であれば、例えば、垂直壁部と斜面部との接続位置となる折り曲げ部を、炊飯器本体内部の空間の形状に合わせて微調整できることも期待できる。
【0049】
また、本実施形態では、導水部材50は、ヒンジ機構への取付部となる水平面部53を垂直面部51と一体に構成し、水平面部53に取付のためのねじ穴54を設けた例を示した。しかし、導水部材が炊飯器本体内部に浸入した水の方向を規制するのは垂直面部と斜面部であり、導水部材として水平面部を備えることは必須ではない。また、導水部材の炊飯器本体内部で所定位置に固定する方法は、上記例示した導水部材をねじ止めする方法には限られない。
【0050】
また、上記実施形態では、導水部材として、垂直面部51と斜面部52との幅が一定であるものを例示したが、例えば、炊飯器本体内部において他の部材との干渉が生じる場合には、その部分に切り欠きを設けても良いことは言うまでも無く、導水部材の幅が一定である必要は無い。例えば、導水部材の配置位置の幅が導水部材の長さ方向において徐々に広がる場合には、導水部材の幅を配置位置の幅に対応させて変化させることができる。
【0051】
また、本実施形態では、炊飯器として電源コードが着脱可能なインレットが配置された例を示したが、炊飯器の電源コートがコードリールを備えた形式である場合でも、導水部材を用いて炊飯器本体の内部に侵入した水を、電源回路としての電源基板やフィルタ基板の配置位置に侵入しないようにする上で、導水部材は有用である。なお、インレットを備えない場合は、ヒンジ機構の配置位置から側方(
図3の場合では右側方向)への水の浸入を防止すれば、十分な短絡防止が実現できることが想定され、この場合には、傾斜面の角度をほぼ垂直に近い角度に傾斜させて導水部材の内側面を水が伝うようにすることで、浸入した水を確実に電源回路の配置位置から遠ざけることができ、さらには、炊飯器本体の底面に水が勢いよく落下して跳ね返りが生じる事態を確実に回避することができる。
【0052】
なお、上記本実施形態では、圧力炊飯方式が採用された炊飯器を例に本開示の技術を説明したが、圧力炊飯方式を採用していない炊飯器に本開示の技術を採用することができることは言うまでもない。また、本開示の導水部材に加えて、上面プレートのリブを超えて炊飯器本体の外側を水が流れることを想定して、本体部の外殻を少なくとも後方側を一体部材で構成して内部への水の浸入を防ぐとともに、インレット形式など、電源回路を構成する部品が外部に対して露出する場合は、水の流れ込みを防ぐ遮蔽部材を更に備えることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本開示の炊飯器は、炊飯器本体の上面から内部に侵入した水が、電源回路の配置部分に浸入して不所望な短絡を生じることを防止することができる、高い安全性を実現した炊飯器として有用である。
【符号の説明】
【0054】
10 蓋体
20 炊飯器本体
22 内鍋収容部
26 フィルタ基板(電源回路)
27 インレット(電源回路)
30 内鍋
40 ヒンジ機構
50 導水部材
51 垂直壁部
52 斜面部