(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】防曇剤組成物、および防曇物品
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20231004BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20231004BHJP
C08G 18/40 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C09K3/00 R
C09K3/18
C08G18/40 018
(21)【出願番号】P 2019235652
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木谷 直
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-150471(JP,A)
【文献】特開2018-165305(JP,A)
【文献】特開2009-263629(JP,A)
【文献】特開2004-269851(JP,A)
【文献】特開2005-029723(JP,A)
【文献】特開2004-076000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C09K 3/18
C09D 1/00-201/10
C08G18/00- 18/87
C08G71/00- 71/04
G02B 1/10- 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソシアネート(A)、ポリオール(B)、界面活性剤、および溶媒を含む防曇剤組成物であって、
前記ポリイソシアネート(A)は、ジイソシアネートおよびその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリイソシアネート化合物であり、
前記ポリオール(B)は、ポリエーテルポリオール(b1)と、ポリカプロラクトンポリオール(b2)を含み、
前記ポリエーテルポリオール(b1)は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって示差屈折率計を用いて得られたクロマトグラムにおいて、屈折率強度最大点での分子量が300~1,800であり、溶出開始点から前記屈折率強度最大点に対応する溶出時点までのピーク面積をS1とし、前記屈折率強度最大点に対応する前記溶出時点から溶出終了点までのピーク面積をS2としたとき、S2/S1が1.5以上2.0以下であり、
前記ポリカプロラクトンポリオール(b2)に対する前記ポリエーテルポリオール(b1)の質量比((b1)/(b2))が、5以上15以下であることを特徴とする防曇剤組成物。
【請求項2】
前記ポリイソシアネート(A)と前記ポリオール(B)の合計に対して、前記ポリイソシアネート(A)の割合が20質量%以上70質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の防曇剤組成物。
【請求項3】
前記ポリカプロラクトンポリオール(b2)は、数平均分子量が300以上1,800以下であることを特徴とする請求項1または2記載の防曇剤組成物。
【請求項4】
シリコーンオイルを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の防曇剤組成物。
【請求項5】
反応遅延剤を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の防曇剤組成物。
【請求項6】
基材上に、請求項1~5のいずれかに記載の防曇剤組成物から形成される防曇膜を有することを特徴とする防曇性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇剤組成物、および防曇物品に関する。
【背景技術】
【0002】
湿気の多い場所などでは、物品の表面に結露が生じる場合がある。特に、窓ガラスやレンズなどの透明物品や、鏡などの反射物品では、結露により発生する曇りにより光の進行が妨げられると、ユーザーに対して正常な視野が提供されなくなる。したがって、このような物品は、曇りを防止するための機能を有することが好ましい。
【0003】
例えば、曇りを防止するために電熱線を用いた物品が知られている。このような物品の表面近傍には電熱線が張り巡らされ、電熱線が通電により発熱すると、物品の表面の温度が上昇する。これにより、物品の表面に結露が生じにくくなる。しかし、このような物品では、駆動のために電力が必要であるため、構成が複雑化するとともに、ランニングコストがかかる。そのため、簡便に曇り防止ができる方法が求められている。
【0004】
特許文献1および2には、物品の表面に設けられた防曇膜が開示されている。親水性の塗膜で物品の表面を覆うことにより、物品の表面における曇りの発生を簡単かつ効果的に防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-150471号公報
【文献】特開2018-165305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1および2に記載の防曇膜では、高湿度環境下において防曇膜のべたつきが見られ、ユーザーでの使用感が低下する懸念があった。さらに、市場では、透明性に優れる塗膜外観を有する防曇膜が要求されている。
【0007】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、透明性と手触り感に優れる防曇膜が形成できる防曇剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、ポリイソシアネート(A)、ポリオール(B)、界面活性剤、および溶媒を含む防曇剤組成物であって、前記ポリイソシアネート(A)は、ジイソシアネートおよびその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリイソシアネート化合物であり、前記ポリオール(B)は、ポリエーテルポリオール(b1)と、ポリカプロラクトンポリオール(b2)を含み、前記ポリエーテルポリオール(b1)は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって示差屈折率計を用いて得られたクロマトグラムにおいて、屈折率強度最大点での分子量が300~1,800であり、溶出開始点から前記屈折率強度最大点に対応する溶出時点までのピーク面積をS1とし、前記屈折率強度最大点に対応する前記溶出時点から溶出終了点までのピーク面積をS2としたとき、S2/S1が1.5以上2.0以下であり、前記ポリカプロラクトンポリオール(b2)に対する前記ポリエーテルポリオール(b1)の質量比((b1)/(b2))が、5以上15以下である防曇剤組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、基材上に、前記防曇剤組成物から形成される防曇膜を有する防曇物品に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の防曇剤組成物における効果の作用メカニズムの詳細は不明な部分があるが、以下のように推定される。ただし、本発明は、この作用メカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0011】
本発明の防曇剤組成物は、ポリイソシアネート(A)、ポリオール(B)、界面活性剤、および溶媒を含み、前記ポリオール(B)は、特定の分子量分布をもつポリエーテルポリオール(b1)と、ポリカプロラクトンポリオール(b2)を含み、ポリカプロラクトンポリオール(b2)に対するポリエーテルポリオール(b1)の質量比((b1)/(b2))が特定比であることにより、ポリイソシアネート(A)とポリオール(B)から形成されるポリウレタン樹脂の親水性と疎水性のバランスが適正化できることが推定されるため、本発明の防曇剤組成物から形成される防曇膜は、優れた透明性と手触り感を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ポリエーテルポリオール(b1)のゲル浸透クロマトグラフィーにより得られるクロマトグラムのモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の本発明の防曇剤組成物は、ポリイソシアネート(A)、ポリオール(B)、界面活性剤、および溶媒を含む。
【0014】
<ポリイソシアネート(A)>
本発明のポリイソシアネート(A)は、ジイソシアネートおよびその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリイソシアネート化合物である。前記ジイソシアネートとしては、例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート、トリレン-2,6-ジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートなどが挙げられる。前記ジイソシアネートの誘導体としては、例えば、前記脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、および/または芳香族ジイソシアネートなどを出発原料として合成されたもので、ビュレット体、トリメチロールプロパンとのアダクト体、イソシアヌレート体、アロファネート体などの、脂肪族ジイソシアネートの誘導体、脂環式ジイソシアネートの誘導体、芳香族ジイソシアネートの誘導体などが挙げられる。前記ポリイソシアネート(A)は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせてもよい。
【0015】
前記ポリイソシアネート(A)は、防曇膜の架橋密度を高め、防曇膜の強度を向上させる観点から、脂肪族ジイソシアネートの誘導体、脂環式ジイソシアネートの誘導体、芳香族ジイソシアネートの誘導体が好ましく、脂環式ジイソシアネートの誘導体がより好ましく、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンの誘導体、イソホロンジイソシアネートの誘導体がさらに好ましい。また、前記誘導体は、トリメチロールプロパンとのアダクト体が好ましい。とくに、前記ポリイソシアネート(a)は、防曇膜の強度および防曇性を向上させる観点から、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンとトリメチロールプロパンのアダクト体と、イソホロンジイソシアネートとトリメチロールプロパンのアダクト体との併用が好ましい。
【0016】
前記ポリイソシアネート(a1)は、市販されているものとして、例えば、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(住化バイエルウレタン株式会社製、商品名:デスモジュールZ4470BA)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンのトリメチロールプロパンアダクト体(三井化学株式会社製、商品名:タケネートD-120N)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンのイソシアヌレート体(三井化学株式会社製、商品名:タケネートD-127N)、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(三井化学株式会社製、商品名:タケネートD-140N)などが挙げられる。
【0017】
<ポリオール(B)>
本発明のポリオール(B)は、ポリエーテルポリオール(b1)と、ポリカプロラクトンポリオール(b2)を含む。
【0018】
<ポリエーテルポリオール(b1)>
前記ポリエーテルポリオール(b1)は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって示差屈折率計を用いて得られたクロマトグラムにおいて、屈折率強度最大点での分子量が300~1,800であり、溶出開始点から前記屈折率強度最大点に対応する溶出時点までのピーク面積をS1とし、前記屈折率強度最大点に対応する前記溶出時点から溶出終了点までのピーク面積をS2としたとき、ピーク面積比(S2/S1)が1.5以上2.0以下である。
【0019】
上記のピーク面積比(S2/S1)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)において、示差屈折率計を用いて得られたクロマトグラムによって規定される分子量分布である。このクロマトグラムとは、屈折率強度と溶出時間との関係を表すグラフである。
【0020】
ここで、
図1は、ポリエーテルポリオール(b1)のゲル浸透クロマトグラフィーにより得られるクロマトグラムのモデル図であり、横軸は溶出時間を、縦軸は示差屈折率計を用いて得られた屈折率強度を示す。
【0021】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)に試料溶液を注入して展開すると、最も分子量の高い分子から溶出が始まり、屈折率強度の増加に伴い、溶出曲線が上昇していく。その後、屈折率強度が最大となる屈折率強度最大点Kを過ぎると、溶出曲線は下降していく。
【0022】
ポリエーテルポリオール(b1)は、ゲル浸透クロマトグラフィーにおいて、クロマトグラムの屈折率最大点は通常は一つであり、単峰性のピークとなる。この際、ゲル浸透クロマトグラフィーに使用した展開溶媒などに起因するピークや、使用したカラムや装置に起因するベースラインの揺らぎによる疑似ピークは除く。
【0023】
ここで、溶出開始点Oから屈折率強度最大点Kに対応する溶出時点Cまでのピーク面積をS1とする。なお、溶出時点Cは、屈折率強度最大点KからベースラインBへと引いた垂線Pと、ベースラインBとの交点にある。そして、溶出時点Cから溶出終了点Eまでのピーク面積をS2とする。ピーク面積S1は相対的に高分子量側の成分の量に対応し、ピーク面積S2は相対的に低分子量側の成分の量に対応する。そして、S2/S1が1.5以上2.0以下であるということは、低分子量側の成分が高分子量側の成分より、ある程度多いことを意味しており、この分子量バランスが、防曇膜の手触り感に寄与している。
【0024】
上記のピーク面積比(S2/S1)を求めるためのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、GPCシステムとしてTOSOH HLC-8320GPCを用い、カラムとしてTOSOH TSKgel Super Multipore HZ-Mを2本とTOSOH TSKgel Super H-RCを1本連続装着する。そして、カラム温度を40℃とし、基準物質をポリスチレンとし、展開溶媒としてテトラヒドロフランを用いる。展開溶媒は、1ml/minの流速で流し、サンプル濃度0.5質量%のサンプル溶液0.1mlを注入した。屈折率強度最大点での分子量は、EcoSEC-Work Station GPC計算プログラムを用いて得られた屈折率強度と溶出時間で表されるクロマトグラムをもとに求めた、標準ポリスチレンの数平均分子量から換算される分子量である。一方、ポリエーテルポリオール(b1)の数平均分子量は、上記の条件にて、算出できる。
【0025】
前記クロマトグラムにおいて、上記のピーク面積比率S2/S1が1.5以上2.0以下であっても、前記ポリエーテルポリオール(b1)における屈折率強度最大点での分子量が300より小さい場合、前記ポリイソシアネート化合物(A)との相溶性が低下する。このような観点から、前記ポリエーテルポリオール(b1)における屈折率強度最大点での分子量は、400以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましく、700以上であることがさらに好ましい。また、上記のピーク面積比率S2/S1が1.5以上2.0以下であっても、前記ポリエーテルポリオール(b1)における屈折率強度最大点での分子量が1,800より大きい場合、防曇膜の強度が低下する傾向にあるので、1,500以下であることが好ましく、1,200以下であることがより好ましい。
【0026】
前記クロマトグラムにおいて、前記ポリエーテルポリオール(b1)における屈折率強度最大点での分子量が300~1,800であっても、上記のピーク面積比率S2/S1が2.0よりも大きい場合(分子量が小さいポリエーテルポリオールの割合が高い場合)、防曇膜の透明性が低下する。また、ピーク面積比率S2/S1が1.5より小さい場合(分子量が大きいポリエーテルポリオールの割合が高い場合)、防曇膜の手触り感が低下し、防曇膜のべたつきが見られる。
【0027】
前記ポリエーテルポリオール(b1)としては、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールに、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフランなどのアルキレンオキサイドからなる群より選ばれる少なくとも1種を付加させることにより得られるポリマーが挙げられる。この付加反応において、反応温度や反応系中の水分量などが、上記の分子量分布を変動させる要因となる。前記アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドを含むものが好ましく、エチレンオキサイドのみを付加するものがより好ましい。前記ポリエーテルポリオール(b1)は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせてもよい。
【0028】
前記ポリエーテルポリオール(b)としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールの共重合体ポリオール、ポリオキシエチレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシエチレントリメチロールプロパン、ポリオキシジグリセリルエーテル、ペンタエリスリトールポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンペンタエリスリトールエーテルなどが挙げられる。とくに、前記ポリエーテルポリオール(b)は、防曇膜の硬度、防曇性を向上させる観点から、ポリオキシエチレングリセリルエーテルを用いることが好ましい。
【0029】
<ポリカプロラクトンポリオール(b2)>
前記ポリカプロラクトンポリオール(b2)は、防曇膜の強度が向上できる。前記ポリカプロラクトンポリオール(b2)は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせてもよい。なお、当該数平均分子量は、ポリカプロラクトンポリオール(b2)の水酸基価によって算出できる。
【0030】
前記ポリカプロラクトンポリオール(b2)は、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールと、ε-カプロラクトンとを開環重合して得られる化合物であり、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオール、ポリカプロラクトンテトラオール、ポリカプロラクトンヘキサオールなどが挙げられる。
【0031】
前記ポリカプロラクトンポリオール(b2)の数平均分子量は、ウレタン塗料組成物中の各成分との相溶性を高める観点から、300以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましく、450以上であることがさらに好ましく、そして、防曇膜の耐擦傷性を向上させる観点から、1,800以下であることが好ましく、1,500以下であることがより好ましく、1,000以下であることがさらに好ましい。前記ポリエーテルポリオール(b2)の1分子あたりの水酸基数は、防曇膜の強度を向上させる観点から、3以上であることであることが好ましく、そして、ウレタン塗料組成物中の各成分との相溶性を高める観点から、6以下であることが好ましい。
【0032】
前記ポリオール(B)は、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオールなどを含むことができる。
【0033】
<界面活性剤>
本発明の界面活性剤は、防曇膜の表面に付着した水分の表面張力を低下させ、防曇膜の表面に水膜を形成させることにより防曇性を向上させるための成分である。
【0034】
前記界面活性剤は、従来から知られているものを全て使用することができるが、例えば、非イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤などが挙げられる。これらの中でも、ポリイソシアネート(A)とポリオール(B)から形成されるポリウレタン樹脂との親和性の点から、陰イオン系界面活性剤が好ましい。前記界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせてもよい。
【0035】
前記陰イオン系界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウムなどの脂肪酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウムなどの高級アルコール硫酸エステル類;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩およびアルキルナフタレンスルホン酸塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ジアルキルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンサルフェート塩などが挙げられる。さらに、これらの界面活性剤の炭化水素残基の水素原子がフッ素原子に一部置換されたものも使用される。
【0036】
<溶媒>
本発明の溶媒は、防曇剤組成物の粘度や塗装性、防曇膜の平滑性の改良のため、使用するものであり、ポリイソシアネート(A)、ポリオール(B)などの成分を、溶解または分散することができるものであり、乾燥温度において揮発する有機溶媒であれば、特に制限されるものではない。
【0037】
前記溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒、カルボン酸エステル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、エーテル系溶媒、脂肪族および芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。前記アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、ジアセトンアルコール、2-メトキシエタノール(メチルセロソルブ)、2-エトキシエタノール(エチルセロソルブ)、2-ブトキシエタノール(ブチルセロソルブ)、ターシャリーアミルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールなどが挙げられる。前記カルボン酸エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸ブチル、ギ酸ブチルなどが挙げられる。前記ケトン系溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。前記アミド系溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。前記エーテル系溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、メトキシトルエン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。前記脂肪族および芳香族炭化水素系溶媒としては、例えば、ヘキサン、ペンタンキシレン、トルエン、ベンゼンなどが挙げられる。前前記溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせてもよい。
【0038】
前記ポリイソシアネート(A)と前記ポリオール(B)の合計に対して、前記ポリイソシアネート(A)の割合が20質量%以上70質量%以下であることが好ましい。前記ポリイソシアネート(A)と前記ポリオール(B)の合計に対して、前記ポリイソシアネート(A)の割合は、防曇膜の強度を向上させる観点から、30質量%以上であることが好ましく、そして、防曇膜の柔軟性を高める観点から、60質量%以下であることが好ましい。
【0039】
前記ポリイソシアネート(A)および前記ポリオール(B)は、前記ポリイソシアネート(A)のイソシアネート基/前記ポリオール(B)の水酸基の当量比が、0.3以上3以下で配合されることが好ましく、0.5以上2以下で配合されることがより好ましい。
【0040】
前記ポリオール(B)において、前記ポリエーテルポリオール(b1)と前記ポリカプロラクトンポリオール(b2)の合計割合は、防曇膜の強度を向上させる観点から、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0041】
前記ポリカプロラクトンポリオール(b2)に対する前記ポリエーテルポリオール(b1)の質量比((b1)/(b2))は、5以上15以下である。前記ポリカプロラクトンポリオール(b2)に対する前記ポリエーテルポリオール(b1)の質量比((b1)/(b2))は、防曇膜の防曇性を高める観点から、9以上であることが好ましく、そして、防曇膜の手触り感の観点から、12以下であることが好ましい。
【0042】
前記界面活性剤は、前記ポリイソシアネート(A)と前記ポリオール(B)の合計100質量部に対して、0.5~15質量部であることが好ましく、1~10質量部であることがより好ましい。
【0043】
前記溶媒の使用量は、前記防曇剤組成物の固形分100質量部に対して、通常、0.5以上1000質量部以下程度である。
【0044】
本発明の防曇剤組成物は、シリコーンオイルを含有していても良い。前記シリコーンオイルを含有することにより、防曇膜の平滑性が向上できる。前記シリコーンオイルは、防曇膜の防曇性を向上させる観点から、10以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましく、そして、ウレタン塗料組成物中の各成分との相溶性を高める観点から18以下であることが好ましく、16以下であることがより好ましい。なお、HLB(親水性-親油性のバランス、Hydrophilic-Lypophilic Balance)は、界面活性剤の全分子量に占める親水基部分の分子量を示すものである。HLBは、グリフィン(Griffin)の式により求められる。前記シリコーンオイルは、2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
前記シリコーンオイルとしては、シリコーンオイルの側鎖および/または末端の炭化水素基が有機基で置換された構造を有する化合物が好ましい。前記有機基としては、例えば、ポリエーテル基、長鎖アルキル基、高級脂肪酸エステル基などが挙げられ、なかでも、ポリエーテル基が好ましい。
【0046】
前記ポリエーテル基としては、例えば、ポリエチレンオキシ基、ポリプロピレンオキシ基、エチレンオキシ基(EO)とプロピレンオキシ基(トリメチレンオキシ基またはプロパン-1,2-ジイルオキシ基;POがブロック状またはランダムに付加したポリアルレンオキシ基が挙げられる。
【0047】
前記シリコーンオイルとしては、例えば、ポリエーテル変性オルガノポリシロキサン(HLB値=12、信越化学工業株式会社製、商品名:KF-642)、ポリエーテル変性オルガノポリシロキサン(HLB値=14、信越化学工業株式会社製、商品名:KF-640)、ポリエーテル変性オルガノポリシロキサン(HLB値=12、信越化学工業株式会社製、商品名:KF-351A)などが挙げられる。
【0048】
前記シリコーンオイルを使用する場合、前記シリコーンオイルは、前記ポリイソシアネート(A)と前記ポリオール(B)の合計100質量部に対して、0.1~3質量部であることが好ましい。
【0049】
前記シリコーンオイルを使用する場合、前記シリコーンオイルに対する前記界面活性剤の質量比(界面活性剤/シリコーンオイル)は、3以上50以下であることが好ましく、10以上45以下であることがより好ましい。
【0050】
<反応遅延剤>
本発明の防曇剤組成物は、反応遅延剤を含有していても良い。前記反応遅延剤は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
前記反応遅延剤としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、フタル酸、シュウ酸、コハク酸などの有機酸;塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸が挙げられる。
【0052】
前記反応遅延剤を使用する場合、前記反応遅延剤は、前記ポリイソシアネート(A)と前記ポリオール(B)の合計100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、0.5~5質量部であることがより好ましい。
【0053】
<その他の成分>
本発明の防曇剤組成物には、その他の成分として、必要に応じ、触媒、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの慣用の各種添加剤を配合することができる。前記その他の成分の添加量は、それぞれの添加剤につき慣用的な添加量で配合することができるが、通常、前記ポリイソシアネート(A)と前記ポリオール(B)の合計100質量部に対して、10質量部以下程度である。
【0054】
<防曇性物品>
本発明の防曇性物品は、前記防曇剤組成物を、通常の塗料において行われる塗装方法により基材に塗装し、加熱硬化することによって、基材表面に防曇膜が形成されたものである。
【0055】
前記基材としては、その種類は問わず、例えば、ガラス、シリコンウエハ、金属、プラスチックなどのフィルムやシート、および立体形状の成形品などが挙げられ、基材の形状が制限されることは無い。前記プラスチックとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アセテート樹脂、ABS樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。
【0056】
前記基材への塗装の際には、基材に対する防曇剤組成物の濡れ性を高め、はじきを防止する目的で、塗装前における基材表面の付着異物除去を行うことが好ましい。当該方法としては、高圧エア、イオン化エアによる除塵;洗剤水溶液、アルコール溶剤による超音波洗浄;アルコール溶剤などを使用したワイピング;紫外線、オゾンによる洗浄などが挙げられる。また、塗装方法としては、例えば、グラビア法、ロールコート法、ディップコート法、ハケ塗り法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ダイコート法、スピンコート法などが挙げられる。また、塗装直後の前記防曇剤組成物中に含まれる溶媒を揮発乾燥させることを目的として、加熱硬化の工程の前に乾燥工程を設けることができる。
【0057】
前記加熱硬化の温度は、通常、60~150℃の温度で5~60分間、望ましくは70~130℃の温度で10~40分間である。また、前記乾燥は、通常、20~50℃の温度で0.5~5分間の条件下で行われる。ただし、基材がプラスチックである場合には、硬化温度をプラスチックの熱変形温度以下に設定することが好ましい。
【0058】
前記防曇膜の膜厚は、防曇性を向上させる観点から、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、そして、平滑性を高める観点から、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0059】
前記防曇性物品は、眼鏡、窓、鏡などに用いることが好ましい。具体的な眼鏡としては、例えば、視力矯正用眼鏡、保護眼鏡、保護面体などが挙げられる。
【0060】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されない。
【実施例】
【0061】
<実施例1>
<防曇剤組成物の製造>
ポリイソシアネート(A)として、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンのトリメチロールプロパンアダクト体(商品名:タケネート D-120N、三井化学(株)社製、有効成分75質量%)を69質量部(有効成分量として52質量部)、ポリエーテルポリオール(b1)として、ポリオキシエチレングリセリルエーテル(分子量750、S2/S1=1.5)を40質量部、ポリカプロラクトンポリオール(b2)として、ポリカプロラクトントリオール(商品名:PLACCEL 308、(株)ダイセル社製、1分子あたりの水酸基数3、数平均分子量800)を8質量部、界面活性剤として、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム(商品名:ラピゾール A-90、日油(株)社製、有効成分90質量%)を3質量部、シリコーンオイルとして、ポリエーテル変性オルガノポリシロキサン(商品名:KF-642、信越化学工業(株)社製、HLB値=12)を0.2質量部、反応遅延剤として、酢酸を1質量部、さらに溶媒として、ジアセトンアルコールを50質量部と酢酸エチルを38質量部とを混合し、防曇剤組成物を製造した。
【0062】
<防曇性物品の作製>
上記で得られた防曇剤組成物を、ポリカーボネート基材(5cm×5cm×1mm、商品名:ユーピロンシートNF-2000、MGCフィルシート(株)社製)にバーコーターを用いて塗布した。そして、ポリカーボネート基材を、100℃で30分間保持することによって乾燥することにより、ポリカーボネート基材上に、厚さが約10μmの防曇膜を有する防曇性物品(試験片)を作製した。
【0063】
上記で得られた試験片を用い、下記の(1)~(3)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
<(1)透明性の評価>
ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製NDH5000)によって、防曇膜を有する防曇性物品(試験片)のヘイズ(%)測定によって判定した。判定基準は以下のとおりである。
◎:基材とのヘイズの値の差が1未満
〇:基材とのヘイズの値の差が1以上3未満
×:基材とのヘイズの値の差が3以上
【0065】
<(2)手触り感の評価>
試験片を30℃、60%RH下の環境にて24時間以上静置したのち、防曇膜表面のべたつきを指触によって判定した。判定基準は以下のとおりである。
◎:べたつきが見られない
〇:べたつきがわずかにみられる
×:明らかにべたつきがみられる
【0066】
<(3)防曇性の評価>
温度が50℃の恒温水槽上の水面から1cmの位置に、防曇膜面が下になるように上記で得られた試験片を固定し、曇りの状態を目視によって判定した。判定基準は以下のとおりである。
○:試験片を固定後、5分以上曇りが生じない
×:試験片を固定後、すぐに曇りが生じる
【0067】
<実施例2~6、および比較例1~3>
<防曇剤組成物の製造、および防曇性物品の作製>
各実施例および比較例において、各原料の種類とその配合量を表1に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様の方法により、防曇剤組成物を製造し、さらにポリカーボネート基材上に防曇膜を有する防曇性物品(試験片)を作製した。
【0068】
上記で得られた試験片を用い、上記の評価方法により、透明性、手触り感、および防曇性を評価した。結果を表1に示す。
【0069】
【0070】
表1中、タケネート D-120Nは、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンのトリメチロールプロパンアダクト体(商品名:タケネート D-120N、三井化学(株)社製、有効成分75質量%);
タケネート D-140Nは、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(商品名:タケネート D-140N、三井化学(株)社製、有効成分75質量%);
PLACCEL 308は、ポリカプロラクトントリオール(商品名:PLACCEL 308、(株)ダイセル社製、1分子あたりの水酸基数3、数平均分子量800);
PLACCEL 312は、ポリカプロラクトントリオール(商品名:PLACCEL 312、(株)ダイセル社製、1分子あたりの水酸基数3、数平均分子量1250);
ユニオックス G750は、ポリオキシエチレングリセリルエーテル(商品名:ユニオックス G750、日油(株)社製、屈折率強度最大点での分子量730、S2/S1=1.3)
ラピゾール A-90は、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム(商品名:ラピゾール A-90、日油(株)社製、有効成分90質量%);
KF-642は、ポリエーテル変性オルガノポリシロキサン(商品名:KF-642、信越化学工業(株)社製、HLB値=12);
KF-640はポリエーテル変性オルガノポリシロキサン(商品名:KF-640、信越化学工業(株)社製、HLB値=14);を示す。
【0071】
また、前記GPC測定から換算された、ポリエーテルポリオールの数平均分子量は以下の通りであった。ポリオキシエチレングリセリルエーテル(数平均分子量630、屈折率強度最大点での分子量730、S2/S1=1.5)、ポリオキシエチレングリセリルエーテル(数平均分子量510、屈折率強度最大点での分子量730、S2/S1=1.8)、ポリオキシエチレングリセリルエーテル(商品名:ユニオックス G750、日油(株)社製、数平均分子量710、屈折率強度最大点での分子量730、S2/S1=1.3)。
【0072】
実施例1~6の防曇剤組成物から形成された防曇膜は、透明性と手触り感と防曇性を発現することが確認された。特に、実施例2、6では、透明性と手触り感と防曇性において優れた結果が得られている。
【0073】
一方、比較例1では、ポリエーテルポリオール(b1)のピーク面積比(S2/S1)が小さいため、手触り感の低下が見られた。
【0074】
比較例2では、ポリカプロラクトンポリオール(b2)に対するポリエーテルポリオール(b1)の質量比((b1)/(b2))が大きいため、透明性の低下が見られた。
【0075】
比較例3では、ポリカプロラクトンポリオール(b2)に対するポリエーテルポリオール(b1)の質量比((b1)/(b2))が小さいため、防曇性の低下が見られた。