(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】高速磁化反転方法、高速磁化反転デバイス、及び磁気メモリ装置
(51)【国際特許分類】
H10B 61/00 20230101AFI20231004BHJP
G11C 11/16 20060101ALI20231004BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20231004BHJP
H10N 50/20 20230101ALI20231004BHJP
【FI】
H10B61/00
G11C11/16 100A
G11C11/16 240
H01L29/82 Z
H10N50/20
(21)【出願番号】P 2019100670
(22)【出願日】2019-05-29
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】本多 周太
(72)【発明者】
【氏名】安藤 裕一郎
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0077392(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0269036(US,A1)
【文献】特開2019-047110(JP,A)
【文献】特開2018-074139(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109637569(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10B 61/00
G11C 11/16
H01L 29/82
H10N 50/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化容易軸を第1方向とする強磁性金属層と
、前記第1方向と交差する方向に延伸されて前記強磁性金属層に接合された第1の非磁性金属層と、前記第1方向と平行な方向又は前記第1方向と垂直な方向に延伸されて前記強磁性金属層に接合された第2の非磁性金属層と、からなる金属層構造における前記強磁性金属層の磁化をスピン軌道トルクにより反転させる高速磁化反転方法であって、
前記強磁性金属層の前記磁化容易軸上での磁化反転を誘起するために前記
第1の非磁性金属層から前記強磁性金属層に
、前記第1方向と平行な方向に磁化された反転スピン流を注入するスピン注入磁化反転工程と、
前記
第2の非磁性金属層から前記強磁性金属層に
前記第1方向に交差する交差方向に磁化された補助スピン流を
注入する補助スピン流注入工程とを有
する、
高速磁化反転方法。
【請求項2】
前記第1の非磁性金属層の一部と前記第2の非磁性金属層の一部は共通している請求項1に記載の高速磁化反転方法。
【請求項3】
前記スピン注入磁化反転工程の前記反転スピン流は磁化反転中の全体の時間を通じて前記強磁性金属層へ注入し、前記補助スピン流は前記反転スピン流が前記強磁性金属層へ注入されている間に注入することを特徴とする請求項1に記載の高速磁化反転方法。
【請求項4】
前記補助スピン流は、前記スピン注入磁化反転工程と同時に前記強磁性金属層へ注入し始めることを特徴とする請求項3に記載の高速磁化反転方法。
【請求項5】
前記補助スピン流は、前記スピン注入磁化反転工程の開始直前に前記強磁性金属層へ注入し始めることを特徴とする請求項1に記載の高速磁化反転方法。
【請求項6】
前記第1の非磁性金属層は、前記強磁性金属層の前記第1方向と交差する方向に延伸する主リード層を含む請求項1に記載の高速磁化反転方法。
【請求項7】
前記第2の非磁性金属層は、前記強磁性金属層の前記第1方向に対して平行な方向に延伸する補助リード層を含む請求項1に記載の高速磁化反転方法。
【請求項8】
前記第1の非磁性金属層および前記第2の非磁性金属層は、前記強磁性金属層の主面若しくは側面に当接して前記強磁性金属層に接合されることを特徴とする請求項1に記載の高速磁化反転方法。
【請求項9】
磁化容易軸を第1方向とする強磁性金属層と、
前記第1方向と交差する方向に延伸されて前記強磁性金属層に接合された第1の非磁性金属層と、
前記第1方向と平行な方向又は前記第1方向と垂直な方向に延伸されて前記強磁性金属層に接合された第2の非磁性金属層と、を備え、
前記第1の非磁性金属層から、前記第1方向と平行な方向に磁化された反転スピン流が前記強磁性金属層に注入され、
前記第2の非磁性金属層から、磁化反転を補助するために前記第1方向に交差する交差方向に磁化された補助スピン流が前記強磁性金属層に注入され、
前記反転スピン流と前記補助スピン流により、前記強磁性金属層の磁化がスピン軌道トルクにより反転する高速磁化反転デバイス。
【請求項10】
前記強磁性金属層が、NiFe系二元合金、CoFeB合金、又は、室温近傍で有限のスピン偏極率を有する強磁性体を含み、
前記第1の非磁性金属層と前記第2の非磁性金属層との少なくとも一方が、Pt、Ru、及び、その他のスピンホール角の絶対値が大きい金属の少なくとも一つを含む請求項9に記載の高速磁化反転デバイス。
【請求項11】
前記第1の非磁性金属層の一部と前記第2の非磁性金属層の一部は共通している請求項9に記載の高速磁化反転デバイス。
【請求項12】
請求項9に記載の高速磁化反転デバイスと、
前記高速磁化反転デバイスの前記強磁性金属層の上に積層された絶縁層と、
前記絶縁層の上に積層されて前記磁化容易軸の方向に磁化された固定層と、
前記強磁性金属層の磁化方向を読み出すために前記固定層に接合された読出しリード線と、
前記反転スピン流のための電流の前記第1の非磁性金属層への供給と、前記補助スピン流のための電流の前記第2の非磁性金属層への供給と、前記強磁性金属層の磁化方向の前記読出しリード線からの読出しとを制御する制御回路と、
を備える磁気メモリ装置。
【請求項13】
マトリックス状に配置された複数個のトンネル磁気抵抗効果素子を備え、
前記トンネル磁気抵抗効果素子が、固定層と自由層と前記固定層及び前記自由層の間に形成された絶縁層とを含み、
前記自由層の磁化容易軸に対応する第1方向と反対の反転方向に磁化された反転スピン流を前記自由層に注入するために、前記第1方向に交差する交差方向に沿って延伸して各自由層と接合する複数本の反転リード線と、
前記交差方向に磁化された補助スピン流を前記自由層に注入するために、前記第1方向に沿って延伸して各自由層と接合する複数本の補助リード線と、
各自由層の磁化方向を読出すために、前記第1方向又は前記交差方向に沿って延伸して各固定層と接合する複数本の読出しリード線とを備えることを特徴とする磁気メモリ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピン軌道トルクを用いた高速磁化反転方法、高速磁化反転デバイス、及び磁気メモリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズの磁性体の磁化を反転制御する方法として「スピン注入磁化反転法」が提案され、MRAM(Magnetic Random Access Memory、磁気ランダムアクセスメモリ)等にすでに実用されている。初期のMRAMは電流が作る磁界によってMRAM素子の磁性膜の磁化方向を反転させることで情報を書き込んだが、高集積化に伴うMRAM素子の微細化に伴って、磁化反転には大きな電流が必要となり消費電力にも課題があった。ここで、MRAMでは、情報を記憶するビット1つに対応する構造が、第1の強磁性金属、非磁性体、及び第2の強磁性金属の3層構造で構成されている。
【0003】
この課題を改善した「スピン注入磁化反転法」は、強磁性金属から非磁性体へ電子が流れるときその電子流が「スピン偏極」していることから、このスピン偏極した電子を第1の強磁性金属から非磁性体を介して第2の強磁性金属に移動させると第2の強磁性金属の磁気モーメントを反転させることができるという技術である。ここで、「スピン偏極」とは、上向きスピンの電子の数と下向きスピンの電子の数とが同数でなく一方に偏っている状態を意味する。
【0004】
このスピン偏極電流を第2の強磁性金属に流すことで第2の強磁性金属の磁気モーメントを反転させるトルクは「スピントランスファートルク(STT、Spin transfer torque)」と呼ばれる。このSTTによって磁化反転がもたらされるものである。STTを磁化の反転(情報の書き込み)に用いたMRAM(STT-RAM)によればスピン偏極電流を流すだけで磁化反転ができるので、素子が微細化しても電流密度も小さくなるので省電力化がはかれ、MRAMの高集積化も可能になった。
【0005】
一方、磁気メモリの高密度化と共に大量の記録情報を高速に処理するために、磁気記録情報の記録・再生のアクセスタイムの高速化も求められており、書き込み(磁化反転)および読み出し(磁気抵抗)の原理的な高速化も開発課題になっている。また素子の微細化に伴い、書き込みにおいては磁化反転の為の書き込み電流が大きくなり、消費電力が高くなるという問題があった。
【0006】
近年、STTのようなスピン偏極電流を介したスピン注入ではなく、強磁性金属中への電流(正味の電荷の移動)を伴わないスピン注入(「純スピン流」)による磁化反転方法として、「スピン軌道トルク(SOT、Spin orbit torque)」とよばれる原理の方法が提唱されてきた。非磁性金属を流れる電子の一つ一つは磁化の担い手となるスピンを持っている。非磁性金属を流れる電流のスピンは様々な向きを向いているため、非磁性金属を流れる電流が持つ正味の磁化はゼロである。ところが,電流が持つスピンの向きに偏りがあると、電流が磁化をもつ。つまり、電流が電荷と供に磁化の流れにもなる。このような磁化の流れはスピン流と呼ばれる。特に電子の流れの正味の量がゼロで電流をともなわず、磁化だけが流れるスピン流のことを純スピン流と呼ぶ。
【0007】
スピン軌道相互作用(Spin orbit coupling)が大きな非磁性金属中を電流が流れると、電流を構成する伝導電子の移動方向が、スピン軌道相互作用によるスピンホール効果(Spin Hall effect)によって曲げられる。この曲げられる方向が伝導電子のスピンの向きに依存する。つまり、非磁性金属中の電流で非磁性金属に接している強磁性金属の方向へ曲げられた電子群がつくる流れはスピン流になる。また、強磁性金属の方向へ曲げられた流れ(スピン流)は,そのまま強磁性金属へと入る。したがって、強磁性金属と非磁性金属との積層構造において非磁性金属に電流が流れると、非磁性金属から強磁性金属へ伝導電子のスピンが注入される。これをスピン注入と呼ぶ。強磁性金属と非磁性金属との間で電位差は生じないため、スピン流は純スピン流となる。強磁性金属に注入されたスピンは、強磁性金属内で散乱し、スピン角運動量を強磁性金属の磁化に与える。その結果、強磁性金属の磁化の向きが変化する。この変化を利用して強磁性金属の磁化を反転させる技術をSOTによる磁化反転と呼んでおり、その磁化反転を情報の書き換え(書き込み)に利用した磁気メモリをSOT-RAMと呼んでいる。
【0008】
ここで、非磁性金属内でスピンが曲げられる量はスピンホール角と呼ばれる物理量で与えられている。また、スピンが曲げられる向きは、電子が移動している向き、及び、電子が持つスピンの向きに垂直な向きである。スピンホール角の絶対値が大きな非磁性金属ほど、非磁性金属中を流れる電子のスピンが曲げられる量が大きくなる。強磁性金属に接している非磁性金属のスピンホール角の絶対値が大きいほど、非磁性金属から強磁性金属へ多くのスピンが注入される。
【0009】
電流が流れるとスピン流が生成されてSOTを誘起するように構成されたスピン軌道トルク配線と、スピン軌道トルク配線の上に配置された強磁性金属層とを備え、このスピン流によるSOT効果によって強磁性金属層の磁化の向きが変化させる構成が知られている(特許文献1、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2019-9478号公報(2019年1月17日公開)
【非特許文献】
【0011】
【文献】深見俊輔,スピン軌道トルクを用いた新規磁化制御方式の研究と3端子磁気メモリ素子への応用,https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-15K13964/15K13964seika.pdf,科学研究費助成費用 研究成果報告書 平成29年6月12日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のような従来のSOT-RAMにおける磁化の反転技術は、ターゲットの強磁性金属に接して設置された非磁性金属リードからスピンホール効果等によって強磁性金属にスピンが注入され,強磁性金属の磁化にSOTが働く。そのSOTの大きさが十分大きければ強磁性金属に磁化反転が誘起され、注入されたスピンの向きに磁化が反転する。SOTでは、強磁性金属に注入されるスピンの量が多くなれば、SOTの大きさも大きくなる。また、非磁性金属リードに流す電流と非磁性金属でのスピンホール角に注入されるスピンの量とは比例する。
【0013】
しかしながら、実用上は、低電流で高速に強磁性金属の磁化を反転できることが必要であり、従来のSOTを用いた磁化反転では、低電流での磁化反転が観測されていない。従って、低電流で高速に強磁性金属の磁化を反転させるための素子の構成指針を明らかにすることが課題となっている。低電流SOTによる磁化反転が起こらない原因の一つに、強磁性金属の磁化変化の初動が起こらないことがあり、これを解決する素子が構成されることが望まれている。磁化反転時に外部磁場とSOTを同時に強磁性金属へ印加させる方法や、STTとSOTを同時に強磁性金属へ印加させる方法 によって、低電流での磁化反転を可能にしている。
【0014】
本発明の一態様は、SOTを用いて低電流で高速に強磁性金属の磁化を反転させることができる高速磁化反転方法、高速磁化反転デバイス、及び磁気メモリ装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高速磁化反転方法は、ひとつまたはふたつの非磁性金属層と、強磁性金属層とを積層した金属層構造における強磁性金属層の磁化をスピン軌道トルクにより反転させる高速磁化反転方法であって、強磁性金属層には特定の方向が磁化容易軸になるように予め一軸磁気異方性を付与されており、強磁性金属層の磁化容易軸上での磁化反転を誘起するために非磁性金属層から強磁性金属層に反転スピン流を注入するスピン注入磁化反転工程と、これと同一または別の非磁性金属層から強磁性金属薄膜に補助スピン流を短時間の間注入する補助スピン流注入工程とを有し、スピン流が持つ磁化の向きが互いに異なる反転スピン流と補助スピン流との2種類のスピン流を強磁性金属層へ時間差で注入することを特徴とする。
【0016】
この特徴によれば、強磁性金属層の磁化の向き(第1方向)に交差する交差方向に磁化されたスピン流(補助スピン流)が強磁性金属薄膜に注入される。このため、第1方向と反対の方向に磁化された反転スピン流による強磁性金属薄膜の磁化方向の反転行程(スピン注入磁化反転行程)が、第1方向に交差する交差方向に磁化された補助スピン流を注入する行程(補助スピン注入行程)により補助される。
【0017】
補助スピン流は短時間の間だけ強磁性金属薄膜へ注入される。反転スピン流は磁化反転中の全体の時間の間に強磁性金属薄膜へ注入され、補助スピン流はスピン流が強磁性金属層へ注入されている間に注入される。もしくは、補助スピン流を注入中、又は注入直後に、反転スピン流が、強磁性金属薄膜へ注入され始め、磁化反転が終了する前後まで注入される。磁化反転が半分以上起こるまで反転スピン流を注入すれば、磁化反転終了前に反転スピン流を止めたとしても磁化反転は起こる。しかし、その場合、反転スピン流を止める時間が早いほど反転に要する時間が増加する。また、磁化反転が終了した後も反転スピン流を注入し続けてもよいが消費電力の無駄になる。
【0018】
この結果、高速もしくは低消費電力で強磁性金属の磁化方向を反転させることができる。
【0019】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高速磁化反転方法では、ひとつまたはふたつの非磁性金属層が、ひとつの非磁性金属層であり、
補助スピン流注入工程が、同一の非磁性金属層から補助スピン流を注入することが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、非磁性金属層から補助スピン流を注入する構成が簡素になる。
【0021】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高速磁化反転方法では、ひとつまたはふたつの非磁性金属層が、ふたつの非磁性金属層であり、
補助スピン流注入工程が、別の非磁性金属層から補助スピン流を注入することが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、非磁性金属層から補助スピン流を注入する構成のバリエーションを豊富にすることができる。
【0023】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高速磁化反転方法では、スピン注入磁化反転工程に加えて補助スピン流注入工程を実行する先後の適当なタイミングとして、スピン注入磁化反転工程の反転スピン流は磁化反転中の全体の時間を通じて強磁性金属層へ注入し、補助スピン流は反転スピン流が強磁性金属層へ注入されている間に注入することが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、磁化反転中の全体の時間を通じてスピン流が強磁性金属層へ注入される間に注入される補助スピン流により、スピン流による強磁性金属層の磁化方向の反転が補助される。
【0025】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高速磁化反転方法では、補助スピン流は、スピン注入磁化反転工程の開始直後、若しくは、同時に強磁性金属層へ注入し始めることが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、スピン注入磁化反転工程の開始直後、若しくは、同時に強磁性金属層へ注入し始められる補助スピン流により、スピン流による強磁性金属層の磁化方向の反転が補助される。
【0027】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高速磁化反転方法では、補助スピン流は、スピン注入磁化反転工程の開始直前に強磁性金属層へ注入し始めることが好ましい。
【0028】
上記構成によれば、スピン注入磁化反転工程の開始直前に強磁性金属層へ注入し始められる補助スピン流により、スピン流による強磁性金属層の磁化方向の反転が補助される。
【0029】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高速磁化反転方法のスピン注入磁化反転工程の非磁性金属層から強磁性金属層へ、強磁性金属層の磁化容易軸方向と平行な方向の磁化の向きを持つ反転スピン流が注入されることが好ましい。
【0030】
上記構成によれば、強磁性金属層の磁化容易軸方向と直交する方向に延伸する主リード層を通して反転スピン流を強磁性金属層へ注入することができる。
【0031】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高速磁化反転方法では、非磁性金属層が、磁化容易軸と直交する方向に延伸する主リード層を含むことが好ましい。
【0032】
上記構成によれば、主リード層に平行な方向に流れる電流を、主リード層を介して非磁性金属層に流すことで、非磁性金属層から強磁性金属層へ、強磁性金属層の磁化容易軸方向と平行な方向の磁化の向きを持つ反転スピン流を注入することができる。
【0033】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高速磁化反転方法では、主リード層が、非磁性金属層と同じ素材、金属、もしくは、その他の電気抵抗が小さい材料で構成されることが好ましい。
【0034】
上記構成によれば、簡素な構成で主リード層を実現することができる。
【0035】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高速磁化反転方法の補助スピン流注入工程の非磁性金属層と別の非磁性金属層との何れかから強磁性金属層へ、強磁性金属層の磁化容易軸方向に直交する方向の磁化の向きを持つ補助スピン流が注入されることが好ましい。
【0036】
上記構成によれば、強磁性金属層の磁化容易軸方向に対して平行な方向に延伸する補助リード層を通して補助スピン流を強磁性金属層へ注入することができる。
【0037】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高速磁化反転方法では、非磁性金属層と別の非磁性金属層との何れかが、強磁性金属層の磁化容易軸方向に対して平行な方向に延伸する補助リード層を含むことが好ましい。
【0038】
上記構成によれば、強磁性金属層の磁化容易軸方向に対して平行な方向に延伸する補助リード層に平行な方向に流れる電流を、補助リード層を介して別の非磁性金属層に流すことで、別の非磁性金属層から強磁性金属層へ、強磁性金属層の磁化容易軸方向に直交する方向の磁化の向きを持つ補助スピン流を注入することができる。
【0039】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高速磁化反転方法では、補助スピン流注入工程の別の非磁性金属層から強磁性金属層へ、強磁性金属層の磁化容易軸方向と直交する方向の磁化の向きを持つ補助スピン流が注入されることが好ましい。
【0040】
上記構成によれば、強磁性金属層の磁化容易軸方向と直交する方向の磁化の向きを持つ補助スピン流を、別の非磁性金属層に流すことで、別の非磁性金属層から強磁性金属層へ、強磁性金属層の磁化容易軸方向と直交する方向の磁化の向きを持つ補助スピン流を注入することができる。
【0041】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高速磁化反転方法では、別の非磁性金属層が、強磁性金属層の磁化容易軸方向に対して直交する方向であって、且つ、反転スピン流の注入方向に対しても直交する方向に延伸する補助リード層を含むことが好ましい。
【0042】
上記構成によれば、強磁性金属層の磁化容易軸方向に対して直交する方向であって、且つ、反転スピン流の注入方向に対しても直交する方向に延伸する補助リード層に平行な方向に流れる電流を、補助リード層を介して別の非磁性金属層に流すことで、別の非磁性金属層から強磁性金属層へ、強磁性金属層の磁化容易軸方向と直交する方向の磁化の向きを持つ補助スピン流を注入することができる。
【0043】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高速磁化反転方法では、非磁性金属層および別の非磁性金属層は、強磁性金属層の主面若しくは側面に当接して強磁性金属層に接合されることが好ましい。
【0044】
上記構成によれば、強磁性金属層の主面若しくは側面に当接して強磁性金属層に接合される非磁性金属層を通して反転スピン流を強磁性金属層へ注入することができ、強磁性金属層の主面若しくは側面に当接して強磁性金属層に接合される別の非磁性金属層を通して補助スピン流を強磁性金属層へ注入することができる。
【0045】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高速磁化反転デバイスは、ひとつまたはふたつの非磁性金属層と、強磁性金属層とを積層した金属層構造における前記強磁性金属層の磁化をスピン軌道トルクにより反転させる高速磁化反転方法であって、前記強磁性金属層には特定の方向が磁化容易軸になるように予め一軸磁気異方性を付与されており、前記強磁性金属層の前記磁化容易軸上での磁化反転を誘起するために前記非磁性金属層から前記強磁性金属層に反転スピン流を注入するスピン注入磁化反転工程と、これと同一または別の前記非磁性金属層から前記強磁性金属層に補助スピン流を短時間の間注入する補助スピン流注入工程とを有し、スピン流が持つ磁化の向きが互いに異なる前記反転スピン流と前記補助スピン流との2種類のスピン流を前記強磁性金属層へ時間差で注入することを特徴とする。
【0046】
この特徴によれば、高速もしくは低消費電力で強磁性金属の磁化方向を反転させることができる。
【0047】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高速磁化反転デバイスでは、強磁性金属層が、NiFe系二元合金、CoFeB合金、又は、室温近傍で有限のスピン偏極率を有する強磁性体を含み、非磁性金属層と別の非磁性金属層との少なくとも一方が、Pt、Ru、及び、その他のスピンホール角の絶対値が大きい金属の少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0048】
上記構成によれば、強磁性金属層の材質、主リード層の非磁性金属層の材質、及び補助リード層の非磁性金属層の材質により、スピン軌道相互作用によるスピンホール効果に基づいて強磁性金属薄膜に作用するスピン軌道トルクが増大する。
【0049】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高速磁化反転デバイスでは、強磁性金属層の上に積層された絶縁層と、絶縁層の上に積層されて磁化容易軸の方向に磁化された固定層と、強磁性金属層の磁化方向を読み出すために固定層に接合された読出しリード線と、反転スピン流のための電流の非磁性金属層への供給と、補助スピン流のための電流の別の非磁性金属層への供給と、強磁性金属層の磁化方向の読出しリード線からの読出しとを制御する制御回路とをさらに備えることが好ましい。
【0050】
上記構成によれば、主リード層への反転電流の供給と、補助リード層への補助電流の供給と、読出しリード線からの強磁性金属薄膜の磁化方向の読出しとが制御され、高速磁化反転デバイスへの情報の書込み及び読出しが可能になる。
【0051】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る磁気メモリ装置は、マトリックス状に配置された複数個のトンネル磁気抵抗効果素子を備え、トンネル磁気抵抗効果素子が、固定層と自由層と固定層及び自由層の間に形成された絶縁層とを含み、自由層の磁化容易軸に対応する第1方向と反対の反転方向に磁化された反転スピン流を自由層に注入するために、第1方向に交差する交差方向に沿って延伸して各自由層と接合する複数本の反転リード線と、交差方向に磁化された補助スピン流を自由層に注入するために、第1方向に沿って延伸して各自由層と接合する複数本の補助リード線と、各自由層の磁化方向を読出すために、第1方向又は交差方向に沿って延伸して各固定層と接合する複数本の読出しリード線とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0052】
本発明の一態様によれば、低電流で高速に強磁性金属の磁化を反転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】(a)実施形態1に係る高速磁化反転デバイスの斜視図であり、(b)はその平面図であり、(c)はその正面図である。
【
図2】(a)実施形態1に係る他の高速磁化反転デバイスの斜視図であり、(b)はその平面図であり、(c)はその正面図である。
【
図3】(a)実施形態1に係るさらに他の高速磁化反転デバイスの斜視図であり、(b)はその平面図であり、(c)はその正面図である。
【
図4】上記高速磁化反転デバイスに設けられた強磁性金属薄膜の磁化の反転時間のシミュレーション結果を示す図である。
【
図5】上記高速磁化反転デバイスのスピン注入時間と磁化との間の関係を示すグラフである。
【
図6】(a)は上記強磁性金属薄膜の補助スピン流と上記強磁性金属薄膜の磁化反転に要した時間との間の関係を示すグラフであり、(b)は上記強磁性金属薄膜と上記反転リード線とを示す斜視図であり、(c)は上記強磁性金属薄膜と上記反転リード線と上記補助リード線とを示す斜視図である。
【
図7】(a)は比較例に係る強磁性金属薄膜の磁化方向を示す斜視図であり、(b)~(e)は上記強磁性金属薄膜と反転リード線との関係を示す斜視図であり、(f)は上記強磁性金属薄膜の他の磁化方向を示す斜視図であり、(g)~(j)は上記強磁性金属薄膜と反転リード線との関係を示す斜視図であり、(k)は上記強磁性金属薄膜のさらに他の磁化方向を示す斜視図であり、(l)~(o)は上記強磁性金属薄膜と反転リード線との関係を示す斜視図である。
【
図8】(a)は上記高速磁化反転デバイスに設けられた強磁性金属薄膜と反転リード線との関係を示す斜視図であり、(b)~(i)は上記強磁性金属薄膜及び反転リード線に対する補助リード線の種々の配置態様を示す斜視図である。
【
図9】(a)は上記強磁性金属薄膜の態様を示す斜視図であり、(b)は上記強磁性金属薄膜の他の態様を示す斜視図である。
【
図10】(a)は実施形態2に係る高速磁化反転デバイスの実験装置の斜視図であり、(b)は上記高速磁化反転デバイスの斜視図であり、(c)は上記高速磁化反転デバイスの回路図である。
【
図11】実施形態2に係る磁気メモリ装置の概略平面図である。
【
図12】実施形態2に係る磁気メモリ装置の書込み動作に関連する回路図である。
【
図13】上記磁気メモリ装置の書込み動作を示すフローチャートである。
【
図14】(a)は実施形態2に係る磁気メモリ装置の読出し動作に関連する箇所も含めた回路図であり、(b)は上記磁気メモリ装置のTMR素子を示す斜視図である。
【
図15】上記磁気メモリ装置の書込み動作の変形例に関連する回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0055】
〔実施形態1〕
図1(a)は実施形態1に係る高速磁化反転デバイス1の斜視図であり、(b)はその平面図であり、(c)はその正面図である。
【0056】
高速磁化反転デバイス1は、磁化容易軸に対応するy方向(第1方向)に磁化された強磁性金属薄膜2(強磁性金属層)と、強磁性金属薄膜2の磁化方向を反転させるために、-y方向(反転方向)に磁化された反転スピン流を強磁性金属薄膜2に注入するための反転リード線3(非磁性金属層、主リード層)と、強磁性金属薄膜2の磁化方向の反転を補助するために、y方向に直交するx方向(交差方向)に磁化された補助スピン流を強磁性金属薄膜2に注入するための補助リード線4(非磁性金属層、補助リード層)とを備える。強磁性金属薄膜2は、y方向が磁化容易軸になるように予め一軸磁気異方性が付与されている。
【0057】
反転リード線3は、x方向に延伸する非磁性金属層から構成される。補助リード線4は、y方向に延伸する非磁性金属層から構成される。反転リード線3及び補助リード線4は、強磁性金属薄膜2に接合する箇所で互いに交差して、同一の非磁性金属層により一体に構成される。
【0058】
このように、補助スピン流を強磁性金属薄膜2に注入するための補助リード線4は、強磁性金属薄膜2の磁化容易軸方向に対して平行な方向又は垂直な方向に延伸する。そして、反転スピン流を強磁性金属薄膜2に注入するための反転リード線3は、上記磁化容易軸と直交する方向に延伸する。補助スピン流は、強磁性金属薄膜2の磁化容易軸方向に直交する方向の磁化の向きを持つ。反転スピン流は、強磁性金属薄膜2の磁化容易軸方向と平行な方向の磁化の向きを持つ。
【0059】
強磁性金属薄膜2は、NiFe系二元合金(パーマロイ)、CoFeB合金、及びその他の室温近傍で有限のスピン偏極率を有する強磁性体を含む。反転リード線3と補助リード線4との少なくとも一方は、Pt、Ru、及びその他のスピンホール角の絶対値が大きい金属のうちの少なくとも一つを含む。
【0060】
このように構成された高速磁化反転デバイス1は、以下のように動作する。
【0061】
まず、y方向に磁化された強磁性金属薄膜2の磁化方向を反転させるために、-y方向に磁化された反転スピン流を強磁性金属薄膜2に注入するための反転電流が反転リード線3に供給される。そして、強磁性金属薄膜2の磁化方向の反転を補助するために、y方向に直交するx方向(交差方向)に磁化された補助スピン流が補助リード線4から強磁性金属薄膜2へ供給される。次に、反転リード線3に供給された反転電流に基づく反転スピン流が、スピン軌道相互作用によるスピンホール効果に基づいて、反転リード線3から強磁性金属薄膜2に注入される。そして、補助リード線4に供給された補助電流に基づく補助スピン流が、スピン軌道相互作用によるスピンホール効果に基づいて、補助リード線4から強磁性金属薄膜2に注入される。
【0062】
その後、強磁性金属薄膜2のy方向の磁化方向が、-y方向に磁化されて反転リード線3から強磁性金属薄膜2に注入された反転スピン流と、x方向に磁化されて補助リード線4から強磁性金属薄膜2に注入された補助スピン流とにより、y方向から-y方向に高速で反転する。
【0063】
このように、異なる方向に磁化した2種類の反転スピン流及び補助スピン流を強磁性金属薄膜2に同一の非磁性金属層から注入することにより、強磁性金属薄膜2の磁化反転をより容易になるように支援し、1方向から1種類のスピン流を注入する従来の技術に比較して10%程度の短時間で高速に強磁性金属薄膜2を磁化反転させることができる。
【0064】
なお、上述した実施形態では、反転スピン流の磁化方向と補助スピン流の磁化方向とが互いに直交する例を示したが、本発明はこれに限定されない。反転スピン流の磁化方向と補助スピン流の磁化方向とは互いに異なっていればよく、両者のなす角度は0度よりも大きく180度よりも小さければよい。後述する実施形態でも同様である。
【0065】
図2(a)実施形態1に係る他の高速磁化反転デバイス1Aの斜視図であり、(b)はその平面図であり、(c)はその正面図である。前述した構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0066】
図1で前述した高速磁化反転デバイス1と異なる点は、補助リード線4が、強磁性金属薄膜2の反転リード線3と反対側の面に接合される点である。このように、反転リード線3及び補助リード線4は、強磁性金属薄膜2に異なる箇所で接合しており、互いに異なる非磁性金属層により別個に構成される。
【0067】
この構成によれば、y方向に磁化された強磁性金属薄膜2の磁化方向を反転させるために-y方向に磁化された反転スピン流と、強磁性金属薄膜2の磁化方向の反転を補助するためにx方向に磁化された補助スピン流とが、強磁性金属薄膜2の互いに対向する異なる二面を通して強磁性金属薄膜2に注入される。
【0068】
そして、反転リード線3側から強磁性金属薄膜2に注入された反転スピン流と、補助リード線4側から強磁性金属薄膜2に注入された補助スピン流とにより、強磁性金属薄膜2のy方向の磁化方向が-y方向に高速で反転する。
【0069】
図3(a)実施形態1に係るさらに他の高速磁化反転デバイス1Bの斜視図であり、(b)はその平面図であり、(c)はその正面図である。前述した構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0070】
図1で前述した高速磁化反転デバイス1と異なる点は、補助リード線4が、強磁性金属薄膜2のy方向に平行な側面に接合される点である。このように、反転リード線3及び補助リード線4は、
図2に示す構成と同様に、強磁性金属薄膜2に異なる箇所で接合しており、互いに異なる非磁性金属層により別個に構成される。
【0071】
この構成によれば、強磁性金属薄膜2の互いに隣接する異なる二面を通して、-y方向に磁化された反転スピン流と、x方向に磁化された補助スピン流とが強磁性金属薄膜2に注入される。そして、反転スピン流と補助スピン流とにより、強磁性金属薄膜2のy方向の磁化方向が-y方向に高速で反転する。
【0072】
図4は高速磁化反転デバイス1に設けられた強磁性金属薄膜2の磁化の反転時間のシミュレーション結果を示す図である。
【0073】
補助スピン流による磁化反転の支援が無く、-y方向に磁化された反転スピン流のみが30nm×30nm×7.5nmの寸法の強磁性金属薄膜2に注入される場合のSOTによる強磁性金属薄膜2の磁化の反転時間のシミュレーション結果は17nsecであった。これに対して、x方向に磁化された補助スピン流が反転スピン流に加えて強磁性金属薄膜2に注入される場合の強磁性金属薄膜2の磁化の反転時間は約0.8nsecに短縮された。
【0074】
図5は高速磁化反転デバイス1Aのスピン注入時間と磁化反転との間の関係を示すグラフである。
図2で前述した高速磁化反転デバイス1Aの強磁性金属薄膜2がセルサイズX=10nm、Y=10nm、Z=20nmのパーマロイにより構成される条件で、高速磁化反転のシミュレーションを行った。
【0075】
反転リード線3の反転スピン流のみによるスピン注入では、曲線S1に示すように、磁化反転までのスピン注入時間は約4nsecであった。これに対して、反転リード線3の反転スピン流によるスピン注入と、補助リード線4の補助スピン流によるスピン注入とを組み合わせ、補助スピン流を0.1nsec注入した直後に反転スピン流を注入した場合は、曲線S2に示すように、磁化反転までのスピン注入時間は約1nsecに短縮された。また、補助スピン流を2nsec注入した直後に反転スピン流を注入した場合も、曲線S3に示すように、磁化反転までのスピン注入時間は約1nsecに短縮された。
【0076】
なお、補助リード線4の補助スピン流のみによるスピン注入では、曲線S4に示すように、磁化反転を起こすことができなかった。
【0077】
図6(a)は強磁性金属薄膜2の補助スピン流と強磁性金属薄膜2の磁化反転に要した時間との間の関係を示すグラフであり、(b)は強磁性金属薄膜2と反転リード線3とを示す斜視図であり、(c)は強磁性金属薄膜2と反転リード線3と補助リード線4とを示す斜視図である。
図1で前述した高速磁化反転デバイス1の強磁性金属薄膜2がセルサイズX=10nm、Y=20nm、Z=10nmのパーマロイにより構成される条件で、高速磁化反転のシミュレーションを行った。
【0078】
反転リード線3のみに電流密度3.0×10
11A/m
2の主書込電流(反転電流)を印加した場合には、
図6(a)のポイントP1に示すように、約100nsで強磁性金属薄膜2の磁化が反転した。主書込電流を印加すると同時に補助リード線4に1.0nsだけ補助書込のための主書込電流よりも印加時間が短い短時間電流を流し強磁性金属薄膜2に補助スピン流を注入したところ、シミュレーションの範囲内では、ポイントP2に示すように、最短で10nsで磁化が反転した。
【0079】
主書込電流密度と補助書込電流密度の大きさがどちらも3.0×10
11A/m
2で等しい場合に、補助書込のための短時間電流によるスピンの注入時間を変えたところ1nsでは、
図6(a)のポイントP3に示すように、約20nsで磁化が反転した。そして、補助書込電流によるスピンの注入時間が0.1nsでは約15nsで磁化が反転した。
【0080】
強磁性金属薄膜2の磁化の反転時間は、主書込電流の電流密度と補助書込のための短時間電流の電流密度が増えると、強磁性金属薄膜2の種類・形状・補助書込線(補助リード線4)の位置などに依存せずに短縮される。しかしながら、補助書込のための短時間電流からのスピン注入時間は、長ければ良いわけではなく、強磁性金属薄膜2の種類・形状・補助書込線(補助リード線4)の位置などに基づく最適値が存在する。
【0081】
図7(a)は比較例に係る強磁性金属薄膜2の磁化方向を示す斜視図であり、(b)~(e)は強磁性金属薄膜2と反転リード線3との関係を示す斜視図であり、(f)は強磁性金属薄膜2の他の磁化方向を示す斜視図であり、(g)~(j)は強磁性金属薄膜2と反転リード線3との関係を示す斜視図であり、(k)は強磁性金属薄膜2のさらに他の磁化方向を示す斜視図であり、(l)~(o)は強磁性金属薄膜2と反転リード線3との関係を示す斜視図である。前述した構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0082】
1方向注入に係る反転リード線3の強磁性金属薄膜2に対する位置と方向との12種類のパターンを
図7は示している。
図7(a)に示される強磁性金属薄膜2のz方向の磁化の向きを逆の-z方向に反転させるための反転リード線3の強磁性金属薄膜2に対する位置と方向のパターンは、
図7(b)~(e)にそれぞれ示される4パターン存在する。
【0083】
そして、
図7(f)に示される強磁性金属薄膜2の-x方向の磁化の向きを逆のx方向に反転させるための反転リード線3の強磁性金属薄膜2に対する位置と方向のパターンは、
図7(g)~(j)にそれぞれ示される4パターン存在する。
図7(k)に示される強磁性金属薄膜2のy方向の磁化の向きを逆の-y方向に反転させるための反転リード線3の強磁性金属薄膜2に対する位置と方向のパターンは、
図7(l)~(o)にそれぞれ示される4パターン存在する。
【0084】
図8(a)は上記高速磁化反転デバイスに設けられた強磁性金属薄膜2と反転リード線
3との関係を示す斜視図であり、(b)~(i)は強磁性金属薄膜2及び反転リード線3に対する補助リード線4の種々の配置態様を示す斜視図である。前述した構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0085】
2方向注入に係る反転リード線3及び補助リード線4の強磁性金属薄膜2に対する位置と方向との8種類のパターンを
図8は示している。
図8(a)に示される強磁性金属薄膜2のy方向の磁化の向きを逆の-y方向に反転させるための補助リード線4の強磁性金属薄膜2及び反転リード線3に対する位置と方向のパターンは、
図8(b)~(i)にそれぞれ示される端子番号2~9の8パターン存在する。
【0086】
図9(a)は強磁性金属薄膜2の態様を示す斜視図であり、(b)は強磁性金属薄膜2の他の態様を示す斜視図である。前述した構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0087】
形状による磁化異方性を有し、強磁性体としてパーマロイ(Py:FeNi合金)を想定した
図9(a)に示す10nm×20nm×6nmの寸法の強磁性金属薄膜2について、
図8(a)~(i)に示す端子番号1~9の9種類の端子構造の場合の磁化の反転時間のシミュレーション結果を(表1)に示す。
【0088】
【0089】
(表1)に示すように、端子番号2~9の端子構造の相異に応じて磁化の反転時間に若干差があるが、端子番号1の1端子のときの磁化の反転時間と比べると、端子番号2~9のどれも磁化の反転が著しく短縮されている。
【0090】
内因生の磁化異方性で、磁化の軸を固定し、強磁性体として(CoFe合金)を想定した
図9(b)に示す10nm×10nm×6nmの寸法の強磁性金属薄膜2について、
図8(a)~(i)に示す端子番号1~9の9種類の端子構造の場合の磁化の反転時間のシミュレーション結果を(表2)に示す。端子番号1の1端子での反転時間を(表1)のシミュレーション結果(約10ns)とそろえるため、反転リード線3に供給する反転スピン流の値を調整した。
【0091】
【0092】
(表2)に示すように、磁気異方性の種類や、磁性体形状によらず、本実施形態に係る端子番号2~9の端子構造で強磁性金属薄膜2の磁化の反転時間が、端子番号1の1端子ときの磁化の反転時間と比べて著しく短縮されている。
【0093】
〔実施形態2〕
図10(a)は高速磁化反転デバイス1の実験装置の斜視図であり、(b)は高速磁化反転デバイス1の斜視図であり、(c)は高速磁化反転デバイス1の回路図である。前述した構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0094】
高速磁化反転デバイス1の実験装置はシリコン基板17を備える。シリコン基板17の上に膜厚10nmの白金からなる反転リード線3及び補助リード線4が互いに直交するように形成される。そして、縦2μm、横1μm、膜厚10nm以下のニッケル鉄合金からなる強磁性金属薄膜2が、反転リード線3と補助リード線4とが交差する位置に形成される。反転リード線3の両端に金/チタンを含む電極11が形成される。補助リード線4の両端に電極16が形成される。強磁性金属薄膜2の磁化方向を判定するために強磁性金属薄膜2の異方性磁気抵抗効果を測定するための一対の測定電極15が強磁性金属薄膜2に連結される。
【0095】
高速磁化反転デバイス1の実験装置には電流生成装置12が設けられる。電流生成装置12は、反転電流を生成して反転リード線3に供給するための反転電流生成器13と、補助電流を生成して補助リード線4に供給するための補助電流生成器14とを含む。
【0096】
反転リード線3の一端はコイル21の一端に接続される。反転リード線3の他端はコイル20の一端に接続される。補助リード線4の一端はコンデンサ19の一端に接続される。補助リード線4の他端はコンデンサ22の一端に接続される。電源23の正極はコイル21の他端及びコンデンサ19の他端に接続される。スイッチ18の一端はコイル20の他端及びコンデンサ22の他端に接続される。スイッチ18の他端は電源23の負極に接続される。
【0097】
スイッチ18をオンにすると、コンデンサ19・22に電荷が蓄えられるまでは補助リード線4に補助電流が流れる。また、反転リード線3ではコイル20・21によって、スイッチ18をオンに入れた直後には反転電流が抑制される。
【0098】
図11は実施形態2に係る磁気メモリ装置10の概略平面図である。前述した構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0099】
磁気メモリ装置10は、マトリックス状に配置された複数個の強磁性金属薄膜2と、強磁性金属薄膜2の磁化容易軸に対応するy方向と反対の-y方向に磁化された反転スピン流を各強磁性金属薄膜2に注入するために、x方向に延伸して各強磁性金属薄膜2と接合する複数本の反転リード線3と、x方向に磁化された補助スピン流を各強磁性金属薄膜2に注入するために、y方向に沿って延伸して各強磁性金属薄膜2と接合する複数本の補助リード線4とを備える。
【0100】
図12は実施形態2に係る磁気メモリ装置10の書込み動作に関連する回路図である。前述した構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0101】
説明を簡素にするために、磁気メモリ装置10が2行2列の4個の強磁性金属薄膜m1-1・m1-2・m2-1・m2-2を備える場合を例に挙げて説明する。強磁性金属薄膜m1-1・m1-2・m2-1・m2-2は、
図11に示す強磁性金属薄膜2に相当する。
【0102】
強磁性金属薄膜m1-1・m1-2・m2-1・m2-2は、磁化容易軸に対応するy方向に磁化されている。磁気メモリ装置10には、強磁性金属薄膜m1-1・m1-2・m2-1・m2-2の磁化方向を反転させるために、-y方向に磁化された反転スピン流を強磁性金属薄膜m1-1・m1-2に注入するための反転リード線3aと、-y方向に磁化された反転スピン流を強磁性金属薄膜m2-1・m2-2に注入するための反転リード線3bと、強磁性金属薄膜m1-1・m1-2・m2-1・m2-2の磁化方向の反転を補助するために、x方向に磁化された補助スピン流を強磁性金属薄膜m2-1・m2-1に注入するための補助リード線4cと、x方向に磁化された補助スピン流を強磁性金属薄膜m1-2・m2-2に注入するための補助リード線4dとが設けられる。
【0103】
磁気メモリ装置10は、反転リード線3a・3bに反転電流を供給するための主線24・25と、補助リード線4c・4dに補助電流を供給するための補助線26・27とをさらに備える。
【0104】
反転リード線3aと主線24との間にトランジスタa1が配置され、反転リード線3aと主線25との間にトランジスタa2が配置される。そして、反転リード線3bと主線24との間にトランジスタb1が配置され、反転リード線3bと主線25との間にトランジスタb2が配置される。
【0105】
補助リード線4cの一部と補助リード線4cの他の一部との間にトランジスタc2が配置される。補助リード線4dの一部と補助リード線4dの他の一部との間にトランジスタd2が配置される。
【0106】
補助リード線4cの一部と補助線26との間にトランジスタc1が配置され、補助リード線4cの他の一部と補助線27との間にトランジスタc3が配置される。そして、補助リード線4dの一部と補助線26との間にトランジスタd1が配置され、補助リード線4dの他の一部と補助線27との間にトランジスタd3が配置される。
【0107】
トランジスタa1のゲートとトランジスタa2のゲートとに端子aが接続される。トランジスタb1のゲートとトランジスタb2のゲートとに端子bが接続される。そして、トランジスタc1のゲートとトランジスタc2のゲートとトランジスタc3のゲートとに端子cが接続される。トランジスタd1のゲートとトランジスタd2のゲートとトランジスタd3のゲートとに端子dが接続される。
【0108】
このように構成された磁気メモリ装置10は以下のように書込み動作を実行する。
図13は磁気メモリ装置10の書込み動作を示すフローチャートである。
【0109】
磁化反転をさせたいターゲットの強磁性金属薄膜m1-1・m1-2・m2-1・m2-2の何れか一つに接している反転リード線3a又は3bの何れか1本の両端側に配置された二つのトランジスタa1及びa2、又は、トランジスタb1及びb2をオンにすることで、反転電流を流す。ターゲットの強磁性金属薄膜に接している補助リード線4c又は4dの何れか1本に配置されたトランジスタc1、c2及びc3、又は、トランジスタd1、d2及びd3をオンにすることで、補助電流を流す。
【0110】
以下、
図12の強磁性金属薄膜m1-1を書込みターゲットの強磁性金属とした場合の書込み動作の例を示す。まず、主線24と補助線26の電圧を高電圧(ハイ)にして主線25と補助線27の電圧を低電圧(ロー)にする(ステップS1)。そして、端子cに電圧を印加してトランジスタc1・c2・c3をオンにする。すると、補助電流が補助リード線4cに流れる。次に、x方向に向いた補助スピン流が強磁性金属薄膜m1-1・m2-1に注入される(ステップS2)。なお、上記ハイ/ローは,CMOSやデジタル回路で使われるハイ/ローと同じ意味である。
【0111】
その後、端子aに電圧を印加してトランジスタa1・a2をオンにする。すると、反転電流が反転リード線3aに流れる。次に、-y方向を向いた反転スピン流が強磁性金属薄膜m1-1・m1-2に注入される(ステップS3)。この動作の開始直前又は開始直後に端子cへの電圧印加を止めてトランジスタc1・c2・c3をオフにする。すると、最初に強磁性金属薄膜m1-1の磁化方向が-y方向に反転する(ステップS4)。
【0112】
そして、端子aへの電圧の印加を継続すると強磁性金属薄膜m1-2の磁化方向が-y方向に反転するので、強磁性金属薄膜m1-2の磁化方向が-y方向に反転する前に端子aへの電圧の印加を止めてトランジスタa1・a2をオフにする(ステップS5)。
【0113】
主線24・25のハイ/ローの向きは反転リード線3aの素材がもつスピンホール角の符号によって定まる。
【0114】
トランジスタc2・c3、及び、トランジスタd2・d3は、反転リード線3aを流れる反転電流が他の強磁性金属薄膜へ回り込まないようにするために必要である。つまり、この例ではトランジスタa1→強磁性金属薄膜m1-1→強磁性金属薄膜m1-2→トランジスタa2と電流を流したいが、トランジスタc2の部分がトランジスタc2で無く金属リードであった場合、トランジスタa1→強磁性金属薄膜m1-1→強磁性金属薄膜m2-1→強磁性金属薄膜m2-2→強磁性金属薄膜m1-2→トランジスタa2と流れる電流のパスも出現してしまうので、このような電流のパスの出現を防止するためである。
【0115】
補助リード線4cに補助電流を流すための端子cへの電圧印加時間は、0.5nsec程度である。この電圧印加時間は、周波数換算で2GHz程度であり、磁気メモリ装置10の内部のクロックで制御可能である。
【0116】
強磁性金属薄膜m1-1の磁化方向を-y方向からy方向に反転させるには、主線24をローにし主線25をハイにして主線24・25のハイ・ロー関係を逆にし、上記のステップS2からステップS5を実行する。
【0117】
図14(a)は実施形態2に係る磁気メモリ装置10の読出し動作に関連する箇所も含めた回路図であり、(b)は磁気メモリ装置10のTMR素子9を示す斜視図である。前述した構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0118】
強磁性金属薄膜m1-1の上に絶縁層5が積層され、絶縁層5の上に固定層6が積層される。強磁性金属薄膜m1-1、絶縁層5、及び固定層6は、TMR(トンネル磁気抵抗効果、Tunnel Magneto Resistance Effect)素子9を構成する。同様に、強磁性金属薄膜m1-2・2-1・2-2の上に絶縁層5が積層され、各絶縁層5の上に固定層6が積層される。強磁性金属薄膜m1-2・m2-1・m2-2、絶縁層5、及び固定層6は、それぞれTMR素子9を構成する。
【0119】
強磁性金属薄膜m1-1・m2-1の磁化方向を読み出すためにy方向に延伸して対応する固定層6に接合された読出しリード線7aと、強磁性金属薄膜m1-2・m2-2の磁化方向を読み出すためにy方向に延伸して対応する固定層6に接合された読出しリード線7bとが設けられる。そして、強磁性金属薄膜m1-1・m2-1・m1-1・m2-1の磁化方向を読み出すためにx方向に延伸する読線28が設けられる。読出しリード線7aと読線28との間にトランジスタe1が配置され、読出しリード線7bと読線28との間にトランジスタf1が配置される。トランジスタe1のゲートに端子eが接続され、トランジスタf1のゲートに端子fが接続される。
【0120】
磁気メモリ装置10は、反転リード線3a・3bへの反転電流の供給と、補助リード線4c・4dへの補助電流の供給と、読出しリード線7a・7bからの強磁性金属薄膜m1-1・m1-2・m2-1・m2-2の磁化方向の読出しとを制御する制御回路29を備える。
【0121】
主線25は、読線としても兼用される。
【0122】
図14に示す例では、強磁性金属薄膜m1-1の磁化の向きは、対応する固定層6の磁化の向きと逆であるので、TMR素子9の磁気抵抗が高く、強磁性金属薄膜m1-1と固定層6との間に電流は流れない。これに対して、他の三つの強磁性金属薄膜m1-2・m2-1・m2-2の磁化の向きは、固定層6の磁化の向きと平行であるので、TMR素子9の磁気抵抗が低く、固定層6との間に電流が流れる。
【0123】
このように構成された磁気メモリ装置10は以下のように動作する。
【0124】
読線28の電圧はハイになっている。主線24の電圧はハイになっている。補助線26の電圧はハイになっており、補助線27の電圧はローになっている。そして、読線として兼用される主線25の電圧をローにする。
【0125】
強磁性金属薄膜m1-1に記憶された情報を読み出す場合は、端子e及び端子gに電圧を印加してトランジスタe1及びトランジスタa2をそれぞれオンにする。すると、強磁性金属薄膜m1-1に対応するTMR素子9は高抵抗であるので電流が流れない。そして、強磁性金属薄膜m2-1に対応するTMR素子9は低抵抗であるが、トランジスタb2・c2・c3・d2・d3がオフであるため、強磁性金属薄膜m2-1のTMR素子9を介した電流は流れない。読線として兼用される主線25の電位が読線28の電位よりも低くなる(ローになる)。これにより、強磁性金属薄膜m1-1に記憶された情報が「0」と読み出せる。
【0126】
強磁性金属薄膜m2-2に記憶された情報を読み出す場合は、端子f及び端子hに電圧を印加してトランジスタf1及びトランジスタb2をそれぞれオンにする。すると、強磁性金属薄膜m1-2に対応するTMR素子9は低抵抗であるが、トランジスタa2・c2・c3・d2・d3がオフであるため、強磁性金属薄膜m1-2のTMR素子9を介した電流は流れない。強磁性金属薄膜m2-2に対応するTMR素子9は低抵抗であるので、トランジスタf1から強磁性金属薄膜m2-2を介してトランジスタb2を通って読線として兼用される主線25へと電流が流れる。この結果、読線として兼用される主線25の電位が、読線28の電位と同じハイになる。これにより、強磁性金属薄膜m2-2に記憶された情報が「1」であると判定される。
【0127】
電圧がハイの状態は「1」に対応し、電圧がローの状態は「0」に対応するものとした。読線として兼用される主線25の動作はDRAM読出し時のビット線の動作と同様である。
図14に示すようにトランジスタa2・b2及び主線25を書込み動作と読出し動作とで兼用させずに、別途並列に他のトランジスタ及び他の読線を設けるように構成してもよい。
図14では、
図12で前述したトランジスタc2・d2の図示は簡素化のため省略している。
【0128】
図15は、
図12で前述した書込み動作の変形例に関連する回路図である。前述した構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0129】
図12で示した磁気メモリ装置10の書込回路は、
図15に示される書込み回路によっても代用可能である。
図12の書込回路と異なる点は、トランジスタa1・b1・c1・d1が共通の主線24Aに接続される点、トランジスタa2・b2・c3・d3が共通の主線25Aに接続される点、トランジスタa1・a2に個別の端子g1・g2がそれぞれ接続される点、トランジスタb1・b2に個別の端子h1・h2がそれぞれ接続される点、トランジスタc1・c2・c3に個別の端子e1・e2・e3がそれぞれ接続される点、及び、トランジスタd1・d2・d3に個別の端子f1・f2・f3がそれぞれ接続される点である。
【0130】
図15に示す磁気メモリ装置10Aの書込回路は、補助電流の経路に存在するトランジスタの数が
図12の書込回路よりも少なく、
図12の書込回路よりも低消費電力である。
図15の書込回路での反転電流と補助電流は以下のように流す。
【0131】
磁化反転をさせたいターゲットの強磁性金属薄膜m1-1・m1-2・m2-1・m2-2の何れか一つに接している反転リード線3a又は3bの何れか1本の両端側に配置された二つのトランジスタa1及びa2、又は、トランジスタb1及びb2をONにすることで、
図12の書込回路と同様に反転電流を流す。ターゲットの強磁性金属薄膜m1-1・m1-2・m2-1・m2-2の何れか一つの強磁性金属薄膜から紙面一つ上の反転リード線の左端のトランジスタと一つ下の反転リード線の右端のトランジスタ、ターゲットの強磁性薄膜に接する補助リード線に設置されたターゲット強磁性薄膜に近い位置にある紙面上下二つのトランジスタの計4つのトランジスタをONにすることで、補助電流を流す。ただし、最上段列の強磁性薄膜や、最下段列の強磁性薄膜がターゲットの場合には、ONにするトランジスタの数が
図15に示すように一つ減る。
【0132】
例えば、磁化反転をさせたいターゲットが強磁性金属薄膜m2-1である場合には、反転リード線3bの両端側に配置されたトランジスタb1及びb2をONにすることで反転電流を流す。そして、反転リード線3bの一つ上の反転リード線3aの左端のトランジスタa1と一つ下の反転リード線3bの右端のトランジスタb2、ターゲットの強磁性薄膜m2-1に近い位置にある上下二つのトランジスタc2・c3の計4つのトランジスタa1・b2・c2・c3をONにすることで補助電流を流す。
【0133】
図15の書込回路の場合には各トランジスタa1・a2・b1・b2・c1・c2・c3・d1・d2・d3のゲートは全て独立に制御する必要がある。また、
図12で示されていた補助線26・27は
図15の書込回路では不要になる。
【0134】
(まとめ)
本発明の態様1に係る高速磁化反転方法は、ひとつまたはふたつの非磁性金属層と、強磁性金属層とを積層した金属層構造における前記強磁性金属層の磁化をスピン軌道トルクにより反転させる高速磁化反転方法であって、前記強磁性金属層には特定の方向が磁化容易軸になるように予め一軸磁気異方性を付与されており、前記強磁性金属層の前記磁化容易軸上での磁化反転を誘起するために前記非磁性金属層から前記強磁性金属層に反転スピン流を注入するスピン注入磁化反転工程と、これと同一または別の前記非磁性金属層から前記強磁性金属層に補助スピン流を短時間の間注入する補助スピン流注入工程とを有し、スピン流が持つ磁化の向きが互いに異なる前記反転スピン流と前記補助スピン流との2種類のスピン流を前記強磁性金属層へ時間差で注入する。
【0135】
本発明の態様2に係る高速磁化反転方法では、ひとつまたはふたつの非磁性金属層が、ひとつの非磁性金属層であり、補助スピン流注入工程が、同一の非磁性金属層から補助スピン流を注入することが好ましい。
【0136】
本発明の態様3に係る高速磁化反転方法では、ひとつまたはふたつの非磁性金属層が、ふたつの非磁性金属層であり、補助スピン流注入工程が、別の非磁性金属層から補助スピン流を注入することが好ましい。
【0137】
本発明の態様4に係る高速磁化反転方法では、スピン注入磁化反転工程に加えて補助スピン流注入工程を実行する先後の適当なタイミングとして、スピン注入磁化反転工程の反転スピン流は磁化反転中の全体の時間を通じて強磁性金属層へ注入し、補助スピン流は反転スピン流が強磁性金属層へ注入されている間に注入することが好ましい。
【0138】
本発明の態様5に係る高速磁化反転方法では、補助スピン流は、スピン注入磁化反転工程の開始直後、若しくは、同時に強磁性金属層へ注入し始めることが好ましい。
【0139】
本発明の態様6に係る高速磁化反転方法では、補助スピン流は、スピン注入磁化反転工程の開始直前に強磁性金属層へ注入し始めることが好ましい。
【0140】
本発明の態様7に係る高速磁化反転方法では、スピン注入磁化反転工程の非磁性金属層から強磁性金属層へ、強磁性金属層の磁化容易軸方向と平行な方向の磁化の向きを持つ反転スピン流が注入されることが好ましい。
【0141】
本発明の態様8に係る高速磁化反転方法では、非磁性金属層が、磁化容易軸と直交する方向に延伸する主リード層を含むことが好ましい。
【0142】
本発明の態様9に係る高速磁化反転方法では、主リード層が、非磁性金属層と同じ素材、金属、もしくは、その他の電気抵抗が小さい材料で構成されることが好ましい。
【0143】
本発明の態様9に係る高速磁化反転方法では、主リード層が、非磁性金属層と同じ素材、金属、もしくは、その他の電気抵抗が小さい材料で構成されることが好ましい。
【0144】
本発明の態様10に係る高速磁化反転方法では、補助スピン流注入工程の非磁性金属層と別の非磁性金属層との何れかから強磁性金属層へ、強磁性金属層の磁化容易軸方向に直交する方向の磁化の向きを持つ補助スピン流が注入されることが好ましい。
【0145】
本発明の態様11に係る高速磁化反転方法では、非磁性金属層と別の非磁性金属層との何れかが、強磁性金属層の磁化容易軸方向に対して平行な方向に延伸する補助リード層を含むことが好ましい。
【0146】
本発明の態様12に係る高速磁化反転方法では、補助スピン流注入工程の別の非磁性金属層から強磁性金属層へ、強磁性金属層の磁化容易軸方向と直交する方向の磁化の向きを持つ補助スピン流が注入されることが好ましい。
【0147】
本発明の態様13に係る高速磁化反転方法では、別の非磁性金属層が、強磁性金属層の磁化容易軸方向に対して直交する方向であって、且つ、反転スピン流の注入方向に対しても直交する方向に延伸する補助リード層を含むことが好ましい。
【0148】
本発明の態様14に係る高速磁化反転方法では、非磁性金属層および別の非磁性金属層は、強磁性金属層の主面若しくは側面に当接して強磁性金属層に接合されることが好ましい。
【0149】
本発明の態様15に係る高速磁化反転デバイスは、ひとつまたはふたつの非磁性金属層と、前記非磁性金属層と積層した強磁性金属層とを備え、前記非磁性金属層と前記強磁性金属層との金属層構造における前記強磁性金属層の磁化をスピン軌道トルクにより反転させる高速磁化反転デバイスであって、前記強磁性金属層は、特定の方向が磁化容易軸になるように一軸磁気異方性を有し、前記強磁性金属層の前記磁化容易軸上での磁化反転を誘起するために前記非磁性金属層から前記強磁性金属層に反転スピン流を注入するスピン注入磁化反転工程と、これと同一または別の前記非磁性金属層から前記強磁性金属層に補助スピン流を短時間の間注入する補助スピン流注入工程とを実行し、スピン流が持つ磁化の向きが互いに異なる前記反転スピン流と前記補助スピン流との2種類のスピン流を前記強磁性金属層へ時間差で注入する。
【0150】
本発明の態様16に係る高速磁化反転デバイスでは、強磁性金属層が、NiFe系二元合金、CoFeB合金、又は、室温近傍で有限のスピン偏極率を有する強磁性体を含み、非磁性金属層と別の非磁性金属層との少なくとも一方が、Pt、Ru、及び、その他のスピンホール角の絶対値が大きい金属の少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0151】
本発明の態様17に係る高速磁化反転デバイスでは、強磁性金属層の上に積層された絶縁層と、絶縁層の上に積層されて磁化容易軸の方向に磁化された固定層と、強磁性金属層の磁化方向を読み出すために固定層に接合された読出しリード線と、反転スピン流のための電流の非磁性金属層への供給と、補助スピン流のための電流の別の非磁性金属層への供給と、強磁性金属層の磁化方向の読出しリード線からの読出しとを制御する制御回路とをさらに備える好ましい。
【0152】
本発明の態様18に係る磁気メモリ装置は、マトリックス状に配置された複数個のトンネル磁気抵抗効果素子を備え、トンネル磁気抵抗効果素子が、固定層と自由層と固定層及び自由層の間に形成された絶縁層とを含み、自由層の磁化容易軸に対応する第1方向と反対の反転方向に磁化された反転スピン流を自由層に注入するために、第1方向に交差する交差方向に沿って延伸して各自由層と接合する複数本の反転リード線と、交差方向に磁化された補助スピン流を自由層に注入するために、第1方向に沿って延伸して各自由層と接合する複数本の補助リード線と、各自由層の磁化方向を読出すために、第1方向又は交差方向に沿って延伸して各固定層と接合する複数本の読出しリード線とを備える。
【0153】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0154】
1 高速磁化反転デバイス
2 強磁性金属薄膜(強磁性金属層)
3 反転リード線(非磁性金属層、主リード層)
4 補助リード線(非磁性金属層、別の非磁性金属層、補助リード層)
5 絶縁層
6 固定層
7a 読出しリード線
7b 読出しリード線
9 TMR素子(トンネル磁気抵抗効果素子)
10 磁気メモリ装置
29 制御回路