(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】六フッ化モリブデンの製造方法及びモリブデンの表面の酸化被膜の除去方法
(51)【国際特許分類】
C01G 39/04 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
C01G39/04
(21)【出願番号】P 2020023105
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】菊池 亜紀応
(72)【発明者】
【氏名】吉村 亮太
(72)【発明者】
【氏名】野村 涼馬
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/189715(WO,A1)
【文献】特開2019-19365(JP,A)
【文献】特開2012-55921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 39/00-39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化被膜を有するモリブデンと、フッ化水素を50体積ppm以上50体積%以下含む、フッ素ガス及び不活性ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスとを、反応器内で接触させ、酸化被膜が除去されたモリブデンを得る、第1の工程と、
第1の工程で酸化被膜が除去されたモリブデンと、フッ素含有ガスと、を、反応器内で接触させて、六フッ化モリブデンを得る第2の工程と、
を含む、
六フッ化モリブデンの製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程において、酸化被膜を有するモリブデンと、フッ化水素を50体積ppm以上50体積%以下含む、フッ素ガス及び不活性ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスとを、25℃以上180℃以下で接触させる、請求項1に記載の六フッ化モリブデンの製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程において、酸化被膜を有するモリブデンと、フッ化水素を50体積ppm以上50体積%以下含む、フッ素ガス及び不活性ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスとを、25℃以上100℃以下で接触させる、請求項2に記載の六フッ化モリブデンの製造方法。
【請求項4】
前記第2の工程に用いるフッ素含有ガスが、フッ素ガス及び三フッ化窒素ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスである、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の六フッ化モリブデンの製造方法。
【請求項5】
前記第2の工程において、酸化被膜を除去したモリブデンと、フッ素含有ガスとを、25℃以上180℃以下で接触させる、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の六フッ化モリブデンの製造方法。
【請求項6】
前記第2の工程において、酸化被膜を除去したモリブデンと、フッ素含有ガスとを、25℃以上100℃以下で接触させる、請求項5に記載の六フッ化モリブデンの製造方法。
【請求項7】
前記第1の工程において、前記反応器の出口のガスを、前記反応器内に循環させる、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の六フッ化モリブデンの製造方法。
【請求項8】
前記第1の工程及び第2の工程を同じ反応器を用い連続的に行う、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の六フッ化モリブデンの製造方法。
【請求項9】
酸化被膜を有するモリブデンと、フッ化水素ガスを50体積ppm以上50体積%以下含む、フッ素ガス及び不活性ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスとを接触させる、モリブデンの表面の酸化被膜の除去方法。
【請求項10】
酸化被膜を有するモリブデンと、フッ化水素ガスを50体積ppm以上50体積%以下含む、フッ素ガス及び不活性ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスとを、25℃以上180℃以下で接触させる、請求項9に記載のモリブデンの表面の酸化被膜の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、六フッ化モリブデンの製造方法に関する。六フッ化モリブデンは、半導体製造用ガスとして、半導体基板の金属配線(回路)の形成等に用いられている。
【背景技術】
【0002】
モリブデンは高融点で電気抵抗の小さい金属であり、各種電子材料用素材として金属単体あるいはそのシリサイドの形で広く使用されている。電子材料分野、特に半導体分野では、モリブデンによる回路が、六フッ化モリブデン(以下、MoF6と呼ぶことがある)を原料ガスとし、化学気相蒸着法(chemical vapor deposition、以下、CVD法と呼ぶことがある)にて、回路上にモリブデンを蒸着することで形成されている。MoF6は、通常、金属モリブデン単体(以下、単にモリブデンと呼ぶことがある)とフッ素ガス(以下、F2ガスと呼ぶことがある)との反応により製造されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、金属モリブデンとフッ素ガスとを反応させて六フッ化モリブデンを製造する方法において、200℃~350℃の条件で、2~4時間反応させる六フッ化モリブデンの製造方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、金属モリブデンとフッ素ガスとを反応させて六フッ化モリブデンを製造する方法において、反応器内部の金属モリブデンをのせる固定床を傾斜させることを特徴とする六フッ化モリブデンの製造方法が記載されている。
【0005】
モリブデンとF2ガスからMoF6を生成する際の以下の反応(1)において、標準生成熱ΔHは、-1558kJ/MoF6mol(298K、1atm)であり、一方、モリブデンとNF3ガスからMoF6を生成する、以下の反応式(2)の標準生成熱ΔHは、-1294kJ/MoF6mol(298K、1atm)である。
【0006】
Mo(s)+F2(g)→MoF6(g) 反応(1)
Mo(s)+2NF3(g)→MoF6(g)+N2(g) 反応(2)
s=solid(固体) g=gas(気体)
【0007】
前記反応(1)および反応(2)の反応速度は極めて速く、MoF6の生成熱量も大きいため、MoF6の製造工程において、反応系の温度は急激に上昇する。反応系の温度が高温になると、金属製の反応器の内壁(以下、単に反応器壁と呼ばれることがある)がフッ素含有ガスにより侵される(腐食する)ことが知られている。
【0008】
本来、モリブデンは金属光沢を示す銀白色の金属であるが、大気中の酸素、又は水分により、表面が酸化(腐食)され、モリブデンの酸化物からなる酸化被膜が表面に生成し徐々に光沢を失うことが知られている。しかしながら、この酸化はごく薄いもので内部までは進行しないことも知られている。モリブデンの表面は、湿度の高い環境下では、ごく薄いモリブデンの酸化物からなる自然酸化被膜(以下、単に酸化被膜と呼ぶことがある)が生じやすく、光沢を失いやすい。このようなモリブデンの酸化物には、二酸化モリブデン(MoO2)、三酸化モリブデン(MoO3)が存在する。
【0009】
また、特許文献3には、モリブデン表面に形成されている自然酸化被膜は、溶存酸素、溶存過酸化水素を除去した水素水との接触で化学的に除去できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】中国特許出願公開第103449525号明細書
【文献】国際公開第2019/189715号
【文献】特許第6415100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術(特許文献1)において、モリブデンとF2ガスを接触させてMoF6を製造する反応を開始する際、200℃を超える反応温度を採用することが、奨励されている。しかしながら、前述のようにモリブデンとF2ガスを反応させてMoF6を得る際の反応速度は、極めて速く、生成熱量も大きいことから反応の熱暴走が懸念される。このような異常反応、金属製の反応器壁がフッ素含有ガスに侵食されること等を抑制するには、反応器のジャケットに冷媒を流通させるなどの冷却機構を設け、反応中の反応器壁の温度を400℃以下に抑える必要があり、更に反応器材質としてフッ素に対して耐食性が高く、高価なニッケルやニッケル合金などの材料を用いる必要があった。
【0012】
このため、MoF6の製造においては、反応開始時は加熱を必要とし、反応中は反応熱の除去のために冷却を必要とする。よって、反応器に加熱器と冷却器をともに付設することが多い。加熱器と冷却器の両方を設けた場合において400℃付近の高温条件で加熱と冷却の切換のタイミングを間違えると、前述の通り、反応器壁の温度が上昇し過ぎてニッケルやニッケル合金などの材料を用いた場合においても反応器が損傷する虞があった。
【0013】
本開示は、これらを解決し、酸化被膜を有するモリブデンを原料に用いても、反応器へのダメージの少ない低温でMoF6を得る反応を開始することのできるMoF6の製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
さらに、本開示は、反応器へのダメージの少ない低温で酸化被膜を除去することのできるモリブデンの表面の酸化被膜の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記問題を解決するために、本発明者らが鋭意検討したところ、フッ化水素を含むフッ素ガス又は不活性ガスを、酸化被膜を有する原料モリブデンに予め接触させる前処理を行うことで、意外なことに、モリブデンの表面の酸化被膜が除去され、その後、100℃以下の低温でも、酸化被膜が除去されたモリブデンがF2ガスと速やかに反応しMoF6が生成することがわかり、本開示を完成するに至った(実施例の[表1]参照)。
【0016】
前記MoF6を合成する前の前処理において、F2ガスに、低濃度であってもHFが含まれることで、HFは反応器壁を腐食させることなく、モリブデン最表面の酸化被膜を除去することが可能であり、モリブデン表面の酸化被膜を除去することで、モリブデンの表面がF2ガスと速やかに反応する様に活性化し、MoF6がより低温で速やかに生成することを可能としたと推測される。
【0017】
本開示は、以下の発明1~10を含む。
[発明1]
酸化被膜を有するモリブデンと、フッ化水素を50体積ppm以上50体積%以下含む、フッ素ガス及び不活性ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスとを、反応器内で接触させ、酸化被膜が除去されたモリブデンを得る、第1の工程と、
第1の工程で酸化被膜が除去されたモリブデンと、フッ素含有ガスと、を、反応器内で接触させて、六フッ化モリブデンを得る第2の工程と、
を含む、
六フッ化モリブデンの製造方法。
【0018】
[発明2]
前記第1の工程において、酸化被膜を有するモリブデンと、フッ化水素を50体積ppm以上50体積%以下含む、フッ素ガス及び不活性ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスとを、25℃以上180℃以下で接触させる、発明1に記載の六フッ化モリブデンの製造方法。
【0019】
[発明3]
前記第1の工程において、酸化被膜を有するモリブデンと、フッ化水素を50体積ppm以上50体積%以下含む、フッ素ガス及び不活性ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスとを、25℃以上100℃以下で接触させる、発明2に記載の六フッ化モリブデンの製造方法。
【0020】
[発明4]
前記第2の工程に用いるフッ素含有ガスが、フッ素ガス及び三フッ化窒素ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスである、発明1乃至発明3のいずれか1項に記載の六フッ化モリブデンの製造方法。
【0021】
[発明5]
前記第2の工程において、酸化被膜を除去したモリブデンと、フッ素含有ガスとを、25℃以上180℃以下で接触させる、発明1乃至発明4のいずれか1項に記載の六フッ化モリブデンの製造方法。
【0022】
[発明6]
前記第2の工程において、酸化被膜を除去したモリブデンと、フッ素含有ガスとを、25℃以上100℃以下で接触させる、発明5に記載の六フッ化モリブデンの製造方法。
【0023】
[発明7]
前記第1の工程において、前記反応器の出口のガスを、前記反応器内に循環させる、発明1乃至発明6のいずれか1項に記載の六フッ化モリブデンの製造方法。
【0024】
[発明8]
前記第1の工程及び第2の工程を同じ反応器を用い連続的に行う、発明1乃至発明7のいずれか1項に記載の六フッ化モリブデンの製造方法。
【0025】
[発明9]
酸化被膜を有するモリブデンと、フッ化水素ガスを50体積ppm以上50体積%以下含む、フッ素ガス及び不活性ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスとを接触させる、モリブデンの表面の酸化被膜の除去方法。
【0026】
[発明10]
酸化被膜を有するモリブデンと、フッ化水素ガスを50体積ppm以上50体積%以下含む、フッ素ガス及び不活性ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスとを、25℃以上180℃以下で接触させる、発明9に記載のモリブデンの表面の酸化被膜の除去方法。
【発明の効果】
【0027】
本開示のMoF6の製造方法を用いれば、酸化被膜を有するモリブデンを原料に用いても、モリブデンとフッ素含有ガスを接触させて、反応器へのダメージの少ない低温でもMoF6を得る反応を開始することができる
【0028】
また、本開示のモリブデンの表面の酸化被膜の除去方法を用いれば、反応器へのダメージの少ない低温でもモリブデン表面の酸化被膜を除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、本開示に係るMoF
6合成装置100の概略図である。
【
図2】
図2は、本開示に係るMoF
6合成装置200の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本開示のMoF6の製造方法の実施形態を、詳細に説明する。しかしながら、本開示は、以下に示す実施の形態に限定されるものではない。
【0031】
本開示の第一の実施形態に係るMoF6の製造方法は、酸化被膜を有するモリブデンと、HFを50体積ppm以上50体積%以下含む、フッ素ガス及び不活性ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスとを、反応器内で接触させ、酸化被膜を除去したモリブデンを得る、第1の工程と、第1の工程で酸化被膜が除去されたモリブデンと、フッ素含有ガスと接触させて、MoF6を得る第2の工程と、を含む。
【0032】
1.原料モリブデン
なお、六フッ化モリブデンの製造方法の原料であるモリブデン(以下、原料モリブデンと呼ぶことがある)は市販されており、インゴット又は粉体状に加工されたものを購入することができる。空気中でモリブデンの最表面はごく薄く酸化され、市販のモリブデンは、この自然酸化被膜の形成により、光沢を失い褐色を呈する。
本明細書において、「原料モリブデン」は、「酸化被膜を有するモリブデン」を意味する。
【0033】
六フッ化モリブデンの製造方法における、第1の工程は、原料モリブデンと、HFを50体積ppm以上50体積%以下含む、フッ素ガス及び不活性ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスとを接触させ、酸化被膜を除去する工程である。次いで、第2の工程は、第1の工程で酸化被膜を除去したモリブデンとF2ガスを接触させ、MoF6を得る工程である。
【0034】
本開示の六フッ化モリブデンの製造方法において、原料モリブデンには、粉体、塊、インゴット等の種々の形状の物を用いることが可能である。本開示の六フッ化モリブデンの製造方法に用いる、原料モリブデンは、粒度100nm以下の粉体、粒度10cm以上のインゴット等の様々な形状から選択することが可能であるが、反応容器へ原料モリブデンを充填する際の容易さ、および原料モリブデンの粉体および塊に対するガスの流通のし易さから、粒度1μm以上10cm以下の粉体又は塊を使用することが好ましい。また、粒度0.5μm以上1500μm以下の範囲で種々の粒度の粉状および粒状の原料モリブデンが市販され、これら市販品の中から任意に選択して用いることができる。なお、本開示において、原料モリブデン粉の粒度はFisher Sub-Sieve Sizer法による平均粒子径である。
【0035】
モリブデンの表面の酸化被膜の除去方法においても、上記の原料モリブデンを用いることができる。
【0036】
2.第1の工程(以下、前処理工程ということがある)
本実施形態のMoF6の製造方法の第1の工程は、酸化被膜を有するモリブデン(原料モリブデン)と、HFを50体積ppm以上50体積%以下含む、フッ素ガス及び不活性ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスを(以下、「HF含有ガス」とも称する)とを、反応器内で接触させ酸化被膜を除去したモリブデンを得る工程である。不活性ガスとしては、窒素(N2)、ヘリウム(He)、又はアルゴン(Ar)を挙げることができるが、入手の容易さおよび価格の低さにより、好ましくはN2である。
【0037】
前述のように、モリブデンは、大気中では常温常湿においても表面が腐食され酸化被膜を生成し、最表面が酸化被膜で覆われることが知られている。
【0038】
最表面が酸化被膜で覆われたモリブデンはF2との反応性に劣るため、特許文献1に記載の様に、200℃を超える高温下でF2ガスを接触させて反応させ、MoF6を製造しなければならないこととなる。
【0039】
しかしながら、本発明者が鋭意検討した所、HF含有ガスを、予め原料モリブデンに接触させておく前処理工程(第1の工程)を加えることで、意外なことに、別途、特許文献3に記載の水素水処理等行うことなく、原料モリブデンの表面は酸化被膜が除去され活性化し、100℃以下の低温でもモリブデンがF2ガスと速やかに反応し、MoF6が速やかに生成することが分かった([表1]の実施例1~5参照)。
【0040】
本実施形態の六フッ化モリブデンの製造方法において、原料モリブデンと、HF含有ガスが接触した第1の工程後の反応系には、MoOF4又はMoF6が検出される。このことから、原料モリブデンと、HF含有ガスが接触することで、原料モリブデンから酸化被膜が除去される機構として、以下の反応を推測することができる。
【0041】
例えば、三酸化モリブデン(MoO3)と、HFは、以下の反応(3)~(6)の様に反応し、MoO3よりMoOF4が生成されると推測される。
【0042】
HF + MoO3 → MoO2F(OH) 反応(3)
HF + MoO2F(OH) → MoOF2(OH)2 反応(4)
HF + MoOF2(OH)2 → MoF3(OH)3 反応(5)
HF + MoF3(OH)3 → MoOF4 + 2H2O 反応(6)
【0043】
第1の工程においてHFを含む不活性ガスを使用する場合は、反応(6)より得られたMoOF4が気化することにより、モリブデンの表面の酸化被膜は気体となり、モリブデン表面から除去されるものと推測される。
【0044】
第1の工程においてHFを含むF2ガスを使用する場合は、反応(5)で生成したMoF3(OH)3と、F2ガスが、以下の式(7)のように反応し、結果として、MoO3よりMoF6が生成されると推測される。反応(6)より得られたMoOF4と、反応(7)より得られたMoF6が気化することにより、モリブデンの表面の酸化被膜は気体となり、モリブデン表面から除去されるものと推測される。
【0045】
MoF3(OH)3 + F2→ MoF6 + 3HF +3/2O2 反応(7)
【0046】
本実施形態のMoF6の製造方法の第1の工程におけるF2ガス又は不活性ガス中のHFの濃度は、F2ガスとHFを合わせた体積、又は不活性ガスとHFを合わせた体積を基準とする体積百万分率又は百分率で表して、50体積ppm以上50体積%以下である。HFの濃度が50体積ppmより少ないと、原料モリブデン表面の酸化被膜を除去する効果が少なく、50体積ppmより多くなるにつれて反応速度は向上するが1体積%を超えてもそれほど向上せず、50体積%より多いと、HFにより反応器壁が腐食する懸念がある。好ましくは、100体積ppm以上1体積%(10,000体積ppm)以下である。
【0047】
[接触温度]
本開示のMoF6の製造方法の第1の工程における原料モリブデンと、HF含有ガスとの接触温度は、25℃以上180℃以下であることが好ましい。
【0048】
上記の接触の際の温度が室温(25℃)であっても、原料モリブデンの表面は酸化被膜が除去され充分に活性化する。好ましくは40℃以上である。
【0049】
原料モリブデンと、HF含有ガスとを接触させる際の温度は、好ましくは150℃以下であり、さらに、好ましくは、100℃以下である。
【0050】
[接触時間]
本実施形態のMoF6の製造方法の第1の工程における原料モリブデンと、HF含有ガスと、を接触させる際の接触時間は、例えば、原料モリブデン表面の酸化の進行の程度、第2の工程後のMoF6の収率等により、任意に定めることができる。
【0051】
[接触圧力]
本実施形態のMoF6の製造方法の第1の工程および第2の工程における反応器内の圧力が絶対圧で0.01kPa以上300kPa以下であることが好ましく、絶対圧で0.01kPa以上100kPa以下であることがより好ましい。絶対圧の値が0.01kPa未満では、圧力を保持するための設備の負荷が大きくなるため、好ましくない。300kPa以上では、MoF6が液化する可能性がある上に、装置からMoF6が漏えいする虞があるため好ましくない。
【0052】
3.第2の工程(以下、反応工程ということがある)
本実施形態のMoF6の製造方法における第2の工程は、第1の工程で酸化被膜を除去したモリブデンとフッ素含有ガスを接触させ、MoF6を得る工程である。
[フッ素含有ガス]
第2の工程において使用するフッ素含有ガスは、F2ガス、NF3ガス、又はこれらの混合ガスを例示することができ、N2、HeおよびArからなる群から選ばれる不活性ガスで希釈されていてもよい。好ましくは、F2ガスである。
【0053】
[反応]
第2の工程では、フッ素含有ガスがF2ガスである場合、前記反応式(1)のように、第1の工程後の(酸化被膜が除去された)モリブデンと、F2ガスとが反応して、MoF6が生成され、フッ素含有ガスがNF3ガスである場合、前記反応式(2)のように、第1の工程後の(酸化被膜が除去された)モリブデンと、NF3ガスとが反応して、MoF6が生成される。
【0054】
[接触温度]
第2の工程において、第1の工程で酸化被膜が除去されたモリブデンとフッ素含有ガスとを接触させる際の温度は、好ましくは25℃以上180℃以下であることが好ましい。
【0055】
上記の接触の際の温度が室温(25℃)であっても、酸化被膜が除去されたモリブデンは、フッ素含有ガスと反応する。好ましくは40℃以上である。
【0056】
酸化被膜が除去されたモリブデンとフッ素含有ガスとの接触温度は、好ましくは150℃以下であり、特に好ましくは、100℃以下である。
【0057】
[接触時間]
本開示のMoF6の製造方法の第2の工程において、酸化被膜が除去されたモリブデンとフッ素含有ガスとを接触させる際の接触時間は、例えば、MoF6の収率等により任意に定めることができる。
【0058】
[接触圧力]
本実施形態のWF6の製造方法の第2の工程における反応器内の好ましい圧力範囲は、上記の第1の工程における反応器内の圧力範囲と同じである。
【0059】
4.MoF6の製造
[反応器]
本実施形態のMoF6の製造方法に用いる反応器は原料モリブデン及び酸化被膜が除去されたモリブデンを充填することができればよく、バッチ式反応器でも連続式でもよい。反応器の材質はF2、MoF6およびHFに耐性のあるものから選ぶことができ、ニッケル、ニッケル合金およびステンレス鋼を挙げることができる。ニッケル合金としては、主にニッケルと銅からなり、他に鉄、マンガン又は硫黄等を含むモネル(登録商標)を例示することができ、ステンレス鋼としては、SUS304、SUS316等のオーステナイト系ステンレス鋼を例示することができる。
【0060】
本実施形態のMoF6の製造方法においては、第1の工程において、原料モリブデンは表面の酸化被膜を除去されて第2の工程においてフッ素含有F2ガスと速やかに反応することができる様に活性化し、第1の工程及び第2の工程の反応器の温度を100℃以下でも操業できることから、反応器の負荷が低い条件で安定的に操業可能となる。更には反応器材質をニッケルやニッケル合金などの高価な材料から汎用的なステンレス鋼に変更することも可能となる
【0061】
本実施形態のMoF
6の製造方法において、第1の工程におけるHF含有ガスと原料モリブデン、第2の工程におけるフッ素含有ガスとモリブデンの接触効率を向上させるためには、原料モリブデン及び酸化被膜が除去されたモリブデン内にガスを流通させるための循環機構を設けてもよい。例えば、
図2に示すように、反応容器16の後段にガス循環ライン19を設け、反応容器16から出るガスを、反応容器16に戻してもよい。しかしながら、第1の工程においては、循環機構を設けずともモリブデンの表面の酸化被膜の除去は可能である。
【0062】
[第1の工程から第2の工程への移行]
本実施形態のMoF6の製造方法における、第1の工程(前処理工程)から第2の工程(反応工程)の移行について説明する。
【0063】
上記第1の工程および第2の工程は別の反応器で行ってもよいが、同じ反応器を用い連続的に行う方が簡便であり、経済的である。第1の工程から第2の工程への移行において、第1の工程後のガス中のHFの濃度が高い場合は、第1の工程後のガスを反応器から除去することが好ましい。第1の工程後のガス中のHFの濃度が低い、又は第1の工程でHFが完全に消費され存在しない場合は、第1の工程後のガスを除去することなく反応器にフッ素含有ガスを供給し、第2の工程を開始してもよい。
【0064】
第1の工程は、反応器に原料モリブデンと、HF含有ガスを充填後、密閉して行うことが好ましく、その方が簡便である。原料モリブデン表面の酸化被膜を除去し活性化させるためには、反応器内部のガスを循環させ流動させておくことが好ましい。
【0065】
第2の工程は、フッ素含有ガスを供給しつつ、反応器内に充填した酸化被膜が除去されたモリブデンを通過させるように流通させ該モリブデンに接触させ、接触後のガスを採取することが簡便である。
【0066】
採取したガスをフーリエ変換赤外光分光光度計で分析することにより、接触後のガス中の生成したMoF6の濃度を測定することができる。
【0067】
[MoF
6の合成装置]
本実施形態のMoF
6の製造方法に用いる、MoF
6の合成装置を
図1に例示する。本実施形態のMoF
6の製造方法に用いる、MoF
6の合成装置は
図1に示す装置に限定されるものではない。
【0068】
図1に示す様に、MoF
6合成装置100は、原料モリブデン18を充填した反応容器(反応器)16、フッ化水素ガス(HF)供給器13、およびフッ素含有ガス供給器14、および図示しない不活性ガス(N
2)供給器により構成される。
【0069】
反応容器16は、図示しないジャケット又は電気ヒーターを備え、ジャケット内には温調した水を流通させ、反応容器16内の温度を調整することができる。電気ヒーターは、反応容器16内を加熱することができる。
【0070】
HFガス供給器13およびフッ素含有ガス供給器14は、図示しないマスフローコントローラーを備える。HFガス供給器13およびフッ素含有ガス供給器14は、これらのガスの流量をマスフローコントローラーにより調整しつつ、反応容器16内に供給することができる。反応後のガスは、反応容器16の後段に設置された生成物取出口17より取り出すことができる。
【0071】
また、反応容器16は、原料モリブデン18を通して流通させるように、HF含有ガス、又はフッ素含有ガスを循環させる循環機構を設けてもよい。
【0072】
5.モリブデンの表面の酸化被膜の除去方法
本開示の第二の実施形態に係るモリブデンの表面の酸化被膜の除去方法は、酸化被膜を有するモリブデンと、HFを50体積ppm以上50体積%以下含む、フッ素ガス及び不活性ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスとを接触させる方法である。
【0073】
前述のように、モリブデンは、大気中では常温常湿においても表面が酸化(腐食)され酸化被膜を生成し、最表面が酸化被膜で覆われることが知られている。
【0074】
しかしながら、本発明者が鋭意検討した所、HF含有ガスを、予め酸化膜を有するモリブデンに150℃以下の低温で接触させておく前処理工程(第1の工程)を加えることで、モリブデン表面の酸化被膜が除去され、フッ素含有ガスに対して活性になり、150℃以下の低温でも酸化被膜が除去されたモリブデンがフッ素含有ガスと速やかに反応し、MoF6が速やかに生成することが分かった([表1]の実施例1~4参照)。すなわち、接触温度150℃以下の温和な条件で、モリブデンの最表面に生成した酸化被膜を除去することができた。
【0075】
本実施形態のモリブデンの表面の酸化被膜の除去方法におけるHF含有ガス中のHFの濃度は、フッ素ガス及び不活性ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスと、HFを合わせた体積を基準とする体積百万分率又は百分率で表して、50体積ppm以上50体積%以下である。HFの濃度が50体積ppmより少ないと、モリブデン表面の酸化被膜を除去する効果が少なく、50体積%より多いと、HFの強い酸化力により反応器が腐食する懸念がある。好ましくは、100体積ppm以上1体積%以下である。
【0076】
本実施形態のモリブデンの表面の酸化被膜の除去方法における接触温度、接触時間、圧力、反応器などは、本実施形態のMoF6の製造方法の第1の工程におけるそれらと同じ条件を採用することができる。
【実施例】
【0077】
具体的な実施例により、本実施形態のMoF6の製造方法を説明する。しかしながら、本開示のMoF6の製造方法は、以下の実施例により限定されるものではない。尚、本実施例において、酸化被膜を除去するための水素水処理等は、原料モリブデンに対し何ら行っていない。
【0078】
[MoF
6合成装置]
以下の実施例に用いた、酸化被膜が除去されたモリブデンとF
2ガスからMoF
6を合成するためのMoF
6合成装置100について、
図1を用いて説明する。
【0079】
図1に示す様に、MoF
6合成装置100は、原料モリブデン18を充填した反応容器(反応器)16、HFガス供給器13、フッ素含有ガス供給器14、および図示しないN
2ガス供給器により構成される。
【0080】
反応容器16は、Ni製の大きさ、内径55mm、外径60mm、長さ300mmのバッチ式反応容器16であり、図示しないジャケット又は電気ヒーターを備える。ジャケット内には温調した水を流量0.5L/minでジャケット内に流通させ、反応容器16内壁の温度を調整することができる。電気ヒーターは、反応容器16内を加熱することができる。
【0081】
HFガス供給器13およびフッ素含有ガス供給器14は、図示しないマスフローコントローラーを備える。HFガス供給器13およびフッ素含有ガス供給器14は、これらのガスの流量をマスフローコントローラーにより調整しつつ、反応容器16内に供給することができる。
【0082】
反応後のガスは、反応容器16の後段に設置された生成物取出口17より取り出すことができる。
【0083】
[MoF6の濃度測定]
生成物取出口17より取り出したガス中のMoF6の濃度は、フーリエ変換赤外光分光光度計(株式会社島津製作所製、型式IRPrestage21)により、測定した。
【0084】
実施例1
[第1の工程](前処理工程)
反応容器16内に、表面に酸化被膜を有することをXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy:X線電子分光法)分析で確認した市販の原料モリブデン18(約600g、粒度3μm)を充填し、反応容器16内を脱気し、次いで、温水を図示しないジャケットに流通させて、反応容器16の内壁を70℃に加温した。反応容器16の内壁を70℃に保った状態で、F2ガスに対し、HFガスの濃度が、100体積ppm(0.01体積%)、且つ、反応容器16の内圧が80kPaになるように、HFガス供給器13およびフッ素含有ガス供給器14からHFガスとF2ガスを供給した。供給後、反応容器16の内壁を140℃に保った状態で、原料モリブデン18を通過するように、循環機構を用いて、反応器内16のガスを循環させつつ、24時間経過させた。反応容器16内のガスを抜き出し、不活性ガス(N2)で置換した後、反応容器16内の反応後のモリブデンの一部を抜出しXPS分析を行った。Mo-O結合由来のピーク(232eV)を有する原料モリブデンに対し、第1の工程後のモリブデンはMo-O結合を示すピークが消失、Mo金属由来のピーク(230eV)のみとなっていることから、酸化被膜が除去されていることを確認した。
【0085】
[第2の工程](反応工程)
続いて、反応容器16の内壁を140℃に保った状態で、反応容器16内にF2ガスを、フッ素含有ガス供給器14より、図示しないマスフローコントローラーを用いて流量、0.5slm(0℃、1atmにおける1分間辺りのリットルで表される流量)で供給しつつ、反応容器16の内圧80kPaにて、F2ガスのみを、反応容器16に充填した酸化被膜を除去したモリブデン18を通過するように、反応容器16に流通させた。流通開始後、20分経過した後、生成物取出口17から反応ガスの一部を取り出し、前記フーリエ変換赤外分光光度計で測定したところ、MoF6ガスが濃度99%以上含まれていた。
【0086】
実施例2
第1の工程において、反応容器16に充填するF2ガス中のHFの濃度を、1,000体積ppm(0.1体積%)に変えた以外は、実施例1と同じ、原料モリブデン18を用い、同様の条件および手順で、第1の工程、次いで第2の工程を行った。第2工程において、流通開始後、20分経過した後、生成物取出口17から反応ガスの一部を取り出し、前記フーリエ変換赤外分光光度計で測定したところ、MoF6ガスが濃度99%以上含まれていた。
【0087】
実施例3
第1の工程において、反応容器16に充填するF2ガス中のHFの濃度を、10,00
0体積ppm(1体積%)に変えた以外は、実施例1と同じ、原料モリブデン18を用い、同様の条件および手順で、第1の工程、次いで第2の工程を行った。第2工程において、流通開始後、20分経過した後、生成物取出口17から反応ガスの一部を取り出し、前記フーリエ変換赤外分光光度計で測定したところ、MoF6ガスが濃度99%以上含まれていた。
【0088】
実施例4
[第1の工程](前処理工程)
反応容器16内に、実施例1で用いたのと同じ原料モリブデン18を充填し、反応容器16内を脱気し、次いで、温水を図示しないジャケットに流通させて、反応容器16の内壁を80℃に加温した。反応容器16の内壁を80℃に保った状態で、F2ガスに対するHFの濃度が、体積百分率で表して100体積ppm(0.01体積%)、且つ、反応容器16の内圧が80kPaになるように、HFガス供給器13およびフッ素含有ガス供給器14からHFガスとF2ガスを供給した。供給後、原料モリブデン18を通過するように、反応容器内16のガスを循環させつつ、反応容器16の内壁を80℃に保った状態で24時間経過させた。
【0089】
[第2の工程](反応工程)
続いて、反応容器16の内壁を80℃に保った状態で、反応容器16内にF2ガスを、フッ素含有ガス供給器14より、図示しないマスフローコントローラーを用いて流量、0.5slmで供給しつつ、反応容器16の内圧80kPaにて、F2ガスのみを、反応容器16に充填した酸化被膜を除去したモリブデン18を通過するように、反応容器16に流通させた。流通開始後、20分経過した後、生成物取出口17から反応ガスの一部を取り出し、前記フーリエ変換赤外分光光度計で測定したところ、MoF6ガスが濃度99%以上含まれていた。
【0090】
実施例5
[第1の工程](前処理工程)
反応容器16内に、実施例1で用いたのと同じ原料モリブデン18を充填し、反応容器16内を脱気し、次いで、温水を図示しないジャケットに流通させて、反応容器16の内壁を80℃に加温した。反応容器16の内壁を80℃に保った状態で、N2ガスに対するHFの濃度が、体積百分率で表して100体積ppm(0.01体積%)、且つ、反応容器16の内圧が80kPaになるように、HFガス供給器13および図示しないN2ガス供給器からHFガスとN2ガスを供給した。供給後、原料モリブデン18を通過するように、反応容器内16のガスを循環させつつ、反応容器16の内壁を80℃に保った状態で24時間経過させた。
【0091】
[第2の工程](反応工程)
続いて、反応容器16の内壁を80℃に保った状態で、反応容器16内にF2ガスを、フッ素含有ガス供給器14より、図示しないマスフローコントローラーを用いて流量、0.5slmで供給しつつ、反応容器16の内圧80kPaにて、F2ガスのみを、反応容器16に充填した酸化被膜を除去したモリブデン18を通過するように、反応容器16に流通させた。流通開始後、20分経過した後、生成物取出口17から反応ガスの一部を取り出し、前記フーリエ変換赤外分光光度計で測定したところ、MoF6ガスが濃度99%以上含まれていた。
【0092】
比較例1
第1の工程において、反応容器16に充填するF2ガス中のHFの濃度を、10体積ppm(0.001体積%)に変えた以外は、実施例1と同じ、原料モリブデン18を用い、実施例1と同様の条件および手順で、第1の工程、次いで第2の工程を行った。生成物取出口17からガスの一部を取り出し、前記フーリエ変換赤外分光光度計で測定したところ、MoF6の濃度は18%であった。
【0093】
比較例2
第1の工程を行うことなしに、実施例1と同じ、原料モリブデン18を用い、実施例1と同様の手順で第2の工程を行った。
【0094】
反応容器16内に原料モリブデン18を封入し、脱気した後、ジャケットに140℃の水を流通させて、反応容器16の内壁を140℃に保った状態で、反応容器16内にF2ガスを、フッ素含有ガス供給器14より、図示しないマスフローコントローラーを用いて流量、0.5slmで供給しつつ、反応容器16の内圧80kPaにて、F2ガスのみを、反応容器16に充填した原料モリブデン18を通過するように、反応容器16に流通させた。流通開始後、20分経過した後、生成物取出口17から生成ガスの一部を取り出し、前記フーリエ変換赤外分光光度計で測定したところ、MoF6ガスの濃度は14%であった。
【0095】
参考例1
第1の工程を行うことなしに、実施例1と同じ、原料モリブデン18を用い、MoF6を製造した。
【0096】
電気ヒーターを用い反応容器16の内壁を250℃に加温した状態で、反応容器16内にF2ガスを、フッ素含有ガス供給器14より、図示しないマスフローコントローラーを用いて流量、0.5slm(0℃、1atmにおける1分間辺りのリットルで表される流量)で供給しつつ、反応容器16の内圧80kPaにて、F2ガスのみを反応容器16に流通させた。流通開始後、20分経過した後、生成物取出口17から生成ガスの一部を取り出し、前記フーリエ変換赤外分光光度計で測定したところ、MoF6ガスが濃度99%以上で含まれていた。
【0097】
表1に、実施例1~4、比較例1~2について、第1の工程における、原料モリブデン18とHFを含むF2ガスとの接触温度、F2中のHF濃度、第2の工程における、酸化被膜が除去されたモリブデンとF2ガスの接触温度、生成物取出口17における生成ガス中のMoF6の濃度を示す。
【0098】
【0099】
本開示のMoF6の製造方法に属する実施例1~4は、第2の工程において、従来よりも低い接触温度である80℃又は140℃であるにもかかわらず反応を開始でき、最終的に99%以上の高い濃度でMoF6が得られた。
【0100】
F2ガス中のHF濃度が薄く、本開示のMoF6の製造方法の範疇にない、比較例1は、MoF6濃度は18%であり、低い濃度であった。
【0101】
本開示のMoF6の製造方法における第1工程を行わなかった、比較例2は、最終的にMoF6濃度は最終的に14%であり、低い濃度であった。
【0102】
従来法による参考例1は、最終的に99%以上の高い濃度でMoF6が得られた。しかしながら、原料モリブデンとF2ガスの接触温度は250℃である。
【符号の説明】
【0103】
100 MoF6合成装置
13 フッ化水素ガス供給器(HFガス供給器)
14 フッ素含有ガス供給器
16 反応容器(反応器)
17 生成物取出口
18 原料モリブデン
19 ガス循環ライン
20 ガス循環ポンプ