(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】鋼矢板壁および鋼矢板壁の製造方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/06 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
E02D5/06
(21)【出願番号】P 2020008558
(22)【出願日】2020-01-22
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】永尾 直也
(72)【発明者】
【氏名】中山 裕章
(72)【発明者】
【氏名】原田 典佳
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-155425(JP,A)
【文献】特開2016-156247(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0120775(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向の両端部に継手を有する鋼矢板によって構成される鋼矢板壁であって、前記鋼矢板は少なくとも第1、第2および第3の鋼矢板を含み、
前記第1および第2の鋼矢板は長手方向端部で互いに接続して地中に打設され、
前記第3の鋼矢板は前記第1および第2の鋼矢板に隣接して地中に打設され、前記継手の嵌合によって前記第1および第2の鋼矢板の両方に連結され、
前記第1および第2の鋼矢板の接続部を含む高さ位置で、前記第3の鋼矢板の長手方向端部ではない位置に少なくとも1つの補強部材が接合され
、
前記第1、第2および第3の鋼矢板は、前記継手に加えてウェブ、フランジおよびアームを有するハット形の鋼矢板であり、
前記少なくとも1つの補強部材は、前記第3の鋼矢板の前記ウェブに接合される第1の補強部材を含み、
前記接続部で前記第1および第2の鋼矢板の前記アームに接合される第3の補強部材をさらに含む鋼矢板壁。
【請求項2】
前記第1の補強部材は、前記ウェブと前記フランジとによって囲まれる側に配置される、請求項
1に記載の鋼矢板壁。
【請求項3】
前記少なくとも1つの補強部材は、前記第3の鋼矢板の前記アームに接合される第2の補強部材を含む、請求項
1または請求項
2に記載の鋼矢板壁。
【請求項4】
前記接続部で前記第1および第2の鋼矢板に接合される追加の補強部材をさらに含む、請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の鋼矢板壁。
【請求項5】
前記補強部材は、前記鋼矢板の長手方向両側にそれぞれ向けられる1対のテーパー部分と、前記1対のテーパー部分の間で前記鋼矢板の長手方向に延びる等幅部分とを含む六角形状の補強板を含む、請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の鋼矢板壁。
【請求項6】
前記鋼矢板の長手方向について、前記等幅部分の長さは50mm以上である、請求項
5に記載の鋼矢板壁。
【請求項7】
前記等幅部分は、前記第1および第2の鋼矢板の接続部を含む高さ位置に配置される、請求項
5または請求項
6に記載の鋼矢板壁。
【請求項8】
幅方向の両端部に継手を有する第1、第2および第3の鋼矢板を含む鋼矢板壁の製造方法であって、
前記第3の鋼矢板の長手方向端部ではない位置に予め少なくとも1つの補強部材を接合する工程と、
前記第3の鋼矢板の前記継手に前記第2の鋼矢板の前記継手を嵌合させながら、前記第2の鋼矢板を地中に打設する工程と、
前記第2の鋼矢板を地中に打設する工程の途中で前記第2の鋼矢板の上端部に前記第1の鋼矢板の下端部を接続する工程と、
前記第2の鋼矢板の上端部に前記第1の鋼矢板の下端部を接続する工程の後に、前記第3の鋼矢板の前記継手に前記第1および第2の鋼矢板のそれぞれの前記継手を嵌合させながら、前記第1および第2の鋼矢板の接続部が前記少なくとも1つの補強部材に隣接するように、
前記第2の鋼矢板をさらに地中に打設するとともに前記第
1の鋼矢板を地中に打設する工程と
を含
み、
前記第1、第2および第3の鋼矢板は、前記継手に加えてウェブ、フランジおよびアームを有するハット形の鋼矢板であり、
前記少なくとも1つの補強部材を接合する工程は、前記第3の鋼矢板の前記ウェブに第1の補強部材を接合する工程を含み、
前記接続部で前記第1および第2の鋼矢板の前記アームに第3の補強部材を接合する工程をさらに含む鋼矢板壁の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼矢板壁および鋼矢板壁の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現場で鋼矢板を長手方向に接続する場合、一方の鋼矢板の長手方向の端面に予め開先を加工し、上下の鋼矢板の端面を突合せ溶接する。ただし、継手部分については、複雑な形状のため開先加工や溶接が困難であり、また溶接金属が隣接する鋼矢板の継手を嵌合させるときに支障になる可能性があるため溶接しない。この場合、溶接部では継手部分が断面欠損になるため、非特許文献1に記載されているように、溶接部が隣接する鋼矢板の溶接部と同一水平面上に並ばないように配置し、また溶接部に補強板を接合して断面欠損を補うことによって他の部分と同等の曲げ耐力を確保する。このような鋼矢板の溶接および補強板に関する技術は、例えば特許文献1にも記載されている。
【0003】
一方、突合せ溶接によらずに鋼矢板を長手方向に接続する技術も提案されている。例えば、特許文献2では、上下の鋼矢板のそれぞれの端部から補強鋼板を突出させ、補強鋼板同士をボルト接合することによって鋼矢板を接続する方法が記載されている。ここで、補強鋼板はそれぞれの鋼矢板のウェブおよびフランジに対して垂直に配置される。特許文献3には、鋼矢板のフランジとウェブとで囲まれた空間内に配置されるH形鋼と上下の鋼矢板とをボルト接合することによって鋼矢板を接続する方法が記載されている。特許文献4には、上下の鋼矢板の端部に係止部を固定し、両方の係止部に嵌合する架設部を配置することによって鋼矢板を接続する方法が記載されている。これらの場合、補強鋼板やH形鋼、架設部などの接続部材によって、鋼矢板の接続部における断面欠損を補う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-156247号公報
【文献】特許第5182251号公報
【文献】特開2017-66702号公報
【文献】国際公開第2017/038629号
【非特許文献】
【0005】
【文献】一般社団法人 鋼管杭・鋼矢板技術協会編,「鋼矢板・設計から施工まで 2014」,2014年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、鋼矢板の断面は大型化する傾向にある。断面の大型化に伴って、接続部における断面欠損の面積が大きくなり、また鋼矢板の剛性が大きくなるため曲げ耐力も大きくなる。従って、特許文献1、特許文献2、特許文献3および非特許文献1に記載されたような接続部の補強板や接続部材の断面寸法も大きくなる傾向にある。特に鋼矢板のウェブに取り付ける補強板は元々サイズが大きいため、さらなる大型化によって重量が過大になって作業性が低下する可能性がある。加えて、補強板を固定するための溶接延長も長くなるため、溶接施工量の増大が工期の長期化やコストアップをもたらす可能性がある。特許文献3ではH形鋼と鋼矢板のウェブとがボルト接合されているが、鋼矢板の止水性を考慮するとボルト接合のための穴開け加工は好ましくない場合がある。このように、鋼矢板の断面が大型化した場合にあっては特に、接続部における施工時の作業性や経済性に改善の余地がある。
【0007】
そこで、本発明は、鋼矢板を上下方向に接続した部分で生じる断面欠損を補いつつ、施工時の作業性および経済性を向上させることが可能な鋼矢板壁および鋼矢板壁の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]幅方向の両端部に継手を有する鋼矢板によって構成される鋼矢板壁であって、鋼矢板は少なくとも第1、第2および第3の鋼矢板を含み、第1および第2の鋼矢板は長手方向端部で互いに接続して地中に打設され、第3の鋼矢板は第1および第2の鋼矢板に隣接して地中に打設され、継手の嵌合によって第1および第2の鋼矢板の両方に連結され、第1および第2の鋼矢板の接続部を含む高さ位置で、第3の鋼矢板の長手方向端部ではない位置に少なくとも1つの補強部材が接合される鋼矢板壁。
[2]第1、第2および第3の鋼矢板は、継手に加えてウェブ、フランジおよびアームを有するハット形の鋼矢板であり、少なくとも1つの補強部材は、第3の鋼矢板のウェブに接合される第1の補強部材を含む、[1]に記載の鋼矢板壁。
[3]第1の補強部材は、ウェブとフランジとによって囲まれる側に配置される、[2]に記載の鋼矢板壁。
[4]少なくとも1つの補強部材は、第3の鋼矢板のアームに接合される第2の補強部材を含む、[2]または[3]に記載の鋼矢板壁。
[5]接続部で第1および第2の鋼矢板のアームに接合される第3の補強部材を含む、[2]から[4]のいずれか1項に記載の鋼矢板壁。
[6]接続部で第1および第2の鋼矢板に接合される追加の補強部材をさらに含む、[1]から[5]のいずれか1項に記載の鋼矢板壁。
[7]補強部材は、鋼矢板の長手方向両側にそれぞれ向けられる1対のテーパー部分と、1対のテーパー部分の間で鋼矢板の長手方向に延びる等幅部分とを含む六角形状の補強板を含む、[1]から[6]のいずれか1項に記載の鋼矢板壁。
[8]鋼矢板の長手方向について、等幅部分の長さは50mm以上である、[7]に記載の鋼矢板壁。
[9]等幅部分は、第1および第2の鋼矢板の接続部を含む高さ位置に配置される、[7]または[8]に記載の鋼矢板壁。
[10]幅方向の両端部に継手を有する第1、第2および第3の鋼矢板を含む鋼矢板壁の製造方法であって、第3の鋼矢板の長手方向端部ではない位置に予め少なくとも1つの補強部材を接合する工程と、第3の鋼矢板の継手に第2の鋼矢板の継手を嵌合させながら、第2の鋼矢板を地中に打設する工程と、第2の鋼矢板の上端部に第1の鋼矢板の下端部を接続する工程と、第3の鋼矢板の継手に第1および第2の鋼矢板のそれぞれの継手を嵌合させながら、第1および第2の鋼矢板の接続部が少なくとも1つの補強部材に隣接するように、第1および第2の鋼矢板を地中に打設する工程とを含む鋼矢板壁の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
上記の構成によれば、鋼矢板の接続部ではなく、接続部に隣接する別の鋼矢板に補強部材が接合されるため、接続部で生じる断面欠損を補いつつ、施工時の作業性および経済性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る鋼矢板壁の斜視図である。
【
図2】
図1に示す鋼矢板壁の上面図および正面図である。
【
図3】接続部に補強部材が接合されない鋼矢板壁の例を示す上面図および正面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に適用可能な補強板の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る鋼矢板壁の斜視図であり、
図2は
図1に示す鋼矢板壁の上面図および正面図である。図示されるように、鋼矢板壁1は、幅方向の両端部に継手を有するハット形の鋼矢板によって構成され、鋼矢板11A,12A、鋼矢板11B,12B、および鋼矢板11C,12Cを含む。鋼矢板壁1は、さらに、ウェブ補強板21A,21B,21Cと、アーム補強板22とを含む。それぞれの鋼矢板は、ウェブ15、フランジ16、アーム17および継手18を含む。本明細書において、鋼矢板壁1は、少なくとも2列の鋼矢板が継手18の嵌合によって互いに連結されることによって構成される。各列は、上下方向に接続された複数の鋼矢板によって構成される。鋼矢板壁1では、鋼矢板11Aおよび鋼矢板12A、鋼矢板11Bおよび鋼矢板12B、ならびに鋼矢板11Cおよび鋼矢板12Cがそれぞれ上下方向に、鋼矢板の長手方向端部で互いに接続して地中に打設されている。それぞれの鋼矢板は、上述したように端面への開先加工および突合せ溶接によって接続されてもよいし、図示しない接続部材をボルト接合したり嵌合させたりすることによって接続されてもよい。いずれの場合も、接続部において鋼矢板の断面欠損が生じることは既に述べたとおりである。
【0013】
ウェブ補強板21A,21B,21Cおよびアーム補強板22は、接続部における鋼矢板の断面欠損を補うために配置される。ここで、本実施形態では、ウェブ補強板21A,21B,21Cが、鋼矢板の接続部に隣接する別の鋼矢板のウェブで、接続部を含む高さ位置に接合される。つまり、ウェブ補強板21Aは、鋼矢板11B(第1の鋼矢板)と鋼矢板12B(第2の鋼矢板)との接続部13Bに隣接する鋼矢板12A(第3の鋼矢板)のウェブに接合される。同様に、ウェブ補強板21Bは、鋼矢板11Aと鋼矢板12Aとの接続部13A(および鋼矢板11Cと鋼矢板12Cとの接続部13C)に隣接する鋼矢板11Bのウェブに接合される。ウェブ補強板21Cは、鋼矢板11Bと鋼矢板12Bとの接続部13Bに隣接する鋼矢板12Cのウェブに接合される。ウェブ補強板21A,21B,21Cは、例えば隅肉溶接によってそれぞれの鋼矢板のウェブに接合される。鋼矢板の接続部13A,13B,13Cは、それぞれ隣接する接続部と同一水平面上に並ばないように配置されるため、ウェブ補強板21A,21B,21Cは接続部13A,13B,13Cとは異なる位置、すなわち鋼矢板12A,11B,12Cの長手方向端部ではない位置に接合される。
【0014】
ここで、鋼矢板壁1では、継手18の嵌合によって壁の延長方向に連結された鋼矢板の全体として所定の断面性能を満たしていればよい。それゆえ、例えば、
図2に示したように互いに隣接する鋼矢板11A,12Aの列と鋼矢板11B,12Bの列とを組にして断面性能を考慮することができる。この場合、鋼矢板11Bと鋼矢板12Bとの接続部13Bに隣接する鋼矢板12Aのウェブに接合されるウェブ補強板21Aの断面は、接続部13Bにおいて生じる断面欠損を補うものとして考慮することができる。
【0015】
本実施形態では、ウェブ補強板21A,21B,21Cが鋼矢板の接続部13A,13B,13Cとは異なる位置、すなわち鋼矢板12A,11B,12Cの長手方向端部ではない位置に接合されるため、接続部13A,13B,13Cで鋼矢板を接続する前に予め鋼矢板にウェブ補強板21A,21B,21Cを接合することができる。具体的には、例えば工場で予め鋼矢板にウェブ補強板を溶接することができる。この場合、接続部に現場で補強板を溶接する場合に比べて、溶接の品質を容易に向上させることができ、溶接のコストも抑えられる。加えて、鋼矢板の断面の大型化などによってウェブ補強板が大型化した場合にも、現場でのウェブ補強板の取り回しが不要であるため作業性への影響が少ない。
【0016】
また、ウェブ補強板は図示された例のように鋼矢板の凹側、すなわちウェブ15とフランジ16とによって囲まれる側に配置した場合に最も効果的に断面欠損を補うことができるが、例えばオーガ併用圧入工法など、鋼矢板の長手方向端部の凹側に施工機械が取り付けられるために接続部の凹側にウェブ補強板を配置することが難しい工法もある。本実施形態では、鋼矢板の長手方向端部ではない位置に打設前に予めウェブ補強板21A,21B,21Cが接合されるため、上記のような工法の場合でも鋼矢板の凹側にウェブ補強板を接合することができ、やむなく凹側とは反対側にウェブ補強板を配置することによって補強板がさらに大型化するといった事態を回避することができる。
【0017】
一方、本実施形態において、アーム補強板22は、ウェブ補強板とは異なり、接続部13Bで鋼矢板11B(第1の鋼矢板)と鋼矢板12B(第2の鋼矢板)のアーム17に接合される。なお、
図2では接続部13Bのアーム補強板22だけが図示されているが、接続部13A,13Cについても同様である。上記のような鋼矢板壁1の全体としての断面性能が発揮される前、すなわち図示された例であれば鋼矢板11B,12Bを含む列の鋼矢板が鋼矢板11A,12Aを含む列の鋼矢板に継手18を嵌合させながら打設されている段階で、接続部13Bでの断面欠損による曲げ剛性の低下を防止するために、アーム補強板22については接続部に配置している。
【0018】
アーム補強板22については、ウェブ補強板21A,21B,21Cに比べて接合可能な領域が小さく、従って補強板も小型であるため、接続部に現場で溶接する場合にも作業性およびコストへの影響は比較的小さい。また、アーム補強板22は鋼矢板の凹側とは反対側に接合した場合に最も効果的に断面欠損を補うことができるため、オーガ併用圧入工法などを用いる場合でも最適な位置に接合することが可能である。それゆえ、打設時に作用する圧縮力および引張力の大きさに応じて、アーム補強板22を接合部に配置してもよい。他の例では、アーム補強板22に限らず、打設時の剛性を確保するために適切な追加の補強部材を接続部で上下の鋼矢板に接合してもよい。
【0019】
上記のような鋼矢板壁1の製造方法について、
図2に示された鋼矢板12A,11B,12Bを含む部分を例として説明する。まず、鋼矢板12A(第3の鋼矢板)の長手方向端部ではない位置に予めウェブ補強板21Aを接合する。次に、鋼矢板12Aを、鋼矢板11Aと長手方向端部で接続しながら地中に打設する。次に、鋼矢板11A,12Aに隣接して鋼矢板11B,12Bを打設する。具体的には、鋼矢板11A,12Aの継手に鋼矢板12Bの継手を嵌合させながら鋼矢板12Bを地中に打設し、途中で鋼矢板12Bの長手方向端部(上端部)に鋼矢板11Bの長手方向端部(下端部)を接続して、鋼矢板11B,12Bをさらに地中に打設する。このとき、鋼矢板11B,12Bのそれぞれの継手は鋼矢板11A,12Aの継手に嵌合させられる。鋼矢板11B,12Bの接続部13Bが隣接する鋼矢板12Aに予め接合されたウェブ補強板21Aに隣接するまで鋼矢板11B,12Bを地中に打設することによって、鋼矢板壁1が製造される。
【0020】
図3は、接続部に補強部材が接合されない鋼矢板壁の例を示す上面図および正面図である。図示された例では、アーム補強板22が、ウェブ補強板21Aと同様に鋼矢板の接続部13Bに隣接する別の鋼矢板12Aのアーム17に接合される。この例の場合、ウェブ補強板21Aおよびアーム補強板22をいずれも接続部で鋼矢板を接続する前に予め鋼矢板に接合することができる。この場合、上記で説明した溶接の品質を容易に向上させ、溶接のコストを抑える効果を最大限に得ることができ、また現場での補強板の取り回しが不要になるため作業性もより向上する。ただし、接続部を有する鋼矢板が打設されている段階での軸力に対する耐力については、接合部での溶接、または図示しない接続部材によって確保する必要がある。なお、ウェブ補強板のみで接続部の断面欠損が十分に補える場合には、アーム補強板を省略してもよい。
【0021】
図4は、本発明の一実施形態に適用可能な補強板の構成例を示す図である。上記の実施形態では、ウェブ補強板21A,21B,21Cとして菱形の鋼板を例示したが、補強板の形状はこの例には限られない。例えば、図示された例のように、ウェブ補強板21が、鋼矢板の長手方向両側にそれぞれ向けられる1対のテーパー部分211,212と、等幅部分213とを有する全体として六角形状の鋼板であってもよい。この場合、テーパー部分211,212は菱形の補強板で上下それぞれの鋼矢板のウェブに接合される部分と同様に機能する。等幅部分213は、テーパー部分211,212の間で鋼矢板の長手方向に延び、テーパー部分211,212の最大幅と同じ幅で形成される。鋼矢板の打設では地盤の状況などのために高さ方向について施工誤差が発生するため、ウェブ補強板21が予め溶接されている高さと隣接する鋼矢板の接続部の高さとが厳密には整合しない場合がある。菱形の補強板の場合、隣接する鋼矢板の接続部の位置が菱形の中心からずれると接続部と同じ水平断面における補強板の断面積が減少するが、ウェブ補強板21に等幅部分213を設け、等幅部分213が隣接する鋼矢板の接続部を含む高さ位置に配置されるようにウェブ補強板21を取り付けておくことによって、接続部の高さのずれが等幅部分213の鋼矢板の長手方向の長さLの範囲内に収まっていれば、設計通りのウェブ補強板21の断面積で鋼矢板の断面欠損を補うことができる。鋼矢板の天端の施工管理値は一般的には±50mmであるため、等幅部分213の長さLを例えば50mm以上とすれば、ほとんどの場合において設計通りのウェブ補強板21の断面積で鋼矢板の断面欠損を補うことができる。
【0022】
以下では、上述した本発明の一実施形態について、現場溶接の作業量削減効果という観点で検証する。溶接用熱間圧延鋼矢板JIS A5523に規定されるSYW295のハット形鋼矢板であって、SP-25Hの断面形状の場合、鋼矢板の板厚がウェブ板厚(13.2mm)で均一であり、鋼矢板の長手方向の端面を45°、ルート面なしのレ形開先(single bevel groove)で突合せ溶接することを仮定すると、溶接長さは116.5cm、溶接体積は116.5×(1.32)
2/2≒203cm
3になる。上記の鋼矢板について鋼管杭・鋼矢板技術協会編「鋼矢板・設計から施工まで 2014」で推奨されている仕様でウェブ補強板およびアーム補強板を設計すると表1のような寸法になり、溶接体積はウェブ補強板1か所で83cm
3、アーム補強板2か所で22cm
3になる。従って、上記で
図3に示した例のようにウェブ補強板およびアーム補強板をいずれも鋼矢板の接続部に隣接する別の鋼矢板に予め溶接した場合、現場での溶接体積が(83+22)/(203+83+22)≒34%削減される。また、
図2に示した例のようにウェブ補強板のみを鋼矢板の接続部に隣接する別の鋼矢板に予め溶接した場合、現場での溶接体積が83/(203+83+22)≒27%削減される。なお、上記の鋼矢板の溶接部における継手分の欠損断面積は1830mm
2であり、ウェブ補強板およびアーム補強板の断面積合計は1860mm
2であるため、欠損断面積は補強板のみによって補うことができる。
【0023】
【0024】
上記の表1において、補強板の長さは鋼矢板のウェブまたはアームの面に沿った上下方向の寸法であり、補強板の幅は鋼矢板のウェブまたはアームの面に沿った水平方向の寸法であり、脚長は補強板の全周に形成される隅肉溶接の脚長である。
【0025】
なお、上記で説明した実施形態では、菱形および六角形の補強板が例示されたが、補強板は矩形や長円形などの他の各種の形状であってもよい。また、上記で説明した実施形態では、鋼矢板のウェブおよびアームの1か所につき1つの補強板が接合されたが、それぞれの部分に2つ以上の補強板が接合されてもよい。また、補強板の接合位置は、ウェブまたはアームの幅方向中央でなくてもよく、ウェブまたはアームに対して偏心して補強板が接合されてもよい。また、上記で説明した実施形態では、接続部における鋼矢板の断面欠損を補うために補強板のみが接合されたが、例えば補強板の断面積が欠損断面積よりも小さい場合には、H形鋼のようなより断面の大きい形状の補強部材を、補強板に代えて、または補強板とともに、接続部に隣接する別の鋼矢板に接合してもよい。あるいは、ウェブおよびアームだけではなくフランジにも補強板を接合してもよい。上記で説明した実施形態では、ハット形の鋼矢板で鋼矢板壁が形成されたが、U形やZ形など他の形状の鋼矢板で鋼矢板壁が形成され、鋼矢板の接続部に隣接する別の鋼矢板に補強部材が接合されてもよい。
【0026】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0027】
1…鋼矢板壁、11A,11B,11C,12A,12B,12C…鋼矢板、13A,13B,13C…接続部、15…ウェブ、16…フランジ、17…アーム、18…継手、21,21A,21B,21C…ウェブ補強板、22…アーム補強板、211,212…テーパー部分、213…等幅部分。