(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】切断条件決定方法
(51)【国際特許分類】
B23K 7/10 20060101AFI20231004BHJP
B22D 11/126 20060101ALI20231004BHJP
B23K 7/08 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
B23K7/10 501D
B22D11/126 A
B23K7/08 A
(21)【出願番号】P 2020051752
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】岸原 謙
(72)【発明者】
【氏名】西岡 亮
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-103242(JP,A)
【文献】特開2018-84389(JP,A)
【文献】特開2008-194701(JP,A)
【文献】特開2008-274347(JP,A)
【文献】特開2008-207228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 7/00-7/10
B22D 11/00-11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混入した燃焼ガスおよびパウダを燃焼させて、Ni含有量が60質量%以上の高合金の鋳片を切断するための切断条件を決定する切断条件決定方法であって、
前記燃焼ガスを噴出する火口ノズルから、前記燃焼ガスのマッハ数が1となる位置までの距離であるL1と、前記鋳片から前記火口ノズルまでの距離であるL2とが下記式(1)を満たすように、前記火口ノズルの設置位置を決定する切断条件決定方法。
0.36≦L2/L1≦0.72 …(1)
【請求項2】
下記式(2)を満たすよう、前記火口ノズルの設置位置を決定する請求項1に記載の切断条件決定方法。
0.52<L2/L1<0.64 …(2)
【請求項3】
前記火口ノズルが切断方向へ移動する速度をU、前記鋳片の厚さをTで表すと、下記式(3)を満たすよう、前記速度を決定する請求項2に記載の切断条件決定方法。
U×T<140-Ni含有量 …(3)
【請求項4】
下記式(4)を満たすよう、前記速度を決定する請求項3に記載の切断条件決定方法。
U×T≧8 …(4)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切断条件決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼ガスで鋳片を加熱して、鋳片を溶断するガス切断の一つとして、一般的なガス切断に加えて、パウダを助燃材として用いる切断方法が知られている。この方法は、鉄粉末などの燃焼助剤であるパウダを鋳片の切断部に供給して燃焼ガスで加熱し、パウダとの反応発熱によって鋳片を溶融・除去して切断する方法である。この方法は、通常のガス切断では切断が困難な材料、例えばNiを含む高合金の切断に用いられている。
【0003】
特許文献1には、パウダ切断を行うパウダ切断装置が記載されている。特許文献1に記載のパウダ切断装置は、火口ノズルの先端面において、中央から径方向外側へ、パウダ噴出孔、加熱炎孔が順次設けられた構成である。これによって、パウダが加熱炎により囲まれた状態で加熱・溶融することができ、パウダの燃焼比率を高めて切断効率を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、Niは燃焼ガスと反応しにくく、また、切断時に高融点のNiOが生成されることで、切断ノロの流動性が悪くなることから、鋳片のNi含有量が多いと、その鋳片の切断が困難となる。特許文献1のようにパウダの燃焼比率を高めても、火口ノズルを鋳片に対して適切な位置に設置しないと、燃焼ガスとパウダとの反応熱の最も高い領域の位置が、鋳片の切断位置に対応する位置とならず、熱不足により、切断不良が発生するおそれがある。このため、火口ノズルを適切な位置に設置する等、適切な切断条件に基づいて鋳片を切断することが望まれるが、従来では、経験則に基づいて試行錯誤により火口ノズルの設置位置等の切断条件を決定していた。
【0006】
ところが、鋳片のNi含有量が多いと、適切な切断条件を満たす領域が狭く、従来の方法では切断条件の決定に手間取るおそれがある。そのため、例えば、連続鋳造ラインで生産する鋼材のサイズを異なるサイズに切換えるにあたって、切断条件を変更する必要がある場合に、切断条件の決定までに長い時間を要するおそれがあり、操業効率が低下するおそれがあった。
【0007】
そこで、Ni含有量が多い鋳片を切断するための適正な条件を決定し易くする切断条件決定方法が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、
混入した燃焼ガスおよびパウダを燃焼させて、Ni含有量が60質量%以上の高合金の鋳片を切断するための切断条件を決定する切断条件決定方法であって、
前記燃焼ガスを噴出する火口ノズルから、前記燃焼ガスのマッハ数が1となる位置までの距離であるL1と、前記鋳片から前記火口ノズルまでの距離であるL2とが下記式(1)を満たすように、前記火口ノズルの設置位置を決定することを特徴とする。
0.36≦L2/L1≦0.72 …(1)
【発明の効果】
【0009】
本発明は、火口ノズルの適正な設置位置を決定し易くできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、鋳片を切断する状態を示す図である。
【
図2】
図2は、ジェットコア長さを説明するための図である。
【
図3】
図3は、材質Aにおける、L2/L1とU×Tとの関係を示す図である。
【
図4】
図4は、材質Bにおける、L2/L1とU×Tとの関係を示す図である。
【
図5】
図5は、材質Cにおける、L2/L1とU×Tとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
【0012】
パウダ切断装置1は、上方から下方へ送り出される鋳片20を、所定の位置でパウダ切断する装置である。鋳片20は、60質量%以上のNi含有量を有する高合金である。鋳片20は、長手方向に直交する断面の形状が矩形状である。パウダ切断装置1は、吹管先端に設けられる火口ノズル10と、パウダ用ノズル11とを備えている。
【0013】
火口ノズル10は、酸素を主成分とする燃焼ガスを、鋳片20の切断部21へ噴出するノズルである。火口ノズル10は、その軸方向が、鋳片20の表面(鋳片20の4つの表面のうちノズル軸方向に並ぶ互いに平行な2つの表面)に対して直交するよう、設置されている。後に詳述するが、火口ノズル10は、鋳片20のノズル軸方向に並ぶ2つの表面のうちノズルに近い方の表面から、所定の距離(以下、吹管鋳片間距離といい、L2で表す)だけ離れて設置される。また、火口ノズル10は、切断方向に沿って、所定の速度(以下、切断送り速度という)で移動する。
【0014】
なお、火口ノズル10は、その軸方向が、必ずしも鋳片20の表面に対して直交するよう、設置されていなくてもよい。火口ノズル10は、その軸方向が、鋳片20の表面の法線に対して傾斜して、設置されていてもよい。この場合、吹管鋳片間距離L2は、軸方向に沿った、鋳片20から火口ノズル10までの距離となる。
【0015】
パウダ用ノズル11は、微細な鉄粉またはアルミニウム含有鉄粉などのパウダを噴出する。パウダ用ノズル11は、火口ノズル10に対して傾斜して設けられ、鋳片20の切断部21へ向けて、パウダを噴出する。パウダ用ノズル11は、その軸方向が、火口ノズル10の軸方向に対して約15度傾斜するように、設けられる。
【0016】
パウダ切断装置1は、火口ノズル10から燃焼ガスを吹き込んで燃焼させるとともに、パウダ用ノズル11からパウダを吹き込み、パウダとの反応発熱によって鋳片20を切断する。上記のように、鋳片20はNi含有量が高い高合金であり、燃焼しにくい。このため、鋳片20に対して、適正な位置に火口ノズル10を設置しないと、燃焼ガスとパウダとの反応熱の最も高い点が、鋳片20の切断部21と一致しなくなり、鋳片20の切断不良が発生する。
【0017】
本実施形態では、火口ノズル10の適正な位置を決める条件を決定するための、新たな指標として、火口ノズル10のジェットコア長さを規定している。
図2は、ジェットコア長さを説明するための図である。
図2では、火口ノズル10を、断面で表している。
【0018】
火口ノズル10から高速で燃焼ガスを噴出させると、火口ノズル10の中心軸P上のガス流速が変化しないポテンシャルコア領域13が形成される。ポテンシャルコア領域13では、燃焼ガスは超音速で流動する。燃焼ガスは、火口ノズル10から離れるに従い、ポテンシャルコア領域13の外縁から、最大流速が減衰していき、ポテンシャルコア領域13外では減速する。
【0019】
鋳片20を切断する際、燃焼ガスの流速が衰退しないポテンシャルコア領域13内で切断できるように決定することが好ましい。しかしながら、ポテンシャルコア領域13を正確に把握することは難しく、火口ノズル10を適正な位置に設置することが難しい。そこで、火口ノズル10から噴射された燃焼ガスのマッハ数が1となる位置を基準とし、火口ノズル10から、その基準位置までの距離を、ジェットコア長さとして定義する。ジェットコア長さをL1で表すと、L1は以下の式により算出される。
L1=M1(5.88+1.54M1
2)D1
この式において、D1は、火口ノズル10のスロート部10Aの径[m]であり、M1はスロート部10Aでのマッハ数である。スロート部10Aは、火口ノズル10の内径で最も狭い部分である。また、スロート部10Aでのマッハ数M1は、例えば、雰囲気圧力Paと酸素ガス背圧Ppとから以下の式に基づき算出することができる。
マッハ数M1={5×(Pp/Pa)2/7-1}1/2
この式において、雰囲気圧力Paは、火口ノズル10出口の圧力であり、基本的に大気圧0.1013(MPa)になるが、減圧下ではその時の操業真空度である。酸素ガス背圧Ppは、火口ノズル10入側の酸素ガス背圧に基づいて算出される。なお、マッハ数は、この式以外に、例えば、雰囲気圧力と、火口ノズル10入側の酸素圧力とに基づいて算出してもよく、音速に対するガス流速の相対速度値を求める算出方法で算出すればよい。
【0020】
火口ノズル10の設置位置を決定する際、ジェットコア長さL1と吹管鋳片間距離L2との関係が、0.36≦L2/L1≦0.72を満たすように、火口ノズル10の設置位置を決定する。L2/L1<0.36の場合、又は、L2/L1>0.72の場合は、熱量不足で鋳片20を切断できない。
【0021】
L2/L1の下限値について、好ましくは、0.42<L2/L1である。より好ましくは、0.52<L2/L1である。また、L2/L1の上限値について、好ましくは、L2/L1<0.66であり、より好ましくは、L2/L1<0.62である。例えば、0.42<L2/L1<0.66の場合、鋳片20のNi含有量が99質量%であっても切断が可能となる。また、0.52<L2/L1<0.64の場合、切断送り速度の決定自由度を高くすることができる。なお、L2/L1の上限値と下限値との組み合わせは、適宜変更可能である。
【0022】
ジェットコア長さL1は、上記の式により算出できるため、上記条件から、吹管鋳片間距離L2の決定範囲は明確となる。これにより、火口ノズル10の適正な設置位置を決定しやすくなる。
【0023】
また、0.52<L2/L1<0.64を満たすように火口ノズル10の設置位置を決定した場合、火口ノズル10の切断送り速度の自由度は高くなるが、切断送り速度が速すぎると、鋳片20の切断に失敗する。このため、火口ノズル10の切断送り速度をU、鋳片20の厚さをTで表すと、U×T<140-Ni含有量、を満たすように、切断送り速度Uを決定することが好ましい。さらに、U×Tが過少であると切断面が粗くなるため、U×T≧8を満たすように、切断送り速度Uを決定することが好ましい。
【0024】
以下に、鋳片20の材質および切断条件を変更して、火口ノズル10で鋳片20を切断した場合における、鋳片20の切断の可否を確認する試験の結果を示す。この試験では、鋳片20の材質として、材質A、材質B、材質C、材質Dを用いた。材質Aは、Ni(99質量%)を含有する高合金である。材質Bは、Cr(16質量%)、Ni(75質量%)を含有する高合金である。材質Cは、Cr(21質量%)、Ni(62質量%)、Mo(8.8質量%)を含有する高合金である。材質Dは、Cr(24質量%)、Ni(49質量%)、Mo(8.8質量%)を含有する合金である。
【0025】
この試験では、吹管鋳片間距離L2、鋳片厚みTおよび切断送り速度Uを変更して、各材質A~Dを切断した。なお、いずれの材質に対する試験においても、ジェットコア長さL1は、251.6mmである。材質A~材質Dに対する試験結果を、表1~表4に示す。
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
表1~表4において、失敗理由の「a」は「切込不良」であって、熱が足らず、鋳片20の表面が溶けていない状態である。「b」は「切り残り発生」であって、火口ノズル10側の鋳片20の表面は溶けている(切込は入る)一方で、反対側表面まで溶かしきれていない状態である。「c」は「スプラッシュ発生」であって、溶融した鋳片が飛散した状態である。
【0031】
表4から、ニッケル含有量が60質量%未満の材質Cの場合、吹管鋳片間距離L2の数値にかかわらず、つまり、L2/L1の条件に関係なく、切断が可能であることが分かる。また、この場合、切断送り速度Uの自由度も高いことが分かる。
【0032】
これに対し、ニッケル含有量が60質量%以上の材質A、B、Cの場合、吹管鋳片間距離L2によっては、鋳片20の切断に失敗していることが分かる。そして、0.36≦L2/L1≦0.72を満たしている場合、鋳片20の切断に成功する回数が多くなっていることが分かる。つまり、ニッケル含有量が60質量%以上の鋳片20を切断する場合、0.36≦L2/L1≦0.72を満たすように、火口ノズル10の設置位置を決定すれば、他の条件である切断送り速度Uを調整することで、鋳片20が切断できるようになる。
【0033】
また、0.42<L2/L1<0.66であると、Ni含有量が高い材質Aでも切断が可能となっていることが分かる。さらに、0.52<L2/L1<0.64の場合、切断送り速度Uをより高く決定できることが分かる。
【0034】
次に、材質A、B、Cそれぞれについて、L2/L1とU×Tとの関係を調べた。
図3は、材質Aにおける、L2/L1とU×Tとの関係を示す図である。
図4は、材質Bにおける、L2/L1とU×Tとの関係を示す図である。
図5は、材質Cにおける、L2/L1とU×Tとの関係を示す図である。
図3~
図5は、表1、表2および表3における失敗理由「a:切込不良」の場合と、切断に成功した場合とをそれぞれプロットした図である。
【0035】
図3~
図5において、切断失敗のプロットを最小二乗法により近似曲線を描くと、いずれにおいても、2次関数の相関がみられた。この2次関数において、約0.58では、U×Tは最大となる。つまり、0.52<L2/L1<0.64を満たしている場合、切断送り速度Uをより高く決定することができる。切断送り速度Uをより高く決定することで、切断時間を短縮でき、また、溶断ノロを排除することができる。
【0036】
また、材質Aおよび材質Dの場合、U×Tの上限は、「140-Ni含有量」未満となることが分かる。つまり、0.52<L2/L1<0.64を満たすように火口ノズル10の設置位置を決定する場合、U×T<140-Ni含有量を満たすように、火口ノズル10の切断送り速度Uを決定すればよいことが分かる。
【0037】
さらに、表2から分かるように、U×T<8の場合、鋳片の切断面が粗くなっている。このため、鋳片20の切断面粗さを抑制するために、U×T≧8を満たすように、火口ノズル10の切断送り速度Uを決定すればよいことが分かる。
【0038】
以上のように、60質量%以上のNi含有量の鋳片を切断する際に、切断条件の決定範囲を明確にすることで、火口ノズル10の適正な設置位置を決定し易くできる。
【符号の説明】
【0039】
1 パウダ切断装置
10 火口ノズル
10A スロート部
11 パウダ用ノズル
13 ポテンシャルコア領域
20 鋳片
21 切断部