(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ゴムの離型性評価方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01N 19/04 20060101AFI20231004BHJP
G01N 3/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
G01N19/04 D
G01N3/00 K
(21)【出願番号】P 2020004570
(22)【出願日】2020-01-15
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恵美
(72)【発明者】
【氏名】小沢 政勝
(72)【発明者】
【氏名】松田 健太
(72)【発明者】
【氏名】光真坊 誠
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-152496(JP,A)
【文献】特開2019-049442(JP,A)
【文献】特開昭60-181632(JP,A)
【文献】特開昭60-253515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/04
B29C 33/72
G01N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース台の平坦な対象表面の所定エリアに未加硫ゴムを押圧した状態で加熱することで、前記対象表面に接着せずに密着している加硫ゴムまたは半加硫ゴムからなる小片の試験体を形成した後に、前記試験体と前記ベース台の少なくとも一方を互いが離反する方向に移動させることにより、前記試験体の前記対象表面との接触面全体に対して一度に垂直方向の引張力を付与して前記試験体を前記所定エリアから剥離させる引張工程を行い、前記試験体の形成から前記引張工程の完了までの一連の過程を、前記所定エリアの位置を変えずに同じエリアに設定して繰り返し行って多数の前記試験体を形成し、それぞれの前記試験体に対する前記引張工程後の前記所定エリアの表面状態を把握することを特徴とするゴムの離型性評価方法。
【請求項2】
それぞれの前記試験体に対する前記引張工程時に、前記試験体と前記対象表面との界面の破壊強度を測定する請求項1に記載のゴムの離型性評価方法。
【請求項3】
前記未加硫ゴムを前記ベース台と金属製の加圧部材との間で挟んで前記ベース台と前記加圧部材とを相対的に近接させることで前記未加硫ゴムを押圧した状態で加熱して、前記ベース台の前記対象表面よりも前記加圧部材により強く密着しているまたは接着している前記試験体を形成し、前記ベース台と前記加圧部材とを相対的に離反させることで前記引張工程を行う請求項1または2に記載のゴムの離型性評価方法。
【請求項4】
前記未加硫ゴムを金属製の筒状体に収容するとともに、前記筒状体の一方開口側に前記ベース台を配置し、他方開口側から前記加圧部材を前記筒状体に挿入することにより、前記未加硫ゴムを前記ベース台と前記加圧部材との間で挟んで前記試験体を形成し、前記試験体が前記筒状体に収容された状態で前記引張工程を行う請求項3に記載のゴムの離型性評価方法。
【請求項5】
上下に貫通する貫通穴を有する保持ブロックを前記ベース台の上に連結し、前記筒状体を前記貫通穴に挿入した状態で前記試験体を形成し、かつ、前記引張工程を行う請求項4に記載のゴムの離型性評価方法。
【請求項6】
前記未加硫ゴムを挿入機構を用いて前記筒状体に収容し、前記引張工程が行われた後の前記試験体を排出機構を用いて前記筒状体の外部に排出し、前記挿入機構による前記未加硫ゴムの前記筒状体への収容工程と、前記一連の過程と、前記排出機構による前記試験体の前記筒状体の外部への排出工程と、からなる全過程を、制御部により制御して行う請求項4または5に記載のゴムの離型性評価方法。
【請求項7】
平坦な対象表面を有するベース台と、前記対象表面の所定エリアに未加硫ゴムを押圧した状態で加熱して前記対象表面に接着せずに密着している加硫ゴムまたは半加硫ゴムからなる小片の試験体を形成する加熱機構と、前記試験体を形成した後に、前記試験体と前記ベース台の少なくとも一方を互いが離反する方向に移動させて、前記試験体の前記対象表面との接触面全体に対して一度に垂直方向の引張力を付与して前記試験体を前記所定エリアから剥離させる引張工程を行う引張機構と、前記所定エリアの表面状態を把握する表面把握手段と、前記未加硫ゴムを所定の準備位置から前記所定エリアに相対移動させ、前記試験体を前記所定エリアから所定の保存位置に相対移動させる搬送機構とを備えて、
前記試験体の形成から前記引張工程の完了までの一連の過程が、前記所定エリアの位置を変えずに同じエリアで繰り返し行われる設定にして、形成された多数の前記試験体それぞれに対する前記引張工程後の前記所定エリアの表面状態が前記表面把握手段により把握される構成にしたことを特徴とするゴムの離型性評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムの離型性評価方法および装置に関し、さらに詳しくは、ゴムを繰り返し加硫用モールド等から離型させる際の離型性の経時変化を、簡便に効率的に把握できるゴムの離型性評価方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤ等のゴム製品は、未加硫ゴムを加硫用モールドの中で加硫して製造される。加硫後に製造されたゴム製品を加硫用モールドから取り出す際に、ゴム製品(加硫ゴム)が加硫用モールドから離型し難いと、ゴムの欠け等の不具合が発生する。このような不具合は、ゴム製品の外観不良につながる。或いは、ゴムが欠けて加硫用モールドのベントホールに詰まった状態になると、この詰まりを解消する作業が必要となるので生産性の低下につながる。
【0003】
加硫用モールドは繰り返し使用されることで、成形面に汚れが堆積するため、これに伴って離型性も変化する。汚れた成形面で加硫を行うと、ゴム製品の品質に影響が生じるため、成形面は所定期間または所定回数の加硫を行った後に洗浄される。それ故、この離型性の経時変化を把握することは、ゴム製品の品質確保や加硫用モールドの適切な洗浄タイミングを決定するために有益である。また、加硫用モールド以外にも例えば加硫用ブラダなどに対する加硫ゴムの離型性(剥離性)の経時変化を把握することも有益である。
【0004】
加硫ゴムの離型性を評価する技術ではないが、例えば、ゴムと金属の複合体の製造に適した金型汚染性の低い加硫接着剤を選別する評価方法が提案されている(特許文献1参照)。この評価方法では、所定の接着処理をした金属基板の表面に未加硫ゴムを加硫接着させた後、加硫したゴムを金属基板の表面に対して90°の角度でピーリングさせて剥離強度を測定する。即ち、この評価方法は、加硫ゴムと金属との接着性を評価するものであり、接着せずに密着しているゴムと金属との離型性を評価する方法ではなく、離型性の経時変化を評価する方法でもない。加硫ゴムの接着性を評価するには、このように加硫ゴムを金属表面から90°の角度でピーリングさせる際の剥離強度を測定することが多い。
【0005】
実際の加硫用モールドで加硫した加硫ゴムを、その加硫用モールドから離型させる試験を繰り返し行って、離型性の変化を把握する場合は、多大な時間およびコストを要する。それ故、加硫用モールド等に接着せずに密着しているゴムを離型させる際の離型性(剥離性)の経時変化を把握するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ゴムを繰り返し加硫用モールド等から離型させる際の離型性の経時変化を、簡便に効率的に把握できるゴムの離型性評価方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明のゴムの離型性評価方法は、ベース台の平坦な対象表面の所定エリアに未加硫ゴムを押圧した状態で加熱することで、前記対象表面に接着せずに密着している加硫ゴムまたは半加硫ゴムからなる小片の試験体を形成した後に、前記試験体と前記ベース台の少なくとも一方を互いが離反する方向に移動させることにより、前記試験体の前記対象表面との接触面全体に対して一度に垂直方向の引張力を付与して前記試験体を前記所定エリアから剥離させる引張工程を行い、前記試験体の形成から前記引張工程の完了までの一連の過程を、前記所定エリアの位置を変えずに同じエリアに設定して繰り返し行って多数の前記試験体を形成し、それぞれの前記試験体に対する前記引張工程後の前記所定エリアの表面状態を把握することを特徴とする。
【0009】
本発明のゴムの離型性評価装置は、平坦な対象表面を有するベース台と、前記対象表面の所定エリアに未加硫ゴムを押圧した状態で加熱して前記対象表面に接着せずに密着している加硫ゴムまたは半加硫ゴムからなる小片の試験体を形成する加熱機構と、前記試験体を形成した後に、前記試験体と前記ベース台の少なくとも一方を互いが離反する方向に移動させて、前記試験体の前記対象表面との接触面全体に対して一度に垂直方向の引張力を付与して前記試験体を前記所定エリアから剥離させる引張工程を行う引張機構と、前記所定エリアの表面状態を把握する表面把握手段と、前記未加硫ゴムを所定の準備位置から前記所定エリアに相対移動させ、前記試験体を前記所定エリアから所定の保存位置に相対移動させる搬送機構とを備えて、前記試験体の形成から前記引張工程の完了までの一連の過程が、前記所定エリアの位置を変えずに同じエリアで繰り返し行われる設定にして、形成された多数の前記試験体それぞれに対する前記引張工程後の前記所定エリアの表面状態が前記表面把握手段により把握される構成にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記試験体の前記対象表面との接触面全体に対して一度に垂直方向の引張力を付与して前記試験体を前記所定エリアから剥離させる引張工程を行うことで、実際のゴム製品の製造工程においてゴムが加硫用モールドから最も離型し難い条件に近似させている。前記試験体の形成から前記引張工程の完了までの一連の過程を、前記所定エリアの位置を変えずに同じエリアに設定して繰り返し行って多数の前記試験体を形成することで、ゴムを繰り返し加硫用モールドから離型させる実際の製造工程を簡便に再現できる。そして、多数の前記試験体に対するそれぞれの前記引張工程後に、前記所定エリアの表面状態を把握することで、効率的にゴムの離型性の経時変化を把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ゴムの離型性評価装置の実施形態を正面視で例示する説明図である。
【
図2】
図1の評価装置の一部を平面視で例示する説明図である。
【
図3】準備位置のホルダに保持されている未加硫ゴムを拡大して縦断面視で例示する説明図である。
【
図4】未加硫ゴムを準備位置のホルダから加熱を行うベース台に移動させる工程を正面視で例示する説明図である。
【
図5】未加硫ゴムを加熱して試験体を形成している工程を縦断面視で例示する説明図である。
【
図6】形成された試験体に引張力を付与する引張工程を縦断面視で例示する説明図である。
【
図7】引張工程後の対象表面の所定エリアの表面状態を把握する工程と、試験体を保存位置のホルダに移動させる工程を正面視で例示する説明図である。
【
図8】保持アームを準備位置のホルダに移動させる工程を正面視で例示する説明図である。
【
図9】対象表面の所定エリアの表面状態の経時変化を模式的に例示する説明図である。
【
図10】対象表面の所定エリアの表面の汚れの堆積量の経時変化を例示するグラフ図である。
【
図11】引張工程におけるゴムと対象表面との界面の破壊強度の経時変化を例示するグラフ図である。
【
図12】離型性評価装置の別の実施形態の一部を縦断面視で例示する説明図である。
【
図13】
図12の未加硫ゴムを加熱して試験体を形成している工程を縦断面視で例示する説明図である。
【
図14】
図13の試験体に引張力を付与する引張工程を縦断面視で例示する説明図である。
【
図15】未加硫ゴムの挿入機構を例示する説明図である。
【
図16】
図15の挿入機構により筒状体に未加硫ゴムを収容してセットした状態を例示する説明図である。
【
図17】未加硫ゴムの挿入機構の変形例を示す説明図である。
【
図18】
図17の挿入機構により筒状体に未加硫ゴムを収容してセットした状態を例示する説明図である。
【
図19】試験体の排出機構を例示する説明図である。
【
図20】
図19の排出機構により筒状体から試験体を排出して取り出した状態を例示する説明図である。
【
図21】試験体の排出機構の変形例を示す説明図である。
【
図22】
図21の排出機構により筒状体から試験体を排出して取り出した状態を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のゴムの離型性評価方法および装置を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1、
図2に例示するゴムの離型性評価装置1(以下、評価装置1という)の実施形態は、ベース台8の平坦な対象表面8aの所定エリアで、この所定エリアの位置を変えることなく、未加硫ゴム9Aを繰り返し加熱して、加硫ゴムからなる多数の小片の試験体9を形成する。また、形成したそれぞれの試験体9を対象表面8aの所定エリアから剥離させる引張工程を行う。そして、それぞれの試験体9の引張工程後に対象表面8aの所定エリアに付着した汚れXの範囲や量などを取得して表面状態を把握する。本発明では、試験体9は完全に加硫されているものに限らず、完全に加硫されていない状態(いわゆる半加硫の状態)のゴムを含む。即ち、試験体9は、後述する引張工程で引張力を付与した際に、過大に塑性変形する流動性が高い状態ではなく弾性変形が支配的になる状態のゴムであればよい。尚、
図2にはアクチュエータ3、12、測定器6、表面把握手段14などを省略して図示していない。
【0014】
この評価装置1は、平坦な対象表面8aを有するベース台8と、未加硫ゴム9Aを加熱して試験体9を形成する加熱機構11と、試験体9に対して引張工程を行う引張機構2と、対象表面8aの所定エリアの表面状態を把握する表面把握手段14と、搬送機構4とを備えている。この実施形態では対象表面8aを金属表面にしている。さらに評価装置1は、引張工程時に、試験体9と対象表面8a(所定エリア)との界面の破壊強度Fを測定する測定器6と制御部15と演算部16とを有している。制御部15および演算部16としてはコンピュータが用いられる。
【0015】
この実施形態では、ベース台8の上に着脱自在に連結される保持ブロック8bを備えている。保持ブロック8bは上下に延在する貫通穴8cを有している。このベース台8と保持ブロック8bが加硫用モールドとして機能する。
【0016】
ベース台8が設置された位置から離間した所定の準備位置と所定の保存位置にはそれぞれホルダ5A、5Bが設置されている。ホルダ5A、5Bには多数の保持穴5hが形成されていて、一方のホルダ5Aには未加硫ゴム9Aが保持され、他方のホルダ5Bには引張工程後の試験体9が保持される。
【0017】
この実施形態では
図3に例示するように、未加硫ゴム9Aは円筒状の筒状体10に収容されている。筒状体10の下端開口10b側に未加硫ゴム9Aが配置され、上端開口10a側からは円柱状の加圧部材7が挿入されている。筒状体10の上端部には周壁を貫通する係合部10cが形成されている。加圧部材7の外周面は筒状体10の内周面に密着するように形成されている。
【0018】
筒状体10は円筒形状に限らず角筒形状など他の形状にすることもできる。加圧部材7は円柱状に限らず、筒状体10の形状に合わせた他の形状にすることもできる。加圧部材7の下端面が未加硫ゴム9Aに対向する対向表面7aになっている。対向表面7aは多数の凹凸を有することにより、対向する対象表面8aよりも表面積が大きくなっている。即ち、対向表面7aは、未加硫ゴム9Aとの接触面積が意図的に大きく設定されている。
【0019】
未加硫ゴム9Aの大きさは例えば、外径、高さがそれぞれ数cm(縦、横、高さの寸法が数cm)程度である。尚、未加硫ゴム9Aを加熱して形成される試験体9も未加硫ゴム9Aと概ね同じ大きさである。筒状体10の下端開口10bから未加硫ゴム9Aを挿入し、上端開口10aから加圧部材7を挿入することで
図3の状態になる。未加硫ゴム9Aはその粘着性によって筒状体10の内周面および対向表面7aに付着する。
【0020】
図3に例示する未加硫ゴム9A、加圧部材7および筒状体10の一体物は、ホルダ5Aの保持穴5hに筒状体10が挿入されて立設された状態になる。ホルダ5Aにはこの一体物が多数本、保持される。尚、保持穴5hの底面には、未加硫ゴム9Aの付着を防止する材料やコーティングを採用するとよい。
【0021】
引張工程後の試験体9、加圧部材7および筒状体10の一体物は、ホルダ5Bの保持穴5hに筒状体10が挿入されて立設された状態になる。ホルダ5Bにはこの一体物が多数本、保持される。加硫ゴム(試験体9)の場合は粘着性がないので、ホルダ5Bの保持穴5hの底面には、特別な材料やコーティングを採用する必要はない。
【0022】
搬送機構4は、未加硫ゴム9Aを所定の準備位置(ホルダ5A)から対象表面8aの所定エリアに相対移動させ、試験体9をこの所定エリアから所定の保存位置(ホルダ5B)に相対移動させる。搬送機構4は、直交して水平方向に延在するガイドレール4a、4bと移動体4cとを有している。移動体4cは、一方のガイドレール4aに沿って移動し、他方のガイドレール4bは移動体4cに対してガイドレール4bの延在方向に移動し、これらの移動はサーボモータ等によって駆動される。
【0023】
この実施形態では、後述するアクチュエータ3が他方のガイドレール4bに連結されて吊持されている。搬送機構4によってアクチュエータ3を任意の平面位置に移動させることができる。搬送機構4の動作は制御部15により制御される。搬送機構4はこの実施形態に例示する構成に限らず、種々の構成を採用することができる。例えば、ロボットアームなどを搬送機構4として用いることができる
【0024】
加熱機構11は、対象表面8aの所定エリアに未加硫ゴム9Aを押圧した状態で加熱して試験体9を形成する。加熱機構11は、アクチュエータ12と加熱機13とを有している。アクチュエータ12のロッド12aは上下に進退し、下方に進出したロッド12aは加圧部材7の上端面を押圧する。アクチュエータ12としては、油圧シリンダ、エアシリンダ、モータにより作動するロッド等など、種々の手段を用いることができる。アクチュエータ12の動作は制御部15により制御される。
【0025】
加熱機13は、ベース台8および保持ブロック8bを加熱する。加熱機13による加熱には、電気やスチームなど種々の手段を用いることができる。加熱機13により、未加硫ゴム9Aが接触するベース台8の対象表面8a、加圧部材7の対向表面7aおよび筒状体10の内周面は、未加硫ゴム9Aを加硫または半加硫にするための所定の加熱温度に加熱される。加熱機13は制御部15により制御される。加熱機13はこの実施形態に例示する仕様に限定されず、他の仕様にすることもできる。例えば、評価装置1の全体または一部の雰囲気温度を加熱する加熱機13を用いてもよい。具体的には、評価装置1の全体を覆うカバーを備えた加熱機13、或いは、評価装置1の所定の範囲を覆うカバーを備えた加熱機13にして、制御部15の制御によってカバー内部の雰囲気温度を所望の温度範囲にコントロールすることもできる。
【0026】
引張機構2は、試験体9を対象表面8aから引き剥がそうとする引張力を試験体9に付与する。具体的には引張機構2は、試験体9の対象表面8aとの接触面全体に対して、一度に垂直方向の引張力を付与する。本発明での垂直方向とは対象表面8aに対して法線方向であるが、実質的には対象表面8aに対して90°±2°の方向であり、より好ましくは90°±1°の方向であればよい。
【0027】
引張機構2は、アクチュエータ3と、このアクチュエータ3のロッド3aによって上下移動する保持アーム3cとを有している。この実施形態では、ロッド3aの下方に上下間隔をあけてプレート3bが配置されていて、上側のプレート3bにロッド3aの下端が接続されている。下側のプレート3bには保持アーム3cが取り付けられている。上側のプレート3bと下側のプレート3bの間には測定器6とアクチュエータ12が挟持されている。したがって、保持アーム3cは上側のプレート3bと下側のプレート3bに挟まれた測定器6とアクチュエータ12を介して、ロッド3aに接続されている。アクチュエータ12のロッド12aは下側のプレート3bを貫通して上下に進退可能になっている。
【0028】
2本の保持アーム3cが対向位置に配置されていて、それぞれの保持アーム3cは互いが近接および離反する方向に移動可能になっている。保持アーム3cは2本に限らず複数本であればよく、3本、4本などにすることもできる。それぞれの保持アーム3cは、アクチュエータ3の軸芯を中心とした円の周方向に等間隔に配置するとよい。アクチュエータ3および保持アーム3cの動作は制御部15により制御される。
【0029】
測定器6は、引張機構2によって引張力が付与された試験体9の対象表面8aとの界面の破壊強度Fを測定する。測定器6としては、例えばロードセルを用いることができる。試験体9の対象表面8aとの界面の破壊強度Fとは、基本的には、対象表面8aに密着している試験体9が対象表面8aから剥がれる時の引張強度(=引張力/試験体9と対象表面8aの接触面積)である。試験体9が対象表面8aから剥がれる前に試験体9が破損した場合は、この破壊強度Fは、試験体9が破損した時の引張強度よりも大きいと評価する、或いは、試験体9が破損した時の引張強度と同じであると評価することもできる。
【0030】
測定器6により測定されたデータは演算部16に入力されて、演算部16により上述の破壊強度Fが算出される。この実施形態では、測定器6は、上側のプレート3bとアクチュエータ12とに接続されているが、上述した破壊強度Fを測定できれば他の位置に設置することもできる。
【0031】
表面把握手段14としてこの実施形態では、画像データを取得するデジタルカメラが使用されている。表面把握手段14としては、その他に例えば対象表面8aに付着した汚れXの厚さを検知する高さセンサなどを用いることができる。表面把握手段14によって取得されたデータは演算部16に入力される。
【0032】
尚、制御部15と制御部15に制御される機器とは有線または無線によって通信可能に接続され、演算部16と演算部16にデータを入力する機器とは有線または無線によって通信可能に接続されている。
【0033】
対象表面8a(ベース台8)の材質は、実際の加硫用モールドと同じ(同等)金属にすることもできるが、例えば、予め評価指標とする基準材質を設定して、その基準材質を使用すればよい。対向表面7a(加圧部材7)および筒状体10の材質は、対象表面8aと同じにすることも異ならせることもできる。対象表面8aとしてはその他に、加硫用モールドの成形面を被覆する様々なコーティング剤を用いることもできる。或いは、加硫用ブラダに用いられるような様々な加硫ゴムを対象表面8aとして用いることもできる。
【0034】
以下、この評価装置1を用いて、加硫ゴムからなる試験体9の離型性を評価する方法を説明する。尚、試験体9が半加硫ゴムの場合も評価する方法の手順は同様である。
【0035】
図1、
図2に例示するように、未加硫ゴム9Aおよび加圧部材7が収容された筒状体10を準備してホルダ5Aに立設させる。多数の試験体9を形成するので、未加硫ゴム9Aおよび加圧部材7が収容された筒状体10を多数本、予めホルダ5Aに保持させておくとよい。
【0036】
次いで、移動機構4により保持アーム3cをホルダ5Aに立設されている筒状体10の上に移動させた後、アクチュエータ3のロッド3aを下方に進出させて保持アーム3cを筒状体10の位置まで下方移動させる。次いで、保持アーム3cを互いに近接させる方向に移動させて、それぞれの保持アーム3cを筒状体10の係合部10cに係合させる。
【0037】
次いで、
図4に例示するように、アクチュエータ3のロッド3aを上方に後退させて保持アーム3cに係合させた筒状体10をホルダ5Aから抜き取る。また、移動機構4によりアクチュエータ3を筒状体10とともにベース台8に向かって移動させる。筒状体10を保持ブロック8bの貫通穴8cの上に位置決めした後、アクチュエータ3のロッド3aを下方に進出させて筒状体10を貫通穴8cに挿入して、未加硫ゴム9Aを対象表面8aの所定エリアに載置する。ベース台8および保持ブロック8bは加熱機13によって所定の加熱温度に加熱しておく。加熱温度は任意に設定できるが例えば40℃以上に設定され、タイヤの加硫条件を想定する場合は150℃~200℃程度に設定される。
【0038】
次いで、
図5に例示するように、アクチュエータ12のロッド12aを下方に進出させて加圧部材7の上端面を押圧する。これにより、未加硫ゴム9Aをベース台8と加圧部材7との間で挟んでベース台8と加圧部材7とを相対的に近接させることで未加硫ゴム9Aを押圧した状態で加熱する。未加硫ゴム9Aの大きさによって異なるが、未加硫ゴム9Aの加熱時間は例えば10分以内である。
【0039】
所定の加熱時間が経過した後は、アクチュエータ12のロッド12aを上方に後退させて加圧部材7の上端面に対する押圧を解除する。未加硫ゴム9Aの加熱中は、保持アーム3cと筒状体10の係合部10cとを係合させた状態にしておく。これにより、未加硫ゴム9Aをより安定して加熱することができる。
【0040】
未加硫ゴム9Aを加熱することで、対象表面8aに接着せずに密着している加硫ゴムからなる小片の試験体9が形成される。この試験体9は、加圧部材7の対向表面7aおよび筒状体10の内周面と接着せずに密着しているが、接着剤などを用いて接着させてもよい。この実施形態では、対向表面7aが対象表面8aに比して表面積が大きく設定されているので、試験体9は対象表面8aよりも対向表面7aに強く密着している。また、試験体9と筒状体10の内周面との接触面積が試験体9と対象表面8aとの接触面積よりも大きいので、試験体9は対象表面8aよりも筒状体10に強く密着している。
【0041】
次いで、
図6に例示するように、アクチュエータ3のロッド3aを上方に後退させて保持アーム3cを上方移動させる。これにより、筒状体10および加圧部材7とともに試験体9を上方に引っ張る引張工程を行う。
【0042】
試験体9に付与する引張力が徐々に大きくなると、対象表面8aと試験体9との界面が破壊する(分離する)ので、この時の引張力を測定器6により測定する。この引張力を対象表面8aと試験体9との接触面積で除す演算処理を演算部16によって行うことにより算出した値を、試験体9と対象表面8aとの界面の破壊強度Fとする。
【0043】
即ち、試験体9とベース台8の少なくとも一方を互いが離反する方向に移動させることにより、試験体9の対象表面8aとの接触面全体に対して一度に垂直方向の引張力を付与し、試験体9を対象表面8aの所定エリアから剥離させる。加硫ゴムからなる試験体9は、対象表面8aよりも対向表面7aや筒状体10の内周面に強く密着しているので、基本的に試験体9は対象表面8aで剥離される。
【0044】
この実施形態では保持アーム3cを係合部10cに係合させて筒状体10を上方移動させることで試験体9に引張力を付与している。或いは、加圧部材7の上端部に係合部を設けておき、加圧部材7の係合部および筒状体10の係合部10cに保持アーム3cを係合させて加圧部材7を直接、上方移動させて試験体9に引張力を付与することもできる。
【0045】
試験体9の対象表面8aとの接触面全体に対して一度に垂直方向の引張力を付与することで、実際のゴム製品の製造工程において加硫ゴムが加硫用モールドから最も離型し難い条件に近似させている。加硫ゴムをピーリングさせて接着力を測定する試験では、加硫ゴムと対象表面との剥離角度が不安定になり易いため、ばらつきを抑えて接着力を測定することが困難になる。一方、本発明では、試験体9(加硫ゴム)をピーリングするのではなく、上述したように試験体9に引張力を付与する。そのため、試験体9と対象表面8aとの界面の破壊強度を、ばらつきを抑えて安定して測定することが可能になっている。
【0046】
次いで、
図7に例示するように、筒状体10とともに上方移動させて貫通穴8cから引き抜いた試験体9を、移動機構4によってホルダ5Bに向かって移動させる。筒状体10をホルダ5Bの保持穴5hの上に位置決めした後、アクチュエータ3のロッド3aを下方に進出させて筒状体10を保持穴5hに挿入させる。これにより、筒状体10を保持穴5hに立設させて、試験体9をホルダ5Bによって保持する。
【0047】
また、この試験体9を貫通穴8cから上方に引き抜いた後に、表面把握手段14を適宜の手段で貫通穴8cの上方位置に位置決めする。その後、対象表面8aの所定エリアの表面の状態を表面把握手段14により把握する。
【0048】
試験体9を保存位置のホルダ5Bに移動させた移動機構4は、
図8に例示するように、保持アーム3cを準備位置のホルダ5Aに向かって移動させる。その後、新たに加熱する未加硫ゴム9Aが収容されている筒状体10の係合部10cと保持アーム3cとを係合させて、上述した試験体9の形成および形成した試験体9に対する上述した引張工程を繰り返し行う。
【0049】
即ち、上述した試験体9の形成から引張工程の完了までの一連の過程を、所定エリアの位置を変えずに同じエリアに設定して繰り返し行って多数の試験体9を形成する。この一連の過程を繰り返し連続的に行うことで、加硫ゴムを繰り返し加硫用モールドから離型させる実際の製造工程を簡便に再現できる。
【0050】
多数の試験体9を形成することにより、その対象表面8aにはゴム成分やゴムに含まれている配合剤の成分などが徐々に付着して汚れXとして堆積する。したがって、それぞれの試験体9に対する引張工程後の対象表面8aの所定エリアの表面状態を表面把握手段14によって把握すると、
図9に例示するようにその表面状態は
図9(A)、(B)、(C)の順に変化する。即ち、汚れXの範囲が徐々に広くなる(汚れXの堆積量Vが徐々に多くなる)。
【0051】
この汚れXの堆積量Vの経時変化を演算部16により演算することで、
図10に例示する結果を把握することができる。汚れXの堆積を短時間で促進させるので、試験体9を形成しているゴムの離型性の経時変化を効率的に把握できる。汚れXの堆積量Vの経時変化の特性は、ゴム種(配合成分)や加硫条件などによって異なるので、これらの要因との相関関係を把握することで、ゴム製品の加硫故障の発生防止や加硫用モールドの適切な洗浄タイミングを決定するには有利になる。また、離型性を改善したゴム組成物の開発業務などの迅速化に大きく寄与する。
【0052】
また、上述した破壊強度Fの経時変化を演算部16により演算することで、
図11に例示する結果を把握することができる。この破壊強度Fは、汚れXの堆積量Vが増加するに連れて大きくなる傾向があるので、この破壊強度Fの大きさの経時変化に基づいて、試験体9の離型性の経時変化を評価することもできる。
【0053】
加硫回数が少ない初期では、破壊強度Fが大きい程、試験体9の離型性が悪く、破壊強度Fが小さい程、離型性が良好であると判断できる。一方、加硫回数が増加しても破壊強度Fの変化(増加)が少ない場合は、汚れXの堆積量Vの経時変化が少なく、離型性の変化が少ないと評価できる。加硫回数が増加すると破壊強度Fの変化(増加)が過大になる場合は、汚れXの堆積量Vの経時変化が大きく、離型性の変化が大きいと評価できる。
【0054】
未加硫ゴム9Aを対象表面8aの所定エリアに押圧した状態にして、対象表面8aに接着せずに密着している小片の試験体9を形成できれば、例示した形態の加圧部材7や筒状体10、保持ブロック8bは省略することもできる。ただし、この加圧部材7は未加硫ゴム9Aを押圧する部材としてだけでなく、この加圧部材7に保持アーム3cを係合させてベース台8から離反移動させることで、加圧部材7(対向表面7a)に密着している試験体9に引張力を付与して上述した引張工程を行うための部材としても使用できる。筒状体10を省略する場合は、加圧部材7の対向表面7aが凹凸を有するなどの仕様にして、試験体9を対象表面8aよりも対向表面7aにより強く密着させる。また、筒状体10を用いると、試験体9を安定して形成することができ、引張工程も安定して行うことができる。さらに、保持ブロック8bを用いると、試験体9をより安定して形成することができ、引張工程もより安定して行うことができる。
【0055】
試験体9に引張力を付与する速度は、実際に加硫したゴム製品から加硫用モールドを離型させる際の実速度と同じ(同等)にすることもできるが、例えば、この実速度以下の範囲で評価指標とする基準速度を設定すればよい。
【0056】
図12に例示する評価装置1の別の実施形態は、先の実施形態とは異なり、ベース台8と保持アーム3cとを係合させて、ホルダ5Aに保持されている未加硫ゴム9Aに対してベース台8を移動させる。即ち、未加硫ゴム9Aは移動させずに、ベース台8をそれぞれの未加硫ゴム9Aの位置まで移動させて、試験体9の形成および形成した試験体9のそれぞれに対して引張工程を行う。その他の手順は概ね、先の実施形態と同じである。
【0057】
ホルダ5Aに立設されている筒状体10には、下端開口10b側から加圧部材7が挿入されていて、上端開口10a側に未加硫ゴム9Aが収容されている。未加硫ゴム9Aは上端開口10aから上方に突出しない状態で筒状体10に収容されている。筒状体10および加圧部材7はホルダ5Aに螺合させる等によって着脱自在に固定する。ベース台8は加熱機13によって所定の加熱温度に加熱される。
【0058】
試験体9を形成するには、
図13に例示するように、アクチュエータ12のロッド12aを下方に進出させて、ベース台8を下方に押圧する。これに伴い、ベース台8の対象表面8aによって未加硫ゴム9Aを押圧する。これにより、未加硫ゴム9Aをベース台8と加圧部材7との間で挟んで未加硫ゴム9Aを押圧した状態で加熱する。
【0059】
試験体9が形成された後は、
図14に例示するように、ロッド12aを上方に後退させて、ベース台8に対する押圧を解除する。そして、アクチュエータ3のロッド3aを上方に後退させて、保持アーム3cによってベース台8を上方に移動させる。このベース台8の上方移動に伴って、試験体9の対象表面8aとの接触面全体に対して一度に垂直方向の引張力を付与し、試験体9を対象表面8aの所定エリアから剥離させる。このようにして引張工程を行う。試験体9の形成から引張工程の完了までの一連の過程を、所定エリアの位置を変えずに同じエリアに設定して繰り返し行って多数の試験体9を形成する。
【0060】
そして、それぞれの試験体9に対する引張工程後の対象表面8aの所定エリアの表面状態を表面把握手段14により把握する。また、それぞれの試験体9に対する引張工程時に、試験体9と対象表面8aとの界面の破壊強度Fを測定器6により測定する。
【0061】
既述した実施形態の評価装置1に対して、
図15~
図18に例示する未加硫ゴム9Aの挿入機構17と、
図19~
図22に例示する試験体9の排出機構21とを備えることもできる。挿入機構17および排出機構21は制御部15により制御される。
【0062】
図15、
図16に例示する挿入機構17は、未加硫ゴム9Aを筒状体10に収容する収容工程を行う。この挿入機構17は、ゴム押出機18と切断具19とを備えている。ゴム押出機18は未加硫ゴム9Aを先端開口から押し出す。この実施形態では、ゴム押出機18はパイプ部18aに接続された流体シリンダを有していて、パイプ部18aの内部に充填されている未加硫ゴム9Aがシリンダロッドによってパイプ部18aの先端開口から押し出される。切断具19は、パイプ部18aの先端開口の前方を横断するように進退する切断刃19aを有している。
【0063】
図15に例示するように、加圧部材7が挿入されている筒状体10を、加圧部材7とともに保持アーム3cによって吊り下げて、移動機構4によりゴム押出機18のパイプ部18aの上に移動させて位置決めする。この筒状体10には未だ未加硫ゴム9Aが収容されていない。次いで、アクチュエータ3のロッド3aを下方に進出させて筒状体10をパイプ部18aの先端に載置する。筒状体10および加圧部材7が上方に移動しないように、保持アーム3cやアクチュエータ12のロッド12aによって、これらの動きを規制する。筒状体10の内径は、パイプ部18aの内径よりも大きく、パイプ部18aの外径よりも小さく設定されている。
【0064】
次いで、押出機18のシリンダロッドを前進させて、未加硫ゴム9Aをパイプ部18aの先端開口から筒状体10の下端開口に向かって押し込んで、筒状体10の内部に所定量の未加硫ゴム9Aを充填する。充填された未加硫ゴム9Aは、筒状体10の下端部で内周面と加圧部材7の下端面に密着する。
【0065】
次いで、
図16に例示するように、筒状体10を若干上方移動させて、筒状体10の下端面とパイプ部18aの先端面との間に切断刃19aを差し込んで、未加硫ゴム9Aを切断する。この収容工程によって、
図3に例示したように未加硫ゴム9Aが筒状体10に収容される。この未加硫ゴム9Aは、ホルダ5A、或いは、対象表面8aの所定エリアに搬送される。
【0066】
図17、
図18に例示する挿入機構17を用いることもできる。この挿入機構17は、下端に切断刃20aを有する筒状体20と、この筒状体20aを上下移動させるアクチュエータ3とを有している。筒状体20としては既述した筒状体10が使用されていて下端部に環状の切断刃20aが形成されている。
【0067】
図17に例示するように、加圧部材7が挿入されている筒状体10を、加圧部材7とともに保持アーム3cによって吊り下げて、移動機構4によりシート状の未加硫ゴム9Aの上に移動させて位置決めする。この筒状体10には未だ未加硫ゴム9Aが収容されていない。次いで、アクチュエータ3のロッド3aを下方に進出させて筒状体10および加圧部材7を一体的に下方移動させる。筒状体10および加圧部材7が上方に移動しないように、保持アーム3cやアクチュエータ12のロッド12aによって、これらの動きを規制する。
【0068】
下方移動する切断刃20aによってシート状の未加硫ゴム9Aを打ち抜くとともに、未加硫ゴム9Aを筒状体10の下端開口に向かって押し込んで、筒状体10の内部に所定量の未加硫ゴム9Aを充填する。充填された未加硫ゴム9Aは、筒状体10の下端部で内周面と加圧部材7の下端面に密着する。
【0069】
次いで、
図18に例示するように、筒状体10を上方移動させる。この収容工程によって、
図3に例示したように未加硫ゴム9Aが筒状体10に収容される。この未加硫ゴム9Aは、ホルダ5A、或いは、対象表面8aの所定エリアに搬送される。尚、この実施形態とは異なり、筒状体10とは別の専用の筒状体20を用いて所定量の未加硫ゴム9Aを打ち抜くこともできる。この場合は、打ち抜いた未加硫ゴム9Aを筒状体20から筒状体10に収容する作業を行う。
【0070】
図19、
図20に例示する排出機構21は、引張工程が行われた後の試験体9を筒状体10の外部に排出する排出工程を行う。この排出機構21は、貫通穴22aが形成されている排出台22と分離機23と加圧部材7を押圧するアクチュエータ12とを備えている。貫通穴22aの直径は、筒状体10の内径よりも大きく、その外径よりも小さく設定されている。分離機23は、加圧部材7から試験体9を分離させる。この実施形態では、分離機23は、貫通穴22aの下端開口の下方を横断するように進退する切断刃23aを有している。
【0071】
図19に例示するように、加圧部材7とともに試験体9が収容されている筒状体10を、保持アーム3cによって吊り下げて、移動機構4により貫通穴22aの上に移動させて位置決めする。この加圧部材7とともに筒状体10に収容されている試験体9は、ホルダ5B、或いは、対象表面8aの所定エリアから搬送される。
【0072】
次いで、アクチュエータ3のロッド3aを下方に進出させて筒状体10を排出台22の天板に載置する。筒状体10が上下移動しないように保持アーム3cによってその動きを規制する。次いで、ロッド12aを前進させて、加圧部材7および試験体9を筒状体10の下端開口に向かって押し込んで、貫通穴22aを通過させた試験体9を貫通穴22aの下方に突出させる。
【0073】
次いで、
図20に例示するように、加圧部材7の下端面と試験体9との間に切断刃23aを差し込んで、試験体9を加圧部材7から分離させる。試験体9は排出台22の下方に落下する。この排出工程によって、試験体9が筒状体10の外部に排出される。試験体9が取り出された筒状体10および加圧部材7は所定の置き場に搬送される。
【0074】
分離機23はこの実施形態に例示したものに限らず、その他の種々の機構を用いることができる。例えば、貫通穴22aの下方に突出させた試験体9に棒状体を突き刺して、試験体9を加圧部材7から引き剥がす機構を用いることもできる。或いは、試験体9を貫通穴22aの下方に突出させた状態で、排出台22と筒状体10の少なくとも一方を横方向にスライドさせて、試験体9にせん断力を付与して加圧部材7から分離させる機構を用いることもできる。
【0075】
図21、
図22に例示する排出機構21を用いることもできる。この挿入機構21は、貫通穴22aが形成されている排出台22と加圧部材7を押圧するアクチュエータ12とを備えている。
【0076】
図21に例示するように、加圧部材7とともに試験体9が収容されている筒状体10を、保持アーム3cによって吊り下げて、移動機構4により貫通穴22aの上に移動させて位置決めする。次いで、アクチュエータ3のロッド3aを下方に進出させて筒状体10を排出台22の天板に載置する。筒状体10が移動しないように保持アーム3cによってその動きを規制する。
【0077】
次いで、ロッド12aを前進させて、加圧部材7および試験体9を筒状体10の下端開口に向かって押し込んで、貫通穴22aを通過させる。これにより、
図22に例示するように、試験体9を加圧部材7と一体化させた状態で筒状体10の外部に排出させる。
試験体9は排出台22の下方に落下する。試験体9および加圧部材7が取り出された筒状体10は所定の置き場に搬送される。
【0078】
この排出機構21によれば、試験体9が加圧部材7と一体化しているので、加圧部材7に試験体9の仕様などを示す印や番号などの情報表示を付しておくとよい。これにより、試験体9の仕様を間違いなく管理するには非常に有利になる。
【0079】
上述した実施形態では、固定された排出台22に対してアクチュエータ3を作動することで筒状体10(試験体9)を上下移動させているが、アクチュエータ3(保持アーム3c)に保持されている筒状体10(試験体9)に対して排出台22を上下移動させることもできる。即ち、アクチュエータ3(保持アーム3c)と排出台22の少なくとも一方を上下移動させて互いを近接および離反させる構成にすればよい。
【0080】
評価装置1に上述した挿入機構17および排出機構21を追加することで、上記の収容工程と、試験体9の形成から引張工程の完了までの一連の過程と、上記の排出工程と、からなる全過程を、制御部15により制御して自動化して連続して行うことができる。これに伴い、剥離性評価を行う際の人的な作業を最小限にすることが可能になる。また、上記の全過程を繰り返し連続して行うことが可能になるので、多数の試験体9や様々なゴム種の試験体9の離型性の評価に要する時間を大幅に短縮することが可能になる。
【符号の説明】
【0081】
1 評価装置
2 引張機構
3 アクチュエータ
3a ロッド
3b プレート
3c 保持アーム
4 搬送機構
4a、4b ガイドレール
4c 移動体
5A、5B ホルダ
5h 保持穴
6 測定器(ロードセル)
7 加圧部材
7a 対向表面
8 ベース台
8a 平坦な対象表面
8b 保持ブロック
8c 貫通穴
9 試験体
9A 未加硫ゴム
10 筒状体
10a 上端開口
10b 下端開口
10c 係合部
11 加熱機構
12 アクチュエータ
12a ロッド
13 加熱機
14 表面把握手段
15 制御部
16 演算部
17 挿入機構
18 ゴム押出機
18a パイプ部
19 切断具
19a 切断刃
20 筒状体
20a 切断刃
21 排出機構
22 排出台
22a 貫通穴
23 分離機
23a 切断刃
X 汚れ