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特許7360125情報処理装置、システム、物体の製造方法、情報処理方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】情報処理装置、システム、物体の製造方法、情報処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/386 20170101AFI20231004BHJP
   B29C 64/10 20170101ALI20231004BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20231004BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231004BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20231004BHJP
   G06F 111/04 20200101ALN20231004BHJP
   G06F 113/10 20200101ALN20231004BHJP
【FI】
B29C64/386
B29C64/10
B33Y50/00
B33Y10/00
G06F30/10
G06F30/10 100
G06F30/10 200
G06F111:04
G06F113:10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019185354
(22)【出願日】2019-10-08
(65)【公開番号】P2020059278
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2018191524
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 敏
(72)【発明者】
【氏名】光部 貴士
(72)【発明者】
【氏名】林田 大造
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 領治
(72)【発明者】
【氏名】越仮 良樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩也
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 正史
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-067174(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132463(WO,A1)
【文献】特開2019-046404(JP,A)
【文献】国際公開第2020/075722(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/386
B33Y 50/00
B33Y 10/00
B29C 64/10
G06F 30/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の利用者に与えられる質感が感覚的な用語で表現された識別情報の入力を受け付ける受付部と、
前記識別情報と、前記物体の物性を規定する形状パラメータとが関連づけられた関連情報から、前記受付部により受け付けられた前記識別情報に対応する前記形状パラメータに基づいて、前記物体を設計するためのモデルデータを生成する生成部と、
前記生成部により生成された前記モデルデータを出力する出力制御部と
を備える、情報処理装置。
【請求項2】
前記生成部は、前記形状パラメータを含む前記モデルデータを生成する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記生成部は、前記形状パラメータとして、多角柱形状の空間を一単位とする単位格子構造を構成する複数の構造柱の数、前記構造柱の方向、前記構造柱の太さ、前記構造柱が交差する交差部の容積、前記単位格子構造の形状、及び前記単位格子構造の大きさのうち少なくとも1つを含むパラメータを決定する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記構造柱の数及び前記構造柱の方向は、前記単位格子構造に含まれる複数の構造柱の配置パターンを示す単位格子モデルの種類により規定される、
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記出力制御部は、前記モデルデータを造形装置へ出力する、
請求項1~3のいずれか一つに記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記受付部は、前記識別情報として、音象徴語で表現した言語情報である音象徴情報の入力を受け付け、
前記生成部は、前記音象徴情報に基づいて、前記モデルデータを生成する、
請求項1~5のいずれか一つに記載の情報処理装置。
【請求項7】
情報処理装置と造形装置とを少なくとも備えたシステムであって、
物体の利用者に与えられる質感が感覚的な用語で表現された識別情報の入力を受け付ける受付部と、
前記識別情報と、前記物体の物性を規定する形状パラメータとが関連づけられた関連情報から、前記受付部により受け付けられた前記識別情報に対応する前記形状パラメータに基づいて、前記物体を設計するためのモデルデータを生成する生成部と、
前記生成部により生成された前記モデルデータに基づいて前記物体を造形する造形部と
を備える、システム。
【請求項8】
物体の利用者に与えられる質感が感覚的な用語で表現された識別情報の入力を受け付ける受付ステップと、
前記識別情報と、前記物体の物性を規定する形状パラメータとが関連づけられた関連情報から、前記受付ステップにより受け付けられた前記識別情報に対応する前記形状パラメータに基づいて、前記物体を設計するためのモデルデータを生成する生成ステップと、
前記モデルデータに基づいて前記物体を造形する造形ステップと
を含む、物体の製造方法。
【請求項9】
物体の利用者に与えられる質感が感覚的な用語で表現された識別情報の入力を受け付ける受付ステップと、
前記識別情報と、前記物体の物性を規定する形状パラメータとが関連づけられた関連情報から、前記受付ステップにより受け付けられた前記識別情報に対応する前記形状パラメータに基づいて、前記物体を設計するためのモデルデータを生成する生成ステップと、
前記生成ステップにより生成された前記モデルデータを出力する出力制御ステップと
を含む、情報処理方法。
【請求項10】
コンピュータに、
物体の利用者に与えられる質感が感覚的な用語で表現された識別情報の入力を受け付け、
前記識別情報と、前記物体の物性を規定する形状パラメータとが関連づけられた関連情報から、受け付けた前記識別情報に対応する前記形状パラメータに基づいて、前記物体を設計するためのモデルデータを生成し、
生成した前記モデルデータを出力する
各処理を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、情報処理装置、システム、物体の製造方法、情報処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、材料(物体)には、硬い、柔らかい、フィット感がある等、様々な質感がある。材料に求められる質感は、例えば、医療用製品、建築用資材等、その用途に応じて多種多様である。このため、特定用途の材料を製造する場合、その用途に応じて様々な質感(物性)の材料を組み合わせることが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-012751号公報
【文献】WO2016/137818号
【文献】WO2014/100462号
【非特許文献】
【0004】
【文献】永井明日香,佐久間淳:ヒト触感を最適化する低密度多孔質デザイン,バイオフロンティア講演会講演論文集,Vol.27, C106, (2016)
【文献】白土寛和,前野隆司:触感呈示・検出のための材質認識機構のモデル化,日本バーチャルリアリティ学会論文誌,Vol.9, No.3, pp235-240 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術においては、必ずしも適切な物性の物体が製造されているとは限らない。例えば、柔らかい物体を製造する場合、「柔らかい」という言葉から想起される感覚は、製造者ごとに異なる。このため、製造される物体の物性にはバラツキがある場合が多く、必ずしも適切な物性の物体が製造されているとは限らない。
【0006】
本発明は、適切な物性の物体を製造することができる情報処理装置、システム、物体の製造方法、情報処理方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、物体の利用者に与えられる感覚を識別する識別情報の入力を受け付ける受付部と、前記受付部により受け付けられた前記識別情報に基づいて、前記物体を設計するためのモデルデータを生成する生成部と、前記生成部により生成された前記モデルデータを出力する出力制御部とを備える、情報処理装置である。
【0008】
また、本発明は、情報処理装置と造形装置とを少なくとも備えたシステムであって、物体の利用者に与えられる感覚を識別する識別情報の入力を受け付ける受付部と、前記受付部により受け付けられた前記識別情報に基づいて、前記物体を設計するためのモデルデータを生成する生成部と、前記生成部により生成された前記モデルデータに基づいて前記物体を造形する造形部とを備える、システムである。
【0009】
また、本発明は、物体の利用者に与えられる感覚を識別する識別情報の入力を受け付ける受付ステップと、前記受付ステップにより受け付けられた前記識別情報に基づいて、前記物体を設計するためのモデルデータを生成する生成ステップと、前記生成ステップにより生成された前記モデルデータを出力する出力制御ステップと、前記モデルデータに基づいて前記物体を造形する造形ステップとを含む、物体の製造方法である。
【0010】
また、本発明は、物体の利用者に与えられる感覚を識別する識別情報の入力を受け付ける受付ステップと、前記受付ステップにより受け付けられた前記識別情報に基づいて、前記物体を設計するためのモデルデータを生成する生成ステップと、前記生成ステップにより生成された前記モデルデータを出力する出力制御ステップとを含む、情報処理方法である。
【0011】
また、本発明は、コンピュータに、物体の利用者に与えられる感覚を識別する識別情報の入力を受け付け、受け付けた前記識別情報に基づいて、前記物体を設計するためのモデルデータを生成し、生成した前記モデルデータを出力する各処理を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、適切な物性の物体を製造することができる情報処理装置、システム、物体の製造方法、情報処理方法、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態のシステムの概略構成の一例を示す図である。
図2図2は、実施形態の情報処理装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3図3は、実施形態の情報処理装置が有する機能の一例を示す図である。
図4図4は、実施形態の生成部で参照される関連情報の一例を示す図である。
図5図5は、実施形態の単位格子構造の形状及び各辺の長さについて説明するための図である。
図6図6は、実施形態の単位格子モデルについて説明するための図である。
図7図7は、実施形態の単位格子モデルの種類と荷重-変位特性の関係を示す図である。
図8図8は、実施形態のL/Sと荷重-変位特性の関係を示す図である。
図9図9は、実施形態の交差部の容積と荷重-変位特性の関係を示す図である。
図10図10は、実施形態の交差部の容積と荷重-変位特性の関係を示す図である。
図11図11は、実施形態の交差部の容積に応じた形状回復速度の違いについて説明するための図である。
図12図12は、実施形態の情報処理装置の動作例を示すフローチャートである。
図13図13は、実施形態の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図14図14は、評価用ラティスドームを示す図である。
図15図15は、柱太さを変えた場合の感性評価用ラティスドームの荷重変異曲線を示す図である。
図16図16は、各サンプルから得られた日本語表現を示す図である。
図17図17は、日本語表現の分類項目を示す図である。
図18図18は、因子負荷および因子寄与率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る情報処理装置、システム、物体の製造方法、情報処理方法、及びプログラムの実施形態を詳細に説明する。なお、以下の各実施形態は、以下の説明に限定されるものではない。また、各実施形態は、処理内容に矛盾が生じない範囲で他の実施形態や従来技術との組み合わせが可能である。
【0015】
(実施形態)
図1は、実施形態のシステム1の概略構成の一例を示す図である。図1に示すように、実施形態のシステム1は、情報処理装置10と、造形装置20とを含む。図1に例示する各装置は、LAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)等のネットワークにより、直接的、又は間接的に相互に通信可能な状態となっている。
【0016】
情報処理装置10は、物体を製造するためのモデルデータを生成する。モデルデータとは、物体を造形装置20で造形する際の元となる情報である。モデルデータを生成する処理内容については後述する。そして、情報処理装置10は、生成したモデルデータを造形装置20へ送る。
【0017】
なお、以下の実施形態では、物体の一例として医療用製品が製造される場合を説明する。ただし、実施形態は医療用製品に限定されるものではなく、例えば、建築用資材等、用途に応じて多種多様な物体を製造することができる。
【0018】
造形装置20は、情報処理装置10から受け取ったモデルデータに基づいて、物体を造形する造形部21を備える。本実施形態では、造形部21は、3次元プリンタの機能を提供するハードウェア要素群で構成される。
【0019】
例えば、造形部21は、物体の材料となる感光性樹脂を充填するための液層(夕ンク)と、液層内の感光性樹脂を光重合反応により硬化させるためのレーザーとを有する。造形部21は、モデルデータに基づいて規定される液層内の位置を、レーザーを用いて位置選択的に硬化させることで、モデルデータに対応する3次元構造体を造形する。
【0020】
次に、本実施形態の情報処理装置10について説明する。図2は、実施形態の情報処理装置10のハードウェア構成の一例を示す図である。図2に示すように、情報処理装置10は、CPU(Central Processing Unit)11と、ROM(Read Only Memory)12と、RAM(Random Access Memory)13と、補助記憶装置14と、入力装置15と、表示装置16と、外部I/F(Interface)17と、を備える。
【0021】
CPU11は、プログラムを実行することにより、情報処理装置10の動作を統括的に制御し、情報処理装置10が有する各種の機能を実現するプロセッサ(処理回路)である。情報処理装置10が有する各種の機能については後述する。
【0022】
ROM12は、不揮発性のメモリであり、情報処理装置10を起動させるためのプログラムを含む各種データ(情報処理装置10の製造段階で書き込まれる情報)を記憶する。RAM13は、CPU11の作業領域を有する揮発性のメモリである。補助記憶装置14は、CPU11が実行するプログラム等の各種データを記憶する。補助記憶装置14は、例えばHDD(Hard Disc Drive)、SSD(Solid State Drive)等で構成される。
【0023】
入力装置15は、情報処理装置10を使用する操作者が各種の操作を行うためのデバイスである。入力装置15は、例えばマウス、キーボード、タッチパネル又はハードウェアキーで構成される。なお、操作者は、例えば、物体を製造する製造者等に対応する。
【0024】
表示装置16は、各種情報を表示する。例えば、表示装置16は、画像データやモデルデータ、操作者から各種操作を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)や、医用画像等を表示する。表示装置16は、例えば液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ又はブラウン管ディスプレイで構成される。なお、例えばタッチパネルのような形態で、入力装置15と表示装置16とが一体に構成されても良い。
【0025】
外部I/F17は、造形装置30等の外部装置と接続(通信)するためのインタフェースである。なお、図示しないが、外部I/F17は、X線CT(Computed Tomography)装置、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置等の医用画像診断装置と接続されても良い。
【0026】
図3は、実施形態の情報処理装置10が有する機能の一例を示す図である。なお、図3の例では、本実施形態に関する機能のみを例示しているが、情報処理装置10が有する機能はこれらに限られるものではない。図3に示すように、情報処理装置10は、記憶部101、受付部102、生成部103、及び出力制御部104を有する。記憶部101は、例えば、補助記憶装置14(例えばHDD)により実現される。受付部102、生成部103、及び出力制御部104は、例えば、CPU11により実現される。
【0027】
記憶部101は、モデルデータのプリセット情報や、モデルデータの生成の際に参照されるデータベース等を記憶する。また、記憶部101は、医用画像診断装置により撮像された画像データ(DICOMデータ)を記憶することも可能である。
【0028】
受付部102は、操作者の入力を受け付ける機能を有する。例えば、受付部102は、操作者が入力装置15を介して行った入力操作を受け付けて、受け付けた入力操作を電気信号へ変換して情報処理装置10内の各部へ送る。
【0029】
受付部102は、多角柱形状の空間を一単位とする単位格子構造であって、多角柱形状を形成する複数の頂点のうち2点を接続する構造柱を複数備える単位格子構造により構成される物体について、感覚を識別する識別情報の入力を受け付ける。なお、単位格子構造については後述する。
【0030】
ここで、識別情報とは、例えば、「感覚A」「感覚B」など、物体の利用により利用者に与えられる感覚を識別するための情報である。ただし、単純な識別情報とするよりも、「硬い」、「柔らかい」、「フィット感がある」等の感覚的な用語で表現した方が操作者に直感的に伝わるため好適である。以下、このような感覚的な用語で表現した情報を、「質感情報」と称する。なお、質感情報は、感覚を識別する識別情報の一例である。
【0031】
一例としては、受付部102は、「硬い」、「柔らかい」、「フィット感がある」等の質感情報を表示装置16に表示させる。操作者は、表示装置16に表示された質感情報の中から、所望の質感情報を選択する入力を行う。受付部102は、操作者による入力を受け付けて、受け付けた質感情報を生成部103に送る。
【0032】
なお、受付部102は、識別情報として、音象徴語で表現した言語情報である「音象徴情報」の入力を受け付けることも可能である。ここで、音象徴語とは、物体の状態や動きなどが音(おん)で象徴的に表された用語であり、例えば、オノマトペ、擬音語、擬態語などが含まれる。つまり、「音象徴情報」とは、例えば、「カチカチ」、「ふわふわ」等の音象徴語を表すテキスト情報である。
【0033】
生成部103は、受付部102により受け付けられた質感情報に基づいて、物体を製造するためのモデルデータを生成する。例えば、生成部103は、質感情報と、物体の物性を規定する形状パラメータとが関連づけられた関連情報(テーブル)を参照することで、受付部102により受け付けられた質感情報に対応する形状パラメータを含むモデルデータを生成する。
【0034】
ここで、モデルデータに基づいて製造される物体は、単位格子構造により構成される。単位格子構造とは、多角柱形状の空間を一単位とする単位格子構造であって、多角柱形状を形成する複数の頂点のうち2点を接続する構造柱を複数備える。この単位格子構造は、一単位となる空間の形状、この空間の各辺の長さ、構造柱の数、構造柱の方向、構造柱の太さ、構造柱が交差する交差部の断面形状、及び交差部の容積のうち少なくとも1つを含む形状パラメータにより規定される。
【0035】
つまり、生成部103は、形状パラメータとして、単位格子構造が一単位とする空間の形状、この空間の各辺の長さ、構造柱の数、構造柱の方向、構造柱の太さ、構造柱が交差する交差部の断面形状、及び交差部の容積のうち少なくとも1つを含むパラメータを決定する。また、構造柱の数及び構造柱の方向は、単位格子構造に含まれる複数の構造柱の配置パターンを示す単位格子モデルの種類により規定される。なお、生成部103は、交差部の断面形状及び容積のうち少なくとも一方を含む形状パラメータを決定することが好適である。
【0036】
そして、生成部103は、決定した形状パラメータを含むモデルデータを生成する。以下、図4図11を用いて、生成部103の処理及び形状パラメータについて説明する。
【0037】
図4は、実施形態の生成部103で参照される関連情報の一例を示す図である。この関連情報(テーブル)は、質感情報と、各種の形状パラメータとが関連づけられた情報である。この関連情報は、例えば、記憶部101に予め記憶されている。
【0038】
図4に示すように、関連情報は、「質感情報」、「形状」、「各辺の長さ」、「モデル」、「構造柱の太さ」、及び「交差部の容積」が対応づけられた情報である。ここで、「形状」、「各辺の長さ」、「モデル」、「構造柱の太さ」、及び「交差部の容積」は、形状パラメータの一例である。各種の形状パラメータについては、図5図11を用いて後述する。
【0039】
例えば、図4の関連情報の1つ目のレコードには、質感情報「硬い」、形状「立方体形状」、各辺の長さ「S1」、モデル「モデルC」、構造柱の太さ「W1」、及び交差部の容積「V1」が対応づけられている。これは、「硬い」という質感が入力された場合には、形状「立方体形状」、各辺の長さ「S1」、モデル「モデルC」、構造柱の太さ「W1」、及び交差部の容積「V1」の形状パラメータが選択されることを意味する。また、図4には、他の質感情報についても同様に、各種の形状パラメータが対応づけて記憶されている。
【0040】
なお、図4に示した内容はあくまで一例であり、図示の内容に限定されるものではない。例えば、図4の関連情報は、記憶部101に限らず、情報処理装置10が通信可能な外部記憶装置に記憶されていても良い。例えば、ネットワーク上の外部記憶装置に関連情報が記憶されている場合、生成部103は、ネットワーク上の外部記憶装置に記憶された関連情報を参照することができる。
【0041】
また、例えば、識別情報として「音象徴情報」の入力を受け付ける場合には、関連情報には、音象徴情報と、各種の形状パラメータとが関連づけられる。例えば、関連情報には、音象徴情報「カチカチ」、形状「立方体形状」、各辺の長さ「S1」、モデル「モデルC」、構造柱の太さ「W1」、及び交差部の容積「V1」が対応づけられる。これは、「カチカチ」という音象徴語が入力された場合には、形状「立方体形状」、各辺の長さ「S1」、モデル「モデルC」、構造柱の太さ「W1」、及び交差部の容積「V1」の形状パラメータが選択されることを意味する。
【0042】
以下、図5図11を用いて、形状、各辺の長さ、モデル、構造柱の太さ、及び交差部の容積の各種の形状パラメータについて説明する。
【0043】
まず、図4の「形状」及び「各辺の長さ」について説明する。「形状」は、単位格子構造の形状である。「各辺の長さ」は、単位格子構造の大きさ(一辺の長さ)に対応する。
【0044】
図5は、実施形態の単位格子構造の形状及び各辺の長さについて説明するための図である。図5に示すように、「形状」は、6つの正方形の面により構成される立方体形状に対応する。この立方体形状の空間は、頂点に対応する8つの点P1~点P8を有する。また、図5の例では、この空間は立方体形状であるため、何れの辺の長さも等しい。図5の空間の各辺の長さは、例えば、点P1と点P2との距離で表される。
【0045】
ここで、単位格子構造における線及び面の表記方法について説明する。本実施形態では、線及び面を表記する場合、その線又は面を構成する頂点を括弧書きで示す。例えば、「線(P1,P2)」という表記は、点P1と点P2とを結ぶ線を表す。また、「線(P1,P7)」という表記は、点P1と点P7とを結ぶ線(対角線)を表す。また、「面(P1,P2,P3,P4)」という表記は、点P1、点P2、点P3、及び点P4を頂点とする面(底面)を表す。なお、構造柱は、線の表記方法と同様に表記する。
【0046】
実施形態に係る単位格子構造は、複数の点P1~点P8のうち2点を接続する構造柱を複数備える。つまり、図2の空間形状は、単位格子構造の形状に対応する。構造柱の数及び方向(配置方向)については、例えば、単位格子モデルにより予め規定されている。
【0047】
なお、図5に示した内容はあくまで一例であり、図示の内容に限定されるものではない。例えば、図5に示した立方体形状の空間はあくまで一例であり、単位格子構造が一単位とする空間形状は、多角柱形状であっても良い。この場合、単位格子構造は、例えば、三角柱形状、四角柱形状、及び六角柱形状のうちいずれか1つの形状の空間を一単位とすることが好適である。三角柱形状としては正三角柱形状が好適である。また、四角柱形状としては上述した立方体形状以外に直方体形状が好適である。また、六角柱形状としては正六角柱形状が好適である。また、構造柱は、多角柱形状又は円柱形状等の柱状である。また、構造柱の短手方向とは、構造柱の軸方向に直交する方向である。
【0048】
次に、図6の「モデル」について説明する。モデルとは、単位格子構造の基本的な骨格形状を示す単位格子モデルである。
【0049】
図6は、実施形態の単位格子モデルについて説明するための図である。図6において、破線は、一単位に相当する立方体形状の空間(図5の空間)を示す。また、実線は、構造柱の存在を示す。なお、図6に例示の単位格子モデルは、その配置方向が図6の鉛直下方向に物体にかかる荷重方向と一致するように配置されるのが好適である。なお、物体にかかる荷重方向とは人体の各部位から受けた荷重が加わる方向である。
【0050】
図6に示すように、例えば、単位格子モデルは、モデルA、モデルB、モデルC、モデルD、及びモデルEを含む。ここで、モデルA、モデルB、及びモデルCは、立方体形状の空間の中心に構造柱の交差部を有する。また、モデルD及びモデルEは、立方体形状を構成する複数の面のうち少なくとも1つの面の中心に構造柱の交差部を有する。
【0051】
モデルAは、立方体形状の対角線に沿って配置される4本の構造柱を備える単位格子モデルである。具体的には、モデルAは、構造柱(P1,P7)、構造柱(P2,P8)、構造柱(P3,P5)、及び構造柱(P4,P6)を有する。
【0052】
モデルBは、モデルAと同様の4本の構造柱に加えて、立方体形状を構成する底面及び上面を囲む複数の辺に沿って配置される8本の構造柱を更に備える単位格子モデルである。具体的には、モデルBは、モデルAが有する4本の構造柱を有する。更に、モデルBは、底面(P1,P2,P3,P4)を囲む4本の構造柱(P1,P2)、構造柱(P2,P3)、構造柱(P3,P4)、及び構造柱(P4,P1)を有する。また、モデルBは、上面(P5,P6,P7,P8)を囲む4本の構造柱(P5,P6)、構造柱(P6,P7)、構造柱(P7,P8)、及び構造柱(P8,P5)を有する。
【0053】
モデルCは、モデルBと同様の12本の構造柱に加えて、荷重方向に沿って配置される4本の構造柱を更に備える単位格子モデルである。具体的には、モデルCは、モデルBが有する12本の構造柱を有する。更に、モデルCは、物体にかかる荷重方向に沿って配置される4本の構造柱(P1,P5)、構造柱(P2,P6)、構造柱(P3,P7)、及び構造柱(P4,P8)を有する。
【0054】
つまり、モデルBとモデルCとの差異は、荷重方向に沿って配置される4本の構造柱(P1,P5)、構造柱(P2,P6)、構造柱(P3,P7)、及び構造柱(P4,P8)を有するか否かである。
【0055】
モデルDは、6つの面それぞれの対角線に沿って配置される12本の構造柱を備える単位格子モデルである。具体的には、モデルDは、底面(P1,P2,P3,P4)の対角線に沿った2本の構造柱(P1,P3)及び構造柱(P2,P4)を有する。また、モデルDは、上面(P5,P6,P7,P8)の対角線に沿った2本の構造柱(P5,P7)及び構造柱(P6,P8)を有する。また、モデルDは、側面(P1,P2,P5,P6)の対角線に沿った2本の構造柱(P1,P6)及び構造柱(P2,P5)を有する。また、モデルDは、側面(P2,P3,P6,P7)の対角線に沿った2本の構造柱(P2,P7)及び構造柱(P3,P6)を有する。また、モデルDは、側面(P3,P4,P7,P8)の対角線に沿った2本の構造柱(P3,P8)及び構造柱(P4,P7)を有する。また、モデルDは、側面(P1,P4,P5,P8)の対角線に沿った2本の構造柱(P1,P8)及び構造柱(P4,P5)を有する。
【0056】
モデルEは、モデルDと比較して底面及び上面の対角線に沿った構造柱を備えず、底面及び上面を囲む複数の辺に沿って配置される8本の構造柱を更に備える単位格子モデルである。具体的には、モデルEは、側面(P1,P2,P5,P6)の対角線に沿った2本の構造柱(P1,P6)及び構造柱(P2,P5)を有する。また、モデルEは、側面(P2,P3,P6,P7)の対角線に沿った2本の構造柱(P2,P7)及び構造柱(P3,P6)を有する。また、モデルEは、側面(P3,P4,P7,P8)の対角線に沿った2本の構造柱(P3,P8)及び構造柱(P4,P7)を有する。また、モデルEは、側面(P1,P4,P5,P8)の対角線に沿った2本の構造柱(P1,P8)及び構造柱(P4,P5)を有する。また、モデルEは、底面(P1,P2,P3,P4)を囲む4本の構造柱(P1,P2)、構造柱(P2,P3)、構造柱(P3,P4)、及び構造柱(P4,P1)を有する。また、モデルEは、上面(P5,P6,P7,P8)を囲む4本の構造柱(P5,P6)、構造柱(P6,P7)、構造柱(P7,P8)、及び構造柱(P8,P5)を有する。
【0057】
つまり、モデルD及びモデルEの差異は、底面及び上面に配置された構造柱の有無である。具体的には、底面及び上面の対角線に沿った4本の構造柱(P1,P3)、構造柱(P2,P4)、構造柱(P5,P7)、及び構造柱(P6,P8)を有するのが、モデルDである。また、底面及び上面を囲む8本の構造柱(P1,P2)、構造柱(P2,P3)、構造柱(P3,P4)、構造柱(P4,P1)、構造柱(P5,P6)、構造柱(P6,P7)、構造柱(P7,P8)、及び構造柱(P8,P5)を有するのが、モデルEである。
【0058】
なお、図6では、モデルD及びモデルEの構造柱を2種類の太さの実線によって図示したが、これは実際の構造柱の太さを示すものではなく、図示の明瞭化を意図したものである。つまり、太い方の実線は、立方体形状の空間を箱に見立てた場合に、「箱の手前側に見える面」に含まれる構造柱を示す。また、細い方の実線は、立方体形状の空間を箱に見立てた場合に、「箱の奥側に見える面」にのみ含まれる構造柱を示す。なお、「箱の手前側に見える面」とは、上面(P5,P6,P7,P8)、側面(P1,P2,P5,P6)、及び側面(P1,P4,P5,P8)である。また、「箱の奥側に見える面」とは、底面(P1,P2,P3,P4)、側面(P2,P3,P6,P7)、及び側面(P3,P4,P7,P8)である。
【0059】
つまり、本実施形態の物体は、複数の単位格子モデルが繰り返し連続して配列された構造である。具体的には、物体は、複数の単位格子構造が同一平面上に配列された層を少なくとも1つ有し、この層が積層されて構成される。なお、構造柱の断面形状は、四角形、五角形、六角形等の多角形、円形、楕円形等、任意の形状が適用可能である。
【0060】
なお、図6に示した内容はあくまで一例であり、図示の内容に限定されるものではない。例えば、図6に示したモデルはあくまで一例であり、単位格子モデルは任意の位置に構造柱を備えていても良い。ただし、単位格子構造は、多角柱形状の空間を構成する全ての頂点をいずれかの構造柱が通るように、複数の構造柱を備えるのが好適である。
【0061】
また、単位格子構造は、立方体形状の空間の中心に構造柱の交差部を有する構造、及び、立方体形状を構成する複数の面のうち少なくとも1つの面の中心に構造柱の交差部を有する構造に限定されるものではない。ただし、単位格子構造は、複数の頂点とは異なる位置で少なくとも2つの構造柱が交差する交差部を有するのが好適である。
【0062】
図7は、実施形態の単位格子モデルの種類と荷重-変位特性の関係を示す図である。ここで、荷重-変位特性とは、物体に印加された荷重[N]と、その荷重による物体の変位[mm]との関係を表したものであり、物体の硬度や密着性を表す物理的指標として利用される。本実施形態では、荷重-変位特性は、単位格子構造により構成された物体に対して荷重を印加することにより計測される。荷重-変位特性のグラフにおいて、グラフの縦軸は荷重[N]に対応し、グラフの横軸は変位[mm]に対応する。つまり、荷重-変位特性のグラフでは、硬い物体ほど急峻なグラフが得られ、柔らかい物体ほど緩やかなグラフが得られる。なお、通常、グラフは曲線として得られる場合が多いが、以下の各図では説明の簡素化のため直線で示す。
【0063】
図7では、図6に示したモデルA、モデルB、及びモデルCの単位格子モデルにより構成された物体の荷重-変位特性を用いて説明する。なお、図7において、モデルA、モデルB、及びモデルCの構造柱の太さ及び交差部の容積は一定である。
【0064】
図7に示す荷重-変位特性から、各モデルに含まれる構造柱の数が多いほど、物体が硬くなる傾向が認められる。また、図7に示す荷重-変位特性から、構造柱の方向が荷重方向に近いほど、物体が硬くなる傾向が認められる。このため、任意の単位格子モデルを設定することで、任意の物性を有する物体を製造することができる。
【0065】
次に、図4の「構造柱の太さ」について説明する。構造柱の太さとは、単位格子モデルにおける各構造柱の太さであり、例えば、構造柱の太さ(L)と、単位空間の一辺の長さ(S)との比率により表される。
【0066】
図8は、実施形態のL/Sと荷重-変位特性の関係を示す図である。図8では、図6のモデルAにおいて、異なる太さの構造柱を有する物体の荷重-変位特性を用いて説明する。なお、図8において、各物体の交差部の容積は一定である。
【0067】
また、図8では、構造柱の太さの一例として、構造柱の太さ(L)と、単位空間の一辺の長さ(S)との比率が異なる場合を説明する。図8の例では、「L/S:1/3」が最も構造柱が太い場合に対応し、「L/S:1/5」及び「L/S:1/8」が順に構造柱がより細い場合に対応する。なお、構造柱の太さは、例えば、構造柱の短手方向の断面において、重心を通る直線の中で、最も長い直線の長さとすることができる。
【0068】
図8に示す荷重-変位特性から、L/Sが大きい(太い)ほど、物体が硬くなる傾向が認められる。また、L/Sが小さい(細い)ほど、物体が柔らかくなる傾向が認められる。このため、任意の太さの構造柱を設定することで、任意の物性を有する物体を製造することができる。
【0069】
次に、図4の「交差部の容積」について説明する。交差部の容積とは、単位空間において少なくとも2つの構造柱が交差する部位(交差部)の容積である。
【0070】
図9は、実施形態の単位格子構造における交差部の容積と荷重-変位特性の関係を示す図である。図9には、荷重印加時において、交差部の容積と荷重-変位特性の関係を例示する。図9では、図6のモデルAにおいて、異なる容積の交差部を有する物体の荷重-変位特性を用いて説明する。図9において、各物体の構造柱の太さ(L)は一定である。なお、図9に示す荷重印加時の荷重-変位特性においては、荷重に応じた変位を表すグラフ上の点(位置)が、グラフ中の矢印の方向に向かって移動することとなる。
【0071】
図9に示す荷重-変位特性において、交差部の容積が大きい場合には、グラフに変曲点P11が認められる。つまり、交差部の容積が大きい物体は、荷重を印加していった場合に、原点Oから変曲点P11までの間では硬い物質のように振る舞い、変曲点P11以降には柔らかい物質のように振る舞う。この荷重-変位特性における物性の変化(グラフの傾きの変化)は、利用者が物体に荷重を印加したときの密着性として感じられる。また、交差部の容積が中程度の物体は、柔らかい物体と同様に振る舞う。このため、任意の容積の交差部を設定することで、任意の物性を有する物体を製造することができる。
【0072】
図10は、実施形態の交差部の容積と荷重-変位特性の関係を示す図である。図10には、荷重解放時において、交差部の容積と荷重-変位特性の関係を例示する。図10では、図6のモデルAにおいて、異なる容積の交差部を有する物体の荷重-変位特性を用いて説明する。図10において、各物体の構造柱の太さ(L)は一定である。なお、図10に示す荷重解放時の荷重-変位特性においては、荷重に応じた変位を表すグラフ上の点(位置)が、グラフ中の矢印の方向に向かって移動することとなる。また、図10に示す破線のグラフは、荷重印加時のグラフに対応する。
【0073】
図10に示す荷重-変位特性において、交差部の容積が大きい場合には、形状回復速度が速く、比較的線形に近い傾斜が得られる。つまり、交差部の容積が大きい物体は、荷重を解放していった場合の変位の戻りが速い。この物性は、利用者が物体から荷重を解放したときの密着性として感じられる。一方、図10に示す荷重-変位特性において、交差部の容積が小さい場合には、形状回復速度が遅く、変曲点P12が認められる。つまり、交差部の容積が小さい物体は、荷重を解放していった場合に、変曲点P12までは変位の変化量が小さく、変曲点P12から原点Oまでの間で形状が元に戻る。このため、任意の容積の交差部を設定することで、任意の物性を有する物体を製造することができる。
【0074】
図11は、実施形態の交差部の容積に応じた形状回復速度の違いについて説明するための図である。図11では、図6のモデルAにおける単位格子構造の上面から底面に向けて加重を印加した場合において、交差部の容積に応じた形状回復速度の違いについて説明する。図11には、荷重印加時から荷重解放時に移行したときの交差部の形状の変化と、その変化における形状回復速度の速さを示す。図11の上段には交差部の容積が大きい場合を示し、中段には交差部の容積が中程度の場合を示し、下段には交差部の容積が小さい場合を示す。なお、形状回復速度を示す矢印の長さは、形状回復速度の速さに対応する。
【0075】
図11において、交差部の形状について説明する。特段容積の調整を行わない場合には、交差部は、図11の中段(荷重解放時)に示すような形状となる。本実施形態では、この形状を、交差部の容積が中程度である状態として説明する。
【0076】
交差部の容積が大きい場合には、交差部は、図11の上段(荷重解放時)に示すように、交差部を略中心とする球形状又は多面体形状を有する。つまり、交差部は、複数の構造柱を単に交差させた状態と比較して積極的に隆起した形状を有する。この場合、交差部は、構造柱の短手方向の断面より大きい断面を有する。具体的には、交差部の断面の面積は、構造柱の短手方向の断面と比較して1.1倍以上20倍以下の断面であることが好適であり、1.2倍以上10倍以下の面積であることがより好適であり、特に1.5倍以上5倍以下の面積であることがより好適である。なお、ここで交差部の断面の面積は、交差部の重心を通る面の中で、面積が最大となる面を基準とする。
【0077】
一方、交差部の容積が小さい場合には、交差部は、図11の下段(荷重解放時)に示すように、交差部付近の構造柱を細くした形状を有する。この場合、交差部は、構造柱の短手方向の断面より小さい断面を有する。具体的には、交差部の断面の面積は、構造柱の短手方向の断面と比較して0.05倍以上0.9倍以下の断面であることが好適であり、0.1倍以上0.8倍以下の面積であることがより好適であり、特に0.2倍以上0.7倍以下の面積であることが特に好適である。なお、ここで交差部の断面の面積は、交差部の重心を通る面の中で、面積が最大となる面を基準とする。
【0078】
ここで、図11に示すように、荷重印加時には、形状を回復するためのエネルギーが交差部に蓄積されると考えられる。例えば、図11の上側から下側へ向けて荷重が印加された場合には、交差部の領域R13の両側にある2本の構造柱が押し広げられる結果、これを元に戻すための復元力が領域R13に蓄積される。また、交差部の領域R14の両側にある2本の構造柱が狭められる結果、これを元に戻すための反発力が領域R14に蓄積される。
【0079】
交差部の容積が大きい場合には、復元力及び反発力は大きなエネルギーとして蓄積される。このため、領域R11の復元力は領域R13の復元力よりも大きく、領域R12の反発力は領域R14の反発力よりも大きくなる。この結果、交差部の容積が大きいほど形状回復速度が速くなると考えられる。
【0080】
また、交差部の容積が小さい場合には、復元力及び反発力は小さなエネルギーとして蓄積される。このため、領域R15の復元力は領域R13の復元力よりも小さく、領域R16の反発力は領域R14の反発力よりも小さくなる。この結果、交差部の容積が小さいほど形状回復速度が遅くなると考えられる。
【0081】
このように、任意の形状パラメータを有する単位格子構造により物体を構成することで、任意の物性を有する物体を製造することができる。
【0082】
なお、図5図11に示した内容はあくまで一例であり、図示の内容に限定されるものではない。例えば、図11では、交差部の容積を3段階で示したが、3段階に限定されるものではなく、所望の容積になるように製造可能である。
【0083】
このように、図4の関連情報は、図7~11にて説明した各種の形状パラメータと荷重-変位特性との関連に基づいて予め設定されている。そして、生成部103は、図4の関連情報を参照することで、受付部102により受け付けられた質感情報に基づいて、形状パラメータを決定する。
【0084】
出力制御部104は、各種情報を出力する機能を有する。例えば、出力制御部104は、操作者により指定された画像データを表示装置16に表示させる。また、出力制御部104は、操作者により指定された情報を外部I/F17を経由して外部装置に送る。
【0085】
例えば、出力制御部104は、生成部103により生成されたモデルデータを出力する。具体的には、出力制御部104は、モデルデータを記憶部101に格納する。また、出力制御部104は、モデルデータを表示装置16に表示させる。また、出力制御部104は、モデルデータを造形装置20へ出力する。
【0086】
図12は、実施形態の情報処理装置10の動作例を示すフローチャートである。なお、各ステップの具体的な内容は上述した通りであるので、詳細な説明は適宜省略する。
【0087】
図12に示すように、受付部102は、質感情報の入力を受け付ける(ステップS101)。そして、生成部103は、質感情報に基づいて、形状パラメータを決定する(ステップS102)。そして、生成部103は、形状パラメータを含むモデルデータを生成する(ステップS103)。そして、出力制御部104は、モデルデータを出力させ(ステップS104)、処理を終了する。
【0088】
なお、図12に示した処理手順はあくまで一例であり、図示の内容に限定されるものではない。例えば、処理内容に矛盾が生じない範囲で、他の処理手順を追加(挿入)したり、各処理の順番を入れ替えたりすることができる。
【0089】
上述してきたように、本実施形態の情報処理装置10は、単位格子構造により構成される物体について、物体の利用者に与えられる感覚を識別する識別情報の入力を受け付ける。そして、情報処理装置10は、交差部の断面形状及び容積のうち少なくとも一方を含む形状パラメータと、識別情報とが関連づけられた関連情報を参照することで、受け付けた識別情報に対応する形状パラメータを含むモデルデータを生成する。情報処理装置10は、生成したモデルデータを出力する。これによれば、本実施形態の情報処理装置10は、適切な物性の物体を製造することを可能とする。
【0090】
例えば、本実施形態の情報処理装置10では、各種の形状パラメータにより規定される物性が、操作者が直感的に把握しやすいように感覚的な用語で表現される。このため、情報処理装置10では、操作者が直感的に想起する用語で物体の物性を入力することができるので、適切な物性を容易に指定することが可能となる。
【0091】
(その他の実施形態)
上述した実施形態以外にも、種々の異なる形態にて実施されてもよい。
【0092】
(物体の製造方法)
実施形態の造形装置20は、以下の製造方法により物体を製造することができる。
【0093】
例えば、造形装置20は、材料押出方式、液槽光重合方式、粉末焼結積層方式等の各種付加造形技術(3次元造形技術)により、物体を造形(成形)することができる。
【0094】
図13は、実施形態の製造方法の一例を示すフローチャートである。図13に例示の製造方法は、液槽光重合方式による3次元造形技術を実行可能な造形装置20により実行される。造形装置20(造形部21)は、物体の材料となる感光性樹脂を充填するための液槽(タンク)と、液槽内の感光性樹脂を光重合反応により位置選択的に硬化させるためのレーザーとを有する。なお、造形装置20としては、公知の造形装置が任意に適用可能である。
【0095】
図13に示すように、造形部21は、モデルデータを読み出す(ステップS201)。このモデルデータは、造形装置20で造形する際の元となる情報である。モデルデータは、例えば、製造者により予め作成され、造形装置が有する記憶装置に予め記憶されている。なお、記憶装置は、例えば、HDD(Hard Disc Drive)、SSD(Solid State Drive)等に対応する。
【0096】
続いて、造形部21は、指定された感光性樹脂をタンクに充填する(ステップS202)。ここで、感光性樹脂は、モデルデータにより予め指定されていても良いし、造形方法が実行される毎に操作者により指定されても良い。
【0097】
そして、造形部21は、モデルデータに基づいて規定されるタンク内の各位置を、レーザーを用いて位置選択的に硬化させる(ステップS203)。例えば、造形部21は、モデルデータにおいて構造柱が存在する位置に対応するタンク内の位置に対してレーザーを順次照射する。つまり、造形部21は、物体の各領域それぞれの単位格子構造に応じたタンク内の位置を順次硬化させる。これにより、造形部21は、適切な物性の物体を製造することができる。
【0098】
なお、物体の材料としては、造形技術に利用可能な材料であれば任意の材料を適用可能であり、例えば、付加製造技術により造形可能な任意の感光性樹脂が適宜選択可能である。
【0099】
(システム1による物体の製造方法)
上述してきたように、実施形態のシステム1は、情報処理装置10及び造形装置20を備える。つまり、システム1は、情報処理装置10及び造形装置20の機能により、物体を製造することができる。
【0100】
すなわち、システム1において、情報処理装置10は、物体の利用者に与えられる感覚を識別する識別情報の入力を受け付ける。そして、情報処理装置10は、受け付けた識別情報に基づいて、物体を設計するためのモデルデータを生成する。そして、システム1において、造形装置20は、モデルデータに基づいて物体を造形する。
【0101】
例えば、システム1において、情報処理装置10は、図12に示したステップS101~ステップS103の処理によりモデルデータを生成する。そして、情報処理装置10は、ステップS104の処理によりモデルデータを造形装置20に送る。例えば、情報処理装置10の出力制御部104は、モデルデータを造形装置20にて利用可能なデータ形式に変換し、変換後のモデルデータを造形装置20に送る。
【0102】
そして、システム1において、造形装置20は、図13に示したステップS201~ステップS203の処理により、情報処理装置10から受け付けたモデルデータに基づいて、物体を造形する。
【0103】
これによれば、システム1は、適切な物性の物体を製造することができる。なお、情報処理装置10及び造形装置20が有する各処理部は、いずれの装置に備えられても良い。例えば、造形装置20が生成部103を備える場合には、造形装置20が識別情報に基づいてモデルデータを生成しても良い。この場合、情報処理装置10の出力制御部104は、受付部102により受け付けられた識別情報を、造形装置20に送ることとなる。
【0104】
(荷重方向)
上記の実施形態では、例えば図11に示すように荷重方向が図中の鉛直下方向に対応する場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、物体内での単位格子構造の方向は、製造者の任意により適宜設定可能である。例えば、利用者の身体の一部と物体との接点における法線方向を荷重方向として定義してもよい。この場合、図6の単位格子構造は、図中の鉛直下方向が人体との接点における法線方向に対応するように配列される。
【0105】
以上説明した実施形態によれば、適切な物性の物体を製造することができる情報処理装置、システム、情報処理方法、及びプログラムを提供することができる。
【0106】
上述の実施形態は、以上の変形例と任意に組み合わせることができるし、以上の変形例同士を任意に組み合わせても良い。
【0107】
また、上述した実施形態の情報処理装置10,40で実行されるプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD、USB(Universal Serial Bus)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供するように構成しても良いし、インターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。また、各種プログラムを、例えばROM等の不揮発性の記憶媒体に予め組み込んで提供するように構成しても良い。
【0108】
[実施例]
以下に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0109】
(ラティスドーム構造体の作製と評価)
図14及び図15を用いて、ラティスドーム構造体の作製と評価について説明する。図14は、評価用ラティスドームを示す図である。また、図15は、柱太さを変えた場合の感性評価用ラティスドームの荷重変異曲線を示す図である。なお、以下の説明において、単位格子構造を組み合わせて作成された物体を「構造体」と表記する。
【0110】
上述した実施形態にて説明した単位格子構造(以下、「ラティス構造」とも表記)と、人間の感性との間の相関を見るための評価サンプルを作製した。触感の定量化に向けた、変形特性の定量化については、近年ではHertsの弾性接触理論を柔軟材料に拡張し、半球形状の押込みによって変形を定量化する試みが行われている(非特許文献1:永井明日香,佐久間淳:ヒト触感を最適化する低密度多孔質デザイン,バイオフロンティア講演会講演論文集,Vol.27, C106, (2016))。また、既報の手での材料触感に関する研究では、潜在因子として、「凹凸」「冷たさ」「湿り気」「硬さ」などを指標として解析した事例(非特許文献2:白土寛和,前野隆司:触感呈示・検出のための材質認識機構のモデル化,日本バーチャルリアリティ学会論文誌,Vol.9, No.3, pp235-240 (2004))があるため、本報では特にドーム形状のサンプルを押し込んだ時の「硬さ」に注目した解析を実施した。
【0111】
図6に示したモデルAの単位格子(5mm×5mm×5mm)を、直径4cm、高さ1.5cmのドーム形状に対して割当てた3次元構造体をデザインした(図14)。立方体型の単位格子を組み合わせて、ドーム型構造体を作ることは難しいため、3DCAD上でドーム形状より外形の大きいラティスキューブ(ラティス構造を組み合わせてなる立方体の構造体)と、ラティスキューブと同じ大きさの立方体を用意し、ブーリアン演算を行うことでラティス空隙部分の形状を用意し、次に空隙部分をドーム形状からブーリアン演算で除去することによって、ドーム形状にラティスの付与を行った。ラティスドームをSTL形式で出力し、Carbon社製CLIP造形機M2にて光硬化性ウレタンエラストマEPU40(Carbon社製)を用いて造形を行った。感性指標である「硬さ」を変えるため、単位格子の柱太さを0.5mm、0.6mm、0.75mm、1mm、1.25mmの5水準で変量し、5種の触感サンプルを造形した。また、各サンプルの押し込み時の応力歪み曲線を精密万能試験機(インストロン5967)で評価した結果を図15に示す。図15に示す結果から、単位格子の柱太さに応じて異なる「硬さ」を発現できたと言える。
【0112】
(「硬さ」と感性の関係)
図16図18を用いて、「硬さ」と感性の関係について説明する。図16は、上記の「ラティスドーム構造体の作製と評価」にて作成した各サンプルから得られた日本語表現を示す図である。また、図17は、日本語表現の分類項目を示す図である。また、図18は、因子負荷および因子寄与率を示す図である。なお、図16に記載の「基準サンプル」とは、各サンプルから被験者が感じた印象を日本語(音象徴語)で表現する際に基準としたサンプルであることを示す。
【0113】
「硬さ」の相対値と比較し、各被験者によって記述された感触の日本語表現(感性)に関しても解析を実施した。今回のアンケートでは自由記述形式を用いたため、図16にあるように千差万別な表現が混ざった。そのため図17に示すように項目分類を行い、分類に対するブール値(0/1ラベル)を付与した。その後、アンケートで得た「硬さ(標準化済)」と図17に示す13種の日本語表現を用い、統計言語Rを用いて因子分析を実施した。固有値プロットを行ったところ、因子数9で固有値1を下回るため、14→9に因子数を設定し、因子分析を実施した。promax回転後の因子負荷・因子寄与率を図18に示す。図18のFactor2を見ると、「硬さ」の因子負荷量が0.88、「か行」の因子負荷量は0.84と、これら2つの評価軸と非常に強い正の相関を持つことが示唆される。また、「さ行」の因子負荷量は-0.42とやや弱いが負の相関を示すことが示唆される。同様にFactor9は「硬さ」の因子負荷が0.80、「い」の因子負荷が0.45と正の相関を持つことが示唆される。この結果から、被験者が日本語で感触を表現するとき、か行といの音は「硬さ」と正の相関を持ち、さ行は負の相関を持つ可能性が示された。一方で、図16図18で実施した日本語表現の因子解析結果からは、Factor1からFactor9までの累積寄与率が0.8である一方、硬さと相関の強いFactor2とFactor9の寄与率の合計は0.2となった。この結果は、被験者の日本語表現(音象徴語)を識別情報として利用できる可能性を示唆している。
【符号の説明】
【0114】
1 システム
10 情報処理装置
11 CPU
12 ROM
13 RAM
14 補助記憶装置
15 入力装置
16 表示装置
17 外部I/F
20 造形装置
21 造形部
101 記憶部
102 受付部
103 生成部
104 出力制御部
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