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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】重荷重タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20231004BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20231004BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20231004BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20231004BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20231004BHJP
   C08K 5/548 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L15/00
C08K3/36
C08K3/22
C08K5/103
C08K5/548
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022552776
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2022015257
(87)【国際公開番号】W WO2023047669
(87)【国際公開日】2023-03-30
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2021155281
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】川角 智子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 瑞哉
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-145239(JP,A)
【文献】国際公開第2014/098155(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/044892(WO,A1)
【文献】特開平6-179732(JP,A)
【文献】特開2014-196407(JP,A)
【文献】特開2019-38875(JP,A)
【文献】特開2020-158709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレン系ゴム60質量%~85質量%と、ガラス転移温度が-50℃未満である変性スチレンブタジエンゴム15質量%~40質量%とを含むジエン系ゴム100質量部に対して、シリカが40質量部以上配合され、且つ、前記シリカの配合量に対してシランカップリング剤が1質量%~20質量%、グリセリン脂肪酸エステル1質量%~20質量%配合され、前記変性スチレンブタジエンゴムのスチレン含有量が25質量%以下、且つビニル含有量が25質量%以上であることを特徴とする重荷重タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記シリカの配合量に対して、酸化亜鉛が3.0質量%~10質量%配合されたことを特徴とする請求項1に記載の重荷重タイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ジエン系ゴム100質量部に対して、窒素吸着比表面積N2SAが65m2/g~120m2/gであるカーボンブラックが1質量部~20質量部配合されたことを特徴とする請求項1または2に記載の重荷重タイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ジエン系ゴム100質量%中に変性ポリブタジエンゴムを1質量%~20質量%含有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の重荷重タイヤ用ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として重荷重タイヤに使用することを意図した重荷重タイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックやバス等の車両に使用される空気入りタイヤ(重荷重タイヤ)は、乗用車用タイヤに比べてタイヤに負荷される荷重が大きいため、耐摩耗性能に優れ、タイヤ寿命が長いことが重要視される。その一方で、地球環境問題への関心の高まりに伴い、重荷重用タイヤにおいても、低燃費性能を改善することが求められている。また、加工性や引張強度等の機械的物性に優れることも求められる。
【0003】
このため、例えば特許文献1は、天然ゴムを主体とするゴム成分にシリカを配合し、且つ、特定のシランカップリング剤を配合することでシリカの分散を良好にして、耐摩耗性および低転がり抵抗性を改良することを提案している。しかしながら、近年、重荷重タイヤおける環境規制が厳しくなっており、低燃費性能に関する要求性能が高度化しているため、前述の対策では必ずしも十分ではなかった。従って、重荷重タイヤ用ゴム組成物において、耐摩耗性、低燃費性能、加工性、および引張強度を改善するための更なる対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2019‐056068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐摩耗性および低燃費性能を従来レベル以上に改良し、且つ、加工性および引張強度を良好にして、これら性能をバランスよく両立した重荷重タイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、イソプレン系ゴム60質量%~85質量%と、ガラス転移温度が-50℃未満である変性スチレンブタジエンゴム15質量%~40質量%とを含むジエン系ゴム100質量部に対して、シリカが40質量部以上配合され、且つ、前記シリカの配合量に対してシランカップリング剤が1質量%~20質量%、グリセリン脂肪酸エステル1質量%~20質量%配合され、前記変性スチレンブタジエンゴムのスチレン含有量が25質量%以下、且つビニル含有量が25質量%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物は、上述のように、ゴム成分として、イソプレン系ゴムとガラス転移温度が-50℃未満である変性スチレンブタジエンゴムとを特定の量ずつ使用し、且つ、特定の量のシリカおよびシランカップリング剤を配合しているので、耐摩耗性および低燃費性能を従来レベル以上に改善することができる。特に、ガラス転移温度が-50℃未満である変性スチレンブタジエンゴムを併用しているので、耐摩耗性を良好にしながら、低燃費性能を改善することができる。また、シリカおよびシランカップリング剤をそれぞれ適度な量で配合しているので、シリカの分散を良好にすることができ、耐摩耗性および低燃費性能を効果的に両立することができる。
【0008】
本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物においては、シリカの配合量に対して、酸化亜鉛を3.0質量%~10質量%配合することが好ましい。このように、シリカを含むゴム組成物において適切な量の酸化亜鉛を配合することで、適した架橋状態を保持でき、引張強度と低燃費性を効果的に両立することができる。
【0009】
本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物においては、シリカの配合量に対して、グリセリン脂肪酸エステル1質量%~20質量%配合する。このように特定の量のグリセリン脂肪酸エステルおよびグリセリン脂肪酸金属塩を配合することで、ゴムに対するシリカの分散性を良好にすることができ、耐摩耗性および低燃費性能を両立するには有利になる。また、上述の量のグリセリン脂肪酸エステルを配合することで、ゴム組成物の粘度を適度に低下させることができ、分散も改善できることから、ゴム組成物の低燃費性や加工性を良好にすることができる。
【0010】
本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物においては、ジエン系ゴム100質量部に対して、窒素吸着比表面積N2SAが65m2/g~120m2/gであるカーボンブラックを1質量部~20質量部配合することが好ましい。このように特定の粒径のカーボンブラックを配合することで発熱を悪化させずにゴムを黒色化できる。
【0011】
本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物においては、ジエン系ゴム100質量%中に変性ポリブタジエンゴムを1質量%~20質量%含有することが好ましい。このように、ゴム成分がイソプレン系ゴムとガラス転移温度が-50℃未満である変性スチレンブタジエンゴムとだけでなく、変性ポリブタジエンゴムを含むことで、より耐摩耗性および低燃費性能を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、重荷重タイヤとは、トラック、バス、建設車両に装着する大型のタイヤを指す。本発明で言う重荷重タイヤは、空気入りタイヤであることが好ましいが、非空気式タイヤであってもよい。空気入りタイヤの場合は、その内部に空気、窒素等の不活性ガスまたはその他の気体を充填することができる。重荷重タイヤ用ゴム組成物は、重荷重タイヤの構成部材、好ましくは、トレッドゴムを形成するゴム組成物を指す。
【0013】
本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分は、イソプレン系ゴムと変性スチレンブタジエンゴムとを必ず含む。また、任意で、変性ポリブタジエンゴムを併用することができる。
【0014】
イソプレン系ゴムとしては、各種天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、各種合成ポリイソプレンゴムを挙げることができる。イソプレン系ゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるゴムを使用することができる。イソプレン系ゴムの含有量は、ジエン系ゴム全体を100質量%としたとき、60質量%~85質量%、好ましくは65質量%~75質量%である。このように特定の量のイソプレン系ゴムを含有することで、耐摩耗性と低燃費性のバランスを良好にすることができる。イソプレン系ゴムの含有量が60質量%未満であると耐チッピング性が悪化する。イソプレン系ゴムの含有量が85質量%を超えると低燃費性が低下する。
【0015】
本発明で使用される変性スチレンブタジエンゴムは、ガラス転移温度が-50℃未満、好ましくは-65℃~-50℃である。このように特定のガラス転移温度の変性スチレンブタジエンゴムを使用することで、耐摩耗性を良好にしながら、低燃費性能を改善することができる。変性スチレンブタジエンゴムの含有量は、ジエン系ゴム全体を100質量%としたとき、15質量%~40質量%、好ましくは25質量%~35質量%である。このように特定の量の変性スチレンブタジエンゴムを含有することで、前述の耐摩耗性および低燃費性能を両立する効果を効果的に発揮することができる。変性スチレンブタジエンゴムの含有量が15質量%未満であると低燃費性が悪化する。変性スチレンブタジエンゴムの含有量が40質量%を超えると引張強度が低下する。
【0016】
本発明で使用される変性スチレンブタジエンゴムのスチレン含有量は、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下であるとよい。また、本発明で使用される変性スチレンブタジエンゴムのビニル含有量は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは35質量%以上であるとよい。スチレン含有量が前述の範囲内であると耐摩耗性を良好にできる。また、ビニル含有量が前述の範囲内であると低燃費性を良好にできる。尚、スチレン含有量およびビニル含有量はそれぞれ赤外分光分析(ハンプトン法)により測定するものとする。変性スチレンブタジエンゴムにおけるスチレン含有量やビニル含有量の増減は、触媒等、通常の方法で適宜調製することができる。
【0017】
本発明で使用される変性スチレンブタジエンゴムの重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnで表わされる分子量分布は、好ましくは4.0以下、より好ましくは2.5以下であるとよい。比Mw/Mnを前述の範囲内にすることで引張強度および耐摩耗性を良好にできる。尚、MwおよびMnはいずれもゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の値である。
【0018】
尚、変性スチレンブタジエンゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるゴムを使用することができる。例えば、分子鎖の片末端または両末端が官能基を有する有機化合物で変性された末端変性スチレンブタジエンゴムを例示することができる。変性前のスチレンブタジエンゴムとしては、溶液重合スチレンブタジエンゴム、乳化重合スチレンブタジエンゴムのいずれを用いることもできる。官能基の種類は特に限定されないが、シリカの分散性を改善する観点から、シリカ表面のシラノール基と反応性を有するものを採用するとよい。シラノール基と反応する官能基としては、例えばヒドロキシル基含有ポリオルガノシロキサン構造、アルコキシシリル基、ヒドロキシル基(水酸基)、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、エポキシ基、アミド基、チオール基、エーテル基を挙げることができる。なかでもヒドロキシル基(水酸基)、アミノ基、アルコキシル基から選ばれる少なくとも一つであるとよい。
【0019】
前述のように、本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物を構成するゴム成分として、任意で変性ポリブタジエンゴムを併用することができるが、変性ポリブタジエンゴムを含む場合、加工性が若干低下する虞があるが、耐摩耗性および低燃費性能に加えて引張強度を改善し、これらをバランスよく両立することができる。変性ポリブタジエンゴムを併用する場合、その含有量は、ジエン系ゴム全体を100質量%としたとき、好ましくは1質量%~20質量%、より好ましくは10質量%~20質量%である。変性ポリブタジエンゴムの含有量が1質量%未満であると、実質的に変性ポリブタジエンゴムを含まないため、変性ポリブタジエンゴムを併用することによる効果が見込めなくなる。変性ポリブタジエンゴムの含有量が20質量%を超えると引張強度が低下する。
【0020】
尚、変性ポリブタジエンゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるゴムを使用することができる。例えば、分子鎖の片末端または両末端が官能基を有する有機化合物で変性された末端変性ポリブタジエンゴムを例示することができる。官能基の種類は特に限定されないが、シリカの分散性を改善する観点から、シリカ表面のシラノール基と反応性を有するものを採用するとよい。シラノール基と反応する官能基としては、例えばヒドロキシル基含有ポリオルガノシロキサン構造、アルコキシシリル基、ヒドロキシル基(水酸基)、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、エポキシ基、アミド基、チオール基、エーテル基を挙げることができる。なかでもヒドロキシル基(水酸基)、アミノ基、アルコキシル基から選ばれる少なくとも一つであるとよい。
【0021】
本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物においては、シリカが必ず配合される。シリカとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるものを使用することができる。例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらを単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。シリカの配合量は、上述したゴム成分100質量部に対して40質量部以上、好ましくは45質量部~60質量部である。このように十分な量のシリカを配合することで、耐摩耗性および低燃費性能を改良することができる。シリカの配合量が40質量部未満であると、耐摩耗性および低燃費性能を改良する効果が十分に見込めなくなる。
【0022】
本発明で使用されるシリカのCTAB吸着比表面積は特に限定されるものではないが、好ましくは120m2/g~230m2/g、より好ましくは140m2/g~175m2/gである。シリカのCTAB吸着比表面積が120m2/g未満であると、耐摩耗性および低転がり抵抗性を改良する効果が十分に得られない虞がある。またシリカのCTAB吸着比表面積が230m2/gを超えると、加工性が悪化する虞がある。本明細書において、シリカのCTAB吸着比表面積は、ISO 5794により測定された値とする。
【0023】
本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物においては、シリカと共にシランカップリング剤が必ず配合される。シリカと共にシランカップリング剤を配合することにより、ゴム成分に対するシリカの分散性を向上し、耐摩耗性および低燃費性能をバランスよく改善することができる。
【0024】
シランカップリング剤の種類は、シリカ配合のゴム組成物に使用可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等の硫黄含有シランカップリング剤を例示することができる。
【0025】
シランカップリング剤の配合量は、前述のシリカの配合量に対して1質量%~20質量%、好ましくは5質量%~15質量%である。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の1質量%未満であるとシリカの分散を十分に改良することができない。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の20質量%を超えるとシランカップリング剤同士が縮合し、ゴム組成物における所望の引張強度を得ることができない。
【0026】
本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物においては、前述のシリカの他に、充填剤としてカーボンブラックを配合することができる。カーボンブラックを併用する場合、その窒素吸着比表面積N2SAは、好ましくは65m2/g~120m2/g、より好ましくは65m2/g~100m2/gであるとよい。このように適度な粒径のカーボンブラックを併用することで耐摩耗性を改善するには有利になる。カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAが65m2/g未満であると耐摩耗性を改善する効果が十分に見込めなくなる。カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAが120m2/gを超えると加工性を確保することが難しくなる。カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAは、JIS K6217‐2に準拠して測定するものとする。
【0027】
カーボンブラックを併用する場合、その配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部~20質量部、より好ましくは5質量部~15質量部である。カーボンブラックの配合量が1質量部未満であるとゴムを黒色化することができない。カーボンブラックの配合量が20質量部を超えると低燃費性が低下する。
【0028】
本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物は、前述のシリカ、カーボンブラック以外の他の無機充填剤を配合することもできる。他の無機充填剤としては、例えばクレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、水酸化アルミニウム等を例示することができる。
【0029】
本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物においては、前述のシリカと共に酸化亜鉛を配合することが好ましい。このように、シリカを含むゴム組成物において適切な量の酸化亜鉛を配合することで、適した架橋状態を保持でき、耐摩耗性および低燃費性能を両立するには有利になる。酸化亜鉛としては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いるものを配合することができる。酸化亜鉛の配合量は、前述のシリカの配合量に対して、2.5質量%以上、好ましくは3.0質量%~10質量%、より好ましくは3.0質量%~7.0質量%である。酸化亜鉛の配合量がシリカの配合量の2.5質量%未満であると加硫戻りが発生し、低燃費性能と耐摩耗性能が低下する。酸化亜鉛の配合量がシリカの配合量の10質量%を超えると加硫が遅くなるため生産性が悪化する。
【0030】
本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物においては、前述のシリカと共にグリセリン脂肪酸エステルおよび/またはグリセリン脂肪酸金属塩を配合することが好ましい。シリカを含むゴム組成物においてグリセリン脂肪酸エステルおよび/またはグリセリン脂肪酸金属塩を配合することで、グリセリン由来の2つの-OH基がシリカ表面のシラノール基に吸着すると同時に、脂肪酸由来の炭素鎖が疎水化部位として作用するので、ゴム組成物の粘度を低下させるとともに、ゴムに対するシリカの分散性を改善することができる。その結果、耐摩耗性および低燃費性能を両立し、更に、ゴム組成物の引張強度や加工性を良好にすることができる。
【0031】
グリセリン脂肪酸エステルおよび/またはグリセリン脂肪酸金属塩の配合量は、前述のシリカの配合量に対して、好ましくは1質量%~20質量%、より好ましくは3質量%~10質量%である。詳述すると、グリセリン脂肪酸エステルまたはグリセリン脂肪酸金属塩のいずれかを単独で配合する場合は、その配合量を、前述のシリカの配合量に対して、好ましくは1質量%~20質量%、より好ましくは3質量%~10質量%にするとよい。また、グリセリン脂肪酸エステルおよびグリセリン脂肪酸金属塩の両方を配合する場合は、個々の配合量は前述の通りにするとよいが、両者の配合量の合計は、前述のシリカの配合量に対して、好ましくは2質量%~20質量%、より好ましくは3質量%~10質量%にするとよい。尚、複数種類のグリセリン脂肪酸エステルを配合する場合や、複数種類のグリセリン脂肪酸金属塩を配合する場合についても、これらの配合量の合計はグリセリン脂肪酸エステルおよびグリセリン脂肪酸金属塩の両方を配合する場合と同様にするとよい。グリセリン脂肪酸エステルおよび/またはグリセリン脂肪酸金属塩の配合量がシリカの質量に対して1質量%未満であると、配合量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。グリセリン脂肪酸エステルおよび/またはグリセリン脂肪酸金属塩の配合量がシリカの質量に対して20質量%を超えると可塑効果によって引張強度が悪化する。
【0032】
本発明において、グリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンに脂肪酸をエステル結合した化合物である。また、グリセリン脂肪酸金属塩は、前述のグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリセリンに脂肪酸をエステル結合した化合物)の金属塩である。ポリグリセリンは、グリセリン同士を脱水縮合したものである。このうちポリグリセリン部分におけるグリセリンンの重合度は、特に限定されるものではないが、好ましくは2~10、より好ましくは3~9である。また、脂肪酸は、飽和または不飽和の炭素数が好ましくは2~24、より好ましくは4~20の脂肪族カルボン酸であるとよく、カルボキシ基以外に置換基を有してもよい。カルボキシ基以外の置換基として例えばヒドロキシ基、アミノ基、リン酸基、チオカルボキシル基、メルカプト基、ニトリル基等を挙げることができる。さらに脂肪酸がヒドロキシ基を有するとき、脂肪酸同士がエステル結合した縮合物であってもよい。
【0033】
このような脂肪酸として例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、9-ヘキサデセン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、cis-9-オクタデセン酸(オレイン酸)、11-オクタデセン酸、cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸(リノール酸)、9,12,15-オクタデカントリエン酸(リノレン酸)、6,9,12-オクタデカトリエン酸、9,11,13-オクタデカトリエン酸、エイコサン酸、8,11-エイコサジエン酸、5,8,11-エイコサトリエン酸、5,8,11-エイコサテトラエン酸、ドコサン酸(ベヘニン酸)、cis-13-ドコセン酸(エルカ酸)、テトラコサン酸、cis-15-テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸、トリアコンタン酸、リシノレイン酸(12-ヒドロキシ‐9‐cis‐オクタデケン酸)、またはこれら任意の縮合物、例えば縮合リシノレイン酸等を挙げることができる。
【0034】
グリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、例えばポリグリセリンラウリン酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステル、ポリグリセリンオレイン酸エステル、ポリグリセリンエルカ酸エステル、ポリグリセリンベヘニン酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ポリグリセリンミリスチン酸エステル、ポリグリセリンリノール酸エステル、等を挙げることができる。これらグリセリン脂肪酸エステルは、単独または任意のブレンドとして使用することができる。
【0035】
上述のグリセリン脂肪酸金属塩の金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属(3~11族の金属)、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、アンチモン等を例示することができる。なかでも、シリカの分散性の観点から、アルカリ金属(リチウム、カリウム、ナトリウムなど)、アルカリ土類金属(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなど)が好ましく、アルカリ土類金属がより好ましく、マグネシウムが更に好ましい。
【0036】
本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物は、加硫または架橋剤、加硫促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲内で配合することができる。またこれら添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫または架橋するのに使用することができる。これら添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。タイヤ用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0037】
本発明の重荷重タイヤ用ゴム組成物を製造するにあたって、各成分を混合する工程は、少なくとも二段階を含むとよい。詳述すると、混合温度147℃以下の条件で混合を行う第一段階と、混合温度130℃~150℃の条件で混合を行う第二段階以降を含むことが好ましい。このような混合温度に設定することで、ゴム組成物に適した剪断をかけることができ、引張強度や耐摩耗性を良好にできる。また、少なくともカーボンブラックを除く材料を第一段階において投入・混合し、第二段階以降でカーボンブラックを投入・混合することが好ましい。このように第二段階以降でカーボンブラックを投入することで、シリカの分散性を良好にでき、全体の混合時間を短縮できるため、低燃費性と生産性を両立することができる。
【0038】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0039】
表1~2に示す配合からなる18種類のタイヤ用ゴム組成物(標準例1、比較例1~6、実施例1~11)を調製するにあたり、それぞれ加硫促進剤および硫黄を除く配合成分を秤量し、1.8Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、マスターバッチを放出し室温冷却した。その後、このマスターバッチを1.8Lの密閉式バンバリーミキサーに供し、加硫促進剤及び硫黄を加え2分間混合して、18種類のタイヤ用ゴム組成物を得た。
【0040】
得られたタイヤ用ゴム組成物について、下記に示す方法により、加工性、引張強度、低燃費性能、耐摩耗性能の評価を行った。
【0041】
加工性
得られた各タイヤ用ゴム組成物を使用して、幅250mm、厚さ20mmのゴムシートを押出成形し、押出速度を測定した。評価結果は、標準例1の値を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど、加工性に優れることを意味する。
【0042】
引張強度
得られたタイヤ用ゴム組成物を用いて、所定形状の金型を用いて145℃、35分間加硫し、各タイヤ用ゴム組成物からなる加硫ゴム試験片を作成した。得られた加硫ゴム試験片から、JIS K6251に準拠して、JIS3号ダンベル形試験片を切り出し、JIS K6251に準拠して、温度20℃、引張速度500mm/分の条件で引張試験を行って引張破断伸びを測定し、引張強度の指標とした。評価結果は、標準例1の値を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど、引張強度が良好であり、重荷重タイヤにしたときの耐チッピング性に優れることを意味する。
【0043】
低燃費性能
得られたタイヤ用ゴム組成物を用いて、所定形状の金型を用いて145℃、35分間加硫し、各タイヤ用ゴム組成物からなる加硫ゴム試験片を作成した。得られた加硫ゴム試験片の60℃におけるtanδを、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメータを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hz、温度60℃の条件で測定した。評価結果は、標準例1の値を100とする指数で示した。この指数値が小さいほど、低燃費性能に優れることを意味する。
【0044】
耐摩耗性
表1~2に示す配合からなる18種類のタイヤ用ゴム組成物(標準例1、比較例1~6、実施例1~11)をそれぞれトレッドゴムに使用し、タイヤサイズが11R22.5である空気入りタイヤ(試験タイヤ)を製造した。このとき、トレッドゴム以外の各部については、すべての試験タイヤで共通とした。これら試験タイヤについて、リムサイズ22.5×9.0のホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとして試験車両に装着し、乾燥路面を5万km走行した後の溝深さを測定することにより、耐摩耗性を測定した。評価結果は、標準例1の値を100とする指数で示した。この指数が大きいほど、残存する溝深さが大きく、耐摩耗性に優れることを意味し、指数値が「95」以上であれば従来レベルと同等以上の優れた性能が得られたことを意味する。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
表1~2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、RSS No.3
・BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol BR1220
・SBR:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol 1502
・変性BR:変性ブタジエンゴム、ランクセス社製 CB24
・変性SBR1:変性スチレンブタジエンゴム、ZSE社製 NS616(ガラス転移温度Tg=-23℃、スチレン含有量=22質量%、ビニル含有量=63質量%、Mw/Mn=1.6)
・変性SBR2:変性スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製 NS612(ガラス転移温度Tg=-61℃、スチレン含有量=15質量%、ビニル含有量=35質量%、Mw/Mn=1.5)
・CB1:カーボンブラック、キャボットジャパン社製 ショウブラックN339(窒素吸着比表面積N2SA:90m2/g)
・CB2:カーボンブラック、キャボットジャパン社製 ショウブラックN550(窒素吸着比表面積N2SA:39m2/g)
・CB3:カーボンブラック、日鉄カーボン社製 ニテロン#430(窒素吸着比表面積N2SA:137m2/g)
・シリカ:Solvay社製 Zeosil 1165MP(CTAB吸着比表面積:156m2/g)
・シランカップリング剤:ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニックデグッサジャパン社製 Si69、
・酸化亜鉛:正同化学工業社製 酸化亜鉛3種
・グリセリン脂肪酸エステル:シグマアルドリッチ社製 モノステアリン酸グリセロール・ステアリン酸:日油社製 ステアリン酸YR
・老化防止剤:Solutia Europe社製 Santoflex 6PPD
・ワックス:大内新興化学社製サンノック
・加硫促進剤:大内新興化学工業社製 ノクセラーCZ‐G
・硫黄:軽井沢精錬所社製 油処理イオウ
【0048】
表1から明らかなように、実施例1~11のタイヤ用ゴム組成物は、標準例1に対して、加工性、引張破断伸び、低燃費性能、および耐摩耗性を同等以上に改善し、これら性能をバランスよく高度に両立した。
【0049】
一方、比較例1は、ゴム成分が天然ゴムのみで構成されて、ガラス転移温度が-50℃未満である変性スチレンブタジエンゴムを含まないため、低燃費性能および耐摩耗性が悪化した。比較例2は、ガラス転移温度が-50℃未満である変性スチレンブタジエンゴムの代わりに未変性のポリブタジエンゴムを含むため、加工性、引張破断伸び、低燃費性能が悪化した。比較例3は、ガラス転移温度が-50℃未満である変性スチレンブタジエンゴムの代わりに変性ポリブタジエンゴムを含むため、加工性および引張破断伸びが悪化した。比較例4は、ガラス転移温度が-50℃未満である変性スチレンブタジエンゴムの代わりに未変性のスチレンブタジエンゴムを含むため、引張破断伸びおよび低燃費性能が悪化した。比較例5は、イソプレン系ゴム(天然ゴム)の配合量が少ないため、引張破断伸びが悪化した。比較例6は、シリカの配合量が少ないため、耐摩耗性が悪化した。